(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6282836
(24)【登録日】2018年2月2日
(45)【発行日】2018年2月21日
(54)【発明の名称】原子力発電設備周辺に構築する凍土壁の耐震構造
(51)【国際特許分類】
E02D 5/20 20060101AFI20180208BHJP
E02D 19/14 20060101ALI20180208BHJP
【FI】
E02D5/20
E02D19/14
【請求項の数】5
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2013-220130(P2013-220130)
(22)【出願日】2013年10月23日
(65)【公開番号】特開2015-81453(P2015-81453A)
(43)【公開日】2015年4月27日
【審査請求日】2016年9月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000106416
【氏名又は名称】サンデン商事株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123559
【弁理士】
【氏名又は名称】梶 俊和
(74)【代理人】
【識別番号】100066061
【弁理士】
【氏名又は名称】丹羽 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100177437
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 英子
(74)【代理人】
【識別番号】100143340
【弁理士】
【氏名又は名称】西尾 美良
(72)【発明者】
【氏名】甲田 雅一
【審査官】
須永 聡
(56)【参考文献】
【文献】
特開2006−263557(JP,A)
【文献】
特開2002−363987(JP,A)
【文献】
特開平01−275806(JP,A)
【文献】
特開昭63−075217(JP,A)
【文献】
特開昭63−150700(JP,A)
【文献】
特開昭63−176519(JP,A)
【文献】
特開平01−226930(JP,A)
【文献】
特開2003−096766(JP,A)
【文献】
特開昭54−006311(JP,A)
【文献】
国際公開第2010/032485(WO,A1)
【文献】
米国特許第05507149(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 5/00−5/20
E02D 19/00−25/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子力発電所の建屋の周りに構築される凍土壁の耐震構造であって、
前記凍土壁の両側に形成された防水性フィルムで包まれた複数の断熱ブロックから成る断熱層、
前記建屋に面する側の断熱層の内側にゼリー状の物質からなる柔構造の保持層、
前記建屋周りの地面の表面に防水層を備えたことを特徴とする凍土壁の耐震構造。
【請求項2】
前記保持層には、更に炭素繊維、ガラス繊維又はアラミド繊維が添加されることを特徴とする請求項1に記載の凍土壁の耐震構造。
【請求項3】
前記ゼリー状の物質は、水にグァ豆由来のガラクトマンナンを1%添加して生成したことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の凍土壁の耐震構造。
【請求項4】
前記ゼリー状の物質は、水にこんにゃく由来のグルコマンナンを3〜4%添加して生成したことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の凍土壁の耐震構造。
【請求項5】
前記ゼリー状の物質は、水に高吸水性ポリマーを1%添加して生成したことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の凍土壁の耐震構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子力発電所への地下水の流入を防止するために構築する凍土壁が、地震になどの不測の事態より、亀裂が生じた場合であっても、原子力発電所への地下水の流入を防ぐことのできる凍土壁の保持構造に関する。
【背景技術】
【0002】
福島第1原子力発電所において、発電所に流入する地下水が汚染されて、放射性物質を含む汚染水が増え続けるため、その貯蔵が物理的に限界に達しつつあることが、最近のTV放送、新聞、ウェブなどのマスメディアを賑わしている。その地下水の流入を防ぐ方法として、
図2に示すような原子力発電所の建屋の周りを凍土壁で囲む方法が提案されている。凍土壁を設けるこの方法は、初めての試みで、技術的に不明な点もあるので、賛否両論が存する現状ではあるが、政府が採用して汚染水対策に取り組むとの公算が大である(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
ある大手ゼネコンは、地中に管を並べて打ち込み、管内に氷点下数十度の冷却材を循環させて、周辺の土壌を一定の深さまで凍らせて、凍土壁を形成する方法を提案している。この方法は、コンクリートを打ち込んで壁を作る方法に比べ、人出が少なくて済み、放射性物質の濃度が高い現場での施工に適した方法であると言える。
【0004】
しかしながら、この方法では、凍土壁を維持するために、絶えず冷却材を循環させる必要があるので、電力を含めた維持費用が掛るとの問題がある。また、凍土壁は、土壌と水の混合物が凍結した固体なので脆く、震度の大きな地震などにより亀裂が入るおそれがあり、亀裂が入ると地下水の流入を防止する初期の目的が果たせなくなる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】[平成25年10月23日検索].インターネット<URL:http://www.yomiuri.co.jp/science/news/20130530−OYT1T00661.htm
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、原子力発電所の建屋周りを囲う凍土壁の維持費用を低く保つと共に、不測の事態において発生するおそれのある、凍土壁の亀裂に対応できる凍土壁の保持構造、すなわち耐震構造を提案することを目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題は、以下の(1)〜(5)のいずれかの構成により解決される。
【0008】
(1)原子力発電所の建屋の周りに構築される凍土壁の耐震構造であって、前記凍土壁の両側に形成された防水性フィルムで包まれた複数の断熱ブロックから成る断熱層、前記建屋に面する側の断熱層の内側にゼリー状の物質からなる柔構造の保持層、前記建屋周りの地面の表面に防水層を備えたことを特徴とする凍土壁の耐震構造。
【0009】
(2)前記保持層には、更に規格外の炭素繊維、ガラス繊維又はアラミド繊維が10〜15%添加されることを特徴とする前記(1)に記載の凍土壁の耐震構造。
【0010】
(3)前記ゼリー状の物質は、水にグァ豆由来のガラクトマンナンを1%添加して生成したことを特徴とする前記(1)又は(2)に記載の凍土壁の耐震構造。
【0011】
(4)前記ゼリー状の物質は、水にこんにゃく由来のグルコマンナンを3〜4%添加して生成したことを特徴とする前記(1)又は(2)に記載の凍土壁の耐震構造。
【0012】
(5)前記ゼリー状の物質は、水に高吸水性ポリマーを1%添加して生成したことを特徴とする前記(1)又は(2)に記載の凍土壁の耐震構造。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、原子力発電所の建屋周りを囲う凍土壁の維持費用を低下させると共に、地震などの不測の事態において発生するおそれのある凍土壁に亀裂が発生しても、地下水の流入を防いで凍土壁としての機能が保持できるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】原子力発電所の建屋の周りに構築される凍土壁を保持する耐震構造を示す模式図
【
図2】原子力発電所の建屋の周りに構築される凍土壁を示す模式図
【発明を実施するための形態】
【0015】
大手ゼネコンが提案するように、地中に管を並べて打ち込み、管内に氷点下数十度の冷却材を循環させて、周辺の土壌を一定の深さまで凍らせて、凍土壁を形成すれば、地下水の流入を防ぐことは可能となるが、凍土壁より温度の高い周囲の土壌から熱が流入して、凍土壁の温度が上昇するので、冷却材を循環して温度を一定に保つ必要がある。このように、凍土壁を維持するために、冷却材を循環するには、多量の電力が必要であり維持コストが増大する。
【0016】
図1の凍土壁1の周りに断熱材から成る断熱層2、2′を設けて、凍土壁1より温度の高い周囲の土壌から流入する熱を抑えることは周知の手法である。しかしながら、断熱材をそのまま用いると、凍土壁1にも水分は含まれているので、この水分が断熱材に浸透して、熱の導体へと変化して、断熱効果が著しく低下するおそれがある。そのため、断熱材を防水性フィルムで包んで、水の浸透を防ぐ必要がある。断熱層2、2′の寸法が大きい場合には、防水性のフィルムの貼付に手間が掛ること並びに現地での施工に時間を要し、作業者の放射線の暴露にも留意する必要がある。そのため、断熱材を簡単に持ち運びできるブロック状に形成した後、防水フィルムで包装した防水断熱ブロックを予め準備して、現地では、凍土壁1の外壁及び内壁に簡単に断熱層2、2′を施工できるようにした。
【0017】
上記の防水断熱ブロックから成る断熱層2、2′により、凍土壁1の維持コストを低下させることは可能となったが、断熱層2、2′のみでは、地震などの不測の事態において、凍土壁1に亀裂が発生した場合、その亀裂を通って地下水が原子力発電所の囲い内に流入し、新たに汚染水が生成するおそれがある。そのため、凍土壁1の内側に施工した断熱層2の更に内側に、地震に強い柔構造の保持層3を設ければ、地下水の原子力発電所内への流入を防ぐことができる。
【0018】
上述の構成によって、側方からの地下水の原子力発電所内への流入を防ぐことができるが、敷地内の建屋周り地面には、上方からの降水が流入して汚染水の量が増加するので、これを防ぐために薄いコンクリート、防水シートなどの防水層4を備える必要がある。
【0019】
柔構造の凍土壁1の保持層3としては、ゴム状又はゼリー状の物質が適しているが、コスト並びに現地での施工の点から、ゼリー状でしかも水を多量に含む物質が好ましい。例えば、グァ豆由来のガラクトマンナンは、水に1%添加しても水がペースト状になる程に粘性が高くなる。こんにゃくが、96〜97%の水から成ることからわかるように、こんにゃく由来のグルコマンナン(水に3〜4%添加)も、ガラクトマンナンと同様の挙動を示す。また、保冷材、紙おむつに使われている高吸水ポリマーも、多量(100〜1000倍まで)の水を加えると、ゼリー状になる(高吸水性ポリマーとしては0.1〜1%添加することになる)。以上説明したように、これらの原料は、多量の水を加えるとゼリー状の物質となり柔構造を呈して、凍土壁1の保持層3として好適である。凍土壁1の内側に装着された断熱ブロックから成る断熱層2から所定の間隔が生ずるよう仕切り板を設置し、その間隔にゼリー状の物質を流し込めば、比較的短時間に現地施工が可能となる。
【0020】
凍土壁1の亀裂が小さな場合には、敷地内へ流入する地下水の量が比較的少ないので、上記のゼリー状の保持層3により流入を防ぐことが可能である。しかしながら、地震などによる揺れが想定外に大きい場合には亀裂も大きく、従って流入する地下水が多量となるので、単にゼリー状の保持層3では、強度的に防ぎきれなくなる恐れがあるので、保持層3を補強する必要がある。
【0021】
保持層3を補強するために、繊維強化プラスチックと同様に、炭素繊維、ガラス繊維、ケブラー(登録商標)(アラミド繊維の登録商標名)などの繊維を添加すれば保持層3が補強される。強化プラスチックにおける添加量は、要求される用途によるが、30%から、場合によっては50%以上であるが、本願による保持層3では、単に強度を増すのではなく、ゼリー状の層が流入する地下水により破壊されるのを防ぐこと目的であり、且つコストの面から、添加量は10〜15%が適当と考える。本来は廃棄すべき規格外の炭素繊維、ガラス繊維、ケブラー(登録商標)(アラミド繊維の登録商標名)などの繊維を用いれば、更にコストを下げられる。
【0022】
当然のことながら、上記以外の繊維も使用可能であるが、放射線により分解されて、肺気腫の原因となる有害物質及びオゾンホールを拡大させるフッ素系ガスを生成する恐れがあるので、フッ素樹脂系の繊維の使用は避けるべきである。
【0023】
なお、内側の断熱層2は、凍土壁1への熱の流入を抑えると共に、水を多量に含んだゼリー状の凍土壁1の保持層3が凍結することを防ぐ役割も果たしている。
【符号の説明】
【0024】
1 凍土壁
2、2′ 断熱層
3 保持層
4 防水層