特許第6283023号(P6283023)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ イーグルブルグマンジャパン株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6283023-メカニカルシール 図000002
  • 特許6283023-メカニカルシール 図000003
  • 特許6283023-メカニカルシール 図000004
  • 特許6283023-メカニカルシール 図000005
  • 特許6283023-メカニカルシール 図000006
  • 特許6283023-メカニカルシール 図000007
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6283023
(24)【登録日】2018年2月2日
(45)【発行日】2018年2月21日
(54)【発明の名称】メカニカルシール
(51)【国際特許分類】
   F16J 15/34 20060101AFI20180208BHJP
【FI】
   F16J15/34 E
   F16J15/34 L
【請求項の数】4
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-511199(P2015-511199)
(86)(22)【出願日】2014年3月27日
(86)【国際出願番号】JP2014058833
(87)【国際公開番号】WO2014168013
(87)【国際公開日】20141016
【審査請求日】2016年9月21日
(31)【優先権主張番号】特願2013-80684(P2013-80684)
(32)【優先日】2013年4月8日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】503227553
【氏名又は名称】イーグルブルグマンジャパン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085006
【弁理士】
【氏名又は名称】世良 和信
(74)【代理人】
【識別番号】100100549
【弁理士】
【氏名又は名称】川口 嘉之
(74)【代理人】
【識別番号】100096873
【弁理士】
【氏名又は名称】金井 廣泰
(74)【代理人】
【識別番号】100131532
【弁理士】
【氏名又は名称】坂井 浩一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100155871
【弁理士】
【氏名又は名称】森廣 亮太
(72)【発明者】
【氏名】高橋 秀和
【審査官】 谷口 耕之助
(56)【参考文献】
【文献】 特開平08−054067(JP,A)
【文献】 特開2013−011325(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸とハウジングとの間の環状隙間を封止するメカニカルシールであって、
分割された複数の分割体を組み合わせることにより環状のシールリングが構成される分割型シールリングを備えるメカニカルシールにおいて、
複数の分割体の外周面を締め付けることで、これら複数の分割体を固定する金属製バンドを備え
前記シールリングには、該シールリングを軸線方向に付勢するスプリングが装着されるスプリング孔が形成されていることを特徴とするメカニカルシール。
【請求項2】
回転軸とハウジングとの間の環状隙間を封止するメカニカルシールであって、
分割された複数の分割体を組み合わせることにより環状のシールリングが構成される分割型シールリングを備えるメカニカルシールにおいて、
複数の分割体の外周面を締め付けることで、これら複数の分割体を固定する金属製バンドを備え、
前記シールリングには、回転軸側またはハウジング側に設けられる回り止め部が係合される被係合部が形成されていることを特徴とするメカニカルシール。
【請求項3】
回転軸とハウジングとの間の環状隙間を封止するメカニカルシールであって、
分割された複数の分割体を組み合わせることにより環状のシールリングが構成される分割型シールリングを備えるメカニカルシールにおいて、
複数の分割体の外周面を締め付けることで、これら複数の分割体を固定する金属製バンドを備え、
前記シールリングの外周には環状溝が形成されると共に、
前記環状溝に嵌合されることにより、複数の分割体同士の軸線方向の位置決めを行う環状部材を備え、
該環状部材によって複数の分割体同士の軸線方向の位置決めがなされた状態で、これら複数の分割体の外周面が前記金属製バンドにより締め付けられることで、これら複数の分割体が固定されることを特徴とするメカニカルシール。
【請求項4】
前記環状部材には、前記シールリングを軸線方向に付勢するスプリングが装着されるスプリング孔が形成されていることを特徴とする請求項に記載のメカニカルシール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分割型シールリングを備えたメカニカルシールに関する。
【背景技術】
【0002】
メカニカルシールにおいては、装着性等の観点から、シールリングが分割されており、取り付け箇所に取り付ける際に、これら分割された分割体を組み合わせることによって、環状のシールリングを構成する技術が知られている。ここで、メカニカルシールにおけるシールリングはSiCやアルミナなどのセラミックス(塑性材料)で構成される場合が多い。この場合には分割体同士をボルトなどの締結具を用いて固定させることはできない。そのため、複数の分割体を組み合わせた状態で、クランピングリングにより外周面を締め付けることで、これら複数の分割体を位置決めさせつつ固定する構造が採用されている(特許文献1参照)。
【0003】
しかしながら、クランピングリングによって複数の分割体を固定する構造では、構造が複雑化したり、大型化したりしてしまう問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−166651号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、シールリングを構成する複数の分割体を固定させる構造の簡易化と小型化を可能とするメカニカルシールを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題を解決するために以下の手段を採用した。
【0007】
すなわち、本発明のメカニカルシールは、
回転軸とハウジングとの間の環状隙間を封止するメカニカルシールであって、
分割された複数の分割体を組み合わせることにより環状のシールリングが構成される分割型シールリングを備えるメカニカルシールにおいて、
複数の分割体の外周面を締め付けることで、これら複数の分割体を固定する金属製バンドを備えることを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、複数の分割体の外周面を金属製バンドにより締め付けることで、これら複数の分割体が固定される。従って、クランピングリングによって複数の分割体が固定される構造に比べて、構造の簡易化と小型化を可能とすることができる。また、複数の分割体の外周面を全周に亘ってほぼ均一な締め付け力で締め付けることができる。
【0009】
前記シールリングには、該シールリングを軸線方向に付勢するスプリングが装着されるスプリング孔が形成されているとよい。
【0010】
これにより、クランピングリングによって複数の分割体が固定される従来構造において、クランピングリングにスプリング孔を設ける場合に比べて、構造を小型化することができる。
【0011】
また、前記シールリングには、回転軸側またはハウジング側に設けられる回り止め部が係合される被係合部が形成されているとよい。
【0012】
これにより、クランピングリングによって複数の分割体が固定される従来構造において、クランピングリングに被係合部を設ける場合に比べて、構造を小型化することができる。
【0013】
前記シールリングの外周には環状溝が形成されると共に、
前記環状溝に嵌合されることにより、複数の分割体同士の軸線方向の位置決めを行う環状部材を備え、
該環状部材によって複数の分割体同士の軸線方向の位置決めがなされた状態で、これら複数の分割体の外周面が前記金属製バンドにより締め付けられることで、これら複数の分割体が固定されるとよい。
【0014】
これにより、シールリングの外周に形成された環状溝に環状部材を嵌合させることで、複数の分割体同士の軸線方向の位置決めがなされる。そして、この状態で、金属製バンドによって複数の分割体の外周面が締め付けられることで、これら複数の分割体が固定される。これにより、複数の分割体の軸線方向の位置決めと、径方向の位置決めの両方を精度よく行うことが可能となる。
【0015】
前記環状部材には、前記シールリングを軸線方向に付勢するスプリングが装着されるスプリング孔が形成されているとよい。
【0016】
これにより、環状部材に対して、複数の分割体の軸線方向の位置決めを行う機能と、スプリングを支持するための機能を兼ね備えさせることができる。
【発明の効果】
【0017】
以上説明したように、本発明によれば、シールリングを構成する複数の分割体を固定させる構造の簡易化と小型化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は本発明の実施例1に係るメカニカルシールの主要構成(シールリング及び環状部材)を示す平面図である。
図2図2は本発明の実施例1に係るメカニカルシールの装着状態を示す模式的断面図である。
図3図3はホースバンドの側面図である。
図4図4はホースバンドの正面図である。
図5図5は本発明の実施例2に係るメカニカルシールの装着状態を示す模式的断面図である。
図6図6は本発明の実施例3に係るメカニカルシールの装着状態を示す模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に図面を参照して、この発明を実施するための形態を、実施例に基づいて例示的に詳しく説明する。ただし、この実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは、特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0020】
(実施例1)
図1図4を参照して、本発明の実施例1に係るメカニカルシールについて説明する。
【0021】
<メカニカルシール>
本発明の実施例1に係るメカニカルシールの全体構成等について説明する。図1は本発明の実施例1に係るメカニカルシールの主要構成であるシールリング及び環状部材を示す平面図である。図2は本発明の実施例1に係るメカニカルシールの装着状態を示す模式的断面図である。なお、図2中のメカニカルシールは、回転軸の中心軸線を含む面で切断した断面を示している。また、図3はホースバンドの側面図であり、図4はホースバンドの正面図である。なお、図4図3中のホースバンドを矢印V方向に見た図である。
【0022】
本実施例に係るメカニカルシール100は、固定環ユニット200と回転環ユニット300を備えたアウトサイドシールであり、回転軸500とハウジング600との間の環状隙間を封止する役割を担っている。すなわち、メカニカルシール100は、回転軸500とハウジング600との間の環状隙間に封止されている密封対象流体側(A)の密封対象流体が、内周側から外周側(B)に漏れることを防止するために用いられる。また、本実施例に係るメカニカルシール100は静止形のシールであり、固定環ユニット200側にスプリング240などの作動部が備えられている。
【0023】
固定環ユニット200は、環状のシールリングとしての固定環210と、固定環210を構成する複数の分割体(以下、適宜、分割体210A,210Bと称する)同士の軸線方向の位置決めを行う環状部材220と、複数の分割体210A,210Bの外周面を締め付けることで、これら複数の分割体210A,210Bを固定する固定部材としてのホースバンド230とを備えている。ここで、ホースバンド130は、一般的に、ホースを蛇口等に固定するために用いられるもので、ホースクリップとも呼ばれる。なお、「軸線方向」とは、回転軸500の軸線方向を意味する。以下、同様である。
【0024】
なお、図1においては、この固定環ユニット200のうち、固定環210と環状部材220の平面図を示している。この図1は、図2において、右側から軸線方向に固定環210及び環状部材220を見た図に相当する。また、図2中の固定環210及び環状部材220は、図1におけるAA断面図に相当する。
【0025】
このように構成される固定環ユニット200は、ハウジング600に取付けられる。すなわち、ハウジング600の端面に取り付けられたピン610が、環状部材220に設けられている貫通孔221に挿入されることによって、固定環ユニット200はハウジング600に取り付けられる。なお、固定環210の外周側には環状溝212が形成されている。この環状溝212にOリングO1が装着されることで、ハウジング600の内周面と固定環210の外周面との間の環状隙間が封止される。
【0026】
また、環状部材220にはスプリング240が装着されるスプリング孔222が複数設けられており、これら複数のスプリング孔222にそれぞれスプリング240が装着される。これにより、固定環ユニット200は回転環ユニット300側に付勢されている。つまり、固定環ユニット200は、ハウジング600に対して、回転方向についてはピン610によって移動しないように規制されているが、軸方向については移動可能に構成されている。なお、特に図示はしないが、環状部材220にも、固定環210に形成された孔や切り欠きに係合するピンが設けられており、固定環210は環状部材220に対して回転方向に移動しないように構成されている。
【0027】
回転環ユニット300も、環状のシールリングとしての回転環310と、回転環310を構成する複数の分割体同士の軸線方向の位置決めを行う環状部材320と、複数の分割体の外周面を締め付けることで、これら複数の分割体を固定する固定部材としてのホースバンド330とを備えている。
【0028】
ここで、本実施例においては、固定環ユニット200を構成する固定環210,環状部材220及びホースバンド230と、回転環ユニット300を構成する回転環310,環状部材320及びホースバンド330は、それぞれ同一部品により構成されている。従って、図1に示す平面図は、回転環ユニット300の平面図と同一である。つまり、図1は、図2において、左側から軸線方向に回転環310及び環状部材320を見た図にも相当する。また、図2中の回転環310及び環状部材320は、図1におけるBB断面図に相当する。
【0029】
このように構成される回転環ユニット300は、回転軸500に取り付けられる。すなわち、回転軸500に固定されたカラー250に取り付けられたピン253が、環状部材320に設けられている貫通孔321に挿入されることによって、回転環ユニット300は回転軸500に取り付けられる。つまり、回転環ユニット300は、カラー250に対して、ピン253によって回転方向に移動しないように規制されている。なお、特に図示はしないが、環状部材320にも、回転環310に形成された孔や切り欠きに係合するピンが設けられており、回転環310は環状部材320に対して回転方向に移動しないように構成されている。
【0030】
なお、回転環310の内周側には段差部312が形成されており、この段差部312にOリングO2が装着されることで、回転軸500の外周面と回転環310の内周面との間の環状隙間が封止される。また、回転環310の外周側には環状溝313が形成されており、この環状溝313にOリングO3が装着されることで、カラー250の内周面と回転環310の外周面との間の環状隙間も封止される。また、カラー250も2つに分割された分割体により構成されており、これら2つの分割体はボルト251によって固定される。これにより、分割体同士が固定されることで環状のカラー250が構成される。また、カラー250は、セットスクリュ252によって回転軸500に固定される。
【0031】
そして、上記の通り、複数のスプリング240によって、固定環ユニット200は回転環ユニット300側に付勢されるので、固定環210のシール端面213と、回転環310のシール端面314とが離れてしまうことはない。なお、固定環210のシール端面213と回転環310のシール端面314とはいずれも先端に向かうにつれて先細りする構成となっている。
【0032】
以上のように構成されるメカニカルシール100によれば、回転軸500の回転に伴って回転環ユニット300も回転し、回転環310のシール端面314と固定環210のシール端面213とが密着した状態を保ちながら摺動する。従って、密封対象流体の外周側(B)への漏れを抑制することができる。
【0033】
<メカニカルシールの構成部材>
メカニカルシール100を構成する部材について、より詳細に説明する。本実施例に係るメカニカルシール100を構成するシールリング(固定環210及び回転環310)及び環状部材(環状部材220,320)は、装着性の観点(必要性)から、いずれも2つの分割体を組み合わせることによって環状の部材となる二つ割構造である。つまり、本実施例に係るメカニカルシール100においては、分割された複数の分割体を組み合わせることにより環状のシールリングが構成される分割型シールリングを採用している。
【0034】
また、固定環ユニット200と回転環ユニット300は、基本的な構成は同一である。そして、上記の通り、本実施例では、固定環ユニット200を構成する固定環210,環状部材220及びホースバンド230と、回転環ユニット300を構成する回転環310,環状部材320及びホースバンド330は、それぞれ同一部品により構成されている。ただし、本実施例に係るメカニカルシール100は静止形のシールであるため、固定環ユニット200側の環状部材220に設けられた複数のスプリング孔222には、それぞれスプリング240が装着される。これに対して、回転環310側の環状部材320に設けられた複数のスプリング孔322は空になっている。そして、ホースバンド230,330は、図3及び図4に示すように、金属製バンド231,331と、金属製バンド231,331を締め付ける締め付けボルト232,332とを備えている。ホースバンド(上記の通りホースクリップとも呼ばれる)については、公知技術であるので詳細な説明は省略するが、ホースバンドにおいては、ボルトを締め付けたり緩めたりすることで、金属製バンドを締め付けたり緩めたりすることができるように構成されている。
【0035】
以上より、以下の説明においては、説明を簡略化するために、固定環ユニット200側の構成部品についてのみ詳細に説明する。
【0036】
固定環210は、SiCやアルミナなどのセラミックス(塑性材料)によって構成される。そして、この固定環210は、例えば、環状の部材を引っ張ることによって2つに分割した2つの分割体210A,210Bから構成される。本実施例においては、環状の部材を2つに分割し易くするために、内周側に2つの切欠き214が設けられている(図1参照)。従って、図1中左右方向に環状の部材を引っ張ることで、切欠き214が設けられた部分が割れて、2つの分割体210A,210Bが得られる。そして、2つの分割体210A、210Bを組み合わせることで構成される固定環210の外周には環状溝211が形成される。なお、回転環310についても同一の構成であり、その外周には環状溝311が形成される。
【0037】
環状部材220は金属又は樹脂製の部材であり、2つの分割体(以下、適宜、分割体220A,220Bと称する)を組み合わせることによって環状の部材が構成される。これらの分割体220Aと分割体220Bはボルト223によって固定される。また、環状部材220には、上記の通り、ピン610が挿入される貫通孔221と、スプリング240が装着される複数のスプリング孔222が設けられている。環状部材320についても同一の構成である。
【0038】
固定環ユニット200を組み立てる場合、まず、2つの分割体210A,210Bを組み合わせることで環状の固定環210を形成させる。そして、固定環210に形成された環状溝211に、環状部材220を構成する分割体220A及び分割体220Bを嵌合させる。このとき、固定環210を構成する分割体210A,210Bの分割面と環状部材220を構成する分割体220A,220Bの分割面が90°ずれるようにするのが望ましい。そして、分割体220Aと分割体220Bとをボルト223によって固定する。ここで、固定環210に形成された環状溝211の溝幅と環状部材220の幅(軸線方向の長さ)は同一寸法となるように設計されている。そのため、固定環210に形成された環状溝211に環状部材220が嵌合されることによって、固定環210を構成する分割体210A及び分割体210Bの軸線方向の位置決めがなされる。
【0039】
このように、環状部材220によって、分割体210Aと分割体210Bの軸線方向の位置決めがなされた状態で、ホースバンド230によって、これら分割体210Aと分割体210Bの外周面が締め付けられる。これにより、分割体210Aと分割体210Bが固定される。なお、ホースバンド230における締め付けボルト232を締め付けることにより、分割体210Aと分割体210Bから構成される固定環210の外周面を締め付けることで、固定環210の外周面を全周に亘ってほぼ均一な締め付け力で締め付けることができる。
【0040】
ここで、固定環210において、ホースバンド230によって締め付けられる部分の外周面の外径は、環状部材220において、ホースバンド230の金属製バンド231が接触し得る部位の外径よりも大きくなるように設計されている。従って、金属製バンド231による締め付け力が環状部材220に作用してしまうことは抑制される。つまり、金属製バンド231による締め付け力は固定環210にのみ作用するように設計されている。なお、回転環ユニット300の組み立てについても、固定環ユニット200の場合と同様である。
【0041】
なお、本実施例においては、アウトサイドシールであることから、メカニカルシール100を構成する各種部材は大気側に露出している。従って、メカニカルシール100の設置(組立)が容易である。
【0042】
<本実施例に係るメカニカルシールの優れた点>
本実施例に係るメカニカルシール100によれば、複数の分割体の外周面が金属製バンドにより締め付けられることで、これら複数の分割体が固定される。すなわち、固定環ユニット200においては、複数の分割体210A,210Bの外周面が金属製バンド231により締め付けられることで、これら複数の分割体210A,210Bが固定される。回転環ユニット300においても同様である。従って、クランピングリングによって複数の分割体が固定される構造に比べて、構造の簡易化と小型化を可能とすることができる。また、金属製バンド231,331により固定することで、固定環210の外周面及び回転環310の外周面を全周に亘ってほぼ均一な締め付け力で締め付けることができるという利点もある。これに伴って、密封性も高くなる。なお、一般的なクランピングリングは、互いに組み合わせられることで環状になる2つの部材と、これら2つの部材を固定するボルトとから構成される。このように構成されるクランピングリングの場合、ボルトを締め付ける位置から90°ずれた付近の締め付け力が最も高くなり、締め付け力は周方向に均一にはならない。これに伴って、密封性が低下してしまうおそれがある。
【0043】
また、本実施例に係るメカニカルシール100によれば、シールリングの外周に形成された環状溝に環状部材を嵌合させることで、複数の分割体同士の軸線方向の位置決めがなされる。すなわち、固定環ユニット200においては、固定環210の外周に形成された環状溝211に環状部材220を嵌合させることで、複数の分割体210A,210B同士の軸線方向の位置決めがなされる。回転環ユニット300においても同様である。
【0044】
そして、環状部材によって、複数の分割体同士の軸線方向の位置決めがなされた状態で、金属製バンドによって複数の分割体の外周面が締め付けられることで、これら複数の分割体が固定される。すなわち、固定環ユニット200においては、環状部材220によって、複数の分割体210A,210B同士の軸線方向の位置決めがなされた状態で、金属製バンド231によって複数の分割体210A,210Bの外周面が締め付けられることで、これら複数の分割体210A,210Bが固定される。回転環ユニット300においても同様である。
【0045】
以上により、複数の分割体の軸線方向の位置決めと、径方向の位置決めの両方を精度よく行うことが可能となる。
【0046】
また、本実施例においては、環状部材によって、複数の分割体が仮固定された状態で、ホースバンドによる固定を行えば良いので組み立て作業が容易であるという利点もある。
【0047】
また、本実施例においては、シールリングを自然二つ割としているため、割面同士がかみ合って、ずれ難いという利点もある。
【0048】
なお、固定環210を構成する分割体210A,210Bの分割面と環状部材220を構成する分割体220A,220Bの分割面が周方向にずれる(例えば、90°ずれる)ようにするとよい(図1参照)。回転環310についても同様である。
【0049】
また、本実施例においては、固定部材(ホースバンド230,330)の一部が環状部材220,320の外周側を巻付くように構成されている(図2参照)。これにより、環状部材220,320が何らかの影響で外れてしまうことを抑制できる。なお、上記の通り、環状部材220,320に対しては、ホースバンド230,330における金属製バンド231,331による締め付け力は作用しないように構成されている。
【0050】
更に、本実施例においては、固定環ユニット200を構成する固定環210,環状部材220及びホースバンド230と、回転環ユニット300を構成する回転環310,環状部材320及びホースバンド330は、それぞれ同一部品により構成されている。これにより、メカニカルシール100全体のコストを削減することができる。
【0051】
また、本実施例においては、環状部材220に、固定環210を軸線方向に付勢するスプリング240が装着されるスプリング孔222が形成されている。これにより、環状部材220に対して、複数の分割体210A,210Bの軸線方向の位置決めを行う機能と、スプリング240を支持するための機能を兼ね備えさせることができる。これにより、部品点数の増加を抑制することができる。
【0052】
(実施例2)
図5には、本発明の実施例2が示されている。上記実施例1では、固定環と回転環が同一の部品にて構成される場合を示した。これに対して、本実施例ではメカニカルシールをコンパクトにするために、固定環と回転環が異なる部品で構成される場合を説明する。その他の基本的な構成および作用については実施例1と同一なので、同一の構成部分については同一の符号を付して、その説明は省略する。
【0053】
本実施例に係るメカニカルシール100においては、回転環ユニット300aを構成するシールリングとしての回転環310aの構成が、上記実施例1の回転環310の構成と異なっている。すなわち、本実施例に係る回転環310aは、軸線方向の寸法を短くするために、実施例1における回転環310に対して、シール端面314とは反対側の端部が切削加工により切削された構成となっている。これに伴って、本実施例の場合にはOリングO3は備えられていない。また、これらに伴い、カラー250aの構成も、実施例1におけるカラー250よりもシンプルな構造となっている。
【0054】
以上のように構成された本実施例に係るメカニカルシール100においても、上記実施例1の場合と同様の効果を得ることができる。また、本実施例の場合には、実施例1の場合に比べて、回転環310aの軸線方向の長さを短くすることができ、メカニカルシール100全体の軸線方向の長さを短くすることが可能となる。
【0055】
(実施例3)
図6には、本発明の実施例3が示されている。上記実施例1,2においては、複数の分割体同士の軸線方向の位置決めを行うために、環状部材が設けられる場合の構成を示した。これに対して、本実施例ではメカニカルシールをコンパクトにするために、環状部材が備えられない場合を説明する。なお、上記実施例1または実施例2と同一の構成については、同一の符号を付して、その説明は適宜省略する。
【0056】
本実施例に係るメカニカルシール100も、上記各実施例の場合と同様に、固定環ユニット200bと回転環ユニット300bを備えたアウトサイドシールであり、回転軸500とハウジング600との間の環状隙間を封止する役割を担っている。
【0057】
そして、本実施例に係る固定環ユニット200bも、上記各実施例の場合と同様に、環状のシールリングとしての固定環210bを備えている。この固定環210bが複数の分割体から構成される点については、上記各実施例の場合と同様である。例えば、上記実施例1で説明したように、自然二つ割により得られた2つの分割体により固定環210bを構成することができる。また、これら複数の分割体を固定するホースバンド230が備えられる点についても、上記各実施例の場合と同様である。そして、本実施例の場合には、上記各実施例の場合とは異なり、複数の分割体同士の軸線方向の位置決めを行う環状部材は備えられていない。また、これに伴って、固定環210bの外周には、環状部材を嵌合させるための環状溝は設けられていない。
【0058】
本実施例に係る固定環ユニット200bにおいても、上記各実施例の場合と同様に、ハウジング600に取付けられる。本実施例の場合には、ハウジング600の端面に取り付けられた回り止め部としてのピン620が、固定環210b自体に設けられている被係合部としての取り付け孔215に挿入される(係合される)。これにより、固定環ユニット200bはハウジング600に取り付けられる。なお、固定環210bの外周側には環状溝212が形成されている。この環状溝212にOリングO1が装着されることで、ハウジング600の内周面と固定環210bの外周面との間の環状隙間が封止される。
【0059】
また、本実施例の場合には、固定環210b自体に、スプリング240が装着されるスプリング孔216が複数設けられており、これら複数のスプリング孔216にそれぞれスプリング240が装着される。これにより、固定環ユニット200bは回転環ユニット300b側に付勢されている。つまり、固定環ユニット200bは、ハウジング600に対して、回転方向についてはピン620によって移動しないように規制されているが、軸方向については移動可能に構成されている。
【0060】
回転環ユニット300bも、環状のシールリングとしての回転環310bを備えている。そして、この回転環310bが複数の分割体から構成される点については、上記各実施例の場合と同様である。また、これら複数の分割体を固定するホースバンド330が備えられる点についても、上記各実施例の場合と同様である。そして、本実施例の場合には、上記各実施例の場合とは異なり、複数の分割体同士の軸線方向の位置決めを行う環状部材は備えられていない。また、これに伴って、回転環310bの外周には、環状部材を嵌合させるための環状溝は設けられていない。
【0061】
このように構成される回転環ユニット300bは、回転軸500に取り付けられる。すなわち、回転軸500に固定されたカラー250aに取り付けられた回り止め部としてのピン253が、回転環310b自体に設けられている被係合部としての取り付け孔315に挿入される(係合される)。これにより、回転環ユニット300bは回転軸500に取り付けられる。つまり、回転環ユニット300bは、カラー250aに対して、ピン253によって回転方向に移動しないように規制されている。
【0062】
そして、上記の通り、複数のスプリング240によって、固定環ユニット200bは回転環ユニット300b側に付勢されるので、固定環210bのシール端面213と、回転環310bのシール端面314とが離れてしまうことはない。
【0063】
以上のように構成されるメカニカルシール100においても、回転軸500の回転に伴って回転環ユニット300bも回転し、回転環310bのシール端面314と固定環210bのシール端面213とが密着した状態を保ちながら摺動する。従って、密封対象流体の外周側(B)への漏れを抑制することができる。
【0064】
シールリングの構成について、より詳細に説明する。上記の通り、本実施例に係るメカニカルシール100を構成するシールリング(固定環210b及び回転環310b)も、上記各実施例の場合と同様に、装着性の観点(必要性)から、2つの分割体を組み合わせることによって環状の部材となる二つ割構造である。つまり、本実施例に係るメカニカルシール100においても、分割された複数の分割体を組み合わせることにより環状のシールリングが構成される分割型シールリングを採用している。そして、固定環ユニット200bと回転環ユニット300bは、基本的な構成は同一である。そのため、以下の説明においては、説明を簡略化するために、固定環ユニット200b側の構成部品についてのみ詳細に説明する。
【0065】
固定環210bは、SiCやアルミナなどのセラミックス(塑性材料)によって構成される。この固定環210bは、例えば、環状の部材を引っ張ることによって2つに分割した2つの分割体から構成される。そして、固定環ユニット200bを組み立てる場合、2つの分割体を組み合わせることで環状の固定環210bを形成させた後に、ホースバンド230における金属製バンド231によって、これら2つの分割体の外周面を締め付ける。これにより、2つの分割体が固定される。なお、ホースバンド230における締め付けボルト232を締め付けることにより、2つの分割体から構成される固定環210bの外周面を金属製バンド231により締め付けることで、固定環210bの外周面を全周に亘ってほぼ均一な締め付け力で締め付けることができる。なお、回転環ユニット300bの組み立てについても、固定環ユニット200bの場合と同様である。
【0066】
以上のように構成される本実施例に係るメカニカルシール100においても、複数の分割体の外周面が金属製バンドにより締め付けられることで、これら複数の分割体が固定される。従って、クランピングリングによって複数の分割体が固定される構造に比べて、構造の簡易化と小型化を可能とすることができる。また、金属製バンド231,331により固定することで、固定環210bの外周面及び回転環310bの外周面を全周に亘ってほぼ均一な締め付け力で締め付けることができるという利点もある。これに伴って、密封性も高くなる。
【0067】
また、本実施例においては、固定環210b自体に、スプリング240が装着されるスプリング孔216が形成されている。従って、クランピングリングによって複数の分割体が固定される従来構造において、クランピングリングにスプリング孔を設ける場合に比べて、構造を小型化することができる。
【0068】
更に、本実施例においては、回転軸500側(より具体的には、回転軸500に固定されたカラー250a)に設けられたピン253が係合される被係合部としての取り付け孔315が、回転環310bに設けられている。そして、ハウジング600側に設けられたピン620が係合される被係合部としての取り付け孔215が、固定環210bに設けられている。従って、クランピングリングによって複数の分割体が固定される従来構造において、クランピングリングに被係合部を設ける場合に比べて、構造を小型化することができる。
【0069】
(その他)
上記各実施例においては、シールリング(固定環,回転環)が2つの分割体から構成される場合を示した。しかしながら、本発明は、シールリングが3つ以上の分割体から構成される場合にも適用可能である。
【符号の説明】
【0070】
100 メカニカルシール
200,200b 固定環ユニット
210,210b 固定環
210A,210B 分割体
211 環状溝
212 環状溝
213 シール端面
215 取り付け孔
216 スプリング孔
220 環状部材
220A,220B 分割体
221 貫通孔
222 スプリング孔
223 ボルト
230 ホースバンド
231 金属製バンド
232 ボルト
240 スプリング
250,250a カラー
251 ボルト
252 セットスクリュ
253 ピン
300,300a,300b 回転環ユニット
310,310a 回転環
311 環状溝
312 段差部
313 環状溝
314 シール端面
315 取り付け孔
320 環状部材
321 貫通孔
322 スプリング孔
330 ホースバンド
331 金属製バンド
332 ボルト
500 回転軸
600 ハウジング
610 ピン
O1,O2,O3 Oリング
図1
図2
図3
図4
図5
図6