(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、航空機の脚揚降用の電動油圧アクチュエータ(EHA)システムの実施形態を図面に基づいて説明する。ここで説明するEHAシステムは例示である。
図1は、EHAシステムが適用される脚の揚降機構を例示している。脚を機体に格納しかつ、機体から展開する揚降機構は、脚の揚降を行うためのギヤアクチュエータ21、脚を収容する格納室のドアを開閉するためのドアアクチュエータ22、及び、脚を降ろした状態で固定する機構を解除するためのダウンロックリリースアクチュエータ23の三種類のアクチュエータを含んでいる。三種類のアクチュエータは、詳しくは後述するが、脚の格納及び展開に際して順次、動作をする。
【0032】
(実施形態1)
図2は、実施形態1に係るEHAシステム1の回路図である。EHAシステム1は、前述したギヤアクチュエータ21、ドアアクチュエータ22、ダウンロックリリースアクチュエータ23を含んでいる。これらのアクチュエータ21、22、23は全て、作動油の供給を受けて伸縮する油圧式の伸縮シリンダである。以下の説明においては、ギヤアクチュエータ21、ドアアクチュエータ22、及び、ダウンロックリリースアクチュエータ23を総称して、油圧アクチュエータ2と呼ぶ場合がある。尚、
図2において作動油経路は実線、パイロット油圧経路は破線、電気信号経路は二点鎖線で示す。
【0033】
油圧アクチュエータ2は、シリンダ内に、ボア側油室24とアニュラス側油室25とを有している。ピストンヘッドは、シリンダ内で、ボア側油室24とアニュラス側油室25とを隔てている。油圧アクチュエータの第1ポートはボア側油室24に連通し、第2ポートはアニュラス側油室25に連通している。作動油は、第1ポートを介して、ボア側油室24に流入及び流出し、第2ポートを介して、アニュラス側油室25に流入及び流出する。
【0034】
ギヤアクチュエータ21は、伸びるときに負荷に抗して脚を揚げ、縮むときに負荷を開放して脚を降ろすように構成されている。ドアアクチュエータ22は、伸びるときに負荷を開放してドアを開け、縮むときに負荷に抗してドアを閉めるように構成されている。ダウンロックリリースアクチュエータ23は、伸びる方向に、図示を省略する付勢部材によって負荷が付与されており、縮むことによって脚降ろし状態を固定する機構を解除する。ギヤアクチュエータ21、ドアアクチュエータ22、及び、ダウンロックリリースアクチュエータ23はそれぞれ、図面上では明確ではないが、そのボア径及びストローク量が互いに異なる。油圧アクチュエータ2のボア径は、当該油圧アクチュエータ2に作用する負荷に応じて設定されると共に、油圧アクチュエータ2のストローク量は当該油圧アクチュエータ2により動作する脚やドアの構造に応じて設定される。この油圧アクチュエータ2のボア径及びストローク量と、脚の格納を行う一連の動作の開始から完了までの時間、及び、脚の展開を行う一連の動作の開始から完了までの時間によって、脚の格納及び展開時に、ギヤアクチュエータ21、ドアアクチュエータ22、及び、ダウンロックリリースアクチュエータ23それぞれの動作に要求される作動油の供給条件(つまり、作動油の供給流量及び供給圧力)が決定される。こうした作動油の供給条件は、後述する油圧供給源3の油圧ポンプ33及び電動モータ34の諸元に関係する。
【0035】
EHAシステム1は、各油圧アクチュエータ2に作動油を供給するための、第1及び第2の二つの油圧供給源31、32を備えている。第1及び第2の油圧供給源31、32は、回路上で、互いに並列となるように配置されている。尚、以下の説明において、第1及び第2の油圧供給源31、32を総称するときには、符号3を付して、単に油圧供給源と呼ぶ場合がある。
【0036】
油圧供給源3は、駆動連結された一つの油圧ポンプ33及び一つの電動モータ34を含んでいる。油圧ポンプ33及び電動モータ34は、例えば直結されている。この構成では、油圧ポンプ33の回転数と電動モータ34の回転数とは、実質的に同じである。油圧ポンプ33は、この実施形態では一方向のみ回転可能であって、吸込ポートから吸い込んだ作動油を吐出ポートから吐出する片回転式である。油圧ポンプ33は、斜板式ピストンポンプによって構成してもよい。但し、油圧ポンプ33の形式は、これに限定されない。電動モータ34は、例えば三相モータであり、図外の電源から電力供給を受けて油圧ポンプ33を駆動する。電動モータ34は、後述するコントローラ9によって駆動及び停止される。
【0037】
第1及び第2の油圧供給源31、32はそれぞれ、油圧ポンプ33の下流側(吐出ポート側)に配置された逆止弁35を有している。逆止弁35は、詳しくは後述するが、第1及び第2の油圧供給源31、32の一方がフェイルして停止しているときに、他方の油圧供給源3の油圧ポンプ33が吐出した作動油が、停止中の油圧供給源3に逆流することを阻止する。
【0038】
並列に設けられた第1及び第2の油圧供給源31、32の上流側は、合流した後にリザーバ81に接続されている。リザーバ81は、油圧アクチュエータ2のボア側油室24とアニュラス側油室25との合計容積が、油圧アクチュエータ2の伸縮に伴い変動することを吸収するためのタンクである。第1及び第2の油圧供給源31、32の下流側は、合流した後に、後述するギヤセレクタバルブ41及びドアセレクタバルブ42にそれぞれ接続されている。尚、第1及び第2の油圧供給源31、32それぞれの油圧ポンプ33の下流側は分岐しており、この分岐路は、リリーフバルブ36及びフィルタ82を介してリザーバ81に接続されている。
【0039】
ギヤセレクタバルブ41は、Pポート、Tポート、Aポート及びBポートの四つのポートを有する4ポート3位置の切換弁である。ギヤセレクタバルブ41は、ギヤアクチュエータ21及びダウンロックリリースアクチュエータ23に対して作動油を選択的に供給する機能を有する。ギヤセレクタバルブ41のPポートは、第1及び第2の油圧供給源31、32それぞれの油圧ポンプ33の吐出ポートに接続され、Tポートは、リザーバ81に接続され、Aポートは、ギヤアクチュエータ21のボア側油室24及びダウンロックリリースアクチュエータ23のアニュラス側油室25にそれぞれ接続され、そして、Bポートは、ギヤアクチュエータ21のアニュラス側油室25に接続されている。尚、ダウンロックリリースアクチュエータ23のボア側油室24は、リザーバ81に接続されている。
【0040】
ギヤセレクタバルブ41はまた、油圧パイロット式のソレノイドバルブである。パイロット油圧を受けて駆動するスプールは、スプリングによってセンター位置に付勢されている。ギヤセレクタバルブ41は、センター位置では、Aポート及びBポートをそれぞれTポートに連通する。ギヤセレクタバルブ41はまた、第1オフセット位置(
図2の左側の位置)では、AポートとPポートとを連通しかつ、BポートとTポートとを連通する。ギヤセレクタバルブ41は、第2オフセット位置(
図2の右側の位置)では、AポートとTポートとを連通しかつ、BポートとTポートとを連通する。詳しくは後述するが、コントローラ9は、ギヤセレクタバルブ41の切り換えを通じて、ギヤアクチュエータ21のボア側油室24又はアニュラス側油室25に、作動油を選択的に供給すると共に、ダウンロックリリースアクチュエータ23のアニュラス側油室25への作動油の供給及び停止を切り換える。
【0041】
ギヤセレクタバルブ41のAポートとギヤアクチュエータ21のボア側油室24との間には、逆止弁44とオリフィス45とが並列に介設している。逆止弁44及びオリフィス45は、詳しくは後述するように、ギヤアクチュエータ21が縮む速度を制限する。
【0042】
ドアセレクタバルブ42は、Pポート、Tポート、Aポート及びBポートの四つのポートを有する4ポート2位置の切換弁である。ドアセレクタバルブ42は、ドアアクチュエータ22に対して作動油を選択的に供給する機能を有する。ドアセレクタバルブ42のPポートは、第1及び第2の油圧供給源31、32それぞれの油圧ポンプ33の吐出ポートに接続され、Tポートは、リザーバ81に接続され、Aポートは、ドアアクチュエータ22のボア側油室24に接続され、そして、Bポートは、ドアアクチュエータ22のアニュラス側油室25に接続される。
【0043】
ドアセレクタバルブ42も、油圧パイロット式のソレノイドバルブである。パイロット油圧を受けて駆動するスプールは、スプリングによりノーマル位置に付勢されている。ドアセレクタバルブ42は、ノーマル位置では、Aポート及びBポートをそれぞれPポートに連通する。ドアセレクタバルブ42は、オフセット位置では、AポートとTポートとを連通しかつ、BポートとPポートとを連通する。詳しくは後述するが、コントローラ9は、ドアセレクタバルブ42の切り換えを通じて、ドアアクチュエータ22のボア側油室24又はアニュラス側油室25に作動油を選択的に供給する。
【0044】
ドアセレクタバルブ42のBポートとドアアクチュエータ22のアニュラス側油室25との間には、逆止弁46とオリフィス47とが並列に介設している。逆止弁46及びオリフィス47はドアアクチュエータ22が伸びる速度を制限する。
【0045】
ギヤアクチュエータ21及びドアアクチュエータ22とリザーバ81との間には、ダンプバルブ43が介設している。ダンプバルブ43は、A、B、C、Dポートと、Tポートとを有する5ポート2位置の切換弁である。ダンプバルブ43のAポートは、ギヤアクチュエータ21のアニュラス側油室25に接続され、Bポートは、ギヤアクチュエータ21のボア側油室24に接続され、Cポートは、ドアアクチュエータ22のアニュラス側油室25に接続され、Dポートは、ドアアクチュエータ22のボア側油室24に接続されている。Tポートは、リザーバ81に接続されている。
【0046】
ダンプバルブ43は、ソレノイドによって直接駆動されるスプールを備えたソレノイドバルブである。ダンプバルブ43のスプールは、スプリングによってノーマル位置に付勢されている。ダンプバルブ43は、ノーマル位置では、A、B、C、Dポートを全てTポートに連通する一方、オフセット位置では、A〜Dの各ポートとTポートとを全て遮断する。コントローラ9は、ダンプバルブ43の切り換えを行う。
【0047】
次に、
図2〜6を参照しながら、脚を格納する際のEHAシステム1の動作手順を説明する。コントローラ9は、図示を省略するセンサやスイッチ等が各油圧アクチュエータ2の動作、及び/又は、ドアや脚の動作を検知したことを受けて、第1及び第2の油圧供給源31、32の電動モータ34の駆動及び停止、並びに、ギヤセレクタバルブ41、ドアセレクタバルブ42、及びダンプバルブ43の切り換えを行う。このことによって、
図2に示す脚降ろしかつドア閉じ状態から、ドア開(
図3)、脚揚げ(
図4)、及び、ドア閉(
図5)の各動作が順に行われて、
図6の脚揚げかつドア閉じ状態に至る。尚、
図3〜6においては、作動油が供給されている経路を太実線、パイロット油圧経路を破線、リザーバ81に接続されている経路を実線で示す。また、
図3〜6においては、コントローラ9、電動モータ34及び電気信号経路の図示を省略している。
【0048】
先ず脚の格納を開始する時は、EHAシステム1は
図2の状態である。つまり、ギヤセレクタバルブ41はセンター位置、ドアセレクタバルブ42及びダンプバルブ43はそれぞれノーマル位置にある。この状態から、
図3に示すように、コントローラ9は、ダンプバルブ43をオフセット位置に切り換え、それによって、A〜D及びTポートの全てを遮断する。
【0049】
コントローラ9は、第1及び第2の油圧供給源31、32の電動モータ34をそれぞれ駆動する。
図3に示すように、作動油はドアアクチュエータ22のボア側油室24に流入し、それによって、ドアアクチュエータ22は伸びる(
図3の矢印参照)。ドアアクチュエータ22が伸びるに伴い、アニュラス側油室25から排出された作動油もまた、オリフィス47及びドアセレクタバルブ42を通って、ドアアクチュエータ22のボア側油室24に流入する。アニュラス側油室25からボア側油室24に作動油を供給することによって、各油圧ポンプ33の吐出量が少なくても、ドアアクチュエータ22は伸びる。ドアアクチュエータ22が伸びることによって、格納室のドアが開く。
【0050】
格納室のドアが開いた後、コントローラ9は、
図4に示すように、ギヤセレクタバルブ41を第1オフセット位置に切り換える。これによって、ギヤセレクタバルブ41のAポートとPポートとが連通しかつ、BポートとTポートとが連通する。第1及び第2の油圧供給源31、32は、矢印で示すように、ギヤセレクタバルブ41を介して、ダウンロックリリースアクチュエータ23のアニュラス側油室25に作動油を供給する。ダウンロックリリースアクチュエータ23は、
図4に矢印で示すように縮み、そして、脚降ろし状態を固定する機構を解除する。また、第1及び第2の油圧供給源31、32は、逆止弁44を介してギヤアクチュエータ21のボア側油室24に作動油を供給する。ギヤアクチュエータ21は、
図4に矢印で示すように伸び、そして、図示省略の脚は揚がる。尚、ギヤアクチュエータ21の伸長に伴い、アニュラス側油室25から排出される作動油は、ギヤセレクタバルブ41及びフィルタ82を通って、リザーバ81に戻る。
【0051】
格納室に脚が収納された後に、コントローラ9は、
図5に示すように、ギヤセレクタバルブ41をセンター位置に切り換える一方、ドアセレクタバルブ42をオフセット位置に切り換える。第1及び第2の油圧供給源31、32は、ドアアクチュエータ22のアニュラス側油室25に作動油を供給する。ドアアクチュエータ22は、
図5に矢印で示すように縮む。ドアアクチュエータ22が縮むに伴いボア側油室24から排出される作動油は、ドアセレクタバルブ42及びフィルタ82を通って、リザーバ81に戻る。このようにしてドアが閉じ、脚を格納する一連の動作が完了する。脚の格納が完了した後は、
図6に示す状態、つまり脚揚げかつドア閉じ状態を保持するように、コントローラ9は、ドアセレクタバルブ42をノーマル位置に切り換えると共に、第1及び第2の油圧供給源31、32それぞれの電動モータ34を停止する。また、コントローラ9は、ダンプバルブ43をノーマル位置に切り換える。
【0052】
次に、
図6〜9及び
図2を参照しながら、脚を展開する際のEHAシステム1の動作手順を説明する。尚、
図7〜9においても、
図3〜6と同様に、作動油が供給されている経路を太実線、パイロット油圧経路を破線、リザーバ81に接続されている経路を実線で示す。また、
図7〜9においても、コントローラ9、電動モータ34及び電気信号経路の図示を省略している。脚降ろし時にも、コントローラ9は、図示を省略するセンサやスイッチ等が各油圧アクチュエータ2の動作、及び/又は、ドアや脚の動作を検知したことを受けて、第1及び第2の油圧供給源31、32の電動モータ34の駆動及び停止、並びに、ギヤセレクタバルブ41、ドアセレクタバルブ42、及びダンプバルブ43の切り換えを行う。このことによって、初期状態(
図6)から、ドア開(
図7)、脚降ろし(
図8)、及び、ドア閉(
図9)の各動作が順に行われて、
図2の脚降ろしかつドア閉じ状態に至る。
【0053】
図6に示す脚の展開開始時から、ドア開(
図7)までは、前記と同じである。
図7に示すように、ドアアクチュエータ22が伸びることによって、格納室のドアが開く。
【0054】
その後、
図8に示すように、コントローラ9は、ギヤセレクタバルブ41を第2オフセット位置に切り換える。ギヤセレクタバルブ41のBポートとPポートとは連通する。第1及び第2の油圧供給源31、32は、矢印で示すように、ギヤアクチュエータ21のアニュラス側油室25に作動油を供給する。ギヤアクチュエータ21は、
図8に矢印で示すように縮み、それによって、格納室に収納されている脚は降りる。ギヤアクチュエータ21が縮むに伴いボア側油室24から排出される作動油は、オリフィス45を通ってリザーバ81に戻る。オリフィス45は作動油の流れを絞ることによって、ギヤアクチュエータ21が縮む速度を制限する。つまり、脚の降りる速度が制限される。尚、ダウンロックリリースアクチュエータ23は、付勢部材の負荷によって伸びる。
【0055】
脚が降りた後に、コントローラ9は、
図9に示すように、ギヤセレクタバルブ41をセンター位置に切り換えると共に、ドアセレクタバルブ42をオフセット位置に切り換える。前述したように、ドアアクチュエータ22が縮み、そしてドアが閉じる。脚を展開する一連の動作が完了した後は、
図2に示す状態、つまり脚降ろしかつドア閉じ状態を保持するように、コントローラ9は、ドアセレクタバルブ42をノーマル位置に切り換えると共に、第1及び第2の油圧供給源31、32の電動モータ34を停止する。コントローラ9はまた、ダンプバルブ43をノーマル位置に切り換える。
【0056】
以上説明したように、このEHAシステム1は、三つの油圧アクチュエータ2と、二つの油圧供給源3、言い換えると、二つの油圧ポンプ33及び二つの電動モータ34とを備えている。このため、一つの油圧アクチュエータ2に対して一つの油圧ポンプ33及び一つの電動モータ34を対応付ける構成と比較して、油圧ポンプ33及び電動モータ34の数が減り、EHAシステム1の小型化及び軽量化に有利になる。
【0057】
また、第1及び第2の油圧供給源31、32は、回路上で並列に設けられ、いずれの油圧供給源3も、ギヤアクチュエータ21、ドアアクチュエータ22及びダウンロックリリースアクチュエータ23のそれぞれに、作動油を供給することが可能である。従って、第1及び第2の油圧供給源31、32のいずれか一方がフェイルしたときには、他方の油圧供給源3が、各油圧アクチュエータ2に作動油を供給可能である。このEHAシステム1は、油圧供給源3が冗長化しており、しかも、第1及び第2の二つの油圧供給源31、32を備えることだけで、ギヤアクチュエータ21、ドアアクチュエータ22及びダウンロックリリースアクチュエータ23の三つの油圧アクチュエータ2に対する油圧供給源3の冗長化が実現する。従って、油圧供給源3の冗長性が確保されたEHAシステム1が大幅に小型化及び軽量化する。このことは、脚の揚降機構におけるEHAシステム1の占有スペースをできるだけ小さくすると共に、できるだけ軽量化を図る上で有利になる。
【0058】
ここで、
図2に示すEHAシステム1は、その構成上、第1及び第2の油圧供給源31、32の正常時には、第1及び第2の油圧供給源31、32のいずれか一方のみが、各油圧アクチュエータ2に、順次作動油を供給することも可能である。しかしながら、このEHAシステム1は、前述したように、第1及び第2の油圧供給源31、32の正常時には、第1及び第2の油圧供給源31、32の双方が、各油圧アクチュエータ2に順次、作動油を供給する。この構成は、第1及び第2の油圧供給源31、32の作動油の供給能力を、比較的低く設定することを可能にし、EHAシステム1の小型化及び軽量化をさらに有利にする。次に、第1及び第2の油圧供給源31、32の、作動油の供給能力について説明する。
【0059】
EHAシステム1は、複数の、具体的には、ギヤアクチュエータ21、ドアアクチュエータ22、及び、ダウンロックリリースアクチュエータ23の三つの油圧アクチュエータ2を含んでいるが、これら三つの油圧アクチュエータ2は、脚の格納時及び脚の展開時に順次動作をする。また、これら三つの油圧アクチュエータ2は、脚の格納時及び展開時の動作に要求される作動油の供給条件が互いに異なる。従って、三つの油圧アクチュエータ2の内、最も厳しい作動油の供給条件を満足するように、油圧供給源3の作動油の供給能力を定めておけば、それよりも緩い作動油の供給条件は満足することができる。
【0060】
さらに、前述したように、第1及び第2の油圧供給源31、32の正常時には、その第1及び第2の油圧供給源31、32の双方が、各油圧アクチュエータ2に順次、作動油を供給するため、二つの油圧供給源31、32の協働によって油圧アクチュエータ2への供給条件を満足するように、油圧供給源一つ当たりの供給能力を定めることが考えられる。このようにすれば、油圧供給源3の供給能力を比較的低く設定することが可能になるから、各油圧供給源3の小型軽量化が図られる。
【0061】
そこで、このEHAシステム1では、最も厳しい作動油の供給条件を満足する油圧供給源3の供給能力を100%としたときに、二つの油圧供給源3それぞれの供給能力を、50%ずつに設定している。こうすることで、油圧供給源3の正常時には、最も厳しい作動油の供給条件を満足することは勿論のこと、それよりも緩い供給条件のときには、第1及び第2の油圧供給源31、32の供給能力を低下して運転しても、供給条件を満足することが可能になる。
【0062】
ところが、二つの油圧供給源3それぞれの供給能力を50%ずつに設定した構成においては、いずれか一方の油圧供給源3がフェイルしたときに、他方の、言い換えると一つの油圧供給源3のみでは、最も厳しい作動油の供給条件を満足させることはできなくなる。そのため、脚を格納する一連の動作の開始から完了までの所要時間が、フェイル時には、正常時と比べて大幅に長くなったり、脚を展開する一連の動作の開始から完了までの所要時間も、フェイル時には、正常時と比べて長くなったりする可能性がある。
【0063】
しかしながら、最も厳しい作動油の供給条件よりも緩い供給条件は、そもそも、正常時には二つの油圧供給源3の供給能力を低下して運転することにより満足させている。そのため、一つの油圧供給源を、その供給能力を高めて運転すれば、フェイル時においても、相対的に緩い供給条件は満足させることができる。前述の通り、脚を格納する一連の動作は、複数の油圧アクチュエータ2を順次動作させていて、複数の供給条件が組み合わさっている。そのため、最も厳しい作動油の供給条件を満足させることはできないということだけで、脚を格納する一連の動作の開始から完了までの所要時間が大幅に長くはならない。つまり、二つの油圧供給源3それぞれの供給能力を50%ずつに設定した構成において、脚を格納する一連の動作の開始から完了までの所要時間は、実際は、フェイル時でも、正常時と大きく変わらない。同様に、脚を展開する一連の動作の開始から完了までの所要時間も、実際は、フェイル時でも、正常時とは大きく変わらない。
【0064】
ここで、
図10は、EHAシステム1における油圧供給源3の設計例を示している。先ず脚を格納する時の動作として、ドア開の動作時間が2秒、脚揚げの動作時間が9秒、ドア閉の動作時間が2秒に設定されるとする。これにより、脚を格納する一連の動作の開始から完了までの所要時間は13秒に設定される。一方、脚を展開する時の動作として、ドア開の動作時間が2秒、脚降ろしの動作時間が12秒、ドア閉の動作時間が2秒に設定されるとする。これにより、脚を展開する一連の動作の開始から完了までの所要時間は、16秒に設定される。
【0065】
このような動作設定においては、ドア閉を2秒で行うようにドアアクチュエータ22に作動油を供給する条件が最も厳しい供給条件となる。そこで、第1及び第2の二つの油圧供給源31、32によってこの供給条件を満足するように、各油圧供給源3の供給能力を設定する。具体的に
図10の例では、第1及び第2の二つの油圧供給源31、32の供給能力を50%ずつに設定し、その結果、各油圧供給源3の電動モータ34の最高回転数を13736rpmに設定する。正常時には、ドア閉の動作時には、第1及び第2の二つの油圧供給源31、32の電動モータ34を共に、最高回転数の13736rpmで駆動する。このことによって、供給条件が満足し、ドア閉の動作は2秒で完了する。一方、ドア閉の動作よりも供給条件が緩くなるドア開時には、第1及び第2の二つの油圧供給源31、32の電動モータ34を共に、最高回転数よりも低い回転数で、具体的には5344rpmで駆動すれば供給条件を満足する。その結果、ドア開動作は2秒で完了する。同様に、脚揚げ動作時には、第1及び第2の二つの油圧供給源31、32の電動モータ34を共に、最高回転数よりも低い9897rpmで駆動すれば供給条件を満足する。脚降ろし動作時には、第1及び第2の二つの油圧供給源31、32の電動モータ34を共に、最高回転数よりも低い4737rpmで駆動すれば供給条件を満足する。
【0066】
これに対し、第1及び第2の油圧供給源31、32のいずれか一方がフェイルしたときには、前述の通り、一つの油圧供給源3のみを駆動して作動油の供給を行う。この場合に、
図10に示すように、ドア開動作時において、コントローラ9は、油圧供給源3の電動モータ34を、正常時よりも高い回転数である10689rpmで駆動する(尚、正常時は5344rpm)。このことにより供給条件が満足し、ドア開の動作を、正常時と同じ2秒で完了することが可能になる。同様に、脚揚げ動作時には、コントローラ9は、電動モータ34を、正常時よりも高い回転数である13736rpmで駆動する。つまり、電動モータ34は、最高回転数で駆動する。この場合、作動油の供給条件は満足しないため、脚揚げ動作は、正常時よりも長くなって12.16秒で完了する。また、コントローラ9は、ドア閉動作時には、電動モータ34を、正常時と同じ最高回転数(13736rpm)で駆動する。この場合も、作動油の供給条件が満足しないため、脚揚げ動作は、正常時よりも長くなって3.29秒で完了する。その結果、フェイル時には、脚を格納する一連の動作の所要時間は17.45秒となり、正常時と比較して、所要時間は34%延びる。このように、脚を格納する動作については、フェイル時には正常時と比較して所要時間が長くなるものの、許容範囲に収めることが可能である。
【0067】
また、脚降ろし動作時には、コントローラ9は、電動モータ34を、正常時よりも高い9473rpmで駆動する(正常時は4737rpm)。これによって、脚降ろし動作を、正常時と同じ12秒で完了することが可能である。従って、フェイル時における、脚を展開する一連の動作の所要時間は17.29秒となり、正常時に対する比率は、1.08になる。つまり、脚を展開する動作は、正常時であってもフェイル時であっても、ほとんど変わらない。
【0068】
このように前記構成のEHAシステム1は、各油圧供給源3の供給能力を比較的低く設定することにより、EHAシステム1の小型軽量化を図りつつも、フェイル時には、正常時よりも電動モータ34の回転数を高めることによって、性能低下を抑制することができる。また、各油圧供給源3の供給能力を互いに同じに設定している(
図10の例では、50%に設定している)ことによって、第1及び第2のいずれの油圧供給源3がフェイルしたときでも性能低下は同じになる。
【0069】
尚、各油圧供給源3の供給能力は、必要な供給能力の50%に設定することに限らず、50%よりも高く設定してもよい。こうすることで、フェイル時の能力低下がさらに抑制される。但し、各油圧供給源3の供給能力を高く設定することは、油圧供給源の小型化及び軽量化には不利になる。従って、各油圧供給源3の供給能力は、その小型及び軽量化と、フェイル時の能力低下とのバランスを考慮しながら、適宜設定すればよい。
【0070】
(実施形態2)
図11は、実施形態2に係るEHAシステム10の回路図を示している。このEHAシステム10は、両回転式の油圧ポンプを採用している点が、
図2に示すEHAシステム1と相違する。尚、
図11に示すEHAシステム10において、
図2に示すEHAシステム1と同じ構成要素については、同じ符号を付して、その説明を省略する場合がある。また、
図11において、作動油経路は実線、パイロット油圧経路は破線で示す。また、コントローラ9から各モータ54及びダンプバルブ43への電気信号経路の図示は省略する。
【0071】
図11に示すEHAシステム10においても、油圧供給源の冗長化のために、第1及び第2の二つの油圧供給源51、52を備えている。第1及び第2の油圧供給源51、52は、回路上で並列に設けられている。第1及び第2の油圧供給源51、52の構成は互いに同じであるため、ここでは第1の油圧供給源51を例に、油圧供給源の構成について説明する。
【0072】
第1の油圧供給源51は、第1ポート(
図11の左側のポート)と第2ポート(
図11の右側のポート)とを有する一つの油圧ポンプ53と、油圧ポンプ53を駆動する一つの電動モータ54と、リターンバルブ55とを有している。
【0073】
リターンバルブ55は、R1ポート、R2ポート、Tポート、Aポート及びBポートの五つのポートを有する5ポート3位置の切換弁である。リターンバルブ55は、油圧ポンプ53の吐出及び吸込方向の切り替わりに連動して、油圧アクチュエータ2から戻る作動油を、油圧ポンプ53の第1又は第2ポートに選択的に戻す機能を有する。リターンバルブ55のR1ポートは、油圧ポンプ53の第1ポートに接続され、R2ポートは、油圧ポンプ53の第2ポートに接続される。Tポートは、フィルタ82を介してリザーバ81に接続される。Aポートは、後述するギヤセレクタバルブ61及びドアセレクタバルブ62のそれぞれに接続され、Bポートも、ギヤセレクタバルブ61及びドアセレクタバルブ62のそれぞれに接続される。
【0074】
リターンバルブ55は、油圧パイロット式の切換弁であって、スプールは、スプリングによりセンター位置に付勢されている。リターンバルブ55は、センター位置では、R1、R2、T、A及びBの各ポートを全て遮断する。リターンバルブ55はまた、第1オフセット位置(
図11における左側の位置)では、AポートとR1及びTポートとを連通しかつ、BポートとR2ポートとを遮断する一方で、第2オフセット位置(
図11における右側の位置)では、BポートとT及びR2ポートとを連通しかつ、AポートとR1ポートとを遮断する。詳しくは後述するが、油圧ポンプ53の第1ポートが吐出ポートになりかつ、第2ポートが吸込ポートになるように油圧ポンプ53を駆動するときには、リターンバルブ55は、第2オフセット位置に切り換わる一方、油圧ポンプ53の第1ポートが吸込ポートになりかつ、第2ポートが吐出ポートになるように油圧ポンプ53を駆動するときには、リターンバルブ55は、第1オフセット位置に切り換わる。
【0075】
油圧ポンプ53は、例えば斜板式ピストンポンプによって構成される。また、電動モータ54は、例えば三相モータからなる。油圧ポンプ53の吐出及び吸込方向の切り換えは、電動モータ54の回転方向を反転することによって行ってもよい。また、斜板式ピストンポンプの斜板の傾斜角度を変更することによって、油圧ポンプ53の吐出及び吸込方向の切り換えてもよい。
【0076】
油圧ポンプ53の第1ポートは、前述したように、リターンバルブ55のR1ポートに接続されると共に、逆止弁56を介して、後述するギヤセレクタバルブ61のCポート及びドアセレクタバルブ62のCポートに接続されている。逆止弁56は、前述したように、油圧供給源51、52のフェイル時の逆流を防止する弁である。油圧ポンプ53の第1ポートはさらに、リリーフバルブ57を介してリザーバ81にも接続されている。同様に、油圧ポンプ53の第2ポートは、リターンバルブ55のR2ポートに接続されると共に、逆止弁58を介して、ギヤセレクタバルブ61のDポート及びドアセレクタバルブ62のDポートに接続され、さらに、リリーフバルブ59を介してリザーバ81にも接続されている。この逆止弁58もまた、油圧供給源のフェイル時の逆流を防止する弁である。
【0077】
ここで、第2の油圧供給源52の油圧ポンプ53も、第1の油圧供給源51の油圧ポンプ53と同様に、その第1ポートは、リターンバルブ55のR1ポートに接続されると共に、逆止弁56を介して、ギヤセレクタバルブ61のCポート及びドアセレクタバルブ62のCポートに接続されている。また、第2ポートは、リターンバルブ55のR2ポートに接続されると共に、逆止弁58を介して、ギヤセレクタバルブ61のDポート及びドアセレクタバルブ62のDポートに接続されている。
【0078】
ギヤセレクタバルブ61は、Aポート、Bポート、Cポート及びDポートの四つのポートを有する4ポート2位置の切換弁である。ギヤセレクタバルブ61は、ギヤアクチュエータ21及びダウンロックリリースアクチュエータ23に対して作動油を選択的に供給する機能を有する。ギヤセレクタバルブ61のCポートは、前述の通り、各油圧ポンプ53の第1ポートに接続されていると共に、リターンバルブ55のAポートに接続されている。ギヤセレクタバルブ61のDポートは、各油圧ポンプ53の第2ポートに接続されていると共に、リターンバルブ55のBポートに接続されている。また、ギヤセレクタバルブ61のAポートは、ギヤアクチュエータ21のボア側油室24及びダウンロックリリースアクチュエータ23のアニュラス側油室25のそれぞれに接続されかつ、Bポートは、ギヤアクチュエータ21のアニュラス側油室25に接続されている。
【0079】
ギヤセレクタバルブ61はまた、ソレノイドによって直接駆動されるスプールが、スプリングによってノーマル位置に付勢されたソレノイドバルブである。ギヤセレクタバルブ61は、ノーマル位置では、AポートとCポートとを連通し、BポートとDポートとを連通する一方で、オフセット位置では、A、B、C、Dの各ポートを全て遮断する。コントローラ9は、ギヤセレクタバルブ61の切り換えを通じて、ギヤアクチュエータ21のボア側油室24及びアニュラス側油室25への作動油の供給及び停止を切り換えると共に、ダウンロックリリースアクチュエータ23のアニュラス側油室25への作動油の供給及び停止を切り換える。
【0080】
ドアセレクタバルブ62もまた、ギヤセレクタバルブ61と同様に、Aポート、Bポート、Cポート及びDポートの四つのポートを有する4ポート2位置の切換弁である。ドアセレクタバルブ62は、ドアアクチュエータ22に対して作動油を選択的に供給する機能を有する。ドアセレクタバルブ62のCポートは、前述の通り、各油圧ポンプ53の第1ポートに接続されていると共に、リターンバルブ55のAポートに接続されている。ドアセレクタバルブ62のDポートは、各油圧ポンプ53の第2ポートに接続されていると共に、リターンバルブ55のBポートに接続されている。また、ドアセレクタバルブ62のAポートは、ドアアクチュエータ22のボア側油室24に接続され、Bポートは、シャトル弁48を介してドアアクチュエータ22のアニュラス側油室25に接続されている。シャトル弁48は、ドアセレクタバルブ62のBポートに接続される第1ポートと、ドアセレクタバルブ62のAポートに接続される第2ポートと、を有している。シャトル弁48は、第1及び第2ポートの内の、圧力の高い方のポートを開放する。シャトル弁48は、ドアアクチュエータ22のアニュラス側油室25とドアセレクタバルブ62のBポートとを連通する状態と、ドアアクチュエータ22のアニュラス側油室25とボア側油室24とを連通する状態とを切り換える。
【0081】
ドアセレクタバルブ62はまた、ソレノイドによって直接駆動されるスプールが、スプリングによってノーマル位置に付勢されたソレノイドバルブである。ドアセレクタバルブ62は、ノーマル位置では、AポートとCポートとを連通し、BポートとDポートとを連通する一方で、オフセット位置では、A、B、C、Dの各ポートを全て遮断する。コントローラ9は、ドアセレクタバルブ62の切り換えを通じて、ドアアクチュエータ22のボア側油室24及びアニュラス側油室25への作動油の供給及び停止を切り換える。
【0082】
次に、
図11〜15を参照しながら、脚を格納する際のEHAシステム10の動作手順を説明する。脚を格納する時には、脚降ろしかつドア閉の開始状態(
図11)から、ドア開(
図12)、脚揚げ(
図13)、及び、ドア閉(
図14)の各動作が順に行われ、脚の格納が完了した状態(
図15)に至る。尚、
図12〜15においては、作動油が供給されている経路を太実線、作動油が保持されている経路を太破線、パイロット油圧経路を破線、リザーバ81に接続されている経路を実線で示す。
【0083】
先ず脚の格納を開始する時は、EHAシステム10は
図11の状態であり、ギヤセレクタバルブ61、ドアセレクタバルブ62及びダンプバルブ43はそれぞれノーマル位置にあり、二つのリターンバルブ55はそれぞれセンター位置にある。このイニシャル状態から、図示省略のコントローラ9は、
図12に示すように、ダンプバルブ43をオフセット位置に切り換え、A〜D及びTポートの全てを遮断する。コントローラ9はまた、ギヤセレクタバルブ61もオフセット位置に切り換え、A〜Dポートを全て遮断する。
【0084】
その後、コントローラ9が、油圧ポンプ53の第2ポートが吸込となりかつ、第1ポートが吐出となるように、第1及び第2の油圧供給源51、52それぞれの油圧ポンプ53を駆動する。これによって、
図12に示すように、リターンバルブ55は第2オフセット位置に切り換わり、それによって、ドアセレクタバルブ62のAポートに、第1及び第2の油圧供給源51、52の双方から作動油が供給される。こうして、第1及び第2の油圧供給源51、52の双方が、ドアアクチュエータ22のボア側油室24に作動油を供給する。ドアアクチュエータ22は、
図12に矢印で示すように伸びる。また、シャトル弁48は、ドアアクチュエータ22のアニュラス側油室25とボア側油室24とを連通する状態になり、ドアアクチュエータ22が伸びるに伴いアニュラス側油室25から排出された作動油は、オリフィス47を通って、ドアアクチュエータ22のボア側油室24に供給される。こうして、格納室のドアが開く。
【0085】
格納室のドアが開いた後、コントローラ9は、
図13に示すように、ドアセレクタバルブ62をオフセット位置に切り換える。これにより、ドアアクチュエータ22の油圧は保持される。コントローラ9はまた、ギヤセレクタバルブ61をノーマル位置に切り換える。これによって、ギヤセレクタバルブ61のAポートとCポートとが連通しかつ、BポートとDポートとが連通する。油圧ポンプ53は、第1ポートが吐出でかつ、第2ポートが吸込のままで駆動し、これによって、第1及び第2の油圧供給源51、52は、
図13に矢印で示すように、ギヤセレクタバルブ61を通じて、ダウンロックリリースアクチュエータ23のアニュラス側油室25に作動油を供給する。ダウンロックリリースアクチュエータ23は縮み、そして、脚降ろし状態を固定する機構を解除する。また、第1及び第2の油圧供給源51、52は、逆止弁44を介してギヤアクチュエータ21のボア側油室24に作動油を供給する。ギヤアクチュエータ21は、
図13に矢印で示すように伸び、それによって、図示省略の脚は揚がる。尚、ギヤアクチュエータ21が伸びるに伴い、アニュラス側油室25が排出される作動油は、ギヤセレクタバルブ61、リターンバルブ55を通って油圧ポンプ53の第2ポートに戻る。
【0086】
格納室に脚が収納された後に、コントローラ9は、
図14に示すように、ギヤセレクタバルブ61をオフセット位置に切り換える。これによって、ギヤアクチュエータ21の油圧が保持される。コントローラ9は、ドアセレクタバルブ62をノーマル位置に切り換えると共に、第1及び第2の油圧供給源51、52の油圧ポンプ53の吐出及び吸込方向を反転させ、油圧ポンプ53の第1ポートが吸込となりかつ、第2ポートが吐出となるように油圧ポンプ53を駆動する。その結果、
図14に示すように、第1及び第2の油圧供給源51、52は、ドアアクチュエータ22のアニュラス側油室25に作動油を供給する。ドアアクチュエータ22は縮んでドアが閉じ、脚を格納する一連の動作が完了する。脚の格納が完了した後は、
図15に示すように、コントローラ9は、ギヤセレクタバルブ61及びダンプバルブ43をそれぞれノーマル位置に切り換えると共に、第1及び第2の油圧供給源51、52の電動モータ54をそれぞれ停止する。これによって、リターンバルブ55はセンター位置に切り換わる。
【0087】
次に、
図15〜18及び
図11を参照しながら、脚を展開する時におけるEHAシステム10の動作手順を説明する。脚を展開する時には、開始状態(
図15)から、ドア開(
図16)、脚降ろし(
図17)、及び、ドア閉(
図18)の各動作が順に行われて、脚の展開が完了した状態(
図11)に至る。尚、
図16〜18においても、
図12〜15と同様に、作動油が供給されている経路を太実線、作動油が保持されている経路を太破線、パイロット油圧経路を破線、リザーバ81に接続されている経路を実線で示す。
【0088】
図15に示す脚の展開を開始する時から、
図16に示すドア開までは、前記と同じである。
図16に示すように、ドアアクチュエータ22が伸びることによって、格納室のドアが開く。
【0089】
その後、
図17に示すように、コントローラ9は、ドアセレクタバルブ62をオフセット位置に切り換えると共に、ギヤセレクタバルブ61をノーマル位置に切り換える。また、第1及び第2の油圧供給源51、52の油圧ポンプ53の吐出及び吸込方向を反転させ、油圧ポンプ53の第1ポートが吸込となりかつ、第2ポートが吐出となるように油圧ポンプ53を駆動する。これによって、リターンバルブ55は第1オフセット位置に切り換わり、第1及び第2の油圧供給源51、52は、矢印で示すように、ギヤアクチュエータ21のアニュラス側油室25に作動油を供給する。ギヤアクチュエータ21は、
図17に矢印で示すように縮み、そして、格納室に収納されている脚は降りる。尚、ギヤアクチュエータ21が縮むに伴いボア側油室24から排出される作動油は、オリフィス45及びリターンバルブ55を通って、油圧ポンプ53の第1ポートに戻ると共に、フィルタ82を介してリザーバ81に戻る。オリフィス45は作動油の流れを絞ることによって、ギヤアクチュエータ21が縮む速度を制限する。これによって、脚の降りる速度が制限される。尚、ダウンロックリリースアクチュエータ23は、付勢部材の負荷によって伸びる。
【0090】
脚が降りた後に、コントローラ9は、
図18に示すように、ギヤセレクタバルブ61をオフセット位置に切り換えると共に、ドアセレクタバルブ62をノーマル位置に切り換える。これによって、前述したように、ドアアクチュエータ22が縮み、そして、ドアが閉じる。脚を展開する一連の動作が完了した後は、
図11に示す状態に戻るように、コントローラ9は、ギヤセレクタバルブ61及びダンプバルブ43をそれぞれノーマル位置に切り換えると共に、第1及び第2の油圧供給源51、52の電動モータ54をそれぞれ停止する。これによって、リターンバルブ55、55はそれぞれ、センター位置に切り換わる。
【0091】
このように、
図11に示すEHAシステム10においても、三つの油圧アクチュエータ2と、各油圧アクチュエータ2に作動油を供給可能な第1及び第2の油圧供給源51、52を並列に設けている。このため、油圧供給源の冗長性を確保しながら、EHAシステム10の小型及び軽量化が図られる。
【0092】
また、このEHAシステム10においても、油圧供給源の正常時には、第1及び第2の油圧供給源51、52の双方が、各油圧アクチュエータ2に順次作動油を供給する一方で、いずれか一方の油圧供給源がフェイルしたときには、一つの油圧供給源が、各油圧アクチュエータ2に順次作動油を供給する。従って、前述したように、第1及び第2の油圧供給源51、52の供給能力を適宜設定することによって、EHAシステム10のさらなる小型及び軽量化を図りつつも、フェイル時の性能低下を抑制することが可能になる。
【0093】
(実施形態3)
図19は、実施形態3に係るEHAシステム100の回路図を示している。
図2に示すEHAシステム1や、
図11に示すEHAシステム10は、航空機の右舷側又は左舷側の脚の揚降機構単独のシステムであったが、
図19に示すEHAシステム100は、右舷側の揚降機構のEHAシステム100Rと、左舷側の揚降機構のEHAシステム100Lとを組み合わせたシステムである。このEHAシステム100における右舷側の構成と左舷側の構成は基本的に同じであるため、以下においては、主として、左舷側のシステム構成について説明をする。尚、
図2に示すEHAシステム1と同じ構成要素については、同じ符号を付して、その説明を省略する場合がある。
【0094】
左舷側のEHAシステム100Lは、ギヤアクチュエータ21、ドアアクチュエータ22、及び、ダウンロックリリースアクチュエータ23を備えている。これらの油圧アクチュエータ2の構成は、
図2に示すEHAシステム1と同じであるため、その詳細な説明は省略する。
【0095】
ギヤセレクタバルブ41、ドアセレクタバルブ42及びダンプバルブ43はそれぞれ、
図2に示すEHAシステム1の、ギヤセレクタバルブ41、ドアセレクタバルブ42及びダンプバルブ43と構成が同じである。つまり、ギヤセレクタバルブ41は、Pポート、Tポート、Aポート及びBポートの四つのポートを有する4ポート3位置の切換弁であると共に、スプールがスプリングによってセンター位置に付勢された油圧パイロット式のソレノイドバルブである。また、ドアセレクタバルブ42は、Pポート、Tポート、Aポート及びBポートの四つのポートを有する4ポート2位置の切換弁であると共に、スプールがスプリングによってノーマル位置に付勢された油圧パイロット式のソレノイドバルブである。さらに、ダンプバルブ43は、A〜DポートとTポートとを有する5ポート2位置の切換弁であって、スプールがスプリングによってノーマル位置に付勢された直接駆動式のソレノイドバルブである。
【0096】
左舷側のEHAシステム100Lは、一つの油圧ポンプ33と一つの電動モータとを含む油圧供給源71を一つのみ備えている。また、右舷側のEHAシステム100Rも、一つの油圧ポンプ33と一つの電動モータとを含む油圧供給源72を一つのみ備えている。
【0097】
油圧供給源71、72の油圧ポンプ33はそれぞれ片回転式である。油圧ポンプ33の吸込ポートは、リザーバ81に接続されていると共に、吐出ポートは、フェイル時の逆流を防止する逆止弁35を介してギヤセレクタバルブ41のPポート及びドアセレクタバルブ42のPポートに接続されている。
【0098】
左舷側のEHAシステム100Lの油圧ポンプ33の吐出ポートはまた、右舷側のEHAシステム100Rにおけるギヤセレクタバルブ41のPポート及びドアセレクタバルブ42のPポートにも接続されている。逆に、右舷側のEHAシステム100Rの油圧ポンプ33の吐出ポートは、左舷側のEHAシステム100Lにおけるギヤセレクタバルブ41のPポート及びドアセレクタバルブ42のPポートに接続されている。
【0099】
図19に示すEHAシステム100において、脚を格納する時の動作手順は、
図2〜6に準じ、脚を展開する時の動作手順は、
図6〜9及び
図2に準ずるため、ここでは説明を省略する。
【0100】
このように、
図19に示すEHAシステム100では、左舷側のEHAシステム100Lの油圧供給源71と、右舷側のEHAシステム100Rの油圧供給源72とが、回路上で並列に設けられており、いずれの油圧供給源71、72も、左舷側及び右舷側それぞれのEHAシステム100L、100Rの各油圧アクチュエータ2に作動油を供給することが可能である。こうして左舷側のEHAシステム100Lの油圧供給源71と、右舷側のEHAシステム100Rの油圧供給源72とによって、油圧供給源の冗長性が確保されている。つまり、左舷側及び右舷側のEHAシステム100L、100Rの油圧供給源71、72が共に正常であるときには、2つの油圧供給源71、72が、左舷側及び右舷側のEHAシステム100L、100Rそれぞれの、各油圧アクチュエータ2に順次作動油を供給する。一方、2つの油圧供給源71、72のいずれか一方がフェイルしたときには、他方の油圧供給源が、左舷側及び右舷側のEHAシステム100L、100Rそれぞれの、各油圧アクチュエータ2に順次作動油を供給する。このように左舷側の脚の揚降機構のEHAシステム100Lと、右舷側の揚降機構のEHAシステム100Rとを組み合わせたEHAシステム100は、さらなる小型化及び軽量化に有利になる。
【0101】
尚、
図19に示すEHAシステム100において、二つの油圧供給源71、72は、航空機の機体の右舷側及び左舷側のそれぞれに配置しなくてもよい。図示は省略するが、機体の胴体中央に、二つの油圧供給源71、72を配置し、そこから右舷側の揚降機構及び左舷側の揚降機構に作動油を供給するようにしてもよい。この場合、リザーバ81を、右舷側と左舷側とで共用化してもよい。
【0102】
(実施形態4)
図20は、実施形態4に係るEHAシステム11の回路図を示している。このEHAシステム11は、
図2に示すEHAシステム1に対して、各種バルブの簡略化等を含む改良を施したシステムである。尚、
図20に示すEHAシステム11において、
図2に示すEHAシステム1と同じ構成要素については、同じ符号を付して、その説明を省略する場合がある。以下、実施形態4に係るEHAシステム11の構成について、
図2に示すEHAシステム1に対する変更点を中心として説明する。
【0103】
図2に示すダンプバルブ43は、5ポート2位置の切換弁である。これに対し、
図11に示すダンプバルブ430は、Aポート、Bポート及びTポートの三つのポート有する3ポート2位置の切換弁である。ダンプバルブ430は、ノーマル位置では、Aポート及びBポートをTポートに連通すると共に、オフセット位置では、Aポート及びBポートとTポートとを遮断する。ダンプバルブ430のAポートは、ギヤアクチュエータ21のボア側油室24及びダウンロックリリースアクチュエータ23のアニュラス側油室25に接続され、ダンプバルブ430のBポートは、ドアアクチュエータ22のアニュラス側油室25に接続されている。ダンプバルブ430のTポートは、リザーバ81に接続されている。
【0104】
図2に示すドアセレクタバルブ42は、スプールアンドスリーブ型であり、スプールはパイロット油圧によって駆動される。これに対し、
図20に示すドアセレクタバルブ420は、ドアセレクタバルブ42と同じスプールアンドスリーブ型であるが、コントローラ9からの駆動信号を受けたソレノイドがスプールを直接駆動する。EHAシステム1、11においては、後述するように、各アクチュエータ21、22の動作時に、電動モータ34の回転数の制御を通じて油圧ポンプ33の回転数を調整し、そして、各アクチュエータ21、22の動作速度を調整する場合がある。パイロット油圧式のスプールバルブは、油圧ポンプ33の回転数を低下させたときにパイロット油圧が下がるため、その動作が不安定になる虞がある。ソレノイドによる直接駆動式のドアセレクタバルブ420は、油圧ポンプ33の回転数に拘わらず動作が安定する。
【0105】
図2に示すドアセレクタバルブ42は、4ポート2位置の切換弁である。これに対し、
図20に示すドアセレクタバルブ420は、Aポート、Pポート及びTポートの三つのポート有する3ポート2位置の切換弁である。ドアセレクタバルブ420は、ノーマル位置では、AポートとPポートとを連通すると共に、オフセット位置では、AポートとTポートとを連通する。ドアセレクタバルブ420のAポートは、ドアアクチュエータ22のボア側油室24に接続されている。ドアセレクタバルブ420のPポートは、第1及び第2の油圧供給源31、32それぞれの油圧ポンプ33の吐出ポートに接続されていると共に、ドアセレクタバルブ420のTポートは、リザーバ81に接続されている。
【0106】
ドアアクチュエータ22のボア側油室24はまた、ドアセレクタバルブ420をバイパスしてリザーバ81に接続されており、このバイパス経路の途中には、逆止弁91が介設している。この逆止弁91は、ドアアクチュエータ22のボア側油室24内が負圧状態になることを防止するための弁である。この逆止弁91の機能についての詳細は後述する。
【0107】
また、前述の通り、ドアアクチュエータ22のアニュラス側油室25は、ダンプバルブ430のBポートに接続されていると共に、ドアセレクタバルブ420をバイパスして、第1及び第2の油圧供給源31、32それぞれの油圧ポンプ33の吐出ポートにも接続されている。このドアアクチュエータ22のアニュラス側油室25に連通する油圧経路上には、逆止弁46と可変絞り92とが並列に介設している。可変絞り92は、ドアアクチュエータ22のストローク量に応じて絞り量を変更する。可変絞り92は、ドアアクチュエータ22が伸びる速度を制限すると共に、ドアアクチュエータ22の伸長端付近では、絞り開口を小さくする。このことによって、ドアアクチュエータ22の伸びる速度はさらに低減する。
【0108】
図20に示すギヤセレクタバルブ410は、
図2に示すギヤセレクタバルブ41と同じ、4ポート3位置の切換弁である。但し、ギヤセレクタバルブ410も、ドアセレクタバルブ420及びダンプバルブ430と同様に、ソレノイドによる直接駆動式のスプールアンドスリーブ型である。ギヤセレクタバルブ410のAポートは、逆止弁44及び可変絞り93を介してギヤアクチュエータ21のボア側油室24、及び、ダウンロックリリースアクチュエータ23のアニュラス側油室25に接続されている。可変絞り93は、可変絞り92と同様に、ギヤアクチュエータ21の縮む速度を制限すると共に、ギヤアクチュエータ21の収縮端付近では、その絞り開口を小さくする。これによって、ギヤアクチュエータ21の縮む速度はさらに低下する。
【0109】
ギヤセレクタバルブ410のBポートは、ギヤアクチュエータ21のアニュラス側油室25に接続されている。ギヤアクチュエータ21のアニュラス側油室25はまた、ギヤセレクタバルブ410をバイパスしてリザーバ81に接続されている。このバイパス経路上には、逆止弁94が介設している。逆止弁94は、ギヤアクチュエータ21のアニュラス側油室25内が負圧状態になることを防止する。
【0110】
次に、前記の構成のEHAシステム11の動作手順を説明する。
図20〜
図24は、脚を格納する時の動作に係り、
図20は脚降ろしかつドア閉じ状態、
図21はドア開、
図22は脚揚げ、
図23はドア閉、及び、
図24は脚揚げかつドア閉じ状態をそれぞれ示している。尚、
図21〜23においては、作動油が供給されている経路を太実線、リザーバ81に接続されている経路を実線で示す。
【0111】
先ず脚の格納を開始する時は、EHAシステム11は
図20の状態であり、ギヤセレクタバルブ410はセンター位置、ドアセレクタバルブ420及びダンプバルブ430はそれぞれノーマル位置にある。この状態から、
図21に示すように、コントローラ9は、ダンプバルブ43をオフセット位置に切り換え、それによって、A、B及びTポートの全てを遮断する。
【0112】
コントローラ9は、第1及び第2の油圧供給源31、32の電動モータ34をそれぞれ駆動する。
図21に示すように、作動油はドアアクチュエータ22のボア側油室24に流入し、ドアアクチュエータ22は伸びる(
図21の矢印参照)。ドアアクチュエータ22が伸びるに伴い、アニュラス側油室25から排出された作動油もまた、可変絞り92及びドアセレクタバルブ420を通って、ドアアクチュエータ22のボア側油室24に流入する。ドアアクチュエータ22が伸びることによって、格納室のドアが開く。コントローラ9は、ドアアクチュエータ22の伸長端付近では、油圧ポンプ33の回転数を低下させることによって、ドアアクチュエータ22に対する作動油の供給量を低減する。油圧ポンプ33の回転数制御と可変絞り92の絞り量の調整とによって、ドアの開放が完了する際の衝撃を和らげる。
【0113】
格納室のドアが開いた後、コントローラ9は、
図22に示すように、ギヤセレクタバルブ410を第1オフセット位置に切り換える。これによって、ギヤセレクタバルブ410のAポートとPポートとが連通しかつ、BポートとTポートとが連通する。第1及び第2の油圧供給源31、32は、矢印で示すように、ギヤセレクタバルブ410を介して、ダウンロックリリースアクチュエータ23のアニュラス側油室25に作動油を供給する。ダウンロックリリースアクチュエータ23は、
図22に矢印で示すように縮み、そして、脚降ろし状態を固定する機構を解除する。また、第1及び第2の油圧供給源31、32は、逆止弁44を介してギヤアクチュエータ21のボア側油室24に作動油を供給する。ギヤアクチュエータ21は、
図22に矢印で示すように伸び、それによって、図示省略の脚は揚がる。コントローラ9は、ギヤアクチュエータ21の伸長端付近では、油圧ポンプ33の回転数を低下させることによって、ギヤアクチュエータ21に対する作動油の供給量を低減する。こうして、脚の上昇が完了する際の衝撃を和らげる。尚、ギヤアクチュエータ21が伸びるに伴い、アニュラス側油室25から排出される作動油は、ギヤセレクタバルブ410及びフィルタ82を通って、リザーバ81に戻る。
【0114】
格納室に脚が収納された後に、コントローラ9は、
図23に示すように、ギヤセレクタバルブ410をセンター位置に切り換えると共に、ドアセレクタバルブ420をオフセット位置に切り換える。第1及び第2の油圧供給源31、32は、逆止弁46を介して、ドアアクチュエータ22のアニュラス側油室25に作動油を供給する。ドアアクチュエータ22は、
図23に矢印で示すように縮む。ドアアクチュエータ22が縮むに伴いボア側油室24から排出される作動油は、ドアセレクタバルブ420及びフィルタ82を通って、リザーバ81に戻る。コントローラ9は、ドアアクチュエータ22の収縮端付近では、油圧ポンプ33の回転数を低下させることによって、ドアアクチュエータ22に対する作動油の供給量を低減する。こうして、衝撃を和らげつつ、ドアを閉じる。脚の格納が完了した後は、
図24に示す状態、つまり脚揚げかつドア閉じ状態を保持するように、コントローラ9は、ドアセレクタバルブ420をノーマル位置に切り換えると共に、第1及び第2の油圧供給源31、32それぞれの電動モータ34を停止する。また、コントローラ9は、ダンプバルブ430をノーマル位置に切り換える。
【0115】
次に、
図24〜27及び
図20を参照しながら、脚を展開する時におけるEHAシステム11の動作手順を説明する。尚、
図24〜27においても、作動油が供給されている経路を太実線、リザーバ81に接続されている経路を実線で示す。
図24は脚揚げかつドア閉じ状態、
図25はドア開、
図26は脚降ろし、及び、
図27はドア閉をそれぞれ示す。
【0116】
図24に示す脚の展開を開始する時から、ドア開(
図25)までは、前記と同じである。
図25に示すように、ドアアクチュエータ22が伸びることによって、格納室のドアが開く。
【0117】
その後、
図26に示すように、コントローラ9は、ギヤセレクタバルブ410を第2オフセット位置に切り換える。ギヤセレクタバルブ410のBポートとPポートとが連通する。第1及び第2の油圧供給源31、32は、矢印で示すように、ギヤアクチュエータ21のアニュラス側油室25に作動油を供給する。ギヤアクチュエータ21は、
図26に矢印で示すように縮み、そして、格納室に収納されている脚は降りる。ギヤアクチュエータ21の縮小に伴いボア側油室24から排出される作動油は、可変絞り93及びギヤセレクタバルブ410を通ってリザーバ81に戻る。可変絞り93は作動油の流れを絞ることによって、ギヤアクチュエータ21が縮む速度を制限する。また、可変絞り93は、ギヤアクチュエータ21の収縮端付近では絞り開口を小さくすることで、ギヤアクチュエータ21が縮む速度をさらに低下させる。ギヤアクチュエータ21の収縮端付近において、コントローラ9は、油圧ポンプ33の回転数を下げる。こうして、脚の降下が完了する際の衝撃を和らげる。尚、ダウンロックリリースアクチュエータ23は、付勢部材の負荷によって伸長する。
【0118】
ギヤアクチュエータ21が縮んで脚が降りた後、コントローラ9は、
図27に示すように、ギヤセレクタバルブ410をセンター位置に切り換えると共に、ドアセレクタバルブ420をオフセット位置に切り換える。これによって、前述したように、ドアアクチュエータ22が縮んでドアが閉じる(
図27の矢印参照)。脚を展開する一連の動作が完了した後は、
図20に示す状態、つまり脚降ろしかつドア閉じ状態を保持するように、コントローラ9は、ドアセレクタバルブ420をノーマル位置に切り換えると共に、第1及び第2の油圧供給源31、32の電動モータ34を停止する。コントローラ9はまた、ダンプバルブ430をノーマル位置に切り換える。
【0119】
このEHAシステム11においても、回路上で並列に設けられた第1及び第2の油圧供給源31、32を備えている。このため、第1及び第2の油圧供給源31、32のいずれか一方がフェイルしたときには、他方の油圧供給源3が、各油圧アクチュエータ2に作動油を供給することが可能である。これに対し、
図28は、例えば第1及び第2の油圧供給源31、32の双方がフェイルしたときのような緊急時の状態を示している。
【0120】
緊急時には、コントローラ9は、ダンプバルブ430をオフセット位置に切り換える。ドアアクチュエータ22のアニュラス側油室25は、ダンプバルブ430を介してリザーバ81に連通する。ドアは、その自重によって開く。ドアセレクタバルブ420は、例えばノーマル位置のままである。ドアアクチュエータ22のボア側油室24は、ドアセレクタバルブ420を介して油圧ポンプ33の吐出ポートに連通する。油圧ポンプ33から作動油が供給されないため、この状態ではドアアクチュエータ22のボア側油室24が負圧になる可能性がある(尚、ドアアクチュエータ22のボア側油室24は、ドアセレクタバルブ420を介してドアアクチュエータ22のアニュラス側油室25にも連通しており、アニュラス側油室25からボア側油室24に作動油が供給されるものの、ボア側油室24とアニュラス側油室25との断面積差から、ボア側油室24内に供給される作動油の量は不足する)。しかしながら、ドアアクチュエータ22のボア側油室24は、ドアセレクタバルブ420をバイパスして、リザーバ81に連通している。そのため、所定の圧力に加圧されているリザーバ81から、逆止弁91を介してドアアクチュエータ22のボア側油室24に作動油が供給される。こうして、ボア側油室24が負圧になってしまうことが回避される。尚、ドアセレクタバルブ420が、オフセット位置であっても、リザーバ81からドアアクチュエータ22のボア側油室24に作動油が供給される。
【0121】
これに対し、ギヤアクチュエータ21のボア側油室24は、可変絞り93を介してダンプバルブ430のAポートに連通する。ギヤアクチュエータ21のボア側油室24がリザーバ81に連通することになり、脚は、その自重によって降りると共に、ギヤアクチュエータ21は縮む(
図28の矢印参照)。ギヤアクチュエータ21のアニュラス側油室25は、ギヤセレクタバルブ410のBポートに連通している。ギヤセレクタバルブ410の位置に拘わらず、油圧ポンプ33からは作動油が供給されないため、この状態ではギヤアクチュエータ21のアニュラス側油室25が負圧になる可能性がある。しかしながら、ギヤアクチュエータ21のアニュラス側油室25は、ギヤセレクタバルブ410をバイパスしてリザーバ81に連通しているため、リザーバ81から、逆止弁94を介して、ギヤアクチュエータ21のアニュラス側油室25に作動油が供給される。こうして、アニュラス側油室25が負圧になってしまうことが回避される。尚、ダウンロックリリースアクチュエータ23は、そのアニュラス側油室25がダンプバルブ430のAポートに接続される。ダウンロックリリースアクチュエータ23は、
図28に矢印で示すように、ばねの付勢力によって伸びる。以上のように、緊急時には、揚降機構は、脚降ろしかつドア開状態となる。
【0122】
(EHAシステムのオプション)
図29は、
図20に示すEHAシステム11に、任意に追加することが可能な要素を示している。
図29における符号951は、フィルタ82をバイパスするバイパス路上に介設した逆止弁、及び、符号952は、フィルタ82とリザーバ81との間に介設した逆止弁である。これらの逆止弁951、952は、フィルタ82で捕捉したコンタミネーションが、ギヤアクチュエータ21やドアアクチュエータ22に逆流してしまうことを防止する。つまり、
図20に示すEHAシステム11においては、前述したように、緊急時等にリザーバ81から各アクチュエータ21、22に作動油が供給される場合がある。その際に、作動油の流れ方向が逆になることから、フィルタ82で捕捉していたコンタミネーションがとれて、作動油と共に、ギヤアクチュエータ21やドアアクチュエータ22に供給される虞がある。2つの逆止弁951、952は、各アクチュエータ2からリザーバ81に向かって作動油が流れるときには、作動油がフィルタ82を通過するようにしかつ、リザーバ81から各アクチュエータ2に向かって作動油が流れるときには、作動油がフィルタ82をバイパスするようにする。このため、フィルタ82で捕捉しているコンタミネーションが逆流してしまうことが、防止される。
【0123】
符号96は、ギヤアクチュエータ21のボア側油室24に連通する経路上に介設されたリリーフバルブである。このリリーフバルブ96は、逆止弁44及び可変絞り93に対して並列に設けられている。リリーフバルブ96は、ギヤアクチュエータ21が過加圧状態になってしまうことを防止する。つまり、前述の通り、EHAシステム11においては、アクチュエータ21、22の動作時に、電動モータ34の回転数の制御を通じて油圧ポンプ33の回転数を調整する。一方で、EHAシステム11の作動する温度環境は大きく変化し、作動油の温度もまた大きく変化する。作動油の温度が異なれば、その粘度が変化するため、油圧ポンプ33の回転数が同じでも油圧ポンプ33の吐出量は変動する。結果として、ギヤアクチュエータ21に供給される作動油が過剰になってしまい、ギヤアクチュエータ21が過加圧状態になる虞がある。リリーフバルブ96は、脚降ろし時に、ギヤアクチュエータ21のアニュラス側油室25に供給される作動油が過剰になって、ボア側油室24の圧力が所定圧力になったときに開いて、ボア側油室24の圧力を低下させる。こうして、ギヤアクチュエータ21が過加圧状態になることが、確実に防止される。
【0124】
符号97は、ドアアクチュエータ22が過加圧状態になってしまうことを防止するためのリリーフバルブである。リリーフバルブ97は、ドアアクチュエータ22のボア側油室24に連通する経路と、アニュラス側油室25に連通する経路とを連結する経路上に介設されている。尚、リリーフバルブ97が介設している経路は、ドアアクチュエータ22のアニュラス側油室25と可変絞り92との間に接続されている。リリーフバルブ97は、開弁時には、ドアアクチュエータ22のアニュラス側油室25からボア側油室24に作動油を流す。つまり、ドアアクチュエータ22が伸びてドアが開くときには、油圧ポンプ3からドアアクチュエータ22のボア側油室24に作動油が供給されると共に、アニュラス側油室25内の作動油が、可変絞り92及びドアセレクタバルブ420を介して、ドアアクチュエータ22のボア側油室24に供給される。ドアを開く時に、油圧ポンプ33からボア側油室24に供給される作動油が過剰になって、アニュラス側油室25の圧力が所定圧力以上になったときには、リリーフバルブ97が開く。これにより、アニュラス側油室25内の作動油は、リリーフバルブ97を介して、言い換えるとアニュラス側油室25からボア側油室24までの経路をショートカットして、ボア側油室24に流れる。こうして、ドアアクチュエータ22が過加圧状態になってしまうことが回避される。
【0125】
符号981、982は、ギヤアクチュエータ21のアニュラス側油室25とギヤセレクタバルブ410との間に介設される可変絞り及び逆止弁である。この可変絞り981は、脚の揚がる速度を調整し、それによって、電動モータ34の制御を容易化する。すなわち、可変絞り981は、ギヤアクチュエータ21のストローク量に応じて、その絞り量が変化するように構成されている。具体的には、ギヤアクチュエータ21の伸長端付近では、絞り開口を小さくする。これによって、ギヤアクチュエータ21のボア側油室24内に流入する作動油の量を制限し、脚の揚がる速度を低くする。前述したように、ギヤアクチュエータ21のストローク量に応じて、電動モータ34の回転数制御を通じて油圧ポンプ33の回転数を下げることにより、脚の上昇が完了する直前の上昇速度を低下させることが可能である。可変絞り981は、そうした電動モータ34の回転数制御を無くす、又は、その制御を簡易にする。
【0126】
符号991、992は、ドアアクチュエータ22のボア側油室24とドアセレクタバルブ420との間に介設される可変絞り及び逆止弁である。この可変絞り991は、ドアが閉じる速度を調整し、それによって、電動モータ34の制御を容易化する。可変絞り991は、ドアアクチュエータ22のストローク量に応じて、その絞り量が変化するように構成されている。具体的には、ドアアクチュエータ22の収縮端付近では、絞り開口を小さくする。これによって、ドアアクチュエータ22のアニュラス側油室25内に供給される作動油の量を制限し、ドアが閉じる速度を低下させる。
【0127】
以上説明した逆止弁951、952、リリーフバルブ96、リリーフバルブ97、可変絞り981及び逆止弁982、可変絞り991及び逆止弁992はそれぞれ、EHAシステム11において必須の要素ではなく、任意に追加可能な要素である。これらの要素の内の、1つ、又は、複数を、任意に選択して、EHAシステム11の回路に追加することが可能である。また、これらの各要素は、
図2、11、及び19に示すシステムに対しても、可能な範囲で追加することが可能である。
【0128】
また、
図2、11、19、及び20に示す油圧回路はそれぞれ例示であり、脚の揚降機構のEHAシステムを構成する回路は、適宜の回路構成を採用することが可能である。また、各回路構成を可能な範囲で組み合わせてもよい。
【0129】
さらに、EHAシステムに含まれる油圧アクチュエータの数は、三つに限らない。EHAシステムは、油圧アクチュエータを二つ含んでも良い。EHAシステムはまた、四つ以上の油圧アクチュエータを含んでもよい。さらに、EHAシステムに含まれる油圧供給源の数は、三つ以上にしてもよい。