特許第6282631号(P6282631)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6282631発酵低アルコールビール風味麦芽飲料の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6282631
(24)【登録日】2018年2月2日
(45)【発行日】2018年2月21日
(54)【発明の名称】発酵低アルコールビール風味麦芽飲料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 2/00 20060101AFI20180208BHJP
   A23L 2/38 20060101ALI20180208BHJP
   C12G 3/08 20060101ALI20180208BHJP
【FI】
   A23L2/00 H
   A23L2/00 B
   A23L2/38 S
   C12G3/08
【請求項の数】8
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-505235(P2015-505235)
(86)(22)【出願日】2013年11月28日
(86)【国際出願番号】JP2013082084
(87)【国際公開番号】WO2014141544
(87)【国際公開日】20140918
【審査請求日】2016年9月1日
(31)【優先権主張番号】特願2013-49006(P2013-49006)
(32)【優先日】2013年3月12日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】311007202
【氏名又は名称】アサヒビール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100158
【弁理士】
【氏名又は名称】鮫島 睦
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100122297
【弁理士】
【氏名又は名称】西下 正石
(72)【発明者】
【氏名】飯島 和丸
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 大和
【審査官】 太田 雄三
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2006/068191(WO,A1)
【文献】 特開2012−239460(JP,A)
【文献】 BRANYIK, T., et al.,A review of methods of low alcohol and alcohol-free beer production.,Journal of Food Engineering,2012年 2月,Vol.108, No.4,p.493-506
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 2/00
C12G 3/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
WPIDS/WPIX(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
25〜50のBrix値及び25重量%以上の麦芽糖濃度を有する麦汁に酵母を添加する工程;及び
酵母を添加した麦汁を発酵させる工程;
を包含する発酵低アルコールビール風味麦芽飲料の製造方法であって、
麦汁のpHが2〜4であり、
酵母の添加量が麦汁1mlあたり1×10個以下であり、
発酵温度が3〜7℃であり、
発酵時間が7〜20日間である発酵低アルコールビール風味麦芽飲料の製造方法。
【請求項2】
前記発酵低アルコールビール風味麦芽飲料のエタノール濃度が0.005体積%未満である請求項1に記載の発酵低アルコールビール風味麦芽飲料の製造方法。
【請求項3】
発酵が静置培養法によって行われる請求項1又は2に記載の発酵低アルコールビール風味麦芽飲料の製造方法。
【請求項4】
2−メチルブタナール濃度が発酵前と比較して85%以上低減する請求項1〜のいずれか一項に記載の発酵低アルコールビール風味麦芽飲料の製造方法。
【請求項5】
3−メチルブタナール濃度が発酵前と比較して85%以上低減する請求項1〜のいずれか一項に記載の発酵低アルコールビール風味麦芽飲料の製造方法。
【請求項6】
メチオナール濃度が発酵前と比較して80%以上低減する請求項1〜のいずれか一項に記載の発酵低アルコールビール風味麦芽飲料の製造方法。
【請求項7】
麦汁の麦芽糖濃度が25〜50重量%である請求項1〜のいずれか一項に記載の発酵低アルコールビール風味麦芽飲料の製造方法。
【請求項8】
前記麦汁は、麦芽糖が添加されたものである請求項1又は7に記載の発酵低アルコールビール風味麦芽飲料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はノンアルコールビール風味麦芽飲料に関する。
【背景技術】
【0002】
ビール風味飲料には、実質的にエタノールを含有する酒類であるビール類、及び実質的にエタノールを含有しない清涼飲料であるノンアルコールビール風味飲料等の多種類の製品がある。ノンアルコールビール風味飲料とは、アルコール分を含まないか、アルコール濃度が特定の数値未満に調整されたビール風味飲料をいう。ノンアルコールビール風味飲料には、例えば、日本の酒税法において、酒類ではなく、ビールテイスト飲料に分類される、アルコール分が1%未満のビール風味飲料が含まれる。
【0003】
ノンアルコールビール風味飲料はアルコール濃度が1体積%未満と低い。また、一般に、ノンアルコールビール風味飲料は通常のビールに比べてカロリーが低く、健康志向の人にも支持を受けている。
【0004】
ノンアルコールビール風味飲料の製造方法は、(1)エタノール除去、(2)発酵抑制、(3)非発酵の3種類に大別される。(1)は通常のビールから特殊な装置でエタノール分だけを抜いて造る。(2)は麦汁を含む糖溶液を通常より低温で発酵させるなどして酵母の活動を抑制し、低エタノールに仕上げる。(3)は飲用水に、麦汁、麦芽エキス、糖類及び香料などを加えて製造される。
【0005】
(2)の製造方法では、ビールを製造する場合と同様の原料及び製造工程が使用される。そのため、ビール風味を再現し易い利点がある。しかし、得られる飲料のエタノール濃度を低くするために、酵母の増殖が抑制される条件で発酵を行う必要がある。かかる発酵条件の例としては、通常のビールの製造工程よりも発酵温度を低く維持し、発酵時間を短時間で終了させる等がある。
【0006】
そのため、発酵抑制によるノンアルコールビール風味飲料の製造方法は、発酵槽の冷却にエネルギーを要し、製造工程の管理が煩雑等の問題がある。また、発酵時間が短時間になると麦汁臭が十分に低減せず、麦汁感が残るため、飲用時に消費者が不快を感じる原因になる。
【0007】
特許文献1にはノンアルコールビール風味麦芽飲料の製造方法として、麦汁の発酵を、5℃以下、実際には0℃という低温で炭酸ガスをバブリングしながら5〜30時間行うことが記載されている。この製造方法で得られるノンアルコールビール風味麦芽飲料は麦汁臭が低減されている。また、エタノール濃度は0.06〜0.5体積%である。
【0008】
しかしながら、日本ではエタノール濃度が0.005体積%未満のビールテイスト飲料が広く消費者に受け入れられており、0.005体積%未満にすることが望ましい。また、製造コストを低く、製造工程の管理を簡単にするために、発酵温度はより高く約3〜7℃にすることが望ましい。また、麦汁臭を除去するためには発酵時間はより長く約3〜20日間にすることが望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2005−13142号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上記従来の問題を解決するものであり、その目的とするところは、ビールの製造工程と同様に、温度約3〜7℃で約3〜20日間発酵を行った場合でも、0.005体積%未満という低いエタノール濃度が達成される、ノンアルコールビール風味麦芽飲料の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、Brix値が15〜50の麦汁に酵母を添加する工程;及び
酵母を添加した麦汁を発酵させる工程;
を包含するノンアルコールビール風味麦芽飲料の製造方法を提供する。
【0012】
ある一形態においては、前記ノンアルコールビール風味麦芽飲料のエタノール濃度が0.005体積%未満である。
【0013】
ある一形態においては、前記麦汁のpHが2〜4である。
【0014】
ある一形態においては、発酵時間が3〜20日間である。
【0015】
ある一形態においては、酵母の添加量が麦汁1mlあたり1×10個以下である。
【0016】
ある一形態においては、発酵温度が3〜7℃である。
【0017】
ある一形態においては、発酵が静置培養法によって行われる。
【0018】
ある一形態においては、2−メチルブタナール濃度が発酵前と比較して85%以上低減する。
【0019】
ある一形態においては、3−メチルブタナール濃度が発酵前と比較して85%以上低減する。
【0020】
ある一形態においては、メチオナール濃度が発酵前と比較して80%以上低減する。
【0021】
ある一形態においては、麦汁の麦芽糖濃度が5〜50重量%である。
【発明の効果】
【0022】
本発明の方法によれば、発酵液のエタノール濃度が0.005体積%未満に抑制される。得られた発酵液は麦汁臭の原因物質が減少し、実際に麦汁臭が除去されている。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】実施例で製造した発酵液のエタノール濃度を発酵時間に対してプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
まず、麦汁を製造する。ここで麦汁とは、麦芽及び副原料、もしくは大豆タンパク分解物等の副原料を糖化して製造した糖溶液をいう。例えば、麦芽の破砕物、大麦等の副原料、及び温水を加熱することにより糖化し、麦汁を製造する。このようにして製造した麦汁の糖濃度はBrix値で通常10〜15程度である。
【0025】
発酵に供する麦汁は糖濃度が高い麦汁である。麦汁の糖濃度を高くすることで浸透圧が高くなり、発酵を行う際、酵母の増殖が抑制される。麦汁の糖濃度はBrix値で約10〜60、好ましくは15〜50、より好ましくは25〜40である。
【0026】
麦汁のBrix値が10未満であると、発酵を行う際、酵母の増殖が十分に抑制されず、得られる飲料のアルコール濃度が高くなる。麦汁のBrix値は、50を超えて高めると均一に麦芽糖を溶解することが困難になる。
【0027】
麦汁の糖濃度は、麦芽、要すれば副原料を糖化して製造した麦汁に糖を添加することにより高めることができる。添加する糖の種類は、得られる飲料の風味等を考慮し、浸透圧を向上させるのに有効なものを適宜選択すればよい。具体的には、麦芽糖、ショ糖、果糖、ブドウ糖、乳糖、オリゴ糖等が挙げられる。中でも好ましい糖の一つとして麦芽糖が挙げられる。
【0028】
麦芽糖を添加して糖濃度を高める場合、発酵に供する麦汁は、麦芽糖濃度が5〜50重量%、好ましくは15〜45重量%、より好ましくは25〜45重量%である。
【0029】
また、発酵に供する麦汁はpHが低い麦汁である。麦汁のpHを低くすることで、発酵を行う際、酵母の増殖が抑制される。麦汁のpHは2〜4、より好ましくは2.5から3.5である。
【0030】
麦汁のpHが2未満であると、酵母は活性を失う。麦汁のpHが4を超えると、発酵を行う際、酵母の増殖が十分に抑制されず、得られる飲料のアルコール濃度が高くなる。
【0031】
麦汁のpHは、麦汁に酸を添加することにより低くすることができる。添加する酸の種類は、安全性を考慮し、飲食品に使用することが許容されているものを適宜選択すればよい。具体的には、酢酸、乳酸、リン酸、りんご酸、クエン酸、塩酸等が挙げられる。中でも麦汁に添加するのに好ましい酸は、乳酸、リン酸及び塩酸である。
【0032】
糖濃度を高く、pHを低く調整した麦汁を、次いで、発酵させる。具体的には、麦汁を発酵槽に入れ、その麦汁に所定量の酵母を添加し、所定の温度の下に所定の期間静置する。
【0033】
麦汁に添加する酵母には、ビール酵母や清酒酵母等が挙げられる。中でも好ましい酵母はビール酵母である。
【0034】
麦汁に添加する酵母の量は麦汁1ml当たり1×10個(cells/ml)以下、好ましくは1×10個〜5×10個、より好ましくは5×10個〜3×10個である。添加する酵母の量が少量にすぎると得られる飲料の麦汁臭が十分に低減せず、麦汁感が残り、1ml当たり1×10個を超えると得られる飲料のアルコール濃度が高くなる。
【0035】
発酵温度は0〜10℃、好ましくは3〜7℃、より好ましくは4〜6℃である。発酵温度が0℃未満であると、麦汁臭の原因物質が十分に消費されず、得られる飲料に麦汁臭が残存する。発酵温度が10℃を超えると得られる飲料のアルコール濃度が高くなる。
【0036】
本発明で用いる発酵方法は酵母の増殖を抑制する効果が高く、アルコール生成量が少量であり、発酵時間を比較的長くすることができる。つまり、ビールを製造する場合と同様に、麦汁の発酵を数週間、例えば、1週間ないし2週間行った場合でも、得られる飲料のエタノール濃度を低く維持することができる。
【0037】
発酵時間が長い場合、麦汁臭の原因物質が十分に消費され、得られる飲料の味質及び嗜好性が向上する。また、発酵時間の管理をビールと同様に行えるので、製造工程の管理が簡略化される。発酵時間は、具体的には、3〜20日間、好ましくは5〜14日間、より好ましくは7〜11日間である。
【0038】
発酵時間が3日間未満であると麦汁臭の原因物質が十分に消費されず、得られる飲料に麦汁臭が残存する。発酵時間が20日間を超えると得られる飲料のアルコール濃度が高くなる。
【0039】
得られた発酵液は、必要に応じて熟成させ、濾過することにより酵母及びタンパク質等を除去して、目的の低アルコール濃度の発酵液が得られる。得られる発酵液のアルコール濃度は1体積%未満、好ましくは0.01体積%未満、より好ましくは0.005%未満である。
【0040】
発酵液は、通常の発酵飲料の製造において行われる処理、例えば、ろ過、脱気水などによる最終濃度の調節、炭酸ガスの注入、香料、調味料又は着色料の添加、低温殺菌(パストリゼーション)、容器(例えば樽、壜、缶)への充填(パッケージング)、容器のラベリングなど、を適宜行うことにより、ノンアルコールビール風味麦芽飲料に調製される。
【0041】
以下の実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【実施例】
【0042】
実施例1
収穫された大麦を水に浸けて適度に発芽させた後、熱風により焙燥して、麦芽を製造した。該麦芽は常法により破砕した。次に、麦芽の破砕物及び温水を仕込槽に加えて混合してマイシェを調製した。マイシェの調製は、50℃で30分間保持することにより行った。その後、該マイシェを徐々に昇温して所定の温度で一定期間保持することにより、麦芽由来の酵素を利用して、澱粉質を糖化させた。糖化処理は、64.5℃にて10分間、70℃にて10分間保持することにより行った。糖化処理後、78℃で5分間保持した後、マイシェを麦汁濾過槽にて濾過することにより、透明な麦汁を得た。
【0043】
得られた麦汁に麦芽糖を添加してBrix値を35.07(麦芽糖濃度46.3重量%)に調節した。更に、これに塩酸を添加してpHを3.5に調節した。Brix値及びpHを調整した麦汁800mlを5℃に冷却した。冷却した麦汁を三角フラスコに移し、麦汁1mlあたり1×10個の泥状酵母(ビール酵母)を添加した。発酵液の温度を5℃に維持し、11日間静置発酵させた。
【0044】
Fキット(Roche Diagnostics社製「Fキット エタノール」(商品名))を用いて発酵液のエタノール濃度を測定した。結果を図1に示す。発酵11日目の発酵液はエタノール濃度が0.0035体積%であった。
【0045】
また、麦汁臭の原因物質である、2−メチルブタナール(2MB)、3−メチルブタナール(3MB)、メチオナール、ベンズアルデヒド(BA)、フェニルアルデヒド(PA)、フルフラールの濃度をGC/MSで測定した。減少率は発酵0日目と11日目の各アルデヒドの減少度合いを示す。
【0046】
[表1]
【0047】
更に、発酵0日目の発酵液、発酵7日目の発酵液及び発酵11日目の発酵液を官能評価に供した。その際、評価者がビールを試飲し、味の印象を表現した。発酵0日目は「麦汁臭、甘味」であり、発酵7日目及び発酵11日目は「若干穀物、酸味」であった。
【0048】
実施例2
酵母の種類を清酒酵母に変更すること以外は実施例1と同様にして発酵液を製造し、評価した。結果を図1及び表2に示す。発酵11日目の発酵液はエタノール濃度が0.0012体積%であった。
【0049】
[表2]
【0050】
発酵0日目の発酵液、発酵7日目の発酵液及び発酵11日目の発酵液を官能評価に供したところ、発酵0日目は「麦汁臭、甘味」であり、発酵7日目及び発酵11日目は「アメ的、甘味」であった。
【0051】
実施例の結果から、5℃で11日間の発酵条件でも発酵液のエタノール濃度が0.005体積%未満に抑制されることが示された。得られた発酵液は麦汁臭の原因物質が減少し、実際に麦汁臭が除去されている。
図1