(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記生成工程は、前記銅化合物の粉末をキャリアガスを用いて分散させ、前記銅化合物の粉末を前記熱プラズマ炎中に供給する工程を有する請求項1に記載の亜酸化銅微粒子の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、添付の図面に示す好適実施形態に基づいて、本発明の亜酸化銅微粒子の製造方法および亜酸化銅微粒子ならびに導体膜の製造方法を詳細に説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る亜酸化銅微粒子の製造方法に用いられる微粒子製造装置を示す模式図である。
【0016】
図1に示す微粒子製造装置10(以下、単に製造装置10という)は、亜酸化銅(Cu
2O、酸化第一銅)微粒子の製造に用いられるものである。
製造装置10は、熱プラズマを発生させるプラズマトーチ12と、亜酸化銅微粒子の製造用材料(粉末材料)をプラズマトーチ12内へ供給する材料供給装置14と、亜酸化銅の1次微粒子15を生成させるための冷却槽としての機能を有するチャンバ16と、生成された1次微粒子15から任意に規定された粒径以上の粒径を有する粗大粒子を除去するサイクロン19と、サイクロン19により分級された所望の粒径を有する亜酸化銅の2次微粒子18を回収する回収部20とを有する。
材料供給装置14、チャンバ16、サイクロン19、回収部20については、例えば、特開2007−138287号公報の各種装置を用いることができる。
【0017】
本実施形態において、亜酸化銅微粒子の製造には、銅化合物の粉末が用いられる。銅化合物の粉末は、熱プラズマ炎中で容易に蒸発するように、その平均粒径が適宜設定されるが、平均粒径は、例えば、100μm以下であり、好ましくは10μm以下、更に好ましくは3μm以下である。この銅化合物の粉末としては、例えば、酸化第二銅(CuO)、水酸化第二銅(Cu(OH)
2)、硫酸第二銅(CuSO
4)、硝酸第二銅(Cu(NO
3)
2)、および過酸化銅(Cu
2O
3,CuO
2,CuO
3)の粉末を用いることができる。
【0018】
プラズマトーチ12は、石英管12aと、その外側を取り巻く高周波発振用コイル12bとで構成されている。プラズマトーチ12の上部には、後述するように銅化合物の粉末の形態、または銅化合物の粉末を含有するスラリーの形態で、銅化合物の粉末をプラズマトーチ12内に供給するための後述する供給管14aがその中央部に設けられている。プラズマガス供給口12cが、供給管14aの周辺部(同一円周上)に形成されており、プラズマガス供給口12cはリング状である。
【0019】
プラズマガス供給源22は、プラズマガスをプラズマトーチ12内に供給するものである。このプラズマガス供給源22は、気体供給部22aを有し、気体供給部22aは配管22bを介してプラズマガス供給口12cに接続されている。気体供給部22aには、それぞれ図示はしないが供給量を調整するためのバルブ等の供給量調整部が設けられている。
【0020】
プラズマガスは、プラズマガス供給源22からプラズマガス供給口12cを経てプラズマトーチ12内に供給される。プラズマガスには、不活性ガスが用いられる。不活性ガスとしては、例えば、ヘリウムガス、アルゴンガスおよび窒素ガスのうち、少なくとも1つのガスが用いられる。
例えば、気体供給部22aに、例えば、ヘリウムガス、アルゴンガスおよび窒素ガスのうち、少なくとも1つのガスが貯蔵される。プラズマガス供給源22の気体供給部22aから、プラズマガスとして、ヘリウムガス、アルゴンガスおよび窒素ガスのうち、少なくとも1つのガスが配管22bを介して、リング状のプラズマガス供給口12cを経て、矢印Pで示す方向からプラズマトーチ12内に供給される。そして、高周波発振用コイル12bに高周波電圧が印加されて、プラズマトーチ12内で熱プラズマ炎24が発生する。
なお、プラズマガスは、ヘリウムガス、アルゴンガスおよび窒素ガスのうち、少なくとも1つのガスであればよく、単体に限定されるものではなく、これらを組み合わせて使用してもよい。
【0021】
熱プラズマ炎24の温度は、銅化合物の粉末の沸点よりも高いことが必要である。一方、熱プラズマ炎24の温度が高いほど、容易に銅化合物の粉末が気相状態となるので好ましいが、特に温度は限定されるものではない。例えば、熱プラズマ炎24の温度を6000℃とすることもできるし、理論上は10000℃程度に達するものと考えられる。
また、プラズマトーチ12内における圧力雰囲気は、大気圧以下であることが好ましい。ここで、大気圧以下の雰囲気については、特に限定されないが、例えば、0.5〜100kPaである。
【0022】
なお、石英管12aの外側は、同心円状に形成された管(図示されていない)で囲まれており、この管と石英管12aとの間に冷却水を循環させて石英管12aを水冷し、プラズマトーチ12内で発生した熱プラズマ炎24により石英管12aが高温になりすぎるのを防止している。
【0023】
材料供給装置14は、供給管14aを介してプラズマトーチ12の上部に接続されている。材料供給装置14としては、例えば、銅化合物の粉末を粉末の形態で供給するもの、銅化合物の粉末を含有するスラリーの形態で供給する2通りの方式を用いることができる。
銅化合物の粉末を粉末の形態で供給する材料供給装置14としては、例えば、特開2007−138287号公報に開示されているものを用いることができる。この場合、材料供給装置14は、例えば、銅化合物の粉末を貯蔵する貯蔵槽(図示せず)と、銅化合物の粉末を定量搬送するスクリューフィーダ(図示せず)と、スクリューフィーダで搬送された銅化合物の粉末が最終的に散布される前に、これを一次粒子の状態に分散させる分散部(図示せず)と、キャリアガス供給源(図示せず)とを有する。
【0024】
キャリアガス供給源から押し出し圧力がかけられたキャリアガスとともに銅化合物の粉末は供給管14aを介してプラズマトーチ12内の熱プラズマ炎24中へ供給される。
材料供給装置14は、銅化合物の粉末の凝集を防止し、分散状態を維持したまま、銅化合物の粉末をプラズマトーチ12内に散布することができるものであれば、その構成は特に限定されるものではない。キャリアガスには、例えば、上述のプラズマガスと同様に不活性ガスが用いられる。キャリアガス流量はフロート式流量計を用いて制御することができる。また、キャリアガスの流量値とはこの流量計の目盛り値のことである。
【0025】
銅化合物の粉末をスラリーの形態で供給する材料供給装置14は、例えば、特開2011−213524号公報に開示されているものを用いることができる。この場合、材料供給装置14は、スラリー(図示せず)を入れる容器(図示せず)と、容器中のスラリーを攪拌する攪拌機(図示せず)と、供給管14aを介してスラリーに高圧をかけプラズマトーチ12内に供給するためのポンプ(図示せず)と、スラリーを液滴化させてプラズマトーチ12内へ供給するための噴霧ガスを供給する噴霧ガス供給源(図示せず)とを有する。噴霧ガス供給源は、キャリアガス供給源に相当するものである。噴霧ガスのことをキャリアガスともいう。
【0026】
本実施形態において、スラリーの形態で銅化合物の粉末を供給する場合、銅化合物の粉末を水に分散させてスラリーにし、このスラリーを用いて亜酸化銅微粒子を製造する。
なお、スラリー中の銅化合物の粉末と水との混合比は、特に限定されるものではなく、例えば、質量比で5:5(50%:50%)である。
【0027】
銅化合物の粉末をスラリーの形態で供給する材料供給装置14を用いた場合、噴霧ガス供給源から押し出し圧力をかけられた噴霧ガスが、スラリーと共に供給管14aを介してプラズマトーチ12内の熱プラズマ炎24中へ供給される。供給管14aは、スラリーをプラズマトーチ内の熱プラズマ炎24中に噴霧し液滴化するための二流体ノズル機構を有しており、これにより、スラリーをプラズマトーチ12内の熱プラズマ炎24中に噴霧する、すなわち、スラリーを液滴化させることができる。噴霧ガスには、キャリアガスと同様に、例えば、上述のプラズマガスと同様に不活性ガスが用いられる。
【0028】
このように、二流体ノズル機構は、スラリーに高圧をかけ、気体である噴霧ガス(キャリアガス)によりスラリーを噴霧することができ、スラリーを液滴化させるための一つの方法として用いられる。
【0029】
なお、上述の二流体ノズル機構に限定されるものではなく、一流体ノズル機構を用いてもよい。さらに他の方法として、例えば、回転している円板上にスラリーを一定速度で落下させて遠心力により液滴化する(液滴を形成する)方法、スラリー表面に高い電圧を印加して液滴化する(液滴を発生させる)方法等が挙げられる。
【0030】
チャンバ16は、プラズマトーチ12の下方に隣接して設けられている。プラズマトーチ12内の熱プラズマ炎24中に供給された銅化合物の粉末は、蒸発して気相状態になり、銅化合物、例えば、酸化第二銅が還元されて、亜酸化銅微粒子になる。その後、冷却ガスにより、チャンバ16内で急冷されて1次微粒子15(亜酸化銅微粒子)が生成される。チャンバ16は、冷却槽としての機能も有する。
【0031】
上述のように、材料供給装置14には、例えば、銅化合物の粉末を粉末の形態で供給するもの、銅化合物の粉末をスラリーの形態で供給する2通りの方式のものを用いることができる。
気体供給装置28は、気体供給源28aと配管28bを有し、さらに、チャンバ16内に供給する後述の冷却ガスに押し出し圧力をかけるコンプレッサ、ブロア等の圧力付与手段(図示せず)を有する。また、気体供給源28aからのガス供給量を制御する圧力制御弁28cが設けられている。
【0032】
気体供給源28aには冷却ガスが貯蔵されている。冷却ガスとしては、例えば、上述のプラズマガスと同様に不活性ガスが用いられる。例えば、気体供給源28aには、窒素ガスが貯蔵される。
【0033】
気体供給装置28は、熱プラズマ炎24の尾部、すなわち、プラズマガス供給口12cと反対側の熱プラズマ炎24の端(熱プラズマ炎24の終端部)に向かって、所定の角度で、例えば、矢印Qの方向に、冷却ガスとして、例えば、窒素ガスを供給するとともに、チャンバ16の側壁に沿って上方から下方に向かって、すなわち、
図1に示す矢印Rの方向に冷却ガスを供給するものである。この冷却ガスの流量は、例えば、フロート式流量計を用いて制御することができる。冷却ガスの流量値とはこの流量計の目盛り値のことである。
【0034】
なお、気体供給装置28から供給される冷却ガスは、後に詳述するようにチャンバ16内で生成される亜酸化銅微粒子を急冷して、1次微粒子15とする作用以外にも、サイクロン19における1次微粒子15の分級に寄与する等の付加的作用を有する。
また、後述するように、本発明者は、冷却ガスで急冷しなくとも、ナノメートルオーダの亜酸化銅微粒子を製造することができることを確認している。このため、気体供給装置28を設ける必要は必ずしもない。
【0035】
材料供給装置14が粉末の形態で供給するものである場合、材料供給装置14からプラズマトーチ12内にキャリアガスとともに供給された銅化合物の粉末は、熱プラズマ炎24中で気相状態となる。気体供給装置28から熱プラズマ炎24に向かって矢印Qの方向に供給される窒素ガスにより急冷され、亜酸化銅の1次微粒子15が生成される。この際、矢印Rの方向に供給された窒素ガスにより、1次微粒子15のチャンバ16の内壁への付着が防止される。
【0036】
一方、材料供給装置14がスラリーの形態で供給するものである場合、材料供給装置14からプラズマトーチ12内に所定の流量の噴霧ガスを用いて供給された、銅化合物の粉末を含有する液滴化されたスラリーは、熱プラズマ炎24により、その中の銅化合物が還元されて亜酸化銅が生成される。そして、銅化合物の粉末から形成された亜酸化銅も、熱プラズマ炎24に向かって矢印Qの方向に供給される冷却ガスにより、この亜酸化銅はチャンバ16内で急冷され、亜酸化銅の1次微粒子15が生成される。この際、矢印Rの方向に供給されたアルゴンガスにより、1次微粒子15のチャンバ16の内壁への付着が防止される。
【0037】
図1に示すように、チャンバ16の側方下部には、生成された1次微粒子15を所望の粒径で分級するためのサイクロン19が設けられている。このサイクロン19は、チャンバ16から1次微粒子15を供給する入口管19aと、この入口管19aと接続され、サイクロン19の上部に位置する円筒形状の外筒19bと、この外筒19b下部から下側に向かって連続し、かつ、径が漸減する円錐台部19cと、この円錐台部19c下側に接続され、上述の所望の粒径以上の粒径を有する粗大粒子を回収する粗大粒子回収チャンバ19dと、後に詳述する回収部20に接続され、外筒19bに突設される内管19eとを備えている。
【0038】
チャンバ16内で生成された1次微粒子15は、サイクロン19の入口管19aから、チャンバ16内にて生成された1次微粒子15を含んだ気流が、外筒19b内周壁に沿って吹き込まれ、これにより、この気流が
図1中に矢印Tで示すように外筒19bの内周壁から円錐台部19c方向に向かって流れることで、下降する旋回流が形成される。
【0039】
そして、上述の下降する旋回流が反転し、上昇流になったとき、遠心力と抗力のバランスにより、粗大粒子は、上昇流にのることができず、円錐台部19c側面に沿って下降し、粗大粒子回収チャンバ19dで回収される。また、遠心力よりも抗力の影響をより受けた微粒子は、円錐台部19c内壁での上昇流とともに内管19eから系外に排出される。
【0040】
また、内管19eを通して、後に詳述する回収部20から負圧(吸引力)が生じるようになっている。そして、この負圧(吸引力)によって、上述の旋回する気流から分離した亜酸化銅微粒子が、符号Uで示すように吸引され、内管19eを通して回収部20に送られるようになっている。
【0041】
サイクロン19内の気流の出口である内管19eの延長上には、所望のナノメートルオーダの粒径を有する2次微粒子(亜酸化銅微粒子)18を回収する回収部20が設けられている。この回収部20は、回収室20aと、回収室20a内に設けられたフィルター20bと、回収室20a内下方に設けられた管を介して接続された真空ポンプ(図示せず)とを備えている。サイクロン19から送られた微粒子は、真空ポンプ(図示せず)で吸引されることにより、回収室20a内に引き込まれ、フィルター20bの表面で留まった状態にされて回収される。
【0042】
以下、上述の製造装置10を用いた亜酸化銅微粒子の製造方法、およびこの製造方法により生成された亜酸化銅微粒子について説明する。
本実施形態においては、材料供給に、例えば、銅化合物の粉末を粉末の形態で供給するもの、銅化合物の粉末をスラリーの形態で供給する2通りの方式を用いることができる。各材料供給方式による亜酸化銅微粒子の製造方法について説明する。
【0043】
まず、粉末の形態で供給する場合、銅化合物の粉末として、例えば、平均粒径が5μm以下の銅化合物の粉末を材料供給装置14に投入する。
プラズマガスに、例えば、窒素ガスを用いて、高周波発振用コイル12bに高周波電圧を印加し、プラズマトーチ12内に熱プラズマ炎24を発生させる。
また、気体供給装置28から熱プラズマ炎24の尾部、すなわち、熱プラズマ炎24の終端部に、矢印Qの方向に窒素ガスを供給する。このとき、矢印Rの方向にも窒素ガスを供給する。
次に、キャリアガスとして、例えば、アルゴンガスを用いて銅化合物の粉末を気体搬送し、供給管14aを介してプラズマトーチ12内の熱プラズマ炎24中に供給する。熱プラズマ炎24で銅化合物の粉末を蒸発させて気相状態にし、銅化合物が還元されて亜酸化銅微粒子になる。そのとき、チャンバ16内で冷却ガスにより亜酸化銅微粒子が窒素ガスで急冷されて酸化第二銅も生成が抑制され、1次微粒子15(亜酸化銅微粒子)が生成される。
【0044】
チャンバ16内で生成された1次微粒子15は、サイクロン19の入口管19aから、気流とともに外筒19bの内周壁に沿って吹き込まれ、これにより、この気流が
図1の矢印Tに示すように外筒19bの内周壁に沿って流れることにより、旋回流を形成して下降する。そして、上述の下降する旋回流が反転し、上昇流になったとき、遠心力と抗力のバランスにより、粗大粒子は、上昇流にのることができず、円錐台部19c側面に沿って下降し、粗大粒子回収チャンバ19dで回収される。また、遠心力よりも抗力の影響をより受けた微粒子は、円錐台部19c内壁での上昇流とともに内管19eから系外に排出される。
【0045】
排出された2次微粒子(亜酸化銅微粒子)18は、回収部20からの負圧(吸引力)によって、
図1中、符号Uに示す方向に吸引され、内管19eを通して回収部20に送られ、回収部20のフィルター20bで回収される。このときのサイクロン19内の内圧は、大気圧以下であることが好ましい。また、2次微粒子(亜酸化銅微粒子)18の粒径は、目的に応じて、ナノメートルオーダの任意の粒径が規定される。
このようにして、本実施形態においては、ナノメートルオーダの亜酸化銅微粒子を、銅化合物の粉末をプラズマ処理するだけで容易かつ確実に得ることができる。
また、亜酸化銅微粒子は、還元雰囲気で熱処理することにより容易に還元することができ、導電性を有する銅粉を得ることができる。このため、亜酸化銅微粒子は、そのままの形態で利用できるとともに、銅として利用することができる。
【0046】
本実施形態の亜酸化銅微粒子の製造方法により製造される亜酸化銅微粒子は、その粒度分布幅が狭い、すなわち、均一な粒径を有し、1μm以上の粗大粒子の混入が殆どなく、具体的には、その平均粒径が1〜100nm程度のナノメートルオーダの亜酸化銅微粒子である。
本発明の亜酸化銅微粒子は、粒子径が1〜100nmであり、粒子径をDpとし、結晶子径をDcとするとき、0.5Dp≦Dc≦0.8Dpである。ここで、粒子
径DpはBET法を用いて測定された平均粒径であり、結晶子径DcはX線回折法により求められた平均結晶子径である。
【0047】
なお、本発明の亜酸化銅微粒子の製造方法においては、使用するサイクロンの個数は、1つに限定されず、2つ以上でもよい。
生成直後の微粒子同士が衝突し、凝集体を形成することで粒径の不均一が生じると、品質低下の要因となる。しかしながら、熱プラズマ炎の尾部(終端部)に向かって矢印Qの方向に供給される冷却ガスが1次微粒子15を希釈することで、微粒子同士が衝突して凝集することが防止される。
【0048】
一方、チャンバ16の内側壁に沿って矢印R方向に供給される冷却ガスにより、1次微粒子15の回収の過程において、1次微粒子15のチャンバ16の内壁への付着が防止され、生成した1次微粒子15の収率が向上する。
【0049】
このようなことから、冷却ガスについては、1次微粒子15(亜酸化銅微粒子)が生成される過程において、得られた亜酸化銅微粒子を急冷するに十分な供給量が必要であるとともに、1次微粒子15を下流のサイクロン19で任意の分級点で分級できる流速が得られ、かつ、熱プラズマ炎24の安定を妨げない程度の量であることが好ましい。また、熱プラズマ炎24の安定を妨げない限り、冷却ガスの供給方法および供給位置等は、特に限定されない。本実施形態の微粒子製造装置10では、天板17に円周状のスリットを形成して冷却ガスを供給しているが、熱プラズマ炎24からサイクロン19までの経路上で、確実に気体を供給可能な方法または位置であれば、他の方法、位置でも構わない。
【0050】
ここで、本発明者は、銅化合物の粉末を、プラズマガスに窒素ガスを用いた熱プラズマ炎に供給することにより、
図2(a)に示すように、亜酸化銅(Cu
2O)単相が得られることを確認している。一方、プラズマガスに酸素ガスを用いた場合には、
図2(b)に示すように、酸化第二銅(CuO)と亜酸化銅(Cu
2O)との混相が得られた。
また、プラズマガスに酸素ガスを用いた場合、冷却ガスに空気または窒素ガスを用いても
図3(a)に示すように酸化第二銅(CuO)の単相が得られ、
図3(b)に示すように酸化第二銅(CuO)と亜酸化銅(Cu
2O)との混相が得られており、亜酸化銅(Cu
2O)単相を得ることができないことを確認している。
【0051】
さらに、本発明者が鋭意実験研究した結果、銅化合物の粉末を用いた亜酸化銅の生成の際、冷却ガスがなくとも亜酸化銅微粒子を生成できることを見出した。
この場合、生成された微粒子を、X線回折法を用いて分析したところ、
図4(a)、(b)に示すように、いずれも亜酸化銅(Cu
2O)の単相が得られている。X線回折法により得られた平均結晶子径は、
図4(a)で31nm、
図4(b)で26nmであった。
図4(a)、(b)のX線回折ピークを有する亜酸化銅微粒子(Cu
2O微粒子)は、
図5(a)、(b)に示すようなものであった。
図5(a)、(b)は、それぞれ
図4(a)、(b)に対応するものである。平均粒径については、
図4(a)、
図5(a)で51nm、
図4(b)、
図5(b)で36nmであった。平均粒
径はBET法を用いて測定したものである。
なお、平均結晶子径(Dcに相当)と平均粒径(Dpに相当)との比(Dc/Dpに相当)は、
図4(a)(
図5(a))で0.61、
図4(b)(
図5(b))で0.72であった。
【0052】
このように、冷却ガスがなくとも、ナノメートルオーダの亜酸化銅微粒子を製造することができる。このため、冷却ガスによる冷却は必ずしも必要がなく、上述の気体供給装置28を設ける必要も必ずしもない。
【0053】
次に、スラリーの形態で供給する場合について説明する。
この場合、例えば、平均粒径が5μm以下の銅化合物の粉末を用い、分散媒として、例えば、水を用いる。銅化合物の粉末と水との混合比を、質量比で5:5(50%:50%)として、スラリーを作製する。
【0054】
スラリーが、
図1に示す材料供給装置14の容器(図示せず)内に入れられ、攪拌機(図示せず)で攪拌される。これにより、水中の銅化合物の粉末が沈澱することを防止し、水中での銅化合物の粉末が分散された状態のスラリーが維持される。なお、材料供給装置14に銅化合物の粉末と水とを供給して連続的にスラリーを調製してもよい。
次に、前述の二流体ノズル機構(図示せず)を用いてスラリーを液滴化させ、液滴化されたスラリーを、プラズマトーチ12内に発生している熱プラズマ炎24中に所定の流量の噴霧ガスを用いて供給する。すると、銅化合物が還元されて亜酸化銅が生成される。
そのとき、亜酸化銅微粒子が、矢印Qの方向に供給される窒素ガスによって急冷されて、チャンバ16内で急冷されることにより、酸化第二銅も生成が抑制され、1次微粒子15が得られる。
なお、プラズマトーチ12内における圧力雰囲気は、大気圧以下であることが好ましい。ここで、大気圧以下の雰囲気については、特に限定されないが、例えば、660Pa〜100kPaとすることができる。
【0055】
本実施形態において、矢印Qの方向に供給される窒素ガスの量は、1次微粒子15が生成される過程において、この亜酸化銅微粒子を急冷するに十分な供給量であることが好ましい。より好ましくは、1次微粒子15を下流のサイクロン19で任意の分級点で分級できる流速が得られ、かつ熱プラズマ炎の安定を妨げない程度の量である。
【0056】
矢印Qの方向に供給される窒素ガスおよび矢印Rの方向に供給される窒素ガスの合計の量は、上記熱プラズマ炎中に供給する気体の200体積%〜5000体積%とするのがよい。ここで、上述の熱プラズマ炎中に供給する気体とは、熱プラズマ炎を形成するプラズマガス、プラズマ流を形成するためのセントラルガスおよび噴霧ガスを合わせたものである。
【0057】
最終的にチャンバ16内で生成された亜酸化銅の1次微粒子15は、上述の粉末の形態で作製したものと同様の過程を経る。
そして、上述の粉末の形態で作製したものと同様に、排出された2次微粒子(亜酸化銅微粒子)18は、回収部20からの負圧(吸引力)によって、符号Uで示す方向に吸引され、内管19eを通して回収部20に送られ、回収部20のフィルター20bで回収される。このときのサイクロン19内の内圧は、大気圧以下であることが好ましい。また、2次微粒子(亜酸化銅微粒子)18の粒径は、目的に応じてナノメートルオーダの任意の粒径が規定される。
スラリーの形態でも、粉末の形態と同じく、ナノメートルオーダの亜酸化銅微粒子を、銅化合物の粉末をプラズマ処理するだけで容易かつ確実に得ることができる。この場合でも、亜酸化銅微粒子は、還元雰囲気で熱処理することにより容易に還元することができ、導電性を有する銅粉を得ることができる。このため、亜酸化銅微粒子は、そのままの形態で利用できるとともに、銅として利用することができる。
【0058】
なお、本発明者は、以下に示すように、得られた亜酸化銅微粒子が、還元雰囲気で熱処理することにより還元できるか否かを確認している。
上述のように、銅化合物の粉末と熱プラズマ炎を用いて、下記表1に示す結晶相および粒
径を有するサンプルNo.2〜4を作製した。なお、比較のために安定した銅の酸化物である酸化第二銅単相の粉末を用意した(下記表1、サンプルNo.1「CuO単相」参照)。
サンプルNo.1〜4の各サンプルについて、示差熱分析計(TG−DTA)を用いて、N:H
2=96:4体積%の雰囲気で、昇温速度5℃/minで室温から300℃まで加熱した際の質量の変化を測定し、質量減少率(質量%)を測定した。室温から300℃まで加熱した際の質量の変化の測定結果を
図6に示す。
なお、結晶相はX線回折法を用いて測定し、粒
径はBET法を用いて測定した平均粒径である。
下記表1に示す還元開始温度とは、質量減少が確認された最も低い温度のことである。
【0059】
亜酸化銅を還元した場合、Cu
2O+H
2→2Cu+H
2Oとなり、質量減少率は計算値で11.2質量%である。
また、酸化第二銅を還元した場合、CuO+H
2→Cu+H
2Oとなり、質量減少率は計算値で20.1質量%である。
【0061】
上記表1のサンプルNo.2〜4に示すように、質量減少率はCu
2Oに関しては、いずれも上記計算値に近い値が得られており、本発明で得られた亜酸化銅微粒子を還元雰囲気で熱処理することにより、導電性を有する銅(Cu)が得られる。また、Cu
2O単相では粒径が小さい方が還元開始温度が低い。
なお、比較のためのサンプルNo.1についても、酸化第二銅微粒子を還元雰囲気で熱処理することにより、上記計算値に近い値が得られており、導電性を有する銅(Cu)が得られる。
【0062】
上述のサンプルNo.1〜4では質量減少率(質量%)を測定することで還元されて銅が得られるかを確認したが、これ以外にも還元雰囲気で熱処理することにより還元されて銅が得られるかを確認した。この場合、サンプルNo.4と同じサンプルの亜酸化銅微粒子を用い、上述のサンプルNo.1〜4では質量減少率(質量%)を測定した際と同じN:H
2=96:4体積%の雰囲気で、温度200℃にて2時間加熱した。
図7は、サンプルNo.4の亜酸化銅微粒子を加熱する前のX線回折法による分析結果と、サンプルNo.4の亜酸化銅微粒子を熱処理した後のX線回折法による分析結果を示す。これによると熱処理前はCuのピークはなく、全量がCu
2Oであったものが、熱処理後は、全量がCuになっており、Cu
2Oのピークがなくなっていることから、Cu
2Oの全量がCuに還元されたことがわかる。
【0063】
図8(a)は、熱処理する前のサンプルNo.4の粒子を示す図面代用写真であり、(b)は、温度200℃、2時間で熱処理した後のサンプルNo.4の粒子を示す図面代用写真である。
図8(a)は、熱処理前のNo.4の亜酸化銅微粒子を示すものであり、粒子同士が一次粒子に分かれている様子がわかる。このときのBET法による平均粒径は
50nmであった。
図8(b)は、熱処理後のNo.4の亜酸化銅微粒子を表すものであり、粒子同士が融着し大きな粒子になっていることがわかる。このときのBET法による平均粒径は150nmであった。
また、
図8(b)に示すように熱処理後に融着が起こっていることから、粒子同士の粒子界面での電気抵抗は十分小さいと考えられる。
【0064】
本発明の亜酸化銅微粒子は、例えば、船底塗料(防汚塗料)用の防腐剤、殺菌剤、農薬、触媒、整流器、および窯業関係の着色剤に用いることができる。
また、本発明の亜酸化銅微粒子は、太陽電池および発光素子等の各種デバイスに用いることもできる。
本発明の亜酸化銅微粒子は、還元処理して銅にすることができ、フレキシブル基板を含むプリント配線基板の配線、タッチパネルの配線およびフレキシブルな電子ペーパー等に利用することができる。
【0065】
また、本発明の亜酸化銅微粒子を、有機溶媒等に分散させた分散液を用いて、以下のようにして銅の導体膜を得ることもできる。この導体膜は、上記プリント配線基板の配線、タッチパネルの配線およびフレキシブルな電子ペーパー等に利用することができる。
【0066】
図9は、本発明の亜酸化銅微粒子を用いた導体膜の製造方法を示すフローチャートである。
上述の導体膜については、本発明の亜酸化銅微粒子を、有機溶媒等に分散させた分散液を作製する(ステップS10)。次に、上記有機溶媒等に分散させた分散液を樹脂フィルム、ガラス基板またはセラミック基板等の基板上に塗布し、その後乾燥させて塗膜を得る(ステップS12)。その後、還元雰囲気で塗膜を所定の温度で所定の時間加熱して還元させて(ステップS14)、銅の導体膜を得る(ステップS16)。このようにして、本発明の亜酸化銅微粒子を用いて、銅の導体膜を確実に製造することができる。
なお、導電性を向上させるため、還元処理した後(ステップS14)、所定の温度に加熱して酸化させ、その後、上述の還元処理を実施してもよい。上述の酸化処理および還元処理は、所定回数繰り返してもよい。
【0067】
上述の導体膜は、例えば、配線パターン状に形成される。また、導体膜は、少なくともプリント基板、タッチパネルおよびフレキシブル基板のうち、少なくとも1つに使用される。さらには、上述の導体膜は、MLCC(積層セラミックコンデンサ)等の電子部品の内部電極または外部電極に使用することもできる。
【0068】
さらには、電子材料用の銅粉の原料として用いることができる。この場合、例えば、導電ペースト、導電性塗料、銅めっき液に用いることができる。導電ペーストは、例えば、亜酸化銅微粒子を還元処理して得られた銅粉が用いられる。この導電ペーストは、例えば、積層セラミックコンデンサまたは積層セラミックインダクタ等の積層セラミック電子部品の内部電極および外部電極等の形成に用いられる。これ以外にも、導体膜および配線等の形成に、本発明の亜酸化銅微粒子を還元処理して得られた銅粉を用いた導電ペーストを用いることができる。
【0069】
本発明は、基本的に以上のように構成されるものである。以上、本発明の亜酸化銅微粒子の製造方法および亜酸化銅微粒子ならびに導体膜の製造方法について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良または変更をしてもよいのはもちろんである。