(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
軸受の摩耗・焼付きを防止するためには、軸が回転しているときに軸と軸受との間に油膜が形成されていることが重要である。油膜を形成させるためには、軸と軸受との間に潤滑油を保持する空間が存在することが望ましい。そこで、軸受の摺動面には、潤滑油を保持する空間として、いわゆる油溝が設けられる場合が多い。一方、軸が停止しているときに油溝に保持された潤滑油が軸と軸受との接触面に放出されないと接触面が乾燥してしまい、再度、軸を回転させるときに軸受に摩耗や焼付きが生じ易くなるという問題がある。
【0005】
本発明の目的の一つは、軸が回転しているときに、軸受と軸との接触面に油を保持して軸受の摩耗・焼付きを抑制するとともに、軸が回転していないときに、軸受と軸との接触面の乾燥を抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決するため、本発明に係る軸受は、軸と摺動する内周面を有する基材と、前記内周面を被覆し、凹部を有する第1樹脂層と、前記第1樹脂層よりも弾性率が小さい第2樹脂層とを有し、前記軸側の表面には、前記第1樹脂層および前記第2樹脂層が
段差を有して露出しており、前記表面
と接触する軸が回転して該軸との間に満たされた油膜により該表面に
かかる面圧が
上昇すると、前記第1樹脂層が露出している部分と前記第2樹脂層が露出している部分と
の前記段差が
増加することを特徴とする。
【0007】
上述の態様において、前記第1樹脂層の凹部は、前記軸の摺動方向に沿って形成された複数の溝であることが望ましい。
【0008】
また、好ましくは、前記第2樹脂層は、少なくとも前記第1樹脂層の前記凹部上に形成されているとよい。
【0009】
また、好ましくは、前記表面に6メガパスカルの面圧がかかった状態で、前記第1樹脂層が露出している部分と前記第2樹脂層が露出している部分とに1マイクロメートル以上の段差が生じるとよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、軸が回転しているときに、軸受と軸との接触面に油を保持して軸受の摩耗・焼付きを抑制するとともに、軸が回転していないときに、軸受と軸との接触面の乾燥を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
1.実施形態
以下、図において、本発明の一実施形態である軸受1を、xyz右手系座標空間により説明する。図に示す座標記号のうち、白い円の中に黒い円を描いた記号は、紙面奥側から手前側に向かう矢印を表している。この座標空間においてx軸に沿う方向をx軸方向という。また、x軸方向のうち、x成分が増加する方向を+x方向といい、x成分が減少する方向を−x方向という。y、z成分についても、上記の定義に沿ってy軸方向、+y方向、−y方向、z軸方向、+z方向、−z方向を定義する。
【0013】
図1は、一実施形態に係る軸受1の概要を示す図である。軸受1は、基材10と、樹脂層11とを有する。基材10は、図中においてz軸方向に伸びる直線Oを中心とする筒状の部材である。基材10は、鋳鉄で形成されてもよいし、アルミニウム、ステンレス鋼など各種の材料に対して、焼結、鍛造、切削、プレス、溶接などの各種の加工処理を施すことで形成されてもよい。また、基材10はセラミック製であってもよい。基材10は、直線Oを中心とする軸を内周面の側に収容し、収容された軸は、この内周面と摺動する。基材10の内周面は、樹脂層11によって被覆されている。
【0014】
なお、軸受1は、一体として筒状に成形されていてもよいが、直線Oを通るいずれかの平面などで2以上に分割された部材を組合せて形成されてもよい。また、基材10は、樹脂層11によって被覆される前に軸を収容するように成形されてもよいが、樹脂層11によって被覆された後に成形されてもよい。
【0015】
図2は、
図1における矢視II−II方向に沿って軸受1の断面を見た図である。
図2において、z軸方向は
図1における直線Oの伸びる方向であり、+y方向は直線Oから遠ざかる方向である。
【0016】
樹脂層11は、第1樹脂層111と、第2樹脂層112とを有する。第2樹脂層112は、第1樹脂層111よりも弾性率(例えば体積弾性率)が小さくなるように材料および組成を調整されている。第1樹脂層111および第2樹脂層112は、例えば、ポリアミドイミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、これら樹脂のジイソシアネート変性、BPDA変性、スルホン変性樹脂、エポキシ樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、フェノール樹脂、ポリアミド、エラストマーのいずれか1種以上をバインダー樹脂として含有する。
【0017】
また、第1樹脂層111および第2樹脂層112は、例えば、グラファイト、カーボン、二硫化モリブデン、ポリテトラフルオロエチレン、窒化ホウ素、二硫化タングステン、フッ素系樹脂、軟質金属(例えばSn、Biなど)のいずれか1種以上を固体潤滑剤として含有してもよい。
【0018】
図2に示すように、樹脂層11と基材10との間には、これらの密着性を高めるために焼結材12が散布されていてもよい。また、樹脂層11と基材10との密着性を高めるために、基材10の内周面F0に対してサンドショットや薬剤塗布などにより粗面処理を行ってもよい。
【0019】
基材10の内周面F0には、最も薄い部分が厚みt1であり、最も厚い部分が厚みt0である第1樹脂層111が形成されている。そして、第1樹脂層111の薄い部分には、最大の厚みが厚みt2である第2樹脂層112が形成されている。第1樹脂層111および第2樹脂層112は、ともに、接触面F1を形成している。軸受1が支持する軸が静止状態のとき、接触面F1には段差がなく、第1樹脂層111および第2樹脂層112のいずれもが、この接触面F1により油膜を介して軸に接触する。すなわち、樹脂層11は、軸に対向する方向(
図2において−y方向)の側において接触面F1を形成しており、この接触面F1において第1樹脂層111および第2樹脂層112のいずれもが露出している。以下、接触面F1のうち、第1樹脂層111の露出部分であって第1樹脂層111が油膜を介して軸と接触する部分を第1接触面F11とし、第2樹脂層112の露出部分であって第2樹脂層112が油膜を介して軸と接触する部分を第2接触面F12とする。
図2に示すように、第1接触面F11と第2接触面F12とは、軸の方向に沿って交互に配置されている。
【0020】
図3は、基材10の内周面に樹脂層11が被覆される工程を説明するための図である。まず、基材10の内周面F0に焼結材12が散布され、内周面F0が粗面処理される。粗面処理された内周面F0の−y方向には、第1樹脂層111が形成される。ここで、形成された第1樹脂層111には、z軸方向にわたって凹凸が存在しており、z軸方向の異なる位置において、y軸方向の厚みが異なることがある。例えば、第1樹脂層111の表面F2は、
図3に示すように、傾斜角の異なる斜面がz軸方向に交互に並んだ形状を有している。このような表面F2を有する第1樹脂層111は、プリント印刷などにより形成される。この段階における第1樹脂層111は、最も薄い部分(凹部)の厚みが厚みt0より薄く、最も厚い部分(凸部)の厚みが厚みt0よりも厚い。
【0021】
形成された第1樹脂層111の表面F2の−y方向には、第2樹脂層112が形成される。第2樹脂層112は、樹脂の塗布・乾燥などの工程を経て形成される。形成された第2樹脂層112は、−y方向の側に表面F3を有しており、この表面F3には第1樹脂層111が露出していない。このとき、基材10の内周面F0から表面F3までは厚みt(t>t0)である。このように形成された表面F3を、
図3に示す接触面F1まで研磨または掘削することにより、
図2に示した樹脂層11が形成される。なお、このように、第1樹脂層111の凹部の上に第2樹脂層112が形成されるため、第2樹脂層112は、第1樹脂層111よりも軸の近くに設けられる。
【0022】
図4は、軸が回転しているときの軸受1を示す図である。軸が回転すると、軸と接触面F1との間に挟まれた潤滑油により形成される油膜の圧力が増加し、接触面F1が+y方向に押される。第2樹脂層112は、第1樹脂層111よりも体積弾性率が小さいので、体積弾性率の逆数である圧縮率が大きい。すなわち、同じ油膜圧力の下で、第2樹脂層112は、第1樹脂層111よりも圧縮されて小さくなる。
【0023】
例えば、
図2に示すように、軸が回転していないとき、第1樹脂層111は、最も薄い部分で厚みt1、最も厚い部分で厚みt0であり、この差である厚みt2=(t0−t1)は、第2樹脂層112の厚みt2と等しい。
【0024】
一方、
図4に示すように、軸が回転しているとき、第1樹脂層111は、最も薄い部分で厚みτ1、最も厚い部分で厚みτ0となる。このとき、油膜の圧力pが生じているため、第1樹脂層111の厚みは全体的に静止状態に比べて小さくなっている(t0>τ0、t1>τ1)。そして、第2樹脂層112は、厚みτ2となっている。ここで、第2樹脂層112の体積弾性率が第1樹脂層111の体積弾性率に比べて小さいため、第1樹脂層111に比べて同じ圧力下における歪みが大きい。したがって、軸が回転しているとき、第2樹脂層112は、第1樹脂層111よりも相対的に小さくなる(τ2<(τ0−τ1))。
【0025】
これにより、樹脂層11の接触面F1には段差δが生じる。
図5は、接触面F1に生じる段差δを説明するための図である。軸が回転することにより、軸と軸受1との間に満たされた油膜の圧力が上昇し、その圧力が軸受1の樹脂層11にかかる。これにより、第1樹脂層111および第2樹脂層112がいずれも油膜の圧力に応じて圧縮されるが、第2樹脂層112の体積弾性率が第1樹脂層111の体積弾性率に比べて小さいため、第2樹脂層112は、第1樹脂層111よりも圧縮されて、第2接触面F12が第1接触面F11よりも軸から遠ざかる。すなわち、第2接触面F12は、第1接触面F11よりも深くなる。このときの第1接触面F11と第2接触面F12とのy軸方向の距離が段差δである。段差δは、第1接触面F1(第1樹脂層111が露出している部分)と、第2接触面F12(第2樹脂層112が露出している部分)との、軸からの距離の差でもあり、τ0、τ1、τ2、で表すと、δ=τ0−(τ1+τ2)である。このように、軸が回転しているときに、第2接触面F12が第1接触面F11よりも軸から遠ざかるために、第2接触面F12の部分に溝13が形成される。溝13は、潤滑油を保持する空間として機能する。具体的には、軸が回転することにより、油膜の圧力が6メガパスカルとなったとき、軸受1の接触面F1には6メガパスカルの面圧がかかった状態になり、段差δ(溝13の深さ)、すなわち、第1接触面F11と第2接触面F12との軸からの距離の差は1マイクロメートル以上となる。
【0026】
以上、説明した構成により、軸が回転して油膜の圧力が上昇したときには、溝13が形成されるので、軸受1の潤滑油の保持力が向上し、この構成を有しない場合に比べて、軸受1の摩耗や焼付きが防止される。また、軸が回転していないときには溝13が形成されないか、軸が回転しているときに比べて小さいので、溝13が保持した潤滑油が接触面F1に放出され易く、接触面F1が乾燥し難い。その結果、軸受1は、再び軸が回転し始めたときに負荷がかかり難く、摩耗や焼付きが防止される。
【0027】
油膜の圧力が6メガパスカルとなる軸受の具体例としては、冷媒を使用した圧縮機、特にスクロール式圧縮機や斜板式圧縮機などの軸受が挙げられる。軸受における圧力は、圧力測定用フィルムや接触顕微鏡などにより確認される。
【0028】
2.変形例
以上が実施形態の説明であるが、この実施形態の内容は以下のように変形し得る。また、以下の変形例を組み合わせてもよい。
2−1.溝の形状
上述した実施形態において、第1接触面F11と第2接触面F12とは、軸の方向に沿って交互に配置されていたため、溝13は軸に交差する方向に形成されていたが、溝13は様々な形状を取り得る。
図6は、溝13の形状の例を説明するための図である。溝13は、
図6(a)に示すように、軸の中心である直線Oに垂直に形成されていてもよい。この場合、溝13は、軸の摺動方向に沿っており、樹脂層11において、直線Oを中心とする複数の環として形成される。なお、溝13は、軸の回転時において、第1樹脂層111の凹部上に形成された第2樹脂層112の露出している部分に形成されるので、この場合に、第1樹脂層111の凹部は、軸の摺動方向に沿って形成された複数の溝である。
【0029】
また、溝13は、
図6(b)に示すように、軸を中心とする螺旋状に形成されてもよい。溝13は、第2樹脂層112の第2接触面F12が、軸の中心である直線Oを中心とした螺旋状に形成されることで、軸が回転したときに第2接触面F12が第1接触面F11に比べて凹んで形成される。
【0030】
また、溝13は格子状に形成されていてもよい。
図7は、この変形例における溝13の形状を説明するための図である。
図7に示す溝13は、軸が回転して油膜の圧力が上昇したときに形成される空間であって、軸に交差する方向に形成されているとともに、軸に沿った方向にも形成されており、これら二方向の溝13が交差して格子形状を形成している。この場合においても、軸が回転していないときには溝13が形成されないか、軸が回転しているときに比べて小さいので、溝13が保持した潤滑油が接触面F1に放出され易く、接触面F1が乾燥し難い。また、溝13は、多角形や円、楕円などを組合せた形状に形成されてもよい。要するに、溝13は、潤滑油を保持するものであれば、どのような形状で形成されていてもよい。
【0031】
2−2.樹脂層の配置
上述した実施形態において、第1樹脂層111の表面F2の上に第2樹脂層112が形成されるため、第2樹脂層112は、第1樹脂層111よりも軸の近くに設けられていたが、第1樹脂層111と第2樹脂層112との配置は、これに限られない。例えば、基材10の内周面F0には、先に第2樹脂層112が形成され、その上から、すなわち、軸に近い側に、第1樹脂層111が形成されてもよい。また、基材10の内周面F0には、第1樹脂層111と第2樹脂層112とがそれぞれ別々に直接、形成されてもよい。
【0032】
図8は、この変形例における樹脂層11の構成を説明するための図である。この変形例において、基材10の内周面F0には、それぞれ厚みt3の第1樹脂層111および第2樹脂層112が、z軸方向に交互に設けられる。軸が回転していないときに、第1樹脂層111および第2樹脂層112は、いずれも接触面F4で、油膜を介して軸に接触する。軸が回転すると、第1樹脂層111および第2樹脂層112は油膜の圧力に応じて+y方向に圧縮され、第2樹脂層112の第2接触面F12は、第1樹脂層111の第1接触面F11よりも軸から遠ざかる。その結果、第2接触面F12と軸との間に溝13が形成される。この場合においても、軸が回転しているときに形成される溝13が潤滑油を保持するので、軸受1の潤滑油の保持力が向上し、この構成を有しない場合に比べて、軸受1の摩耗や焼付きが防止される。また、軸が回転していないときには溝13が形成されないので、溝13が保持した潤滑油が接触面F1に放出され易く、接触面F1が乾燥し難い。
【0033】
2−3.段差
上述した実施形態において、第1接触面F11および第2接触面F12はいずれもz軸方向にわたって凹凸のない周面であったが、第1接触面F11または第2接触面F12に凹凸があってもよい。例えば、第1接触面F11または第2接触面F12には、
図5におけるy軸方向に差があってもよい。この場合、上述した段差δは、第1接触面F11の最も浅い部分と、第2接触面F12の最も深い部分との距離である。
【0034】
また、上述した実施形態において、軸受1が支持する軸が静止状態のとき、接触面F1には段差がなかったが、段差があってもよい。この場合でも、軸が回転すると第2樹脂層112は、第1樹脂層111よりも相対的に小さくなり、静止状態と比較して溝13が深くなるので、軸受1の潤滑油の保持力が向上する。また、軸が停止すると軸が回転しているときに比べて溝13が浅くなるので、保持した潤滑油が接触面F1に放出され易く、接触面F1が乾燥し難くなる。