(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した特許文献1の構成では、潤滑油ががんぎ歯車部の摺動面以外の部分にも流れてしまうおそれがあり、がんぎ歯車部の摺動面上での保油性能を確保する点で未だ改善の余地があった。
【0006】
これに対して、がんぎ歯車部の全体に潤滑油を塗布することも考えられるが、この場合には、潤滑油の塗布領域にごみ等の汚れが付着し易くなるという問題がある。
また、がんぎ歯車部の摺動面上での保油性能を向上させるために、摺動面上にフッ素等による保油処理を行う構成も考えられる。しかしながら、この場合にはがんぎ歯車部の摺動面とアンクルの爪石との摺動により、負荷が増加するため、アンクルからてんぷへの伝達エネルギーが減少して、てんぷの振り角が低下するおそれがある。
【0007】
そこで本発明は、がんぎ歯車部の摺動面上での保油性能を向上させるとともに、汚れの付着を抑制できるがんぎ車、ムーブメント、及び時計の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するために以下の手段を提供する。
(1)本発明に係るがんぎ車は、アンクルに噛み合うがんぎ歯車部と、前記がんぎ歯車部の構成材料よりも表面エネルギーの小さい材料からなり、前記がんぎ歯車部を覆う撥油膜と、前記がんぎ歯車部のうち、少なくとも前記アンクルとの摺動面を前記撥油膜から露出させる第1露出部と、を備えていることを特徴としている。
【0009】
この構成によれば、摺動面を撥油膜から露出させることで、摺動面上での油の保油性能を向上させることができる。これにより、がんぎ歯車部の摺動面とアンクルとの間の潤滑性能を向上させ、歯部の摺動面とアンクルとの間の摩耗を低減できる。
また、がんぎ歯車部のうち、摺動面以外の部分に撥油膜が形成されているため、摺動面上に保持された油が摺動面以外の余計な部分に流れていくのを抑制し、汚れの付着を抑制できる。
さらに、従来のように油を保持させる領域(例えば、がんぎ歯車部の摺動面)に保油処理を行う構成と異なり、摺動面とアンクルとの間で負荷が増大するのを抑制できる。これにより、てんぷの振り角が低下するのを抑制し、安定した歩度特性を得ることができる。
その結果、メンテナンス性の向上を図り、長期に亘って動作信頼性を確保できる。
【0010】
(2)本発明に係るがんぎ車では、前記がんぎ歯車部は、前記がんぎ歯車部の厚さ方向に窪むとともに、油を保持する保油部を備え、前記保油部には、前記保油部を前記撥油膜から露出させるとともに、前記保油部と前記摺動面との間で油を流通させる第2露出部が配設されていてもよい。
この構成によれば、保油部に油を保持させることで、保油量を向上させることができる。しかも、保油部(第2露出部)と摺動面(第1露出部)との間でスムーズに油を流通させることができるため、メンテナンス性の向上を図り、長期に亘って動作信頼性を確保できる。
【0011】
(3)本発明に係るがんぎ車では、前記第2露出部は、油の流通方向における上流側から下流側に向かうに従い幅が縮小していてもよい。
この構成によれば、第2露出部上の油は、毛細管現象等により幅が縮小する方向に向けて流通することになる。これにより、第2露出部に保持された油をがんぎ歯車部の摺動面と保油部との間でスムーズに流通させることができる。
【0012】
(4)本発明に係るがんぎ車では、前記がんぎ歯車部は、回転方向の手前側に位置するとともに、リービングコーナを間に挟んで前記摺動面に連なる背面を備え、前記背面には、前記背面を前記撥油膜から露出させるとともに、前記保油部に向けて油を流通させる第3露出部が配設されていてもよい。
この構成によれば、リービングコーナや背面に存在する油が、第3露出部を通って保油部に向けて流通することになる。これにより、保油部と摺動面との間で油を循環させることができるので、潤滑性能を確保した上で、メンテナンス性を向上させることができる。
【0013】
(5)本発明に係るムーブメントは、上記本発明のがんぎ車を備えていることを特徴としている。
この構成によれば、上述したがんぎ車を備えているため、メンテナンス性の向上を図り、長期に亘って動作信頼性を確保できる。
【0014】
(6)本発明に係る時計は、上記本発明のムーブメントを備えたことを特徴としている。
この構成によれば、上記本発明のムーブメントを備えているため、メンテナンス性の向上を図り、長期に亘って動作信頼性を確保できる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、がんぎ歯車部の摺動面上での保油性能を向上させるとともに、汚れの付着を抑制できる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
<第1実施形態>
[機械式時計]
はじめに、機械式時計1について説明する。
図1は、ムーブメント表側の平面図である。
図1に示すように、本実施形態の機械式時計1は、ムーブメント10と、このムーブメント10を収納する図示しないケーシングと、により構成されている。
【0018】
ムーブメント10は、基板を構成する地板11を有している。この地板11の裏側には図示しない文字板が配されている。なお、ムーブメント10の表側に組み込まれる輪列を表輪列と称し、ムーブメント10の裏側に組み込まれる輪列を裏輪列と称する。
地板11には、巻真案内穴11aが形成されており、ここに巻真12が回転自在に組み込まれている。この巻真12は、おしどり13、かんぬき14、かんぬきばね15及び裏押さえ16を有する切換装置により、軸方向の位置が決められている。また、巻真12の案内軸部には、きち車17が回転自在に設けられている。
【0019】
このような構成のもと、巻真12が、回転軸方向に沿ってムーブメント10の内側に一番近い方の第1の巻真位置(0段目)にある状態で巻真12を回転させると、図示しないつづみ車の回転を介してきち車17が回転する。そして、このきち車17が回転することにより、これと噛合う丸穴車20が回転する。そして、この丸穴車20が回転することにより、これと噛合う角穴車21が回転する。さらに、この角穴車21が回転することにより、香箱車22に収容された図示しないぜんまい(動力源)を巻き上げる。
【0020】
ムーブメント10の表輪列は、上述した香箱車22の他に、二番車25、三番車26及び四番車27により構成されており、香箱車22の回転力を伝達する機能を果している。また、ムーブメント10の表側には、表輪列の回転を制御するための脱進機構30及び調速機構31が配置されている。
【0021】
二番車25は、香箱車22に噛合う歯車とされている。三番車26は、二番車25に噛合う歯車とされている。四番車27は、三番車26に噛合う歯車とされている。
脱進機構30は、上述した表輪列の回転を制御する機構であって、四番車27と噛み合うがんぎ車35と、このがんぎ車35を脱進させて規則正しく回転させるアンクル36と、を備えている。
調速機構31は、上述した脱進機構30を調速する機構であって、てんぷ40を具備している。
【0022】
(脱進機構)
次に、上述した脱進機構30について、より詳細に説明する。
図2は脱進機構30の平面図である。
図2に示すように、脱進機構30のがんぎ車35は、がんぎ歯車部101と、がんぎ歯車部101に同軸で固定された軸部材102と、を備えている。以下の説明では、軸部材102の軸線に沿う方向を単に軸方向、軸線に直交する方向を径方向といい、軸線回りに周回する方向を周方向という。また、
図2では、がんぎ車35の回転方向をCWで示している。
【0023】
がんぎ歯車部101は、環状のリム部111と、リム部111の内側に配置されたハブ部112と、これらリム部111及びハブ部112を連結する複数のスポーク部113と、を有している。
【0024】
ハブ部112は、円板形状のものであり、その中央部分に軸部材102が圧入等により固定されている。
各スポーク部113は、ハブ部112の外周縁からリム部111の内周縁に向かって放射状に延在している。
【0025】
図3はがんぎ歯車部101の拡大斜視図である。また、
図4は歯部114の拡大図であって、(a)は周方向の一方側から歯部114を見た斜視図、(b)は周方向の他方側から歯部114を見た斜視図である。
図3、
図4に示すように、リム部111の外周面には、特殊な鉤型状に形成された複数の歯部114が径方向の外側に向けて突設されている。これら複数の歯部114の先端部に、後述するアンクル36の爪石144a,144b(
図2参照)が噛み合うようになっている。
【0026】
具体的に、
図4に示すように、歯部114における先端部の側面は、がんぎ車35の回転方向CWにおける奥側に位置して、爪石144a,144bが当接する停止面115aと、回転方向CWにおける手前側に位置する背面115bと、歯部114の先端面を構成するとともに、停止面115aと背面115bとを接続する衝撃面115cと、を有している。また、停止面115aと衝撃面115cとにより構成される角部は、ロッキングコーナ115dとして機能し、背面115bと衝撃面115cとにより構成される角部は、リービングコーナ115eとして機能している。なお、歯部114のうち、停止面115aからロッキングコーナ115dを経てリービングコーナ115eに至る範囲が本実施形態の摺動面115を構成している。
【0027】
歯部114の先端部には、軸方向における一方の主面側に、潤滑油(油)Oを保油する段差部(保油部)116が形成されている。段差部116は、歯部114の先端部において、一方の主面側が軸方向に向けて窪んで形成されており、周方向の両側及び径方向の外側に向けて開放されている。すなわち、段差部116は、歯部114の一方の主面上に位置する底部116aと、歯部114の基端部と先端部との間で軸方向に立ち上がる立ち上がり部116bと、により画成されている。
【0028】
ここで、歯部114の外周面には、がんぎ歯車部101の構成材料(例えば、金属材料やシリコン等)よりも表面エネルギーの小さい材料(例えば、フッ素等)からなる撥油膜120が形成されている。具体的に、撥油膜120は、歯部114の外周面のうち、段差部116の内面(底部116a及び立ち上がり部116b)、及び摺動面115(停止面115aから衝撃面115cに至る部分)以外の部分に形成されている。すなわち、歯部114の外周面のうち、摺動面115は、撥油膜120から露出した第1露出部118を構成し、段差部116の内面は撥油膜120から露出した第2露出部119を構成している。なお、露出部118,119は、歯部114の外周面全体に撥油膜120を形成した後、露出部118,119の形成領域に形成された撥油膜120をドライエッチングやプラズマクリーニング等により除去することで形成することができる。
【0029】
図2に示すように、軸部材102は、軸方向両端部に位置するほぞ部123と、上述した四番車27の歯車部に噛合されるがんぎかな部124と、を有している。
ほぞ部123のうち、軸方向の一端側に位置するほぞ部123は、図示しない輪列受に回転可能に支持され、軸方向の他端側に位置するほぞ部123は、上述した地板11に回転可能に支持されている。
【0030】
がんぎかな部122は、軸部材102において、がんぎ歯車部101に対して軸方向の他端側に形成されている。そして、がんぎかな部122が四番車27に噛合されることで、四番車27の回転力が軸部材102に伝達されがんぎ車35が回転するようになっている。
【0031】
アンクル36は、3つのアンクルビーム143によってT字状に形成されたアンクル体142dと、アンクル真142fと、を備えたもので、軸であるアンクル真142fによってアンクル体142dが回動可能に構成されている。なお、アンクル真142fは、その両端が上述した地板11及び図示しないアンクル受に対してそれぞれ回動可能(P1,P2方向)に支持されている。なお、アンクル36は、図示しないドテピンにより回動範囲が規制されている。
【0032】
3つのアンクルビーム143のうち2つのアンクルビーム143の先端には、爪石(入爪石144a及び出爪石144b)が設けられ、残り1つのアンクルビーム143の先端には、てんぷ40の振り座(不図示)と係脱可能なアンクルハコ145が取り付けられている。爪石(入爪石144a及び出爪石144b)は、角柱状に形成されたルビーであり、接着剤等によりアンクルビーム143に接着固定されている。
【0033】
図5は、
図2のY部の拡大図である。なお、以下の説明では、爪石144a,144bのうち、出爪石144bの先端部の構成について説明し、入爪石144aの先端部の構成は出爪石144bの先端部の構成と同様の構成であるため、説明を省略する。
図5に示すように、出爪石144bの先端部は、がんぎ歯車部101の回転方向CWにおける手前側に位置して歯部114の停止面115aに当接する停止面146aと、回転方向CWの奥側に位置する背面146bと、出爪石144bの先端面を構成するとともに、停止面146aと背面146bとを接続する衝撃面146cと、を有している。また、停止面146aと衝撃面146cとにより構成される角部は、ロッキングコーナ146dとして機能し、背面146bと衝撃面146cとにより構成される角部は、リービングコーナ146eとして機能している。なお、出爪石144bのうち、停止面146aからロッキングコーナ146dを経てリービングコーナ146eに至る範囲が本実施形態の摺動面146を構成している。
【0034】
次に、脱進機構30の動作について簡単に説明する。
図6〜
図8は、脱進機構30の動作説明図であって、
図2のY部の拡大図である。以下の説明では、
図5に示すがんぎ歯車部101の歯部114と、アンクル36の出爪石144bと、が係合している係合状態から、
図8(b)に示す歯部114と出爪石144bとが離脱した離脱状態に移行する場合について主に説明する。なお、係合状態においては、歯部114のロッキングコーナ115dが、爪石144bの停止面146aに当接している。
【0035】
図5に示すように、てんぷ40(
図1参照)の自由振動に伴い、アンクル36がP1方向に向けて回動すると、出爪石144bが歯部114から離反する方向に移動する。一方、がんぎ車35は、上述した香箱車22の回転力が四番車27(ともに
図1参照)を介して付与されているため、出爪石144bの移動に伴い、回転方向CWに向けて回転する。
【0036】
このとき、
図5、
図6(a)に示すように、歯部114のロッキングコーナ115dは、出爪石144bの停止面146a上を出爪石144bのロッキングコーナ146d側に向けて摺動した後、出爪石144bのロッキングコーナ146dに到達する。その後、
図6(b)に示すように、歯部114のロッキングコーナ115dは、出爪石144bのロッキングコーナ146dを通過して、出爪石144bの衝撃面146c上をリービングコーナ146e側に向けて摺動する。
【0037】
続いて、
図7(a)に示すように、歯部114のロッキングコーナ115dが、出爪石144bのリービングコーナ146eを通過すると、
図7(b)に示すように、今度は出爪石144bのリービングコーナ146eが、歯部114の衝撃面115c上を歯部114のリービングコーナ146e側に向けて摺動する。その後、
図8(a)に示すように、爪石144のリービングコーナ146eが歯部114のリービングコーナ115eを通過することで、
図8(b)に示すような離脱状態となる。
【0038】
なお、
図2に示すように、アンクル36がP1方向(出爪石144bが歯部114から離間する方向)に回動すると、入爪石144aが歯部114に接近する。これにより、入爪石144aと歯部114とが係合状態となり、がんぎ車35の回転が再び停止される。
その後、てんぷ40の自由振動により、アンクル36がP1方向とは反対側のP2方向に向けて回動すると、上述した動作と同様の動作によって、歯部114と入爪石144aとが係合状態から離脱状態に移行する。このように、脱進機構30は、がんぎ車35の歯部114と、入爪石144a及び出爪石144bと、の係合状態及び離脱状態が交互に繰り返されるようになっている。
【0039】
ここで、
図5〜
図8に示すように、上述した係合状態から離脱状態に移行する過程において、歯部114の摺動面115と、爪石144a,144bの摺動面146と、は潤滑油Oを介して摺動することになる。すなわち、段差部116内(第2露出部119上)に保持された潤滑油Oは、毛細管現象等により底部116aに濡れ広がり、歯部114の摺動面115上(第1露出部118上)に供給されることになる。これにより、歯部114の摺動面115と、出爪石144bの摺動面146と、をスムーズに摺接させることができる。
【0040】
このように、本実施形態のがんぎ車35では、がんぎ歯車部101の構成材料よりも表面エネルギーの小さい材料からなり、がんぎ歯車部101の歯部114を覆う撥油膜120と、歯部114の摺動面115を撥油膜120から露出させる第1露出部118と、を備える構成とした。
この構成によれば、摺動面115を撥油膜120の第1露出部118とすることで、摺動面115上での潤滑油Oの保油性能を向上させることができる。これにより、がんぎ車35の歯部114と、アンクル36の爪石144a,144bと、の間の潤滑性能を向上させ、歯部114と爪石144a,144bとの間の摩耗を低減できる。
また、歯部114のうち、摺動面115及び段差部116の内面以外の部分には、撥油膜120が形成されているため、摺動面115及び段差部116の内面に保持された潤滑油Oが摺動面115以外の余計な部分に流れていくのを抑制し、汚れの付着を抑制できる。
さらに、従来のように潤滑油Oを保持させる領域(例えば、摺動面)に保油処理を行う構成と異なり、摺動面115と爪石144a,144bとの間で負荷が増大するのを抑制できる。これにより、てんぷ40の振り角が低下するのを抑制し、安定した歩度特性を得ることができる。
【0041】
また、本実施形態では、脱進機構30のうち、がんぎ車35の各歯部114に段差部116が設けられているため、アンクル36の爪石144a,144bに保油構造を設ける場合に比べて潤滑油Oの保油量を向上させることができる。
そして、本実施形態では、段差部116の内面に第2露出部119を形成したため、段差部116内での保油性能を確実に向上させることができる。しかも、段差部116(第2露出部119)と摺動面115(第1露出部118)との間でスムーズに油を流通させることができるため、メンテナンス性の向上を図り、長期に亘って動作信頼性を確保できる。
【0042】
そして、本実施形態の時計1、及びムーブメント10によれば、上述したがんぎ車35を備えているため、メンテナンス性の向上を図り、長期に亘って動作信頼性を確保できる。
【0043】
(変形例)
次に、第1実施形態の変形例について説明する。なお、以下の説明では、上述した第1実施形態と同様の構成については同一の符号を付して説明を省略する。
図9は、変形例における歯部114の拡大図であって、(a)は周方向の一方側から歯部114を見た斜視図、(b)は周方向の他方側から歯部114を見た斜視図である。
上述した実施形態では、段差部116の内面全体に第2露出部119を形成した場合について説明したが、少なくとも衝撃面115c上に第1露出部118が形成されていれば、撥油膜120の形成範囲については適宜設計変更が可能である。例えば、
図9に示すように、歯部114のうち、軸方向の一方側を撥油膜220により覆う構成としても構わない。
【0044】
具体的に、
図9に示す撥油膜220は、歯部114における摺動面115及び段差部116以外の部分を覆う基部221と、基部221に連なるとともに停止面115aにおける軸方向の一方側を被覆する第1被覆部222と、基部221及び第1被覆部222に連なるとともに、立ち上がり部116bにおける軸方向の一方側を被覆する第2被覆部223と、を有している。
この場合、摺動面115のうち、停止面115aにおける軸方向の他方側に位置する部分、及び衝撃面115cが第1露出部118を構成し、段差部116のうち、立ち上がり部116bにおける軸方向の他方側、及び底部116aが第2露出部119を構成している。
【0045】
この構成によれば、歯部114の一部(軸方向の他方側)に潤滑油Oを集中して保持させることができるため、例えば潤滑油Oの蒸発を抑制して、長期に亘って動作信頼性を確保できる。
【0046】
また、例えば
図10に示す撥油膜230のように、基部221に加え、底部116a上の一部を覆う被覆部231を形成しても構わない。
【0047】
さらに、上述した実施形態では、撥油膜を全体に亘って均一な厚さで形成した場合について説明したが、これに限られない。例えば、
図10に示す撥油膜230(被覆部231)のように、段差部116の底部116aのうち、背面115b側に向かうに従い厚くなるように撥油膜230を形成しても構わない。
【0048】
具体的に、被覆部231は、底部116aのうち、背面115b側に位置して基部221と同等の厚さで形成された第1エリアQ1と、第1エリアQ1よりも停止面115a側に位置して、第1エリアQ1の被覆部231よりも厚さが薄く形成された第2エリアQ2と、に区画されている。そして、底部116aのうち、第2エリアQ2よりも停止面115a側に位置する部分は、被覆部231から露出した第2露出部119を構成している。なお、第2エリアQ2の被覆部231の厚さは、第1エリアQ1の被覆部231の厚さに比べて半分程度であることが好ましい。
【0049】
この構成によれば、撥油膜230(被覆部231)の厚さを変更することで、撥油膜230の表面エネルギーを変化させることができるので、撥油性能の調整を行うことができる。
【0050】
<第2実施形態>
次に、本発明の第2実施形態について説明する。
図11は、第2実施形態における歯部114の拡大平面図である。
図11に示すように、本実施形態における撥油膜320は、上述した基部221と、段差部116の底部116aにおいて、径方向に沿って帯状に延在する複数の被覆部321と、を有している。各被覆部321は、周方向に間隔をあけてストライプ状に配設されている。そして、底部116a上において、被覆部321以外の部分は、径方向に沿って帯状に延在するとともに、周方向に間隔をあけて配設された第2露出部322を構成している。
【0051】
この場合、第2露出部322は、径方向の外側に向かうに従い、背面115b側に向かって傾斜しており、その径方向の外側端部は衝撃面115cまで延在している。図示の例において、露出部322のうち、背面115b側に位置する第2露出部322の径方向における内側端部は、段差部116における底部116aと立ち上がり部116bとの境界部分まで延在している。また、第2露出部322のうち、停止面115a側に位置する露出部322の径方向における内側端部は、停止面115aまで延在している。
【0052】
図8において、歯部114の摺動面115と、出爪石144bと、の間に介在する潤滑油Oは、歯部114と出爪石144bとが離脱状態になる際、主に摺動面115上(例えば衝撃面115c上)に残存する。摺動面115上に残存した潤滑油Oは、毛細管現象等により第2露出部322上を径方向の内側に向けて流通する。その後、潤滑油Oは、第2露出部322を経て段差部116や停止面115a上に供給されることになる。
これにより、摺動面115に残存する潤滑油Oをスムーズに回収することができるので、潤滑油Oが摺動面115以外の余計な箇所に付着するのを抑制するとともに、段差部116内の潤滑油Oの減少速度を低下させることができる。その結果、メンテナンス性を向上させることができる。
【0053】
なお、上述した実施形態では、撥油膜320(第2露出部322)の幅を延在方向における全体に亘って均一の幅で形成した場合について説明したが、これに限られない。例えば、
図12に示すように、第2露出部322が、径方向の内側に向かうに従い幅が漸次縮小するテーパ状となるように撥油膜320(被覆部321)を形成しても構わない。この場合、第2露出部322上の潤滑油Oは、毛細管現象等によって第2露出部322上を幅が縮小する方向(径方向の外側から内側)に向けて流通することになる。これにより、第2露出部322に保持された潤滑油Oを衝撃面115cからスムーズに回収することができる。
【0054】
また、上述した実施形態では、衝撃面115c上の潤滑油Oを段差部116や停止面115a上に向けて回収する構成について説明したが、これに限られない。例えば、段差部116内の潤滑油Oを摺動面115に向けて供給されるように第2露出部322を形成しても構わない。この場合、第2露出部322は、潤滑油Oの流通方向における上流側から下流側に向かうに従い幅が縮小していれば構わない。
【0055】
<第3実施形態>
次に、本発明の第3実施形態について説明する。
図13は、第3実施形態における歯部114の拡大斜視図である。
図13に示すように、歯部114の背面115bには、径方向の内側に向かうに従い軸方向の幅が漸次狭くなる第3露出部350が形成されている。この第3露出部350は、径方向の外側端部が衝撃面115cに連なり、軸方向の一方側が段差部116の底部116aに連なっている。
この構成によれば、リービングコーナ115e側まで到達した潤滑油Oは、背面115bの第3露出部350を通って段差部116内に向けて流通することになる。これにより、段差部116と摺動面115との間で潤滑油Oを循環させることができるので、潤滑性能を確保した上で、メンテナンス性を向上させることができる。
【0056】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
例えば、上述した各実施形態及び変形例では、保油部として、段差部116を設ける構成について説明したが、これに限られない。例えば、
図14に示すように、歯部114を、先端部に向かうに従い厚さが漸次薄くなるテーパ状に形成し、そのテーパ部分360を厚さ方向に窪んだ保油部として機能させても構わない。なお、
図15に示すように、保油部を設けない構成としても構わない。
【0057】
さらに、撥油膜や露出部の形成パターンについては適宜設計変更が可能であり、これにより衝撃面115cと保油部との間での潤滑油Oの流通をスムーズに行わせることができる。
また、上述した実施形態では、撥油膜としてフッ素等を用いる構成について説明したが、これに限らず、種々の方法を採用することが可能である。例えば、エピラム処理等を行っても構わない。
【0058】
その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上述した実施形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、上述した各実施形態や変形例を適宜組み合わせてもよい。