特許第6283060号(P6283060)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6283060
(24)【登録日】2018年2月2日
(45)【発行日】2018年2月21日
(54)【発明の名称】新規な付着抑制塗料組成物
(51)【国際特許分類】
   C09D 183/04 20060101AFI20180208BHJP
   C09D 7/40 20180101ALI20180208BHJP
   C09D 183/12 20060101ALI20180208BHJP
   B05D 5/00 20060101ALI20180208BHJP
   B05D 7/14 20060101ALI20180208BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20180208BHJP
【FI】
   C09D183/04
   C09D7/12
   C09D183/12
   B05D5/00 H
   B05D7/14 N
   B05D7/24 302Y
【請求項の数】4
【外国語出願】
【全頁数】27
(21)【出願番号】特願2016-105139(P2016-105139)
(22)【出願日】2016年5月26日
(62)【分割の表示】特願2012-545327(P2012-545327)の分割
【原出願日】2010年12月22日
(65)【公開番号】特開2016-191056(P2016-191056A)
(43)【公開日】2016年11月10日
【審査請求日】2016年6月24日
(31)【優先権主張番号】09180360.1
(32)【優先日】2009年12月22日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】501477945
【氏名又は名称】ヘンペル エイ/エス
(74)【代理人】
【識別番号】100100158
【弁理士】
【氏名又は名称】鮫島 睦
(74)【代理人】
【識別番号】100103115
【弁理士】
【氏名又は名称】北原 康廣
(72)【発明者】
【氏名】ペーター・クリスティアン・ヴァインリッヒ・トルラクセン
(72)【発明者】
【氏名】アナス・ブロム
(72)【発明者】
【氏名】ウルリク・ボーク
【審査官】 櫛引 智子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−056052(JP,A)
【文献】 特開2010−013591(JP,A)
【文献】 特開2002−265849(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/081789(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0003211(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 5/00−7/14
C09D 101/00−201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗料組成物の乾燥重量で50〜90%の、ポリシロキサンを基材としたバインダー系であって、該ポリシロキサンを基材としたバインダー系が(i)バインダーおよび任意の(ii)架橋剤を含有し、該バインダー(i)が塗料組成物の乾燥重量で20〜90%を構成し、かつ一般式(1):
【化1】
(式中、Aは、それぞれ独立して、ヒドロキシル基および加水分解性基からなる群から選択される;
は、それぞれ独立して、アルキル、アリール、アルケニルおよび加水分解性基からなる群から選択される;
およびAは、それぞれ独立して、アルキル、アリール、およびアルケニルからなる群から選択される;
a=1〜25,000、b=1〜2,500、およびa+bは少なくとも30である)
で表される硬化性ジオルガノポリシロキサンを含む、該ポリシロキサンを基材としたバインダー系;
乾燥重量で0.01〜20%の1種または複数種の親水性−変性ポリシロキサンであって、該親水性−変性ポリシロキサンがポリ(オキシアルキレン)−変性ポリシロキサン(アラルキル基を含有することを除く)から選択され、該ポリ(オキシアルキレン)が、ポリオキシエチレン、ポリオキシプロピレンおよびポリ(オキシエチレン−co−オキシプロピレン)からなる群から選択される、該親水性−変性ポリシロキサン;および
1種または複数種の殺生物剤であって、該殺生物剤がピリチオン複合体である、該殺生物剤を含有する付着抑制塗料組成物であって、
前記1種または複数種の親水性−変性ポリシロキサンと前記1種または複数種の殺生物剤との重量比が1:0.2〜1:6の範囲内であり、
前記1種または複数種の親水性−変性ポリシロキサンが前記バインダーまたは架橋剤と反応し得る基を含有しない、付着抑制塗料組成物。
【請求項2】
前記塗料組成物が2成分系又は3成分系の形態にある、請求項1に記載の塗料組成物。
【請求項3】
海洋構造物であって、その外面の少なくとも一部に、請求項1〜2のいずれかに記載の塗料組成物から製造された最外塗膜を有する海洋構造物。
【請求項4】
前記最外塗膜を有する外面の少なくとも一部が前記構造物の水中に沈んでいる部分である請求項3に記載の海洋構造物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は新規な付着抑制塗料組成物(fouling control coating compositions)に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、シリコーン配合物は、主として弾性率および表面張力などの因子のような物理的手段により、付着物の少ない表面を作り出している。従来のポリジメチルシロキサン(PDMS)塗膜は、粘質物の付着防止が時間とともに困難になるので、抵抗が低減されるという利点が減少する。
【0003】
従って、従来のポリシロキサンを基材とした付着物剥離性塗料組成物(fouling-release coating compositions)の利点と、殺生物剤を基材とした防汚塗料組成物(antifouling coating compositions)の利点とを組み合わせた、ポリシロキサンを基材とした付着抑制塗料組成物への必要性が存在する。
【0004】
国際公開2007/053163には、殺生物特性および/または付着物剥離特性を提供する適切なコポリマー(例えば、ブロックコポリマー、グラフトコポリマー等)を1種またはそれ以上の多数種で含有してもよい防汚材料が開示されている。コポリマーは、ポリシロキサン主鎖および該ポリシロキサン主鎖へグラフトした1種または複数種のポリマーを含んでもよい。このようなグラフト化ポリマーは殺生物基を備えていてもよい。
【0005】
国際公開2008/132195には、硬化性ポリマー(例えば、オルガノシロキサン含有ポリマー)および有機シリコーンポリマーを含有する防汚塗料組成物が開示されている。
【0006】
国際公開2008/132196には、海洋での付着を物理的に防止する方法が開示されており、当該方法は、硬化性ポリオルガノシロキサン、ポリオキシアルキレンブロックコポリマー、有機ケイ素架橋剤および/または触媒を含む塗膜組成物を支持体上に形成することを含む。ポリオキシアルキレンを付加反応(ビニル/ハイブリッド)によりシリコーンバインダーと反応させ、ポリオキシアルキレンおよびポリシロキサンのブロックコポリマーを形成する。その後、当該コポリマーをビニルトリメトキシシランで停止させ、湿分硬化性バインダーを形成することができる。
【0007】
米国2004/006190には、室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物が開示されており、当該組成物は、(A)末端がヒドロキシル基、加水分解性基、またはこれらの両方のタイプの基でブロックされたオルガノポリシロキサン、(B)加水分解性基を含有する有機ケイ素化合物、その部分的加水分解−縮合生成物、または当該2種の混合物、および(C)少なくとも1つのオキシアルキレン基が、例えばC−C−Si結合によりケイ素原子へ結合したポリシロキサンを含有する。
【0008】
国際公開2002/088043には、ケイ素含有層を有するシリカ質支持体を塗布する方法が開示されており、当該方法の第1工程では、殺生物剤を含有する層を適用する。
【0009】
米国2002/0197490A1には、硬化性防汚性ポリシロキサンを基材とした組成物が開示されており、当該組成物は疎水性シリカを、あるいは親水性シリカと組み合わせて含むものである。幾つかの実施態様においては、当該組成物は、シリコーン油、例えば、ポリエチレングリコールまたはポリプロピレングリコール部分を含有する油をさらに含む。さらには、防汚剤、特に銅および無機系銅化合物が使用されてもよいことが考察されている。
【0010】
欧州2103655A1には、硬化性防汚性ポリシロキサンを基材とした組成物が開示されており、当該組成物は、反応硬化性シリコーンゴムおよび特別に設計されたオルガノポリシロキサン混合物を含有する。幾つかの実施態様においては、当該組成物は、シリコーン油、例えば、ポリエーテル変性シリコーン油をさらに含有する。さらには、防汚剤、特に銅および無機系銅化合物が使用されてもよいことが考察されている。
【0011】
米国6,313,193B1には、シラノール末端ポリジメチルシロキサン、ジメチルエトキシ末端ポリジメチルシロキサン、ポリジエトキシシロキサン、および塩化ベンザルコニウムを含有する組成物が開示されている。ポリジエトキシシロキサンは、当該ポリジエトキシシロキサンがバインダー網状構造の一体部分となるように、ポリジメチルシロキサンと反応する。
【0012】
日本国2006 052283Aには、ポリオキシアルキレン側鎖を有するポリエーテル変性シリコーン油、ポリシロキサンを基材とするアクリル型バインダー系および防汚剤を含有する塗料組成物が開示されている。
【0013】
日本国2006 299132Aには、ポリシロキサン側鎖を含有し、かつある反応性シランで変性されているビニルコポリマーバインダー系を基材とする防汚塗料組成物であって、さらに例えば、ポリ(オキシアルキレン)変性ポリシロキサンを含有するものが開示されている。当該組成物は、防汚剤を含有してもよい。
【0014】
シリコーンを基材とする付着物剥離性塗料は、引きずり抵抗(drag resistance)が有意に低い従来の防汚塗料以上の利点を示すので、船舶の燃料消費を低下させた。シリコーン塗膜には粘質物の付着を含む海洋での付着がないので、それらの差は特に明らかである。多くの従来のシリコーン塗料は、今まで、粘質物のない表面を短期間維持できているだけである。
【0015】
幾つかの常套的な殺生物剤含有防汚塗料は、シリコーンを基材とする付着物剥離性塗料と比較して、例えば静的条件下において海洋での付着物に対する耐性が大きい。しかしながら、このような塗膜の表面特性は表面に付着物がないときであっても、シリコーン塗膜と比較して引きずり抵抗の増加をもたらすだろう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】国際公開2007/053163
【特許文献2】国際公開2008/132195
【特許文献3】国際公開2008/132196
【特許文献4】米国2004/006190
【特許文献5】国際公開2002/088043
【特許文献6】米国2002/0197490A1
【特許文献7】欧州2103655A1
【特許文献8】米国6,313,193B1
【特許文献9】日本国2006 052283A
【特許文献10】日本国2006 299132A
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は、防汚塗料由来の殺生物剤成分とシリコーンを基材とする付着物剥離性塗料とを組み合わせることにより、シリコーンを基材とする塗膜の粘質物のない期間を長期化させることを目的とする。これにより、従来のシリコーンを基材とする付着物剥離性塗料よりも長期間にわたって付着物のない状態が続き、引きずり抵抗が小さい塗膜が提供される。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本願発明者等は、上記した必要性を考慮して、殺生物剤および該殺生物剤の滲出を促進および制御する親水性−変性ポリシロキサン1種または複数種を含有する新規な付着抑制塗料組成物を開発するに至った。このように、シリコーンの付着物剥離に関する利点を、常套の防汚塗料の利点と組み合わせるので、殺生物剤を比較的少量で使用することにより、付着物が付着しない低摩擦表面が得られる。
【0019】
本願発明者等は、親水性−変性ポリシロキサン、特にポリ(オキシアルキレン)変性ポリシロキサン(さらに以下を参照のこと)、の使用により、水および殺生物剤が架橋ポリシロキサン膜、特にポリシロキサンを基材とする塗料組成物の膜、の中を移送する材料を得るのを可能にすることを実現した。殺生物剤の滲出速度は、特に、添加されるポリシロキサンの量および親水性/親水性部分により制御可能である。
【0020】
従って、本発明の第1の側面は、ポリシロキサンを基材としたバインダー系、乾燥重量で0.01〜20%の1種または複数種の親水性−変性ポリシロキサン、および1種または複数種の殺生物剤を含有する付着抑制塗料組成物に関するものである。
【0021】
本発明の第2の側面は、海洋構造物であって、その外面の少なくとも一部に、本明細書中で規定される塗料組成物から製造された最外塗膜を有する海洋構造物に関するものである。
【0022】
上記側面の一般に好ましい実施態様においては、前記1種または複数種の親水性−変性ポリシロキサンと前記1種または複数種の殺生物剤との重量比が1:0.2〜1:6の範囲内である。
【0023】
本発明の第3の側面は、ポリシロキサンを基材とした塗料組成物の防汚性を改善するために、1種または複数種の非反応性の親水性−変性ポリシロキサンおよび1種または複数種の殺生物剤を組み合わせて使用することであって、前記1種または複数種の親水性−変性ポリシロキサンと前記1種または複数種の殺生物剤との重量比が1:0.2〜1:6である使用に関する。
【発明を実施するための形態】
【0024】
塗料組成物
上記したように、本発明は、ポリシロキサンを基材としたバインダー系、乾燥重量で0.01〜20%、例えば0.05〜10%の1種または複数種の親水性−変性ポリシロキサン、および1種または複数種の殺生物剤を含有する付着抑制塗料組成物を提供する。
【0025】
親水性−変性ポリシロキサン
親水性−変性ポリシロキサンは、同一分子内に親水基および親油基の両方を含有するために、界面活性剤および乳化剤として広く使用されているものである。
【0026】
親水特性を得るための方法として、帯電−分極が可能で、かつ/または水素結合が可能な非イオン性オリゴマーまたはポリマー基の付加によりポリシロキサンの主鎖を変性し、極性溶剤、特に水、または他の極性オリゴマーまたはポリマー基、との相互作用を促進させる方法が挙げられる。このような基の具体例として、例えば、アミド(例えば、ポリ(ビニルピロリドン)、ポリ[N−(2−ヒドロキシプロピル)メタクリルアミド]、ポリ(N,N−ジメタクリルアミド))、酸(例えば、ポリ(アクリル酸))、アルコール(例えば、ポリ(グリセロール)、ポリHEMA、多糖類)、ケトン(例えば、ポリケトン)、アルデヒド(例えば、ポリ(アルデヒドグルロネート)(poly(aldehyde guluronate)))、アミン(例えば、ポリビニルアミン)、エステル(例えば、ポリカプロラクトン、ポリ(ビニルアセテート)、ポリアクリレート)、エーテル(例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールのようなポリオキシアルキレン)、イミド(例えば、ポリ(2−メチル−2−オキサゾリン))などが挙げられ、ポリオキシアルキレン基による変性により得られる前述の好ましい親水性を有するコポリマーが包含される。
【0027】
ポリシロキサン成分が変性される親水性オリゴマー/ポリマーは非ケイ素系のものであることは、もちろん理解されるべきである。
【0028】
上記した「オリゴマー」および「ポリマー」は少なくとも3個の繰り返し単位、例えば、少なくとも5個の繰り返し単位を含有することが好ましい。多くの重要な実施態様においては、当該オリゴマーまたはポリマーは5〜1,000個の繰り返し単位、例えば5〜200個、または8〜150個、または10〜100個の繰り返し単位を含有する。
【0029】
幾つかの好ましい実施態様においては、親水基(すなわち、オリゴマーまたはポリマー基)は数平均分子量(Mn)が100〜50,000g/mol、例えば、200〜30,000g/mol、特に300〜20,000g/mol、または400〜10,000g/molである。
【0030】
本願の明細書および特許請求の範囲中、「親水性−変性ポリシロキサン」における「親水性−変性」という用語は、当該ポリシロキサンが変性されるオリゴマーまたはポリマー基がそれ自体(すなわち、別個の分子として)、25℃の脱塩水中、少なくとも1%(w/w)の溶解性を有することを意味している。
【0031】
特に重要なことは、そのような親水性−変性ポリシロキサンにおける親水性部分の相対的重量が、当該親水性−変性ポリシロキサンの総重量に対して、1%以上(例えば1〜90%)、例えば5%以上(例えば5〜80%)、特に10%以上(例えば10〜70%)である、ということである。
【0032】
親水性−変性ポリシロキサンの作用は、殺生物剤の溶解および表面への移送を促進させることである。潜在的には、塗膜−水界面相で形成される水和層も表面での殺生物剤の保持を促進するので、当該塗膜がその防汚活性を長期の暴露の間、発揮するのを可能にする。親水性−変性ポリシロキサンはバインダーまたは(仮に存在すれば)架橋剤と反応可能な基を含有しないので、当該親水性−変性ポリシロキサンは特にバインダー成分との反応性を有さないことを意味している。
【0033】
滲出速度の制御方法としては、親水性−変性ポリシロキサンの分子の大きさ、親水性およびバインダーとの混和性が挙げられる。非常に小さい分子は殺生物剤の滲出速度を速める傾向があり、一方で、分子が大きすぎると、殺生物剤を所望速度で滲出させることができない。さらには、本発明においては親水性ポリシロキサンが塗膜−水界面相において水和層を形成する能力も重要である、と仮定する。この点においては、塗料マトリックスにおける親水性ポリシロキサンの拡散速度、ポリシロキサンマトリックスと水との相対的な配分、親水性/疎水性バランス、選択された殺生物剤との相互作用、および親水性置換基の水和容量(hydration capacity)は最終的な性能に影響を与える。
【0034】
従って、好ましい実施態様においては、親水性−変性ポリシロキサンは数平均分子量(Mn)が100〜100,000g/mol、例えば250〜75,000g/mol、特に500〜50,000g/molである。
【0035】
親水性−変性ポリシロキサンは粘度が10〜20,000mPa・s、例えば20〜10,000mPa・s、特に40〜5,000mPa・sであることも好ましい。
【0036】
同様に、例えばポリエチレンオキシドのような親水基の分子中の濃度が高いことに起因する高い親水性は、滲出速度が高いことに起因する殺生物剤の早期の減少をもたらし得る。分子量および/または親水性が異なる複数種の親水性−変性ポリシロキサンの組み合わせを利用して、殺生物剤の滲出を制御してもよい。
【0037】
親水性−変性ポリシロキサンは、ポリシロキサンを基材としたバインダー系の成分との反応を回避するように、Si−OH基などのケイ素反応性基、Si−OR(アルコキシ)基などの加水分解性基などの、いかなる基も有さない。別の状況では、当該親水性−変性ポリシロキサンはポリシロキサンバインダー網状構造へ完全に一体化されてもよく、このことは本発明の技術的効果を得るという目的のためには好ましくない。
【0038】
一般に好ましい一実施態様においては、親水性−変性ポリシロキサンはポリ(オキシアルキレン)変性ポリシロキサンである。
【0039】
ひとつの変形例においては、ポリ(オキシアルキレン)変性ポリシロキサンは、ポリ(オキシアルキレン)鎖をグラフトさせたポリシロキサンである。このような親水性−変性ポリシロキサンの構造の具体例として、式(A)が挙げられる;
【化1】
式中、Rはそれぞれ独立してC1−5−アルキル(例えば、直線状または分枝状炭化水素基)およびアリール(例えば、フェニル(−C))から選択され、特にメチルである;
はそれぞれ独立して−H、C1−4−アルキル(例えば、−CH、−CHCH、−CHCHCH、−CH(CH、−CHCHCHCH)、フェニル(−C)、およびC1−4−アルキルカルボニル(例えば、−C(=O)CH、−C(=O)CHCHおよび−C(=O)CHCHCH)、特に−Hおよびメチルから選択される;
はそれぞれ独立してC2−5−アルキレン(例えば、−CHCH−、−CHCH(CH)−、−CHCHCH−、−CHCHCHCH−、−CHCH(CHCH)−)、アリーレン(例えば、1,4−フェニレン)およびアリールで置換されたC2−5−アルキレン(例えば、1−フェニルエチレン)、特にC2−5−アルキレン、例えば−CHCH−および−CHCH(CH)−から選択される;
xは0〜2000であり、yは1〜100であり、かつx+yは1〜2000である;および
nは0〜50であり、mは0〜50であり、かつm+nは1〜50である。
【0040】
このような型の親水性−変性ポリシロキサンの市販品として、DC5103(ダウ・コーニング社製)、DC Q2−5097(ダウ・コーニング社製)、およびDC193(ダウ・コーニング社製)が挙げられる。
【0041】
別の変形例においては、ポリ(オキシアルキレン)変性ポリシロキサンは、ポリ(オキシアルキレン)鎖を主鎖中に組み入れたポリシロキサンである。このような親水性−変性ポリシロキサンの構造の具体例として、式(B)が挙げられる;
【化2】
式中、Rはそれぞれ独立してC1−5−アルキル(例えば、直線状または分枝状炭化水素基)およびアリール(例えば、フェニル(−C))から選択され、特にメチルである;
はそれぞれ独立して−H、C1−4−アルキル(例えば、−CH、−CHCH、−CHCHCH、−CH(CH、−CHCHCHCH)、フェニル(−C)、およびC1−4−アルキルカルボニル(例えば、−C(=O)CH、−C(=O)CHCHおよび−C(=O)CHCHCH)、特に−Hおよびメチルから選択される;
はそれぞれ独立してC2−5−アルキレン(例えば、−CHCH−、−CHCH(CH)−、−CHCHCH−、−CHCHCHCH−、−CHCH(CHCH)−)、アリーレン(例えば、1,4−フェニレン)およびアリールで置換されたC2−5−アルキレン(例えば、1−フェニルエチレン)、特にC2−5−アルキレン、例えば−CHCH−および−CHCH(CH)−から選択される;
xは0〜2500である;および
nは0〜50であり、mは0〜50であり、かつm+nは1〜50である。
【0042】
このような型の親水性−変性ポリシロキサンの市販品として、DC2−8692(ダウ・コーニング社製)、DC Q4−3669(ダウ・コーニング社製)、およびDC Q4−3667(ダウ・コーニング社製)が挙げられる。
【0043】
また別の変形例においては、ポリ(オキシアルキレン)変性ポリシロキサンは、ポリオキシアルキレン鎖を主鎖中に組み入れ、かつ、ポリオキシアルキレン鎖をグラフトさせたポリシロキサンである。このような親水性−変性ポリシロキサンの構造の具体例として、式(C)が挙げられる;
【化3】
式中、Rはそれぞれ独立してC1−5−アルキル(例えば、直線状または分枝状炭化水素基)およびアリール(例えば、フェニル(−C))から選択され、特にメチルである;
はそれぞれ独立して−H、C1−4−アルキル(例えば、−CH、−CHCH、−CHCHCH、−CH(CH、−CHCHCHCH)、フェニル(−C)、およびC1−4−アルキルカルボニル(例えば、−C(=O)CH、−C(=O)CHCHおよび−C(=O)CHCHCH)、特に−Hおよびメチルから選択される;
はそれぞれ独立してC2−5−アルキレン(例えば、−CHCH−、−CHCH(CH)−、−CHCHCH−、−CHCHCHCH−、−CHCH(CHCH)−)、アリーレン(例えば、1,4−フェニレン)およびアリールで置換されたC2−5−アルキレン(例えば、1−フェニルエチレン)、特にC2−5−アルキレン、例えば−CHCH−および−CHCH(CH)−から選択される;
xは0〜2000であり、yは1〜100であり、かつx+yは1〜2000である;および
kは0〜50であり、lは0〜50であり、かつk+lは1〜50である;
nは0〜50であり、mは0〜50であり、かつm+nは1〜50である。
【0044】
上記構造式(A)、(B)および(C)において、−CHCH(CH)−、−CHCH(CHCH)−等の基は2種の考えられる配向のうちいずれの配向で存在してもよい。同様に、xおよびy個で存在する上記セグメントは典型的には当該ポリシロキサン構造中、任意に分配されている、と理解されるべきである。
【0045】
このような実施態様および変形例においては、ポリ(オキシアルキレン)は、ポリオキシエチレン、ポリオキシプロピレンおよびポリ(オキシエチレン−co−オキシプロピレン)から選択されることが好ましく、これらは、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールおよびポリ(エチレングリコール−co−プロピレングリコール)と呼ばれることがある。従って、上記構造式(A)、(B)および(C)中、2個の酸素原子と結合する各Rは、−CHCH−および−CHCH(CH)−から選択されることが好ましいが、1個のケイ素原子および1個の酸素原子と結合する各RはC2−5−アルキルから選択されることが好ましい。
【0046】
上記構造式(A)、(B)および(C)の幾つかの実施態様においては、Rは水素でないことが好ましい。親水性−変性ポリシロキサンの他の具体例として、カルビノール基またはN−ピロリドンカルボキシレートコポリマーまたはポリグリセリンで変性されたポリシロキサンが挙げられる。1種または複数種の親水性−変性ポリシロキサンは異なる種類のものであってもよく、例えば、上記した種類のうちの2種以上であってもよい。
【0047】
親水性−変性ポリシロキサンの市販品の具体例として、米国のギレスト(Gelest)社製のCMS−222およびYBD−125ならびに日本のシンエツ社製のKF−6100およびKF−6104が挙げられる。
【0048】
幾つかの重要な実施態様においては、親水性−変性ポリシロキサンは親水性ポリシロキサンである。
【0049】
「親水性ポリシロキサン」という用語は、当該ポリシロキサンはケイ素原子数が同数の対応する直鎖メチル末端ポリシロキサン(すなわち、ポリジメチルシロキサン;PDMS)よりも相対的に高い親水性を有するように設計されている、ということを意味している。相対的な親水性は、実験の欄に記載されている親水性試験に従って決定されることが好ましい。
【0050】
1種または複数種の親水性−変性ポリシロキサンは、塗料組成物中、乾燥重量で0.01〜20%、例えば0.05〜10%の量にて含有される。特定の実施態様においては、1種または複数種の親水性−変性ポリシロキサンは、塗料組成物の、乾燥重量で0.05〜7%、例えば乾燥重量で0.1〜5%、特に乾燥重量で0.5〜3%を構成する。特定の他の実施態様においては、1種または複数種の親水性−変性ポリシロキサンは、塗料組成物の、乾燥重量で1〜10%、例えば乾燥重量で2〜9%、特に乾燥重量で2〜7%、または乾燥重量で3〜7%、または乾燥重量で3〜5%、または乾燥重量で4〜8%を構成する。
【0051】
殺生物剤(biocides)
塗料組成物は殺生物剤も含有する。
【0052】
本明細書中、「殺生物剤」という用語は、化学的または生物学的方法により、有害生物を駆除すること、阻止すること、無害にすること、該生物の活動を防止すること、またはさもなければあらゆる有害生物への制御効果を発揮することを目的とする活性物質を意味している。
【0053】
殺生物剤の具体例として次のものから選択されるものが挙げられる。ビス(ジメチルジチオカルバマート)亜鉛(bis(dimethyldithiocarbamato)zinc)、エチレン−ビス(ジチオカルバマート)亜鉛(ethylene-bis(dithiocarbamato)zinc)、エチレン−ビス(ジチオカルバマート)マンガン等(ethylene-bis(dithio-carbamato)manganese)の金属ジチオカルバメート及びそれらの複合体;ビス(1−ヒドロキシ−2(1H)−ピリジン−チオナト−O,S)−銅;アクリル酸銅;ビス(1−ヒドロキシ−2(1H)−ピリジンチオナト−O,S)−亜鉛;フェニル(ビスピリジル)−ビスマスジクロリド;酸化銅(I)、酸化第一銅、金属銅、銅−ニッケル合金類等の銅金属合金類のような金属殺生物剤類;チオシアン酸第一銅、塩基性炭酸銅、水酸化銅、バリウムメタボレート、および硫化銅のような金属塩類;3a,4,7,7a−テトラヒドロ−2−((トリクロロメチル)−チオ)−1H−イソインドール−1,3(2H)−ジオン、ピリジン−トリフェニルボラン、1−(2,4,6−トリクロロフェニル)−1H−ピロール−2,5−ジオン、2,3,5,6−テトラクロロ−4−(メチルスルホニル)−ピリジン、2−メチルチオ−4−tert−ブチルアミノ−6−シクロプロピルアミン−s−トリアジン、およびキノリン誘導体のような複素環式窒素化合物;2−(4−チアゾリル)ベンズイミダゾール、4,5−ジクロロ−2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オン、4,5−ジクロロ−2−オクチル−3(2H)−イソチアゾリン(シー−ナイン(Sea-Nine)(登録商標)−211N)、1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン、および2−(チオシアナトメチルチオ)−ベンゾチアゾールのような複素環式硫黄化合物;N−(1,3−ビス(ヒドロキシメチル)−2,5−ジオキソ−4−イミダゾリジニル)−N,N'−ビス(ヒドロキシメチル)ウレア、およびN−(3,4−ジクロロフェニル)−N,N−ジメチルウレア、N,N−ジメチルクロロフェニルウレアのようなウレア誘導体;2,4,6−トリクロロフェニルマレイミド、1,1−ジクロロ−N−((ジメチルアミノ)スルホニル)−1−フルオロ−N−(4−メチルフェニル)−メタンスルフェンアミド、2,2−ジブロモ−3−ニトリロ−プロピオンアミド、N−(フルオロジクロロメチルチオ)−フタルイミド、N,N−ジメチル−N'−フェニル−N'−(フルオロジクロロメチルチオ)−スルファミド、およびN−メチロールホルムアミドのようなカルボン酸、スルホン酸およびスルフェン酸のアミド類またはイミド類;2−((3−ヨード−2−プロピニル)オキシ)−エタノールフェニルカルバメートおよびN,N−ジデシル−N−メチル−ポリ(オキシエチル)アンモニウムプロピオネートのようなカルボン酸の塩あるいはエステル類;デヒドロアビエチルアミンやココジメチルアミンのようなアミン類;ジ(2−ヒドロキシ−エトキシ)メタン、5,5'−ジクロロ−2,2'−ジヒドロキシジフェニルメタン、およびメチレン−ビスチオシアネートのような置換メタン;2,4,5,6−テトラクロロ−1,3−ベンゼンジカルボニトリル、1,1−ジクロロ−N−((ジメチルアミノ)−スルホニル)−1−フルオロ−N−フェニルメタンスルフェンアミド、および1−((ジヨードメチル)スルホニル)−4−メチル−ベンゼンのような置換ベンゼン;トリ−n−ブチルテトラデシルホスホニウムクロリドのようなテトラアルキルホスホニウムハロゲン化物;n−ドデシルグアニジンヒドロクロリドのようなグアニジン誘導体;ビス−(ジメチルチオカルバモイル)−ジスルフィド、テトラメチルチウラムジスルフィドのようなジスルフィド類;メデトミジンのようなイミダゾール含有化合物;2−(p−クロロフェニル)−3−シアノ−4−ブロモ−5−トリフルオロメチルピロールならびにそれらの混合物。
【0054】
現在のところ、殺生物剤はスズを含まないことが好ましい。
【0055】
一般的に好ましい殺生物剤は次のものからなる群から選択されるものである。2,4,5,6−テトラクロロイソフタロニトリル(クロロタロニル)、チオシアン酸銅(スルホシアン酸第一銅)、N−ジクロロフルオロメチルチオ−N',N'−ジメチル−N−フェニルスルファミド(ジクロフルアニド)、3−(3,4−ジクロロフェニル)−1,1−ジメチルウレア(ジウロン)、4−ブロモ−2−(4−クロロフェニル)−5−(トリフルオロメチル)−1H−ピロール−3−カルボニトリル、(2−(p−クロロフェニル)−3−シアノ−4−ブロモ−5−トリフルオロメチルピロール;トラロピリル(Tralopyril))、N−tert−ブチル−N−シクロプロピル−6−メチルチオ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジアミン(シブトリン(Cybutryne))、(RS)−4−[1−(2,3−ジメチルフェニル)エチル]−3H−イミダゾール(メデトミジン(Medetomidine))、4,5−ジクロロ−2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オン(DCOIT、シー−ナイン(登録商標)211N)、ジクロロ−N−((ジメチルアミノ)スルホニル)−1−フルオロ−N−(p−トリル)メタンスルフェンアミド(トリルフルアニド)、2−(チオシアノメチルチオ)−1,3−ベンゾチアゾール((2−ベンゾチアゾリルチオ)メチルチオシアネート;TCMTB)、トリフェニルボランピリジン(TPBP);ビス(1−ヒドロキシ−2(1H)−ピリジンチオナト−O,S)−(T−4)亜鉛(亜鉛ピリジンチオン;亜鉛ピリチオン)、ビス(1−ヒドロキシ−2(1H)−ピリジンチオナト−O,S)−T−4)銅(銅ピリジンチオン;銅ピリチオン)、亜鉛エチレン−1,2−ビス−ジチオカルバメート(亜鉛−エチレン−N,N'−ジチオカルバメート;ジネブ(Zineb))およびジヨードメチル−p−トリルスルホン;アミカル(Amical)48。少なくとも1種の殺生物剤が上記群から選択されることが好ましい。
【0056】
特に好ましい実施態様においては、殺生物剤は、粘質物(slime)および藻類等のような軟質付着物に対して効果的な殺生物剤の中から選択されることが好ましい。このような殺生物剤の具体例として、3−(3,4−ジクロロフェニル)−1,1−ジメチルウレア(ジウロン)、N−tert−ブチル−N−シクロプロピル−6−メチルチオ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジアミン(シブトリン)、4,5−ジクロロ−2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オン(DCOIT、シー−ナイン(登録商標)211N)、ビス(1−ヒドロキシ−2(1H)−ピリジンチオナト−O,S)−(T−4)亜鉛(亜鉛ピリジンチオン;亜鉛ピリチオン)、ビス(1−ヒドロキシ−2(1H)−ピリジンチオナト−O,S)−T−4)銅(銅ピリジンチオン;銅ピリチオン)および亜鉛エチレン−1,2−ビス−ジチオカルバメート(亜鉛−エチレン−N,N'−ジチオカルバメート;ジネブ)が挙げられる。
【0057】
さらに好ましい実施態様においては、殺生物剤は有機殺生物剤であり、例えば、亜鉛ピリチオンなどのようなピリチオン複合体が挙げられる。有機殺生物剤は原料の全部または一部が有機原料である殺生物剤である。
【0058】
米国7,377,968で詳述されているように、殺生物剤が、例えば高い水溶性またはマトリックス組成物との高い非混和性により、膜から急速に激減する場合、殺生物剤の放出量(dosage)を制御して膜中での実効寿命を延ばす方法として、1種または複数種の殺生物剤を封入形態で添加することが有利である。遊離殺生物剤が防汚塗料としての使用に不利益な方法でポリシロキサンマトリックスの特性(例えば、機械的結着性、乾燥時間等)を変化させる場合には、封入された殺生物剤を添加することもできる。
【0059】
特に好ましい実施態様においては、殺生物剤は封入された4,5−ジクロロ−2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オン(DCOIT、シー−ナイン(登録商標)CR2)である。
【0060】
また別の特に好ましい実施態様においては、殺生物剤は、亜鉛ピリチオン、銅ピリチオン、および4,5−ジクロロ−2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オン(DCOIT、シー−ナイン(登録商標)211N)から選択される。
【0061】
殺生物剤は、25℃の水に対して、0〜20mg/L、例えば0.00001〜20mg/Lの溶解性を有することが好ましい。
【0062】
殺生物剤は、典型的には、塗料組成物の、乾燥重量で0.1〜10%、例えば乾燥重量で0.5〜8%、特に乾燥重量で1〜6%を構成する。
【0063】
1種または複数種の親水性−変性ポリシロキサンと1種または複数種の殺生物剤との相対重量比率は、典型的には、1:0.05〜1:1000、例えば1:0.1〜1:120、例えば1:0.1〜1:10、または1:0.15〜1:8、特に1:0.2〜1:6、または1:0.2〜1:5、または1:0.25〜1:4、特に1:0.3〜1:3である。
【0064】
ポリシロキサンを基材としたバインダー系
本発明の付着抑制塗料組成物は、その中に、ポリシロキサンを基材としたバインダー系を含有している。当該バインダー系は、1種または複数種の殺生物剤および親水性−変性ポリシロキサンならびに他の成分、例えば溶剤、添加剤、顔料、充填材等を含有する架橋マトリックスを形成する。
【0065】
ポリシロキサンを基材としたバインダーは末端官能性および/またはペンダント官能性(pendant functionality)を有する官能性オルガノポリシロキサンである。末端官能性が好ましい。官能性基は、加水分解性基、例えばアルコキシ基、ケトキシム基またはシラノール基のいずれであってもよい。1分子あたり最小で2個の反応性基が好ましい。当該分子が反応性基、例えばシラノール基、を2個しか含有しない場合、所望の架橋密度を得るためには、さらなる反応体、架橋剤を使用することが必要である。架橋剤は、例えばメチルトリメトキシシランなどのアルコキシシランであってよいが、後述するように、広範囲の有用なシラン類を利用できる。当該シランは、そのまま使用することもできるし、またはシランの加水分解−縮合生成物として使用することもできる。縮合硬化が非常に好ましいが、オルガノポリシロキサンの官能性は縮合硬化に制限されるものではない。所望により、例えばアミン/エポキシなどの他の種類の硬化を単独で、または縮合反応との組み合わせで利用することができる。このような場合、オルガノポリシロキサンは、エポキシまたはアミンの末端基およびペンダント加水分解性基、例えばアルコキシ官能性を有するもの、を有し得る。
【0066】
幾つかの実施態様においては、ポリシロキサンを基材としたバインダー系を含有する付着抑制塗料組成物は、当業者にとって明らかなように、反応硬化性組成物であってもよいし、または湿分硬化性組成物であってもよい。具体例として、ヒドロキシル反応性ポリジオルガノシロキサンおよび加水分解性基を有するシランを基材とした2成分縮合硬化性組成物、またはアルコキシまたは他の加水分解反応性基を有するポリジオルガノシロキサンを基材とした1成分湿分硬化性組成物が挙げられる。
【0067】
一実施態様においては、バインダー相は(i)バインダーおよび(ii)架橋剤を含有し、その内、バインダー(i)はマトリックスの形成に参加するように加水分解性基または他の反応性基を含有するべきである。
【0068】
バインダー(i)は、典型的には、塗料組成物の乾燥重量で20〜90%を構成し、例えば、以下に示される一般式(1)で表される硬化性ジオルガノポリシロキサンである:
【化4】
(式中、Aは、それぞれ独立して、ヒドロキシル基、加水分解性基および別の官能基、例えばアミンまたはエポキシ、から選択される;
は、それぞれ独立して、アルキル、アリール、アルケニルおよび加水分解性基から選択される;
およびAは、それぞれ独立して、アルキルおよびアリールアルケニルから選択される;
a=1〜25,000、b=1〜2,500、およびa+bは少なくとも30である)。
【0069】
バインダーは単独で、または組み合わせて使用することができる。好ましい実施態様においては、一般的な種類のバインダーを1種単独で使用する。
【0070】
架橋剤(ii)は塗料組成物の乾燥重量で0〜10%を構成することが好ましく、例えば、以下に示される一般式(2)で表されるオルガノケイ素化合物、その部分的加水分解−縮合生成物、または当該2種の混合物である:
【化5】
(式中、Rは、それぞれ独立して、炭素原子数1〜6の無置換または置換1価炭化水素基を表し、Xは、それぞれ独立して、加水分解性基を表し、aは0〜2、例えば0〜1、の整数を表す)。
【0071】
式(2)で表される化合物はバインダー(i)の架橋剤として作用する。当該組成物は、バインダー(i)および架橋剤(ii)を混合することにより、1成分硬化性RTV(room-temperature vulcanizable(室温加硫性のもの))として配合することができる。バインダー(i)の末端Si−基の反応性基が容易に加水分解し得る基、例えばジメトキシまたはトリメトキシ、からなる場合、別の架橋剤は膜を硬化させるのに、通常は必要とされない。
【0072】
好ましい架橋剤は、テトラエトキシシラン;ビニルトリス(メチルエチルオキシモ)シラン(vinyltris(methylethyloximo)silane);メチルトリス(メチルエチルオキシモ)シラン(methyltris(methylethyloximo)silane);ビニルトリメトキシシラン;メチルトリメトキシシランおよびビニルトリイソプロペノキシシラン;ならびにこれらの加水分解−縮合生成物から選択される架橋剤である。
【0073】
幾つかの重要な実施態様においては、ポリシロキサンを基材としたバインダーはポリジメチルシロキサンを基材としたバインダーを含む。
【0074】
ポリシロキサンを基材としたバインダー系は、典型的には、塗料組成物の乾燥重量で少なくとも40%、特に乾燥重量で50〜90%を構成する。
【0075】
触媒
塗料組成物は、架橋を促進させるために、縮合触媒をさらに含有してもよい。適切な触媒の具体例として、次のものが挙げられる。ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫ジオクトエート、ジブチル錫2−エチルヘキソエート、ジオクチル錫ジラウレート、ジオクチル錫ジアセテート、ジオクチル錫ジオクトエート、ジオクチル錫2−エチルヘキソエート、ジオクチル錫ジネオデカノエート、錫ナフテネート(tin naphthenate)、錫ブチレート、錫オレエート、錫カプリレート、鉄2−エチルヘキソエート、鉛2−エチルオクトエート、コバルト−2−エチルヘキソエート、マンガン2−エチルヘキソエート、亜鉛2−エチルヘキソエート、亜鉛ナフテネート、亜鉛ステアレート、コバルトナフテネートおよびチタンナフテネート等の有機カルボン酸の有機金属および金属塩;テトラブチルチタネート、テトラキス(2−エチルヘキシル)チタネート、トリエタノールアミンチタネート、テトラ(イソプロペニルオキシ)チタネート、チタンテトラブタノールエート、チタンテトラプロパノールエート、チタンテトライソプロパノールエート、ジルコニウムテトラプロパノールエート、ジルコニウムテトラブタノールエート等のチタネートおよびジルコネートエステル;ジイソプロピルビス(アセチルアセトニル)チタネート等のキレート化チタネート。さらなる縮合触媒としてWO2008/132196および米国2004/006190で記載されているものが挙げられる。
【0076】
触媒は単独で使用されてもよいし、2種以上の触媒の組み合わせで使用されてもよい。触媒の使用量は触媒および1種または複数種の架橋剤の反応性および所望の乾燥時間に依存する。好ましい実施態様においては、触媒濃度はバインダー(i)および架橋剤(ii)の総合計量の0.01〜10重量%である。
【0077】
溶剤、添加剤、顔料および充填材
塗料組成物は溶剤および添加剤をさらに含有してもよい。
【0078】
溶剤の具体例として次の溶剤が例示される:例えば、ホワイトスピリット、シクロヘキサン、トルエン、キシレンおよびナフサ溶剤などの脂肪族、脂環式および芳香族の炭化水素、メトキシプロピルアセテート、n−ブチルアセテートおよび2−エトキシエチルアセテートなどのエステル;オクタメチルトリシロキサン、ならびにこれらの混合物。
【0079】
溶剤は、含有させる場合、典型的には塗料組成物の5〜50体積%を構成する。
【0080】
添加剤としては下記のものが例示される:
(i)非反応性流体、例えば、オルガノポリシロキサン;例えば、ポリジメチルシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン;石油およびそれらの組み合わせ;
(ii)界面活性剤、例えば、プロピレンオキシド若しくはエチレンオキシドの誘導体、例えば、アルキルフェノール−エチレンオキシド縮合物(アルキルフェノールエトキシレート);不飽和脂肪酸のエトキシル化モノエタノールアミド、例えば、リノール酸のエトキシル化モノエタノールアミド;ナトリウムドデシルスルフェート;および大豆レシチン;
(iii)湿潤剤及び分散剤、例えば、次の文献に記載の湿潤剤及び分散剤:M.アッシュ及びI.アッシュ。「ハンドブック・オブ・ペイント・アンド・コーティング・ロウ・マテリアルズ」、第1巻、1996年、ゴワー・パブリッシング社、英国、第821頁〜第823頁及び第849頁〜第851頁;
(iv)増粘剤及び沈降防止剤、例えば、コロイドシリカ、水和アルミニウムシリケート(ベントナイト)、アルミニウムトリステアレート、アルミニウムモノステアレート、キサンタンガム、温石綿、熱分解法シリカ、水素化ヒマシ油、有機変性クレー、ポリアミドワックスおよびポリエチレンワックス;および
(v)染料、例えば、1,4−ビス(ブチルアミノ)アントラキノン及びその他のアントラキノン誘導体;トルイジン染料等。
【0081】
全ての添加剤は、典型的には、塗料組成物の乾燥重量で0〜30%、例えば0〜15%を構成する。
【0082】
さらに、塗料組成物は顔料および充填材を含有していてもよい。
【0083】
本発明においては、顔料および充填材は、接着特性にあまり関係なく塗料組成物に添加できる成分と考えられているものである。「顔料」は、通常は、最終的な塗膜を不透明および非半透明にすることによって特徴づけられるものであるが、「充填材」は、通常は、塗料を非半透明にしないために、該塗膜の下にある材料を覆い隠すことにはあまり貢献しないことによって特徴づけられるものである。
【0084】
顔料の具体例としては、以下に例示する種々の品種(grade)の顔料が挙げられる:二酸化チタン、赤色酸化鉄、酸化亜鉛、カーボンブラック、グラファイト、黄色酸化鉄、赤色モリブデート、黄色モリブデート、硫化亜鉛、酸化アンチモン、ナトリウムアルミニウムスルホシリケート、キナクリドン、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、黒色酸化鉄、インダンスロンブルー、コバルトアルミニウムオキシド、カルバゾールジオキサジン、酸化クロム、イソインドリンオレンジ、ビス−アセトアセト−o−トリジオール(bis-acetoacet-o-tolidiole)、ベンズイミダゾロン、キナフタロンイエロー、イソインドリンイエロー、テトラクロロイソインドリノン、キノフタロンイエロー。
【0085】
充填材の具体例としては、ドロマイトのような炭酸カルシウム、タルク、マイカ、長石、硫酸バリウム、カオリン、あられ石、シリカ、パーライト、酸化マグネシウム及び石英粉末等が例示される。充填材(及び顔料)はナノチューブまたは繊維の形態で添加してもよい。従って、塗料組成物は、先に述べた充填材の具体例とは別に、繊維、例えば、参考文献として本明細書で引用する国際公開公報WO 00/77102において一般的に明確に記載されているような繊維等を含有していてもよい。
【0086】
顔料及び/又は充填材は、典型的には、塗料組成物の乾燥重量で0〜60%、例えば、0〜50%、好ましくは5〜45%、例えば、5〜40%又は5〜35%を構成する。
【0087】
塗料組成物の(例えば噴霧、ブラシまたはローラー適用技術による)簡便な適用を促進することを目的として、当該塗料組成物は25〜25,000mPa・s、例えば、150〜15,000mPa・s、特に200〜4000mPa・sの粘度を有する。
【0088】
塗料組成物の製造
塗料組成物は、塗料の製造の分野で普通に使用されているあらゆる適切な技術により製造されてもよい。従って、各種成分は、ミキサー、高速分散機、ボールミル、パールミル、グラインダー、三本ロール練り機を利用して混合してもよい。当該塗料組成物は、典型的には、2成分系又は3成分系として製造されて輸送され、これらの系は使用の直前に配合して十分に混合する。本発明に係る塗料は、バッグフィルター(bag filters)、パトロンフィルター(patron filters)、ワイヤーギャップフィルター(wire gap filters)、ウェッジワイヤーフィルター(wedge wire filters)、メタルエッジフィルター(metal edge filters)、EGLMターノクリーンフィルター(EGLM turnoclean filters)(例えば、クノ(Cuno)製)、DELTAストレインフィルター(DELTA strain filters)(例えば、クノ製)、およびジェナグストレイナーフィルター(Jenag Strainer filters)(例えばジェナグ(Jenag)製)を使用して、または振動濾過により濾過してもよい。適切な製造方法の具体例は実施例で記載する。
【0089】
本発明の方法で使用されるべき塗料組成物は、典型的には、2種またはそれ以上の多種の成分、例えば、1種または複数種の反応性ポリシロキサンバインダーを含有する1種の予備混合物と、1種または複数種の架橋剤を含有する1種の予備混合物との2種の予備混合物、を混合することにより、製造される。塗料組成物について言及すると、適用するのは、混合された塗料組成物である、ということを理解するべきである。さらに、塗料組成物の乾燥重量に基づく%として示された全ての量は、適用するために準備された混合塗料組成物の乾燥重量、すなわち(仮に存在すれば)溶剤を除く重量、に基づく%として理解されるべきである。
【0090】
塗料組成物の特定の実施態様
好ましい一実施態様においては、トップコート(top coat)は以下の成分;
(i)全トップコート組成物の湿重量に基づいて40〜70%のシラノール末端ポリジオルガノシロキサンおよび架橋剤;
(ii)全トップコート組成物の湿重量に基づいて0.1〜10%、例えば0.5〜8%の1種または複数種の殺生物剤、好ましくは有機殺生物剤から選択されるもの;および
(iii)全トップコート組成物の湿重量に基づいて0.1〜10%、例えば0.5〜8%の、ポリ(オキシアルキレン)−変性ポリシロキサンから選択される1種または複数種の親水性−変性ポリシロキサン(例えば、本明細書中で上記した構造に対応するもの);を含有する。
【0091】
別の好ましい実施態様においては、トップコートは以下の成分;
(i)全トップコート組成物の湿重量に基づいて40〜70%のシラノール末端ポリジオルガノシロキサンおよび架橋剤;
(ii)全トップコート組成物の湿重量に基づいて0.5〜8%の1種または複数種の有機殺生物剤;および
(iii)全トップコート組成物の湿重量に基づいて0.5〜8%の、ポリ(オキシアルキレン)−変性ポリシロキサンから選択される1種または複数種の親水性−変性ポリシロキサン(例えば、本明細書中で上記した構造に対応するもの);
を含有し、前記1種または複数種の親水性−変性ポリシロキサンと前記1種または複数種の殺生物剤との重量比は1:0.2〜1:6の範囲内である。また別の好ましい実施態様においては、上記した好ましい実施態様において、バインダーは湿分不含環境下で予備反応しており、シラノール末端ポリジオルガノシロキサン100重量部をビニルトリメトキシシランのような加水分解性架橋剤0.5〜30重量部と混合することにより、単一成分配合物を形成する。
【0092】
塗料組成物の用途
本発明の塗料組成物は、典型的には、支持体表面の少なくとも一部へ適用する。
【0093】
「適用(applying)」という用語は、塗料工業の分野における通常の意味で用いる。従って、「適用」工程はいずれかの常套の手段、例えば、ブラシ、ローラー、噴霧、浸漬等)によっておこなわれる。塗料組成物を「適用」するための商業上最も重要な方法は噴霧法である。噴霧法は、当業者に既知の常套の噴霧装置を用いておこなわれる。塗料は、典型的には、乾燥膜厚が50〜600μm、例えば、50〜500μm(例えば、75〜400μm)になるようにして適用される。
【0094】
「支持体表面の少なくとも一部」という用語は、塗料組成物を当該表面のいずれの部分に適用してもよいという事実に関するものである。多くの用途においては、塗料組成物は、支持体(例えば、船舶)において表面(例えば、船体)が水、例えば、海水、と接触するようになる部分へ少なくとも適用される。
【0095】
「支持体」という用語は、塗料組成物が適用される固体材料(solid material)を意味する。支持体は、典型的には、金属、例えば、鋼、鉄、アルミニウム、またはガラス繊維強化ポリエステルを含有する。最も重要な実施態様においては、支持体は金属製支持体、特に鋼製支持体である。別の実施態様においては、支持体はガラス繊維強化ポリエステル製支持体である。幾つかの実施態様においては、支持体は海洋構造物(marine structure)における少なくとも一部の最外表面である。
【0096】
「表面(surface)」という用語は、その普通の意味で使用するものであり、対象物の外部境界に関する。このような表面としては、以下の海洋構造物の表面が例示される:船舶(特に限定的ではないが、ボート、ヨット、モーターボート、モーターランチ、大洋航路船、タグボート、タンカー、コンテナ船及びその他の貨物船、潜水艦並びにあらゆる種類の海軍船等を含む)、パイプ、海岸及び沖合に設置される機械類、あらゆる種類の建造物及び対象物、例えば、桟橋、くい、橋梁の橋脚、水力用の設備と構造体、水中の油井構造体、漁網及びその他の水産の栽培設備、並びにブイ等。
【0097】
支持体の表面は、「本来的な」表面(例えば、鋼製表面等)であってもよい。しかしながら、当該支持体は典型的には、例えば、防錆塗料および/またはタイコートで被覆され、そのために支持体の表面はそのような塗膜で構成されている。塗膜が存在する場合には、(防錆および/またはタイコート)塗料は、典型的には、全乾燥膜厚が100〜600μm、例えば、150〜450μm(例えば、200〜400μm)になるように適用される。あるいは、支持体は、塗膜、例えば、摩耗した付着抑制塗膜または類似物を有していてもよい。
【0098】
1つの重要な実施態様においては、支持体は、防錆塗料、例えば、防錆用エポキシ系塗料(例えば、硬化したエポキシ系塗料等)またはショッププライマー(shop-primer)(例えば、亜鉛含有量の高いショッププライマー)によって被覆された金属製支持体(例えば、鋼製支持体)である。別の関連する実施態様においては、支持体は、エポキシプライマー塗料によって被覆されたガラス繊維強化ポリエステル製支持体である。
【0099】
海洋構造物
本発明はまた、海洋構造物であって、その外面の少なくとも一部に、本明細書中、先に規定した塗料組成物から製造された付着抑制用の最外塗膜を有する海洋構造物も提供する。特に、当該最外塗膜を有する外面の少なくとも一部は前記構造物の水中に沈んでいる部分である。
【0100】
塗料組成物、支持体表面上への塗膜の形成方法および塗膜の特性は先に記載した説明に従う。
【0101】
一実施態様においては、海洋構造物の付着抑制塗膜系は防錆層、タイコートおよび本明細書中で先に記載した付着抑制塗膜を含有してもよい。
【0102】
上記した海洋構造物の特定の一実施態様においては、防錆層は100〜600μm、例えば、150〜450μm(例えば、200〜400μm)の全乾燥膜厚を有し、タイコートは50〜500μm、例えば、50〜400μm(例えば、75〜350μmまたは75〜300μmまたは75〜250μm)の全乾燥膜厚を有し、付着抑制塗膜は20〜500μm、例えば、20〜400μm(例えば、50〜300μm)の全乾燥膜厚を有する。
【0103】
海洋構造物のさらなる実施態様においては、当該構造物における少なくとも一部の最外表面が以下の層を含む塗料系で被覆されている;
1〜4層、例えば2〜4層の適用により形成された、エポキシを基材とした塗膜からなる全乾燥膜厚150〜400μmの防錆層;
1〜2層の適用により形成された、全乾燥膜厚20〜400μmのタイコート;および
1〜2層の適用により形成された、全乾燥膜厚20〜400μmの付着抑制塗膜。
【0104】
上記した海洋構造物の別の実施態様においては、付着抑制塗膜は、タイコートを使用することなしに、防錆層に直接的に適用される。
【0105】
ポリシロキサンを基材とした塗料組成物の防汚性を改善するための使用
本発明はさらに、ポリシロキサンを基材とした塗料組成物の防汚性を改善するための、1種または複数種の非反応性の親水性−変性ポリシロキサンおよび1種または複数種の殺生物剤の組み合わせの使用であって、前記1種または複数種の親水性−変性ポリシロキサンと前記1種または複数種の殺生物剤との重量比が1:0.2〜1:6である使用に関する。当該組み合わせは特に、粘質物および藻類に対する防汚性を改善するためのものである。
【0106】
非反応性の親水性−変性ポリシロキサンの種類、殺生物剤、および適切なポリシロキサンを基材としたバインダー系の種類は先に規定したものであること、各種成分の量および相対的な比率は先に規定した通りであることを理解するべきである。
【0107】
一般的備考
本願の明細書および特許請求の範囲においては、単に「ポリシロキサン」等と言及されることがあるが、本願で規定される塗料組成物は、個々の成分を1種、2種またはそれよりも多種で含有してもよい。このような実施態様においては、各成分の全量は、これらの各成分に対して先に規定された量に相当するようにすべきである。
【0108】
「化合物」、「ポリシロキサン」、「剤」等の表現においては、個々の成分が1種、2種またはそれよりも多種存在していてもよいことを意味する。なお、「1種」という表現が使用されている場合には、当該各成分は1種のみで存在する。
【実施例】
【0109】
実施例1
材料
RF−5000は日本のシンエツ社製のシラノール末端ポリジメチルシロキサンを示す。
キシレンは地元の供給業者由来のものである。
DC200は米国のダウ・コーニング社製のポリジメチルシロキサンを示す。
DC5103は米国のダウ・コーニング社製のポリエーテル変性ポリシロキサン(シロキシル化ポリエーテル)を示す。
DC550は米国のダウ・コーニング社製の非反応性メチルフェニルポリシロキサンを示す。
亜鉛オマジン(Zinc Omadine)はアイルランドのアーク・ケミカルズ社製の亜鉛ピリチオン(Zinc Pyrithione)を示す。
銅オマジン(Copper Omadine)はアイルランドのアーク・ケミカルズ社製の銅ピリチオン(Copper Pyrithione)を示す。
シリカット(Silikat)TES 40 WNは独国のワッカー・ケミー(Wacker Chemie)社製のエチルシリケートを示す。
ネオスタン(Neostann)U−12は日本のニットウ・カセイ社製のジブチル錫ジラウレートを示す。
アセチルアセトン(Acetylaceton)は独国のワッカー・ケミー社製の2,4−ペンタンジオンを示す。
DC190は米国のダウ・コーニング社製のポリエーテル変性ポリシロキサンを示す。
DBE−621は米国のギレスト社製のジメチルシロキサン−エチレンオキシドブロックコポリマーを示す。
BYK331は独国のBYK社製のポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンを示す。
YBD−125は米国のギレスト社製のジメチルシロキサン−N−ピロリドンカルボキシレートコポリマーを示す。
CMS−222は米国のギレスト社製のカルビノール官能PDMS−20%非シロキサン(Carbinol functional PDMS - 20% non-siloxane)を示す。
シー・ナイン211Nは米国のダウ・ケミカルズ(Dow Chemicals)社製の4,5−ジクロロ−2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オンを示す。
シー・ナインCR2は米国のダウ・ケミカルズ社製の封入4,5−ジクロロ−2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オン(encapsulated 4,5-dichloro-2-n-octyl-4-isothiazolin-3-one)を示す。
バイフェロックス(Bayferrox)130Mは独国のランクセス(Lanxess)社製の酸化鉄を示す。
アエロジル(Aerosil)R8200は独国のエボニック・インダストリーズ(Evonik Industries)社製のヘキサメチルジシラザン処理ヒュームドシリカ(Hexamethyldisilazane treated fumed silica)を示す。
【0110】
粘度
特許請求の範囲を含む本願において粘度はISO 2555:1989に従い25℃で測定する。
【0111】
親水性特性−PDMSとの比較
ポリシロキサンは、対応するポリジメチルシロキサン(PDMS)よりも親水性が実際に高いものであり、以下の試験のうちのひとつまたは全てにより確認することができる。
【0112】
A.水の取り込み
PDMSは、その固有の疎水特性により、水を取り込まない。親水性ポリシロキサンを確認するためのひとつの実験的尺度は、当該親水性の内容物が、脱塩水への浸漬時、自己の重量の少なくとも0.1%の取り込みを可能にする、ということである。親水性ポリシロキサン99.9重量部を脱塩水0.1重量部と強制的に混合するとき、当該ポリシロキサンは水を溶解させるか、吸収するか、または膨潤させ、結果として相分離は視覚的に生じない。
【0113】
モデル塗料の製造方法
組成物A,B,C,D,E:
(i)部(シラノール末端ポリジメチルシロキサン)、キシレン、(ポリジメチルシロキサン)、シリカ、(ポリアミドワックス)、赤色酸化鉄、(ポリエーテル変性ポリシロキサン)、(殺生物剤)を、羽根車ディスク(impeller disk)(直径70mm)を備えたディアフ溶解装置(Diaf dissolver)で、1L缶中、2000rpmにて15分間混合した。
(ii)部(エチルシリケート、キシレン、触媒、2,4−ペンタンジオン、(メチルフェニルポリシロキサン))を、羽根車ディスク(直径70mm)を備えたディアフ溶解装置で、1L缶中、500rpmにて2分間混合した。
適用前、(i)部および(ii)部を混合し、均一混合液とする。
【0114】
試験方法
ブリスター・ボックス試験(Blister Box Test)
ブリスター・ボックス試験方法を用いて、親水性−変性ポリシロキサンを添加したPDMS塗膜の安定性についての当該親水性−変性ポリシロキサンの影響を測定する。
【0115】
パネルの製造
スチールパネル(150×75×15mm)にエアレス噴霧で適用して100μm(乾燥膜厚、DFT)の市販のエポキシプライマー(ヘンパドゥール・クワトロ(HEMPADUR Quattro)17634)を被覆する。室温で48時間乾燥させた後、シリコーンタイコート(ヘンパシル・ネクサス(HEMPASIL Nexus)27302)を300μmクリアランスのドクターブレードにより適用する。16〜30時間乾燥させた後、トップコート塗料組成物を400μmクリアランスのドクターブレードにより適用する。パネルを、ブリスターボックス中での試験前に24時間乾燥させる。
【0116】
試験
塗膜系を有するパネル表面を、水平面に対して15°/60°の角度で40℃の飽和水蒸気に暴露する。パネルの反対側を室温に暴露する。暴露の間およびその完了後、選択された検査の間隔で、タイコート/トップコート間の接着性およびトップコートの全体的な状態について評価する。
【0117】
タイコートとトップコートとの接着性は以下の格付けに基づいて評価する;
接着性 格付け評価
不合格/劣悪 接着力なし/劣悪な接着力
良好 許容可能な接着力
【0118】
パネルを2ヶ月間暴露し、典型的には毎週、調査する。
PDMSトップコートに5%(w/w)の親水性−変性ポリシロキサン(ポリエーテル型)を添加した後のPDMSトップコートとヘンパシル・ネクサス・タイコートとの間の接着性に関する実施例(試験結果は3週間暴露後のブリスター・ボックス由来のもの):
【表1】
【0119】
いかだ試験
パネルの製造
塗膜の接着を促進するために一方の側にサンドブラスト処理したアクリル系パネル(150×200mm)にエア噴霧で適用して100μm(DFT)の市販のエポキシ(ヘンペル・ライト・プライマー(HEMPEL Light Primer)45551)を被覆する。室温で6〜24時間乾燥させた後、タイコートを300μmクリアランスのドクターブレードにより適用する。16〜30時間乾燥させた後、トップコート塗料組成物を400μmクリアランスのドクターブレードにより適用する。パネルを、いかだで浸漬させる前に少なくとも72時間乾燥させる。
【0120】
試験
パネルを2ヶ所の異なる場所で試験する;スペインおよびシンガポール。
スペインでの試験地
スペインの北東にあるビラノバで行う。この試験地でパネルを、塩度が1000部あたり37〜38部および平均温度が17〜18℃の海水へ浸漬する。
シンガポールでの試験地
この試験地でパネルを、塩度が1000部あたり29〜31部および温度が29〜31℃の海水へ浸漬する。
【0121】
パネルを4〜12週間ずっと調査し、以下の規準に従って評価する:
【表2】
【0122】
実施例
モデル塗料の表における全ての記載は、特記しない限り、重量基準である。
【0123】
【表3】
【0124】
【表4】
【0125】
結果に対する論評(組成物A〜F):
数種の殺生物剤は、他のものよりも、幾つかの汚れの種に対して効果的であった。当該汚れの種は場所により異なるので、トップコート組成物の性能も異なる。従って、両方のいかだ試験地の結果は包含して考えられる。
【0126】
非反応性ポリエーテル変性ポリシロキサンのような親水性−変性ポリシロキサンは、架橋PDMS塗膜での殺生物剤の表面への移送を達成するので、親水性−変性ポリシロキサンが添加されると(組成物AおよびB)、殺生物剤を含むトップコート組成物の性能は劇的に増進する。殺生物剤単独または殺生物剤と非反応性疎水性ポリシロキサンとの組み合わせはトップコート組成物の性能を増進しない(組成物D)。非反応性の親水性−変性ポリシロキサンの単独での使用は、非反応性の親水性−変性ポリシロキサンと殺生物剤との組み合わせによる利点を提供しなかった。
【0127】
【表5】
【0128】
結果に対する論評(組成物G〜I)
組成物GおよびHは殺生物剤を含有するものであり、親水性−変性ポリシロキサン(ポリエーテル型)しか含有しない参考例(組成物I)と比較して改善された性能を示す。
【0129】
【表6】
【0130】
結果に対する論評(組成物J,KおよびL)
組成物JおよびKで使用される親水性の非PEG変性PDMS化合物(YBD−125およびCMS−222)の実施例は、シンガポールにおける24週間の静的な浸漬後において、殺生物剤を含有しないポリシロキサン参考例(組成物L)と比較して、改善された性能を示すことが観察されている。
【0131】
【表7】
【0132】
結果に対する論評(組成物MおよびN):
組成物MおよびNは、純粋な殺生物剤4,5−ジクロロ−2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オン溶液の濃度が同じである。封入された殺生物剤はNの封入されなかった殺生物剤よりも良好な効果を示すことが認められる。両方の組成物は同じ親水性−変性ポリシロキサンを含有していた。