【実施例】
【0032】
実験例1.
(負極活物質の合成)
赤リン(和光純薬製)をステンレスボール(φ15mm)との重量比が1:30になるようにステンレスポットに封入し、室温、回転速度380rpmで10時間機械的粉砕を行って黒リンを合成した。
【0033】
(負極の製造)
得られた黒リンを原料として、ガスデポジション法を用いて黒リン粉末を集電体の銅箔上に堆積させて負極を得た。銅箔の厚さは、20μmである。また、銅箔面積0.8cm
2に対し、堆積させた黒リンの面積は0.3cm
2である。なお、ガスデポジション法の条件は以下の通りである。
ノズル−基板間距離:10mm
圧力差:7×10
5Pa
ノズル径:直径0.8mm
キャリアガス:He(6N)
活物質量:20〜40μg
膜厚:最大4μm
【0034】
(イオン液体の合成)
1−((2−メトキシエトキシ)メチル)−1−メチルピロリジウム(Py1MEMと略す)―ビス(フルオロスルホニル)アミド(FSAと略す)は、以下の方法で合成した。
【0035】
アルゴン雰囲気下、2口ナスフラスコに1−メチルピロリジン(4.26g,50mmol)を入れ、1−(クロロメトキシ)−2−メトキシエタン(6.23g,50mmol)を滴下し、60℃で24時間撹拌した。放冷後、減圧濃縮し、ヘキサンと酢酸エチルの混合溶媒(混合比7:1)で10回洗浄した後、減圧濃縮した。メタノール(40mL)と活性炭粉末(2.5g)を加え一晩撹拌した後、セライトで活性炭粉末を濾去し、減圧濃縮後、茶色の液体として1−((2−メトキシエトキシ)メチル)−1−メチルピロリジニウム クロライド(Py1MEM―Clと略す)を定量的に得た(11.6g、50mmol)。
【0036】
ナスフラスコに、1−((2−メトキシエトキシ)メチル)−1−メチルピロリジニウム クロライド(Py1MEM―Cl)(5.66g,27mmol)、リチウムビス(フルオロスルホニル)アミド(LiFSA)(5.0g,27mmol)および脱塩水を加え、室温で24時間撹拌し塩交換を行った。塩化メチレンで2回抽出した後、有機層を脱塩水で洗浄し、減圧濃縮後にさらにヘキサンと酢酸エチルの混合溶媒(混合比2:1)で5回洗浄した。減圧濃縮を行った後、活性炭微粉末2.5gと酢酸エチル40mLを加えて一晩撹拌した。セライトで活性炭粉末を濾去し、減圧濃縮後に一晩凍結乾燥を行い、無色透明の液体として1−((2−メトキシエトキシ)メチル)−2−メチルピロリジニウム―ビス(フルオロスルホニル)アミド(Py1MEM―FSAと略す)を得た(8.27g,23mmol)。
【0037】
Py1MEM―FSA分析結果:
1H-NMR (500 MHz, CDCl
3) δ 2.20-2.33 (m, 4 H), 3.12 (s, 3 H), 3.38 (s, 3 H), 3.39-3.43 (m, 2 H), 3.59 (t, J = 4.8 Hz, 2 H), 3.65-3.67 (m, 2 H), 3.97 (t, J = 4.8 Hz, 2 H), 4.66 (s, 2 H).
13C-NMR (125 MHz, CDCl
3,) δ 21.6, 47.0, 58.3, 60.6, 70.9, 71.8, 89.4.
19F NMR (470 MHz, CDCl
3) δ 214.4.
IR (neat, cm
-1) 3635, 2939, 2897, 1463, 1363, 1180, 1152, 831.
粘度: 26.7 mPa s (20 ℃, H
2O= 523.1ppm).
【0038】
1−ヘキシル−1−メチルピロリジウム(Py16と略す)―ビス(フルオロスルホニル)アミド(FSA)は、以下の方法で得た。
【0039】
アルゴン雰囲気下、2口ナスフラスコに1−メチルピロリジン(4.12g, 48mmol)、アセトニトリル(25mL)を入れ、ヘキシルブロマイド(8.15g, 49mmol)を加えて80℃で20時間撹拌した。放冷後、溶媒を減圧溜去し、ヘキサンで5回洗浄した後、さらに減圧濃縮して粗生成物を得た。この粗生成物にメタノール(25mL)と活性炭粉末(1.2g)を加え室温で4日間撹拌した後、セライトで活性炭粉末を濾去し、減圧濃縮後、1−ヘキシル−1−メチルピロリジニウム ブロマイド(Py16―Brと略す)を白色固体として定量的に得た(12.4g、49mmol)。
【0040】
ナスフラスコに、1−ヘキシル−1−メチルピロリジニウム ブロマイド(Py16―Br)(12.4g, 49mmol)、リチウムビス(フルオロスルホニル)アミド(LiFSA)(9.3g, 50mmol)および脱塩水を加え、室温で31時間撹拌した。塩化メチレンで3回抽出した後、有機層を脱塩水で洗浄し、減圧濃縮を行って粗生成物を得た。この粗生成物に活性炭微粉末15gと酢酸メタノール30mLを加えて一晩撹拌した。セライトで活性炭粉末を濾去し、減圧濃縮後に24時間凍結乾燥を行い、1−ヘキシル−1−メチルピロリジニウム−ビス(フルオロスルホニル)アミド(Py16―FSA)を無色透明の液体として得た(16.2g,46mmol)。
【0041】
Py16―FSA分析結果:
1H-NMR (400 MHz, CDCl
3) δ 0.90 (t, J = 6.6 Hz, 3 H), 1.32-1.41 (m, 6 H), 1.73-1.81 (m, 2 H), 2.29 (bs, 4 H), 3.06 (s, 3 H), 3.29-3.33 (m, 2 H), 3.49-3.56 (m, 4 H).
【0042】
(電解液調製)
電解質には、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミドナトリウム(NaTFSAと略す)(キシダ化学製)を用い、以下の3種の電解液を調製した。
電解液A:1M NaTFSA/Py1MEM―FSA
電解液B:1M NaTFSA/Py16―FSA
電解液C:1M NaTFSA/PC
ここで、PCはプロピレンカーボネートの略である。
【0043】
(導電率測定)
イオン液体と電解液の導電率を、両極に白金を用いた二極式セルで交流インピーダンス法により室温で測定した。用いた装置は、北斗電工製IviumCompactStatである。
【0044】
(コインセル作製)
上記の負極と、対極として金属ナトリウム箔(厚さ約1mm)、セパレータとしてポリプロピレン系セパレータを用い、上記の電解液を注入して、コインセル(CR2032)を作製した。以下、電解液A、B、Cを用いたコインセルをそれぞれコインセルA、B、Cという。
【0045】
(充放電測定)
室温で、電位範囲0.005〜2.000V(vs.Na/Na
+)、電流密度50mA/gで行った。
【0046】
上記の合成、製造および測定は、すべて、露点−100℃以下、酸素濃度1ppm以下、アルゴン雰囲気のグローブボックス中で行った。
【0047】
(電極表面の形態観察)
充放電前後の負極表面の形態観察を、電界放出走査型電子顕微鏡(FE−SEM)(日本電子製)を用いて行った。
【0048】
(結果)
表1にイオン液体と電解液の導電率の測定結果を示す。1M NaTFSA/PCは5.9mS/cm、1M NaTFSA/Py16―FSAは1.4mS/cm、1M NaTFSA/Py1MEM―FSAは3.4mS/cmであった。
【0049】
【表1】
【0050】
図1は、コインセルA、B、Cの初期充放電曲線を示す。ここで、初期充放電曲線とは、最初の充放電で得られた充放電曲線をいう。また、
図2は、コインセルA、B、Cのサイクル数と放電容量の関係を示す。また、
図3は、コインセルA、B、Cのサイクル数とクーロン効率の関係を示す。なお、
図2には、比較として、文献(A. Ponrouch et al., Energy Environ. Sci., 5 (2012) 8572-8583)に記載されている、負極活物質にカーボン系材料を用いた場合の放電容量値を破線で示した。
【0051】
電解液に1M NaTFSA/PCを用いたコインセルCは、初回サイクルにおいて,2050mAh/gの充電(ナトリウムイオン挿入)容量および1500mAh/gの放電(ナトリウムイオン脱離)容量を示した。しかし、サイクル数の増加とともに、放電容量は急激に低下し、50サイクル後ではほとんど放電容量が認められなかった。また、クーロン効率も5サイクル以降大きく低下した。黒リンは以下の合金化の反応式で示すように、1モルあたり最大3個のナトリウムイオンを吸蔵することが可能である。
【化5】
しかし、この時、黒リンの体積は元の体積の4.9倍にも膨張する。そのため、負極活物質である黒リンは充放電にともない大きく膨張−収縮を繰り返すことになる。コインセルCにおける、サイクル数の増加に伴う容量の急激な低下は、上記の合金化および脱合金化反応に伴う大きな体積変化により生じる応力が原因となり電極の崩壊を招いたためであると考えられる。
【0052】
一方、電解液の溶媒にイオン液体を用いた場合、PCを用いた場合と比べ、優れたサイクル特性が得られた。
図1に示すように、電解液に1M NaTFSA/Py16―FSAを用いたコインセルBでは、炭素系負極を用いたコインセルDの約6倍に匹敵する1330mAh/gの高い初回放電容量が得られた。また、100サイクル後でも、炭素系負極を用いたコインセルDを超える310mAh/gという高い容量を維持し、優れたサイクル特性が得られた。また、クーロン効率についても、3サイクル以降でも、93%以上の高い値を示した。
【0053】
また、電解液に1M NaTFSA/Py1MEM―FSAを用いたコインセルAでも、約800mAh/gの初回放電容量が得られた。また、100サイクル後でも、炭素系負極を用いたコインセルDを超える310mAh/gという高い容量を維持し、優れたサイクル特性が得られた。また、クーロン効率についても、3サイクル以降でも、96%以上の高い値を示した。
【0054】
図4Aは、充放電サイクル前の負極の表面形態を示すFE−SEM画像であり、
図4Bは、電解液Cを用いた時の70サイクル後の負極の表面形態を示すFE−SEM画像であり、
図4Cは、電解液Aを用いた時の70サイクル後の負極の表面形態を示すFE−SEM画像である。電解液Cを用いた場合、充放電後、電極表面に複数の大きな亀裂や凹凸が生成すること、および集電体からの負極活物質の剥離も顕著に認められた。これに対し、イオン液体を含む電解液Aを用いた場合、亀裂や凹凸が認められるものの、その程度は電解液Cを用いた場合に比べて小さいことがわかる。
【0055】
以上の結果から、イオン液体を溶媒にとする電解液を用いることで、黒リンを負極活物質に用いた場合でも、サイクル特性を向上させることが可能であることを確認した。