特許第6282852号(P6282852)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6282852蒸着装置、成膜方法及び有機EL装置の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6282852
(24)【登録日】2018年2月2日
(45)【発行日】2018年2月21日
(54)【発明の名称】蒸着装置、成膜方法及び有機EL装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/24 20060101AFI20180208BHJP
   H01L 51/50 20060101ALI20180208BHJP
   H05B 33/10 20060101ALI20180208BHJP
【FI】
   C23C14/24 D
   H05B33/14 A
   H05B33/10
【請求項の数】8
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-243884(P2013-243884)
(22)【出願日】2013年11月26日
(65)【公開番号】特開2015-101769(P2015-101769A)
(43)【公開日】2015年6月4日
【審査請求日】2016年9月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(72)【発明者】
【氏名】川村 祐介
(72)【発明者】
【氏名】木村 俊彦
(72)【発明者】
【氏名】上山 大地
(72)【発明者】
【氏名】下舘 広昌
【審査官】 塩谷 領大
(56)【参考文献】
【文献】 特開平05−117845(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/034938(WO,A1)
【文献】 特開2011−159490(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00−14/58
H01L 51/50
H05B 33/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材を設置可能な真空室を有し、該真空室内に基材を設置し、蒸発装置で蒸気として発せられた薄膜形成用材料を基材上に着膜させる蒸着装置であって、
該蒸発装置が、蒸発室、薄膜形成用材料供給部、キャリアーガス供給部、及び蒸気含有ガス排出部を備え、該薄膜形成用材料供給部から該蒸発室に粉体として供給された該薄膜形成用材料、及び該キャリアーガス供給部から該蒸発室に供給されたキャリアーガスから、該蒸発室にて該蒸気を含む蒸気含有ガスを生成可能に、かつ、該蒸気含有ガスを該蒸発室から該真空室に該蒸気含有ガス排出部を介して供給可能に構成されてなり、
前記薄膜形成用材料供給部から供給される前記薄膜形成用材料、及び前記キャリアーガス供給部から供給される前記キャリアーガスが混合された材料キャリアーガスエアロゾルが、前記蒸発室に供給され、
さらに、前記キャリアーガス供給部から供給される前記キャリアーガスの一部が、加熱されたキャリアーガスとして、直接前記蒸発室に供給され、フラッシュ蒸着として前記蒸気を含む蒸気含有ガスが生成されることを特徴とする蒸着装置。
【請求項2】
さらに、前記薄膜形成用材料供給部から前記蒸発室の間に、薄膜形成用材料供給部から前記蒸発室への、前記材料キャリアーガスエアロゾルの供給量を制御する耐熱バルブを備える、請求項1に記載の蒸着装置。
【請求項3】
前記薄膜形成用材料供給部が、前記蒸発室に供給する前記薄膜形成用材料の供給速度を一定に保つ手段を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の蒸着装置。
【請求項4】
前記蒸発室の天板の開口部を介して、前記薄膜形成用材料、及び前記キャリアーガスが前記蒸発室に供給され、前記蒸気含有ガスが前記真空室に供給されるように構成されてなる請求項1〜のいずれかに記載の蒸着装置。
【請求項5】
前記蒸発室の底面と、それ以外の部分とが異なる温度に維持可能となるように構成されてなる請求項1〜のいずれかに記載の蒸着装置。
【請求項6】
1つの前記蒸発装置が、複数の薄膜形成用材料供給部を備える、請求項1〜のいずれかに記載の蒸着装置。
【請求項7】
請求項1〜のいずれかの蒸着装置を用いた製膜方法であって、該蒸発室内部の圧力を1000Pa〜50000Paの間に制御して製膜することを特徴とする成膜方法。
【請求項8】
基材上に少なくとも第1電極層と、複数の有機化合物の薄膜からなり発光層を含む機能層と、第2電極層を順次積層して有機EL装置を製造する方法であって、該有機化合物の薄膜の少なくとも1つを請求項に記載の成膜方法により成膜する工程を含む、有機EL装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸着装置に関するものである。本発明は、特に有機EL(ElectroLuminesence)装置の製造に用いる蒸着装置として好適である。
【0002】
また本発明は、成膜方法及び有機EL装置の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0003】
近年、白熱灯や蛍光灯に変わる照明装置として有機EL装置が注目され、多くの研究がなされている。また、テレビに代表されるディスプレイ部材においても液晶方式やプラズマ方式に変わる方式として有機EL方式が注目されている。
【0004】
ここで有機EL装置は、ガラス基板や透明樹脂フィルム等の基材に、有機EL素子を積層したものである。
【0005】
また、有機EL素子は、一方又は双方が透光性を有する2つの電極を対向させ、この電極の間に有機化合物からなる発光層を積層したものである。有機EL素子は、電気的に励起された電子と正孔との再結合のエネルギーによって発光する。
【0006】
有機EL装置は、自発光デバイスであるため、ディスプレイ材料として使用すると高コントラストの画像を得ることができる。また、発光層の材料を適宜選択することにより、種々の波長の光を発光することができる。また白熱灯や蛍光灯に比べて厚さが極めて薄く、且つ面上に発光するので、設置場所の制約が少ない。
【0007】
有機EL装置の代表的な層構成は、図5の通りである。図5に示される有機EL装置100は、ボトムエミッション型と称される構成であり、ガラス基板110に、透明電極層120と、機能層130と、裏面電極層140が積層され、これらが封止部150によって封止されたものである。
【0008】
また機能層130は、複数の有機化合物の薄膜が積層されたものである。代表的な機能層130は、正孔注入層131、正孔輸送層132、発光層133、及び電子輸送層134を有している。
【0009】
有機EL装置100は、ガラス基板110上に、前記した層を順次成膜することによって製造される。
【0010】
ここで上記した各層の内、透明電極層120は、酸化インジウム錫(ITO)等の透明導電膜であり、主にスパッタ法あるいはCVD法によって成膜される。
【0011】
機能層130は、前記した様に複数の有機化合物の薄膜が積層されたものであり、各薄膜を真空蒸着法によって成膜することができる。
【0012】
裏面電極層140は、アルミニウム、銀等の金属薄膜であり、真空蒸着法によって成膜することができる。
【0013】
このように、有機EL装置は、発光層を機能層が、透明導電膜や金属薄膜の第1、及び第2電極層に挟持された構造を有する。
【0014】
この様に有機EL装置を製造する際には、真空蒸着法が多用される。ここで真空蒸着法は、例えば特許文献1に開示された様な蒸着装置を使用して成膜する技術である。
【0015】
即ち蒸着装置は、真空室と、薄膜形成用材料を蒸発させる蒸発装置によって構成されるものである。真空室は、例えばガラス基板等の基材を設置することができるものである。
【0016】
蒸発装置は電気抵抗や電子ビームを利用した加熱装置と、薄膜形成用材料を入れる坩堝とによって構成されている。
【0017】
また、特許文献2、3には、蒸発装置内の薄膜形成用材料を、加熱されたキャリアーガスで蒸発させ、真空室に蒸発した材料を移送することで成膜する真空蒸着法が開示されている。
【0018】
さらに、特許文献4、5には、蒸発装置に薄膜形成用材料を定量供給し、蒸発装置の加熱装置または加熱されたキャリアーガスによって薄膜形成用材料の一部または全部を蒸発させ、真空室に蒸発した材料を移送し成膜する、いわゆるフラッシュ蒸着による方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】特開2012−52187号公報
【特許文献2】特開2006−144083号公報
【特許文献3】特開2006−152326号公報
【特許文献4】WO2009/034938号公報
【特許文献5】WO2010/123027号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
上記特許文献1、2および3に記載されている真空蒸着方法においては、一定の生産性を得るため、生産中は薄膜形成用材料を常に加熱保持している必要があり、加熱による薄膜形成用材料の変質、いわゆる材料劣化を抑えることが困難であった。
【0021】
また、上記特許文献4、5に記載されている真空蒸着方法においては、薄膜形成用材料を生産に使用する直前まで常温で保持することが可能である。しかしながら、基材への成膜速度が蒸発装置への材料供給速度に依存するため、例えば数nmの薄膜を形成する場合には、必要な薄膜形成用材料が著しく少なく、薄膜形成用材料を微量供給し、低速度で成膜して安定した膜厚を得ることが困難であった。
【0022】
そこで本発明は、従来技術の上記した問題点に注目し、薄膜形成用材料の生産中の材料劣化を抑え、nm/分程度の比較的小さい速度であっても、所望の蒸着速度で安定した膜厚が得られる蒸着装置を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0023】
上記した課題を解決するための方策として、薄膜形成用材料を蒸気として発する蒸発装置と、その内部に設置した基材にその薄膜形成用材料を着膜することが可能な真空室と、を含む蒸着装置であって、その蒸発装置が、蒸発室、薄膜形成用材料供給部、キャリアーガス供給部、及び蒸気含有ガス排出部を備える蒸発装置について種々検討を実施した。
【0024】
この蒸発装置を用いて成膜を実施する場合には、薄膜形成用材料供給部より粉体として蒸発室内に薄膜形成用材料を供給し、キャリアーガス供給部より蒸着室内に加熱したキャリアーガスを供給し、蒸発室内の薄膜形成用材料に滞留した粉体が残らないよう空の状態として、フラッシュ蒸着することが一応可能であった。
【0025】
しかしながら、この方法で成膜する場合には、以下のような問題があった。
【0026】
即ち、比較的低速で成膜する場合に、極微量の粉体を一定速度で薄膜形成用材料供給部より蒸発室内に供給することは、粉体を構成する粒子の粒径が必ずしも一定でないこと、そのような極微量を一定速度で供給し、かつ、有機EL素子形成用材料のような外部から遮断され気密状態を維持可能な適当な機構が存在しないことから困難であった。そこで、平均的な粉体供給量を、低速の成膜速度に反映させるために、蒸発室内のこのような粉体を積極的に滞留させ粉体が残るようにすることが考えられるが、この場合は、蒸着室内に滞留した複数の粒子の集合で形成される粉体の表面形状が蒸発によって刻々と変形するため、キャリアーガスと滞留した粉体である残材料の接触面積が一定せず、キャリアーガスの流量、温度等の加熱条件が同じであっても一定の成膜速度を得ることが困難であった。つまり、蒸発装置内の残材料は表面形状を一定にする必要があることが判った。
【0027】
また、中高速で成膜する場合にも、薄膜形成用材料供給部と蒸発室との間のコンダクタンスが、配管の壁面への紛体の付着状況の変化のためと思われる経時変化をし、安定した成膜速度を得ることが困難な場合があった。そこで同様に、蒸発室内に粉体を積極的に滞留させることを検討したが、同様にキャリアーガスと滞留した粉体である残材料の接触面積が一定せず、キャリアーガスの流量、温度等の加熱条件が同じであっても一定の成膜速度を得ることが困難であった。
【0028】
そこで、このような問題を解決するためにさらに鋭意研究し、本発明を完成した。
【0029】
即ち本発明は、基材を設置可能な真空室を有し、前記真空室内に基材を設置し、蒸発装置で蒸気として発せられた薄膜形成用材料を該基材上に着膜させる蒸着装置であって、前記蒸発装置が、蒸発室、薄膜形成用材料供給部、キャリアーガス供給部、及び蒸気含有ガス排出部を備え、前記薄膜形成用材料供給部から前記蒸発室に粉体として供給された前記薄膜形成用材料、及び前記キャリアーガス供給部から前記蒸発室に供給されたキャリアーガスから、前記蒸発室にて前記蒸気を含む蒸気含有ガスを生成可能に、かつ、前記蒸気含有ガスを前記蒸発室から前記真空室に前記蒸気含有ガス排出部を介して供給可能に構成されてなり、
前記薄膜形成用材料供給部から供給される前記薄膜形成用材料、及び前記キャリアーガス供給部から供給される前記キャリアーガスが混合された材料キャリアーガスエアロゾルが、前記蒸発室に供給され、
さらに、前記キャリアーガス供給部から供給される前記キャリアーガスの一部が、加熱されたキャリアーガスとして、直接前記蒸発室に供給され、フラッシュ蒸着として前記蒸気を含む蒸気含有ガスが生成されることを特徴とする蒸着装置に関する。
【0030】
このような本発明の蒸着装置により、薄膜形成用材料供給部より、薄膜形成用材料の粉体、及びキャリアーガスが混合された材料キャリアーガスエアロゾルとして蒸発室内に薄膜形成用材料を供給することで、特に低速で成膜する場合でも、一定速度で成膜可能となる。また、粉体の蒸発そのものの安定性も向上するようである。これは、配管の壁面への紛体の付着が抑えられることにより薄膜形成用材料供給部と蒸発室との間のコンダクタンスが一定となったり、粒径分布による蒸発速度の分布が抑えられたりしたことによるものと考えられる。
【0032】
このような本発明の蒸着装置では、蒸発装置外部に薄膜形成用材料を常温保持しているため、材料劣化は殆ど起こらず、蒸発装置内に適宜材料を少量補給するのみでよく、蒸発装置の温度、前記直接前記蒸発室に供給される加熱されたキャリアーガスの温度および流量を一定にすることで、常により安定した蒸発量となるので、基材への成膜速度が安定する。
【0034】
前記薄膜形成用材料供給部は、前記蒸発室に供給する前記薄膜形成用材料の供給速度を一定に保つ手段を有することが好ましい。
【0035】
このような本発明の蒸着装置では、蒸発装置への薄膜形成用材料供給量と生産量の差し引きにより、蒸発装置内の材料残量を把握することができまた、フラッシュ蒸着を実施すること薄膜形成用材料供給量により成膜速度を制御することができるので汎用性が広がる。
【0036】
このような本発明の蒸着装置は、前記薄膜形成用材料供給部から供給される前記薄膜形成用材料、及び前記キャリアーガス供給部から供給される前記キャリアーガスが混合された材料キャリアーガスエアロゾルが、前記蒸発室に供給可能に構成されている。
【0037】
このような本発明の蒸着装置でフラッシュ蒸着を実施する場合、例えば高温のキャリアーガスが薄膜形成用材料供給部に逆流し、供給している薄膜形成用材料が低温部で溶着することを防止するため、少なくともキャリアーガスの一部を薄膜形成用材料と共に、材料キャリアーガスエアロゾルとして、薄膜形成用材料供給部より蒸発装置に流送する。
【0038】
さらに、薄膜形成用材料供給部に耐熱バルブを設置することで流通する材料キャリアーガスエアロゾル量を調節し、薄膜形成用材料を蒸発させることで、薄膜形成用材料供給部を高温から遮断することができるので好ましい。
【0039】
さらに、前記キャリアーガス供給部から供給される前記キャリアーガスの一部が、加熱されたキャリアーガスとして、直接前記蒸発室に供給可能に構成されている。またさらに、蒸発室を通過せずに、加熱したキャリアーガスのみを移送し、蒸発した材料と統合して、真空室に移送することが可能な蒸着装置とすることが好ましい。このような蒸着装置とすることで、例えば複数層を順次成膜し、各層成膜時のキャリアーガス流量が異なる場合、加熱したキャリアーガスを適当な流量統合させることで、真空室に流送するキャリアーガス総量を常に一定にすることができる。このため、例えばキャリアーガス総量に依存する基材の膜厚分布不安定などのリスクを回避できる。
【0040】
前記蒸発室の天板の開口部を介して、前記薄膜形成用材料、及び前記キャリアーガスが前記蒸発室に供給され、前記蒸気含有ガスが前記真空室に供給されるように構成されていることが好ましい。
【0041】
このような本発明の蒸着装置では、該蒸発装置に供給した薄膜形成用材料および蒸発した材料の再固着による配管閉塞等のリスクが少ない。特に、本発明の蒸着装置による薄膜形成用材料の蒸発速度は、蒸発装置内の材料蒸気圧にも依存するため、キャリアーガス供給部と蒸気含有ガス排出部はなるべく、薄膜形成用材料供給部を中心として、反対方向に振り分けて遠ざかる位置にその蒸発室との接続部を設け、ガス溜まりが生じ難い構造とすることが好ましい。
【0042】
前記蒸発室の底面と、それ以外の部分とが異なる温度に維持可能となるように構成されていることが好ましい。例えば、蒸発室の側面の温度を底面の温度より高温にして、内部の薄膜形成用材料を蒸発させる成膜方法とすることができ、そのようなことで、を特徴とする成膜方法では、蒸発室内の材料表面の中心部から端部まで均一な速度で蒸発するようにすることが可能となり、蒸発による残材料の表面形状変化を抑制できる。
【0043】
また、このような本発明の蒸着装置は、1つの前記蒸発装置が、複数の薄膜形成用材料供給部を備えるものとすることができる。
【0044】
このような本発明の蒸着装置では、例えば、2以上の材料を用いて共蒸着を実施する場合に、それぞれの蒸発装置より異なる材料を定量的に蒸発させ、それらを統合して均一な濃度配分とし基材に蒸着することが可能である。
【0045】
また、このような本発明の蒸着装置を用いてフラッシュ蒸着を実施する場合であって、2以上の薄膜形成用材料で複数層を積層する場合や共蒸着を実施する場合、定量化した各薄膜形成用材料を1つの蒸発装置に供給することで複数の蒸発装置は不要となる。このため、シンプルな装置構成となり装置コストを低減することができる。
【0046】
このような本発明の蒸着装置を用いた製膜方法においては、前記蒸発室内部の圧力を1000Pa〜50000Paの間に制御して製膜することが好ましい。
【0047】
このような本発明の成膜方法では、キャリアーガスによる薄膜形成用材料の加熱効果を高めることが可能であり、能率的かつ安定的に蒸発させることができる。蒸発装置内部の圧力を調整する方法は、例えば蒸気含有ガス排出部に開度調整可能なバルブを設けて、適宜開度調整することで実施できる。
【0048】
基材上に少なくとも第1電極層と、複数の有機化合物の薄膜からなり発光層を含む機能層と、第2電極層を順次積層して有機EL装置を製造する方法であって、前記有機化合物の薄膜の少なくとも1つを、このような本発明の成膜方法により成膜する工程を含む有機EL装置の製造方法とすることが好ましい。
【0049】
このような本発明の製造方法では、1つの蒸着装置で複数の薄膜形成用材料を順次または同時に蒸発させることが可能であり、複雑な構造のデバイスであっても製造することができる。
【0050】
以上のような、本発明の蒸着装置は、薄膜形成用材料を常温維持できるため材料劣化が少なく品質安定性が高い。また、シンプルな装置構成で複数の薄膜形成用材料を用いて順次または同時に成膜することが可能であり、装置コストも安価である。
【0051】
また、本発明の成膜方法についても同様であり、所望の成膜速度を得ることが可能であり、品質安定性が高い。
【0052】
また、本発明の有機EL装置の製造方法についても同様であり、1つの蒸着装置で複雑な構造のデバイスであっても製造することができる。
【発明の効果】
【0053】
本発明の蒸着装置では、薄膜形成用材料供給部より、薄膜形成用材料の粉体、及びキャリアーガスが混合された材料キャリアーガスエアロゾルとして、蒸発室内に供給することで、特に低速で成膜する場合でも、一定速度で成膜可能となる。また、粉体の蒸発そのものの安定性も向上する。
【図面の簡単な説明】
【0054】
図1】本発明の蒸着装置の構成図の一例である。
図2図1の真空室および排気部の構成詳細図の一例である。
図3図1の薄膜形成用材料蒸発部の構成詳細図の一例である。
図4】2以上の薄膜形成用材料を供給することが可能な薄膜形成用材料蒸発部の構成詳細図の一例である。
図5】有機EL装置の一般的なデバイス構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0055】
以下さらに本発明の実施形態の例について説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、当業者の技術常識内で種々変更が可能である。
【0056】
本発明の蒸着装置1は、真空室21、及び蒸発装置4を含む。一例として、例えば図1に示すように、排気部22を備える真空室21からなる真空室および排気部系統2、ガス混合部3、蒸発装置4、加熱キャリアーガス流送部5、およびキャリアーガス導入部6よりなる。
【0057】
なお、加熱キャリアーガスと接触する各機器、配管、バルブ等は、蒸発材料の固着および材料劣化を抑制するため、適宜必要なリボンヒーターやジャケットヒーター等によって加熱し、適当な制御方法で各部の温度制御が可能な構造である。
【0058】
真空室および排気部系統2は、図2に示すように、真空室21、真空排気ポンプである排気部22、および排気バルブ201よりなる。
【0059】
真空室21は気密性を有し、真空室内に基材保持機構211、蒸着ヘッド212、ゲートバルブ213、蒸発材料回収部214を有する。
【0060】
本実施形態では、基材9がゲートバルブ213を介して真空室21内に導入され、基材保持機構211に載置される。基材9は、例えばガラス等の透明な材料からなる。基材上の透明電極層120は、ITO(Indium Tin Oxide)等の透明な導電性材料からなる。なお、透明電極層120は例えばスパッタリング法などにより形成される。
【0061】
次に、蒸発材料が蒸着ヘッド212を介して基材に向かって吐出されることで、成膜が実施される。蒸着ヘッドの吐出部は適度な開孔パターンを有し、基材成膜面に均一に蒸発材料を吐出する構造であると好ましい。また、基材保持機構211は、加熱された蒸着ヘッド212の輻射熱等による基材温度の上昇を抑制するため、例えば冷媒等を内部に流通させ、基板を冷却できる構造(215)であると好ましい。
【0062】
なお、蒸発材料は、ガス混合部3より蒸着ヘッド212と蒸発材料回収部214にそれぞれ流送することが可能であり、例えば材料蒸発が不安定な間は蒸発材料回収部214に流送し、材料蒸発安定後に蒸着ヘッドへ流送することができる。
【0063】
蒸発材料回収部は真空室内に設置する必要は特になく、例えば真空室外でコールドトラップ等により回収してもよい。
【0064】
真空室21は外部に接続されるドライポンプ等の真空排気ポンプで排気される。さらに、TMP(ターボ分子ポンプ)やCP(クライオポンプ)を用いて、真空室21内を高真空排気できる構造であると、例えば真空室内部や薄膜形成用材料蒸発部内の残留水分等を除去可能となり、品質向上の観点から好ましい。またさらに、排気バルブ201は、開度コントロールが可能なバルブである方が、真空室内部の圧力調整により成膜速度等をコントロールできるので好ましい。
【0065】
ガス混合部3は、ガスミキサー311、真空室21の蒸着ヘッド212または薄膜形成用材料回収部214に流送先を切り替えるためのバルブ321、322よりなる。薄膜形成用材料蒸発部4および加熱キャリアーガス流送部5より流送されるキャリアーガスおよび蒸発材料は、ガスミキサー311で均一に混合し、真空室の蒸着ヘッド212または薄膜形成用材料回収部214に流送される。ミキサー311は、例えばスタティックミキサー等が用いられ、キャリアーガス中に蒸発材料を均一に分散させる。
【0066】
本発明に係る蒸発装置4は、1つまたは複数の薄膜形成用材料蒸発系列よりなる。ここで、薄膜形成用材料蒸発系列7を代表例として構造の詳細を説明する。図1では2つの薄膜形成用材料蒸発系列7、8よりなる蒸発装置4について示しているが、それぞれの薄膜形成用材料蒸発系列の構造や系列数を限定するものではない。
【0067】
薄膜形成用材料蒸発系列7は図3に示すように、材料が実際に蒸発する場所である蒸発室411、蒸発装置内の材料表面を平坦化する振動機構451、薄膜形成用材料を蒸発室に供給する薄膜形成用材料供給部(421から704に至る経路)、材料供給フィーダーを備える薄膜形成用材料タンク421、キャリアーガス流量を制御するマスフローコントローラー431、432、キャリアーガスを所定温度まで加熱する熱交換器441、および各部を仕切るバルブ701、702、703、704、705、706、707よりなる。
【0068】
蒸発室411は、キャリアーガス供給部(707から411に至る経路)薄膜形成用材料供給配管(704を含む配管)、蒸気含有ガス排出部(411から701に至る経路)と接続されており、少なくとも蒸発室411を、好ましくは薄膜形成用材料供給配管704を、振動させ内部の材料表面を平坦化する振動機構451を付帯する。加熱キャリアーガス供給配管(703を含む配管)と薄膜形成用材料供給配管を通じて加熱されたキャリアーガスと薄膜形成用材料が蒸発室411内部に供給され、ここで薄膜形成用材料の蒸気を含む蒸気含有ガスが生成する。
【0069】
蒸気含有ガス排出部の経路に配されたバルブ701は、蒸発室411内の圧力コントロールにより、材料蒸発効率を向上するため、開度調整が可能である方が好ましい。
【0070】
また、振動機構451には、超音波振動子等が用いられる。振動機構451は蒸発室411に直接接続する必要はなく、蒸発室411を振動させて内部の材料表面を平坦化できればよいので、例えば蒸発装置に接続する配管に付帯してもよい。また、本発明においては、供給する材料粉体の個数平均質量に応じた振動を供給することを要し、即ち、一般に考えられる比重0.2〜2g/ccの材料の紛体であれば、個数平均粒径0.1〜1000μmの紛体を供給し20kHz以上200kHz以下の周波数とすることが好ましく、より好ましくは個数平均粒径1〜100μmの紛体を供給し25kHz以上50kHz以下とすることであり、さらに好ましくは、27kHz以上40kHz以下とすることである。供給する粉体材料の種類に応じて最適な状態とするために、周波数可変の振動機構とすることが好ましい。
【0071】
さらに、蒸発室411を加熱するヒーターは、蒸発室411の上部、側面、底面を別々に温度調整可能な構造であるジャケットヒーター等が用いられる。
【0072】
薄膜形成用材料タンク421は、薄膜形成用材料を密閉貯蔵するホッパー部と材料を定量移送するフィーダー部よりなる。フィーダー部から蒸発室411に薄膜形成用材料を供給する方法は、落下式または風送式により実施されるが、落下式の場合でも材料供給中に材料またはキャリアーガスが逆流することを防止するため、少なくとも一定量のキャリアーガスをマスフローコントローラー431で流量制御し、材料と共に蒸発室411に供給する方法が好ましい。また、ホッパー部内の材料を脱気するため、ホッパーに直接接続する配管および仕切りバルブが設置されていてもよい。
【0073】
加熱キャリアーガス流送部5は、マスフローコントローラー435、熱交換器443、各部との仕切りバルブ501、502よりなる。マスフローコントローラー435および熱交換器443でキャリアーガスを所定流量および温度に制御し、ガス混合部3に流送する構造である。
【0074】
キャリアーガス導入部6は、蒸発装置4および加熱キャリアーガス流送部5にキャリアーガスを供給する。キャリアーガスはフィルター等で異物除去して流送する構造であることが好ましい。さらに、例えばマスフローメーター611を介してキャリアーガスを流送する構造であると、薄膜形成用材料蒸発部4や加熱キャリアーガス流送部5の各マスフローコントローラーに流量異常が発生した場合、早期発見できるので好ましい。
【0075】
以下、本発明の蒸着装置を用いた、第1実施形態の成膜方法の具体例を説明する。
【0076】
まず、薄膜形成用材料タンク421に薄膜形成用材料を適量充填し密閉する。次に、真空排気ポンプ22を用いて真空室21内を真空排気する。さらに、キャリアーガス導入部6から真空室に至る全プロセス内を真空排気すると共に、材料脱気を実施する。真空排気は、ターボ分子ポンプやクライオポンプを用いて高真空排気を実施し、有機ELデバイスの特性低下に繋がる残留水分等を極力除去することが好ましい。
【0077】
次に各部に設置したヒーターで各部を所定温度に昇温する。設定温度は、装置の運用方法や特徴に合わせて適宜設定すればよいが、薄膜形成用材料の沸点を下回らない範囲で、なるべく低い温度に設定すると、蒸発材料の固着および材料劣化防止の観点から好ましい。
【0078】
次に、薄膜形成用材料タンク421より蒸発室411に薄膜形成用材料を供給し、振動機構451を用いて材料表面を平坦化する。本実施形態では、少なくとも基材処理毎に薄膜形成用材料の供給が可能であるので少量供給すれば良い。材料供給中は蒸発装置411に至る配管やバルブに材料が溶着することを防止するため、マスフローコントローラー431で少流量に制御したキャリアーガスと共に薄膜形成用材料を供給する方法が好ましい。
【0079】
次に、ゲートバルブ213を介して真空室21に基材9を投入し基材保持機構211に載置する。また、基材保持機構211内に冷媒を流通させ(215)基板冷却を実施する。冷媒には例えばエチレングリコール等が用いられる。
【0080】
次に、薄膜形成用材料蒸発系列7のマスフローコントローラー432および熱交換器441で、キャリアーガスを所定流量および温度に制御して蒸発室411に供給する。その場合、キャリアーガスの流量、温度、蒸発装置内でキャリアーガスと接触する材料表面積、蒸発装置内圧力、および蒸発装置温度によって材料蒸発速度を決定することができる。
【0081】
蒸発装置内部の圧力は、例えば仕切りバルブ701の開度を調整し、10000Pa程度に調整することで、能率的に材料蒸発を実施することができる。
【0082】
また、蒸発室411のヒーター温度は薄膜形成用材料の沸点より低く、かつ側面温度を底面温度より5〜10℃高く調整することで、蒸発室411内材料の表面中心部から端部まで均一な速度で蒸発させることが可能となり、蒸発による残材料の表面形状変化を抑制できるので好ましい。
【0083】
また、加熱キャリアーガス流送部5より、マスフローコントローラー435および熱交換器443で、キャリアーガスを所定流量および温度に制御してガス混合部3に流送する。
【0084】
ガス混合部3で、蒸発装置4および加熱キャリアーガス流送部5より流送される蒸発材料とキャリアーガスを混合して真空室21内の蒸着ヘッド212を通じ、基材9に成膜される。
【0085】
特に、基材9への着膜量を精密にコントロールする場合には、最初は蒸気含有ガスを薄膜形成用材料回収機構214に流送し、材料供給蒸発速度安定後に蒸着ヘッドへ流送して一定時間成膜し、蒸着終了後は同回収機構に流送する方法が好ましい。
【0086】
成膜終了後は、キャリアーガスの流送を停止し、適宜バルブを閉めるとよい。蒸発装置内の材料は、消費量に合わせて逐次、前述した方法で補給できる。
【0087】
例えば、2種類の薄膜形成用材料を用いて2層を積層する場合や共蒸着を実施する場合には、薄膜形成用材料蒸発系列7、8でそれぞれの薄膜形成用材料を使用し、前述した蒸着方法を用いて実施するとよい。このように、適当な数の薄膜形成用材料蒸発系列を設置すれば、複数の材料を用いて、多層積層や多材料での共蒸着を実施することが可能であり、例えば図5の機能層130を構成する各層も、本発明の蒸着装置1台で全て成膜できる。
【0088】
さらに、本発明の蒸着装置を用いた、第2実施形態の具体例を説明する。本発明の蒸着装置を用いれば、ここで説明するフラッシュ蒸着を実施することも可能である。
【0089】
この場合も、第1実施形態と同様に、キャリアーガス導入部6から真空室21に至る全プロセス内を真空排気すると共に、材料脱気を実施する。また、各部を所定温度に加熱、制御する。さらにまた、真空室21に基材9を投入し、基材保持機構211が付帯する冷却機構(215)を用いて基板冷却を実施する。
【0090】
次に、薄膜形成用材料蒸発系列7のマスフローコントローラー432および熱交換器441で、キャリアーガスを所定流量および温度に制御して蒸発室411に導入する。次に、薄膜形成用材料タンク421より薄膜形成用材料を蒸発室411に所定の供給速度で供給する。また、加熱ガスが蒸発室411から薄膜形成用材料タンク421に向かって逆流することを防止するため、マスフローコントローラー431で制御した少量のキャリアーガスと共に材料供給を実施する。
【0091】
この場合、キャリアーガスの流量、温度、材料供給速度、および蒸発装置温度によって材料蒸発速度を決定することができる。本第2実施形態では、供給した薄膜形成用材料を速やかに全量蒸発させることが可能な諸条件とすることで、材料蒸発速度を材料供給速度で定量化することが可能であり好ましい。このため、各加熱部の温度やキャリアーガスの流量、温度は、第1実施形態と別に設定することが好ましい。
【0092】
その後の成膜過程は第1実施形態と同様である。成膜終了後は、薄膜形成用材料およびキャリアーガスの供給を停止し、適宜バルブを閉めるとよい。
【0093】
本第2実施形態においても、第1実施形態と同様に、適当な数の薄膜形成用材料蒸発系列を設置することで、複数層の積層および共蒸着を実施することが可能である。
【0094】
また、図4に示すような2以上の薄膜形成用材料を個別に蒸発室413に供給することが可能である薄膜形成用材料蒸発系列を用いれば、複数の薄膜形成用材料を順次または同時に蒸発させることが可能であり、例えば1つの薄膜形成用材料蒸発系列のみで、複数層の積層および共蒸着を実施することができる。
【0095】
また、複数の薄膜形成用材料蒸発系列を用いる場合には、それぞれ第1実施形態と第2実施形態の内有利な方法を選択して、複数層の積層および共蒸着を実施することが可能である。
【符号の説明】
【0096】
1 蒸着装置
2 真空室および排気部系統
3 ガス混合部
4 蒸発装置
5 加熱キャリアーガス流送部
6 キャリアーガス導入部
7、8 薄膜形成用材料蒸発系統
9 基材
100 有機EL装置
110 ガラス基板
120 透明電極層
130 機能層
140 裏面電極層
150 封止部
21 真空室
22 真空排気ポンプ
201 排気バルブ
211 基材保持機構
212 蒸着ヘッド
213 ゲートバルブ
214 薄膜形成用材料回収機構
215 冷媒流通部
311 ガスミキサー
400、401 薄膜形成用材料
411、412、413 蒸発室
421、422、423 薄膜形成用材料タンク
431、432、433、434、435、436 マスフローコントローラー
441、442、443 熱交換器
611 マスフローメーター
図1
図2
図3
図4
図5