特許第6282457号(P6282457)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人鳥取大学の特許一覧 ▶ 株式会社カネカの特許一覧

特許6282457ナトリウムイオン電池用電解液およびナトリウムイオン電池
<>
  • 特許6282457-ナトリウムイオン電池用電解液およびナトリウムイオン電池 図000010
  • 特許6282457-ナトリウムイオン電池用電解液およびナトリウムイオン電池 図000011
  • 特許6282457-ナトリウムイオン電池用電解液およびナトリウムイオン電池 図000012
  • 特許6282457-ナトリウムイオン電池用電解液およびナトリウムイオン電池 図000013
  • 特許6282457-ナトリウムイオン電池用電解液およびナトリウムイオン電池 図000014
  • 特許6282457-ナトリウムイオン電池用電解液およびナトリウムイオン電池 図000015
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6282457
(24)【登録日】2018年2月2日
(45)【発行日】2018年2月21日
(54)【発明の名称】ナトリウムイオン電池用電解液およびナトリウムイオン電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0568 20100101AFI20180208BHJP
   H01M 10/0569 20100101ALI20180208BHJP
   H01M 10/054 20100101ALI20180208BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20180208BHJP
【FI】
   H01M10/0568
   H01M10/0569
   H01M10/054
   H01M4/38 Z
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-257073(P2013-257073)
(22)【出願日】2013年12月12日
(65)【公開番号】特開2015-115221(P2015-115221A)
(43)【公開日】2015年6月22日
【審査請求日】2016年12月7日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成25年10月6日、山根和也、薄井洋行、清水雅裕、野上敏材、伊藤敏幸、坂口裕樹により第54回電池討論会講演要旨集第402頁において発表。
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成24年度、独立行政法人科学技術振興機構、研究成果展開事業、研究成果最適展開支援プログラム(A−STEP)、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504150461
【氏名又は名称】国立大学法人鳥取大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】100100158
【弁理士】
【氏名又は名称】鮫島 睦
(74)【代理人】
【識別番号】100103115
【弁理士】
【氏名又は名称】北原 康廣
(72)【発明者】
【氏名】坂口 裕樹
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 敏幸
(72)【発明者】
【氏名】野上 敏材
(72)【発明者】
【氏名】薄井 洋行
【審査官】 式部 玲
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−229389(JP,A)
【文献】 特開2014−032755(JP,A)
【文献】 特開2014−229357(JP,A)
【文献】 特開2014−220199(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/038711(WO,A1)
【文献】 国際公開第2014/170979(WO,A1)
【文献】 特開2013−196878(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/069597(WO,A1)
【文献】 特開2012−134126(JP,A)
【文献】 特開2009−184861(JP,A)
【文献】 特表2013−510391(JP,A)
【文献】 特表2007−517364(JP,A)
【文献】 特開2013−020835(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/05−10/0587
H01M 4/00− 4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の一般式で表されるピロリジニウム類をカチオン成分として含み、アニオン成分がビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミドアニオン、ビス(フルオロメチルスルホニル)アミドアニオン、CHF−CF−CHOSO、CHF−(CF−CHOSO、CF−(CF−CHOSO、およびCF−(CF−CHOSOから成る群から選択される少なくとも1種である、イオン液体を溶媒として含むナトリウムイオン電池用電解液。
【化1】
(I)
(ここで、Xは、メトキシエトキシメチル基、メトキシエトキシエトキシメチル基、メトキシエトキシエトキシエチル基、メトキシエトキシエトキシエトキシエチル基、メトキシプロポキシプロピル基、エトキシエトキシメチル基、エトキシエトキシエチル基、ブトキシエトキシメチル基、ブトキシエトキシエチル基、ブトキシエトキシエトキシメチル基、イソブトキシエトキシメチル基、およびイソブトキシエトキシエチル基から成る群から選択される1種の置換基である。)
【請求項2】
ビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミドナトリウムを電解質として含む請求項1に記載のナトリウムイオン電池用電解液。
【請求項3】
ナトリウムイオンを挿入・脱離可能な正極活物質を含む正極と、黒リンからなるナトリウムイオン電池用負極活物質を含む負極と、以下の一般式で表されるピロリジニウム類をカチオン成分として含み、アニオン成分が、ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミドアニオン、ビス(フルオロメチルスルホニル)アミドアニオン、CHF−CF−CHOSO、CHF−(CF−CHOSO、CF−(CF−CHOSO、およびCF−(CF−CHOSOから成る群から選択される少なくとも1種である、イオン液体を溶媒として含むナトリウムイオン電池用電解液とを含むナトリウムイオン電池。
【化2】
(ここで、Xは、炭素2から8の直鎖アルキル基、メトキシエトキシメチル基、メトキシエトキシエトキシメチル基、メトキシエトキシエトキシエチル基、メトキシエトキシエトキシエトキシエチル基、メトキシプロポキシプロピル基、エトキシエトキシメチル基、エトキシエトキシエチル基、ブトキシエトキシメチル基、ブトキシエトキシエチル基、ブトキシエトキシエトキシメチル基、イソブトキシエトキシメチル基、およびイソブトキシエトキシエチル基から成る群から選択される1種の置換基である。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナトリウムイオン電池用電解液およびナトリウムイオン電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池は、小型軽量および大容量という特性を生かし、ノートパソコン、携帯電話、携帯情報端末等のポータブル電子機器に広く使用されている。さらに近年、電気自動車や電力貯蔵用等の大容量蓄電装置としても開発が進められている。
【0003】
しかしながら、リチウム資源が地域的に偏在していることから、リチウムに比べ安価で資源量も豊富であるナトリウムを用いたナトリウムイオン電池の検討がされている。
【0004】
ナトリウムイオン電池は、ナトリウムイオンを挿入・脱離可能な正極活物質を含む正極および負極活物質を含む負極、並びに非水電解液を有する。正極活物質としては、リチウムイオン電池用の正極活物質として検討された物質のリチウムをナトリウムに置換した物質が検討されている。一方、負極活物質については、リチウムイオン電池で一般的に用いられているグラファイトは、ナトリウムイオンを層間に可逆的に挿入・脱離できないことから、例えばハードカーボン(難黒鉛化炭素)を用いることや(例えば、特許文献1)、黒リンを用いること(例えば、非特許文献1)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−266821号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】J. Qian et al., Angew. Chem., 125 (2013) 4731-4734
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
黒リンは2596mAh/gの高い理論容量を有することが知られている。しかしながら、黒リンを負極活物質に用いた負極は、ナトリウムイオンの挿入・脱離に伴い大きな体積変化が生じ、充放電の繰り返しに伴い容量が急激に低下するためサイクル寿命が短いという大きな問題がある。また、他の負極活物質を用いた場合でもサイクル寿命が短いという問題がある。
【0008】
そこで、本発明は、サイクル特性を向上することの可能なナトリウムイオン電池用電解液およびナトリウムイオン電池を提供することを目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明者らは鋭意検討した結果、ピロリジニウム類をカチオン成分として含むイオン液体を溶媒として含む電解液を用いればサイクル特性が向上することを見出して本発明を完成させたものである。すなわち、本発明のナトリウムイオン電池用電解液は、以下の一般式で表されるピロリジニウム類をカチオン成分として含むイオン液体を溶媒として含むことを特徴とする。
【化1】
(I)
(ここで、Xは、炭素2から8の直鎖アルキル基、メトキシエトキシメチル基、メトキシエトキシエトキシメチル基、メトキシエトキシエトキシエチル基、メトキシエトキシエトキシエトキシエチル基、メトキシプロポキシプロピル基、エトキシエトキシメチル基、エトキシエトキシエチル基、ブトキシエトキシメチル基、ブトキシエトキシエチル基、ブトキシエトキシエトキシメチル基、イソブトキシエトキシメチル基、およびイソブトキシエトキシエチル基から成る群から選択される1種の置換基である。)
【0010】
また、本発明のナトリウムイオン電池は、ナトリウムイオンを挿入・脱離可能な正極活物質を含む正極と、黒リンからなるナトリウムイオン電池用負極活物質を含む負極と、以下の一般式で表されるピロリジニウム類をカチオン成分として含むイオン液体を溶媒として含むナトリウムイオン電池用電解液とを含むことを特徴とする。
【化2】
(I)
(ここで、Xは、炭素2から8の直鎖アルキル基、メトキシエトキシメチル基、メトキシエトキシエトキシメチル基、メトキシエトキシエトキシエチル基、メトキシエトキシエトキシエトキシエチル基、メトキシプロポキシプロピル基、エトキシエトキシメチル基、エトキシエトキシエチル基、ブトキシエトキシメチル基、ブトキシエトキシエチル基、ブトキシエトキシエトキシメチル基、イソブトキシエトキシメチル基、およびイソブトキシエトキシエチル基から成る群から選択される1種の置換基である。)
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、高容量と優れたサイクル特性を有するナトリウムイオン電池を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実験例1における、電解液A,B,Cを用いた時の初期充放電曲線である。
図2】実験例1における、電解液A,B,Cを用いた時のサイクル数と放電容量の関係を示すグラフである。
図3】実験例1における、電解液A,B,Cを用いた時のサイクル数とクーロン効率の関係を示すグラフである。
図4A】実験例1における、充放電サイクル前の負極の表面形態を示すFE−SEM画像である。
図4B】実験例1における、電解液Cを用いた時の70サイクル後の負極の表面形態を示すFE−SEM画像である。
図4C】実験例1における、電解液Aを用いた時の70サイクル後の負極の表面形態を示すFE−SEM画像である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
(電解液)
本発明の電解液は、ピロリジニウム類をカチオン成分として含むイオン液体を溶媒として含むものである。イオン液体は、カチオンとアニオンからなる塩であり、一般的に100℃以下の温度で液体であり、イオン導電性を有している。イオン液体は、難燃性、不揮発性であり、さらに非水溶媒に比べ、熱安定性が高く、電気化学的に安定であるという特性を有している。
【0014】
本発明で用いるピロリジニウム類は、以下の一般式で表される。
【0015】
【化3】
(I)
ここで、Xは、炭素2から8の直鎖アルキル基、メトキシエトキシメチル基、メトキシエトキシエトキシメチル基、メトキシエトキシエトキシエチル基、メトキシエトキシエトキシエトキシエチル基、メトキシプロポキシプロピル基、エトキシエトキシメチル基、エトキシエトキシエチル基、ブトキシエトキシメチル基、ブトキシエトキシエチル基、ブトキシエトキシエトキシメチル基、イソブトキシエトキシメチル基、およびイソブトキシエトキシエチル基から成る群から選択される1種の置換基である。好ましくは、Xは、炭素2から8の直鎖アルキル基、メトキシエトキシメチル基、メトキシエトキシエトキシメチル基、メトキシエトキシエトキシエチル基、メトキシエトキシエトキシエトキシエチル基、メトキシプロポキシプロピル基、エトキシエトキシメチル基、またはエトキシエトキシエチル基である。より好ましくは、Xはヘキシル基またはメトキシエトキシメチル基である。Xがメトキシエトキシメチル基の場合、以下の化学式で表すことができる。
【0016】
【化4】
【0017】
アニオン成分としては、I、BF、PF、ビス(フルオロスルホニル)アミドアニオン、ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミドアニオン、CHF−CF−CHOSO、CHF−(CF−CHOSO、CF−(CF−CHOSO、およびCF−(CF−CHOSOから成る群から選択される少なくとも1種を用いることができる。好ましくは、ビス(フルオロスルホニル)アミドアニオン、ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミドアニオン、CHF−CF−CHOSO、CHF−(CF−CHOSO、CF−(CF−CHOSO、およびCF−(CF−CHOSOから成る群から選択される少なくとも1種である、より好ましくはビス(フルオロスルホニル)アミドアニオンである。
【0018】
上記のカチオン成分と上記のアニオン成分との好ましい組み合わせとしては、上記の式(I)のXがヘキシル基またはメトキシエトキシメチル基であるピロリジニウムと、ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミドアニオンの組み合わせを挙げることができる。
【0019】
(イオン液体の製造方法)
本発明に用いるイオン性液体は、上記のカチオン成分とアニオン成分とを組み合わせたものであり、公知の方法で製造することができる。例えば、アニオン交換法、酸エステル法、中和法等の方法を用いることができる。
【0020】
電解質には、NaPF、NaBF、NaClO、CFSONa、NaAsF、NaB(C、CHSONa、NaN(SOCF、NaN(SO、NaC(SOCF、NaN(SOCF等の1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0021】
本発明の電解液の電気化学的安定性は電位窓で評価することができる。電位窓は、例えば、以下の方法で測定することができる。作用電極にグラッシーカーボン、対極に白金線、参照極に銀/硝酸銀を用いる3電極系のガラスセルを用い、イオン液体に3電極を浸漬し、不活性ガス雰囲気でサイクリックボルタンメトリーにより所定の電位範囲で電位掃引を行い、所定の酸化電流密度および還元電流密度以下の電流密度範囲の電位範囲を電位窓とすることができる。参照極に銀/硝酸銀を用いた場合の電位窓は、酸化側については2.0V以上、好ましくは2.5V以上、還元側については、−2.0V以下、好ましくは、−2.5V以下である。
【0022】
(電解液の製造方法)
本発明の電解液は、上記のイオン液体に上記の電解質を溶解させることにより製造することができる。また、本発明の電解液は、溶媒の粘度を調整するために、複数のイオン液体を混合して用いてもよい。電解質の濃度は、必要な導電率を確保するため、0.4〜1.2mol/L、好ましくは0.8〜1.0mol/Lである。
【0023】
(ナトリウムイオン電池)
本発明の電解液を用いてナトリウムイオン電池を作製することができる。ナトリウムイオン電池は、少なくとも、正極と負極、正極と負極を隔離するセパレータ、電解液、および電池容器で構成される。
【0024】
正極と負極は、電極活物質、必要に応じて導電剤、集電体、および電極活物質と導電剤を集電体に結着させるバインダーとから構成される。
【0025】
正極活物質は、ナトリウムイオンの挿入・脱離が可能な物質であれば特に限定されない。リチウムイオン電池用の正極活物質として検討された物質のリチウムをナトリウムに置換した物質を用いることができる。例えば、一般式NaMO(Mは遷移金属)で表される酸化物系材料を挙げることができる。その具体例としては、NaNiO、NaCoO、NaCrO等を挙げることができる。
【0026】
負極活物質は、ナトリウムイオンの挿入・脱離が可能な物質であれば特に限定されない。例えば、黒リンやハードカーボンを挙げることができるが、高容量が期待できる黒リンが好ましい。
【0027】
セパレータには、微多孔膜や不織布を用いることができ、組成としてはポリエステル系ポリマー、ポリオレフィン系ポリマー、エーテル系ポリマー、ガラス繊維等を挙げることができる。
【0028】
バインダーには、リチウムイオン電池で用いられているものを用いることができる。例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、フッ化ビニリデン系共重合体、およびカルボキシメチルセルロース等の多糖類誘導体を挙げることができる。
【0029】
正極は、例えば、正極活物質と導電剤とバインダーとを有機溶剤を用いて混練分散してペーストを得、該ペーストを集電体に塗布することによって作製できる。また、負極も、負極活物質と導電剤とバインダーとを有機溶剤を用いて混練分散してペーストを得、該ペーストを集電体に塗布することによって作製できる。また、負極活物質に黒リンを用いる場合、ガスデポジション法により、集電体上に黒リンを堆積させたものを負極として用いることもできる。なお、ガスデポジション法とは、真空チャンバーの導管内に配置した原料粉末と加圧したキャリアガスによりエアロゾルを生成し、これをノズルから瞬間的に噴射することで基板上に厚膜を形成させる手法である。この手法では原料粉末の粒子は気化過程を経ずに固相状態のまま高速で基板に衝突し、このときの衝撃力で粒子間界面の物質移動が発生することで粒子が強く凝着し、粒子−基板間および粒子同士の密着性・結着性に極めて優れた厚膜が得られる。従来法で得られる塗布電極とは異なり、導電助剤や結着剤が無くとも大電流充放電に耐えうる集電性の高い電極となるため、活物質そのものの物性を評価するに適した電極作製法である。
【0030】
二次電池の製造は公知の方法を用いて行うことができる。例えば、正極と負極をセパレータを介して積層し、平面状の積層体あるいは巻き取って巻回体とする。その積層体または巻回体を金属製または樹脂製の電池容器に収容し、密封する。密封時に開口部を設けて、電解液を注入してその開口部を封止して二次電池を得る。
【0031】
なお、本発明の電解液の用途としてナトリウムイオン電池用電解液に限定されず、非水電解液を用いる他の電気化学装置、例えば一次電池や電気二重層キャパシタの電解液としても用いることができる。
【実施例】
【0032】
実験例1.
(負極活物質の合成)
赤リン(和光純薬製)をステンレスボール(φ15mm)との重量比が1:30になるようにステンレスポットに封入し、室温、回転速度380rpmで10時間機械的粉砕を行って黒リンを合成した。
【0033】
(負極の製造)
得られた黒リンを原料として、ガスデポジション法を用いて黒リン粉末を集電体の銅箔上に堆積させて負極を得た。銅箔の厚さは、20μmである。また、銅箔面積0.8cmに対し、堆積させた黒リンの面積は0.3cmである。なお、ガスデポジション法の条件は以下の通りである。
ノズル−基板間距離:10mm
圧力差:7×10Pa
ノズル径:直径0.8mm
キャリアガス:He(6N)
活物質量:20〜40μg
膜厚:最大4μm
【0034】
(イオン液体の合成)
1−((2−メトキシエトキシ)メチル)−1−メチルピロリジウム(Py1MEMと略す)―ビス(フルオロスルホニル)アミド(FSAと略す)は、以下の方法で合成した。
【0035】
アルゴン雰囲気下、2口ナスフラスコに1−メチルピロリジン(4.26g,50mmol)を入れ、1−(クロロメトキシ)−2−メトキシエタン(6.23g,50mmol)を滴下し、60℃で24時間撹拌した。放冷後、減圧濃縮し、ヘキサンと酢酸エチルの混合溶媒(混合比7:1)で10回洗浄した後、減圧濃縮した。メタノール(40mL)と活性炭粉末(2.5g)を加え一晩撹拌した後、セライトで活性炭粉末を濾去し、減圧濃縮後、茶色の液体として1−((2−メトキシエトキシ)メチル)−1−メチルピロリジニウム クロライド(Py1MEM―Clと略す)を定量的に得た(11.6g、50mmol)。
【0036】
ナスフラスコに、1−((2−メトキシエトキシ)メチル)−1−メチルピロリジニウム クロライド(Py1MEM―Cl)(5.66g,27mmol)、リチウムビス(フルオロスルホニル)アミド(LiFSA)(5.0g,27mmol)および脱塩水を加え、室温で24時間撹拌し塩交換を行った。塩化メチレンで2回抽出した後、有機層を脱塩水で洗浄し、減圧濃縮後にさらにヘキサンと酢酸エチルの混合溶媒(混合比2:1)で5回洗浄した。減圧濃縮を行った後、活性炭微粉末2.5gと酢酸エチル40mLを加えて一晩撹拌した。セライトで活性炭粉末を濾去し、減圧濃縮後に一晩凍結乾燥を行い、無色透明の液体として1−((2−メトキシエトキシ)メチル)−2−メチルピロリジニウム―ビス(フルオロスルホニル)アミド(Py1MEM―FSAと略す)を得た(8.27g,23mmol)。
【0037】
Py1MEM―FSA分析結果:
1H-NMR (500 MHz, CDCl3) δ 2.20-2.33 (m, 4 H), 3.12 (s, 3 H), 3.38 (s, 3 H), 3.39-3.43 (m, 2 H), 3.59 (t, J = 4.8 Hz, 2 H), 3.65-3.67 (m, 2 H), 3.97 (t, J = 4.8 Hz, 2 H), 4.66 (s, 2 H).
13C-NMR (125 MHz, CDCl3,) δ 21.6, 47.0, 58.3, 60.6, 70.9, 71.8, 89.4.
19F NMR (470 MHz, CDCl3) δ 214.4.
IR (neat, cm-1) 3635, 2939, 2897, 1463, 1363, 1180, 1152, 831.
粘度: 26.7 mPa s (20 ℃, H2O= 523.1ppm).
【0038】
1−ヘキシル−1−メチルピロリジウム(Py16と略す)―ビス(フルオロスルホニル)アミド(FSA)は、以下の方法で得た。
【0039】
アルゴン雰囲気下、2口ナスフラスコに1−メチルピロリジン(4.12g, 48mmol)、アセトニトリル(25mL)を入れ、ヘキシルブロマイド(8.15g, 49mmol)を加えて80℃で20時間撹拌した。放冷後、溶媒を減圧溜去し、ヘキサンで5回洗浄した後、さらに減圧濃縮して粗生成物を得た。この粗生成物にメタノール(25mL)と活性炭粉末(1.2g)を加え室温で4日間撹拌した後、セライトで活性炭粉末を濾去し、減圧濃縮後、1−ヘキシル−1−メチルピロリジニウム ブロマイド(Py16―Brと略す)を白色固体として定量的に得た(12.4g、49mmol)。
【0040】
ナスフラスコに、1−ヘキシル−1−メチルピロリジニウム ブロマイド(Py16―Br)(12.4g, 49mmol)、リチウムビス(フルオロスルホニル)アミド(LiFSA)(9.3g, 50mmol)および脱塩水を加え、室温で31時間撹拌した。塩化メチレンで3回抽出した後、有機層を脱塩水で洗浄し、減圧濃縮を行って粗生成物を得た。この粗生成物に活性炭微粉末15gと酢酸メタノール30mLを加えて一晩撹拌した。セライトで活性炭粉末を濾去し、減圧濃縮後に24時間凍結乾燥を行い、1−ヘキシル−1−メチルピロリジニウム−ビス(フルオロスルホニル)アミド(Py16―FSA)を無色透明の液体として得た(16.2g,46mmol)。
【0041】
Py16―FSA分析結果:
1H-NMR (400 MHz, CDCl3) δ 0.90 (t, J = 6.6 Hz, 3 H), 1.32-1.41 (m, 6 H), 1.73-1.81 (m, 2 H), 2.29 (bs, 4 H), 3.06 (s, 3 H), 3.29-3.33 (m, 2 H), 3.49-3.56 (m, 4 H).
【0042】
(電解液調製)
電解質には、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミドナトリウム(NaTFSAと略す)(キシダ化学製)を用い、以下の3種の電解液を調製した。
電解液A:1M NaTFSA/Py1MEM―FSA
電解液B:1M NaTFSA/Py16―FSA
電解液C:1M NaTFSA/PC
ここで、PCはプロピレンカーボネートの略である。
【0043】
(導電率測定)
イオン液体と電解液の導電率を、両極に白金を用いた二極式セルで交流インピーダンス法により室温で測定した。用いた装置は、北斗電工製IviumCompactStatである。
【0044】
(コインセル作製)
上記の負極と、対極として金属ナトリウム箔(厚さ約1mm)、セパレータとしてポリプロピレン系セパレータを用い、上記の電解液を注入して、コインセル(CR2032)を作製した。以下、電解液A、B、Cを用いたコインセルをそれぞれコインセルA、B、Cという。
【0045】
(充放電測定)
室温で、電位範囲0.005〜2.000V(vs.Na/Na+)、電流密度50mA/gで行った。
【0046】
上記の合成、製造および測定は、すべて、露点−100℃以下、酸素濃度1ppm以下、アルゴン雰囲気のグローブボックス中で行った。
【0047】
(電極表面の形態観察)
充放電前後の負極表面の形態観察を、電界放出走査型電子顕微鏡(FE−SEM)(日本電子製)を用いて行った。
【0048】
(結果)
表1にイオン液体と電解液の導電率の測定結果を示す。1M NaTFSA/PCは5.9mS/cm、1M NaTFSA/Py16―FSAは1.4mS/cm、1M NaTFSA/Py1MEM―FSAは3.4mS/cmであった。
【0049】
【表1】
【0050】
図1は、コインセルA、B、Cの初期充放電曲線を示す。ここで、初期充放電曲線とは、最初の充放電で得られた充放電曲線をいう。また、図2は、コインセルA、B、Cのサイクル数と放電容量の関係を示す。また、図3は、コインセルA、B、Cのサイクル数とクーロン効率の関係を示す。なお、図2には、比較として、文献(A. Ponrouch et al., Energy Environ. Sci., 5 (2012) 8572-8583)に記載されている、負極活物質にカーボン系材料を用いた場合の放電容量値を破線で示した。
【0051】
電解液に1M NaTFSA/PCを用いたコインセルCは、初回サイクルにおいて,2050mAh/gの充電(ナトリウムイオン挿入)容量および1500mAh/gの放電(ナトリウムイオン脱離)容量を示した。しかし、サイクル数の増加とともに、放電容量は急激に低下し、50サイクル後ではほとんど放電容量が認められなかった。また、クーロン効率も5サイクル以降大きく低下した。黒リンは以下の合金化の反応式で示すように、1モルあたり最大3個のナトリウムイオンを吸蔵することが可能である。
【化5】
しかし、この時、黒リンの体積は元の体積の4.9倍にも膨張する。そのため、負極活物質である黒リンは充放電にともない大きく膨張−収縮を繰り返すことになる。コインセルCにおける、サイクル数の増加に伴う容量の急激な低下は、上記の合金化および脱合金化反応に伴う大きな体積変化により生じる応力が原因となり電極の崩壊を招いたためであると考えられる。
【0052】
一方、電解液の溶媒にイオン液体を用いた場合、PCを用いた場合と比べ、優れたサイクル特性が得られた。図1に示すように、電解液に1M NaTFSA/Py16―FSAを用いたコインセルBでは、炭素系負極を用いたコインセルDの約6倍に匹敵する1330mAh/gの高い初回放電容量が得られた。また、100サイクル後でも、炭素系負極を用いたコインセルDを超える310mAh/gという高い容量を維持し、優れたサイクル特性が得られた。また、クーロン効率についても、3サイクル以降でも、93%以上の高い値を示した。
【0053】
また、電解液に1M NaTFSA/Py1MEM―FSAを用いたコインセルAでも、約800mAh/gの初回放電容量が得られた。また、100サイクル後でも、炭素系負極を用いたコインセルDを超える310mAh/gという高い容量を維持し、優れたサイクル特性が得られた。また、クーロン効率についても、3サイクル以降でも、96%以上の高い値を示した。
【0054】
図4Aは、充放電サイクル前の負極の表面形態を示すFE−SEM画像であり、図4Bは、電解液Cを用いた時の70サイクル後の負極の表面形態を示すFE−SEM画像であり、図4Cは、電解液Aを用いた時の70サイクル後の負極の表面形態を示すFE−SEM画像である。電解液Cを用いた場合、充放電後、電極表面に複数の大きな亀裂や凹凸が生成すること、および集電体からの負極活物質の剥離も顕著に認められた。これに対し、イオン液体を含む電解液Aを用いた場合、亀裂や凹凸が認められるものの、その程度は電解液Cを用いた場合に比べて小さいことがわかる。
【0055】
以上の結果から、イオン液体を溶媒にとする電解液を用いることで、黒リンを負極活物質に用いた場合でも、サイクル特性を向上させることが可能であることを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明の電解液を用いることにより、ナトリウムイオン電池のサイクル特性を大きく向上させることが可能であり、ナトリウムイオン電池の実用化に大きく寄与するものである。
図1
図2
図3
図4A
図4B
図4C