特許第6282972号(P6282972)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6282972
(24)【登録日】2018年2月2日
(45)【発行日】2018年2月21日
(54)【発明の名称】綿球及び綿棒の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61M 35/00 20060101AFI20180208BHJP
   D02G 3/44 20060101ALI20180208BHJP
   A45D 34/04 20060101ALI20180208BHJP
【FI】
   A61M35/00 X
   D02G3/44
   A45D34/04 510E
【請求項の数】10
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2014-249483(P2014-249483)
(22)【出願日】2014年12月10日
(65)【公開番号】特開2016-106967(P2016-106967A)
(43)【公開日】2016年6月20日
【審査請求日】2016年1月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000248428
【氏名又は名称】有限会社佐藤化成工業所
(74)【代理人】
【識別番号】100089026
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 高明
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 役男
【審査官】 久島 弘太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−047430(JP,A)
【文献】 特開昭61−089322(JP,A)
【文献】 特開2008−275576(JP,A)
【文献】 特開平10−250776(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 35/00
A45D 34/04
D02G 3/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
捲縮が形成されると共に所定の長さに切断形成されたポリエステル繊維に、カード処理を施すカード処理工程を経てスライバーを製作し、このスライバーを用いて綿球及び綿球を有する綿棒を製造する綿球及び綿棒の製造方法であって、
上記ポリエステル繊維の結晶化度が38%であることを特徴とする綿球及び綿棒の製造方法。
【請求項2】
上記ポリエステル繊維の結晶化度は、ポリエステル繊維に延伸を加えることによって、38%に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の綿球及び綿棒の製造方法。
【請求項3】
捲縮が形成されると共に所定の長さに切断形成されたポリエステル繊維に、所定時間に亘り結晶化が起きる温度で加熱処理を施す加熱処理工程と、
上記加熱処理工程が施された後にカード処理を施すカード処理工程と
を経てスライバーを製作し、このスライバーを用いて綿球及び綿球を有する綿棒を製造する綿球及び綿棒の製造方法であって、
上記ポリエステル繊維の結晶化度が38%であるとともに、上記スライバーを構成するポリエステル繊維の結晶化度は39%以上であることを特徴とする綿球及び綿棒の製造方法。
【請求項4】
捲縮が形成されると共に所定の長さに切断形成されたポリエステル繊維に、所定時間に亘り結晶化が起きる温度で加熱処理を施す加熱処理工程と、
上記加熱処理工程の後に静電気防止処理を施す静電気防止処理工程と、
上記静電気防止処理工程が施された後にカード処理を施すカード処理工程と
を経てスライバーを製作し、このスライバーを用いて綿球及び綿球を有する綿棒を製造する綿球及び綿棒の製造方法であって、
上記ポリエステル繊維の結晶化度が38%であるとともに、上記スライバーを構成するポリエステル繊維の結晶化度は39%以上であることを特徴とする綿球及び綿棒の製造方法。
【請求項5】
捲縮が形成されると共に所定の長さに切断形成されたポリエステル繊維と他の繊維との混紡繊維に、
所定時間に亘り結晶化が起きる温度で加熱処理を施す加熱処理工程と、
上記加熱処理工程の後に静電気防止処理を施す静電気防止処理工程と、
上記静電気防止処理工程が施された後にカード処理を施すカード処理工程と
を経てスライバーを製作し、このスライバーを用いて綿球及び綿球を有する綿棒を製造する綿球及び綿棒の製造方法であって、
上記ポリエステル繊維の結晶化度は38%であるとともに、上記スライバーを構成する混紡繊維のうちポリエステル繊維の結晶化度は39%以上であることを特徴とする綿球及び綿棒の製造方法。
【請求項6】
上記ポリエステル繊維は、ポリエチレンテレフタレートであることを特徴とする請求項4または5の何れか1項に記載の綿球及び綿棒の製造方法。
【請求項7】
上記綿球の表面は、表面固着剤によって固定されると共に、上記表面固着剤は、アニオン性基を含まない物質を含有することを特徴とする請求項4から6の何れか1項に記載の綿球及び綿棒の製造方法。
【請求項8】
上記加熱処理工程は、2時間に亘り160℃で加熱し、上記加熱処理工程の後に冷却することを特徴とする請求項4から7の何れかに記載の綿球及び綿棒の製造方法。
【請求項9】
上記加熱処理工程は、1時間に亘り160℃で加熱する第一加熱工程と、上記第一加熱処理工程の後に1時間に亘り180℃で加熱する第二加熱工程とを有し、上記加熱処理工程の後に冷却することを特徴とする請求項4から7の何れか1項に記載の綿球及び綿棒の製造方法。
【請求項10】
上記静電気防止処理工程は加湿処理工程であることを特徴とする請求項4から9の何れか1項に記載の綿球及び綿棒の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステル繊維を利用した綿球及び綿棒の改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
綿棒は医療現場や家庭などで広く利用されており、細菌検体の採取や消毒液の塗布など幅広い用途がある。これらの綿棒を形成する綿球の材質は、例えば消毒液に綿球部を浸した際に、綿球部における消毒液の吸収量などに大きな影響を及ぼす。
【0003】
一般に、ポリエステル繊維を使用した綿球を有する綿棒が広く使用されている。レーヨン製又はコットン製の繊維素材は表面に皺があり、高い液体吸収率を有しているが、ポリエステル繊維は表面に皺がなく液体吸収率は低い。この場合、綿球は、消毒液を多く吸収することが出来れば、一度の塗布で確実に患部へ消毒液を塗布することが可能となるため、従来より、ポリエステル繊維の液体吸収率を向上させることが要請されていた。
【0004】
また、綿球を消毒液に浸して消毒液を吸収させて患部に塗布する場合は、消毒液の薬剤成分を無駄なく効率的に塗布でき、一度綿球に吸収された薬剤成分のより多くが患部側へ放出されることが望ましい。
【0005】
しかしながら、従来のレーヨン製又はコットン製綿棒の綿球部では、吸収させた消毒液の薬剤成分の一部が綿球部で吸着されてしまい、吸着されてしまった薬剤成分は、綿球部の外に放出されず患部へと接触しないためロスとなることから、予め、消毒液の薬剤濃度を高めに調整する等の方策を講じる必要があった。
【0006】
しかしながら、特定の消毒用薬剤に対し薬物過敏症やアレルギー疾患を有する人もおり、使用する際の濃度には特に注意が促されている。上記のように、本来の消毒のための必要量以上の薬剤成分量を使用している現状を改善することが出来れば、消毒用薬剤コストを低減することが出来ると共に、例えば、使用量や使用濃度を低減させて取り扱うことができ、より安全に治療行為を行うことが出来る。
【0007】
ポリエステル繊維製の綿球にあっては、レーヨン又はコットン製の綿球の場合よりも薬剤成分の吸着率は低いが、従来より、ポリエステル繊維製の綿球の薬剤吸着率をさらに低下させることが望まれていた。
このような観点から、本件特許出願人は特許文献の調査を行い、以下の文献を抽出した。
【0008】
しかしながら、上記特許文献1においては、消毒液の吸収量や消毒液の薬剤成分の吸収といった内容は開示されていない。また、特許文献2においては、吸水性を得るために繊維形成樹脂を鞘部、ポリエーテルブロックアミド共重合物を芯部とすると共に、芯部を所定の角度で露出させており、特殊な繊維を用いるため低コストとし難いという課題があった。
【特許文献1】特許第5220220号公報
【特許文献2】特許第5149118号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本発明は、このような従来の要請に基づくものであって、ポリエステル繊維製の綿球及び綿棒における消毒液等の液体吸収量を大きくすると共に消毒液の薬剤成分の吸着率を低減させ且つ消毒治療を低コストで行うことを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題達成のため、請求項1記載の発明における綿球及び綿棒の製造方法にあっては、捲縮が形成されると共に所定の長さに切断形成されたポリエステル繊維に、カード処理を施すカード処理工程を経てスライバーを製作し、このスライバーを用いて綿球及び綿球を有する綿棒を製造する綿球及び綿棒の製造方法であって、上記ポリエステル繊維の結晶化度が38%であることを特徴とする。
【0011】
繊維には、加熱や延伸などの一定の条件のもと、分子構造の一部に分子が規則的に配列した結晶部を形成するものがあり、例えばポリエステルがこれに含まれる。このように分子構造の一部に結晶部を形成させることを結晶化と呼び、結晶部と非結晶部の総和に対する結晶部の割合は、結晶化度と称されている。一般には、加熱の場合は高温であるほど結晶化度が高くなり、延伸装置による機械延伸の場合は延伸距離及び延伸速度が大きくなるほど結晶化度が高くなることが知られている。
【0012】
結晶化度を測定する手段としては、例えばDSC(示差走査熱量計)を用いる方法などがある。結晶化度は、一般にポリエステル繊維の機械強度や密度、熱的性質との関係があることは公知である。
【0013】
従って、請求項1記載の発明における綿球及び綿棒の製造方法にあっては、ポリエステル繊維が加熱により結晶化されることにより、硬度が増大し捲縮弾性率が向上する。また、結晶化度38%の上記ポリエステル繊維を用いて製作されるスライバーにより製造された綿球は、液体吸収量が向上するとともに、消毒用薬剤の吸着率が低下する。
【0014】
請求項2記載の発明における綿球及び綿棒の製造方法にあっては、上記ポリエステル繊維の結晶化度は、ポリエステル繊維に延伸を加えることによって、38%に形成されていることを特徴とする。
【0015】
請求項3記載の発明における綿球及び綿棒の製造方法にあっては、捲縮が形成されると共に所定の長さに切断形成されたポリエステル繊維に、所定時間に亘り結晶化が起きる温度で加熱処理を施す加熱処理工程と、上記加熱処理工程が施された後にカード処理を施すカード処理工程とを経てスライバーを製作し、このスライバーを用いて綿球及び綿球を有する綿棒を製造する綿球及び綿棒の製造方法であって、上記ポリエステル繊維の結晶化度が38%であるとともに、上記スライバーを構成するポリエステル繊維の結晶化度は39%以上であることを特徴とする。
【0016】
請求項4記載の発明における綿球及び綿棒の製造方法にあっては、捲縮が形成されると共に所定の長さに切断形成されたポリエステル繊維に、所定時間に亘り結晶化が起きる温度で加熱処理を施す加熱処理工程と、上記加熱処理工程の後に静電気防止処理を施す静電気防止処理工程と、上記静電気防止処理工程が施された後にカード処理を施すカード処理工程とを経てスライバーを製作し、このスライバーを用いて綿球及び綿球を有する綿棒を製造する綿球及び綿棒の製造方法であって、上記ポリエステル繊維の結晶化度が38%であるとともに、上記スライバーを構成するポリエステル繊維の結晶化度は39%以上であることを特徴とする。
【0017】
従って、請求項3又は4に記載の発明における綿球及び綿棒の製造方法にあっては、上記ポリエステル繊維の結晶化度が38%であるものを用いて、結晶化が起きる温度にて加熱を行い、結晶化度39%以上としたポリエステル繊維により構成されたスライバーを用いて製造することにより、液体吸収量が向上するとともに、消毒用薬剤の吸着率が低下することが実験結果により判明している。
【0018】
請求項5記載の発明における綿球及び綿棒の製造方法にあっては、捲縮が形成されると共に所定の長さに切断形成されたポリエステル繊維と他の繊維との混紡繊維に、所定時間に亘り結晶化が起きる温度で加熱処理を施す加熱処理工程と、上記加熱処理工程の後に静電気防止処理を施す静電気防止処理工程と、上記静電気防止処理工程が施された後にカード処理を施すカード処理工程とを経てスライバーを製作し、このスライバーを用いて綿球及び綿球を有する綿棒を製造する綿球及び綿棒の製造方法であって、上記ポリエステル繊維の結晶化度は38%であるとともに、上記スライバーを構成する混紡繊維のうちポリエステル繊維の結晶化度は39%以上であることを特徴とする。
【0019】
請求項6記載の発明における綿球及び綿棒の製造方法にあっては、上記ポリエステル繊維は、ポリエチレンテレフタレートであることを特徴とする。
【0020】
請求項7記載の発明における綿球及び綿棒の製造方法にあっては、上記綿球の表面は、表面固着剤によって固定されると共に、上記表面固着剤は、アニオン性基を含まない物質を含有することを特徴とする。
【0021】
従って、請求項7記載の発明における綿球及び綿棒の製造方法にあっては、吸着作用を備えたカチオン性基を有する物質の吸着を低減させることが出来る。
【0022】
請求項8記載の発明における綿球及び綿棒の製造方法にあっては、上記加熱処理工程は、2時間に亘り160℃で加熱し、上記加熱処理工程の後に冷却することを特徴とする。
【0023】
請求項9記載の発明における綿球及び綿棒の製造方法にあっては、上記加熱処理工程は、1時間に亘り160℃で加熱する第一加熱工程と、上記第一加熱処理工程の後に1時間に亘り180℃で加熱する第二加熱工程とを有し、上記加熱処理工程の後に冷却することを特徴とする。
【0024】
請求項8及び9記載の発明における綿球及び綿棒の製造方法にあっては、綿球における液体吸収量が向上するとともに、消毒液の薬剤成分の吸着量が低下する。
【0025】
請求項10記載の発明における綿球及び綿棒の製造方法にあっては、上記静電気防止処理工程は加湿処理工程であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0026】
請求項1から6及び請求項8から10記載の発明にあっては、ポリエステル繊維製の綿球の液体吸収量が向上する。その結果、例えば、消毒用薬剤に綿球を浸した際には、消毒液を多く吸収させることが出来るため、一度に多量の消毒液を含ませて患部に充分に塗布させることができ、医療現場における治療作業効率を大幅に向上させることができる。
【0027】
上記のように、液体吸収量が向上することから、液体の検体を採取する用途に供することによって、より効率的に検体を採取することが出来る。特に、請求項1及び2に記載の発明にあっては、加熱工程などの工程を含まないため低コストであり、生物学的検体の採取用スワブとしても好適である。
【0028】
また、請求項1から6及び請求項8から10記載の発明にあっては、ポリエステル製繊維の綿球における薬剤成分の吸着率が低減され、ロスが少なくなる。
その結果、薬剤成分濃度を従来よりも低濃度とすることが可能となり、薬剤成分の使用量低減により消毒治療をコスト削減した状態で行うことが出来る。また、特定の消毒液の薬剤成分に対してアレルギー疾患などの症状を持つ人にとっては、消毒液の薬剤成分が従来より低濃度で取り扱うことができ、消毒治療の安全性が向上する。
【0029】
請求項7記載の発明における綿球及び綿棒の製造方法にあっては、表面固着剤はアニオン性基を含まない物質を含有していることにより、消毒用薬剤成分として広く用いられているカチオン性基を有する消毒液の薬剤成分が綿球表面の表面固着剤に吸着されてしまう事態を抑制することができ、ロスが少なくなる。
【0030】
上記アニオン性基を含まない物質としては、カチオン性基を有する物質あるいはアニオン性基もカチオン性基も持たない物質であれば良く、例えば、PVC(ポリビニルアルコール)(化学式1)、メチルセルロース(化学式2)などが挙げられるが特に限定されるものではなく適宜選択されうる。
【0031】
また、上記表面固着剤は、上記アニオン性基を含まない物質を含有していれば良く、アニオン性基を有する物質と混合して用いても良い。
【化1】
【化2】
【0032】
カチオン性基を有する消毒液の薬剤成分とは、例えば塩化ベンザルコニウム(化学式3)やグルコン酸クロルヘキシジン(化学式4)などが挙げられるが特に限定されるものではなく適宜選択されうる。
【化3】
【化4】
【0033】
一方で、CMC(カルボキシメチルセルロースナトリウム)は、アニオン性基であるカルボキシメチル基を有する表面固着剤であるが、このようなアニオン性基を有する表面固着剤は、カチオン性基を有する消毒用薬剤である例えば上記グルコン酸クロルヘキシジンや上記塩化ベンザルコニウムといった物質との間で電気的吸引力が働くことで吸着するものと考えられている。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】本発明に係る綿球及び綿球を有する綿棒の一実施の形態を示し、(スライバー1)の製造フローチャートである。
図2】本発明に係る綿球及び綿球を有する綿棒の一実施の形態を示し、(スライバー2)の製造フローチャートである。
図3】本発明に係る綿球及び綿球を有する綿棒の一実施の形態を示し、(スライバー3)の製造フローチャートである。
図4】本発明に係る綿球及び綿球を有する綿棒の一実施の形態を示し、(スライバー4)の製造フローチャートである。
図5】本発明に係る綿球及び綿球を有する綿棒の一実施の形態を示し、(a)はスライバーから綿球を製造する際の製造フローチャートである。(b)はスライバーから綿球を製造する際の製造フローチャートであり、洗浄工程と乾燥工程を含む場合の工程である。(c)はスライバーから綿棒を製造する際の製造フローチャートである。
図6】本発明に係る綿球及び綿球を有する綿棒に用いられるポリエステル繊維の結晶化度を、DSC(示差走査熱量計)により測定した結果を示しており、各試料のヒートフローと温度との関係と、融解熱量から各試料の結晶化度を算出する過程を示した図である。
図7】比較例3の綿球について、DSC(示差走査熱量計)により測定した結果を示しており、ヒートフローと温度との関係と、融解熱量から結晶化度を算出する過程を示した図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
以下、本発明に係る綿球及び綿球を有する綿棒を実施の形態に基づき、詳細に説明する。
【0036】
(スライバーの製造方法)
本発明における第一の実施の形態に係る綿球及び綿球を有する綿棒に用いられるスライバーの製造方法は、捲縮が形成されると共に所定の長さに切断形成されたポリエステル繊維に、カード処理を施すカード処理工程を経て製造される。
【0037】
上記ポリエステル繊維の結晶化度が30%以上であり、上記ポリエステル繊維の結晶化度は、ポリエステル繊維に延伸を加えることによって、30%以上に形成されている。上記ポリエステル繊維は、ポリエチレンテレフタレートである。
【0038】
本発明における第二の実施の形態に係る綿球及び綿球を有する綿棒に用いられるスライバーの製造方法は、捲縮が形成されると共に所定の長さに切断形成されたポリエステル繊維に、所定時間に亘り結晶化が起きる温度で加熱処理を施す加熱処理工程と、上記加熱処理工程の後に静電気防止処理を施す静電気防止処理工程と、上記静電気防止処理工程が施された後にカード処理を施すカード処理工程とを経て製造される。
【0039】
上記ポリエステル繊維の結晶化度が30%以上であるとともに、上記スライバーを構成するポリエステル繊維の結晶化度は39%以上である。上記ポリエステル繊維は、ポリエチレンテレフタレートである。
【0040】
上記ポリエステル繊維は、ポリエチレンテレフタレートである。上記所定の長さとは、特に限定されないが、15mm〜50mm程度である。上記静電気防止処理工程は加湿処理工程である。上記加熱処理工程は、2時間に亘り160℃で加熱し、上記加熱処理工程の後に冷却する冷却工程が含まれている。上記冷却工程は自然冷却によって行われる。
【0041】
本実施の形態においては、上記静電気防止処理工程は、加湿処理工程である場合を説明したが、これに限定されず、電圧印加式静電気除去装置のように電極間に発生させたコロナ放電により電離した空気を用いて静電気防止処理を行っても良く、適宜選択されうる。
【0042】
原材料として用いられる上記ポリエステル繊維を製造する過程における結晶化の手段は特に限定されない。一般に結晶化は120℃以上の加熱や上記加熱に伴う冷却及び延伸などによって起こるとされており、いずれの手段及びその組み合わせによって達成されたものであっても良い。
一般に延伸は、紡糸機械で製造された繊維を引き延ばして結晶化させる延伸機が用いられており、適宜利用されうる。
【0043】
本発明における第三の実施の形態に係る綿球及び綿球を有する綿棒に用いられるスライバーの製造方法は、捲縮が形成されると共に所定の長さに切断形成されたポリエステル繊維と他の繊維との混紡繊維に、所定時間に亘り結晶化が起きる温度で加熱処理を施す加熱処理工程と、上記加熱処理工程の後に静電気防止処理を施す静電気防止処理工程と、上記静電気防止処理工程が施された後にカード処理を施すカード処理工程とを経て製造される。
【0044】
上記ポリエステル繊維の結晶化度は30%以上であるとともに、上記スライバーを構成する混紡繊維のうちポリエステル繊維の結晶化度は39%以上である。上記ポリエステル繊維は、ポリエチレンテレフタレートである。
【0045】
上記他の繊維とは、例えばコットンなどの天然繊維、あるいはレーヨン、ナイロン、ポリプロピレンなどの化学繊維が挙げられるが特に限定されず適宜選択されうる。
【0046】
上記加熱処理工程は、1時間に亘り160℃で加熱する第一加熱工程と、上記第一加熱処理工程の後に1時間に亘り180℃で加熱する第二加熱工程とを有し、上記加熱処理工程の後に冷却する冷却工程を有している。
【0047】
第二の実施の形態に係る綿球及び綿球を有する綿棒は、上記以外の構成に関しては、第一の実施の形態に係る綿球及び綿球を有する綿棒に用いられるスライバーの製造方法と同様である。
【0048】
(スライバーより綿球及び綿棒を製造する方法)
スライバーより綿球を製造する方法は、図5(b)に示すように、上記のように製造されたスライバーを、巻き付け工程Gにおいてステンレス等で形成された軸に巻き付けを行った後、成形工程Hにおいて表面固着剤を噴霧塗布しながら所定の外形を成形した後、さらに乾燥工程Jを経て上記綿球の表面は、表面固着剤によって固定される。最後に、軸を抜き取ることにより綿球が製造される。
上記表面固着剤は、アニオン性基を含まない物質を含有している。表面固着剤を塗布することにより、綿球のリント(毛羽立ち)が抑制される。
【0049】
スライバーより綿棒を製造する方法は、図5(c)に示すように、綿棒の軸の一端にホットメルトを塗布して、ここに上記のように製造されたスライバーを、接着固定して巻き付けていく巻き付け工程Gを経て、成形工程Hにおいて表面固着剤を噴霧塗布しながら所定の外形を成形した後、さらに乾燥工程Jを経て上記綿球の表面は、表面固着剤によって固定されて綿棒が製造される。
【0050】
上記スライバーより綿球及び綿棒を製造する方法は、巻き付け工程Gの前に、薬品液による洗浄工程E及び乾燥工程F、静電気防止処理工程(加湿処理工程)やスライバーをほぐす工程を行っても良い。
【0051】
本発明における実施の形態に係る綿球及び綿球を有する綿棒の製造方法は、以上のように示されるが、事前にスライバーを薬品等により洗浄する洗浄工程と、洗浄したスライバーを乾燥させる乾燥工程などを適宜含んでも良い。
【0052】
本発明者は、原材料となるポリエステル繊維に結晶化度30%以上のポリエステル繊維を用いてスライバーを製作し、上記スライバーにより綿球を形成することにより、従来のポリエステル製綿球に比して消毒用薬剤の吸着率が低減され、吸水量が向上することを見出した。また、ポリエステル繊維に結晶化が起きる温度で所定の加熱を施し、ポリエステル繊維の結晶化度が39%以上となるように加熱処理を行った後、スライバーを形成して得られた綿球は、さらに、消毒用薬剤の吸着率が低減され、吸水量が向上することを確認した。以下に図面を用いて詳細に説明する。
【0053】
以下のように〈比較例1〜3〉、及び洗浄や加熱条件などの異なるスライバー1〜4を製作した後、綿球を形成して〈実施例1〜10〉を製作して其々の試料について試験を行った。
【0054】
(スライバー1製造実施例)
図1に示すように、捲縮が形成され、結晶化度38%の50[mm]の長さ寸法に切断されたポリエチレンテレフタレート繊維に、カード処理を行う工程(カード処理工程D)を経ることによって製造される(スライバー1)。
【0055】
(スライバー2製造実施例)
図2に示すように、捲縮が形成され、結晶化度38%の50[mm]の長さ寸法に切断されたポリエチレンテレフタレート繊維に、1時間に亘り160[℃]の熱風で加熱し(加熱処理工程A1)、上記加熱(加熱処理工程A1)の後に1時間に亘り180[℃]の熱風で加熱する工程(加熱処理工程A2)とを施した後に、自然冷却(冷却工程B)して、さらに水分を周囲から噴霧することによりポリエチレンテレフタレート繊維に加湿処理を施すことにより、静電気の発生を抑制し(静電気防止処理工程C)、この状態でカード処理を行う工程(カード処理工程D)を経ることによって製造される(スライバー2)。
【0056】
(スライバー3製造実施例)
図3に示すように、捲縮が形成され、結晶化度38%の50[mm]の長さ寸法に切断されたポリエチレンテレフタレート繊維に、2時間に亘り160[℃]の熱風で加熱し(加熱処理工程A)の後に、自然冷却(冷却工程B)して、さらに水分を周囲から噴霧することによりポリエチレンテレフタレート繊維に加湿処理を施すことにより、静電気の発生を抑制し(静電気防止処理工程C)、この状態でカード処理を行う(カード処理工程D)を経ることによって製造される(スライバー3)。
【0057】
(スライバー4製造実施例)
図4に示すように、捲縮が形成され、結晶化度38%の50[mm]の長さ寸法に切断されたポリエチレンテレフタレート繊維に、2時間に亘り160[℃]の熱風で加熱(加熱処理工程A)を施した後に自然冷却し(冷却工程B)、さらに水分を周囲から噴霧することによりポリエチレンテレフタレート繊維に加湿処理を施すことにより、静電気の発生を抑制し(静電気防止処理工程C)、この状態でカード処理(カード処理工程D)を経ることによって製造される(スライバー4)。
【0058】
〈比較例1〉
コットン製で、直径20[mm]に形成された市販品の綿球を比較例1として用いた。
【0059】
〈比較例2〉
〈比較例1〉とは異なるメーカーで製造された、コットン製で、直径20[mm]に形成された市販品の綿球を比較例2として用いた。
【0060】
〈比較例3〉
市販状態における結晶化度が38%で、50[mm]の長さ寸法のポリエチレンテレフタレート繊維より構成され、直径20[mm]に形成された市販品の綿球を比較例3として用いた。
【0061】
〈実施例1〉
実施例1は、上記(スライバー1)を、巻き付け工程Gを経て、直径20[mm]の外形を成形した綿球である。
〈実施例2〉
実施例2は、上記(スライバー2)を用いて、図5(a)に示すように、巻き付け工程Gで巻き取った後、成形工程Hにおいて表面固着剤として、PVA(ポリビニルアルコール)水溶液0.5[ml]を噴霧塗布しながら直径20[mm]の外形を形成して、乾燥工程Jにて乾燥固着させた綿球である。
【0062】
〈実施例3〉
実施例3は、上記(スライバー2)を用いて、図5(a)に示すように、巻き付け工程Gで巻き取った後、成形工程Hにおいて表面固着剤として、CMC(カルボキシメチルセルロースナトリウム)水溶液0.5[ml]を噴霧塗布しながら直径20[mm]の外形を形成して、乾燥工程Jにて乾燥固着させた綿球である。
【0063】
〈実施例4〉
実施例4は、上記(スライバー2)を用いて、図5(a)に示すように、巻き付け工程Gで巻き取った後、成形工程Hにおいて表面固着剤として、メチルセルロース水溶液0.5[ml]を噴霧塗布しながら直径20[mm]の外形を形成して、乾燥工程Jにて乾燥固着させた綿球である。
【0064】
〈実施例5〉
実施例5は、上記(スライバー3)を用いて、図5(a)に示すように、巻き付け工程Gで巻き取った後、成形工程Hにおいて表面固着剤として、PVA(ポリビニルアルコール)水溶液0.5[ml]を噴霧塗布しながら直径20[mm]の外形を形成して、乾燥工程Jにて乾燥固着させた綿球である。
【0065】
〈実施例6〉
実施例6は、上記(スライバー3)を用いて、図5(a)に示すように、巻き付け工程Gで巻き取った後、成形工程Hにおいて表面固着剤として、CMC(カルボキシメチルセルロースナトリウム)水溶液0.5[ml]を噴霧塗布しながら直径20[mm]の外形を形成して、乾燥工程Jにて乾燥固着させた綿球である。
【0066】
〈実施例7〉
実施例7は、上記(スライバー3)を用いて、図5(a)に示すように、巻き付け工程Gで巻き取った後、成形工程Hにおいて表面固着剤として、メチルセルロース水溶液0.5[ml]を噴霧塗布しながら直径20[mm]の外形を形成して、乾燥工程Jにて乾燥固着させた綿球である。
【0067】
〈実施例8〉
実施例8は、上記(スライバー4)を用いて、図5(b)に示すように、薬品液による洗浄工程E、乾燥機による乾燥工程Fを経て、巻き付け工程Gで巻き取った後、成形工程Hにおいて表面固着剤として、PVA(ポリビニルアルコール)水溶液0.5[ml]を噴霧塗布しながら直径20[mm]の外形を形成して、乾燥工程Jにて乾燥固着させた綿球である。
【0068】
〈実施例9〉
実施例9は、上記(スライバー4)を用いて、図5(b)に示すように、薬品液による洗浄工程E、乾燥機による乾燥工程Fを経て、巻き付け工程Gで巻き取った後、成形工程Hにおいて表面固着剤として、CMC(カルボキシメチルセルロースナトリウム)水溶液0.5[ml]を噴霧塗布しながら直径20[mm]の外形を形成して、乾燥工程Jにて乾燥固着させた綿球である。
【0069】
〈実施例10〉
実施例10は、上記(スライバー4)を用いて、図5(b)に示すように、薬品液による洗浄工程E、乾燥機による乾燥工程Fを経て、巻き付け工程Gで巻き取った後、成形工程Hにおいて表面固着剤として、メチルセルロース水溶液0.5[ml]を噴霧塗布しながら直径20[mm]の外形を形成して、乾燥工程Jにて乾燥固着させた綿球である。
【0070】
洗浄工程Eで使用される上記薬品液は、40[℃]の温水1[L]に界面活性剤を0.1[ml]と1[mol/L]水酸化ナトリウムを0.5[ml]加えて調製される。界面活性剤は、第一工業製薬社製:ノイゲンHCを使用している。
【0071】
綿球は、一般にスライバーを軸に巻き付けた後(巻き付け工程G)、表面固着剤を噴霧塗布しながら外形を形成し(成形工程H)、その後乾燥固着させた後(乾燥工程J)、軸を抜き取ることにより形成されるが、これに限定されず、軸への巻き付けと同時に表面固着剤を噴霧塗布しながら外形を形成する巻き付け工程G及び成形工程Hが1つの工程で実施される方法もあり、適宜選択されうる。
【0072】
本実施例における結晶化度の測定は、DSC(示差走査熱量計:TAインスツルメント製Q2000)を用いて試料を200[℃/分]で昇温していき、結晶の融解に要する熱量を測定する。
【0073】
ポリエチレンテレフタレートの完全結晶を融解するのに要する熱量は、140.2[J/g]であることが公知であるため、試料の結晶化度は、試料の結晶の融解に要する熱量(融解熱量)を140.2[J/g]で除して100を乗じることによって算出される。
【0074】
図6の中段に示すように、上記の要領でスライバー2の結晶化度を測定した結果、結晶化度は40%であった。また、図5の上段に示すように、上記の要領でスライバー3の結晶化度を測定した結果、結晶化度は40%であった。スライバー4については、結晶化度に影響を及ぼす加熱処理工程がスライバー3と同等条件であることから、スライバー3と同等の結晶化度であるものと考えられる。
【0075】
図6の下段に示すように、上記の測定要領で、原材料として用いたポリエチレンテレフタレート繊維の結晶化度が、38%であることを確認した。
図7に示すように、〈比較例3〉の綿球を構成するスライバーについても同様に結晶化度の測定を行い、38%であることを確認した。ただし、〈比較例3〉は、原材料として用いたポリエチレンテレフタレート繊維の結晶化度については、測定の昇温過程で生じた結晶の融解熱量も含まれてしまうため、測定の昇温過程で生じた結晶の融解熱量3.6[J/g]を差し引いたものを融解熱量とした。
【0076】
表面固着剤は、綿球の毛羽立ちを抑制し、形状を整えるために使用される。
以下に上記で使用される表面固着剤の水溶液の調整方法を示す。
PVA(ポリビニルアルコール)水溶液は、株式会社クラレ製:クラレポバール(登録商標)PVA−117を水1[L]に対して10.56[g]加えて約100[℃]で加熱混合した。
【0077】
CMC(カルボキシメチルセルロースナトリウム)水溶液は、第一工業製薬株式会社製:セロゲンPM−250L
ECケムを水1[L]に対して1.65[g]加えて約100[℃]で加熱混合した。
メチルセルロース水溶液は、信越化学工業株式会社製:メトローズ(登録商標)60SH−4000を水1[L]に対して、2[g]加えて約100℃で加熱混合した。
【0078】
本発明者は、〈比較例1〉、〈比較例3〉及び〈実施例1〜10〉の綿球について、液体吸収量を確認するために、水を用いて下記のとおり吸水量の確認試験を行った。
【0079】
(吸水量試験要領)
〈比較例1〉、〈比較例3〉及び〈実施例1〜10〉の乾燥した状態の綿球を其々5検体ずつ用意して、乾燥時質量[g]を測定する。上記乾燥した状態の綿球を10秒間水に浸し吸水後の吸水時質量[g]を測定する。吸水時質量から乾燥時質量[g]を差し引いた質量を吸水質量[g]とした。得られた5検体分の吸水質量[g]のうち、最大値と最小値を除いた3検体分の吸水質量[g]の平均値を平均吸水質量[g]として採用した。
【0080】
(吸着率試験要領)
〈比較例2〜3〉及び〈実施例1〜3、5〜10〉の綿球を其々用意する。
サンプル管に綿球を入れて、綿球0.4[g]に対して、10[ml]の割合となるように消毒液を加えて綿球を浸漬させる。キャップにて密閉し3日間室温放置した後、綿球を絞らない様注意しながら消毒液だけを分離し、上記消毒液の吸光度である検体吸光度測定を行った。
【0081】
また、予め消毒液のみのブランク吸光度測定を行った。上記消毒液には0.05[w/v]グルコン酸クロルヘキシジン水溶液を用いた。
吸光度測定において、グルコン酸クロルヘキシジンは254[nm]及び231[nm]近傍の2個所に特徴的なピークを有することから、上記各ピークにおける個々の吸着率%を下記式により算出して、平均値を平均吸着率%として採用した。
【0082】
【数1】
【0083】
(測定機器)
紫外可視分光光度計(日本分光V−660)
以下に、試験の結果を表1に示す。
【0084】
【表1】
【0085】
以下、平均吸水質量[g]を吸水質量、平均吸着率%を吸着率と称して説明する。
上記表1においては、コットン製の市販品の綿球である〈比較例1〉の吸水質量が実施例の何れよりも高く、コットン製の綿球は、ポリエチレンテレフタレート製の綿球と比較して吸水量が良好であることを示している。一方で、グルコン酸クロルヘキシジンの吸着率の比較においては、同じくコットン製の綿球である〈比較例2〉の吸着率は、〈実施例1〜3〉、〈実施例5〉及び〈実施例7〜10〉と比較して同等以下の低い吸着率を示しており、グルコン酸クロルヘキシジンの吸着率は、ポリエチレンテレフタレート製の綿球の方が低く優れている傾向があることがわかる。
【0086】
上記表1に示すように、結晶化度38%の〈比較例3〉の市販品における吸水質量は、0.4188[g]であり、これに比較して、本発明の〈実施例1〜5〉の吸水質量[g]は大幅に大きい値が確認された。これは〈比較例3〉と〈実施例1〜5〉が、同様にポリエチレンテレフタレート繊維から形成されているにもかかわらず、吸水性が増加し大幅に改善されたことを示している。〈実施例1〜5〉は、結晶化度38%のポリエチレンフタレート繊維を用いたことにより、吸水性が増加したためと考えられる。
【0087】
吸着率に着目すると、結晶化度38%の〈比較例3〉の市販品におけるグルコン酸クロルヘキシジンの吸着率は、11.1%であるが、〈実施例1〉においては、2.7%であり、大幅に改善されていることがわかる。さらに、加熱処理工程を施した〈実施例2〉においては2.2%を示しており、改善されていることがわかる。
【0088】
〈実施例3〉、〈実施例6〉及び〈実施例9〉においては、〈比較例3〉よりも吸着率が大きくなってしまっているが、これは表面固着剤にCMC(カルボキシメチルセルロースナトリウム)を使用したものであり、CMC(カルボキシメチルセルロースナトリウム)は、分子内にアニオン性基を有するため、カチオン性基を有する消毒用薬剤成分であるグルコン酸クロルヘキシジンと電気的吸引力による吸着を起こしたためと考えられる。
【0089】
また、加熱による影響に着目するために、同じ表面固着剤を使用した実施例どうしを比較すると、例えば、〈実施例2〉と〈実施例5〉においては、より高い温度で加熱した〈実施例2〉の方が吸着率は低い。〈実施例3〉と〈実施例6〉との比較においても同様である。
【0090】
図6に示すように、前術のDSCによる結晶化度の測定要領によって測定した結晶化度は、上記(スライバー2)の40%(図6中段)であり、上記(スライバー3)の結晶化度は40%(図6上段)であった。
【0091】
前術のとおり、原材料として用いたポリエチレンテレフタレート繊維の結晶化度が38%であり、一連の処理を通じて得られたスライバーの結晶化度が、40%であったことから、加熱処理工程を通じて結晶化度としては大きな変化はなかったことを意味する。
【0092】
しかしながら、上記のように、所定時間に亘り結晶化が起きる温度で加熱処理を施す加熱処理工程を通じることにより、表1に示したとおり吸水量が向上し、グルコン酸クロルヘキシジンの吸着率が低下するという有用な効果が得られている。
【0093】
また、本発明者は、種々の加熱条件を試み、ポリエチレンテレフタレート繊維の結晶化度を加熱によって上昇させる際には、40%程度までは上昇するが、それ以上には上昇し難いという知見を得ている。
【0094】
従って、結晶化度の測定誤差が1%程度であることを考慮すると、少なくとも39%以上となるまで加熱により結晶化度を上昇させることにより、上記のような効果を奏するものと考えられる。
【0095】
本発明者は、加熱処理工程の前後において、上記のとおり結晶化度には変化がないにも関わらず、カチオン性基を有する消毒用薬剤成分の吸着率が低下したことより、ポリエステル繊維に付着した油脂分が関係しているのではないかと思料し、加熱処理を施さずにスライバーを形成した〈比較例4〉と、加熱条件の異なる〈実施例11〉及び〈実施例12〉について、以下のとおりジエチルエーテル抽出試験によって油脂分の測定を行った。
【0096】
〈比較例4〉
捲縮が形成されると共に結晶化度38%の50[mm]の長さ寸法に切断されたポリエチレンテレフタレート繊維に、水分を周囲から噴霧することによりポリエチレンテレフタレート繊維に加湿処理を施すことにより、静電気の発生を抑制し、この状態でカード処理工程Dにおいてカード処理を行うことによって製造されたスライバーを〈比較例4〉として用いた。
【0097】
〈実施例11〉
実施例11は、上記スライバー2製造実施例により製造された(スライバー2)である。
【0098】
〈実施例12〉
実施例12は、上記スライバー3製造実施例により製造された(スライバー3)である。
【0099】
(ジエチルエーテル抽出試験要領)
JIS−1096一般織物試験方法 af)油脂分試験法を参考として、以下の条件で試験を行った。
試料:〈比較例2〉及び〈実施例11及び12〉の各スライバー
試料量:3[g]
抽出溶媒:ジエチルエーテル
抽出溶媒量:100[ml]
加熱時間:1.5時間
以上の要領で各試料2回の試験を行い、平均値を油脂分%として以下の表2に掲載する。
【0100】
【表2】
【0101】
表2に示すように、加熱処理工程を省いた〈比較例4〉において、油脂分%は、既に小さい値であり、加熱処理工程を施した〈実施例11及び12〉との比較においても、油脂分%はほとんど変化しなかった。
【0102】
従って、油脂分%が変化したことにより、吸水量の向上及びカチオン性基を有する薬剤の吸着率の低減という効果が得られたものではないことがわかり、これは即ち、スライバーに熱処理等を施してポリエチレンテレフタレート繊維の結晶化度を40%にまで高めたことにより、得られる効果であることを示唆している。
【0103】
本発明者は、表面固着剤の濃度とカチオン性基を有する消毒用薬剤に対する吸着率との関係を調べるため下記のような確認を行った。
【0104】
〈比較例5〉
比較例5は、上記スライバー3製造実施例により製造された(スライバー3)を用いて巻き付け工程Gで巻き取った後、成形工程Hにおいて表面固着剤として、PVA(ポリビニルアルコール)を水1[L]に対して10.56[g]加えて約100[℃]で加熱混合したPVA(ポリビニルアルコール)水溶液0.5[ml]を噴霧塗布しながら直径20[mm]の外形を形成して、乾燥工程Jにて乾燥固着させた綿球を比較例5として用いた。
【0105】
〈実施例13〉
実施例13は、上記スライバー3製造実施例により製造された(スライバー3)を、図5(a)に示すように、巻き付け工程Gで巻き取った後、成形工程Hにおいて表面固着剤として、PVA(ポリビニルアルコール)を水1[L]に対して21.12[g]加えて約100[℃]で加熱混合したPVA(ポリビニルアルコール)水溶液0.5[ml]を噴霧塗布しながら直径20[mm]の外形を形成して、乾燥工程Jにて乾燥固着させた綿球である。
【0106】
〈実施例14〉
実施例14は、上記スライバー2製造実施例により製造された(スライバー2)を、図5(a)に示すように、巻き付け工程Gで巻き取った後、成形工程Hにおいて表面固着剤として、PVA(ポリビニルアルコール)を水1[L]に対して31.68[g]加えて約100[℃]で加熱混合したPVA(ポリビニルアルコール)水溶液0.5[ml]を噴霧塗布しながら直径20[mm]の外形を形成して、乾燥工程Jにて乾燥固着させた綿球である。
【0107】
上記においてPVA(ポリビニルアルコール)は、クラレポバール(登録商標)PVA−117を使用している。
【0108】
(試験要領)
試験要領は、上記(吸着性試験要領)に準ずる形で実施した。以下、試験の結果を表3に示す。
【0109】
【表3】
【0110】
表面固着剤の濃度は、比較例5に対して、実施例13で2倍、実施例14で3倍となるように配合したが、其々の吸着率にほとんど差は見られなかった。従って、該表面固着剤の濃度は、消毒用薬剤成分であるグルコン酸クロルヘキシジンの吸着率との相関がないことを示している。
【産業上の利用可能性】
【0111】
本発明に係る綿球及び綿球を有する綿棒は、検体採取用あるいは医療用綿棒等として、単体あるいは消毒液とのキットとして製造販売されるため産業上利用可能性を有している。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7