特許第6282815号(P6282815)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6282815
(24)【登録日】2018年2月2日
(45)【発行日】2018年2月21日
(54)【発明の名称】インクジェット印刷装置
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/01 20060101AFI20180208BHJP
   B41J 2/21 20060101ALI20180208BHJP
【FI】
   B41J2/01 303
   B41J2/01 401
   B41J2/21
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-156297(P2013-156297)
(22)【出願日】2013年7月29日
(65)【公開番号】特開2015-24599(P2015-24599A)
(43)【公開日】2015年2月5日
【審査請求日】2016年5月6日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000250502
【氏名又は名称】理想科学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(72)【発明者】
【氏名】前坂 敏秀
【審査官】 島▲崎▼ 純一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−018487(JP,A)
【文献】 特開2013−071393(JP,A)
【文献】 特開2006−341406(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2006/0274098(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01 − 2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のノズルが形成されたインクジェットヘッドまたは印刷媒体を移動させつつ、前記インクジェットヘッドのノズルから印刷媒体へインクを吐出して画像を印刷するインクジェット印刷装置であって、
前記インクジェットヘッドの吐出面と印刷媒体との間の距離を調整する調整部と、
印刷する画像の、前記インクジェットヘッドおよび印刷媒体のうちの移動する側の移動方向の上流側における端部を、設定解像度より低解像度に変更して印刷するよう前記インクジェットヘッドを制御する制御部とを備え、
前記制御部は、前記吐出面と印刷媒体との間の距離、およびインクジェットヘッドと印刷媒体との相対移動速度の少なくともいずれか一方に応じて、解像度変更して印刷する範囲を調整することを特徴とするインクジェット印刷装置。
【請求項2】
前記制御部は、解像度変更して印刷する画素を形成するドットが、元の解像度で印刷する場合の当該画素に対応する各画素を形成する各ドットよりも大きくなるよう前記インクジェットヘッドを制御することを特徴とする請求項1に記載のインクジェット印刷装置。
【請求項3】
ブラック、シアン、マゼンタ、イエローのインクをそれぞれ吐出する4つの前記インクジェットヘッドを備え、
前記制御部は、解像度変更して印刷する黒色の画素のドットを、ブラックのインクで形成することから、シアン、マゼンタ、およびイエローのインクで形成することに変更することを特徴とする請求項1または2に記載のインクジェット印刷装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェットヘッドから印刷媒体にインクを吐出して印刷を行うインクジェット印刷装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット印刷装置において、インクジェットヘッドのノズルからインクが吐出されると、主たるインク滴に付随して微小なインク滴であるサテライトが発生する。
【0003】
インクジェット印刷装置では、印刷画質向上のため、高解像度化の要求がある。しかし、高解像度化により単位面積当たりのドット数が増加し、それに伴ってサテライトも増加する。サテライトが用紙の余白に着弾すると、印刷画質が低下する。
【0004】
例えば、用紙を搬送しつつ固定のインクジェットヘッドから用紙へインクを吐出するライン型のインクジェット印刷装置では、特に、印刷する画像の、用紙の搬送方向の上流側における端部で、印字部と非印字部との境界がサテライトによりぼかされる。これにより、印刷画質が低下する。
【0005】
インクジェット印刷装置におけるサテライトを低減する技術としては、特許文献1に開示されたものがある。特許文献1の技術では、シリアル型のインクジェット印刷装置において、ミスト(サテライト)の発生に関連する記録条件に応じたミスト低減方法を適用して記録を行っている。ミスト低減方法としては、誤差拡散等の画像処理により画像形成のためのインクの付与量を低減することや、記録ヘッドを搭載したキャリッジの速度を低速にすること等がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−296754号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の技術のようにインクの付与量を低減すると、ミストの減少に伴い広範囲の印刷画質の変化を招く。また、キャリッジの速度を低速にすると、印刷物の生産性が低下する。
【0008】
本発明は上記に鑑みてなされたもので、広範囲の印刷画質の変化や印刷物の生産性の低下を抑えつつ、サテライトによる印刷画質の低下を軽減できるインクジェット印刷装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明に係るインクジェット印刷装置の第1の特徴は、複数のノズルが形成されたインクジェットヘッドまたは印刷媒体を移動させつつ、前記インクジェットヘッドのノズルから印刷媒体へインクを吐出して画像を印刷するインクジェット印刷装置であって、印刷する画像の、前記インクジェットヘッドおよび印刷媒体のうちの移動する側の移動方向の上流側における端部を、設定解像度より低解像度に変更して印刷するよう前記インクジェットヘッドを制御する制御部を備えることにある。
【0010】
本発明に係るインクジェット印刷装置の第2の特徴は、前記制御部は、解像度変更して印刷する画素を形成するドットが、元の解像度で印刷する場合の当該画素に対応する各画素を形成する各ドットよりも大きくなるよう前記インクジェットヘッドを制御することにある。
【0011】
本発明に係るインクジェット印刷装置の第3の特徴は、前記インクジェットヘッドの吐出面と印刷媒体との間の距離を調整する調整部をさらに備え、前記制御部は、前記吐出面と印刷媒体との間の距離、およびインクジェットヘッドと印刷媒体との相対移動速度の少なくともいずれか一方に応じて、解像度変更して印刷する範囲を調整することにある。
【0012】
本発明に係るインクジェット印刷装置の第4の特徴は、ブラック、シアン、マゼンタ、イエローのインクをそれぞれ吐出する4つの前記インクジェットヘッドを備え、前記制御部は、解像度変更して印刷する黒色の画素のドットを、ブラックのインクで形成することから、シアン、マゼンタ、およびイエローのインクで形成することに変更することにある。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係るインクジェット印刷装置の第1の特徴によれば、印刷する画像の、インクジェットヘッドおよび印刷媒体のうちの移動する側の移動方向の上流側における端部を、設定解像度より低解像度に変更して印刷する。これにより、画像の上流側の端部においてインク吐出の対象となる画素数が減少するため、発生するサテライトが低減する。この結果、サテライトによる印刷画質の低下を軽減できる。また、画像の上流側の端部のみの解像度変更であるため、広範囲の印刷画質の変化は生じない。また、インクジェットヘッドまたは印刷媒体の移動速度の変更等は不要なため、印刷物の生産性の低下も生じない。したがって、本発明に係るインクジェット印刷装置の第1の特徴によれば、広範囲の印刷画質の変化や印刷物の生産性低下を抑えつつ、サテライトによる印刷画質の低下を軽減できる。
【0014】
本発明に係るインクジェット印刷装置の第2の特徴によれば、解像度変更して印刷する画素を形成するドットが、元の解像度で印刷する場合の当該画素に対応する各画素を形成する各ドットよりも大きくなる。これにより、主滴によるドットに重なる位置に着弾するサテライトが多くなるため、余白に着弾するサテライトを低減できる。この結果、サテライトによる印刷画質の低下をより軽減できる。
【0015】
本発明に係るインクジェット印刷装置の第3の特徴によれば、吐出面と印刷媒体との間の距離、およびインクジェットヘッドと印刷媒体との相対移動速度の少なくともいずれか一方に応じて、解像度変更して印刷する範囲を調整する。これにより、サテライトによる印刷画質の低下が生じやすい印刷条件でも、印刷画質の低下を軽減できる。
【0016】
本発明に係るインクジェット印刷装置の第4の特徴によれば、解像度変更して印刷する黒色の画素のドットを、ブラックのインクで形成することから、シアン、マゼンタ、およびイエローのインクで形成することに変更する。これにより、画像の上流側の余白に着弾するサテライトが、ブラックのサテライトではなく、シアン等のサテライトとなる。このため、サテライトのドットが目立ちにくくなる。これにより、印刷画質の低下を軽減できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実施の形態に係るインクジェット印刷装置の構成を示すブロック図である。
図2図1に示すインクジェット印刷装置の搬送部および印刷部の概略構成図である。
図3図1に示すインクジェット印刷装置のヘッドモジュールの配置の説明図である。
図4図1に示すインクジェット印刷装置の動作を説明するためのフローチャートである。
図5】標準条件において全体を設定解像度で印刷された画像の上流側における端部付近のドットイメージの一例を示す図である。
図6】標準条件において標準範囲で解像度変更されて印刷された画像の上流側における端部付近のドットイメージの一例を示す図である。
図7】標準条件ではない印刷条件において、全体を設定解像度で印刷された画像の上流側における端部付近のドットイメージの一例を示す図である。
図8】標準条件ではない印刷条件において、拡張範囲で解像度変更されて印刷された画像の上流側における端部付近のドットイメージの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。各図面を通じて同一もしくは同等の部位や構成要素には、同一もしくは同等の符号を付している。ただし、図面は模式的なものであり、現実のものとは異なることに留意すべきである。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることはもちろんである。
【0019】
また、以下に示す実施の形態は、この発明の技術的思想を具体化するための装置等を例示するものであって、この発明の技術的思想は、各構成部品の材質、形状、構造、配置等を下記のものに特定するものでない。この発明の技術的思想は、特許請求の範囲において、種々の変更を加えることができる。
【0020】
図1は、本発明の実施の形態に係るインクジェット印刷装置の構成を示すブロック図である。図2は、図1に示すインクジェット印刷装置の搬送部および印刷部の概略構成図である。図3は、ヘッドモジュールの配置の説明図である。
【0021】
以下の説明において、図2の紙面表方向を前方とする。また、図2に示すように、紙面の上下左右を上下左右方向とする。また、図2において左から右に向かう方向が、印刷媒体である用紙Pの搬送方向である。以下の説明における上流、下流は、搬送方向における上流、下流を意味する。
【0022】
図1に示すように、インクジェット印刷装置1は、搬送部2と、印刷部3と、制御部4とを備える。
【0023】
搬送部2は、用紙Pを搬送する。図1図2に示すように、搬送部2は、搬送ベルト11と、駆動ローラ12と、従動ローラ13,14,15と、ベルトモータ16とを備える。
【0024】
搬送ベルト11は、用紙Pを吸着保持して搬送する。搬送ベルト11は、駆動ローラ12および従動ローラ13〜15に掛け渡される環状のベルトである。搬送ベルト11には、用紙Pを吸着保持するための貫通穴であるベルト穴が、全面に渡って多数形成されている。搬送ベルト11は、図示しないファンによるエア吸引によりベルト穴に発生する吸着力により、搬送面(上面)11aに用紙Pを吸着保持する。搬送ベルト11は、図2における時計回り方向に回転することで、吸着保持した用紙Pを右方向に搬送する。
【0025】
駆動ローラ12は、搬送ベルト11を回転させる。
【0026】
従動ローラ13〜15は、搬送ベルト11を介して駆動ローラ12に従動する。従動ローラ13は、駆動ローラ12と略同じ高さで、駆動ローラ12の左側に配置されている。従動ローラ14,15は、駆動ローラ12および従動ローラ13の下方において、互いに左右方向に離間して、略同じ高さに配置されている。
【0027】
ベルトモータ16は、駆動ローラ12を回転駆動させる。
【0028】
印刷部3は、搬送部2により搬送される用紙Pに画像を印刷する。印刷部3は、搬送部2の上方に配置されている。印刷部3は、インクジェットヘッド21K,21C,21M,21Yと、ヘッドホルダ22と、ヘッドギャップ調整ユニット(請求項の調整部に相当)23とを備える。なお、色の区別が必要ない場合等に、符号における色を示すアルファベットの添え字(C,K,M,Y)を省略することがある。
【0029】
インクジェットヘッド21C,21K,21M,21Yは、それぞれシアン(C)、ブラック(K)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)のインクを吐出する。インクジェットヘッド21C,21K,21M,21Yは、搬送部2の上方において、左右方向に並列して配置されている。インクジェットヘッド21K,21C,21M,21Yから同一画素に各色のインクを重ねて打ち込むことで、様々な色を形成することができる。インクジェットヘッド21C,21K,21M,21Yは、ライン型のインクジェットヘッドであり、図3に示すように、それぞれ6個のヘッドモジュール31を有する。なお、図3では、ヘッドホルダ22等の図示を省略している。
【0030】
ヘッドモジュール31は、搬送ベルト11の搬送面11aに対向する吐出面(下面)31aに形成された複数のノズル(図示せず)を有し、ノズルからインクを吐出する。ヘッドモジュール31の複数のノズルは、所定のノズルピッチで用紙Pの搬送方向(副走査方向)に直交する前後方向(主走査方向)に配列されている。各インクジェットヘッド21C,21K,21M,21Yにおいて、6個のヘッドモジュール31は、前後方向に沿って千鳥配置されている。すなわち、6個のヘッドモジュール31は、前後方向に沿って配列され、かつ、1つおきに左右方向における位置をずらして配置されている。ヘッドモジュール31は、1つのノズルから1つの画素に対して吐出するインク液滴の液滴数(ドロップ数)を変えることができ、ドロップ数により濃度を表現する印刷を行う。
【0031】
ヘッドホルダ22は、ヘッドモジュール31を保持する。ヘッドホルダ22は、中空状の略直方体形状に形成されている。ヘッドホルダ22は、搬送部2の上方に配置されている。ヘッドホルダ22は、その底面からヘッドモジュール31の下端部を下方に突出させて、ヘッドモジュール31を保持している。
【0032】
ヘッドギャップ調整ユニット23は、ヘッドギャップHgを調整する。ヘッドギャップHgは、搬送ベルト11の搬送面11aとインクジェットヘッド21のヘッドモジュール31の吐出面31aとの間の距離である。ヘッドギャップHgは、印刷に使用される用紙種類(用紙Pの厚さ)に応じて調整される。ヘッドギャップ調整ユニット23は、昇降機構部41と、昇降モータ42と、突き当て部材43とを備える。
【0033】
昇降機構部41は、インクジェットヘッド21に対して搬送部2を昇降させるものである。昇降機構部41は、前後方向に離間して2つ設けられている。昇降機構部41は、1対のプーリ46,47と、シャフト48と、ワイヤ49,50とを備える。
【0034】
プーリ46,47は、それぞれワイヤ49,50の巻き取りおよび繰り出しを行う。プーリ46,47は、互いに左右方向に離間して、ヘッドホルダ22内に回転可能に支持されている。
【0035】
シャフト48は、1対のプーリ46,47を互いに接続するものである。シャフト48は、左右方向に延びる長尺状の部材からなり、一端がプーリ36に固定され、他端がプーリ37に固定されている。これにより、1対のプーリ46,47が同期して回転される。
【0036】
ワイヤ49,50は、搬送部2を吊り下げ支持する。ワイヤ49,50の一端は、搬送部2に接続され、他端側は、プーリ46,47に巻き付けられている。ワイヤ49,50がプーリ46,47の回転により巻き取られたり繰り出されたりすることで、搬送部2が昇降する。
【0037】
昇降モータ42は、プーリ46,47を回転駆動させる。
【0038】
突き当て部材43は、ヘッドギャップHgを調整するための部材である。突き当て部材43は、ヘッドホルダ22の底面の角部に立設されている。搬送部2が突き当て部材43の下端に突き当てられることで、搬送部2が位置決めされる。突き当て部材43は、ヘッドギャップHgに応じて上下方向の長さを複数段階に調整可能に構成されている。
【0039】
制御部4は、インクジェット印刷装置1の各部の動作を制御する。制御部4は、CPU、RAM、ROM、ハードディスク等を備えて構成される。
【0040】
制御部4は、搬送部2により用紙Pを搬送させつつ、インクジェットヘッド21から用紙Pへインクを吐出して画像を印刷するよう制御する。ここで、制御部4は、印刷する画像の、用紙Pの搬送方向の上流側における端部を、設定解像度より低解像度に変更して印刷するようインクジェットヘッド21を制御する。
【0041】
次に、インクジェット印刷装置1の動作について説明する。
【0042】
図4は、インクジェット印刷装置1の動作を説明するためのフローチャートである。図4のフローチャートの処理は、インクジェット印刷装置1に印刷データが入力され、印刷データに基づき、制御部4が各色のドロップデータを生成したことにより開始となる。各色のドロップデータは、設定解像度における各画素に吐出する各色のインクのドロップ数を示すデータである。
【0043】
図4のステップS1において、制御部4は、今回の印刷における印刷条件が、標準条件であるか否かを判断する。標準条件は、「ヘッド用紙間距離Hpが閾値Hth以下かつ設定搬送速度Vが閾値Vth以下(Hp≦HthかつV≦Vth)」という条件である。
【0044】
ヘッド用紙間距離Hpは、ヘッドギャップHgから用紙Pの厚さを差し引いたものである。前述のように、ヘッドギャップHgは用紙種類(用紙Pの厚さ)に応じて調整される。ヘッドギャップHgは、突き当て部材43の長さ調整により複数段階に調整可能であるが、必ずしもすべての用紙種類に個別の値を設定することはできない。このため、例えば、厚さが近い用紙種類に対して同じ値のヘッドギャップHgが割り当てられることがある。このようなことから、ヘッド用紙間距離Hpは、用紙種類に応じて異なる。制御部4は、用紙種類に応じたヘッド用紙間距離Hpを予め記憶している。制御部4は、印刷データに含まれる用紙種類情報から、今回の印刷で使用する用紙種類を取得し、その用紙種類に応じたヘッド用紙間距離Hpが閾値Hth以下であるか否かを判断する。
【0045】
設定搬送速度Vは、印刷時に設定される搬送部2による用紙Pの搬送速度であり、設定解像度等に応じた値に設定される。例えば、設定解像度が大きいほど、設定搬送速度Vは遅くなる。なお、搬送部2による用紙Pの搬送速度は、請求項の相対移動速度に相当する。
【0046】
今回の印刷条件は標準条件である、すなわち「Hp≦HthかつV≦Vth」であると判断した場合(ステップS1:YES)、ステップS2において、制御部4は、ドロップデータに対して、標準範囲で解像度変更する画像処理を行う。
【0047】
具体的には、まず、制御部4は、各色のドロップデータを解析して、どの色のインクも吐出されない(ドロップ数が0の)画素が所定数(例えば3)以上、副走査方向に連続する部分に対し、印刷時の下流側に隣接する画素を、画像の上流端の画素として検出する。
【0048】
次いで、制御部4は、画像の上流側の端部を、標準範囲において、設定解像度より低い所定の解像度に変更する。ここで、標準範囲は、例えば、画像の上流側の端部における、変更後の解像度での1画素分の幅の範囲である。
【0049】
例えば、制御部4は、画像の上流端の画素にインクが吐出される各色のドロップデータにおいて、主走査方向に隣接する2つの上流端の画素と、この2つの上流端の画素に対して下流側にそれぞれ隣接する2つの画素との4つの画素を、1つの画素に置き換える。これにより、変更後の解像度での1画素分の幅の範囲で、主走査方向および副走査方向における解像度をそれぞれ設定解像度の1/2に変更できる。
【0050】
そして、制御部4は、解像度変更に応じて、変更後の解像度における各画素に対するドロップ数を設定する。この際、制御部4は、変更後の解像度における各画素について、当該画素に対応する変更前の各画素における最も大きいドロップ数より大きな値とする。これにより、解像度変更して印刷する画素を形成するドットが、元の解像度(設定解像度)で印刷する場合の当該画素に対応する各画素を形成する各ドットよりも大きくなるようにすることができる。
【0051】
次いで、ステップS3において、制御部4は、印刷を実行する。具体的には、まず、制御部4は、ヘッドギャップ調整ユニット23によりヘッドギャップHgを用紙種類に応じた値に設定する。次いで、制御部4は、ベルトモータ16により駆動ローラ12を回転駆動させる。これにより、搬送ベルト11が周回駆動される。また、制御部4は、図示しない給紙部により用紙Pを搬送部2へ給紙させる。そして、制御部4は、搬送部2により搬送される用紙Pに対し、上述のように画像処理されたドロップデータに基づき、インクジェットヘッド21C,21K,21M,21Yを駆動制御してインクの液滴を吐出させる。これにより、用紙Pに画像が印刷される。以上により印刷動作が終了する。
【0052】
一方、ステップS1において、標準条件ではないと判断した場合(ステップS1:NO)、ステップS4において、制御部4は、ドロップデータに対して、標準範囲より広い拡張範囲で解像度変更する画像処理を行う。
【0053】
拡張範囲は、例えば、画像の上流側の端部における、変更後の解像度での複数画素分の幅の範囲である。制御部4は、拡張範囲において、上述したステップS2と同様の処理を行って、設定解像度より低い所定の解像度に変更する。そして、制御部4は、解像度変更に応じて、変更後の解像度における各画素に対するドロップ数を設定する。この際、制御部4は、変更後の解像度における各画素について、当該画素に対応する変更前の各画素における最も大きいドロップ数より大きな値とする。
【0054】
ステップS4の後、制御部4は、ステップS3へ進み、印刷を実行する。以上により印刷動作が終了する。
【0055】
ここで、本実施の形態とは異なり、標準条件において全体を設定解像度で印刷された画像の上流側における端部付近のドットイメージの一例を図5に示す。図5において、ドット61は、設定解像度における各画素を形成するドットを示す。ドット62は、サテライトにより形成されたドットを示す。
【0056】
サテライトは、ノズルから吐出されたインクの尾が切れることなどにより発生し、主滴の後方を飛翔する。また、サテライトは、主滴より飛翔速度が遅い。このため、主滴から遅れて用紙Pに到達する。したがって、サテライトは、搬送される用紙Pに対して、主滴よりも上流側に着弾する。よって、図5に示すように、画像の上流側の端部におけるドット61を形成するインクが吐出された際に発生したサテライトが、画像の上流側の余白に着弾し、ドット62が形成される。このドット62は、上流側における画像端部の先鋭性を低下させ、印刷画質の低下を招く。
【0057】
これに対し、標準条件において前述のように標準範囲で解像度変更されて印刷された画像の上流側における端部付近のドットイメージの一例を図6に示す。図6では、画像の上流側の端部が、設定解像度より低い解像度における各画素に対応するドット63により形成されている。図6では、図5に比べて、画像の上流側の端部においてインク吐出の対象となる画素数が少なくなっているため、発生するサテライトが低減する。
【0058】
また、前述のように、本実施の形態では、変更後の解像度における各画素について、当該画素に対応する変更前の各画素における最も大きいドロップ数より大きな値としている。このため、図6のように、ドット63がドット61より大きくなるように形成される。主滴により形成されるドットが大きくなると、主滴によるドットに重なる位置に着弾するサテライトが多くなる。
【0059】
したがって、図6では、図5に比べて、画像の上流側の余白に着弾するサテライトにより形成されるドット62が少なくなる。これにより、上流側における画像端部の先鋭性の低下が抑えられ、印刷画質の低下が軽減される。
【0060】
次に、標準条件ではない印刷条件において、全体を設定解像度で印刷された画像の上流側における端部付近のドットイメージの一例を図7に示す。
【0061】
標準条件ではない場合は、標準条件の場合に比べて、ヘッド用紙間距離Hpが大きいか、設定搬送速度Vが速いか、それらの両方かである。
【0062】
サテライトは主滴より飛翔速度が遅いため、ヘッド用紙間距離Hpが大きいほど、主滴が着弾するタイミングとサテライトとが着弾するタイミングとの間の時間差が長くなる。また、設定搬送速度Vが速いほど、主滴が着弾するタイミングとサテライトとが着弾するタイミングとの間の時間で用紙Pが進む距離が長くなる。ヘッド用紙間距離Hpが大きいほど、また、設定搬送速度Vが速いほど、主滴の着弾位置とサテライトの着弾位置との間の距離が大きくなる。
【0063】
このため、標準条件ではない印刷条件では、標準条件の場合と比べて、より下流側のドット61を形成するインクが吐出された際に発生したサテライトが、画像の上流側の余白に着弾することがある。この結果として、図7に示すように、図5に比べて、画像の上流側の余白に多くのドット62が形成されることがある。
【0064】
そこで、本実施の形態では、標準条件ではない印刷条件では、前述のように、標準範囲より広い拡張範囲で解像度変更を行う。標準条件ではない印刷条件において、拡張範囲で解像度変更されて印刷された画像の上流側における端部付近のドットイメージの一例を図8に示す。
【0065】
図8では、画像の上流側の端部においてインク吐出の対象となる画素数が、図6の場合よりもさらに少なくなっているため、発生するサテライトがさらに低減する。したがって、標準条件ではない印刷条件の場合は、図8のように拡張範囲で解像度変更して印刷することで、サテライトによる印刷画質の低下が軽減される。
【0066】
以上説明したように、インクジェット印刷装置1では、制御部4は、画像の上流側の端部を、設定解像度より低解像度に変更して印刷する。これにより、画像の上流側の端部においてインク吐出の対象となる画素数が減少するため、発生するサテライトが低減する。この結果、サテライトによる印刷画質の低下を軽減できる。
【0067】
また、画像の上流側の端部のみの解像度変更であるため、広範囲の印刷画質の変化は生じない。また、搬送速度の変更等は不要なため、印刷物の生産性の低下も生じない。
【0068】
したがって、インクジェット印刷装置1によれば、広範囲の印刷画質の変化や印刷物の生産性低下を抑えつつ、サテライトによる印刷画質の低下を軽減できる。
【0069】
また、インクジェット印刷装置1では、制御部4は、解像度変更して印刷する画素を形成するドットが、元の解像度で印刷する場合の当該画素に対応する各画素を形成する各ドットよりも大きくなるようにしている。これにより、主滴によるドットに重なる位置に着弾するサテライトが多くなるため、余白に着弾するサテライトを低減できる。この結果、サテライトによる印刷画質の低下をより軽減できる。
【0070】
また、インクジェット印刷装置1では、制御部4は、印刷条件に応じて、解像度変更して印刷する範囲を調整している。これにより、サテライトによる印刷画質の低下が生じやすい印刷条件でも、印刷画質の低下を軽減できる。
【0071】
なお、上記実施の形態では、印刷条件が標準条件(Hp≦HthかつV≦Vth)であるか否かによって解像度変更して印刷する範囲を変更したが、これに限らない。ヘッド用紙間距離Hpのみに応じて、解像度変更して印刷する範囲を調整してもよい。また、設定搬送速度Vのみに応じて、解像度変更して印刷する範囲を調整してもよい。ヘッド用紙間距離Hpおよび設定搬送速度Vの少なくともいずれか一方に応じて、解像度変更して印刷する範囲を調整するものであればよい。
【0072】
また、制御部4は、解像度変更して印刷する黒色の画素のドットを、ブラックのインクで形成することから、シアン、マゼンタ、およびイエローのインクで形成することに変更するようにしてもよい。これにより、画像の上流側の余白に着弾するサテライトが、ブラックのサテライトではなく、シアン等のサテライトとなる。このため、サテライトのドットが目立ちにくくなる。これにより、印刷画質の低下を軽減できる。
【0073】
上記実施の形態では、用紙を移動させつつ印刷するライン型のインクジェット印刷装置について説明したが、これに限らず、用紙およびインクジェットヘッドの一方を移動させつつ印刷するインクジェット印刷装置であれば本発明を適用できる。例えば、インクジェットヘッドを移動させつつ印刷するシリアル型のインクジェット印刷装置にも本発明は適用可能である。なお、シリアル型のインクジェット印刷装置の場合、インクジェットヘッドの移動方向における上流側の画像の端部において、サテライトによる印刷画像の低下が生じる。そこで、シリアル型のインクジェット印刷装置の場合、インクジェットヘッドの移動方向における上流側の画像の端部において、設定解像度より低解像度に変更して印刷する。
【0074】
本発明は上記実施の形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施の形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合せにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施の形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。
【符号の説明】
【0075】
1 インクジェット印刷装置
2 搬送部
3 印刷部
4 制御部
21C,21K,21M,21Y インクジェットヘッド
23 ヘッドギャップ調整ユニット
31 ヘッドモジュール
31a 吐出面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8