(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記薄膜付き基板は、基板の主表面上に、高屈折率材料からなる高屈折率層と、低屈折率材料からなる低屈折率層とを交互に積層した多層反射膜が形成された多層反射膜付き基板であり、前記高屈折率材料及び前記低屈折率材料は前記物質により除去可能な材料であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の薄膜付き基板の製造方法。
前記薄膜付き基板は、前記多層反射膜付き基板の前記多層反射膜が形成されている側に、前記物質により除去可能な材料からなる吸収体膜が形成された反射型マスクブランクであることを特徴とする請求項4乃至6のいずれかに記載の薄膜付き基板の製造方法。
請求項7又は8に記載の前記薄膜付き基板の製造方法によって得られた前記薄膜付き基板を用いて、前記吸収体膜をパターニングして反射型マスクを作製することを特徴とする転写用マスクの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を詳述する。
【0039】
本発明の薄膜付き基板の製造方法では、同一の仮想直線に載らない3つ以上の基準マーク13のパターンが形成されたフォトマスク80又はインプリント用プレートを準備する。更に、基準マーク13のパターンを転写する被転写体である少なくとも一つの薄膜付き基板を準備する(薄膜付き基板準備工程)。次に、薄膜付き基板の表面に、レジスト膜を形成する(レジスト膜形成工程)。次に、薄膜付き基板のレジスト膜に対して、上述のフォトマスク80又はインプリント用プレートに形成されている基準マーク13のパターンを転写して、レジストパターンを形成する(レジストパターン形成工程)。更に本発明の薄膜付き基板の製造方法では、薄膜付き基板のレジストパターンをマスクとして、所定の化合物を含む非励起状態の物質に接触させて除去して、薄膜に基準マーク13のパターンを形成する(基準マーク形成工程)。最後にレジストパターンを剥離することにより(レジストパターン剥離工程)、所定の基準マーク13が形成された薄膜付き基板を得ることができる。
【0040】
本発明において、薄膜付き基板とは、マスクブランク用基板の表面に、マスクブランクを構成する薄膜を少なくとも一層有するものである。マスクブランクを構成する所定の薄膜とは、例えば反射型マスク60を製造する場合には、多層反射膜31及び吸収体膜41等である。したがって、多層反射膜付き基板30及び反射型マスクブランク40は、薄膜付き基板の一種である。また、バイナリマスク70を製造する場合のバイナリマスクブランク50を構成する所定の薄膜とは遮光膜51や反射防止膜等であり、位相シフト型マスクの場合には更に位相シフト膜も含む。したがって、バイナリマスクブランク50及び位相シフト型マスクブランクは、薄膜付き基板の一種である。
【0041】
本発明の薄膜付き基板の製造方法では、同一の仮想直線に載らない3つ以上の基準マーク13のパターンが形成されたフォトマスク80又はインプリント用プレートを準備する。本発明に用いることのできる基準マーク13(以下、単に「本発明の基準マーク13」とも呼ぶ。)について、初めに詳しく説明する。
【0042】
[基準マーク13]
図1は、基準マーク13の配置例を示すフォトマスク80の平面図である。まず、フォトマスク80又はインプリント用プレートに形成される基準マーク13の形状について説明する。
【0043】
図1では、相対的に大きさの大きなラフアライメントマーク12と小さなファインマークである本発明の基準マーク13の2種類のマークを形成している。なお、
図1では、フォトマスク80の表面にこれら基準マーク13を示している。
図1は、フォトマスク80又はインプリント用プレート上での基準マーク13の配置例を示すものであるが、後述のように、この基準マーク13パターンは、反射型マスクブランク40及びバイナリマスクブランク50等の薄膜付き基板に転写される。そこで、ここでは、基準マーク13が薄膜付き基板に形成されるものとして、基準マーク13について説明する。
【0044】
上記ラフアライメントマーク12は、それ自体は基準マーク13の役割は有していないが、上記基準マーク13の位置を検出し易くするための役割を有している。上記基準マーク13は大きさが小さく、目視で位置の目安を付けることは困難である。また、検査光や電子線で最初から基準マーク13を検出しようとすると、検出に時間が掛かり、レジスト膜が形成されている場合、不要なレジスト感光を発生させてしまう恐れがあるので好ましくない。上記基準マーク13との位置関係が予め決められている上記ラフアライメントマーク12を設けることで、基準マーク13の検出が迅速かつ容易に行える。
【0045】
図1においては、上記ラフアライメントマーク12を反射型マスクブランク40の表面上のコーナー近傍の4箇所に、上記基準マーク13を各ラフアライメントマーク12の近傍に2箇所ずつ配置した例を示している。上記ラフアライメントマーク12と基準マーク13はいずれも基板主表面上の破線Aで示すパターン形成領域の境界線上、あるいはパターン形成領域より外周縁側に形成することが好適である。但し、基板外周縁にあまり近いと、基板主表面の平坦度があまり良好でない領域であったり、他の種類の認識マークと交差する可能性があるので好ましくない。
【0046】
基準マーク13、ラフアライメントマーク12の個数は特に限定されない。基準マーク13については、最低3個必要であるが、3個以上であっても構わない。欠陥の座標管理を高精度で行うためには、基準マーク13として、同一の仮想直線に載らない3つ以上の基準マーク13のパターンが必要である。
【0047】
なお、
図2等を参照して以下に説明するように、本発明の基準マーク13においては、欠陥位置の基準となる位置(基準点)を決定するためのメインマーク13aの周囲に、該メインマーク13aを大まかに特定するための補助マーク13b、13cを配置している。そのため、検査光や電子線で最初から本発明の基準マーク13を検出するのに特に不都合がなければ、上記ラフアライメントマーク12は設けなくてもよい。
【0048】
すなわち、本発明においては、
図10に示すように、上記ラフアライメントマーク12は設けずに、例えば一例として反射型マスクブランク40の表面上のコーナー近傍の4箇所に本発明の基準マーク13を配置するようにしてもよい。これによって、相対的に大きさの大きなラフアライメントマーク12の形成工程を省くことができ、フォトマスク80又はインプリント用プレートへ基準マーク13を形成するための加工時間を大幅に短縮できる。
【0049】
図2は、基準マーク13を構成するメインマーク13a及び補助マーク13b、13cの形状例及び配置例を示す図である。また、
図3は、本発明の基準マーク13を用いた基準点を決定する方法を説明するための図である。
【0050】
上記基準マーク13は、欠陥情報における欠陥位置の基準となるものであるが、本発明の基準マーク13は、欠陥位置の基準となる位置(基準点)を決定するためのメインマーク13aと、該メインマーク13aの周囲に配置された補助マーク13b、13cとから構成される。そして、代表的な基準マーク13としては、上記メインマーク13aは、点対称の形状であって、且つ、マスクを作製する際の電子線描画装置による電子線の走査方向又は欠陥検査の際の欠陥検査光の走査方向に対して200nm以上10μm以下の幅の部分を有している。
【0051】
図2及び
図3には、上記メインマーク13aと、その周囲に配置された2つの補助マーク13b、13cとから構成される基準マーク13を一例として示している。
【0052】
上記メインマーク13aは、電子線描画装置又は欠陥検査光の走査方向(
図3におけるX方向及びY方向)に対して垂直で且つ平行な辺を少なくとも2組有する多角形状であることが好適である。このように、上記メインマーク13aは、電子線又は欠陥検査光の走査方向に対して垂直で且つ平行な辺を少なくとも2組有する多角形状であることにより、電子線描画装置、欠陥検査装置による検出の容易性(確実性)を向上させ、また、欠陥検出位置のばらつきを更に抑えることができる。
図2及び
図3では、具体例として、上記メインマーク13aが、縦横(X及びY方向)が同じ長さの正方形である場合を示している。この場合、縦横の長さ(L)がそれぞれ200nm以上10μm以下であることが好ましい。
【0053】
上記メインマーク13aの形状は、点対称とすることが好ましい。上記の正方形に限らず、例えば
図4の(a)に示すように、正方形の角部が丸みを帯びた形状や、同図(b)のように、八角形の形状や、同図(c)のように、十字形状であってもよい。この場合においても、メインマーク13aの大きさ(縦横の長さL)は、200nm以上10μm以下とすることが好ましい。具体例として、メインマーク13aが十字形状の場合、その大きさ(縦横の長さL)は、5μm以上10μm以下とすることができる。また、図示していないが、上記メインマーク13aは、直径が200nm以上10μm以下の正円形とすることもできる。
【0054】
また、上記2つの補助マーク13b、13cは、上記メインマーク13aの周囲に、電子線又は欠陥検査光の走査方向(
図3におけるX方向及びY方向)に沿って配置されている。上記補助マーク13b、13cは、電子線又は欠陥検査光の走査方向に対して垂直な長辺と平行な短辺を有する矩形状であることが好適である。補助マーク13b、13cが、電子線又は欠陥検査光の走査方向に対して垂直な長辺と平行な短辺を有する矩形状であることにより、電子線描画装置、欠陥検査装置の走査により確実に検出できるため、メインマーク13aの位置を容易に特定することができる。この場合、補助マーク13b、13cの長辺は、電子線描画装置、欠陥検査装置のできるだけ最小回数の走査により検出可能な長さであることが望ましい。例えば、補助マーク13b、13cの長辺は、25μm以上600μm以下の長さを有することが望ましい。より好ましくは、長辺の長さは、25μm以上400μm以下、更に好ましくは、25μm以上200μm以下が望ましい。
【0055】
また、上記補助マーク13b、13cとメインマーク13aとは、所定の間隔だけ離間させても良いし、離間させなくても良い。補助マーク13b、13cとメインマーク13aとを離間させる場合、間隔は特に制約されないが、例えば25μm〜50μm程度の範囲とすることが好適である。
【0056】
なお、上記メインマーク13a、補助マーク13b、13cが薄膜付き基板に形成される場合には、いずれも断面形状を凹形状とし、基準マーク13の高さ方向に所望の深さを設けることで認識し得る基準マーク13とすることができる。電子線や欠陥検査光による検出精度を向上させる観点から、凹形状の底部から表面側へ向かって広がるように形成された断面形状であることが好ましく、この場合の基準マーク13の側壁の傾斜角度は75度以上であることが好ましい。側壁の傾斜角度は、より好ましくは、80度以上、更に好ましくは85度以上とすることが望ましい。
【0057】
薄膜付き基板に転写された上記基準マーク13を用いて、欠陥位置の基準となる基準点は次のようにして決定される(
図3を参照)。すなわち、上記補助マーク13b、13c上を電子線、あるいは欠陥検査光がX方向、Y方向に走査し、これら補助マーク13b、13cを検出することにより、メインマーク13aの位置を大まかに特定することができる。位置が特定された上記メインマーク13a上を電子線、あるいは検査光がX方向及びY方向に走査後、(上記補助マーク13b、13cの走査により検出された)メインマーク13a上の交点P(通常、メインマーク13aの略中心)をもって基準点を決定する。
【0058】
本発明の基準マーク13を構成する上記メインマーク13a及び補助マーク13b、13cを形成する位置は特に限定されない。例えば反射型マスクブランク40の場合、多層反射膜31の成膜面であれば、どの位置に形成してもよい。例えば、基板、下地層21(後述)、多層反射膜31、保護膜32(キャッピング層又はバッファ層と呼ばれることもある。)、吸収体膜41、吸収体膜41上に形成されるエッチングマスク膜のいずれの位置でもよい。
【0059】
なお、EUV光を露光光として使用する反射型マスク60においては、特に多層反射膜31に存在する欠陥は、修正が殆ど不可能である上に、転写パターン上で重大な位相欠陥となり得るので、転写パターン欠陥を低減させるためには多層反射膜31上の欠陥情報が重要である。したがって、少なくとも多層反射膜31の成膜後に欠陥検査を行い、欠陥情報を取得することが望ましい。そのためには、多層反射膜付き基板30に本発明の基準マーク13を形成することが好ましい。特に、検出のし易さの観点からは、多層反射膜31に本発明の基準マーク13を形成することが好ましい。
【0060】
また、基準マーク13の形成後、洗浄による光学特性(たとえば、反射率)の変化を抑制する観点からは、反射型マスクブランク40における吸収体膜41に基準マーク13を形成することが好ましい。この場合、多層反射膜付き基板30の段階では基準マーク13が形成されていないので、反射型マスクブランク40における欠陥検査と、基準マーク13を基準にした欠陥の座標管理は以下のようにして行うことができる。
【0061】
まず、基板上に多層反射膜31が形成された多層反射膜付き基板30に対して、欠陥検査装置により、基板主表面の中心を基準点として欠陥検査を行い、欠陥検査により検出された欠陥と位置情報とを取得する。次に、多層反射膜31上に保護膜32及び吸収体膜41を形成した後、吸収体膜41の所定位置に、本発明の基準マーク13を形成して、基準マーク13が形成された反射型マスクブランク40を得る。
【0062】
上記の基準マーク13を基準にして欠陥検査装置により欠陥検査を行う。上記のとおり吸収体膜41は多層反射膜31上に形成するので、この欠陥検査データは、上記で取得した多層反射膜付き基板30の欠陥検査も反映されている。したがって、多層反射膜付き基板30の欠陥と反射型マスクブランク40の欠陥が一致している欠陥を元に、多層反射膜付き基板30の欠陥検査データと、反射型マスクブランク40の欠陥検査データとを照合することにより、上記基準マーク13を基準にした多層反射膜付き基板30の欠陥検査データと、反射型マスクブランク40の欠陥検査データとを得ることができる。
【0063】
フォトマスク80又はインプリント用プレートに対して、本発明の基準マーク13を構成する上記メインマーク13a及び補助マーク13b、13cを形成する方法は特に限定されない。フォトマスク80又はインプリント用プレートには、例えば、フォトリソグラフィ法、レーザー光やイオンビームによる形成方法などで形成することができる。
【0064】
以上説明したように、フォトマスク80又はインプリント用プレートに本発明の基準マーク13を形成し、反射型マスクブランク40等の薄膜付き基板に基準マーク13を転写することにより、本発明の薄膜付き基板の基準マーク13は、電子線描画装置、光学式の欠陥検査装置のいずれでも容易に検出でき、言い換えれば確実に検出することができる。これによって、欠陥検査においては、欠陥位置の基準点を決定し、欠陥位置(基準点と欠陥の相対位置)情報を含む精度の良い欠陥情報(欠陥マップ)を取得することができる。更に、マスクの製造においては、この欠陥情報に基づいて、予め設計しておいた描画データ(マスクパターンデータ)と照合し、欠陥による影響が低減するように描画データを高い精度で修正(補正)することが可能になり、その結果として、最終的に製造される反射型マスク60において欠陥を低減させることができる。
【0065】
なお、以上の実施の形態では、上記メインマーク13aの周囲に、電子線描画装置や欠陥検査装置の走査方向(X方向、Y方向)に沿って2つの補助マーク13b、13cを配置した例について説明したが、本発明はこのような実施の形態に限定されるわけではない。例えば欠陥の検出が検査光の走査によらない方式においては、メインマーク13aと補助マーク13b、13cとの位置関係が特定されていれば、メインマーク13aに対する補助マーク13b、13cの配置位置は任意である。また、この場合、メインマーク13aの中心ではなく、エッジを基準点とすることもできる。
【0066】
ところで、本発明の基準マーク13は、上述のとおり、フォトマスク80の表面上の破線Aで示すパターン形成領域の境界線上、あるいはパターン形成領域より外周縁側の任意の位置に形成されるが(
図1、
図10参照)、この場合、エッジ基準で基準マーク13を形成したり、あるいは基準マーク13を形成後、座標計測器で基準マーク13の形成位置を特定することが好適である。
【0067】
まず、上記のエッジ基準でフォトマスク80に基準マーク13を形成する方法について説明する。
図12及び
図13はそれぞれエッジ基準で基準マーク13を形成する方法を説明するための図である。
【0068】
例えば、フォトマスク80又はインプリント用プレートに対する基準マーク13形成手段としてFIB(集束イオンビーム)を採用し、フォトマスク80又はインプリント用プレートに基準マーク13を形成する場合、フォトマスク80又はインプリント用プレートのエッジの検出を行う。基準マーク13をFIBで加工する場合、フォトマスク80又はインプリント用プレートのガラス基板11のエッジは、2次電子像、2次イオン像、あるいは光学像で認識することができる。また、基準マーク13をその他の方法(例えば圧痕)で加工する場合は、光学像で認識することができる。
図12に示すように、例えばガラス基板11(図示の便宜上、フォトマスク80又はインプリント用プレートの薄膜の図示は省略している)の四辺の8箇所(丸印を付した箇所)のエッジ座標を確認し、チルト補正して、原点(0,0)出しを行う。この場合の原点は任意に設定可能であり、基板の角部でも中心でもよい。
【0069】
このようにエッジ基準で設定した原点からの所定の位置にFIBで基準マーク13を形成する。
図13には、エッジ基準で基板の任意の角部に設定した原点O(0,0)からの所定の位置、具体的には原点Oの両隣の端面11AのエッジからXの距離、端面11BのエッジからYの距離に基準マーク13を形成する場合を示している。この場合、原点O(0,0)を基準とする基準マーク形成座標(X,Y)が基準マーク13の形成位置情報となる。他の位置に形成する基準マーク13についても同様である。
【0070】
このようなエッジ基準で形成したフォトマスク80又はインプリント用プレートの基準マーク13を転写した薄膜付き基板(多層反射膜付き基板30、反射型マスクブランク40及びバイナリマスクブランク50等)の基準マーク13を欠陥検査装置や電子線描画装置で検出する際、基準マーク13の形成位置情報、つまりエッジからの距離がわかっているため、基準マーク13の形成位置を容易に特定することが可能である。
【0071】
また、フォトマスク80又はインプリント用プレートの任意の位置に基準マーク13を形成後、座標計測器で基準マーク13の形成位置を特定する方法を適用することもできる。この座標計測器は、基準マーク13の形成座標をエッジ基準で計測するものであり、例えば高精度パターン位置測定装置(KLA−Tencor社製LMS−IPRO4)を使用することができ、特定した基準マーク形成座標が基準マーク13の形成位置情報となる。また、座標計測器は、電子線描画装置の基準座標に変換する役割もあるので、フォトマスク80又はインプリント用プレートの基準マーク13を転写した薄膜付き基板を提供されたユーザーは、容易に基準マーク13に基づき欠陥検査装置により特定した欠陥位置と、描画データとを高精度に照合することが可能となり、最終的に製造されるマスクにおいて欠陥を確実に低減させることができる。
【0072】
以上説明したように、フォトマスク80又はインプリント用プレートに対して基準マーク13をエッジ基準で形成したり、あるいは基準マーク13を任意の位置に形成後、座標計測器で基準マーク13の形成位置を特定する方法によれば、欠陥検査装置や電子線描画装置で多層反射膜付き基板30等の転写された基準マーク13の形成位置を容易に特定することが可能であるため、基準マーク13のサイズを小さくすることが可能である。具体的には、本発明の基準マーク13が、前述のメインマーク13aと補助マーク13b、13cとから構成される場合、メインマーク13aの幅は200nm以上10μm以下、補助マーク13b、13cの長辺は例えば25μm以上250μm以下のサイズにすることが可能である。このように基準マーク13のサイズを小さくした場合、また、逆に基準マーク13のサイズを大きくした場合、フォトマスク80又はインプリント用プレートに対する基準マーク13の形成手段として例えば前記のFIBを採用した場合には、基準マーク13の加工時間が短縮できるので好ましい。また、基準マーク13の検出時間についても短縮できるので好ましい。
【0073】
図11には、以上で説明したようなエッジ基準で形成する場合の基準マーク13の形状例及び配置例を示しているが、同図(a)のようなメインマーク13aと補助マーク13b、13cとから構成される基準マーク13が代表的な例である。また、上記のとおり、基準マーク13のサイズを小さくすることができるので、必ずしも補助マーク13b、13cを必要とせず、例えば同図(b)に示すようなメインマーク13aのみとすることが可能である。更に、同図(c)に示すようなメインマーク13aの周囲に4つの補助マーク13b〜13eを配置したものや、同図(d)に示すような十字形の基準マーク13とすることもできる。
【0074】
また、フォトマスク80又はインプリント用プレートのエッジ座標を基準に設定した原点からの所定の位置に前記基準マーク13を形成した場合、例えば前記基準マーク13が転写された薄膜付き基板と、この場合の基準マーク13の形成位置情報(基準マーク形成座標)とを対応付けてユーザーに提供することにより、ユーザーは、例えばマスク製造工程において、この基準マーク13の形成位置情報を利用して基準マーク13を短時間で確実に検出することができる。
【0075】
また、例えばフォトマスク80又はインプリント用プレートの基準マーク13を転写することによって薄膜付き基板に基準マーク13を形成した後、座標計測器で前記基準マーク13の形成位置を特定し、前記基準マーク13を形成した薄膜付き基板と、この場合の基準マーク13の形成位置情報(特定した基準マーク13の位置座標)とを対応付けてユーザーに提供することにより、ユーザーは、この基準マーク13の形成位置情報を利用して基準マーク13を短時間で確実に検出することができる。また、基準マーク13の形成位置を座標計測器で特定することにより、電子線描画装置の基準座標の変換が可能となる。したがって、薄膜付き基板を提供されたユーザーは、容易に基準マーク13に基づき欠陥検査装置により特定した欠陥位置と、描画データとを高精度に照合することが可能となり、最終的に製造されるマスクにおいて欠陥を確実に低減させることができる。
【0076】
また、上記基準マーク13の形成位置情報に、更に基準マーク13を基準とした欠陥情報(位置情報、サイズ等)を加えてユーザーに提供することにより、ユーザーはこの基準マーク13の形成位置情報を利用して基準マーク13を短時間で確実に検出することができるとともに、この欠陥情報に基づいて、欠陥による影響が低減するように描画データを高い精度で修正(補正)し、最終的に製造されるマスクにおいて欠陥を低減させることができる。
【0077】
また、上記基準マーク13を形成した薄膜付き基板における多層反射膜31上に、EUV光を吸収する吸収体膜41が形成された反射型マスクブランク40と、基準マーク13の形成位置情報とを対応付けてユーザーに提供することにより、ユーザーは、この反射型マスクブランク40を用いるマスク製造において、この基準マーク13の形成位置情報を利用して基準マーク13を短時間で確実に検出することができる。
【0078】
また、基板上に転写パターンとなる薄膜が形成されているマスクブランク(バイナリマスクブランク50等)においても、基板のエッジ座標を基準に設定した原点からの所定の位置に前記基準マーク13を形成したフォトマスク80又はインプリント用プレートの基準マーク13を転写することによって得られたマスクブランクと、この場合の基準マーク13の形成位置情報とを対応付けてユーザーに提供することにより、ユーザーは、この基準マーク13の形成位置情報を利用して基準マーク13を短時間で確実に検出することができる。同様に、フォトマスク80又はインプリント用プレートの基準マーク13を転写することによってマスクブランクに基準マーク13を形成した後、座標計測器で前記基準マーク13の形成位置を特定し、前記基準マーク13を形成したマスクブランクと、この場合の基準マーク13の形成位置情報とを対応付けてユーザーに提供することにより、ユーザーは、この基準マーク13の形成位置情報を利用して基準マーク13を短時間で確実に検出することができる。
【0079】
また、マスクブランクにおいても、基準マーク13の形成位置情報に、更に前記基準マーク13を基準とした欠陥情報を加えてユーザーに提供することにより、ユーザーはこの欠陥情報に基づいて、欠陥による影響が低減するように描画データを高い精度で修正(補正)し、最終的に製造されるマスクにおいて欠陥を低減させることができる。
【0080】
次に、本発明の薄膜付き基板の製造方法の、薄膜付き基板準備工程のうち、前記基準マーク13のパターンを転写する被転写体である少なくとも一つの薄膜付き基板を準備する工程について説明する。
【0081】
薄膜付き基板としては、EUV光を露光光として使用する反射型マスク60を製造するための多層反射膜付き基板30及び反射型マスクブランク40、並びにバイナリマスク70を製造するためのバイナリマスクブランク50を挙げることができる。多層反射膜付き基板30、反射型マスクブランク40及びバイナリマスクブランク50について、具体的に説明する。
【0082】
[多層反射膜付き基板30]
本発明の薄膜付き基板の製造方法は、薄膜付き基板としては、基板の主表面上に、高屈折率材料からなる高屈折率層と、低屈折率材料からなる低屈折率層とを交互に積層した多層反射膜31が形成された多層反射膜付き基板30であり、前記高屈折率材料及び前記低屈折率材料は前記物質により除去可能な材料であることが好ましい。薄膜付き基板が多層反射膜付き基板30であることにより、EUV光に対する反射率特性が良好な多層反射膜31を得ることができ、かつ基準マーク13の形成のために、所定の物質を用いて多層反射膜31を除去することができる。
【0083】
本発明は、
図5に示すように、EUV光を反射する多層反射膜31に本発明の基準マーク13が形成されている多層反射膜付き基板30についても提供する。
【0084】
図5においては、多層反射膜31を構成する一部の膜を除去して基準マーク13が形成されている例を示すが、多層反射膜31を構成するすべての層を除去して基準マーク13を形成しても良い。
【0085】
上記多層反射膜31は、低屈折率層と高屈折率層を交互に積層させた多層膜であり、一般的には、重元素又はその化合物の薄膜と、軽元素又はその化合物の薄膜とが交互に40〜60周期程度積層された多層膜が用いられる。
【0086】
例えば、波長13〜14nmのEUV光に対する多層反射膜31としては、Mo膜とSi膜とを交互に40周期程度積層したMo/Si周期積層膜とすることが好ましい。その他、EUV光の領域で使用される多層反射膜31として、Ru/Si周期多層膜、Mo/Be周期多層膜、Mo化合物/Si化合物周期多層膜、Si/Nb周期多層膜、Si/Mo/Ru周期多層膜、Si/Mo/Ru/Mo周期多層膜、Si/Ru/Mo/Ru周期多層膜などとすることが可能である。
【0087】
本発明の薄膜付き基板の製造方法は、前記高屈折率材料はシリコンであり、前記低屈折率材料はモリブデンであることが好ましい。高屈折率材料がシリコンであり、低屈折率材料がモリブデンであることにより、EUV光に対する反射率特性が良好な多層反射膜31を確実に得ることができる。
【0088】
EUV露光用の場合、ガラス基板11としては、露光時の熱によるパターンの歪みを防止するため、0±1.0×10
−7/℃の範囲内、より好ましくは0±0.3×10
−7/℃の範囲内の低熱膨張係数を有するものが好ましく用いられる。この範囲の低熱膨張係数を有する素材としては、例えば、SiO
2−TiO
2系ガラス、多成分系ガラスセラミックス等を用いることができる。
【0089】
上記ガラス基板11の転写パターンが形成される側の主表面は、少なくともパターン転写精度、位置精度を得る観点から高平坦度となるように表面加工されている。EUV露光用の場合、ガラス基板11の転写パターンが形成される側の主表面142mm×142mmの領域において、平坦度が0.1μm以下であることが好ましく、特に好ましくは0.05μm以下である。また、転写パターンが形成される側と反対側の主表面は、露光装置にセットする時に静電チャックされる面であって、142mm×142mmの領域において、平坦度が1μm以下、好ましくは0.5μm以下である。
【0090】
また、上記多層反射膜付き基板30のガラス基板11としては、上記のとおり、SiO
2−TiO
2系ガラスなどの低熱膨張係数を有する素材が用いられるが、このようなガラス素材は、精密研磨により、表面粗さとして例えばRMSで0.1nm以下の高平滑性を実現することが困難である。そのため、ガラス基板11の表面粗さの低減、若しくはガラス基板11表面の欠陥を低減する目的で、
図5に示すように、ガラス基板11の表面に下地層21を形成することが好適である。このような下地層21の材料としては、露光光に対して透光性を有する必要はなく、下地層21表面を精密研磨した時に高い平滑性が得られ、欠陥品質が良好となる材料が好ましく選択される。例えば、Si又はSiを含有するケイ素化合物(例えばSiO
2、SiONなど)は、精密研磨した時に高い平滑性が得られ、欠陥品質が良好なため、好ましく用いられる。特にSiを用いることが好ましい。
【0091】
下地層21の表面は、マスクブランク用基板として要求される平滑度となるように精密研磨された表面とすることが好適である。下地層21の表面は、二乗平均平方根粗さ(RMS)で0.15nm以下、特に好ましくは0.1nm以下となるように精密研磨されることが望ましい。また、下地層21の表面は、下地層21上に形成する多層反射膜31の表面への影響を考慮すると、最大表面粗さ(Rmax)との関係において、Rmax/RMSが2〜10であることが好ましく、特に好ましくは、2〜8となるように精密研磨されることが望ましい。下地層21の膜厚は、例えば75nm〜300nmの範囲が好ましい。
【0092】
[反射型マスクブランク40]
本発明の薄膜付き基板の製造方法は、上記構成の多層反射膜付き基板30における前記多層反射膜31上に、転写パターンとなる吸収体膜41が形成されている反射型マスクブランク40の製造方法についても提供する。上記多層反射膜付き基板30は、反射型マスク60を製造するための反射型マスクブランク40、すなわち、基板上に露光光(EUV光)を反射する多層反射膜31と、露光光(EUV光)を吸収するパターン形成用の吸収体膜41とを順に備える反射型マスクブランク40用の基板として用いることができる。
【0093】
図6は、
図5の基準マーク13が形成された多層反射膜付き基板30における多層反射膜31上に、保護膜32(キャッピング層)及びEUV光を吸収するパターン形成用の吸収体膜41が形成されている反射型マスクブランク40を示す。なお、ガラス基板11の多層反射膜31等が形成されている側とは反対側に裏面導電膜42が設けられている。
【0094】
本発明の薄膜付き基板(反射型マスクブランク40)の製造方法では、反射型マスクブランク40が、多層反射膜付き基板30の多層反射膜31が形成されている側に、後述する所定の物質により除去可能な材料からなる吸収体膜41が形成された反射型マスクブランク40であることが好ましい。多層反射膜付き基板30における多層反射膜31上に、転写パターンとなるEUV光を吸収する吸収体膜41が形成されていることにより、欠陥情報における欠陥位置の基準となる基準マーク13が形成されている反射型マスクブランク40が得られる。
【0095】
吸収体膜41の材料は、特に限定されるものではない。例えば、EUV光を吸収する機能を有するもので、Ta(タンタル)単体、又はTaを主成分とする材料を用いることが好ましい。Taを主成分とする材料は、通常、Taの合金である。このような吸収体膜41の結晶状態は、平滑性、平坦性の点から、アモルファス状又は微結晶の構造を有しているものが好ましい。Taを主成分とする材料としては、例えば、TaとBとを含む材料、TaとNとを含む材料、TaとBとを含み、更にO及びNのうちの少なくともいずれかを含む材料、TaとSiとを含む材料、TaとSiとNとを含む材料、TaとGeとを含む材料、TaとGeとNとを含む材料などを用いることができる。また例えば、TaにB、Si、Ge等を加えることにより、アモルファス構造が容易に得られ、平滑性を向上させることができる。更に、TaにN、Oを加えれば、酸化に対する耐性が向上するため、経時的な安定性を向上させることができる。吸収体膜41の表面が所定の平坦性を有するためには、吸収体膜41をアモルファス構造にすることが好ましい。結晶構造については、X線回折装置(XRD)により確認することができる。
【0096】
本発明の薄膜付き基板(反射型マスクブランク40)の製造方法では、反射型マスクブランク40の吸収体膜41は、Taを含有する材料からなることが好ましい。吸収体膜41が、Taを含有する材料からなることにより、EUV光に対する所定の適切な吸収をもつ吸収体膜41を得ることができる。
【0097】
本発明の薄膜付き基板の製造方法において、多層反射膜付き基板30は、多層反射膜31上に保護膜32が形成されていることが好ましい。
【0098】
上記吸収体膜41のパターニング又はパターン修正の際に多層反射膜31を保護する目的で、多層反射膜31と吸収体膜41との間に上記保護膜32やバッファ膜を設けることができる。保護膜32の材料としては、ケイ素の他、ルテニウムや、ルテニウムにニオブ、ジルコニウム、ロジウムのうち1以上の元素を含有するルテニウム化合物が用いられる。また、バッファ膜の材料としては、主に前記のクロム系材料が用いられる。多層反射膜付き基板30及び反射型マスクブランク40が多層反射膜31上に保護膜32を有することにより、反射型マスク(EUVマスク)60を製造する際の多層反射膜31表面へのダメージを抑制することができるので、EUV光に対する反射率特性が更に良好となる。
【0099】
また、本発明は、
図14に示すように、EUV光を吸収する吸収体膜41に本発明の基準マーク13が形成されている反射型マスクブランク40についても提供する。なお、
図14において、
図6と同等箇所には同一符号を付した。
【0100】
図14においては、保護膜32が露出するように吸収体膜41を除去して基準マーク13が形成されている例を示すが、吸収体膜41の途中まで除去して基準マーク13を形成したり、吸収体膜41と保護膜32とを除去して多層反射膜31が露出するように基準マーク13を形成したり、吸収体膜41、保護膜32及び多層反射膜31を除去して基板11が露出するように基準マーク13を形成してもよい。
【0101】
[マスクブランク]
本発明は、マスクブランク用ガラス基板11上に、転写パターンとなる薄膜が形成されているマスクブランクについても提供する。
【0102】
図7は、ガラス基板11上に、遮光膜51が形成されているバイナリマスクブランク50を示す。本発明の基準マーク13は遮光膜51に形成されている。また、図示していないが、ガラス基板11上に、位相シフト膜、又は位相シフト膜及び遮光膜51を備えることにより、位相シフト型マスクブランクが得られる。また、ガラス基板11の表面に必要に応じて前記下地層21を設ける構成としてもよい。この遮光膜51は、単層でも複数層(例えば遮光層と反射防止層との積層構造)としてもよい。また、遮光膜51を遮光層と反射防止層との積層構造にする場合、この遮光層を複数層からなる構造としてもよい。また、上記位相シフト膜についても、単層でも複数層としてもよい。
【0103】
このようなマスクブランクとしては、例えば、クロム(Cr)を含有する材料により形成されている遮光膜51を備えるバイナリマスクブランク50、遷移金属とケイ素(Si)を含有する材料により形成されている遮光膜51を備えるバイナリマスクブランク50、タンタル(Ta)を含有する材料により形成されている遮光膜51を備えるバイナリマスクブランク50、ケイ素(Si)を含有する材料、あるいは遷移金属とケイ素(Si)を含有する材料により形成されている位相シフト膜を備える位相シフト型マスクブランクなどが挙げられる。
【0104】
上記クロム(Cr)を含有する材料としては、クロム単体、クロム系材料(CrO,CrN,CrC,CrON,CrCN,CrOC,CrOCN等)が挙げられる。
【0105】
上記タンタル(Ta)を含有する材料としては、タンタル単体の他に、タンタルと他の金属元素(例えば、Hf、Zr等)との化合物、タンタルに更に窒素、酸素、炭素及びホウ素のうち少なくとも1つの元素を含む材料、具体的には、TaN、TaO,TaC,TaB,TaON,TaCN,TaBN,TaCO,TaBO,TaBC,TaCON,TaBON,TaBCN,TaBCONを含む材料などが挙げられる。
【0106】
上記ケイ素(Si)を含有する材料としては、ケイ素に、更に窒素、酸素及び炭素のうち少なくとも1つの元素を含む材料、具体的には、ケイ素の窒化物、酸化物、炭化物、酸窒化物、炭酸化物、あるいは炭酸窒化物を含む材料が好適である。
【0107】
また、上記遷移金属とケイ素(Si)を含有する材料としては、遷移金属とケイ素を含有する材料の他に、遷移金属及びケイ素に、更に窒素、酸素及び炭素のうち少なくとも1つの元素を含む材料が挙げられる。具体的には、遷移金属シリサイド、又は遷移金属シリサイドの窒化物、酸化物、炭化物、酸窒化物、炭酸化物、あるいは炭酸窒化物を含む材料が好適である。遷移金属には、モリブデン、タンタル、タングステン、チタン、クロム、ハフニウム、ニッケル、バナジウム、ジルコニウム、ルテニウム、ロジウム、ニオブ等が適用可能である。この中でも特にモリブデンが好適である。
【0108】
[基準マーク13の形成]
次に、本発明の薄膜付き基板の製造方法において、薄膜付き基板に基準マーク13を形成する方法について、説明する。
【0109】
本発明の薄膜付き基板の製造方法において、薄膜付き基板に基準マーク13を形成するために、まず、薄膜付き基板にレジスト膜を形成するレジストを形成する(レジスト膜形成工程)。レジスト膜としては、公知のものを用いることができる。レジスト膜は、フォトマスク80又はインプリント用プレートに形成された基準マーク13のパターンに応じて、フォトリソグラフィ用のポジ型又はネガ型レジストを用いて形成することができる。
【0110】
次に、薄膜付き基板に形成されたレジスト膜に対して、フォトマスク80又はインプリント用プレートに形成されている前記基準マーク13のパターンを転写(露光・現像)することにより、上述の基準マーク13のパターンを有するレジストパターンを形成する(レジストパターン形成工程)。レジストパターンの形成は、公知のフォトリソグラフィ法によって行うことができる。
【0111】
本発明の薄膜付き基板の製造方法では、一つのフォトマスク80又はインプリント用プレートを用いることにより、複数の薄膜付き基板に対して、同一の形状の基準マーク13を、同一の位置に転写することができる。そのため、電子線描画装置、欠陥検査装置のいずれでも確実に検出することができ、しかも電子線、欠陥検査光の走査によって決定される欠陥位置の基準点のずれが小さい基準マークを、複数の薄膜付き基板に対して、比較的低コストで形成することができる。
【0112】
次に、本発明の薄膜付き基板の製造方法では、上述のレジストパターンをマスクにして前記薄膜付き基板に形成されている少なくとも1層の薄膜を、塩素、臭素、ヨウ素、及びキセノンのうちのいずれかの元素とフッ素との化合物を含む非励起状態の物質に接触させて除去して、前記薄膜に前記基準マーク13のパターンを形成する(基準マーク形成工程)。前記薄膜付き基板に形成されている少なくとも1層の薄膜のうち、レジストパターンのマスクが形成されていない部分、すなわち基準マーク13の形状の部分に、所定の非励起状態の物質が接触することにより、基準マーク13の形状の部分の薄膜を除去することができる。この結果、薄膜付き基板に基準マーク13のパターンを形成することができる。
【0113】
本発明において用いられる、塩素(Cl)、臭素(Br)、ヨウ素(I)、及びキセノン(Xe)のうちのいずれかの元素とフッ素(F)との化合物(以下、単に「本発明の化合物」又は「所定の非励起状態の物質」と呼ぶ場合がある。)としては、例えば、ClF
3、ClF、BrF
5、BrF、IF
3、IF
5、XeF
2、XeF
4、XeF
6、XeOF
2、XeOF
4、XeO
2F
2、XeO
3F
2、又はXeO
2F
4等の化合物を好ましく用いることができる。この中でも、本発明においては特にClF
3を好ましく用いることができる。
【0114】
本発明の薄膜付き基板の製造方法では、所定の非励起状態の物質は、ClF
3ガスであることが好ましい。薄膜を除去するために接触させる物質がClF
3ガスであることにより、薄膜の除去を確実に行うことができる。例えば、反射型マスクブランク40の場合のTaBN膜等のTaを含む吸収体膜41は、ClF
3ガスにより確実に除去することができる。
【0115】
反射型マスクブランク40又はバイナリマスクブランク50等を用いて作製された反射型マスク60又はバイナリマスク70等の薄膜を、本発明の化合物を含む非励起状態の物質に接触させる方法としては、例えばチャンバー110内にマスクブランクを設置し、該チャンバー110内に本発明の化合物を含む物質をガス状態で導入してチャンバー110内を該ガスで置換する方法が好ましく挙げられる。薄膜を除去するための装置として、
図15又は
図16に示す処理装置を用いることができる。
【0116】
図15又は
図16に示す処理装置では、ガス充填容器113,114のガス(本発明の化合物を含む物質)が、流量制御器115,116を経て噴出ノズル115,116からチャンバー110に導入される。チャンバー110内のステージ112に配置された処理基板111(薄膜付き基板)の所定の薄膜は、ガス状態の本発明の化合物を含む物質に接触することにより除去される。なお、反応後の又は残余のガス状態の物質は、排気管118を経て、排気ガス処理装置119にて処理される。チャンバー110にはヒーター(図示せず)を配置することにより、処理温度を制御することができる。
【0117】
本発明の薄膜付き基板の製造方法は、前記薄膜付き基板準備工程において、複数の前記薄膜付き基板を準備して、前記基準マーク形成工程において
図16に示すような処理装置を用いることにより、複数の前記薄膜付き基板の前記薄膜に対して同時に前記基準マーク13のパターンを形成することが好ましい。
図16に示すような処理装置を用いて、複数の薄膜付き基板の薄膜に対して同時に基準マーク13のパターンを形成することにより、より低コストの反射型マスク60等の転写用マスクの製造方法を得ることができる。また、複数の薄膜付き基板間での基準マーク形成位置の面間ばらつきも低減できる。
【0118】
本発明において、所定の非励起状態の物質(本発明の化合物を含む物質)をガス状態で使用する場合、所定の非励起状態の物質と、窒素ガス、あるいはアルゴン(Ar)、ヘリウム(He)、ネオン(Ne)、クリプトン(Kr)、キセノン(Xe)、ラドン(Rn)等(以下、単にアルゴン(Ar)等という。)との混合ガスを用いることができる。本発明において、本発明の化合物を含む物質をガス状態で使用する場合、本発明の化合物とアルゴン(Ar)との混合ガスを好ましく用いることができる。
【0119】
反射型マスクブランク40又はバイナリマスクブランク50等に形成された薄膜を、本発明の化合物を含む非励起のガス状態の物質に接触させる場合の処理条件、例えばガス流量、ガス圧力、温度、処理時間については特に制約する必要はない。本発明の作用を好ましく得る観点からは、多層反射膜31及びその他の薄膜等の材料や層数(膜厚)によって、これらの処理条件を適宜選定することが望ましい。
【0120】
ガス流量については、例えば本発明の化合物とアルゴンとの混合ガスを用いる場合、本発明の化合物が流量比で1%以上混合されていることが好ましい。本発明の化合物の流量が上記流量比よりも少ない場合には、薄膜の除去の進行が遅くなり、結果として処理時間が長くなり、除去しづらくなる。
【0121】
また、ガス圧力については、例えば、0.1〜100kPa、好ましくは1〜50kPaの範囲で適宜選定することが好ましい。ガス圧力が上記範囲よりも低いと、チャンバー110内の本発明の化合物のガス量自体が少なすぎて薄膜の除去の進行が遅くなり、結果として処理時間が長くなり、除去しづらくなる。一方、ガス圧力が上記範囲よりも高い場合(特に大気圧以上の場合)には、ガスがチャンバー110の外に流出する恐れがあり、本発明の化合物には毒性の高いガスも含まれるため、好ましくない。
【0122】
また、ガスの温度については、例えば、20〜250℃の範囲で適宜選定することが好ましい。温度が上記範囲よりも低い場合には、薄膜の除去の進行が遅くなり、結果として処理時間が長くなり、除去しづらくなる。一方、温度が上記範囲よりも高い場合には、除去が早く進行し、処理時間は短縮できるものの、除去する薄膜と、その下にある残余する薄膜又は基板との選択性が得られにくくなり、残余する薄膜及び基板へのダメージがやや大きくなる恐れがある。
【0123】
更に、処理時間については、基本的には基板から薄膜が剥離除去されるのに十分な時間であればよい。本発明の場合、上述のガス流量、ガス圧力、ガス温度、薄膜の材料、膜厚によって、薄膜を剥離除去するための処理時間が多少異なる。一般的に、処理時間が概ね5〜30分の範囲である場合には、所定の薄膜を除去することができる。
【0124】
多層反射膜付き基板30の多層反射膜31を対象として、上述の所定の非励起状態の物質を接触させて除去することにより、所定の基準マーク13を形成する場合、多層反射膜31は、Mo膜とSi膜とを交互に40周期程度積層したMo/Si周期積層膜とすることが好ましい。その他、EUV光の領域で使用される多層反射膜31として、Ru/Si周期多層膜、Mo/Be周期多層膜、Mo化合物/Si化合物周期多層膜、Si/Nb周期多層膜、Si/Mo/Ru周期多層膜、Si/Mo/Ru/Mo周期多層膜、Si/Ru/Mo/Ru周期多層膜などとすることが可能である。
【0125】
反射型マスクブランク40の吸収体膜41を対象として、上述の所定の非励起状態の物質を接触させて除去することによって所定の基準マーク13を形成する場合、吸収体膜41は、露光光である例えばEUV光を吸収する機能を有するもので、例えばタンタル(Ta)単体又はTaを主成分とする材料が好ましく用いられる。Taを主成分とする材料としては、TaとBとを含む材料、TaとNとを含む材料、TaとBとを含み、更にO及びNのうちの少なくともいずれかを含む材料、TaとSiとを含む材料、TaとSiとNとを含む材料、TaとGeとを含む材料、TaとGeとNとを含む材料、TaとHfとを含む材料、TaとHfとNとを含む材料、TaとHfとOとを含む材料、TaとZrとを含む材料、TaとZrとNとを含む材料、TaとZrとOとを含む材料等が用いられる。
【0126】
また、上述のように、通常、多層反射膜31を保護するため、多層反射膜31と吸収体膜41との間に保護膜32やバッファ膜を設ける。保護膜32の材料としては、ケイ素の他、ルテニウムや、ルテニウムにニオブ、ジルコニウム、ロジウムのうち1以上の元素を含有するルテニウム化合物が用いられ、バッファ膜の材料としては、主に前記のクロム系材料が用いられる。
【0127】
本発明によれば、このような反射型マスクブランク40又は反射型マスク60の場合、上記多層反射膜31と、その上に積層された吸収体膜41(保護膜32を有する場合は、保護膜32及び吸収体膜41)とを一緒に除去することが可能である。
【0128】
本発明の基準マーク13を形成方法では、除去する薄膜がフッ素系ガス(例えば、SF
6,CF
4,C
2F
6,CHF
3等、あるいはこれらとHe,Ar,N
2,C
2H
4,O
2等との混合ガス)でドライエッチング可能な材料で形成されている場合に好適である。ガラス基板11上の薄膜をすべて除去する場合、ガラス基板11は、ドライエッチングで用いられる励起状態であるフッ素系ガスのプラズマにはエッチングされやすいが、非励起状態のフッ素系化合物の物質に対してはエッチングされにくい特性を有している。これに対して、薄膜で使用されるフッ素系ガスでドライエッチング可能な材料は、非励起状態のフッ素系化合物の物質に対してもエッチングされやすい特性を有している。すなわち、フッ素系ガスでドライエッチング可能な材料は、非励起状態のフッ素系化合物の物質に対して、十分なエッチング選択性が得られやすく、薄膜の除去によるガラス基板11へのダメージを少なくできる効果を特に得られやすい。
【0129】
このフッ素系ガスでドライエッチング可能な材料としては、例えば、ケイ素(Si)を含有する材料、遷移金属とケイ素(Si)を含有する材料、金属とケイ素(Si)を含有する材料、及びタンタル(Ta)を含有する材料などが挙げられる。
【0130】
マスクブランク(バイナリマスクブランク50)を対象として、上述の所定の非励起状態の物質を接触させて遮光膜51を除去することにより、所定の基準マーク13を形成する場合、上述のフッ素系ガスでドライエッチング可能な材料としては、例えば、ケイ素(Si)を含有する材料、遷移金属とケイ素(Si)とを含有する材料、金属とケイ素(Si)とを含有する材料、及びタンタル(Ta)を含有する材料などが挙げられる。このような材料を用いるマスクブランクとしては、例えば、遷移金属とケイ素(Si)とを含有する材料により形成されている遮光膜51を備えるバイナリマスクブランク50、タンタル(Ta)を含有する材料により形成されている遮光膜51を備えるバイナリマスクブランク50、ケイ素(Si)を含有する材料、あるいは遷移金属とケイ素(Si)とを含有する材料により形成されている位相シフト膜を備える位相シフト型マスクブランクなどが挙げられる。
【0131】
上記ケイ素(Si)を含有する材料としては、ケイ素に、更に窒素、酸素及び炭素のうち少なくとも1つの元素を含む材料、具体的には、ケイ素の窒化物、酸化物、炭化物、酸窒化物、炭酸化物、あるいは炭酸窒化物を含む材料が好適である。
【0132】
また、上記遷移金属とケイ素(Si)を含有する材料としては、遷移金属とケイ素とを含有する材料の他に、遷移金属及びケイ素に、更に窒素、酸素及び炭素のうち少なくとも1つの元素を含む材料が挙げられる。具体的には、遷移金属シリサイド、又は遷移金属シリサイドの窒化物、酸化物、炭化物、酸窒化物、炭酸化物、あるいは炭酸窒化物を含む材料が好適である。遷移金属には、モリブデン、タンタル、タングステン、チタン、クロム、ハフニウム、ニッケル、バナジウム、ジルコニウム、ルテニウム、ロジウム、ニオブ、イットリウム、ランタン、パラジウム、鉄等が適用可能である。この中でも特にモリブデンが好適である。
【0133】
また、上記金属とケイ素(Si)とを含有する材料としては、金属とケイ素とを含有する材料の他に、金属及びケイ素に、更に窒素、酸素及び炭素のうち少なくとも1つの元素を含む材料が挙げられる。金属とケイ素(Si)とを含有する材料には、前記の遷移金属とケイ素(Si)とを含有する材料が含まれる。金属には、前記の遷移金属の他、ゲルマニウム、ガリウム、アルミニウム、インジウム、スズ等が適用可能である。
【0134】
また、上記タンタル(Ta)を含有する材料としては、タンタル単体の他に、タンタルと他の金属元素(例えば、Hf、Zr等)との化合物、タンタルに更に窒素、酸素、炭素及びホウ素のうち少なくとも1つの元素を含む材料、具体的には、TaN、TaO,TaC,TaB,TaON,TaCN,TaBN,TaCO,TaBO,TaBC,TaCON,TaBON,TaBCN,TaBCONを含む材料などが挙げられる。
【0135】
上述のようにして薄膜付き基板に基準マーク13を形成した後、基準マーク13のパターンを有するレジストパターンを剥離することにより、本発明の薄膜付き基板を得ることができる。レジストパターンの剥離は、公知の方法で行うことができる。以上のようにして、本発明の薄膜付き基板を製造することができる。
【0136】
[転写用マスク]
本発明は、上述の薄膜付き基板の製造方法によって得られた薄膜付き基板を用いて、吸収体膜41をパターニングして反射型マスク60を作製することを特徴とする転写用マスクの製造方法である。
図8は、
図6の反射型マスクブランク40における吸収体膜41がパターニングされた吸収体膜41パターン41aを備える反射型マスク60を示す。
【0137】
また、
図9は、
図7のバイナリマスクブランク50における遮光膜51がパターニングされた遮光膜51パターン51aを備えるバイナリマスク70を示す。
【0138】
マスクブランクにおける転写パターンとなる上記吸収体膜41又は上記遮光膜51、反射防止膜等の薄膜をパターニングする方法は、フォトリソグラフィ法が最も好適である。なお、図示していないが、上述のマスクブランク用ガラス基板11上に、位相シフト膜、あるいは位相シフト膜及び遮光膜51を備える構造の位相シフト型マスクブランクにおいても、転写パターンとなる薄膜をパターニングすることにより、位相シフト型マスクが得られる。
【実施例】
【0139】
以下、実施例により、本発明の実施の形態を更に具体的に説明する。
【0140】
(実施例1)
両面研磨装置を用い、酸化セリウム砥粒やコロイダルシリカ砥粒により段階的に研磨し、低濃度のケイフッ酸で基板表面を表面処理したSiO
2−TiO
2系のガラス基板11(大きさが152mm×152mm、厚さが6.35mm)を準備した。得られたガラス基板11の表面粗さは、二乗平均平方根粗さ(RMS)で0.25nmであった(原子間力顕微鏡にて測定した。測定領域は1μm×1μm。)。
【0141】
このガラス基板11の表裏両面の表面形状(表面形態、平坦度)を平坦度測定装置(トロッペル社製UltraFlat)で測定(測定領域148mm×148mm)した結果、ガラス基板11の表面及び裏面の平坦度は約290nmであった。
【0142】
次に、ガラス基板11表面に局所表面加工を施し表面形状を調整した。得られたガラス基板11表面の表面形状(表面形態、平坦度)と表面粗さを測定したところ、142mm×142mmの測定領域において、表裏両面の平坦度は80nmで、100nm以下となっており良好であった。
【0143】
次に、BドープSiターゲットを使用し、スパッタリングガスとしてArガスとHeガスとの混合ガスを使用し、DCマグネトロンスパッタリングにより、100nmのSi下地層21を成膜した後、Si膜に熱エネルギーを付与して応力低減処理を行った。
【0144】
その後、Si下地層21表面について、表面形状を維持し、表面粗さを低減するため、片面研磨装置を用いた精密研磨を行った。得られたSi下地層21表面の表面形状(表面形態、平坦度)と表面粗さを測定したところ、142mm×142mmの測定領域において、80nmで、100nm以下となっており良好であった。また、表面粗さは、1μm×1μmの測定領域において、二乗平均平方根粗さRMSで0.08nmとなっており極めて良好であった。RMSで0.1nm以下と極めて高い平滑性を有しているので、高感度の欠陥検査装置におけるバックグランドノイズが低減し、擬似欠陥検出抑制の点でも効果がある。また、最大表面粗さ(Rmax)は、1μm×1μmの測定領域において、0.60nmで、Rmax/RMSは7.5となっており、表面粗さのばらつきは小さく良好であった。
【0145】
次に、Si下地層21上に、イオンビームスパッタリング装置を用いて、Si膜(膜厚:4.2nm)とMo膜(膜厚:2.8nm)とを一周期として、40周期積層して多層反射膜31(総膜厚280nm)を形成し、多層反射膜付き基板30を得た。
【0146】
次に、基板周縁部に、基準マーク13のパターンが形成されたフォトマスク(バイナリマスク70)を準備した。なお、本実施例では、基準マーク13として、前述のメインマーク13a及び補助マーク13b、13cを、
図2に示すような配置関係となるように形成した。メインマーク13aは、大きさが5μm×5μmの矩形とした。また、補助マーク13b、13cはいずれも、大きさが1μm×200μmの矩形とした。
【0147】
次に、基準マーク13のパターンが形成されたフォトマスクを用いたリソグラフィ法によって、複数枚の上記多層反射膜31の表面の所定の箇所に、断面形状が凹形状の基準マーク13を形成した。具体的には、まず、複数枚の多層反射膜付き基板30の多層反射膜31の表面に、ポジ型フォトレジスト膜を形成した。このフォトレジスト膜に対して、上述のフォトマスクの基準マーク13のパターンを、等倍露光により転写した。その後、フォトレジスト膜の現像及びリンスを行うことにより、多層反射膜31上のフォトレジスト膜のうち、基準マーク13に相当する部分を除去した。このようにして、多層反射膜31上に基準マーク13のレジストパターンが形成された、複数枚の多層反射膜付き基板30を得た。
【0148】
次に、複数枚(具体的には、14枚)の多層反射膜付き基板30の多層反射膜31の所定部分を除去することにより、基準マーク13を形成した。具体的には、
図16に模式的に示すようなチャンバー110(14枚収容可能)内に、14枚の上記多層反射膜付き基板30を設置した。次に、該チャンバー110内に、ClF
3とN
2との混合ガス(流量比ClF
3:N
2=0.2:20SLM(Standard Liter per Minute))を導入してチャンバー110内を該ガスで置換することにより、上記多層反射膜付き基板30の多層反射膜31のうち基準マーク13に相当する部分を、非励起状態の上記混合ガスに接触させるようにしてエッチング除去した。この時のガス圧力は2kPa、温度は180℃に調節し、処理時間は30分とした。この結果、基準マーク13に相当する部分の多層反射膜31は、すべて除去された。したがって、形成された基準マーク13の深さは、多層反射膜31を構成するすべての層を除去したので、約280nmだった。
【0149】
次に、レジスト剥離液によってフォトレジスト膜を剥離し、リンスした。この結果、多層反射膜31の外周部に基準マーク13が形成された14枚の多層反射膜付き基板30を得た。
【0150】
このようにしてMo膜とSi膜との交互積層膜からなるEUV多層反射膜31のうち、基準マーク13に相当する部分を除去した基板の表面を電子顕微鏡にて観察したところ、多層反射膜31を除去した部分には、多層反射膜31の残渣や、白濁などの変質層の発生は確認されなかった。
【0151】
基準マーク13の断面形状を原子間力顕微鏡(AFM)により観察したところ、側壁の傾斜角度が82度、多層反射膜31表面と側壁との間の稜線部の曲率半径が約30nmと良好な断面形状であった。
【0152】
上述のようにして製造した複数枚の多層反射膜付き基板30における基準マーク13の相対位置精度は、良好であった。
【0153】
次に、実施例1の複数枚の多層反射膜付き基板30の多層反射膜31表面をブランクス欠陥検査装置(KLA−Tencor社製Teron600シリーズ)で欠陥検査を行った。この欠陥検査では、上述の基準マーク13を基準として、基準点を決定し、決定した基準点との相対位置に基づく凸、凹の欠陥位置情報と、欠陥サイズ情報を取得し、欠陥マップを作成した。多層反射膜付き基板30と、これら欠陥位置情報、欠陥サイズ情報とを対応させた欠陥情報(欠陥マップ)付き多層反射膜付き基板30を得た。この多層反射膜付き基板30の多層反射膜31表面の反射率を、EUV反射率計により評価したところ、下地層21表面粗さばらつきが抑えられたことにより、67%±0.2%と良好であった。
【0154】
次に、DCマグネトロンスパッタリング装置を用いて、多層反射膜31上にRuからなる保護膜32(膜厚:2.5nm)と、吸収層であるTaBN膜(膜厚:56nm)及び低反射層であるTaBO膜(膜厚:14nm)の積層膜からなる吸収体膜41とを形成し、また、裏面にCrN導電膜(膜厚:20nm)を形成して、実施例1のEUV反射型マスクブランク40を得た。
【0155】
得られたEUV反射型マスクブランク40について、ブランクス欠陥検査装置(KLA−Tencor社製Teron600シリーズ)で欠陥検査を行った。上述と同様に上述の基準マーク13を基準として、凸、凹の欠陥位置情報と、欠陥サイズ情報とを取得し、EUV反射型マスクブランク40と、これら欠陥位置情報、欠陥サイズ情報とを対応させた欠陥情報付きEUV反射型マスクブランク40を得た。
【0156】
次に、この欠陥情報付きのEUV反射型マスクブランク40を用いて、EUV反射型マスク60を作製した。
【0157】
まず、EUV反射型マスクブランク40上に電子線描画用レジストをスピンコーティング法により塗布、ベーキングしてレジスト膜を形成した。
【0158】
次に、EUV反射型マスクブランク40の欠陥情報に基づいて、予め設計しておいたマスクパターンデータと照合し、露光装置を用いたパターン転写に影響のないマスクパターンデータに修正するか、パターン転写に影響があると判断した場合には、例えば欠陥をパターンの下に隠すように修正パターンデータを追加したマスクパターンデータに修正するか、修正パターンデータでも対応ができない欠陥については、マスク作製後の欠陥修正の負荷が低減できるマスクパターンデータに修正し、この修正されたマスクパターンデータに基づいて、上述のレジスト膜に対して電子線によりマスクパターンを描画、現像を行い、レジストパターンを形成した。本実施例では、上記基準マーク13と欠陥との相対位置関係が高い精度で管理できたので、マスクパターンデータの修正を高精度で行うことができた。
【0159】
このレジストパターンをマスクとし、吸収体膜41のうちTaBO膜をフッ素系ガス(CF
4ガス)によりエッチング除去し、TaBN膜を塩素系ガス(Cl
2ガス)によりエッチング除去して、保護膜32上に吸収体膜パターン41aを形成した。
【0160】
更に、吸収体膜パターン41a上に残ったレジストパターンを熱硫酸で除去し、EUV反射型マスク60を得た。
【0161】
この得られたEUV反射型マスク60についてマスク欠陥検査装置(KLA−Tencor社製Teron600シリーズ)により検査したところ、多層反射膜31上に凸欠陥は確認されなかった。
【0162】
こうして得られた反射型マスク60を露光装置にセットし、レジスト膜を形成した半導体基板上へのパターン転写を行う場合、反射型マスク60に起因する転写パターンの欠陥もなく、良好なパターン転写を行うことができる。
【0163】
(実施例2)
上記実施例1における基準マーク13を多層反射膜31に形成せず、吸収体膜41に形成した以外は実施例1と同様にして、複数の反射型マスクブランク40を作製した。
【0164】
具体的には、実施例2では、実施例1と同様の方法で多層反射膜付き基板30を製造した。その後、多層反射膜31に基準マーク13を形成せずに、実施例1と同様の方法で、多層反射膜31上にRuからなる保護膜32(膜厚:2.5nm)と、吸収層であるTaBN膜(膜厚:56nm)及び低反射層であるTaBO膜(膜厚:14nm)の積層膜からなる吸収体膜41とを形成した。
【0165】
次に、実施例1と同様に、基準マーク13のパターンが形成されたフォトマスクを用いたリソグラフィ法によって、複数枚の吸収体膜41の表面の所定の箇所に、断面形状が凹形状の基準マーク13を形成した。具体的には、まず、複数枚の多層反射膜付き基板30の吸収体膜41の表面に、ポジ型フォトレジスト膜を形成した。このフォトレジスト膜に対して、上述のフォトマスクの基準マーク13のパターンを、等倍露光により転写した。その後、フォトレジスト膜の現像及びリンスを行うことにより、吸収体膜41上のフォトレジスト膜のうち、基準マーク13に相当する部分が除去した。このようにして、吸収体膜41上に基準マーク13のレジストパターンが形成された、複数枚の多層反射膜付き基板30を得た。
【0166】
次に、複数枚(具体的には、14枚)の多層反射膜付き基板30の吸収体膜41に、基準マーク13を形成した。具体的には、
図16に示すようなチャンバー110内に、14枚の上記多層反射膜付き基板30を設置した。次に、該チャンバー110内に、ClF
3とN
2との混合ガス(流量比ClF
3:N
2=0.2:20SLM(Standard Liter per Minute))を導入してチャンバー110内を該ガスで置換することにより、上記多層反射膜付き基板30の吸収体膜41のうち基準マーク13に相当する部分を、非励起状態の上記混合ガスに接触させるようにしてエッチング除去した。この時のガス圧力は20kPa、温度は160℃に調節し、処理時間は20分とした。この結果、基準マーク13に相当する部分の吸収体膜41は、すべて除去された。したがって、形成された基準マーク13の深さは、吸収体膜41を構成するすべての層を除去したので、約70nmだった。
【0167】
また、裏面にCrN導電膜(膜厚:20nm)を形成してEUV反射型マスクブランク40を得た。
【0168】
基準マーク13の断面形状を原子間力顕微鏡(AFM)により観察したところ、実施例1と同様、側壁の傾斜角度が87度、吸収体膜41表面の側壁との間の稜線部の曲率半径が約30nmと良好な断面形状であった。
【0169】
上述のようにして製造した複数枚の多層反射膜付き基板30における基準マーク13の相対位置精度は、良好であった。
【0170】
本実施例においては、基板上に多層反射膜31が形成された多層反射膜付き基板30の多層反射膜31表面を、ブランクス欠陥検査装置(KLA−Tencor社製Teron600シリーズ)で、基板主表面の中心を基準にして欠陥検査を行った。また、吸収体膜41が形成された反射型マスクブランク40について、上述と同様のブランクス欠陥検査装置を用いて基準マーク13を基準として、凸、凹の欠陥位置情報と、欠陥サイズ情報を取得した。最後に、多層反射膜付き基板30の欠陥情報と反射型マスクブランク40の欠陥情報において、欠陥が一致している複数の欠陥を基に照合することにより、反射型マスクブランク40と、これら欠陥位置情報、欠陥サイズ情報とを対応させた欠陥情報付きEUV反射型マスクブランク40を得た。
【0171】
次に、実施例1と同様に、EUV反射型マスク60を作製した。この得られたEUV反射型マスク60についてマスク欠陥検査装置(KLA−Tencor社製Teron600シリーズ)により検査したところ、多層反射膜31上に凸欠陥は確認されなかった。
【0172】
こうして得られた反射型マスク60を露光装置にセットし、レジスト膜を形成した半導体基板上へのパターン転写を行う場合、反射型マスク60に起因する転写パターンの欠陥もなく、良好なパターン転写を行うことができる。
【0173】
(比較例1)
上記実施例1における基準マーク13の形成を、電子線描画装置を用いてレジスト膜に描画した以外は実施例1と同様にして、比較例1の反射型マスクブランク40を作製した。
【0174】
具体的には、まず、実施例1と同様に、複数枚の多層反射膜付き基板30を製造し、多層反射膜31の表面に、レジスト膜を形成した。このフォトレジスト膜に対して、実施例1で用いたフォトマスクと同じ形状の基準マーク13のパターン(
図2参照)を、電子線描画装置を用いて描画した。その後、レジスト膜の現像及びリンスを行うことにより、多層反射膜31上のレジスト膜のうち、基準マーク13に相当する部分が除去した。このようにして、多層反射膜31上に基準マーク13のレジストパターンが形成された、複数枚の多層反射膜付き基板30を得た。
【0175】
次に、実施例1と同じ条件で、複数枚の多層反射膜付き基板30の多層反射膜31のうち基準マーク13に相当する部分を、非励起状態のClF
3とN
2の混合ガスに接触させるようにしてエッチング除去した。次に、レジスト剥離液によってフォトレジスト膜を剥離し、リンスした。この結果、多層反射膜31の外周部に基準マーク13が形成された複数枚の比較例1の多層反射膜付き基板30を得た。
【0176】
次に、実施例1と同様に、比較例1の複数枚の多層反射膜付き基板30の多層反射膜31表面をブランクス欠陥検査装置(KLA−Tencor社製Teron600シリーズ)で欠陥検査を行った。この欠陥検査では、上述の基準マーク13を基準として、基準点を決定し、決定した基準点との相対位置に基づく凸、凹の欠陥位置情報と、欠陥サイズ情報を取得し、欠陥マップを作成した。多層反射膜付き基板30と、これら欠陥位置情報、欠陥サイズ情報とを対応させた欠陥情報(欠陥マップ)付き多層反射膜付き基板30を得た。
【0177】
次に、実施例1と同様に、DCマグネトロンスパッタリング装置を用いて、多層反射膜31上にRuからなる保護膜32(膜厚:2.5nm)と、吸収層であるTaBN膜(膜厚:56nm)及び低反射層であるTaBO膜(膜厚:14nm)の積層膜からなる吸収体膜41とを形成し、また、裏面にCrN導電膜(膜厚:20nm)を形成して、比較例1のEUV反射型マスクブランク40を得た。
【0178】
得られたEUV反射型マスクブランク40について、ブランクス欠陥検査装置(KLA−Tencor社製Teron600シリーズ)で欠陥検査を行った。上述と同様に上述の基準マーク13を基準として、凸、凹の欠陥位置情報と、欠陥サイズ情報を取得し、EUV反射型マスクブランク40と、これら欠陥位置情報、欠陥サイズ情報とを対応させた欠陥情報付きEUV反射型マスクブランク40を得た。
【0179】
次に、この欠陥情報付きのEUV反射型マスクブランク40を用いて、EUV反射型マスク60を作製した。
【0180】
まず、EUV反射型マスクブランク40上に電子線描画用レジストをスピンコーティング法により塗布、ベーキングしてレジスト膜を形成した。
【0181】
次に、EUV反射型マスクブランク40の欠陥情報に基づいて、予め設計しておいたマスクパターンデータと照合し、露光装置を用いたパターン転写に影響のないマスクパターンデータに修正するか、パターン転写に影響があると判断した場合には、例えば欠陥をパターンの下に隠すように修正パターンデータを追加したマスクパターンデータに修正するか、修正パターンデータでも対応ができない欠陥については、マスク作製後の欠陥修正の負荷が低減できるマスクパターンデータに修正し、この修正されたマスクパターンデータに基づいて、上述のレジスト膜に対して電子線によりマスクパターンを描画、現像を行い、レジストパターンを形成することを試みた。しかしながら、比較例1では、実施例1と比べて、上記基準マーク13と欠陥との相対位置関係が高い精度で管理できなかったので、マスクパターンデータの修正を高精度で行うことができなかった。
【0182】
このレジストパターンをマスクとし、吸収体膜41のうちTaBO膜をフッ素系ガス(CF
4ガス)によりエッチング除去し、TaBN膜を塩素系ガス(Cl
2ガス)によりエッチング除去して、保護膜32上に吸収体膜パターン41aを形成した。
【0183】
更に、吸収体膜パターン41a上に残ったレジストパターンを熱硫酸で除去し、EUV反射型マスク60を得た。
【0184】
この得られたEUV反射型マスク60についてマスク欠陥検査装置(KLA−Tencor社製Teron600シリーズ)により検査したところ、多層反射膜31上に凸欠陥が確認された。
【0185】
こうして得られた反射型マスク60を露光装置にセットし、レジスト膜を形成した半導体基板上へのパターン転写を行う場合、反射型マスク60に起因する転写パターンの欠陥があり、良好なパターン転写を行うことができない。
【0186】
また、比較例1の場合、基準マークを形成する際のレジストパターン形成の描画時間が約30〜60分/枚なのに対して、実施例1のフォトマスクを利用した基準マークを形成する際のレジストパターンの形成は、約1〜2分/枚となり、製造時間を大幅に短縮できるので、本発明の製造方法により、低コストの反射型マスクブランク、及び反射型マスクを得ることができた。
【0187】
なお、上述の実施例では、基準マーク13を形成する際に、14枚の多層反射膜付き基板30を同時に、
図16に示すようなチャンバー110内でClF
3とN
2との混合ガスを用いて処理したが、これに限定されない。例えば、
図15に示すようなエッチングチャンバー110を用いて、多層反射膜付き基板30を一枚ずつ処理することも可能である。