特許第6282444号(P6282444)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6282444アルミニウム合金ブレージングシート、ろう付け用アルミニウム合金組み付け体およびアルミニウム合金材のろう付け方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6282444
(24)【登録日】2018年2月2日
(45)【発行日】2018年2月21日
(54)【発明の名称】アルミニウム合金ブレージングシート、ろう付け用アルミニウム合金組み付け体およびアルミニウム合金材のろう付け方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 35/28 20060101AFI20180208BHJP
   C22C 21/00 20060101ALI20180208BHJP
   B23K 1/00 20060101ALI20180208BHJP
   B23K 1/19 20060101ALI20180208BHJP
   B23K 31/02 20060101ALI20180208BHJP
   B23K 101/14 20060101ALN20180208BHJP
   B23K 103/10 20060101ALN20180208BHJP
【FI】
   B23K35/28 310B
   C22C21/00 D
   C22C21/00 E
   B23K1/00 S
   B23K1/19 F
   B23K1/19 G
   B23K31/02 310B
   B23K101:14
   B23K103:10
【請求項の数】9
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2013-235192(P2013-235192)
(22)【出願日】2013年11月13日
(65)【公開番号】特開2015-93310(P2015-93310A)
(43)【公開日】2015年5月18日
【審査請求日】2016年9月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000176707
【氏名又は名称】三菱アルミニウム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091926
【弁理士】
【氏名又は名称】横井 幸喜
(72)【発明者】
【氏名】三宅 秀幸
(72)【発明者】
【氏名】江戸 正和
【審査官】 市川 篤
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−285817(JP,A)
【文献】 特開2007−277707(JP,A)
【文献】 特表2007−512143(JP,A)
【文献】 特開平04−072032(JP,A)
【文献】 特開昭55−119148(JP,A)
【文献】 特開2013−123749(JP,A)
【文献】 特開2013−215797(JP,A)
【文献】 特開2013−220461(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 35/00−35/40
C22C 21/00−21/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム合金芯材の一方または両方の面に、アルミニウム合金ろう材がクラッドされて前記アルミニウム合金ろう材が最表面に位置し、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる被ろう付け部材に前記アルミニウム合金ろう材を接触させて、減圧を伴わない非酸化性雰囲気中でフラックスを用いずに接合されるブレージングシートであって、
前記アルミニウム合金ろう材が、質量%で、Si:3〜13%、Mg:0.1〜3.0%、Ce:0.0001〜3.0%、Sr:0.001〜1.0%を含有し、残部がAlと不可避不純物からなる組成を有することを特徴とするアルミニウム合金ブレージングシート。
【請求項2】
前記アルミニウム合金ろう材は、さらに、質量%で、Be:0.0001〜0.1%を含有することを特徴とする請求項1記載のアルミニウム合金ブレージングシート。
【請求項3】
前記アルミニウム合金ろう材は、前記Ceがミッシュメタルとして添加されており、残部の希土類元素を不可避不純物として含有することを特徴とする請求項1または2に記載のアルミニウム合金ブレージングシート。
【請求項4】
前記アルミニウム合金ろう材のろう付前の表面酸化皮膜の平均膜厚が15nm以下であり、かつ前記表面酸化皮膜中におけるMgO皮膜の平均膜厚が2nm以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のアルミニウム合金ブレージングシート。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のアルミニウム合金ブレージングシートと、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる被ろう付け部材とで構成され、減圧を伴わない非酸化性雰囲気中で前記アルミニウム合金ブレージングシートのアルミニウム合金ろう材を介して互いにフラックスを用いずに接合されるろう付けに供されるものであることを特徴とするろう付け用アルミニウム合金組み付け体。
【請求項6】
ろう付け前に、前記被ろう付け部材の接合面の表面酸化皮膜の平均膜厚が15nm以下でかつ皮膜中のMgO皮膜厚さが2nm以下であることを特徴とする請求項5記載のろう付け用アルミニウム合金組み付け体。
【請求項7】
被ろう付け部材間に請求項1〜4のいずれか1項に記載の組成を有するアルミニウム合金ろう材を介在させて、酸素濃度が100ppm以下である雰囲気中で、前記被ろう付け部材同士をろう付接合することを特徴とするフラックスを用いないアルミニウム合金材のろう付け方法。
【請求項8】
前記被ろう付け部材の一方と前記アルミニウム合金ろう材とがクラッドされていることを特徴とする請求項7記載のフラックスを用いないアルミニウム合金材のろう付け方法。
【請求項9】
ろう付け前に、前記アルミニウム合金ろう材の表面酸化皮膜の平均膜厚が15nm以下で、前記表面酸化皮膜中におけるMgO皮膜の平均膜厚が2nm以下であり、前記被ろう付け部材の接合面の表面酸化皮膜の平均膜厚が15nm以下でかつ皮膜中のMgO皮膜厚さが2nm以下であることを特徴とする請求項7または8に記載のフラックスを用いないアルミニウム合金材のろう付け方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム合金ブレージングシート、ろう付け用アルミニウム合金組み付け体およびアルミニウム合金材のろう付け方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、アルミニウム合金のフラックスレスでろう付けを行う種々の技術が提唱されている。例えば、特許文献1では、有利な経済的条件において、無フラックスでアルミニウム合金のロウ付けを行うために、ロウ付け用合金にシリコン、銅、マグネシウム、亜鉛などを添加することが提案されている。
また、特許文献2では、フラックスレスでも放熱性を損なうことのないろう付性を得る為に、ろう材にマグネシウムを含有させ、化学反応の障壁となる酸化膜をマグネシウムのゲッタリング効果により消失させ、強固な接合を得ることができるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−521396号公報
【特許文献2】特開2002−9212号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のように、フラックスレスろう付で、ろう材に添加したMgによりAl酸化皮膜(Al)が還元分解されることで接合を行うことが提案されている。しかし、ろう材や被ろう付部材へMgを添加すると、接合中に雰囲気中の酸素とMgが反応し、Mgの酸化皮膜(MgO)が生成する。MgOが生成すると、接合を阻害する現象がみられ、安定した接合状態を得ることができないという問題がある。
【0005】
これに対し、特許文献2では、MgOの酸化膜をラッピングフィルム等による物理的手法によって研磨を行ったり、硝酸とフッ酸の混合溶液による酸処理などによる化学的手法によって除去する方法が提案されている。また、ニッケル層を設けたヒートシンクを用いて高い温度で接合する方法が提案されているが、上記方法では、工程が増え、コストがかかる。
また、他の一般的な方法として、真空の利用や非酸化性ガスによる置換で雰囲気中の酸素濃度を低く制御することで、MgOの生成がある程度抑制されるが、接合部の形態によっては安定した接合状態が得られ難い。
【0006】
本発明は、上記事情を背景としてなされたものであり、良好な接合状態が得られるアルミニウム合金ブレージングシート、ろう付け用アルミニウム合金組み付け体およびアルミニウム合金材のろう付け方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明のアルミニウム合金ブレージングシートのうち、第1の本発明は、アルミニウム合金芯材の一方または両方の面に、アルミニウム合金ろう材がクラッドされて前記アルミニウム合金ろう材が最表面に位置し、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる被ろう付け部材に前記アルミニウム合金ろう材を接触させて、減圧を伴わない非酸化性雰囲気中でフラックスを用いずに接合されるブレージングシートであって、前記アルミニウム合金ろう材が、質量%で、Si:3〜13%、Mg:0.1〜3.0%、Ce:0.0001〜3.0%、Sr:0.001〜1.0%を含有し、残部がAlと不可避不純物からなる組成を有することを特徴とする。
【0008】
記アルミニウム合金ろう材は、さらに、質量%で、Be:0.0001〜0.1%を含有することができる。
前記アルミニウム合金ろう材は、前記Ceがミッシュメタルとして添加されており、残部の希土類元素を不可避不純物として含有することができる。
【0009】
前記アルミニウム合金ろう材のろう付前の表面酸化皮膜の平均膜厚が15nm以下であり、かつ前記表面酸化皮膜中におけるMgO皮膜の平均膜厚が2nm以下であるのが望ましい。
【0010】
本発明のろう付け用アルミニウム合金組み付け体は、上記本発明のアルミニウム合金ブレージングシートと、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる被ろう付け部材とで構成され、減圧を伴わない非酸化性雰囲気中で前記アルミニウム合金ブレージングシートのアルミニウム合金ろう材を介して互いにフラックスを用いずに接合されるろう付けに供されるものあることを特徴とする。
【0011】
上記ろう付け用アルミニウム合金組み付け体では、ろう付け前に、前記被ろう付け部材の接合面の表面酸化皮膜の平均膜厚が15nm以下でかつ皮膜中のMgO皮膜厚さが2nm以下であるのが望ましい。
被ろう付け部材は、質量%で、Si:0.1〜1.2%、Mg:0.1〜0.8%を含有し、残部がAlと不可避不純物からなる組成を有するのが望ましい。
【0012】
本発明のアルミニウム合金材のろう付け方法は、被ろう付け部材間に上記本発明の組成を有するアルミニウム合金ろう材を介在させて、酸素濃度が100ppm以下である雰囲気中で、前記被ろう付け部材同士フラックスを用いずにろう付接合することを特徴とする。
【0013】
前記被ろう付け部材の一方と前記アルミニウム合金ろう材とがクラッドされているものとすることができる。
また、ろう付け前に、前記アルミニウム合金ろう材の表面酸化皮膜の平均膜厚が15nm以下で、前記表面酸化皮膜中におけるMgO皮膜の平均膜厚が2nm以下であり、前記被ろう付け部材の接合面の表面酸化皮膜の平均膜厚が15nm以下でかつ皮膜中のMgO皮膜厚さが2nm以下であるのが望ましい。
【0014】
以下に、本発明における規定の限定理由について説明する。なお、成分量についてはいずれも質量%で示される。
【0015】
1.ろう材
Si:3〜13%
Siは、Alに含有することにより、その融点を低下させ、ろう付昇温時の共晶温度以上で、接合に必要な溶融ろう材を生成する。また、ろう材表面に存在するSi粒子上では、アルミニウムの緻密な酸化皮膜の成長が抑制され、酸化皮膜の欠陥部が生成する。Siの含有量が3%未満では、これらの作用が十分に得られず、13%を超えると、ろう材強度が高くなり過ぎて圧延性が悪化し、クラッド圧延材を作製することができなくなる。このため、Siの含有量は、3〜13%とすることが好ましい。なお、同様の理由により、Siの含有量は、下限を6.5%、上限を12.0%とすることがより好ましい。
【0016】
Mg:0.1〜3.0%
Mgは、ろう付昇温過程において、材料表面に生成する緻密な酸化皮膜(A1膜)に作用して酸化皮膜を分解することで、ろうの濡れ性や流動性を向上させる。ただし、Mgの含有量が0.1%未満では、酸化皮膜の分解作用が十分に得られず、3.0%を超えると、ろう材強度が高くなり過ぎて圧延性が悪化し、クラッド圧延材を作製することが難しくなる。また、MgOが成長し溶融ろうの濡れ性が低下し、十分な接合が得られ難くなる。このため、Mgの含有量は、0.1〜3.0%とすることが好ましい。なお、同様の理由により、Mgの含有量は、下限を0.25%、上限を2.0%とすることがより好ましい。
【0017】
Ce:0.0001〜3.0%
Ceは、図4で示すエリンガム図で示されるようにAlやMgよりも酸化し易いため、ろう材表面に生成したAlおよびMgの酸化皮膜を還元分解し、溶融ろうの濡れ性低下を防止し、接合状態を改善する作用を有する。ろう材中のCe含有量が0.0001%未満であると、上記効果が不十分となる。一方、Ce含有量が3.0%を超えると、ろう材表面の酸化が促進され、接合率が低下する。したがって、ろう材中のCe含有量を0.0001〜3.0%とするのが望ましい。同様の理由により、Ce含有量は、下限を0.005%、上限を1.0%とするのが一層望ましい。
【0018】
ろう材の作製にあたり、Ceは鉱物から分離精製されたものを単独でアルミニウム合金ろう材に含有することができるが、ミッシュメタルとして入手できるCeを用いて含有することもできる。一般にミッシュメタルは、Ceを50〜60%、Laを20%程度含み、残りがNd、Pr、Yなどで占められる。このようなミッシュメタルを用いてCeを含有した場合に、La、Nd、Pr、Yがアルミニウム合金ろう材に含まれることは、本発明の効果を妨げるものではなく、不可避不純物として許容できる。例えば、その他の希土類元素を3.0%以下含有し、好ましくは1.0%以下とすることが好ましい。
【0019】
Sr:0.001〜1.0%
Srはろう材が溶融する温度域でMgと同等に酸化し易く、ろう材表面に生成したAlの酸化皮膜を還元分解し、さらに、部材表面でMgの酸化と競合することでMgOの生成量を抑制する作用を有する。また、Srはろう材Si粒子を微細化し、かつ、Ceとの複合添加でろう材中に金属間化合物を形成することで、ろう付製品の耐食性を向上させる。ろう材中のSr含有量が0.001%未満であると、上記効果が不十分となる。一方、Sr含有量が1.0%を超えると、ろう材表面の酸化が促進され、接合率が低下する。したがって、所望によりSrを含有する場合、ろう材中のSr含有量を0.001〜1.0%とする。同様の理由により、Sr含有量は、その下限を0.005%、上限を0.75%とするのが一層望ましい。
また、CeとSrを複合添加することで、さらにMgOの生成が抑制されて良好な接合状態となる。
【0020】
Be:0.0001〜0.1%
Beは、Al−Si−Mg系ろう材に添加することで溶融ろう材表面に形成される酸化皮膜の成長を抑制し、濡れ性の低下を抑制するので所望により含有させる。また、酸化し易く、ろう材表面に生成したAlおよびMgの酸化皮膜を還元分解し、接合状態を改善する作用を有する。ろう材中のBe含有量が0.0001%未満であると、上記効果が不十分となる。一方、Be含有量が0.1%を超えると、その効果が飽和することや有害性がある。したがって、所望によりBeを含有する場合、ろう材中のBe含有量を0.0001〜0.1%とする。同様の理由で下限を0.0002とするのが望ましく、上限を0.001%とするのが望ましい。
【0021】
なお、ろう材は、アルミニウム合金の芯材にクラッドして提供することができ、適宜、片面クラッド材と両面クラッド材とを使い分けることができる。両面クラッド材では、芯材の両面にろう材がクラッドされているものであってもよく、また片面にろう材がクラッドされ、他の片面に犠牲材などのその他の材料がクラッドされているものであってもよい。また、ろう材は、被ろう付け部材間に介在させる板材として提供することができる。
【0022】
2.芯材組成
アルミニウム合金ろう材をクラッドする場合、その芯材はアルミニウム合金であればよく、その組成が特に限定されるものではない。
芯材にはMgを添加しなくても接合は可能である。しかし、フラックスレスろう付を実現したことにより、高強度化を狙ったMg添加を積極的に行うことも可能となる。
芯材としては、例えば、質量%で、Mn:0.2〜2.5%、Cu:0.05〜1.0%、Si:0.1〜1.2%の内1種または2種以上を含有し、残部がAlと不可避不純物からなる組成を有するものを挙げることができる。また、芯材として、前記組成に、質量%で、さらにMg:0.01〜0.8%を含有するものが示される。
上記芯材における各元素の作用および限定理由は以下のとおりである。
【0023】
Mn:0.2〜2.5%
Mnは、金属間化合物として晶出または析出し、ろう付後の強度を向上させる。また、芯材の電位を貴にして耐食性も向上させる。これら作用を十分に得るためはMnを0.2%以上含有する。下限未満ではこれらの効果が不十分である。一方、上限を超えると、鋳造時に巨大金属間化合物が生成して圧延が困難となる。このため、Mnの含有量は、0.2〜2.5%が望ましい。なお、同様の理由で、Mn含有量は、下限が1.0%、上限が1.7%が一層望ましい。
【0024】
Cu:0.05〜1.0%
Cuは、材料中に固溶してろう付後の強度を向上させるとともに、芯材の電位を貴にして耐食性を向上させる。これら作用を十分に得るためCuを0.05%以上含有する。下限未満ではこれらの効果が不十分である。一方、上限を超えると、鋳造時に割れが生じたり、圧延性が低下する。このため、Cuの含有量は、0.05〜1.0%が望ましい。なお、同様の理由でCu含有量は、下限が0.1%、上限が0.7%が一層望ましい。
【0025】
Si:0.1〜1.2%
Siは、単体でマトリックスに固溶して材料強度を向上させるほか、本発明においては、Mg添加との相乗効果によって得られるMgSiの析出により、材料強度を向上させる。このMgSiの析出は、ろう付熱処理後の時効硬化により、飛躍的な材料強度向上に寄与する。また、Mnと同時に添加されるとAl−Mn−Si化合物として分散して、材料強度を向上させる効果も有する。これら作用を十分に得るためSiを0.1%以上含有する。下限未満ではこれらの効果が不十分である。一方、上限を超えると、融点が低下し、ろう付時に芯材が溶融する。このため、Siの含有量は、0.1〜1.2%が望ましい。なお、同様の理由で、Si含有量の下限は0.3%、上限は1.0%が一層望ましい。
【0026】
Mg:0.1〜0.8%
Mgは、単独では固溶強化により、また、Siと同時に添加されるとろう付後に微細な金属間化合物MgSiとして析出し、時効硬化することで著しく強度を向上させる効果を有する。また、ろう付加熱中にろう材から拡散してきたSiとも反応し、同様の強度効果を有する。さらに一部はろう材中に拡散し、ろう材表面の酸化膜の破壊や変質に寄与する効果を有する。これら作用を十分に得るためMgを0.1%以上含有する。下限未満ではこれらの効果が不十分である。一方、上限を超えると、融点が低下し、ろう付時に芯材が溶融する。このため、Mgの含有量は、0.01〜0.8%が望ましい。なお、同様の理由でMg含有量の下限は0.2%、上限は0.7%が一層望ましい。
なお、芯材の組成が上記に限定されないことが当然である。
【0027】
ろう材表面酸化皮膜
本発明において、ろう付前のアルミニウム合金ろう材の表面酸化皮膜の平均膜厚は、15nm以下で、前記表面酸化皮膜中のMgO皮膜の平均膜厚が2nm以下とすることが望ましい。酸化皮膜中のAlは、Mg、Ce、Srにより還元され、また、MgOはCeによって還元されるが、実用的な量産炉においては、制御可能なろう付雰囲気中の酸素濃度や熱処理時間などの制約があり、上記酸化皮膜厚さとすることで良好なろう付性が確保され易いためである。但し、ろう付条件などにより上記酸化皮膜厚さ以上でも十分なろう付性が確保できる場合には、上記酸化皮膜厚さに限定されるものではない。
【0028】
3.被ろう付け部材
被接合部材の1つとしてMg含有アルミニウム合金材を用いる場合、その組成が特定のものに限定されるものではないが、以下に好適な組成を示す。
【0029】
Mg:0.1〜0.8%
Mgは、ろう付昇温過程において、材料表面に生成する緻密な酸化皮膜(Al膜)に作用して酸化皮膜を還元分解するとともに、Siと同時に添加されるとろう付後に微細な金属間化合物MgSiとして析出し、時効硬化により著しく材料強度を向上させる作用を有する。Mgの含有量が0.1%未満では、酸化皮膜の分解作用が十分に得られず、材料強度を向上させる作用も十分に得られず、0.8%を超えると、合金部材の融点が低下して合金部材が溶融ろうの侵食を受けやすくなり、ろう付構造物の接合後における寸法精度が得られなくなる。このため、Mgの含有量は、0.1〜0.8%とすることができる。なお、同様の理由により、Mgの含有量は、下限を0.2%、上限を0.7%とするのが望ましい。
【0030】
Si:0.1〜1.2%
Siは、単体でマトリックスに固溶して材料強度を向上させるほか、Mg添加との相乗効果によって得られる金属間化合物MgSiの析出により、材料強度を向上させる作用を有する。Siの含有量が0.1%未満では、材料強度を向上させる作用が十分に得られず、1.2%を超えると、合金部材の融点が低下し、ろう付過程で溶融することで、ろう付構造物の寸法精度が得られなくなる。このため、Siの含有量は、0.1〜1.2%とすることができる。なお、同様の理由により、Siの含有量は、下限を0.3%、上限を1.0%とすることが望ましい。
【0031】
被ろう付け部材の一方に用いられるMg含有アルミニウム合金材は、上記のようにMg、Siを含有し、残部がAlと不可避不純物からなる組成を有するものとすることができるが、上記作用を損なわない範囲で、その他の成分を含有するものとすることもできる。
【0032】
上記被ろう付け部材は、クラッド材の芯材に用いてろう材がクラッドされたクラッド材としてろう付に供してもよいし、ベア材としてろう付に供してもよい。
【0033】
被ろう付け部材表面酸化皮膜
本発明において、ろう付前の被ろう付け部材の表面酸化皮膜の平均膜厚は、15nm以下でかつ皮膜中のMgO皮膜厚さが2nm以下とすることが望ましい。酸化皮膜中のAlは、被ろう付部材中のMgにより還元されるか、または、流動してきたろう材中のMg、Ce、Srにより還元されるが、実用的な量産炉においては、制御可能なろう付雰囲気中の酸素濃度や熱処理時間などの制約があり、上記酸化皮膜厚さとすることで良好なろう付性が確保され易いためである。但し、ろう付条件などにより上記酸化皮膜厚さ以上でも十分なろう付性が確保できる場合には、上記酸化皮膜厚さに限定されるものではない。
【0034】
4.炉内雰囲気
本発明のろう付は、大気圧下の非酸化性雰囲気中の環境で十分な接合が得られるものであるが、加圧や減圧した雰囲気下で行うことも可能である。
本発明の実施にあたっては、炉内雰囲気を不活性ガス、或いは還元性ガス等の非酸化性ガスとすることで、雰囲気中の酸素濃度や露点を低下させ、被ろう付け物の酸化を抑制することができる。使用する置換ガスの種類としては、接合を得るにあたり特に限定されるものではないが、コストの観点で、不活性ガスとしては窒素、アルゴン、ヘリウム、還元性ガスとしては水素、アンモニア、一酸化炭素などを用いることが好適である。酸素濃度が高いと被ろう付部材が酸化し易くなり、酸化皮膜の還元分解が十分に得られなくなるため、酸素濃度管理範囲としては100ppm以下が良い。酸素濃度が低いほど酸化の影響は無くなるが、例えば、5ppm以下で管理する場合には雰囲気維持に多量の高純度ガスを必要とするため、生産上は好ましくない。以上の理由から、ろう付雰囲気中の酸素濃度は、30ppm以下で管理することが一層望ましい。
【発明の効果】
【0035】
以上説明したように、本発明によれば、フラックスレスにおいて、アルミニウムまたはアルミニウム合金を良好なろう付け接合状態で接合することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1】本発明の一実施形態のアルミニウム合金クラッド材を示す断面図である。
図2】同じく、実施例におけるろう付け評価モデルである。
図3】同じく、実施例におけるろう付け評価モデルの接合面の幅を示す図である。
図4】酸化物のエリンガム図である(出典 日本金属学会,非鉄金属精錬,1964年,p.291)。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下に、本発明の一実施形態を説明する。
ろう材用アルミニウム合金として、質量%で、Si:3〜13%、Mg:0.1〜3.0%、Ce:0.0001〜3.0%を含有し、残部がAlおよび不可避不純物からなる組成に調製する。ろう材用アルミニウム合金は、さらに、質量%でSr:0.001〜1.0%、Be:0.0001〜0.1%のうち1種または2種を含有するものであってもよい。
また、芯材用アルミニウム合金として、例えば、質量%で、Mn:0.2〜2.5%、Cu:0.05〜1.0%、Si:0.1〜1.2%の内1種または2種以上を含有し、残部がAlと不可避不純物からなる組成に調製する。
【0038】
熱間圧延、冷間圧延を行って芯材の一方または両方の面にろう材が重ね合わされて接合されたクラッド材を得る。
上記工程を経ることにより、図1に示すように、アルミニウム合金芯材2の一方の面にアルミニウム合金ろう材3がクラッドされた熱交換器用のアルミニウム合金ブレージングシート1が得られる。
アルミニウム合金ブレージングシート1は、熱交換器のチューブ、ヘッダ、タンクなどとして用いることができる。
【0039】
一方、被ろう付け部材として、例えば、質量%で、Mg:0.1〜0.8%、Si:0.1〜1.2%を含有し、残部がAlと不可避不純物からなるアルミニウム合金を調製し、適宜形状に加工される。
【0040】
上記アルミニウム合金ブレージングシート1は、上記ろう材が最表面に位置しており、表面酸化皮膜の平均膜厚が15nm以下で、前記表面酸化皮膜中におけるMgO皮膜の平均膜厚が2nm以下に調整されている。
また、被ろう付け部材は、少なくとも接合面において表面酸化皮膜の平均膜厚が15nm以下かつ皮膜中のMgO皮膜厚さが2nm以下に調整されている。
上記表面酸化皮膜は、鋳造後の均質化、熱間圧延前の均熱、冷間圧延後の焼鈍等、各種
熱処理時の温度と時間によって調整することができる。
【0041】
上記アルミニウム合金ブレージングシート1と被ろう付け部材とは、アルミニウム合金芯材2と被ろう付け部材との間にアルミニウム合金ろう材3が介在するように接合してろう付け用アルミニウム合金組み付け体とする。
上記組み付け体は、減圧を伴うことなく非酸化性雰囲気とされた加熱炉内に配置される。該非酸化性雰囲気は、窒素、アルゴンなどの不活性ガスまたは水素、アンモニア、一酸化炭素などの還元性ガス、あるいはこれらの混合ガスを用いて構成することができる。非酸化性雰囲気は、ろう付け加熱時には減圧を伴わず、通常は大気圧とされる。なお、非酸化性雰囲気を得る前に、置換などの目的で減圧工程を含むものであってもよい。加熱炉は密閉した空間を有することを必要とせず、ろう付け材の搬入口、搬出口を有するものであってもよい。このような加熱炉でも、不活性ガスを炉内に吹き出し続けることで非酸化性が維持される。該非酸化性雰囲気としては、酸素濃度として体積比で100ppm以下が望ましい。
【0042】
上記雰囲気下で560〜620℃で加熱をしてろう付けを行う。
アルミニウム合金ろう材の融点は、添加されるMg量によって変化し、Mgが、質量%で0.8%以上含有すると559℃となる。よって、ろう付の加熱温度は560℃以上とするが、実体温度が高過ぎるとろう侵食により接合後の構造体の寸法精度が問題となるため、高くても620℃以下の範囲で行うことが望ましい。但し、寸法精度に問題が生じない接合体であれば、最高温度の制約はこの限りではない。
上記ろう付けにおいては、ろう付け対象の部材同士がフラックスレスで良好に接合される。
【0043】
なお、上記実施形態では、アルミニウム合金芯材とアルミニウム合金ろう材とをクラッドして被ろう付け部材と接合するものとして説明したが、被ろう付け部材間にアルミニウム合金ろう材を配置してろう付け接合することも可能である。
【実施例1】
【0044】
以下に、本発明の実施例を比較例と対比しつつ説明する。
半連続鋳造により、表1〜表3(発明例)、表4(比較例)に示す組成を有するアルミニウム合金芯材素材およびアルミニウム合金ろう材素材をそれぞれ鋳造した。なお、表に示された芯材用アルミニウム合金の組成およびろう材用アルミニウム合金は、残部がAlおよび不可避不純物からなるものである。
上記芯材素材と上記ろう材素材とをクラッドしてアルミニウム合金ブレージングシートを用意した。ろう材のクラッド率を10%とし、H14相当調質で0.25mm厚に仕上げた。
【0045】
また、他方の被ろう付け部材として、表1〜4に組成を示すH14相当調質のアルミニウムベア材(0.1mm厚)をコルゲート加工して図2に示すコルゲートフィン11を用意した。表1〜4に示された被ろう付け部材は、残部がAlおよび不可避不純物からなるものである。
【0046】
図2に示すように、前記アルミニウム合金ブレージングシートを用いて幅20mmの扁平電縫チューブ12を製作し、前記コルゲートフィン11と組み合わせ、ろう付評価モデルとしてチューブ15段、長さ300mmのコア10を製作した。前記コア10を窒素雰囲気中(酸素濃度20ppm)のろう付け炉にて、実体温度600℃×3分保持する接合試験を実施し、ろう付け状態を以下の項目について評価した。
【0047】
(接合率)
次式にて接合率を求め、各試料間の優劣を評価した。
フィン接合率=(コルゲートフィンとチューブの総ろう付け長さ/コルゲートフィンとチューブの総接触長さ)×100
ろう付け後のフィン接合率が95%以上であれば◎と評価し、85%以上95%未満であれば○と評価し、80%以上85%未満であれば△と評価し、80%未満であれば×と評価した。評価結果を表1〜4に示した。
【0048】
(接合部幅評価)
ろう付接合部におけるフィレット形成能を確認するため、接合面の幅の評価を行った。図3に示すように接合面の幅の位置は、チューブ面に接しているフィレットの最大幅である。フィレットとチューブの接合面の幅を各試料で20点計測し、その平均値をもって優劣を評価した。判定は、接合面の幅が0.6mm以上であれば◎と評価し、0.3mm以上0.6mm未満であれば○と評価し、0.3mm未満であれば×と評価した。評価結果を表1〜4に示した。
【0049】
【表1】
【0050】
【表2】
【0051】
【表3】
【0052】
【表4】
【符号の説明】
【0053】
1 アルミニウム合金ブレージングシート
2 アルミニウム合金芯材
3 アルミニウム合金ろう材
10 コア
11 コルゲートフィン
12 チューブ
図1
図2
図3
図4