特許第6282476号(P6282476)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6282476
(24)【登録日】2018年2月2日
(45)【発行日】2018年2月21日
(54)【発明の名称】エンジンの調速装置
(51)【国際特許分類】
   F02D 1/04 20060101AFI20180208BHJP
   F02D 1/02 20060101ALI20180208BHJP
【FI】
   F02D1/04 301N
   F02D1/04 301H
   F02D1/02 311Q
   F02D1/02 311K
   F02D1/02 311L
【請求項の数】3
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-21414(P2014-21414)
(22)【出願日】2014年2月6日
(65)【公開番号】特開2014-206155(P2014-206155A)
(43)【公開日】2014年10月30日
【審査請求日】2016年6月27日
(31)【優先権主張番号】特願2013-58200(P2013-58200)
(32)【優先日】2013年3月21日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】100087653
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴江 正二
(72)【発明者】
【氏名】梶原 崇弘
(72)【発明者】
【氏名】川原 稔
(72)【発明者】
【氏名】泉 進剛
(72)【発明者】
【氏名】松本 剛
(72)【発明者】
【氏名】江田 悠也
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 信吉
【審査官】 木村 麻乃
(56)【参考文献】
【文献】 特公昭44−015841(JP,B1)
【文献】 特開昭58−222936(JP,A)
【文献】 特開2003−269195(JP,A)
【文献】 特開2002−221049(JP,A)
【文献】 特開2010−071089(JP,A)
【文献】 特開2003−027967(JP,A)
【文献】 特開平11−062628(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 1/04
F02D 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
調速レバー(1)にガバナスプリング(2)を介してガバナレバー(3)が連動連結され、ガバナレバー(3)にガバナ力発生装置(4)が連携され、ガバナスプリング(2)のガバナスプリング力(2a)とガバナ力発生装置(4)のガバナ力(4a)との不釣合い力でガバナレバー(3)が揺動され、ガバナレバー(3)に連動連結された燃料調量部(5)が調量されるように構成されている、エンジンの調速装置において、
調速レバー(1)のエンジン停止操作時には、エンジン停止位置(6)側に揺動操作された調速レバー(1)で圧縮されたガバナスプリング(2)が押されることにより、ガバナスプリング(2)でガバナレバー(3)が燃料減量方向(L)に押され、燃料調量部(5)が燃料無供給位置(7)まで移動するように構成され、
ガバナスプリング(2)の一端側の係止フック(2b)が調速レバー(1)のフック係止孔(1a)に係合され、
調速レバー(1)のエンジン停止操作時には、フック係止孔(1a)の内周面(1b)で係止フック(2b)が押圧されて、ガバナスプリング(2)が押されるように構成され、
ガバナスプリング(2)が第1スプリング(41)と第2スプリング(42)とで構成され、
調速レバー(1)にブッシュ(43)が取り付けられ、このブッシュ(43)に調速レバー(1)のフック係止孔(1a)が設けられ、このフック係止孔(1a)に第1スプリング(41)の係止フック(2b)が係合され、第2スプリング(42)の一端側に係止部(42a)を備えた折り返し部(42b)が形成され、この折り返し部(42b)がブッシュ(43)にスライド自在に嵌合され、
調速レバー(1)の高速設定操作時には、第1スプリング(41)の係止フック(2b)と第2スプリング(42)の折り返し部(42b)の係止部(42a)とがブッシュ(43)を介して調速レバー(1)に係止され、第1スプリング(41)と第2スプリング(42)のガバナスプリング力(2a)がガバナレバー(3)にかかり、
調速レバー(1)の低速設定操作時には、第1スプリング(41)の係止フック(2b)のみがブッシュ(43)を介して調速レバー(1)に係止され、第1スプリング(41)のみのガバナスプリング力(2a)がガバナレバー(3)にかかり、
調速レバー(1)のエンジン停止操作時には、フック係止孔(1a)の内周面(1b)で第1スプリング(41)の係止フック(2b)が押圧されて、第1スプリング(41)のみでガバナレバー(3)が燃料減量方向(L)に押されるように構成されている、ことを特徴とするエンジンの調速装置。
【請求項2】
請求項1に記載されたエンジンの調速装置において、
ガバナレバー(3)が、ガバナ力発生装置(4)に連携された第1レバー(3a)と、ガバナスプリング(2)に連結された第2レバー(3b)とで構成され、第1レバー(3a)が燃料調量部(5)に連結され、第1レバー(3a)と第2レバー(3b)とにそれぞれ係合部(3c)(3d)が設けられ、
調速レバー(1)のエンジン停止操作時には、係合部(3c)(3d)同士が係合し、ガバナスプリング(2)で燃料減量方向(L)に押された第2レバー(3b)から両係合部(3c)(3d)を介して第1レバー(3a)が燃料減量方向(L)に押されるように構成され、
両係合部(3c)(3d)のいずれかに離間調節部(3e)が設けられ、離間調節部(3e)の調節で、係合部同士(3c)(3d)が係合した第1レバー(3a)と第2レバー(3b)の離間距離が調節されるように構成されている、ことを特徴とするエンジンの調速装置。
【請求項3】
請求項2に記載されたエンジンの調速装置において、
第1レバー(3a)と第2レバー(3b)との間にトルクライズ装置(8)が設けられ、
過負荷運転時には、ガバナ力(4a)の低下で、燃料制限具(9)に第2レバー(3b)が受け止められ、トルクライズ装置(8)のバネ力(8a)とガバナ力(4a)との不釣合い力で第1レバー(3a)が揺動され、燃料調量部(5)が過負荷増量領域(10)で調量移動して、エンジントルクが増加するように構成されている、ことを特徴とするエンジンの調速装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンの調速装置に関し、詳しくは、低速運転での負荷増加時にエンジン出力が不足する不具合を防止することができるエンジンの調速装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エンジンの調速装置として次のようなものがある(例えば、特許文献1参照)。
図12に示すように、調速レバー(101)にガバナスプリング(102)を介してガバナレバー(103)が連動連結され、ガバナレバー(103)にガバナ力発生装置(104)が連携され、ガバナスプリング(102)のガバナスプリング力(102a)とガバナ力発生装置(104)のガバナ力(104a)との不釣合い力でガバナレバー(103)が揺動され、ガバナレバー(103)に連動連結された燃料調量部(105)が調量されるように構成されている、エンジンの調速装置。
【0003】
この種の調速装置によれば、ガバナスプリング力(102a)とガバナ力(104a)との不釣合い力により簡易にエンジンの調速を行うことかできる利点がある。
【0004】
しかし、この従来技術では、図12から明らかなように、調速レバー(101)のエンジン停止操作時には、エンジン停止位置(106)側に揺動操作された調速レバー(101)でガバナレバー(103)の係合ピン(P)が押されることにより、調速レバー(101)でガバナレバー(103)が燃料減量方向(L)に押され、燃料調量部(105)が燃料無供給位置(107)まで移動するように構成されているため、問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−269195号公報(図1参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
《問題点》 低速運転での負荷増加時にエンジン出力が不足することがある。
図12から明らかなように、調速レバー(101)のエンジン停止操作時には、エンジン停止位置(106)側に揺動操作された調速レバー(101)でガバナレバー(103)の係合ピン(P)が押されることにより、調速レバー(101)でガバナレバー(103)が燃料減量方向(L)に押され、燃料調量部(105)が燃料無供給位置(107)まで移動するように構成されているため、低速運転での負荷増加時に、燃料増量方向(R)に移動する係合ピン(P)が調速レバー(101)に当たり、ガバナレバー(103)の燃料増量方向(R)の揺動が妨げられ、燃料が増量されず、エンジン出力が不足することがある。
【0007】
本発明の課題は、低速運転での負荷増加時にエンジン出力が不足する不具合を防止することができるエンジンの調速装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に係る発明の発明特定事項は、次の通りである。
図1に例示するように、調速レバー(1)にガバナスプリング(2)を介してガバナレバー(3)が連動連結され、ガバナレバー(3)にガバナ力発生装置(4)が連携され、ガバナスプリング(2)のガバナスプリング力(2a)とガバナ力発生装置(4)のガバナ力(4a)との不釣合い力でガバナレバー(3)が揺動され、ガバナレバー(3)に連動連結された燃料調量部(5)が調量されるように構成されている、エンジンの調速装置において、
図1から明らかなように、調速レバー(1)のエンジン停止操作時には、エンジン停止位置(6)側に揺動操作された調速レバー(1)で圧縮されたガバナスプリング(2)が押されることにより、ガバナスプリング(2)でガバナレバー(3)が燃料減量方向(L)に押され、燃料調量部(5)が燃料無供給位置(7)まで移動するように構成され、
図2(A)〜(D)に例示するように、ガバナスプリング(2)の一端側の係止フック(2b)が調速レバー(1)のフック係止孔(1a)に係合され、
図2(C)(D)に例示するように、調速レバー(1)のエンジン停止操作時には、フック係止孔(1a)の内周面(1b)で係止フック(2b)が押圧されて、ガバナスプリング(2)が押されるように構成され、
図2(A)〜(D)に例示するように、ガバナスプリング(2)が第1スプリング(41)と第2スプリング(42)とで構成され、
図2(A)(B)に例示するように、調速レバー(1)にブッシュ(43)が取り付けられ、このブッシュ(43)に調速レバー(1)のフック係止孔(1a)が設けられ、このフック係止孔(1a)に第1スプリング(41)の係止フック(2b)が係合され、第2スプリング(42)の一端側に係止部(42a)を備えた折り返し部(42b)が形成され、この折り返し部(42b)がブッシュ(43)にスライド自在に嵌合され、
調速レバー(1)の高速設定操作時には、第1スプリング(41)の係止フック(2b)と第2スプリング(42)の折り返し部(42b)の係止部(42a)とがブッシュ(43)を介して調速レバー(1)に係止され、第1スプリング(41)と第2スプリング(42)のガバナスプリング力(2a)がガバナレバー(3)にかかり、
調速レバー(1)の低速設定操作時には、第1スプリング(41)の係止フック(2b)のみがブッシュ(43)を介して調速レバー(1)に係止され、第1スプリング(41)のみのガバナスプリング力(2a)がガバナレバー(3)にかかり、
調速レバー(1)のエンジン停止操作時には、フック係止孔(1a)の内周面(1b)で第1スプリング(41)の係止フック(2b)が押圧されて、第1スプリング(41)のみでガバナレバー(3)が燃料減量方向(L)に押されるように構成されている、ことを特徴とするエンジンの調速装置。
【発明の効果】
【0009】
(請求項1に係る発明)
請求項1に係る発明は、次の効果を奏する。
《効果》 低速運転での負荷増加時にエンジン出力が不足する不具合を防止することができる。
図1から明らかなように、調速レバー(1)のエンジン停止操作時には、エンジン停止位置(6)側に揺動操作された調速レバー(1)で圧縮されたガバナスプリング(2)が押されることにより、ガバナスプリング(2)でガバナレバー(3)が燃料減量方向(L)に押され、燃料調量部(5)が燃料無供給位置(7)まで移動するように構成されているので、低速運転での負荷増加時に、ガバナレバー(3)の燃料増量方向(R)の揺動が妨げられることがなく、燃料が増量され、エンジン出力が不足する不具合を防止することができる。
【0010】
《効果》 エンジン停止を確実に行うことができる。
図2(C)(D)から明らかなように、調速レバー(1)のエンジン停止操作時には、フック係止孔(1a)の内周面(1b)で係止フック(2b)が押圧されて、ガバナスプリング(2)が押されるように構成されているので、調速レバー(1)のエンジン停止操作がフック係止孔(1a)の内周面(1b)を介して係止フック(2b)に正確に伝達され、エンジン停止を確実に行うことができる。
【0011】
《効果》 高い低速出力を得ることができる。
図2(A)〜(D)に例示するように、ガバナスプリング(2)が第1スプリング(41)と第2スプリング(42)とで構成されているので、ガバナスプリング(2)が一本である場合に比べ、低速設定操作時のガバナスプリング(2)のバネ定数をより小さくすることができ、高い低速出力を得ることができる。
【0012】
《効果》 エンジン停止を確実に行うことができる。
図2(C)(D)から明らかなように、調速レバー(1)のエンジン停止操作時には、フック係止孔(1a)の内周面(1b)で第1スプリング(41)の係止フック(2b)が押圧されて、第1スプリング(41)のみでガバナレバー(3)が燃料減量方向(L)に押されるように構成されているので、ガバナスプリング(2)が第1スプリング(41)と第2スプリング(42)とで構成されている場合であっても、調速レバー(1)のエンジン停止操作がフック係止孔(1a)の内周面(1b)を介して係止フック(2b)に正確に伝達され、エンジン停止を確実に行うことができる。
【0013】
(請求項2に係る発明)
請求項2に係る発明は、請求項1に係る発明の効果に加え、次の効果を奏する。
《効果》 ガバナスプリングの寸法誤差を吸収することかできる。
図1に例示するように、両係合部(3c)(3d)のいずれかに離間調節部(3e)が設けられ、離間調節部(3e)の調節で、係合部同士(3c)(3d)が係合した第1レバー(3a)と第2レバー(3b)の離間距離が調節されるように構成されているので、ガバナスプリング(2)に寸法誤差があっても、離間調節部(3e)の調節によりその寸法誤差を吸収することができる。
【0014】
すなわち、製造誤差等により、ガバナスプリング(2)が短過ぎた場合には、離間調節部(3e)の調節で、係合部同士(3c)(3d)が係合した第1レバー(3a)と第2レバー(3b)の離間距離を長くし、調速レバー(1)のエンジン停止操作時には、燃料調量部(5)が燃料無供給位置(7)にくるように位置合わせすることができ、エンジン停止を確実に行うことができる。
また、製造誤差等により、ガバナスプリング(2)が長過ぎた場合には、離間調節部(3e)の調節で、係合部同士(3c)(3d)が係合した第1レバー(3a)と第2レバー(3b)の離間距離を短くし、調速レバー(1)のエンジン停止操作時には、エンジン停止位置(6)まで操作された調速レバー(1)と燃料無供給位置(7)で停止している燃料調量部(5)との間で長すぎるガバナスプリング(2)に無用の圧縮力がかかる不具合を防止することができる。このため、ガバナスプリング(2)の損傷や、調速レバー(1)やガバナレバー(3)からのガバナスプリング(2)の脱落を防止することができる。
【0015】
(請求項3に係る発明)
請求項3に係る発明は、請求項2に係る発明の効果に加え、次の効果を奏する。
《効果》 過負荷運転時のエンストを抑制することができる。
図1から明らかなように、過負荷運転時には、ガバナ力(4a)の低下で、燃料制限具(9)に第2レバー(3b)が受け止められ、トルクライズ装置(8)のバネ力(8a)とガバナ力(4a)との不釣合い力で第1レバー(3a)が揺動され、燃料調量部(5)が過負荷増量領域(10)で調量移動して、エンジントルクが増加するように構成されているので、過負荷運転時のエンストを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施形態に係るディーゼルエンジンの調速装置の模式図である。
図2図1の調速装置の調速レバーとガバナスプリングの係止状態を説明する図で、図2(A)は高速設定操作時の平面図、図2(B)は図2(A)のB−B線断面図、図2(C)は低速設定操作時の平面図、図2(D)は図2(C)のD−D線断面図である。
図3図1の調速装置とその周辺部分の平面図である。
図4図1の調速装置とその周辺部分の側面図である。
図5図1の調速装置を用いたディーゼルエンジンの横断平面図である。
図6図1の調速装置を用いたディーゼルエンジンの縦断側面図である。
図7】本発明の第1参考形態に係るディーゼルエンジンの調速装置の調速レバーとガバナスプリングの係止状態を説明する図で、図7(A)は高速設定操作時の平面図、図7(B)は図7(A)のB−B線断面図、図7(C)は図7(A)のC方向矢視図、図7(D)は図7(C)のD方向矢視図、図7(E)は低速設定操作時の平面図、図7(F)は図7(E)のF方向矢視図である。
図8】本発明の第2参考形態に係るディーゼルエンジンの調速装置の調速レバーとガバナスプリングの係止状態を説明する図で、図8(A)は高速設定操作時の平面図、図8(B)は図8(A)のB方向矢視図、図8(C)は図8(B)のC−C線断面図、図8(D)は図8(B)のD−D線断面図、8(E)は低速設定操作時の平面図、図8(F)は図8(E)のF方向矢視図、図8(G)は図8(E)のG−G線断面図、図8(H)は図8(F)のH−H線断面図である。
図9】本発明の第3参考形態に係るディーゼルエンジンの調速装置の模式図である。
図10図9の調速装置とその周辺部分の平面図である。
図11図9の調速装置とその周辺部分の側面図である。
図12】従来技術の図1相当図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1図6は本発明の実施形態図7第1参考形態図8第2参考形態図9図11第3参考形態に係るディーゼルエンジンの調速装置を説明する図で、実施形態及び各参考形態では、横形の単気筒ディーゼルエンジンの調速装置について説明する。
【0018】
まず、実施形態について説明する。
このエンジンの概要は、次の通りである。
図6に示すように、クランク軸中心軸線(11)と平行な向きに見て、クランク軸中心軸線(11)の左側でシリンダ(12)を水平に向けた特定観察姿勢で、クランク軸(13)の右上と右下に回転バランサ(14a)(14b)が配置されている。シリンダブロック(15)は、クランクケース(16)と、この下方のオイル溜め(17)と、クランクケース(16)の左側のシリンダライナ装着部(18)と、その周囲のシリンダジャケット(19)とを備えている。シリンダブロック(15)の左端にはシリンダヘッド(20)が組み付けられ、シリンダヘッド(20)にシリンダヘッドカバー(21)が組み付けられ、シリンダブロック(15)の上部には、シリンダジャケット(19)の上方で、シリンダジャケット(19)と連通させたラジエータ(22)が配置されるとともに、クランクケース(16)の上方で、燃料タンク(23)が配置されている。
【0019】
図6に示すように、シリンダ(12)には、シリンダライナ装着部(18)に装着されたシリンダライナ(12a)が用いられ、シリンダライナ(12a)内にピストン(24)が内嵌され、ピストン(24)にコンロッド(25)を介してクランク軸(13)が連動連結されている。クランク軸(13)の左下で、シリンダライナ(12a)の下方に、動弁カム軸(32)が配置されている。
図5に示すように、シリンダブロック(15)の前端部には、ギヤケース(26)が組み付けられ、このギヤケース(26)内に調時伝動ギヤ(27)や調速装置(28)が収容されている。シリンダブロック(15)の後端部には、フライホイール(39)が配置されている。
【0020】
調速装置(28)の概要は、次の通りである。
図1に示すように、調速レバー(1)にガバナスプリング(2)を介してガバナレバー(3)が連動連結され、ガバナレバー(3)にガバナ力発生装置(4)が連携され、ガバナスプリング(2)のガバナスプリング力(2a)とガバナ力発生装置(4)のガバナ力(4a)との不釣合い力でガバナレバー(3)が揺動され、ガバナレバー(3)に連動連結された燃料調量部(5)が調量されるように構成されている。
【0021】
図4に示すように、調速レバー(1)は、ギヤケース(26)の天井壁(26a)に枢軸(33)で揺動自在に枢支されている。ガバナスプリング(2)は引きバネであり、両端にフック(2b)(2c)が設けられ、図3に示すように、このフック(2b)(2c)がそれぞれ調速レバー(1)のフック係止孔(1a)とガバナレバー(3)のフック係合孔(3f)に係合されている。図3に示すように、ガバナ力発生装置(4)は、ガバナウェイト(34)とガバナスリーブ(35)とで構成され、ガバナウェイト(34)はクランク軸(13)で回転駆動される。図3図4に示すように、燃料調量部(5)は燃料噴射ポンプ(29)の燃料調量ラック(36)のラックピン(37)である。
【0022】
図1から明らかなように、調速レバー(1)のエンジン停止操作時には、エンジン停止位置(6)側に揺動操作された調速レバー(1)で圧縮されたガバナスプリング(2)が押されることにより、ガバナスプリング(2)でガバナレバー(3)が燃料減量方向(L)に押され、燃料調量部(5)が燃料無供給位置(7)まで移動するように構成されている。燃料無供給位置(7)とは、燃料噴射ポンプ(29)の場合には、燃料無噴射位置である。
【0023】
このため、超低速運転での負荷増加時に、ガバナレバー(3)の燃料増量方向(R)の揺動が妨げられることがなく、燃料が増量され、エンジン出力が不足する不具合を防止することができる。超低速運転とは、アイドリング回転速度付近での低速運転をいう。
【0024】
図1に示すように、ガバナレバー(3)が、ガバナ力発生装置(4)に連携された第1レバー(3a)と、ガバナスプリング(2)に連結された第2レバー(3b)とで構成され、第1レバー(3a)が燃料調量部(5)に連結され、第1レバー(3a)と第2レバー(3b)とにそれぞれ係合部(3c)(3d)が設けられている。
調速レバー(1)のエンジン停止操作時には、係合部(3c)(3d)同士が係合し、ガバナスプリング(2)で燃料減量方向(L)に押された第2レバー(3b)から両係合部(3c)(3d)を介して第1レバー(3a)が燃料減量方向(L)に押されるように構成されている。
両係合部(3c)(3d)のうち、第2レバーの係合部(3d)に離間調節部(3e)が設けられ、離間調節部(3e)の調節で、係合部同士(3c)(3d)が係合した第1レバー(3a)と第2レバー(3b)の離間距離が調節されるように構成されている。
【0025】
図3に示すように、第1レバー(3a)と第2レバー(3b)とは枢軸(38)でギヤケース(26)に揺動自在に枢支されている。図1に示すように、離間調節部(3e)は第2レバー(3b)の係合部(3d)に設けられたネジ杆で、第2レバー(3b)から導出された舌片(3g)にネジ嵌合されている。舌片(3g)には始動用バネ(40)が係止され、エンジン始動時には始動用バネ(40)のバネ力(40a)で燃料調量部(5)が始動増量位置に位置される。
【0026】
離間調節部(3e)による調節は、次のようにして行う。
図1から明らかなように、ネジ杆を第1レバー(3a)の係合部(3c)に近づけるように進出調節することにより、係合部同士(3c)(3d)が係合した第1レバー(3a)と第2レバー(3b)の離間距離を遠ざけることができるとともに、ネジ杆を第1レバー(3a)の係合部(3c)から離れるように後退調節することにより、係合部同士(3c)(3d)が係合した第1レバー(3a)と第2レバー(3b)の離間距離を近づけることができる。
【0027】
図1に示すように、第1レバー(3a)と第2レバー(3b)との間にトルクライズ装置(8)が設けられている。
図1から明らかなように、過負荷運転時には、ガバナ力(4a)の低下で、燃料制限具(9)に第2レバー(3b)が受け止められ、トルクライズ装置(8)のバネ力(8a)とガバナ力(4a)との不釣合い力で第1レバー(3a)が揺動され、燃料調量部(5)が過負荷増量領域(10)で調量移動して、エンジントルクが増加するように構成されている。
【0028】
図1に示すように、トルクライズ装置(8)は、第2レバー(3b)に取り付けられ、トルクピン(30)とトルクバネ(31)とを備え、部分負荷高回転時には、ガバナ力(4a)とガバナスプリング力(2a)の挟圧力でトルクピン(30)はトルクライズ装置(8)内に押し込まれ、第1レバー(3a)と第2レバー(3b)とは一体に揺動し、図1から明らかなように、定格負荷になると、燃料制限具(9)に第2レバー(3b)が受け止められ、過負荷になると、トルクライズ装置(8)のバネ力(8a)とガバナ力(4a)との不釣合い力でトルクピン(30)がトルクライズ装置(8)から押し出され、その押し出し代の分だけ、第1レバー(3a)が燃料増量方向(L)に揺動し、燃料調量部(5)が過負荷増量領域(10)で調量移動して、燃料を増量しながらエンジン回転数を最大トルク回転数に近づけ、エンジントルクを増加させる。
【0029】
図2(A)〜(D)に示すように、ガバナスプリング(2)の一端側の係止フック(2b)が調速レバー(1)のフック係止孔(1a)に係合されている。
図2(C)(D)から明らかなように、調速レバー(1)のエンジン停止操作時には、フック係止孔(1a)の内周面(1b)で係止フック(2b)が押圧されて、ガバナスプリング(2)が押されるように構成されている。
【0030】
図2(A)〜(D)に示すように、ガバナスプリング(2)が第1スプリング(41)と第2スプリング(42)とで構成されている。
調速レバー(1)にブッシュ(43)が取り付けられ、このブッシュ(43)に調速レバー(1)のフック係止孔(1a)が設けられ、このフック係止孔(1a)に第1スプリング(41)の係止フック(2b)が係合され、第2スプリング(42)の一端側に係止部(42a)を備えた折り返し部(42b)が形成され、この折り返し部(42b)がブッシュ(43)にスライド自在に嵌合されている。
この折り返し部(42b)は、ブッシュ(43)のフランジ部(43a)と調速レバー(1)とで抜け止めされている。
【0031】
図2(A)(B)に示すように、調速レバー(1)の高速設定操作時には、第1スプリング(41)の係止フック(2b)と第2スプリング(42)の折り返し部(42b)の係止部(42a)とがブッシュ(43)を介して調速レバー(1)に係止され、第1スプリング(41)と第2スプリング(42)のガバナスプリング力(2a)がガバナレバー(3)にかかる。
【0032】
図2(C)(D)に示すように、調速レバー(1)の低速設定操作時には、第1スプリング(41)の係止フック(2b)のみがブッシュ(43)を介して調速レバー(1)に係止され、第1スプリング(41)のみのガバナスプリング力(2a)がガバナレバー(3)にかかる。
【0033】
図2(C)(D)から明らかなように、調速レバー(1)のエンジン停止操作時には、フック係止孔(1a)の内周面(1b)で第1スプリング(41)の係止フック(2b)が押圧されて、第1スプリング(41)のみでガバナレバー(3)が燃料減量方向(L)に押されるように構成されている。
【0034】
次に、第1参考形態について説明する。
図7(A)〜(F)に示すように、ガバナスプリング(2)が第1スプリング(41)と第2スプリング(42)とで構成されている。このため、低速設定操作時のガバナスプリング(2)のバネ定数をより小さくすることができ、高い低速出力を得ることができる。
調速レバー(1)にフック係止孔(1a)が穿孔され、このフック係止孔(1a)に第1スプリング(41)の係止フック(2b)が係合され、第2スプリング(42)の一端側に係止部(42a)を備えた折り返し部(42b)が形成され、この折り返し部(42b)が調速レバー(1)の表裏面に沿う折り返し状に形成されるとともに、調速レバー(1)にスライド自在に嵌合されている。
この折り返し部(42b)は、調速レバー(1)で上下方向に抜け止めされているとともに、一対の係止爪(1c)(1d)でスライド方向と直交する横方向に対し、抜け止めされている。
【0035】
図7(A)〜(D)に示すように、調速レバー(1)の高速設定操作時には、第1スプリング(41)の係止フック(2b)と第2スプリング(42)の折り返し部(42b)の係止部(42a)とが調速レバー(1)に係止され、第1スプリング(41)と第2スプリング(42)のガバナスプリング力(2a)がガバナレバー(3)にかかる。
【0036】
図7(E)(F)に示すように、調速レバー(1)の低速設定操作時には、第1スプリング(41)の係止フック(2b)のみが調速レバー(1)に係止され、第1スプリング(41)のみのガバナスプリング力(2a)がガバナレバー(3)にかかる。
【0037】
図7(E)(F)から明らかなように、調速レバー(1)のエンジン停止操作時には、フック係止孔(1a)の内周面(1b)で第1スプリング(41)の係止フック(2b)が押圧されて、第1スプリング(41)のみでガバナレバー(3)が燃料減量方向(L)に押されるように構成されている。このため、ガバナスプリング(2)が第1スプリング(41)と第2スプリング(42)とで構成されている場合であっても、調速レバー(1)のエンジン停止操作がフック係止孔(1a)の内周面(1b)を介して係止フック(2b)に正確に伝達され、エンジン停止を確実に行うことができる。
他の構成や機能は、実施形態と同じである。
【0038】
次に、第2参考形態について説明する。
図8(A)〜(H)に示すように、ガバナスプリング(2)の一端側の係止環(2d)が調速レバー(1)の係止ピン(44)に嵌合されている。
図8(G)(H)から明らかなように、調速レバー(1)のエンジン停止操作時には、係止ピン(44)の周面(44a)で係止環(2d)が押圧されて、ガバナスプリング(2)が押されるように構成されている。このため、調速レバー(1)のエンジン停止操作が係止ピン(44)の周面(44a)を介して係止環(2d)に正確に伝達され、エンジン停止を確実に行うことができる。
【0039】
図8(A)〜(H)に示すように、ガバナスプリング(2)が第1スプリング(41)と第2スプリング(42)とで構成されている。このため、ガバナスプリング(2)が一本である場合に比べ、低速設定操作時のガバナスプリング(2)のバネ定数をより小さくすることができ、高い低速出力を得ることができる。
図8(B)〜(D)(F)〜(H)に示すように、調速レバー(1)に係止ピン(44)が取り付けられ、係止ピン(44)に第1スプリング(41)の係止環(2d)が嵌合され、第2スプリング(42)の一端側に係止部(42a)を備えた折り返し部(42b)が形成され、この折り返し部(42b)が係止ピン(44)にスライド自在に嵌合されている。
この係止環(2d)と折り返し部(42b)とは係止ピン(44)に取り付けられた座金(45)と調速レバー(1)とで抜け止めされている。
【0040】
図8(B)〜(D)に示すように、調速レバー(1)の高速設定操作時には、第1スプリング(41)の係止環(2d)と第2スプリング(42)の折り返し部(42b)の係止部(42a)とが係止ピン(44)を介して調速レバー(1)に係止され、第1スプリング(41)と第2スプリング(42)のガバナスプリング力(2a)がガバナレバー(3)にかかる。
【0041】
図8(F)〜(H)に示すように、調速レバー(1)の低速設定操作時には、第1スプリング(41)の係止環(2d)のみが係止ピン(44)を介して調速レバー(1)に係止され、第1スプリング(41)のみのガバナスプリング力(2a)がガバナレバー(3)にかかる。
図8(G)(H)から明らかなように、調速レバー(1)のエンジン停止操作時には、係止ピン(44)の周面(44a)で第1スプリング(41)の係止環(2d)が押圧されて、第1スプリング(41)のみでガバナレバー(3)が燃料減量方向(L)に押されるように構成されている。このため、ガバナスプリング(2)が第1スプリング(41)と第2スプリング(42)とで構成されている場合であっても、調速レバー(1)のエンジン停止操作が係止ピン(44)の周面(44a)を介して第1スプリング(41)の係止環(2d)に正確に伝達され、エンジン停止を確実に行うことができる。
他の構成や機能は、実施形態と同じである。
【0042】
次に、第3参考形態について説明する。
図9図11に示すように、ガバナスプリング(2)が1本で構成され、調速レバー(1)にフック係止孔(1a)が穿孔されている点を除き、実施形態と同一の構成と機能を備えている。
図9図11中、実施形態と同一の要素には、図1図6と同一の符号を付しておく。
【符号の説明】
【0043】
(1) 調速レバー
(1a) フック係止孔
(1b) 内周面
(2) ガバナスプリング
(2a) ガバナスプリング力
(2b) 係止フック
(2c) 係止フック
(2d) 係止環
(3) ガバナレバー
(3a) 第1レバー
(3b) 第2レバー
(3c) 係合部
(3d) 係合部
(3e) 離間調節部
(4) ガバナ力発生装置
(4a) ガバナ力
(5) 燃料調量部
(6) エンジン停止位置
(7) 燃料無供給位置
(8) トルクライズ装置
(8a) バネ力
(9) 燃料制限具
(10) 過負荷増量領域
(L) 燃料減量方向
(41) 第1スプリング
(42) 第2スプリング
(42a) 係止部
(42b) 折り返し部
(43) ブッシュ
(44) 係止ピン
(44a) 周面
(45) 座金
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12