(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6283183
(24)【登録日】2018年2月2日
(45)【発行日】2018年2月21日
(54)【発明の名称】キャビネット
(51)【国際特許分類】
H05K 5/03 20060101AFI20180208BHJP
【FI】
H05K5/03 A
【請求項の数】1
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2013-189590(P2013-189590)
(22)【出願日】2013年9月12日
(65)【公開番号】特開2015-56545(P2015-56545A)
(43)【公開日】2015年3月23日
【審査請求日】2016年7月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000124591
【氏名又は名称】河村電器産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078721
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 喜樹
(72)【発明者】
【氏名】吉川 和良
【審査官】
久松 和之
(56)【参考文献】
【文献】
実開平6−34288(JP,U)
【文献】
実開昭53−152168(JP,U)
【文献】
実開平3−67477(JP,U)
【文献】
実開平2−49175(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 5/00 − 5/06
B05C 7/00 − 21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの略矩形の板体を組み付けてなる一方、
前記板体の少なくとも1つの辺部に折り曲げ部が設けられているとともに、前記折り曲げ部に複数の吊り孔が設けられ、前記折り曲げ部を上方に向けた姿勢で前記吊り孔に吊り具を挿通させて吊り上げることによって、前記板体が、前記折り曲げ部の先端側から基端側へむかって下方へ傾斜する姿勢となり、当該傾斜した姿勢のまま粉体塗装を施されてなるキャビネットであって、
前記吊り孔における前記折り曲げ部の先端側となる半周部に、前記吊り孔の内側へ突出する複数の当接部を設け、
前記板体が吊り上げられた際、前記当接部の頂点と前記吊り具の周面とが当接するようにしたことを特徴とするキャビネット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、たとえば電気機器等を収納するためのキャビネットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、一般的なキャビネットは、たとえば扉体等の少なくとも1つの板体を組み付けてなる(特許文献1)。そして、その板体に粉体塗装を施すには、板体の外周辺部に設けられた折り曲げ部に丸孔状の吊り孔を2つ開設するとともに、先端部が上方へ湾曲した丸棒状の吊り具を2本準備し、各吊り具の先端部を各吊り孔へ下方から挿通させ、板体を吊り具により吊り上げる。このとき、板体は重心位置の関係で折り曲げ部の先端側から基端側へ向かって下方へ傾斜する姿勢をとり、当該傾斜姿勢のまま板体に対して粉体塗装を施していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−75485号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、丸孔状の吊り孔に丸棒状の吊り具を挿通させて吊り上げると、径の異なる円の円周同士が接触した状態で板体は支持されることになるため、吊り上げられた板体は不安定であり、塗装中にがたつきやすい。したがって、吊り孔の周囲の広範囲にわたり塗装にムラが生じてしまうという問題が生じている。
【0005】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みなされたものであって、吊り具によって吊り上げられた板体ががたつきにくく、塗装にムラが生じる範囲を狭くすることができるキャビネットを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発
明は、少なくとも1つの略矩形の板体を組み付けてなる一方、前記板体の少なくとも1つの辺部に折り曲げ部が設けられているとともに、前記折り曲げ部に複数の吊り孔が設けられ、前記折り曲げ部を上方に向けた姿勢で前記吊り孔に吊り具を挿通させて吊り上げることによって、前記板体が、前記折り曲げ部の先端側から基端側へむかって下方へ傾斜する姿勢となり、当該傾斜した姿勢のまま粉体塗装を施されてなるキャビネットであって、前記吊り孔における前記折り曲げ部の先端側となる半周部に、前記吊り孔の内側へ突出する複数の当接部を設け、前記板体が吊り上げられた際、前記当接部の頂点と前記吊り具の周面とが当接するようにしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
請求項1に記載の発明によれば、吊り孔における折り曲げ部の先端側となる半周部に、吊り孔の内側へ突出する複数の当接部を設け、板体が吊り上げられた際、当接部の頂点と吊り具の周面とが当接するようにした。そのた
め、各吊り孔と吊り具とが2点で当接することになり、単なる円形の吊り孔を開設した従来のものと比較すると、吊り上げた状態において板体が安定しやすく、塗装中にがたつきにくい。したがって、塗装にムラが生じる箇所を、各当接部の頂点近辺に限定することができ、塗装のムラを補修する作業が簡易となるし、塗料の節約にもなる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】キャビネットの外観を示した斜視説明図である。
【
図2】扉体を吊り具により吊り上げた状態を示した説明図である。
【
図3】吊り具が挿通した吊り孔を扉体の上面と平行な面から示した説明図である。
【
図4】吊り具に吊り上げられた扉体を示した断面説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の一実施形態となるキャビネットについて、図面にもとづき詳細に説明する。
【0010】
図1は、キャビネット1の外観を示した斜視説明図であり、
図2は、扉体2を吊り具10、10により吊り上げた状態を示した説明図である。
図3は、吊り具10が挿通した吊り孔20を扉体2の上面と平行な面から示した説明図であり、
図4は、吊り具10に吊り上げられた扉体2を示した断面説明図である。
キャビネット1は、天板3、左右一対の側板4、及び背板(図示せず)により前面を除く5面を閉塞するような箱状に組み立ててなる箱本体に、当該箱本体の前面開口を開閉するように扉体2を蝶着したものである。そして、扉体2を始めとして、天板3や側板4等には、粉体塗装が施されている。
【0011】
ここで、本発明の要部となる粉体塗装に係る構成に関し、扉体2について説明する。
扉体2は、金属板を前面視が略矩形板状となるように形成したものであって、上辺部、左右両側辺部、及び下辺部には、後方へ折り曲げられた折り曲げ部が設けられている。そして、該扉体2の上辺側の折り曲げ部2aにおける左右両端部に、吊り具10の先端部を挿通可能な吊り孔20、20が開設されている。
【0012】
各吊り孔20は、吊り具10の先端部の挿通に十分な大きさを有するものであって、前方側の半周部は滑らかな半円状に形成されている一方、後方側(すなわち、折り曲げ部の先端側)の半周部は、吊り孔20の内側へ突出する当接部21、21を備えた波状に形成されている。該当接部21、21は、吊り孔20の後方側において、左右対称となる位置に、且つ、周方向に90°の間隔で設けられている。
【0013】
そして、上記吊り孔20、20を備えた扉体2に対して粉体塗装を施すに際しては、従来同様、先端に上方へ湾曲した吊り下げ部10aを有する丸棒状の吊り具10を利用し、吊り具10、10により扉体2を吊り上げた状態で行う。すなわち、扉体2の後方側から各吊り具10の吊り下げ部10aを吊り孔20の下方に位置させ、吊り具10、10を上方へ引き上げて各吊り下げ部10aを吊り孔20に挿通させることにより、扉体2を吊り上げる。このとき、扉体2は重心位置の関係により、従来同様、折り曲げ部2aの先端側から基端側へむかって下方へ傾斜する姿勢(所謂、前傾姿勢)をとる。しかしながら、各吊り孔20内においては従来と異なり、当接部21、21の頂点が吊り具10(具体的には吊り下げ部10a)の周面に当接する(すなわち、吊り孔20の周縁部と吊り具10の周面とが2箇所で当接する)。また、折り曲げ部2aの後端縁(先端縁)が吊り具10、10に当接し、当該状態で扉体2は吊り具10、10に支持されることになる。
なお、天板3や側板4等も扉体2同様に折り曲げ部が設けられているとともに、折り曲げ部に吊り孔20、20が設けられている。
【0014】
以上のような構成を有するキャビネット1によれば、扉体2の上辺側の折り曲げ部2aに開設した吊り孔20における後方側の半周部に、孔の内側へ突出する当接部21、21を設けており、吊り具10、10によって扉体2を吊り上げた際、各吊り孔20内において当接部21、21の頂点が吊り具10の周面に当接した状態で支持されるようにしたため、単なる円形の吊り孔を開設した従来のものと比較すると、吊り上げた状態において扉体2が安定しやすく、塗装中にがたつきにくい。したがって、塗装にムラが生じる箇所を、各当接部21の頂点近辺に限定することができ、塗装のムラを補修する作業が簡易となるし、塗料の節約にもなる。
【0015】
なお、本発明に係るキャビネットは、上記実施形態の態様に何ら限定されるものではなく、キャビネットの全体的な構成は勿論、吊り孔を設ける位置や数、吊り孔の形状等について、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、必要に応じて適宜変更することができる。
【0016】
たとえば、上記実施形態の吊り孔20に代えて、
図5(a)〜(e)に示すような吊り孔を設けてもよい。
図5(a)に示す吊り孔31は、大小径の異なる2つの丸孔が重なったような形状となっており、吊り孔31における折り曲げ部の先端側となる半周部に位置する丸孔同士の交差部が当接部32、32となっている。一方、
図5(b)に示す吊り孔33は、孔の内側へ突出する当接部21、32を備えた吊り孔20、31ではなく、吊り孔33における折り曲げ部の先端側の半周部に、対向する一対の直線状部33a、33aを、折り曲げ部の先端側に向かって直線状部33a、33a間の間隔が狭まるように設けたものであり、直線状部33a、33aと丸棒状の吊り具10の周面とが当接するようにしたものである。当該構成を採用しても、吊り孔33の周縁部と吊り具10の周面とが2箇所で当接することになり、吊り上げた状態において板体が安定しやすい等の上記同様の効果を奏することができる。
【0017】
さらに、
図5(c)〜(e)に示すような吊り孔34、35、36としてもよい。これらの吊り孔34、35、36は、丸孔ではなく多角形孔状の吊り孔であり、そのうちの1つの頂点部を折り曲げ部の先端側に向けた姿勢で設けられている。当該吊り孔34、35、36であっても、上記吊り孔33同様、吊り孔34、35、36の直線状部34a、35a、36aと吊り具10の周面とが2箇所で当接することになり、吊り上げた状態において板体が安定しやすい等の上記同様の効果を奏することができる。なお、
図5中の吊り具10は、上記実施形態と同様のものである。
【0018】
また、上記実施形態では、吊り孔を2つしか開設していないが、3つ以上開設してもよいし、扉体の上辺側の折り曲げ部ではなく側辺側の折り曲げ部に吊り孔を開設してもよく、どの折り曲げ部を上方へ向けた姿勢で吊り上げて塗装するか等については適宜変更可能である。
さらに、扉体を始めとしたキャビネットを構成する板体のどの辺部に折り曲げ部を形成するか等についても設計変更可能である。
加えて、当接部についても、吊り孔における折り曲げ部の先端側となる半周部に複数設けられているのであれば、その数や位置についても適宜変更可能である。加えて、吊り孔の折り曲げ部の先端側の半周部のみならず基端側の半周部にも当接部を設けてもよく、そのように吊り孔の全周にわたり当接部を設けることで、吊り孔を開設するにあたって、吊り孔の折り曲げ部に対する形状をあまり考慮せずともよく、製造の更なる簡易化を図ることができるといった効果もある。
【符号の説明】
【0019】
1・・キャビネット、2・・扉体(板体)、2a・・折り曲げ部、3・・天板(板体)、4・・側板(板体)、10・・吊り具、20、31、33、34、35、36・・吊り孔、21、32・・当接部、33a、34a、35a、36a・・直線状部。