特許第6282475号(P6282475)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6282475表面保護シート用基材および表面保護シート
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6282475
(24)【登録日】2018年2月2日
(45)【発行日】2018年2月21日
(54)【発明の名称】表面保護シート用基材および表面保護シート
(51)【国際特許分類】
   B32B 7/02 20060101AFI20180208BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20180208BHJP
   B32B 27/32 20060101ALI20180208BHJP
   C09J 7/20 20180101ALI20180208BHJP
【FI】
   B32B7/02 101
   B32B27/00 M
   B32B27/32 E
   C09J7/02 Z
【請求項の数】8
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2014-20730(P2014-20730)
(22)【出願日】2014年2月5日
(65)【公開番号】特開2015-147324(P2015-147324A)
(43)【公開日】2015年8月20日
【審査請求日】2016年12月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【弁理士】
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100136423
【弁理士】
【氏名又は名称】大井 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100154449
【弁理士】
【氏名又は名称】谷 征史
(74)【代理人】
【識別番号】100174159
【弁理士】
【氏名又は名称】梅原 めぐみ
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 健史
(72)【発明者】
【氏名】山本 康徳
(72)【発明者】
【氏名】若山 尚央
【審査官】 伊藤 寿美
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−322216(JP,A)
【文献】 特開2011−111551(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/145599(WO,A1)
【文献】 特開2002−097427(JP,A)
【文献】 特開2005−019518(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/136897(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00−43/00
C09J 7/00− 7/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面保護シート用基材と粘着剤層とを含む表面保護シートであって、
前記基材は、ポリオレフィン樹脂を該基材全体の50重量%より多く含み、
前記基材は、該基材の第一面を構成する樹脂層であるX層と、該基材の第二面を構成する樹脂層であるY層と、を含み、
前記粘着剤層は前記Y層上に配置されており、
前記X層を構成する樹脂組成物の引張弾性率(E[MPa])は、500MPa以上750MPa以下であり、
前記Y層を構成する樹脂組成物の引張弾性率(E[MPa])は、500MPa以上750MPa以下であり、
ここで、E[MPa]<E[MPa]であり、
前記X層の厚さをt[μm]、前記Y層の厚さをt[μm]としたときに、次式:
0.5≦(t×E)/(t×E)≦1.5;
を満たす、表面保護シート。
【請求項2】
さらに、以下の式:
3.5×10N/m≦(t×E)≦10×10N/m;および
3.5×10N/m≦(t×E)≦10×10N/m;
を満たす、請求項1に記載の表面保護シート。
【請求項3】
前記X層の厚さ(t)と前記Y層の厚さ(t)との差が1μm以上20μm以下である、請求項1または2に記載の表面保護シート。
【請求項4】
前記X層の厚さ(t)は、前記Y層の厚さ(t)より小さい、請求項1〜3のいずれか一項に記載の表面保護シート。
【請求項5】
前記X層と前記Y層との間に中間層を有し、
前記中間層を構成する樹脂組成物の引張弾性率は、前記Eおよび前記Eのいずれよりも小さい、請求項1〜4のいずれか一項に記載の表面保護シート。
【請求項6】
前記X層および前記Y層の少なくとも一方は直鎖状低密度ポリエチレンを含む、請求項1〜5のいずれか一項に記載の表面保護シート。
【請求項7】
前記基材の総厚が60μm未満である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の表面保護シート。
【請求項8】
前記X層の厚さ(t)と前記Y層の厚さ(t)との合計厚さは、前記基材の総厚の35%以上75%以下である、請求項1〜7のいずれか一項に記載の表面保護シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面保護シート用基材および表面保護シートに関する。
【背景技術】
【0002】
金属板や塗装鋼板、合成樹脂板等を加工したり運搬したりする際に、これらの表面を傷や汚れ等の損傷から防止する目的で、該表面に保護シートを接着して保護する技術が知られている。一般に、このような表面保護シートは、被着体に対し、該被着体の保護が必要とされる期間(例えば、上記加工や運搬等が行われる期間)を含めて一時的に貼り付けられる。そして保護の役目を終えた後、上記表面保護シートは、被着体から除去される。かかる目的に使用される表面保護シートは、一般に、シート状基材(支持基材)の片面に粘着剤(感圧接着剤ともいう。以下同じ。)を有し、該粘着剤を介して被着体(保護対象物)に接着されることで保護目的を達成し得るように構成されている。このように物品の表面を保護する際に貼着して使用する表面保護シートに関する技術文献として特許文献1〜3が例示される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−111552号公報
【特許文献2】特許第4825508号公報
【特許文献3】特開2013−126743号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来、表面保護シートに用いられる支持基材には、主に、単層または多層構造を有する樹脂フィルムが採用されている。特に、上記基材の構成を二層以上の多層構造とすることは、表面保護シートに求められる種々の物性(例えば、破断強度、引張伸度、コシの強さ、剥離性、糊残り性等)をバランス良く達成させるための手法として有効である。
【0005】
しかしながら、樹脂組成が異なる二以上の層を含む樹脂フィルムを表面保護シートの支持基材として用いると、該支持基材またはこれを用いた表面保護シートがカールすることがある。例えば、表面保護シートの製造過程において、エマルション型や溶剤型の粘着剤組成物を上記支持基材に付与して該支持基材上で乾燥させることにより上記支持基材の表面に粘着剤層を形成する場合、上記乾燥を促進するために加えられる熱により上記基材がカールしやすい。支持基材のカールは、該基材を用いてなる表面保護シートの生産性低下や、該表面保護シートの貼付け時および/または再剥離時の取扱性低下等の一因となり得る。
【0006】
一方、表面保護シートを保護対象たる被着体から再剥離する際に該被着体の表面に粘着剤成分の一部が残留する現象(糊残り)を抑制するために、上記基材の粘着剤層側表面を構成する樹脂組成の設計について検討がなされている。しかしながら、糊残り抑制に効果的な構成にすることにより、上述したカール現象がより顕著になることがあった。
【0007】
本発明は、カールの抑制と糊残りの抑制とを両立させた表面保護シートを実現し得る表面保護シート用基材を提供することを一つの目的とする。本発明の他の目的は、かかる表面保護シート用基材を構成要素として用いてなる表面保護シートを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
ここに開示される表面保護シート用基材は、ポリオレフィン樹脂を該基材全体の50重量%より多く含む。上記基材は、該基材の第一面を構成する樹脂層であるX層と、該基材の第二面を構成する樹脂層であるY層と、を含む。上記X層を構成する樹脂組成物の引張弾性率(以下、「Ex」ともいう。単位:MPa)は、400MPa以上750MPa以下であり得る。また、上記Y層を構成する樹脂組成物の引張弾性率(以下、「E」ともいう。単位:MPa)は、400MPa以上750MPa以下であり得る。上記基材は、上記X層の厚さをt[μm]、上記Y層の厚さをt[μm]としたときに、次式:0.5≦(t×E)/(t×E)≦1.5;を満たす。かかる構成の表面保護シート用基材によると、該基材を用いてなる表面保護シートのカール現象が抑制され得る。そのような表面保護シートは、また、糊残り抑止性にも優れたものとなり得る。
【0009】
ここに開示される表面保護シート用基材の好ましい一態様において、上記X層は、3.5×10N/m≦(t×E)≦10×10N/mを満たす。また、上記Y層は、3.5×10N/m≦(t×E)≦10×10N/mを満たす。かかる構成の表面保護シート用基材は、例えば該表面保護シート用基材の押出成形性の観点から好ましい。
【0010】
ここに開示される表面保護シート用基材の好ましい一態様において、上記X層の厚さ(t)と上記Y層の厚さ(t)との差は1μm以上20μm以下である。かかる構成の表面保護シート用基材は、該基材を用いてなる表面保護シートのカール抑制性、糊残り抑止性等において優れたものになり得る。
【0011】
ここに開示される表面保護シート用基材の好ましい一態様において、上記X層の厚さ(t)は、上記Y層の厚さ(t)より小さい。かかる構成の表面保護シート用基材は、好ましくは、上記Y層側の表面に粘着剤層を設けた表面保護シートの形態で使用されて、カール抑制性、糊残り抑止性等において、より優れたものになり得る。
【0012】
ここに開示される表面保護シート用基材の好ましい一態様において、上記基材は、上記X層と上記Y層との間に中間層を有する。上記中間層を構成する樹脂組成物の引張弾性率は、上記Eおよび上記Eのいずれよりも小さい。かかる構成の表面保護シート用基材は、該基材を用いてなる表面保護シートの形態で使用されて、優れた表面追従性を発揮し得る。ここで表面追従性とは、被着体の表面形状に追従して浮きや剥がれなく密着する性質をいう。
【0013】
ここに開示される表面保護シート用基材の好ましい一態様において、上記基材は、上記X層および上記Y層の少なくとも一方が直鎖状低密度ポリエチレンを含む。かかる構成の表面保護シート用基材は、該基材を含む表面保護シートの形態で使用されて、優れた糊残り抑止性を発揮し得る。
【0014】
ここに開示される表面保護シート用基材の好ましい一態様において、上記基材の総厚は60μm未満である。かかる表面保護シート用基材は、該基材を備えた表面保護シートの薄膜化の観点から好ましい。
【0015】
ここに開示される表面保護シート用基材の好ましい一態様において、上記X層の厚さ(t)と上記Y層の厚さ(t)との合計厚さは、該基材の総厚の35%以上75%以下である。かかる構成の表面保護シート用基材は、多層構造であることの長所を利用しやすく、かつ本発明を適用してカールを抑制する意義が大きいので好ましい。
【0016】
ここに開示される技術によると、ここに開示されるいずれかの表面保護シート用基材と、該表面保護シート用基材に含まれる上記X層および上記Y層の少なくとも一方上に配置された粘着剤層とを含む表面保護シートが提供される。かかる構成の表面保護シートは、カールが抑制されているため、該表面保護シートの生産性および取扱性の観点から優れている。このため上記表面保護シートは、例えば建材、車両など大型物品等の表面保護用途にも好ましく使用され得る。
【0017】
ここに開示される表面保護シートの好ましい一態様において、上記粘着剤層は、溶媒または分散媒を含む粘着剤組成物を上記表面保護シート用基材上で乾燥させる工程を含む方法により形成されている。従来、上記乾燥させる工程においてカール現象が殊に発生しやすかったことから、かかる表面保護シートでは本発明を適用する意義が特に大きい。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】表面保護シート用基材の一形態例を模式的に示す断面図である。
図2】表面保護シートの一形態例を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
なお、以下の図面において、同じ作用を奏する部材・部位には同じ符号を付して説明することがあり、重複する説明は省略または簡略化することがある。また、図面に記載の実施形態は、本発明を明瞭に説明するために模式化されており、製品として実際に提供される本発明の表面保護シート用基材または表面保護シートのサイズや縮尺を正確に表したものではない。
【0020】
ここに開示される表面保護シート用基材は、該基材の第一面を構成する樹脂層であるX層と、該基材の第二面(上記第一面とは反対側の表面)を構成する樹脂層であるY層とを含む。上記表面保護シート基材は、X層およびY層のみからなる二層構造の表面保護シート用基材であってもよく、X層とY層との間にさらに中間層を含む表面保護シート用基材であってもよい。上記中間層を含む表面保護シート用基材において、該中間層の数は、1でもよく2以上でもよい。上記中間層の数の上限は特に制限されない。表面保護シート用基材の生産性等の観点から、通常は、上記中間層の数として5以下が好ましく、3以下がより好ましい。表面保護シート用基材に含まれる各層の組成は、同一であってもよく、互いに相違してもよい。
【0021】
ここに開示される表面保護シート用基材の好ましい一態様として、例えば図1に模式的に示すように、表面保護シート用基材10の第一面10aを構成する樹脂層であるX層12と、該基材10の第二面10bを構成する樹脂層であるY層16と、X層12とY層16との間に設けられた1層の中間層14とを含む三層構造の構成が挙げられる。
【0022】
ここに開示される表面保護シート用基材は、該基材の一方の表面上に粘着剤層を設けた表面保護シートの形態で好ましく用いられる。上記粘着剤層が隣接する層は、上記X層もしくは上記Y層のどちらでもよいが、上記Y層であることが好ましい。ここに開示される表面保護シートの好ましい一態様では、例えば図2に模式的に示すように、表面保護シート1は、Y層16の表面(すなわち、表面保護シート用基材10の第二面10b)の上に粘着剤層20が設けられた構成であり得る。
この表面保護シート1は、粘着剤層20を被着体(保護対象物品)に貼り付けて使用される。使用前(すなわち被着体への貼付前)の表面保護シート1は、粘着剤層20の表面(接着面)が、少なくとも該粘着剤層側が剥離面となっている剥離ライナー(図示せず)によって保護された形態であり得る。あるいは、基材10の第一面(背面)10aが剥離面となっており、表面保護シート1がロール状に巻回されることにより背面10aに粘着剤層20が当接してその表面が保護された形態であってもよい。
【0023】
[樹脂成分]
ここに開示される表面保護シート用基材は、典型的には、二以上の樹脂層を含む樹脂フィルムとして構成されている。上記樹脂フィルムは、典型的には非多孔質の樹脂フィルムである。ここでいう「非多孔質の樹脂フィルム」は、いわゆる不織布とは区別される(すなわち、不織布を含まない)概念である。このような樹脂フィルムは、例えば、樹脂成分を主成分とする樹脂組成物を膜状に成形してなるものであり得る。
【0024】
上記樹脂フィルムを構成する樹脂成分としては、例えば、ポリエチレン(PE)樹脂、ポリプロピレン(PP)樹脂、エチレン−プロピレン共重合体樹脂等のポリオレフィン系樹脂;ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂等のポリエステル系樹脂;塩化ビニル系樹脂;酢酸ビニル系樹脂;ポリイミド系樹脂;ポリアミド系樹脂;フッ素系樹脂等が例示される。
各樹脂層を構成する樹脂成分の組成は、同一であってもよく異なってもよい。例えば、樹脂組成が実質的に同一であって添加剤(耐候安定剤、充填材等)の組成のみが互いに異なる樹脂組成物からなる複数の樹脂層を含む基材であり得る。
【0025】
ここに開示される技術における表面保護シート用基材としては、ポリオレフィン系樹脂を主成分(例えば、上記基材に50重量%を超えて含まれる成分)として含む樹脂フィルムが好ましく使用され得る。かかる組成の基材は、リサイクル性等の観点からも好ましい。例えば、上記ポリオレフィン系樹脂としてPE樹脂およびPP樹脂の一方または両方を含む樹脂フィルムを好ましく採用し得る。すなわち、上記表面保護シート用基材は、PE樹脂とPP樹脂との合計量が基材全体の50重量%を超えるものであり得る。
【0026】
上記PP樹脂は、プロピレンを成分とする種々のポリマー(プロピレン系ポリマー)を主成分とするものであり得る。一種または二種以上のプロピレン系ポリマーから実質的に構成されるPP樹脂であってもよい。ここでいうプロピレン系ポリマーの概念には、例えば、以下のようなポリプロピレンが包含される。
プロピレンのホモポリマー(ホモポリプロピレン)。例えばアイソタクチックポリプロピレン。
プロピレンと他のα−オレフィン(典型的には、エチレンおよび炭素原子数4〜10のα−オレフィンから選択される一種または二種以上)とのランダムコポリマー(ランダムポリプロピレン)。好ましくは、プロピレンを主モノマー(主構成単量体、すなわち単量体全体の50重量%を超えて占める成分)とするランダムポリプロピレン。例えば、プロピレン96〜99.9モル%と上記他のα−オレフィン(好ましくはエチレンおよび/またはブテン)0.1〜4モル%とをランダム共重合したランダムポリプロピレン。
プロピレンに他のα−オレフィン(典型的には、エチレンおよび炭素原子数4〜10のα−オレフィンから選択される一種または二種以上)をブロック共重合したコポリマー(プロピレンを主モノマーとするものが好ましい。)を含み、典型的には副生成物としてプロピレンおよび上記他のα−オレフィンのうち少なくとも一種を成分とするゴム成分をさらに含むブロックコポリマー(ブロックポリプロピレン)。例えば、プロピレン90〜99.9モル%に上記他のα−オレフィン(好ましくはエチレンおよび/またはブテン)0.1〜10モル%をブロック共重合したポリマーと、副生成物としてプロピレンおよび上記他のα−オレフィンのうち少なくとも一種を成分とするゴム成分をさらに含むブロックポリプロピレン。
【0027】
上記PP樹脂は、このようなプロピレン系ポリマーの一種または二種以上から実質的に構成されるものであってもよく、該プロピレン系ポリマーに多量のゴム成分を共重合させて得られるリアクターブレンドタイプもしくは該ゴム成分を機械的に分散させて得られるドライブレンドタイプの熱可塑性オレフィン樹脂(TPO)や熱可塑性エラストマー(TPE)であってもよい。また、重合性官能基に加えて別の官能基を有するモノマー(官能基含有モノマー)とプロピレンとのコポリマーを含むPP樹脂、かかる官能基含有モノマーをプロピレン系ポリマーに共重合させたPP樹脂等であってもよい。
【0028】
また、上記PE樹脂は、エチレンを成分とする種々のポリマー(エチレン系ポリマー)を主成分とするものであり得る。一種または二種以上のエチレン系ポリマーから実質的に構成されるPE樹脂であってもよい。上記エチレン系ポリマーは、エチレンのホモポリマーであってもよく、主モノマーとしてのエチレンに他のα−オレフィン(例えば、炭素原子数3〜10のα−オレフィン)を共重合させたものであってもよい。上記α−オレフィンの好適例としては、プロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−オクテン等が挙げられる。また、重合性官能基に加えて別の官能基を有するモノマー(官能基含有モノマー)とエチレンとのコポリマーを含むPE樹脂、かかる官能基含有モノマーをエチレン系ポリマーに共重合させたPE樹脂等であってもよい。エチレンと官能基含有モノマーとのコポリマーとしては、例えば、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン−アクリル酸共重合体(EAA)、エチレン−メタクリル酸共重合体(EMAA)、エチレン−アクリル酸メチル共重合体(EMA)、エチレン−アクリル酸エチル共重合体(EEA)、エチレン−メタクリル酸メチル共重合体(EMMA)、エチレン−(メタ)アクリル酸(すなわち、アクリル酸および/またはメタクリル酸)共重合体が金属イオンで架橋されたもの、等が挙げられる。
PE樹脂の密度は特に限定されず、例えば0.9〜0.94g/cm(典型的には0.91〜0.93g/cm)程度であり得る。好ましいPE樹脂として、低密度ポリエチレン(LDPE)および直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)が挙げられる。ここに開示する技術においては、上記PE樹脂としてLLDPEを好適に採用し得る。
【0029】
上記X層および上記Y層の一方または両方はLLDPEを含むことが好ましい。特に、上記基材が、その表面上に粘着剤層を設けた表面保護シートの形態で使用される場合、該粘着剤層が設けられる層(例えばY層)は上記LLDPEを含むことが好ましい。このような表面保護シート用基材は、該基材と上記粘着剤層との界面の投錨性を向上させ、該表面保護シートの再剥離時における糊残りを抑制させ得る。
【0030】
ここに開示される表面保護シート用基材の好ましい一態様として、樹脂成分が実質的にPE樹脂および/またはPP樹脂からなる基材が挙げられる。該基材を構成する各層(すなわちX層、Y層、および任意の構成要素である中間層)は、それぞれ、樹脂成分がPE樹脂単独からなる層(PE層)、PP樹脂単独からなる層(PP層)、PE樹脂とPP樹脂とが任意の割合でブレンドされた樹脂からなる層(PE−PP層)のいずれであってもよい。例えば、上記基材としては、PE樹脂とPP樹脂とのブレンド比の異なる複数(好ましくは2層、3層または4層)のPE−PP層を備えた多層構造の基材を好ましく採用し得る。
【0031】
基材の樹脂成分を構成する樹脂材料は、該基材の製造(製膜)方法および製造条件を考慮して適当なメルトマスフローレート(MFR)となるように選択され得る。必要に応じて二種以上の樹脂材料をブレンドして用いることができる。特に限定するものではないが、MFRが例えば0.5〜80g/10分程度の樹脂材料を使用することができる。ここでMFRとは、JIS K 7210に準拠して、温度230℃、荷重21.18Nの条件でA法により測定して得られる値をいう。加熱収縮率低減の観点から、MFRが0.5〜10g/10分程度の樹脂材料を好ましく採用し得る。上記樹脂材料は、MFRが上記範囲にあるPE樹脂またはPP樹脂であり得る。また、MFRが上記範囲となるようにPE樹脂とPP樹脂とがブレンドされた樹脂材料であってもよい。
【0032】
ここに開示される表面保護シート用基材の一態様において、上記X層を構成する樹脂組成物の引張弾性率(E)は、400MPa以上750MPa以下であることが好ましい。上記Eが400MPa以上である表面保護シート用基材は、例えば、該基材を溶融押出成型法により作製する場合における成形性の観点から好ましい。上記Eが750MPa以下である表面保護シート用基材は、カール抑制の観点から好ましい。上記Eは、より好ましくは500MPa以上740MPa以下、さらに好ましくは600MPa以上700MPa以下であり、例えば650MPa以上700MPa以下であることが好ましい。あるいは、よりカール抑制を重視する態様において、上記Eが600MPa以上650MPa以下であってもよい。
【0033】
ここに開示される表面保護シート用基材の一態様において、上記Y層を構成する樹脂組成物の引張弾性率(E)は、400MPa以上750MPa以下であることが好ましい。上記Eが400MPa以上である表面保護シート用基材は、例えば、該基材が溶融押出成型法により作製される場合における成形性の観点から好ましい。上記Eが750MPa以下である表面保護シート用基材は、上記Y層の表面上に粘着剤層を設けた表面保護シートの形態で使用する場合において、該基材と該粘着剤層との界面における投錨性が向上し得る。投錨性の向上は、上記表面保護シートの再剥離時における糊残りを抑止し得るため好ましい。上記Eは、より好ましくは500MPa以上740MPa以下、さらに好ましくは550MPa以上700MPa以下であり、例えば600MPa以上650MPa未満であることが好ましい。
【0034】
ここで、本明細書における樹脂組成物の引張弾性率は、当該樹脂組成物により構成された単層の樹脂フィルムを測定サンプルとして、JIS K 7161に準拠して測定される引張弾性率のことをいう。上記樹脂組成物の引張弾性率は、具体的には、例えば後述する実施例に記載の方法により測定することができる。
【0035】
特に限定するものではないが、上記X層の厚さ(t)は、3μm以上35μm以下、より好ましくは5μm以上20μm以下、さらに好ましくは6μm以上15μm以下、例えば6μm以上12μm以下であることが好ましい。上記tが上述する上限値以下である表面保護シート用基材は、該基材の薄膜化の観点から優れている。上記tが上述する下限値以上である表面保護シート用基材は、成形性の観点から優れている。ここに開示される表面保護シート用基材の好ましい一態様では、tを6μm以上10μm以下(例えば7μm以上9μm以下)とすることができる。
【0036】
特に限定するものではないが、上記Y層の厚さ(t)は、3μm以上35μm以下、より好ましくは5μm以上25μm以下、さらに好ましくは6μm以上20μm以下、例えば8μm以上15μm以下であることが好ましい。上記tが上述する上限値以下である表面保護シート用基材は、該基材の薄膜化の観点から優れている。上記tが上述する下限値以上である表面保護シート用基材は、成形性の観点から優れている。ここに開示される表面保護シート用基材の好ましい一態様では、tを10μm以上14μm以下(例えば11μm以上13μm以下)とすることができる。
【0037】
ここに開示される表面保護シート用基材の一態様において、上記X層の厚さと、上記X層を構成する樹脂組成物の引張弾性率との積(t×E)は、3×10N/m以上10×10N/m以下、より好ましくは3.5×10N/m以上9×10N/m以下、さらに好ましくは4×10N/m以上8×10N/m以下、例えば4.5×10N/m以上7.5×10N/m以下であることが好ましい。(t×E)が上述する範囲内である表面保護シート用基材は、該基材の押出成形性の観点から好ましい。
【0038】
ここに開示される表面保護シート用基材の一態様において、上記Y層の厚さと、上記Y層を構成する樹脂組成物の引張弾性率との積(t×E)は、4×10N/m以上10×10N/m以下、より好ましくは5×10N/m以上9×10N/m以下、さらに好ましくは6×10N/m以上8×10N/m以下であることが好ましい。(t×E)が上述する範囲内である表面保護シート用基材は、該基材の押出成形性の観点から好ましい。
【0039】
ここに開示される表面保護シート用基材は、(t×E)と(t×E)とが適切な関係を満たすことにより、該基材のカール抑制の効果が発揮され得る。具体的には、次式;(t×E)/(t×E);により算出される値が0.5以上1.5以下、例えば0.5より大きく1.4未満であることが、カール抑制の観点から好ましい。上記(t×E)/(t×E)は、より好ましくは0.6以上1.3以下、さらに好ましくは0.6以上1.2以下であり、例えば0.6以上1.1以下であることが好ましい。
【0040】
ここに開示される表面保護シート用基材は、例えば、X層とY層とで樹脂組成が互いに異なることによりEとEとが異なる場合であっても、上記(t×E)/(t×E)が上述した好適な範囲内となるようにX層の厚さ(t)およびY層の厚さ(t)を適切に選択し、設計することにより、表面保護シートの製造時や使用時等におけるカールが低減された表面保護シート用基材が提供され得る。例えば、該基材と粘着剤層との界面における投錨性を向上させるために、粘着剤層側の表面を構成する層(好ましくは上記Y層)を構成する樹脂組成物の引張弾性率を、粘着剤層と反対側の表面を構成する層(好ましくは上記X層)を構成する樹脂組成物の引張弾性率と比較して低く設計した場合であっても、該基材がカール抑制に優れたものになり得る。このため、ここに開示される技術によると、例えば、上記表面保護シートの糊残り抑止性等の各種特性と、カール抑制とが両立して達成され得る。
【0041】
ここに開示される表面保護シート用基材の好ましい一態様において、上記基材は、上記X層および上記Y層の少なくとも一方が、三種以上のポリオレフィン樹脂がブレンドされた樹脂混合物を含む樹脂組成物により構成されている。このような樹脂組成物は、上記三種以上のポリオレフィン樹脂のブレンド比によって引張弾性率を容易に調節することができる。かかる構成の表面保護シート用基材は、例えば(t×E)/(t×E)の制御がしやすいため、該基材のカール抑制の観点から優れている。
【0042】
X層の厚さ(t)とY層の厚さ(t)とは、同一であってもよいし、異なっていてもよい。ここに開示される技術は、tとtとが異なっている態様で好ましく実施され得る。かかる態様において、tとtとの差の絶対値(すなわち、|t−t|)は、好ましくは1μm以上20μm以下、より好ましくは1.5μm以上15μm以下、さらに好ましくは2μm以上10μm以下、例えば3μm以上5μm以下である。|t−t|が上述する下限値以上である表面保護シート用基材は、糊残り抑止性を高めつつ(t×E)/(t×E)の値を上述した好ましい範囲に調整しやすいので好ましい。上記tと上記tとの差が上述する上限値以下である表面保護シート用基材は、該基材の薄膜化の観点から優位である。ここに開示される技術は、tがtより小さい態様、すなわちY層に比べてX層が薄い態様で好ましく実施され得る。かかる表面保護シート用基材によると、カール抑止と糊残り抑止とがより高レベルで両立して発揮され得る。
【0043】
X層を構成する樹脂組成物の引張弾性率(E)とY層を構成する樹脂組成物の引張弾性率(E)とは、同一であってもよいし、異なっていてもよい。ここに開示される技術は、EとEとが異なっている態様で好ましく実施され得る。また、EがEより小さい態様でより好ましく実施され得る。EがEより小さい表面保護シート用基材は、Y層の表面上に粘着剤層を備えた表面保護シートの形態で使用されて、該粘着剤層と該基材との界面における投錨性が向上し得るため、かかる表面保護シートは糊残り抑止性が向上し得る。
【0044】
X層、Y層に加えて中間層を有する態様の表面保護シート用基材において、上記中間層を構成する樹脂組成物の引張弾性率(以下、「E」ともいう。単位:MPa)は特に限定されない。表面保護シート用基材の柔軟性を高める観点から、EおよびEのいずれよりも引張弾性率(E)の小さい中間層を好ましく採用し得る。柔軟性の高い表面保護シート用基材は、該基材を含む表面保護シートの表面追従性が向上し得るため好ましい。なお、表面保護シート用基材が二以上の中間層を含む場合は、Eは、それらの中間層全体の平均引張弾性率を指すものとする。
【0045】
からEを引いた値(E−E)は、150MPa以上(より好ましくは200MPa以上、さらに好ましくは220MPa以上)であることが、表面保護シート用基材の成形性と、該基材を含んで構成された表面保護シートの表面追従性とをバランスさせる観点から好ましい。
【0046】
ここに開示される表面保護シート用基材の一態様において、上記基材の総厚は、60μm未満であることが好ましい。上記基材の総厚は、より好ましくは10μm以上55μm以下、さらに好ましくは15μm以上50μm以下、例えば30μm以上45μm以下であることが好ましい。上記基材の総厚が上述する上限値以下である場合、該基材を備えた表面保護シートにおける粘着剤層の厚さを確保し得る観点から、優れている。上記基材の総厚が上述する下限値以上である場合、該基材を備えた表面保護シートは、表面追従性、取扱性の観点から優れたものになり得る。
【0047】
ここに開示される表面保護シート用基材の一態様において、上記X層の厚さ(t)と上記Y層の厚さ(t)との合計である(t+t)は、上記基材の総厚の20%以上80%以下(より好ましくは35%以上75%以下、さらに好ましくは45%より大きく70%以下、典型的には47%以上60%以下、例えば48%以上55%以下)であることが好ましい。上記(t+t)が上述する範囲内である表面保護シート用基材は、多層構造であることの長所を利用しやすい。例えば、上記(t+t)が上述する上限値以下である表面保護シート用基材は、該基材全体の柔軟性が確保され得るため、該基材を用いてなる表面保護シートは被着体の表面追従性が向上し得る。上記(t+t)が上述する下限値以上である表面保護シート用基材は、糊残り抑止性が向上し得る。
【0048】
ここに開示される表面保護シート用基材の一態様において、上記中間層の厚さは、10μm以上30μm未満であることが好ましい。上記中間層の厚さは、より好ましくは12μm以上25μm以下、さらに好ましくは15μm以上22μm以下である。上記中間層の厚さが上述する下限値以上である表面保護シート用基材は、多層構造であることの長所を利用しやすく、例えば、該基材全体の柔軟性が向上し得る。上記中間層の厚さが上述する上限値以下である表面保護シート用基材は、該基材の薄膜化の観点から優れている。
【0049】
ここに開示される表面保護シートの基材には、当該基材への含有が許容される適宜の成分(添加剤)を必要に応じて配合することができる。かかる添加剤の例として、無機耐候安定剤、有機耐候安定剤、スリップ剤、アンチブロッキング剤等が挙げられる。
好ましい一態様では、基材を構成する少なくとも一つの樹脂層(すなわち、X層、Y層、および任意の構成要素である中間層から選択される一または二以上の層)が無機耐候安定剤を含有する。中間層を有する基材では、通常は、該中間層が無機耐候安定剤を含む構成を好ましく使用し得る。上記中間層が複数の層を含む場合には、それらのうち少なくとも一層(全部の層であってもよい。)が無機耐候安定剤を含むことが好ましい。好ましい一態様では、基材を構成する全ての層が、同一のまたは異なる濃度で無機耐候安定剤を含む。ここで無機耐候安定剤とは、当該表面保護シートの耐候性を向上させる機能を有する無機材料(典型的には無機粉末)を指す。このような無機材料は、無機顔料または充填材として把握されることもあり得る。
【0050】
無機耐候安定剤の好適例として、酸化チタン(典型的にはルチル型)、酸化亜鉛、炭酸カルシウム等の無機粉末を例示することができる。例えば、屋外での長期耐候性が求められる用途(例えば建築資材等、大型物品の外装塗膜用保護シート)において、酸化チタンの使用が好ましい。例えば、酸化チタン粒子の表面をSi−Al等で被覆した高耐候性タイプの酸化チタンを好ましく用いることができる。
無機耐候安定剤の配合量は、該配合により得られる効果の程度や樹脂シートの成形方法(押出成形、キャスト成形等)に応じた基材の成形性等を考慮して適宜設定することができる。通常は、無機耐候安定剤の配合量(複数種類を配合する場合にはそれらの合計量)を、基材全体の2〜30質量%(より好ましくは凡そ4〜20質量%、例えば凡そ5〜12質量%)程度とすることが好ましい。無機耐候安定剤を含む層が複数ある場合には、それらのうち少なくとも一つの層(全ての層であってもよい。)が上記配合量を満たす層であることが好ましい。
【0051】
このような添加剤は、それぞれ、一種を単独でまたは二種以上を組み合わせて用いることができる。添加剤の配合量は、基材全体として、表面保護シート(例えば、塗膜保護シート等)の基材等として用いられる樹脂シートの分野における通常の配合量と同程度となるように設定することができる。基材を構成する各樹脂層に配合される添加剤の種類および量は、層毎に異なってもよく、一部または全部の層で同一であってもよい。
【0052】
[粘着剤層]
ここに開示される表面保護シートに好適に備えられる粘着剤層は、粘着剤の分野において公知のゴム系ポリマー、アクリル系ポリマー、ポリエステル系ポリマー、ウレタン系ポリマー、ポリエーテル系ポリマー、シリコーン系ポリマー、ポリアミド系ポリマー、フッ素系ポリマー等の各種ポリマーの一種または二種以上をベースポリマーとして含むものであり得る。
【0053】
なお、この明細書において粘着剤の「ベースポリマー」とは、該粘着剤に含まれるゴム状ポリマーの主成分をいう。上記ゴム状ポリマーとは、室温付近の温度域においてゴム弾性を示すポリマーをいう。また、この明細書において「主成分」とは、特記しない場合、50重量%を超えて含まれる成分を指す。
【0054】
好ましい一態様では、上記粘着剤層が、ゴム系ポリマーをベースポリマー(ポリマー成分の主成分)とする粘着剤組成物から形成されたゴム系粘着剤層である。ゴム系粘着剤層におけるベースポリマーの例としては、天然ゴム;スチレンブタジエンゴム(SBR);ポリイソプレン;レギュラーブチルゴム、塩素化ブチルゴム、臭素化ブチルゴム等のブチルゴム類;ポリイソブチレン、イソプレン−イソブチレン共重合体またはその変性物等のイソブチレン系ポリマー;A−B−A型ブロック共重合体ゴムおよびその水素化物、例えばスチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体ゴム(SBS)、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体ゴム(SIS)、スチレン−ビニル・イソプレン−スチレンブロック共重合体ゴム(SVIS)、SBSの水素化物であるスチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体ゴム(SEBS)、SISの水素化物であるスチレン−エチレン−プロピレン−スチレンブロック共重合体ゴム(SEPS);等の種々のゴム系ポリマーが挙げられる。
【0055】
ここに開示される技術は、非架橋タイプの粘着剤からなる粘着剤層を備えた表面保護シートに好ましく適用され得る。非架橋タイプの粘着剤としては、上述のようなA−B−A型ブロック共重合体ゴムまたはその水素化物をベースポリマーとする粘着剤、イソブチレン系ポリマーをベースポリマーとする粘着剤等が例示される。なかでもイソブチレン系ポリマーをベースポリマーとする粘着剤組成物から形成された非架橋の粘着剤(ポリイソブチレン系粘着剤)からなる粘着剤層が好ましい。ポリイソブチレン系粘着剤は、例えば、被着体が塗装鋼板等の塗膜を含む物品であった場合、該塗膜との溶解性パラメータ(SP値)の差異が大きいことから、両者の間で物質移動が生じ難く、被着体表面に貼付跡を生じにくい。また、かかる粘着剤層は弾性率が高く、表面保護シートのように再剥離される態様で使用される粘着シート用の粘着剤(再剥離型粘着剤)として好適である。
【0056】
上記イソブチレン系ポリマーは、イソブチレンのホモポリマー(ホモイソブチレン)であってもよく、イソブチレンを主モノマーとするコポリマーであってもよい。該コポリマーは、例えば、イソブチレンとノルマルブチレンとの共重合体、イソブチレンとイソプレンとの共重合体(レギュラーブチルゴム、塩素化ブチルゴム、臭素化ブチルゴム、部分架橋ブチルゴム等)、これらの加硫物や変性物(例えば、水酸基、カルボキシル基、アミノ基、エポキシ基等の官能基で変性したもの)等であり得る。接着強度の安定性(例えば、経時や熱履歴によって接着強度が過剰に上昇しない性質)の観点から好ましく使用されるイソブチレン系ポリマーとして、ホモイソブチレンおよびイソブチレン−ノルマルブチレン共重合体が挙げられる。なかでもホモイソブチレンが好ましい。
【0057】
かかるイソブチレン系ポリマーの分子量は特に制限されず、例えば重量平均分子量(Mw)が凡そ1×10〜150×10のものを適宜選択して使用することができる。互いにMwの異なる複数のイソブチレン系ポリマーを組み合わせて使用してもよい。使用するイソブチレン系ポリマー全体のMwは、凡そ10×10〜150×10(より好ましくは凡そ30×10〜100×10)の範囲にあることが好ましい。
なお、上記イソブチレン系ポリマーは、より高分子量のイソブチレン系ポリマーをシャク解処理することにより低分子量化(好ましくは、上述した好ましい重量平均分子量となるように低分子量化)してなるイソブチレン系ポリマー(シャク解処理体)であってもよい。上記シャク解処理は、シャク解処理前の凡そ10%〜80%のMwを有するイソブチレン系ポリマーが得られるように行うことが好ましい。また、数平均分子量(Mn)が凡そ10×10〜40×10のイソブチレン系ポリマーが得られるように行うことが好ましい。かかるシャク解処理は、例えば、特許第3878700号公報の記載等に基づいて実施することができる。
【0058】
上記ポリイソブチレン系粘着剤は、このようなイソブチレン系ポリマーから選択される一種または二種以上をベースポリマーとするものであり得る。該ポリイソブチレン系粘着剤は、上記ベースポリマーに加えて、副成分としてポリイソブチレン系以外のポリマーを含有するものであり得る。かかるポリマーの例としては、ポリ(メタ)アクリル酸エステル、ポリブタジエン、ポリスチレン、ポリイソプレン、ポリウレタン、ポリアクリロニトリル、ポリアミド等が挙げられる。これらポリイソブチレン系以外のポリマーの含有量は、通常はポリイソブチレン系粘着剤に含まれるポリマー成分全体の10重量%以下とすることが好ましい。ポリイソブチレン系以外のポリマーを実質的に含有しない粘着剤であってもよい。
【0059】
ここに開示される表面保護シートに好適に用いられる粘着剤は、当該粘着剤への含有が許容される適宜の成分(添加剤)を必要に応じて配合したものであり得る。かかる添加剤の例として、軟化剤、粘着付与剤、剥離助剤等が挙げられる。他の例として、顔料、充填材等の無機耐候安定剤;光安定剤(ラジカル捕捉剤)、紫外線吸収剤、酸化防止剤等の有機耐候安定剤;が挙げられる。このような添加剤は、それぞれ、単独でまたは二種以上を組み合わせて用いることができる。添加剤の配合量は、例えば、表面保護シート用粘着剤の分野における通常の配合量と同程度とすることができる。
【0060】
好ましく使用し得る粘着付与剤の例として、アルキルフェノール樹脂、テルペンフェノール樹脂、エポキシ系樹脂、クマロンインデン樹脂、ロジン系樹脂、テルペン系樹脂、アルキド樹脂、それらの水素添加物等が挙げられる。粘着付与剤を使用する場合の配合量は、ベースポリマー100重量部に対して例えば凡そ0.1〜50重量部とすることができる。通常は、ベースポリマー100重量部に対する配合量を0.1〜5重量部とすることが好ましい。あるいは、粘着付与剤を実質的に含まない組成の粘着剤であってもよい。
軟化剤の例としては、低分子量のゴム系材料、プロセスオイル(典型的にはパラフィン系オイル)、石油系軟化剤、エポキシ系化合物等が挙げられる。顔料または充填材の例としては、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、シリカ等の無機粉末が挙げられる。剥離助剤の例としては、シリコーン系剥離助剤、パラフィン系剥離助剤、ポリエチレンワックス、アクリル系重合体等が挙げられる。剥離助剤を使用する場合の配合量は、ベースポリマー100重量部に対して例えば凡そ0.01〜5重量部とすることができる。あるいは、かかる剥離助剤を添加しない組成の粘着剤であってもよい。光安定剤、紫外線吸収剤および酸化防止剤としては、基材と同様のもの等を使用することができる。
【0061】
ここに開示される技術において、上記粘着剤層の厚さは特に限定されず、目的に応じて適宜決定することができる。通常は凡そ100μm以下(例えば凡そ2μm〜凡そ100μm)とすることが適当であり、凡そ3μm〜凡そ30μmとすることが好ましく、凡そ5μm〜凡そ20μmとすることがより好ましい。
【0062】
ここに開示される技術における粘着剤層は、例えば、水分散型粘着剤組成物、溶剤型粘着剤組成物、ホットメルト型粘着剤組成物または活性エネルギー線硬化型粘着剤組成物から形成された粘着剤層であり得る。水分散型粘着剤組成物とは、水性溶媒中に粘着剤(粘着剤層形成成分)が分散した形態の粘着剤組成物のことをいう。上記水性溶媒とは、水または水を主成分とする溶媒を指す。また、溶剤型粘着剤組成物とは、有機溶媒中に粘着剤を含む形態の粘着剤組成物のことをいう。
【0063】
粘着剤層の形成は、公知の粘着シートにおける粘着剤層形成方法に準じて行うことができる。例えば、ポリマー成分と必要に応じて配合される添加剤とを含む粘着剤層形成成分が適当な溶媒に溶解または分散した粘着剤組成物を用意(製造、購入等)し、該組成物を基材に直接付与(典型的には塗布)して乾燥させる方法(直接法)を好ましく採用することができる。また、上記粘着剤組成物を剥離性のよい表面(例えば、剥離ライナーの表面、離型処理された基材背面等)に付与して乾燥させることにより該表面上に粘着剤層を形成し、その粘着剤層を基材に転写する方法(転写法)を採用してもよい。該粘着剤層は、典型的には連続的に形成されるが、目的および用途によっては点状、ストライプ状等の規則的あるいはランダムなパターンに形成されてもよい。
【0064】
ここに開示される表面保護シート用基材は、カール現象の発生が効果的に抑制されていることから、溶媒または分散媒を含む粘着剤組成物を該表面保護シート用基材上で乾燥させる工程を含む方法(すなわち直接法)で製造される表面保護シートにも好ましく利用され得る。したがって、本発明の他の側面として、溶媒または分散媒を含む粘着剤組成物を上記表面保護シート用基材に付与することと、その付与された粘着剤組成物を上記表面保護シート用基材上で乾燥させて粘着剤層を形成することと、を包含する表面保護シート製造方法が提供される。溶媒または分散媒を含む粘着剤組成物の代表例として、水分散型粘着剤組成物(典型的にはエマルション型粘着剤組成物)および溶剤型粘着剤組成物が挙げられる。また、例えば粘度調整等の目的で少量の有機溶媒を含む活性エネルギー線硬化型粘着剤組成物も、溶媒を含む粘着剤組成物の概念に含まれ得る。
【0065】
以下、本発明に関するいくつかの実施例を説明するが、本発明をかかる実施例に示すものに限定することを意図したものではない。なお、以下の説明中の「部」および「%」は、特に断りがない限り、重量基準である。
【0066】
以下の各例において表面保護シート用基材の作製に使用した原料は次のとおりである。
H−PP:ホモポリプロピレン(日本ポリプロ株式会社製、商品名「ノバテックPP FY4」、MFR=5.0)
B−PP:ブロックポリプロピレン(日本ポリプロ株式会社製、商品名「ノバテックPP BC8」、MFR=1.8)
R−PP:ランダムポリプロピレン(日本ポリプロ株式会社製、商品名「ノバテックPP FX4E」、MFR=5.3)
PE:直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)(日本ポリエチレン株式会社製、商品名「カーネル KF380」、密度d=0.925g/cm
TiO:Si−Alで被覆したルチル型二酸化チタン(石原産業製、商品名「タイペーク(TIPAQUE) CR−95」)
【0067】
[表面保護シート用基材の作製]
下記表1に示す重量比で配合した原料を三層共押出Tダイフィルム成形機にて溶融混練し、各層の厚さが下記表2に示す値となるようにフィルム化して、総厚が40μmの表面保護シート用基材を作製した。各例に係る基材を構成する各層(X層、中間層、およびY層)の厚さは、電子顕微鏡観察により確認した。X層、中間層、およびY層のそれぞれには、表1に示す材料のほか、耐候安定剤(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製、商品名「CHIMASSORB(登録商標)944FDL」)を、表1に示す材料100部に対して0.2部配合した。なお、例14に係る表面保護シート用基材は、成膜不良により製造できなかった。
【0068】
【表1】
【0069】
【表2】
【0070】
[粘着剤層の作製]
ポリイソブチレン100部と、粘着付与剤としてp−tert−オクチルフェノール樹脂(住友デュレズ社製、商品名「デュレズ(Durez)19900」)0.4部とを、有機溶剤に溶解して粘着剤溶液(溶剤型粘着剤組成物)を調整した。上記ポリイソブチレンとしては、BASF社製の商品名「Oppanol B−80」と商品名「Oppanol B−12SFN」とを、75:25の重量比で使用した。この粘着剤溶液を、上記で得られた各例に係る表面保護シート用基材のY層側の表面に塗工し、100℃で1分間加熱することにより乾燥させて、厚さ10μmの粘着剤層を形成した。このようにして、例1〜13に係る表面保護シートを作製した。
【0071】
[引張弾性率測定]
例1〜14に係る表面保護シート用基材を構成する各層の引張弾性率を以下の方法で測定した。
各例に係る表面保護シート用基材は三層構造を有する。かかる基材の各層を構成する樹脂組成物の引張弾性率を測定するために、各層それぞれの樹脂組成と同一の組成を有し、厚さが40μmの単層樹脂フィルムを別に作製し、これを測定サンプルとした。具体的には、表1に示す重量比で原料を配合し、単層押出Tダイフィルム成形機にて溶融混練し、厚さが40μmの単層フィルムを作製した。
上記単層フィルムを縦100mm、幅25mmのサイズにカットし、精密万能試験機(株式会社島津製作所製、装置名「オートグラフAG−IS」)を用いて、チャック間距離50mm、引張速度300mm/minの条件で引っ張り、上記フィルムが塑性変形するまでの応力変化を記録し、応力−ひずみ曲線を得た。引張弾性率は、規定された2点のひずみε=1およびε=2の間の曲線の線形回帰によって求めた。異なる箇所から切り出した3つの試験片を用いて上記測定を行い、それらの平均値を引張弾性率とした。なお、上記測定はJIS K 7161に準拠して23℃、50%RHの条件下で行った。
本方法により測定した表面保護シート用基材を構成する各層の引張弾性率を、表2に併せて示した。また、本試験により求められた引張弾性率をもとに、各層の「厚さ×弾性率」を算出し、表3にまとめた。
【0072】
【表3】
【0073】
[カール抑止性]
各例に係る表面保護シート用基材を長さ20cm、幅10cmのサイズにカットし、その長手方向が地面に対して垂直になるような方向にし、上部を固定することにより吊るした。この状態で、表面保護シート用基材を100℃のオーブンに1分間入れた。その後、オーブンの窓から目視で表面保護シート用基材の端部の浮き上がりを確認し、カールによる初期位置からの浮き上がりの大きさを定規で測定した。本試験により、表面保護シート用基材のカール抑止性を、◎:2mm未満(カール抑止性優)、○:2mm以上5mm未満(カール抑止性良)、×:5mm以上(カール抑止性不良)、の三段階で評価し、その結果を表2に示した。2mm以上の浮き上がりが認められた例については、カールの方向を表2に併せて示した。
【0074】
[糊残り抑止性]
表面保護シートを長さ70mm、幅50mmのサイズにカットし、試験片とした。被着体としてステンレス鋼板(SUS430 No.4)を用意し、これに上記カットした試験片を圧着した。上記圧着は、2kgのローラを一往復させることにより行った。これを70℃で1週間保持した後、23℃、50%RH環境下において、高速剥離試験機を用いて、被着体から試験片を、剥離角度約180度、剥離速度30m/分の条件で引き剥がした。その際、被着体表面と粘着剤層との界面における粘着剤の挙動を目視にて観察し、糊残りの有無を、○:糊残りが認められない、×:糊残りが認められる、の2段階で評価した。なお、各例に係る表面保護シートにつき3つの試験片を用いて上記測定を行い、そのうち一つでも糊残りが認められた場合は「×」とした。結果は表2に示した。
【0075】
表2に示されるように、例1〜10に係る表面保護シート用基材は、100℃の温度下に1分間保持してもカールが抑制されることが明らかとなった。特に、例1〜8に係る表面保護シート用基材では、よりカール抑制の効果が発揮された。また例1〜10に係る表面保護シートは、糊残りがよく抑止され得ることが明らかとなった。
これに対して、例9〜12に係る表面保護シート用基材は、上記カール抑止性の評価試験の結果、それぞれ引張弾性率が小さい方の層に向かってカールした。例13に係る表面保護シート用基材は、カールは抑制されていたが、この基材を用いてなる表面保護シートの糊残り抑止性の低いものであった。
【0076】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【符号の説明】
【0077】
1 表面保護シート
10 表面保護シート用基材(基材)
10a 第一面(背面)
10b 第二面
12 X層
14 中間層
16 Y層
20 粘着剤層
図1
図2