(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6283213
(24)【登録日】2018年2月2日
(45)【発行日】2018年2月21日
(54)【発明の名称】溝加工用回転式切削工具
(51)【国際特許分類】
B23C 9/00 20060101AFI20180208BHJP
B23C 5/08 20060101ALI20180208BHJP
【FI】
B23C9/00 Z
B23C5/08 A
【請求項の数】10
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-261149(P2013-261149)
(22)【出願日】2013年12月18日
(65)【公開番号】特開2015-116635(P2015-116635A)
(43)【公開日】2015年6月25日
【審査請求日】2016年5月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】514030104
【氏名又は名称】三菱日立パワーシステムズ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】503212652
【氏名又は名称】住友電工ハードメタル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】宮本 敬行
(72)【発明者】
【氏名】西川 顕二
(72)【発明者】
【氏名】河野 一平
(72)【発明者】
【氏名】平井 純一
(72)【発明者】
【氏名】川上 正憲
(72)【発明者】
【氏名】金丸 修久
(72)【発明者】
【氏名】東海林 斉
【審査官】
山本 忠博
(56)【参考文献】
【文献】
実開昭55−002523(JP,U)
【文献】
国際公開第2010/027043(WO,A1)
【文献】
特開2001−328022(JP,A)
【文献】
米国特許第03690414(US,A)
【文献】
特開2006−305674(JP,A)
【文献】
特開2011−194564(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2011/0229278(US,A1)
【文献】
特表平06−505322(JP,A)
【文献】
特開2004−116698(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2006/0275090(US,A1)
【文献】
独国特許出願公開第19963328(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23D 45/00−59/04,
B23C 9/00,
B24D 3/00−99/00,
B23B 27/00−27/24,
B23Q 11/00,
F16F 7/10−7/116,7/12,15/00−15/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディスク状のカッタの外周部分に、切り刃となるカートリッジを円周方向に所定の間隔をもって複数個備え、前記ディスク状のカッタが円周方向に回転することで、前記カートリッジで被削材に所定の溝を加工する溝加工用回転式切削工具であって、
前記ディスク状のカッタの端面上に、円周方向に複数内蔵された防振機構を備え、
前記防振機構は、錘と、該錘の両端面に設置され前記カッタの振動を減衰するリング状の粘弾性体と、該粘弾性体の片側の端面に設置され該粘弾性体の圧力を調整するシムと、該シムと粘弾性体及び錘をカッタボディの内部に内蔵するためのカバーとから成ることを特徴とする溝加工用回転式切削工具。
【請求項2】
請求項1に記載の溝加工用回転式切削工具において、
前記防振機構は、前記錘の中心に貫通穴が形成され、該貫通穴を介して前記カバーと前記カッタボディに固定されたロッド及びリニアブッシュを備え、該ロッド及びリニアブッシュによって、遠心力による前記錘と前記カッタボディの干渉を防ぎ、かつ、前記錘が前記カッタボディを防振する方向に動くことを特徴とする溝加工用回転式切削工具。
【請求項3】
請求項1に記載の溝加工用回転式切削工具において、
前記防振機構は、前記錘及び粘弾性体の中心に貫通穴が形成され、該貫通穴を介してボルト又はネジが固定され、該ボルト又はネジによる締付で前記粘弾性体の圧力が調整されることを特徴とする溝加工用回転式切削工具。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の溝加工用回転式切削工具において、
前記ディスク状のカッタは、ディスク状のカッタボディと、該カッタボディの外周に、円周方向に所定の間隔をもって複数個設けられたカートリッジと、該カートリッジに取り付けられるインサートと、前記カッタボディと一体になって該カッタボディを回転させる主軸とから成り、
前記防振機構は、前記カートリッジと隣接する前記カッタボディの外周側或いはこの外周側より前記主軸側の前記カッタボディの内周側に内蔵されていることを特徴とする溝加工用回転式切削工具。
【請求項5】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の溝加工用回転式切削工具において、
前記ディスク状のカッタは、ディスク状のカッタボディと、該カッタボディの外周に、円周方向に所定の間隔をもって複数個設けられたカートリッジと、該カートリッジに取り付けられるインサートと、前記カッタボディと一体になって該カッタボディを回転させる主軸とから成り、
前記防振機構は、前記カートリッジに埋め込まれていることを特徴とする溝加工用回転式切削工具。
【請求項6】
請求項4に記載の溝加工用回転式切削工具において、
前記防振機構は、前記カートリッジと隣接する前記カッタボディの外周側或いはこの外周側より前記主軸側の前記カッタボディの内周側に形成された防振機構取付穴に内蔵されていることを特徴とする溝加工用回転式切削工具。
【請求項7】
請求項5に記載の溝加工用回転式切削工具において、
前記防振機構は、前記カートリッジに形成された防振機構取付穴に内蔵されていることを特徴とする溝加工用回転式切削工具。
【請求項8】
請求項6又は7に記載の溝加工用回転式切削工具において、
前記防振機構は、前記カバーを介して前記カッタボディにネジで固定されていることを特徴とする溝加工用回転式切削工具。
【請求項9】
請求項6乃至8のいずれか1項に記載の溝加工用回転式切削工具において、
前記錘の側面に溝が施され、かつ、該溝にリング状粘弾性体が設置されていることを特徴とする溝加工用回転式切削工具。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれか1項に記載の溝加工用回転式切削工具において、
前記錘は、鉄系材料或いはタングステン合金を用いることを特徴とする溝加工用回転式切削工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は溝加工用回転式切削工具に係り、特に、防振機構を備えたものに好適な溝加工用回転式切削工具に関する。
【背景技術】
【0002】
ディスクカッタと呼ばれるディスク形状の工具で溝を加工することが、一般的に行われている。
【0003】
図1は、この例を示すものであり、工具径Dのディスクカッタ1の外周部分には、切れ刃となるカートリッジ2が備えられ、ディスクカッタ1が円周方向に回転することで、被削材3に所望の溝4が加工される。このとき、ディスクカッタ1の工具径Dが、より大きなものほど加工中に発生する工具の振動が増大し、工具刃先の破損等が発生し加工精度が低下する問題がある。
【0004】
図2及び
図3は、加工中におけるディスクカッタ1の振動モードの一例を示した図である。該図は、有限要素法によって工具径Dが1200mmのディスクカッタ1のモード解析を行ったものである。ディスクカッタ1は、主軸5に固定された状態である。
図2及び
図3に示す如く、ディスクカッタ1の振動モードは、ディスクカッタ1の外周部がz軸方向に波打つ形状になることが分かる。例えば、z方向の振動振幅が最大となる267Hzの周波数(
図2)では、ディスクカッタ1の外周に、節が4ヶ所形成される振動モードである。また、374Hzの周波数(
図3)では、ディスクカッタ1の外周に、節が6ヶ所形成される振動モードである。
【0005】
このように、ディスクカッタ1の支配的な振動は、ディスクカッタ1の外周部分がz方向に波打つように変位するモードであることがわかる。
【0006】
このようなディスク形状の工具で被削材を加工する先行技術文献として、特許文献1及び2に記載されたものがある。
【0007】
即ち、特許文献1には、回転切削加工用のフライス工具が回転軸を有すると共に、工具本体の一端に配置された個々の転削インサートを受ける複数のインサート座を有する工具本体を備え、フライス工具は、工具本体の内側に配置され、工具に発生する振動を抑制する複数の減衰要素を備え、減衰要素が回転軸に平行で、回転軸から半径方向に離れると共に、工具本体の一端に隣接して配置されることが記載されている。
【0008】
また、特許文献2には、円盤状の本体に切れ刃を取り付けた回転切削工具において、前記円盤状の本体の端面側に円環状の溝を形成し、当該溝に、粘弾性体を介してリング状の錘を設け、工具本体の回転軸方向に前記錘が前記本体と相対的に移動可能に構成することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2011−194564号公報
【特許文献2】特開2012−196729号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述した特許文献1には、工具本体に備えられた複数の減衰要素で、工具に発生する振動を抑制するフライス工具が記載されている。しかしながら、特許文献1では、減衰要素の構造詳細が記載されておらず、振動抑制対象とする振動モードが、特許文献1のフライス工具と異なる場合、振動方向が異なることが考えられるため、振動が抑制できない可能性があり、そのままでは適用できない。
【0011】
また、特許文献2には、工具直径方向及び工具回転軸方向それぞれに切削力が生じた際の振動モードにおける防振機構及び工具が記載されている。しかしながら、特許文献2の防振機構は、工具の振動モードが工具刃先1ヶ所のみで変位する場合と、回転軸に対して撓み方向に振動する場合のみを対象としているもので、ディスク形状の工具において、工具の振動モードが刃先に節が複数個発生する形態を対象としたものには適用できないという問題があった。
【0012】
本発明は上述の点に鑑みなされたもので、その目的とするところは、工具の振動モードが刃先に節が複数個発生する形態を対象としたものであっても、工具の振動を抑制することができる溝加工用回転式切削工具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の溝加工用回転式切削工具は、上記目的を達成するために、ディスク状のカッタの外周部分に、切り刃となるカートリッジを円周方向に所定の間隔をもって複数個備え、前記ディスク状のカッタが円周方向に回転することで、前記カートリッジで被削材に所定の溝を加工する溝加工用回転式切削工具であって、前記ディスク状のカッタの端面上に、円周方向に複数内蔵された防振機構を備え
、前記防振機構は、錘と、該錘の両端面に設置され前記カッタの振動を減衰するリング状の粘弾性体と、該粘弾性体の片側の端面に設置され該粘弾性体の圧力を調整するシムと、該シムと粘弾性体及び錘を前記カッタボディの内部に内蔵するためのカバーとから成ることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、工具の振動モードが刃先に節が複数個発生する形態を対象としたものであっても、工具の振動を抑制するディスク形状の溝加工用回転式切削工具を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】ディスク形状の工具で被削材に溝加工している一般的な例を示す斜視図である。
【
図2】ディスクカッタの振動モードの一例を示し、ディスクカッタの外周に節が4ヶ所形成される振動モードの例である。
【
図3】ディスクカッタの振動モードの一例を示し、ディスクカッタの外周に節が6ヶ所形成される振動モードの例である。
【
図4】本発明の溝加工用回転式切削工具の実施例1である防振機構付きのディスクカッタを示す斜視図である。
【
図5】
図4の防振機構付きのディスクカッタに採用される防振機構の構成の一例を示す分解斜視図である。
【
図6】
図4の防振機構付きのディスクカッタに採用される防振機構を示す断面図である。
【
図7】実施例1で説明した防振機構を備えるディスクカッタのz軸方向の応答振幅を、防振機構の有無で比較した特性図である。
【
図8】本発明の実施例2である防振機構付きのディスクカッタに採用される防振機構の他の例を断面図である。
【
図9】本発明の実施例3である防振機構付きのディスクカッタに採用される防振機構の更に他の例を示す断面図である。
【
図10】実施例1で説明した防振機構を、ディスクカッタの刃先先端部に近い場所に取り付けた例を示すディスクカッタの斜視図である。
【
図11】実施例1で説明した防振機構を、ディスクカッタの刃先部分から回転軸方向に向かってカッタボディの内側に取り付けた例を示すディスクカッタの斜視図である。
【
図12】実施例1で説明した防振機構を、ディスクカッタの刃先部分から回転軸方向に向かってカッタボディの更に内側に取り付けた例を示すディスクカッタの斜視図である。
【
図13】
図10乃至
図12に示したそれぞれの防振機構の取り付け位置における応答振幅を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図示した実施例に基づいて本発明の溝加工用回転式切削工具を説明する。なお、各実施例において、同一構成部品には同符号を使用する。
【実施例1】
【0017】
図4に、本発明の溝加工用回転式切削工具の実施例1である防振機構付きのディスクカッタ9を示し、防振機構6を備えた溝加工用回転式切削工具の例である。ここでは、工具径Dが1200mmのディスクカッタ9を用いて説明する。
【0018】
該図に示す如く、本実施例の防振機構付きのディスクカッタ9は、ディスク状のカッタボディ8と、このディスク状のカッタボディ8の外周に、円周方向に所定の間隔をもって複数個設けられた切れ刃となるカートリッジ2と、このカートリッジ2に取り付けられるインサート7と、カッタボディ8と一体になって該カッタボディ8を回転させる主軸5と、カッタボディ8
の外周側に内蔵される防振機構6とで概略構成されている。防振機構6は、カッタボディ8の端面上に、複数個内蔵されることが望ましい。
【0019】
ところで、従来のディスクカッタ1の振動モードは、
図2及び
図3で説明したように、全ての刃が同方向に振動しておらず、外周部がz軸方向に波打つように振動する。そのため、防振機構6は、各刃に合った位相で振動を抑制する必要があり、例えば、
図4の本実施例のように、ディスカッタ9の刃数と同じ個数が、ディスカッタ9の端面円周状に等しいピッチで設置することにより、効果的に振動を抑制することができる。
【0020】
図5に、本実施例の防振機構付きのディスクカッタ9に採用される防振機構6の構成の一例を示す。
【0021】
該図に示す如く、本実施例に採用される防振機構6は、錘11と、この錘11の両端面に設置されディスクカッタ9の振動を減衰するリング状の粘弾性体10A、10Bと、この粘弾性体10Aの片側の端面に設置され、粘弾性体10Aの圧力を調整する調整用シム12と、該調整用シム12と粘弾性体10A、10B及び錘11をカッタボディ8の内部に内蔵するためのカバー13と、リング状粘弾性体15とから構成されている。そして、これら錘11、粘弾性体10A、10B、リング状粘弾性体15、調整用シム12及びカバー13は、
図4に示すカッタボディ8の外周側に形成されている防振機構取付け穴16に内蔵される。
【0022】
なお、防振機構6は、被削材3との干渉を避けるために、ディスカッタ9の内部に取り付ける必要がある。また、切りくずの噛みこみや切削油が防振機構6にかかることによる粘弾性体10A、10Bの劣化及び防振機能低下を防ぐために、カバー13によって密閉しても良い。
【0023】
また、カバー13は、高速回転するカッタボディ8に取り付けられるため、加工中に脱落しないように、例えば、ネジ14によって強固に固定される。このネジ14は、錘11の振動でカバー13が外れないよう、小ネジ14を6個均等に固定しても良いし、加工中にネジ14が被削材3に干渉しないようにするため、カバー13には深座ぐりを施し、ネジ14は皿小ネジを用いることが望ましい。また、ネジ14の脱落を防ぐために、ネジ緩み止め接着剤を塗布しても良い。
【0024】
本実施例の防振機構付きのディスクカッタ9に採用される防振機構6の断面を、
図6に示す。
【0025】
該図に示す如く、防振機構6は、錘11が粘弾性体10A、10Bによってz軸上下方向から挟みこまれている構造になっており、カッタボディ8が振動すると錘11は、z軸方向に逆位相に振動する。この作用によって、ディスクカッタ9の振動モードにおける振動が減衰する。
【0026】
また、粘弾性体10Aとカバー13の間には、調整用シム12が挟み込まれており、調整用シム12は、カバー13がカッタボディ8に固定される際に、粘弾性体10Aを変形させて圧縮する役割がある。
【0027】
これにより、錘11を挟み込む粘弾性体10A、10Bに適切な圧力が加わる。例えば、錘11がz軸下方向に移動すると、下部の粘弾性体10Bは錘11に圧縮されて縮むが、上部の粘弾性体10Aは圧力が解放されるため伸長する。従って、双方の粘弾性体10A、10Bは、調整用シム12によって予め圧力が加わっており、錘11と粘弾性体10A、10Bの接触が分離しない。
【0028】
また、調整用シム12の厚さ若しくは枚数を変えることによって、振動抑制対象の周波数に適応した粘弾性体10A、10Bの減衰特性を調整することが可能となる。
【0029】
図4に示す防振機構付きのディスクカッタ9は、防振機構6が回転軸を中心にカッタボディ8の外周上に備えられているため、ディスクカッタ9が高速回転すると、遠心力の影響を無視できなくなる。
【0030】
この遠心力の影響で、防振機構6の構成部品である錘11は、錘11の側面がカッタボディ8に押しつけられてカッタボディ8と干渉し、防振機構6がディスクカッタ9を減衰しないことが考えられる。
【0031】
この干渉を回避するために、錘11の側面に溝を施し、この溝にOリングをはじめとするリング状粘弾性体15を取り付けても良い。このとき、錘11がリング状粘弾性体15を介して均等にカッタボディ8に接触するためには、錘11の少なくとも2ヶ所に、リング状粘弾性体15を取り付けることが望ましい。
【0032】
図7は、本実施例で説明した防振機構6を備えるディスクカッタ9のz軸方向の応答振幅を示した特性図である。該図は、ディスクカッタ9の直径が1200mmで、防振機構6の錘11の質量が100gの応答振幅を計算した結果である。
【0033】
該図に示す如く、防振機構6を備えていない従来のディスクカッタ(点線A)では、固有振動数267Hzにおいて、応答振幅の最大値は3.83×10
−6m/Nである。
【0034】
これに対して、本実施例の防振機構6を備えるディスクカッタ(実線B)は、応答振幅の最大値が5.21×10
−7m/Nとなり、動剛性を約86%向上することができ、加工精度を向上することが可能となる。
【0035】
また、減衰効果をさらに向上したい場合は、錘11の質量を増加すれば良い。例えば、寸法が直径45mm、厚さ20mmの錘11の場合、材質を鉄系材料であるSS400とすると約260gとなる。これをより減衰効果を上げるために、鉄系材料の約2倍の密度を有するタングステン合金を用いると、質量は約590gとなり、更に減衰効果が向上する。
【0036】
このような本実施例の構成とすることにより、ディスク形状のディスクカッタ9が複数の節が生じる振動モードであっても、効果的に振動を抑制することができる。
【実施例2】
【0037】
図8に、本発明の実施例2である防振機構付きのディスクカッタ9に採用される防振機構6Aの断面を示す。
【0038】
本発明での防振機構は、実施例1と全て同じ構成である必要はない。
図8に示す本実施例では、実施例1で説明した防振機構6に改良を加え、ロッド20とリニアブッシュ21を用いて防振機構6Aを構成した例である。
【0039】
図8に示す如く、本実施例では、ロッド20とリニアブッシュ21が、錘11の中心に形成された貫通孔を通って設置されている。また、錘11は、粘弾性体10A、10Bによりz軸上下方向から挟み込まれており、粘弾性体10Aとカバー13の間には調整用シム12が挟み込まれている。また、ロッド21は、カッタボディ8とカバー13に固定されている。他の構成は、実施例1と同様である。
【0040】
このような本実施例の構成とすることにより、その効果は、実施例1と同様であることは勿論、ロッド20及びリニアブッシュ21によって、遠心力による錘11とカッタボディ8の干渉を防ぐことができ、錘11をz方向にスムーズに移動することができる。
【0041】
なお、ロッド20と錘11が滑らかにz軸方向に移動できる場合は、リニアブッシュ21は無くても良い。
【実施例3】
【0042】
図9に、本発明の実施例3である防振機構付きのディスクカッタ9に採用される防振機構6Bの断面を示す。
【0043】
該図に示す本実施例では、ボルト25の締め付けによって、減衰の調整を行う防振機構6Bである。
【0044】
図9に示す如く、本実施例の防振機構6Bは、ボルト25、粘弾性体10A、10B、錘11、カバー13、ネジ14より構成されており、これらはカッタボディ8に内蔵されている。錘11及び粘弾性体10A、10Bには、中心にボルト25の直径よりわずかに大きい貫通穴が形成されており、ボルト25はその貫通穴を通って、カッタボディ8に締め付けられる。ボルト25の締付調整によって、粘弾性体10A、10Bには予め圧力が加わり、ディスクカッタ9の振動を減衰する役割を果たす。錘11上部の粘弾性体10Aは、ボルト25の柄と錘11に挟み込まれているが、ボルト25の柄との接触面積を広げ、ボルト25の締め付けによる圧力を粘弾性体10A、10Bに、より均一に与えたい場合は、ボルト25の柄と錘11上部の粘弾性体10Aの間に、ワッシャやシムリング等挟み込んでも良い。
【0045】
また、ボルト25が通る錘11の中心にある貫通穴は、錘11がボルト25と干渉せずにz軸方向に滑らかに移動できるため、ボルト25の直径より少し大きめの穴径を有することが望ましいが、遠心力の影響下でも摩擦抵抗を極力減らして滑らかに移動させたいときは、錘11とボルト25の隙間にリニアブッシュを噛ませても良い。
【0046】
このような本実施例の構成であっても、その効果は、実施例2と同様である。
【0047】
なお、本実施例では、粘弾性体10A、10Bと錘11を適切な圧力で締め付けることができれば良いので、特に、ボルト25に特定するわけでなく、その他の各種ネジ等でも良いことは言うまでもない。
【実施例4】
【0048】
次に、実施例4として、ディスクカッタ9において、実施例1で説明した防振機構6を取り付ける位置の例について、
図10乃至
図12を用いて説明する。
図10乃至
図12は、それぞれ防振機構6の取付け位置が変化した時のディスクカッタ9の例である。
【0049】
図10乃至
図12に示す如く、防振機構6の取り付ける位置を、ディスクカッタ9の回転軸から防振機構6までの距離30、31、32で表しており、カッタボディ8の端面上において、ディスクカッタ9の外周円方向に備えられている。防振機構6は、ディスクカッタ9の振動において、最も振幅が大きい部位に装着すると効果が高い。
【0050】
本実施例のようなディスクカッタ9において、最も振幅が大きくなる部分は、
図2及び
図3を用いて説明したように、ディスクカッタ9の刃先先端部になる。
【0051】
そこで、ディスクカッタ9の刃先先端部に近い場所に防振機構6を取り付けたときの例が、
図10である。該図に示す如く、防振機構6は、ディスクカッタ9の刃先部分に埋め込まれており、切れ刃に最も近い部分になるため、切削力に十分に耐え得る剛性が確保できれば取り付けが可能である。
【0052】
ただし、取り付ける領域も限られているため、防振機構6の寸法が限られる。寸法が限られることによって、錘11の寸法が制限されるが、錘11の材質を鉄系材料の約2倍の密度を有するタングステン合金等を用いれば、十分に錘の重さを確保できる。例えば、直径1200mmのディスクカッタ9の場合、刃先部分に錘11を取り付ける場合における位置は、回転軸より530mm離れた位置で、円柱状の錘11の寸法は直径50mm、厚さ20mm、材質が
タングステン合金、質量約
730gとなり、ディスクカッタ9の振動を抑制するためには十分な質量を確保することができる。
【0053】
次に、ディスクカッタ9の刃先部分から回転軸方向に向かってカッタボディ8の内側に防振機構6を取り付けた例が、
図11である。該図に示す如く、防振機構6の位置が切れ刃の根元付近になり、ディスクカッタ9が振動する際の振幅はやや小さくなる部分であるが、切れ刃から離れるため、切削力の影響や防振機構6の寸法の制限が緩和される。直径1200mmのディスクカッタ9の場合、防振機構6を取り付ける位置は、例えば、中心軸より約450mmとなる。
【0054】
また、ディスクカッタ9の刃先部分から回転軸方向に向かってカッタボディ8の更に内側に防振機構6を取り付けた例が、
図12である。この場合、直径1200mmのディスクカッタ9において、防振機構6を取り付ける位置は、約340mmとなる。最も振動が大きい刃先部分から離れるため、防振機構6の効果は
図10及び
図11の構成に比較して低くなるが、防振機構6を備えていないものに比べれば、それなりの防振効果はある。
【0055】
図10乃至
図12に示したそれぞれの防振機構6の取り付け位置における応答振幅を、
図13に示す。このときの錘11の質量は100gである。
図13は、横軸に防振機構6を取り付ける位置で回転軸から防振機構6までの距離(mm)を示し、縦軸に最大応答振幅(m/N)を示した図である。該図から最大応答振幅の値が低くなるほど、防振効果が高いといえる。
【0056】
このように、回転軸から防振機構6までの距離が長い、つまり刃先に近い位置に防振機構6を取り付けるときが、最も防振効果が得られることが分かる。
【0057】
また、本発明では、振動を減衰する構成要素に粘弾性体10A、10Bを用いているが、特にこれに限定する必要性はなく、例えば、皿バネなどの各種バネ、ダッシュポット、ショックアブソーバ、その他ダンパなどでも良い。
【0058】
また、上述した本発明の防振機構6、6A、6Bは、それらの一部又は全部を、円柱状の形状ではなく、直方体をはじめとする角柱形状など、ディスクカッタ9の内部に内蔵できる形状であればよい。また、防振機構6、6A、6Bの内部において、金属部品の錆止めや摩擦軽減のために、油等の液体を満たしても良い。また、防振機構6、6A、6Bの数は、ディスクカッタ9の刃数と同数である必要はなく、刃数より多くても良く、少なくても良い。
【0059】
更に、本発明は、ディスクカッタだけでなくフライス工具など、ディスク形状の工具を含んでも良い。
【0060】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0061】
1、9…ディスクカッタ、2…カートリッジ、3…被削材、4…溝、5…主軸、6、6A、6B…防振機構、7…インサート、8…カッタボディ、9…防振機構付ディスクカッタ、10A、10B…粘弾性体、11…錘、12…調整用シム、13…カバー、14…ネジ、15…リング状粘弾性体、16…防振機構取付け穴、20…ロッド、21…リニアブッシュ、25…ボルト、30、31、32…ディスクカッタの回転軸から防振機構までの距離。