【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明のアルミニウム合金ブレージングシートのうち、第1の本発明は、アルミニウム合金芯材の一方または両方の面に、アルミニウム合金ろう材がクラッドされて前記アルミニウム合金ろう材が最表面に位置し、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる被ろう付け部材に前記アルミニウム合金ろう材を接触させて、減圧を伴わない非酸化性雰囲気中でフラックスを用いずに接合されるブレージングシートであって、前記アルミニウム合金ろう材が、質量%で、Si:3〜13%、Mg:0.1〜3.0%、Ce:0.0001〜3.0%
、Sr:0.001〜1.0%を含有し、残部がAlと不可避不純物からなる組成を有することを特徴とする。
【0008】
前記アルミニウム合金ろう材は、さらに、質量%で、Be:0.0001〜0.1%を含有することができる。
前記アルミニウム合金ろう材は、前記Ceがミッシュメタルとして添加されており、残部の希土類元素を不可避不純物として含有することができる。
【0009】
前記アルミニウム合金ろう材のろう付前の表面酸化皮膜の平均膜厚が15nm以下であり、かつ前記表面酸化皮膜中におけるMgO皮膜の平均膜厚が2nm以下であるのが望ましい。
【0010】
本発明のろう付け用アルミニウム合金組み付け体は、上記本発明のアルミニウム合金ブレージングシートと、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる被ろう付け部材とで構成され、減圧を伴わない非酸化性雰囲気中で前記アルミニウム合金ブレージングシートのアルミニウム合金ろう材を介して互いに
フラックスを用いずに接合される
ろう付けに供されるもの
であることを特徴とする。
【0011】
上記ろう付け用アルミニウム合金組み付け体では、ろう付け前に、前記被ろう付け部材の接合面の表面酸化皮膜の平均膜厚が15nm以下でかつ皮膜中のMgO皮膜厚さが2nm以下であるのが望ましい。
被ろう付け部材は、質量%で、Si:0.1〜1.2%、Mg:0.1〜0.8%を含有し、残部がAlと不可避不純物からなる組成を有するのが望ましい。
【0012】
本発明のアルミニウム合金材のろう付け方法は、被ろう付け部材間に上記本発明の組成を有するアルミニウム合金ろう材を介在させて、酸素濃度が100ppm以下である雰囲気中で、前記被ろう付け部材同士フラックスを用いずにろう付接合することを特徴とする。
【0013】
前記被ろう付け部材の一方と前記アルミニウム合金ろう材とがクラッドされているものとすることができる。
また、ろう付け前に、前記アルミニウム合金ろう材の表面酸化皮膜の平均膜厚が15nm以下で、前記表面酸化皮膜中におけるMgO皮膜の平均膜厚が2nm以下であり、前記被ろう付け部材の接合面の表面酸化皮膜の平均膜厚が15nm以下でかつ皮膜中のMgO皮膜厚さが2nm以下であるのが望ましい。
【0014】
以下に、本発明における規定の限定理由について説明する。なお、成分量についてはいずれも質量%で示される。
【0015】
1.ろう材
Si:3〜13%
Siは、Alに含有することにより、その融点を低下させ、ろう付昇温時の共晶温度以上で、接合に必要な溶融ろう材を生成する。また、ろう材表面に存在するSi粒子上では、アルミニウムの緻密な酸化皮膜の成長が抑制され、酸化皮膜の欠陥部が生成する。Siの含有量が3%未満では、これらの作用が十分に得られず、13%を超えると、ろう材強度が高くなり過ぎて圧延性が悪化し、クラッド圧延材を作製することができなくなる。このため、Siの含有量は、3〜13%とすることが好ましい。なお、同様の理由により、Siの含有量は、下限を6.5%、上限を12.0%とすることがより好ましい。
【0016】
Mg:0.1〜3.0%
Mgは、ろう付昇温過程において、材料表面に生成する緻密な酸化皮膜(A1
2O
3膜)に作用して酸化皮膜を分解することで、ろうの濡れ性や流動性を向上させる。ただし、Mgの含有量が0.1%未満では、酸化皮膜の分解作用が十分に得られず、3.0%を超えると、ろう材強度が高くなり過ぎて圧延性が悪化し、クラッド圧延材を作製することが難しくなる。また、MgOが成長し溶融ろうの濡れ性が低下し、十分な接合が得られ難くなる。このため、Mgの含有量は、0.1〜3.0%とすることが好ましい。なお、同様の理由により、Mgの含有量は、下限を0.25%、上限を2.0%とすることがより好ましい。
【0017】
Ce:0.0001〜3.0%
Ceは、
図4で示すエリンガム図で示されるようにAlやMgよりも酸化し易いため、ろう材表面に生成したAlおよびMgの酸化皮膜を還元分解し、溶融ろうの濡れ性低下を防止し、接合状態を改善する作用を有する。ろう材中のCe含有量が0.0001%未満であると、上記効果が不十分となる。一方、Ce含有量が3.0%を超えると、ろう材表面の酸化が促進され、接合率が低下する。したがって、ろう材中のCe含有量を0.0001〜3.0%とするのが望ましい。同様の理由により、Ce含有量は、下限を0.005%、上限を1.0%とするのが一層望ましい。
【0018】
ろう材の作製にあたり、Ceは鉱物から分離精製されたものを単独でアルミニウム合金ろう材に含有することができるが、ミッシュメタルとして入手できるCeを用いて含有することもできる。一般にミッシュメタルは、Ceを50〜60%、Laを20%程度含み、残りがNd、Pr、Yなどで占められる。このようなミッシュメタルを用いてCeを含有した場合に、La、Nd、Pr、Yがアルミニウム合金ろう材に含まれることは、本発明の効果を妨げるものではなく、不可避不純物として許容できる。例えば、その他の希土類元素を3.0%以下含有し、好ましくは1.0%以下とすることが好ましい。
【0019】
Sr:0.001〜1.0%
Srはろう材が溶融する温度域でMgと同等に酸化し易く、ろう材表面に生成したAlの酸化皮膜を還元分解し、さらに、部材表面でMgの酸化と競合することでMgOの生成量を抑制する作用を有す
る。また、Srはろう材Si粒子を微細化し、かつ、Ceとの複合添加でろう材中に金属間化合物を形成することで、ろう付製品の耐食性を向上させる。ろう材中のSr含有量が0.001%未満であると、上記効果が不十分となる。一方、Sr含有量が1.0%を超えると、ろう材表面の酸化が促進され、接合率が低下する。したがって、所望によりSrを含有する場合、ろう材中のSr含有量を0.001〜1.0%とする。同様の理由により、Sr含有量は、その下限を0.005%、上限を0.75%とするのが一層望ましい。
また、CeとSrを複合添加することで、さらにMgOの生成が抑制されて良好な接合状態となる。
【0020】
Be:0.0001〜0.1%
Beは、Al−Si−Mg系ろう材に添加することで溶融ろう材表面に形成される酸化皮膜の成長を抑制し、濡れ性の低下を抑制するので所望により含有させる。また、酸化し易く、ろう材表面に生成したAlおよびMgの酸化皮膜を還元分解し、接合状態を改善する作用を有する。ろう材中のBe含有量が0.0001%未満であると、上記効果が不十分となる。一方、Be含有量が0.1%を超えると、その効果が飽和することや有害性がある。したがって、所望によりBeを含有する場合、ろう材中のBe含有量を0.0001〜0.1%とする。同様の理由で下限を0.0002とするのが望ましく、上限を0.001%とするのが望ましい。
【0021】
なお、ろう材は、アルミニウム合金の芯材にクラッドして提供することができ、適宜、片面クラッド材と両面クラッド材とを使い分けることができる。両面クラッド材では、芯材の両面にろう材がクラッドされているものであってもよく、また片面にろう材がクラッドされ、他の片面に犠牲材などのその他の材料がクラッドされているものであってもよい。また、ろう材は、被ろう付け部材間に介在させる板材として提供することができる。
【0022】
2.芯材組成
アルミニウム合金ろう材をクラッドする場合、その芯材はアルミニウム合金であればよく、その組成が特に限定されるものではない。
芯材にはMgを添加しなくても接合は可能である。しかし、フラックスレスろう付を実現したことにより、高強度化を狙ったMg添加を積極的に行うことも可能となる。
芯材としては、例えば、質量%で、Mn:0.2〜2.5%、Cu:0.05〜1.0%、Si:0.1〜1.2%の内1種または2種以上を含有し、残部がAlと不可避不純物からなる組成を有するものを挙げることができる。また、芯材として、前記組成に、質量%で、さらにMg:0.01〜0.8%を含有するものが示される。
上記芯材における各元素の作用および限定理由は以下のとおりである。
【0023】
Mn:0.2〜2.5%
Mnは、金属間化合物として晶出または析出し、ろう付後の強度を向上させる。また、芯材の電位を貴にして耐食性も向上させる。これら作用を十分に得るためはMnを0.2%以上含有する。下限未満ではこれらの効果が不十分である。一方、上限を超えると、鋳造時に巨大金属間化合物が生成して圧延が困難となる。このため、Mnの含有量は、0.2〜2.5%が望ましい。なお、同様の理由で、Mn含有量は、下限が1.0%、上限が1.7%が一層望ましい。
【0024】
Cu:0.05〜1.0%
Cuは、材料中に固溶してろう付後の強度を向上させるとともに、芯材の電位を貴にして耐食性を向上させる。これら作用を十分に得るためCuを0.05%以上含有する。下限未満ではこれらの効果が不十分である。一方、上限を超えると、鋳造時に割れが生じたり、圧延性が低下する。このため、Cuの含有量は、0.05〜1.0%が望ましい。なお、同様の理由でCu含有量は、下限が0.1%、上限が0.7%が一層望ましい。
【0025】
Si:0.1〜1.2%
Siは、単体でマトリックスに固溶して材料強度を向上させるほか、本発明においては、Mg添加との相乗効果によって得られるMg
2Siの析出により、材料強度を向上させる。このMg
2Siの析出は、ろう付熱処理後の時効硬化により、飛躍的な材料強度向上に寄与する。また、Mnと同時に添加されるとAl−Mn−Si化合物として分散して、材料強度を向上させる効果も有する。これら作用を十分に得るためSiを0.1%以上含有する。下限未満ではこれらの効果が不十分である。一方、上限を超えると、融点が低下し、ろう付時に芯材が溶融する。このため、Siの含有量は、0.1〜1.2%が望ましい。なお、同様の理由で、Si含有量の下限は0.3%、上限は1.0%が一層望ましい。
【0026】
Mg:0.1〜0.8%
Mgは、単独では固溶強化により、また、Siと同時に添加されるとろう付後に微細な金属間化合物Mg
2Siとして析出し、時効硬化することで著しく強度を向上させる効果を有する。また、ろう付加熱中にろう材から拡散してきたSiとも反応し、同様の強度効果を有する。さらに一部はろう材中に拡散し、ろう材表面の酸化膜の破壊や変質に寄与する効果を有する。これら作用を十分に得るためMgを0.1%以上含有する。下限未満ではこれらの効果が不十分である。一方、上限を超えると、融点が低下し、ろう付時に芯材が溶融する。このため、Mgの含有量は、0.01〜0.8%が望ましい。なお、同様の理由でMg含有量の下限は0.2%、上限は0.7%が一層望ましい。
なお、芯材の組成が上記に限定されないことが当然である。
【0027】
ろう材表面酸化皮膜
本発明において、ろう付前のアルミニウム合金ろう材の表面酸化皮膜の平均膜厚は、15nm以下で、前記表面酸化皮膜中のMgO皮膜の平均膜厚が2nm以下とすることが望ましい。酸化皮膜中のAl
2O
3は、Mg、Ce、Srにより還元され、また、MgOはCeによって還元されるが、実用的な量産炉においては、制御可能なろう付雰囲気中の酸素濃度や熱処理時間などの制約があり、上記酸化皮膜厚さとすることで良好なろう付性が確保され易いためである。但し、ろう付条件などにより上記酸化皮膜厚さ以上でも十分なろう付性が確保できる場合には、上記酸化皮膜厚さに限定されるものではない。
【0028】
3.被ろう付け部材
被接合部材の1つとしてMg含有アルミニウム合金材を用いる場合、その組成が特定のものに限定されるものではないが、以下に好適な組成を示す。
【0029】
Mg:0.1〜0.8%
Mgは、ろう付昇温過程において、材料表面に生成する緻密な酸化皮膜(Al
2O
3膜)に作用して酸化皮膜を還元分解するとともに、Siと同時に添加されるとろう付後に微細な金属間化合物Mg
2Siとして析出し、時効硬化により著しく材料強度を向上させる作用を有する。Mgの含有量が0.1%未満では、酸化皮膜の分解作用が十分に得られず、材料強度を向上させる作用も十分に得られず、0.8%を超えると、合金部材の融点が低下して合金部材が溶融ろうの侵食を受けやすくなり、ろう付構造物の接合後における寸法精度が得られなくなる。このため、Mgの含有量は、0.1〜0.8%とすることができる。なお、同様の理由により、Mgの含有量は、下限を0.2%、上限を0.7%とするのが望ましい。
【0030】
Si:0.1〜1.2%
Siは、単体でマトリックスに固溶して材料強度を向上させるほか、Mg添加との相乗効果によって得られる金属間化合物Mg
2Siの析出により、材料強度を向上させる作用を有する。Siの含有量が0.1%未満では、材料強度を向上させる作用が十分に得られず、1.2%を超えると、合金部材の融点が低下し、ろう付過程で溶融することで、ろう付構造物の寸法精度が得られなくなる。このため、Siの含有量は、0.1〜1.2%とすることができる。なお、同様の理由により、Siの含有量は、下限を0.3%、上限を1.0%とすることが望ましい。
【0031】
被ろう付け部材の一方に用いられるMg含有アルミニウム合金材は、上記のようにMg、Siを含有し、残部がAlと不可避不純物からなる組成を有するものとすることができるが、上記作用を損なわない範囲で、その他の成分を含有するものとすることもできる。
【0032】
上記被ろう付け部材は、クラッド材の芯材に用いてろう材がクラッドされたクラッド材としてろう付に供してもよいし、ベア材としてろう付に供してもよい。
【0033】
被ろう付け部材表面酸化皮膜
本発明において、ろう付前の被ろう付け部材の表面酸化皮膜の平均膜厚は、15nm以下でかつ皮膜中のMgO皮膜厚さが2nm以下とすることが望ましい。酸化皮膜中のAl
2O
3は、被ろう付部材中のMgにより還元されるか、または、流動してきたろう材中のMg、Ce、Srにより還元されるが、実用的な量産炉においては、制御可能なろう付雰囲気中の酸素濃度や熱処理時間などの制約があり、上記酸化皮膜厚さとすることで良好なろう付性が確保され易いためである。但し、ろう付条件などにより上記酸化皮膜厚さ以上でも十分なろう付性が確保できる場合には、上記酸化皮膜厚さに限定されるものではない。
【0034】
4.炉内雰囲気
本発明のろう付は、大気圧下の非酸化性雰囲気中の環境で十分な接合が得られるものであるが、加圧や減圧した雰囲気下で行うことも可能である。
本発明の実施にあたっては、炉内雰囲気を不活性ガス、或いは還元性ガス等の非酸化性ガスとすることで、雰囲気中の酸素濃度や露点を低下させ、被ろう付け物の酸化を抑制することができる。使用する置換ガスの種類としては、接合を得るにあたり特に限定されるものではないが、コストの観点で、不活性ガスとしては窒素、アルゴン、ヘリウム、還元性ガスとしては水素、アンモニア、一酸化炭素などを用いることが好適である。酸素濃度が高いと被ろう付部材が酸化し易くなり、酸化皮膜の還元分解が十分に得られなくなるため、酸素濃度管理範囲としては100ppm以下が良い。酸素濃度が低いほど酸化の影響は無くなるが、例えば、5ppm以下で管理する場合には雰囲気維持に多量の高純度ガスを必要とするため、生産上は好ましくない。以上の理由から、ろう付雰囲気中の酸素濃度は、30ppm以下で管理することが一層望ましい。