特許第6282655号(P6282655)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6282655
(24)【登録日】2018年2月2日
(45)【発行日】2018年2月21日
(54)【発明の名称】HIV中和抗体の同定方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/569 20060101AFI20180208BHJP
   C07K 16/10 20060101ALI20180208BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20180208BHJP
   C07K 16/00 20060101ALI20180208BHJP
   C07K 14/705 20060101ALI20180208BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20180208BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20180208BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20180208BHJP
   C12N 15/09 20060101ALI20180208BHJP
   C12N 5/0781 20100101ALI20180208BHJP
   C12P 21/08 20060101ALI20180208BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20180208BHJP
   G01N 33/543 20060101ALI20180208BHJP
   G01N 33/554 20060101ALI20180208BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20180208BHJP
   A61P 31/18 20060101ALI20180208BHJP
   C12N 1/15 20060101ALN20180208BHJP
【FI】
   G01N33/569 H
   C07K16/10ZNA
   C07K19/00
   C07K16/00
   C07K14/705
   C12N1/19
   C12N1/21
   C12N5/00 101
   C12N15/00 A
   C12N5/00 202K
   C12P21/08
   G01N33/53 N
   G01N33/53 K
   G01N33/53 L
   G01N33/543 597
   G01N33/554
   A61K39/395 B
   A61K39/395 D
   A61P31/18
   !C12N1/15
【請求項の数】19
【全頁数】30
(21)【出願番号】特願2015-530408(P2015-530408)
(86)(22)【出願日】2013年9月6日
(65)【公表番号】特表2015-530575(P2015-530575A)
(43)【公表日】2015年10月15日
(86)【国際出願番号】EP2013068446
(87)【国際公開番号】WO2014037490
(87)【国際公開日】20140313
【審査請求日】2016年8月29日
(31)【優先権主張番号】12382342.9
(32)【優先日】2012年9月6日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】500031124
【氏名又は名称】ラボラトリオス・デル・ドクトル・エステベ・ソシエダッド・アノニマ
(73)【特許権者】
【識別番号】513210116
【氏名又は名称】フンダシオ プリバダ インスティトゥト デ レセルカ デラ シダ−カイサ
【氏名又は名称原語表記】FUNDACIO PRIVADA INSTITUT DE RECERCA DE LA SIDA−CAIXA
(74)【代理人】
【識別番号】100094640
【弁理士】
【氏名又は名称】紺野 昭男
(74)【代理人】
【識別番号】100103447
【弁理士】
【氏名又は名称】井波 実
(74)【代理人】
【識別番号】100111730
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 武泰
(74)【代理人】
【識別番号】100180873
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 慶政
(72)【発明者】
【氏名】ブランコ アルブエス、フリアン ミゲル
(72)【発明者】
【氏名】カリリョ モリナ、ホルヘ
【審査官】 海野 佳子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第03/040311(WO,A2)
【文献】 国際公開第2011/146891(WO,A2)
【文献】 ABELA IRENE A.,THERAPEUTIC ANTIBODIES IN HIV TREATMENT - CLASSICAL APPROACHES TO NOVEL ADVANCES,CURRENT PHARMACEUTICAL DESIGN,2010年,V16 N33,P3754-3766
【文献】 MONTEFIORI DAVID C. et al.,Neutralizing antibodies against HIV-1: can we elicit them with vaccines and how much do we need?,CURRENT OPINION IN HIV AND AIDS,2009年 9月 1日,Vol.4,No.5,PP.347-351
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48−33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料におけるHIV中和抗体をインビトロで判定する方法であって、
(i)表面にgp120のCD4結合部位を含んでなる細胞を、前記試料と、さらに融合タンパク質であって、(i)gp120の前記CD4結合部位への結合能を有するタンパク質と(ii)一次抗体のFc領域とを含んでなる融合タンパク質と接触させ、
(ii)gp120のCD4結合部位に対する前記融合タンパク質の結合効力を測定することを含んでなり、
前記結合が前記試料の存在下で阻害される場合に、前記試料中にHIV中和抗体が存在すると判定することを特徴とする、方法。
【請求項2】
gp120の前記CD4結合部位への結合能を有するタンパク質が、CD4またその機能的に同等の変異体である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記CD4の機能的に同等の変異体が、少なくとも前記CD4のD1−D2N末端領域を含んでなるCD4断片である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記測定が、前記融合タンパク質に結合しているリポーターを用いることを含んでなるものである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記測定が、フローサイトメトリーにより前記細胞を分析することを含んでなるものである、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記リポーターが、検出可能部分に結合するFc特異的二次抗体である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記細胞がHIV感染細胞であり、前記HIV感染細胞が好ましくは慢性的に感染しているものである、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
工程(ii)より前に、未結合融合タンパク質を除去する少なくとも一つの洗浄工程をおこなう、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記測定が、定量的なものである、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記試料が、血漿試料である、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
(i)gp120の前記CD4結合部位への結合能を有するタンパク質と、(ii)マウスIgGのFc領域とを含んでなることを特徴とする、融合タンパク質。
【請求項12】
前記gp120の前記CD4結合部位への結合能を有するタンパク質が、CD4またはその機能的に同等の変異体である、請求項11に記載の融合タンパク質。
【請求項13】
前記CD4の機能的に同等の変異体が、少なくとも前記CD4のD1−D2 N末端領域を含んでなるその断片である、請求項12に記載の融合タンパク質。
【請求項14】
前記マウスIgGが、マウスIgGまたはその機能的に同等の変異体である、請求項11に記載の融合タンパク質。
【請求項15】
請求項11〜14のいずれか一項に記載の前記融合タンパク質をコードする核酸、または前記核酸を含んでなる発現カセット、ベクターもしくは遺伝子導入細胞。
【請求項16】
HIV中和抗体を発現する抗体産生細胞をインビトロで同定する方法であって、
(i)表面にgp120のCD4結合部位を含んでなる細胞を、前記抗体産生細胞の培養液の上清と、さらに融合タンパク質であって、(i)gp120の前記CD4結合部位への結合能を有するタンパク質と(ii)一次抗体のFc領域とを含んでなる融合タンパク質と接触させて、
(ii)gp120のCD4結合部位に対する前記融合タンパク質の結合効力を測定することを含んでなり、
前記結合が前記上清の存在下で阻害される場合、前記抗体産生細胞がHIV中和抗体を発現するものとして判定することを特徴とする、方法。
【請求項17】
前記抗体産生細胞が、B細胞またはハイブリドーマ細胞である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記中和抗体を発現する細胞をクローニングすることをさらに含んでなる、請求項16または17に記載の方法。
【請求項19】
HIV中和抗体の産生方法であって、
(i)請求項1618のいずれかの方法にしたがって単離した抗体産生細胞を培養し、
(ii)前記抗体産生細胞により発現された前記抗体を単離することを含んでなる、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料中のHIV中和抗体のインビトロ同定方法に関する。また、本発明は、前記方法に使用される融合タンパク質および前記融合タンパク質をコードする核酸に関する。
【背景技術】
【0002】
感染過程中、生物は、異なる病原性抗原に対して広範な体液性応答を示し、先天的T細胞応答とともに、感染を制御し、生物の一体性を保持する。HIV−1感染の状態において、この体液性応答は感染中の初期に検出されることがあるが、効果がない。この理由は、主にほとんどの患者により産生される抗体が、ウイルスの複製サイクルを妨げることができないウイルス性エピトープを認識するからである。Tomaras G等、J.Virol.2008;82:12449−12463参照。実際に、自己ウイルスを中和する能力を有する抗体は、一部の患者において数カ月後にしか同定することができず、広域中和抗体(bnAbs)を生じさせるためには数年を必要とする。Mascola J等、Annu.Rev.Immunol.2010;28:413−444参照。今まで、数種の広域中和抗体が同定され、それらの全てが、ウイルス適応性において重要な役割を有するエンベロープタンパク質において一連の保存エピトープを認識する。これらの抗体には、抗CD4結合部位(CD4bs)抗体(IgGb12およびVCR01)、抗CD4誘発エピトープ抗体(X5)、抗gp41抗体(2F5および4E10)、抗炭水化物(2G12)、抗グリコシル化第四エピトープ(PG9およびPG16)およびコア抗体などが挙げられる。Barbas C等、Proc.Natl.Acad.Sci USA1992;89:9339−9343、Wu X等、Science 2010;329:856−861、Moulard M等、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 2002;99:6913−6918、Muster T等、J.Virol.1993;67:6642−6647、Zwick M等、J.Virol.2001;75:10892−10905、Scanlan C等、J.Virol.2002;76:7306−7321、Walker L等、Science 2009;326:285−289およびPietzsch J等、J.Exp.Med.2010;207:1995−2002参照。それらのうち、抗CD4bs抗体などのgp120/CD4の相互作用を遮断することができる抗体は、いくつかの理由で注目されている:1)gp120の保存領域を認識する、2)多数のウイルス単離株を中和でき、3)HIV−1感染の動物モデルにおいて示されたように、感染を予防または抑制することができる。Hessell A等、Nat.Med.2009;15:951−954、 Hessell A等、Nature 2007;449:101−104およびVeazey R等、Nat.Med.2003;9:343−346参照。したがって、この種のbnAbsの誘発は、ワクチン接種指針について興味深い目標である。しかしながら、これらの抗体の検討における主要な障害の一つは、それらの同定にある。一般的に、広域中和抗体および特にCD4bs抗体は、インビトロで再現することが困難である立体構造エピトープを認識する。今まで、これらの抗体により異なって認識される組み換えタンパク質と突然変異体を使用することを含む、いくかの方法にしたがってCD4bs抗体の検討がおこなわれた。Li Y等、Nat.Med.2007;13:1032−1034およびLynch R等、J.Virol.2012;86(4):7588−7595および上記Wu、2010参照。さらに、細胞間ウイルス転移アッセイが最近開発された。このアッセイでは、血漿試料中のCD4/gp120遮断抗体の存在を検出することができる。このアッセイは、CD4bsまたは抗CD4抗体のようなgp120/CD4相互作用を遮断する抗体の存在下で完全に阻害されるウイルス進入プロセスに基づいている。定義によれば、gp120とCD4受容体との間の相互作用を遮断することができるいずれの抗体も、中和抗体であろう。さらに、この手法では、gp120/CD4遮断抗体の存在と血漿の中和能との間に強い相関関係が示された。Sanchez−Palomino S等、Vaccine2011;29:5250−5259参照。より最近では、HIV−1感染患者の80%超がCD4bs抗体を生じることから、この反応性は上記したよりも反応頻度が高いであろうことが示された。上記Lynch、2012参照。
【0003】
しかしながら、この場合において、これらの抗体の存在と血漿試料の中和能との間には明確な相関がない。これらの矛盾から、gp120/CD4遮断抗体の分析を計画する前に考慮すべき重要な問題が方法にあることが明らかである。HIV中和抗体を同定するためにより迅速で信頼性のある方法が当該技術分野において必要とされている。
【発明の概要】
【0004】
第一の態様によれば、本発明は、試料におけるHIV中和抗体をインビトロで判定する方法であって、
(i)表面にgp120のCD4結合部位を含んでなる細胞を、前記試料と、そして融合タンパク質であって、(i)gp120の前記CD4結合部位への結合能を有するタンパク質と(ii)一次抗体のFc領域とを含んでなる融合タンパク質と接触させ、
(ii)gp120のCD4結合部位に対する前記融合タンパク質の結合効力を測定することを含んでなり、
前記結合が前記試料の存在下で阻害される場合に、試料中にHIV中和抗体が存在すると判定することを特徴とする方法に関する。
【0005】
第二の態様によれば、本発明は、(i)gp120の前記CD4結合部位への結合能を有するタンパク質と(ii)一次抗体のFc領域とを含んでなる融合タンパク質に関する。
【0006】
第三の態様によれば、本発明は、前記第二の態様の融合タンパク質をコードする核酸、および前記核酸を含んでなる発現カセットまたはベクターに関する。
【0007】
第四の態様によれば、本発明はキットに関し、当該キットは、(i)前記第二の態様の融合タンパク質、前記第三の態様の核酸、ベクターまたは遺伝子導入細胞と、(ii)前記融合タンパク質に結合できるリポーターとを含んでなる。
【0008】
別の態様によれば、本発明は、抗体産生細胞発現HIV中和抗体をインビトロで同定する方法であって、
(i)表面にgp120のCD4結合部位を含んでなる細胞を、前記抗体産生細胞の培養液の上清と、さらに融合タンパク質であって、(i)gp120の前記CD4結合部位への結合能を有するタンパク質と(ii)一次抗体のFc領域とを含んでなる融合タンパク質と接触させ、
(ii)gp120のCD4結合部位に対する前記融合タンパク質の結合効力を測定することを含んでなり、
前記結合が前記上清の存在下で阻害される場合、前記抗体産生細胞がHIV中和抗体を発現するものと判定することを特徴とする方法に関する。
【0009】
さらに別の態様によれば、本発明は、HIV中和抗体の産生方法であって、
(i)本発明の方法にしたがって単離した抗体産生細胞を培養し、
(ii)前記抗体産生細胞により発現された前記抗体を単離すること
を含んでなることを特徴とする方法に関する。
【0010】
さらに別の態様によれば、本発明は、HIV感染と関連した疾病の治療または予防に使用するための、本発明による方法を用いて産生されたHIV中和抗体、または本発明にる方法により同定された細胞により産生されたHIV中和抗体に関する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1-1】発現プラスミドpcDNA3.1huCD4mIgG1の図である。選択可能なマーカーとオープンリーディングフレームなどのプラスミドの主要特性を示す。図面を描くのに、PlasMapperプログラム(http://wishart.biology.ualberta.ca/PlasMapper/August 2012)を使用した。
図1-2】図1−1参照
図2】huCD4mIgG1融合タンパク質を含有するHEK293上清の滴定。A)プラスミドpcDNA3.1huCD4mIgG1を導入したHEK293細胞株の上清を使用して、慢性的に感染したMOLT細胞株におけるNL4.3を染色した。細胞表面上でgp120に結合したhuCD4mIgG1タンパク質を、DyLight−649複合ヤギ抗マウスIgGを用いて同定した。非感染MOLT細胞株を、陰性対照として使用した。B)NL4.3MOLT細胞株を染色するのに使用した上清の滴定。
図3】CD4bs−bNAbIgGb12のCD4/gp120遮断活性。48μg/mLで開始してIgGb12抗体のCD4/gp120遮断活性を滴定により求めた。CD4とgp120との間の相互作用を遮断するIgGb12の作用の機構の概略図である。
図4】抗体の特異性とCD4−gp120遮断活性との間の関係。CD4−gp120遮断活性に関与する特異性を、Env糖タンパク質における既知の一連のエピトースを認識した数種の抗体を利用することによりアッセイした。gp120(IgGb12、VRC01およびVRC03)またはCD4(Leu3a)におけるgp120bsにおけるdeCD4bsを認識した抗体のみが、gp120とCD4との間の相互作用を遮断し、アッセイはこの種の反応性に非常に特異的であった。
図5】血漿試料におけるgp120/CD4遮断抗体の定量化。血漿試料におけるIgGb12などのCD4/gp120遮断抗体の存在を確認するために、CD4/gp120遮断活性をフローサイトメトリーにより求めた。IgGb12を用いた標準曲線を用いて存在するCD4/gp120遮断抗体を定量化した。広範な中和血漿(bN血漿)が、非bN血漿よりも、CD4−gp120遮断抗体が多く存在した。
図6】ARTナイーブHIV−1感染患者(HIV−1)および非感染対照個体(HC)の血漿試料におけるCD4/gp120遮断抗体の定量化。CD4/gp120遮断抗体の存在について、HIV−1感染患者(赤丸)から得た72個の血漿試料および10個の非感染対照(青四角)で試験した。データは、CD4/gp120阻害率(%)を示す。陽性カットオフとして、非感染対照個体の中央値+2倍標準偏差を固定した。この陽性基準(破線)に準じて、HIV−1試料の43%(72個のうち31個)および非感染対照の10%(10個のうち1個)が、陽性として考えられた(p=0.0034、Mann−Whitney試験)。
図7】HIV−1分離株BaLを用いたARTナイーブHIV−1感染患者(HIV−1)および非感染対照個体(HC)の血漿試料におけるCD4/gp120遮断抗体の定量化。7.A)CD4/gp120遮断抗体の存在について、HIV−1感染患者から得た72個の血漿試料(赤丸)および9個の非感染対照(青四角)で試験した。データは、CD4/gp120阻害率(%)を示す。陽性カットオフとして、非感染対照個体の中央値+2倍標準偏差を固定した。この陽性基準(破線)に準じて、HIV−1試料の97%(72個のうち70個)および非感染対照の0%が、陽性として考えられた(p=0.0034、Mann−Whitney試験)。7.B)各血漿試料について得られたNL4−3とBaL分離株の両方に対するhuCD4mIgG1の結合の阻害率(%)は、強い相関関係を示した(p<0.0001、Pearson相関試験)。
【0012】
微生物の寄託
プラスミドpcDNA3.1huCD4mIgG1は、2012年7月25日に、ドイツ連邦共和国にあるDSMZ(Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH)、Inhoffenstrasse 7 B、 D−38124 Braunschweigに、受託番号DSM26215のもと寄託された。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、試料中のHIV中和抗体の同定および半定量化のためのアッセイに関する。この試験は、その詳細が本明細書に記載されている種々の設定で同等に実施することができるが、huCD4/マウスIgG1融合タンパク質によりHIV感染細胞の表面上のEnv糖タンパク質の認識に基づいている。感染細胞の表面上でhuCD4/IgG1融合タンパク質がgp120に結合するのを妨げる場合に、抗体は中和されていると考える。この新規な手法にはいくつかの利点がある:すなわち、1)HIV感染細胞は、それらの表面上で、機能的且つ天然の配座を有するEnv糖タンパク質を発現し、2)huCD4/マウスIgG1融合タンパク質を使用すると、gp120とCD4との間の自然の相互作用に似た作用を示し、3)サイトメトリー様式により、このアッセイが再現可能且つ時間がかからなくなり、4)半定量的であり且つ非常に特異的である。
【0014】
1.一般用語および表現の定義
本明細書において使用される用語「抗体産生細胞」は、抗体またはその機能的同等物を産生または分泌することができる細胞、または抗体またはその機能的同等物を産生または分泌できる細胞になることができるものを指す。本明細書による抗体産生細胞は、好ましくは商業的な抗体産生に適応する産生細胞である。より好ましくは、前記産生細胞は、ヒトに使用される抗体を産生するのに好適である。
【0015】
本明細書において使用される用語「B細胞」は、液性免疫応答において大きな役割を果たす(T細胞により支配されている細胞介在免疫応答とは異なり)一種のリンパ球を指す。B細胞の主要機能は、抗原に対して抗体を作り、抗原提示細胞(APC)の役割を果たし、抗原相互作用による活性化後に最終的に記憶B細胞となることである。B細胞は、適応免疫系の必須成分である。
【0016】
本明細書において使用される用語「結合効力(binding efficacy)」は、gp120のCD4結合部位に対する化合物、好ましくは抗体の親和性を指す。「親和性」は、前記化合物がgp120のCD4結合部位に結合する強さを意味する。親和性は、アミノ酸の反対電荷の引力のようなイオン性相互作用、水素結合または疎水性相互作用のような非共有相互作用により求めることができる。本明細書において使用される用語「結合」または「特異的結合」は、結合対(例えば、二種のタンパク質または化合物、好ましくはgp120およびCD4のCD4結合領域または化合物、好ましくはこの結合部位に特異的な抗体)間の相互作用を指す。ある実施態様によれば、相互作用の親和定数は、最大で10−6モル/リットル、最大で10−7モル/リットルまたは最大で10−8モル/リットルである。一般的に、表現「結合」または「特異的結合」は、一つの化合物の別の化合物に対する特異的結合であって、標準的アッセイにより測定した結合レベルが、アッセイのバックグラウンド対照よりも統計的に有意に高いものを指す。
【0017】
本明細書において使用される用語「CD4」は、分化クラスター4、Tヘルパー細胞、単球、マクロファージおよび樹枝状細胞の表面上に発現された糖タンパク質を指す。CD4は、抗原提示細胞でT細胞受容体(TCR)を支援する共受容体である。T細胞内部にあるその部分を用いて、CD4は、活性化T細胞のシグナル伝達カスケードに関与する数多くの分子を活性化するのに必須であるチロシンキナーゼlckとして知られている、酵素を採用することによりTCRにより生成されるシグナルを増幅する。ヒトCD4の完全タンパク質配列は、UniProt受託番号P01730(2012年6月18日)で寄託されている。
【0018】
本明細書において使用される用語「コドンの最適化」は、DNAによりコードされているポリペプチドを変更することなく宿主生物の典型的なコドンの使用を反映して発現を向上させるための、核酸分子におけるコドンの変更を指す。コドンの最適化について、当該技術分野において知られているいくつかの方法およびソフトウエアツールがある。Narum D等、Infect. Immun.2001;69(12):7250−7253)、Outchkourov N等、Protein Expr.Purif.2002; 24(1):18−24、Feng L等、Biochemistry2000;39(50):15399−15409およびHumphreys D等、 Protein Expr. Purif.2000;20(2):252−264参照。
【0019】
本明細書において使用される用語「含んでなる(comprisingまたはcomprises)」は、一般的に受けいれられている特許実務にしたがって、「からなる(consisting of)」も含む。
【0020】
本明細書において使用されている用語「FACS」または「蛍光活性化セルソーティング」は、各細胞の特異的光散乱および蛍光特性に基づいて、細胞の不均一混合物を、一度に一つずつ、一つ以上の容器にソートする方法を指す。
【0021】
本明細書において使用される用語「断片結晶性領域」または「Fc領域」は、Fc受容体と称される細胞表面受容体および補体系のタンパク質の一部と相互作用する抗体のテール領域を指す。
【0022】
本明細書において使用される用語「融合タンパク質」は、種々のタンパク質に由来する2つ以上の機能ドメインからなる遺伝子技術により生成されるタンパク質を指す。融合タンパク質は、従来の手段(例えば、好適な細胞における前記融合タンパク質をコードするヌクレオチド配列の遺伝子発現)により得られることができる。
【0023】
本明細書において使用される用語「gp120」は、抗原特異性またはHIVの外エンベロープタンパク質(env)の生物学的機能を有する糖タンパク質を指す。「gp120タンパク質」は、Envポリペプチドのgp120領域由来の分子である。成熟gp120野生型ポリペプチドは、それらの一次配列に約500のアミノ酸を有している。Gp120は、高N−グリコシル化されていて、見掛け分子量が120kDである。gp120のアミノ酸配列は、約511アミノ酸である。Gpl20は、5つの可変領域(Vl−V5)が組み入れられている5つの相対的に保存された領域(C1−C5)を含む。可変領域は、広範囲なアミノ酸置換、挿入および欠失を含んでいる。「gpl20ポリペプチド」は、単一サブユニットとマルチマーの両方を含む。gp41部はビリオンの膜二重層に固定され(および広がっており)、一方、gpl20セグメントは、包囲環境に突き出ている。gp120の受容体結合領域は、タンパク質のN−末端半分に局在化されている。このあとには、ヒンジとしてか、融合機構へのコミュニケート受容体結合の引き金として作用すると思われるプロリンリッチ領域(PRR)が続いている。gp120のC末端は高度に保存され、gp41と相互作用する。wtgp160ポリペプチドの典型的な配列が得られる。GenBankの受入番号AAB05604およびAAD12142参照。好ましくは、gp120ポリペプチドはHIVEnv由来である。
【0024】
さらに、本明細書において定義される「gp120ポリペプチド」は、本明細書において記載される正確な配列を有するポリペプチドには限定されない。実際に、HIVゲノムは、つねに変化しており、分離株間の比較的高度の可変性を示すいくつかの可変ドメインを含む。これらの用語は、同定されたHIV分離株、さらに新たに同定された分離株ならびにこれらの分離株のサブタイプのいずれかからのgp120ポリペプチドを含むことがすぐにわかる。構造的な特徴は、HXB−2を引用することにより本明細書において説明する。ここでの開示および技術の教示を考慮して当業者は、他のHIV変異株(例えば、分離株HIVIlIb、HIVSF2、HIV−1SF162、HIV−1SF170、HIVLAV、HIVLAI、HIVMN、HIV−1CM235、HIV−1US4、多様なサブタイプからの他のHIV株(例えば、サブタイプA〜GおよびO)、HIV−2株および多様なサブタイプ(例えば、HIV−2UC1およびHIV−2UC2)ならびにサル免疫不全ウイルス(SIV)における対応する領域を決定することができる。Joklik W、Ed.「Virology」、3rd Ed.(Lippincott−Raven Publishers、Philadelphia、PA、US、1988)、Fields B、等、Eds.、「Fundamental Virology」、3rd Ed.(Raven Press、New York、NY、US、1995)、およびKnipe D等、Eds.、Fields Virology、 5th Ed.(Lippincott Williams&Wilkins、New York、NY、US、2006)参照。配列比較プログラム(例えば、本明細書において説明されているBLAST等)または構造特性プログラムの同定およびアライメント(βシート領域を同定するための「ALB」プログラム等)は、未変性および変性Envポリペプチド配列の配列を比較するのに使用することができる。変性Envポリペプチドの実際のアミノ酸配列は、いずれかのHIV変異株に基づくものであることができる。さらに、用語gp120ポリペプチドは、さらなる内部欠失、付加および置換などの未変性配列に対するさらなる変性を含むタンパク質を含む。これらの変性は、部位特異的突然変異誘発法のように意図的であってもよいし、または自然発生突然変異事象を介するように偶然であってもよい。
【0025】
本明細書において使用される用語「HIV」は、ヒト免疫不全ウイルスを指す。これには、HIV−1、HIV−2およびSIVを含み、好ましくはHIV−1および/またはHIV−2に関する。「HIV−1」は、ヒト免疫不全ウイルス(1型)を意味する。HIV−1は、細胞外ウイルス粒子およびHIV−1感染細胞に関連するHIV−1の形態を含むが、これらには限定されない。HIV−1ウイルスは、既知の主要なサブタイプ(クラスA、B、C、D、E、F、GおよびH)または実験室株および一次分離株を含む範囲外のサブタイプ(グループO)を表す。「HIV−2」は、ヒト免疫不全ウイルス(2型)を意味する。HIV−2は、細胞外ウイルス粒子およびHIV−2感染細胞に関連するHIV−2の形態を含むが、これらには限定されない。用語「SIV」は、サル、チンパンジーおよび他の非ヒト霊長類を感染するHIV様ウイルスであるサル免疫不全ウイルスを指す。SIVは、細胞外ウイルス粒子およびSIV感染細胞に関連するSIVの形態を含むが、これらには限定されない。
【0026】
2つ以上の核酸またはポリペプチドに関連して用語「同一の」またはパーセント「一致度」は、配列一致度の一部分としてのいずれの保存アミノ酸配列置換を考慮せず、最大一致について、比較し整列(必要に応じてギャップを導入する)したときに、同じであるか、または同じである特定の割合のヌクレオチドまたはアミノ酸残基を有する2つ以上の配列またはサブ配列を指す。一致度%は、配列比較ソフトウエアまたはアルゴリズムを用いるか、または目視検査により測定できる。アミノ酸またはヌクレオチド配列の整列を得るのに使用することができる種々のアルゴリズムとソフトウエアは、当該技術分野において知られている。配列類似性を決定するのに好適なアルゴリズムとしては、例えば、BLAST、Gapped BLAST、およびBLAST 2.0、WU−BLAST−2、ALIGN、およびALIGN−2 アルゴリズムなどがあげられるが、これらには限定されない。Altschul S等、Nuc.Acids Res.1977;25:3389−3402、Altschul S等、J.Mol.Biol.1990;215:403−410、Altschul S等、Meth.Enzymol.1996;266:460−480、Karlin S等、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 1990;87:2264−2268、Karlin S等、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 1993;90:5873−5877、Genentech Corp、South San Francisco、CA、US、http://blast.ncbi.nlm.nih.gov/blast/、August 2012参照。比較のための配列整列方法は、当該技術分野において周知である。比較のための配列の最適整列は、例えば、Smith−Waterman局部相同性アルゴリズム、Needleman−Wunsch相同性整列アルゴリズム、Pearson−Lipman類似性サーチ法、これらのアルゴリズムのコンピュータによる実行、または手動整列および目視検査によりおこなうことができる。Smith T等、Adv.Appl.Math.1981;2:482−489、Needleman S等、J.Mol.Biol.1970;48:443−453、Pearson W等、Lipman D、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 1988;85:2444−2448、GAP、BESTFIT、FASTAおよびTFASTAプログラム、Wisconsin Genetics SoftwarePackage、Genetics Computer Group、Madison、WI、USA;Ausubel F等、Eds、「Short Protocols in Molecular Biology」,5th Ed.(John WileyおよびSons,Inc.,New York,NY,US,2002)参照。
【0027】
本明細書において使用される用語「ハイブリドーマ」は、2つの細胞、B細胞などの免疫系からの抗体分泌細胞、および骨髄腫などの不死化細胞を単一膜内で融合することにより作成される細胞を指す。
【0028】
本明細書において使用される用語「キット」は、輸送および貯蔵できるようにパックした本発明の方法を実施するのに必要な種々の試薬を含む製品を指す。キットのコンポーネントをパックするのに好適な材料は、結晶、プラスチック(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート)、瓶、バイアル、紙または封筒などがある。本発明のキットは、さらにそこに含まれているコンポーネントを使用するための取扱い説明書を含む。
【0029】
本明細書において使用される用語「既知のHIV中和抗体」は、当該技術分野において知られているHIV中和抗体を指す。好ましくは、既知のHIV中和抗体は、IgGb12、VRC01、VRC03、VRC−PG04、3BNC60、HJ16、3BNC117、NIH45−46、8ANC131および12A12からなる群から選択されたものである。Waker L等、Nature2011;477(7365):466−470およびScheid J等、Science2011;33(6049):1633−1637参照。他のHIV中和抗体として、2F5、4E10、PG9、PG16 および2G12などが挙げられるが、これらには限定されるものではない。
【0030】
本明細書において使用される用語「中和抗体」は、病原体に結合し、病原体が対象において細胞を感染するか、または疾病を生じる能力を妨害する、抗体またはその抗原結合断片である。典型的には、本発明の方法において使用される中和抗体は、病原体の表面に結合し、病原体による感染を、前記抗体の不存在下または陰性対照の存在下での病原体による感染に対して、少なくとも99%、95%、90%、85%、80%、75%、70%、60%、50%、 45%、40%、35%、30%、25%、20%または10%阻害または減少することができる。抗体がnAbであるかどうかを確認する方法は、当該技術分野において説明されてきた。Li M等、J.Virol.2005;79:10108−10125、Wei X等、Nature2003;422:307−312およびMontefiori D、Curr.Protoc.Immunol.2005;Jan、Chapter12:Unit12.11参照。これらの方法は、レポーター遺伝子をコードするウイルスを用いた受容細胞株を用いた一回のウイルス感染後のレポーター遺伝子の発現の減少の測定に基づいている。本発明に関連して、この抗原は、好ましくはgp120であり、この感染体は好ましくはHIVである。特に、用語「HIV中和抗体」は、gp120のCD4結合部位に対する親和性を有する抗体を指す。用語「中和抗体」は、サブクラスのbnAbを含む。本明細書において使用される用語「広域中和抗体」または「bnAb」は、有効投与量で供給されたとき、7を超えるHIV株、好ましくは8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20またはそれ以上のHIV株に対するHIV感染またはAIDSの予防または治療のための治療剤として使用できるいずれかの方法により得られる抗体として理解される。抗体の中和能は、IC50(すなわち、標的細胞の感染が50%減少する抗体濃度)により特徴付けられる。好ましくは、本明細書において使用される中和抗体は、IC50が2μg/ml以下(0.15μg/mL未満、0.125μg/mL未満、0.10μg/mL未満、0.075μg/mL未満、0.05μg/mL未満、0.025μg/mL未満、0.02μg/mL未満、0.015μg/mL未満、0.0125μg/mL未満、0.01μg/mL未満、0.0075μg/mL未満、0.005μg/mL未満または0.004μg/mL未満(抗体濃度10−8以下、好ましくは10−9M以下、好ましくは10−10M以下、すなわち、10−11M、10−12M、10−13M以下)である。このことは、インビトロでHIVの臨床分離株の50%を中和するには極低抗体濃度しか必要されないことを意味する。効力は、当該技術分野において説明されている標準中和アッセイを用いて測定でききる。
【0031】
本明細書において使用される用語「動作可能に連結された」は、意図するヌクレオチド配列は、ヌクレオチド配列の発現を可能にするように調節配列に連結されている(例えば、インビトロ転写系においてか、またはベクターを宿主細胞に導入するときには宿主細胞に)を意味する。Auer H,Nature Biotechnol.2006;24:41−43参照。
【0032】
本明細書において使用される用語「ポリヌクレオチド」および「核酸」は、いずれかの長さであり、そしてリボヌクレオチドまたはデオキシリボヌクレオチドにより形成される、高分子形態のヌクレオチドを指す。この用語は、一本鎖と二本鎖の両方のポリヌクレオチド、および修飾ポリヌクレオチド(例えば、メチル化、保護など)を含む。
【0033】
本明細書において使用される用語「予防する」、「予防をする」および「予防」は、対象における疾病の開始の阻害または発生を減少させることを指す。予防は、完全であってもよく(例えば、対象において病的細胞が全く存在しない)、または部分的であってもよい。また、予防は、病態に対する感受性の減少を指す。
【0034】
本明細書において使用される用語「一次抗体」および「二次抗体」は、一般的に、意図する標的を直接対象とするか、または別の(一次)抗体を対象とし続いて意図する標的に結合するかに基づく2つの抗体群を指す。本発明に関連して、一次抗体は、Fc領域のみが使用されるので標的を対象とせず、gp120のCD4結合部位への結合能を有するタンパク質に融合する。二次抗体は、Fc領域を対象とする。
【0035】
本明細書において使用される用語「試料」は、いずれかの試料、好ましくは抗体を含むことができる生物試料を指す。例えば、細胞培養(例えば、B細胞、特にB細胞ハイブリドーマの培養)の上清であることができる。また、対象から採取された試料であることができる。本発明で使用するための対象から採取される好適な試料としては、いずれかの生体液、特に血液、血清、血漿、リンパ液、唾液、抹消血細胞または組織細胞血清、唾液、精液、痰、頭脊柱液(CRL)、涙、粘液、汗、ミルクまたは脳抽出物などがある。身体組織は、胸腺、リンパ節、脾臓、骨髄または扁桃組織を含んでなる。好ましい試料は、血漿または血清である。用語「対照試料」は、gp120のCD4結合部位に結合するいずれの化合物も含んでいない試料を指す。
【0036】
本明細書において使用される用語「対象(subject)」は、動物、特にヒト、非ヒト霊長類(例えば、チンパンジーおよび他の類人猿およびサル種)などの脊椎動物;鳥、魚、ウシ、ヒツジ、ブタ、ヤギおよびウマなどの家畜;イヌおよびネコなどの家畜哺乳類;マウス、ネズミおよびモルモットなどの齧歯動物を含む実験動物を指す。この用語は、特定の年齢や性別を意味しない。用語「対象」は、胚および胎児を含む。
【0037】
本明細書において使用される用語「表面」は、細胞の外膜を指し、「その表面上」は、表面または膜に組み込まれるかまたは付着していることを意味することがある。いずれの場合においても、gp120のCD4結合部位は細胞の外側であり、結合が生じるように暴露している。
【0038】
本明細書において使用される用語「治療する」または「治療」は、臨床症状があらわれた後の疾病の進行を抑制するために、本発明の化合物またはそれを含有する組成物もしくは薬剤を投与することを指す。疾病の進行の抑制は、症状の減少、疾病期間の減少、病的状態の安定化(具体的には、さらなる悪化の回避)、疾病の進行の遅延、病的状態の改善および寛解(部分的および全体)を含むがこれらには限定されない有益なまたは所望の臨床結果を意味する。また、疾病の進行の抑制は、治療がおこなわれなった場合の予測生存率と比較して、生存が延長されることも含む。
【0039】
本明細書において使用される用語「ベクター」は、意図する宿主細胞における自己複製を提供するさらなるセグメントに動作可能に連結した意図する核酸に準じるか、または意図する発現カセットに準じるセグメントを含んでなる、直鎖または環状核酸分子を指す。
【0040】
2.試料中のHIV中和抗体を測定する方法
第一の態様によれば、本発明は、試料におけるHIV中和抗体をインビトロで判定する方法であって、
a)表面にgp120のCD4結合部位を含んでなる細胞を、前記試料と、そして融合タンパク質であって、(i)gp120の前記CD4結合部位への結合能を有するタンパク質と(ii)一次抗体のFc領域とを含んでなる融合タンパク質と接触させ、
b)gp120のCD4結合部位に対する前記融合タンパク質の結合効力を測定することを含んでなり、
前記結合効力がいずれかの中和抗体の不存在下で測定される結合効力よりも低い場合に、前記試料中にHIV中和抗体が存在すると判定することを特徴とする方法である。
【0041】
第一工程において、試料におけるHIV中和抗体を測定する方法は、表面にgp120のCD4結合部位を含んでなる細胞と、前記試料および(i)gp120の前記CD4結合部位への結合能を有するタンパク質と(ii)一次抗体のFc領域とを含んでなる融合タンパク質とを接触させることを含んでなる。
【0042】
好ましい実施態様によれば、試料は、細胞培養、例えば、B細胞、特にB細胞ハイブリドーマの培養の上清であることができる。また、対象から採取された試料であることができる。より好ましい実施態様によれば、試料は、血漿試料または血清試料である。
【0043】
接触は、少なくとも細胞、試料および融合タンパク質を暴露することにより実施される。好ましい実施態様によれば、暴露は長時間(すなわち、細胞が生存するため、およびgp120のCD4結合部位および本発明の融合タンパク質の特異的結合に好適な条件下でのインキュベーション)であることができる。接触工程中の条件は、当業者が通常適宜決定できる。接触工程で使用できる好適な緩衝剤には、おこなうアッセイを妨害しない生理緩衝剤などがある。例えば、トリスまたはトリエタノールアミン(TEA)緩衝剤を用いることができる。緩衝剤(および緩衝液などの得られる溶解試薬)のpHは、約2.0〜約10.0、必要に応じて約4.0〜約9.0、好ましくは約7.0〜約8.5、さらにより好ましくは約7.5〜約8.0、または約7.0、約7.5、約8.0または約8.5であることができる。典型的な「接触」条件は、15分〜4時間(4℃、37℃または室温で1時間)のインキュベーションを含んでなることができる。しかしながら、これらは、例えば、相互作用結合パートナーの性質に応じて適切に変更してもよい。試料は、必要に応じて穏やかな揺動、混合または回転をしてもよい。さらに、非特異的結合を減少させるための遮断薬などの他の適当な試薬を添加してもよい。例えば、1〜4%のBSAまたは他の好適な遮断薬(例えば、ミルク)を使用してもよい。接触条件は、スクリーニング法の目的に応じて変更および適合させることができる。例えば、インキュベーション温度が、例えば、室温または37℃である場合には、これらの条件下で安定であるバインダーを特定できる可能性が高まる(例えば、37℃でのインキュベーションの場合、人体にみられる条件下で安定であるバインダー)。このような性質は、結合パートナーの一方または両方がある種の治療用途に使用できる候補である場合(例えば、抗体)には極めて有利なことがある。
【0044】
使用される細胞は、真核細胞と原核細胞の両方を含むいずれの形態でもよい。好ましくは、細胞は、培養真核細胞、より好ましくは培養哺乳類細胞(例えば、培養ヒト細胞)である。好ましい哺乳類細胞は、例えば、HEK−293細胞、MOLT−3細胞、COS細胞、HeLa細胞、293T細胞および他の樹立細胞株の細胞である。さらに、細胞は、好ましくは、機能的および立体配座未変性状態において本発明の融合タンパク質を発現することができなければならない。一実施態様によれば、前記細胞は、HIV感染細胞である。好ましくは、前記HIV感染細胞は、慢性的に感染したものである。一つの具体的実施態様によれば、前記慢性的HIV感染細胞は、NL4.3慢性的感染MOLT細胞、H9細胞およびHuT−78細胞からなる群から選択されたものである。Blanco J等、Leukoc.Biol.2004;76(4):804−811およびBlanco J等、Virology2003;305(2):318−329参照。
【0045】
アッセイの種々の成分を接触させる順序は、特に限定されない。一つの実施態様によれば、表面にgp120のCD4結合部位を発現する細胞を、最初に融合タンパク質と接触させ、その後試料と接触させる。別の実施態様によれば、表面にgp120のCD4結合部位を発現する細胞を、最初に試料と接触させ、次に融合タンパク質と接触させる。さらに別の実施態様によれば、融合タンパク質と試料を混合し、その後この混合物を、表面にgp120のCD4結合部位を発現する細胞に添加する。別の実施態様によれば、融合タンパク質、試料、および表面にgp120のCD4結合部位を発現する細胞を同時に接触させる。
【0046】
「gp120のCD4結合部位」を、配列およびgp120の配座により決定する。CD4に対する結合に関与するgp120の主要領域は、CD4結合ループ364−SSGGDPEIVTH−374(HXB2番号P04578)であるけれども、gp120における配座CD4bsは、このタンパク質の第四一定領域からの他の残基を含む。特に、D368(HXB2番号)は、その突然変異がCD4結合を無効にするので、極めて重要な残基である。CD4bsの特徴付けがすでに公開されている。Sterjovski J等、Virology 2011;410(2):418−428参照。gp120のCD4結合部位は機能的且つ未変性な配座を有していることが好ましい。このようなCD4結合部位を提供する一つの方法は、gp120タンパク質、Envタンパク質または前期結合部位を含んでなるその断片を使用することである。
【0047】
好ましい実施態様によれば、gp120の前記CD4結合部位への結合能を有するタンパク質は、好ましくはCD4またはその機能的に同等の変異体からなる群から選択されたものである。好ましい実施態様によれば、gp120の前記CD4結合部位への結合能を有するタンパク質はCD4である。前記CD4は、好ましくは動物由来のもの、特にヒトなどの脊椎動物由来のもの(例えば、UniProtKBデータベース受託番号P01730)、非ヒト霊長類(例えば、チンパンジーおよび他の類人猿ならびにサル種);鳥、魚、ウシ、ヒツジ、ブタ、ヤギおよびウマなどの家畜;イヌおよびネコなどの家畜哺乳類;マウス、ネズミおよびモルモットなどの齧歯動物を含む実験動物である。別の好ましい実施態様によれば、gp120の前記CD4結合部位への結合能を有するタンパク質は、CD4の機能的に同等の変異体である。
【0048】
CD4の変異体は、天然および人工的なもののいずれであってもよい。表現「自然変異体」は、他の種において天然にあらわれる上記したヒトCD4の全ての変異体(すなわち、CD4相同分子種)に関する。前記天然変異体は、CD4マウスまたはニワトリ相同分子種(NCBIデータベース受託番号がそれぞれNP_038516.1およびNP_989980.1)などが挙げられるが、これらには限定されない。また、本発明に使用するのに好適なCD4の自然変異体は、一つ以上のアミノ酸の挿入、置換または欠失による前記配列に由来するものでもよく、自然対立遺伝子、代替プロセシングから得られる変異体ならびに天然にあらわれる分泌および切断型などがある。
【0049】
本発明において使用されるCD4の機能的に同等の変異体は、一つ以上のアミノ酸の修飾、欠失または挿入から得られ、CD4の活性を実質的に保存するポリペプチドを指す。ポリペプチドがCD4の機能的に同等の変異体としてみることができるかどうかを判定するのに適切なアッセイには、ポリペプチドが表面にgp120を発現する細胞に結合する能力に基づく、本発明の実施例3に示すアッセイなどがある。アッセイは、gp120を発現する細胞を、抗体Fc断片と被検変異体とを含んでなる融合タンパク質と接触させることにより実施することができる。ポリペプチドは、上記したヒトCD4の結合効力の少なくとも100%、95%、90%、85%、80%、75%、70%、65%、60%またはそれ以下を示す場合には、CD4の機能的に同等の変異体としてみるとことができる。
【0050】
本発明に関連して意図されるCD4の機能的に同等の変異体は、上記した種々のCD4の自然変異体との類似度または一致度が少なくとも60%、70%、80%、85%、90%、92%、94%、96%、98%、99%であるポリペプチドなどがある。2つの配列の間の一致度%は、比較される2つの配列を共有する同一のアミノ酸の割合を示し、一方、類似度%は類似アミノ酸の残基の割合(アルギニンとリジンなどのアミノ酸のまたはアスパラギン酸とグルタミン酸の残基の当量を考慮する)を示す。2つのアミノ酸配列の間の一致度%は、特定の領域に整列する2つの配列を比較し、一致する位置の数を得るために両方の配列における同一のアミノ酸がある位置の数を求め、前記位置数を、比較されているセグメントにおける総位置数により割り、得られた値に100を掛けることにより計算する。2つのポリペプチドの間の一致度と類似度の程度は、コンピュータ実行アルゴリズムと、当該技術分野において広く知られている方法を用いて求める。アミノ酸の2つの配列の間の一致度と類似度は、好ましくはBLASTPアルゴリズムを用いて求める。Altschul S等、「BLAST Manual」(NCBI NLM NIH、Bethesda、MD、US、2001)参照。
【0051】
別の実施態様によれば、CD4の機能的に同等の変異体は、少なくとも前記CD4のD1−D2N末端領域を含んでなるCD4の断片である。CD4のD1ドメイン(Ig様V型としても知られている)は、ヒトCD4の番号に準じたCD4のアミノ酸26−125を含んでなる(すなわち、UniProtKBデータベース受託番号P01730)。CD4のD2ドメイン(Ig様C2型1としても知られている)は、ヒトCD4の番号に準じてCD4のアミノ酸126−203を含んでなる。種々の実施態様によれば、CD4の大きな断片(D1−D4)を使用する。J.Virol等、2011;85(18):9395−9405参照。CD4のD2ドメインは、NheI制限部位を含む。部位は、C末端(603−608bp)に位置している。別の実施態様によれば、代わりに、CD4断片に対する類似度が少なくとも80%、85%、90%、95%または99%であって、gp120のCD結合部位への結合能を有する、CD4断片の変異体が使用される。好ましくは、CD4断片は、配列番号8の配列を含んでなる。
【0052】
一つの実施態様によれば、前記一次抗体は、IgA(例えば、IgA1またはIgA2)、IgD、IgE、IgG(例えば、IgG1、IgG2、IgG3またはIgG4)およびIgMからなる群から選択されたものであり、好ましくはIgG、より好ましくはIgG1である。前記一次抗体は、前記生物試料が由来する種とは異なる種由来のものであることが好ましい。前記一次抗体は、いずれかの脊椎動物抗体、好ましくはいずれかの哺乳動物抗体およびより好ましくはいずれかの非ヒト抗体(例えば、ウサギ抗体、マウス抗体、ラット抗体、ヤギ抗体、ウマ抗体、ヒツジ抗体またはロバ抗体)であることができる。一実施態様によれば、前記一次抗体は、マウスIgG、好ましくはマウスIgG1である。
【0053】
別の実施態様によれば、Fc領域に対する類似度が少なくとも80%、85%、90%、95%または99%であり、前記Fc領域の対応する二次抗体に結合することができる変異体を代わりに使用する。好ましくは、Fc領域は配列番号:9の配列を有している。
【0054】
最も好ましい実施態様によれば、gp120のCD4結合部位への結合能を有する前記融合タンパク質は、ヒトCD4のD1−D2N末端領域を含んでなるか、またはヒトCD4のD1−D2N末端領域から構成されており、前記(ii)一次抗体のFc領域はマウスIgG1のFc領域である。より好ましい実施態様によれば、前記融合タンパク質は、配列番号:7によるアミノ酸配列を有するか、またはその配列に対する同一度が少なくとも80%、85%、90%、95%または99%であり、好ましくは前記Fc領域の対応する二次抗体に結合することができる変異体を有する。「前記Fc領域の対応する二次抗体」は、二次抗体のFab断片は、一次抗体のFc領域に結合する(すなわち、一次抗体の種に特異的である)。別の実施態様によれば、gp120のCD4結合部位に結合することができる融合タンパク質は、配列番号:10によるポリヌクレオチドによりコードされている。
【0055】
また、融合タンパク質は、(i)前記gp120の前記CD4結合部位への結合能を有するタンパク質および(ii)前記一次抗体のFc領域を連結するリンカーを含有してもいてもよい。このようなリンカーは、融合タンパク質の可変性を容易に高めることができ、また、2つの断片の間の立体障害を減少することもでき、適当な結合相互作用を可能とする。また、リンカーは、各断片の適切な折り畳みが生じるのを容易にすることもできる。リンカーは、タンパク質の2つのドメインの間にランダムコイルで存在するかを決定する配列などの天然のものであることができる。典型的なリンカー配列は、RNAポリメラーゼαサブユニットのC末端領域とN末端領域との間にみられるリンカーである。天然リンカーの他の例として、λcIおよびLexAタンパク質にみられるリンカーなどが挙げられる。また、リンカーは、合成ものものであることができる。例えば、配列(GlySer)は、合成未構造化リンカーとして使用されることができる。Huston J等、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 1988;85:4879−4887およびHuston J等、US5、091、513参照。別の典型的な実施態様には、ポリアラニン配列(例えば、(Ala))などがある。
【0056】
別の実施態様によれば、融合タンパク質は、ジスルフィド連結ホモ二量体である。
【0057】
第二工程において、本発明によるHIV中和抗体を測定する方法は、gp120のCD4結合部位への前記融合タンパク質の結合効力を測定することを含んでなる。
【0058】
好ましくは、前記HIV中和抗体は、gp120のCD4結合部位を含んでなる細胞の表面に結合でき、本発明の融合タンパク質の結合を、陰性対照と比較して、好ましくは少なくとも99%、95%、90%、85%、80%、75%、70%、60%、50%、45%、40%、35%、30%、25%、20%または10%減少することができる。より好ましくは、前記HIV中和抗体は、少なくともCD4と同じ程度に高いgp120のCD4結合部位に対する親和性を有する抗体である。
【0059】
適切な結合を検討する方法には、結合パートナーの性質に依存し、免疫学的検定(例えば、ELISA)、フィルタースクリーニングアッセイ、FACS、もしくは免疫蛍光測定法、または結合定数を数値化する他の方法、染色組織スライドまたは細胞および他の免疫組織化学法などがあるが、これらには限定されない。このような方法は、当該技術分野において周知であり、前記結合効力を測定するのに使用することができる。
【0060】
好ましくは、前記測定は、フローサイトメトリー(例えば、FACS)によりおこなわれる。本明細書において使用される用語「フローサイトメトリー」は、試料中の物質の割合を、その物質を標識(例えば、標識抗体をその物質に結合)し、その物質を含有する流体流が光線を通過し、試料から放出された光を一連のフィルターおよびミラーにより構成波長に分離し、その光を検出することにより測定するアッセイを指す。フローサイトメトリーは、検出感度が高く、相対サイズなどの単細胞の一部の特徴および内在性蛍光の数量化を迅速におこなうことができるとともに、蛍光で標識できる細胞状化合物の定量分析が可能でなる。Melamed M等、「Flow Cytometry and Cell Sorting(フローサイトメトリーおよび細胞選別)」、 2nd Ed.(Wiley−Liss、New York、NY、US、1990)参照。フローサイトメトリーの主要な利点の一つは、多数の粒子または細胞について検体の定量化を迅速にできることである。一般的に、検出可能なマーカーとして使用するのに選択される蛍光色素は、レーザーにより使用される波長を有する光により励起されたときに、蛍光色素が蛍光を発光する能力に基づき選択される。蛍光色素がレーザー光により励起されると、光を放出し、次にフローサイトメーターの光電子増倍管により評価される。この手法では、1〜2分間で、10000細胞/粒子を分析することができる。フローサイトメーターは、異なる波長で発光する種々の蛍光色素からのエミッタンスを検出するフィルターを備えており、4種以上の異なる蛍光色素を検出可能なマーカーとして使用することができ、このことは、現在では少なくとも4種の異なる分子を同時に検出できることを意味している。細胞を分析するためのこれらの方法および装置は、市販されており、当該技術分野において周知である(例えば、FACSCalibur Flow Cytometer;米国ニュージャージー州のFranklin LakesにあるBD Biosciences社)。
【0061】
一つの実施態様によれば、前記測定は、前記融合タンパク質、好ましくは前記融合タンパク質のFc領域に結合できるリポーターを用いて前記細胞に結合する融合タンパク質を検出することを含んでなる。
【0062】
好ましい実施態様によれば、前記測定は、前記細胞を、前記融合タンパク質、好ましくは前記融合タンパク質のFc領域に結合できるリポーターを用いて、好ましくはフローサイトメトリーにより分析することを含んでなる。前記リポーターは、好ましくは検出可能部分を含んでなり、より好ましくは検出可能部分に結合したFc特異的二次抗体である。
【0063】
有用な検出可能な成分には、フルオロフォアなどがある。「フルオロフォア」(または「蛍光色素」もしくは「発色団」)は、光励起により光を再放出することができる蛍光化合物である。使用することができるフルオロフォアには、生物学的(例えば、タンパク質)および化学的フルオロフォアなどがある。典型的な生物学的フルオロフォアは、Tサファイア、Cerulean、mCFPm,CyPet,EGFP,PA−EGFP,Emerald,EYFP,Venus,mCitrine,mKO,mOrange,DSRed,JRed,mStrawberry,mCherry,PA−mCherry,mRuby,Tomato,mPlum,mKate,mKatushka,Kaede,Halotagおよびスーパーエクリプティックフッ素を含んでなる。典型的な化学的フルオロフォアは、アレクサフルオル、ローダミン、BODIPY、テトラメチルローダミン、シアニン染料、フルオレセイン、量子ドット、IR染料、FM染料、ATTO染料を含んでなる。また、二次抗体は、例えば、ホースラディッシュペルオキシダーゼ、β−ガラクトシダーゼ、ルシフェラーゼ、アルカリ性ホスファターゼまたはグルコースオキシダーゼなどの検出に有効である酵素で標識することができる。抗体が検出可能酵素で標識されるとき、酵素が使用して識別できる反応生成物を生成するさらなる試薬を添加することにより検出できる。例えば、薬剤ホースラディッシュペルオキシダーゼが存在するとき、過酸化水素とジアミノベンジジンを添加することにより、視覚的に検出可能な着色反応生成物を生じる。また、抗体は、ビオチンで標識し、アビジンまたはストレプトアビジン結合を間接的に測定して検出できる。
【0064】
好ましくは、前記Fc特異的二次抗体は、前記一次抗体が由来する種に特異的である。一実施態様によれば、Fc特異的二次抗体は、IgA(例えば、IgA1、IgA2)、IgD、IgE、IgG(例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4)およびIgMからなる群から選択されたものである。好ましくは、二次抗体は、IgGである。前記Fc特異的二次抗体は、いずれかの脊椎動物抗体、好ましくはいずれかの哺乳動物抗体、およびより好ましくはいずれかの非ヒト抗体(例えば、ウサギ、マウス、ラット、ヤギ、ウマ、ヒツジまたはロバ抗体)であることができる。
【0065】
第一の態様の方法の別の実施態様によれば、工程(i)に続き、未結合融合タンパク質を除去する一以上の洗浄工程をおこなう。洗浄工程は、細胞およびgp120のCD4結合部位の結合パートナーに応じた適切な方法で実施できる。細胞は、いずれかの好適な培地、例えば、細胞培地、またはPBSなどの緩衝剤で洗浄できる。培地は、Tween20などの洗浄剤を含有してもよい。洗浄時間は、各洗浄ごとに、いずれかの好適な時間、例えば、1〜30分間または3〜10分間であることができる。洗浄は、前記細胞のキャリアを穏やかに震盪または揺動などでよい。洗浄温度は、細胞が生存でき、結合が妨害されない温度である。例えば、20〜45℃または30℃〜40℃であることができる。典型的には、約37℃または室温である。融合タンパク質を洗浄するためのプロトコルは、当該技術分野において周知である。
【0066】
表面にgp120のCD4結合部位を含んでなる細胞に対する融合タンパク質の結合効力を測定したら、前記結合が試料の存在下で阻害される場合、本発明の方法は試料におけるHIV中和抗体を測定することを含んでなる。
【0067】
結合の阻害は、対照試料の存在下での結合に対して少なくとも5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%または100%である結合を指す。
【0068】
好ましい実施態様によれば、結合の阻害は、上記した融合タンパク質の存在下における試料中、および融合タンパク質の不存在下およびgp120のCD4結合部位に対する結合ができるいずれかの化合物の不存在下における並発反応ににおける結合効力を評価することにより測定される。この状況において、gp120のCD4結合部位に対する結合ができるいずれか他の化合物を含有しない試料の存在下における細胞に対する融合タンパク質の結合と比較して、細胞に対する融合タンパク質の結合が低い場合には、試料はnAbを含有するものと判定する。本発明の方法を実施するのに使用できる好適な試料には、検討中の試料と同じ性質を有し、いずれのnAbも含有しないことが知られている試料などがある。一実施態様によれば、分析されている試料が患者から得た試料であるときには、対照試料は、HIV感染が知られていない患者か、あるいはHIVに感染したがnAbを生じなかった患者からの同じ性質の試料であることができる。別の実施態様によれば、分析されている試料が組織培養上清であるとき、対照試料は、nAbを産生しないことが知られている細胞、またはgp120に対する親和性のないAbを発現する細胞からの培養上清であることができる。
【0069】
第一の態様による方法は、試料にHIV中和抗体が存在するか存在しないかを判定することに用いられる。このために、標準となる値を得る。用語「標準値」は、中和抗体が存在するか、存在しないかを判定するのに使用される、閾値である。試料において測定される中和抗体の量が標準量を超える場合には中和抗体が存在し、試料において測定される中和抗体の量が標準量と同じか、あるいはそれ以下である場合には、中和抗体が存在しないとする。同様に、細胞に対する融合タンパク質の結合が標準量を超える場合には中和抗体が存在せず、細胞に対する融合タンパク質の結合が標準量と等しいか、あるいはそれよりも低い場合には中和抗体が存在するとする。標準値は、例えば、HIV感染せず且つHIVに対して免疫がない対象からの代表的な一連の試料における中和抗体の量を定量化し、標準量を測定するのに得られた結果を統計的に分析することにより確定できる。標準量は、好ましくはゼロまたはレポーター遺伝子活性を測定するのに使用されるアッセイの検出可能限界未満であることができる。したがって、標準量は、中和抗体を含んでいないことが知られている試料に接触させた上記した細胞から得ることができる。
【0070】
第一の態様の方法は、HIV中和抗体の存在を判定することに使用できるだけでなく、HIV中和抗体を定量化することにも使用できる。したがって、本発明は、前記判定が定量的である第一の態様の方法にも関する。用語「定量」は、半定量(すなわち、量の近似)を含んでなる。そのとき、第一の態様の方法において、前記少なくとも一つの対照は陽性対照であることが好ましい。好ましくは、少なくとも2種、3種、5種、10種、15種または20種の陽性対照が使用される。各対照は、gp120のCD4結合部位に結合する固有量の化合物を含んでなる。換言すれば、陽性対照は、gp120のCD4結合部位に結合する化合物の種々の濃度における標準として使用される。得られる結合効力値は、標準曲線をひくのに使用でき、次に、それを使用して、定量的に求めるべきHIV中和抗体の量を導き出すのに使用できる。
【0071】
好ましくは、本発明で言及する中和抗体の存在を判定することは、前記抗体の存在を判定すること、またはそれらの量または濃度を、好ましくは半定量的にまたは定量的に測定することに関する。最も好ましくは、その量は、力価(すなわち、所定の結合効力度にまだ影響する試料の最大希釈度)として測定される。好ましくは、測定は中和抗体の定量化のための正規化を含む。正規化、したがって、定量化は、所定量の特徴付けられた中和抗体を反応混合物に添加することによりおこなうことができる。好ましくは、前記特徴付けられた中和抗体は、一定レベルの中和とするために必要とする量が予め定められたものである抗体である。正規化は、同じレベルの中和(例えば、予め定めた量の特徴付けられた中和抗体による阻害と比較して結合の50%の阻害)とするのに必要とされる試料の量または希釈度を求めることを原理とするものである。定量化について、中和は、特徴付けられた中和抗体を用いた標準曲線または当該技術分野において周知であるプロトコルに準じた他の好適な標準物質と比較することができる。定量法は、例えば、免疫学的検定(例えば、ELISA)、フィルタースクリーニングアッセイ、結合定数を定量化するFACSまたは免疫蛍光測定法または結合定数を定量化する他の方法、染色組織スライドまたは細胞および他の免疫組織化学法などの上記した結合についての検討などがある。
【0072】
3.本発明の融合タンパク質および核酸
別の態様によれば、本発明は、(i)gp120の前記CD4結合部位への結合能を有するタンパク質と(ii)一次抗体のFc領域とを含んでなる融合タンパク質に関する。
【0073】
好ましい実施態様によれば、gp120の前記CD4結合部位への結合能を有するタンパク質は、CD4またはその機能的に同等の変異体である。より好ましい実施態様によれば、CD4の機能的に同等の変異体は、少なくとも前記CD4のD1−D2N末端領域を含んでなるCD4の断片である。
【0074】
別の実施態様によれば、Fc領域は、IgA(例えば、IgA1またはIgA2)、IgD、IgE、IgG(例えば、IgG1、IgG2、IgG3またはIgG4)およびIgMからなる群から選択された一次抗体由来のものである。好ましくは、抗体はIgGである。より好ましくは、抗体はIgG1である。前記一次抗体は、いずれかの脊椎動物抗体、好ましくはいずれかの哺乳動物抗体、より好ましくはいずれかの非ヒト抗体(例えば、ウサギ、マウス、ラット、ヤギ、ウマ、ヒツジまたはロバ抗体)であることができる。一実施態様によれば、前記一次抗体は、ネズミIgG、好ましくはマウスIgG1である。
【0075】
また、前記融合タンパク質は、(i)前記gp120の前記CD4結合部位への結合能を有するタンパク質と、(ii)一次抗体の前記Fc領域とを連結するリンカーを含有してもよい。このようなリンカーは、融合タンパク質の可変性を容易に高めることができ、また、2つの断片の間の立体障害を減少することもでき、適切な結合相互作用を可能とする。また、リンカーは、各断片の適切な折り畳みが生じるのを容易にすることもできる。リンカーは、タンパク質の2つのドメインの間にランダムコイルで存在すると判定された配列などの天然起源のものであることができる。典型的なリンカー配列は、RNAポリメラーゼαサブユニットのC末端ドメインとN末端ドメインとの間にみられるリンカーである。天然リンカーの他の例としては、λcIタンパク質およびLexAタンパク質にみられるリンカーなどである。あるいは、リンカーは、合成のものであることができる。例えば、配列(GlySer)は、合成非構造化リンカーとして使用することができる。Huston、1988、上記参照。別の典型的な実施態様には、ポリアラニン配列(例えば、(Ala))などがある。
【0076】
別の態様によれば、本発明は、第二の態様の融合タンパク質をコードする核酸および発現カセット、または前記核酸を含んでなるベクターに関する。
【0077】
好ましくは、前記核酸は、ポリヌクレオチドであり、ヌクレオチドモノマーの一本鎖または二本鎖ポリマー(核酸)を指し、ヌクレオチド間リン酸ジエステル結合連結により連結された2’−デオキシリボヌクレオチド(DNA)およびリボヌクレオチド(RNA)などがあるがこれらには限定されない。
【0078】
また、CD4の機能的に同等の変異体をコードするポリヌクレオチドには、特異的配列により上記で定義したCD4活性を有するポリペプチドの変異体をコードすることができるポリヌクレオチドなどがある。前記ポリヌクレオチドは、上記した配列に関しての一つまたはいくつかのヌクレオチドの挿入、欠失または置換により上記で定義したポリヌクレオチドから生じる。好ましくは、CD4の機能的に同等の変異体をコードするポリヌクレオチドは、配列により、高度に制限的な条件において、上記したポリヌクレオチドとハイブリダイズすることができるポリヌクレオチドである。高度に制限的なハイブリダイゼーションの典型的な条件には、6×SSC(1×SSC:0.15M NaCl、0.015Mクエン酸ナトリウム)および40%ホルムアミド中、42℃で14時間インキュベーション後、0.5×SSC、0.1%SDSを用いて、60℃で、1回または数回洗浄サイクルに附することなどがある。あるいは、高度に制限的な条件には、6×SSCにおいて約50℃〜55℃の温度でのハイブリダイゼーションと、1〜3×SSCにおいて68℃の温度での最終洗浄とを含んでなるものなどがある。中程度に制限的な条件は、0.2または0.3M NaCl中約65℃まで、約50℃の温度でハイブリダイゼーションした後、0.2×SSC、0.1%SDS(ドデシル硫酸ナトリウム)中、約55℃まで約50℃で洗浄することを含んでなる。一つのさらなる実施態様によれば、前記核酸は最適化されたコドンである。
【0079】
別の実施態様によれば、代わりに、核酸に対する類似度が少なくとも80%、85%、90%、95%または99%である核酸の変異体であって、本発明の融合タンパク質をコードする変異体を使用する。
【0080】
第二の態様の核酸では、制限酵素で切断してベクターにライゲーションすることが必要である(すなわち、一部(例えば、1個、2個または3個)の末端ヌクレオチドを除去してもよい)。したがって、一実施態様によれば、本発明は、各末端を制限酵素で切断した前記核酸に関する。
【0081】
別の実施態様によれば、本発明は、第二の態様の核酸と、プロモーター配列と、3’−UTRと、任意に選択マーカーとを含んでなる発現カセットに関する。さらに別の実施態様によれば、本発明は、第二の態様の核酸または発現カセットを含んでなる発現ベクターに関する。本発明による好適なベクターには、原核ベクター、例えば、pUC18、pUC19およびブルースクリプトプラスミドならびにそれらの誘導体、例えば、mp18、mp19、pBR322、pMB9、ColE1、pCRlおよびRP4プラスミド;ファージおよびシャトルベクター、例えば、pSA3およびpAT28ベクター;酵母における発現ベクター、例えば、2ミクロンプラスミド型ベクター;組み込みプラスミド;YEPベクター;セントロメアプラスミドおよび類似体;昆虫細胞における発現ベクター、例えば、pAC系ベクターおよびpVL系ベクター;植物における発現ベクター、例えば、pIBI、pEarleyGate、pAVA、pCAMBIA、pGSA、pGWB、pMDC、pMY、pORE系および類似体のベクター;ならびにウイルスベクター(例えば、アデノウイルス、アデノウイルス関連ウイルス、レトロウイルスおよびレンチウイルス)、ならびに非ウイルスベクター、例えば、pSilencer4.1−CMV(Ambion(登録商標)、Life Technologies Corp.、Carlsbad、CA、US)、pcDNA3、pcDNA3.1/hyg pHCMV/Zeo、pCR3.1、pEFl/His、pIND/GS、pRc/HCMV2、pSV40/Zeo2、pTRACER−HCMV、pUB6/V5−His、pVAXl、pZeoSV2、pCI、pSVLおよびpKSV−10、pBPV−1、pML2dおよびpTDTlベクターに基づく、上位真核細胞における発現ベクターなどがある。一つの実施態様によれば、ベクターは、発現ベクターである。
【0082】
別の実施態様によれば、本発明は、第二の態様の核酸、発現カセットまたは発現ベクターを含んでなる遺伝子導入細胞に関する。使用される遺伝子導入細胞は、真核細胞および原核細胞を含むいずれかの細胞型であることができ、好ましくは細胞として原核細胞、酵母細胞または哺乳類細胞が挙げられる。
【0083】
4.本発明のキット
別の態様によれば、本発明は、(i)第二の態様の融合タンパク質、第三の態様の核酸、ベクターまたは遺伝子導入細胞と、(ii)前記融合タンパク質に結合することができるリポーターとを含んでなるキットに関する。一つの実施態様によれば、前記キットは、表面にgp120のCD4結合部位を含んでなる少なくとも1種の細胞をさらに含んでなることができる。前記細胞は、第一の態様の方法で定義した細胞である。
【0084】
5.HIV中和抗体を発現するB細胞の同定方法
本発明のアッセイは、抗体−発現細胞の培養液の上清にアッセイを適用することにより中和抗体を発現できる抗体産生細胞を検出するのに使用することもできる。したがって、別の態様によれば、本発明は、HIV中和抗体を発現する抗体産生細胞をインビトロで同定する方法であって、
(i)表面にgp120のCD4結合部位を含んでなる細胞を、前記抗体産生細胞の培養液の上清と、さらに融合タンパク質であって、(i)gp120の前記CD4結合部位への結合能を有するタンパク質と(ii)一次抗体のFc領域とを含んでなる融合タンパク質と接触させ、
(ii)gp120のCD4結合部位に対する前記融合タンパク質の結合効力を測定することを含んでなり、
前記結合能が少なくとも1種の対照の結合能とは異なる場合、前記抗体産生細胞がHIV中和抗体を発現するものとして判定することを特徴とする方法に関する。
【0085】
第一工程において、表面にgp120のCD4結合部位を含んでなる細胞を、前記抗体産生細胞の培養液の上清、および(i)gp120の前記CD4結合部位への結合能を有するタンパク質と(ii)一次抗体のFc領域とを含んでなる融合タンパク質に接触させる。接触工程の条件は、試料の接触について上記で実質的に説明した通りである。好ましい実施態様によれば、抗体産生細胞は、通常非不死であるB細胞である。別の実施態様によれば、抗体産生細胞は、通常不死である雑種細胞である。
【0086】
好ましい実施態様によれば、gp120の前記CD4結合部位への結合能を有するタンパク質は、好ましくはCD4またはその機能的に同等の変異体から選択されたものである。さらにより好ましい実施態様によれば、CD4の機能的等価物は、少なくとも前記CD4のD1−D2N末端領域を含んでなるCD4断片である。別の実施態様によれば、CD4は、好ましくは動物由来、特に脊椎動物、例えば、ヒト、非ヒト霊長類(例えば、チンパンジーおよび他の類人猿ならびにサル種)、家畜(鳥、魚、ウシ、ヒツジ、ブタ、ヤギおよびウマ)、家畜哺乳類(例えばイヌおよびネコ)、ならびに実験動物(例えば、マウス、ネズミおよびモルモットなどの齧歯動物)由来のものである。別の実施態様によれば、一次抗体のFc領域は、マウスIgG1のFc領域である。
【0087】
アッセイの種々の成分を接触させる順序は特に限定されない。したがって、一実施態様によれば、表面にgp120のCD4結合部位を発現する細胞を融合タンパク質と最初に接触させ、後で培養上清と接触させる。別の実施態様によれば、表面にgp120のCD4結合部位を発現する細胞を最初に培養上清と接触させ、その後融合タンパク質と接触させる。さらに別の実施態様によれば、融合タンパク質と培養上清を混合した後、混合物を、表面にgp120のCD4結合部位を発現する細胞に添加する。別の実施態様によれば、融合タンパク質、培養上清および表面にgp120のCD4結合部位を発現する細胞を、同時に接触させる。
【0088】
第二工程において、細胞におけるgp120のCD4結合部位に対する融合タンパク質の結合効力を判定する。gp120を発現する細胞に対する融合タンパク質の結合を判定するのに好適な方法は、試料中のHIV中和抗体を判定する方法に関連して上記で詳細に説明した。一実施態様によれば、前記測定は、前記融合タンパク質、好ましくは前記融合タンパク質のFc領域に結合できるリポーターを用いて前記細胞に結合した融合タンパク質を検出することを含んでなる。好ましい実施態様によれば、前記測定は、前記融合タンパク質、好ましくは前記融合タンパク質のFc領域に結合することができるリポーターを用いて、好ましくはフローサイトメトリーにより前記細胞を分析することを含んでなる。前記リポーターは、好ましくは検出可能な部分、より好ましくは検出可能部分に結合したFc特異的二次抗体を含んでなる。
【0089】
表面にgp120のCD4結合部位を含んでなる細胞に対する融合タンパク質の結合効力を判定したら、前記結合が試料の存在下で阻害される場合には、本発明の方法は、抗体産生細胞を、HIV中和抗体を産生するものとして判定することを含んでなる。結合の阻害は、対照試料の存在下での結合に対して、少なくとも5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%または100%である結合を指す。
【0090】
抗体産生細胞が不均質集団である場合、細胞をクローニングし、均質細胞集団を得るために中和抗体の産生に基づいてさらに選択することができる。クローンは、限界希釈法によりサブクローニングし、標準法により成長させてよい。Goding J、「Monoclaonal Antibodies(モノクローナル抗体):Principles and Practice(原理と実施)」、3rd Ed.(Academic Press、Waltham、MA、US、1996)参照。このために好適な培地には、例えば、D−MEMまたはRPMI−1640培地などがある。抗体産生細胞が雑種細胞である場合には、細胞を、動物における腹水腫瘍細胞として生体内で成長させてもよい。
【0091】
6.中和抗体を得る方法
別の態様によれば、本発明は、HIV中和抗体を産生する方法であって、
a)中和抗体を発現するB細胞の単離方法にしたがって単離したB細胞を含んでなるハイブリドーマを培養し、
b)前記ハイブリドーマにより発現されたHIV中和抗体を単離することを含んでなる方法に関する。
【0092】
上記した方法にしたがって選択した中和抗体を発現する抗体産生細胞を、好ましくは未融合親骨髄腫の成長または生存を阻害する一種以上の物質を含有する好適な培地に播種し、成長させる。例えば、親骨髄腫細胞が酵素ヒポキサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(HGPRTまたはHPRT)を欠く場合には、ハイブリドーマの培地には、典型的には、HGPRT欠失細胞の成長を防止するヒポキサンチン、アミノプテリンおよびチミジン(HAT培地)などがある。
【0093】
抗体は細胞から単離することができ、または好適な細胞において抗原特異性に関与する細胞の免疫グロブリン遺伝子の関連領域を発現することにより、組み換え手段により得ることもできる。
【0094】
抗体は、当該技術分野において既知の方法、例えば、アニオン/カチオン交換、サイズ排除/ゲル濾過、沈殿および特異的アフィニティーリガンドの使用により、抗体産生細胞の培養上清から精製できる。一般的に使用されるアフィニティーリガンドは、4つのサブクラスのヒトまたはヒト化IgGの一つ以上を結合する、バクテリア由来プロテインAおよびプロテインG、モノクローナル抗体ならびにラクダ科動物の抗体またはそれ由来の結合断片である。
【0095】
抗体が組み換え手段により産生される場合、免疫グロブリン分子の関連領域をコードするポリヌクレオチドを単離する。抗体核酸の一つのソースは、意図する抗原で免疫した動物からB細胞を得て、それを不死化細胞に融合することにより産生したハイブリドーマである。別法として、核酸を、免疫動物のB細胞(または全脾臓)から単離できる。抗体をコードする核酸のさらに別のソースは、例えば、ファージ提示技術を介して精製したそのような核酸のライブラリーである。意図するペプチドをコードするポリヌクレオチド(例えば、所望の結合特性を有する可変領域ペプチド)は、当該技術分野において既知の標準法(例えば、パンニング)により同定できる。
【0096】
意図する免疫グロブリンまたはポリペプチドからの関連アミノ酸配列を、直接タンパク質配列決定法により決定し、好適なコード化ヌクレオチド配列は、普遍遺伝暗号表にしたがって設計することができる。別法として、モノクローナル抗体をコードするゲノムまたはcDNAは、従来法(例えば、モノクローナル抗体の重鎖および軽鎖をコードする遺伝子に特異的に結合することができるオリゴヌクレオチドプローブを使用することにより)を用いてこのような抗体を産生する細胞から単離し、配列決定することができる。Brown T、「Gene Cloning」(Chapman&Hall、London、GB、1995);Watson R等「Recombinant DNA」、2nd Ed.(Scientific American Books、New York、NY、US、1992);Alberts B、等、「Molecular Biology of the Cell」(Garland Publishing Inc.、New York、NY、US、2008);Innis M等、Eds、「PCR Protocols.A Guide to Methods and Applications」(Academic Press Inc.、San Diego、CA、US、1990);Erlich H、Ed.、「PCR Technology.Principles and Applications for DNA Amplification」(Stockton Press、New York、NY、US、1989);Sambrook J等、「Molecular Cloning.A Laboratory Manual」(Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、NY、US、1989);Bishop T等、「Nucleic acid and Protein Sequence.A Practical Approach」(IRL Press、Oxford、GB、1987);Reznikoff W、Ed.、「Maximizing Gene Expression」(Butterworths Publishers、Stoneham、MA、US、1987);Davis L等、「Basic Methods in Molecular Biology」(Elsevier Science Publishing Co.、New York、NY、US、1986)、Schleef M、Ed.、「Plasmid for Therapy and Vaccination」(Wiley−VCH Verlag GmbH、Weinheim、DE、2001)参照。
【0097】
免疫グロブリンポリペプチドの全体の可変領域をコードする配列を決定してもよい;しかしながら、可変領域、例えば、CDRコード部分の一部分のみの配列決定するのが適切なことがある。配列決定を、標準法を用いて実施する。Sambrook、1989、上記参照およびSanger F等、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 1977;74:5463−5467参照。クローン核酸の配列を、ヒト免疫グロブリン遺伝子およびcDNAの公表された配列とを比較することにより、当業者は、配列決定する領域に応じて、(i)ハイブリドーマ免疫グロブリンポリペプチド(重鎖のアイソタイプを含む)の生殖系列セグメント使用法および(ii)N領域付加および体細胞突然変異過程から得られる配列を含む重鎖および軽鎖可変領域の配列を決定することが容易にできるであろう。免疫グロブリン遺伝子配列情報の一つのソースは、米国メリーランド州ベテスダにある国立衛生研究所、国立医学図書館、全米バイオテクノロジー情報センターである。
【0098】
7.治療法
別の態様によれば、本発明は、必要とする対象におけるHIVまたはAIDSの治療または予防方法であって、本発明の第五の態様の方法により単離した中和抗体を前記対象に投与することを含んでなる、方法に関する。
【0099】
HIV感染またはAIDSの症状における中和抗体HIVの有益な治療または予防効果には、例えば、HIVに暴露する個体の初期感染を予防または遅延すること;HIVに感染した個体におけるウイルス負荷を減少させること;HIV感染の無症状期を長くすること;ウイルスレベルが抗レトロウイルス療法(ART)を介して低下したHIV患者における低ウイルス負荷を維持すること;薬品未投与の患者およびARTで治療した患者において、HIV−1特異的および非特異的の両方のCD4T細胞レベルを増加またはCD4T細胞の減少を低下させて、AIDSを患う個人における健康全般または生活の質を増加させること;およびAIDSを患う個人の平均余命を延ばすことなどがある。臨床医は、治療の効果を、治療前の患者の状態、または未治療患者の予測される状態と比較して、治療がAIDSを阻害するのに有効かどうかを判定することができる。好ましい実施態様によれば、本発明の免疫原性組成物は、予防組成物である。
【0100】
本発明の中和抗体は、HIV−1感染の治療に有用なことがある。HIV−1またはそれらの等価物を患う全ての動物(例えば、チンパンジー、マカク、ヒヒまたはヒト)をこの方法で治療できるが、本発明の中和抗体は、特にヒトにおける治療に使用される。しばしば、所望の治療効果を生じさせるために、複数回の投与を必要とすることがあり;厳密なプロトコル(投与量および頻度)は、標準臨床診断法により定めることができる。
【0101】
さらに、本発明は、HIV感染と関連する症状を予防または減少することに関する。これらには、例えば、帯状疱疹、皮膚発疹および爪の感染、口のびらん、再発性鼻および咽喉感染ならびに体重減少を含む、HIV感染の軽症期と関連した症状などがある。さらに、HIV感染の主要な症候期と関連したさらなる症状には、例えば、口腔カンジダ症および膣内カンジダ症(カンジダ菌)、持続性下痢、体重減少、持続性咳および再活性結核または再発性ヘルペス感染、例えば、単純疱疹(単純ヘルペス)などがある。本発明により治療できる末期のAIDSの他の症状には、例えば、下痢、悪心および嘔吐、鵞口瘡びらんおよび口のびらん、持続性、再発性膣内感染および子宮頸がん、持続性全身リンパ節症(PGL)、重度の皮膚感染、いぼおよび白癬、呼吸器感染、肺炎、とりわけニューモシスチスカリニ肺炎(PCP)、帯状疱疹(帯状ヘルペス)、神経系障害、例えば、手足における疼痛、しびれ感または「しびれてピリピリする感覚」、神経的異常、カポジ肉腫、リンパ腫、結核または他の同様な日和見感染などがある。
【0102】
別の好ましい実施態様によれば、中和抗体が投与される対象は、抗レトロウイルス療法(ART)、好ましくは高活性抗レトロウイルス療法(HAART)を受けている対象である。
【0103】
本明細書において述べた全ての公報は、引用することにより本明細書の開示の一部とされる。
【0104】
上記した本発明は、明瞭および理解のためにある程度詳細に説明したが、この開示を読むことにより、当業者には、本発明の範囲および添付の請求の範囲のから逸脱することなく、形態および詳細の種々の変化をすることができることが理解されるであろう。
【実施例】
【0105】
実施例1
pcDNA3.1huCD4mIgG1プラスミドの構築
ヒトCD4のD1−D2N末端領域は、白金TaqDNAPol(Invitrogen社、Carslbad、CA、US)および以下のプライマーを用いたSuperScriptIII一段RT−PCRシステムを用いて標準RT−PCRにより増幅した:
1)CD4Lセンス(配列番号:1):
5´−CACCATGAACCGGGGAGTCCCTTTTAG−3´
2)CD4L AS NheI(配列番号:2):
5´−TATTAGCTAGCACCACGATGTCTATTTTG−3´
【0106】
ヒト抹消血単核細胞(PBMC)から抽出したRNAを、鋳型として使用した。pcDNA3.1huCD4プラスミドは、pcDNA3.1 Directional V5−His−TOPOキットを用い、メーカーの取扱説明書にしたがってCD4アンプライマーをクローニングした後に精製した。
【0107】
マウスIgG1のヒンジ/CH2/CH3含有Fc領域は、プライマーを用いて上記で説明したようにして増幅した:
3)MPER−mIgG1−S(配列番号:3):
5´−GAATAGAGCTGGTGGGCTAGCTGTGCCCAGGGATTGTGGT−3´
4)mIgG1−AS(配列番号:4):
5´−TTATTCTCGAGTCATTTACCAGGAGAGTGGG−3´
【0108】
鋳型として、NS1マウス細胞株から抽出したRNAを使用した。
【0109】
アンプライマーを精製し、FastDigestNheIおよびFastDigestXhoI制限酵素(米国メリーランド州のGlen BurnieにあるFermentas International社)で消化し、T4DNAリガーゼ(Fermentas International社、Glen Burnie、MD、US)を用いて、pcDNA3.1huCD4(上記で同じ制限酵素で線状化した)に結紮した。最後に、DNA構築一体性を、BigDyeターミーターv3.1サイクル配列決定キット(Applied Biosystems(登録商標)、米国カリフォルニア州のCarlsbadにあるLife Technologies社)を用いて配列決定することにより確認した。配列番号:5、配列番号:6、配列番号:7および図1参照。
【0110】
実施例2
huCD4mIgG1組み換えタンパク質の産生
HEK293細胞を、メーカーの指示書にしたがって、Calphos トランスファクションキット(Clontech(登録商標)、日本国大津市にある宝バイオ株式会社)を用いて、pcDNA3.1huCD4mIgG1プラスミドをトランスファクションした。48時間後、上清を採取し、0.45μmフィルター(EMD Millipore、ドイツ国DarmstadtにあるMerck KGaA社)による濾過で清澄化し、使用するまで−20℃で貯蔵した。
【0111】
実施例3
HuCD4mIgG1組み換えタンパク質を含有する上清の滴定
NL4.3慢性的感染MOLT細胞株を、CD4mIgG1含有上清の段階希釈液で、室温で30分間インキュベーションした。Blanco J等、J.Leukoc.Biol.2004;76(4):804−811参照。PBSで洗浄後、細胞表面でgp120に結合したCD4mIgG1を、Fc特異的DyLight649−F(ab)ヤギ抗マウスIgG(米国フィラデルフィア州のWest GroveにあるJackson ImmunoResearch社)を用いたフローサイトメトリーにより検出した。図2参照。
【0112】
実施例4
競合的サイトメトリーアッセイを用いたgp120/CD4遮断抗体の同定
抗体のgp120/CD4遮断活性をフローサイトメトリーにより測定できるかどうかを判定するために、NL4.3慢性的感染MOLT細胞を、gp120のCD4bsを認識するIgGb12抗体の段階希釈液(3倍)(48μg/mLで開始)で、室温で25分間プレインキュベーションした。その後、IC50濃度でHuCD4mIgG1含有上清を添加し、インキュベーションを室温でさらに30分間おこなった。PBSで2回洗浄後、二次抗体Fc特異的DyLight649−F(ab)2ヤギ抗マウスIgG(米国フィラデルフィラ州のWest GroveにあるJackson ImmunoResearch社)を添加し、再び室温で15分間インキュベーションした。細胞試料を、PBSで洗浄し、フローサイトメトリーにより分析した。IgGb12は、定量化可能濃度依存力学において相互作用gp120/CD4を遮断した。図3参照。
【0113】
実施例5
gp120/CD4遮断特異性の判定
アッセイの特異性を評価するために、CD4bs以外のEnv糖タンパク質における領域を認識した抗体を、上記した同じ条件で使用した。表1参照。gp120におけるCD4結合部位(IgGb12、VRC01およびVRC03)またはCD4におけるgp120結合部位(Leu3a)を認識した抗体のみが、相互作用gp120/CD4を遮断した。このことは、説明したアッセイは高度に特異的であることを示している。図4参照。
【0114】
【表1】
【0115】
実施例6
血漿試料におけるgp120/CD4遮断抗体の定量化
血漿試料におけるgp120/CD4遮断抗体を同定および定量化するため、およびアッセイを有効とするために、HIV−1感染患者からいくつかの血漿試料を使用した。これらの試料については上記で述べた通りであり、細胞間アッセイを用いて、gp120/CD4遮断抗体の中和能および存在について分析した。Sanchez−Palomino S等、Vaccine 2011;29:5250−5259参照。gp120/CD4遮断Absを含有する一連の4つの広域中和血漿試料、および6つの低中和血漿を、以下のようにして分析した:NL4.3MOLT細胞を、血漿試料の段階希釈液(3倍、1/10で開始)を用いて、室温で25分間プレインキュベーションした。標準として、b12抗体の3倍段階希釈液(開始濃度48μg/mL)を使用した。続いて、huCD4mIgG1上清を、IC50濃度で添加し、さらに30分間インキュベーションした。洗浄後、細胞の表面にgp120が結合したhuCD4mIgG1タンパク質を、Fc特異的DyLight 649−F(ab)2ヤギ抗マウスIgG(米国ペンシルベニア州のWest GroveにあるJackson ImmunoResearch社)を用いて検出した。最後に、試料を、PBSで洗浄し、フローサイトメトリーにより分析し、gp120/CD4遮断抗体の存在を、標準として使用したb12抗体に関連した任意単位(AU)として定量化した。図5参照。
【0116】
上記した方法にしたがって、CD4/gp120遮断抗体の存在を、ART未処理HIV−1感染患者、および陰性対照として使用された非感染個人からの血漿試料群で試験した。この場合、血漿試料を、1/5希釈液で試験した。結果を、CD4/gp120阻害%として示す。図6参照。
【0117】
アッセイを、異なるHIV−1分離株から得たエンベロープ糖タンパク質を用いることにより得て、さらに確認した。図6における試験した同じ一連の血漿試料を、HIV−1Bal分離株のエンベロープを発現するMOLT細胞を用いて分析した。得られた結果を、図7に示す。図7では、HIV+個人から得た血漿におけるCD4結合部位に対する定量化可能抗体の存在が確認される。さらに、各血漿試料について得られたNL4−3およびBaL分離株の両方に対するhuCD4mIgG1の結合の阻害%から、強い相関関係があることが明らかとなった(p<0.0001、ピアソン相関試験)。
図1-1】
図1-2】
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6
図7