特許第6282931号(P6282931)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6282931
(24)【登録日】2018年2月2日
(45)【発行日】2018年2月21日
(54)【発明の名称】ミキシング構造
(51)【国際特許分類】
   F01N 3/24 20060101AFI20180208BHJP
   F01N 3/08 20060101ALI20180208BHJP
【FI】
   F01N3/24 N
   F01N3/08 B
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-104195(P2014-104195)
(22)【出願日】2014年5月20日
(65)【公開番号】特開2015-218687(P2015-218687A)
(43)【公開日】2015年12月7日
【審査請求日】2017年4月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005463
【氏名又は名称】日野自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000512
【氏名又は名称】特許業務法人山田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】頓宮 浩史
(72)【発明者】
【氏名】鶴田 智之
【審査官】 菅家 裕輔
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2008/111254(WO,A1)
【文献】 特開2013−002337(JP,A)
【文献】 特開2013−024075(JP,A)
【文献】 特開2012−072771(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0212292(US,A1)
【文献】 独国特許出願公開第102007051510(DE,A1)
【文献】 国際公開第2014/025538(WO,A1)
【文献】 欧州特許出願公開第02546488(EP,A1)
【文献】 特開2009−068460(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01N 3/08 − 3/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多数の流路を軸心方向に開通した格子盤を排気系の途中に介装し、その上流側に添加した添加剤を前記格子盤の流路壁に衝突させて気化を促しつつ分散せしめるミキシング構造であって、排気系の途中の排気ガスが曲折して流れる流れ変更部に、該流れ変更部の上流側から向かってくる排気ガスの流入方向と、前記流れ変更部の下流側へ抜け出る排気ガスの流出方向とが成す角度を略二等分するように前記格子盤を傾斜配置し、該格子盤の各流路の出側に排気ガスの流れを流れ変更部からの流出方向へ案内するフィンを設け、前記格子盤の入側に対し前記排気ガスの流出方向に向け添加剤を噴射し得るようにインジェクタを配置し、前記流れ変更部の上流側から向かってくる排気ガスが衝突する前記格子盤の流路壁の裏側に、前記インジェクタからの添加剤の噴霧が衝突するように構成したことを特徴とするミキシング構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排気系の途中に添加剤を添加して気化を促しながら排気ガス中に分散させるミキシング構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、ディーゼルエンジンにおいては、排気ガスが流通する排気管の途中に、酸素共存下でも選択的にNOx(窒素酸化物)を還元剤と反応させる性質を備えた選択還元型触媒を装備し、該選択還元型触媒の上流側に必要量の還元剤を添加して該還元剤を選択還元型触媒上で排気ガス中のNOxと還元反応させ、これによりNOxの排出濃度を低減し得るようにしたものがある。
【0003】
他方、プラント等における工業的な排煙脱硝処理の分野では、還元剤にアンモニア(NH3)を用いてNOxを還元浄化する手法の有効性が既に広く知られているところであるが、自動車の場合には、アンモニアそのものを搭載して走行することに関し安全確保が難しいため、毒性のない尿素水を還元剤として使用することが提案されている。
【0004】
即ち、尿素水を選択還元型触媒の上流側で排気ガス中に添加すれば、該排気ガス中で尿素水が次式によりアンモニアと炭酸ガスに加水分解され、選択還元型触媒上で排気ガス中のNOxがアンモニアにより良好に還元浄化されることになる。
[化1]
(NH22CO+H2O→2NH3+CO2
【0005】
そして、選択還元型触媒の上流側で排気ガス中に尿素水を添加する従来技術として図4に示す如きものがあり、ここに図示している例においては、排気管1の外周部に上流側へ向け斜めに張り出す膨出部2を設け、該膨出部2の上流側にインジェクタ3を下流側に向け斜めに装着して排気管1内に臨ませ、このインジェクタ3を高温の排気ガス4の流れに直接的に晒さないように保護しながら尿素水5を添加するようにしている。
【0006】
また、前記インジェクタ3による尿素水5の添加位置より下流側の排気管1内には、前記インジェクタ3からの尿素水5の噴霧を衝突させて気化を促しつつ分散せしめる格子盤6が装備されており、図5に拡大して示す如く、前記格子盤6には、多数の流路6aが軸心方向に開通され且つ該各流路6aの出側に互い違いに逆向きのフィン6bが付設されていて、各流路6aを抜け出た排気ガス4の流れが交互に反対方向に振り分けられることで前記各フィン6bへの尿素水5の衝突と排気ガス4中への分散が促進されるようにしてある。
【0007】
尚、この種のミキシング構造に関連する先行技術文献情報としては下記の特許文献1等がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2013−217350号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、前述した如き従来のミキシング構造においては、格子盤6全体を排気ガス4の熱で効率良く高温化する観点から排気管1の直伸部を選んで該直伸部を塞ぐように略直角な向きで格子盤6を設置するのが一般的であったが、排気管1で直伸部となるような部位は限られているため、そのような直伸部がある位置で周辺機器や構造物との干渉を避けてインジェクタ3を配置することが難しい場合も多く、インジェクタ3及び格子盤6のレイアウトの自由度が低いという問題があった。
【0010】
また、従来のミキシング構造の場合、インジェクタ3から排気ガス4の流れの下流側に向け斜めに噴射された尿素水5の噴霧が直ぐに排気ガス4の流れに随伴され、該排気ガス4の流入方向と並行に延びる格子盤6の流路壁に接触しないまま通り抜け易かったため、尿素水5の気化効率の更なる向上が望まれていた。
【0011】
しかも、本来なら排気管1の直伸部は圧力損失の極めて少ない部位となるはずであるが、前記格子盤6の配置により圧力損失が増大してしまうという弊害もあり、特に図4及び図5に示す如き格子盤6の場合には、各流路6aの出側のフィン6bとの衝突と、その後の排気管1の内周面との衝突が連続して圧力損失が更に増えてしまっていた。
【0012】
本発明は上述の実情に鑑みてなしたもので、インジェクタ及び格子盤のレイアウトの自由度と尿素水等の添加剤の気化効率を高める一方、格子盤の配置に伴う圧力損失を抑制し得るミキシング構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、多数の流路を軸心方向に開通した格子盤を排気系の途中に介装し、その上流側に添加した添加剤を前記格子盤の流路壁に衝突させて気化を促しつつ分散せしめるミキシング構造であって、排気系の途中の排気ガスが曲折して流れる流れ変更部に、該流れ変更部の上流側から向かってくる排気ガスの流入方向と、前記流れ変更部の下流側へ抜け出る排気ガスの流出方向とが成す角度を略二等分するように前記格子盤を傾斜配置し、該格子盤の各流路の出側に排気ガスの流れを流れ変更部からの流出方向へ案内するフィンを設け、前記格子盤の入側に対し前記排気ガスの流出方向に向け添加剤を噴射し得るようにインジェクタを配置し、前記流れ変更部の上流側から向かってくる排気ガスが衝突する前記格子盤の流路壁の裏側に、前記インジェクタからの添加剤の噴霧が衝突するように構成したことを特徴とするものである。
【0014】
而して、このようにすれば、排気系の途中に多く存在している流れ変更部の中から最適な位置を選んで格子盤を配置することが可能となるので、該格子盤の上流側で添加剤を添加するインジェクタを配置するにあたり、該インジェクタと周辺機器や構造物との干渉を避け易くなり、インジェクタ及び格子盤のレイアウトの自由度が従来よりも高められることになる。
【0015】
更に、流れ変更部の上流側から向かってくる排気ガスが衝突する格子盤の流路壁の裏側に、インジェクタからの添加剤の噴霧を衝突させるようにしているので、該添加剤の噴霧が排気ガスの流れの影響を受け難くなって格子盤の流路壁に衝突し易くなり、しかも、その衝突した流路壁の表側には排気ガスが衝突して効果的な加熱が成されているので、前記添加剤の噴霧の気化が著しく促進されて気化効率が従来よりも高められることになる。
【0016】
また、本来なら排気ガスが曲折して流れることで圧力損失が増えるはずの流れ変更部に、排気ガスの流入方向と流出方向とが成す角度を略二等分するように格子盤を傾斜配置したことにより、該格子盤の各流路による整流効果で排気ガスの曲がり方向外側への偏流を是正することが可能となり、格子盤を配置しない場合よりも圧力損失を少なくすることが可能となる。
【0017】
また、本発明においては、格子盤の各流路の出側に排気ガスの流れを流れ変更部からの流出方向へ案内するフィンを設けること、前記格子盤の各流路を抜け出た排気ガスの流れをフィンにより流出方向へ案内することが可能となるので、前記格子盤の各流路による整流効果をより一層高めて更なる圧力損失の低減化を図ることが可能となる。
【発明の効果】
【0018】
上記した本発明のミキシング構造によれば、下記の如き種々の優れた効果を奏し得る。
【0019】
(I)本発明の請求項1に記載の発明によれば、インジェクタ及び格子盤のレイアウトの自由度を従来より大幅に高めることができると共に、尿素水等の添加剤の気化効率を従来より大幅に高めることもでき、更には、格子盤の配置に伴う圧力損失を著しく抑制することもできる。
【0020】
(II)本発明の請求項に記載の発明によれば、格子盤の各流路を抜け出た排気ガスの流れをフィンにより流出方向へ案内することができるので、前記格子盤の各流路による整流効果をより一層高めて更なる圧力損失の低減化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の第一形態例を示す断面図である。
図2図1の格子盤の流路の詳細を示す拡大図である。
図3】本発明の第二形態例を示す断面図である。
図4】従来のミキシング構造の一例を示す断面図である。
図5図4の格子盤の流路の詳細を示す拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下本発明の実施の形態を図面を参照しつつ説明する。
【0023】
図1は本発明の第一形態例を示すもので、ここに図示している例では、排気管1(排気系)の途中の屈曲部1A(排気ガス4が曲折して流れる流れ変更部)に、該屈曲部1Aの上流側から向かってくる排気ガス4の流入方向(図1中の矢印xを参照)と、前記屈曲部1Aの下流側へ抜け出る排気ガス4の流出方向(図1中の矢印yを参照)とが成す角度を略二等分するように前記格子盤7が傾斜配置されている。
【0024】
ここで、前記格子盤7には、該格子盤7の軸心方向に多数の流路7aが開通され且つ該各流路7aの出側に排気ガス4の流れを屈曲部1Aからの流出方向へ案内するフィン7bが付設されていて、前記屈曲部1Aを曲折して流れる排気ガス4に対し前記各流路7aと前記フィン7bとによる整流効果が与えられるようになっている。
【0025】
また、前記屈曲部1Aにおける該屈曲部1Aから下流側に向けて延びる排気管1に対し前記格子盤7を挟んで反対側となる位置に、該格子盤7の入側に対し前記排気ガス4の流出方向に向け尿素水5(添加剤)を噴射し得るようにインジェクタ3を膨出部8を介し配置し、図2に拡大して示す如く、前記屈曲部1Aの上流側から向かってくる排気ガス4が衝突する前記格子盤7の流路壁の裏側に、前記インジェクタ3からの尿素水5の噴霧が衝突するように構成してある。
【0026】
而して、このようにすれば、排気管1の途中に多く存在している屈曲部1Aの中から最適な位置を選んで格子盤7を配置することが可能となるので、該格子盤7の上流側で尿素水5を添加するインジェクタ3を配置するにあたり、該インジェクタ3と周辺機器や構造物との干渉を避け易くなり、インジェクタ3及び格子盤7のレイアウトの自由度が従来よりも高められることになる。
【0027】
更に、屈曲部1Aの上流側から向かってくる排気ガス4が衝突する格子盤7の流路壁の裏側に、インジェクタ3からの尿素水5の噴霧を衝突させるようにしているので、該尿素水5の噴霧が排気ガス4の流れの影響を受け難くなって格子盤7の流路壁に衝突し易くなり、しかも、その衝突した流路壁の表側には排気ガス4が衝突して効果的な加熱が成されているので、前記尿素水5の噴霧の気化が著しく促進されて気化効率が従来よりも高められることになる。
【0028】
また、本来なら排気ガス4が曲折して流れることで圧力損失が増えるはずの屈曲部1Aに、排気ガス4の流入方向と流出方向とが成す角度を略二等分するように格子盤7を傾斜配置したことにより、該格子盤7の各流路7aによる整流効果で排気ガス4の曲がり方向外側への偏流を是正することが可能となり、格子盤7を配置しない場合よりも圧力損失を少なくすることが可能となる。
【0029】
特に本形態例においては、前記各流路7aの出側にフィン7bが付設されていて、該フィン7bにより前記格子盤7の各流路7aを抜け出た排気ガス4の流れを流出方向へ案内するようにしているので、前記格子盤7の各流路7aによる整流効果をより一層高めて更なる圧力損失の低減化を図ることが可能である。
【0030】
従って、上記形態例によれば、インジェクタ3及び格子盤7のレイアウトの自由度を従来より大幅に高めることができると共に、尿素水5の気化効率を従来より大幅に高めることもでき、更には、各流路7aとフィン7bとによる整流効果で格子盤7の配置に伴う圧力損失を著しく抑制することもできる。
【0031】
また、図3は本発明の第二形態例を示すもので、パティキュレートフィルタや排気浄化触媒等の排気浄化材9を抱持しているケーシング10の出側で前記排気浄化材9の軸心方向に対し略直角な向きの排気管1へ排気ガス4を抜き出すようにした流れ変更部10Aに適用した例を示している。
【0032】
ここに図示している例では、前記流れ変更部10Aがケーシング10の出側で下流側の排気管1の軸心延長方向に延びるチャンバ状に形成されており、前記排気浄化材9を抜け出た排気ガス4が開口部11を介し流入して排気管1へと曲折して流れるようになっているので、前記開口部11から向かってくる排気ガス4の流入方向(図3中の矢印xを参照)と、下流側の排気管1へ抜け出る排気ガス4の流出方向(図3中の矢印yを参照)とが成す角度を略二等分するように格子盤7が傾斜配置されている。
【0033】
そして、前記流れ変更部10Aにおける下流側の排気管1に対し前記格子盤7を挟んで反対側となる位置に、該格子盤7の入側に対し前記排気ガス4の流出方向に向け尿素水5(添加剤)を噴射し得るようにインジェクタ3を配置し、前記開口部11から向かってくる排気ガス4が衝突する前記格子盤7の流路壁の裏側に、前記インジェクタ3からの尿素水5の噴霧が衝突するように構成してある(図2参照)。
【0034】
而して、このようにパティキュレートフィルタや排気浄化触媒等の排気浄化材9を抱持しているケーシング10の出側で排気ガス4が曲折して流れるようになっていて、インジェクタ3と周辺機器や構造物との干渉を避け易い条件が整っているようなケースでは、このような場所に本発明のミキシング構造を適用して前述の第一形態例と同様の作用効果を得ることができる。
【0035】
尚、本発明のミキシング構造は、上述の形態例にのみ限定されるものではなく、流れ変更部は必ずしも排気系途中の屈曲部に限定されないこと、添加剤は尿素水に限定されないこと、選択還元型触媒以外の触媒やパティキュレートフィルタとの組み合わせは任意であること、その他、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0036】
1 排気管(排気系)
1A 屈曲部(流れ変更部)
3 インジェクタ
4 排気ガス
5 尿素水(添加剤)
7 格子盤
7a 流路
7b フィン
10A 流れ変更部
図1
図2
図3
図4
図5