(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
対向する二つのリンクプレートを有するリンクの各リンクプレートが直列方向で隣り合う他のリンクの各リンクプレートと端部同士でピンを介して回動自在に連結されるとともに前記ピンを中心に回転可能なローラを備えたローラチェーンであって、
前記リンクの連結部分において外側に配置された一対のリンクプレートの孔に挿通された前記ピンに対して外挿されるとともに、内側に配置された一対のリンクプレートの孔に嵌合された円筒状のブシュと、
前記ブシュによって前記内側の一対のリンクプレート間に配置された状態で回転可能に支持されるローラと、
前記ブシュを前記リンクプレートの前記孔から内側へ抜けることを規制する抜止部と、を備え、
前記ブシュは二つのブシュ部材により構成され、
前記二つのブシュ部材が一対の前記リンクプレートの外面側から前記孔にそれぞれ嵌入されており、
前記ブシュ部材は、前記リンクプレートの前記孔に挿通される筒部と、前記筒部の一端部に設けられるとともに前記連結部分における内側と外側の前記リンクプレートの間に配置された前記抜止部としてフランジ部とを有し、
前記二つのブシュ部材の各筒部は、前記抜止部寄りの部分に形成され、前記孔に嵌合可能な大径部と、当該大径部よりも前記抜止部と反対側となる部分に形成され、前記孔に挿通可能な小径部とを有していることを特徴とするローラチェーン。
前記リンクプレートの連結部分においてリンクプレートとリンクプレートとの間隔よりも、前記フランジ部の厚さの方が小さいことを特徴とする請求項1に記載のローラチェーン。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、樹脂ブシュでは金属ブシュに比べ嵌合が弱く、ローラチェーンに大きな負荷がかかった状態で繰り返し使用されているうちにリンクプレートと樹脂ブシュとの嵌合が弛み、場合によっては抜ける虞がある。このように樹脂ブシュでは金属ブシュを使用したときの金属同士の嵌合に比べ抜け易さが増す。例えば使用中にブシュの一方の端部がリンクプレートから抜けると、内リンクを構成する一対のリンクプレートの幅が広くなり、外プレートと接触することで屈曲不良などが起こる虞がある。
【0007】
なお、金属ブシュを使用したローラチェーンでも、リンクプレートとブシュが嵌合される構成の場合は、使用しているうちに嵌合が弛み一対のリンクプレートの幅が広がって屈曲不良が相対的に起き易いという同様の課題がある。
【0008】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、その目的は、リンクプレートとブシュとの弛みに起因するリンクプレート間の間隔の広がりを抑制し、リンクの屈曲不良の発生を抑制できるローラチェーンを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以下、上記課題を解決するための手段及びその作用効果について記載する。
上記課題を解決するローラチェーンは、対向する二つのリンクプレートを有するリンクの各リンクプレートが直列方向で隣り合う他のリンクの各リンクプレートと端部同士でピンを介して回動自在に連結されたチェーンであって、前記リンクの連結部分において外側に配置された一対のリンクプレートの孔に挿通された前記ピンに対して外挿されるとともに、内側に配置された一対のリンクプレートの孔に嵌合された円筒状のブシュと、前記ブシュによって前記内側の一対のリンクプレート間に配置された状態で回転可能に支持されるローラと、前記ブシュを前記リンクプレートの前記孔から内側へ抜けることを規制する抜止部と、を備えている。
【0010】
この構成によれば、ブシュは抜止部を有するので、抜止部によりブシュがリンクプレートから内側(一対のリンクプレート間の領域)へずれる弛みが抑制される。このため、対をなすリンクプレート間に必要な間隔が確保される。例えば連結部分において内側の一対のリンクプレートはその間隔が長くなると、外側のリンクプレートとの摺動抵抗が大きくなり、例えばリンクの屈曲不良が発生する虞がある。これに対して、抜止部によりブシュがリンクプレートから内側へずれることを抑制できるので、内側と外側の各リンクプレート間の接触抵抗が大きくなることが回避され、リンクの屈曲不良の発生を抑制できる。
【0011】
上記のローラチェーンにおいて、前記ブシュは二つのブシュ部材により構成され、前記二つのブシュ部材が一対の前記リンクプレートの外面側から前記孔にそれぞれ嵌入されており、前記ブシュ部材は、前記リンクプレートの前記孔に挿通される筒部と、前記筒部の一端部に設けられるとともに前記連結部分における内側と外側の前記リンクプレートの間に配置された前記抜止部としてフランジ部とを有することが好ましい。
【0012】
この構成によれば、一対のリンクプレートの孔にそれぞれ外面側から嵌入された二つのブシュ部材は、フランジ部により一対のリンクプレートから内側への抜けが抑制される。また、一対のリンクプレートを押し広げる外力等の負荷がかかっても、リンクプレートがそれぞれ個別に嵌入されたブシュ部材と共に変位できるので、このときブシュ部材の嵌合が弛みにくい。また、フランジ部が内側のリンクプレートと外側のリンクプレートとの間に介在するので、内側と外側の両リンクプレートの間隔が確保され、両者の接触が回避される。さらに、ブシュが二つのブシュ部材に分割されているので、例えばチェーンに捻れ応力が加わったときに、ブシュにかかる捻れ応力が緩和され、その捻れ応力がそのままブシュにかかることが回避される。また、例えば二つのブシュ部材の筒部の端面が突き当たった状態で、一対の内側のリンクプレートの間隔が適正範囲となるような筒部の長さを設定した場合は、一対の内側のリンクプレートに接近方向の外力が加わっても、筒部の端面が当たり一対の内側のリンクプレート間に必要な間隔を確保できる。
【0013】
上記のローラチェーンにおいて、前記ブシュは、前記リンクプレートの前記孔に嵌入される筒部と、前記筒部の一端部に設けられた前記抜止部としてフランジ部とを有し、
前記筒部には一対の前記リンクプレートの孔を貫通した状態において前記フランジ部と反対側となる他端部に抜止部材が取着されていることが好ましい。
【0014】
この構成によれば、一対のリンクプレートの孔を貫通した筒部の両端部にはフランジ部と抜止部材とがあるので、ブシュの抜け止めが可能である。
上記のローラチェーンにおいて、前記二つのブシュ部材の各筒部は、前記抜止部寄りの部分に形成され、前記孔に嵌合可能な大径部と、当該大径部よりも前記抜止部と反対側となる部分に形成され、前記孔に挿通可能な小径部とを有していることが好ましい。
【0015】
この構成によれば、ブシュ部材をリンクプレートに装着するとき、フランジ部と反対側から筒部の小径部を孔に挿入する過程では軽い力で挿入でき、筒部の大径部を孔に挿入する過程では力が必要になるが、筒部を孔にしっかり嵌合させることができる。
【0016】
上記のローラチェーンにおいて、前記ブシュは、樹脂製であることが好ましい。
この構成によれば、ブシュは樹脂製であるので、金属製のブシュを使用したときに問題となる焼き付けを防止できる。例えばリンクの連結部分において両リンクプレート間に樹脂製の抜止部が介在するので、リンクプレートの焼き付けを抑制できる。
【0017】
上記のローラチェーンにおいて、前記リンクプレートの連結部分において内側のリンクプレートと外側のリンクプレートとの間隔よりも、前記フランジ部の厚さの方が小さいことが好ましい。
【0018】
この構成によれば、内側のリンクプレートと外側のリンクプレートとの間には抜止部が隙間を伴って介在するので、抜止部と内側と外側のリンクプレートとの接触抵抗を小さく抑えることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、リンクプレートとブシュとの弛みに起因するリンクプレート間の間隔の広がりを抑制し、リンクの屈曲不良の発生を抑制できる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
(第1実施形態)
以下、第1実施形態のチェーン及びブシュについて図面を参照しながら説明する。
図1及び
図2に示すように、本実施形態のローラチェーン11(以下、単に「チェーンと」もいう。)は、その幅方向Yにおいて対向する2つのリンクプレート12を含んで構成される内リンク13と、同じく対向する2つのリンクプレート14を含んで構成される外リンク15とを備えている。内リンク13は対向する2つのリンクプレート12の間隔が外リンク15よりも相対的に狭いリンクであり、外リンク15は対向する2つのリンクプレート14の間隔が内リンク13よりも相対的に広いリンクである。そして、チェーン11は、これらの内リンク13と外リンク15が交互に配置され、その直列方向Xで隣り合う互いの端部同士が回動自在に順次に連結されることで、所定長さに形成されている。
【0022】
各リンク13,15を構成するリンクプレート12,14は、チェーン11がその長さ方向の一方側から引っ張られて移動する場合の移動方向ともなる直列方向Xに沿って長く延び、その長手方向中央部が少し湾曲状に括れるとともに長手方向の両端部が丸みを帯びた板形状をなしている。そして、リンクプレート12,14はそれぞれ対向する一対が互いに平行となるように配置されている。この点で本実施形態のチェーン11は、その直列方向Xにおける各リンク13,15の一端側と他端側でリンクプレート12,14のそれぞれ対をなすもの同士の間隔が等しくなるように構成された所謂フラットタイプのチェーンである。リンクプレート12,14は、ステンレス又は鋼材等から鍛造により形成されている。リンクプレート12の長手方向における両端部には、それぞれ円形のブシュ挿入孔18(
図2、
図3を参照)がリンクプレート12の厚さ方向に貫通するように形成されている。
【0023】
図1〜
図3に示すように、内リンク13において対向する二つのリンクプレート12には、円筒状のブシュ20が組み付けられている。本実施形態のブシュ20は、一対のリンクプレート12の外面側からブシュ挿入孔18にそれぞれ嵌入される二つのブシュ部材21により構成される。二つのブシュ部材21は、合成樹脂製であり、一例として同一形状のものを二個使用している。ブシュ部材21は、リンクプレート12の外面側からブシュ挿入孔18に嵌入されてリンクプレート12の内側へ突出する状態に配置される筒部21aと、筒部21aの一端部においてその径方向外側へ鍔状に延出する円環状のフランジ部21bとを有している。つまり、フランジ部21bは、ブシュ挿入孔18の外径よりも大きな外径を有し、ブシュ部材21がブシュ挿入孔18を内側へ突き抜けることを防止する抜け止めとして機能する。
【0024】
図4に示すように、ブシュ部材21の筒部21aは、フランジ部21b寄りの一部がブシュ挿入孔18に嵌合(圧入)できる外径に形成されてその外径が相対的に大きい大径部21cと、ブシュ挿入孔18に隙間をもって挿入できる外径に形成されてその外径が大径部21cよりも相対的に小さい小径部21dとを有している。大径部21cは、筒部21aがブシュ挿入孔18に対してフランジ部21bがリンクプレート12の外面に当接するまで差し込まれたときに(
図4の状態)、ブシュ挿入孔18内に位置する部分の範囲に亘って形成されている。一方、小径部21dは、フランジ部21bがリンクプレート12の外面に当接するまで差し込まれたときに(
図4の状態)、リンクプレート12のブシュ挿入孔18から内側(
図4における下側)に突出する部分の範囲に亘って形成されている。なお、大径部21cと小径部21dとの間はテーパに形成され、徐々に外径が変化している。
【0025】
図1、
図2に示すように、本実施形態のチェーン11は、一対のリンクプレート12間に円筒状のローラ22がブシュ20に外挿された状態で回転自在に支持されたローラチェーンである。
図4に示す小径部21dは、ローラ22の支持に用いられる。小径部21dの外径は、
図2、
図3に示すローラ22の内径(つまり孔22aの内径)よりも小さく、二本の小径部21dはローラ22の孔22aに対してそれぞれローラ22の軸線方向両側の開口から挿入された状態で、ローラ22は二本の小径部21dに対して外挿されている。このため、ローラ22は、小径部21dを中心にして自由回転可能な状態で支持される。換言すれば、ローラ22は、内側のリンクプレート12に嵌入されたブシュ20に外挿された状態で、外側のリンクプレート14のピン挿入孔28及びブシュ20の孔21eに挿入されたピン25を中心にして回転可能である。
【0026】
ブシュ部材21をリンクプレート12のブシュ挿入孔18に嵌入するとき、ブシュ挿入孔18にその内径より小さな外径を有する小径部21dを挿入する過程では、小径部21dをさほど抵抗なく軽い力で挿入できる。そして、筒部21aの根元部分をブシュ挿入孔18に差し込む過程では、大径部21cがブシュ挿入孔18に嵌入される。よって、小径部21dをブシュ挿入孔18にほとんど抵抗なく軽い力で通すことができ、最後に大径部21cを嵌入するときだけ力を加えれば済む。
【0027】
図2、
図5(a)に示すように、一対の筒部21aの先端面を互いに突き当てた状態では、一対の内側のリンクプレート12の間隔がローラ22の軸方向長さよりも若干広く確保される。このため、ローラ22の端面がリンクプレート12の内面に強く当たることが回避され、ローラ22の端面とリンクプレート12の内面との間に大きな摺動抵抗が発生しにくい構造となっている。
【0028】
特に本実施形態では、
図5(a)に示すように、ブシュ20が二つのブシュ部材21により二部品で構成され、二つのブシュ部材21が一対のリンクプレート12に個別に嵌合されている。そして、内リンク13のリンクプレート12と外リンク15のリンクプレート14との間隙(隙間)よりも、フランジ部21bの厚さの方が小さくなっている。このため、
図5(b)に示すように、内側のリンクプレート12は幅方向Yにフランジ部21bが外リンク15のリンクプレート14の内面に当たるまでの範囲で移動できるようになっている。
【0029】
図3に示すように、外リンク15のリンクプレート14の長手方向の両端部には、それぞれ円柱状のピン25を挿嵌可能な円形のピン挿入孔28がリンクプレート14の厚さ方向に貫通するように形成されている。外側のリンクプレート14は、内リンク13におけるリンクプレート12のブシュ挿入孔18に嵌入された二つのブシュ部材21の孔21eに挿通されたピン25を介して内リンク13のリンクプレート12に回動自在に連結される。
【0030】
ピン25の両端部は、外リンク15を構成する一対のリンクプレート14のピン挿入孔28に嵌合されている。したがって、直列方向Xで隣り合う内リンク13の各リンクプレート12と外リンク15の各リンクプレート14とが端部同士でピン25及びブシュ部材21によって回動自在に連結されている。
【0031】
図3に示すように、円柱状のピン25は、その軸方向の一端部が他端部の外径よりも大きな外径となる形状にかしめられた状態で外側のリンクプレート14のピン挿入孔28に挿入されている。一方のリンクプレート14に固定された二本のピン25は、一対の内側のリンクプレート12間に配置された二つのローラ22をそれぞれ支持するブシュ部材21の孔21eに挿入されるとともに、他方の外側のリンクプレート14のピン挿入孔28に挿入される。そして、ピン25の反対側に突き抜けたその先端部がかしめられることにより、
図2及び
図5に示すように、ピン25は一対の外側のリンクプレート14に固定される。
【0032】
なお、ピン挿入孔28の内径とブシュ20の内径とを比べると、ピン挿入孔28の径よりもブシュ20の内径の方が若干大きくなるように形成されている。よって、ピン25はピン挿入孔28に対して嵌合できるとともに、ブシュ部材21の孔21eに対しては相対回転可能な状態に挿通できる。
【0033】
次に、上記のチェーン11の作用について説明する。
さて、
図2及び
図5に示すように、チェーン11は、内リンク13のリンクプレート12間に組み付けられたローラ22に不図示のスプロケットを噛み合わせた状態で、そのスプロケットを回転させることにより、その長さ方向に沿って移動する。
【0034】
例えば内リンク13を構成する一対のリンクプレート12の間隔を押し広げる外力等の負荷がかかっても、ブシュ20は一対のリンクプレート12にそれぞれ嵌入された二つのブシュ部材21に分割されているので、リンクプレート12と共にブシュ部材21は一緒に幅方向Yに移動する(
図5(b)参照)。このとき、二つのブシュ部材21の筒部21aの先端面同士の間隔が広がるだけで、各ブシュ部材21には何ら負荷がかからないので、リンクプレート12のブシュ挿入孔18とブシュ部材21との嵌合が弛んだり、ましてブシュ部材21がリンクプレート12のブシュ挿入孔18から抜けたりすることが回避される。
【0035】
このため、ブシュ部材21が樹脂製であり、金属製のものに比べ応力に対して変形し易く嵌合が弛み易い材質であるものの、ブシュ部材21のブシュ挿入孔18との嵌合が弛んだりブシュ部材21がブシュ挿入孔18から抜けたりすることが回避される。
【0036】
また、ブシュ部材21は筒部21aの一端部にフランジ部21bを備え、フランジ部21bがリンクプレート12の外面に当たることで、ブシュ部材21の嵌合位置がリンクプレート12の内側へずれることが規制される。
【0037】
さらに、一対のリンクプレート12の間隔が適正範囲内にあるとき、リンクプレート12,14の間隔が、フランジ部21bの厚みよりも広くなっているので、通常は、フランジ部21bが外側のリンクプレート14の内面に強く当たることがなく、仮に当たっても比較的小さな接触抵抗の発生で済む。また、仮に外力が加わってリンクプレート12が外側へ変位しても、内側のリンクプレート12と外側のリンクプレート14との間に樹脂製のフランジ部21bが介在する。このため、リンクプレート12,14の金属同士が直接接触することが回避され、例えば内側と外側のリンクプレート12,14間の接触抵抗に起因するリンクプレート12,14の屈曲不良が発生しにくくなる。しかもフランジ部21bはリンクプレート12,14の短手方向の幅よりも短い外径の円環形状を有する。このため、各リンクプレート12,14とフランジ部21bとの間の摩擦抵抗が相対的に小さく済み、この点からもリンクプレート12,14の屈曲不良が発生しにくくなる。
【0038】
一対のリンクプレート12の間隔がローラ22の幅より長い適正範囲内にあるときに、一対の筒部21aの先端面が突き当たるように筒部21aの突出長を設定しているので、例えば一対のリンクプレート12に接近方向の外力が加わっても、筒部21aの先端面が突き当たって一対のリンクプレート12の間隔がローラ22の幅よりも長く確保される。このため、ローラ22の端面とリンクプレート12の内側面との間に大きな接触抵抗が発生してローラ22の円滑な回転が損なわれにくい。
【0039】
また、チェーン11の製造過程では、ブシュ部材21の筒部21aは、ローラ22が装着される部分が小径部21dになっている。その小径部21dの外径がブシュ挿入孔18の内径よりも小さくなっているので、小径部21dをリンクプレート12のブシュ挿入孔18に軽い力で挿入できる。また、筒部21aの嵌合される部分が大径部21cに形成されている。よって、ブシュ部材21をリンクプレート12のブシュ挿入孔18に筒部21aを通すときにきつくなく、筒部21aを挿通し終わる最後の部分で筒部21aの大径部21cをブシュ挿入孔18に嵌合させることができる。よって、ブシュ部材21をリンクプレート12に組み付け易い。
【0040】
以上詳述した本実施形態によれば、以下の効果が得られる。
(1)一端部にフランジ部21bを有するブシュ部材21を二つ使用するので、リンクプレート12の外面に当接するフランジ部21bによってブシュ部材21の軸方向内側への移動が規制される。例えばフランジの無い樹脂ブシュである場合、チェーンにねじれ応力が働いて傾いたローラの端面に押されるなどして一対のリンクプレートを押し広げる力が加わると、樹脂ブシュがリンクプレートから内側へ抜ける方向にずれる心配がある。この場合、押し広げられた一対のリンクプレートと外側のリンクプレートとの接触抵抗が大きくなるため、チェーンの屈曲不良を招く原因となる。しかし、本実施形態のチェーン11では、一対のリンクプレート12に間隔を押し広げる力が加わっても、フランジ部21bにより抜け止めされるため、ブシュ20のリンクプレート12に対する嵌合位置が筒部21aのリンクプレート12の内側への突出量が過大に長くなるずれが回避される。よって、一対のリンクプレート12の間隔を屈曲不良の起きない想定範囲内に収めることができる。
【0041】
(2)ブシュ部材21が樹脂製なので、内リンク13と外リンク15との間に介在する樹脂製のフランジ部21bが、焼き付き防止用の一種の樹脂スペーサとして機能する。内リンク13と外リンク15との金属同士の摺動が回避されるので、内リンク13と外リンク15の各リンクプレート12,14のピン周辺部での発熱を小さく抑えて焼き付き等を防止できるうえ、リンクプレート12,14の金属同士の摺動による金属粉の発生を回避できる。よって、発熱抑制効果のある潤滑油を使用できない環境(例えば食品関係の環境)や、例えば発生した熱の放熱を期待しにくい真空環境で使用されるチェーン11としても好適である。もちろん、この種の特殊環境での使用に限定されるものではない。
【0042】
(3)ブシュ20は、一対のリンクプレート12にそれぞれ嵌入されて筒部21aが先端面を僅かな隙間を隔てて同軸上に配置された二つのブシュ部材21により構成される。よって、ブシュ20の両端部を支持する一対のリンクプレート12にねじれ方向の外力が加わって、ブシュ20の両端部に異なる方向のねじれ力が加わってもその力を吸収でき、この種のねじれ方向の力に強くなる。例えばブシュが一本の円筒状の剛体であれば、ねじれ方向の外力が加わるとブシュに大きなねじれ応力が発生し、ブシュのリンクプレートとの嵌合が樹脂変形により弛む虞がある。しかし、本実施形態のブシュ20は軸方向に分割された二部品の構造なので、この種のねじれ応力に起因するブシュ20の樹脂変形による嵌合の弛み等の発生を回避し易い。
【0043】
(4)ブシュ部材21の筒部21aにおいては、リンクプレート12のブシュ挿入孔18に嵌合される部分が相対的に外径の大きな大径部21cに形成され、ローラ22が装着される部分が小径部21dになっている。よって、ブシュ部材21をリンクプレート12のブシュ挿入孔18に嵌入するとき、小径部21dをブシュ挿入孔18に軽い力で挿入でき、小径部21dを挿入し終わった最後の部分で大径部21cをブシュ挿入孔18に嵌合させることができる。よって、ブシュ部材21をリンクプレート12に組み付け易い。
【0044】
(5)リンクプレート12,14の連結部分においてリンクプレート12とリンクプレート14との間隔よりも、フランジ部21bの厚さの方を小さくした。よって、内側のリンクプレート12と外側のリンクプレート14との間にはフランジ部21bが隙間を伴って介在するので、フランジ部21bとその両側の内外のリンクプレート12,14との接触抵抗を小さく抑えることができる。
【0045】
(6)ブシュ20を構成する二つのブシュ部材21は同じ形状の二部品からなるので、部品の種類を少なく抑えて部品製造コストを低減することができる。
(第2実施形態)
この第2実施形態は、直列方向Xにおける各リンク32の一端側と他端側でリンクプレート33間の間隔が異なる構成の所謂オフセットタイプのローラチェーンに、第1実施形態と同様のブシュ構造を適用した例である。なお、第1実施形態のフラットタイプでは、内リンク13と外リンク15をそれぞれ構成する二種類のリンクプレート12,14を使用したのに対して、本実施形態では、一種類のリンクプレートを使用する。この相違部分及び相違部分に基づく組み付け構造の違いを中心に説明し、第1実施形態と同様の部材等については同じ符号を付してその説明を省略する。
【0046】
図6に示すように、オフセットタイプのローラチェーン31は、直列方向Xにおける各リンク32の一端側と他端側で、リンク32を構成する一対のリンクプレート33の間隔が異なっている。リンクプレート33は、ステンレス又は鋼材等の金属から鍛造によって形成されている。
【0047】
図6に示すように、各リンク32において対をなすリンクプレート33の間隔が狭い一端部34が、同じくリンクプレート33の間隔が広い他端部35の間に挿入された状態で、ブシュ部材21は、二つの対向するリンクプレート33の一端部34のブシュ挿入孔36に外側から筒部21aを挿嵌する状態で取着されている。一対の筒部21a(詳しくは小径部21d(
図4参照))がローラ22に挿入されることで、ローラ22は筒部21aに支持された状態で回転可能に保持されている。つまり、ローラ22は、一対のリンクプレート33の一端部34間においてブシュ20に外挿されている。リンクプレート33の他端部35のピン挿入孔37に挿嵌されたピン25は、ブシュ部材21の筒部21aに挿通された状態にある。これにより、リンク32の各リンクプレート33が直列方向Xで隣り合う他のリンク32の各リンクプレート33と端部同士で回動自在に連結されている。ブシュ20は、二つのブシュ部材21を、一対のリンクプレート33の一端部34に形成された各ブシュ挿入孔36に外側からそれらの筒部21aを嵌入することで構成されている。リンク32のピン25を介した連結部分において、一方のリンクプレート33の一端部34と他方のリンクプレート33の他端部35との間隔よりも、フランジ部21bの厚みの方が小さくなっている。
【0048】
以上詳述したように本実施形態によれば、第1実施形態における内側と外側のリンクプレート12,14の連結が、直列方向に隣合うリンクプレート33の一端部34と他端部35との連結に置き換わっただけであるので、この相違する構成の下において、前記第1実施形態の効果(1)〜(6)と同種の効果を得ることができる。
【0049】
なお、実施形態は、以下に示す態様でもよい。
・ブシュは同じ形状の二部品からなる二分割の構造に限定されない。以下の態様で実施してもよい。
図7(a)に示すブシュ20は、一つの樹脂製のブシュ部材41と、一つの樹脂製のリング部材42(抜止部材の一例)とを備える。ブシュ部材41は、一対のリンクプレート12の対向する二つのブシュ挿入孔18を共に貫通可能な長さの筒部41aと、筒部41aの一端部に形成されたフランジ部41bとを有する。リング部材42は、対向する一対のブシュ挿入孔18のうち一方にリンクプレート12の外面側から挿入した筒部41aが他方のブシュ挿入孔18を貫通してその外面側に突出した先端部に嵌合可能な円環状を有している。
【0050】
・
図7(b)に示すように、ブシュ部材41の筒部41aの先端部に取着する留め具は、樹脂製の止め輪43(抜止部材の一例)でもよい。止め輪43としては例えばC型又はE型の形状のものを使用する。この場合、筒部41aの先端部に溝部41cを形成し、止め輪43を溝部41cに一部差し込んだ状態で装着し、止め輪43の溝部41cから外側に突出する部分でブシュ部材41の抜け止めを行う。これらの構成によっても、樹脂製のブシュ20の抜け止めを行うことができるうえ、内側と外側の各リンクプレート12,14の間にブシュ20を構成する樹脂製の構成部分(フランジ部41b、筒部41a、留め具43等)が介在することにより、各リンクプレート12,14間の焼き付きを防止することができる。
【0051】
・
図8(a)に示すブシュ20は、両端部にフランジ部を有さない円筒形状を有する樹脂製の筒部45とし、筒部45の両端部を対向する一対のブシュ挿入孔18に嵌合し、一対のリンクプレート12の外側に突出した両端部をかしめて抜止部45aを形成してもよい。抜止部45aの形成は、例えば筒部45の端部で樹脂を溶融しつつ筒部45の元の外径より大径となる扁平形状に筒部45の端部を押し潰すことで行う。もちろん、抜止部45aの両方又は一方を底鋲に替え、底鋲により抜止部を形成してもよい。
【0052】
・
図8(b)に示すブシュ20は、ストレート型の筒部材47を用い、筒部材47を一対のリンクプレート12の対向するブシュ挿入孔18のそれぞれに嵌入し、一対のリンクプレート12の外面から突出した筒部材47の両端部に同種又は異種の樹脂製の留め具48を取着する。留め具48としては、円環状を有する樹脂製のリング部材42を外嵌したり、C型又はE型の止め輪43を溝部47aに取着したりして抜け止めする構成でもよい。
【0053】
・ブシュは樹脂製に限定されず金属製でもよい。
図9(a)に示すブシュ20を構成する二つのブシュ部材21は共に金属製である。この構成によっても、一対のリンクプレート12に間隔が押し広げられる方向の外力等の負荷がかかっても、フランジ部21bによる抜け止め機能により、ブシュ部材21の嵌合の弛みの発生を回避できる。
【0054】
・
図9(b)に示すように、ストレート型の円筒状のブシュ部材50は、両端部に環状の凹部50aが形成され、これらの凹部50aによりブシュ部材50の両端部はそれ以外の部分に比べ外径が小さくなっている。一対のリンクプレート12の外面側へ突出したブシュ部材50の両端部には凹部50aの形成により小径になった部分に樹脂製のリング部材51が嵌合されている。リング部材51の外側端面は、ブシュ部材50の両端部よりも軸方向において外側に位置し、リンクプレート12,14の間にはリング部材51が介在する。よって、リンクプレート12,14の焼き付きを防止できる。
【0055】
図7〜
図9に示すように、ブシュ部材の筒部の一端部がフランジ部で、筒部のフランジ部と反対側の他端部に別部材の抜止部材を取着する構成でもよいし、ストレート型の筒部材の両端部に別部材の同種又は異種の抜止部材を取着する構成でもよい。なお、上記の
図7〜
図9に示した各リンク連結構造は、第2実施形態で示したオフセットタイプのローラチェーンにも適用できる。
【0056】
・一対のブシュ部材の筒部の径を異ならせ、一方の筒部を他方の筒部に挿通してもよい。この場合、外径の小さい方の一方の筒部に外挿された他方の筒部に、さらにローラは外挿される。
【0057】
・ブシュを構成する一対のブシュ部材間でそれぞれの筒部の軸方向長さを異ならせてもよい。
・一対のブシュ部材の両筒部の先端部を固定してもよい。例えば筒部の先端部に軸方向に深さと高さをもつ凹部と凸部とを周方向に交互に形成し、両ブシュ部材の両筒部の先端部を、凹部と凸部との係合により連結させる。凹部と凸部は例えばキー溝と十字キーでもよい。また、組み付け時に筒部の先端部(先端面)を接着剤や溶着(熱溶着又は振動溶着等)等の手段により固定してもよい。
【0058】
・ブシュとローラとの間にスリーブを設けてもよい。この場合、樹脂スリーブでもよいし、金属スリーブでもよい。特に一対のブシュ部材の筒部先端面間の隙間を常に覆うことが可能な長さのスリーブとすることが望ましい。
【0059】
・ブシュは、樹脂製(樹脂ブシュ)に限定されず、金属ブシュ、セラミックブシュでもよい。
・ドライ環境で使用される非潤滑油系のローラチェーンに限定されず、潤滑油系のローラチェーンとして使用してもよい。例えばブシュ20の内周面とピン25の外周面との間に潤滑油を介在させてもよい。また、チェーン11を構成する各リンクのリンクプレートが、それぞれ含油樹脂によって全体がコーティングされていてもよい。