【文献】
Rosiglitazone reduces renal and plasma markers of oxidative injury and reverses urinary metabolite abnormalities in the amelioration of ciabetic nephropathy,American Journal of Physiology: Renal Physiology,2008年,Vol.295,pp.F1071-F1081
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
グリオキシレートの前記基準量が、糖尿病に対する薬剤であることが推測される化合物と接触していない、糖尿病又は糖尿病様状態に罹患している被験体又は被験体の群から得られる、請求項1に記載の方法。
前記基準量が、糖尿病に対する薬剤であることが推測される化合物と被験体を接触させる前に採取された基準試料に存在するグリオキシレートの量である、請求項1に記載の方法。
基準量と比較して同じ又は増加した量の、試験試料中のグリオキシレートにより、化合物が糖尿病に対する薬剤ではないと同定されるのに対して、基準量と比較して減少した量の、試験試料中のグリオキシレートにより、化合物が糖尿病に対する薬剤であると同定される、請求項2又は3に記載の方法。
基準量と比較して増加した量の、試験試料中のグリオキシレートにより、化合物が糖尿病に対する薬剤ではないと同定されるのに対して、基準量と比較して同じ又は減少した量の、試験試料中のグリオキシレートにより、化合物が糖尿病に対する薬剤であると同定される、請求項5に記載の方法。
前記試験細胞が、以下の細胞の群:肝臓のHepG2細胞、Chang肝細胞、ラット若しくはマウス後根神経節神経細胞、脂肪細胞、及び糸球体間質細胞から選択される、請求項12〜14のいずれか一項に記載の方法。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明による方法は、一実施形態において、エキソビボ法、すなわち、単離された試験試料について実施される方法である。更に、本発明に従って言及される方法は、前述の工程から本質的になるものでもよいし、更なる工程を含んでいてもよい。更なる工程は、試料の前処理、又は本発明の方法により調査される化合物の評価に関するものであってもよい。好ましい更なる評価工程を、本明細書の他の部分に記載している。該方法は、自動化により部分的に又は全体的に補助されてもよい。例えば、工程a)を、ロボット化又は自動化読み取り装置により自動化することができる。工程b)を、実行されたときに比較を自動的に実施するプログラムコードを含むコンピュータなどの適切なデータ処理装置により、自動化することができる。そのような場合の基準は、記憶された基準として例えばデータベースから提供される。
【0020】
用語「同定する」は、本明細書で使用されるとき、特性、好ましくは、糖尿病に対する薬剤であるという特性を、本発明の方法による調査対象の化合物に割り当てることを意味する。この用語はまた、好ましくは、前記薬剤を提供すること及び/又は単離すること及び/又は製剤化することを含みうる。薬剤を同定することを目的とする本発明の方法は、糖尿病に対する薬剤として適切な化合物を含むと推測される、ほとんど未知の化合物のプール、例えば、小化合物の化学ライブラリー、天然化合物のライブラリー、抗体若しくはアプタマーのライブラリー、又は阻害性RNAのライブラリーから出発するスクリーニング手法において、又は、例えば、ある種の化合物が、他のアッセイに基づき、糖尿病に対する薬剤として適していることがすでに示唆されている場合の、検証手法のために使用されうることが理解される。したがって、同定するとは、本明細書で使用されるとき、特に、化合物が化合物のプールに含まれている場合に、化合物の特徴を明らかにする更なる工程を包含しうる。そのような更なる工程は、好ましくは、例えば、質量分光法、NMR分光法、及び/又は結晶のX線回折パターン解析、及び/又は本明細書の他の部分で言及されている他の技術を適用することによる、構造の特徴付けを含む。更に、含まれる更なる工程はまた、好ましくは、化合物のある種の生化学的及び/又は物理的特性を決定することを目的としてもよい。更に、薬理学的特性を調査することを目的とする工程も、その用語に含めてもよい。
【0021】
用語「糖尿病に対する薬剤」は、本明細書で使用されるとき、糖尿病を治療すること、すなわち、疾患若しくはそれに伴う少なくとも一つの症状を治す及び/又は改善すること、又は疾患に伴う少なくとも一つの副作用若しくは共存症を改善若しくは予防することにおいて有効な薬剤を意味する。好ましくは、前記共存症は、糖尿病性腎障害である。更に、その用語はまた、薬剤開発のためのリード化合物から、安全性、有効性若しくは副作用、又は共存症に影響を与える潜在性について評価されるべき、有効性が認められた化合物までの全ての段階の候補薬を包含する。したがって、本発明の方法は、必ずしも、薬剤へと成熟する化合物を同定しなければならないわけではなく、むしろ、薬剤になるためには更なる調査を必要としうるリード化合物又は候補薬を同定するだけでもよいことが理解される。
【0022】
「糖尿病に対する薬剤であることが推測される化合物」として、化合物が、グリオキシレート代謝に直接的又は間接的に影響を与えることができるように、非毒性用量で投与でき、原則的に、生物学的に利用可能であるならば、任意の化学化合物が、本発明の方法に適用されうる。直接的な影響は、グリオキシレートと相互作用する化合物によって、例えば、それを除去する(scavenge)ことによって、あるいは、その任意の代謝前駆体、又は被験体におけるグリオキシレート代謝に関わる任意の酵素若しくは調節因子と相互作用する化合物によって与えられうる。間接的な影響は、そのような酵素又は調節因子の転写又は翻訳に影響を与える化合物によって与えられうる。好ましくは、グリオキシレート代謝の酵素は、下の
図1に示しているもの、又は
図1に示す酵素的変換を触媒するものである。好ましくは、本発明に従って想定される酵素は、グリオキシレートレダクダーゼ/ヒドロオキシピルベートレダクターゼ(GRHPR)、アラニン:グリオキシレートアミノトランスフェラーゼ(AGT)、アルデヒドデヒドロゲナーゼ(ALDH)、グリコレートオキシダーゼ(GO)、グリオキシレートレダクターゼ(GR)、4-ヒドロキシ-2-オキソグルタレートアルドラーゼ(HOGA)、及び/又はラクテートデヒドロゲナーゼ(LDH)である。酵素的変換、グリオキシレート代謝への影響、及び疾患との関連を、下の表1に示す。
【0024】
グリオキシレート代謝の調節因子は、本明細書で言及されるとき、好ましくは、グリオキシレート代謝の酵素の発現又は活性を制御する転写因子又はシグナル伝達分子である。好ましくは、本発明に従って想定される調節因子は、ペルオキシソーム増殖剤活性化受容体(PPAR)である。したがって、糖尿病に対する薬剤であることが推測される化合物は、小さな化学物質、化学ポリマー、無機化合物、分子若しくは複合体、又は天然に存在する若しくは人工の生体分子、例えば、抗体、アプタマー若しくは核酸を含めた、複数の様々な化合物クラスから選択されうる。
【0025】
用語「抗体」は、本明細書で使用されるとき、好ましくは、グリオキシレート又はその代謝の酵素若しくは調節因子に特異的に結合する、全ての種類の抗体を包含する。好ましくは、本発明の抗体は、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、一本鎖抗体、キメラ抗体、あるいは、グリオキシレート又はその代謝の酵素若しくは調節因子に依然として結合できる、そのような抗体の任意のフラグメント若しくは誘導体である。更に、抗体は、好ましくは、グリオキシレートの生物学的若しくは化学的活性の少なくとも一つ、例えば、終末糖化産物の形成の間のその活性、又はグリオキシレート代謝の酵素若しくは調節因子を阻害する。抗体という用語に含まれるフラグメント及び誘導体は、本明細書で使用されるとき、二重特異性抗体、合成抗体、Fab、F(ab)
2、Fv若しくはscFvフラグメント、又はこれらの抗体のいずれかの化学修飾誘導体を包含する。特異的結合とは、本発明の抗体の文脈で使用されるとき、抗体が、被験体における他の成分と交差反応しないことを意味する。特異的結合は、様々な周知の技術によって試験することができる。抗体又はそのフラグメントは、一般に、例えば、Harlow and Lane "Antibodies, A Laboratory Manual", CSH Press, Cold Spring Harbor, 1988に記載されている方法を使用することによって得ることができる。モノクローナル抗体は、免疫化哺乳類、好ましくは免疫化マウス由来の脾臓細胞へのマウス骨髄腫細胞の融合を含む技術によって作製することができる(Kohler 1975, Nature 256, 495、及びGalfre 1981, Meth. Enzymol. 73,3)。
【0026】
用語「アプタマー」は、本明細書で使用されるとき、特定の標的分子に結合するオリゴ核酸又はペプチド分子を意味する(Ellington 1990, Nature 346 (6287): 818-22)、Bock 1992, Nature 355 (6360): 564-6)。オリゴ核酸アプタマーは、選択の繰り返し、又はいわゆる試験管内進化法(SELEX技術)を通して改変される。ペプチドアプタマーは、通常、両端でタンパク質足場に付着する可変ペプチドループからなる。この二重構造的制約は、ペプチドアプタマーの結合親和性を、ナノモル範囲に高めるはずである。前記可変ペプチドループの長さは、好ましくは、10〜20のアミノ酸からなり、足場は、可溶特性及び収容特性が向上した任意のタンパク質、例えば、チオレドキシン-Aであってもよい。ペプチドアプタマーの選択は、様々な系、例えば、酵母2ハイブリッド系を含めた様々な系を使用して行うことができる(例えば、Hoppe-Seyler 2000, J Mol Med. 78(8): 426-30を参照すること)。更に、アプタマーは、好ましくは、グリオキシレートの生物学的若しくは化学的活性の少なくとも一つ、例えば、終末糖化産物の形成の間のその活性、又はグリオキシレート代謝の酵素若しくは調節因子を阻害するべきである。
【0027】
用語「低分子化学化合物」は、本明細書で使用されるとき、グリオキシレート、又はその代謝の酵素若しくは調節因子と特異的に相互作用する化学化合物を意味する。本明細書で使用される低分子は、好ましくは、1000Da未満、より好ましくは800Da未満、500Da未満、300Da未満、又は200Da未満の分子量を有する。そのような低分子は、細胞膜を超えて拡散することができ、その結果、細胞内の作用部位に入り、到達することができる。適切な化学化合物は、低有機分子を包含する。そのような低有機分子の適切なクラスは、好ましくは、イソプレノイド、ステロイド、フラボノイド、グリコシド、アルカロイド、脂質、アルコール、フェナジン、フェノール、ポリケチド、テルペン又はテトラピロールでありうる。更に、低分子化学化合物は、好ましくは、グリオキシレートの生物学的若しくは化学的活性の少なくとも一つ、例えば、終末糖化産物の形成の間のその活性、又はグリオキシレート代謝の酵素若しくは調節因子を阻害するべきである。好ましくは、低分子化学化合物は、アミノグアニジン又は恐らくビグアニド系のメトホルミンと同様に、グリオキシレートを除去することができる。更に、好ましくは、低分子化学化合物は、グリオキシレート生合成酵素の拮抗剤である。
【0028】
用語「化学ポリマー」は、本明細書で使用されるとき、非生物学的ポリマー、すなわち、核酸及びペプチド若しくはタンパク質を除く全てのポリマー分子を意味する。そのポリマーは、好ましくは、グリオキシレートの生物学的若しくは化学的活性の少なくとも一つ、例えば、終末糖化産物の形成の間のその活性、又はグリオキシレート代謝の酵素若しくは調節因子を阻害するべきである。
【0029】
用語「無機化合物、分子及び複合体」は、無機化合物若しくは分子の元素、塩及び他の複合体を包含する。前記化合物、分子又は複合体は、好ましくは、グリオキシレートの生物学的若しくは化学的活性の少なくとも一つ、例えば、終末糖化産物の形成の間のその活性、又はグリオキシレート代謝の酵素若しくは調節因子を阻害するべきである。
【0030】
調査対象の化合物として、本発明に従って使用されるべき核酸は、好ましくは、阻害性核酸である。前記阻害性核酸は、好ましくは、グリオキシレート代謝の酵素又は調節因子である遺伝子産物の転写及び/又は翻訳を阻止することができる。好ましくは、前記阻害性核酸は、そのような酵素又は調節因子のための転写ユニットに特異的に結合することができ、結合時にそれらの転写を妨げるか、又は転写産物に結合し、翻訳を妨げるか、若しくは転写産物の分解を促進する。そのような核酸は、好ましくは、アンチセンスRNA、リボザイム、siRNA、マイクロRNA、モルホリノ又は三重らせん形成剤からなる群から選択される。
【0031】
用語「アンチセンスRNA」は、本明細書で使用されるとき、グリオキシレート代謝の酵素又は調節因子の標的転写産物に基本的に又は完全に相補的な核酸配列を含むRNAを意味する。好ましくは、アンチセンス核酸分子は、標的転写産物の少なくとも100の連続するヌクレオチド、より好ましくは少なくとも200、少なくとも300、少なくとも400又は少なくとも500の連続するヌクレオチドに相補的である核酸配列から本質的になる。アンチセンス核酸分子をどのように生成し、使用するかは、当技術分野において良く知られている(例えば、Weiss, B. (ed.): Antisense Oligodeoxynucleotides and Antisense RNA: Novel Pharmacological and Therapeutic Agents, CRC Press, Boca Raton, FL, 1997を参照すること)。
【0032】
用語「リボザイム」は、本明細書で使用されるとき、それら自身のリン酸ジエステル結合の一つの加水分解の触媒(自己切断リボザイム)、又は他のRNAにおける結合の加水分解の触媒を可能にする明確に定義された三次構造を有する触媒RNA分子を意味するが、それらが、リボソームのアミノトランスフェラーゼ活性を触媒することも発見されている。本発明に従って想定されるリボザイムは、好ましくは、グリオキシレート代謝の酵素又は調節因子の標的転写産物を特異的に加水分解するものである。本発明によれば、特に、ハンマーヘッド型リボザイムが好ましい。そのようなリボザイムをどのように生成し、使用するかは、当技術分野において良く知られている(例えば、Morris KL. RNA and the Regulation of Gene Expression: A Hidden Layer of Complexity. Norfolk, England: Caister Academic Press中の、Hean J, Weinberg MS (2008). "The Hammerhead Ribozyme Revisited: New Biological Insights for the Development of Therapeutic Agents and for Reverse Genomics Applications"を参照すること)。
【0033】
用語「siRNA」は、本明細書で使用されるとき、(目的の遺伝子をコードする)標的RNAに相補的であり、RNA干渉(RNAi)により遺伝子発現を減少させる又はなくす低分子干渉RNA(siRNA)を意味する。理論に縛られるものではないが、RNAiは、一般に、mRNAを標的にすることによって目的の遺伝子の発現を抑制するために使用される。手短に言えば、細胞におけるRNAiの過程は、二本鎖RNA(dsRNA)により開始され、それは、リボヌクレアーゼにより切断され、そのため、siRNA二重鎖が生じる。siRNAは、別の細胞内酵素複合体に結合し、その酵素複合体は、それにより活性化され、mRNA分子がsiRNA配列に相同(又は相補的)であるものを全て標的にする。その複合体の機能は、siRNA鎖の一方と標的mRNAとの間の塩基対形成相互作用を通して、相同的mRNA分子を標的にすることである。次いで、mRNAは、siRNAの3'末端から約12ヌクレオチドで切断され、分解される。このようにして、特定のmRNAを標的にし、分解することができ、それにより、標的mRNAからタンパク質が発現しなくなる。相補的なヌクレオチド配列は、本明細書で使用するとき、標的遺伝子の一部のRNA転写産物に相補的であるRNA鎖における領域を意味する。用語「dsRNA」は、二本の相補的で逆平行な核酸鎖を含む二重鎖構造を有するRNAを意味する。dsRNAの全てのヌクレオチドが、必ずしも、完全なワトソン-クリック塩基対を示すわけではなく;二本のRNA鎖は、実質的に相補的でありうる。dsRNAを形成するRNA鎖は、同じ又は異なる数のヌクレオチドを有してよく、塩基対の最大数は、dsRNAの最も短い鎖におけるヌクレオチドの数である。好ましくは、dsRNAは、長さが49ヌクレオチド以下、より好ましくは25ヌクレオチド未満、最も好ましくは19〜23ヌクレオチドの間である。この長さのdsRNAは、RNAi技術を使用して標的遺伝子の発現を阻害するのに特に効率的である。dsRNAは、リボヌクレアーゼ酵素によって、結果的に、短い干渉RNA(siRNA)に分解される。siRNAの相補的領域は、siRNAと標的RNAとの十分なハイブリダイゼーションを可能にし、したがって、RNAiを媒介する。哺乳類の細胞において、siRNAは、長さが約21〜25ヌクレオチドである。siRNA配列は、相補的塩基対形成相互作用を通して、siRNAと標的RNAを一緒にするのに十分な長さである必要がある。siRNAの長さは、好ましくは、10ヌクレオチド以上であり、標的RNAと安定的に相互作用するのに十分な長さ;詳細には、15〜30ヌクレオチド;より詳細には、15〜30の間の任意の整数のヌクレオチド、最も好ましくは、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29及び30である。「十分な長さ」とは、予想される条件下で、意図された機能を果たすのに十分な長さである、15ヌクレオチド以上のオリゴヌクレオチドを意味する。「安定的に相互作用する」とは、(例えば、生理的条件下で、標的において相補的ヌクレオチドとの水素結合を形成することによる)低分子干渉RNAと標的核酸との相互作用を意味する。一般に、そのような相補性は、siRNAとRNA標的との間で100%であるが、所望により、より低い可能性があり、好ましくは、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%である可能性がある。例えば、21塩基中19塩基が、塩基対形成されうる。様々な対立遺伝子多型間の選択が望まれる、いくつかの場合において、標的配列を他の対立遺伝子配列と効果的に見分けるために、標的遺伝子に対する100%の相補性が必要とされる。標的対立遺伝子間で選択する場合、長さの選択も、重要な要素である。なぜなら、長さの選択は、相補性の割合、及び対立遺伝子の差異を区別する能力に関わる他の要素であるからである。C.エレガンス(C.elegans)、ショウジョウバエ、植物、哺乳類を含めた生物体において遺伝子を抑制するためのRNAiの使用に関する方法は、当技術分野において公知である(例えば、Fire 1998, Nature 391:806-811; Fire 1999, Trends Genet. 15, 358-363; Sharp 2001, Genes Dev. 15, 485-490; Hammond 2001, Nature Rev. Genet. 2, 1110-1119; Tuschl 2001, Chem. Biochem. 2, 239-245; Hamilton 1999, Science 286, 950-952; Hammond 2000, Nature 404, 293-296; Zamore 2000, Cell 101, 25-33; Bernstein 2001, Nature 409, 363-366; Elbashir 2001, Genes Dev. 15, 188-200; WO0129058;WO09932619;及びElbashir 2001, Nature 411: 494-498を参照すること)。
【0034】
用語「マイクロRNA」は、本明細書で使用されるとき、ヘアピン構造を介して連結されたセンス鎖とアンチセンス鎖とを含む、自己相補性一本鎖RNAを意味する。マイクロRNAは、下方制御されるべき転写産物に含まれるRNA標的化配列に相補的である鎖を含む。マイクロRNAは、より小さい一本鎖RNAへとプロセシングされ、したがって、それも、恐らくRNAi機構を介して作用する。目的の転写産物を特異的に分解するマイクロRNAをどのように設計し、合成するかは、当技術分野におい公知であり、例えば、EP1504126A2、又はDimond 2010, Genetic Engineering & Biotechnology News 30 (6):1に記載されている。
【0035】
用語「モルホリノ」は、20〜30ヌクレオチド、好ましくは約25ヌクレオチドの長さを有する、合成核酸分子を意味する。モルホリノは、標準的な核酸塩基対の形成により、標的転写産物の相補的配列に結合する。それらは、デオキシリボース環ではなくモルホリン環に結合され、ホスフェートではなくホスホロジアミデート基を介して連結される、標準的な核酸塩基を有する(例えば、Summerton 1997, Antisense & Nucleic Acid Drug Development 7* (3): 187-95を参照すること)。アニオン性のホスフェートを、非荷電性のホスホロジアミデート基に置きかえることにより、通常の生理的pH範囲においてイオン化がなくなるので、生物体又は細胞におけるモルホリノは、非荷電性分子である。モルホリノの骨格全体は、これらの改変サブユニットから作られる。阻害性の小RNA分子と違い、モルホリノは、標的RNA分子を分解しない。むしろ、モルホリノは、RNA内の標的配列への結合を立体的にブロックして、さもなければRNAと相互作用しうる分子を単に妨害する(例えば、Summerton 1999, Biochimica et Biophysica Acta 1489 (1): 141-58を参照すること)。
【0036】
用語「三重らせん形成剤」は、本明細書で使用されるとき、DNAと三重らせんを形成することができ、かつ、特に、本発明の阻害剤の場合に、グリオキシレート代謝の酵素又は調製因子の所望の標的遺伝子の転写開始又は伸長を三重らせん形成時に阻止する、オリゴヌクレオチドを意味する。三重らせん形成剤の設計及び製造は、当技術分野において良く知られている(例えば、Vasquez 2002, Quart Rev Biophys 35: 89-107を参照すること)。
【0037】
用語「グリオキシレート」は、本明細書で参照されるとき、天然に生じる又は人工的に生成されるその誘導体としてのグリオキシレートを意味する。天然に生じる誘導体は、代謝変換によりグリオキシレートから得られる誘導体である。人工的に生成される誘導体は、本発明の方法により実施される分析の際にグリオキシレートから生成され、例えばGC-MS分析などに必要とされる誘導体である。本明細書において上に参照された誘導体は、被験体において見出される代謝産物の量を反映するはずであること、すなわち、被験体の試料から決定される誘導体の量は、試料が採取された時点で被験体に見出される代謝産物の量と相関するはずであることが理解される。以下の名称はグリオキシレートと同義的に使用される:グリオキシル酸、ホルミルホルメート(formylformate)、ホルミルギ酸、グリオキサレート、オキサルアルデヒデート(oxalaldehydate)、オキサルアルデヒド酸、オキソアセテート、オキソ酢酸(oxoacetatic acid)、オキソエタノエート(oxoethanoate)、オキソエタン酸、アルファ-ケトアセテート又はアルファ-ケト酢酸。
【0038】
用語「試験試料」は、本発明に従って使用されるとき、被験体のグリオキシレート代謝について代表的な量のグリオキシレートを含む生物学的試料に関する。生物学的供給源の試料(すなわち、生物学的試料)は、通常、複数の代謝産物を含む。本発明の方法に使用される好ましい生物学的試料は、体液、好ましくは血液、血漿、血清、リンパ液、汗、唾液、涙、精液、膣液、糞便、尿若しくは脳脊髄液に由来する試料、又は細胞、組織若しくは臓器由来の、例えば生検による試料である。これは、細胞内コンパートメント、又はミトコンドリア、ゴルジネットワーク若しくはペルオキシソームなどのオルガネラを含む試料も包含する。更に、生物学的試料は、生物体の揮発物などの気体試料も包含する。生物学的試料は、本明細書の他の部分に特定されている被験体に由来する。前述の様々な種類の生物学的試料を得る技術は、当技術分野において良く知られている。例えば、血液試料は採血により得てよく、一方、組織又は臓器試料は、例えば生検により得られる。最も好ましくは、本明細書において参照される試験試料は、血液、血漿又は血清試料である。
【0039】
好ましい実施形態において、試験試料は、体液を含む試料である。すなわち、体液が、試験試料に含まれる。更に好ましい実施形態において、試験試料は、哺乳動物、より好ましくは非ヒト哺乳類の血液、血漿又は血清試料である。別の好ましい実施形態において、試料は、非哺乳動物、より好ましくは、前口動物(Protostomia)の一員、さらにより好ましくは、線形動物(Nematoda)の一員、最も好ましくは、桿線虫(Rhabditidae)、例えば、カエノラブディティス・エレガンス(Caenorhabditis elegans)種の線虫、の組織、器官又は生物体全体試料である。
【0040】
前述の試料は、好ましくは、本発明の方法に使用される前に前処理される。下に詳細に記載されるように、前記前処理には、化合物を放出若しくは分離する、又は過剰材料若しくは廃棄物を取り除くために必要とされる処理が含まれうる。適切な技術は、化合物の遠心分離、抽出、分画、精製及び/又は濃縮を含む。更に他の前処理が、化合物分析に適した形態又は濃度で化合物を提供するために実施される。例えば、ガスクトマトグラフィー結合質量分析が本発明の方法に使用される場合、前記ガスクロマトグラフィーの前に化合物を誘導体化する必要がある。適切で必要な前処理は、本発明の方法を実施するのに使用される手段に応じて決まり、当業者には良く知られている。上に記載された前処理試料も、本発明に使用される用語「試料」に含まれる。
【0041】
用語「糖尿病」又は「真性糖尿病」は、本明細書で使用されるとき、グルコース代謝が損なわれている(impaired)疾患状態を意味する。前記障害(impairment)は、高血糖症をもたらす。世界保健機関(WHO)によると、ヒトの糖尿病を四つの部類に細分化することができる。1型糖尿病はインスリンの不足により引き起こされる。インスリンは、いわゆる膵島細胞により産生される。前記細胞は、1型糖尿病(1a型)において自己免疫反応により破壊されうる。更に、1型糖尿病は、特発性の変種(1b型)も包含する。2型糖尿病は、インスリン抵抗性及び相対的インスリン欠乏により引き起こされる。3型糖尿病は、現行の分類によると、真性糖尿病の他の特定の型を全て含む。例えば、ベータ細胞が、インスリン産生に影響を与える遺伝子欠陥を有することがある、インスリン抵抗性が遺伝的に引き起こされることがある、又は膵臓それ自体が破壊され若しくは損なわれていることがある。更に、ホルモン調節解除又は薬剤も、3型糖尿病を引き起こすことがある。4型糖尿病は妊娠の際に生じうる。好ましくは、糖尿病は、本明細書で使用されるとき、2型糖尿病を意味する(上記のADA基準)。更なる好ましい診断技術は、本明細書の他の部分に開示されている。糖尿病の更なる症状は、当技術分野において良く知られており、Stedman又はPschyremblなどの標準的な医学教科書に記載されている。
【0042】
「糖尿病様状態」は、本発明に従って言及されるとき、ヒト真性糖尿病患者に起きる障害に似ているグリオキシレート代謝障害を有する、任意の代謝疾患又は障害を意味する。そのような状態は、近親交配させる遺伝子工学の結果でありうるか、又は化学作用により誘発されうる。適切な糖尿病又は糖尿病様状態疾患のモデルは、本明細書の別の部分に詳細に記載されている。好ましくは、本明細書で言及されるグリオキシレート代謝障害は、終末糖化産物(AGE)の蓄積と関連する。したがって、本発明による好ましい糖尿病様状態は、AGEの蓄積である。そのような蓄積はまた、線虫などのある種の生物体、特に、線虫、及びモデル生物C.エレガンスにおける寿命と相関すると報告されている。
【0043】
用語「被験体」は、本明細書で使用されるとき、試験用又は実験用の非ヒト動物を意味する。好ましくは、前記動物は、本明細書で先に言及した真性糖尿病又は糖尿病様状態に罹患している。したがって、前記被験体は、原則的に、前記疾患又は状態を発症できるべきである。更に好ましくは、糖尿病又は糖尿病様状態は、例えば、本明細書で言及したある種の近交系の被験体における糖尿病又は糖尿病様状態の高罹患率の結果として、又は外部刺激の結果として、内因的に発症しうる。本発明の方法により調査される試験試料が得られる被験体は、屠殺されることになる実験用動物であることが理解される。したがって、好ましくは、被験体は、齧歯類、好ましくは、マウス、ラット若しくはモルモット、ブタ、ウサギ、ネコ、イヌ、ヤギ、ヒツジ、ウシ、ウマ、非ヒト霊長類、例えば、ヒヒ、サル若しくはチンパンジー、イルカ、又は線虫である。
【0044】
糖尿病モデルは、ブタ、及び一部の他の非ヒト動物について確立されている。そのような動物は、本発明の方法において、被験体として使用されうる。特に、モデルは、AMP活性化プロテインキナーゼ(AMPK)γ3サブユニットを発現している、特に、骨格筋でPrkag3遺伝子を発現しているトランスジェニック動物に基づく。これらの動物は、2型糖尿病を含めた、エネルギー代謝に関する疾患のモデルとして使用することができる。AMPKは、脂質及びグルコース代謝の主要な細胞調節因子であり、それ自体、真核細胞においてエネルギー代謝を調節する上で重要な役割を果たす。活性化したAMPKは、ATP産生経路を作動させ、ATP消費経路を抑制する。AMPKはまた、グリコーゲン合成の重要な調節酵素である、グリコーゲンシンターゼを不活性化することもでき、それは、脂質生合成経路の主要な調節因子として認識され、代謝調節において幅広い役割を果たす。一般に、筋肉におけるAMPKの全体的活性の増大は、同化エネルギー消費経路(脂肪酸合成、タンパク質合成など)を抑制し、エネルギー産生異化経路(脂肪酸酸化、グルコース輸送など)を刺激することにより細胞のエネルギーレベルを上昇させ、それは、グルコース取り込みの増加と血中グルコースレベルの低下と連動している;詳細については、US2005/172348(参照により本明細書に組み込まれる)を参照すること。
【0045】
更に、ドミナントネガティブなグルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド-1受容体を発現する、トランスジェニックブタモデルが報告されている。そのようなブタは、2型糖尿病に見られるものに似た、グルコース不耐性、及び膵臓ベータ細胞の増殖の減少を生じる。そのようなトランスジェニックブタも、好ましくは、本発明の方法において被験体として適用されうる;Renner 2010, Diabetes 59: 1228-1238を参照すること。
【0046】
更に、レプチン遺伝子又はアディポネクチン遺伝子を発現している肥満抵抗性トランスジェニックブタが生み出されており、それを、本発明の方法のための被験体として使用することができる;詳細については、JP2006-121964(参照により本明細書に組み込まれる)を参照すること。
【0047】
更に、肥満/レプチン抵抗性を有する食餌誘発ブタが報告されており、そのブタも、本発明の方法のための被験体として使用しうる。レプチン抵抗性及び肥満素因を有するブタ品種(イベリコブタ)は、メタボリックシンドローム及び2型糖尿病に関する研究のために、丈夫で扱いやすく信頼できる変換(translational)モデルとして使用することができる。飽和脂肪に富む食物を自由に摂取できる、3か月間のイベリコブタの特別な給餌(SFAD群;食餌消費量4.5kg/動物/日)は、動物において、メタボリックシンドロームに関連する五つのパラメーターである中心性肥満、脂質代謝異常、インスリン抵抗性、及び耐糖能障害、並びに高血圧の発症を誘発する[詳細については、Torres-Rovira L, Astiz S, Caro A, Lopez-Bote C, Ovilo C, Pallares P, Perez-Solana ML, Sanchez-Sanchez R, Gonzalez-Bulnes A (2012) Diet-induced Swine model with obesity/leptin resistance for the study of metabolic syndrome and type 2 diabetes. Scientific World Journal. 2012; 2012:510149(参照により本明細書に組み込まれる)を参照すること]。
【0048】
更に、メタボリックシンドロームのモデルとしてのいわゆる「オッサバウ(Ossabaw)」ブタを、本発明の方法のための被験体として使用しうる。オッサバウブタは、その倹約遺伝子型を理由に、メタボリックシンドローム(MetS)のモデルとして使用される。オッサバウブタは、高脂肪食を給餌された場合、MetSの特徴を発症する。MetSを誘発するために、カロリーを一致させた高脂肪、高コレステロールのアテローム生成食を40週間使用する必要がある。この食餌の結果、肥満、グルコース不耐性、高インスリン血症及び高動脈圧を含めたMetSの特性が上昇する。MetSを示すブタにおいて、空腹時血糖が、約1.4〜2.2倍上昇するが、ヒトにおいては、空腹時血糖レベルの約1.4倍の上昇により、真性糖尿病の診断が下る。ヒトに似ているけれども、ブタにおけるグルコースホメオスタシスは、ブタの糖尿病を定義する際に、慎重に考慮しなければならない重要な相違を示す。これらの懸念の主たるものは、ヒト(約90mg/dL)と比べてより低い、健康なブタにおける空腹時血糖レベル(60〜80mg/dL)である。ブタは、経口グルコース負荷に対して比較的高い耐糖能を有し、かつ、静脈内グルコース負荷後に、クリアランスが増大することも重要なことである。加えて、ブタの膵臓β細胞:体重比は、ヒトの2倍であり、そのことは、ブタにおけるかなりのインスリン分泌能(insulin secretory reserve)を示唆している。総合すれば、これらの観察結果は、ブタについて、糖尿病前症及び真性糖尿病の診断のより低い閾値が考慮されるべきであることを示唆している。オッサバウブタは、ヒトに見られるMetSによく似た症状を呈し、代謝異常の研究のための優れた大型動物モデルとして役立ちうる[詳細については、Neeb ZP, Edwards JM, Alloosh M, Long X, Mokelke EA, Sturek M (2010) Metabolic syndrome and coronary artery disease in Ossabaw compared with Yucatan swine. Comp Med. 60(4): 300-15(参照により本明細書に組み込まれる)を参照すること]。
【0049】
マウスにおいては、糖尿病を、化学物質によって誘発することができ、そのような化学作用により誘発された糖尿病を有するマウス及びラットも、本発明の方法において使用することができる。ストレプトゾトシン(STZ)は、膵臓β細胞の破壊を引き起こしうる抗生物質であり、したがって、1型真性糖尿病(T1DM)としても知られるインスリン依存型真性糖尿病(IDDM)を誘発することができる薬として実験において広く使用されている。STZを使用して、マウス及びラットにおいてインスリン欠乏及び高血糖を生じさせるために、プロトコールが開発されている。これらの糖尿病モデルは、T1DMの機構を評価し、この状態の治療のための潜在的な治療法をスクリーニングし、治療法の選択肢を評価するために用いることができる。T1DMは、ストレプトゾトシンの注入により、マウスにおいて誘発させることができる。そのような誘発のために、いくつかの遺伝子型の系統、すなわち、C57BL/6Jマウス、スイスアルビノ(Swiss albino)マウス、BALB/cマウスを使用することができる。ストレプトゾトシン(STZ)は、膵臓におけるインスリン産生ベータ細胞に有害であり、それにより、I型糖尿病が引き起こされる。STZ誘発性糖尿病状態を確立するために、8〜10週齢のマウスを一晩絶食させ、腹腔内注射によって、C57BL/6Jマウスについては130mg/kg体重という用量、又はスイスアルビノマウスについては180mg/kg体重という用量の新しく調製したSTZ溶液で処置する。STZを注射されていないC57BL/6Jマウス、又は同等量のクエン酸緩衝液を注射されたスイスアルビノマウスは、対応する対照となる。注射の4時間後、マウスは、STZ誘発性β細胞破壊による、血流への大量のインスリンの突然の放出により引き起こされる低血糖を防ぐために、腹腔内注射によって、20%グルコース200μlを与えられる。マウスには、標準食を給餌することができる(ssniff R/M-H Autoklavierbar. www.ssniff.de)。各マウスの血中グルコースレベルが、4〜6時間の絶食後に毎日測定される。STZ誘発性糖尿病マウスモデルの恩恵としては、そのモデルによって、遺伝子改変マウスにおいて糖尿病を誘発すること、管理された環境でマウスを飼育すること、血清及び骨因子を定期的にモニタリングして直接測定すること、高分解能分析用の骨試料を得ること、及び糖尿病誘発の時間を選択することが可能になることが挙げられる;詳細については、Kenneth K. Wu, Youming Huan (2008) Streptozotocin-induced diabetic models in mice and rats. Curr. Protoc. Pharmacol. 40:5.47.1-5.47.14、Zhang Y, Zhang Y, Bone RN, Cui W, Peng JB, Siegal GP, Wang H, Wu H (2012) Regeneration of Pancreatic Non-β Endocrine Cells in Adult Mice following a Single Diabetes-Inducing Dose of Streptozotocin. PLoS One. 2012;7(5):e36675、Arora A, Ojha SK, Vohora D (2009) Characterization of streptozotocin induced Diabetes mellitus in Swiss albino mice. Global J Pharmacol 3(2): 81-84、及びMotyl K, McCabe LR (2009) Streptozotocin, type I diabetes severity and bone. Biological Procedures Online 11: 296-315(参照によりそれら全てが本明細書に組み込まれる)を参照すること。
【0050】
更に、2型糖尿病の変異体マウスモデル、すなわち、レプチンホルモンの受容体に突然変異を有する肥満db/db
-/-マウス、及び、レプチン経路が欠損し、肥満が重症化したob/ob
-/-マウスが存在する。db遺伝子は、レプチンホルモン受容体におけるG→T点突然変異をコードする。レプチンの変異型コピー1つ及びレプチンの正常型コピー1つ(db-/+)を有する痩せ型同腹子は、対照として使用される。レプチンは、満腹ホルモンとして機能し、レプチンシグナル伝達経路の欠如は、過剰な摂食、及びdb/db-/-マウスにおける肥満表現型を引き起こす。糖尿病感受性black Kalissバックグラウンド(C57BL/KsJ)と組み合わせると、これらのマウスは、重症糖尿病を発症する。C57BL/6Jバックグラウンドにおいては、過食及び体重増加の程度が似ているにもかかわらず、高血糖が少ないことが分かる。別の肥満、糖尿病マウスは、ob/ob
-/-マウスである。このob/ob-/-マウスは、レプチン産生が欠損しているが、レプチンシグナル伝達が損なわれていないという点で、db/db
-/-マウスと異なる。db/db
-/-マウスと同様に、C57BLKS/Jバックグラウンドのob/ob
-/-マウスは、β細胞の萎縮及び重症高血糖症を発症するが、C57BL/6Jバックグラウンドのob/ob
-/-マウスは、軽度の高血糖症を発症するに過ぎない。C57BLKS/J db/db-/-マウスにおいて、10日齢までに、高インスリン血症が認められ、1か月齢で、血中グルコースレベルは、わずかに上昇する。1か月齢後、db/db-/-マウスは、鼠径部及び腋窩部における脂肪沈着の増加の存在により、野生型及びヘテロ接合体マウスと区別される。db/db-/-マウスは、8週齢までに、明白な高血糖症を発症する。4〜5か月齢まで、進行的な体重増加に関連した、摂食及び飲水の進行的増加が存在する。16週齢で、グルコースのピークレベルにより、進行性の高血糖症が認められる。実験のために、3か月齢のマウスを使用することができ、それには、標準食を給餌することができる(ssniff R/M-H Autoklavierbar. www.ssniff.de)。マウスは、食餌及び水が自由に与えられ、12時間周期で明暗を繰り返す22℃に保たれた室内で飼育される。血液及び組織の試料採取のために、一晩絶食したマウスは、朝8:00から11:00AMの間に屠殺される。血液は、下顎静脈から得られ、次いで、マウスは、直ちに頸椎脱臼により屠殺される。血液は、直ちに遠心分離機にかけられ(4℃で5分間3,000rpm)、グルコースのアッセイのために、血漿が赤血球から分離される。グリコシル化ヘモグロビンを測定するために、濃縮赤血球が使用される;詳細については、Lee SM, Bressler R (1981) Prevention of diabetic nephropathy by diet control in the db/db mouse. Diabetes 30:106-111、Sharma K, McCue P, Dunn SR (2003) Diabetic kidney disease in the db/db mouse. Renal Physiol 284(6): F1138-F1144、Broderick TL, Jankowski M, Wang D, Danalache BA, Parrott CR, Gutkowska J. (2012) Downregulation in GATA4 and Downstream Structural and Contractile Genes in the db/db Mouse Heart. ISRN Endocrinol. 2012;2012:736860(参照によりそれら全てが本明細書に組み込まれる)を参照すること。
【0051】
更に、近交系NOD(非肥満糖尿病)マウス又は近交系BBラットは、糖尿病の罹患率が高いと報告されており、したがって、それも本発明の方法における被験体として使用されうる;例えば、Edward H. Leiter, Michal Prochazka, Douglas L. Coleman (1987): American Journal of Pathology. 128(2): 380-383を参照すること。
【0052】
更に、入手可能な糖尿病様状態の線虫モデルが存在し、それも本発明による被験体として使用されうる。高グルコース(100mM)でのカエノラブディティス・エレガンスの成長は、糖尿病患者の高血糖状態に似たグルコース濃度の達成を可能にする。C.エレガンスは、細胞及びミトコンドリアの機能へのグルコースの影響の根底にある基本的な機構を理解するために、糖尿病研究のためのモデルとして使用された(Vosseller,K: O-GlcNAc and aging: C. elegans as a genetic model to test O-GlcNAc roles in type II diabetic insulin resistance. Aging (Albany NY) 2:749-751, 2010;Mendler,M, Schlotterer,A, Morcos,M, Nawroth,PP: Understanding diabetic polyneuropathy and longevity: what can we learn from the nematode Caenorhabditis elegans? Exp Clin Endocrinol Diabetes 120:182-183, 2012)。線虫は、線虫成長培地(NMG)寒天上で培養され、20℃で飼育される。動物は、NGMプレートの表面に添加される、ODが1.5である標準的な一晩培養液からの生きた大腸菌(Escherichia coli)(OP50)上で飼育される。超音波処理により死んだ細菌も、使用することができる。C.エレガンスの全身抽出物において、不十分なグルコース制御下の糖尿病患者におけるグルコース濃度に似た、10〜15mmol/lのグルコース濃度を達成するために、150μlの400mmol/lグルコース溶液が使用される。寒天中の40mmol/lのグルコース濃度によって、C.エレガンスの全身抽出物中のグルコース濃度が14mmol/lになる。C.エレガンスは、高グルコース下で5日間維持され、次いで、収集され、洗浄される。全身のグルコース濃度が、14mmol/lに達する場合、寿命への重要な影響が実現されうる。この線虫インビボモデルは、十分に制御されていない糖尿病患者で観察される範囲内のグルコース濃度により誘発される、細胞の機能の変化を解明するための、信頼できる手段を与える[詳細については、Schlotterer A, Kukudov G, Bozorgmehr F, Hutter H, Du X, Oikonomou D, Ibrahim Y, Pfisterer F, Rabbani N, Thornalley P, Sayed A, Fleming T, Humpert P, Schwenger V, Zeier M, Hamann A, Stern D, Brownlee M, Bierhaus A, Nawroth P, Morcos M (2009) C. elegans as model for the study of high glucose-mediated life span reduction. Diabetes 58: 2450-2456(参照により本明細書に組み込まれる)を参照すること]。
【0053】
用語「決定する」は、本明細書で使用されるとき、本明細書において参照される試料に含まれるグリオキシレートの少なくとも一つの特徴的な特質を決定することを意味する。本発明の特徴的な特質は、グリオキシレートの生化学的特性を含む物理的及び/又は化学的特性を特徴決定する特質である。そのような特性には、例えば、分子量、粘度、密度、電荷、スピン、光学活性、元素組成、化学構造、他の化合物と反応する能力、生物学的読み取り系に応答を誘発する能力などが含まれる。前記特性についての値は、特徴的な特質となることができ、当技術分野において周知の技術により決定することができる。更に、特徴的な特質は、標準的な操作、例えば乗法、除法又は対数微積分法などの数学的計算により、グリオキシレートの物理的及び/又は化学的特性の値から引き出される任意の特質でありうる。最も好ましくは、少なくとも一つの特徴的な特質がグリオキシレートの決定及び/又は化学的同定を可能にする。
【0054】
試験試料に含まれるグリオキシレートを、本発明により定量的又は定性的に決定しうる。定性的決定では、グリオキシレートの存在又は不在が適切な技術により決定される。更に、定性的決定には、好ましくは、化学構造又は組成の決定が含まれうる。定量的決定では、好ましくは本明細書上記に参照された特徴的な特質(複数可)について決定された値に基づいて、試料に存在するグリオキシレートの正確な量が決定される又はその相対的な量が決定される。相対量は、グリオキシレートの正確な量が決定できない又はされない場合に決定されうる。前記の場合、グリオキシレートが存在する量が、基準量に対して増大又は減少しているかを決定することができる。したがって、グリオキシレートを定量的に分析することには、時々半定量分析と呼ばれるものも含まれる。
【0055】
更に、決定には、本発明による方法で使用されるとき、好ましくは、先に参照された分析工程の前に化合物分離工程を使用することが含まれる。好ましくは、前記化合物分離工程は、試料に含まれる代謝産物の時間分解分離をもたらす。したがって、本発明により好ましく使用される分離に適した技術には、液体クロマトグラフィー(LC)、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、ガスクロマトグラフィー(GC)、薄層クロマトグラフィー、サイズ排除又はアフィニティークロマトグラフィーなどの全てのクロマトグラフィー分離技術が含まれる。これらの技術は、当技術分野において良く知られており、当業者により難しいことなく適用されうる。最も好ましくは、LC及び/又はGCが本発明の方法により想定されるクロマトグラフィー技術である。グリオキシレートなどの代謝産物のそのような決定に適した装置は、当技術分野において良く知られている。好ましくは、質量分析は、特にガスクロマトグラフィー質量分析(GC-MS)、液体クロマトグラフィー質量分析(LC-MS)、直接注入質量分析若しくはフーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴質量分析(FT-ICR-MS)、キャピラリー電気泳動質量分析(CE-MS)、高速液体クロマトグラフィー結合質量分析(HPLC-MS)、四重極質量分析、MS-MS若しくはMS-MS-MSなどの任意の順次結合質量分析、誘導結合プラズマ質量分析(ICP-MS)、熱分解質量分析(Py-MS)、イオン移動度質量分析又は飛行時間型質量分析(TOF)が使用される。最も好ましくは、LC-MS及び/又はGC-MSが使用され、下に詳細に記載される。前記技術は、例えばNissen, Journal of Chromatography A, 703, 1995: 37-57、米国特許第4,540,884号又は米国特許第5,397,894号に開示されており、その開示された内容は参照として本明細書に組み込まれる。質量分析技術の代替案又は追加として、以下の技術を化合物決定及び定量に使用することができる:核磁気共鳴(NMR)、磁気共鳴画像化法(MRI)、フーリエ変換赤外線分析法(FT-IR)、紫外線(UV)分光法、屈折率(RI)、蛍光検出、放射化学的検出、電気化学的検出、光散乱(LS)、分散ラマン分光法又は炎イオン化検出(FID)。これらの技術は、当業者に良く知られており、難しいことなく適用することができる。本発明の方法は、好ましくは、自動化により補助されるべきである。例えば、試料加工又は前処理をロボットにより自動化することができる。データ処理及び比較は、好ましくは、適切なコンピュータプログラム及びデータベースにより補助される。本明細書において先に記載された自動化は、本発明の方法をハイスループット手法に使用することを可能にする。
【0056】
上に記載されたように、本発明の方法の好ましい実施形態において、グリオキシレートの前記決定は質量分析(MS)を含む。質量分析は、本明細書で使用されるとき、本発明により決定されるべき化合物、すなわち代謝産物に対応する分子量(すなわち、質量)又は質量変数の決定を可能にする全ての技術を包含する。好ましくは、質量分析は、本明細書で使用されるとき、GC-MS、LC-MS、直接注入質量分析、FT-ICR-MS、CE-MS、HPLC-MS、四重極質量分析、MS-MS若しくはMS-MS-MSなどの任意の順次結合質量分析、ICP-MS、Py-MS、TOF又は前述の技術を使用した任意の組み合わせ手法に関する。これらの技術をどのように適用するかは、当業者に良く知られている。更に、適切な装置は市販されている。より好ましくは、質量分析は、本明細書で使用されるとき、LC-MS及び/又はGC-MS、すなわち前のクロマトグラフィー分離工程に作動的に連結している質量分析に関する。より好ましくは、質量分析は、本明細書で使用されるとき、四重極MSを包含する。最も好ましくは、前記四重極MSは以下のように実施される:a)質量分析計の最初の分析四重極におけるイオン化により作り出されたイオンの質量/電荷比(m/z)の選択、b)衝突ガスで充填され、衝突室として作用する追加の続く四重極において加速電圧を適用することによる、工程a)において選択されたイオンのフラグメンテーション、追加の続く四重極における、工程b)のフラグメンテーションプロセスにより作り出されたイオンの質量/電荷比の選択(ここで方法の工程a)〜c)は、少なくとも一回実施される)、イオン化プロセスの結果として物質の混合物に存在する全てのイオンの質量/電荷比の分析(ここで、四重極は衝突ガスで充填されているが、加速電圧は分析の際には適用されない)。本発明に使用される前記最も好ましい質量分析についての詳細は、下記の実施例において見出すことができる。
【0057】
より好ましくは、前記質量分析は、液体クロマトグラフィー(LC)MS及び/又は、更により好ましくはガスクロマトグラフィー(GC)MSである。液体クロマトグラフィーは、本明細書で使用されるとき、液体又は超臨界相において化合物(すなわち、グリオキシレートを含む代謝産物)の分離を可能にする全ての技術を意味する。液体クロマトグラフィーは、移動相の化合物が固定相を通過することを特徴とする。化合物が固定相を異なる速度で通過するとき、それぞれ個別の化合物は特定の滞留時間(すなわち、化合物が系を通過するのに必要な時間)を有するので、やがて分離する。液体クロマトグラフィーには、本明細書で使用されるとき、HPLCも含まれる。液体クロマトグラフィーの装置は、例えばAgilent Technologies, USAから市販されている。ガスクロマトグラフィーは、本発明により適用されるとき、原則的に、液体クロマトグラフィーと同等に稼働する。しかし、固定相を通過する化合物を液体相に有する代わりに、化合物は気体体積中に存在する。化合物は、固定相として固体支持材料を含有しうるカラム、又は固定相として機能しうる若しくは固定相で被覆されている壁を含有しうるカラムを通過する。ここでも、それぞれの化合物は、カラムを通過するのに必要な特定の時間を有する。更に、ガスクロマトグラフィーの場合では、化合物がガスクロマトグラフィーの前に誘導体化されることが好ましく想定される。誘導体化に適した技術は当技術分野において良く知られている。好ましくは、本発明の誘導体化は、好ましくは極性化合物のメトキシ化(methoxymation)及びトリメチルシリル化、並びに好ましくは非極性(すなわち、親油性)化合物のトランスメチル化、メトキシ化及びトリメチルシリル化に関する。
【0058】
更に、グリオキシレートは、特定の化学又は生物学的アッセイにより決定することもできる。前記アッセイは、試料においてグリオキシレートを特異的に検出することを可能にする手段を含むべきである。好ましくは、前記手段は、グリオキシレートの化学構造を特異的に認識することができるか、又は他の化合物と反応する能力若しくは生物学的読み取り系に応答を誘発する能力(例えば、レポーター遺伝子の誘導)に基づいてグリオキシレートを特異的に同定することができる。グリオキシレートの化学構造を特異的に認識することができる手段は、グリオキシレートの検出剤、好ましくは、グリオキシレートに特異的に結合する抗体、タンパク質又はアプタマーである。特定の抗体は、例えば、グリオキシレートを抗原として使用して得てもよく、又は当技術分野で周知の方法によりファージ抗体ライブラリーから得てもよい。抗体には、本明細書に参照されるとき、抗原又はハプテンに結合することができるポリクローナル及びモノクローナルの両方の抗体、並びにFv、Fab及びF(ab)
2フラグメントなどのそのフラグメントが含まれる。更に、包含されるものは、一本鎖抗体及び全ての種類のキメラ抗体である。グリオキシレートを特異的に認識することができる適切なタンパク質は、好ましくは、前記代謝産物の代謝変換に関わる酵素である。前記酵素は、グルオキシレートを基質として使用しうるか、又は基質を代謝産物に変換しうる。グリオキシレートに特異的に結合するアプタマーは、当技術分野において周知の方法により生成することができる(Ellington 1990, Nature 346:818-822; Vater 2003, Curr Opin Drug Discov Devel 6(2): 253-261)。適切な抗体及び/又は酵素に基づいたアッセイは、RIA(ラジオイムノアッセイ)、ELISA(酵素結合免疫吸着物アッセイ)、サンドイッチ酵素免疫試験、電気化学発光サンドイッチイムノアッセイ(ECLIA)、解離増強ランタニドフルオロイムノアッセイ(DELFIA)又は固相免疫試験でありうる。更に、グリオキシレートは、他の化合物と反応する能力に基づいて、すなわち特定の化学反応によって同定してもよい。キャピラリー電気泳動(Hubert 2001, Clinical Chemistry 47: 1319-1321)及び比色方法(Kyaw 1978, Clin Chim Acta 86(2):153-7)などの更なる検出方法を、使用することができる。更に、グリオキシレートを、生物学的読み取り系に応答を誘発する能力によって、試料において決定してもよい。生物学的応答は、試料に含まれるグリオキシレートの存在及び/又は量を示す読み取りとして検出されるべきである。生物学的応答は、例えば、細胞又は生物体の遺伝子発現又は表現型応答の誘発でありうる。更に、グリオキシレートは、グリオキシレートの酵素的変換に基づき、酸化還元当量が生じる、酵素的変換により測定することができ、それは、US2010/0143897、King 2000, Archives of Biochemistry and Biophysics 374:107-117に記載されている適切な読み取り系によって検出することができる。グリオキシレートを決定する他の技術は、検出可能な部分による誘導体化、及びその後の検出可能な誘導体の決定に基づく(Baker 2004, Am J Physiol Cell Physiol 287: C1359-1365)。
【0059】
更に、グルオキシレートを決定するのに使用される技術に応じて、検出される分析物は、生理学的に生じるグリオキシレートの、すなわち被験体の体内に存在する代謝産物の誘導体でありうることが理解されるべきである。そのような分析物は、試料調製又は検出手段の結果として生成されうる。本明細書において参照される化合物は、分析物であると認められる。しかし、上に記載されているように、これらの分析物は、定性的又は定量的にグリオキシレートを表す。
【0060】
用語「グリオキシレートの基準量」は、試験量が、糖尿病又は糖尿病様状態に関連する又は関連しない量のいずれかであると割り当てることを可能にする量に関する。したがって、基準量は、糖尿病若しくは糖尿病様状態に罹患している被験体に通常見られるグリオキシレートの量、又は糖尿病若しくは糖尿病様状態に罹患していない被験体に通常見られるその量を反映しうる。基準量と比較した試験量の一致又は差異に基づいて、試験量をいずれかの基準群に割り当てることができる。そのような基準量は、単独の被験体又は被験体の群から得てよい。好ましくは、被験体の群は、少なくとも5、少なくとも10、少なくとも15、少なくとも20、少なくとも25、少なくとも50又は少なくとも100の基準被験体を含む。更に、閾値を、同じように基準量として使用しうる。そのような閾値は、好ましくは、所定の動物種におけるグリオキシレートの正常上限値でありうる。前記正常上限値は、前記種の動物に見られるグリオキシレートの生理学的量の上限値である。正常上限値よりも大きい試験量は、糖尿病又は糖尿病様状態を示し、正常上限値に等しい又は正常上限値よりも小さい試験量は、糖尿病又は糖尿病様状態の不在を示すべきである。糖尿病に対する薬剤であることが推測される化合物の投与後に、前記試験試料が採取された場合に、正常上限値に等しい又はそれよりも小さい、試験試料における、グリオキシレートの量が決定できるならば、前記化合物は、糖尿病に対する薬剤であると同定されるということになる。そのような正常上限値を定めるために、好ましくは、見かけ上健康な被験体のコホートが調査されうる。そのようなコホートのサイズを決定するための適切な統計的試験は、当業者に良く知られている。
【0061】
本発明の方法の好ましい実施形態において、グリオキシレートの基準量は、糖尿病に対する薬剤であることが推測される化合物と接触していない、糖尿病又は糖尿病様状態に罹患している被験体又は被験体の群から得られる。より好ましくは、基準量と比較して同じ又は増加した量の、試験試料中のグリオキシレートにより、化合物が糖尿病に対する薬剤ではないと同定されるのに対して、基準量と比較して減少した量の、試験試料中のグリオキシレートにより、化合物が糖尿病に対する薬剤であると同定される。
【0062】
本発明の方法の別の好ましい実施形態において、前記基準量は、糖尿病に対する薬剤であることが推測される化合物と被験体を接触させる前に採取された基準試料に存在するグリオキシレートの量である。より好ましくは、基準量と比較して同じ又は増加した量の、試験試料中のグリオキシレートにより、化合物が糖尿病に対する薬剤ではないと同定されるのに対して、基準量と比較して減少した量の、試験試料中のグリオキシレートにより、化合物が糖尿病に対する薬剤であると同定される。
【0063】
本発明の方法の更に別の好ましい実施形態において、グリオキシレートの前記基準量は、糖尿病又は糖尿病様状態に関して、見かけ上健康な被験体又は被験体の群から得られる。より好ましくは、基準量と比較して増加した量の、試験試料中のグリオキシレートにより、化合物が糖尿病に対する薬剤ではないと同定されるのに対して、基準量と比較して同じ又は減少した量の、試験試料中のグリオキシレートにより、化合物が糖尿病に対する薬剤であると同定される。
【0064】
用語「比較する」は、グリオキシレートの定量的決定による量が基準量と同一であるか又は異なっているかを評価することを意味する。
【0065】
グリオキシレートの基準量が、糖尿病に対する薬剤であることが推測される化合物と接触していない、糖尿病又は糖尿病様状態に罹患している被験体又は被験体の群に由来するか、あるいは糖尿病に対する薬剤であることが推測される化合物で処理される前の被験体に由来する場合、薬剤は、試験試料から得られた量と前述の基準量との差の程度に基づいて、好ましくは、有意に減少した量のグリオキシレートによって、同定することができる。基準量が、糖尿病又は糖尿病様状態に関して、見かけ上健康な被験体又は被験体の群に由来する場合、薬剤は、試験試料から得られた量と前述の基準量との一致の程度に基づいて、好ましくは、基準量と同じ量、又は基準量と有意差がない量によって、同定することができる。差は、好ましくは有意ではなく、かつ、強度の値が基準値の少なくとも1〜99パーセンタイル、5〜95パーセンタイル、10〜90パーセンタイル、20〜80パーセンタイル、30〜70パーセンタイル、40〜60パーセンタイルの区間内であることを特徴とするべきである。
【0066】
比較は、好ましくは自動化により補助される。例えば、二つの異なるデータセット(例えば、特徴的特質(複数可)の値を含むデータセット)の比較についてのアルゴリズムを含む適切なコンピュータプログラムを使用しうる。そのようなコンピュータプログラム及びアルゴリズムは、当技術分野において良く知られている。上記にもかかわらず、比較を手作業で実施することもできる。
【0067】
比較は、グリオキシレートを決定し、決定された量を評価するための装置の一部でありうる評価ユニットにより行ってもよい。したがって、そのような装置は、好ましくは、
(a)試料に存在するグリオキシレートの量の決定を可能にするグリオキシレートの検出剤を含む分析ユニット;並びにこれに作動的に連結している、
(b)記憶された基準、及び分析ユニットにより決定されたグリオキシレートの量と記憶された基準との比較を可能にするデータプロセッサを含む評価ユニットであって、それにより、糖尿病に対する薬剤が同定されうる、前記評価ユニット
を含む。
【0068】
本発明の方法を、前述の装置により実施することができる。装置は、本明細書で使用されるとき、少なくとも前述のユニットを含むべきである。装置のユニットは相互に作動的に連結している。ユニットを作動的に連結する方法は、装置に含まれるユニットの種類によって決まる。例えば、自動的にグリオキシレートを定性的又は定量的に決定する手段が分析ユニットに適用される場合、前記自動的に稼働するユニットにより得られるデータを、診断を促進するため、評価ユニットにより、例えばデータプロセッサであるコンピュータで実行されるコンピュータプログラムにより、処理することができる。好ましくは、ユニットは、そのような場合では単一の装置に含まれる。しかし、分析ユニット及び評価ユニットを物理的に分離してもよい。そのような場合、作動的連結は、データ転送を可能にするユニット間の有線又は無線接続を介して達成することができる。無線接続は、無線LAN(WLAN)又はインターネットを使用しうる。有線接続は、ユニット間の光及び非光ケーブル接続を介して達成しうる。有線接続に使用されるケーブルは、好ましくは、ハイスループットデータ伝送に適している。
【0069】
グリオキシレートを決定するための好ましい分析ユニットは、本明細書の他の部分に特定されているように、グリオキシレートを特異的に認識する抗体、タンパク質又はアプタマーなどの検出剤と、前記検出剤を、試験対象の試料と接触させる区画とを含む。検出剤は、接触のために区画に固定されうるか、又は試料が添加(load)された後に前記区画に適用されうる。分析ユニットは、好ましくは、検出剤とグリオキシレートの複合体の量を定性的及び/又は定量的に決定するように適合されるべきである。検出剤がグリオキシレートに結合する際に、グリオキシレート、検出剤のいずれか又は両方の少なくとも一つの測定可能な物理的又は化学的特性が変更され、それによって、前記変更が、好ましくは分析ユニットに含まれる検出器により測定できることが理解される。しかし、試験ストリップなどの分析ユニットが使用される場合、検出器及び分析ユニットは、測定のときだけ一緒になる別々の構成要素でありうる。少なくとも一つの測定可能な物理的又は化学的特性における検出された変更に基づいて、分析ユニットは、本明細書の他の部分に特定されているように、グリオキシレートについての強度値を計算しうる。次に前記強度値を、更なる処理及び評価のために評価ユニットに転送することができる。本発明による好ましい分析ユニットは、抗体及び/又は酵素に基づいたアッセイ、例えば、RIA、ELISA、ECLIA、DELFIA若しくは固相免疫試験に適しているもの、又は分析化学、例えば、キャピラリー電気泳動(Hubert 2001, Clinical Chemistry 47: 1319-1321)及び比色方法(Kyaw 1978, Clin Chim Acta 86(2):153-7)に基づくグリオキシレートの決定に使用することができるものである。
【0070】
あるいは、分析ユニットは、本明細書において参照されるとき、好ましくは、クロマトグラフィー装置などの代謝産物を分離するための手段、及び分光装置などの代謝産物を決定するための手段を含む。適切な装置は、上に詳細に記載されている。本発明の系に使用されるべき好ましい化合物分離手段には、クロマトグラフィー装置、より好ましくは液体クロマトグラフィー、HPLC及び/又はガスクロマトグラフィーの装置が含まれる。化合物決定のために好ましい装置は、質量分析装置、より好ましくはGC-MS、LC-MS、直接注入質量分析、FT-ICR-MS、CE-MS、HPLC-MS、四重極質量分析、順次結合質量分析(MS-MS若しくはMS-MS-MSを含む)、ICP-MS、Py-MS又はTOFを含む。分離及び決定手段は、好ましくは互いに結合している。最も好ましくは、LC-MS及び/又はGC-MSが、本発明において参照される分析ユニットに使用される。
【0071】
本発明の装置の評価ユニットは、好ましくは、本明細書の他の部分に特定されているように、比較を実施するためのルールを実行するように適合されているデータ処理装置又はコンピュータを含む。更に、評価ユニットは、好ましくは、記憶された基準を有するデータベースを含む。データベースは、本明細書で使用されるとき、適切な記憶媒体におけるデータ収集を含む。更に、データベースは、好ましくは、データベース管理システムを更に含む。データベース管理システムは、好ましくは、ネットワークに基づいた階層型又はオブジェクト指向データベース管理システムである。更に、データベースは、連邦又は統合データベースでありうる。より好ましくは、データベースは、分散型(連邦)システムとして、例えばクライアントサーバーシステムとして実行される。より好ましくは、データベースは、検索アルゴリズムが、試験データセットを、データ収集に含まれるデータセットと比較することを可能にするように構築されている。具体的には、そのようなアルゴリズムを使用することによって、データベースを、糖尿病に対する薬剤を示すものである類似又は同一データセットについて検索することができる(例えば、問い合わせ検索)。したがって、同一又は類似データセットをデータ収集において同定することができる場合、試験データセットは、前記データセットについて蓄積(deposit)された効果、すなわち、糖尿病に対する薬剤の効果又は無効果と関連付けられる。
【0072】
本発明の方法の更に好ましい実施形態において、前記方法は、工程a)の前及び試験試料を採取する前に、糖尿病に対する薬剤であることが推測される化合物を被験体に治療有効量で投与する工程、工程a)の前に試験試料を採取する工程、及び試験試料を採取した後に、被験体を屠殺する工程を更に含む。
【0073】
用語「治療有効量」は、本明細書で使用されるとき、化合物が、潜在的に、疾患を治す若しくは改善する、又は症状若しくは臨床的パラメーター、好ましくはグリオキシレートレベルに少なくとも影響を与えるという点で、恐らく治療上有効であるはずである、化合物の量を意味する。そのような量は、一連の異なる量を使用することによって、実験的に決定することができる、及び/又は、薬剤が、調査対象の化合物を含む所定のクラスの化合物について知られている場合、予測されうる。いくつかの場合において、有効治療量を探しているときに、準毒性量の化合物を使用するために、化合物の毒性パラメーター、例えば、EC50又はIC50値を考慮に入れることも推奨されうる。そのような毒性パラメーターの決定に関する詳細は、本明細書の他の部分で言及されている。
【0074】
試験試料は、血液試料採取、生検などを含めた、任意の適切な技術によって、本発明に従って採取されうる。試料採取技術は、試料の種類に適合させる必要があることが理解される。しかし、本明細書で言及されている様々な種類の試料の試料採取技術は、当業者に良く知られ、本明細書の他の部分でも言及されている。
【0075】
用語「屠殺する」は、本明細書で使用されるとき、好ましくは試験試料が採取された後に、被験体を安楽死させること。したがって、本発明の方法は、被験体において、健康を向上させる、又は疾患状態を治す若しくは改善するために使用されるべきでない。しかし、被験体の屠殺は、動物福祉及び優良試験所慣行に従って必要とされる、全ての正当な注意を考慮に入れてなされるべきであることが理解される。
【0076】
有利には、グリオキシレートは、糖尿病又は糖尿病様状態、及び関連共存症、特に糖尿病性腎障害の存在を示すバイオマーカーであるだけでなく、薬剤開発のための標的でもあることが、本発明により見出されている。グリオキシレートの減少は、終末糖化産物の減少、並びにカルボニル化及び他のメイラード反応関連の産物の発生の減少に関連すること、したがって、特に、糖尿病性腎障害などの共存症に関して、糖尿病の改善に関連することが見出されている。
【0077】
グリオキシレートは、糖化特性(glycating property)を有する。グリオキシレートのAGE産生への反応性の増大は、その分子サイズ及び構造から推測され(Dutta et al. 2007 U. Dutta, M.A. Cohenford, M. Guha and J.A. Dain (2007) Non-enzymatic interactions of glyoxylate with lysine, arginine, and glucosamine: a study of advanced non-enzymatic glycation like compounds, Bioorg. Chem. 35: 11-24)、実験による以下の発見により確証された。pH7.2のリン酸緩衝液中でのグリオキシレートとリシン、アルギニン及びグルコサミンとの37℃暗中での3日及び30日間のインキュベーションは、グルコサミン>リシン>>アルギニンが、グリオキシレートの非酵素的攻撃を受けやすく、結果として、UV及び蛍光分光法により検出可能なAGE種が産生されることを示した。AGE種の産生は、インキュベーションの時間、並びにリシン及びグルコサミンの濃度の上昇と共に増加した。グルコサミンとのインキュベーションにおけるグリセルアルデヒド、グルコース又はフルクトースなどの還元糖と比較して、グリオキシレートは、グルコース又はフルクトースより60%高い反応性、グリセルアルデヒドより20%高い反応性であった。グリオキシレートのアミノ置換リシンへの反応性も、Nα-アセチルリシン又はNε-アセチルリシンとのインキュベーションを通して検討された。これらのインキュベーション後に検出されたAGE種が全くなかったことから、タンパク質中のリシル基は、グリオキシレートとの反応性が高くないこと、及びグリオキシレートは、タンパク質の一部としてペプチド結合に関与するリシンとよりも、遊離リシンとの反応性を示しうることが示唆された(Dutta 同所)。実際、グリオキシレートは、pH8のリン酸緩衝液中で、ヒト血清アルブミン(HSA)と、37℃で4週間インキュベーションした時、(グルコース及びメチルグリオキサールと比較して)低いが、依然として全体的反応性がいくらかあることを示した:修飾剤としての10mMのグリオキシル酸は、約10%リシン及び20%アルギニン側鎖修飾をもたらし;グリオキシル酸修飾HSAの凝集の指標としての線維状態は、小さいが、著しい増強を示しており、そのことは、修飾タンパク質の生物学的活性の喪失を引き起こしうる、タンパク質コンフォメーションのかなりの変化を示唆する(Schmitt A, Schmitt J, Munch G, Gasic-Milencovic J (2005) Characterization of advanced glycation end products for biochemical studies: side chain modifications and fluorescence characteristics. Analytical Biochemistry 338: 201-215.);グリオキシル酸由来AGEのわずかな質量増加も検出された(Schmitt A, Gasic-Milenkovic J, Schmitt J (2005-2) Characterization of advanced glycation end products: Mass changes in correlation to side chain modifications. Analytical Biochemistry 346: 101-106)。グリオキシル酸分子のAGE産生への反応性は、特定のAGE、すなわちNε-カルボキシメチルリシン(CML)修飾タンパク質の、実験目的のための細胞外生産が、通常、還元剤の存在下で、グリオキシル酸のみとのタンパク質のインキュベーションを通して達成されるということによっても裏付けられている(例えば、Valencia JV, Weldon SC, Quinn D, Kiers GH, DeGroot J, TeKoppele JM, Hughes TE (2004) Advanced glycation end product ligands for the receptor for advanced glycation end products: biochemical characterization and formation kinetics. ANALYTICAL BIOCHEMISTRY 324 (1): 68-78.、Delatour, F. Fenaille, V. Parisod, F. Arce Vera, T. Buetler (2006) Synthesis, tandem MS- and NMR-based characterization, and quantification of the carbon 13-labeled advanced glycation endproduct, 6-N-carboxymethyllysine. Amino Acids 30: 25-34)。主要なAGEの一つであるCML自体、グリオキシル酸とNα-アセチル-L-リシンとの還元的アミノ化反応によって産生されうる(Csuk, S. Stark, A. Barthel, R. Kluge, D. Strohl (2009) A Robust Synthesis of N(epsilon)-(Carboxymethyl)-L-lysine (CML). Synthesis 2009(11): 1933-1934)。
【0078】
糖尿病性腎障害の蔓延が世界的に広がり続けているので、糖尿病性腎障害を予防するための新規の治療標的を同定することが急務である(Tanaka Y, Kume S, Kitada M, Kanasaki K, Uzu T, Maegawa H, Koya D. (2012) Autophagy as a therapeutic target in diabetic nephropathy. Exp Diabetes Res. 2012; 2012:628978)。糖尿病性腎障害の薬物療法は、その発症に関わる説明されている機構(Balakumar P, Arora MK, Ganti SS, Reddy J, Singh M. (2009) Recent advances in pharmacotherapy for diabetic nephropathy: current perspectives and future directions. Pharmacol Res. 60(1): 24-32によってまとめられている)に基づいており、グリオキシレートを潜在的な薬剤標的として全く考えていなかった。明らかになった分子機構は、低分子グリオキシレートを通して、糖尿病性高血糖症と高シュウ酸尿症関連腎障害を結びつける:低分子グリオキシレートは、一方で、グルコースと平行して糖尿病血漿に蓄積し、他方で、それは、オキサレートの直接前駆体であり、その蓄積は、シュウ酸カルシウム尿石症及び腎石症を引き起こす。この分子機構は、グリオキシレートをi)糖尿病性腎障害の新規の独自のバイオマーカーとして、及びii)有望な抗糖尿病性腎障害薬の標的として示しており、グリオキシレートを除去すること、及びその産生を抑制することによりグリオキシレートの量を減らすことによって、糖尿病性高血糖症から高シュウ酸尿誘発性腎障害の分子的つながりが破壊されるはずである。
【0079】
グリオキシレートは、糖尿病血漿及び尿中で常に増加することになる、本発明の基礎となる発見に従って見出された新たな分子である。グリオキシレートは、ヒトの体内における、普通であるが、微量である細胞毒性代謝産物である。機能的には、グリオキシレートは、終末糖化産物(AGE)の産生への関与を通して、糖尿病性高血糖症と、高度糖化に関連した糖尿病性合併症とをつなげる。グリオキシレートの病態生理学的重要性は、それ自体がAGEの主要な前駆体である、グルコース由来グリオキサールの代謝的解毒がグリオキシレートをもたらし、また、グリオキシレートが糖化特性を有するという観察に一部基づいている。
【0080】
本発見に従って、腎臓の代謝障害の一態様を、グリオキシレートの二つの役割、すなわち、第一に、高度糖化に関係すること、第二に、オキサレートの唯一の直接前駆体であることを踏まえて、今、再考することができる。代謝の直接のオキサレート前駆体としてのグリオキシレートと腎結石症との関連性は、広く研究され、慎重に文書化された。腎結石は、結晶様の沈着物からなり、その70〜80%は、カルシウムを含有し、カルシウム石の大半は、主としてシュウ酸カルシウムからなり(Coe 1992, N Engl J Med 327: 1141-1152; Johri 2010, Nephron Clinical Practice 116: C159-C171)、したがって、尿中オキサレートの増加、又は、腎結石症の主要な危険因子である高シュウ酸尿症が引き起こされる。直接のオキサレート前駆体であるグリオキシレートが、同時に、グリオキサールの解毒産物であり、AGE種の高反応性前駆体であるという証拠は、高血糖症と、一方で関連のAGE蓄積と、他方で慢性腎不全につながるオキサレート誘発性腎障害との思いがけない新たなつながりを提示し、AGE、グリオキシレート及びオキサレートを結びつける代謝的つながりを通した、重症の糖尿病共存症の一つである糖尿病性腎障害へのAGEの関与の直接的な分子機構を示唆している。グリオキシレートの生化学の総合的見解は、グリオキシレートを、酵素により制御されない化学修飾(すなわち、糖化)の潜在的な原因となるグルコースの過剰部分の指標であると示し、糖尿病により誘発される腎合併症、例えば、糖尿病性腎障害の発症の因果関係を引き出す。グリオキシレートを糖尿病及びその合併症の発症機構の中心分子としてそのように位置付けることは、新しい治療戦略の複数の新しい選択肢を与え、糖尿病、糖尿病性腎障害、及びAGE関連機能障害における治療的介入のための推定上の標的としての、グリオキシレートの重要性を強調する。
【0081】
更に、終末糖化産物(AGE)はまた、糖尿病で蓄積すること、及び糖尿病の合併症の原因であることが知られている他に、年齢とともに、また、年齢に関連した慢性疾患において蓄積する。これに関して、寿命変異体を有するC.エレガンスが、加齢に関連した過程を研究するための優れたモデルの代表である。高グルコース媒介のC.エレガンスの寿命の短縮、及びグリオキシレート経路のC.エレガンスの寿命への関与、それと共に、グリオキシレートと高度糖化との代謝的つながりは、グリオキシレートを、寿命の基礎となり、高度糖化と加齢のプロセスをつなげる中心分子として示す。これらの発見によれば、現代の抗糖尿病薬であるメトホルミンはまた、C.エレガンスの寿命を延ばし、ヒトの健康的な加齢を助長することが示された。ビグアニド系のメトホルミンと生化学的な類似性を共有する、高度糖化阻害アミノグアニジンによるグリオキシレートの除去についての実験による証拠は、i)グリオキシレートがまた、メトホルミンによって除去されること、及びii)グリオキシレート除去が、メトホルミン作用機序へ関与することに対する強い根拠を与える。高度糖化によるタンパク質損傷への関与を通したグリオキシレートの加齢への関与は、それを、高血糖症での、酵素により制御されない加齢の好都合なバイオマーカーにさせる。加えて、ビグアニドの一つによるグリオキシレートの除去は、早発性のAGE誘発性加齢のさもなければ無制御な過程に、有効な制御点を与えうる。したがって、本発明の方法は、グリオキシレートの減少又は不活性化(結合による)を介して高度糖化による損傷を減らす薬剤の同定に使用することもできる。これらの薬剤は、糖尿病だけでなく糖尿病様状態に対しても有効である。本発明の方法は、一般に、糖尿病に対する薬剤を同定する代わりに又はそれに加えて、寿命を延ばす薬を同定するのにも使用されうることが理解される。
【0082】
上でなされた用語の定義及び説明は、以下に別段の指定がある場合を除いて、以下の実施形態に準用する。
【0083】
本発明は、糖尿病に対する薬剤を同定する方法であって、
(a)糖尿病に対する薬剤であることが推測される化合物が、グリオキシレートを生成する試験細胞と相互作用し、グリオキシレート生成に影響を与えることを可能にする時間及び条件下で、その試験細胞を前記化合物と接触させる工程と、
(b)前記細胞において、利用可能なグリオキシレートの量を決定する工程と、
(c)工程(b)で決定した量をグリオキシレートの基準量と比較する工程であって、それによって、糖尿病に対する薬剤である化合物が同定される、前記工程と
を含む方法に関する。
【0084】
用語「接触させる」は、本明細書で使用されるとき、糖尿病に対する薬剤であることが推測される化合物を、前記試験細胞と物理的に接触させることを意味する。化合物は、グリオキシレート生成又は利用可能なグリオキシレートの量に影響を与えることができるように、化合物と細胞におけるその標的との相互作用を可能にするのに十分な時間及び条件下で接触させるべきである。適切な条件及び適切な時間は、化合物の化学的性質に応じて、当業者によって選択されうる。グリオキシレート代謝の酵素又は調節因子を直接阻害する化合物は、そのような酵素又は調節因子の転写又は翻訳の阻害を介して間接的に働く化合物よりも、はるかに速く、グリオキシレートの生成に影響を与えうることが理解される。
【0085】
試験細胞における利用可能なグリオキシレートの量は、本明細書の他の部分に記載されているように決定することができる。好ましくは、試験細胞の細胞培養の細胞は、グリオキシレートを含む細胞溶解物を得るために収集され、溶解される。本発明による「利用可能なグリオキシレート」は、糖化反応に利用可能なグリオキシレートを意味する。したがって、そのような利用可能なグリオキシレートは、グリオキシレートに結合して、その糖化能力に関して、それを不活性化させることによる除去機構を介して作用する化合物、例えば、メトホルミンによって減少しうる。そのような場合において、細胞に存在するグリオキシレートの総量は、化合物によって影響されないことが理解される。しかし、糖化反応に利用可能なグリオキシレートの量は、化合物により誘発される除去作用により減少する。
【0086】
拮抗剤を同定するために、本発明の方法において使用できる化合物は、本明細書の別の部分で、潜在的な拮抗剤と呼ばれているものである。
【0087】
用語「試験細胞」は、本明細書で使用されるとき、細胞培養物中の細胞、すなわち、生物体の一部ではない細胞を意味する。細胞は、好ましくは、活性なグリオキシレート代謝を有し、グリオキシレートを生成するべきである。そのような活性な代謝は、細胞において内因的に存在してもよいし、又は、例えば、遺伝子工学により、外因的に行われてもよい。好ましくは、前記試験細胞は、以下の細胞の群から選択される:肝臓のHepG2細胞、Chang肝細胞、ラット又はマウス後根神経節神経細胞、脂肪細胞、及び糸球体間質細胞。本発明による試験細胞として適用できる他の細胞は、グリオキシレート代謝障害を有する高シュウ酸尿の男性の腎臓及び肝臓組織(Dean BM, Watts RWE, Westwick WJ (1967), Biochem J 105: 701-707を参照すること)、グリオキシレートで処理されたヒトHepG2細胞(Baker PRS, Cramer SD, Kennedy M, Assimos DG, Holmes RP (2004), Am J Physiol Cell Physiol 287: C1359-C1365; J. Knight, D.G. Assimos, L. Easter, R.P. Holmes (2010), Horm Metab Res 42: 868-873; Schnedler N, Burckhardt G, Birgitta C. Burckhardt BC (2011), J Hepatol 54:513-520を参照すること)、及びグリオキシレートで処理されたヒト肝スライス(Nagata M, Ichiyama A, Takayama T, Oda T, Mugiya S, Ozono S (2009), Biomedical Research 30 (5): 295-301)を包含する。
【0088】
前述の細胞は、糖尿病を研究するための細胞培養モデルを樹立するために使用されており、したがって、本発明の方法の好ましい試験細胞である。特に、ラット後根神経節神経細胞培養は、高グルコースの神経毒作用を研究するために開発された。規定培地において培養された後根神経節において、適度のグルコースレベルの添加により、神経突起変性及びアポトーシスが生じる。これらの変化は、カスパーゼ-3の活性化と関連し、グルコースの濃度に依存する。インビトロで観察されるアポトーシス変化は、インビボで観察されるものと類似している;詳細については、Russell JW, Sullivan KA, Windebank AJ, Herrmann DN, Feldman EL (1999) Neurons undergo apoptosis in animal and cell culture models of diabetes. Neurobiol Dis. 6(5): 347-63(参照により本明細書に組み込まれる)を参照すること。
【0089】
初代のマウス後根神経節(DRG)神経細胞培養物を、本発明の試験細胞として使用してもよい。解離したDRG培養物を、二つのモデルの糖尿病、すなわち、ストレプトゾトシン(STZ)誘発性1型糖尿病及び遺伝的2型db/db(-/-)マウスにおける成体マウスから作製した。DRGは、6〜8週齢のときにC57BL/6Jマウスから回収された。マウスDRGは、成体マウスから抽出され、解剖の間L-15培地中に置かれ、パパイン(2mg/ml)及び2.5%コラーゲナーゼ中で30分間解離させ、次いで、ウシ胎児血清中でクエンチされた。次いで、DRGは、遠心分離により抽出され、温かい播種培地中に置かれ、ウシ胎児血清で被覆されたガラスピペットで20〜30回つき砕かれた(triturate)。成体マウスDRG神経細胞は、25mMグルコース(神経細胞に最適な基礎グルコース)と共に1XB27(Sigma)、0.14mM L-グルタミン、及び40μM FUDRを含有するNeurobasal培地(Sigma)中で培養され、混入しているシュワン細胞が取り除かれた。高血糖は、20mMの追加のグルコース(合計45mMのグルコース)を培地に添加することにより誘発された;詳細については、Vincent AM, Russell JW, Sullivan KA, Backus C, Hayes JM, McLean LL, Feldman EL (2007) SOD2 protects neurons from injury in cell culture and animal models of diabetic neuropathy. Exp Neurol. 208(2): 216-227(参照により本明細書に組み込まれる)を参照すること。
【0090】
更に、糸球体間質細胞培養物を、本発明による試験細胞として使用してもよい。Sprague-Dawleyラットから初代培養されたラット糸球体間質細胞は、高グルコース(HG;50mM)又は対照の通常グルコース(NG;5mM)の条件で処理される;詳細については、Ju KD, Shin EK, Cho EJ, Yoon HB, Kim HS, Kim H, Yang J, Hwang YH, Ahn C, Oh KH (2012) Ethyl pyruvate ameliorates albuminuria and glomerular injury in the animal model of diabetic nephropathy. Am J Physiol Renal Physiol. 302(5): F606-13(参照により本明細書に組み込まれる)を参照すること。糸球体間質細胞培養細胞は、糖尿病性腎障害のインビトロモデルとしても報告されており、前記糖尿病共存症を調査するために使用されうる。Sprague-Dawleyラットから初代培養されたラット糸球体間質細胞は、高グルコース(HG;50mM)又は対照の通常グルコース(NG;5mM)の条件で処理される(Ju 同所を参照すること)。
【0091】
更に、基礎的状態における及びインスリン刺激後のグルコース取り込みを評価するための脂肪細胞が報告されており、それも、好ましくは、本発明による試験細胞として使用されうる。脂肪組織は、インスリン作用の主要な部位であり、エネルギーホメオスタシスに実質的に寄与している。インスリンは、グルコーストランスポーターGLUT4を細胞膜に補充することによって、血流から脂肪組織へのグルコースの抽出を増加させる。食事由来のフラボノイドがグルコース輸送過程を妨害しうるという仮定を試験するために、マウス3T3-L1脂肪細胞、及び単離成熟ヒト脂肪細胞が使用された。グルコース輸送は、両方の細胞タイプで、基礎的状態における2-デオキシグルコース取り込みの動態的特徴によってアッセイされた;詳細については、Claussnitzer M, Skurk T, Hauner H, Daniel H, Rist MJ (2011) Effect of flavonoids on basal and insulin-stimulated 2-deoxyglucose uptake in adipocytes. Mol Nutr Food Res. 2011 May;55 Suppl 1:S26-34(参照により本明細書に組み込まれる)。
【0092】
肝細胞培養モデルも、好ましくは、本発明による試験細胞として適用されうる。肝臓傷害の発生の増加が、糖尿病において見られることが多く、高血糖症は、いくつかの機構を通じて、肝臓傷害の促進に重大な役割を果たしている。高血糖症が様々な動物モデルの肝臓及び肝細胞培養モデルに変化を引き起こす経路は、特定され、高血糖症によって誘発されるヒトにおける肝臓障害の機構及び結果が、解明されている。高血糖症によって動く経路のいくつかには、酸化ストレス及びニトロソ化ストレスの増加、ストレス伝達経路の活性化、及びサイトカインレベルの上昇、分子シャペロンの発現及びプロテオソーム活性などの保護機構の障害、並びにグルコース及び脂質代謝の異常調節がある。したがって、高血糖症が誘発する、インビトロモデルにおける肝臓細胞環境の変化は、広く文献に記録されており、糖尿病を研究するための肝細胞培養モデルの使用の仕方が明らかにされている。
【0093】
特に、インスリン抵抗性、及び2型糖尿病は、ヒトのChang肝細胞で研究されている。10%ウシ胎児血清(FCS)を含有するRPMI1640において、70%コンフルエンスまで培養されたChang肝細胞は、MCBD-201培地;又は0.1μMインスリン及び1mMフルクトースを含有するMCBD-201に24時間さらされた。そのモデルは、ハーブ植物の既知の抗糖尿病特性を試験するために使用された;詳細については、Dey A, Chandrasekaran K (2009) Hyperglycemia induced changes in liver: in vivo and in vitro studies. Curr Diabetes Rev. 5(2): 67-78. Dealtry GB, Williams SI, van de Venter M, Roux S (2011) Gene regulation by Sutherlandia frutescens, a South African anti-diabetic medicinal plant, in an insulin resistant liver cell culture model of type 2 diabetes. Scientific Research and Essays, Conference proceedings, pp. 13-14(参照により本明細書に組み込まれる)を参照すること。
【0094】
本発明の前述の方法の好ましい実施形態において、グリオキシレートの前記基準量は、グリオキシレートを生成し、かつ、糖尿病に対する薬剤であることが推測される化合物と接触していない基準試験細胞から得られる。より好ましくは、基準量と比較して減少したグリオキシレートの量によって、化合物が糖尿病に対する薬剤として同定される。
【0095】
基準量を得るために使用される試験細胞(基準細胞)は、好ましくは、細胞が、糖尿病に対する薬剤であることが推測される化合物と接触しないことを除いて、試験細胞と同じ手順にかけられる。前記基準細胞は、実際の試験細胞と同じ細胞型、及び好ましくは、細胞株、又はより好ましくは、同じ継代及びバッチ由来であることが理解される。
【0096】
有利には、グリオキシレートの役割は、望ましい薬剤作用ための標的であるので、標的自体を読み取りとして使用する細胞ベースアッセイは、容易に確立することができる。動物の使用を避けるそのような細胞ベースアッセイは、潜在的なリード化合物、候補薬、又は薬剤の数を減らすための予備のスクリーニングに良く適している。更に、該方法は、ロボット装置、及び/又は本明細書の他の部分で言及されている評価装置によって自動化することができる。
【0097】
本発明はまた、上で言及された本発明の試験細胞ベースの方法の工程と、それに続く、本発明の被験体ベースの方法の工程とを含む、糖尿病に対する薬剤を同定する方法を企図する。特に、本発明は、したがって、糖尿病に対する薬剤を同定する方法であって、
(a)糖尿病に対する薬剤であることが推測される化合物が、グリオキシレートを生成する試験細胞と相互作用し、利用可能なグリオキシレートの量に影響を与えることを可能にする時間及び条件下で、その試験細胞を前記化合物と接触させる工程と、
(b)前記細胞において、利用可能なグリオキシレートの量を決定する工程と、
(c)工程(b)で決定した量をグリオキシレートの基準量と比較する工程であって、それによって、糖尿病に対する薬剤である化合物の1回目の同定が行われる、又はそれによって、工程(d)及び(e)で更に処理されるべき化合物が同定される、前記工程と、
(d)糖尿病又は糖尿病様状態に罹患している被験体の試験試料におけるグリオキシレートの量を決定する工程であって、前記試験試料は、被験体が、糖尿病に対する薬剤であることが推測される化合物に接触した後に採取される、前記工程と、
(e)工程(a)で決定した量をグリオキシレートの基準量と比較する工程であって、それによって、糖尿病に対する薬剤である化合物の2回目の同定が行われる、又は確証される、前記工程と
を含む方法を企図する。
【0098】
本発明の前述の方法の好ましい実施形態において、本発明の被験体ベースの方法の工程、すなわち工程(d)及び(e)は、本発明の細胞ベースの方法の工程、すなわち工程(a)から(c)に従って、糖尿病に対する薬剤として同定された化合物についてのみ行われる。
【0099】
前述の方法の別の好ましい実施形態において、前記方法は、糖尿病に対する薬剤であることが推測される化合物が、グリオキシレートに結合してそれを除去できるかどうかを決定する工程を更に含みうる。そのような工程は、好ましくは、実際の方法にかける化合物を事前選択するために、工程(a)の前に行いうる。グリオキシレートの結合及び除去は、インビトロの分光法ベースの測定法を含めた、当業者に周知の技術によって決定することができる。好ましくは、グリオキシレートの結合及び除去は、グリオキシレートと糖尿病に対する薬剤との相互作用を意味し、それは、グリオキシレートの糖化活性を低下させるか、又は優先的に破壊する。
【0100】
前述の方法の別の好ましい実施形態において、前記方法は、グリオキシレートへの増強された又は減弱された、好ましくは増強された結合のために、その薬剤の様々な化学的変形体を試験することによって、糖尿病に対する薬剤を最適化する工程を更に含みうる。そのような工程は、工程(c)又は(d)で同定された糖尿病に対する薬剤を更に最適化するために、好ましくは、工程(c)の後、より好ましくは工程(e)の後に行ってよい。当業者は、本発明のこの実施形態において使用されるべき、糖尿病に対する薬剤の変形体をどのように設計し、製造するかを知っている。変形体の設計は、好ましくは、グリオキシレートとの最適化された結合のための、コンピュータベースの構造モデル化に基づく。
【0101】
したがって、本発明はまた、グリオキシレートへの増強された又は減弱された、好ましくは増強された結合のために、その薬剤の様々な化学的変形体を試験することによって、糖尿病に対する潜在的な薬剤を最適化する方法を企図する(前述した工程又は方法とは関係なく、例えば、メトホルミンのように、他の手段で見つかった薬剤は、グリオキシレートへの結合の改善により向上しうる)。
【0102】
有利には、ハイスループット手法に特に適した有効なスクリーニング法は、プレスクリーニングのための細胞ベースの方法、並びにリード化合物、候補薬、又は薬剤の実際のスクリーニング及び同定過程のための被験体ベースの方法を使用することによって、本発明に従って提供される。先に指定した通りの二つの方法を組み合わせることによって、細胞ベースの方法ですでに同定されている化合物のみが、被験体ベースの方法によって調査されるべきである。それによって、特に大量のハイスループットスクリーニングに必要となる動物の数を、大幅に減らすことができる。
【0103】
本発明はまた、本発明の方法のいずれか一つの工程と、糖尿病に対する薬剤として同定された化合物を、製薬上許容される形態で製剤化する更なる工程とを含む、医薬の製造方法に関する。
【0104】
用語「医薬」は、本明細書で使用されるとき、一態様において、医薬活性化合物として、上で言及される同定された薬剤を含有する医薬組成物であって、様々な疾患又は障害のヒト又は非ヒトの治療に治療有効用量で使用されうる、医薬組成物を意味する。同定された薬剤は、好ましくは、液体又は凍結乾燥形態で存在しうる。医薬は、好ましくは、局所又は全身投与のためのものである。従来的には、医薬は、筋肉内又は皮下投与される。しかし、化合物の性質及び作用機序に応じて、医薬は、他の経路によって投与してもよい。同定された薬剤は、組成物の活性成分であり、好ましくは、従来の手順に従って、薬剤を、標準的な医薬担体と組み合わせることによって調製される従来の剤形で投与される。これらの手順は、所望の調製に適合して、成分の混合、造粒、及び圧縮、又は溶解を含みうる。製薬上許容される担体又は希釈剤の形態及び性質は、組み合わされるべき活性成分の量、投与経路、及び他の周知の変数によって決まることが理解される。
【0105】
担体は、製剤の他の成分と適合し、その服用者に有害ではないという意味で許容されなければならない。用いられる医薬担体は、固体、ゲル、又は液体を含みうる。固体担体の例は、ラクトース、白土、スクロース、タルク、ゼラチン、寒天、ペクチン、アカシア、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸などである。液体担体の例は、リン酸緩衝溶液、シロップ、油、水、エマルション、様々な種類の湿潤剤などである。同様に、担体又は希釈剤は、当技術分野で周知の時間遅延材料、例えば、モノステアリン酸グリセリル又はジステアリン酸グリセリルを単独で又は蜜蝋とともに含みうる。前記の適切な担体は、上述されたもの、及び当技術分野で良く知られている他のものを含む(例えば、Remington's Pharmaceutical Sciences, Mack Publishing Company, Easton, Pennsylvaniaを参照すること)。
【0106】
希釈剤は、組み合わせ物の生物学的活性に影響を与えないように選択される。そのような希釈剤の例は、蒸留水、生理食塩水、リンガー液、デキストロース溶液、及びハンクス液である。加えて、医薬組成物又は製剤はまた、他の担体、アジュバント、又は非毒性の、非治療的な、非免疫原性の安定剤なども含みうる。
【0107】
治療有効用量は、本明細書で言及された疾患又は状態に伴う症状を予防、改善又は治療する、本発明の医薬に使用されるべき同定された薬剤の量を意味する。化合物の治療効力及び毒性は、細胞培養物又は実験動物における標準の薬学的方法、例えば、ED50(母集団の50%において治療的に有効な用量)、及びLD50(母集団の50%に対して致死用量)によって決定することができる。治療効果及び有毒作用の間の用量比が、治療指数であり、比率、LD50/ED50と表すことができる。投与計画は、担当医師や他の臨床学的因子によって決定される。医療技術分野で良く知られているように、任意の一人の患者についての投薬量は、患者の大きさ、体表面積、年齢、投与されるべき特定の化合物、性別、投与の時間及び経路、全身の健康状態、及び同時投与される他の薬剤を含めた多くの因子に左右される。進行は、定期的な評価によってモニタリングすることができる。本明細書に言及される医薬は、本明細書に挙げた疾患又は状態を治療又は改善又は予防するために少なくとも1回投与される。しかし、前記医薬は、2回以上投与してもよい。特定の医薬は、製薬技術分野で良く知られている方法で調製され、上で言及された少なくとも1種の活性化合物を製薬上許容される担体若しくは希釈剤との混合状態で、又はさもなければこれらと結合して含む。これらの特定の医薬組成物を製造するために、活性成分(複数可)は、通常、担体又は希釈剤と混合される。得られた製剤は、投与様式に適合させるべきである。考えられる服用者に応じた用量調整を見込んで、推奨投薬量が、処方者又は使用者説明書に示される。
【0108】
本発明による医薬は、本発明の同定された薬剤に加えて、薬剤を含んでもよく、それらは、製剤化の間に医薬に添加される。
【0109】
最後に、医薬の製剤化は、医薬の品質、医薬的安全性、及び有効性を保証するためにGMP規格条件下等で行われることが理解される。
【0110】
本発明は、本発明の方法のいずれかによって得ることができる医薬を更に企図する。
【0111】
更に、糖尿病を治療及び/又は予防する医薬の製造のための、本発明の方法のいずれかによって同定される薬剤の使用が企図される。
【0112】
更に、本発明は、一般に、糖尿病の治療及び/又は予防における使用のための、本発明の方法のいずれかによって同定された薬剤を提供する。
【0113】
最後に、糖尿病に罹患している患者を治療及び/又は予防する方法であって、本発明の方法のいずれかによって同定された薬剤を、前記患者に治療有効量投与する工程を含む方法が、本明細書で企図される。患者は、好ましくは、糖尿病を罹患している又は発症する危険性のあるヒトである。
【0114】
上に参照された全ての参考文献は、それらの全ての開示内容、並びに上の記載において明確に参照される特定の開示内容に関して参照として本明細書に組み込まれる。
【実施例】
【0115】
ここで本発明を以下の実施例により例示し、これらは本発明の範囲を限定又は制限することを意図していない。
【0116】
[実施例1]
糖尿病薬の薬剤標的としてのグリオキシレート
既知のグリオキサールスカベンジャーであるアミノグアニジン(Thornalley PJ, Yurek-George A, Argirov OK (2000) Kinetics and mechanism of the reaction of aminoguanidine with the alpha-oxoaldehydes glyoxal, methylglyoxal, and 3-deoxyglucosone under physiological conditions. Biochem Pharmacol. 60(1): 55-65)は、グリオキシレートを除去し、したがって、オキサレート合成からグリオキシレートをそらし、シュウ酸カルシウム石症に対抗する見込みがあることが実証された(Berman PA, van der Watt GF, Hack DJ, Baumgarten I. (2005) Inhibition of glyoxylate conversion to oxalate in cultured human cells by the carbonyl-scavenging drug, aminoguanidine. South African J of Science 101 (5-6): 249-255)。一般的に、二つのタイプのカルボニル除去薬、すなわち、チオール又はアミン官能基を含有するカルボニル除去薬が知られている。チオール含有薬の例は、ペニシラミン、システイン、及びN-アセチルシステインであり;アミン官能基を有する薬剤は、アミノグアニジン、ピリドキサミン、メトホルミンに代表される。そのような薬剤は、グリオキサール及びメチルグリオキサールを捕らえ、非毒性の付加体を形成することにより、高血糖誘発性のタンパク質損傷を防ぐことにおいて治療的に作用することが示唆されている(Mehta, Lilian Wong, Peter J. O'Brien (2009) Cytoprotective mechanisms of carbonyl scavenging drugs in isolated rat hepatocytes. Chemico-Biological Interactions 178: 317-323.)。チオール含有薬は、ペニシラミン>システイン>N-アセチルシステインという有効性の順番で、グリオキサールを捕らえることができる。アミン含有薬について、グリオキサール捕捉の有効性の順序は、アミノグアニジン>>ピリドキサミン>メトホルミンであった。グリオキシレートを有効に除去するアミノグアニジンの能力は、高度糖化誘発性糖尿病合併症、及び高シュウ酸尿症関連の糖尿病性腎障害の両方に対する二重の薬剤標的としてグリオキシレートを示している。
【0117】
[実施例2]
抗糖尿病薬のメトホルミンで処理したラット
それぞれ5匹の雄及び雌ラットの2群に、指示された化合物を群毎に異なる用量(下記を参照すること)で1日1回、28日間にわたって投与した。
【0118】
研究の各用量群は、性別毎に5匹のラットから構成された。それぞれ15匹の雄及び15匹の雌の動物の追加の群は対照として機能した。処理期間を開始する前に、供給されたとき62〜64日齢であった動物を、収容及び環境条件に7日間順化させた。動物集団における全ての動物を同じ一定温度(20〜24±3℃)及び同じ一定湿度(30〜70%)に保持した。動物集団における動物には食餌を自由に与えた。使用した食物は、実質的に化学物質又は微生物の汚染物質を含有しなかった。飲料水も自由に供給した。したがって、水はヨーロッパ飲料水指令(European Drinking Water Directive)98/83/EGに記載されている化学物質及び微生物の汚染物質を含有しなかった。照明時間は、12時間の光であり、続いて12時間の暗黒であった(12時間の光は6:00〜18:00、12時間の暗黒は18:00〜6:00)。研究は、ドイツ国動物保護法(German Animal Welfare Act)及び欧州理事会指令86/609/EEに従って、AAALAC認可実験室において実施した。試験系は、齧歯類における反復用量28日間経口毒性研究における化学薬品の試験のためのOECD407指針に従って配置した。試験物質は、以下のように投与した:
メトホルミン塩酸塩は、0.5%のカルボキシメチルセルロースを含有する飲料水(Tylose CB30000)(投与体積:10ml/kg体重)で胃管栄養法により投与した(高用量群は1g/kg体重、低用量群は0.2g/kg体重)。
【0119】
7、14及び28日目の朝、血液を、麻酔をかけた空腹動物の眼窩後静脈叢から採取した。それぞれの動物から、1mlの血液を、抗凝血薬としてEDTAと共に収集した。試料を遠心分離して、血漿を生成した。全ての血漿試料をN
2雰囲気で覆い、次に、分析するまで-80℃で保存した。
【0120】
質量分析に基づいた代謝産物プロファイリング分析では、血漿試料を抽出し、極性及び非極性(脂質)画分を得た。GC-MS分析では、非極性画分を酸性条件下でメタノールにより処理して、脂肪酸メチルエステルを生じた。分析の前に、両方の画分を、更に、O-メチル-ヒドロキシアミン塩酸塩及びピリジンで誘導体化して、オキソ基をO-メチルオキシムに変換し、続いてシリル化剤で誘導体化した。
【0121】
包括的な分析確認工程に続いて、各分析物のデータをプール試料のデータに対して正規化した。これらの試料は、全過程にわたって並行して処理して、方法の変動性に対処した。性別、処理期間及び代謝産物に特異的な処理群値の有意性は、WELCH試験を使用して、処理群の平均を対応する未処理対照群の平均と比較することによって決定し、対照に対する処理の比及びp値で定量化した。
【0122】
【表2】
【0123】
上の表2から明らかなように、メトホルミンは、ラットモデル系で見られるグリオキシレート濃度を大きく低下させることができる。
【0124】
[実施例3]
C.エレガンスからの抽出物におけるグリオキシレートの検出
線虫を収集し、緩衝液でよく洗浄し、得られたペレットを、機械力と組み合わせてガラスビーズで破砕した。試料を、メチル-tert-ブチルエーテル、メタノール、及び抽出緩衝液で抽出し、15分間超音波処理した。50%の水/メタノール(3:1)混合物を添加し、激しく混合し、遠心分離機にかけた。極性相を蒸発させて乾燥させた。水、及びエタノールとジクロロメタンとの混合物を添加した後、試料を、水性極性相及び有機親油相に分画した。13C-グリオキシレートを内部標準として添加し、抽出物を、以下のようにして誘導体化した:密封容器における、メトキシアミン塩酸塩との反応(ピリジン中20mg/mL、50μLを60℃で1.5時間)により、カルボニル基のメトキシ化(methoximation)を行った。最後に、50μlのN-メチル-N-(トリメチルシリル)-2,2,2-トリフルオロアセトアミド(MSTFA)による誘導体化を、ここでも密封容器において60℃で30分間実施した。GCへの注入前の最終体積は100μLであった。GC-MS系は、Agilent 5973 MSDに結合したAgilent 6890 GCから構成される。オートサンプラーは、CTCのCompiPal又はGCPalであった。
【0125】
分析には、アリーレン/ポリ-メチル-シロキサン固定相を有する、通常の市販のキャピラリー分離カラム(30m×0.25mm×0. 5μm)を使用した(例えば、DB-XLB、Agilent Technologies)。0.5μLの最終体積をスプリットレス注入し、オーブン温度プログラムは、十分なクロマトグラフィー分離及びグリオキシレート分析の走査の数を達成するため、低い速度で開始し、グリオキシレート溶出後に高い加熱速度に変える、異なる加熱速度によって、70℃で開始し、320℃で終了した。更に、通常のGC-MS標準条件、例えば、公称1〜1.7mL/分の一定流、及び移動相ガスとしてヘリウム、並びに標準調整条件を適用した。イオン化は、適切な時間範囲内で、それぞれグリオキシレート誘導体及びその内部標準の二つの特徴的マスフラグメントを走査する、70eVの電子衝撃で実施した。走査速度は、25走査/秒であった。グリオキシレート値を、各試料の総イオンカウントに対して正規化し、試料体積の個々の偏差を調整した。更に、データを、対照試料の中央値に対して正規化し、対照との比率を導いた。
【0126】
[実施例4]
本発明者らは、グリオキシレート及びメトホルミン別々での、及びグリオキシレートとメトホルミンの組み合わせでの処理による、モデル蠕虫カエノラブディティス・エレガンスを用いたインビボ実験で、メトホルミンが、グリオキシレート濃度を抑制するという仮説を試験した。
【0127】
C.エレガンス培養物を、Soukupら(Soukup et al. (2012) Formation of Phosphoglycosides in Caenorhabditis elegans: A Novel Biotransformation Pathway. PLoS One. 2012;7(10):e46914)及びGeillingerら(Geillinger et al. (2012) Dynamic Changes of the Caenorhabditis elegans Proteome during Ontogenesis Assessed by Quantitative Analysis with 15N Metabolic Labeling. J. Proteome Res. 11(9): 4594)に記載されている通りに維持した。有意な結果を観察するために、C.エレガンスの各処理群は、それぞれ50〜100μl蠕虫ペレットの五つの複製バッチからなっていた。実験は、以下の四つの処理群を含んだ:
1)C.エレガンス、野生型(wt)-成長培地(処理なし、対照)
2)C.エレガンス、wt-成長培地+50mMメトホルミン(Onken & Driscoll (Onken B, Driscoll M (2010) Metformin induces a dietary restriction-like state and the oxidative stress response to extend C. elegans healthspan via AMPK, LKB1, and SKN-1. PLoS ONE 5(1): e8758.)に記載されている通りの、メトホルミン適用及び用量の方法論)
3)C.エレガンス、wt-成長培地+20mMグリオキシレート
4)C.エレガンス、wt-成長培地+20mMグリオキシレート及び50mMメトホルミン
処理後、C.エレガンスを洗浄し、試料収集し、代謝産物抽出を行い、実施例3に記載されている通りにグリオキシレートレベルを検出した。GC-MS代謝産物プロファイルから、絶対強度値の指標としての総イオンカウント(TIC)を、各バッチについて算出した。次いで、測定されたグリオキシレートレベルを、TICを使用して、体積について正規化した。
【0128】
結果を、
図2及び表3にまとめる。
【0129】
【表3】
【0130】
以下のことが見出された:
1)WtC.エレガンスは、天然の(native)グリオキシレートを含有していた。
2)メトホルミンでの処理は、C.エレガンスにおける天然のグリオキシレートレベルを優位に低下させた。
3)グリオキシレートでのC.エレガンスの処理は、内因性グリオキシレートの有意な増加をもたらした。
4)グリオキシレートによる処理と同時のメトホルミンによる処理は、内因性グリオキシレートの増加を上書き(overwrite)し、群(1)で観察された天然のグリオキシレートレベルを回復させた。
【0131】
[実施例5]
グリオキシレートは、糖尿病患者の血漿中で増加する
経口グルコース負荷試験(OGTT)評価にボランティアで参加した合計789人の参加者から、前向き研究のために被験体を選択した。選択の前に、参加者を空腹時血漿グルコースに従って(OGTTの前)及びOGTT分類に従って群に分けた。
【0132】
標準WHO糖尿病分類を適用した(WHO 2006):
糖尿病:FPG≧7.0mmol/L又は2HPG≧11.1mmol/L;
IGT:FPG<7.0mmol/L及び2HPG≧7.8及び<11.1mmol/L;
IFG:FPG 6.1〜6.9mmol/L及び2HPG<7.8mmol/L、
健康:FPG≦6.0mmol/L及び2HPG<7.8mmol/L。
2HPG=標準的75g経口グルコース投入の2時間後の血漿
【0133】
選択は、糖尿病の分類、並びに施設、性別、肥満指数及び年齢などの潜在的交絡要因の最適な適合のために実施した。最終的に478人の研究参加者を前向き研究部分に含めた。
【0134】
【表4】
【0135】
代謝産物プロファイリングは、OGTTの直前に研究参加者から得た空腹時血漿試料、並びに標準的経口グルコースボーラス(75g)の120分後の血漿試料において実施した。血漿は、標準的プロトコールにより処理し、およそ60分以内に血液から分離した。血漿試料を直ぐに凍結し、-80℃で保存した。試料採取した場所から生化学分析の場所への試料の移動は、ドライアイスの上で行った。
【0136】
グリオキシレート濃度は、糖尿病被験体の血漿で増加し、グリオキシレートは、糖尿病の予測因子(糖尿病被験体のグリオキシレート濃度対健康な被験体のグリオキシレート濃度の比率1.23(p値0.011))であることが見出された。更に、グルコース投入により、糖尿病被験体において、グリオキシレート濃度の上昇が更に悪化する(比率1.72、p値0.0043)ことが見出された。
【0137】
[実施例6]
ヒト血漿中のグリオキシレートの検出
タンパク質を血漿から沈殿により分離した。水、及びエタノールとジクロロメタンの混合物を添加した後、残りの試料を水性極性相及び有機親油相に分画した。
【0138】
極性相では、誘導体化は以下のように実施した:カルボニル基のメトキシ化は、密封容器においてメトキシアミン塩酸塩との反応(ピリジン中20mg/ml、50lを60℃で1.5時間)により実施した。奇数直鎖脂肪酸の10μlの溶液(炭素原子7〜25個の脂肪酸の各0.3mg/mLと27、29及び31個の炭素原子の脂肪酸の各0.6mg/mLとの3/7(v/v)ピリジン/トルエン中の溶液)を時間基準として加えた。最後に、50μlのN-メチル-N-(トリメチルシリル)-2,2,2-トリフルオロアセトアミド(MSTFA)による誘導体化を、ここでも密封容器において60℃で30分間実施した。GCへの注入前の最終体積は100μlであった。GC-MS系は、Agilent 5973 MSDに結合したAgilent 6890 GCから構成される。オートサンプラーは、CTCのCompiPal又はGCPalであった。
【0139】
分析には、分析される試料材料及び相分離工程からの画分に応じて、0%〜35%の芳香族部分を含有する様々なポリ-メチル-シロキサン固定相を有する、通常の市販のキャピラリー分離カラム(30m×0.25mm×0.25μm)を使用した(例えば:DB-1ms、HP-5ms、DB-XLB、DB-35ms、Agilent Technologies)。1μLまでの最終体積をスプリットレス注入し、オーブン温度プログラムは、十分なクロマトグラフィー分離及び各分析物のピーク内の走査の数を達成するため、試料材料及び相分離工程からの画分に応じて、異なる加熱速度によって、70℃で開始し、340℃で終了した。更に、RTL(Retention Time Locking, Agilent Technologies)を分析に使用し、通常のGC-MS標準条件、例えば公称1〜1.7ml/分の一定流、及び移動相ガスとしてヘリウム、並びに標準調整条件が適用された。イオン化は、3イオン質量からなる適切な時間範囲内で各分析物の特徴的なマスフラグメントを走査する、70eVの電子衝撃で実施した。
【0140】
[実施例7]
糖尿病db/db-/-変異体マウスの血漿におけるグリオキシレートレベルの決定
ヒトの糖尿病及び動物モデルにおける、血漿グリオキシレートのレベルの上昇の潜在的な組織源を更に探るために、ob/ob-/-及びdb/db-/-変異体マウスモデルが調査され、代謝産物レベルが測定される。ob/ob-/-及びdb/db-/-マウスモデルは、それぞれ、肥満及び糖尿病についてよく表している。
【0141】
ob/ob-/-マウスは、レプチン産生において欠損を有するのに対して、db/db-/-マウスは、レプチン受容体活性の欠損を有する。結果的に、どちらのモデルもレプチンシグナル伝達に欠陥を有し、非常に食欲過剰であり、肥満及びインスリン抵抗性を発症する。重要なことに、遺伝的バックグラウンドの違い(例えば、ob/ob-/-及びdb/db-/-マウスそれぞれに対してC57BL/6J及びC57BL/KsJ)によって、ob/ob-/-マウスモデルには膵臓肥大が生じ、db/db-/-マウスモデルには膵臓萎縮が生じる。
【0142】
db/db-/-糖尿病マウスは、肥満モデルとして役割を果たすob/ob-/-マウスとの比較で研究される。代謝産物プロファイリングは、以前に述べた通りに行われる。db/db-/-及びob/ob-/-の代謝産物プロファイリング結果は、それらの各対照群に対して分析される。db/db-/-及びob/ob-/-の代謝産物プロファイリング結果はまた、各対照群と、正規化の後、比較し、統計的に分析される。
【0143】
db/db-/-マウスについて、対照動物と比較して、血漿グルコースが増加していることが観察される。同様に、代謝産物プロファイリングデータは、db/db-/-マウスモデルにおいて、対照と比較して、血漿グリオキシレートレベルの上昇を示す。したがって、未治療の糖尿病ヒト被験体の血漿に類似し、db/db-/-マウスモデルからの血漿は高いグリオキシレート濃度を示し、これは、グルコースと相関している。