【課題を解決するための手段】
【0023】
上記した課題を解決するための方策として、薄膜形成用材料を蒸気として発する蒸発装置と、その内部に設置した基材にその薄膜形成用材料を着膜することが可能な真空室と、を含む蒸着装置であって、その蒸発装置が、蒸発室、薄膜形成用材料供給部、キャリアーガス供給部、及び蒸気含有ガス排出部を備える蒸発装置について種々検討を実施した。
【0024】
この蒸発装置を用いて成膜を実施する場合には、薄膜形成用材料供給部より粉体として蒸発室内に薄膜形成用材料を供給し、キャリアーガス供給部より蒸着室内に加熱したキャリアーガスを供給し、蒸発室内の薄膜形成用材料に滞留した粉体が残らないよう空の状態として、フラッシュ蒸着することが一応可能であった。
【0025】
しかしながら、この方法で成膜する場合には、以下のような問題があった。
【0026】
即ち、比較的低速で成膜する場合に、極微量の粉体を一定速度で薄膜形成用材料供給部より蒸発室内に供給することは、粉体を構成する粒子の粒径が必ずしも一定でないこと、そのような極微量を一定速度で供給し、かつ、有機EL素子形成用材料のような外部から遮断され気密状態を維持可能な適当な機構が存在しないことから困難であった。そこで、平均的な粉体供給量を、低速の成膜速度に反映させるために、蒸発室内のこのような粉体を積極的に滞留させ粉体が残るようにすることが考えられるが、この場合は、蒸着室内に滞留した複数の粒子の集合で形成される粉体の表面形状が蒸発によって刻々と変形するため、キャリアーガスと滞留した粉体である残材料の接触面積が一定せず、キャリアーガスの流量、温度等の加熱条件が同じであっても一定の成膜速度を得ることが困難であった。つまり、蒸発装置内の残材料は表面形状を一定にする必要があることが判った。
【0027】
また、中高速で成膜する場合にも、薄膜形成用材料供給部と蒸発室との間のコンダクタンスが、配管の壁面への紛体の付着状況の変化のためと思われる経時変化をし、安定した成膜速度を得ることが困難な場合があった。そこで同様に、蒸発室内に粉体を積極的に滞留させることを検討したが、同様にキャリアーガスと滞留した粉体である残材料の接触面積が一定せず、キャリアーガスの流量、温度等の加熱条件が同じであっても一定の成膜速度を得ることが困難であった。
【0028】
そこで、このような問題を解決するためにさらに鋭意研究し、本発明を完成した。
【0029】
即ち本発明は、基材を設置可能な真空室を有し、前記真空室内に基材を設置し、蒸発装置で蒸気として発せられた薄膜形成用材料を該基材上に着膜させる蒸着装置であって、前記蒸発装置が、蒸発室、薄膜形成用材料供給部、キャリアーガス供給部、及び蒸気含有ガス排出部を備え、前記薄膜形成用材料供給部から前記蒸発室に粉体として供給された前記薄膜形成用材料、及び前記キャリアーガス供給部から前記蒸発室に供給されたキャリアーガスから、前記蒸発室にて前記蒸気を含む蒸気含有ガスを生成可能に、かつ、前記蒸気含有ガスを前記蒸発室から前記真空室に前記蒸気含有ガス排出部を介して供給可能に構成されてなり、
前記薄膜形成用材料供給部から供給される前記薄膜形成用材料、及び前記キャリアーガス供給部から供給される前記キャリアーガスが混合された材料キャリアーガスエアロゾルが、前記蒸発室に供給され、
さらに、前記キャリアーガス供給部から供給される前記キャリアーガスの一部が、加熱されたキャリアーガスとして、直接前記蒸発室に供給され、フラッシュ蒸着として前記蒸気を含む蒸気含有ガスが生成されることを特徴とする蒸着装置に関する。
【0030】
このような本発明の蒸着装置により、薄膜形成用材料供給部より
、薄膜形成用材料の粉体
、及びキャリアーガスが混合された材料キャリアーガスエアロゾルとして蒸発室内に薄膜形成用材料を供給することで、特に低速で成膜する場合でも、一定速度で成膜可能となる。また、粉体の蒸発そのものの安定性も向上するようである。これは、配管の壁面への紛体の付着が抑えられることにより薄膜形成用材料供給部と蒸発室との間のコンダクタンスが一定となったり、粒径分布による蒸発速度の分布が抑えられたりしたことによるものと考えられる。
【0032】
このような本発明の蒸着装置では、蒸発装置外部に薄膜形成用材料を常温保持しているため、材料劣化は殆ど起こらず、蒸発装置内に適宜材料を少量補給するのみでよく、蒸発装置の温度、
前記直接前記蒸発室に供給される加熱されたキャリアーガスの温度および流量を一定にすることで、常により安定した蒸発量となるので、基材への成膜速度が安定する。
【0034】
前記薄膜形成用材料供給部は、前記蒸発室に供給する前記薄膜形成用材料の供給速度を一定に保つ手段を有することが好ましい。
【0035】
このような本発明の蒸着装置では、蒸発装置への薄膜形成用材料供給量と生産量の差し引きにより、蒸発装置内の材料残量を把握することができ
、また、フラッシュ蒸着を実施すること
で薄膜形成用材料供給量により成膜速度を制御することができるので汎用性が広が
る。
【0036】
このような本発明の蒸着装置は、前記薄膜形成用材料供給部から供給される前記薄膜形成用材料、及び前記キャリアーガス供給部から供給される前記キャリアーガスが混合された材料キャリアーガスエアロゾルが、前記蒸発室に供給可能に構成されてい
る。
【0037】
このような本発明の蒸着装置でフラッシュ蒸着を実施する場合、例えば高温のキャリアーガスが薄膜形成用材料供給部に逆流し、供給している薄膜形成用材料が低温部で溶着することを防止するため、少なくともキャリアーガスの一部を薄膜形成用材料と共に
、材料キャリアーガスエアロゾルとして、薄膜形成用材料供給部より蒸発装置に流送す
る。
【0038】
さらに、薄膜形成用材料供給部に耐熱バルブを設置することで流通する
材料キャリアーガスエアロゾル量を調節し、薄膜形成用材料を蒸発させることで、薄膜形成用材料供給部を高温から遮断することができるので好ましい。
【0039】
さらに、前記キャリアーガス供給部から供給される前記キャリアーガスの一部が、
加熱されたキャリアーガスとして、直接前記蒸発室に供給可能に構成されている。またさらに、蒸発室を通過せずに、加熱したキャリアーガスのみを移送し、蒸発した材料と統合して、真空室に移送することが可能な蒸着装置とすることが好ましい。このような蒸着装置とすることで、例えば複数層を順次成膜し、各層成膜時のキャリアーガス流量が異なる場合、加熱したキャリアーガスを適当な流量統合させることで、真空室に流送するキャリアーガス総量を常に一定にすることができる。このため、例えばキャリアーガス総量に依存する基材の膜厚分布不安定などのリスクを回避できる。
【0040】
前記蒸発室の天板の開口部を介して、前記薄膜形成用材料、及び前記キャリアーガスが前記蒸発室に供給され、前記蒸気含有ガスが前記真空室に供給されるように構成されていることが好ましい。
【0041】
このような本発明の蒸着装置では、該蒸発装置に供給した薄膜形成用材料および蒸発した材料の再固着による配管閉塞等のリスクが少ない。特に、本発明の蒸着装置による薄膜形成用材料の蒸発速度は、蒸発装置内の材料蒸気圧にも依存するため、キャリアーガス供給部と蒸気含有ガス排出部はなるべく、薄膜形成用材料供給部を中心として、反対方向に振り分けて遠ざかる位置にその蒸発室との接続部を設け、ガス溜まりが生じ難い構造とすることが好ましい。
【0042】
前記蒸発室の底面と、それ以外の部分とが異なる温度に維持可能となるように構成されていることが好ましい。例えば、蒸発室の側面の温度を底面の温度より高温にして、内部の薄膜形成用材料を蒸発させる成膜方法とすることができ、そのようなことで、を特徴とする成膜方法では、蒸発室内の材料表面の中心部から端部まで均一な速度で蒸発するようにすることが可能となり、蒸発による残材料の表面形状変化を抑制できる。
【0043】
また、このような本発明の蒸着装置は、1つの前記蒸発装置が、複数の薄膜形成用材料供給部を備えるものとすることができる。
【0044】
このような本発明の蒸着装置では、例えば、2以上の材料を用いて共蒸着を実施する場合に、それぞれの蒸発装置より異なる材料を定量的に蒸発させ、それらを統合して均一な濃度配分とし基材に蒸着することが可能である。
【0045】
また、このような本発明の蒸着装置を用いてフラッシュ蒸着を実施する場合であって、2以上の薄膜形成用材料で複数層を積層する場合や共蒸着を実施する場合、定量化した各薄膜形成用材料を1つの蒸発装置に供給することで複数の蒸発装置は不要となる。このため、シンプルな装置構成となり装置コストを低減することができる。
【0046】
このような本発明の蒸着装置を用いた製膜方法においては、前記蒸発室内部の圧力を1000Pa〜50000Paの間に制御して製膜することが好ましい。
【0047】
このような本発明の成膜方法では、キャリアーガスによる薄膜形成用材料の加熱効果を高めることが可能であり、能率的かつ安定的に蒸発させることができる。蒸発装置内部の圧力を調整する方法は、例えば蒸気含有ガス排出部に開度調整可能なバルブを設けて、適宜開度調整することで実施できる。
【0048】
基材上に少なくとも第1電極層と、複数の有機化合物の薄膜からなり発光層を含む機能層と、第2電極層を順次積層して有機EL装置を製造する方法であって、前記有機化合物の薄膜の少なくとも1つを、このような本発明の成膜方法により成膜する工程を含む有機EL装置の製造方法とすることが好ましい。
【0049】
このような本発明の製造方法では、1つの蒸着装置で複数の薄膜形成用材料を順次または同時に蒸発させることが可能であり、複雑な構造のデバイスであっても製造することができる。
【0050】
以上のような、本発明の蒸着装置は、薄膜形成用材料を常温維持できるため材料劣化が少なく品質安定性が高い。また、シンプルな装置構成で複数の薄膜形成用材料を用いて順次または同時に成膜することが可能であり、装置コストも安価である。
【0051】
また、本発明の成膜方法についても同様であり、所望の成膜速度を得ることが可能であり、品質安定性が高い。
【0052】
また、本発明の有機EL装置の製造方法についても同様であり、1つの蒸着装置で複雑な構造のデバイスであっても製造することができる。