特許第6282670号(P6282670)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6282670高飽和ジエンエラストマーを含むゴム組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6282670
(24)【登録日】2018年2月2日
(45)【発行日】2018年2月21日
(54)【発明の名称】高飽和ジエンエラストマーを含むゴム組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 21/00 20060101AFI20180208BHJP
   C08L 9/00 20060101ALI20180208BHJP
   C08F 210/18 20060101ALI20180208BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20180208BHJP
   C08K 3/36 20060101ALI20180208BHJP
   B60C 1/00 20060101ALI20180208BHJP
【FI】
   C08L21/00
   C08L9/00
   C08F210/18
   C08K3/04
   C08K3/36
   B60C1/00 A
【請求項の数】10
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-554121(P2015-554121)
(86)(22)【出願日】2014年1月21日
(65)【公表番号】特表2016-505697(P2016-505697A)
(43)【公表日】2016年2月25日
(86)【国際出願番号】EP2014051068
(87)【国際公開番号】WO2014114607
(87)【国際公開日】20140731
【審査請求日】2017年1月23日
(31)【優先権主張番号】1350557
(32)【優先日】2013年1月22日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】514326694
【氏名又は名称】コンパニー ゼネラール デ エタブリッスマン ミシュラン
(74)【代理人】
【識別番号】100086771
【弁理士】
【氏名又は名称】西島 孝喜
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【弁理士】
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100084663
【弁理士】
【氏名又は名称】箱田 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100093300
【弁理士】
【氏名又は名称】浅井 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100170944
【弁理士】
【氏名又は名称】岩澤 朋之
(72)【発明者】
【氏名】テュリエ ジュリアン
(72)【発明者】
【氏名】シュネル ベノワ
(72)【発明者】
【氏名】クラディエル ジュリアン
【審査官】 岡▲崎▼ 忠
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/014463(WO,A1)
【文献】 特表2009−515015(JP,A)
【文献】 特開2001−294607(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/106694(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 21/00−21/02
9/00−9/10
B60C 1/00
C08F 210/00−210/18
C08K 3/00−3/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
補強用充填剤と、高飽和ジエンエラストマーを含むエラストマーマトリックスとをベースとし、前記高飽和エラストマーが、少なくとも、前記エラストマー内にランダムに分配された以下のカテゴリーA、B、C、DおよびEの各単位:

A)

B)

C)
(上記において、R1およびR2は、同一または異なるものであって、水素原子、メチル基、または、オルソ、メタまたはパラ位置においてメチル基によって置換されているまたは置換されていないフェニル基を示す)

D)
(単位Dは、6個の炭素原子を有し、1,2−シクロヘキサンタイプの2価の炭化水素系環を形成する)

E)
(単位Eは、6個の炭素原子を有し、1,4−シクロヘキサンタイプの2価の炭化水素系環を形成する)

を含み;m、n、o、pおよびqは、0〜100の範囲の数であること;並びに、前記高飽和エラストマーが、下記の特性:
を有することを特徴とするゴム組成物。
【請求項2】
前記高飽和エラストマーが、下記の単位F:

F)
(式中、R7は、1〜4個の炭素原子を有するアルキル基、またはアリール基を示す)
を含み;さらに、前記高飽和エラストマーが、下記の特性:
を有する、請求項1記載のゴム組成物。
【請求項3】
置換基R1およびR2が、同一であって、水素原子を示す、請求項1または2記載のゴム組成物。
【請求項4】
高飽和エラストマーが、下記の基準の少なくとも1つ満たす、請求項1〜3のいずれか1項記載のゴム組成物。
【請求項5】
エラストマーマトリックスが、少なくとも40phrの高飽和ジエンエラストマーと、多くとも60phrの少なくとも1種の他のジエンエラストマーとを含む、請求項1〜4のいずれか1項記載のゴム組成物。
【請求項6】
補強用充填剤が、カーボンブラックを含む、請求項1〜のいずれか1項記載のゴム組成物。
【請求項7】
補強用充填剤が、カーボンブラック以外に、無機補強用充填剤含む、請求項1〜のいずれか1項記載のゴム組成物。
【請求項8】
請求項1〜のいずれか1項において定義されたゴム組成物を含む半製品。
【請求項9】
請求項記載の半製品を組込んでいるタイヤ。
【請求項10】
前記半製品が、トレッドである、請求項記載のタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、高飽和ジエンエラストマーを含むエラストマーマトリックスをベースとする補強ゴム組成物に、さらにまた、そのような組成物を含む半製品およびそのような半製品を組込んでいるタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
当該技術の状況
燃料の節減および環境保護の必要性が優先事項となってきていることから、良好な耐摩耗特性を有すると共にできる限り低いヒステリシスを有する混合物を製造して、これらの混合物を、例えばトレッドのような、タイヤの上記組成物に関与する種々の半製品を製造するのに使用することのできるゴム組成物の形で加工できるようにして、転がり抵抗性に悪影響を及ぼすことなく改良された耐摩耗性を有するタイヤを得ることが望ましい。
【0003】
理想的には、例えば、タイヤトレッドは、耐摩耗性の増進と同時のタイヤへの低転がり抵抗性の付与、並びに乾燥地面上および降雨、積雪または氷結地面の双方上でのグリップ性の増強のような、多くの場合本質的に相反する多くの技術的必要条件を満たさなければならない。
【0004】
耐摩耗性を改良するには、トレッドの一定量の剛性が望ましいことが知られており、トレッドのこの剛性化は、例えば、補強用充填剤の含有量を増加させることによって或いはある種の補強用樹脂をこれらのトレッドを構成するゴム組成物中に混入させることによって得ることができる。
【0005】
残念なことに、経験上、トレッドのそのような剛性化は、そのような剛性化が上記ゴム組成物のヒステリシス損失の有意の増加を伴うので、知られている通り、転がり抵抗特性に悪影響を及ぼし、多くの場合、悲観的にその通りであることが明らかになっている。従って、低転がり抵抗性を維持しながら剛性性能を改良することは、タイヤ設計者にとって永続的な懸念ごとである。
【0006】
従って、改良された耐摩耗性を有するタイヤを転がり抵抗性に悪影響を及ぼすことなく得ることを可能にするゴム組成物を提供することが恒久的に求められている。
【発明の概要】
【0007】
上記を考慮すれば、一般的な目的は、タイヤにおける使用において許容し得る剛性とヒステリシス特性間の妥協点を達成するのを可能にするタイヤ用のゴム組成物を提供することである。
発明の簡単な説明
この目的は、本発明者等が満足し得る剛性度を達成することを可能にすると共に許容し得るヒステリシス特性を維持しているタイヤ用のゴム組成物を開発したことにおいて達成される。
【0008】
即ち、本発明の主題は、補強用充填剤と高飽和エラストマーを含み、各性質に関して目標とする妥協点を達成することを可能にするタイヤ用のゴム組成物である。
【0009】
本発明のもう1つの主題は、そのようなタイヤ用のゴム組成物の製造方法である。
本発明のもう1つの主題は、そのようなゴム組成物を含む半製品である。
また、本発明の主題は、そのような半製品を組込んだタイヤである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
発明の詳細な説明
本説明においては、特に明確に断らない限り、示す全ての百分率(%)は、質量パーセントである。さらにまた、“aとbの間”なる表現によって示される値の間隔は、いずれも、aよりも大きくからbよりも小さいまでに及ぶ値の範囲を示し(即ち、限界値aとbは排除される)、一方、“a〜b”なる表現によって示される値の間隔は、いずれも、aからbまでに及ぶ値の範囲を意味する(即ち、厳格な限定値aおよびbを含む)。
【0011】
“ベースとする組成物”なる表現は、使用する各種構成成分の混合物および/または反応生成物を含む組成物を意味するものとして理解すべきである;これらのベース構成成分の幾つかは、組成物の製造の各種段階において、特に、組成物の架橋または加硫中に少なくとも部分的に互いに反応し得るか或いは反応するように意図する。
【0012】
本発明の第1の主題は、補強用充填剤と、少なくとも1種の高飽和ジエンエラストマーを含むエラストマーマトリックスとをベースとするゴム組成物であって、上記高飽和エラストマーが、該エラストマー内にランダムに分配された、少なくとも下記の各単位:

A)

B)

C)
(上記において、R1およびR2は、同一または異なるものであって、水素原子、メチル基、またはオルソ、メタまたはパラ位置においてメチル基によって置換されているまたは置換されていないフェニル基を示し;好ましくは、R1およびR2は、同一または異なるものであって、水素原子またはメチル基を示し;さらに好ましくは、R1およびR2は、双方とも、水素原子を示す)

D)

(単位Dは、6個の炭素原子を有し、1,2−シクロヘキサンタイプの2価の炭化水素系環を形成する)

E)
(単位Eは、6個の炭素原子を有し、1,4−シクロヘキサンタイプの2価の炭化水素系環を形成する)
を含み;m、n、o、pおよびqは、0〜100の範囲の数であること;並びに、上記高飽和エラストマーが、下記の特性:
を有することに特徴を有する。
【0013】
好ましくは、上記高飽和エラストマーの各単位のモル比は、下記の基準の少なくとも1つ、より好ましくは下記の基準の全てを満たす:
【0014】
本発明の1つの変形によれば、上記高飽和エラストマーは、上記カテゴリーA、B、C、DおよびEから選ばれた単位のみから、これら単位それぞれのモル含有量においてなる。
本発明のもう1つの変形によれば、上記高飽和エラストマーは、上記カテゴリーA、B、C、DおよびEから選ばれた単位以外に、下記のカテゴリーFの単位を、上記エラストマー全体に対して25%未満、特に10%未満のモル含有量(r%で示す)で含む:

F)
(上記において、R7は、1〜4個の炭素原子を有するアルキル基、またはアリール基を示し;m + n + o + p + q + r = 100なる条件による)。
【0015】
これら2つの変形によれば、本発明の1つの特定の実施態様は、R1およびR2が、同一であって、水素原子を示すような高飽和エラストマーを提供する。
この高飽和ジエンエラストマーは、そのミクロ構造またはそのマクロ構造に関して互いに異なる高飽和ジエンエラストマーの混合物からなり得ることを理解されたい。
【0016】
本発明によれば、上記高飽和ジエンエラストマーは、少なくとも60 000g/モルで且つ多くとも1 500 000g/モルの数平均モル質量(Mn)を有する。Mw/Mn (Mwは質量平均モル質量である)に等しいその多分散性指数PDIは、1.20と3.00の間である。
【0017】
上記高飽和エラストマーは、当業者にとって既知の種々の合成方法に従って、特に、m、n、o、p、qおよびrの目標値の関数として得ることができる。一般に、上記高飽和エラストマーは、少なくとも1種の共役ジエンモノマーとエチレンとの共重合によって、既知の合成方法に従い調製し得る。このことに関しては、本出願法人名義の文献EP 1 092 731 A1号、EP 1 554 321 A1号、EP 1 656 400 A1号、EP 1 829 901 A1号、EP 1 954 705 A1号およびEP 1 957 506 A1号に記載されているメタロセン複合体を挙げることができる。
【0018】
4〜12個の炭素原子を有する共役ジエンは、共役ジエンモノマーとして特に適している。1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、アリール−1,3−ブタジエンまたは1,3−ペンタジエンを挙げることができる。好ましい局面によれば、上記ジエンモノマーは、1,3−ブタジエンまたは2−メチル−1,3−ブタジエン、さらに好ましくは1,3−ブタジエンである。
【0019】
従って、幾つかのこれらの合成方法によれば、上記高飽和エラストマーは、少なくとも1種の共役ジエンモノマーとエチレンとの、フルオレニルタイプのアンサリガンドを含むランタニドメタロセン複合体を含む触媒系の存在下での共重合によって得ることができる。このことの関しては、文献EP 1 092 731 A1号、EP 1 554 321 A1号およびEP 1 954 705 A1号に記載されているメタロセン複合体を挙げることができる。
【0020】
ポリマー鎖に単位Fを導入する本発明の変形によれば、上記高飽和エラストマーは、少なくとも1種の共役ジエンモノマーと2種のオレフィン、例えば、エチレンおよびα−オレフィンとの、アンサシクロペンタジエニル−フルオレニルタイプのリガンドを含むランタニドメタロセン複合体を含む触媒系の存在下での共重合によって得ることができる。1つの変形は、さらに、スチレン誘導体をターモノマーとして、少なくとも1種の共役ジエンモノマーおよびエチレンと一緒に使用することからなる。このことに関しては、本出願法人名義の文献EP 1 092 731 A1号、EP 1 656 400 A1号、EP 1 829 901 A1号およびEP 1 957 506 A1号に記載されているメタロセン複合体を挙げることができる。
【0021】
例えば、3〜18個の炭素原子を有する、有利には3〜6個の炭素原子を有するα−オレフィンが、α−オレフィンモノマーとして適している。プロピレン、ブテン、ペンテン、ヘキセンまたはこれらの混合物を挙げることができる。
【0022】
上記高飽和エラストマー合成の1以上の変形によれば、上記高不飽和エラストマーは、上述した文献に従い、重合条件を当業者にとって既知の手段を使用して適応化して少なくとも60 000g/モルの数平均モル質量値(Mn)を得るように調製する。例えば、重合時間を有意に延長してモノマー転換率を高め、それによって少なくとも60 000g/モルのモル質量が得るように導く。例えば、上述した文献に従い触媒系の調製中に、上記メタロセン複合体(1種以上)に対するアルキル化剤の化学量論を低めて鎖転移反応を低減し且つ少なくとも60 000g/モルのモル質量を得ることを可能なようにする。
【0023】
本発明の主題である上記ゴム組成物は、1つの変形によれば、上記高飽和ジエンエラストマーを、上記エラストマーマトリックスの唯一の構成成分として含む。
もう1つの変形によれば、本発明に従うゴム組成物のエラストマーマトリックスは、上記高飽和ジエンエラストマーとは異なる少なくとも1種の他のジエンエラストマーも含み得る。この変形によれば、この他のエラストマーは、多くとも60phr (全エラストマー100質量部当りの質量部)、好ましくは多くとも45phrの割合で存在する。さらにまた、このエラストマーは、好ましくは、少なくとも5phrの割合で存在する。
【0024】
この変形によれば、この他のジエンエラストマーは、4〜12個の炭素原子を有する共役ジエンモノマーを重合させることによって得られる任意のホモポリマー、或いは1種以上の共役ジエンを他のジエンまたは8〜20個の炭素原子を有する1種以上のビニル芳香族化合物と共重合させることによって得られる任意のコポリマーであり得る。後者の場合、そのコポリマーは、20〜99質量%のジエン単位と1〜80質量%のビニル芳香族単位を含む。
【0025】
以下が、共役ジエンとして特に適している:1,3−ブタジエン;2−メチル−1,3−ブタジエン;例えば、2,3‐ジメチル‐1,3-ブタジエン、2,3‐ジエチル‐1,3‐ブタジエン、2‐メチル‐3‐エチル‐1,3‐ブタジエンまたは2‐メチル‐3‐イソプロピル‐1,3‐ブタジエンのような2,3‐ジ(C1〜C5アルキル)‐1,3‐ブタジエン;アリール‐1,3‐ブタジエン;1,3‐ペンタジエン;2,4‐ヘキサジエン。以下が、例えば、ビニル芳香族化合物として適している:スチレン;オルソ‐、メタ‐およびパラ‐メチルスチレン;“ビニルトルエン”市販混合物;パラ‐(tert‐ブチル)スチレン;メトキシスチレン;クロロスチレン;ビニルメシチレン;ジビニルベンゼンまたはビニルナフタレン。
【0026】
この他のジエンエラストマーは、任意のミクロ構造を有し得る。この他のジエンエラストマーは、ブロック、ランダム、序列または微細序列エラストマーであり得、エマルジョン中または溶液中で調製し得る。この他のジエンエラストマーは、カップリング剤および/または星型枝分れ化剤或いは官能化剤によってカップリングしおよび/または星型枝分れ化し或いは官能化し得る。
【0027】
好ましくは、本発明において使用するこの他のジエンエラストマーは、ポリブタジエン(BR)、合成ポリイソプレン(IR)、天然ゴム(NR)、ブタジエンコポリマー、イソプレンコポリマーからなる高不飽和ジエンエラストマー(即ち、少なくとも50質量%のジエン由来単位を含む)の群から選ばれる。そのようなコポリマーは、さらに好ましくは、ブタジエン/スチレンコポリマー(SBR)、イソプレン/ブタジエンコポリマー(BIR)、イソプレン/スチレンコポリマー(SIR)およびイソプレン/ブタジエン/スチレンコポリマー(SBIR)からなる群から選ばれる。
【0028】
この他のジエンエラストマーは、ミクロ構造において、マクロ構造において或いは官能基の存在において、エラストマー鎖上のその官能基の性質または位置によって互いに異なる複数のジエンエラストマーの混合物によって調製し得ることを理解されたい。
【0029】
本発明に従うゴム組成物は、補強用充填剤、例えば、カーボンブラック、知られている通りにカップリング剤組合せるシリカのような無機補強用充填剤、またはこれら2つのタイプの充填剤の混合物を含むという他の本質的な特徴を有する。
【0030】
本発明の1つの変形によれば、上記補強用充填剤は、主として、カーボンブラックからなる、即ち、上記補強用充填剤は、充填剤総質量の少なくとも50質量%のカーボンブラックを含む。
この変形によれば、上記補強用充填剤は、100質量%のカーボンブラックからなり得る。上記補強用充填剤が100質量%未満のカーボンブラックを含む場合、充填剤の残余は、少なくとも1種の他の補強用充填剤、特に、シリカによってもたらされる。
【0031】
本発明のもう1つの変形によれば、上記補強用充填剤は、主として、カーボンブラック以外のものである、即ち、上記補強用充填剤は、充填剤の総質量に対して50質量%よりも多いカーボンブラック以外の1種以上の充填剤、特に、シリカのような無機補強用充填剤を含む;実際には、上記補強用充填剤は、専らそのような充填剤からなる。
【0032】
この他の変形によれば、カーボンブラックも存在する場合、カーボンブラックは、20phrよりも少ない、より好ましくは10phrよりも少ない(例えば0.5phrと20phrの間、特に2phrと10phrの間の)量で使用し得る。これらの範囲内では、カーボンブラックの着色(黒着色剤)およびUV安定特性からの利得を得ることができる。
【0033】
好ましくは、補強用充填剤全体(カーボンブラックおよび/またはシリカのような他の補強用充填剤)の量は、10phrと200phrの間、より好ましくは30phrと150phrの間の量である;最適量は、知られている通り、目標とする特定の用途に応じて異なる。
【0034】
個々にまたは混合物の形で使用する全てのカーボンブラック類、特に、タイヤまたはそのトレッドにおいて通常使用するブラック類(“タイヤ級”ブラック類)が、カーボンブラックとして適している。後者のうちでは、さらに詳細には、例えば、N115、N134、N234、N326、N330、N339、N347、N375、N550、N683、N772カーボンブラック類のような100、200または300シリーズの補強用カーボンブラック類或いはシリーズ500、600または700のカーボンブラック類(ASTM級)が挙げられる。これらのカーボンブラックは、商業的に入手し得るように単離状態で、或いは何らかの他の形で、例えば、使用するある種のゴム添加剤に対する担体として使用し得る。
【0035】
それ自体単独で、中間カップリング剤以外の手段によることなく、タイヤの製造を意図するゴム組成物を補強することのできる、色合いまたは由来(天然または合成)の如何にかかわらない任意の他の無機または鉱質充填剤は、この場合、カーボンブラック以外の無機補強用充填剤として理解すべきである;そのような充填剤は、一般に、知られている通り、その表面でのヒドロキシル基(−OH)の存在に特徴を有する。
【0036】
そのような無機補強用充填剤は、特に、シリカ質タイプの鉱質充填剤、好ましくはシリカ(SiO2)である。使用するシリカは、当業者にとって既知の任意の補強用シリカ、特に、共に450m2/g未満、好ましくは30〜400m2/g、特に60m2/gと300m2/gの間のBET表面積とCTAB比表面積を有する任意の沈降またはヒュームドシリカであり得る。また、アルミナ質タイプの鉱質充填剤、特にアルミナ(Al2O3)または(酸化)水酸化アルミニウム、或いは、例えば、US 6 610 261号およびUS 6 747 087号に記載されているような補強用酸化チタンも挙げられる。また、補強用充填剤としては、もう1つの性質を有する補強用充填剤、特に、カーボンブラックも、これらの補強用充填剤がシリカ質層で被覆されているか或いはそれらの表面に官能部位、特に、ヒドロキシル部位を有して上記充填剤とエラストマー間の結合を確立するのにカップリング剤の使用を必要とする限りにおいて適し得る。例としては、例えば、例えば特許文献WO 96/37547号およびWO 99/28380号に記載されているようなタイヤ用のカーボンブラックを挙げることができる。
【0037】
無機補強用充填剤が存在している物理的状態は、粉末、マイクロビーズ、顆粒またはビーズのいずれの形状であれ重要ではない。勿論、種々の補強用無機充填剤、特に、上述したような高分散性シリカの混合物も、無機補強用充填剤として理解されたい。
【0038】
上記補強用充填剤が、上記充填剤とエラストマー間の結合を確立するのにカップリング剤の使用を必要とする充填剤を含む場合、本発明に従うゴム組成物は、上記の結合を確実に確保することができる薬剤も通常通りに含む。シリカが上記組成物中に補強用充填剤として存在する場合、オルガノシラン、特にアルコキシシランポリスルフィドまたはメルカプトシラン、或いは少なくとも二官能性のポリオルガノシロキサンをカップリング剤として使用し得る。シリカ/エラストマー結合剤は、特に、極めて多くの文献に記載されており、最も良く知られているのは二官能性アルコキシシラン、例えば、アルコキシシランポリスルフィドである。
【0039】
本発明に従う組成物においては、カップリング剤の量は、有利には、20phr未満である;できる限り少ない量のカップリング剤を使用することが一般に望ましいことを理解されたい。カップリング剤の量は、好ましくは、0.5phrと12phrの間の量である。カップリング剤の存在は、カーボンブラック以外の無機補強用充填剤の存在に依存する。カップリングの量は、当業者であれば、上記充填剤の量に応じて容易に調整し得ることである;カップリング剤の量は、典型的には、カーボンブラック以外の無機補強用充填剤の量に対して0.5質量%〜15質量%程度である。
【0040】
また、本発明に従うゴム組成物は、上記カップリング剤以外に、カップリング活性化剤、充填剤被覆剤、或いは、知られている通り、ゴムマトリックス中での充填剤の分散性を改良し且つ組成物の粘度を低下させることによって、上記組成物の生状態での加工されるべき能力を改良することのできるより一般的な加工助剤も含み得る;これらの薬剤は、例えば、アルキルアルコキシシランのような加水分解性シラン;ポリオール;ポリエーテル;第一級、第二級または第三級アミン;或いは、ヒドロキシル化または加水分解性ポリオルガノシロキサンである。
【0041】
また、本発明に従うゴム組成物は、上述したカーボンブラックまたは他の無機補強用充填剤の全部または1部を置換え得る有機補強用充填剤も含み得る。有機補強用充填剤の例としては、出願WO−A−2006/069792号、出願WO−A−2006/069793号、出願WO−A−2008/003434号および出願WO−A−2008/003435号に記載されているような官能化ポリビニル有機充填剤を挙げることができる。
【0042】
また、本発明に従うゴム組成物は、例えば、顔料;オゾン劣化防止ワックス、化学オゾン劣化防止剤または酸化防止剤のような保護剤;疲労防止剤;補強用または可塑化用樹脂;例えば出願WO 02/10269号に記載されているようなメチレン受容体(例えば、フェノールノボラック樹脂)またはメチレン供与体(例えば、HMTまたはH3M);イオウまたはイオウ供与体および/または過酸化物および/またはビスマレイミドのいずれかをベースとする架橋系;加硫促進剤、加硫活性化剤;コバルト系化合物のような接着促進剤;好ましくは非芳香族性またはほんの僅かに芳香族であって、ナフテン系オイル、パラフィン系オイル、MESオイル、TDAEオイル、エーテル可塑剤、エステル可塑剤、例えば出願WO 2005/087859号、WO 2006/061064号およびWO 2007/017060号に記載されているような好ましくは30℃よりも高い高Tgを有する炭化水素系樹脂およびそのような化合物の混合物からなる群から選ばれる可塑剤のような、タイヤの製造を意図するエラストマー組成物において慣用的に使用する通常の添加剤の全部または1部も含み得る。
【0043】
また、本発明の主題は、上記で説明したようなゴム組成物の製造方法でもある。
上記組成物は、適切なミキサー内で、当業者にとって周知の2つの連続する製造段階、即ち、110℃と190℃の間、好ましくは130℃と180℃の間の最高温度までの高温で熱機械的に加工または混練する第1段階(“非生産”段階)、および、その後の、典型的には110℃よりも低い、例えば、40℃と100℃の間の低めの温度まで機械加工する第2の段階(“生産”段階)を使用して製造し、この仕上げ段階において、架橋系を混入する。
【0044】
本発明に従うゴム組成物を製造する本発明に従う方法は、少なくとも、下記の各段階を含む:
・130℃と200℃の間、好ましくは145℃と185℃の間の最高温度において、架橋系を除いた上記ゴム組成物において必要なベース構成成分と必要に応じての接着促進剤との熱機械加工の第1工程(“非生産”段階とも称する)を、上記高飽和エラストマーを含むエラストマーマトリックス中に各組成物成分を1以上の段階において混練することにより緊密に混和することによって実施する段階;その後の、
・上記第1段階の上記最高温度よりも低い、好ましくは120℃よりも低い温度において、上記架橋系と必要に応じての接着促進剤とを混和する機械加工の第2段階を実施する段階。
【0045】
本発明の変形によれば、上記ゴム組成物の製造方法は、上述したような高飽和エラストマーの、その各種合成方法に従う製造段階を含む。
そのようにして得られた最終組成物は、その後、例えばシートまたはプラークの形にカレンダー加工することができ、或いは、押出加工して、例えば、タイヤ用を意図するゴム半製品として使用し得るゴム形状要素を形成することができる。
【0046】
本発明のもう1つの主題は、本発明に従う補強ゴム組成物を含むゴム半製品である。
本発明のもう1つの主題は、その少なくとも1つの構成要素が本発明に従う補強ゴム組成物を含むゴム半製品であるところのタイヤである。
【0047】
本発明に従う補強ゴム組成物を特徴付けしている、ヒステリシス特性の悪化のなしの改良された剛性のために、そのトレッドが上記組成物を含むタイヤは、有利な耐摩耗性を、転がり抵抗性に悪影響を及ぼすことなく有することに注目されたい。
本発明の上述の特徴並びに他の特徴は、非限定的な例示によって示す本発明の幾つかの典型的な実施態様の以下の説明を読み取ることでより一層良好に理解されるであろう。
【0048】
使用する測定および試験方法
上記ゴム組成物は、下記に示すように、硬化後に特性決定する。
a) 機械的性質
引張試験
これらの引張試験は、弾性応力および破断点諸性質の測定を可能にする。特に断らない限り、これらの試験は、1988年9月のフランス規格 NF T 46−002に従って実施する。2回目の伸びにおいて(即ち、測定自体においてもたらされる伸長率においての順応サイクル後に)、公称割線モジュラス(即ち、MPaでの見掛け応力)を10%伸び(EM10で示す)および100%伸び(EM100で示す)において測定する。順応割線モジュラスを測定する引張測定は、60℃±2℃の温度において、さらに、標準の湿度測定条件(50±5%の相対湿度)下に実施する。
【0049】
b) 動的特性
ヒステリシスを代表する動的特性G*およびtan(δ)maxを、規格ASTM D 5992‐96に従って、粘度アナライザー(Metravib VA4000)において測定する。単純な交互正弦波剪断応力に10Hzの周波数で供した加硫組成物のサンプル(4mmの厚さおよび400mm2の断面積を有する円筒状試験標本)の応答を、規格ASTM D 1349−99に従う標準温度条件(23℃)下に或いは必要に応じて異なる温度において記録する;特に、例証する各実施例においては、測定温度は60℃である。頂点間歪み振幅掃引を、0.1%から100%まで(前向きサイクル)、次いで、100%から0.1%まで(戻りサイクル)実施する。使用する結果は、複素動的剪断モジュラス(G*)および損失係数tan(δ)である。戻りサイクルにおいて、tan(δ)maxで表す観察されたtan(δ)の最高値が示される。
【実施例】
【0050】
以下の試験は、同程度のヒステリシス、ひいては転がり抵抗性を維持しながらの、或いはヒステリシス値を対照組成物との比較において低下させることによって改良されたヒステリシスでもってさえの、本発明に従うゴム組成物の改良された剛性を実証する。試験した各組成物は、補強用充填剤がカーボンブラックであって、特にトレッドを構成し得る。
【0051】
エラストマー1は、以下のように構成されたSBRである:15%のスチレン単位、20%の1,2−ブタジエン単位および65%の1,4−ブタジエン単位 (Tg = −49℃)。
エラストマー2は、天然ゴムである。
【0052】
エラストマーAは、本出願法人名義の特許出願EP 1954 705 B1号の実施例4−2に従う重合方法に従い、エチレンとブタジエンとの共重合によって得られた68モル%のエチレン単位を有するEBR (エチレン/ブタジエンゴム)である。重合時間は、モル質量 Mn = 170 000g/モルを1.8に等しい多分散性指数でもって得られるように調整した。
【0053】
エラストマーBは、本出願法人名義の特許出願EP 1954 705 B1号の実施例7−2に従う重合方法に従い、エチレンとブタジエンとの共重合によって得られた68モル%のエチレン単位を有するEBR (エチレン/ブタジエンゴム)である。重合時間は、164 000g/モルに等しい高モル質量Mnを、該EBRの他の特徴を有意に変えないで得られるように延長した。
【0054】
これらのエラストマーの特徴は、下記の表1に要約している。

表1
【0055】
組成物
下記の表2に示す6通りの組成物を比較する。これらの組成物の3通りは、本発明が提案する配合に従っていない。
組成物C1:不飽和ジエンエラストマーを含む対照;
組成物C2:不飽和ジエンエラストマーを含み、充填剤の量を増大させることによって剛性化した対照;
組成物C3:不飽和ジエンエラストマーのブレンドを含む対照。
【0056】
組成物M1およびM2は、本発明に従っており、Aで示す上記高飽和ジエンエラストマーをベースとする。
組成物Nは、本発明に従っており、Bで示す上記高飽和ジエンエラストマーをベースとする。
【0057】
下記の試験を、以下の方法で実施する:
ジエンエラストマー(1種以上)、補強用充填剤(シリカおよびカーボンブラック)、さらにまた、加硫系を除いた各種他の成分を、初期容器温度がおよそ80℃である密閉ミキサーに連続して導入する(最終充填比:およそ70容量%)。その後、熱機械加工(非生産段階)を、合計でおよそ3〜4分間続く1回の工程において、165℃の最高“落下”温度に達するまで実施する。そのようにして得られた混合物を回収し、冷却し、次いで、イオウおよびスルフェンアミドタイプの促進剤を30℃のミキサー(ホモフィニッシャー)において混入し、全てを適切な時間(例えば、およそ10分間)混合する(生産段階)。
【0058】
その後、そのようにして得られた組成物を、ゴムのプラーク(2〜3mm厚)または薄シートのいずれかの形にカレンダー加工して、その物理的または機械的性質を測定する。
【0059】
試験した各組成物は、下記の表2に詳細に示している:

表2
(1) 上記で説明した不飽和エラストマー1
(2) 天然ゴム
(3) 上記で調製したような高飽和エラストマー
(4) カーボンブラック N347
(5) フェノールホルムアルデヒド樹脂
(6) 2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリン
(7) N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアゾールスルフェンアミド
(8) ヘキサメチレンテトラミン
【0060】
結果
各組成物の性質は、下記の表3に示している。

表3
【0061】
本発明に従う各組成物の低歪みと中程度の歪みおける剛性は、対照組成物C1およびC3の剛性よりも高く、さらに、剛性を改良する目的でもって対照組成物C1よりも多量の充填剤を含む対照組成物C2の剛性と同程度であることが特筆される。充填剤量のこの増加は、対照組成物C1に照らせば、対照組成物C2のヒステリシス特性に対して悪影響を有することが明らかに観察される。
機械的性質のこの改良は、そのような組成物から製造したトレッドを備えたタイヤの耐摩耗性の点で好ましい。
【0062】
剛性のこの改良にもかかわらず、本発明に従う組成物は、組成物C1およびC3と比較して対照組成物C2において観察されていることとは反対に、対照組成物C1およびC3のヒステリシス特性と比較して有意に改良されたヒステリシス特性を有している。
このことは、そのような組成物から製造したトレッドを備えたタイヤの転がり抵抗性を低下させるためには好ましいものである。
【0063】
結論として、これらの試験の結果は、本発明に従う高飽和ジエンエラストマーの使用が本発明に従うゴム組成物の剛性の特筆すべき改良、ひいては上記組成物を含むタイヤの耐摩耗性の改良をもたらすと共に上記組成物のヒステリシス、ひいては通常のタイヤと比較して上記タイヤの転がり抵抗性を低下させていることを証明している。