(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
重合触媒と酸性化合物と、水と、歯科用コンディショニング組成物100質量%に対して5〜15質量%の増粘材とを含有するゲル性状の歯科用コンディショニング組成物であって、そのpH(水素イオン指数 )が0.1〜0.9の範囲内である、歯科用コンディショニング組成物。
酸性化合物が、リン酸、塩酸、クエン酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、酒石酸、乳酸、ヒドロキシ安息香酸、トリヒドロキシ安息香酸、ベンゼンカルボン酸およびフタル酸、ならびにポリアクリル酸、ポリイタコン酸、ポリマレイン酸およびこれらの組合せから成る群から選択されることを特徴とする、請求項1記載の歯科用コンディショニング組成物。
重合触媒が、バルビツール酸、1,3−ジメチルバルビツール酸、1,3−ジフェニルバルビツール酸、1,5−ジメチルバルビツール酸、5−ブチルバルビツール酸、5−エチルバルビツール酸、5−イソプロピルバルビツール酸、5−シクロヘキシルバルビツール酸、1,3,5−トリメチルバルビツール酸、1,3−ジメチル−5−エチルバルビツール酸、1,3−ジメチル−n−ブチルバルビツール酸、1,3−ジメチル−5−イソブチルバルビツール酸、1,3−ジメチル−5−tert−ブチルバルビツール酸、1,3−ジメチル−5−シクロペンチルバルビツール酸、1,3−ジメチル−5−シクロヘキシルバルビツール酸、1,3−ジメチル−5−フェニルバルビツール酸、1−シクロヘキシル−5−エチルバルビツール酸、1−べンジル−5−フェニルバルビツール酸、チオバルビツール酸類、N-シクロヘキシル-5-プロピルバルビツール酸、5−ブチルバルビツール酸ナトリウム、1,3,5−トリメチルバルビツール酸ナトリウム、1,3,5−トリメチルバルビツール酸カルシウム、および1−シクロヘキシル−5−エチルバルビツール酸ナトリウムよりなる群から選択される少なくとも1つであることを特徴とする請求項1記載の歯科用コンディショニング組成物。
【背景技術】
【0002】
従来、矯正材料、小窩裂溝封鎖材料等の歯科用材料を未研削エナメル質に接着させる場合は、酸エッチング材を未研削エナメル質に対して塗布・水洗・乾燥させ、酸処理を行ったエナメル質面に対して、歯科用材料を圧接あるいは填塞させる接着術式が行われてきた。酸エッチング材を用いたこの接着術式では、酸エッチング材によるエナメル質の脱灰により粗造面が形成され、歯科用材料の浸透および硬化に基づくマクロな機械的嵌合により接着性能が発現される。酸エッチング材は、一般的に液体であるので、塗布工程における良好な作業性を有している。しかし、酸エッチング材は、流動性が高いので、目的部位以外にも流動し、浸透するという欠点を有している。このため、酸エッチング材が目的部位以外に流動した場合においては、脱灰部分の露出による二次う蝕の誘発などの問題点も指摘されている。
【0003】
さらに、酸エッチング材を窩洞形成後の象牙質に適用した場合においては、象牙質中の有機成分(コラーゲン)が変性したり、エア乾燥時にコラーゲンが収縮して接着強度の低下を招くことも指摘されている。
【0004】
酸エッチング材による酸処理後、歯科用接着性組成物を適用し歯面と歯科用材料を接着させる従来法の他に、近年、酸エッチング材による酸処理を行わずに、歯科用接着性組成物の適用により歯面と歯科用材料を接着させる接着方法も提案されている。この場合に用いる歯科用接着性組成物は、酸性基を分子内に有する接着性モノマー(以下:酸性モノマー)を配合することで、歯面を脱灰する酸処理と、モノマーを浸透させるプライマー処理とを同時に行うことができる。このように、酸処理とプライマー処理とを同時に行うセルフエッチング機能を有する歯科用接着性組成物が使用されている。
【0005】
上記のセルフエッチング機能を有する歯科用接着性組成物を用いた場合においては、過度なエナメル質の脱灰や象牙質のコラーゲン変性等の問題点がなく、操作も簡便であることから多くの製品群が上市されるようになった。
【0006】
近年、患者や歯科医における予防意識の向上により歯科医院での歯面へのフッ素塗布や、家庭内での歯磨きの際にはフッ素配合歯磨材が使われるようになり歯面の耐酸性が向上する傾向が認められる。このように歯面の耐酸性が向上した場合においては、セルフエッチング機能を有する歯科用接着性組成物の適用だけでは接着強度の低下が懸念されている。特に未研削エナメル質を被着対象とする小窩裂溝封鎖材料や矯正材料では、セルフエッチング機能を有する歯科用接着性組成物の適用だけでは脱灰作用が不十分になり接着性の低下が深刻な問題となる。
【0007】
このような背景のもと、酸性度を下げることにより脱灰による歯面へのダメージを低減した酸エッチング材が以下に提案されている。
【0008】
例えば、特許文献1には有機カルボン酸及びリン酸鉄の水溶液からなる歯科用前処理剤により、窩洞形成後の象牙質表面にあるデンチナルプラグを部分的に残し、歯髄への刺激を低減させる技術が提案されている。また、特許文献2には分子中にカルボキシル基を有する分子量が1000〜500000の高分子化合物を水、アルコール又はこれらの混合物を主体とする溶媒に溶解して構成される歯科用酸処理剤により、窩洞形成後の象牙質への過度の脱灰を抑制し歯髄為害性を低減する技術が提案されている。しかしこれらの技術では酸性度を弱めつつ象牙質へのダメージを低減しているものの、未研削エナメル質あるいは窩洞形成後のエナメル質への接着性が不十分という課題があった。
【0009】
また、特許文献3にはリン酸塩を溶解して含有するpHが3以下の酸性水溶液からなる歯科用前処理剤により、脱灰後の象牙質表層のコラーゲンの変性を抑制し、コラーゲン収縮による接着阻害を防止する技術が提案されている。しかしこの技術では、象牙質への浸透性が高い低粘性の酸性水溶液を用いることから、脱灰部位が象牙質表層に限局されず深部に到達し、その結果、歯髄等への為害作用が生じやすいという課題があった。
【0010】
一方、酸エッチング材に重合触媒を添加することにより、酸処理後に使用する歯科用接着性組成物の重合反応を促進しつつ、エナメル質及び象牙質に対して高い接着強さを獲得する技術が特許文献4に開示されている。しかし、特許文献4の発明も、特許文献3の発明と同様に、象牙質への浸透性が高い低粘性の処理剤であるので、脱灰部位が象牙質表層に限局されず深部に到達し、その結果、歯髄等への為害作用が生じやすいという課題があった。同様にエナメル質に対して使用した場合においては、過度に脱灰しやすくなる問題も認められた。また、特許文献4の発明においては、用いる重合触媒の種類によって、象牙質またはエナメル質のいずれかに対する接着性が著しく低下してしまうという問題が生じていた。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の歯科用コンディショニング組成物における各成分について詳細に説明する。
本発明の歯科用コンディショニング組成物に用いることができる酸性化合物は酸性基含有重合性単量体以外で、且つ水に溶解して酸性を示すものであれば何等制限なく用いることができる。酸性化合物が酸性基含有重合性単量体である場合は共存する重合触媒と何らかの反応が起こり、様々な問題、例えば酸性基含有重合性単量体の重合反応、重合触媒の活性抑制、組成物の性状変化による保存安定性の低下等が生じる。歯科用コンディショニング組成物に用いることができる酸性化合物を例示すると、リン酸、塩酸、クエン酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、酒石酸、乳酸、ヒドロキシ安息香酸、トリヒドロキシ安息香酸、ベンゼンカルボン酸およびフタル酸、ならびにポリアクリル酸、ポリイタコン酸、ポリマレイン酸等又はこれらの共重合体等が挙げられる。これらの酸性化合物を単独もしくは2種以上組み合わせて配合してもよい。
【0020】
酸性化合物は用いる化合物に応じて酸性度が異なるため、その配合量は特に限定されない。しかし、歯科用コンディショニング組成物のpHが0.1〜0.9の範囲内になるように配合することが必要である。歯科用コンディショニング組成物のpHは、好ましくは0.1〜0.5である。
これらの範囲にpH値を有することにより、フッ素塗布などにより耐酸性が向上した未研削エナメル質に対する十分な接着性が得られ、未研削エナメル質の過脱灰やコラーゲンの変性を防ぐことができ、ひいては、象牙質への十分な接着性を示し、歯髄への為害作用を防ぐことができる。
【0021】
pHの測定方法は、当該技術分野において既知の方法を採用できる。例えば、歯科用コンディショニング組成物をイオン交換水で10倍希釈し、この希釈液のpHを、ガラス電極式水素イオン濃度指示計を用いて測定し、測定したpHから1.0を引いた値を、本発明の歯科用コンディショニング組成物のpHとすることができる。
【0022】
本発明の歯科用コンディショニング組成物にコロイダルシリカ、グリセリン、ポリエチレングリコール等の増粘材を配合してゲル性状を付与することが重要となる。増粘材の配合量は、歯科用コンディショニング組成物100質量%に対して、2〜20質量%の範囲、好ましくは3〜15質量%の範囲、より好ましくは4〜10質量%の範囲である。このような範囲で増粘材を配合させることにより、歯科用コンディショニング組成物の粘性が低下することなく、歯面に対する歯科用コンディショニング組成物の浸透性が適正に保たれ、過度な脱灰を防ぐことができる。そのため、エナメル質の過脱灰やコラーゲンの変性による象牙質への接着性低下、歯髄への為害作用を防ぐことができる。さらに、歯科用コンディショニング組成物をボトルおよびシリンジなどの容器から直接塗布できる粘性がもたらされる。また、水洗時においても、歯科用コンディショニング組成物を歯面から除去できる粘度を示すので、優れた操作性を示す。さらに、歯面に対する歯科用コンディショニング組成物の浸透が十分に進行し、効果的に脱灰作用を生じることができる。
【0023】
歯科用コンディショニング組成物の粘性は、流動距離により評価することが可能であり、粘性が上昇すると流動距離は低下し、粘性が低下すると流動距離は増加する関係にある。歯科用コンディショニング組成物の流動距離は、実施例記載の方法により求めることができ、0〜5mmの範囲であれば何等問題なく使用することできる。好ましくは0〜3mmの範囲であり、より好ましくは0〜2mmの範囲である。例えば、流動距離は、0.1〜3mmの範囲であってもよい。
このような範囲に流動距離を示す場合、歯科用コンディショニング組成物は十分な粘性を有しており、本発明において規定されるゲル性状を有することになる。また、ゲル性状を有することにより、目的部位の表層に該組成物を保持でき、かつ、歯面に対する歯科用コンディショニング組成
物の浸透を表層に限局できるので、エナメル質の過脱灰を防ぎ、エナメル質に対する接着強さを向上させることが可能となる。象牙質に対しては象牙質中の有機成分(コラーゲン)が変性すること、およびエア乾燥時にコラーゲンが収縮して接着強度の低下を招くことを防ぐことが可能となるので、象牙質への接着強さを向上させることができる。さらに、歯髄等への為害作用を防ぐことができる。
また、複雑な形態の窩洞内部の歯面であっても、本発明に係る歯科用コンディショニング組成物を保持できるので、目的部位以外に酸性組成物が流動および浸透することによる二次う蝕の誘発などを防ぐことができる。
加えて、本発明における歯科用コンディショニング組成物は、ゲル性状でありながらも、例えば、シリンジなどを用いて塗布するできる粘性を有し、かつ、塗布後には歯の表面に静置できる粘性を有する。さらに好ましくは、本発明における歯科用コンディショニング組成物は、チクソトロピー性を有する。
【0024】
本発明の歯科用コンディショニング組成物に用いることができる重合触媒は特に限定されず、公知のラジカル発生剤が何等制限なく用いられる。重合触媒の種類としては化学重合触媒、光重合触媒に大別されるが、重合様式に関係なくいずれも単独又は複数を組み合わせて用いることができる。
【0025】
前述の化学重合触媒としては、有機過酸化物/アミン化合物、有機過酸化物/アミン化合物/スルフィン酸塩、有機過酸化物/アミン化合物/バルビツール酸、または有機過酸化物/アミン化合物/ボレート化合物からなるレドックス型の重合触媒系、酸素や水と反応して重合を開始する有機ホウ素化合物類、過硼酸塩類、過マンガン酸塩類、過硫酸塩類等の重合触媒系が挙げられる。
【0026】
有機過酸化物を具体的に例示すると、ベンゾイルパーオキサイド、パラクロロベンゾイルパーオキサイド、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド、アセチルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ターシャリーブチルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、2,5−ジメチルヘキサン
−2,5−ジハイドロパーオキサイド、メチルエチルケトンパーオキサイド、ターシャリーブチルパーオキシベンゾエード等が挙げられる。
【0027】
アミン化合物としては、アミン基がアリール基に結合した第2級または第三級アミンが好ましく、具体的に例示するとN,N−ジメチル−p−トルイジン、N,N−ジメチルアニリン、N−β−ヒドロキシエチル−アニリン、N,N−ジ(β−ヒドロキシエチル)−アニリン、N,N−ジ(β−ヒドロキシエチル)−p−トルイジン、N−メチル−アニリン、N−メチル−p−トルイジン等が挙げられる。
【0028】
スルフィン酸塩類として具体的に例示すると、ベンゼンスルフィン酸ナトリウム、ベンゼンスルフィン酸リチウム、p−トルエンスルフィン酸ナトリウム等が挙げられる。
ボレート化合物として具体的に例示すると、トリアルキルフェニルホウ素、トリアルキル(p−フロロフェニル)ホウ素(アルキル基はn−ブチル基、n−オクチル基、n−ドデシル基等)のナトリウム塩、リチウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、テトラブチルアンモニウム塩、テトラメチルアンモニウム塩などが挙げられる。
【0029】
有機ホウ素化合物を具体的に例示すると、トリフ
ェニルボラン、トリブチルボラン、トリブチルボラン部分酸化物等が、過硼酸塩を具体的に例示すると、過硼酸ナトリウム等が、過マンガン酸塩を具体的に例示すると、過マンガン酸アンモニウム、過マンガン酸カリウム、過マンガン酸ナトリウム等が、過硫酸塩を具体的に例示すると、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム等が挙げられる。
【0030】
バルビツール酸類として具体的に例示すると、バルビツール酸、1,3−ジメチルバルビツール酸、1,3−ジフェニルバルビツール酸、1,5−ジメチルバルビツール酸、5−ブチルバルビツール酸、5‐エチルバルビツール酸、5‐イソプロピルバルビツール酸、5‐シクロヘキシルバルビツール酸、1,3,5−トリメチルバルビツール酸、1,3−ジメチル−5−エチルバルビツール酸、1,3−ジメチル−n−ブチルバルビツール酸、1,3−ジメチル−5−イソブチルバルビツール酸、1,3−ジメチル−5−tert−ブチルバルビツール酸、1,3−ジメチル−5−シクロペンチルバルビツール酸、1,3−ジメチル−5−シクロヘキシルバルビツール酸、1,3−ジメチル−5−フェニルバルビツール酸、1−シクロヘキシル−5−エチルバルビツール酸、1−
ベンジル−5−フェニルバルビツール酸、チオバルビツール酸類およびN-シクロヘキシル-5-プロピルバルビツール酸、ならびにこれらの塩(特にアルカリ金属またはアルカリ土類金属が好ましい)、例えば、5−ブチルバルビツール酸ナトリウム、1,3,5−トリメチルバルビツール酸ナトリウム、1,3,5−トリメチルバルビツール酸カルシウム、および1−シクロヘキシル−5−エチルバルビツール酸ナトリウム等が挙げられる。
【0031】
光重合触媒としては、光増感剤のみの系からなるもの又は光増感剤/光重合促進剤の組み合わせからなるもの等が挙げられる。
【0032】
光重合触媒として用いることができる光増感剤を具体的に例示すると、ベンジル、カンファーキノン、α−ナフチル、アセトナフセン、p,p’−ジメトキシベンジル、p,p’−ジクロロベンジルアセチル、ペンタンジオン、1,2−フェナントレンキノン、1,4−フェナントレンキノン、3,4−フェナントレンキノン、9,10−フェナントレンキノン、ナフトキノン等のα−ジケトン類、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル等のベンゾインアルキルエーテル類、チオキサントン、2−クロロチオキサントン、2−メチルチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン、2−メトキシチオキサントン、2−ヒドロキシチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2,4−ジイソプロピルチオキサントン等のチオキサントン類、ベンゾフェノン、アセトインベンゾフェノン、p−クロロベンゾフェノン、p−メトキシベンゾフェノン等のベンゾフェノン類、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルフォスフィンオキサイド等のアシルフォスフィンオキサイド類、2−ベンジル―ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1、2−ベンジル―ジエチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−プロパノン−1等のα-アミノアセトフェノン類、ベンジルジメチルケタール、ベンジルジエチルケタール、ベンジル(2−メトキシエチルケタール)等のケタール類、ビス(シクロペンタジエニル)−ビス[2,6−ジフルオロ−3−(1−ピロリル)フェニル]−チタン、ビス(シクロペンタジエニル)−ビス(ペンタンフルオロフェニル)−チタン、ビス(シクロペンタジエニル)−ビス(2,3,5,6−テトラフルオロ−4−ジシロキシフェニル)−チタン等のチタノセン類等が挙げられる。
【0033】
光重合触媒として用いることができる光重合促進剤を具体的に例示すると、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジエチルアニリン、N,N−ジ−n−ブチルアニリン、N,N−ジベンジルアニリン、N,N−ジメチル−p−トルイジン、N,N−ジメチル−m−トルイジン、N,N−ジエチル−p−トルイジン、p−ブロモ−N,N−ジメチルアニリン、m−クロロ−N,N−ジメチルアニリン、p−ジメチルアミノベンズアルデヒド、p−ジメチルアミノアセトフェノン、p−ジメチルアミノベンゾイックアシッド、p−ジメチルアミノベンゾイックアシッドエチルエステル、p−ジメチルアミノベンゾイックアシッドアミノエステル、N,N−ジメチルアンスラニリックアシッドメチルエステル、N,N−ジヒドロキシエチルアニリン、N,N−ジヒドロキシエチル−p−トルイジン、p−ジメチルアミノフェニルアルコール、p−ジメチルアミノスチレン、N,N−ジメチル−3,5−キシリジン、4−ジメチルアミノピリジン、N,N−ジメチル−α−ナフチルアミン、N,N−ジメチル−β−ナフチルアミン、トリブチルアミン、トリプロピルアミン、トリエチルアミン、N−メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン、N,N−ジメチルヘキシルアミン、N,N−ジメチルドデシルアミン、N,N−ジメチルステアリルアミン、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート、N,N−ジエチルアミノエチルメタクリレート、2,2’−(n−ブチルイミノ)ジエタノール等の第三級アミン類、N−フェニルグリシン等の第2級アミン類、5−ブチルバルビツール酸、1−ベンジル−5−フェニルバルビツール、1,3,5−トリメチルバルビツール酸、1,3,5−トリメチルバルビツール酸ナトリウム、1,3,5−トリメチルバルビツール酸カルシウム酸等のバルビツール酸類、ジブチルスズジアセテート、ジブチルスズジラウレート、ジオクチルスズジラウレート、ジオクチルスズジバーサテート、ジオクチルスズビス(メルカプト酢酸イソオクチルエステル)塩、テトラメチル−1,3−ジアセトキシジスタノキサン等のスズ化合物類、ラウリルアルデヒド、テレフタルアルデヒド等のアルデヒド化合物類、ドデシルメルカプタン、2−メルカプトベンゾオキサゾール、1−デカンチオール、チオサルチル酸等の含イオウ化合物等が挙げられる。
【0034】
これらの重合触媒の中でも、歯科用コンディショニング組成物を水洗により除去した後においても、歯面や窩洞表面におけるヒドロキシアパタイトやコラーゲンとの相互作用により、それらの表面に残存し易く、また歯科用接着組成物との重合反応に寄与する観点から下記の一般式[1]で表せるバルビツール酸又はその誘導体を用いることが好ましく、より好ましくは5−ブチルバルビツール酸、1,3,5−トリメチルバルビツール酸、1−シクロヘキシル−5−エチルバルビツール酸および1−ベンジル−5−フェニルバルビツール酸等を用いることである。
【0035】
【化1】
(式中、R1、R2及びR3は同一もしくは異なっていてもよく、それぞれハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、アリール基又はシクロヘキシル基等の置換基を有しても良い脂肪族、芳香族、脂環式又は複素環式残基もしくは水素原子を表す。)
【0036】
本発明の歯科用コンディショニング組成物に用いる重合触媒の配合量は、歯科用コンディショニング組成物100質量%に対して、0.1〜25質量%の範囲であり、好ましくは0.2〜10質量%の範囲、より好ましくは0.5〜2.0質量%の範囲である。このような範囲に重合触媒の配合
量を有することにより、良好な接着性がもたらされる。
【0037】
本発明の歯科用コンディショニング組成物に用いることができる水は医療用成分として臨床上受容され、本発明の歯科用コンディショニング組成物の成分並びに接着効果に有害な不純物を本質的に含まないものであれば何等用いることができる。例えば、蒸留水(又は精製水)又はイオン交換水(又は脱イオン水)が好ましい。水の配合量は重合触媒及び酸性化合物の合計配合量の100質量%から差し引いた量であり、配合量は10〜98質量%の範囲である。好ましくは20〜70質量%の範囲であり、より好ましくは30〜60質量%の範囲である。水の配合量がこのような範囲にあるので、歯科用コンディショニング組成物の粘性を低下させることなく、歯面に対する歯科用コンディショニング組成物の浸透性を適切に保持でき、さらには脱灰が過度に進行することを防ぐことができる。そのため、エナメル質の過脱灰やコラーゲンの変性による象牙質への接着性低下、歯髄への為害作用を防ぐことができる。さらには、フッ素塗布などにより耐酸性が向上した未研削エナメル質に対する接着性を良好に保つことができる。
【0038】
本発明の歯科用コンディショニング組成物に着色材を配合することも可能である。着色材の種類及び濃度は特に限定されないが、歯面塗布時には歯科用コンディショニング組成物の存在が目視で容易に識別でき、且つ水洗時には歯科用コンディショニング組成物が歯面上に残っていないことを目視にて確認できることが好ましい。
本発明の歯科用コンディショニング組成物に用いることのできる無機着色剤を具体的に例示すると、黄鉛、亜鉛
黄、バリウム黄等のクロム酸塩;紺青等のフェロシアン化物;銀朱、カドミウム黄、硫化亜鉛、アンチモン白、カドミウムレッド等の硫化物;硫酸バリウム、硫酸亜鉛、硫酸ストロンチウム等の硫酸塩;亜鉛華、チタン白、ベンガラ、鉄黒、酸化クロム等の酸化物;水酸化アルミニウム等の水酸化物;ケイ酸カルシウム、群青等のケイ酸塩;カーボンブラック、グラファイト等の炭素等が挙げられる。
さらに、本発明の歯科用コンディショニング組成物に用いることのできる有機着色材を具体的に例示すると、ナフトールグリーンB、ナフトールグリーンY等のニトロソ系顔料;ナフトールS、リソールファストイエロー2G等のニトロ系顔料、パーマネントレッド4R、ブリリアントファストスカーレット、ハンザイエロー、ベンジジンイエロー等の不溶性アゾ系顔料;リソールレッド、レーキレッドC、レーキレッドD等の難溶性アゾ系顔料;ブリリアントカーミン6B、パーマネントレッドF5R、ピグメントスカーレット3B、ボルドー10B等の可溶性アゾ系顔料;フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、スカイブルー等のフタロシアニン系顔料;ローダミンレーキ、マラカイトグリーンレーキ、メチルバイオレットレーキ等の塩基性染料系顔料;ピーコックブルーレーキ、エオシンレーキ、キノリンイエローレーキ等の酸性染料系顔料等が挙げられる。
【0039】
また、歯科用コンディショニング組成物には、フッ素徐放性材料、変色防止剤、抗菌材、その他の従来公知の添加剤等の成分を、必要に応じて任意に添加することができる。本発明の歯科用コンディショニング材組成物の包装形態は特に限定されず、1パック、および2パック包装形態、または、それ以外の形態のいずれも可能であり、用途に応じて選択することができる。
【実施例】
【0040】
本発明を実施例及び比較例によってさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるのではない。
以下の実施例及び比較例にて調製した歯科用コンディショニング組成物の性能を評価する試験方法は次の通りである。
【0041】
(1)接着試験用包埋エナメル質(耐酸性の向上したエナメル質)の作製
屠殺後、抜去した牛歯下顎永久歯中切歯を24時間以内に冷凍保存したものを解凍後、歯根部の除去および歯冠部の切断を行って牛歯細片を作製し、その牛歯細片をエポキシ樹脂にて包埋を行った。その包埋牛歯を注水下、#600番の耐水研磨紙にてエナメル質を露出させた。
その後、エナメル質を露出させた包埋牛歯をフッ化ナトリウム水溶液(フッ素濃度1000ppm)に1か月浸漬させ、耐酸性が向上したエナメル質を作製した。
【0042】
(2)接着試験用包埋象牙質の作製
牛歯エナメル質と同様に切断・包埋した牛歯を注水下、#600番の耐水研磨紙にて象牙質を露出させた。
【0043】
(3)接着試験
耐酸性の向上したエナメル質及び象牙質を乾燥させた。この露出したエナメル質又は象牙質に直径4mmの穴の空いた両面テープを貼って接着面を規定した。その規定した接着面に実施例または比較例の歯面コンディショニング組成物を塗布した。30秒後、水洗・乾燥を実施した。その後、セルフエッチング機能を有する歯科用接着組成物であるビューティボンドマルチを用いてメーカー指示通りの方法で接着処理を行った。その後、その接着処理した面にプラスチックモールド(内径4mm、高さ2mm)を固定して、光重合型コンポジットレジン(ビューティフィルII、株式会社松風製)をそのモールド内部に充填し、光重合照射器(グリップライトII、株式会社松風製)を用いて20秒間光照射を行い硬化させた。硬化後、モールドを除去し、それを接着試験体とした。この接着試験体を37℃蒸留水中に24時間浸漬後、インストロン万能試験機(インストロン5567、インストロン社製)を用いてクロスヘッドスピード1mm/分で剪断接着強さによる歯質接着性試験を行った。試験体数は6個としその平均値を接着強さとした。なお、比較例1は歯面コンディショニング処理を行わず、ビューティボンドマルチによる接着操作、及びビューティフィルIIによる充填操作を行った。
【0044】
(4)流動性試験
歯科用コンディショニング組成物0.03gをガラス板上に静置した。その後、30秒間ガラス板を垂直にした。30秒後歯科用コンディショニング組成物が流動した流動距離を測定した。
【0045】
(5)処理面の観察
屠殺後、抜去した牛歯下顎永久歯中切歯を24時間以内に冷凍保存したものを解凍後、歯根部の除去および歯冠部の切断を行って牛歯細片を作製し、その牛歯細片をエポキシ樹脂にて包埋を行う。その包埋牛歯を注水下、#600番の耐水研磨紙にてエナメル質を露出させ、#1200番において最終研磨を行った。歯科用コンディショニング組成物を用いて30秒間処理し、水洗および乾燥を行った。処理面を走査型電子顕微鏡(SEM)にて表面観察を行った。
【0046】
(6)歯科用コンディショニング組成物のpHの測定方法。
歯科用コンディショニング組成物をイオン交換水で10倍希釈し、この希釈液のpHを、ガラス電極式水素イオン濃度指示計(pH METERF-22、堀場製作所製)を用いて測定し、測定したpHから1.0を引いた値を、歯科用コンディショニング組成物のpHとした。
【0047】
本発明の実施例及び比較例に使用した成分名およびその略号を以下に示す。
PAA: ポリアクリル酸
TMBA: 1,3,5−トリメチルバルビツール酸
CPBA: N-シクロヘキシル-5-プロピルバルビツール酸
#200: AEROSIL
(登録商標) 200
【0048】
表1において、実施例および比較例において用いた歯科用コンディショニング組成物の組成を示す。
【0049】
【表1】
【0050】
表2において、実施例および比較例の歯科用コンディショニング組成物に関する試験結果を示す。
【0051】
【表2】
【0052】
表2に示すように、実施例1〜10の歯科用コンディショニング組成物は、pHの範囲が0.1〜0.9にあり、耐酸性の向上したエナメル質に対しても良好な脱灰作用を示し、エナメル質に対する接着強さが向上した。さらに、それらの流動距離が0〜1.8mmの範囲にあることから、歯科用コンディショニング組成物が象牙質の深部にまで浸透してコラーゲン繊維を変性することがなく、また、エア乾燥時にコラーゲンが収縮することもないので、象牙質に対する良好な接着強さが認められた。また、実施例1〜10の歯科用コンディショニング組成物に添加された重合触媒の効果により、歯科用コンディショニング組成物による酸処理後に使用したビューティボンドマルチの重合活性が向上し、特に象牙質に対する接着強さが向上した。
【0053】
一方、表2の比較例1は歯科用コンディショニング組成物を用いず、ビューティボンドマルチのみを用いて接着試験を行った結果である。フッ素化処理により耐酸性の向上したエナメル質に対しては接着強さが乏しく、歯科用コンディショニング組成物を用いずにビューティボンドマルチのみを適用した場合、耐酸性の向上したエナメル質に対して十分な脱灰作用を得られないことが明らかとなった。
比較例2および3では、歯科用コンディショニング組成物に配合した酸性化合物の配合量が少なく、それらのpHが1.0以上であった。この影響により脱灰作用が不足し耐酸性の向上したエナメル質に対する接着強さが低下した。その反対に、比較例4は酸性化合物の配合量が多くpHが0.1を下回った。その結果、耐酸性の向上したエナメルに対する接着強さは高いものの、象牙質に対して過度な脱灰を生じ象牙質への接着強さが低下した。
比較例5は増粘材を配合しないために、粘性が低下し流動距離が9.5mmであった。このことから歯科用コンディショニング組成物の象牙質に対する浸透が促進され、深部まで脱灰が及んだことから象牙質に対する接着強さが低下したものと考えられる。
比較例6は増粘材を過剰に配合したため、歯科用コンディショング組成物の粘性が上昇して性状が固体となった。このため、シリンジやボトル容器からの歯科用コンディショング組成物の吐出性が著しく低下した。さらに歯面に対する歯科用コンディショニング組成物の浸透が低下することによりエナメル質に対する接着強さが低下した。
比較例7は歯科用コンディショング組成物に重合触媒を配合していないため、歯科用コンディショニング組成物による酸処理後に使用したビューティボンドマルチの重合活性が向上できず、象牙質に対する接着強さが低下した。
比較例8の組成物は固体であるために、比較例6と同様にシリンジやボトル容器からの歯科用コンディショング組成物の吐出性が著しく低下した。さらに歯面に対する歯科用コンディショニング組成物の浸透が低下することによりエナメル質に対する接着強さが著しく低下した。
比較例9は、増粘剤を配合していない。このため、粘性が低下し、目的とする部分へ処理する際の操作性が悪い。また、比較例5と同様に、象牙質の深部まで脱灰され、接着強さが低下した。
比較例10の組成物はゲル状であるものの、pHが0.05であった。接着試験の結果によれば、象牙質の脱灰が進み、象牙質の接着強さが低下した。
比較例11の組成物はゲル状であるものの、pHが2.7であった。接着試験の結果によれば、フッ素化したエナメル質に対する脱灰力が不足し、接着強さが低下した。
【0054】
(SEM観察)
図1に、#1200番エナメル質研磨面を、
図2に、実施例1記載の歯科用コンディショニング組成物によるエナメル質処理面を示す。
図2から明らかなように、本発明の歯科用コンディショニング組成物によるエナメル質処理面は、接着不良の原因となるスメア層を除去しつつ、脱灰が歯質表層のみに限定されている。