(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
デジタルカメラなどの撮像装置において、撮像素子として、CCD(Charge Coupled Device)やCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)などのSi(シリコン)を用いた2次元画像センサが使用されている。Siを用いた撮像素子は、赤外線域の波長の光に対する受光感度を有し、人間の視感度とは異なる波長特性を有する。このため、撮像装置において、撮像素子から得られる画像が人間の認識した画像に近づくように、撮像素子の前方に赤外線域の波長の入射光を遮蔽するフィルタ(赤外線カットフィルタ)が通常配置されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、吸収型カットフィルタ(光吸収素子)と、吸収型カットフィルタの表面に設けられた反射型カットコート(干渉膜)とを備える複合フィルタが記載されている。
【0004】
特許文献2には、赤外線吸収体と赤外線反射体とが接着されて形成されている赤外線カットフィルタが記載されている。赤外線吸収体は、赤外線吸収ガラスの一主面に反射防止膜(ARコート)が形成されることによって作製されている。赤外線吸収ガラスは、銅イオン等の色素を分散させた青色ガラスである。反射防止膜は、赤外線吸収ガラスの一主面に対して、MgF
2からなる単層、Al
2O
2とZrO
2とMgF
2とからなる多層膜、及び
TiO
2とSiO
2とからなる多層膜のいずれかの膜を真空蒸着装置によって真空蒸着することによって形成されている。また、赤外線反射体は、透明基板の一主面に赤外線反射膜が形成されることによって作製されている。赤外線反射膜は、TiO
2などの高屈折率材
料からなる第1薄膜と、SiO
2などの低屈折率材料からなる第2薄膜とが交互に複数積
層された多層膜である。
【0005】
特許文献3には、透明樹脂中に所定の有機色素を含有している近赤外線吸収層を有する光学フィルムが記載されている。
【0006】
特許文献4には、所定のリン酸エステル化合物及び銅イオンより成る成分並びに所定のリン酸エステル化合物と銅化合物との反応により得られるリン酸エステル銅化合物のうち少なくとも一つの成分を含有している近赤外線吸収層を備えた、光学フィルタが記載されている。近赤外線吸収層は、これらの成分がアクリル系樹脂等の樹脂に含有されている樹脂組成物から形成されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の一例に係る赤外線カットフィルタの断面図
【
図2】本発明の別の一例に係る赤外線カットフィルタの断面図
【
図3】本発明のさらに別の一例に係る赤外線カットフィルタの断面図
【
図4】本発明のさらに別の一例に係る赤外線カットフィルタの断面図
【
図6】実施例1に係る赤外線カットフィルタの分光透過率スペクトル
【
図7】実施例2に係る赤外線カットフィルタの分光透過率スペクトル
【
図8】実施例3に係る赤外線カットフィルタの分光透過率スペクトル
【
図9】実施例4に係る赤外線カットフィルタの分光透過率スペクトル
【
図10】実施例5に係る赤外線カットフィルタの分光透過率スペクトル
【
図11】実施例6に係る赤外線カットフィルタの分光透過率スペクトル
【
図12】実施例7に係る赤外線カットフィルタの分光透過率スペクトル
【
図13】実施例8に係る赤外線カットフィルタの分光透過率スペクトル
【
図14】実施例9に係る赤外線カットフィルタの分光透過率スペクトル
【
図15】実施例10に係る赤外線カットフィルタの分光透過率スペクトル
【
図16】実施例11に係る赤外線カットフィルタの分光透過率スペクトル
【
図17】実施例12に係る赤外線カットフィルタの分光透過率スペクトル
【
図18】実施例13に係る赤外線カットフィルタの分光透過率スペクトル
【
図19】実施例14に係る赤外線カットフィルタの分光透過率スペクトル
【
図20】実施例15に係る赤外線カットフィルタの分光透過率スペクトル
【
図21】実施例16に係る赤外線カットフィルタの分光透過率スペクトル
【
図22】実施例17に係る赤外線カットフィルタの分光透過率スペクトル
【
図23】実施例18に係る赤外線カットフィルタの分光透過率スペクトル
【
図24】実施例19に係る赤外線カットフィルタの分光透過率スペクトル
【
図25】実施例20に係る赤外線カットフィルタの分光透過率スペクトル
【
図26】実施例21に係る赤外線カットフィルタの分光透過率スペクトル
【
図27】実施例1〜21に係る赤外線吸収性組成物における、反応性水酸基の含有量C
Hと銅イオンの含有量C
Cとの比(C
H/C
C)と、ホスホン酸の含有量C
Aとリン酸エステルの含有量C
Eとの比(C
A/C
E)との関係を示すグラフ
【
図28】比較例1に係る赤外線カットフィルタの分光透過率スペクトル
【
図29】比較例2に係る赤外線カットフィルタの分光透過率スペクトル
【
図30】比較例3に係る赤外線カットフィルタの分光透過率スペクトル
【
図31】比較例4に係る赤外線カットフィルタの分光透過率スペクトル
【
図32】比較例5に係る赤外線カットフィルタの分光透過率スペクトル
【
図33】比較例6に係る赤外線カットフィルタの分光透過率スペクトル
【
図34】実施例22に係る赤外線カットフィルタの分光透過率スペクトル
【
図35】実施例23に係る赤外線カットフィルタの分光透過率スペクトル
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、以下の説明は、本発明の一例に関するものであり、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0018】
本発明に係る赤外線吸収性組成物は、下記式(a)で表されるホスホン酸と銅イオンとによって形成された赤外線吸収剤と、この赤外線吸収剤を分散させるリン酸エステルと、を含有する。下記式(a)において、R
1は、フェニル基又は少なくとも1つの水素原子
がハロゲン原子で置換されたフェニル基である。リン酸エステルは、リン酸ジエステル及びリン酸モノエステルの少なくとも一方を含む。
【化2】
【0019】
本発明者らは、試行錯誤を何度も重ねたうえで、銅イオンと所定のホスホン酸とを用いて赤外線吸収剤を形成し、リン酸エステルを用いてその赤外線吸収剤を分散させることにより、可視域の特定の範囲の波長(400nm〜600nm)の光の透過率を高めるのに有利な赤外線吸収性組成物を得ることができることを見出した。また、本発明者らは、所定のホスホン酸として式(a)で表されるホスホン酸を用いると、他の種類のホスホン酸を用いた場合と比べて、赤外線カットフィルタの赤外側カットオフ波長を700nm以下に調整しやすいことを見出した。さらに、本発明者らは、所定のホスホン酸として式(a)で表されるホスホン酸を用いると、他の種類のホスホン酸を用いた場合と比べて、紫外側カットオフ波長を380nm付近(例えば、370nm〜390nm)に調整しやすく、人間の比視感度に比較的近しい光学製品を製造するのに有利な赤外線吸収性組成物を得られることを見出した。本発明に係る赤外線吸収性組成物は、かかる知見に基づいて案出されたものである。
【0020】
赤外線吸収性組成物に含有されるリン酸エステルは、赤外線吸収剤を適切に分散できる限り特に制限されないが、例えば、下記式(b1)で表されるリン酸ジエステル及び下記式(b2)で表されるリン酸モノエステルの少なくとも一方を含む。これにより、赤外線吸収性組成物において赤外線吸収剤を凝集させることなくより確実に分散させることができる。なお、下記式(b1)及び下記式(b2)において、R
21、R
22、及びR
3は、そ
れぞれ、−(CH
2CH
2O)
nR
4で表される1価の官能基であり、nは、1〜25の整数であり、R
4は、炭素数6〜25のアルキル基を示す。R
21、R
22、及びR
3は、互いに同
一又は異なる種類の官能基である。
【化3】
【0021】
赤外線吸収剤は、例えば、式(a)で表されるホスホン酸が銅イオンに配位することによって形成されている。また、例えば、赤外線吸収性組成物において赤外線吸収剤を少なくとも含む微粒子が形成されている。この場合、リン酸エステルの働きにより、微粒子同士が凝集することなく赤外線吸収性組成物において分散している。この微粒子の平均粒子径は、例えば5nm〜200nmである。微粒子の平均粒子径が5nm以上であれば、微粒子の微細化のために特別な工程を要さず、赤外線吸収剤を少なくとも含む微粒子の構造が壊れる可能性が小さい。また、赤外線吸収性組成物において微粒子が良好に分散する。また、微粒子の平均粒子径が200nm以下であると、ミー散乱による影響を低減でき、赤外線カットフィルタにおいて可視光の透過率を向上させることができ、撮像装置で撮影された画像のコントラスト及びヘイズなどの特性の低下を抑制できる。微粒子の平均粒子径は、望ましくは100nm以下である。この場合、レイリー散乱による影響が低減されるので、赤外線吸収性組成物を用いて形成された赤外線吸収層において可視光に対する透明性がさらに高まる。また、微粒子の平均粒子径は、より望ましくは75nm以下である。この場合、赤外線吸収層の可視光に対する透明性がとりわけ高い。なお、微粒子の平均粒子径は、動的光散乱法によって測定できる。
【0022】
赤外線吸収性組成物における式(a)で表されるホスホン酸及びリン酸エステルのモル基準の含有量をそれぞれC
Aモル及びC
Eモルと定義したとき、赤外線吸収性組成物は、C
A/C
E<1の関係を満たす。これにより、式(a)で表されるホスホン酸と銅イオンとによって形成された赤外線吸収剤を良好に分散させることができる。赤外線吸収性組成物は、より望ましくは、0.20≦C
A/C
E≦0.85の関係を満たす。これにより、式(a)で表されるホスホン酸と銅イオンとによって赤外線吸収剤が適切に形成されるとともに、赤外線吸収剤を良好に分散させることができる。式(a)で表されるホスホン酸の1分子中に含まれる2つの水酸基、リン酸ジエステルの1分子中に含まれる1つの水酸基、及びリン酸モノエステルの1分子中に含まれる1つの水酸基である反応性水酸基のモル基準の含有量の合計をC
Hモルと定義したとき、赤外線吸収性組成物はさらにC
H/C
C>1.
95の関係を満たす。C
H/C
Cは、例えば3.5以下である。これにより、赤外線吸収性組成物を用いて、可視域の特定の範囲の波長の光の透過率が高い赤外線カットフィルタを製造できる。換言すると、C
A/C
E<1、かつ、C
H/C
C>1.95の関係が満たされている赤外線吸収性組成物を用いることにより、可視域の特定の範囲の波長の光の透過率が高く、かつ、カットオフ波長が例えば700nm以下である赤外線カットフィルタを製造できる。赤外線吸収性組成物は、望ましくは、C
H/C
C≧2.0の関係を満たす。例えば、C
H/C
Cが1.90以下であると、赤外線カットフィルタの波長400nmの光に対する透過率を高めにくい。また、C
H/C
Cが約2.5を超えると、場合によっては、赤外線カットフィルタの波長400nmの光に対する透過率が許容できる範囲で相対的に低い。
【0023】
赤外線吸収性組成物は、望ましくは、C
H/C
C≧2.842−0.765×C
A/C
Eの関係を満たす。これにより、より確実に、赤外線吸収性組成物を用いて、可視域の特定の範囲の波長の光の透過率が高く、カットオフ波長が660nm以下である赤外線カットフィルタを製造できる。なお、反応性水酸基は、銅イオンとの反応性の観点から定められている。式(a)で表されるホスホン酸の1分子中に含まれる2つの水酸基のいずれも銅イオンと反応し得ると考えられる。リン酸ジエステルの1分子中に含まれる1つの水酸基は銅イオンと反応し得ると考えられる。リン酸モノエステルの1分子中に含まれる2つの水酸基のうち一方のみが銅イオンと反応し得ると考えられる。例えば、リン酸モノエステルが式(b2)で表される場合、上記の式(b2)におけるR
3は、オキシエチレン基又は
ポリオキシエチレン基と炭素数6以上のアルキル基とを含む。このため、リン酸モノエステルでは、銅イオンとの反応において立体障害が生じやすく、せいぜい、リン酸モノエステルの1分子中に含まれる1つの水酸基のみが銅イオンとの反応に寄与し得ると考えられる。
【0024】
赤外線吸収性組成物の調製において、反応性水酸基が十分に供給されないと、比較的嵩高いフェニル基又は少なくとも1つの水素原子がハロゲン原子で置換されたフェニル基の立体障害により式(a)で表されるホスホン酸と銅イオンとが相互作用しにくく、リン酸エステルと銅イオンとの錯体形成が優位になる可能性がある。この場合、リン酸エステルと銅イオンとの錯体による赤外線吸収作用により赤外線カットフィルタの赤外側カットオフ波長が長くなりやすいと考えられる。そこで、カットオフ波長が660nm以下である赤外線カットフィルタを製造するためには、赤外線吸収性組成物において、C
H/C
C≧2.842−0.765×C
A/C
Eの関係が満たされていることが望ましい。
【0025】
赤外線吸収性組成物における銅イオンの供給源は、例えば、銅塩である。銅塩は、例えば酢酸銅又は酢酸銅の水和物である。銅塩としては、塩化銅、ギ酸銅、ステアリン酸銅、安息香酸銅、ピロリン酸銅、ナフテン酸銅、及びクエン酸銅の無水物又は水和物を挙げることができる。例えば、酢酸銅一水和物は、Cu(CH
3COO)
2・H
2Oと表され、1
モルの酢酸銅一水和物によって1モルの銅イオンが供給される。
【0026】
本発明に係る赤外線吸収性組成物は、例えば、マトリクス成分をさらに含有している。マトリクス成分は、例えば、可視光線及び赤外線に対し透明であり、かつ、上記の微粒子を分散可能な樹脂である。
【0027】
赤外線吸収性組成物がマトリクス成分を含む場合、式(a)で表されるホスホン酸の含有量は、例えば、赤外線吸収性組成物におけるマトリクス成分100質量部に対して、3〜60質量部である。
【0028】
赤外線吸収性組成物がマトリクス成分を含む場合、マトリクス成分は、望ましくはポリシロキサン(シリコーン樹脂)である。これにより、赤外線吸収性組成物によって形成される赤外線吸収層の耐熱性を向上させることができる。マトリクス成分として使用可能なポリシロキサンの具体例としては、KR−255、KR−300、KR−2621−1、KR−211、KR−311、KR−216、KR−212、及びKR−251を挙げることができる。これらはいずれも信越化学工業社製のシリコーン樹脂である。マトリクス成分としては、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、及びビニルアセタール樹脂等の樹脂を使用することもできる。なお、これらの樹脂は、構成単位として、単官能又は多官能のモノマー、オリゴマー、及びポリマーのいずれを含んでいてもよい。
【0029】
本発明に係る赤外線吸収性組成物の調製方法の一例を説明する。まず、酢酸銅一水和物などの銅塩をテトラヒドロフラン(THF)などの所定の溶媒に添加して撹拌し、銅塩の
溶液を得る。次に、この銅塩の溶液に、式(b1)で表されるリン酸ジエステル及び式(b2)で表されるリン酸モノエステルなどのリン酸エステル化合物を加えて撹拌し、A液を調製する。また、式(a)で表されるホスホン酸をTHFなどの所定の溶媒に加えて撹拌し、B液を調製する。次に、A液を撹拌しながら、A液にB液を加えて所定時間撹拌する。次に、この溶液にトルエンなどの所定の溶媒を加えて撹拌し、C液を得る。次に、C液を加温しながら所定時間脱溶媒処理を行う。これにより、THFなどの溶媒及び酢酸(沸点:約118℃)などの銅塩の解離により発生する成分が除去され、式(a)で表されるホスホン酸と銅イオンとによって赤外線吸収剤が生成される。C液を加温する温度は、銅塩から解離した除去されるべき成分の沸点に基づいて定められている。なお、脱溶媒処理においては、C液を得るために用いたトルエン(沸点:約110℃)などの溶媒も揮発する。この溶媒は、赤外線吸収性組成物においてある程度残留していることが望ましいので、この観点から溶媒の添加量及び脱溶媒処理の時間が定められているとよい。なお、C液を得るためにトルエンに代えてo‐キシレン(沸点:約144℃)を用いることもできる。この場合、o‐キシレンの沸点はトルエンの沸点よりも高いので、添加量をトルエンの添加量の4分の1程度に低減できる。
【0030】
C液の脱溶媒処理の後に必要に応じてポリシロキサン(シリコーン樹脂)などのマトリクス成分が添加され、所定時間撹拌される。例えば、このようにして、本発明に係る赤外線吸収性組成物を調製できる。赤外線吸収性組成物の調製に使用される溶媒は、式(a)で表されるホスホン酸と銅イオンとによって赤外線吸収剤を適切に形成する観点から、所定の極性を有することが望ましい。なぜなら、溶媒の極性は、赤外線吸収剤を少なくとも含む微粒子の赤外線吸収性組成物における分散に影響を及ぼすからである。例えば、A液の調製に使用されるリン酸エステルの種類に応じて適切な極性を有する溶媒が選択される。
【0031】
本発明の一例に係る赤外線カットフィルタ1a〜1dは、
図1〜
図4に示す通り、透明誘電体基板20と、赤外線吸収層10とを備えている。赤外線吸収層10は、透明誘電体基板20の少なくとも一方の主面に、本発明に係る赤外線吸収性組成物によって形成されている。赤外線吸収層10において、
図1に示す通り、赤外線吸収剤を少なくとも含む微粒子11がマトリクス12に分散している。透明誘電体基板20は、例えば、透明ガラス基板である。赤外線吸収層10の厚みは、例えば、40μm〜900μmである。これにより、赤外線カットフィルタ1a〜1dがより確実に所望の光学特性を発揮できる。赤外線吸収層10の厚みが例えば約500μmであると、波長700nm付近の近赤外線の透過率が3%未満になりやすい。また、赤外線カットフィルタ1a〜1dの信頼性を高める観点から、マトリクス12の分量を相対的に高めることによって赤外線吸収層10の厚みを約900μmにしてもよい。
【0032】
赤外線カットフィルタ1a〜1dは、例えば、以下の特性(i)〜(iii)のいずれを
も有する。
(i)可視域の特定の範囲の波長(400nm〜600nm)の光の透過率が約70%以上であり、場合によっては75%以上である。
(ii)赤外側カットオフ波長が700nm以下、場合によっては660nm以下である。(iii)紫外側カットオフ波長が370〜390nmである。
【0033】
赤外線カットフィルタ1a〜1dは、(i)〜(iii)の特性を有することにより、デ
ジタルカメラなどの撮像装置の撮像光学系において撮像素子の前方に配置される赤外線カットフィルタとして望ましい特性を有する。デジタルカメラなどの撮像装置の撮像光学系において使用される赤外線カットフィルタは、比視感度が比較的小さい波長範囲の光をできるだけ遮蔽することが望ましい。このため、赤外線カットフィルタの赤外側カットオフ波長が実効的な比視感度の上限である700nmより短いことは有意義である。赤外線カ
ットフィルタの光学特性を人間の比視感度に近づける観点から、上記の(i)の特性を満たしつつ、赤外線カットフィルタの赤外側カットオフ波長が660nm以下であることが望ましい。また、比視感度の下限は380nm程度であるので、赤外線カットフィルタが380nmより短い波長の光を遮蔽することも有意義である。このため、赤外線カットフィルタ1a〜1dは、上記(ii)及び(iii)の特性を有することにより、人間の比視感
度に近しい光学特性を有する。
【0034】
赤外線カットフィルタ1a〜1dの製造方法の一例について説明する。まず、液状の赤外線吸収性組成物をスピンコーティング又はディスペンサによる塗布により、透明誘電体基板20の一方の主面に塗布して塗膜を形成する。次に、この塗膜に対して所定の加熱処理を行って塗膜を硬化させる。このようにして、赤外線カットフィルタ1a〜1dを製造できる。赤外線吸収層10のマトリクス12を強固に形成しつつ赤外線カットフィルタ1a〜1dの光学特性を高める観点から、加熱処理における塗膜の雰囲気温度の最高値は、例えば140℃以上であり、望ましくは160℃以上である。また、加熱処理における塗膜の雰囲気温度の最高値は、例えば、170℃以下である。
【0035】
本発明の別の一例に係る赤外線カットフィルタ1bは、
図2に示す通り、両主面に反射防止膜30aを備えている。赤外線カットフィルタ1bは、反射防止膜30aを備える以外は、赤外線カットフィルタ1aと同様の構成を有している。これにより、迷光の原因となるフレネル反射光を除去できるともに、赤外線カットフィルタ1bを透過する可視域の光の光量を増加させることができる。反射防止膜30aの屈折率又は膜厚などの諸元は、透明誘電体基板20の屈折率又は赤外線吸収層10の屈折率に基づいて、公知の手法により最適化できる。反射防止膜30aは、単層膜又は積層多層膜である。反射防止膜30aが単層膜である場合、反射防止膜30aは、透明誘電体基板20の屈折率又は赤外線吸収層10の屈折率よりも低い屈折率を有する材料でできていることが望ましい。なお、反射防止膜30aは、透明誘電体基板20の屈折率又は赤外線吸収層10の屈折率以上の屈折率を有する材料でできていてもよい。反射防止膜30aが積層多層膜である場合、反射防止膜30aは、互いに異なる屈折率を有する2種類以上の材料を交互に積層することによって形成されている。反射防止膜30aを形成する材料は、例えば、SiO
2、TiO
2、及びMgF
2などの無機材料又はフッ素樹脂などの有機材料である。反射防止膜30aを
形成する方法は、特に制限されず、反射防止膜30aを形成する材料の種類に応じて、真空蒸着、スパッタリング、CVD(Chemical Vapor Deposition)、及びスピンコーティ
ング又はスプレーコーティングを利用したゾルゲル法のいずれかを用いることができる。
【0036】
本発明のさらに別の一例に係る赤外線カットフィルタ1cにおいて、
図3に示す通り、透明誘電体基板20の両方の主面上に赤外線吸収層10が形成されている。これにより、1つの赤外線吸収層10によってではなく、2つの赤外線吸収層10によって、赤外線カットフィルタ1cが所望の光学特性を得るために必要な赤外線吸収層の厚みを確保できる。透明誘電体基板20の両方の主面上における各赤外線吸収層10の厚みは同一であってもよいし、異なっていてもよい。すなわち、赤外線カットフィルタ1cが所望の光学特性を得るために必要な赤外線吸収層の厚みが均等に又は不均等に分配されるように、透明誘電体基板20の両方の主面上に赤外線吸収層10が形成されている。これにより、透明誘電体基板20の両方の主面上に形成された各赤外線吸収層10の厚みが比較的小さい。このため、赤外線吸収層の厚みが大きい場合に生じる赤外線吸収層の厚みのばらつきを抑制できる。また、液状の赤外線吸収性組成物を塗布する時間を短縮でき、赤外線吸収性組成物の塗膜を硬化させるための時間を短縮できる。透明誘電体基板20が非常に薄い場合、透明誘電体基板20の一方の主面上のみに赤外線吸収層10を形成すると、赤外線吸収性組成物から赤外線吸収層10を形成する場合に生じる収縮に伴う応力によって、赤外線カットフィルタが反る可能性がある。しかし、透明誘電体基板20の両方の主面上に赤外線吸収層10が形成されていることにより、透明誘電体基板20が非常に薄い場合でも、赤
外線カットフィルタ1cにおいて反りが抑制される。
【0037】
本発明のさらに別の一例に係る赤外線カットフィルタ1dは、
図4に示す通り、赤外線吸収層15をさらに備えている。赤外線吸収層15は、赤外線吸収層10が形成されている主面と反対側の主面に形成されている。赤外線吸収層15は、本発明の赤外線吸収性組成物とは異なる種類の赤外線吸収性組成物によって形成されている。赤外線吸収層15は、例えば、式(a)におけるR
1が炭素数1〜6のアルキル基に置換されたホスホン酸を
式(a)で表されるホスホン酸の代わりに用いる以外は本発明の赤外線吸収性組成物と同様に調製された赤外線吸収性組成物によって形成されている。
【0038】
本発明に係る撮像光学系100は、
図5に示す通り、例えば、赤外線カットフィルタ1aを備えている。撮像光学系100は、例えば、撮像レンズ3をさらに備えている。撮像光学系100は、デジタルカメラなどの撮像装置において、撮像素子2の前方に配置されている。撮像素子2は、例えば、CCD又はCMOSなどの固体撮像素子である。
図5に示す通り、被写体からの光は、撮像レンズ3によって集光され、赤外線カットフィルタ1aによって赤外線域の光がカットされた後、撮像素子2に入射する。このため、色再現性の高い良好な画像を得ることができる。撮像光学系100は、赤外線カットフィルタ1aに代えて、赤外線カットフィルタ1b、赤外線カットフィルタ1c、及び赤外線カットフィルタ1dのいずれかを備えていてもよい。
【実施例】
【0039】
実施例により、本発明をより詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されない。まず、実施例及び比較例の評価方法を説明する。
【0040】
<赤外線カットフィルタの分光透過率>
各実施例及び各比較例に係る赤外線カットフィルタの分光透過率スペクトルを、紫外線可視分光光度計(日本分光社製、製品名:V−670)を用いて測定した。この測定において、赤外線カットフィルタに対する入射光の入射角を0°(度)に設定した。各実施例及び各比較例に係る赤外線カットフィルタにおける赤外線吸収層の厚みの違いによる影響を排除するため、測定された分光透過率に100/92を乗じて界面における反射をキャンセルしたうえで、波長820〜840nmにおける平均透過率が1%になるように係数を定めた。さらに、各波長の透過率を吸光度に換算したうえで定めた係数をかけて調整し分光透過率を算出した。すなわち、波長820〜840nmにおける平均透過率が1%となるように正規化され、赤外線カットフィルタと空気との界面における反射がキャンセルされた赤外線カットフィルタの分光透過率スペクトルが得られた。
【0041】
<実施例1>
(赤外線吸収性組成物の調製)
酢酸銅一水和物1.125g(5.635ミリモル(以下、「mmol」と記載する))とテトラヒドロフラン(THF)60gとを混合して3時間撹拌し酢酸銅溶液を得た。次に、得られた酢酸銅溶液に、リン酸エステル化合物であるプライサーフA208F(第一工業製薬社製)を2.338g(7.035mmol)加えて30分間撹拌し、A液を得た。また、フェニルホスホン酸(日産化学工業社製)0.585g(3.699mmol)にTHF10gを加えて30分撹拌し、B液を得た。プライサーフA208Fは、上記の式(b1)及び(b2)において、R
21、R
22、及びR
3が、それぞれ、同一種類の
(CH
2CH
2O)
nR
4であり、n=1であり、R
4は炭素数が8の1価の基である、リン
酸エステル化合物であった。プライサーフA208Fの分子量は、式(b1)で表されるリン酸ジエステルと式(b2)で表されるリン酸モノエステルとを、モル比で、1:1で含んでいるとして算出した。
【0042】
次に、A液を撹拌しながらA液にB液を加え、室温で1分間撹拌した。次に、この溶液にトルエン45gを加えた後、室温で1分間撹拌し、C液を得た。このC液をフラスコに入れてオイルバス(東京理化器械社製、型式:OSB−2100)で加温しながら、ロータリーエバポレータ(東京理化器械社製、型式:N−1110SF)によって、25分間脱溶媒処理を行った。オイルバスの設定温度は、120℃に調整した。その後、フラスコの中から脱溶媒処理後の溶液を取り出した。取り出した溶液に、シリコーン樹脂(信越化学工業社製、製品名:KR−300)を4.400g添加し、室温で30分間撹拌し、実施例1に係る赤外線吸収性組成物を得た。
【0043】
(赤外線カットフィルタの作製)
76mm×76mm×0.21mmの寸法を有するホウケイ酸ガラスでできた透明ガラス基板(SCHOTT社製、製品名:D263)の一方の主面の中心部の30mm×30mmの範囲にディスペンサを用いて実施例1に係る赤外線吸収性組成物を約0.3g塗布して塗膜を形成した。次に、未乾燥の塗膜を有する透明ガラス基板をオーブンに入れて、85℃で3時間、次に125℃で3時間、次に150℃で1時間、次に170℃で3時間の条件で塗膜に対して加熱処理を行い、塗膜を硬化させ、実施例1に係る赤外線カットフィルタを作製した。実施例1に係る赤外線カットフィルタの分光透過率スペクトルを
図6に示す。また、この分光透過率スペクトルから求めた、実施例1に係る赤外線カットフィルタの、紫外側カットオフ波長及び赤外側カットオフ波長、並びに、400nm、600nm、及び700nmの波長の光の透過率を表1に示す。
【0044】
<実施例2〜21>
フェニルホスホン酸及びリン酸エステル化合物の添加量を表1に示す通り変更した以外は実施例1と同様にして、実施例2〜18に係る赤外線吸収性組成物を調製した。また、フェニルホスホン酸の添加量を0.584g(3.691mmol)とし、プライサーフA208F 2.338g(7.035mmol)の代わりに、NIKKOL DDP−2(日光ケミカルズ社製) 3.615g(7.030mmol)及びNIKKOL DDP−6(日光ケミカルズ社製) 5.475g(7.033mmol)をそれぞれ用いた以外は、実施例1と同様にして、実施例19及び実施例20に係る赤外線吸収性組成物を調製した。NIKKOL DDP−2は、上記の式(b1)及び(b2)において、R
21、R
22、及びR
3が、それぞれ、同一種類の(CH
2CH
2O)
mR
5であり、m=2であ
り、R
5は炭素数が12〜15の1価の基であるリン酸エステル化合物である。NIKK
OL DDP−2の分子量は、R
5の炭素数を12〜15の平均である13.5とし、式
(b1)で表されるリン酸ジエステルと式(b2)で表されるリン酸モノエステルとを、モル比で、1:1で含んでいるとして算出した。NIKKOL DDP−6は、上記の式(b1)及び(b2)において、R
21、R
22、及びR
3が、それぞれ、同一種類の(CH
2CH
2O)
mR
5であり、m=6であり、R
5は炭素数が12〜15の1価の基であるリン酸エステル化合物である。NIKKOL DDP−6の分子量は、NIKKOL DDP−2と同様にR
5の炭素数を13.5とし、式(b1)で表されるリン酸ジエステルと式(
b2)で表されるリン酸モノエステルとを、モル比で、1:1で含んでいるとして算出した。また、フェニルホスホン酸(日産化学工業社製)0.585g(3.699mmol)の代わりに、4‐ブロモフェニルホスホン酸(東京化成工業社製)を0.835g(3.523mmol)を用いた以外は、実施例1と同様にして、実施例21に係る赤外線吸収性組成物を調製した。また、実施例1に係る赤外線吸収性組成物の代わりに、実施例2〜21に係る赤外線吸収性組成物を用いた以外は、実施例1と同様にして、それぞれ、実施例2〜21に係る赤外線カットフィルタを作製した。実施例2〜21に係る赤外線カットフィルタの分光透過率スペクトルをそれぞれ
図7〜26に示す。また、実施例2〜21に係る赤外線カットフィルタの、紫外側カットオフ波長及び赤外側カットオフ波長、並びに、400nm、600nm、及び700nmの波長の光の透過率を表1に示す。実施例1〜21に係る赤外線吸収性組成物における、反応性水酸基の含有量C
Hモルと銅イオン
の含有量C
Cモルとの比(C
H/C
C)と、ホスホン酸の含有量C
Aモルとリン酸エステルの含有量C
Eモルとの比(C
A/C
E)との関係を
図27に示す。
図27において、丸印は実
施例1〜8、15、16、及び19〜21に関し、三角印は実施例9〜14、17、及び18に関する。また、
図27における破線は、C
H/C
C=2.842−0.765×(C
A/C
E)で示される直線である。
【0045】
<比較例1〜9>
フェニルホスホン酸に代えて、ブチルホスホン酸、ヘキシルホスホン酸、又はエチルホスホン酸を表2に示す添加量で加えつつ、リン酸エステル化合物の添加量を表2に示す通り変更した以外は、実施例1と同様にして、比較例1〜4に係る赤外線吸収性組成物を調製した。フェニルホスホン酸及びリン酸エステル化合物の添加量を表2に示す通り変更した以外は実施例1と同様にして、比較例5〜8に係る赤外線吸収性組成物を調製した。4‐ブロモフェニルホスホン酸及びリン酸エステル化合物の添加量を表2に示す通り変更した以外は実施例21と同様にして、比較例9に係る赤外線吸収性組成物を調製した。また、実施例1に係る赤外線吸収性組成物の代わりに、比較例1〜6に係る赤外線吸収性組成物を用いた以外は、実施例1と同様にして、それぞれ、比較例1〜6に係る赤外線カットフィルタを作製した。比較例1〜6に係る赤外線カットフィルタの分光透過率スペクトルをそれぞれ
図28〜33に示す。また、比較例1〜6に係る赤外線カットフィルタの、紫外側カットオフ波長及び赤外側カットオフ波長、並びに、400nm、600nm、及び700nmの波長の光の透過率を表2に示す。なお、比較例7〜9に係る赤外線吸収性組成物中では凝集体の発生が著しく、微粒子が良好に分散している組成物を得ることができなかった。
【0046】
<実施例22及び23>
実施例1の赤外線カットフィルタの透明ガラス基板の他方の主面に実施例12に係る赤外線吸収性組成物を用いて実施例1と同様にして塗膜を形成し、実施例1と同様の条件で加熱処理を行って塗膜を硬化させた。このようにして、実施例22に係る赤外線カットフィルタを得た。また、実施例5の赤外線カットフィルタの透明ガラス基板の他方の主面に比較例4に係る赤外線吸収性組成物を用いて実施例1と同様にして塗膜を形成し、実施例1と同様の条件で加熱処理を行って塗膜を硬化させた。このようにして、実施例23に係る赤外線カットフィルタを得た。実施例22及び23に係る赤外線カットフィルタの分光透過率スペクトルをそれぞれ
図34及び35に示す。また、実施例22及び23に係る赤外線カットフィルタの、紫外側カットオフ波長及び赤外側カットオフ波長、並びに、400nm、600nm、及び700nmの波長の光の透過率を表1に示す。
【0047】
図6〜26、34、及び35に示す通り、実施例1〜23に係る赤外線カットフィルタは、可視域の特定の範囲の波長(400nm〜600nm)において70%以上の高い透過率を示した。また、表1に示す通り、実施例1〜23に係る赤外線カットフィルタの赤外側カットオフ波長は700nm以下であり、実施例1〜23に係る赤外線カットフィルタの紫外側カットオフ波長は375〜389nmであった。このため、実施例1〜23に係る赤外線カットフィルタは、デジタルカメラなどの撮像装置の撮像光学系において撮像素子の前方に配置される赤外線カットフィルタとして望ましい光学特性を有することが示唆された。一方、表2に示す通り、比較例1〜4に係る赤外線カットフィルタの赤外側カットオフ波長は700nmを超えており、比較例1〜4に係る赤外線カットフィルタの紫外側カットオフ波長は350nm未満であった。また、
図32及び33に示す通り、比較例5及び6に係る赤外線カットフィルタは、波長400nmにおいて透過率が約50%と低かった。このため、比較例1〜6に係る赤外線カットフィルタは、デジタルカメラなどの撮像装置の撮像光学系において撮像素子の前方に配置される赤外線カットフィルタとして望ましい光学特性を有しているとは言い難かった。
【0048】
表1に示す通り、実施例1〜8、15、16、及び19〜21に係る赤外線カットフィルタの赤外側カットオフ波長は660nm以下であり、これらの実施例に係る赤外線カットフィルタはより望ましい光学特性を有することが示唆された。これに対し、実施例9〜14、17、及び18に係る赤外線カットフィルタの赤外側カットオフ波長は、700nm未満ではあるものの、660nmより長かった。このため、
図27に示す通り、C
H/
C
C≧2.842−0.765×(C
A/C
E)の関係が満たされていると、赤外線カット
フィルタの赤外側カットオフ波長を660nm以下に低減しやすいことが示唆された。
【0049】
図34及び35に示す通り、実施例22及び23に係る赤外線カットフィルタの、900nm〜1100nmの範囲の波長の光の透過率は3%を下回っていた。このため、実施例22及び23に係る赤外線カットフィルタは、赤外線カットフィルタとして、より望ましい光学特性を有していることが示唆された。
【0050】
【表1】
【0051】
【表2】
【解決手段】本発明に係る赤外線吸収性組成物は、下記式(a)で表されるホスホン酸と銅イオンとによって形成された赤外線吸収剤と、赤外線吸収剤を分散させるリン酸エステルと、を含有する。リン酸エステルは、リン酸ジエステル及びリン酸モノエステルの少なくとも一方を含む。R