特許第6282582号(P6282582)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6282582皮膚老化の徴候を低減または遅延させるための、ジンゲロンまたはその誘導体の使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6282582
(24)【登録日】2018年2月2日
(45)【発行日】2018年2月21日
(54)【発明の名称】皮膚老化の徴候を低減または遅延させるための、ジンゲロンまたはその誘導体の使用
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/34 20060101AFI20180208BHJP
   A61K 8/35 20060101ALI20180208BHJP
   A61Q 19/08 20060101ALI20180208BHJP
   A61K 31/121 20060101ALI20180208BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20180208BHJP
【FI】
   A61K8/34
   A61K8/35
   A61Q19/08
   A61K31/121
   A61P17/00
【請求項の数】6
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-501663(P2014-501663)
(86)(22)【出願日】2012年3月30日
(65)【公表番号】特表2014-509631(P2014-509631A)
(43)【公表日】2014年4月21日
(86)【国際出願番号】EP2012055886
(87)【国際公開番号】WO2012131072
(87)【国際公開日】20121004
【審査請求日】2015年3月6日
(31)【優先権主張番号】1152803
(32)【優先日】2011年4月1日
(33)【優先権主張国】FR
(31)【優先権主張番号】61/472,659
(32)【優先日】2011年4月7日
(33)【優先権主張国】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】391023932
【氏名又は名称】ロレアル
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(72)【発明者】
【氏名】マリア・ダルコ
(72)【発明者】
【氏名】ソフィー・ソセ
【審査官】 松村 真里
(56)【参考文献】
【文献】 特開平06−024937(JP,A)
【文献】 特開2005−013180(JP,A)
【文献】 特開2000−136124(JP,A)
【文献】 特開平09−176008(JP,A)
【文献】 特開2008−105949(JP,A)
【文献】 特開2007−284435(JP,A)
【文献】 特開2009−149557(JP,A)
【文献】 特表2014−509635(JP,A)
【文献】 特開2003−206239(JP,A)
【文献】 特開2011−016827(JP,A)
【文献】 特開平09−030927(JP,A)
【文献】 特開平08−225428(JP,A)
【文献】 特開平08−268859(JP,A)
【文献】 国際公開第89/003376(WO,A1)
【文献】 欧州特許出願公開第02327393(EP,A1)
【文献】 国際公開第2011/063864(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/063863(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/063865(WO,A1)
【文献】 特表2013−507333(JP,A)
【文献】 Food Chem Toxic,1993年,Vol 32, No.1,p.31-36
【文献】 J. Agric. Food Chem.,2005年 8月19日,53,p.7617-7622
【文献】 フレグランスジャーナル,2008年 2月15日,第36巻,第2号,p.43-47
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00−8/99
A61Q 1/00−90/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種の一般式(I)の化合物を含む、ケラチノサイトの分化を刺激するための組成物
【化1】
(式中、
- R1、エチル基を表し、
- R2は、水素原子またはメチル基もしくはエチル基を表し、
- R3は、直鎖C1〜C6もしくは分岐鎖C3〜C6アルキル基、または直鎖C2〜C6もしくは分岐鎖C3〜C6アルケニル基を表し、
- Xは、=Oまたは-OHを表す)。
【請求項2】
一般式(I)の化合物が、
- R1、エチル基を表し、
- R2が、水素原子またはメチル基もしくはエチル基を表し、
- R3が、C1〜C6直鎖アルキル基を表し、
- Xが、=Oまたは-OHを表す
ことを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
一般式(I)の化合物が、単独でまたは混合物として、次の化合物:
【表1】
から選択される、請求項1または2のいずれかに記載の組成物。
【請求項4】
前記化合物が、エチルジンゲロンから選択されることを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
前記化合物が、生理的に許容される媒体とともに、前記組成物の総質量に対して0.1質量%から10質量%の間の含有量で存在することを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
局所適用に適していることを特徴とする、請求項5に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚上の老化およびそれに関連する徴候の分野に関する。特に、表皮細胞の増殖と分化との間の平衡状態の調節に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、女性または男性でさえも、可能な限り長く若く見えることを望む傾向にあり、その結果として特に皺および小皺、表皮の菲薄化ならびに/または弛緩し萎縮した皮膚の外観をもたらす皮膚老化の徴候を抑えようとしている。この観点から、広告やファッション業界は、物理的外観が精神および/または気力に影響を与えるだけになおさら、輝く皺のない皮膚、若々しい皮膚の様子をできるだけ長く保つための製品を打ち出している。
【0003】
皮膚は、身体およびその周囲の間の物理的バリアを構成している。これは2つの組織:表皮および真皮で構成されている。
【0004】
真皮は、表皮に固体支持体を提供する。これはその栄養要素でもある。これは線維芽細胞および細胞外マトリクスから主に形成されており、それ自体はコラーゲン、エラスチンおよび基質として知られている物質から主に成り、これらの構成材料は線維芽細胞によって合成される。白血球、マスト細胞または組織マクロファージもその中に見出される。血管および神経線維も含む。
【0005】
表皮は、厚さが平均100μmの落屑性多階層化表皮であり、表皮の胚層を構成するケラチノサイトの基底層、胚芽細胞に配置されている数層の多面細胞で構成される有棘層、特異な細胞質内封入体、ケラトヒアリン顆粒を含む扁平な細胞で構成される顆粒層、そして最後に、角質細胞として知られている、分化が最終段階のケラチノサイトで構成される角化層(または角質層)として知られる上部層に通常分けられる。角質細胞は、ケラチノサイトから生じるミイラ化した無核細胞である。この角質細胞が積み重なって角化層を構成し、該角化層は、とりわけ表皮のバリア機能に関与しており、すなわち外からの攻撃、特に化学的、機械的または感染性の攻撃に対するバリアを構成し、また水の損失から身体を防護することも可能にする。
【0006】
表皮分化は、連続的な方向付けられた成熟の過程をたどり、該過程において基底部のケラチノサイトが移動しながら変化することによって、完全に角質化された死滅細胞である角質細胞が形成される。この分化は、完全に調整された現象の結果であり、これにより表皮の厚さが一定に保たれ、したがって表皮のホメオスタシスが保証されるであろう。これは、分化過程に入る細胞の数と、落屑する細胞の数とを調節することによって行われる。正常な落屑過程において、最も外側の角質細胞のみが表皮の表面から剥がれる。
【0007】
ケラチンは、上皮細胞によって生成される、構造的によく組織化されたフィラメントの形態の不溶性タンパク質である。表皮分化の初めから終わりまで、様々な種類のケラチンが多少なりともケラチノサイトによって発現されるため、これらのタンパク質は、分化の主要マーカーである。
【0008】
ケラチンと関連する他のタンパク質は、皮膚中で非常に重要な役割を果たす。フィラグリン(filaggrin)(またはfilagrin)は、ケラトヒアリン顆粒中に存在するタンパク質であり、表皮の分化の最終段階の間に生成される。これは、特にI型およびII型ケラチンのコイル中への配列を可能にすることによって角化層の成熟過程に関与する。したがって、このタンパク質は、表面の角質細胞の細胞質基質の形成を可能にし、これにより特に皮膚に正常な厚み、滑らかな外観および光を反射する特性を与える。さらに、角質細胞内での分解を介して、フィラグリンは、浸透能(天然の保湿要素またはNMF)が高い水溶性物質を与え、これにより維持しようとする皮膚の角化層の良好な水和を可能にし、したがって「乾燥肌」の感触を回避する。したがって、フィラグリンは、維持しようとする表皮のバリア機能を有効にし、皮膚が乾燥するのを回避させることができる。
【0009】
時間生物学的老化の過程において、表皮の厚みは減少し、ケラチノサイトの成熟は不完全になり、角質化は均一かつ均質な角化層をもたらさなくなる。また、長時間にわたるおよび/または繰り返される日光への曝露が、表皮にかなり類似した結果をもたらすことも知られている。これは光誘起された老化である。更年期に、皮膚老化が加速し、表皮の厚みが減少し、女性は皮膚の引き締まりに不満を訴え、「乾燥肌」または乾燥症の出現さえも認識されるようになることも知られている。
【0010】
驚くべきことに、本発明者らは、ジンゲロンおよびその誘導体のいくつかがケラチノサイトにおけるフィラグリンの発現を増すことを実証した。フィラグリンはケラチノサイトの分化のマーカーであるため、ジンゲロンおよびその誘導体のいくつかは、これらの細胞の分化を刺激する効果を有し、そのため角化層の成熟を促す。したがって、これらによって、皮膚を正常な厚みに保ち、または回復させ、また滑らかな外観を得させ、すなわち皺および小皺を消失させ、またはその使用前より減少させ、顔色をより輝かせ、くすみを減少させることができる。
【0011】
さらに、フィラグリンは、ケラチノサイトにおいてこのタンパク質の発現を増加させることによって皮膚の水和過程に関与するため、これらの化合物は、特に皮膚の乾燥を回避しながら、そのバリア機能を十分に果たすことを可能にする。したがって、これらは皮膚の良好な水和を回復または維持することを可能にする。
【0012】
したがって、これらの化合物は、皮膚老化の徴候の出現を抑制し、皮膚老化に関連するか否かを問わず、皮膚の乾燥を抑制するのに特に好都合と実証されている。
【0013】
ジンゲロン(Gingerone)[INCI名:ジンゲロン(Zingerone)]は、バニロイドファミリーからのフェノール化合物である。この式およびその誘導体のいくつかの式は、以下に挙げられる。ショウガ(Zingiber officinale)、マンゴー、クランベリーまたはラズベリーは、ジンゲロンの天然源であり得る。しかし、ショウガ、特にショウガオレオレジンは、その主要な起源である。この分子は、大部分において、ショウガの辛味に関与する。
【0014】
ジンゲロンは、既に局所向け老化防止ケア用組成物の成分の内に挙げられているが、血液循環「促進剤」(JP2004323401、JP2005066831)として、または充血剤(hyperemizing agent)(EP1938789)として、または酸化防止剤(EP1932514)として、または腐食性物質、苦味物質もしくは酸性物質(JP2004210656)として使用された。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】JP2004323401
【特許文献2】JP2005066831
【特許文献3】EP1938789
【特許文献4】EP1932514
【特許文献5】JP2004210656
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明者らの知る限りでは、ジンゲロンおよびその誘導体のいくつかが、ケラチノサイトを分化促進(pro-differentiating)させるとも、特に皮膚老化の徴候の出現を処置または遅延するために使用できるとも記載されたことはない。
【課題を解決するための手段】
【0017】
したがって、本発明の一主題は、皮膚老化の徴候を低減および/または遅延させる薬剤としての、少なくとも1種の一般式(I)の化合物の使用である
【0018】
【化1】
【0019】
(式中、
- R1は、メチル基またはエチル基を表し、
- R2は、水素原子またはメチル基もしくはエチル基を表し、
- R3は、直鎖C1〜C6もしくは分岐鎖C3〜C6アルキル基、または直鎖C2〜C6もしくは分岐鎖C3〜C6アルケニル基を表し、
- Xは、=Oまたは-OHを表す)。
【0020】
好ましくは、これらの化合物は、
- R1が、メチル基またはエチル基を表し、
- R2が、水素原子またはメチル基もしくはエチル基を表し、
- R3が、C1〜C6直鎖アルキル基を表し、
- Xが、=Oまたは-OHを表す、
一般式(I)の化合物である。
【0021】
特に、
- R1が、メチル基またはエチル基を表し、
- R2が、水素原子またはメチル基もしくはエチル基を表し、
- R3が、C1〜C6直鎖アルキル基を表し、
- Xが、=Oを表す、
一般式(I)の化合物が使用されるであろう。
【0022】
本発明にしたがって、上記の一般式(I)の化合物は、好ましくは、単独でまたは混合物として、以下の化合物:
【0023】
【表1A】
【0024】
【表1B】
【0025】
から選択されるであろう。
【0026】
好ましい化合物は、ジンゲロン(gingerone)[またはジンゲロン(zingerone)]またはエチルジンゲロンから選択されるであろう。ジンゲロンは、例えばAldrich社から供給され得る。最も好ましいのは、エチルジンゲロンである。
【0027】
化合物2および7は、例えばSinoChemExper社から供給され得る。
【0028】
上記の標的とする一般式(I)の化合物は、天然起源または合成起源のある程度精製された分子の形態で使用し得る。好ましくは、天然起源であろう。特に、これらの化合物のいくつかは、これらを含む植物エキスの形態、特にショウガ、マンゴー、クランベリーおよび/またはラズベリーのエキスの形態で提供できる。
【0029】
このような化合物は、従来技術で既知の合成経路を介して合成できる。これらは、特に、市販のバニリンまたはエチルバニリンから調製できる。ジンゲロンは、例えば、アセトンによってバニリンを凝縮した後、水素化することによって得ることができる。
【0030】
「老化の皮膚徴候」という表現は、時間生物学的なものおよび/または光誘起されたもののいずれにしても老化に起因する皮膚の外観における任意の一時変異、例えば皺および小皺、萎縮した皮膚、弛緩した皮膚、弛んだ皮膚、菲薄化した皮膚、乾燥肌、輝きのないくすんだ皮膚、顔色の不均一性および皮膚表面の不均一性などを意味すると理解される。時間生物学的老化または経時的老化(加齢に伴う老化としても知られている)の徴候は、個体の内因性老化による皮膚の内部劣化に相当する。光誘起老化(または光加齢)の徴候は、紫外線への曝露に後続する皮膚の内部劣化に相当する。
【0031】
「皮膚」という用語は、本発明において、身体の被膜全体、特に、皮膚、粘膜および頭皮を意味すると理解されている。
【0032】
皮膚老化の徴候の低減および/またはその出現の遅延は、本発明による化合物を使用することによって、特に、表皮細胞の分化の増加もしくは改善および/または特に表皮角化細胞におけるフィラグリンの発現の増加もしくは刺激のために起こる。
【0033】
好ましくは、本発明にしたがって使用される組成物は、化粧料組成物であり、すなわち個体の美的外観を改善するためのものである。
【0034】
本発明による使用は、表皮の時間生物学的老化および/または光誘起老化の徴候、特に美的徴候を抑制するのに特に効果的である。本発明を通して、皮膚の時間生物学的老化の徴候の抑制を標的とすることが好ましい。
【0035】
したがって、本発明は、年齢に関係なく誰に対しても効果的である。時間生物学的老化の徴候を抑制する場合、30歳より上の年齢、好ましくは40歳より上の年齢の個体を標的とすることが好ましい。
【0036】
皮膚老化の徴候は、好ましくは、皺および小皺の出現ならびに/または脆弱化ならびに/または弛みならびに/または萎縮ならびに/または菲薄化ならびに/または乾燥ならびに/またはくすんだおよび/もしくは輝きのない外観ならびに/または不均一な顔色および/もしくは皮膚の表面から選択される。
【0037】
したがって、本発明を通して、より若々しい外観の皮膚および良好に水和された皮膚が得られる。
【0038】
上記の標的とする一般式(I)の化合物は、生理的に許容される媒体を含む組成物中に、前記組成物の総質量に対して0.1質量%から10質量%の間の含有量で存在する。
【0039】
「生理的に許容される媒体」は、本発明によれば、皮膚、粘膜、爪および/または毛髪に適合する化粧品として許容される媒体である。
【0040】
「化粧品として許容される媒体」という表現は、不快な外観を持たず、使用者に許容できない刺痛、緊張または発赤を一切起こさない媒体を意味すると理解されている。
【0041】
生理的に許容される媒体は、組成物が適用される支持体の性質、および組成物がパッケージされることを目的とする形態、特に室温、大気圧下で固体または流体の形態に適合されよう。
【0042】
組成物は、好ましくは、局所適用に適している。
【0043】
皮膚および/または粘膜への局所適用による投与の場合、当然ながら、本発明による組成物は、化粧品として許容される支持体、すなわち皮膚、粘膜、爪、毛髪と適合する支持体を含み、局所適用に通常使用される任意のガレヌス形態、特に、水溶液、水性アルコール溶液もしくは油性溶液、水中油型もしくは油中水型もしくは多重エマルジョン、水性もしくは油性ゲル、液体、ペースト状もしくは固体無水製品、懸濁液または分散系の形態、例えば小球を用いた水性相中油の分散系であってよく、こうした小球はナノ粒子およびナノカプセルなどのポリマーナノ粒子、またはさらに良いのはイオン系および/もしくは非イオン系の脂質小胞にできる分散系とすることができる。
【0044】
この組成物は、多少流動性を有してもよく、白色または有色のクリーム、軟膏、乳液、ローション、セラム、ペースト、またはフォームの外観を有してもよい。それらは、任意選択により、エアロゾル形態で皮膚に適用することができる。それらはまた、固体形態、例えば、スティック形態とすることができる。それらは、ケア用製品またはクレンジング用製品またはメイクアップ用製品として使用することができる。
【0045】
既知のように、本発明の組成物は、化粧品および皮膚科の各分野で通常の補助剤、例えば親水性または親油性ゲル化剤、親水性または親油性活性剤、保存剤、酸化防止剤、溶剤、香料、充填剤、スクリーニング剤、顔料、キレート剤、臭気吸収材および着色剤を含んでもよい。想定される分野で通常使用するこれらの様々な補助剤の量は、例えば、組成物の総質量の0.01%から20%である。その性質に応じて、これらの補助剤は、脂肪相、水性相、脂質小球および/またはナノ粒子に導入することができる。
【0046】
本発明の組成物がエマルジョンである場合、脂肪相の割合は、組成物の総質量の5質量%から80質量%、好ましくは、5質量%から50質量%の範囲とすることができる。エマルジョン形態の組成物中で使用される油、乳化剤および共乳化剤は、想定される分野で通常使用されるものから選択される。乳化剤および共乳化剤は、組成物中に、組成物の総質量の0.3質量%から30質量%、好ましくは0.5質量%から20質量%を範囲とする割合で存在する。
【0047】
本発明において使用できる油として、鉱油、植物起源の油(アプリコット油、ヒマワリ油)、動物起源の油、合成油、シリコーン系油およびフッ素化油(ペルフルオロポリエーテル)を挙げることができる。脂肪性物質として、脂肪アルコール(セチルアルコール)、脂肪酸およびワックス(蜜蝋)も使用することができる。
【0048】
本発明において使用できる乳化剤および共乳化剤として、例えばステアリン酸PEG-40およびステアリン酸PEG-100などのポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ならびにステアリン酸グリセリルおよびトリステアリン酸ソルビタンなどのポリオール脂肪酸エステルを挙げることができる。
【0049】
親水性ゲル化剤として、具体的には、カルボキシビニルポリマー(カルボマー)、アクリレート/アルキルアクリレートコポリマーなどのアクリルコポリマー、ポリアクリルアミド、多糖、天然ゴムおよび粘土を挙げることができ、親油性ゲル化剤として、ベントンなどの変性粘土、脂肪酸の金属塩、疎水性シリカおよびポリエチレンを挙げることができる。
【0050】
有利な一実施形態によれば、本発明による組成物は、抗紫外線遮断剤、保湿剤、脱色剤、抗糖化剤、NO-シンターゼ阻害剤、真皮もしくは表皮の高分子の合成を刺激する薬剤および/またはその分解を防ぐ薬剤、線維芽細胞もしくはケラチノサイト増殖を刺激する薬剤、筋弛緩剤または皮膚収縮解消剤(dermo-decontracting agent)、テンショニング剤(tensioning agent)、汚染を根絶する薬剤または遊離基捕捉剤、鎮静剤および細胞のエネルギー代謝に作用する活性剤から選択される他の活性剤を少なくとも1種含むであろう。
【0051】
これらの追加の活性剤の量は、大幅に異なる可能性があり、例えば組成物の総質量に対して10-6質量%から20質量%、特に0.001質量%から10質量%であろう。
【0052】
本発明による組成物中で使用することができる線維芽細胞の増殖を刺激するための薬剤は、例えば、特にダイズから抽出された植物タンパク質またはポリペプチド(例えば、LSN社によって名称Eleseryl SH-VEG 8(登録商標)で販売されているまたはSilab社によって商標名Raffermine(登録商標)で販売されているダイズ抽出物)ならびにジベレリンおよびサイトカイニンなどの植物ホルモンから選択することができる。
【0053】
本発明による組成物中で使用することができる、ケラチノサイト増殖を刺激する薬剤は、特に、レチノールおよびそのエステルなどのレチノイド、例えばレチニルパルミテート、アデノシン、桂皮酸およびその誘導体、リコピンおよびその誘導体、フロログルシノール、Gattefosse社によって販売されているクルミ粉末抽出物、ならびにSederma社によって販売されているSolanum tuberosumの抽出物を含む。
【0054】
好ましくは、本発明を実施するために、上記の一般式(I)の化合物、および/またはそれを含有する組成物は、処置しようとする皮膚の部分、特に顔、首または手に、毎日または毎日数回適用し、適用は所望の効果に応じて様々な期間、毎日繰り返し、一般には3から6週間だが、延長しても継続してもよい。
【0055】
上記の一般式(I)の化合物またはそれを含有する組成物は、好ましくは、抑制が望まれる、老化の徴候による影響を受けた皮膚の領域に適用されよう。
【0056】
経口投与の場合、本発明の組成物は、任意の好適な形態、特定すれば経口で摂取される溶液、錠剤、ゲルカプセル、カプセルまたは代替として栄養食品または栄養補給剤の形態であってもよい。
【0057】
前記組成物は、経口投与に適した少なくとも1種の適切な賦形剤を追加で含む。
【0058】
経口で摂取される活性剤または本発明による組成物の場合、経口投与は、毎日または毎日数回、例えば朝と夕方でもよい。これを所望の効果に応じて数週間および/または数か月間継続してもよい。
【発明を実施するための形態】
【0059】
下記の実施例は、本発明の非限定的説明として示されている。
【0060】
(実施例)
1.本発明による化合物の調製方法
これらの一般式(I)の化合物の調製方法は、例えば、以下の通りでもよい。
【0061】
【化2】
【0062】
化合物3を調製する方法は、追加の還元ステップを含む。
【0063】
【化3】
【0064】
本発明による化合物は、本明細書において、市販のバニリン(CAS: 121-33-5)、または市販のエチルバニリン(CAS: 121-32-4)のいずれかから調製される。
【0065】
2.本発明による化合物の活性の実証
ジンゲロン(上にその化学式を挙げた化合物1)の、in vitroでのケラチノサイト分化に与える効果を研究する。フィラグリン分化のマーカーの発現および位置を、培養中のケラチノサイトにおいて特に研究し、したがってこの化合物がこれらの細胞の分化を増加させる能力について評価することを可能にする。
【0066】
手順
正常なヒトのケラチノサイト(NHEK)を、SFM完全培地中、37℃および5%CO2下で24時間、中程度のコンフルエンスが得られるまで培養した。SFM完全培地は、下垂体エキス(25μg/ml)、EGF(0.25ng/ml)およびゲンタマイシン(25μg/ml)で補充したSFM培養培地である。
【0067】
インキュベーションが終わったときに、培地を取り除き、様々な濃度の試験生成物または参照分子を含むまたは含まない培養培地に差し替えた。それぞれケラチノサイト分化の刺激物質および抑制物質として知られる塩化カルシウムおよびレチノイン酸を、この試験に、参照分子として使用した。次いでケラチノサイトを144時間インキュベートした。処置を3回繰り返した(n=3)。
【0068】
インキュベーションが終わったときに、培養培地を取り除き、細胞を洗いすすぎ、固定させ、透過処理し、次いで対象とするフィラグリンタンパク質を標的とする一次抗体で標識化した(その場での免疫標識)。次いでこの抗体は、蛍光色素(GAM-Alexa 488)と結合する二次抗体によって現された。同時に、細胞核をHoechst 33258(ビスベンズイミド)で染色した。
【0069】
INCell Analyzer(商標)1000機を使用して画像を得た。Hoechst製品によって同定した核の数に対するタンパク質の蛍光強度を測定することによって、標識を定量化した。
【0070】
結果
結果を、以下のTable 1(表2)にまとめる。
【0071】
【表2】
【0072】
- この研究の実験条件下における分化促進参照分子の塩化カルシウムによる処置は、ケラチノサイトによるフィラグリンの発現を実質的に増加させる(対照に対して+58%)。
【0073】
- この研究の実験条件下における抗分化(anti-differentiating)参照分子のレチノイン酸による処置は、ケラチノサイトによるフィラグリンの発現を実質的に減少させる(対照に対して-97%)。
【0074】
- 2μg/mlおよび20μg/mlのジンゲロンによる処置は、ケラチノサイトによるフィラグリンの発現を有意に、かつ用量依存的に刺激する(対照に対してそれぞれ+33%および+51%)。
【0075】
結論
ジンゲロンは、正常なヒトの表皮ケラチノサイトにおけるフィラグリンタンパク質の発現を、有意に、かつ用量依存的に増加させる。
【0076】
このようにして得た結果は、表皮分化における増加につながる。したがって、ジンゲロンは、分化促進効果を正常なヒトのケラチノサイトに与え、これにより皮膚老化の徴候を低減および/または遅延させることができる。
【0077】
3.組成物の例
3.1.ローション
下記(質量%)を含むローションを調製する:
- 実施例1で試験した化合物(ジンゲロン) 0.75%
- グリセロール 2%
- エチルアルコール 20%
- 脱塩水 100%までの適量
【0078】
毎日顔に適用する本発明による組成物は、皮膚老化の徴候を抑制することを可能にする。
【0079】
3.2.顔用ジェル
下記(質量%)を含む顔用ジェルを調製する:
- ポリアクリル酸グリセリル(Norgel) 30%
- ポリアクリルアミド/C13〜14イソパラフィン/ラウレス-7(Sepigel 305) 2%
- シリコーン油 10%
- 化合物1(ジンゲロン) 5%
- 水 100%までの適量
【0080】
毎日顔に適用する本発明による組成物は、皮膚老化の徴候を抑制することを可能にする。