【課題を解決するための手段】
【0005】
一態様によれば、本明細書に開示するのは、試料中の第1の成分を検出するための装置の実施形態であり、第1の成分が、少なくとも第1の波長の放射線に応答し、試料が、第1の成分と少なくとも第2の波長の放射線に応答する第2の成分とを含む。装置の実施形態は、
− 放射線を試料の方に向けるように構成された少なくとも1つの放射線源と、
− 少なくとも第1および第2の波長の放射線を検出するように構成された少なくとも1つの放射線検出器であって、前記検出された放射線が、放射線路に沿って少なくとも試料の一部分中を伝搬した、放射線検出器と、
− 検出された放射線を示す少なくとも1つの放射線検出器からの少なくとも1つの検出器信号を受け取る働きをする処理ユニットとを備える。
【0006】
処理ユニットの実施形態は、
− 第2の波長における放射線の試料による少なくとも決定された吸光度から放射線路の推定経路長を決定し、
− 第1の波長における放射線の試料による少なくとも決定された吸光度から、および推定経路長から、第1の成分の推定濃度を決定し、
− 少なくとも推定濃度から、および推定濃度を使用して第1の成分の存在に対して補正された補正経路長を示す補正項から、第1の成分の補正濃度を決定するようにさらに構成される。
【0007】
第1の成分の濃度は、第1の成分が応答する第1の波長における吸光度測定値に基づいて、および試料の第2の成分が応答する第2の波長における吸光度測定値から決定される推定経路長に基づいて計算される。推定経路長は、試料中の第1の成分の存在に対して補正される。したがって、放射線経路長のより正確な決定が達成され、同様にそれは、結果として第1の成分の濃度のより正確な決定となる。
【0008】
具体的には、血液試料の組成成分を測定する文脈において、血液試料の水濃度は、典型的には数パーセントの範囲内の、どちらかと言えば低い変動性を表示するが、それに基づく放射線経路長の決定は、多くの用途で不十分であり、具体的には、血液組成成分の正確な体外分析のためには不十分であることが本発明者らには分かった。この文脈において、血液中の水濃度が、ある一定の血液成分、具体的には血液のヘモグロビン組成成分の存在によって偏ることが本発明者らには分かった。
【0009】
したがって、本発明により、放射線路長の改善された決定に基づいて計算された結果の補正が提供される。これにより、改善された精度で行われる、すなわち、ある一定の血液組成成分から起きる偏りを考慮に入れることにより、測定デバイスの測定室の放射線経路の長さの決定が可能となる。装置のいくつかの実施形態は、明確に補正経路長を決定することができるが、そのような明確な計算は、例えば、第1の成分の濃度の決定だけが所望される実施形態において、必要でない可能性があることが理解されよう。したがって、多くの状況において、補正項が初期推定経路長の不正確さを補償する、補正項を初期推定濃度に適用するので十分であり得る。例えば、補正項は、補正濃度を得るように初期推定濃度と乗算する補正係数であり得る。補正項は、第2の波長における吸光度への第1の成分の濃度の影響をモデル化した関数から決定することができる。補正項は、第1の成分の推定濃度に応じて、および1つまたは複数の所定のモデルパラメータから計算することができる。モデルパラメータは、校正プロセスの間にあらかじめ定めることができる。モデルパラメータは、1つの装置に対して決定することができ、複数の他の装置に使用することができる。
【0010】
したがって、本明細書に説明する装置および方法の実施形態により、血液試料は、ある一定の第1の波長の放射線の血液成分の吸光度が、ある一定の第2の波長の放射線の試料の含水量による吸光度と共に決定されるという点において調査することができる。一般に、吸光度は、放射線の出力強度と対応する放射線の入力強度との比の負の対数、例えば、log
10として定義することができる。
【0011】
第2の波長における測定された吸光度に基づいて、本明細書に説明する装置および方法の実施形態は、放射線路の長さの初期推定を決定する。したがって、装置は、第2の波長の放射線の水による吸光度から、放射線路の推定長を決定する。
【0012】
続いて、放射線路の推定経路長に基づいて、試料の第1の成分の推定濃度が、第1の波長の放射線のその吸光度から決定される。これらの推定値を関連づけることにより、放射線路の長さの決定が可能となり、したがって、大幅に改善された精度で第1の成分の濃度を決定することが可能となることが本発明者らには分かった。
【0013】
装置のいくつかの実施形態は、生体内測定用であり得るが、装置の他の実施形態は体外測定用であり得る。いくつかの実施形態においては、特に体外測定用の実施形態では、装置は、試料を収容するための試料室を備え、試料室は放射線路を画定する。例えば、試料室は、管やキュベットなどの試料容器であり得る。試料室を画定する壁の少なくとも一部は、放射線が試料室に出入りするのを可能にするように透明材料製である。
【0014】
いくつかの実施形態においては、装置は、放射線路の経路長を少なくとも第1の経路長と第2の経路長との間で変化させる働きをするアクチュエータを備え、処理ユニットが、それぞれ、第1の経路長および第2の経路長に設定された経路長を用いて測定された第1の波長における吸光度測定値の差から第1の成分の濃度を決定する働きをする。したがって、測定値は、試料を通る放射線路長に依存しない吸光度および他のアーチファクト、例えば、試料室を画定する壁の吸光度に対して補正され得る。
【0015】
第1および第2の波長の選択は、異なる試料組成成分が異なる波長に応答するので、試料中で検出される成分によることがあることが理解されよう。具体的には、第1の波長は、一般に第2の波長と異なる。いくつかの実施形態においては、第1の波長は、第2の成分が第1の波長に応答しないように選択され、具体的には、第2の成分の吸光度スペクトルのいずれの吸収ピークも、第1の波長から変位される。同様に、第2の波長は、第1の成分が第2の波長に応答しないように選択することができる。いくつかの実施形態において、例えば、血液試料中のヘモグロビン組成成分を検出する文脈で、第1の波長は、100nmから1400nmまでの間にあり、390nmから750nmまでの可視範囲内など、450nmから700nmまでの間などにある。いくつかの実施形態においては、第2の波長は、750nmから1mmまでの間の赤外領域内にあり、1400nmから1mmまでの間など、4100nmから4400nmまでの間などにある。例えば、第2の成分が水であるとき、第1の波長は、水が有意な吸光度を何ももたない、1400nm未満で選択することができ、第2の波長は、水が放射線を吸収する、1400nm超で選択することができる。第1および/または第2の成分の濃度は、複数の波長における吸収度測定値に基づいて決定することができることをさらに理解されよう。さらに、ある波長における測定は、波長区間内、例えば、中心波長を中心とした区間内の測定を含むことができることを理解されよう。区間の幅は、例えば、試料中を通過した放射線を検出するために使用される検出器の波長選択性によることがある。
【0016】
いくつかの実施形態においては、処理ユニットは、さらに、第3の波長における試料の吸光度から、推定経路長から、および第1の成分の推定濃度を使用して第1の成分の存在に対して補正された補正経路長を示す補正項から、試料の第3の成分の濃度を決定する働きをし、第3の成分が、少なくとも第3の波長の放射線に応答する。したがって、本明細書に開示する装置の実施形態は、第1の成分の存在に対して補正された補正経路長に基づいて複数の成分の濃度を決定するのに使用することができる。血液試料のヘモグロビン測定の文脈において、そのような他の成分の例は、ビリルビンなどのヘモグロビン誘導体を含むことができる。
【0017】
あるいは、第2の成分が水または別の溶媒であるとき、および第3の成分の濃度が試料全体に対してよりも水/溶媒に対して測定されるとき、推定経路長の補正は必要でない可能性があり、第3の成分の濃度は、有利には、推定未補正経路長に基づいて計算することができる。例えば、血液試料の場合、血液水フェーズのCO
2濃度の測定は望ましいことがある。経路長の推定が水の吸光度に基づくとき、例えばヘモグロビンの存在に対する、この経路長の補正は、CO
2測定を決定するために必要でない可能性がある。
【0018】
方法は、複数の成分、例えば、第1および第3の成分、の存在により放射線路長の補正を実施するのに適用できることがさらに理解されよう。このような実施形態においては、方法は、それぞれの吸光度測定値に基づいて、および推定経路長に基づいて、第1および第3の成分のそれぞれの濃度を推定するステップと、第1および第3の成分の推定濃度に応じて、および1つまたは複数のモデルパラメータにより補正項を決定するステップとを含むことができる。
【0019】
少なくとも1つの放射線源は、第1および第2の両方の波長において放射線を放射する単一の放射線源を備えることができる。あるいは、少なくとも1つの放射線源は、少なくとも第1の波長において放射線を生じるように構成された第1の放射線源と、少なくとも第2の波長において放射線を生じるように構成された第2の放射線源とを備える。放射線源は、他の構成部品、例えば、フィルタ、干渉計、光源の操作パラメータを制御するためのデバイスなどを含むことができることを理解されよう。装置は、第1および第2の波長の放射線に同じ経路長を有する放射線路に沿って、例えば、共通の放射線路に沿って、試料中を伝搬させるように第1または第2の波長の放射線を向け直すための1つまたは複数の要素をさらに備えることができる。別々の光源を備える一実施形態においては、装置は、第1の放射線源からの放射線および第2の放射線源からの放射線を共通の放射線路に沿って試料を通して向けるように構成されたビームコンバイナを備えることができる。適切な放射線源の例は、所望の波長範囲によることがあり、可視光、紫外線、赤外線を生じるためのランプ、レーザ、発光ダイオード、ガス灯、例えばキセノンランプ、などを含むことができる。
【0020】
同様に、少なくとも1つの放射線検出器は、第1および第2の波長の放射線に応答する単一の検出器を備えることができる。あるいは、装置は、少なくとも第1の波長における放射線を検出するように構成された第1の放射線検出器と、少なくとも第2の波長における放射線を検出するように構成された第2の放射線検出器とを備えることができる。このため、装置のいくつかの実施形態は、放射線の第1の部分を試料から第1の放射線検出器に向け、放射線の第2の部分を試料から第2の検出器に向けるように構成されたビームスプリッタを備える。適切な放射線の例は、所望の波長範囲によることがあり、感光検出器や分光計などを含むことができる。
【0021】
いくつかの実施形態においては、放射線源および放射線検出器は、試料の対向する側に配列することができる。あるいは、検出器の1つまたは複数は、試料の、対応する放射線源と同じ側に配置することができる。例えば、放射線は、試料を通して向け、適切な光学素子、例えば鏡または回折格子によって検出器の方に向け直すことができ、したがって、試料中を再度通過することができる。このような一実施形態においては、放射線路長は、試料中を往復する全放射線路の長さである。
【0022】
本明細書に開示するのは、上記の装置、および以下において、対応する方法、デバイス、および/または製品手段を含む異なる態様であり、それぞれ第1の記述した態様に関連して説明した利益および利点の1つまたは複数をもたらし、それぞれ第1の記述した態様に関連して説明し、および/または添付の特許請求の範囲に開示する実施形態に対応する1つまたは複数の実施形態を有する。
【0023】
一態様によれば、本明細書に開示するのは、試料中の第1の成分の濃度を決定するための方法であって、第1の成分が、少なくとも第1の波長の放射線に応答し、試料が、第1の成分と、少なくとも第2の波長の放射線に応答する第2の成分とを含む、方法であって、
− 少なくとも第1の波長における試料の測定された第1の吸光度と、少なくとも第2の波長における試料の測定された第2の吸光度とを受け取るステップと、
− 少なくとも第2の吸光度から、放射線がそれに沿って試料中を伝搬した放射線路の推定経路長を決定するステップと、
− 少なくとも第1の吸光度から、および推定経路長から、第1の成分の推定濃度を決定するステップと、
−少なくとも推定濃度から、および推定濃度を使用して第1の成分の存在に対して補正された補正経路長を示す補正項から、第1の成分の補正濃度を決定するステップとを含む、方法である。
【0024】
別の態様によれば、本明細書に開示するのは、放射線がそれに沿って試料中を伝搬した放射線路の経路長を決定するための方法であって、試料が、少なくとも第1の波長における放射線に応答する第1の成分と、少なくとも第2の波長における放射線に応答する第2の成分とを含む、方法であって、
− 少なくとも第1の波長における試料の測定された第1の吸光度と、少なくとも第2の波長における試料の測定された第2の吸光度とを受け取るステップと、
− 少なくとも第2の吸光度から、放射線がそれに沿って試料中を伝搬した放射線路の推定経路長を決定するステップと、
−少なくとも第1の吸光度から、および推定経路長から、第1の成分の推定濃度を決定するステップと、
−第1の成分の推定濃度を使用して第1の成分の存在に対して推定経路長を補正するステップとを含む、方法である。
【0025】
したがって、補正経路長は、続いて、それぞれの吸光度測定値に基づいて複数の他の試料の成分の濃度の計算に使用することができる。
本明細書に説明する方法の実施形態の特徴は、ソフトウェアで実施することができ、コンピュータ実行可能命令の実行によって生じた、信号またはデータ処理システムまたは試料の成分を決定するための装置の処理ユニットなど、他のデータおよび/または信号処理デバイス上で実行することができる。命令は、記憶媒体から、またはコンピュータネットワークを介して別のコンピュータから、ランダムアクセスメモリ(RAM)などのメモリに読み込まれたプログラムコード手段であり得る。あるいは、説明した特徴は、ソフトウェアの代わりに配線で接続された回路によってまたはソフトウェアとの組合せで実施することができる。
【0026】
処理ユニットは、例えば、適切にプログラムされたマイクロプロセッサ、コンピュータの、試料の成分を決定するための装置の、または別の処理デバイスのCPU、専用ハードウェア回路など、または上記の組合せである、データ処理を実施するように構成された任意の回路またはデバイスであり得る。処理ユニットは、処理ユニットによって実行されたとき、処理ユニットに本明細書に説明する方法の実施形態のステップを実施させるように適合された、コンピュータプログラムコードをその上に格納させたメモリまたは他の適切な記憶媒体を備えるまたはメモリまたは他の適切な記憶媒体に通信可能に結合することができる。
【0027】
したがって、一態様によれば、本明細書に開示するのは、本明細書に説明する方法の実施形態のステップを実施するように構成された信号またはデータ処理装置の実施形態である。信号またはデータ処理システムは、適切にプログラムされたデータ処理システム、例えば、適切にプログラムされたコンピュータ、または適切にプログラムされた、または他の方法で構成された、放射線検出器からの出力信号を処理するための装置であり得る。
【0028】
いくつかの実施形態においては、信号またはデータ処理装置は、放射線を試料の方に向けるように構成された少なくともと1つの放射線源と、少なくとも第1および第2の波長の放射線を検出するように構成された少なくとも1つの放射線検出器であって、前記検出された放射線が、放射線路に沿って少なくとも試料の一部分中を伝搬した、放射線検出器とを備える。例えば、装置は、血液試料または他の試料用、例えば、臨床診断用の光分析器であり得る。
【0029】
さらに別の態様によれば、本明細書開示するのは、信号またはデータ処理システムに、プログラムコードがデータ処理システムによって実行されたとき、本明細書に開示する方法のステップを実施させるように構成されたプログラムコードを含むコンピュータプログラムの実施形態である。コンピュータプログラムは、その上にコンピュータプログラムを格納させたコンピュータ可読媒体として具現化することができる。コンピュータ可読媒体の例は、磁気記憶媒体、固体記憶媒体、光記憶媒体または任意の他の適切な記憶技術を採用した記憶媒体を含む。具体的には、記憶媒体の例は、ハードディスク、CD−ROMまたは他の光ディスク、EPROM、EEPROM、メモリスティック、スマートカードなどを含む。
【0030】
いくつかの実施形態においては、方法は、抑制項によって第2の吸光度を経路長に関連するとして決定するための吸収モデルから補正項を決定するステップを含み、抑制項が、第1の成分の濃度の変化に伴って変化する。具体的には、吸収モデルは、線形モデルでよく、方法は、経路長に比例し、比例の係数により経路長に関連するとして第2の吸光度を決定するための吸収モデルから補正項を決定するステップを含むことができ、比例の係数が、第1の成分の濃度が増大するのに伴って、最大係数と最小係数との間で減少する。いくつかの実施形態において、補正項は、補正係数であることができ、第1の成分の補正濃度を決定するステップは、第1の成分の推定濃度を補正係数で乗算するステップを含むことができる。いくつかの実施形態においては、補正項、例えば、補正係数は、第1の成分の推定濃度の関数および1つまたは複数の所定のモデルパラメータであることができる。所定のモデルパラメータは、例えば、第1の成分の濃度が変動する試料のいくつかの校正測定値から決定することができ、その場合、第1の成分の濃度は、例えば、適切な基準測定値から、既知である。補正係数は、第1の成分の推定濃度の多項式関数として表すことができる。補正係数を第1の成分の推定濃度の線形関数として表すことは、結果として第1の成分の濃度の正確な決定となることが分かっている。
【0031】
方法および装置の実施形態は、体液や液体など、いくつかの種類の試料におけるいくつかの成分の濃度を決定するのに適用することができる。いくつかの実施形態においては、本明細書に開示する方法および装置は、臨床診断の分野、例えば、血液または他の試料を分析するための装置による測定に適用される。いくつかの実施形態においては、第1の成分は検体であり、第2の成分は水などの溶媒である。いくつかの実施形態においては、第1の成分は、ヘモグロビン、ビリルビン、およびヘモグロビンの誘導体である。本明細書に開示する方法のいくつかの実施形態は、1つより多い成分、例えば、血液試料中のヘモグロビンおよびアルブミンの両方に対する、経路長の補正を実施することができることをさらに理解されよう。
【0032】
本明細書に開示する方法、システムおよびデバイスの実施形態の上記および/または追加の目的、特徴および利点は、添付の図面を参照して、本明細書に開示する方法、システムおよびデバイスの実施形態の以下の例示的および非制限的な詳細な説明によってさらに明確になるであろう。