特許第6282753号(P6282753)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6282753推定値算出装置、推定値算出方法、プログラム及び記録媒体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6282753
(24)【登録日】2018年2月2日
(45)【発行日】2018年2月21日
(54)【発明の名称】推定値算出装置、推定値算出方法、プログラム及び記録媒体
(51)【国際特許分類】
   B63B 49/00 20060101AFI20180208BHJP
【FI】
   B63B49/00 Z
【請求項の数】9
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2016-550879(P2016-550879)
(86)(22)【出願日】2015年10月2日
(86)【国際出願番号】JP2015078069
(87)【国際公開番号】WO2017056317
(87)【国際公開日】20170406
【審査請求日】2016年8月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000232818
【氏名又は名称】日本郵船株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000752
【氏名又は名称】特許業務法人朝日特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】角田 領
(72)【発明者】
【氏名】山下 芳郎
【審査官】 米澤 篤
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2014/188584(WO,A1)
【文献】 特開2014−198515(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/128915(WO,A1)
【文献】 特開2011−94585(JP,A)
【文献】 特開2008−232085(JP,A)
【文献】 特開2014−040245(JP,A)
【文献】 特開昭60−166819(JP,A)
【文献】 特公昭62−13223(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63B 49/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶の馬力又は燃料消費量と相関する値であって、計測又は算出されたパラメータを2種類以上取得するパラメータ取得手段と、
前記船舶の馬力又は燃料消費量と、一の時点の前記船舶の馬力又は燃料消費量と前記パラメータの種類に応じた当該一の時点とは異なる対応する時点の前記パラメータとに基づく多変量解析により求めた前記2種類以上のパラメータとの関係を示すデータを記憶する記憶手段と、
前記パラメータ取得手段により取得された前記2種類以上のパラメータと、前記データとに基づいて、前記馬力又は燃料消費量の推定値を算出する推定手段と
を備える推定値算出装置。
【請求項2】
前記船舶の馬力又は燃料消費量と、前記パラメータ取得手段により取得された前記パラメータとの関係を多変量解析して、前記データを作成する解析手段
を備えることを特徴とする請求項1に記載の推定値算出装置。
【請求項3】
前記船舶の馬力又は燃料消費量の計測値を取得する計測値取得手段と、
前記馬力又は燃料消費量の計測値と前記推定値とを比較して、前記船舶又は前記船舶が備える計器の異常の有無を検知する検知手段と
を備えることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の推定値算出装置。
【請求項4】
前記船舶の馬力又は燃料消費量の計測値を取得する計測値取得手段
を備え
前記推定手段は、
前記パラメータと、前記船舶の馬力、及び燃料消費量の一方の計測値とに基づいて、前記馬力、及び前記燃料消費量の他方の推定値を算出する
ことを特徴とする請求項1から請求項のいずれか1項に記載の推定値算出装置。
【請求項5】
前記推定手段は、
前記船舶の動力を発生させる原動機の回転数、前記船舶の速度、前記原動機が有する内燃機関に給気する過給機の回転数、前記内燃機関への燃料供給量を制御するコントロールラックの変位、前記原動機によって回転させられるプロペラのスリップ、前記船舶の風圧抵抗、及び前記過給機から前記内燃機関に送り込まれる加圧気体の掃気圧力のうちのつ以上を前記2種類以上のパラメータとして、前記推定値を算出する
ことを特徴とする請求項1から請求項のいずれか1項に記載の推定値算出装置。
【請求項6】
前記パラメータ取得手段は、
前記船舶の位置における気象海象の状態を示す気象海象データを取得し、
前記推定手段は、
前記気象海象データを更に用いて、前記推定値を算出する
ことを特徴とする請求項1から請求項のいずれか1項に記載の推定値算出装置。
【請求項7】
船舶の馬力又は燃料消費量と相関する値であって、計測又は算出されたパラメータを2種類以上取得するステップと、
取得した前記2種類以上のパラメータと、一の時点の前記船舶の馬力又は燃料消費量と前記パラメータの種類に応じた当該一の時点とは異なる対応する時点の前記パラメータとに基づく多変量解析により求めた前記船舶の馬力又は燃料消費量と前記2種類以上のパラメータとの関係を示すデータとに基づいて、前記馬力又は燃料消費量の推定値を算出するステップと
を備える推定値算出方法。
【請求項8】
コンピュータに、
船舶の馬力又は燃料消費量と相関する値であって、計測又は算出されたパラメータを2種類以上取得するステップと、
取得した前記2種類以上のパラメータと、一の時点の前記船舶の馬力又は燃料消費量と前記パラメータの種類に応じた当該一の時点とは異なる対応する時点の前記パラメータとに基づく多変量解析により求めた前記船舶の馬力又は燃料消費量と前記2種類以上のパラメータとの関係を示すデータとに基づいて、前記馬力又は燃料消費量の推定値を算出するステップと
を実行させるためのプログラム。
【請求項9】
コンピュータに、
船舶の馬力又は燃料消費量と相関する値であって、計測又は算出されたパラメータを2種類以上取得するステップと、
取得した前記2種類以上のパラメータと、一の時点の前記船舶の馬力又は燃料消費量と前記パラメータの種類に応じた当該一の時点とは異なる対応する時点の前記パラメータとに基づく多変量解析により求めた前記船舶の馬力又は燃料消費量と前記2種類以上のパラメータとの関係を示すデータとに基づいて、前記馬力又は燃料消費量の推定値を算出するステップと
を実行させるためのプログラムを持続的に記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶の馬力又は燃料消費量を推定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、馬力、速力、プロペラ回転数、及び燃料消費量等の船舶の基本特性を基礎として、船舶の実海域船舶性能を評価することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−286230号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、船舶には、当該船舶の馬力を逐次計測して計測値のデータを出力する軸馬力計、或いは当該船舶の燃料消費量を逐次計測して計測値のデータを出力する流量計が搭載されていないことがある。また、船舶にこれらの計器が搭載されている場合でも、当該計器の故障等の不具合を原因として、計測値のデータが出力されない場合がある。船舶の馬力或いは燃料消費量を特定できないと、当該船舶の性能解析等に支障を来たす原因となる。
そこで、本発明は、船舶の馬力又は燃料消費量を間接的に推定するための技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明は、船舶の馬力又は燃料消費量と相関する値であって、計測又は算出されたパラメータを2種類以上取得するパラメータ取得手段と、前記船舶の馬力又は燃料消費量と、一の時点の前記船舶の馬力又は燃料消費量と前記パラメータの種類に応じた当該一の時点とは異なる対応する時点の前記パラメータとに基づく多変量解析により求めた前記2種類以上のパラメータとの関係を示すデータを記憶する記憶手段と、前記パラメータ取得手段により取得された前記2種類以上のパラメータと、前記データとに基づいて、前記馬力又は燃料消費量の推定値を算出する推定手段とを備える推定値算出装置を提供する。
【0007】
本発明の推定値算出装置において、前記船舶の馬力又は燃料消費量と、前記パラメータ取得手段により取得された前記パラメータとの関係を多変量解析して、前記データを作成する解析手段を備えてもよい
【0008】
本発明の推定値算出装置において、前記船舶の馬力又は燃料消費量の計測値を取得する計測値取得手段と、前記馬力又は燃料消費量の計測値と前記推定値とを比較して、前記船舶又は前記船舶が備える計器の異常の有無を検知する検知手段とを備えてもよい。
【0009】
本発明の推定値算出装置において、前記船舶の馬力又は燃料消費量の計測値を取得する計測値取得手段を備え、前記推定手段は、前記パラメータと、前記船舶の馬力、及び燃料消費量の一方の計測値とに基づいて、前記馬力、及び前記燃料消費量の他方の推定値を算出してもよい。
【0010】
本発明の推定値算出装置において、前記推定手段は、前記船舶の動力を発生させる原動機の回転数、前記船舶の速度、前記原動機が有する内燃機関に給気する過給機の回転数、前記内燃機関への燃料供給量を制御するコントロールラックの変位、前記原動機によって回転させられるプロペラのスリップ、前記船舶の風圧抵抗、及び前記過給機から前記内燃機関に送り込まれる加圧気体の掃気圧力のうちのつ以上を前記2種類以上のパラメータとして、前記推定値を算出してもよい。
【0011】
本発明の推定値算出装置において、前記パラメータ取得手段は、前記船舶の位置における気象海象の状態を示す気象海象データを取得し、前記推定手段は、前記気象海象データを更に用いて、前記推定値を算出してもよい。
【0012】
た、本発明は、船舶の馬力又は燃料消費量と相関する値であって、計測又は算出されたパラメータを2種類以上取得するステップと、取得した前記2種類以上のパラメータと、一の時点の前記船舶の馬力又は燃料消費量と前記パラメータの種類に応じた当該一の時点とは異なる対応する時点の前記パラメータとに基づく多変量解析により求めた前記船舶の馬力又は燃料消費量と前記2種類以上のパラメータとの関係を示すデータとに基づいて、前記馬力又は燃料消費量の推定値を算出するステップとを備える推定値算出方法を提供する。
【0013】
た、本発明は、コンピュータに、船舶の馬力又は燃料消費量と相関する値であって、計測又は算出されたパラメータを2種類以上取得するステップと、取得した前記2種類以上のパラメータと、一の時点の前記船舶の馬力又は燃料消費量と前記パラメータの種類に応じた当該一の時点とは異なる対応する時点の前記パラメータとに基づく多変量解析により求めた前記船舶の馬力又は燃料消費量と前記2種類以上のパラメータとの関係を示すデータとに基づいて、前記馬力又は燃料消費量の推定値を算出するステップとを実行させるためのプログラムを提供する。
【0014】
た、本発明は、コンピュータに、船舶の馬力又は燃料消費量と相関する値であって、計測又は算出されたパラメータを2種類以上取得するステップと、取得した前記2種類以上のパラメータと、一の時点の前記船舶の馬力又は燃料消費量と前記パラメータの種類に応じた当該一の時点とは異なる対応する時点の前記パラメータとに基づく多変量解析により求めた前記船舶の馬力又は燃料消費量と前記2種類以上のパラメータとの関係を示すデータとに基づいて、前記馬力又は燃料消費量の推定値を算出するステップとを実行させるためのプログラムを持続的に記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体を提供する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、船舶の馬力又は燃料消費量を間接的に推定するための技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の一実施形態に係る船舶の模式図。
図2】同実施形態に係る原動機の構成を示す図。
図3】同実施形態に係るコンピュータ装置の構成を示すブロック図。
図4】同実施形態に係るテーブルT1の構成例を示す図。
図5】同実施形態に係るテーブルT2の構成例を示す図。
図6A】同実施形態に係るコンピュータ装置がステップS2で取得する計測値を示すグラフ。
図6B】同実施形態に係るコンピュータ装置がステップS2で取得する計測値を示すグラフ。
図7】同実施形態に係るコンピュータ装置が行う回帰式作成処理を示すフローチャート。
図8】同実施形態に係るコンピュータ装置が行う推定値算出処理を示すフローチャート。
図9】同推定値算出処理で求められた船舶の馬力、及び燃料消費量の推定値を示すグラフ。
図10】同実施形態に係る船舶の馬力の計測値と推定値を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の一実施形態について図面を参照しつつ説明する。以下の説明で参照する各図において、各部材、各領域等を認識可能な大きさとするために、実際とは縮尺を異ならせている場合がある。
図1は、本発明の一実施形態に係る船舶の模式図である。
船舶1は、例えばコンテナ船で、船舶1の本体である船体100と、原動機200と、燃料タンク300と、燃料供給経路400と、コンピュータ装置500と、推進装置600と、計器群700とを備える。
原動機200は、燃料タンク300に貯留された燃料を動力源として、船舶1の動力を発生させる。燃料タンク300は、液体の燃料(例えば重油)を貯留する。燃料供給経路400は、燃料タンク300から原動機200に至る燃料供給経路である。燃料供給経路400には、流量計410が設けられている。流量計410は、燃料供給経路400を流れる燃料の流量を逐次計測し、計測値のデータを、コンピュータ装置500へ出力する。
【0018】
推進装置600は、原動機200が発生させた動力を用いて、船舶1の推進力を発生させる。具体的には、推進装置600は、推進軸(プロペラ軸)610と、推進軸610に接続されたプロペラ620と、回転計630とを備える。一般の船舶には、軸馬力計が搭載されていない場合もしばしばある。図1及び後で説明する図3では、船舶1に軸馬力計640が搭載されている場合と、搭載されていない場合とのどちらの場合もありうるという意味で、軸馬力計640を破線で図示している。
推進装置600において、原動機200が発生させた動力により推進軸610が回転することで、船尾側に設けられたプロペラ620が回転する。回転計630は、推進軸610上に設けられ、原動機200の回転数として推進軸610の回転数(以下「軸回転数」という。)を逐次計測し、計測値のデータをコンピュータ装置500へ出力する。軸馬力計640は、推進軸610上に設けられ、軸回転数、プロペラ620に供給される馬力(軸馬力)、及びトルクを逐次計測し、計測値のデータをコンピュータ装置500へ出力する。
【0019】
コンピュータ装置500は、船員が活動するための居住区501に配置されたコンピュータ装置である。コンピュータ装置500は、回転計630、軸馬力計640、及び船速計710、更には原動機200、及び燃料供給経路400内に設けられた各種の計器からデータを集約する、データロガーとして機能する。
【0020】
計器群700は、船舶1に備えられた様々な計器を含み、船速計710と、風向風速計720とを備える。船速計710は、船舶1の船速を逐次計測する。船速計710は、例えば、対水船速を計測する対水船速計、及び対地船速を計測する対水船速計を含む。以下の説明で「船速」とは、対水船速のことをいう。対水船速計は、例えば音響式船速計であるが、その方式は音響式に限られない。対地船速計は、GPS(Global Positioning System)等の衛星測位システムを利用して対地船速を計測するが、その方式は衛星測位システムを利用する方式に限られない。風向風速計720は、船舶1の位置の気象及び海象(以下「気象海象」という。)の状態の一例である、風向及び風速(相対風速)を逐次計測する。計器群700は、これ以外にも、気温、湿度、気圧、雨量、潮速、潮高、波高、波周期等の、船舶1の地点の気象海象の状態を計測する各計器、及び船舶1の船体運動を計測する計器等を備える。
【0021】
図2は、原動機200の構成を示す図である。図2の破線矢印は、気体の流れを意味する。図2に示すように、原動機200は、内燃機関210と、過給機(ターボチャージャともいう。)220と、空気冷却機221と、掃気マニホールド222と、排気マニホールド223と、燃料噴射ポンプ230とを備える。
燃料噴射ポンプ230は、内燃機関210の燃焼室213への燃料の供給を制御するコントロールラック231と、コントロールラック231の基準位置からの変位を計測するラック位置センサ250とを備える。燃料噴射ポンプ230は、図示せぬ電子ガバナによるコントロールラック231の位置制御に従った燃料供給量で、内燃機関210の噴射ノズル214へ燃料を供給する。ラック位置センサ250は、コントロールラック231の変位を逐次計測し、その計測値のデータをコンピュータ装置500へ出力する。
【0022】
内燃機関210は、例えばディーゼル機関であり、シリンダ211と、ピストン212と、燃焼室213と、噴射ノズル214とを備える。図2には、シリンダ211が1つだけ示されているが、複数備えられてもよい。シリンダ211には、燃料噴射ポンプ230から供給された燃料を燃焼室213内に噴射する噴射ノズル214が設けられている。シリンダ211は、過給機220から供給される加圧気体を図示せぬ掃気ポートを介して吸気し、燃焼室213において、噴射ノズル214から噴射された燃料との混合気を生成し、当該混合気を燃焼させる。シリンダ211の内部には、円柱状のピストン212が設けられている。燃焼室213で混合気が燃焼すると、熱エネルギーが運動エネルギーに変換されて、ピストン212が、シリンダ211の内側を軸方向に沿って往復移動する。ピストン212は、シリンダ211内で図示せぬクランク軸と連結される。図1で説明した推進軸610は、このクランク軸と直接的又は間接的に連結されることにより回転させられる。
【0023】
過給機220は、ブロア2201とタービン2202とを備え、ブロア2201とタービン2202とは回転軸2203を介して連結される。過給機220は、燃焼室213に加圧気体を供給するとともに、燃焼室213からの排気ガスにより駆動される。TC回転数センサ240は、例えば回転軸2203上に設けられ、過給機220(回転軸2203)の回転数(以下「TC回転数」という。)を逐次計測して、計測値のデータをコンピュータ装置500へ出力する。
【0024】
空気冷却機221は、過給機220のブロア2201により加圧されて温度上昇した空気を、冷却媒体により冷却する。掃気マニホールド222は、冷却された加圧気体を一時的に貯留した後、掃気ポートを介して燃焼室213に加圧気体を送り込む。排気マニホールド223は、燃焼室213での燃焼によって生成された排気ガスを一時的に貯留した後、過給機220のタービン2202に供給する。
掃気圧力センサ260は、例えば掃気マニホールド222と内燃機関210とを接続する導通管内に配置され、過給機220から内燃機関210に送り込まれる加圧気体の掃気圧力を逐次計測して、計測値のデータをコンピュータ装置500へ出力する。
【0025】
なお、図1,2で説明した回転計630、軸馬力計640、流量計410、船速計710、ラック位置センサ250、TC回転数センサ240、及び掃気圧力センサ260の各計器は、計測値のデータを、計測日時を特定可能な形式で、コンピュータ装置500へ出力する。これらの各計器は、本実施形態では、計測値を逐次出力(例えばリアルタイムで出力)する。ただし、これらの計器には、所定の期間の計測により得た計測値を蓄積しておき、所定のタイミングにまとめてコンピュータ装置500へ出力する計器が含まれていてもよい。
【0026】
図3は、コンピュータ装置500の構成を示すブロック図である。図3に示すように、コンピュータ装置500は、ハードウェア構成として、制御部510と、記憶部520と、表示部530と、通信部540と、操作部550と、インタフェース560とを備える。
制御部510は、演算処理装置としてのCPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)を有するプロセッサである。CPUは、ROM又は記憶部520に記憶されたプログラムをRAMに読み出して実行することにより、コンピュータ装置500の各部を制御する。記憶部520は、例えばハードディスク装置で、コンピュータ装置500を動作させるためのプログラム、及びテーブルT1,T2を記憶する。
【0027】
図4に示すように、テーブルT1は、軸回転数、船速、TC回転数、ラック変位、スリップ、風圧抵抗、及び掃気圧力の時系列データを、計測日時と対応づけて格納するテーブルである。本実施形態では、軸回転数、船速、TC回転数、ラック変位、及び掃気圧力は、前述した計器によって直接的に計測される計測値であり、スリップ、及び風圧抵抗は、当該計器よって間接的に計測される計測値である。スリップは、プロペラ620の回転状態を示すスリップ率で、船舶1の理想的な船速に対する船速計710により計測された船速の割合を、百分率[%]で表した値である。船舶1の理想的な船速は、プロペラ620スリップをゼロとした場合の船速で、推進軸610の軸回転数から算出される。風圧抵抗は、船舶1が受ける風圧抵抗(単位は[kg/m3])で、例えば、−1*(空気密度)*(船舶1の正面投影面積)*(風圧抵抗係数)*(相対風速)^2/2の演算式の演算を行うことにより算出される。相対風速は、風向風速計720の計測値が用いられる。図5に示すように、テーブルT2は、船舶1の馬力、及び燃料消費量の時系列データを、計測日時と対応づけて格納するテーブルである。本実施形態では、馬力は、軸馬力計640によって計測されたトルクから間接的に計測される計測値である。ただし、馬力の時系列データは、船舶1に軸馬力計640が搭載されている場合にのみ、テーブルT1に記録される。燃料消費量は、流量計410によって直接的に計測される計測値である。制御部510は、流量計410により計測された燃料の流量に基づいて、燃料供給経路400を流れる燃料の単位時間当たりの流量を計算する。本実施形態では、この流量を、船舶1の燃料消費量とする。
【0028】
表示部530は、例えば液晶ディスプレイであり、各種の情報を表示する。通信部540は、例えば、ネットワークと通信するための通信回路及びアンテナを備え、陸上に設置されたコンピュータ装置と当該ネットワーク経由で通信する。操作部550は、例えばキーボード及びマウスを備え、操作者(ここでは船員)が行った操作を受け付ける。インタフェース560は、船舶1に搭載された各計器からデータの入力を受け付ける。
【0029】
コンピュータ装置500は、船舶1の馬力又は燃料消費量の推定値を算出する推定値算出装置として機能する。この推定値の算出に関する機能として、制御部510は、パラメータ取得手段511と、計測値取得手段512と、解析手段513と、推定手段514と、処理手段515とに相当する機能を実現する。
パラメータ取得手段511は、船舶1の馬力又は燃料消費量と相関する値であって、計測又は算出されたパラメータを取得する手段である。本実施形態の具体的なパラメータとして、軸回転数、船速、TC回転数、ラック変位、プロペラ620のスリップ、船舶1の風圧抵抗、及び掃気圧力の計測値がある。パラメータ取得手段511は、取得したパラメータをテーブルT1に記録し、また、テーブルT1に記録されたパラメータを取得する。
【0030】
計測値取得手段512は、インタフェース560を介して、船舶1の馬力又は燃料消費量を計測した計測値を取得する手段である。計測値取得手段512は、取得した計測値をテーブルT2に記録し、また、テーブルT2に記録された計測値を取得する。
【0031】
解析手段513は、船舶1の馬力又は燃料消費量と、パラメータ取得手段511により取得されたパラメータとの関係を表すデータを作成する手段である。解析手段513は、本実施形態では、多変量解析の一例である回帰分析を行って、船舶1の馬力又は燃料消費量と、パラメータ取得手段511により取得されたパラメータとの関係を表す回帰式を作成する。解析手段513により作成されたデータは、記憶部520に記憶される。
【0032】
推定手段514は、パラメータ取得手段511により取得されたパラメータと、解析手段513により作成されて記憶部520に記憶されたデータとに基づいて、船舶1の馬力又は燃料消費量の推定値を算出する手段である。推定手段514は、本実施形態では、軸回転数、船速、TC回転数、ラック変位、プロペラ620のスリップ、船舶1の風圧抵抗、及び掃気圧力のうちの2つ以上のパラメータに基づいて、推定値を算出する。
【0033】
処理手段515は、推定手段514により算出された船舶1の馬力、又は燃料消費量の推定値に基づいて、所定の処理を行う手段である。処理手段515の機能の一つとして、検知手段5151がある。検知手段5151は、船舶1の馬力又は燃料消費量の計測値と推定値とを比較して、船舶1又は船舶1に備えられた計器の異常の有無を検知する。
【0034】
図6Aは、軸回転数、船速、及びTC回転数の時系列データを示すグラフで、図6Bは、ラック変位、スリップ量、及び風圧抵抗の時系列データを示すグラフである。図6A,6Bの各グラフの横軸は時間を表す。図6A,6Bの各グラフは、同一の期間(ここでは2週間程度)の計測値の時系列データが示されている。図6Aのグラフにおいて、軸回転数及びTC回転数の単位は、[rpm](1分間あたりの回転数)である。船速の単位は、[knot](ノット)である。
【0035】
図6Aに示す軸回転数、船速、TC回転数、及び図6Bに示すラック変位は、計測値が増減するタイミングが概ね一致し、且つその変化量の大小に関連があることが分かる。例えば、船舶1において軸回転数或いは船速を増加させるためには、燃料消費量が増加する。また、船舶1の軸回転数を増加させると船舶1の馬力は大きくなり、馬力が大きくなると船速が増加する。また、TC回転数が増加すると、内燃機関210への給気量が増加し、内燃機関210における燃料消費量も増加する。コントロールラック231のラック変位により定まる燃料供給量が増加すると、内燃機関210における燃料消費量が増大する。このように船舶1において、燃料消費量が増加する運転が行われるときは、船舶1の馬力が大きくなることがある。
また、プロペラ620のスリップが大きいほど、或いは船舶1の風圧抵抗が大きいほど、船舶1を目標の船速とするためには、燃料消費量を大きくし、船舶1の馬力を大きくする必要がある。
【0036】
このように軸回転数、船速、TC回転数、ラック変位、プロペラ620のスリップ、及び風圧抵抗の各パラメータは、船舶1の馬力或いは燃料消費量と相関する。よって、船舶1の馬力又は燃料消費量と、軸回転数、船速、TC回転数、ラック変位、プロペラ620のスリップ、及び船舶1の風圧抵抗の各パラメータとの相関に基づいて、船舶1の馬力或いは燃料消費量を推定するための回帰式を得ることができる。
【0037】
なお、軸回転数、船速、TC回転数、ラック変位、スリップ、又は風圧抵抗の変化に伴って、船舶1の馬力、又は燃料消費量が変化する場合、これらの変化が同時に現れるとは限らず、或る程度の時間差が生じることもありうる。ただし、本実施形態では説明を簡単にするために、この時間差がないものとみなし、同一の時点の計測値同士が対応付けられるものとする。
【0038】
コンピュータ装置500の制御部510は、船舶1の馬力又は燃料消費量の推定値を算出するための回帰式を作成する回帰式作成処理と、この回帰式を用いて馬力又は燃料消費量の推定値を算出する推定値算出処理とを行う。以下に、コンピュータ装置500が行う処理を具体的に説明する。
【0039】
<A:回帰式作成処理>
図7は、コンピュータ装置500が行う回帰式作成処理を示すフローチャートである。回帰式作成処理は、船舶1の顧客への引き渡し後に行われてもよいし、引き渡し前のスピードトライアルの際等に行われてもよい。
まず、コンピュータ装置500の制御部510は、船舶1の馬力、及び燃料消費量を計測した計測値を取得する(ステップS1)。制御部510は、ここでは、軸馬力計640から馬力の計測値の時系列データを、流量計410から燃料消費量の計測値の時系列データを取得する。計測値の時系列データは、複数の時点の各時点で計測された計測データを、計測日時の順番で並べたデータである。
【0040】
次に、制御部510は、軸回転数、船速、TC回転数、ラック変位、プロペラ620のスリップ、船舶1の風圧抵抗、及び掃気圧力のうちの1つ以上を計測した計測値を取得する(ステップS2)。本実施形態では、制御部510は、軸回転数、船速、TC回転数、ラック変位、プロペラ620のスリップ、船舶1の風圧抵抗、及び掃気圧力の計7つ(計7種類)について、計測値の時系列データを取得する。
なお、ステップS1及びステップS2では、同じ期間の計測値を含む時系列データが取得される。
【0041】
次に、制御部510は、ステップS1で取得した計測値、及びステップS2で取得した計測値(ここでは、掃気圧力の計測値を除く6つの計測値である。)に基づいて、下記式(1)に示す回帰式を作成する(ステップS3)。制御部510は、船舶1の馬力の推定用の回帰式と、燃料消費量の推定用の回帰式とを作成する。
Y=A*X1+B*X2+C*X3+D*X4+E*X5+F*X6+Z ・・・(1)
【0042】
式(1)において、Yは目的変数である。目的変数は、本実施形態では、船舶1の馬力、又は燃料消費量の値を表す。X1、X2、X3、X4、X5、X6は、説明変数である。本実施形態のX1、X2、X3、X4、X5、X6は、順に、軸回転数、船速、TC回転数、ラック変位、プロペラ620のスリップ、船舶1の風圧抵抗の値を表す。A、B、C、D、E、Fは、それぞれX1〜X6の説明変数に乗じられる係数である。Zは定数項である。
回帰式を作成する際には、制御部510は、複数の時点の各時点に関し、互いに対応付けられた同一の時点の計測値を、目的変数、又は説明変数にそれぞれ代入する。制御部510は、Yに、ステップS1で取得した馬力又は燃料消費量の計測値を、X1〜X6の各々に、軸回転数、船速、TC回転数、ラック変位、プロペラ620のスリップ、及び船舶1の風圧抵抗の計測値を代入する。そして、制御部510は、多変量解析としての重回帰分析を行うことにより、A〜Fの各係数、及びZの定数項の値を算出する。
なお、船舶1が、軸馬力計640が常時搭載された船舶でない場合でも、回帰式作成処理が行われる機会(例えば、顧客への引き渡し前のスピードトライアルの実施時)に一時的に軸馬力計640が装着されることにより、制御部510は船舶1の馬力の計測値を得ることが可能である。
【0043】
制御部510は、ステップS3で回帰式を作成すると、これを記憶部520に記憶させる(ステップS4)。制御部510は、この記憶した回帰式を用いて、以下で説明する推定値算出処理を行う。
【0044】
<B:推定値算出処理>
図8は、コンピュータ装置500が行う推定値算出処理を示すフローチャートである。推定値算出処理は、船舶1の顧客への引き渡し後、航行中等の期間において継続的に行われる。
制御部510は、軸回転数、船速、TC回転数、ラック変位、プロペラ620のスリップ、船舶1の風圧抵抗、及び掃気圧力のうちの1つ以上を計測した計測値を取得する(ステップS11)。本実施形態では、制御部510は、軸回転数、船速、TC回転数、ラック変位、プロペラ620のスリップ、船舶1の風圧抵抗、及び掃気圧力の計7つの計測値を取得する。ステップS11で取得される計7つの計測値は、同一時点に計測された計測値であるものとする。制御部510は、取得した各計測値を、計測日時と対応付けてテーブルT1に記録する。
【0045】
次に、制御部510は、ステップS11で取得しテーブルT1に記録した計測値と、記憶部520に記憶された回帰式とに基づいて、船舶1の馬力、及び燃料消費量の推定値を算出する(ステップS12)。制御部510は、ここでは、掃気圧力の計測値を除く6つの計測値を、式(1)の回帰式のX1〜X6の各々に代入して船舶1の馬力、又は燃料消費量の推定値を算出する。
【0046】
制御部510は、複数の時点について、馬力、及び燃料消費量の推定値を算出することにより、図9のグラフで示されるような算出結果が得られる。図9の上段に示すグラフは、馬力の推定値の時系列データを示し、下段に示すグラフは、燃料消費量の推定値の時系列データを示す。これらのグラフにおいて、横軸は時間を表し、ここでは概ね2週間の計測値が示されている。また、これらのグラフにおいて、縦軸は、馬力(単位は[kgw])又は燃料消費量(単位は[l/day])(1日当たりの燃料消費量)を表す。図10のグラフと、図6A,6Bのグラフとを対比して分かるように、馬力、及び燃料消費量の推定値はいずれも、軸回転数、船速、TC回転数、ラック変位と、計測値が増減するタイミングが概ね一致し、また、その変化量(増減量)の大小にも関連がある。また、この推定値には、プロペラ620のスリップ、及び風圧抵抗も反映されている。
【0047】
次に、制御部510は、船舶1の馬力、及び燃料消費量の推定値を求めた期間について、船舶1の馬力、及び燃料消費量の計測値の時系列データを取得する(ステップS13)。制御部510は、取得した各計測値を、計測日時と対応付けてテーブルT2に記録する。そして、制御部510は、ステップS12で算出した推定値の時系列データと、ステップS13で取得しテーブルT2に記録した計測値の時系列データとを比較して、船舶1又は船舶1に備えられた計器の異常の有無を検知する(ステップS14)。ここでは、制御部510は、同一の期間の推定値の時系列データと、計測値の時系列データとの類似度を計算し、類似度が閾値以上である場合には異常がなく、閾値未満である場合には異常があると判定する。類似度の計算のアルゴリズムとしては、Angular Metrics for Shape Similarity(AMSS)や、Dynamic Time Warping(DTW)等があるが、種々の類似度計算アルゴリズムを採用可能である。
【0048】
次に、制御部510は、ステップS14において、船舶1又は船舶1に備えられた計器の異常の発生を検知したかどうかを判定する(ステップS15)。図10の上段に示すグラフは、異常の発生が検知されない場合の船舶1の馬力の計測値、及び推定値の時系列データを示す。制御部510は、船舶1の馬力、及び燃料消費量の各々について計測値と推定値とを比較し、両方について、値の変化のタイミング、及び変化量が所定の類似範囲内で類似した場合、船舶1又は船舶1に備えられた計器に異常がないことを検知する。この場合、制御部510は、ステップS15で「NO」と判定し、ステップS17に進む。
【0049】
図10の下段に示すグラフは、異常の発生が検知される場合の船舶1の馬力の計測値、及び推定値の時系列データを示す。制御部510は、船舶1の馬力、及び燃料消費量の各々について計測値と推定値とを比較して、少なくとも一方について、値の変化のタイミング、又は変化量が所定の類似範囲内で類似しない場合には、船舶1又は船舶1に備えられた計器に何らかの異常があることを検知する。図10の下段に示すグラフのような結果が得られた場合、「9月13日」付近に船舶1において何らかの異常が発生したことが検知される。
【0050】
制御部510は、ステップS15で「YES」と判定した場合、異常の発生を報知する(ステップS16)。この報知は、例えば「船舶内の計器に異常が発生している可能性があります。」というメッセージを表示部530の表示により船員に報知する処理であるが、通信部540を介して陸上のコンピュータ装置を操作する人物に報知する処理等であってもよい。
【0051】
次に、制御部510は、各種計測値、及び推定値を出力する(ステップS17)。この出力は、各計測値や推定値を所定の出力先に出力する処理で、例えば、図6A,6Bの計測値の時系列データを示すグラフや、図9で説明したグラフを、表示部530を介して表示出力する処理、通信部540を介して陸上のコンピュータ装置に送信出力する処理、又は記憶部520に記憶させるためにグラフのデータを出力する処理等である。
【0052】
以上説明した実施形態によれば、コンピュータ装置500は、回帰式を作成した後、この回帰式を用いて、船舶1の馬力、及び燃料消費量を間接的に推定することができる。また、コンピュータ装置500は、船舶1の馬力や、燃料消費量の計測値と、船舶1の馬力或いは燃料消費量の推定値とを比較することにより、船舶1における異常の発生の有無を検知することができる。よって、船舶1に軸馬力計640が搭載されていない場合や、船舶1の航行中等に軸馬力計640や流量計410に異常が生じた場合でも、船舶1の馬力或いは燃料消費量の推定値を得られるので、コンピュータ装置500は、航行中の船舶1の推進性能等の性能解析を継続することが可能となる。
【0053】
上述した実施形態は本発明の一実施形態であって、様々に変形されてもよい。以下に、上述した実施形態の変形例を示す。なお、以下に示す変形例は適宜、組み合わされてもよい。
(変形例1)
船舶においては、燃料の流量の計測値のデータをデータロガーに出力する流量計が搭載されていない場合がある。この場合、船舶1の乗組員が、流量計のメータが示す燃料消費量を目視にて確認し、確認した値を目的変数として、コンピュータ装置500に入力する。そして、コンピュータ装置500は、入力された目的変数の値に基づいて回帰式を作成する。
【0054】
(変形例2)
船舶1が、軸馬力計640、及び流量計410の一方のみを備えている場合、コンピュータ装置500の制御部510は、上述した実施形態で説明した馬力又は燃料消費量と相関するパラメータと、軸馬力計640により計測された軸馬力の計測値、及び流量計410により計測された燃料消費量の計測値の一方とに基づいて、船舶1の馬力、及び燃料消費量の他方の推定値を算出してもよい。図9に示すグラフのように、燃料消費量と軸馬力との相関が強い傾向にあると推定される。
【0055】
(変形例3)
上述した実施形態で説明した計測値のうち、推定算出処理に使用されない計測値については、制御部510はこれを取得しなくてもよいし、また、船舶1においてこれを取得するための計測が行われなくてよい。
また、制御部510は、1種類の計測値を用いた単回帰分析により回帰式を作成してもよい。例えば、図6A,6Bの結果から、軸回転数や船速、TC回転数、ラック変位は、燃料消費量と軸馬力との相関が強いと推定される。よって、コンピュータ装置500は、これらの計測値が得られる場合は、1種類の計測値で回帰式を作成してもよい。
また、回帰式は、一次関数によって表される式でなくてもなく、例えば二次以上の関数を用いて表されてもよい。
【0056】
(変形例4)
上述した実施形態では、制御部510は、多変量解析の説明変数とするパラメータを計測値自体としていたが、計測値から算出された当該計測値と関連する別の値を用いてもよい。この値は、計測値を加工して得られる値であるから、計測値と同様、船舶1の馬力、又は燃料消費量と相関する。よって、制御部510は、計測値と関連する別の値を説明変数とした場合でも、船舶1の馬力、又は燃料消費量の推定値を算出することが可能である。
【0057】
(変形例5)
上述した実施形態では、軸回転数、船速、TC回転数、ラック変位、スリップ、又は風圧抵抗の変化に伴って、船舶1の馬力、又は燃料消費量が変化する場合に、これらの変化が同時に現れるものとみなしていた。しかし、前述したように、これらの変化には或る程度の時間差が現れる場合がある。そこで、制御部510は、馬力、又は燃料消費量の計測値と、軸回転数、船速、TC回転数、ラック変位、スリップ、又は風圧抵抗の計測値とを、所定期間ずらして対応付けて、回帰式を作成してもよい。この場合も、制御部510は、或る時点の馬力、又は燃料消費量の計測値を目的変数とした場合に、当該時点と対応付けられた1又は複数の時点の計測値を説明変数として、回帰式を作成すればよい。この際に、制御部510は、説明力が最大、又は一定レベル以上である回帰式が得られると、その回帰式を、記憶部520に記憶させる。推定値算出処理においても、制御部510は、馬力、又は燃料消費量の計測値と、軸回転数、船速、TC回転数、ラック変位、スリップ、又は風圧抵抗の計測値とを、所定期間ずらして対応付けて説明変数に計測値を代入し、推定値を算出する。
【0058】
(変形例6)
コンピュータ装置500は、上述した実施形態で説明した計測値に加え、気象海象の状態を示す気象海象データを説明変数として、回帰式を作成してもよい。船舶1の馬力、又は燃料消費量は、気象海象の影響を受けて変化する。そこで、制御部510(パラメータ取得手段511)は、気象海象データを更に取得する。そして。制御部510(推定手段514)は、上述した実施形態で説明した計測値に加え、気象海象データを更に用いて、船舶1の馬力、又は燃料消費量の推定値を算出する。気象海象データは、例えば、計器群700によって計測される気象海象の状態を示すデータと、気象庁等の第三者機関によって提供(配信)される船舶1の位置の気象海象の状態を示すデータとの少なくとも一方を含む。後者の気象海象データについては、制御部510が通信部540を介して外部装置と通信することにより取得可能である。
この変形例によれば、気象海象の状態が、馬力、又は燃料消費量の推定値されるため、推定精度がより高くなることが期待できる。
【0059】
(変形例7)
説明変数とするパラメータとして、更に、掃気圧力センサ260によって計測される掃気圧力の計測値が用いられてもよい。船舶1において掃気圧力が大きくなる運転が行われる場合ほど、内燃機関210の負荷が増大するため、船舶1の馬力、或いは船舶1の燃料消費量が増大することがある。即ち、掃気圧力の計測値は、船舶1の馬力或いは燃料消費量と相関するパラメータの一種である。
この場合、制御部510は、回帰式作成処理において、式(1)で説明した説明変数に、更に掃気圧力の計測値を説明変数に加えて、回帰式を作成する。また、制御部510(推定手段514)は、推定値算出処理において、作成した回帰式に、上述した実施形態で説明した計測値に加え、更に掃気圧力センサ260によって計測された掃気圧力の計測値を代入することにより、船舶1の馬力、又は燃料消費量の推定値を算出する。
【0060】
船舶の馬力又は燃料消費量と相関するパラメータとして、更に別のパラメータが採用されてもよい。船舶の馬力又は燃料消費量と相関するパラメータは、その船舶の馬力又は燃料消費量の変化に伴って値が変化するはずである。このため、本発明では、船舶の馬力又は燃料消費量と、当該船舶の馬力又は燃料消費量と相関するパラメータとの関係を特定し、特定した関係を表すデータを作成・記憶しておくことで、以後、その船舶の馬力又は燃料消費量の推定値を算出することができる。なお、船舶の馬力又は燃料消費量と、当該船舶の馬力又は燃料消費量と相関するパラメータとの関係は、多変量解析以外の方法で特定されてもよい。
【0061】
(変形例8)
上述した実施形態で説明した構成或いは動作の一部が省略されてもよい。例えば、コンピュータ装置500は、船舶1の異常の有無を検知する構成を有しなくてもよい。また、コンピュータ装置500は、馬力又は燃料消費量のどちらか一方のみの推定値を算出する構成であってもよい。
【0062】
(変形例9)
コンピュータ装置500は、回帰式を用いずに、馬力又は燃料消費量の推定値を算出してもよい。例えば、コンピュータ装置500は、船舶1の馬力又は燃料消費量と、パラメータ取得手段511により取得されるパラメータとを関連付けたテーブルに格納し、記憶部520に記憶しておく。そして、コンピュータ装置500は、推定値算出処理においては、取得したパラメータに対応付けられた馬力又は燃料消費量をその推定値としてテーブルから取得するか、又はテーブルに格納された値を用いた補間処理を行うことにより、推定値を算出する。
【0063】
(変形例10)
本発明の船舶は、電動推進を行う船舶であってもよい(例えば客船)。この場合の船舶の原動機は、電動機を含む。この船舶では、ピストンの運動エネルギーが電気エネルギーに変換されて蓄電池に蓄えられる。そして、電動機は、この蓄電池から取り出した電気エネルギーを力学的エネルギーに変換して、推進装置が備える推進軸を回転させることにより、船舶の推進力を発生させる。
【0064】
(変形例11)
本発明の推定値算出装置は、船上のコンピュータではなく、陸上のコンピュータで実現されてもよい。本発明の推定算出装置は、これら以外にも様々なコンピュータ装置で実現しうる。
また、船舶の馬力又は燃料消費量と、船舶の馬力又は燃料消費量と相関するパラメータとの関係を表すデータを作成する装置と、このデータを用いて船舶の馬力又は燃料消費量の推定値を算出する装置とは必ずしも一体化されていなくてもよく、各々独立した装置(解析装置と推定値算出装置)で実現されてもよい。
【0065】
(変形例12)
上述した実施形態のコンピュータ装置500の制御部510が実現する各機能は、1又は複数のハードウェア回路により実現されてもよいし、1又は複数のプログラムを実行することにより実現されてもよいし、これらの組み合わせにより実現されてもよい。制御部510の機能がプログラムを用いて実現される場合、このプログラムは、磁気記録媒体(磁気テープ、磁気ディスク(HDD(Hard Disk Drive)、FD(Flexible Disk))等)、光記録媒体(光ディスク等)、光磁気記録媒体、半導体メモリ等のコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記憶した状態で提供されてもよいし、ネットワークを介して配信されてもよい。また、本発明は、推定値算出法として把握することも可能である。
本願の発明は、上述した実施形態に限定されることなく、請求の範囲に記載した発明の範囲内で種々の変形が可能であり、それらも本発明の範囲内に含まれることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0066】
1…船舶、100…船体、200…原動機、210…内燃機関、211…シリンダ、212…ピストン、213…燃焼室、214…噴射ノズル、220…過給機、2201…ブロア、2202…タービン、2203…回転軸、221…空気冷却機、222…掃気マニホールド、223…排気マニホールド、230…燃料噴射ポンプ、231…コントロールラック、240…TC回転数センサ、250…ラック位置センサ、260…掃気圧力センサ、300…燃料タンク、400…燃料供給経路、500…コンピュータ装置、501…居住区、510…制御部、511…パラメータ取得手段、512…計測値取得手段、513…解析手段、514…推定手段、515…処理手段、5151…検知手段、520…記憶部、530…表示部、540…通信部、550…操作部、560…インタフェース、600…推進装置、610…推進軸、620…プロペラ、630…回転計、640…軸馬力計、700…計器群、710…船速計、720…風向風速計。
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図7
図8
図9
図10