特許第6283035号(P6283035)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6283035
(24)【登録日】2018年2月2日
(45)【発行日】2018年2月21日
(54)【発明の名称】試料中の成分を検出するための装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/27 20060101AFI20180208BHJP
【FI】
   G01N21/27 Z
【請求項の数】26
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2015-547260(P2015-547260)
(86)(22)【出願日】2013年12月17日
(65)【公表番号】特表2016-503883(P2016-503883A)
(43)【公表日】2016年2月8日
(86)【国際出願番号】IB2013061031
(87)【国際公開番号】WO2014097141
(87)【国際公開日】20140626
【審査請求日】2015年6月12日
【審判番号】不服2017-2870(P2017-2870/J1)
【審判請求日】2017年2月28日
(31)【優先権主張番号】PA201200816
(32)【優先日】2012年12月20日
(33)【優先権主張国】DK
(73)【特許権者】
【識別番号】500554782
【氏名又は名称】ラジオメーター・メディカル・アー・ペー・エス
(74)【代理人】
【識別番号】100140109
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 新次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100120112
【弁理士】
【氏名又は名称】中西 基晴
(74)【代理人】
【識別番号】100119781
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 彰吾
(72)【発明者】
【氏名】アナスン,ヴィリ・リネゴー
(72)【発明者】
【氏名】ハンスン,ハイネ
(72)【発明者】
【氏名】ダネヴァング,オーロフ
(72)【発明者】
【氏名】ハンスン,オーレ・ムンク
【合議体】
【審判長】 伊藤 昌哉
【審判官】 ▲高▼見 重雄
【審判官】 信田 昌男
(56)【参考文献】
【文献】 特表平3−500207(JP,A)
【文献】 特表2001−516019(JP,A)
【文献】 特開平4−1556(JP,A)
【文献】 特開平4−332535(JP,A)
【文献】 特表2006−523846(JP,A)
【文献】 特表平7−500904(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N21/00-21/61
G01N33/48-33/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体外の試料(sample)中の第1の成分(component)の未知の濃度を検出するための装置であって、前記第1の成分が、少なくとも第1の波長の放射線に応答し、前記生体外の試料が、前記第1の成分と、少なくとも第2の波長の放射線に応答する第2の成分とを含む、装置であって、
放射線を前記生体外の試料の方に向けるように構成された少なくとも1つの放射線源と、
少なくとも前記第1および前記第2の波長の放射線を検出するように構成された少なくとも1つの放射線検出器であって、前記検出された放射線が、放射線路に沿って少なくとも前記生体外の試料の一部分中を伝搬した、放射線検出器と、
前記検出された放射線を示す前記少なくとも1つの放射線検出器から少なくとも1つの検出器信号を受け取り、
− 少なくとも前記第2の波長における放射線の前記生体外の試料による決定された吸光度(absorbance)から前記放射線路の推定経路長(estimated path)を決定し、
− 少なくとも前記第1の波長における放射線の前記生体外の試料による決定された吸光度から、および前記推定経路長から、前記第1の成分の推定濃度(estimated concentration)を決定し、
− 少なくとも前記推定濃度から、および前記推定濃度を使用して前記第1の成分の存在に対して補正された(corrected)補正経路長を示す補正項(correction term)から、前記第1の成分の補正濃度を決定する働きをする処理ユニットとを備える装置。
【請求項2】
前記生体外の試料を収容するための試料室をさらに備え、前記試料室が前記放射線路を画定する(defining)、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
少なくとも第1の経路長と第2の経路長との間の前記放射線路の前記経路長を変化させる働きをするアクチュエータを更に備え、前記処理ユニットが、ぞれぞれ、前記第1の経路長および前記第2の経路長(path length)に設定された前記経路長を用いて測定された前記第1の波長における吸光度測定値の差から前記第1の成分の濃度を決定する働きをする、請求項2に記載の装置。
【請求項4】
前記処理ユニットが、
− 前記第2の波長における少なくともそれぞれの吸光度測定値から前記第1の経路長と前記第2の経路長との間の推定経路長の差を決定し、
− 少なくとも、それぞれ、前記第1の経路長および前記第2の経路長に設定された前記経路長を用いて測定された前記第1の波長における吸光度測定値の差から、および前記推定経路長の差から、前記第1の成分の前記推定濃度を決定し、
− 少なくとも前記推定濃度から、および前記推定濃度を使用して前記第1の成分の存在に対して補正された前記第1の経路長と前記第2の経路長との間の補正経路長の差を示す補正項から、前記第1の成分の補正濃度を決定する働きをする、
請求項3に記載の装置。
【請求項5】
前記処理ユニットが、さらに、少なくとも第3の波長における前記生体外の試料の前記吸光度から、前記推定経路長から、および前記第1の成分の前記推定濃度を使用して前記第1の成分の存在に対して補正された補正経路長を示す補正項から、前記生体外の試料の第3の成分の濃度を決定する働きをし、前記第3の成分が、少なくとも前記第3の波長の放射線に応答する、請求項1から4のいずれか一項に記載の装置。
【請求項6】
前記処理ユニットが、さらに、少なくとも第3の波長における前記生体外の試料の前記吸光度から、および前記推定経路長から、前記生体外の試料の第3の成分の濃度を決定する働きをし、前記第3の成分が、少なくとも前記第3の波長の放射線に応答する、請求項1から4のいずれか一項に記載の装置。
【請求項7】
前記少なくとも1つの放射線源が、少なくとも前記第1の波長における放射線を生じるように構成された第1の放射線源と、少なくとも前記第2の波長における放射線を生じるように構成された第2の放射線源とを備える、請求項1から6のいずれか一項に記載の装置。
【請求項8】
前記第1の放射線源からの放射線および前記第2の放射線源からの放射線を共通の放射線路に沿って生体外の試料を通して向けるように構成されたビームコンバイナを備える、請求項7に記載の装置。
【請求項9】
前記少なくとも1つの放射線検出器が、少なくとも前記第1の波長における放射線を検出するように構成された第1の放射線検出器と、少なくとも前記第2の波長における放射線を検出するように構成された第2の放射線検出器とを備える、請求項1から8のいずれか一項に記載の装置。
【請求項10】
前記放射線の第1の部分を前記生体外の試料から前記第1の放射線検出器に向け、前記放射線の第2の部分を前記生体外の試料から前記第2の検出器に向けるように構成されたビームスプリッタを備える、請求項9に記載の装置。
【請求項11】
生体外の試料中の第1の成分の未知の濃度を決定するための方法であって、前記第1の成分が、少なくとも第1の波長の放射線に応答し、前記生体外の試料が、前記第1の成分と少なくとも第2の波長の放射線に応答する第2の成分とを含む、方法において、
− 少なくとも前記第1の波長における前記生体外の試料の測定された第1の吸光度と、少なくとも前記第2の波長における前記生体外の試料の測定された第2の吸光度とを受け取るステップと、
− 少なくとも前記第2の吸光度から、それに沿って前記放射線が前記生体外の試料中を伝搬した放射線路の推定経路長を決定するステップと、
− 少なくとも前記第1の吸光度から、および前記推定経路長から、前記第1の成分の推定濃度を決定するステップと、
− 少なくとも前記推定濃度から、および前記推定濃度を使用して前記第1の成分の存在に対して補正された補正経路長を示す補正項から、前記第1の成分の補正濃度を決定するステップとを含む方法。
【請求項12】
抑制項により前記経路長に関連するとして前記第2の吸光度を決定するための吸光度モデルから前記補正項を決定するステップを含み、前記抑制項が前記第1の成分の濃度の変化に伴って変化する、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記経路長に比例するとしておよび比例の係数により前記経路長に関連するとして前記第2の吸光度を決定するための吸光度モデルから前記補正項を決定するステップを含み、前記第1の成分の濃度が増大するのに伴って、最大係数と最小係数との間で、比例の係数が低減する、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
少なくとも第3の波長における前記生体外の試料の前記吸光度から、前記推定経路長から、および前記第1の成分の前記推定濃度を使用して前記第1の成分の存在に対して補正された補正経路長を示す補正項から、前記生体外の試料の第3の成分の濃度を決定するステップをさらに含み、前記第3の成分が、少なくとも前記第3の波長の放射線に応答する、請求項11から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
少なくとも第3の波長における前記生体外の試料の前記吸光度から、および前記推定経路長から、前記生体外の試料の第3の成分の濃度を決定するステップをさらに含み、前記第3の成分が、少なくとも前記第3の波長の放射線に応答する、請求項11から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
それに沿って放射線が生体外の試料中を伝搬した放射線路の経路長を決定するための方法であって、前記生体外の試料が、少なくとも第1の波長における放射線に応答する第1の成分を含み、第2の成分が、少なくとも第2の波長における放射線に応答当該第1の成分の濃度が未知である、方法であって、
− 少なくとも前記第1の波長における前記生体外の試料の測定された第1の吸光度と、少なくとも前記第2の波長における前記生体外の試料の測定された第2の吸光度とを受け取るステップと、
− 少なくとも前記第2の吸光度から、それに沿って前記放射線が前記生体外の試料中を伝搬した放射線路の推定経路長を決定するステップと、
−少なくとも前記第1の吸光度から、および前記推定経路長から、前記第1の成分の推定濃度を決定するステップと、
− 前記第1の成分の前記推定濃度を使用して前記第1の成分の存在に対して前記推定経路長を補正するステップとを含む、方法。
【請求項17】
前記推定経路長が、モデルパラメータにより前記経路長に関連するとして前記第2の吸光度を決定するための吸光度モデルから決定された補正項によって補正され、前記モデルパラメータが、前記第1の成分の濃度の変化に伴って変化する、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記補正項が、前記経路長に比例するとして前記第2の吸光度を決定するための吸光度モデルから決定され、前記第1の成分の濃度の増大に伴って、最大係数と最小係数との間で、前記比例の係数が低減する、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記第1の成分が検体(analyte)であり、前記第2の成分が溶媒(solvent)である、請求項11から18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記溶媒が水である、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記検体が総ヘモグロビン、ビリルビン、およびヘモグロビンの誘導体(derivative)から選択される、請求項19または20に記載の方法。
【請求項22】
前記推定経路長を決定するステップが、前記第1の吸光度および所定の比例係数から前記推定経路長を決定するステップを含む、請求項11から210のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
請求項11から22のいずれか一項に記載の前記方法の前記ステップを実施するように構成された信号またはデータ処理装置。
【請求項24】
放射線を生体外の試料の方に向けるように構成された少なくとも1つの放射線源と、少なくとも前記第1および前記第2の波長の放射線を検出するように構成された少なくとも1つの放射線検出器とをさらに備え、前記検出された放射線が放射線路に沿って少なくとも前記生体外の試料の一部分中を伝搬した、請求項23に記載の信号またはデータ処理装置。
【請求項25】
プログラムコードがデータ処理システムによって実行されるとき、前記データ処理システムに請求項11から22のいずれか一項の前記方法の前記ステップを実施させるように構成された前記プログラムコードを備えるコンピュータプログラム。
【請求項26】
その上に請求項25に記載のコンピュータプログラムを格納したコンピュータ可読媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に開示するのは、試料中の成分を検出するための装置の実施形態であり、具体的には、試料による放射線の吸光度を測定することによって試料中の成分を検出するためのそのような装置の実施形態である。
【背景技術】
【0002】
試料を放射線に曝露することにより、および試料による放射線の吸光度を測定することにより、血液の試料など、試料中の成分を検出するための測光方法がよく知られている。
例えば、そのような方法は、光学的測定に基づいて体成分の濃度を決定するために診断分析の分野内で広く使用されている。ランベルト・ベールの法則は、光学的測定に適用され、その場合、試料を通る放射線源からの放射線の透過度は、検出器によって決定される、すなわち、吸光度は試料中の吸収種の濃度ならびに試料の厚さ、すなわち、試料を通る放射線路の経路長に比例する。この比例係数は、減衰係数と呼ばれる。
【0003】
したがって、ランベルト・ベールの法則を適用して未知の濃度の組成成分を決定するには、経路長(減衰係数と共にまたは減衰係数に組み合わせて)を知る必要がある。
測定装置では、経路長は、しばしば試料室の寸法によって画定される。そのような室の寿命が長く、多数の測定に使用できるとき、寸法は、例えば、既知の濃度の組成成分を有する試料を使用して校正プロセスの間に決定することができる。同じことが、高い精度で製造することができる試料室にも当てはまる。しかし、試料室の寿命が短いとき、または試料室の寸法が時間がたつにつれて安定しないかまたは室によって異なるとき、頻繁な校正が必要になり、したがって、結果として測定システムの効率が低下することになる。にもかかわらず、寿命の短い試料室または使い切りの試料室またはより大きな公差で製造される試料室は、製造するのに相当に費用が安いことがあるので、使用するのが望ましいことがある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
米国特許第6,442,411号は、ヘモグロビンやグルコースなどの血液組成成分の生体内分析の方法を開示している。この従来技術は、動脈拍動の収縮および拡張部分の間、水の分別定量を用いて光学経路長を決定するための内部基準として血液試料中の含水量を使用する。米国特許第6,442,411号によれば、血液中の水濃度の変動性は、平均レベルを中心にして1.8%である。用途によっては、このようなレベルの精度で十分であり得るが、一般には、試料の組成成分の濃度の測定の精度をさらに増大させることが望ましいであろう。例えば、多くの体外分析のためには、しばしばより高い精度が所望される。
【課題を解決するための手段】
【0005】
一態様によれば、本明細書に開示するのは、試料中の第1の成分を検出するための装置の実施形態であり、第1の成分が、少なくとも第1の波長の放射線に応答し、試料が、第1の成分と少なくとも第2の波長の放射線に応答する第2の成分とを含む。装置の実施形態は、
− 放射線を試料の方に向けるように構成された少なくとも1つの放射線源と、
− 少なくとも第1および第2の波長の放射線を検出するように構成された少なくとも1つの放射線検出器であって、前記検出された放射線が、放射線路に沿って少なくとも試料の一部分中を伝搬した、放射線検出器と、
− 検出された放射線を示す少なくとも1つの放射線検出器からの少なくとも1つの検出器信号を受け取る働きをする処理ユニットとを備える。
【0006】
処理ユニットの実施形態は、
− 第2の波長における放射線の試料による少なくとも決定された吸光度から放射線路の推定経路長を決定し、
− 第1の波長における放射線の試料による少なくとも決定された吸光度から、および推定経路長から、第1の成分の推定濃度を決定し、
− 少なくとも推定濃度から、および推定濃度を使用して第1の成分の存在に対して補正された補正経路長を示す補正項から、第1の成分の補正濃度を決定するようにさらに構成される。
【0007】
第1の成分の濃度は、第1の成分が応答する第1の波長における吸光度測定値に基づいて、および試料の第2の成分が応答する第2の波長における吸光度測定値から決定される推定経路長に基づいて計算される。推定経路長は、試料中の第1の成分の存在に対して補正される。したがって、放射線経路長のより正確な決定が達成され、同様にそれは、結果として第1の成分の濃度のより正確な決定となる。
【0008】
具体的には、血液試料の組成成分を測定する文脈において、血液試料の水濃度は、典型的には数パーセントの範囲内の、どちらかと言えば低い変動性を表示するが、それに基づく放射線経路長の決定は、多くの用途で不十分であり、具体的には、血液組成成分の正確な体外分析のためには不十分であることが本発明者らには分かった。この文脈において、血液中の水濃度が、ある一定の血液成分、具体的には血液のヘモグロビン組成成分の存在によって偏ることが本発明者らには分かった。
【0009】
したがって、本発明により、放射線路長の改善された決定に基づいて計算された結果の補正が提供される。これにより、改善された精度で行われる、すなわち、ある一定の血液組成成分から起きる偏りを考慮に入れることにより、測定デバイスの測定室の放射線経路の長さの決定が可能となる。装置のいくつかの実施形態は、明確に補正経路長を決定することができるが、そのような明確な計算は、例えば、第1の成分の濃度の決定だけが所望される実施形態において、必要でない可能性があることが理解されよう。したがって、多くの状況において、補正項が初期推定経路長の不正確さを補償する、補正項を初期推定濃度に適用するので十分であり得る。例えば、補正項は、補正濃度を得るように初期推定濃度と乗算する補正係数であり得る。補正項は、第2の波長における吸光度への第1の成分の濃度の影響をモデル化した関数から決定することができる。補正項は、第1の成分の推定濃度に応じて、および1つまたは複数の所定のモデルパラメータから計算することができる。モデルパラメータは、校正プロセスの間にあらかじめ定めることができる。モデルパラメータは、1つの装置に対して決定することができ、複数の他の装置に使用することができる。
【0010】
したがって、本明細書に説明する装置および方法の実施形態により、血液試料は、ある一定の第1の波長の放射線の血液成分の吸光度が、ある一定の第2の波長の放射線の試料の含水量による吸光度と共に決定されるという点において調査することができる。一般に、吸光度は、放射線の出力強度と対応する放射線の入力強度との比の負の対数、例えば、log10として定義することができる。
【0011】
第2の波長における測定された吸光度に基づいて、本明細書に説明する装置および方法の実施形態は、放射線路の長さの初期推定を決定する。したがって、装置は、第2の波長の放射線の水による吸光度から、放射線路の推定長を決定する。
【0012】
続いて、放射線路の推定経路長に基づいて、試料の第1の成分の推定濃度が、第1の波長の放射線のその吸光度から決定される。これらの推定値を関連づけることにより、放射線路の長さの決定が可能となり、したがって、大幅に改善された精度で第1の成分の濃度を決定することが可能となることが本発明者らには分かった。
【0013】
装置のいくつかの実施形態は、生体内測定用であり得るが、装置の他の実施形態は体外測定用であり得る。いくつかの実施形態においては、特に体外測定用の実施形態では、装置は、試料を収容するための試料室を備え、試料室は放射線路を画定する。例えば、試料室は、管やキュベットなどの試料容器であり得る。試料室を画定する壁の少なくとも一部は、放射線が試料室に出入りするのを可能にするように透明材料製である。
【0014】
いくつかの実施形態においては、装置は、放射線路の経路長を少なくとも第1の経路長と第2の経路長との間で変化させる働きをするアクチュエータを備え、処理ユニットが、それぞれ、第1の経路長および第2の経路長に設定された経路長を用いて測定された第1の波長における吸光度測定値の差から第1の成分の濃度を決定する働きをする。したがって、測定値は、試料を通る放射線路長に依存しない吸光度および他のアーチファクト、例えば、試料室を画定する壁の吸光度に対して補正され得る。
【0015】
第1および第2の波長の選択は、異なる試料組成成分が異なる波長に応答するので、試料中で検出される成分によることがあることが理解されよう。具体的には、第1の波長は、一般に第2の波長と異なる。いくつかの実施形態においては、第1の波長は、第2の成分が第1の波長に応答しないように選択され、具体的には、第2の成分の吸光度スペクトルのいずれの吸収ピークも、第1の波長から変位される。同様に、第2の波長は、第1の成分が第2の波長に応答しないように選択することができる。いくつかの実施形態において、例えば、血液試料中のヘモグロビン組成成分を検出する文脈で、第1の波長は、100nmから1400nmまでの間にあり、390nmから750nmまでの可視範囲内など、450nmから700nmまでの間などにある。いくつかの実施形態においては、第2の波長は、750nmから1mmまでの間の赤外領域内にあり、1400nmから1mmまでの間など、4100nmから4400nmまでの間などにある。例えば、第2の成分が水であるとき、第1の波長は、水が有意な吸光度を何ももたない、1400nm未満で選択することができ、第2の波長は、水が放射線を吸収する、1400nm超で選択することができる。第1および/または第2の成分の濃度は、複数の波長における吸収度測定値に基づいて決定することができることをさらに理解されよう。さらに、ある波長における測定は、波長区間内、例えば、中心波長を中心とした区間内の測定を含むことができることを理解されよう。区間の幅は、例えば、試料中を通過した放射線を検出するために使用される検出器の波長選択性によることがある。
【0016】
いくつかの実施形態においては、処理ユニットは、さらに、第3の波長における試料の吸光度から、推定経路長から、および第1の成分の推定濃度を使用して第1の成分の存在に対して補正された補正経路長を示す補正項から、試料の第3の成分の濃度を決定する働きをし、第3の成分が、少なくとも第3の波長の放射線に応答する。したがって、本明細書に開示する装置の実施形態は、第1の成分の存在に対して補正された補正経路長に基づいて複数の成分の濃度を決定するのに使用することができる。血液試料のヘモグロビン測定の文脈において、そのような他の成分の例は、ビリルビンなどのヘモグロビン誘導体を含むことができる。
【0017】
あるいは、第2の成分が水または別の溶媒であるとき、および第3の成分の濃度が試料全体に対してよりも水/溶媒に対して測定されるとき、推定経路長の補正は必要でない可能性があり、第3の成分の濃度は、有利には、推定未補正経路長に基づいて計算することができる。例えば、血液試料の場合、血液水フェーズのCO濃度の測定は望ましいことがある。経路長の推定が水の吸光度に基づくとき、例えばヘモグロビンの存在に対する、この経路長の補正は、CO測定を決定するために必要でない可能性がある。
【0018】
方法は、複数の成分、例えば、第1および第3の成分、の存在により放射線路長の補正を実施するのに適用できることがさらに理解されよう。このような実施形態においては、方法は、それぞれの吸光度測定値に基づいて、および推定経路長に基づいて、第1および第3の成分のそれぞれの濃度を推定するステップと、第1および第3の成分の推定濃度に応じて、および1つまたは複数のモデルパラメータにより補正項を決定するステップとを含むことができる。
【0019】
少なくとも1つの放射線源は、第1および第2の両方の波長において放射線を放射する単一の放射線源を備えることができる。あるいは、少なくとも1つの放射線源は、少なくとも第1の波長において放射線を生じるように構成された第1の放射線源と、少なくとも第2の波長において放射線を生じるように構成された第2の放射線源とを備える。放射線源は、他の構成部品、例えば、フィルタ、干渉計、光源の操作パラメータを制御するためのデバイスなどを含むことができることを理解されよう。装置は、第1および第2の波長の放射線に同じ経路長を有する放射線路に沿って、例えば、共通の放射線路に沿って、試料中を伝搬させるように第1または第2の波長の放射線を向け直すための1つまたは複数の要素をさらに備えることができる。別々の光源を備える一実施形態においては、装置は、第1の放射線源からの放射線および第2の放射線源からの放射線を共通の放射線路に沿って試料を通して向けるように構成されたビームコンバイナを備えることができる。適切な放射線源の例は、所望の波長範囲によることがあり、可視光、紫外線、赤外線を生じるためのランプ、レーザ、発光ダイオード、ガス灯、例えばキセノンランプ、などを含むことができる。
【0020】
同様に、少なくとも1つの放射線検出器は、第1および第2の波長の放射線に応答する単一の検出器を備えることができる。あるいは、装置は、少なくとも第1の波長における放射線を検出するように構成された第1の放射線検出器と、少なくとも第2の波長における放射線を検出するように構成された第2の放射線検出器とを備えることができる。このため、装置のいくつかの実施形態は、放射線の第1の部分を試料から第1の放射線検出器に向け、放射線の第2の部分を試料から第2の検出器に向けるように構成されたビームスプリッタを備える。適切な放射線の例は、所望の波長範囲によることがあり、感光検出器や分光計などを含むことができる。
【0021】
いくつかの実施形態においては、放射線源および放射線検出器は、試料の対向する側に配列することができる。あるいは、検出器の1つまたは複数は、試料の、対応する放射線源と同じ側に配置することができる。例えば、放射線は、試料を通して向け、適切な光学素子、例えば鏡または回折格子によって検出器の方に向け直すことができ、したがって、試料中を再度通過することができる。このような一実施形態においては、放射線路長は、試料中を往復する全放射線路の長さである。
【0022】
本明細書に開示するのは、上記の装置、および以下において、対応する方法、デバイス、および/または製品手段を含む異なる態様であり、それぞれ第1の記述した態様に関連して説明した利益および利点の1つまたは複数をもたらし、それぞれ第1の記述した態様に関連して説明し、および/または添付の特許請求の範囲に開示する実施形態に対応する1つまたは複数の実施形態を有する。
【0023】
一態様によれば、本明細書に開示するのは、試料中の第1の成分の濃度を決定するための方法であって、第1の成分が、少なくとも第1の波長の放射線に応答し、試料が、第1の成分と、少なくとも第2の波長の放射線に応答する第2の成分とを含む、方法であって、
− 少なくとも第1の波長における試料の測定された第1の吸光度と、少なくとも第2の波長における試料の測定された第2の吸光度とを受け取るステップと、
− 少なくとも第2の吸光度から、放射線がそれに沿って試料中を伝搬した放射線路の推定経路長を決定するステップと、
− 少なくとも第1の吸光度から、および推定経路長から、第1の成分の推定濃度を決定するステップと、
−少なくとも推定濃度から、および推定濃度を使用して第1の成分の存在に対して補正された補正経路長を示す補正項から、第1の成分の補正濃度を決定するステップとを含む、方法である。
【0024】
別の態様によれば、本明細書に開示するのは、放射線がそれに沿って試料中を伝搬した放射線路の経路長を決定するための方法であって、試料が、少なくとも第1の波長における放射線に応答する第1の成分と、少なくとも第2の波長における放射線に応答する第2の成分とを含む、方法であって、
− 少なくとも第1の波長における試料の測定された第1の吸光度と、少なくとも第2の波長における試料の測定された第2の吸光度とを受け取るステップと、
− 少なくとも第2の吸光度から、放射線がそれに沿って試料中を伝搬した放射線路の推定経路長を決定するステップと、
−少なくとも第1の吸光度から、および推定経路長から、第1の成分の推定濃度を決定するステップと、
−第1の成分の推定濃度を使用して第1の成分の存在に対して推定経路長を補正するステップとを含む、方法である。
【0025】
したがって、補正経路長は、続いて、それぞれの吸光度測定値に基づいて複数の他の試料の成分の濃度の計算に使用することができる。
本明細書に説明する方法の実施形態の特徴は、ソフトウェアで実施することができ、コンピュータ実行可能命令の実行によって生じた、信号またはデータ処理システムまたは試料の成分を決定するための装置の処理ユニットなど、他のデータおよび/または信号処理デバイス上で実行することができる。命令は、記憶媒体から、またはコンピュータネットワークを介して別のコンピュータから、ランダムアクセスメモリ(RAM)などのメモリに読み込まれたプログラムコード手段であり得る。あるいは、説明した特徴は、ソフトウェアの代わりに配線で接続された回路によってまたはソフトウェアとの組合せで実施することができる。
【0026】
処理ユニットは、例えば、適切にプログラムされたマイクロプロセッサ、コンピュータの、試料の成分を決定するための装置の、または別の処理デバイスのCPU、専用ハードウェア回路など、または上記の組合せである、データ処理を実施するように構成された任意の回路またはデバイスであり得る。処理ユニットは、処理ユニットによって実行されたとき、処理ユニットに本明細書に説明する方法の実施形態のステップを実施させるように適合された、コンピュータプログラムコードをその上に格納させたメモリまたは他の適切な記憶媒体を備えるまたはメモリまたは他の適切な記憶媒体に通信可能に結合することができる。
【0027】
したがって、一態様によれば、本明細書に開示するのは、本明細書に説明する方法の実施形態のステップを実施するように構成された信号またはデータ処理装置の実施形態である。信号またはデータ処理システムは、適切にプログラムされたデータ処理システム、例えば、適切にプログラムされたコンピュータ、または適切にプログラムされた、または他の方法で構成された、放射線検出器からの出力信号を処理するための装置であり得る。
【0028】
いくつかの実施形態においては、信号またはデータ処理装置は、放射線を試料の方に向けるように構成された少なくともと1つの放射線源と、少なくとも第1および第2の波長の放射線を検出するように構成された少なくとも1つの放射線検出器であって、前記検出された放射線が、放射線路に沿って少なくとも試料の一部分中を伝搬した、放射線検出器とを備える。例えば、装置は、血液試料または他の試料用、例えば、臨床診断用の光分析器であり得る。
【0029】
さらに別の態様によれば、本明細書開示するのは、信号またはデータ処理システムに、プログラムコードがデータ処理システムによって実行されたとき、本明細書に開示する方法のステップを実施させるように構成されたプログラムコードを含むコンピュータプログラムの実施形態である。コンピュータプログラムは、その上にコンピュータプログラムを格納させたコンピュータ可読媒体として具現化することができる。コンピュータ可読媒体の例は、磁気記憶媒体、固体記憶媒体、光記憶媒体または任意の他の適切な記憶技術を採用した記憶媒体を含む。具体的には、記憶媒体の例は、ハードディスク、CD−ROMまたは他の光ディスク、EPROM、EEPROM、メモリスティック、スマートカードなどを含む。
【0030】
いくつかの実施形態においては、方法は、抑制項によって第2の吸光度を経路長に関連するとして決定するための吸収モデルから補正項を決定するステップを含み、抑制項が、第1の成分の濃度の変化に伴って変化する。具体的には、吸収モデルは、線形モデルでよく、方法は、経路長に比例し、比例の係数により経路長に関連するとして第2の吸光度を決定するための吸収モデルから補正項を決定するステップを含むことができ、比例の係数が、第1の成分の濃度が増大するのに伴って、最大係数と最小係数との間で減少する。いくつかの実施形態において、補正項は、補正係数であることができ、第1の成分の補正濃度を決定するステップは、第1の成分の推定濃度を補正係数で乗算するステップを含むことができる。いくつかの実施形態においては、補正項、例えば、補正係数は、第1の成分の推定濃度の関数および1つまたは複数の所定のモデルパラメータであることができる。所定のモデルパラメータは、例えば、第1の成分の濃度が変動する試料のいくつかの校正測定値から決定することができ、その場合、第1の成分の濃度は、例えば、適切な基準測定値から、既知である。補正係数は、第1の成分の推定濃度の多項式関数として表すことができる。補正係数を第1の成分の推定濃度の線形関数として表すことは、結果として第1の成分の濃度の正確な決定となることが分かっている。
【0031】
方法および装置の実施形態は、体液や液体など、いくつかの種類の試料におけるいくつかの成分の濃度を決定するのに適用することができる。いくつかの実施形態においては、本明細書に開示する方法および装置は、臨床診断の分野、例えば、血液または他の試料を分析するための装置による測定に適用される。いくつかの実施形態においては、第1の成分は検体であり、第2の成分は水などの溶媒である。いくつかの実施形態においては、第1の成分は、ヘモグロビン、ビリルビン、およびヘモグロビンの誘導体である。本明細書に開示する方法のいくつかの実施形態は、1つより多い成分、例えば、血液試料中のヘモグロビンおよびアルブミンの両方に対する、経路長の補正を実施することができることをさらに理解されよう。
【0032】
本明細書に開示する方法、システムおよびデバイスの実施形態の上記および/または追加の目的、特徴および利点は、添付の図面を参照して、本明細書に開示する方法、システムおよびデバイスの実施形態の以下の例示的および非制限的な詳細な説明によってさらに明確になるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】試料中の成分を決定するための装置の実施形態を概略的に示す図である。
図2】試料中の成分を決定するための装置の測定モジュールの実施形態を概略的に示す図である。
図3】血液試料中のヘモグロビンの存在の、水が応答する波長において測定された吸光度への影響を示す図である。
図4】試料中の成分を決定するための方法の実施形態の流れ図である。
図5】補正係数のパラメータの決定を示す図である。
図6】ヘモグロビン含有量に対する補正なしの校正の比較例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下の説明において、本明細書に開示する方法、システムおよびデバイスの実施形態がどのように実施され得るのかを例示により示す添付の図を参照する。
図1は、試料中の成分を決定するための装置の実施形態を概略的に示す。装置は、測定モジュール100と信号処理モジュール108とを備える。これらの機能モジュールは、統合装置を形成するように同じ筐体内に配置することができる、あるいは他のやり方で互いに構造的に統合することができる。あるいは、それらは、互いに通信可能に接続することができる別々の実体として実施することができる。測定モジュール100は、試料104の吸光度測定を実施し、測定結果を信号処理モジュール108に転送し、信号処理モジュール108は、信号分析を実施し、少なくとも試料の第1の成分の濃度を計算する。
【0035】
測定ユニットは、それぞれ、少なくとも第1および第2の波長の放射線を出力するように適合された第1の放射線源101と第2の放射線源102とを備える。放射線源101からの放射線113および放射線源102からの放射線114は、ビームコンバイナ103によって結合され、分析される試料104を通して向けられる。このため、試料104は、試料室118内に収容され、結合された放射線113と114との経路内に配置される。したがって、放射線は、経路長dを有する放射線路に沿って試料104中を伝搬する。試料104は、入射放射線の一部分を吸収し、別の部分115が試料から出る。試料からの放射線115は、ビームスプリッタ105によって、それぞれ、2つの部分116と117に分割される。部分ビーム116は、第1の放射線検出器107上に向けられ、部分ビーム117は第2の放射線検出器107上に向けられる。検出器106および107からの検出器信号は、信号処理モジュール108に供給される。
【0036】
信号処理モジュール108は、放射線検出器106および107からの検出器信号を受け取るためのインターフェース回路109、例えばデータ収集基板または他の適切な回路を備える。信号処理モジュールは、制御ユニットとしてさらに動作可能であり得る。このため、信号処理モジュール108は、インターフェース回路109を介して、放射線源101および102にさらに接続され、任意選択で測定モジュール100の他の制御可能要素、例えば同調フィルタなどに接続され得る。信号処理モジュール108は、インターフェース回路109に結合され、試料の所望の成分の濃度を計算するように適切にプログラムされた、または他のやり方で構成された処理ユニット110、例えばCPUをさらに備える。このため、処理ユニットは、本明細書に説明する方法の実施形態、例えば、図4を参照して説明する実施形態のステップを実施する働きをする。信号処理モジュール108は、モデルパラメータおよび/またはプログラムコードを格納するための、または処理ユニット110によって使用されるためのメモリ111または他の記憶媒体をさらに備える。処理ユニット108は、計算された濃度を出力するための、出力インターフェース112、例えば、ディスプレイまたはデータ通信インターフェースユニットをさらに備える。メモリ111および出力インターフェース112は、それぞれ処理ユニット110に通信可能に結合される。
【0037】
代替実施形態においては、測定モジュール100および信号処理モジュール108によって実施される機能は、それぞれ、異なるやり方で配分され得ることが理解されよう。例えば、測定モジュールは、信号処理のいくつかを実施し、処理されたデータを信号処理ユニットに転送することができる。
【0038】
放射線源101および102は、適切なフィルタを備えることができ、または他のやり方で実質的にそれぞれ第1および第2の波長の放射線、例えば、それぞれ第1および第2の波長を中心にした狭い周波数帯の放射線を出力するように構成することができる。あるいは、放射線源の1つまたはそれぞれは、波長に応じた強度のスペクトルの記録を可能にするようにより広い波長範囲にわたって放射線を放射することができる。
【0039】
他の代替実施形態においては、装置は、放射線源または単一の放射線検出器が第1および第2の両方の波長において放射線を放射/検出するように適合される単一の放射線源および/または単一の放射線検出器を含むことができる。
【0040】
血液試料中のヘモグロビンを決定する文脈において、第1の放射線源101は、可視光を出力するように適合することができる。具体的には、第1の波長は、スペクトルの可視部分における、例えば576.5nmまたは等吸収波長におけるヘモグロビンに関連した適切な吸光度ピークがあり得る。第2の放射線源は、電磁スペクトルの赤外部分、具体的には、水が放射線を吸収するスペクトルの一部において発光することができる。例えば、第2の波長は、4100nmから4400nmまでの間の範囲内、例えば、4308nmであり得る。
【0041】
放射線検出器106および107は、それぞれ、放射線116および117の強度を検出することができ、その場合、検出器106は、少なくとも第1の波長における放射線に感受性があり、検出器107は、少なくとも第2の波長における放射線に感受性がある。装置は、例えば、試料をビーム経路内に位置させて対応する測定された強度から、および対応する基準強度から吸光度を計算するように、試料104を放射線路内に配置せずに測定を実施することにより、基準強度Iを測定するようにも構成される。吸光度が異なる経路長で測定され、吸光度値の差が計算される実施形態においては、Iの明確な測定は必要とされない。
【0042】
図2を参照し、次に測定モジュール100の実施形態を説明する。具体的には、図2は、血液の試料中のヘモグロビンなどの組成成分を検出するための測定モジュール100の実施形態を示す。図2の測定モジュール100は、図1の測定モジュールと同様であり、第1および第2の放射線源201および202と、ビームコンバイナ203と、試料室218と、ビームスプリッタ205と、放射線検出器206および207とを備え、すべて図1に関連して説明した通りである。
【0043】
放射線源201は、可視範囲内において光、例えば、白色光を発する発光ダイオード(LED)である。放射線源201からの光は、レンズ224を介してビームコンバイナ203上に向けられ、放射線源201および202からの光が共通の放射線路に沿って試料室中を伝搬するように、試料室218を通して向けられる。試料室218を通過した後、結合された放射線は、ビームスプリッタ205によって、光ファイバ229を介して第1の放射線検出器206、この例では、複数の波長における入射光の強度を検出するように構成された分光計上に向けられる、第1の部分的ビームと、第2の放射線検出器207、この例ではIR放射線を検出するための鉛セレン化物検出器上に向けられる第2の部分ビームとに分割される。測定モジュールは、分光計206の波長を校正するのに使用されるキセノンランプ225をさらに備える。
【0044】
放射線源202は、その出力が開口221およびレンズ222を通して干渉計223、例えば、ファブリー・ペロー干渉計に向けられる赤外線源である。干渉計223は、変動する波長の赤外光を発生し、したがって赤外スペクトルの範囲にわたってスキャンの記録を可能にするように制御ユニットによって制御することができる。干渉計223からの出力は、ビームコンバイナ203を介して試料室218を通るように向けられる。代替実施形態においては、干渉計は省略することができる。例えば、検出器207は、干渉計と検出器との結合であり得る。他の代替実施形態においては、干渉計207は、光学バンドパスフィルタで置き換えることができる。具体的には、測定モジュールが赤外放射線に応答する成分の検出に使用されないが、スペクトルの赤外部分における測定は、単に放射線路長を決定するために使用される場合は、これで十分であり得る。
【0045】
測定モジュールは、IR源202の温度の測定および設定を可能にする基準ダイオード220をさらに備える。赤外範囲における血液の吸光度を測定するための適切な放射線源、光学素子および検出器の例は、参照によりその全体においてここに本明細書に組み込まれる米国特許第5,371,020号にも開示される。
【0046】
図2の例において、試料室は、溶血器227と、ティルトベッド228と、経路長モジュレータ226とを備える試料ホルダに収容される。試料室は、光軸に沿った方向に溶血器227とティルトベッド288との間に挟まれる。溶血器227およびティルトベッド228は、それぞれ、放射線が試料を通過することを可能にするように開口を有する。経路長モジュレータ226は、溶血器227をティルトベッド228に向かって作動させ、それによって、試料室218を圧縮させ、したがって、結果として試料室218を通る放射線の経路長が低減することになるように配列される。経路長モジュレータ226が溶血器227を作動させないとき、試料室218は、その、前の形状およびサイズに戻る。したがって、装置は、例えば、米国特許第5,371,020号に説明されるように2つ以上の異なる放射線経路長において吸光度を測定するように構成される。
【0047】
一般に、試料室218は、放射線路の方向に沿って圧縮可能であり得るし、アクチュエータは、試料室218の側壁上に力を与えるように構成することができるが、対向する側壁は、支持部材、例えば、ティルトベッド228にもたれる。したがって、アクチュエータにより、側壁が互いの方に押され、したがって、放射線路の経路長を変化させることができる。例えば、アクチュエータは、圧電素子でよい。
【0048】
溶血器227は、変位可能な部材にまたは直接試料室218に作用する圧電アクチュエータを備えることができる。圧電アクチュエータは、例えば、米国特許第3,972,614号に説明するように、試料室上に伝達される超音波範囲の周波数における機械的振動を光軸に沿って生じさせるように構成することができる。振動により、血液試料中の赤血球が破裂し、それによって、放射線の望ましくない散乱が防止される。
【0049】
図3は、血液試料中のヘモグロビンの存在の水が応答する波長において測定された吸光度への影響を示す図である。具体的には、図3は、それぞれ、0g/dLおよび20g/dLのヘモグロビンを含む血液試料の吸光度スペクトル331および332を示す。図3から明確に分かるように、ヘモグロビンの存在は測定吸光度を低減する。図3は、対応する試料の水中に131mmHgのC0を有するときの吸光度スペクトルをさらに示す。C0に関連した吸光度ピーク333および334があることが明確に分かる。
【0050】
図4は、試料中の成分を決定するための方法の実施形態の流れ図を示す。具体的には、図4のプロセスは、血液試料中のヘモグロビンの濃度を決定する。プロセスは、図1または図2の測定モジュール100からの受け取った検出器信号に応答して図1の処理ユニット110によって実施することができる。
【0051】
初期ステップS1において、プロセスは、ヘモグロビンが例えば576.5nmで応答する第1の波長における血液の試料の吸光度測定値AVISを受け取る。プロセスは、スペクトルのIR範囲内の適切な第2の波長、例えば4308nmにおいて、AVISの測定値と同じ放射線路長で測定された血液試料の吸光度測定値AIRをさらに受け取る。
【0052】
ステップS2において、プロセスは、例えば、以下の関係に基づいて放射線路の推定経路長dを推定する。
=k*AIR (1)
ここで、kは、例えば、既知の放射線路長における試料流体、例えば、水の吸光度を測定することにより、または異なる既知の放射線路長における複数の測定を実施することにより、および線形回帰分析を実施することにより、初期校正の間、決定することができる定数である。定数kは、方法を実施する処理ユニットにアクセス可能なメモリ411、例えば図1のメモリ111に格納することができる。
【0053】
ステップ3において、プロセスは、測定吸光度AVISからおよび推定経路長dから推定ヘモグロビン濃度ctHbを計算する。このため、処理ユニットは、測定吸光度AVISからおよび所与の基準/正規化された経路長dに対する正規化された濃度ctHbnormを計算するための関数を格納した可能性がある。この関数は、ベールの法則および所定の消光率εを使用することができ、それはこの場合もやはり、例えば次式により、校正測定値から決定することができる。
ctHbnorm(A)=A/(ε*d)=const.*A
測定吸光度からctHbnormを計算するための関数ctHbnorm(A)は、処理ユニットにアクセス可能なメモリ411、例えば図1のメモリ111に格納することができる。
【0054】
したがって、推定経路長dの推定濃度ctHbは、以下のように計算することができる。
ctHb=ctHbnorm(AVIS)*d/d (2)
ステップS4において、プロセスは推定濃度ctHBから、および試料中のヘモグロビンの存在によって生じた推定経路長dの推定の誤差を補正する補正係数から、補正されたヘモグロビン濃度ctHbを計算する。この誤差は、図3に示したように、IR領域における測定吸光度へのヘモグロビンの影響によって生じる。
【0055】
補正係数は、赤外吸光度AIRへのヘモグロビンの影響の適切なパラメータ化されたモデルから決定することができる。
一実施形態においては、モデルは、次の線形補正項により、吸光度AIRへのヘモグロビンの影響を考慮に入れることができる。
IR=(d/k)*(1−ctHb/ctHb). (3)
ここで、dは真の経路長であり、kは上述の定数であり、ctHbは真のヘモグロビン濃度であり、ctHbは試料が水関連のIR吸収をまったく生じさせない最大ヘモグロビン濃度を示すモデルパラメータである。
【0056】
したがって、式(3)の吸収モデルは、抑制項(1−ctHb/ctHb)/kにより経路長dに関連するとして吸光度AIRを決定し、抑制項が、ヘモグロビン濃度ctHbによる。具体的には、吸光度AIRは、上記抑制項を比例の係数として経路長dに比例するようにモデル化される、すなわち、ヘモグロビン濃度が増加するのに伴い、最大係数1/kと最小係数0との間で、比例の係数が減少する。
【0057】
モデルパラメータctHbは、例えば、測定吸光度値に基づいて回帰を実施することにより、異なる既知のヘモグロビン濃度における吸光度測定から、および「Reference methods for the quantitative determination of hemoglobin in blood samples(血液試料中のヘモグロビンの定量的決定のための参照方法)」;NCCLS(CLSI)Publication H15−A3.Villenova,Pa.:NCCLS,2000に説明されるようなHiCN参照方法など、適切な基準測定技法により求めたヘモグロビン濃度から、決定することができる。このようにして決定されたモデルパラメータctHbは、処理ユニットにアクセス可能なメモリ411、例えば図1のメモリ111に格納することができる。
【0058】
真のヘモグロビン濃度ctHbがctHb=ctHbnorm*d/dにより真の経路長dに関連することに留意し、式(1)〜(3)から次式が得られる。
ctHb=ctHb/(1+ctHb/ctHb) (4)
したがって、式(4)により、ステップS3で求めた推定濃度ctHbから、および式(3)の吸光度モデルのモデルパラメータctHbから、真の濃度ctHbを計算することが可能になる。
【0059】
式(4)と所定のモデルパラメータctHbとを用いて、ステップS4では、プロセスがこのようにして補正ヘモグロビン濃度ctHbを計算する。
任意選択で、プロセスは、明確に補正経路長を計算することができる。
d=d(ctHb+ctHb)/ctHb
上記のプロセスは、異なる仕方で実施することができ、計算に使用する所定のパラメータは、異なるやり方で表すことができることが理解されよう
例えば、式(4)は、次の多項式により近似させることができる。
ctHb=ctHb(a+actHb)+O((ctHb/ctHb) (5)
ここで、係数aおよびaが導入されており、O((ctHb/ctHb)は3次の残留項を指定する。したがって、初期校正手順の間、パラメータctHbを決定する代わりに、プロセスは、適切な参照方法により決定されたヘモグロビン濃度に対して二次回帰に基づいて決定することができる2つのモデルパラメータaおよびaに基づくことができる。このような校正プロセスの例は、以下に説明する。したがって、図4のプロセスの代替実施形態においては、ステップS4は、式(4)の代わりに式(5)を、ならびに初期校正プロセスの間に決定され、処理ユニットにアクセス可能なメモリ411に格納された所定の係数aおよびaを用いる。
【0060】
他の代替実施形態においては、測定は図2の装置を使用して行うことができ、その場合、経路長がモジュレータ226によって調節され、吸光度値の差が異なる値に設定された放射線路長で測定され、計算が、例えば、米国特許第5,371,020号に説明するように、吸光度の差および対応する経路長の差に基づく。
【0061】
具体的には、いくつかの実施形態においては、処理ユニットは、
− 第2の波長における少なくともそれぞれの吸収度測定値から第1の経路長と第2の経路長との間の推定経路長の差を決定し、
− それぞれ第1の経路長および第2の経路長に設定された経路長を用いて測定された第1の波長における少なくとも吸光度測定値の差から、および推定経路長の差から、第1の成分の推定濃度を決定し
− 少なくとも推定濃度から、および推定濃度を使用して第1の成分の存在に対して補正された第1の経路長と第2の経路長との補正経路長の差を示す補正項から、第1の成分の補正濃度を決定する働きをする。
【0062】
したがって、経路長および濃度の初期推定と、補正との両方は、経路長の差に基づくことができ、したがって、第1の成分の濃度の特に正確な決定を提供することができる。
ヘモグロビン誘導体、ビリルビンおよび/または他の組成成分の補正濃度は、同様に、すなわち、推定経路長および適切な波長における吸光度測定値に基づいて推定され、続いて上記に説明するようにヘモグロビンの存在に対して補正された初期推定濃度から、計算することができることをさらに理解されよう。
【0063】
さらに、図3に示すCOピークの波長におけるAIR測定値は、推定経路長dとCO濃度の測定値との両方を求めるのに使用することができることが理解されよう。CO濃度を決定するための方法は、米国特許第5,371,020号に説明されている。例えば、一実施形態においては、4228nm、4268nmおよび4308nmにおける吸光度測定値は、CO濃度の決定およびdの決定の両方に使用することができる。

図5を参照して、モデルパラメータaおよびaの決定の例を次に説明する。
【0064】
既知の経路長がd=0.1mmであり、波長が4308nmである水の試料の吸光度AIRは、Perkin Elmer FT2000 IR分光計を使用してAIR=1.0385であると測定された。したがって、定数kは、k=0.1mm/1.0385=96.29μm@λ=4308nmとして決定された。
【0065】
正規化されたヘモグロビン濃度ctHbnormは、ランベルト・ベールの法則A=ε*ctHbnorm*dを使用して既知の経路長がd=0.1mmであり、波長が576.5nmにおける空洞中の試料の測定された吸光度値から決定された。ここで、εはヘモグロビンの消光率である。Zijlstraの消光データ(W G Zijlstraら:「Absorption spectra of Human Fetal and Adult Oxyhemoglobin,De−oxyhemoglobin,Carboxyhemoglobin,and Methemoglobin(人間の胎児および成人の酸素ヘモグロビン、還元ヘモグロビン、一酸化炭素ヘモグロビン、およびメトヘモグロビンの吸光度スペクトル)」,Clin.Chem.37/9,1633−1638,1991参照)からε=15.425*(mM*cm)、M=mol/L、02Hb、λ=576.5nmを使用して、濃度はctHbnorm[g/dL]=A*10.57g/dL(1g/dL=0.62058mMとして)である。
【0066】
所与のIR吸光度AIRに対して、測定された吸光度AVISに応じた推定ヘモグロビン濃度は、ctHb=ctHbnorm*d/d=AVIS*10.57*100/(AIR*96.29)=A*10.98g/dLと書くことができる。ここで、正規化された吸光度A=AVIS/AIRが導入されている。
【0067】
いくつかの異なるヘモグロビン濃度を有する異なる試料に対して、この例に使用された装置が溶血器を含まなかったこと、およびモジュレータがねじ軸を介してステッピングモータによって駆動されたことを除いて、図2に関連して説明した装置によって、吸光度値AIRおよびAVISが測定された。溶血器の代わりに、測定する前に3−[(3−コラミドプロピル)ジメチルアンモニオ]−2−ヒドロキシ−1−プロパンスルホン酸(CHAPSO)を使用して、化学的に血液試料が溶血された。同じ試料に対して、参照方法を使用してヘモグロビン濃度が測定された。これらの基準濃度はctHbrefと呼ばれる。
【0068】
これらの測定点に基づいて、式(5)の係数が、基準値ctHbrefに対して式(5)から計算されたctHbの回帰によって決定された。
図5および表1は、結果として係数がa=1.041139、a=−0.004911となった、回帰の結果を示す。図5において、点はctHbrefに対するctHbのデータ点を表し、曲線435は、回帰曲線ctHb=ctHb(a+actHb)を示す。
【0069】
【表1】
【0070】
このようにして決定されたパラメータは、ctHb=−1/(a/a)=212g/dLの値に対応する。
式(5)の補正項a*ctHb1を省略した場合(式(4)のctHb0による補正項の省略に対応する)、図6および以下の表2に示すように、計算された値ctHbと基準値ctHbrefとの間の相当により低い相関が得られる。これは、線形回帰ctHb=a*ctHb図6の曲線635)に対応する。
【0071】
【表2】
【0072】
したがって、表1および2の結果の比較により、本明細書に説明する補正が、結果としてヘモグロビン濃度ctHbの決定の改善となることが示される。
いくつかの実施形態を詳細に説明し示してきたが、本明細書に開示する態様は、それらに制限されず、以下の特許請求の範囲に定義される主題の範囲内で他のやり方でも具現化され得る。具体的には、他の実施形態を利用することができ、構造的および機能的修正を行うことができることを理解されたい。具体的には、本明細書に開示する態様の実施形態は、主に、血液試料中のヘモグロビンの決定に関して説明してきた。しかし、本明細書に説明した方法、デバイスおよび製品の実施形態は、他の血液試料の組成成分、他の種類の体液の試料の組成成分および/または診断用途および他の分析用途、例えば、環境または食品分析、の両方における他の種類の試料の組成成分の決定にも適用できることを理解されよう。
【0073】
いくつかの手段を列挙するデバイスの特許請求の範囲において、これらの手段のいくつかは、1つのおよび同じハードウェアの品目によって具現化することができる。ある一定の方策が相互に異なる従属請求項に記載される、または異なる実施形態に説明されるという単なる事実は、これらの方策の組合せが有利に使用できないことを示してはいない。
【0074】
「備える(comprises/comprising)」という用語は、本明細書において使用されたとき、記載された特徴、整数、ステップまたは成分の存在を明記するために用いられているが、1つまたは複数の他の特徴、整数、ステップ、成分またはそれらの群の存在または追加を除外しないことを強調すべきである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6