(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6283313
(24)【登録日】2018年2月2日
(45)【発行日】2018年2月21日
(54)【発明の名称】アナグリプチン含有医薬組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 31/519 20060101AFI20180208BHJP
A61K 9/20 20060101ALI20180208BHJP
A61K 9/48 20060101ALI20180208BHJP
A61K 9/16 20060101ALI20180208BHJP
A61K 9/14 20060101ALI20180208BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20180208BHJP
【FI】
A61K31/519
A61K9/20
A61K9/48
A61K9/16
A61K9/14
A61P3/10
【請求項の数】6
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2014-538614(P2014-538614)
(86)(22)【出願日】2013年9月27日
(86)【国際出願番号】JP2013076204
(87)【国際公開番号】WO2014051024
(87)【国際公開日】20140403
【審査請求日】2016年9月26日
(31)【優先権主張番号】特願2012-214891(P2012-214891)
(32)【優先日】2012年9月27日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000144577
【氏名又は名称】株式会社三和化学研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000163006
【氏名又は名称】興和株式会社
(72)【発明者】
【氏名】日比野 恒之
(72)【発明者】
【氏名】落合 直也
(72)【発明者】
【氏名】近藤 真弘
【審査官】
常見 優
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2009/139362(WO,A1)
【文献】
国際公開第2004/067509(WO,A1)
【文献】
国際公開第2010/147768(WO,A1)
【文献】
特表2009−535376(JP,A)
【文献】
Kato N. et al.,Discovery and pharmacological characterization of N-[2-({2-[(2S)-2-cyanopyrrolidin-1-yl]-2-oxoethyl},Bioorganic & Medicinal Chemistry,2011年,Vol.19, No.23,p.7221-7227
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K31/00−33/44
9/00− 9/72
47/00−47/69
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アナグリプチンを含有し、その水溶液又は水分散液のpH値が9.4以下である、経口投与用固形製剤である医薬組成物。
【請求項2】
弱酸性〜弱塩基性製剤添加物を含有する、請求項1記載の医薬組成物。
【請求項3】
アナグリプチンの含有量が、医薬組成物全質量に対し1〜90質量%である、請求項1又は2記載の医薬組成物。
【請求項4】
その水溶液又は水分散液のpH値が2〜9.4である、請求項1〜3のいずれか1項記載の医薬組成物。
【請求項5】
その水溶液又は水分散液のpH値が2〜7である、請求項1〜4のいずれか1項記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記経口投与用固形製剤が、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、細粒剤、又は散剤である、請
求項1〜5のいずれか1項記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジペプチジルペプチダーゼIV阻害作用を有するアナグリプチンを含有する医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ジペプチジルペプチターゼIV(以下、DPP−IVと略することもある。)阻害作用を有する化合物(DPP−IV阻害剤)は、DPP−IVが関与する疾患、例えば、2型糖尿病等の治療剤の有効成分として有用である。このようなDPP−IV阻害剤として例えば、特許文献1にはアナグリプチン(化学名:N-[2-({2-[(2S)-2-シアノピロリジン-1-イル]-2-オキソエチル}アミノ)-2-メチルプロピル]-2-メチルピラゾロ[1,5-a]ピリミジン-6-カルボキサミド)が優れたDPP−IV阻害作用を有する旨、記載されている。
【0003】
一般的に、医薬品の有効成分として有用な化合物は、何らかの医薬組成物として製剤化されて投与されることとなるが、製剤化されてから投与されるまでに長期間を要することも珍しいことではない。そのため、期待する薬効の発揮の観点や予期せぬ副作用の回避の観点から、医薬組成物中での有効成分の安定性の確保が極めて重要となる。しかしながら、有効成分の安定性はその物理的・化学的特性に大きく左右されるところ、当該特性はその化学構造からは予測出来ないことが多く、医薬組成物中での有効成分の安定性を確保する技術の確立には多くの試行錯誤を要する。
【0004】
ところで、DPP−IV阻害剤としては、アナグリプチン以外に例えば、シタグリプチンリン酸塩水和物(商品名:ジャヌビア、グラクティブ)、ビルダグリプチン(商品名:エクア)、アログリプチン安息香酸塩(商品名:ネシーナ)、リナグリプチン(商品名:トラゼンタ)、テネリグリプチン臭化水素酸塩水和物(商品名:テネリア)が、本邦を初めとして全世界的に上市されている。
【0005】
しかしながら、同効のDPP−IV阻害剤といえども、化合物が異なれば、その安定化技術は全く異なる。特に、DPP−IV阻害剤の化学構造は相互に大きく相違するため、その物理的・化学的特性も互いに大きく相違することが予想される。従って、上記のような他のDPP−IV阻害剤に関する情報は参考にならず、アナグリプチンの安定化においては様々な検討が要求される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第WO2004/067509号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、安定性に優れる、アナグリプチンを含有する医薬組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、安定性に優れるアナグリプチン含有医薬組成物を提供するため、まずアナグリプチンの物理的・化学的特性につき鋭意検討したところ、その安定性がpH環境に大きく影響を受けること、そして、高pH環境では極めて不安定であり速やかに分解される一方、アナグリプチンを含有する医薬組成物の水溶液又は水分散液のpH値を10以下とすれば、安定性に優れるアナグリプチン含有医薬組成物が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明の主な構成は次の通りである。
(1)アナグリプチン又はその塩を含有し、その水溶液又は水分散液のpH値が10以下である医薬組成物。
(2)弱酸性〜弱塩基性製剤添加物を含有する、(1)記載の医薬組成物。
(3)アナグリプチン又はその塩の含有量が、医薬組成物全質量に対し1〜90質量%である、(1)又は(2)記載の医薬組成物。
(4)その水溶液又は水分散液のpH値が2〜10である(1)〜(3)のいずれか1項記載の医薬組成物。
(5)経口投与用固形製剤である、(1)〜(4)のいずれか1項記載の医薬組成物。
(6)前記経口投与用固形製剤が、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、細粒剤、又は散剤である、(5)記載の医薬組成物。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、アナグリプチンの安定性に優れる医薬組成物を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
アナグリプチンは、特許文献1の実施例2に記載された化合物であり、化学名がN-[2-({2-[(2S)-2-シアノピロリジン-1-イル]-2-オキソエチル}アミノ)-2-メチルプロピル]-2-メチルピラゾロ[1,5-a]ピリミジン-6-カルボキサミドである公知の化合物であり、同文献記載の製造方法を参考にして製造することができる。
【0012】
本発明において、「アナグリプチン又はその塩」には、アナグリプチンそのもののほか、アナグリプチンの薬学上許容される塩、さらにはアナグリプチンやその薬学上許容される塩と、水やアルコール等との溶媒和物も含まれる。薬学上許容される塩としては、例えば無機酸との塩、有機酸との塩、塩基性又は酸性アミノ酸との塩等が挙げられる。無機酸との塩の好適な例としては、塩酸、臭化水素酸、硝酸、硫酸、リン酸等との塩が挙げられる。また、有機酸との塩の好適な例としては、酢酸、トリフルオロ酢酸、フマル酸、シュウ酸、酒石酸、マレイン酸、クエン酸、コハク酸、リンゴ酸、メタンスルホン酸、安息香酸、トルエンスルホン酸等との塩が挙げられる。塩基性アミノ酸との塩の好適な例としては、アルギニン等との塩が挙げられる。酸性アミノ酸との塩の好適な例としては、アスパラギン酸、グルタミン酸等との塩が挙げられる。本発明において、アナグリプチン又はその塩としては、フリー体のものが好ましい。
【0013】
本発明の医薬組成物におけるアナグリプチン又はその塩の含有量は特に限定されず、服用者の性別、年齢、症状等に応じて適宜検討して決定すればよい。例えば、1日あたり、アナグリプチン又はその塩を、アナグリプチンのフリー体換算で0.1〜1000mg、好適には1〜500mg、特に好適には50〜400mg服用できる量を含有せしめることができる。本発明においては、アナグリプチン又はその塩を医薬組成物全質量に対して、アナグリプチンのフリー体換算で1〜90質量%含有するのが好ましく、3〜80質量%含有するのがより好ましく、5〜70質量%含有するのが特に好ましい。
【0014】
本発明において、医薬組成物の「水溶液又は水分散液のpH値」とは、アナグリプチン又はその塩を含有する医薬組成物を、当該組成物中のアナグリプチン625mg(フリー体換算)に対し100mlの割合に相当する量の水に溶解・分散して得られる水溶液又は水分散液のpHを、25℃で測定して得られる値を意味する。本発明においては、アナグリプチン又はその塩の安定性の観点から、医薬組成物の水溶液又は水分散液のpH値が10以下である必要があるが、2〜9.9の範囲内であるのがより好ましく、3〜9.8の範囲内であるのがさらに好ましく、4.5〜9.7の範囲内であるのがさらにより好ましく、6〜9.6の範囲内であるのが特に好ましい。
【0015】
本発明において、医薬組成物の水溶液又は水分散液のpH値は、製剤添加物として弱酸性〜弱塩基性のもの(具体的には、水に溶解させたときpH値が常温において約6〜10の範囲内の値を示し得るもの。以下、「弱酸性〜弱塩基性製剤添加物」ともいう。)を適宜選択して配合することにより調整できる。このような、弱酸性〜弱塩基性製剤添加物としては、具体的には例えば、果糖、キシリトール、D−ソルビトール、乳糖、無水乳糖、粉糖、白糖、精製白糖、ブドウ糖水和物、D−マンニトール、エリスリトール、トレハロース、マルチトール等の糖類・糖アルコール類;アルファー化デンプン、部分アルファー化デンプン、デキストリン、トウモロコシデンプン、バレイショデンプン、ヒドロキシプロピルスターチ、還元麦芽糖水アメ、コムギデンプン、コメデンプン等のデンプン類;ヒドロキシプロピルセルロース、粉末セルロース、結晶セルロース、微結晶セルロース等のセルロース類等が挙げられる。
【0016】
このような、弱酸性〜弱塩基性製剤添加物の含有量は特に限定されず、医薬組成物のpH値に応じて適宜検討して決定すればよいが、医薬組成物全質量に対して10〜99質量%含有するのが好ましく、20〜97質量%含有するのがより好ましく、30〜95質量%含有するのが特に好ましい。また、本発明において、医薬組成物の水溶液又は水分散液のpH値は、医薬組成物中のアナグリプチン又はその塩の含有量を当該pH値に応じて選択することによっても調整できる。
【0017】
本発明において、「医薬組成物」の剤形は特に限定されるものではなく、固形状、半固形状、液状のいずれの形状であってもよく、その利用目的等に応じて医薬として通常利用される形状とすることができる。アナグリプチンは水に極めて溶けやすいため、液状はおろか固形状、半固形状の医薬組成物中においても、その安定性は周囲のpH環境に大きく影響を受ける。医薬組成物の剤形としては、具体的には例えば、第十六改正日本薬局方 製剤総則等に記載の剤形、具体的には錠剤(通常錠、口腔内崩壊型錠剤、チュアブル錠、発泡錠、分散錠、溶解錠など)、カプセル剤、顆粒剤、細粒剤、散剤等の経口投与用固形製剤;経口液剤(エリキシル剤、懸濁剤、乳剤、リモナーデ剤など);経口ゼリー剤;口腔用錠剤(トローチ剤、舌下錠、バッカル錠、付着錠、ガム剤など);口腔用スプレー剤;口腔用半固形剤等が挙げられるが、服用の容易性等の観点から経口投与用固形製剤が好ましい。なお、これらの経口投与用固形製剤は、必要に応じてフィルム、糖衣等でコーティングされていてもよい。
【0018】
本発明の医薬組成物は、上記の剤形に応じ、例えば第十六改正日本薬局方 製剤総則等に記載の公知の方法により製造することができる。具体的には例えば、医薬組成物が錠剤である場合、アナグリプチン又はその塩に加えて、下記のような適当な製剤添加物を混合し、次いで、圧縮成型すればよい。圧縮成型の方法としては、乾式顆粒圧縮法、半乾式顆粒圧縮法、湿式顆粒圧縮法等のように造粒後に圧縮成形して製造する方法や、直接粉末圧縮法等が挙げられる。造粒方法としては、押出し造粒、撹拌造粒、転動造粒、噴霧乾燥造粒、破砕造粒、流動層造粒、溶融造粒等が挙げられる。
【0019】
本発明の医薬組成物の製造においては、上記したアナグリプチン、弱酸性〜弱塩基性製剤添加物などの成分以外にも、剤形に応じて賦形剤、結合剤、流動化剤、矯味剤、着色剤等の適当な製剤添加物を適宜用いることができる。
【0020】
本発明の医薬組成物は、DPP−IV阻害作用を有するアナグリプチン又はその塩を含有することから、2型糖尿病に対する医薬等として有用である。この場合において、本発明の医薬組成物は、上記した1日投与量となるよう1回又は2回以上の複数回に分けて服用することができる。
【実施例】
【0021】
次に、実施例を挙げて本発明を更に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
[試験例]アナグリプチンの各種pH条件下での安定性の検討
アナグリプチン625mgを、25℃の条件下でpH2、3、7、10、11又は12に調整したBritton−Robinson緩衝液100mlに溶解し、25℃にて1日間保存し、試験開始時及び1日保存後のアナグリプチンを定量することにより、各種pH条件下での安定性を評価した。
なお、アナグリプチンの定量値(%)は、HPLCを用いて、濃度既知の標準溶液とピーク面積を比較することにより算出した。
【0022】
【表1】
【0023】
結果を表1に示す。表1記載の試験結果より、アナグリプチンはpH10以下の環境では極めて安定である一方、pH10を超えると大きく不安定化し、pH12の条件下では1日保存後においてアナグリプチンの残存量は大よそ10%を割り込む結果となった。
以上の試験結果から、アナグリプチン又はその塩を含有する医薬組成物の水溶液又は水分散液のpHを10以下とすることにより、アナグリプチン又はその塩の安定性に優れる医薬組成物が得られることが明らかとなった。
【0024】
[実施例1]
以下の方法により、1錠中にアナグリプチンを100mg含有する錠剤を製造した。
すなわち、アナグリプチン100質量部を、ヒドロキシプロピルセルロース水溶液(ヒドロキシプロピルセルロースとして1.5質量部)を用いて、流動層造粒した。得られた粒状物を乾燥後整粒し、整粒物にクロスポビドン15質量部及び結晶セルロース(旭化成ケミカルズ(株)製:セオラスKG−802)32質量部を添加し、混合した。次いで、ステアリン酸マグネシウム1.5質量部を添加し、混合して、打錠用顆粒を得た。得られた打錠用顆粒を1錠当たり150mgとなるように打錠して、錠剤を得た。
【0025】
得られた錠剤をすりつぶし、アナグリプチンのフリー体625mgに相当する量(937.5mg)をほぼ25℃にて精製水100mlに溶解させたところ、そのpH値は約9.4であった。
また、得られた錠剤をプラスチックシャーレに入れ、温度60℃、相対湿度75%にて、21日間の安定性試験を実施した。アナグリプチンの分解生成物量は1.58%であり、アナグリプチンの安定性は良好であった。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明によれば、DPP−IV阻害活性を有するアナグリプチン又はその塩を含有し、安定性に優れる医薬組成物を提供でき、医薬品産業等において利用できる。