【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成23年度 内閣府最先端研究開発支援プログラム「Mega−ton Water System」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【文献】
HAUSMAN, Richard et al., Functionalization of polybenzimidizole membranes to impart negative charge and hydrophilicity,Journal of Membrane Science,2010年 7月23日,Vol.363, Issues 1-2,p.195-203
【文献】
WANG, Kai Yu et al.,Enhanced forward osmosis from chemically modified polybenzimidazole(PBI) nanofiltration hollow fiber,Chemical Engineering Science,2009年 1月 6日,Vol.64, Issue 7,p.1577-1584
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
1.化合物
本発明の半透膜は、実質的な溶質除去能を有する緻密層Aと、微多孔性層Bとの少なくとも2層からなる。このうち緻密層Aを構成する化合物は、下記(式1)で表される繰り返し単位を有するポリマーを主成分とする。この繰り返し単位は、ポリベンズイミダゾール構造を形成している。
【化2】
(式中、Ar
1,Ar
2,Ar
3,Ar
4はそれぞれ任意の芳香環構造であり、R
1,R
2,R
3,R
4はそれぞれ水素原子または構造Pであり、該構造Pがアルキル基、アルキルカルボン酸またはその塩、アルキルスルホン酸またはその塩、アルキルリン酸またはその塩、から選択される任意の構造であり、Xは、カルボン酸基またはその塩、スルホン酸基またはその塩、リン酸基またはその塩、から選択される任意の構造であり、m,nは繰り返し単位構造の構成比率(%)を表し、m≧0,n≧0,m+n=100を満たし、m=0のとき、R
3,R
4の少なくとも一つが前記構造Pである。)
【0014】
上記(式1)の左側に示す繰り返し単位構造および右側に示す繰り返し単位構造の配置順序は特に限定されるものではなく、これらの繰り返し単位構造はランダムに配置されうる。
【0015】
上記(式1)における構造X,構造Ar
1,Ar
2,Ar
3,Ar
4,構造R
1,R
2,R
3,R
4および繰り返し単位の構成比率m,nについて、以下に説明する。
【0016】
(構造X)
上記(式1)において、構造Xは親水性基である。具体的には、カルボン酸基またはその塩、スルホン酸基またはその塩、リン酸基またはその塩、からなる群より選択される任意の構造をとることができる。Xとしては、好ましくはスルホン酸基またはその塩であるとよい。これらXの構造を導入することで、緻密層A、すなわち半透膜の透水性が向上する。カルボン酸基、スルホン酸基およびリン酸基の塩としては、例えばこれらのナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩などが好適に用いられる。
【0017】
mはXを含む繰り返し単位構造の構成比率(%)を示す。一方、nはXを含まない繰り返し単位構造の構成比率(%)を示す。m,nは0以上の実数であり、m+n=100である。m:nは20:80〜99:1の範囲内が好ましく、30:70〜90:10であることがより好ましく、45:55〜80:20であることがさらに好ましい。スルホン酸基に代表される構造Xが導入された繰り返し単位構造が多ければ多いほど透水性が上がるが、同時にポリマーの溶解性が低下したり、水分子によって膜が膨潤しやすくなるなどの不具合が生じる場合がある。そのため、スルホン酸基に代表される構造Xが導入されていない一定量の繰り返し単位構造が共重合されていることが好ましく、特に鎖長の違う構造単位を共重合すると分子鎖の規則性が乱れて大きな空隙が生じ、水分子の透過流路が発生することで透水性が上昇するため、好ましい。
【0018】
ただし、詳細は後述するが、mが0の場合でも、R
3,R
4として親水性基を含有する構造を選択することで、膜の透水量を十分に確保することも可能である。
【0019】
構造Xを構成する親水性基として特に好適なものにスルホン酸基またはその塩が挙げられる。スルホン酸基は、重合前の時点でモノマーに導入しておいてもよいし、重合後に何らかの化学反応を利用してポリマーに導入してもよいが、モノマーに導入してから重合した方がスルホン酸基の繰り返し構造内に比較的均一に導入され易いので、好ましい。重合後に導入する方法としては、発煙硫酸、濃硫酸、クロロスルホン酸、および、三酸化硫黄などにポリマーを浸漬する方法を挙げることが出来る。
【0020】
(構造Ar
1,Ar
2,Ar
3,Ar
4)
上記(式1)において、構造Ar
1,Ar
2,Ar
3,Ar
4は、任意の芳香環構造をとる。本発明の半透膜を構成する緻密層Aの透水量(膜透過流束)、脱塩性(塩除去率)を著しく損なわなければ、これらの構造は特定の芳香環構造に限定されることはない。具体例としては、例えば、ベンゼン環、ナフタレン環、カルド構造、あるいはそれらの組み合わせからなる複数の芳香環が連結した構造などが挙げられる。
【0021】
構造Xを含むAr
2−Xが、下記の(式2)に示す群から選択されるいずれかの構造をとる場合、半透膜を構成する緻密層Aの性能、ポリマー合成、ポリマー合成の原料となるモノマーの合成あるいは入手の容易さから好ましい。
【化3】
(式中、Xは、カルボン酸基またはその塩、スルホン酸基またはその塩、リン酸基またはその塩、から選択される任意の構造である。)
【0022】
或いは構造Xを含むAr
2−Xが、下記の(式3)に示す群から選択されるいずれかの構造であってもよい。これらの構造は、芳香環同士が他の原子団Zを介して共有結合する構造をとっている。
【化4】
(式中、Xは、カルボン酸基またはその塩、スルホン酸基またはその塩、リン酸基またはその塩、から選択される任意の構造であり、Zは、−O−、−CH
2−、−CO−、−CO
2−、−S−、−SO
2−、−C(CH
3)
2−、からなる群より選択される任意の構造である。)
【0023】
さらに、Ar
1とAr
3、およびAr
2とAr
4の構造がそれぞれ同一である場合、原料が1種あるいは2種のモノマーで済むという観点から、合成条件の設定の容易さや経済性から好ましい。ただし、構造Ar
2−Xが上記(式2)(式3)に列挙した構造群から選択される場合、必ずしもAr
1とAr
3、およびAr
2とAr
4の構造がそれぞれ同一でなくてもよく、このことが本発明の効果に与える影響は軽微である。なぜなら、構造Ar
1,Ar
2,Ar
3,Ar
4がもたらす分子間の相互作用は主には環構造由来の疎水性相互作用であり、イミダゾール環由来の水素結合に比べて遥かに弱く、無視できる程度のものだからである。
【0024】
(構造R
1,R
2,R
3,R
4)
上記(式1)において、R
1,R
2,R
3,R
4はそれぞれ、水素原子、または構造Pである。本明細書において、構造Pは、アルキル基、アルキルカルボン酸またはその塩、アルキルスルホン酸またはその塩、アルキルリン酸またはその塩、からなる群より選択される任意の構造をとる。これらの構造Pをポリマー中に導入することで、未導入のものに比べ、透水量が向上する傾向がある。
【0025】
その理由は、実施例中で詳述するが、主にはポリマー分子間の水素結合を阻害し、分子間距離を拡大させることで、水の流路となる空間を膜中に形成させることが可能であるからと考えられる。この効果は、アルキル基のみでも達成されるが、アルキルカルボン酸またはその塩、アルキルスルホン酸またはその塩、アルキルリン酸またはその塩のように、アルキル基の端に親水性基を有する場合、透水量向上の効果はより大きくなるため、好ましい。より好ましい構造Pとしては、アルキルスルホン酸またはその塩である。
【0026】
単にアルキル基のみを導入する場合、同時に前述の構造Xをポリマー構造中に導入することで、アルキルカルボン酸などのようにアルキル基の端に親水性基がある場合と比較しても、大きくは劣らない高透水効果を確保できる。実施例中で詳述するが、構造Pと、さらに構造Xからなる親水性基とを有する膜は、それらを共に有さない、または片方のみを有する膜と比較して、膜内部により多くの水を含有することができる。
【0027】
構造Pの具体例としては、アルキル基として、例えば炭素数1以上のアルキル基を好適に使用することができる。ポリマー分子にアルキル基を導入する目的は、ポリマー分子間の水素結合を阻害し、分子間距離を拡大することにある。アルキル鎖長が長いほど、水素結合阻害の効果は大きくなり、透水量は向上する傾向にあり、目的とする透水量に応じ、アルキル基を構成する炭素数は調節すればよい。アルキル基を構成する炭素数は1以上が好ましく、4以上がより好ましい。また、アルキル基を構成する炭素数は12以下であることが好ましい。炭素数が13以上であると、水素結合阻害の効果が大きくなりすぎ、分子間距離が広く、塩除去性の低下を招く懸念がある。
【0028】
さらに、アルキル基は、該構造中に環構造や分岐構造、不飽和結合を含んでもよいし、分子間距離の拡大に好適に用いられる範囲で、必ずしも炭素原子のみからでなく、窒素原子、硫黄原子、ケイ素原子、酸素原子などを含んでもよい。
【0029】
構造Pをポリマー中に導入する方法としては、例えば、構造Pを含有するモノマーの使用、あるいはポリマーへの高分子反応の利用、が挙げられる。特に、後者の方法が合成の容易さから好適に使用される。後者の方法を利用する場合、例えば、種々の還元剤と、アルキルハロゲン化物を用い、ポリマー中の窒素原子と反応させる方法を用いれば、濃度と反応時間の調節により構造Pの導入量をコントロールし易く、好ましい。一例としては、水素化リチウムを還元剤として用い、同時に1,4−ブタンスルトンを使用すれば、ポリマーの窒素原子に対し、ブチルスルホン酸基を導入することが可能である。
【0030】
上記(式1)において、R
1およびR
3を共に水素原子にすることができる。これにより、構造Pを導入した場合に比べ、ポリマーの相互作用が強くなるため、膜が緻密化し易く、膜の強度をより以上に重視したい場面において好ましい、という利点がある。
【0031】
(架橋)
本発明の半透膜を構成する緻密層Aの構成素材として、(式1)のポリマーを架橋させた構造を含んでもよい。(式1)のポリマーを架橋させることで、半透膜としての性能が向上する効果がある。架橋を形成する方法としては、ポリマーと架橋剤との化学反応を利用する方法が挙げられる。架橋剤は少なくとも2点以上の反応部位を有し、2分子以上のポリマーと共有結合を形成可能な物質であればよく、さらには、(式1)中の窒素原子と共有結合を形成可能な物質が、架橋反応条件の選択域の広さ、架橋反応の反応性の高さ、架橋の容易さの観点から好ましい。このような架橋剤としては、例えば、種々のマイケル付加型多官能性物質、多官能ハロゲン化物などが挙げられ、入手の容易さからも好ましい。具体的には、ジビニルスルホンおよびその類似物、ジビニルケトンおよびその類似物、p−キシレンジクロリドおよびその類似物などが好適に使用される。さらに、反応時間や反応率を向上させるため、必要に応じ酸などの触媒を同時に使用してもよい。
【0032】
(重合)
本発明の半透膜を構成するポリマーの主成分であるポリベンズイミダゾールは、芳香族テトラアミンと芳香族ジカルボン酸から重合されることが好ましい。重合方法としてはJOURNAL of Polymer Science,50,511(1961)や米国特許第3,509,108号などに記載された溶融重合法などで重合することが出来る。具体的には100℃から160℃程度の温度で重合を開始し、140℃から350℃前後まで徐々に昇温する方法であり、重合度を上げたい場合には昇温後に減圧して重合を行うことが好ましい。温度はポリマー構造や触媒によって適時変更でき、触媒としてはポリリン酸(以下、PPAと略す)やメタンスルホン酸-五酸化ニリン混合物(10:1重量比)のEaton試薬(以下、PPMAと略す)を使用することが好ましい。
【0033】
使用できる芳香族テトラアミンモノマーとしては、1,2,4,5−テトラアミノベンゼン、1,2,5,6−テトラアミノナフタレート、2,3,6,7−テトラアミノナフタレート、3,3',4,4'−テトラアミノジフェニルメタン、3,3',4,4'−テトラアミノジフェニルエタン、3,3',4,4'−テトラアミノジフェニル−2,2−プロパン、3,3'4,4'−テトラアミノジフェニルチオエーテル、および3,3',4,4'−テトラアミノジフェニルスルホンおよびこれらの誘導体を一例として挙げることができる。
【0034】
芳香族ジカルボン酸としては、テレフタル酸、イソフタル酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,7−ナフタレンジカルボン酸、フタル酸、ジフェニルジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4'‐[1,4-フェニレンビス(オキシ)] ビス安息香酸、4,4'−ジカルボキシジフェニルスルホン、ジフェノキシエタンジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、ヒドロキシイソフタル酸、アミノイソフタル酸、5−N,N−ジメチルアミノイソフタル酸、5−N,N−ジエチルアミノイソフタル酸、2,5−ジヒドロキシテレフタル酸、2,6−ジヒドロキシイソフタル酸、4,6−ジヒドロキシイソフタル酸、2,3−ジヒドロキシフタル酸、2,4−ジヒドロキシフタル酸、3,4−ジヒドロキシフタル酸、3−フルオロフタル酸、5−フルオロイソフタル酸、2−フルオロテレフタル酸、テトラフルオロフタル酸、テトラフルオロイソフタル酸、テトラフルオロテレフタル酸、およびそれらの誘導体を一例として挙げることができる。
【0035】
2.半透膜
本発明の半透膜は、実質的な溶質除去能を有する緻密層Aと、微多孔性層Bとの2層を少なくとも備える半透膜であって、少なくとも緻密層Aは、その主な構成成分が(式1)のポリマーまたはその架橋体である。
【0036】
本発明の半透膜は、圧力:1MPa、供給液の塩化ナトリウム濃度:500ppm、温度:25℃、pH:6.5で測定したときに、膜透過流束が0.05(m
3/m
2/day)以上であることが好ましく、0.1(m
3/m
2/day)以上であることがより好ましく、0.4(m
3/m
2/day)以上であることがさらに好ましい。また、脱塩率が10%以上であることが好ましく、20%以上であることがより好ましく、30%以上であることがさらに好ましい。この性能と同等、またはそれ以上の膜透過流束および脱塩率を有する半透膜を用いることで好適に濃度差発電を実施することができる。
【0037】
(緻密層A)
緻密層Aは溶質除去能を有することが求められる。具体的には、圧力:1MPa、供給液の塩化ナトリウム濃度:500ppm、温度:25℃、pH:6.5で測定したときに、透水性と同時に塩化ナトリウムの除去能を発揮することであり、それぞれの性能については上記の通りである。
【0038】
緻密層Aの厚みは、20μm未満であることが好ましい。また、緻密層Aの厚みは、5μm以下であってもよいし、2μm以下であってもよいし、1μm以下であってもよい。緻密層Aの厚みが20μm未満であることで、高い透水性が得られる。
【0039】
また、緻密層Aの厚みは、0.1μm以上であることが好ましい。緻密層Aの厚みは、0.5μm以上、または0.8μm以上であってもよい。緻密層Aの厚みが0.1μm以上であると、特に高い強度が得られる。微多孔性層Bの機械的強度が比較的低い場合、それを緻密層A自身がサポートするために、その厚みは1μm以上が好ましい。
【0040】
膜の形態は特に限定されず、必要に応じ適宜選択すればよい。例えば、濃度差発電において通常利用される運転圧は1〜3MPa程度であるが、同等の加圧透水テストであれば、厚み1μm程度であっても十分な強度は確保できる。さらに、使用に際する十分な透水性と強度さえ担保されれば、平膜であっても中空糸膜であってもよく、求める性能と強度に合わせて、柔軟に膜の形態を選択すればよい。
【0041】
(微多孔性層B)
微多孔性層Bとは、緻密層Aの支持層である。したがって、複数の孔を有する膜であれば特に限定されないが、好ましくは、略均一な孔あるいは片面からもう一方の面まで徐々に孔径が大きくなる孔を有し、かつ微多孔性層Bの強度の問題から、膜の片側表面における孔径が100nm以下であるような構造の膜が好ましい。さらに、孔径としては1〜100nmの範囲内であるとより好ましい。孔径が1nmを下回ると、透過流束が低下する傾向にあるためである。また、微多孔性層Bの厚みは、1μm〜5mmの範囲内にあると好ましく、10〜100μmの範囲内にあるとより好ましい。厚みが1μmを下回ると多孔性支持膜の強度が低下しやすく、5mmを超えると取り扱いにくくなるためである。
【0042】
微多孔性層Bに用いられる素材としては特に限定されないが、例えばポリスルホン、ポリアミド、ポリエステル、セルロース系ポリマー、ビニル系ポリマー、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィドスルホン、ポリフェニレンスルホン、ポリフェニレンオキシドなどのホモポリマーあるいはコポリマーを単独であるいはブレンドして用いることができる。上記のうち、セルロース系ポリマーとしては、酢酸セルロース、硝酸セルロースなど、ビニル系ポリマーとしてはポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリアクリロニトリルなどを用いると好ましい。中でも、ポリスルホン、ポリアミド、ポリエステル、酢酸セルロース、硝酸セルロース、ポリ塩化ビニル、ポリアクリロニトリル、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィドスルホンなどのホモポリマーやコポリマーが好ましい。
【0043】
微多孔性層Bとは、いわゆる基材と、基材上に形成された支持層とを備えてもよい。基材は、例えば織布及び不織布等で形成されてもよく、支持層は、微多孔性支持膜に用いられる素材として上述した材料で形成されてもよい。
【0044】
さらに微多孔性層Bは、半透膜を用いて濃度差発電を行うに当っては、塩分の溜まりにくい疎な構造であることが好ましい。疎な構造とは、支持膜の空隙率ができるだけ大きく、かつ、厚みができるだけ薄く、かつ、空隙ができるだけ直線的であって屈曲性が低いことが求められる。通常、これらのパラメータを塩分滞留抑制の観点から好ましい範囲に設定した場合、著しく機械的強度が損なわれる。しかし、本発明においては、緻密層Aが単独で自己支持性を有するほど機械的強度が高く、微多孔性層Bの機械的強度の低さを補うことができるので、使用に際して問題のない範囲で、支持膜の空隙率ができるだけ大きく、かつ、厚みができるだけ薄く、かつ、空隙ができるだけ直線的であって屈曲性が低いことが好ましい。
【0045】
3.製造方法
本発明の半透膜は、緻密層Aと微多孔性層Bの二層からなるが、これら二層は、それぞれ単独で作製され、その後組み合わせてもよいし、緻密層Aと微多孔性層Bを同時に作製してもよい。
【0046】
緻密層Aと微多孔性層Bをそれぞれ単独で作製し、その後組み合わせる方法としては、例えば、微多孔性層Bの表面に緻密層Aを配置する方法が挙げられる。この際、緻密層Aと微多孔性層Bは互いに接着していてもよいし、接着していなくてもよい。接着している場合、緻密層Aが微多孔性層Bに含浸している場合が考えられる。例えば、作製された微多孔性層Bの表面に緻密層Aの液膜を配置し、その後脱溶媒を行うことで緻密層Aが微多孔性層Bに含浸しているような膜構造とすることもできる。
【0047】
緻密層Aと微多孔性層Bの二層を同時に作製する方法としては、例えば、1種類の液膜から脱溶媒により、まず液膜表層付近の相分離を進行させ緻密な緻密層Aを形成した後、そのまま相分離を継続せしめ、下層以下を比較的疎な微多孔性層Bとすることができる。他の方法としては、微多孔性層Bの液膜表面に緻密層Aの液膜を配置または接触させ、それぞれの液膜から同時に脱溶媒を起こすこともできる。最終的な膜の構造が、本発明の通りになれば、途中の経過は如何様にも設定可能である。
【0048】
半透膜の製造方法は、ポリマーの重合工程に加え、溶液準備工程、液膜形成工程、脱溶媒工程を少なくとも含む。
【0049】
(溶液準備工程)
溶液準備工程として、以下、製膜原液を調製する工程(溶液調整工程)について説明する。具体的には、溶液調整工程は、製膜原液の成分として、(式1)の構造を有するポリマー、および溶媒、とを混合するステップを備える。架橋反応を利用する場合、同時に必要な架橋剤を混合してもよく、均一透明な製膜溶液を調製するために、この工程は複数のステップを備えることができる。例えば、溶液調整工程は、各成分を含む溶液を加熱しながら攪拌することを含んでもよい。さらにその混合比および添加順序も特に限定されず、ポリマー、溶媒以外の添加物をさらに必要に応じ含んでもよい。例えば、透明均一な溶液を作製する上で問題のない範囲で、各種の塩を溶解助剤として加えたり、さらには、膜の透水性を向上させる目的で種々の親水性化合物を加えても良い。
【0050】
製膜溶液の体積に対する各物質の添加量は、製膜溶液の均一性を確保するように設定されることが好ましい。ただし、不溶物が発生した場合、濾過等の分離方法によりこれを除去し、ろ液を製膜溶液として使用してもよい。塗布前に製膜溶液を濾過することで、良好な塗布性を得るとともに、膜形成後の欠点の発生を防止することができる。濾過においては、溶液粘性の高さに応じて、加圧濾過機を使用することができる。濾過により高い効果を得るために、特に、濾過径は3μm以下、好ましくは1μm以下、より好ましくは0.4μm以下、さらに好ましくは0.2μm以下である。
【0051】
(液膜形成工程)
製造方法は、製膜溶液により液膜を形成する工程(液膜形成工程)を備えてもよい。
【0052】
液膜の形成には、ディップコート、スピンコート、アプリケーターを用いた塗布など、種々の方法を使用することができる。緻密層Aの膜厚を数μm以下としたい場合、特に、スピンコートによる塗布が好ましい。液膜の形成は、具体的には、シート状の平膜を形成する場合、基板に対する製膜溶液の塗布によって実現可能であるし、中空糸膜を形成する場合、予め中空糸状の微多孔性層Bを形成しておき、その外表面に溶液をコーティングするか、内部に通液させ内表面にコーティングしてもよい。さらには、複合紡糸を用いて、緻密層Aと微多孔性層Bを同時に作製しても良い。具体的には、緻密層Aの溶液と微多孔性層Bの溶液を、二重の口金で同時に押し出し、一方を内層、他方を外層として、同時に液膜を形成し、続く脱溶媒に供しても良い。
【0053】
(脱溶媒工程)
本発明の半透膜の製造方法は、液膜形成工程の後に脱溶媒を行うことを含む。
【0054】
本脱溶媒工程において、脱溶媒する方法としては、加熱乾燥による方法と、溶媒と相溶性を有しかつポリマーの貧溶媒であるような液体に浸漬する方法、の2通りが挙げられる。
【0055】
加熱乾燥による脱溶媒の場合、加熱乾燥することで溶媒を蒸発させ、ポリマーの凝集を促進し、膜形成を行う。一方、液体浸漬の場合、液体中への溶媒の流出により相分離が進行し、ポリマーが凝固し、膜が得られる。また、これらの方法を組み合わせても良い。例えば、加熱後に液体浸漬させたり、液体浸漬後に加熱乾燥させてもよい。これらの方法を組み合わせることで、得られる膜の断面および表面の構造を種々にコントロールすることが可能である。
【0056】
加熱乾燥で脱溶媒を行う場合、乾燥温度としては、100℃以上250℃以下であることが好ましく、110℃以上180℃未満であることがより好ましく、120℃以上150℃未満であることがさらに好ましい。このときの乾燥時間としては1分以上120分未満が好ましく、10分以上90分未満がより好ましく、30分以上60分未満がさらに好ましい。
【0057】
(その他の工程)
半透膜の製造方法は、さらに他の工程を含んでいてもよい。他の工程としては、例えば、脱溶媒工程で形成された半透膜を熱水で洗浄することが挙げられる。このような熱水洗浄処理により、ポリマーの運動性が向上し、ポリマーの再編成が促進されるので、結果としてより緻密な膜とすることができる。本工程により、半透膜の脱塩性を向上させることができるので、必要に応じ実施するとよい。
【0058】
3.半透膜の利用
このようにして得られた本発明の浸透膜を用いた濃度差発電方法について、平膜状の半透膜を用いた場合を例に説明するが、以下の方法に限られたものではない。本発明の濃度差発電方法は、(a)低濃度塩水と高濃度塩水とを上述したいずれかの半透膜または複合膜によって隔てて接触させることで、低濃度塩水から高濃度塩水への水の流動を生じさせること、および(b)その流動を利用して発電機を駆動させること、を備える。
【0059】
半透膜は、プラスチックネットなどの原水流路材と、トリコットなどの透過水流路材と、必要に応じて耐圧性を高めるためのフィルムと共に、多数の孔を穿設した筒状の集水管の周りに巻回されることで、スパイラル型の半透膜エレメントとして好適に用いられる。
【0060】
上記の半透膜またはそれを用いたエレメントに対し、
図1に示すように、半透膜の片面(第一面)に高濃度の塩水Swを加圧しながら接触させ、その反対面(第二面)に低濃度の淡水Fwを接触させると、浸透現象によって、前記第二面側の低濃度の淡水Fwの一部が半透膜1を通って第一面側に移動する(工程(a))。その結果、第一面側の溶液が第二面側から透過した低濃度の淡水の分だけ大きな容積となるため、第一面側に入力した圧力よりも大きな圧力で発電機2を駆動することができる(工程(b))。こうして、発電に用いるエネルギーを得ることができる。
【0061】
上述した半透膜を用いることで小さな圧力差であっても高い透水性を有し、また、半透膜の膜中における塩分の滞留が抑制されるため、それによって濃度分極による透水量の低下を抑制される。その結果、本発明の発電方法によると、高い発電量を実現することができる。
【実施例】
【0062】
次に、実施例に基づいて本発明を説明するが、本発明はこれにより必ずしも限定されるものではない。
【0063】
表1〜4に記載したように、緻密層Aを構成するポリマーの構造、緻密層Aの厚み、製膜時の脱溶媒条件等を異ならせた19種類(実施例1〜17、比較例1〜2)の半透膜を作製し、その膜透過流束、塩除去率を評価した。
【0064】
<モノマーの合成>
緻密層Aの主成分となるポリマーの合成に供するモノマーを以下の手順にて準備した。
【0065】
芳香族テトラアミンモノマーとして、3,3'―ジアミノベンジジン(東京化成工業株式会社製)を購入し、使用した。
【0066】
芳香族ジカルボン酸モノマーは、市販品を適宜使用した。さらに、芳香族ジカルボン酸モノマーには、必要に応じ、親水性基としてスルホン酸ナトリウムを導入した後、重合に使用した。具体的には、芳香族ジカルボン酸化合物に対して30%発煙硫酸を過剰量接触させて90℃で3〜8時間反応させ、スルホン化芳香族ジカルボン酸を合成した。スルホン化率は、反応時間を調節することで制御した。続いて食塩水で処理することで、芳香族ジカルボン酸のスルホン酸ナトリウム塩を合成した。
【0067】
<ポリマーの合成>
ポリマーは、基本的に芳香族テトラアミンモノマー及び芳香族ジカルボン酸モノマーの重合によりポリマー合成(重合)を行った。まず、総量3gの芳香族ジカルボン酸モノマーと、ポリリン酸触媒0.5gを重合容器内に加え、窒素雰囲気下150℃で溶融させた。徐冷して室温に戻した後、3,3'―ジアミノベンジジン2gを加えてから、150℃に再昇温した。5時間かけて200℃まで昇温した後、200℃で24時間重合を行った。なお、芳香族ジカルボン酸モノマーには必要に応じ2種類のモノマーを混合して用いた。重合終了後に反応槽を冷却し、氷水および30%重曹水溶液で洗浄を行い、減圧乾燥することでポリベンズイミダゾールポリマーを5g得た。
【0068】
生成する具体的なポリマー構造は表1〜4を参照されたい。
【0069】
続いて、表1〜4のポリマー構造になるように、必要に応じ構造Pをポリマー中の窒素原子上に導入した。合成したポリベンズイミダゾール10gを反応容器に加えた後、ポリベンズイミダゾール繰り返し単位構造の量に対し、水素化リチウムを5当量、臭化ブチル(実施例7,8)または1,4−ブタンスルトン(実施例9,10)を0.5または1当量加え、90℃で12時間反応させた。構造Pの導入率は、臭化ブチルまたは1,4−ブタンスルトンの添加量により調節した。例えば、実施例7〜10において、膜形成前にあらかじめ、0.5当量添加した場合は導入率50%、1当量添加した場合は導入率100%となったことをプロトンNMR測定により確認した。
【0070】
<膜形成実験>
次に、膜形成実験について説明する。代表例として、平膜の場合について本発明を説明する。
【0071】
(1)溶液調製
ガラス容器にポリマー、およびジメチルスルホキシド溶媒をポリマー濃度が15wt%になるように加え、100℃で攪拌して透明均一な溶液を調製した。さらに、室温まで徐冷した後、必要に応じ、架橋剤であるジビニルスルホン1mol%を添加し、再度攪拌溶解した(ここで架橋剤を添加した場合、表1〜4の備考欄にて、「架橋」という記載を設けた)。これを孔径0.4μmのメンブレンフィルターを用いて濾過した後、真空脱泡し、さらに24時間室温で静置した後、製膜に用いた。
【0072】
(2)液膜形成
製膜はポリマー溶液のコーティング法により行った。シリコンウェハ上にポリマー溶液を塗布/スピンコートし、基板上に液膜を形成した。実施例17でのみ、微多孔性層B表面を液膜表面上に配置し、被覆した後、続く脱溶媒に供した。
【0073】
(3)脱溶媒等
液膜形成後、加熱乾燥により脱溶媒を行った(120℃で60分、さらに170℃で30分加熱乾燥)。脱溶媒後、常温の純水中で膜を基板から剥離させた後、微多孔性層Bの上に配置し、加圧透水テストに用いた。
【0074】
<加圧透水テスト>
透水テスト前に、膜サンプルは全てイソプロピルアルコール水溶液に一定時間浸漬処理した。透水テストは、圧力:1MPa,供給液の塩化ナトリウム濃度:500ppm,温度:25℃、pH:6.5で行った。全ての実験において、膜面積、測定時間を全て統一して実施し、透過水の膜透過流束[m
3/m
2/day]、塩除去率[%]を測定した。
塩除去率=100×{1−(透過水中の塩濃度/供給水中の塩濃度)}
【0075】
(膜厚の測定)
半透膜をステンレス板に固定して60℃で12時間以上乾燥させた後、任意に別々の2箇所を切り取ってサンプルとした。走査型電子顕微鏡で該サンプルの断面積を観察し、付属の長さ測定ソフトにて任意の場所の厚みを1サンプルにつき5点計測した。得られた10点の厚みを合計し、次いで10で割ることで半透膜の厚みを算出した。 形成した半透膜を構成する緻密層Aのポリマー構造と膜性能の関係を表1〜4に示す。以降、特に断りのない限り、微多孔性層Bには全て同一のポリスルホン支持膜を使用した。使用したポリスルホン支持膜は表面孔径が30nm、膜厚が50μm、空隙率20%であり、1MPaの加圧透水テストに使用しても破れや目詰まりは起こらなかった。
【0076】
<構造Xの効果>
実施例1〜6と比較例1とは、脱溶媒条件および微多孔性層Bが同一である。これらは主に、Xの導入率を示すmの値が互いに異なる。実施例1〜6では好適な透水量が得られ、特に実施例1〜4ではより好適な透水量が得られた。比較例1ではm=0、かつR
3およびR
4が水素原子の場合を示したが、好適な透水量は得られなかった。
【0077】
以上より、好適な透水量を得るためには構造Xを含むことが望ましく、特にmの値が20以上、かつ100未満である場合、より良い透水量が得られるものと考えられる。
【0078】
<構造Pの効果>
実施例7〜10および比較例1はm=0,n=100とした構造Xを有しない例である。実施例7,8では、構造Pとしてブチル基を導入した。また実施例9,10では、構造Pとしてブチルスルホン酸ナトリウム基を導入した。ここで、xは構造Pの導入率を示しており、0≦x≦1である。実施例7,9ではx=0.5、実施例8,10ではx=1である。
【0079】
構造Pをもたない比較例1では好適な性能は得られなかったが、これら実施例7〜10ではいずれの場合でも、好適な性能を示した。構造Pを導入した場合の効果を確認した。架橋した場合、構造Pを導入する効果はより顕著となるが、このことは次の<架橋の効果>の末尾にて説明する。
【0080】
<架橋の効果>
実施例11〜15および比較例2では、架橋を検討した。このうち実施例11〜14,17と比較例2はm=0,n=100とした構造Xを有しない例である。架橋剤として、ポリマーの繰り返し単位の量に対し1mol%のジビニルスルホンを使用した。比較例2の親水性基を導入していないポリマーを除き、親水性基または構造Pを導入したポリマーでは、架橋により高い性能を得た。特に、実施例13,14では透水量と塩除去性が共に飛躍的に向上した。
【0081】
架橋反応の進行をFT−IRスペクトル測定にて確認した。代表例として、実施例2と16の膜について測定した結果を
図2に、架橋反応式を
図3に示す。架橋反応の進行に伴い、架橋ポリマーの構造中にはO=S=O構造が形成されるので、架橋の前後でこの構造部位の有無を比較することで、架橋の進行を確認できる。
図2に示すように、実施例2(架橋なし)ではO=S=Oの非対称振動と対称振動のピークが見られなかったが、実施例16(架橋あり)では、O=S=Oの非対称振動と対称振動のピークが、それぞれ1307cm
-1、1130cm
-1に確認できた。このことから、架橋反応の進行を確認した。
【0082】
<膜の含水率の効果>
実施例12,14および比較例2で得られた半透膜について、膜の含水率を測定した結果を表5に示す。含水率の測定は、膜を1晩以上真空乾燥し、RO水(逆浸透膜透過水)に1晩浸漬させた後、膜表面に付着する水滴をキムワイプで除去した後の含水状態の膜の重量W1と、乾燥した膜の重量W0を用いて、次式の様に表される。
含水率(%) = 100(%)×(W1−W0)/W0
【0083】
表5より、構造Pを導入した場合は、導入していない場合に比べ、含水率が増加したことが分かった。一般に、含水率が高い膜ほど、より親水的であり、半透膜としては好適である。実施例12では構造Pがブチル基、実施例14では構造Pがブチルスルホン酸ナトリウム基であり、後者の方がより含水率が高かったことから、より好適な半透膜と言え、表3〜4に示す性能の見地からも、含水率の増加に伴い、透水量は増大したことが分かる。これらのことより、構造Pを導入することでより好適な半透膜が得られ、構造Pの効果を確認できた。
【0084】
<微多孔性層Bへの含浸の影響>
実施例14と17で、緻密層Aは全く同一であるが、微多孔性層Bのみが異なる。実施例14と実施例17の違いは、緻密層Aが微多孔性層Bに含浸しているかどうかの違いである。実施例14では緻密層Aを単体で形成した後に、これを微多孔性層Bの上部へと配置したのみであるので、緻密層Aが微多孔性層Bに含浸していない。実施例17では、PVDF支持膜(表面孔径が30nm、膜厚が50μm、空隙率20%)を用い、基板上に形成した液膜表面に、PVDF支持膜の表面を上部より張り合わせ、脱溶媒を行った。このように実施例17では緻密層Aが液膜の段階で微多孔性層Bを配置したので、緻密層Aが微多孔性層Bに含浸している。実施例14および17の膜の断面模式図を
図4に示す。
【0085】
一方、両者の性能を比較すると、実施例14に比べ、実施例17の透水量および塩除去率がさらに向上した。これは、緻密層Aが微多孔性層Bに含浸することにより、支持膜(微多孔性層B)の孔径である数十nmの領域に緻密層Aを構成する架橋ポリマーが侵入し、物理的に束縛されるため、支持膜の孔径以上の過度な膨潤が阻止され、塩の流出が抑えられたためと考えられる。以上より、緻密層Aが微多孔性層Bに含浸する場合、より性能の高い半透膜が得られた。
【0086】
【表1】
【0087】
【表2】
【0088】
【表3】
【0089】
【表4】
【0090】
【表5】