特許第6282542号(P6282542)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6282542レール圧フィルタリング方法及びコモンレール式燃料噴射制御装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6282542
(24)【登録日】2018年2月2日
(45)【発行日】2018年2月21日
(54)【発明の名称】レール圧フィルタリング方法及びコモンレール式燃料噴射制御装置
(51)【国際特許分類】
   F02D 45/00 20060101AFI20180208BHJP
   F02M 55/02 20060101ALI20180208BHJP
   F02D 41/04 20060101ALI20180208BHJP
【FI】
   F02D45/00 358H
   F02D45/00 364K
   F02M55/02 360
   F02D41/04 395
【請求項の数】2
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-135522(P2014-135522)
(22)【出願日】2014年7月1日
(65)【公開番号】特開2016-14322(P2016-14322A)
(43)【公開日】2016年1月28日
【審査請求日】2017年4月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003333
【氏名又は名称】ボッシュ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】居合 徹
【審査官】 山村 和人
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−65614(JP,A)
【文献】 特開2009−57885(JP,A)
【文献】 特開2007−205247(JP,A)
【文献】 特開2010−209757(JP,A)
【文献】 特開2010−31656(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 41/00 − 45/00
F02M 39/00 − 71/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
予め定められたフィルタリング周期で到来するフィルタリングタイミングにおいて、所定のフィルタリング期間中に、センサによって検出されたレール圧である実レール圧の最大値を抽出し、フィルタリングの結果として出力するレール圧フィルタリング方法であって、
到来したフィルタリングタイミングにおいて、レール圧制御のために演算算出された指示レール圧が下降しており、かつ、直近のフィルタリングタイミングにおいて実レール圧の最大値が抽出、出力された場合には、フィルタリング期間中に、実レール圧の平均値を抽出し、フィルタリングの結果として出力し、続くフィルタリングタイミングにおいても指示レール圧が下降している場合には、フィルタリング期間中に、実レール圧の最小値を抽出し、フィルタリングの結果として出力する一方、
到来したフィルタリングタイミングにおいて、指示レール圧が上昇しており、かつ、直近のフィルタリングタイミングにおいて実レール圧の最小値が抽出、出力された場合には、フィルタリング期間中に、実レール圧の平均値を抽出し、フィルタリングの結果として出力し、続くフィルタリングタイミングにおいても指示レール圧が上昇している場合には、フィルタリング期間中に、実レール圧の最大値を抽出し、フィルタリングの結果として出力することを特徴とするレール圧フィルタリング方法。
【請求項2】
燃料タンクの燃料が高圧ポンプによりコモンレールへ加圧、圧送され、当該コモンレールに接続されたインジェクタを介して内燃機関へ高圧燃料の噴射を可能としてなると共に、電子制御ユニットにより前記コモンレールの圧力が、前記コモンレールの圧力を検出する圧力センサの検出信号に基づいて制御可能に構成されてなるコモンレール式燃料噴射制御装置であって、
前記電子制御ユニットは、
予め定められたフィルタリング周期で到来するフィルタリングタイミングにおいて、所定のフィルタリング期間中に、前記圧力センサによって検出されたレール圧である実レール圧の最大値を抽出し、フィルタリングの結果として出力するレール圧フィルタリング処理であって、
到来したフィルタリングタイミングにおいて、レール圧制御のために演算算出された指示レール圧が下降しており、かつ、直近のフィルタリングタイミングにおいて実レール圧の最大値が抽出、出力されていると判定された場合には、フィルタリング期間中に、実レール圧の平均値を抽出し、フィルタリングの結果として出力し、続くフィルタリングタイミングにおいても指示レール圧が下降していると判定された場合には、フィルタリング期間中に、実レール圧の最小値を抽出し、フィルタリングの結果として出力する一方、
到来したフィルタリングタイミングにおいて、指示レール圧が上昇しており、かつ、直近のフィルタリングタイミングにおいて実レール圧の最小値が抽出、出力されていると判定された場合には、フィルタリング期間中に、実レール圧の平均値を抽出し、フィルタリングの結果として出力し、続くフィルタリングタイミングにおいても指示レール圧が上昇していると判定された場合には、フィルタリング期間中に、実レール圧の最大値を抽出し、フィルタリングの結果として出力するレール圧フィルタリング処理を実行可能に構成されてなることを特徴とするコモンレール式燃料噴射制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コモンレール式燃料噴射制御装置におけるレール圧のフィルタリング方法及びコモンレール式燃料噴射制御装置に係り、特に、レール圧の減圧時における制御性の向上等を図ったものに関する。
【背景技術】
【0002】
コモンレール式燃料噴射制御装置においては、プランジャ室への燃料の吸入とレールへの燃料の高圧圧送とを交互に繰り返す高圧ポンプが用いられているが、かかる高圧ポンプにおいて、燃料圧送の際の脈動が存在することは従来から知られているところである。
燃料圧送の脈動は、レール圧の変動を招くため、レール圧制御においては、このような燃料圧送の脈動をレール圧制御に極力影響を与えないようにするための方策が種々、提案、実用化されており、例えば、比較的用いられる方策の1つとして、圧力センサにより検出されたレール圧を、レール圧制御に用いる際に、いわゆるフィルタリングを施し、脈動成分を除去する等の処理を経た後に、レール圧制御処理へ供する方法等がある(例えば、特許文献1等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2003−532020号公報(第6−12頁、図1図3
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
かかるフィルタリング処理は、どのような信号が入力されるか、また、フィルタリングによってどのような信号を所望するかによって、その処理内容は様々である。
したがって、入力信号のレベル変化や周期等が、想定された基準範囲から逸脱するような場合には、必ずしも所望の作用、効果を十分得ることができないこともあり得る。
【0005】
例えば、燃料圧送の脈動に起因するレール圧の脈動抑圧に有効なフィルタリング処理の1つとして、入力信号を周期的にサンプリングする際に、適宜なサンプリング期間を設定すると共に、常に、隣接するサンプリング期間が適宜な時間重複するようにして、サンプリング期間の中で検出されるレール圧の最大値を抽出し、フィルタリング処理が施されたレール圧として、レール圧制御に供する方法が考えられる。
かかる方法は、サンプリング周期を適宜設定することで、常に、燃料圧送において生ずる脈動のピークが取得されレール圧制御に用いられるため、比較的安定したレール圧制御状態を実現することが可能である。
【0006】
しかしながら、この方法の場合、定常運転状態にある場合や、レール圧昇圧時には問題がないが、レール圧が減圧される場合には、サンプリング周期分だけ制御遅れが生じるため、場合によっては、レール圧の過大なアンダーシュートが発生し、最悪時には、エンストやコンポーネント寿命の低下を招く虞がある。
【0007】
本発明は、上記実状に鑑みてなされたもので、レール圧の減圧時におけるレール圧制御の安定性、信頼性を確保可能なレール圧フィルタリング方法及びコモンレール式燃料噴射制御装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記本発明の目的を達成するため、本発明に係るレール圧フィルタリング方法は、
予め定められたフィルタリング周期で到来するフィルタリングタイミングにおいて、所定のフィルタリング期間中に、センサによって検出されたレール圧である実レール圧の最大値を抽出し、フィルタリングの結果として出力するレール圧フィルタリング方法であって、
到来したフィルタリングタイミングにおいて、レール圧制御のために演算算出された指示レール圧が下降しており、かつ、直近のフィルタリングタイミングにおいて実レール圧の最大値が抽出、出力された場合には、フィルタリング期間中に、実レール圧の平均値を抽出し、フィルタリングの結果として出力し、続くフィルタリングタイミングにおいても指示レール圧が下降している場合には、フィルタリング期間中に、実レール圧の最小値を抽出し、フィルタリングの結果として出力する一方、
到来したフィルタリングタイミングにおいて、指示レール圧が上昇しており、かつ、直近のフィルタリングタイミングにおいて実レール圧の最小値が抽出、出力された場合には、フィルタリング期間中に、実レール圧の平均値を抽出し、フィルタリングの結果として出力し、続くフィルタリングタイミングにおいても指示レール圧が上昇している場合には、フィルタリング期間中に、実レール圧の最大値を抽出し、フィルタリングの結果として出力するよう構成されてなるものである。
また、上記本発明の目的を達成するため、本発明に係るコモンレール式燃料噴射制御装置は、
燃料タンクの燃料が高圧ポンプによりコモンレールへ加圧、圧送され、当該コモンレールに接続されたインジェクタを介して内燃機関へ高圧燃料の噴射を可能としてなると共に、電子制御ユニットにより前記コモンレールの圧力が、前記コモンレールの圧力を検出する圧力センサの検出信号に基づいて制御可能に構成されてなるコモンレール式燃料噴射制御装置であって、
前記電子制御ユニットは、
予め定められたフィルタリング周期で到来するフィルタリングタイミングにおいて、所定のフィルタリング期間中に、前記圧力センサによって検出されたレール圧である実レール圧の最大値を抽出し、フィルタリングの結果として出力するレール圧フィルタリング処理であって、
到来したフィルタリングタイミングにおいて、レール圧制御のために演算算出された指示レール圧が下降しており、かつ、直近のフィルタリングタイミングにおいて実レール圧の最大値が抽出、出力されていると判定された場合には、フィルタリング期間中に、実レール圧の平均値を抽出し、フィルタリングの結果として出力し、続くフィルタリングタイミングにおいても指示レール圧が下降していると判定された場合には、フィルタリング期間中に、実レール圧の最小値を抽出し、フィルタリングの結果として出力する一方、
到来したフィルタリングタイミングにおいて、指示レール圧が上昇しており、かつ、直近のフィルタリングタイミングにおいて実レール圧の最小値が抽出、出力されていると判定された場合には、フィルタリング期間中に、実レール圧の平均値を抽出し、フィルタリングの結果として出力し、続くフィルタリングタイミングにおいても指示レール圧が上昇していると判定された場合には、フィルタリング期間中に、実レール圧の最大値を抽出し、フィルタリングの結果として出力するレール圧フィルタリング処理を実行可能に構成されてなるものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、レール圧が減圧状態にある場合には、フィルタリングを行う期間として設定されたフィルタリング期間中における実レール圧の最小値を抽出、出力して、レール圧制御に供することができるようにしたので、レール圧が減圧状態にある場合であってもフィルタリング期間中における実レール圧の最大値を抽出しレール圧制御に供する従来と異なり、レール圧のアンダーシュートが過大となるようなことが確実に抑圧、低減され、レール圧の過大なアンダーシュートに起因するエンストの発生や、コンポーネント寿命の低下を防止することができ、安定性、信頼性のあるレール圧制御を実現することができるという効果を奏するものである。
また、フィルタリング期間中に抽出するレール圧の値を、最大値から最小値へ変える場合、又は、最小値から最大値へ変える場合には、即座に変えるのではなく、一旦、フィルタリング期間中のレール圧の平均値を出力することで、フィルタリング処理後のレール圧の急激な変化が抑圧、低減されるため、安定性の高いレール圧制御を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施の形態におけるレール圧フィルタリング方法が適用されるコモンレール式燃料噴射制御装置の構成例を示す構成図である。
図2】本発明の実施の形態におけるレール圧フィルタリング方法の基本的手順を説明するためのステートマシン図である。
図3】本発明の実施の形態におけるコモンレール式燃料噴射制御装置において実行されるレール圧フィルタリング処理の手順を示すサブルーチンフローチャートである。
図4】本発明の実施の形態におけるレール圧フィルタリング処理のシミュレーション結果を従来のフィルタリング処理のシミュレーション結果と共に示す波形図である。
図5】従来のフィルタリング処理を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について、図1乃至図4を参照しつつ説明する。
なお、以下に説明する部材、配置等は本発明を限定するものではなく、本発明の趣旨の範囲内で種々改変することができるものである。
最初に、本発明の実施の形態におけるレール圧フィルタリング方法が適用されるコモンレール式燃料噴射制御装置の構成例について、図1を参照しつつ説明する。
本発明の実施の形態におけるコモンレール式燃料噴射制御装置は、高圧燃料の圧送を行う高圧ポンプ装置50と、この高圧ポンプ装置50により圧送された高圧燃料を蓄えるコモンレール1と、このコモンレール1から供給された高圧燃料を内燃機関としてのディーゼルエンジン(以下「エンジン」と称する)3の気筒へ噴射供給する複数のインジェクタ(燃料噴射弁)2−1〜2−nと、燃料噴射制御処理等や後述するレール圧フィルタリング処理などを実行する電子制御ユニット(図1においては「ECU」と表記)4を主たる構成要素として構成されたものとなっている。
かかる構成自体は、従来から良く知られているこの種のコモンレール式燃料噴射制御装置の基本的な構成と同一のものである。
【0012】
高圧ポンプ装置50は、供給ポンプ5と、調量弁6と、高圧ポンプ7とを主たる構成要素として公知・周知の構成を有してなるものである。
かかる構成において、燃料タンク9の燃料は、供給ポンプ5により汲み上げられ、調量弁6を介して高圧ポンプ7へ供給されるようになっている。調量弁6には、電磁式比例制御弁が用いられ、その通電量が電子制御ユニット4に制御されることで、高圧ポンプ7への供給燃料の流量、換言すれば、高圧ポンプ7の吐出量が調整されるものとなっている。
【0013】
なお、供給ポンプ5の出力側と燃料タンク9との間には、戻し弁8が設けられており、供給ポンプ5の出力側の余剰燃料を燃料タンク9へ戻すことができるようになっている。
また、供給ポンプ5は、高圧ポンプ装置50の上流側に高圧ポンプ装置50と別体に設けるようにしても、また、燃料タンク9内に設けるようにしても良いものである。
インジェクタ2−1〜2−nは、エンジン3の気筒毎に設けられており、それぞれコモンレール1から高圧燃料の供給を受け、電子制御ユニット4による噴射制御によって燃料噴射を行うようになっている。
【0014】
電子制御ユニット4は、例えば、公知・周知の構成を有してなるマイクロコンピュータ(図示せず)を中心に、RAMやROM等の記憶素子(図示せず)を有すると共に、インジェクタ2−1〜2−nを通電駆動するための回路(図示せず)や、調量弁6等を通電駆動するための回路(図示せず)を主たる構成要素として構成されたものとなっている。
かかる電子制御ユニット4には、コモンレール1の圧力を検出する圧力センサ11の検出信号が入力される他、エンジン回転数、アクセル開度、外気温度、大気圧などの各種の検出信号が、エンジン3の燃料噴射制御やレール圧制御、さらには、本発明の実施の形態におけるレール圧フィルタリング処理等に供するために入力されるようになっている。
【0015】
次に、図5を参照しつつ、本発明の実施の形態におけるレール圧フィルタリング処理を適用する前提となる、従来のフィルタリング処理について説明する。
この従来のフィルタリング処理は、先ず、概説すれば、所定の時間間隔(以下、説明の便宜上「フィルタリング周期」と称する)で、所定の時間幅(フィルタリング期間)の間に圧力センサ11により検出されるレール圧(以下、「実レール圧」と称する)の最大値を、その時点のレール圧として抽出して、レール圧制御へ対して検出されたレール圧として供するようにしたものである。
【0016】
かかるフィルタリング処理において、フィルタリング周期やフィルタリング期間は、高圧ポンプ7の回転数(以下、「ポンプ回転数」と称する)Npに応じて可変されるものとなっている。
図5には、ポンプ回転数が、3000rpm、1500rpm、1000rpmのそれぞれの場合について、フィルタリング周期とフィルタリング期間の設定例が示されている。
【0017】
この例では、ポンプ回転数が最も高い3000rpmの場合、脈動の周期が短くなることに対応してフィルタリング周期は10msに設定され、かつ、フィルタリング期間(図5(A)の網掛け部分)も10msとされている(図5(A)参照)。すなわち、毎10ms中で実レール圧の最大値が抽出されるものとなっている(図5(A)参照)。
なお、図5において、縦の矢印は、高圧ポンプの燃料圧送のタイミングを示しており、この図は、高圧ポンプ7が1回転する間に燃料が2回圧送される場合の例である。
【0018】
次に、ポンプ回転数が1500rpmの場合、フィルタリング周期は20msに設定される。そして、フィルタリング期間(図5(B)の網掛け部分)は20msに設定されると共に、隣接するフィルタリング期間と10msずつ重複するようにして設定され(図5(B)参照)、先に述べたように、それぞれのフィルタリング期間の中で、実レール圧の最大値が抽出されるものとなっている。
【0019】
次に、ポンプ回転数が1000rpmの場合、フィルタリング周期は30msに設定される。そして、フィルタリング期間(図5(C)の網掛け部分)は30msに設定されると共に、隣接するフィルタリング期間と20msずつ重複するようにして設定され(図5(C)参照)、先に述べたように、それぞれのフィルタリング期間の中で、実レール圧の最大値が抽出されるものとなっている。
【0020】
実レール圧に対してこのようなフィルタリング処理を施すことで、燃料圧送の脈動のピークが常にレール圧制御に供されることとなるため、燃料圧送の脈動が生じても、その影響をレール圧制御に与えることが無く、安定したレール圧制御が実現されるものとなっている。
【0021】
このような従来のフィルタリング処理は、定常運転状態にある場合や、レール圧昇圧時には問題がないが、レール圧が減圧される場合には、フィルタリング周期分だけ制御遅れが生じるため、場合によっては、レール圧の過大なアンダーシュートが発生し、最悪時には、エンストやコンポーネント寿命の低下を招く虞がある。
本発明の実施の形態におけるレール圧フィルタリング処理は、レール圧が減圧される場合にあってもレール圧の過大なアンダーシュートを発生することなく、高圧ポンプ7の燃料圧送の脈動の影響を受けることのないレール圧制御を可能するものである。
【0022】
図2には、本発明の実施の形態におけるレール圧フィルタリング処理の基本的手順を説明するためのステートマシン図が示されており、以下、同図を参照しつつ、本発明の実施の形態におけるレール圧フィルタリング処理について概括的に説明する。
本発明の実施の形態におけるレール圧フィルタリング処理は、従来と異なり、先に述べたフィルタリング期間において、所定の場合には、レール圧の最小値、又は、平均値を抽出するようにしたものである(詳細は後述)。
【0023】
すなわち、本発明の実施の形態におけるレール圧フィルタリング処理は、レール圧の減少が生じていない場合には、従来同様、フィルタリング期間においてレールの最大値を抽出する(最大レール圧抽出)一方、レール圧の減少が生じた場合には、フィルタリング期間におけるレール圧の平均値(詳細は後述)を抽出する(平均レール圧抽出)状態へ移行する(図2のS1参照)。
このレール圧の平均値の抽出は、所定時間の間行われ、所定時間経過後は、フィルタリング期間においてレール圧の最小値を抽出する(最小レール圧抽出)状態へ移行する(図2のS2参照)。
【0024】
そして、最小レール圧抽出状態において、レール圧の減少が生じなくなった場合には、再び、平均レール圧抽出状態へ移行し(図2のS3参照)、所定時間経過後、再び最大レール圧抽出状態へ復帰するものとなっている(図2のS4参照)。
【0025】
図3には、電子制御ユニット4により実行される本発明の実施の形態におけるレール圧フィルタリング処理の手順がサブルーチンフローチャートに示されており、以下、同図を参照しつつ、その内容について説明する。
電子制御ユニット4により処理が開始されると、最初に、現時点の指示レール圧から直近の指示レール圧を減算した値が、第1の基準指示圧Aより小さいか、又は、等しい状態にあるか否か、又は、レール圧偏差が基準偏差圧Cより小さいか、又は、等しい状態にあるか否かが判定される(図3のステップS102参照)。
【0026】
ここで、指示レール圧は、電子制御ユニット4において別途、従来通り実行されるレール圧制御処理において、車両の動作状態、例えば、アクセル開度、エンジン回転数等を基に、所定の演算式により算出されるもので、この時点でレール圧制御における目標とされるべきレール圧である。
また、この指示レール圧は、所定のタイミング毎に演算算出され更新されてゆくものである。なお、以下の説明、及び、図3においては、適宜、説明の便宜上、最新の指示レール圧、換言すれば、現時点の指示レール圧を「指示レール圧Set(n)」と、直近の指示レール圧を「指示レール圧Set(n-1)」と、それぞれ表記することとする。
【0027】
ステップS102において、指示レール圧は、電子制御ユニット4において別途実行されるレール圧制御処理において算出されたものを流用すれば足り、このステップS102において改めて演算算出する必要はないものである。
また、ステップS102における”レール圧偏差”は、現時点の指示レール圧から圧力センサ11により検出された実際のレール圧である実レール圧を減算した値を意味するものとする。
【0028】
ステップS102における上述の判定は、指示レール圧が下降しているか、又は、実レール圧が指示レール圧より高い状態にあるかを判定するためのものであるため、第1の基準指示圧Aと基準偏差圧Cは、いずれも負の値に設定されるものである。具体的に、如何なる値とするかは、車両の具体的な仕様等を考慮して、試験結果やシミュレーション結果等に基づいて、それぞれの車両に適した値とされるべきものであり、特定の値に限定されるものではない。
また、ステップS102において、上述のように、レール圧に関して2種類の判定を行うようにしたのは、いずれかの変化があれば、実レール圧の減圧が必要とされている状態にあると暫定的に推定できるためである。
【0029】
しかして、ステップS102において、現時点の指示レール圧Set(n)から直近の指示レール圧Set(n-1)を減算した値が、第1の基準指示圧Aより小さいか、又は、等しい状態にあると判定された場合(YESの場合)、若しくは、レール圧偏差が基準偏差圧Cより小さいか、又は、等しい状態にあると判定された場合(YESの場合)には、次述するステップS104の処理へ進むこととなる。
一方、ステップS102において、現時点の指示レール圧Set(n)から直近の指示レール圧Set(n-1)を減算した値が、第1の基準指示圧Aより小さいか、又は、等しい状態にはなく、かつ、レール圧偏差が基準偏差圧Cより小さいか、又は、等しい状態にないと判定された場合(NOの場合)には、後述するステップS112の処理へ進むこととなる。
【0030】
ステップS104においては、直近のフィルタリング処理においてフィルタリングの結果として出力された出力値(フィルタ出力値)が最大値出力であったか否かが判定される。
すなわち、先に説明したように、直近のフィルタリング処理、換言すれば、直近のフィルタリングタイミングにおいて、フィルタリング期間中の実レール圧の最大値が抽出されてフィルタリングの結果として出力されたか否かが判定され、最大値が抽出、出力されたと判定された場合(YESの場合)には、今回のフィルタリングタイミングにおけるフィルタリング期間中においては、実レール圧の平均値(平均レール圧)が抽出、出力されることとなる(図3のステップS106参照)。すなわち、今回のフィルタリング期間中においては、実レール圧の最小値と最大値が抽出され、その平均値、すなわち、(実レール圧の最小値+実レール圧の最大値)/2として表される平均レール圧が、フィルタリングの結果として出力されることとなる。
しかして、このステップS106の処理が実行された後は、図示されないメインルーチンへ一旦戻ることとなる。
【0031】
なお、この平均レール圧は、先に、図2を参照しつつ概括的に説明した本発明の実施の形態におけるレール圧フィルタリング処理における「平均値」に相当するものである。
上述のステップ102の処理からステップS106の処理へ至る部分は、先に図2で説明したステートマシン図のS1に相当する部分である。
【0032】
一方、ステップS104において、直近のフィルタリング処理におけるフィルタリングの出力結果は、先に説明した最大値出力ではないと判定された場合(NOの場合)には、現時点の指示レール圧Set(n)から直近の指示レール圧Set(n-1)を減算した値が、第2の基準指示圧Bより大きいか、又は、等しい状態にあるか否かが判定される(図3のステップS108参照)。
そして、ステップS108において、指示レール圧Set(n)から直近の指示レール圧Set(n-1)を減算した値が、第2の基準指示圧Bより大きいか、又は、等しい状態にあると判定された場合(YESの場合)には、レール圧が上昇している状態にあるとして、フィルタリング期間中の実レール圧の最大値(最大レール圧)が抽出されてフィルタリングの結果として出力され(図3のステップS110参照)、図示されないメインルーチンへ一旦戻ることとなる。
【0033】
ここで、第2の基準指示圧Bは、車両の具体的な仕様等を考慮して、試験結果やシミュレーション結果等に基づいて、それぞれの車両に適した値とされるべきものであり、特定の値に限定されるものではない。
なお、ステップS104の処理からステップS110の処理へ至る部分は、先に図2で説明したステートマシン図のS4に相当する部分である。
【0034】
一方、ステップS108において、指示レール圧Set(n)から直近の指示レール圧Set(n-1)を減算した値が、第2の基準指示圧Bより大きいか、又は、等しい状態ではないと判定された場合(NOの場合)には、実レール圧の減圧が必要とされている状態にあるとして、フィルタリング期間の中の実レール圧の最小値(最小レール圧)が抽出されてフィルタリングの結果として出力されて(図3のステップS118参照)、図示されないメインルーチンへ一旦戻ることとなる。
なお、上述のステップS102、S104、S108の各処理を経てステップS118の処理へ至る部分は、先に図2で説明したステートマシン図のS2に相当する部分である。
【0035】
一方、先のステップS102において、現時点の指示レール圧Set(n)から直近の指示レール圧Set(n-1)を減算した値が、第1の基準指示圧Aより小さいか、又は、等しい状態ではなく、また、レール圧偏差が基準偏差圧Cより小さいか、又は、等しい状態でもないと判定された場合(NOの場合)には、直近のフィルタリング処理において最小レール圧がフィルタリングの結果として出力されたか否かが判定される(図3のステップS112参照)。
【0036】
そして、ステップS112において、直近のフィルタリング処理において最小レール圧がフィルタリングの結果として出力されたと判定された場合(YESの場合)には、ステップS102及びS112の判定結果から、レール圧は上昇し始める状態にあるか、又は、定常状態にあるとして、今回のフィルタリングの結果として、先のステップS106の処理同様、平均レール圧が出力され(図3のステップS114参照)、図示されないメインルーンへ一旦戻ることとなる。
なお、上述のステップS102及びS112の各処理を経て、ステップS114の処理へ至る部分は、先に図2で説明したステートマシン図のS3に相当する部分である。
【0037】
一方、ステップS112において、直近のフィルタリング処理において最小レール圧がフィルタリングの結果として出力されてはいないと判定された場合(NOの場合)には、レール圧は上昇しているとして、フィルタリング期間中の実レール圧の最大値(最大レール圧)が抽出されてフィルタリングの結果として出力され(図3のステップS116参照)、図示されないメインルーンへ一旦戻ることとなる。
【0038】
図4には、本発明の実施の形態におけるレール圧フィルタリング処理によって得られたフィルタ出力のシミュレーション結果を示す波形図が従来のフィルタリング処理によって得られたフィルタリング出力のシミュレーション結果と共に示されており、以下、同図を参照しつつ、その内容について説明する。
同図は、フィルタリング処理を施す前のレール圧を1に正規化してフィルタリング処理を行った場合のシミュレーション結果を示すもので、同図において、横軸は時間の経過を示し、縦軸はレール圧の大きさを示すものとなっている。
【0039】
同図において、実線の特性線は、フィルタリング処理を施す前の正規化されたレール圧の変化を示し、破線の特性線は、従来のフィルタリング処理を施した後のレール圧の変化を示し、二点鎖線の特性線は、本発明の実施の形態におけるフィルタリング処理を施した後のレール圧の変化を示すものとなっている。
【0040】
まず、従来のフィルタリング処理においては、先に説明したように、フィルタ期間におけるレール圧の最大値を抽出してフィルタリングの結果として出力するだけのため、レール圧が下降した場合の追従性が悪く、図4において点線の特性線に示されたように、大きなアンダーシュートが生ずる。
これに対して、本発明の実施の形態におけるフィルタリング処理では、多少のアンダーシュートは残るものの、図4の二点鎖線で示されたように従来に比してレール圧下降時におけるアンダーシュートの発生が確実に抑圧、低減されたものとなることが理解できる。
このようなフィルタリング処理後のレール圧を、レール圧制御に用いることによって、従来とは異なり、より安定性、信頼性の高いレール圧制御が実現されることとなる。
【産業上の利用可能性】
【0041】
レール圧の減圧時におけるレール圧制御のさらなる安定性、信頼性が所望されるコモンレール式燃料噴射制御装置に適用できる。
【符号の説明】
【0042】
1…コモンレール
4…電子制御ユニット
7…高圧ポンプ
図1
図2
図3
図4
図5