(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記対向する一対の脚部は、前記台車本体から延設された平行な一対の平行脚部と、前記一対の平行脚部から互いに内側に折曲した一対の折曲脚部とで構成される請求項1又は2に記載の移乗機。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、ベッドサイドのどちらか一方に部屋の壁があり、壁のないベッドサイド側から移乗機をベッドに挿入しなくてはならない場合が生じることが多い。
【0008】
この場合、ベッドに横たわった要介護者の頭が一対の第2アームの先端側にあることが必要である。しかしながら、特許文献2の移乗機の場合、ベッドサイドの何れの側に壁があるかによって、一対の第2アームの先端側に対してベッドに横たわった要介護者の頭の向きが逆向きになるケースが生じる。
【0009】
したがって、この場合には移乗機に移乗させる前に、例えば2人の介護者でベッドに横たわった要介護者の頭の向きを変えなくてはならないという問題が生じる。このように、ベッドに横たわった要介護者の頭の向きを変える作業は介護者にとって人数的負担や腰への負担が生じる。
【0010】
また、ベッドから移乗機に要介護者を移乗する際、要介護者の荷重移動によって移乗機の重心位置が偏って移乗機が倒れることがある。したがって、移乗機を改良する場合には、要介護者の荷重移動によって移乗機の重心位置が偏っても移乗機が倒れない移乗安定性を確保する必要がある。
【0011】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、ベッドサイドの何れの側に壁があるかに関係なく、要介護者がベッドに横たわった位置で体を起こした姿勢のままで移乗機に移乗することができるので介護者の負担を軽減でき、しかも移乗安定性に優れた移乗機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記目的を達成するために、本発明に係る移乗機は、床面に移動可能に設けられた台車部と、台車部の上方に設けられ、要介護者の両脇をホールドするホールド部と、台車部の前後方向の一方端部に立設され、上端部に前記ホールド部を支持しホールド部を昇降する昇降部と、を有し、台車部、ホールド部及び昇降部とでコの字状に形成され、台車部とホールド部とでベッドを挟み込むようにしてベッドに挿入可能な移乗機であって、台車部には、昇降部が立設された台車本体と、台車本体の左右方向両端部から水平方向に設けられるとともにそれぞれの基端部が回動軸を介して台車本体に回動自在に支持された対向する一対の脚部と、を有し、ホールド部には、昇降部の上端部に支持されたホールド本体と、ホールド本体の左右方向中心部から対向する一対の脚部の対称軸の方向に延設されたアームと、アームの先端部に設けられ、要介護者の両脇の下に一対の脇支持バーを挿入して要介護者をホールドする脇ホールド部材と、アームの先端部と脇ホールド部材とを連結するとともに、脇ホールド部材が前後方向を向いた基準位置と前後方向に対して左右90°方向の何れかを向いた首振り位置との間で脇ホールド部材を首振可能に支持する首振り支持部材と、を有し、首振り位置で脇ホールド部材に要介護者を移乗する場合の重心位置の偏在を修正する重心偏在修正手段を備え、重心偏在修正手段には、脇ホールド部材の基準位置と首振り位置との間の首振り動作を検出する検出手段と、検出手段の検出に基づいて脇ホールド部材が基準位置から首振り位置への首振り動作を行う場合には一対の脚部をハの字状に開脚し、首振り位置から基準位置への首振り動作を行う場合にはハの字状に開脚した一対の脚部を閉脚する脚部開閉手段と、を設けたことを特徴とする。
【0013】
本発明の移乗機によれば、台車部とホールド部とでベッドを挟み込むようにしてベッドに挿入し、脇ホールド部材が前後方向を向いた基準位置と前後方向に対して左右90°方向の何れかを向いた首振り位置との間で脇ホールド部材を首振りすることができる。
【0014】
これにより、ベッドサイドの何れの側に壁があるかに関係なく、要介護者がベッドに横たわった位置のまま体を起こすだけで要介護者を移乗機に乗せることができる。
【0015】
ところで、本発明の移乗機は、脇ホールド部材が基準位置にあるときに重心位置が対向する一対の脚部の対称軸上にあるので、移乗安定性が最も良い。
【0016】
したがって、脇ホールド部材を基準位置の前後方向に対して左右90°方向の何れかの首振り位置に首振りした状態で要介護者を脇ホールド部材にホールドすると、要介護者の荷重移動によって重心位置が一対の脚部の一方側に偏在するため、移乗機が倒れやすくなる。
【0017】
しかし、本発明の移乗機では、重心偏在修正手段が、検出手段の検出に基づいて脇ホールド部材が基準位置から首振り位置への首振り動作を行う場合には一対の脚部をハの字状に開脚するので、移乗安定性が良くなる。
【0018】
この場合、一対の脚部をハの字状に開脚した状態に固定すると、部屋やトイレのドアから出入りできなくなる問題が生じる場合がある。しかし、本発明の移乗機では、重心偏在修正手段が、首振り位置から基準位置への首振り動作を行う場合にはハの字状に開脚した一対の脚部を閉脚するので、問題が生じない。
【0019】
本発明の別態様において、重心偏在修正手段は、検出手段の検出に基づいて脚部開閉手段の開閉タイミングを制御するタイミング制御手段を有し、タイミング制御手段は、脇ホールド部材が首振り位置から基準位置への首振り動作が終了した後に一対の脚部の閉脚動作を開始することが好ましい。
【0020】
これにより、重心の偏在がない状態で一対の脚部が閉脚されるので、移乗機が倒れることがない。
【0021】
本発明の別態様において、対向する一対の脚部は、台車本体から延設された平行な一対の平行脚部と、一対の平行脚部から互いに内側に折曲した一対の折曲脚部とで構成されることが好ましい。これにより、一対の脚部を開脚したときに、折曲脚部を有しない場合よりも開脚幅を小さくできるので、部屋やトイレへの出入りが容易になる。
【0022】
本発明の別態様において、脚部の基端部位置、先端部位置、及び平行脚部と折曲脚部との折曲位置にそれぞれキャスターが設けられることが好ましい。このように脚部の基端部位置と先端部位置以外に折曲位置にもキャスターを設けることで、移乗機の移動をスムーズに行うことができると共に、移乗機が倒れにくくなる。
【0023】
本発明の別態様において、一対の脇支持バーは、要介護者を抱くように外側に凸な湾曲状に形成されるとともに先端部同士が連結部材で着脱自在に連結され、連結部材には一対の脇支持バーの連結長さを調整する連結長さ調整手段が設けられることが好ましい。これにより、やせた人から太った人まで、要介護者の脇を脇ホールド部材で安定してホールドすることができる。
【0024】
本発明の別態様において、ホールド部には、要介護者のお尻を支えるベルト部材を有することが好ましい。これにより、要介護者は脇とお尻の両方が支えられるので、安定して移乗機に乗ることができる。
【0025】
本発明の別態様において、ホールド部のホールド本体には、アームの基端部を支持して左右方向にスライドさせるスライド機構を有することが好ましい。これにより、脇ホールド部材を基準位置の前後方向に対して左右90°方向の何れかの首振り位置に首振りした状態で要介護者を移乗させる場合でも、重心位置を対向する一対の対称軸の位置により近づけることができるので、移乗安定性が一層良くなる。
【0026】
本発明の別態様において、ホールド部のホールド本体には、アームの基端部を支持してアームを水平面上で回動させる回動機構を有することが好ましい。これにより、脇ホールド部材を基準位置の前後方向に対して左右90°方向の何れかの首振り位置に首振りした状態で要介護者を移乗させる場合でも、重心位置を対向する一対の対称軸の位置に一層近づけることができるので、移乗安定性が一層良くなる。
【発明の効果】
【0027】
本発明の移乗機によれば、ベッドサイドの何れの側に壁があるかに関係なく、要介護者がベッドに横たわった位置で体を起こした姿勢のままで移乗機に移乗することができるので介護者の負担を軽減でき、しかも移乗安定性に優れた移乗機を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下添付図面に従って、本発明に係る移乗機の好ましい実施の形態について詳述する。
【0030】
(移乗機の第1の実施の形態)
<移乗機の全体構成>
図1は、本発明の移乗機の第1の実施の形態の全体構成を示す斜視図である。また、
図2は移乗機の上面図、
図3は背面図、
図4は側面図である。
【0031】
図1〜
図4に示すように、移乗機10は、主として、床面に移動可能に設けられた台車部12と、台車部12の上方に設けられ、要介護者P(
図4、
図7参照)の両脇をホールドするホールド部14と、台車部12の前後方向の一端部に立設され、上端部にホールド部14を支持して昇降する昇降部16と、要介護者Pをホールド部14にホールドしたときの重心位置の偏在を修正する重心偏在修正手段18と、で構成される。
【0032】
図4に示すように、移乗機10は、台車部12、ホールド部14及び昇降部16とでコの字状に形成される。これにより、台車部12とホールド部14とでベッド20を挟み込むようにしてベッド20に挿入可能(
図7参照)に構成される。
【0033】
移乗機10の使用方法としては、例えばベッド20に横たわっている要介護者Pがトイレに行く場合や他の部屋等に移動する場合等に使用される。したがって、移乗機10の左右方向の幅(横幅)はトイレ等の入口の幅(通常は半間:900mm)よりも小さく形成される。一般的に、移乗機10の横幅は500mm程度に形成される。一方、移乗機10の前後方向の長さは、一般的に1000mm程度に形成される。したがって、要介護者Pを移乗機10に移乗させるときに、移乗機10の左右方向に重心の偏在があると、移乗機10は倒れ易くなる。
【0034】
また、
図2から分かるように、台車部12の構成要素である一対の脚部26A、26Bは、対称軸Sに対して左右対称な線対称の関係に配置される。したがって、重心が対称軸Sの上にあるときに移乗機は倒れにくく安定する。
【0035】
なお、台車部12の前後方向(X−X方向)とは、
図2の対称軸Sの方向を言い、台車部12の左右方向とは前後方向に直交する直交方向(Y−Y方向)を言い、台車部12の幅方向と同義である。また、要介護者Pを移乗機10に移乗した状態での重心は、要介護者Pの重心(質量中心)と移乗機10自体の重心との合力により形成される。
【0036】
<台車部の詳細構成>
台車部12は、昇降部16が立設された台車本体22と、台車本体22の左右方向両端部から水平方向に設けられると共にそれぞれの基端部が回動軸24を介して台車本体22に回動自在に支持された対向する一対の脚部26A、26Bと、を備える。
【0037】
台車本体22は、略矩形な板状部材で形成され、台車本体22の左右両端部の下面に、それぞれの脚部26A、26Bの基端部が設けられる。そして、台車本体22の左右両端部とそれぞれの脚部26A、26Bの基端部とが回動軸24を介して連結される。これにより、対向する一対の脚部26A、26Bは、
図2のように、A−B方向に開閉自在に台車本体22に支持される。一対の脚部26A、26Bの開閉角度θは、対称軸S方向を0°とした場合に外側に20°〜30°の角度で開閉することが好ましい。
【0038】
対向する一対の脚部26A、26Bは、閉じた状態(閉成状態)において、台車本体22から延設された平行な一対の平行脚部26A1、26B1と、一対の平行脚部26A1、26B1から互いに内側に折曲した一対の折曲脚部26A2、26B2とで構成される。一対の平行脚部26A1、26B1は上記した対称軸Sと平行に形成され、折曲脚部26A2、26B2は平行脚部26A1、26B1に対して上記した開閉角度θと同じ角度で内側に折曲されていることが好ましい。これにより、対向する一対の脚部26A、26Bを開脚したときに折曲脚部26A2、26B2が平行(
図2参照)になるので、大きな開閉角度θを確保しつつ台車部12の幅の拡大を抑えることができる。一対の平行脚部26A1、26B1と一対の折曲脚部26A2、26B2とは一体的に形成されることが好ましい。
【0039】
一対の脚部26A、26Bの下面には、複数個のキャスター28,28…が設けられる。キャスター28を設ける脚部26A、26Bの位置としては、基端部位置、先端部位置、及び平行脚部26A1、26B1と折曲脚部26A2、26B2との折曲位置にそれぞれ設けることが好ましい。このように脚部26A、26Bの基端部位置と先端部位置以外に折曲位置にもキャスター28を設けることで、移乗機10の移動をスムーズに行うことができるだけでなく、移乗機10が左右方向に倒れにくくなる。
【0040】
また、脚部26A、26Bの基端部位置に設けるキャスターの車輪径は、
図1及び
図4に示すように、先端部位置及び折曲位置に設けるキャスター28の車輪径よりも大きくすることが好ましい。
図4に示すように、通常、要介護者Pは脚部26A、26Bの基端部方向を向いて移乗機10に移乗され、基端部方向を向いて移乗機10は移動する。したがって、移乗機10が移動する前輪側の車輪径が大きいと、移乗機10の移動を一層スムーズに行うことができる。
【0041】
また、キャスター28は全方位移動タイプのものを使用するとよい。これにより、一対の脚部26A、26Bを開脚したままでも移乗機10をスムーズに移動できる。
【0042】
<ホールド部の詳細構成>
ホールド部14は、昇降部16の上端部に支持されたホールド本体30と、ホールド本体30の左右方向中心部から対称軸Sの方向に延設されたアーム32と、アーム32の先端部に設けられ、要介護者Pの両脇の下に一対の脇支持バー34、34を挿入して要介護者Pをホールドする脇ホールド部材36と、アーム32の先端部と脇ホールド部材36とを連結すると共に、脇ホールド部材36が前後方向(対称軸Sの方向)を向いた基準位置と前後方向に対して左右90°方向の何れかを向いた首振り位置との間で脇ホールド部材36を首振可能に支持する首振り支持部材38とを備える。
【0043】
図2の脇ホールド部材36の位置が基準位置を示し、
図7の(A)が左側への首振り位置を示し、(B)が右側への首振り位置を示す。
【0044】
ホールド本体30は、内部に矩形空間が有し径方向断面がコ字形状の板状部材で形成される。そして、ホールド本体30の矩形空間の左右方向の中央部にアーム32の基端部が挿入固定され、アーム32の先端部に首振り支持部材38が設けられる。なお、ホールド本体30の形状は内部に矩形空間を有し径方向断面がコの字形状の板状部材に限定するものではない。
【0045】
首振り支持部材38の中心部にはロック付きの回動手段40が設けられる。そして、アーム32の先端部と首振り支持部材38とが回動手段40を介して回動自在に連結され、首振り支持部材38に脇ホールド部材36が支持される。これにより、脇ホールド部材36は、首振り支持部材38を介してアーム32の前後方向(対称軸Sの方向)に対して左右90°方向の何れかの方向に首振り動作することができる(
図7及び
図8参照)。また、所望の首振り位置で首振り動作をロックすることができる。
【0046】
ロック付きの回動手段40としては、例えば、回動軸(図示せず)と、回動軸をブレーキパッド(図示せず)で挟み付け、挟み付け抵抗で回動軸の回動をロックするロック機構とで構成することができる。要は、脇ホールド部材36を基準位置と首振り位置との間で首振り動作でき、且つ少なくとも基準位置と首振り位置とで脇ホールド部材36の首振り動作をロックできればどのようなロック付きの回動手段40でもよい。
【0047】
一対の脇支持バー34、34は、平行な2本の棒状部材でもよいが、
図1及び
図2に示すように、要介護者Pを抱くように外側に凸な湾曲状に形成されていることが好ましい。即ち、脇ホールド部材36は一対の脇支持バー34、34によってリング状に形成される。
【0048】
一対の脇支持バー34、34の基端部は、首振り支持部材38に回動ピン42を介して回動自在に支持される。これにより、脇ホールド部材36をリング状に形成しても一対の脇支持バー34、34が開閉することで要介護者Pを脇ホールド部材36に容易にホールドすることができる。
【0049】
また、一対の脇支持バー34、34は、先端部同士が連結部材44で着脱自在に連結される。この場合、連結部材44には一対の脇支持バー34、34の連結長さを調整する連結長さ調整手段46が設けられることが好ましい。これにより、体型がやせた要介護者Pから太った要介護者Pまで、要介護者Pの脇を脇ホールド部材36で安定してホールドすることができる。
【0050】
連結長さ調整手段46としては特に限定しないが、例えば
図1及び
図2に示すように、一対の脇支持バー34、34の先端部に連結ピン46Aを立ておき、棒状の連結部材44の長手方向に等間隔で複数の連結孔46Bを開けておく構成がある。これにより、連結ピン46Aに対して連結孔46Bの連結位置を変えることで連結長さを調整できる。その他の態様としては、例えば、長さ調整金具付きのベルト等を使用することもできる。
【0051】
また、
図5に示すように、ホールド部14には、要介護者Pのお尻を支えるベルト部材48を有することが好ましい。ベルト部材48の一端は、ホールド部14に着脱できるようにする。これにより、要介護者Pは脇とお尻の両方が支えられるので、安定して移乗機10に移乗することができる。
【0052】
<昇降部の詳細構成>
図1、
図3及び
図4に示すように、昇降部16は、昇降シリンダ装置50と、昇降シリンダ装置50の両側に配置された一対の昇降ガイド52、52とで構成される。昇降シリンダ装置50の駆動源は油圧式、空圧式、電気式等の何れでもよい。昇降部16のON−OFF操作は昇降スイッチ54Aにより行うことができ、昇降スイッチ54Aを例えば台車本体22に配設された制御盤54の上に設けることができる。制御盤54には、移乗機10を機械的に駆動する機器類へ電気を供給するバッテリーや機器類を制御する制御手段等が搭載される。
【0053】
図4の想像線は、要介護者Pを脇ホールド部材36にホールドした後、制御盤54に設けた昇降スイッチ54Aを押して昇降シリンダ装置50を駆動し、ホールド部14を上昇させた図である。
【0054】
昇降シリンダ装置50は、シリンダ本体50Aが台車本体22の左右方向中央部に立設される。そして、昇降シリンダ装置50のピストンロッド50Bの先端部がホールド本体30の下面に設けられた回動支持部53に回動ピン53Aを介して回動自在に支持される(
図3参照)。これにより、ピストンロッド50Bをスムーズに伸縮させることができる。
【0055】
また、昇降ガイド52は入れ子構造に形成され、外筒52Aの中にロッド52Bが昇降自在に支持される。一対の昇降ガイド52、52の外筒52Aが台車本体22の左右方向両端部に立設され、昇降シリンダ装置50によるホールド本体30の昇降をガイドする。
【0056】
昇降シリンダ装置50は、ホールド本体30を上昇させるストローク長さを調整できることが好ましく、最大ストローク長さは要介護者Pが脇ホールド部材36にホールドされた状態で真っ直ぐに立てる程度であることが好ましい。これにより、要介護者Pを移乗するために移乗機10を使用する他に、要介護者Pの歩行訓練にも使用できる。
【0057】
<重心偏在修正手段の構成>
重心偏在修正手段18は、脇ホールド部材36の基準位置と首振り位置との間の首振り動作を検出する検出手段(図示せず)と、検出手段の検出に基づいて脇ホールド部材36が基準位置から首振り位置への首振り動作を行う場合には一対の脚部26A、26Bをハの字状に開脚し、首振り位置から基準位置への首振り動作を行う場合にはハの字状に開脚した一対の脚部26A、26Bを閉脚する脚部開閉手段56(
図6参照)と、を備える。この場合、脚部開閉手段56は、上述したように対向する一対の脚部26A、26Bを開閉角度θが20〜30°になるように開閉することが好ましい。
【0058】
脇ホールド部材36の首振り動作は、要介護者Pを介護する介護者(図示せず)が必要に応じて手動で行うことができる。また、首振り動作を例えば正逆回転可能なモータ(図示せず)と減速機(図示せず)とバッテリーによって自動装置化し、介護者がモータのスイッチ(図示せず)を入れると脇ホールド部材36が首振り動作を行うようにしてもよい。
【0059】
検出手段は、首振り支持部材38の内部に設けられ、例えばマイクロスイッチ等のON−OFFスイッチを使用することができ、本実施の形態ではON−OFFスイッチの例で説明する。
【0060】
ON−OFFスイッチは制御盤54を介して電気的に脚部開閉手段56に連結され、ON−OFFスイッチのON−OFF作動により、脚部開閉手段56が駆動及び駆動停止するように構成される。
【0061】
即ち、脇ホールド部材36が基端位置Mから首振り位置への首振り動作を行うとON−OFFスイッチがONになり、脚部開閉手段56が駆動して一対の脚部26A、26Bの開脚動作を行う。そして、一対の脚部26A、26Bが上述した開閉角度θに相当する開閉ストロークになるまで開脚動作するとON−OFFスイッチがOFFになり、脚部開閉手段56が停止する。
【0062】
また、脇ホールド部材36が首振り位置から基端位置Mへの首振り動作を行うとON−OFFスイッチがONになり、脚部開閉手段56が駆動して一対の脚部26A、26Bの閉脚動作を行う。そして、一対の脚部26A、26Bが上述した開閉角度θに相当する開閉ストロークになるまで閉脚動作するとON−OFFスイッチがOFFになり、脚部開閉手段56が停止する。
【0063】
脇ホールド部材36の首振り動作と脚部開閉手段56の開閉動作を連動させてもよいが、重心偏在修正手段18に脚部開閉手段56の開閉タイミングを制御するタイミング制御手段56Aを設けることが好ましい。タイミング制御手段56Aとしては、パーソナルコンピュータ等の演算処理装置を使用することができ、例えば制御盤54に搭載することができる。
【0064】
そして、タイミング制御手段56Aは、脇ホールド部材36が首振り位置から基準位置への首振り動作を行う場合、脇ホールド部材36が首振り位置から基準位置への首振り動作が終了したタイミングで一対の脚部26A、26Bの閉脚動作を開始する。
【0065】
即ち、脇ホールド部材36が首振り位置から基端位置Mへの首振り動作を行う場合、タイミング制御手段56Aは、脇ホールド部材36が首振り動作を開始してON−OFFスイッチがONになっても脚部開閉手段56を駆動しない。そして、タイミング制御手段56Aは、脇ホールド部材36の首振り動作が完全に終了した時点で脚部開閉手段56を駆動する。即ち、脇ホールド部材36の首振り動作の開始から脚部開閉手段56の駆動停止まで、ON−OFFスイッチはON状態にあるが、タイミング制御手段56Aが脚部開閉手段56の閉脚タイミングを遅らせる。
【0066】
脇ホールド部材36が首振り位置から基準位置への首振り動作を行う前において、要介護者Pが脇ホールド部材36にホールドされていると、重心が一対の脚部26A、26Bの一方に大きく偏在することになる。このため、脇ホールド部材36が首振り位置から基準位置への首振り動作を終了する前に一対の脚部26A、26Bを閉脚してしまうと、脇ホールド部材36が首振りされている方向に移乗機10が倒れ易くなる。
【0067】
これに対して、本発明の実施の形態のように、脇ホールド部材36が首振り位置から基準位置への首振り動作が終了したタイミングで、一対の脚部26A、26Bの閉脚動作を開始すれば、重心が一対の脚部26A、26Bの対称軸S上に存在し、重心の偏在がない状態で一対の脚部26A、26Bが閉脚される。これにより、脇ホールド部材36に要介護者Pがホールドされていて重心が偏在している場合でも、移乗機10が倒れることを確実に防止できる。
ここで、首振り動作と脚部開閉動作のタイミングを制御する方法は、上記のタイミングで制御できればどのような手段を採用しても良い。例えば、脇ホールド部材36が基準位置から外れたときのみスイッチがONとなるようにマイクロスイッチ等を設置する方法もある。このスイッチがONになったときに脚部を開く動作を開始し、OFFになったときに脚部を閉じる動作を開始するような構成にすることもできる。
【0068】
図6は脚部開閉手段56の構成を説明する図であり、台車部12を下面側から見た図である。なお、
図6において、ホールド部14の図は省略している。なお、台車部12を下面側から見ているので、一対の脚部26A、26Bは
図2とは逆になる。
【0069】
上述のように、台車本体22の左右両端部と、対向する一対の脚部26A、26Bの基端部とは回動軸24を介して連結される。一対の脚部26A、26Bは台車本体22の下面側に配置される。
【0070】
一対の脚部26A、26Bのうちの
図6の左側の脚部26A(以下、左脚部という)には回動軸24から脚部26Aの基端側へ距離L1だけ離間した位置に回動ピン58Aを有する第1連結部58が設けられる。また、
図6の右側の脚部26B(以下、右脚部という)には回動軸24から脚部26Bの先端側へ距離L2だけ離間した位置に回動ピン60Aを有する第2連結部60が設けられる。そして、左脚部26Aの距離L1と右脚部26Bの距離L2とは同じ距離に形成される。
【0071】
また、台車本体22の下面側の略中央位置にはシリンダ装置62が右脚部26Bの第2連結部60の方向を向いて回動自在に配設され、シリンダ装置62のピストンロッド62Aの先端部が第2連結部60の回動ピン60Aに回動自在に連結される。また、連結アーム64の両端に形成された連結孔(図示せず)が、第1連結部58の回動ピン58Aと第2連結部60の回動ピン60Aとに回動自在に支持される。
【0072】
これにより、シリンダ装置62のピストンロッド62Aが伸び動作(
図6のE方向)すると、ピストンロッド62Aは右脚部26Bの回動軸24よりも先端側を押す。その結果、右脚部26Bは回動軸24を中心としてA方向に回動して開脚動作する。この右脚部26BのA方向への開脚動作により、左脚部26Aは連結アーム64によって回動軸24よりも基端側が引っ張られる。その結果、左脚部26Aは回動軸24を中心としてA方向に回動して開脚動作する。この場合、距離L1と距離L2とは同じ距離に形成されているので、対向する一対の脚部26A、26Bは同じ開閉角度θで開脚動作を行う。
【0073】
シリンダ装置62のピストンロッド62Aが縮み動作(
図6のF方向)すると、右脚部26B及び左脚部26Aは上記の開脚動作とは逆の動作によってB方向に回動して閉脚動作を行う。
【0074】
図6において、連結アーム64が途中で曲がっているのは、シリンダ装置62の伸縮動作によって連結アーム64がシリンダ装置62に当たらないようにするためである。したがって、シリンダ装置62と連結アーム64とが当たらないように構築できれば、連結アーム64は真っ直ぐな形状であることが好ましい。
【0075】
なお、本実施の形態では、台車本体22の上面側には昇降部16が設けられるため、脚部開閉手段56を台車本体22の下面側に配置したが、上面側又は下面側に限定するものではない。また、一対の脚部26A、26Bを開閉する動力源としてシリンダ装置62(油圧式、エア圧式等)を使用したが、これに限定されない。例えば、モータとボールネジの組み合わせ、モータ、カム、クランクの組み合わせ等のように往復動作できる機構であればよい。
【0076】
<移乗機の使用方法>
次に、上記の如く構成された移乗機10の使用方法を説明する。
【0077】
図7は、部屋のベッド20に横たわった要介護者Pを移乗機10に移乗する図であり、ベッドサイドの一方側に部屋の壁66を有する場合である。
【0078】
図7の(A)は、ベッド20に横たわった要介護者Pの頭P1が斜め左側を向いている場合であり、(B)は頭P1が斜め右側を向いている場合である。この場合に介護者が移乗機10を使用して要介護者Pを移乗機10に移乗する方法を説明する。なお、移乗機10の脇ホールド部材36の首振り動作は介護者が手動で行う場合で説明する。
【0079】
介護者は、
図7の(A)及び(B)のように、ベッドサイドに壁66のない側から移乗機10をベッド20に挿入する。
【0080】
次に、介護者は、脇ホールド部材36を基準位置から要介護者Pの頭P1の側の首振り位置に90°回動させる。脇ホールド部材36の回動は検出手段(例えばON−OFFスイッチ)により検出される。これにより、重心偏在修正手段18のタイミング制御手段56Aは検出手段の検出に基づいて、脇ホールド部材36の首振り動作に連動したタイミングで脚部開閉手段56を制御して一対の脚部26A、26Bを開脚する。
【0081】
次に、介護者は、ベッド20に横たわっている要介護者Pの上半身を起こし、脇ホールド部材36を構成する一対の脇支持バー34、34を要介護者Pの脇の下に挿入して要介護者Pをホールドする。このとき、介護者は要介護者Pの体格に応じて連結長さ調整手段46を調整する。
【0082】
次に、介護者は、昇降スイッチ54Aを押して昇降部16を上昇動作させて要介護者Pのお尻をベッド20から少し浮かせた状態にする。この場合、
図5のように移乗機10がベルト部材48を備えている場合には、介護者は要介護者Pのお尻にベルト部材48を回して要介護者Pのお尻を支持するとよい。これにより、要介護者Pの脇とお尻の両方を支持することができる。
【0083】
図8は、脇ホールド部材36が左側の首振り位置に90°回動したのに連動し、一対の脚部26A、26Bが閉脚した状態(想像線)から開脚した状態(実線)に移行した図である。
【0084】
図8から分かるように、一対の脚部26A、26Bが閉脚した状態で脇ホールド部材36を首振り位置に90°回動させると、リング状の脇ホールド部材36の中心Wが左脚部26Bの上に位置する。したがって、この状態で要介護者Pを脇ホールド部材36にホールドすると、重心が左脚部26Bの側に大きく偏るので、要介護者Pの移乗の際に移乗機10が首振り側に倒れる恐れがある。
【0085】
これに対して、本発明の実施の形態の移乗機10のように、脇ホールド部材36の首振り動作によって一対の脚部26A、26Bが開脚した状態になるので、リング状の脇ホールド部材36の中心Wが
図8の左脚部26Bの内側に位置するようになる。したがって、この状態で要介護者Pを脇ホールド部材36にホールドすれば、重心が左脚部26Bの側に偏ることを抑制できる。したがって、要介護者Pを移乗機10に移乗させる際に移乗機10が倒れるのを防止できる。
【0086】
次に、介護者は、移乗機10をベッド20から引き出し、脇ホールド部材36を首振り位置から基準位置まで回動させる。この場合、重心偏在修正手段18のタイミング制御手段56Aは、脇ホールド部材36が首振り位置から基準位置への首振り動作が終了したタイミングで一対の脚部26A、26Bの閉脚動作を開始する。
【0087】
これにより、脇ホールド部材36の中心Wが対称軸Sの上に存在し、重心の左右方向の偏在がない状態で一対の脚部26A、26Bが閉脚される。この結果、要介護者Pが脇ホールド部材36にホールドされている状態であっても、一対の脚部26A、26Bが閉脚する際に移乗機10が倒れることがない。
【0088】
したがって、要介護者Pをベッド20から移乗機10に安定性良く移乗させることができる。また、移乗機10をベッド20から引き出した後は、一対の脚部26A、26Bは閉脚状態にあるので、トイレ等の入口を容易に通り抜けることができる。
【0089】
このように、本発明の実施の形態の移乗機10によれば、ベッドサイドの何れの側に壁66があるかに関係なく、要介護者Pがベッド20に横たわった位置で体を起こした姿勢のままで移乗機10に移乗することができるので介護者の負担を軽減でき、しかも移乗安定性に優れた移乗機10を提供することができる。
【0090】
(移乗機の第2の実施の形態)
図9は、移乗機10の第2の実施の形態を説明する上面図である。
【0091】
移乗機10の第2の実施の形態は、重心偏在修正手段18Aの構成が第1の実施の形態とは異なり、その他の台車部12、ホールド部14、昇降部16は第1の実施の形態と同様である。
【0092】
図9に示すように、移乗機10の第2の実施の形態における重心偏在修正手段18Aは、第1の実施の形態における重心偏在修正手段18に加えて、ホールド部14のホールド本体30には、アーム32の基端部を支持して左右方向にスライドさせるスライド機構68を有する。
【0093】
スライド機構68は、例えば、ホールド本体30の左右方向に配設されたレール68Aと、アーム32の基端部を支持してレール68A上をスライドするスライダー68Bとで構成される。レール68A及びスライダー68Bは、ホールド本体30の内部に形成された矩形空間に設けられる。
【0094】
スライダー68Bは、介護者が手動でスライドさせてもよく、例えばモノレール構造の自動式のスライダー68Bとして構成してもよい。
【0095】
これにより、脇ホールド部材36を基準位置から左右90°方向の何れかの首振り位置に首振りした場合には、脇ホールド部材36を脇ホールド部材36が回動した方向(例えば左脚部26B側に回動した場合)とは逆の方向(右脚部26A側)にスライドさせる。これにより、要介護者Pをホールドした脇ホールド部材36の中心Wを対称軸Sの位置に一層近づけることができるので、移乗安定性が一層良くなる。
【0096】
(移乗機の第3の実施の形態)
図10は、移乗機10の第3の実施の形態を説明する上面図である。
【0097】
移乗機10の第3の実施の形態は、重心偏在修正手段18Bの構成が第1の実施の形態とは異なり、その他の台車部12、ホールド部14、昇降部16は第1の実施の形態と同様である。
【0098】
図10に示すように、移乗機10の第3の実施の形態における重心偏在修正手段18Bは、第1の実施の形態における重心偏在修正手段18に加えて、ホールド部14のホールド本体30には、アーム32の基端部を支持してアーム32を水平方向に回動させる回動機構70を有する。
【0099】
回動機構70は、例えば、ホールド本体30の左右方向の中央部に上述したロック付き回動手段40と同様な回動手段70Aを設け、アーム32の基端部を回動手段70Aに回動自在に支持することで構成される。これにより、脇ホールド部材36はアーム32を介して回動手段70Aを中心として水平面上で左右方向に回動することができる。脇ホールド部材36を回動させる方法としては、介護者が手動で回動させてもよく、自動式の回動機構70としてもよい。
【0100】
これにより、脇ホールド部材36を基準位置から左右90°方向の何れかの首振り位置に首振りした状態で要介護者Pを移乗させる場合でも、脇ホールド部材36を脇ホールド部材36が回動した方向(例えば左脚部26B側に回動した場合)は逆の方向(右脚部26A側の方向)に回動させる。これにより、要介護者Pをホールドした脇ホールド部材36の中心Wを対称軸Sの位置に一層近づけることができるので、移乗安定性が一層良くなる。
【0101】
なお、図では示さないが、重心偏在修正手段として、
図9のスライド機構68と
図10の回動機構70の両方を備えることもできる。
【解決手段】台車部12と、要介護者の両脇をホールドするホールド部14と、ホールド部14を昇降する昇降部16と、重心偏在修正手段18と、を有し、台車本体22の左右方向両端部に回動自在に支持された対向する一対の脚部26A、26Bと、を備え、ホールド本体30の脇ホールド部材36が基準位置と首振り位置との間で脇ホールド部材36を首振可能に支持する首振り支持部材38と、を備え、重心偏在修正手段18は、首振り動作を検出する検出手段と、検出手段の検出に基づいて脇ホールド部材が基準位置から首振り位置への首振り動作を行う場合には一対の脚部26A、26Bを開脚し、首振り位置から基準位置への首振り動作を行う場合には閉脚する脚部開閉手段56と、を備えた。