特許第6283047号(P6283047)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6283047-ケーブル接続部 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6283047
(24)【登録日】2018年2月2日
(45)【発行日】2018年2月21日
(54)【発明の名称】ケーブル接続部
(51)【国際特許分類】
   H02G 15/064 20060101AFI20180208BHJP
【FI】
   H02G15/064
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2016-64134(P2016-64134)
(22)【出願日】2016年3月28日
(65)【公開番号】特開2017-184322(P2017-184322A)
(43)【公開日】2017年10月5日
【審査請求日】2016年9月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】306013120
【氏名又は名称】昭和電線ケーブルシステム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105050
【弁理士】
【氏名又は名称】鷲田 公一
(72)【発明者】
【氏名】稲庭 康之
【審査官】 久保 正典
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−073424(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02G 15/00−15/196
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内側から順に、ケーブル導体、内部半導電層、ケーブル絶縁体、外部半導電層、遮へい層及びケーブルシースを有する電力ケーブルのケーブル接続部であって、
前記電力ケーブルの各層が段剥ぎによって露出したケーブル端末部と、
前記ケーブル端末部を覆う収縮型の端末本体と、を備え、
前記端末本体は、常温収縮チューブ又は熱収縮チューブで形成され、弾性の異なる2つの部分を有しない後端側の裾部が前記ケーブルシース上に装着され、
当該ケーブル端末部は、前記ケーブルシースと前記裾部との界面における当該ケーブル接続部の組立時の初期面圧pに、組み立ててから30年後に想定される前記端末本体の残留応力の割合を乗じて求められる、組み立ててから30年後の前記界面における想定面圧をP、前記端末本体と前記ケーブルシース上の装着面積をS、ケーブルシースのシュリンクバック力をFとしたとき、F≦P×Sを満たすように設計されていることを特徴とするケーブル接続部。
【請求項2】
前記初期面圧pは、下式(1)を用いて算出されることを特徴とする請求項1に記載のケーブル接続部。
【数1】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、収縮型の端末本体を用いたケーブル接続部に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な電力ケーブルは、内側から順に、ケーブル導体、内部半導電層、ケーブル絶縁体、外部半導電層、遮へい層(銅テープ)及びケーブルシースを有している。ケーブルシースがポリエチレンや塩化ビニル等で形成される場合、製造時の残留応力が、日射や通電等によるヒートサイクルによって解放され、ケーブルシースが経時的に収縮する現象(シュリンクバック)が発生する。ケーブルシースのシュリンクバックが生じると、これに伴い遮へい銅テープが引っ張られて破断し、絶縁破壊に至ることもある。そこで、このような電力ケーブルのケーブル接続部においては、ケーブルシースのシュリンクバックを防止するための対策が講じられる(例えば特許文献1〜4)。
【0003】
特許文献1、2には、端末本体の端部からケーブルシースにわたって収縮チューブを配置し、収縮チューブの接着力によってケーブルシースのシュリンクバックを防止することが開示されている。特許文献3には、外部半導電層からケーブルシースにわたって把持カバーを被せることにより、ケーブルシースのシュリンクバックを防止することが開示されている。また、特許文献4には、収縮型の端末本体(弾性管状部材)を用いて、端末本体の締付力によってケーブルシースのシュリンクバックを防止することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−172313号公報
【特許文献2】特開2007−174773号公報
【特許文献3】特開2015−142486号公報
【特許文献4】特開2015−73424号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1〜3に開示されている工法は、シュリンクバックを防止する専用の部材(収縮チューブ、把持カバー)を用いるため、ケーブル接続部の構造が複雑になり、組立作業も繁雑になる。一方、特許文献4に開示されている工法は、収縮型の端末本体の収縮力を利用するため、特許文献1〜3のような課題は生じない。しかしながら、一般的な収縮型の端末本体ではなく、弾性の異なる2つの部分を有する特別な端末本体が必要となるため、コストが増大する。また、従来の工法では、ケーブル接続部の組立時において、ケーブルシースのシュリンクバック力より接着力、把持力又は締付力が大きくなるように設計されているため、ケーブル接続部の信頼性が経時的に低下する虞がある。
【0006】
本発明の目的は、従来と同様の収縮型の端末本体によってケーブルシースのシュリンクバックを防止でき、長期間に亘って高い信頼性を有するケーブル接続部を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に係るケーブル接続部は、
内側から順に、ケーブル導体、内部半導電層、ケーブル絶縁体、外部半導電層、遮へい層及びケーブルシースを有する電力ケーブルのケーブル接続部であって、
前記電力ケーブルの各層が段剥ぎによって露出したケーブル端末部と、
前記ケーブル端末部を覆う収縮型の端末本体と、を備え、
前記端末本体は、常温収縮チューブ又は熱収縮チューブで形成され、弾性の異なる2つの部分を有しない後端側の裾部が前記ケーブルシース上に装着され、
当該ケーブル端末部は、前記ケーブルシースと前記裾部との界面における当該ケーブル接続部の組立時の初期面圧pに、組み立ててから30年後に想定される前記端末本体の残留応力の割合を乗じて求められる、組み立ててから30年後の前記界面における想定面圧をP、前記端末本体と前記ケーブルシース上の装着面積をS、ケーブルシースのシュリンクバック力をFとしたとき、F≦P×Sを満たすように設計されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、従来と同様の収縮型の端末本体によってケーブルシースのシュリンクバックを防止でき、組立後30年という長期間に亘って高い信頼性を有するケーブル接続部が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一実施の形態に係るケーブル接続部を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照して詳細に説明する。
【0011】
図1は、本発明の一実施の形態に係るケーブル接続部1を示す図である。図1のケーブル接続部1は、電力ケーブル20のケーブル端末部20a及びケーブル端末部20aに装着されるケーブル接続材料10を備える。
【0012】
電力ケーブル20は、ゴム又はプラスチックで絶縁された例えば6.6kV級の電力ケーブルである。電力ケーブル20は、中心から順に、ケーブル導体21、ケーブル内部半導電層(図示略)、ケーブル絶縁体22、ケーブル外部半導電層23、ケーブル遮へい層24及びケーブルシース25等を有する。電力ケーブル20は、例えば、ケーブル遮へい層24が銅テープで形成され、ケーブルシース25が塩化ビニルで形成されたCVケーブルである。ケーブル端末部20aにおいては、電力ケーブル20の先端部から所定長で段剥ぎすることにより各層が露出される。
【0013】
ケーブル接続材料10は、端末本体11、圧縮端子12、電界緩和層13、及び接地金具14等を備える。
【0014】
端末本体11は、例えばシリコーンゴム製又はエチレンプロピレンゴム製の収縮チューブである。端末本体11は、常温で収縮性を有する常温収縮チューブであってもよいし、加熱により収縮性を発揮する熱収縮チューブであってもよい。また、端末本体11は、工場拡径方式の収縮チューブであってもよいし、差込方式の収縮チューブであってもよい。工場拡径方式とは、工場において予め拡径支持部材(スパイラルコア)によって端末本体11を拡径状態としておき、組立現場でケーブル端末部20aを挿入した後、拡径支持部材を除去して装着する方式である。また、差込方式とは、端末本体11を拡径支持部材で拡径することなく、組立現場でケーブル端末部20aを圧入する方式である。ここでは、端末本体11として、工場拡径方式の常温収縮チューブを適用した場合について説明する。
【0015】
圧縮端子12は、例えば銅、アルミニウム、銅合金又はアルミニウム合金等からなる通電に適した導電性材料で形成され、ケーブル導体21に圧縮により接続される。電界緩和層13は、高誘電率テープ又は高誘電率チューブで形成され、ケーブル絶縁体22からケーブル外部半導電層23にわたって形成される。接地金具14は、ケーブル遮へい層24に取り付けられる。ケーブル遮へい層24は、接地金具14及び接地線15を介して接地される。
【0016】
ケーブル接続部1は、圧縮端子12、電界緩和層13及び接地金具14を取り付けたケーブル端末部20aに対して端末本体11を所定の位置に固定し、端末本体11の拡径状態を解除して収縮させることにより簡単に組み立てられる。
【0017】
本実施の形態では、端末本体11を圧縮端子12の後端部からケーブルシース25にわたって装着することにより、端末本体11の後端側の裾部11aにおける締付力を利用して、ケーブルシース25のシュリンクバックを抑制する。
【0018】
このとき、端末本体11の裾部11aとケーブルシース25との界面における初期面圧pは、例えば下式(1)を用いて算出される。また、ケーブルシース25上の端末本体11の装着面積をSとすると、端末本体11の締付力は、p×Sで表される。
【0019】
【数1】
【0020】
ケーブル接続部1は、ケーブルシース25のシュリンクバック力をFとしたとき、30年後において、下式(2)を満たすように設計される。具体的には、式(2)を満たすように、端末本体11の裾部11aにおける装着後の外半径、拡径解除時の内径、材質、全長、及びケーブル端末部20aの段剥ぎ長等が設計される。なお、式(2)における「P」は、想定される30年後の面圧(想定面圧)である。
F≦P×S ・・・(2)
【0021】
一例として、公称断面積が400mmである6.6kV級の電力ケーブル20のケーブル端末部20aに、装着後の外半径rが2.24[cm]、拡径解除時の内径が1.74[cm]である常温収縮型シリコーンゴム製の端末本体11を装着する場合について説明する。この電力ケーブル20の場合、ケーブルシース25の外半径rは2.05[cm]であり、シュリンクバック力Fは52[N]と想定される。
【0022】
この場合、式(1)におけるδは、4.1[cm]−1.74[cm]=2.36[cm]となる。また、式(1)において、装着時におけるシリコーンゴム物性値であるヤング率E=1.34[MPa]、ポアソン比ν=0.5[1/m]を用いると、組立時の初期面圧pは、0.066[MPa]となる。
【0023】
ここで適用しているシリコーンゴムの場合、400mmの電力ケーブルに装着してから30年後において想定される端末本体11の残留応力は89%となる特性を持っていることから、30年後の想定面圧Pは、0.066[MPa]×0.89=0.058[MPa]となる。
【0024】
これより、ケーブルシース25に装着される端末本体11の裾部11aの必要長さをL[cm]とすると、式(2)より、
52[N]≦0.058[MPa]×2π×2.05[cm]×L[cm]
を満たせばよいので、L≧1.4[cm]となる。
【0025】
なお、内圧上昇分を考慮する場合は、算出した面圧Pから内圧上昇分を差し引いた値で、必要長さLを算出すればよく、例えば、内圧上昇分を0.048[MPa]と仮定した場合は、
52[N]≦(0.058[MPa]−0.048[MPa])×2π×2.05[cm]×L[cm]
を満たせばよいので、L≧8.0[cm]となる。
【0026】
このように、ケーブル接続部1は、内側から順に、ケーブル導体21、内部半導電層(図示略)、ケーブル絶縁体22、ケーブル外部半導電層23、ケーブル遮へい層24及びケーブルシース25を有する電力ケーブル20のケーブル接続部1であって、電力ケーブル20の各層が段剥ぎによって露出したケーブル端末部20aと、ケーブル端末部20aを覆う収縮型の端末本体11と、を備える。端末本体11は、一部がケーブルシース25上に装着され、当該ケーブル接続部1は、ケーブルシース25と端末本体11の界面における当該ケーブル接続部1を組み立ててから30年後の想定面圧をP、端末本体11とケーブルシース25上の装着面積をS、ケーブルシース25のシュリンクバック力をFとしたとき、F≦P×Sを満たすように設計されている。
【0027】
これにより、端末本体11の設計を特許文献4のように大幅に変更することなく、従来と同様の収縮型の端末本体11によってケーブルシース25のシュリンクバックを防止でき、組立後30年という長期間に亘って高い信頼性が保持される。また、ケーブル接続部1は、ケーブルシース25のシュリンクバックを防止するための専用の部材(把持カバーなど)が不要であるので、構造が複雑になる虞もない。
【0028】
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づいて具体的に説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で変更可能である。
【0029】
例えば、本発明のケーブル接続部は、実施の形態で説明した気中終端接続部だけでなく、ガス中終端接続部、油中終端接続部、及び直線接続部や分岐接続部などの中間接続部などに広く適用することができる。
【0030】
また例えば、実施の形態においては、端末本体11の裾部11aとケーブルシース25との界面における初期面圧pを、式(1)を用いて算出したが、Roarkの式を用いて初期面圧pを算出してもよい。面圧の算出式は特に限定されず、公知の算出方法を用いることができる。
【0031】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0032】
1 ケーブル接続部
10 ケーブル接続材料
11 端末本体
12 圧縮端子
13 電界緩和層
14 接地金具
15 接地線
20 電力ケーブル
20a ケーブル端末部
21 ケーブル導体
22 ケーブル絶縁体
23 ケーブル外部半導電層
24 ケーブル遮へい層
25 ケーブルシース
図1