(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
少なくとも表面が単結晶SiCで構成され、機械加工が行われた後のSiC基板に対して、Si雰囲気下で加熱処理を行うことで当該SiC基板の表面をエッチングするエッチング工程と、
前記エッチング工程を行ったSiC基板の表面粗さを計測する計測工程と、
前記計測工程で得られた結果に基づいて、前記エッチング工程前の前記SiC基板の潜傷の深さ又は潜傷の有無を推定する推定工程と、
を含むことを特徴とするSiC基板の潜傷深さ推定方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、潜傷が生じているSiC基板にエピタキシャル層を形成したり加熱処理を行ったりした場合、潜傷が顕在化し、SiC基板の表面が荒れてしまう。この結果、SiC基板から製造される半導体の品質が低下してしまう。そのため、潜傷は事前に除去することが好ましい。
【0007】
しかし、潜傷の深さは、SiC基板に行う機械研磨の条件等に応じて変化するため、正確に見積もることは困難である。しかし、潜傷を確実に除去するためにSiC基板を過剰にエッチングすると、歩留まりの悪化及び処理時間の増加に繋がってしまう。
【0008】
本発明は以上の事情に鑑みてされたものであり、その主要な目的は、SiC基板に生じた潜傷の深さを推定する方法を提供することにある。
【0009】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段とその効果を説明する。
【0010】
本発明の第1の観点によれば、以下のSiC基板の潜傷深さ推定方法が提供される。即ち、このSiC基板の潜傷深さ推定方法は、エッチング工程と、計測工程と、推定工程と、を含む。前記エッチング工程では、少なくとも表面が単結晶SiCで構成され、機械加工が行われた後のSiC基板に対して、Si雰囲気下で加熱処理を行うことで当該SiC基板の表面をエッチングする。前記計測工程では、前記エッチング工程を行ったSiC基板の表面粗さを計測する。前記推定工程では、前記計測工程で得られた結果に基づいて、前記エッチング工程前の前記SiC基板の潜傷の深さ又は潜傷の有無を推定する。
【0011】
これにより、SiC基板の潜傷深さを推定することができるので、必要十分なエッチング量を把握することができる。従って、SiC基板の品質を維持しつつ歩留まりの悪化又は処理速度の増加を防止することができる。また、上記の方法で行うエッチングは水素エッチング又は化学機械研磨と比較してエッチング速度が速いため、潜傷の深さを素早く推定することができる。また、表面粗さは比較的容易に計測することができるので、潜傷の深さを簡単に推定することができる。
【0012】
前記のSiC基板の潜傷深さ推定方法においては、前記推定工程では、エッチング後の前記SiC基板の表面粗さが第1閾値より大きい場合、エッチング量より潜傷の深さが深いと推定することが好ましい。
【0013】
これにより、エッチング後に潜傷が残っている場合は表面粗さが増加するため、表面粗さを計測することで潜傷が残っていることを把握できる。
【0014】
前記のSiC基板の潜傷深さ推定方法においては、前記推定工程では、エッチング後の前記SiC基板の表面粗さが第2閾値より小さい場合、エッチング量より潜傷の深さが浅いと推定することが好ましい。
【0015】
これにより、エッチングを行うことで潜傷が除去できた場合は表面粗さが大きくならないので、表面粗さを計測することで潜傷が除去できたことを把握できる。
【0016】
前記のSiC基板の潜傷深さ推定方法においては、前記エッチング工程におけるエッチング量、及び、前記推定工程における閾値の少なくとも1つは、前記エッチングを行う前の表面粗さに基づいて定められることが好ましい。
【0017】
これにより、エッチング量と表面粗さ(ひいては潜傷の深さ)の関係は、エッチング工程前のSiC基板の表面粗さと関連があるため、この表面粗さに基づいてエッチング量は閾値を変化させることで、潜傷の深さを適切に推定することができる。
【0018】
前記のSiC基板の潜傷深さ推定方法においては、前記エッチング工程では、エッチング量が0.5μm以上10μm以下であることが好ましい。
【0019】
これにより、一般的に潜傷が生じている範囲を考慮して潜傷の深さの推定を行うことができる。なお、水素エッチング又は化学機械研磨等では10μm程度をエッチングするためには多大な時間が掛かる。この点、Si雰囲気下でエッチングを行うことで、エッチング時間を大幅に低減することができる。
【0020】
前記のSiC基板の潜傷深さ推定方法においては、前記エッチング工程では、前記SiC基板の周囲の不活性ガス圧を調整して当該SiC基板のエッチング速度を制御することが好ましい。
【0021】
これにより、高真空下のSi雰囲気下でエッチングを行う場合と比較してエッチング速度を低速にできるので、エッチング量を正確に把握することができる。従って、潜傷の深さをより正確に推定することができる。
【0022】
本発明の第2の観点によれば、以下のSiC基板の潜傷深さ推定方法が提供される。即ち、このSiC基板の潜傷深さ推定方法は、エッチング工程と、計測工程と、推定工程と、を含む。前記エッチング工程では、少なくとも表面が単結晶SiCで構成され、機械加工が行われた後のSiC基板に対して、Si雰囲気下で加熱処理を行うことで当該SiC基板の表面をエッチングする。前記計測工程では、前記エッチング工程を行ったSiC基板の残留応力を計測する。前記推定工程では、前記計測工程で得られた結果に基づいて、前記エッチング工程前の前記SiC基板の潜傷の深さ又は潜傷の有無を推定する。
【0023】
前記のSiC基板の潜傷深さ推定方法においては、前記推定工程で、前記SiC基板の残留応力が所定量より大きい場合、エッチング量より潜傷の深さが深いと推定することが好ましい。
【0024】
前記のSiC基板の潜傷深さ推定方法においては、前記推定工程で、前記SiC基板に残留応力が所定量より小さい場合、エッチング量より潜傷の深さが浅いと推定することが好ましい。
【0025】
以上により、表面粗さを計測することなく潜傷の深さを推定することができる。
【0026】
前記のSiC基板の潜傷深さ推定方法においては、前記計測工程では、ラマン分光分析を用いて前記SiC基板の残留応力を計測することが好ましい。
【0027】
これにより、非破壊で残留応力を計測することができるので、潜傷深さを推定したSiC基板を出荷することができる。また、SiC基板の全品検査が可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0029】
次に、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
【0030】
初めに、
図1を参照して、本実施形態の加熱処理で用いる高温真空炉10について説明する。
図1は、本発明の表面処理方法に用いる高温真空炉の概要を説明する図である。
【0031】
図1に示すように、高温真空炉10は、本加熱室21と、予備加熱室22と、を備えている。本加熱室21は、少なくとも表面が単結晶SiCで構成されるSiC基板を1000℃以上2300℃以下の温度に加熱することができる。予備加熱室22は、SiC基板を本加熱室21で加熱する前に予備加熱を行うための空間である。
【0032】
本加熱室21には、真空形成用バルブ23と、不活性ガス注入用バルブ24と、真空計25と、が接続されている。真空形成用バルブ23により、本加熱室21の真空度を調整することができる。不活性ガス注入用バルブ24により、本加熱室21内の不活性ガス(例えばArガス)の圧力を調整することができる。真空計25により、本加熱室21内の真空度を測定することができる。
【0033】
本加熱室21の内部には、ヒータ26が備えられている。また、本加熱室21の側壁や天井には図略の熱反射金属板が固定されており、この熱反射金属板によって、ヒータ26の熱を本加熱室21の中央部に向けて反射させるように構成されている。これにより、SiC基板を強力且つ均等に加熱し、1000℃以上2300℃以下の温度まで昇温させることができる。なお、ヒータ26としては、例えば、抵抗加熱式のヒータや高周波誘導加熱式のヒータを用いることができる。
【0034】
また、SiC基板は、坩堝(収容容器)30に収容された状態で加熱される。坩堝30は、適宜の支持台等に載せられており、この支持台が動くことで、少なくとも予備加熱室から本加熱室まで移動可能に構成されている。
【0035】
坩堝30は、互いに嵌合可能な上容器31と下容器32とを備えている。また、坩堝30は、タンタル金属からなるとともに、炭化タンタル層を内部空間に露出させるようにして構成されている。坩堝30の内部には、Siの供給源となるSiが適宜の形態で配置されている。なお、容器の形状及び素材は任意である。
【0036】
SiC基板を加熱処理する際には、初めに、
図1の鎖線で示すように坩堝30を高温真空炉10の予備加熱室22に配置して、適宜の温度(例えば約800℃)で予備加熱する。次に、予め設定温度(例えば、約1800℃)まで昇温させておいた本加熱室21へ坩堝30を移動させ、SiC基板を加熱する。なお、予備加熱を省略しても良い。
【0037】
次に、
図2を参照して、SiC基板40に生じる潜傷及びその影響について、SiC基板40から半導体素子を製造する工程とともに説明する。
【0038】
半導体素子を製造する元となるバルク基板は、4H−SiC単結晶又は6H−SiC単結晶から構成されるインゴットを所定の厚みに切り出すことで得られる。インゴットを斜めに切り出すことにより、オフ角を有するバルク基板を得ることができる。その後、バルク基板の表面の凹凸を除去するために、機械研磨を行う。しかし、この機械研磨によりバルク基板の内部に圧力が掛かることで結晶性が変化した変質層(潜傷)が生じる。
【0039】
次に、
図2(a)に示すように、高温真空炉10を利用してSiC基板40の表面をエッチングする。このエッチングは、SiC基板40を坩堝30に収容し、Si蒸気圧下(Si雰囲気下)で1500℃以上2200℃以下、望ましくは1800℃以上2000℃以下の環境で加熱することで行われる。Si蒸気圧下で加熱されることで、SiC基板40のSiCがSi
2C又はSiC
2になって昇華するとともに、Si雰囲気中のSiがSiC基板40の表面でCと結合し、自己組織化が起こり、平坦化されるのである。
【0040】
これにより、SiC基板40の表面をエッチングしつつ、当該表面を分子レベルで平坦化することができる。このエッチングを行うことにより、機械研磨により生じた研磨傷及び潜傷を除去することができる。
【0041】
次に、
図2(b)に示すように、SiC基板40にエピタキシャル層41を形成する。エピタキシャル層を形成する方法としては、気相エピタキシャル法又はCVD法等を用いることができる。なお、SiC基板40に潜傷が残っている場合、エピタキシャル層を形成する際に潜傷の影響により、表面が荒れてしまうことがある。
【0042】
次に、エピタキシャル層41が形成されたSiC基板40の表面の全面又は一部にイオン注入を行う。イオンが注入されることによって、
図2(c)に示すように、イオン注入部分42を含むエピタキシャル層41の表面が荒れた状態になる。
【0043】
次に、注入したイオンの活性化、及び、イオン注入部分42等へのエッチングを行う。本実施形態では、両方の処理を1つの工程で行うことができる。具体的には、Si蒸気圧下(Si雰囲気下)で1500℃以上2200℃以下、望ましくは1600℃以上2000℃以下の環境で加熱処理(アニール処理)を行う。これにより、注入されたイオンを活性化することができる。また、SiC基板40の表面がエッチングされることで、イオン注入部分42の荒れた部分が平坦化されていく(
図2(d)を参照)。なお、SiC基板40に潜傷が残っている場合、加熱処理を行う際に潜傷の影響により、表面が荒れてしまうことがある。
【0044】
以上の処理を行うことで、SiC基板40の表面が、十分な平坦度及び電気的活性を有することになる。このSiC基板40の表面を利用して、半導体素子を製造することができる。
【0045】
ここで、上述したように潜傷の除去(
図2(a))が十分でないと後工程(
図2(b)又は
図2(d))においてSiC基板40の表面が荒れてしまう。本願出願人は、潜傷の深さを推定する方法を確立するために以下の実験を行った。以下、この実験について、
図3から
図5までを参照して説明する。
【0046】
この実験では、上記で説明した高温真空炉10を用いて、表面がSi面でオフ角が4°の4H−SiCからなる4種類のSiC基板をSi蒸気圧下で加熱した。SiC基板は、機械研磨後の表面粗さ(初期表面粗さ)がそれぞれ異なり、1.4nm,0.4nm,0.3nm,0.1nmである。また、加熱処理は、高真空下(10
-5〜10
-4Pa程度)で、1800℃から2000℃の温度範囲で行った。
【0047】
図3は、エッチング速度と加熱温度の関係を表面粗さが異なるSiC基板毎に計測した結果を示すグラフである。
図3に示すように、1900℃以上の領域では、初期表面粗さとエッチング速度に相関性があり、表面粗さが大きいほどエッチング速度が速くなることが分かる。
【0048】
図4は、初期表面粗さが異なるこれらのSiC基板について、エッチング量と、エッチング後の基板の表面粗さと、の関係を計測した結果を示すグラフである。エッチング量が1μm〜4μm程度では、表面粗さRaは機械加工後より著しく上昇して2.5nm以上となり、潜傷が顕在化して表面が荒れたことが分かる。この結果から、エッチング量を0.5μm〜4μm、好ましくは1μm〜3μmとしてエッチングを行った後に表面粗さを計測することで、エッチング後のSiC基板に潜傷が残っているかを把握することができる。
【0049】
図4には、更にエッチングを行うと、表面粗さが低下していき、エッチング量が10μm以上になると表面粗さが1nm以下の平滑な表面が得られることが示されている。これは、エッチングによって潜傷が除去されたためと考えられる。この結果から、エッチングを行って表面粗さが低い場合、潜傷が初めから存在しない又は潜傷が除去されたと推定できる。
【0050】
また、表面粗さの変化は、初期表面粗さに応じて異なる。例えば、初期表面粗さが最も大きい1.4nmのSiC基板であっても、ピークの表面粗さが他より大きいとは限らない。また、初期表面粗さが1.4nmのSiC基板は、潜傷が除去された後において、他よりも表面粗さが大きい。また、
図4からは、初期表面粗さが同じでも表面粗さが低下するタイミングが異なることがあるため、様々な条件に応じて潜傷の深さが異なることが分かる。
【0051】
図5は、機械加工後及びエッチング後のSiC基板の表面の顕微鏡写真である。それぞれの写真の右上の数字は表面粗さであり、右下の数字はエッチング量である。また、
図5では、初期の表面粗さが同じものを同じ列に配置している。具体的には、左から初期表面粗さが1.4nm、0.4nm、0.3nm、0.1nmである。なお、初期表面粗さが0.1nmのSiC基板は、化学機械研磨で表面が処理されており、その他のSiC基板は機械研磨で表面が処理されている。
【0052】
また、
図5では、処理条件が等しいものを同じ行に配置している。具体的には、上から機械加工後(機械研磨又は化学機械研磨後)、1800℃でエッチング後、1900℃でエッチング後、2000℃でエッチング後、2000℃で更にエッチング後である。
【0053】
図5から、機械加工後にエッチングを行うことで、潜傷の影響による表面の荒れ(ステップバンチング)が発生し、表面が荒れることが分かる。また、エッチング量が10μmを超えた場合、このステップバンチングが除去されることが分かる。
【0054】
次に、
図6から
図8までを参照して、上記の実験の計測結果を考慮して、SiC基板40の潜傷の深さを推定する処理(推定処理)について説明する。本実施形態では、3つの推定処理を説明するが、これらは一例である。また、以下では推定処理の各工程は作業者が機器を用いて行うと説明するが、一部又は全部の工程を作業者を介さずにコンピュータが自動的に行っても良い。
【0055】
初めに、1つ目の推定処理について説明する。作業者は、推定対象のSiC基板を高温真空炉10にセットし、Si蒸気圧下で加熱してSiC基板の表面をエッチングする(S101)。なお、S101で行うエッチングのエッチング量は、初期表面粗さに応じて定めても良いし、他の条件に応じて定めても良い。具体的には、0.5μm〜4μm、好ましくは1μm〜3μmであることが好ましい。
【0056】
次に、作業者はエッチング後のSiC基板の表面粗さを計測する(S102)。表面粗さの計測方法は任意であり、例えばAFM(原子間力顕微鏡)を用いることができる。
【0057】
次に、作業者は計測して得られた表面粗さが第1閾値より大きいか否かを判定する(S103)。第1閾値は、上述したように潜傷の影響で表面粗さが大きくなったことを検出するための値である。従って、第1閾値は、例えば2nm〜5nm程度であることが好ましい。なお、第1閾値は、初期表面粗さに応じて決定しても良い。
【0058】
表面粗さが第1閾値より大きい場合、S101で行ったエッチング量より潜傷の深さが深いと推定することができる(S104)。同時に、SiC基板に潜傷があったことも推定することができる。このようにして、SiC基板の潜傷の深さを推定することができる。なお、この推定処理を1回行っただけでは潜傷の大まかな深さしか推定できないので、エッチング量を変化させて再度同じ処理を行っても良い。
【0059】
なお、表面粗さが第1閾値以下の場合、その他の推定処理を行う。例えば、エッチング量を変えて再度同じ処理を行ったり、2つ目の推定処理を行ったりすることができる。
【0060】
次に、2つ目の推定処理について説明する。
【0061】
作業者は、上記と同様にSiC基板の表面をエッチングし(S201)、表面粗さを計測する(S202)。その後、作業者は計測して得られた表面粗さが第2閾値より小さいか否かを判定する(S203)。第2閾値は、上述したように潜傷の影響で大きくなった表面粗さが再び小さくなったことを検出するための値である。従って、エッチング量は例えば5μm〜10μm、第2閾値は例えば0.5nm〜2nm程度であることが好ましい。なお、S201のエッチング量及び第2閾値は、初期表面粗さに応じて決定しても良い。
【0062】
表面粗さが第2閾値より小さい場合、S102で行ったエッチング量より潜傷の深さが浅いと推定することができる(S203)。なお、SiC基板に潜傷が存在しない可能性がある場合、潜傷が存在しない、又は、S102で行ったエッチング量より潜傷の深さが浅いと推定しても良い。このようにして、SiC基板の潜傷の深さを推定することができる。なお、この推定処理を1回行っただけでは潜傷の大まかな深さしか推定できないので、別の基板に対して、異なるエッチング量で同じ処理を行っても良い。
【0063】
なお、表面粗さが第2閾値以上の場合、その他の推定処理を行う。例えば、エッチング量を変えて再度同じ処理を行ったり、1つ目の推定処理を行ったりすることができる。
【0064】
次に、3つ目の推定処理について説明する。
【0065】
3つ目の推定処理は、1つ目と2つ目の推定処理を組み合わせた推定処理である。作業者は、上記と同様にSiC基板の表面をエッチングし(S301)、表面粗さを計測する(S302)。その後、作業者は計測して得られた表面粗さが第1閾値より大きいか否かを判定する(S303)。表面粗さが第1閾値以下の場合、エッチング量を変化させて同じ処理を行う等、その他の推定処理を行う(S304)。
【0066】
一方、表面粗さが第1閾値より大きい場合、更に所定量のエッチングを行う(S305)。このエッチング量は微小であることが好ましい。そして、作業者は、再びSiC基板の表面粗さを計測し(S306)、得られた表面粗さが第2閾値より小さいか否かを判定する(S307)。表面粗さが第2閾値以上である場合、再びエッチング(S305)及び表面粗さの計測(S306)を行って、再び上記の判定を行う(S307)。
【0067】
表面粗さが第2閾値より小さい場合、徐々にエッチングを行って表面粗さが低下したときのSiC基板の深さを推定することができる。従って、作業者は、この深さ(総エッチング量)と潜傷の深さが略同じと推定する(S308)。このように3つ目の推定処理では、潜傷の相対的な深さではなく、絶対的な深さを推定することができる。
【0068】
なお、上記の3つの推定処理は、最大10μmのエッチングが可能であるとともに、エッチング量を正確に制御できることが前提となっている。ここで、特許文献2では、水素エッチングを行っていたため、エッチング速度が非常に低速(数十nm〜数百nm/h程度)であり、潜傷を除去するのに非常に長い時間が掛かってしまう。また、Si雰囲気下のエッチングを高真空下で行うとエッチング速度が速くなり過ぎるため、エッチング量を正確に制御することが困難であった。
【0069】
以上を考慮して、本実施形態では、不活性ガス圧を変化させてエッチング速度を制御してSi雰囲気下のエッチングを行う。ここで
図8は、不活性ガス圧とエッチング速度との関係を示すグラフである。具体的には、加熱温度が1800℃、1900℃、及び2000℃の環境において、不活性ガス圧を0.01Pa、1Pa、133Pa、及び13.3kPaと変化させたときのエッチング速度を求めたグラフである。被処理物は、オフ角が4°の4H−SiC基板である。
図8に示すように、基本的には、不活性ガス圧を上昇させる程、エッチング速度が低下する傾向がある。
【0070】
このようにして、エッチング速度が速くなり過ぎることを抑制できるので、エッチング量を正確に制御できる。従って、潜傷の深さを精度良く判定することができる。
【0071】
以上に説明したように、上記のSiC基板40の潜傷深さ推定方法は、エッチング工程と、計測工程と、推定工程と、を含む。エッチング工程では、少なくとも表面が単結晶SiCで構成され、機械加工が行われた後のSiC基板40に対して、Si雰囲気下で加熱処理を行うことで当該SiC基板40の表面をエッチングする。計測工程では、エッチング工程を行ったSiC基板40の表面粗さを計測する。推定工程では、計測工程で得られた結果に基づいて、エッチング工程前のSiC基板40の潜傷の深さ又は潜傷の有無を推定する。
【0072】
これにより、SiC基板40の潜傷深さを推定することができるので、必要十分なエッチング量を把握することができる。従って、SiC基板40の品質を維持しつつ歩留まりの悪化又は処理速度の増加を防止することができる。また、上記の方法で行うエッチングは水素エッチング又は化学機械研磨と比較してエッチング速度が速いため、潜傷の深さを素早く推定することができる。
【0073】
また、本実施形態の推定工程では、エッチング後のSiC基板40の表面粗さが第1閾値より大きい場合、エッチング量より潜傷の深さが深いと推定する。
【0074】
これにより、エッチング後に潜傷が残っている場合は表面粗さが増加するため、表面粗さを計測することで潜傷が残っていることを把握できる。
【0075】
また、本実施形態の推定工程では、エッチング後のSiC基板40の表面粗さが第2閾値より小さい場合、エッチング量より潜傷の深さが浅いと推定する。
【0076】
これにより、エッチングを行うことで潜傷が除去できた場合は表面粗さが大きくならないので、表面粗さを計測することで潜傷が除去できたことを把握できる。
【0077】
また、本実施形態の前記エッチング工程では、SiC基板40の周囲の不活性ガス圧を調整して当該SiC基板40のエッチング速度を制御する。
【0078】
これにより、高真空下のSi雰囲気下でエッチングを行う場合と比較してエッチング速度を低速にできるので、エッチング量を正確に把握することができる。従って、潜傷の深さをより正確に推定することができる。
【0079】
次に、上記実施形態の変形例を説明する。
図9は、
図4と同様に所定量のエッチングを行った際の、ラマン分光分析におけるピークシフトの測定結果である。ラマン分光分析は、具体的には、ウエハを後方散乱配置にて波長532nmのArレーザーを光源として4H−SiC FTOモードの776cm
-1のピークを測定し得られたピークが元の776cm
-1の位置からどれだけズレているかによってピークシフトを測定する。ウエハは機械加工によるストレスに起因する結晶構造の変化等により残留応力が生じるが、ピークシフトΔωを測定することで、「残留応力σはピークシフトにおおよそ線形でσ=A×Δω、Aは定数」といった原理によりウエハ表面付近の残留応力が推定可能である。
【0080】
エッチング前の段階(エッチング量が0)では、ピークシフトは0からかなり離れた数値に位置し、比較的大きい残留応力が存在することが分かる。これにより、SiC基板に潜傷が存在することを非破壊で検出することができる。上記で説明した
図4と同様に、5μm以上のエッチングによりエッチングによりピークシフトが著しく低減され、潜傷が除去されることが分かる。またエッチング量が大きい場合(具体的には10μm以上の場合)、
図4と同様に、更にピークシフトが低下し、潜傷が一層除去されることが示されている。
【0081】
エッチング量と残留応力の関係は、エッチング量と表面粗さの関係に類似する。従って、残留応力を用いて潜傷の深さを推定することができる。具体的には、エッチングを行った後に残留応力を計測し、残留応力が残っていればエッチング量より潜傷が深いと推定し、残留応力がゼロであればエッチング量より潜傷が浅いと判定する。なお、残留応力を計測する方法はラマン分光分析に限られず適宜の方法を用いることができる。
【0082】
以上に本発明の好適な実施の形態及び変形例を説明したが、上記の構成は例えば以下のように変更することができる。
【0083】
上記で説明したフローチャートは一例であり、処理の順番の変更、処理の追加又は削除等を行っても良い。また、エッチング後の表面粗さ又は残留応力に基づいて潜傷の深さを推定するのであれば、推定方法は任意である。
【0084】
不活性ガスの調整方法は任意であり、適宜の方法を用いることができる。また、エッチング工程の間、不活性ガス圧を一定にしても良いし、変化させても良い。不活性ガス圧を変化させることで、例えば初めはエッチング速度を高くして後にエッチング速度を低くして微調整を行う方法が考えられる。
【0085】
処理を行った環境及び用いた単結晶SiC基板等は一例であり、様々な環境及び単結晶SiC基板に対して適用することができる。例えば、加熱温度は上記で挙げた温度に限られず、より低温とすることでエッチング速度を一層低下させることができる。また、上述した高温真空炉以外の加熱装置を用いても良い。