【0016】
ここにおいてロバスタチンとは、CAS番号75330-75-5、(1S,3R,7S,8S,8aR)-8-[2-((2R,4R)-4-ヒドロキシ-6-オキソテトラヒドロ-2H-ピラン-2-イル)エチル]-3,7-ジメチル-1,2,3,7,8,8a-ヘキサヒドロ-1-ナフチルを、シンバスタチンとは、CAS番号79902-63-9、(1S,3R,7S,8S,8aR)-8-[2-[(2R,4R)-4-ヒドロキシ-6-オキソテトラヒドロピラン-2-イル]エチル]-3,7-ジメチル-1,2,3,7,8,8a-ヘキサヒドロ-1-ナフチルを、フルバスタチンナトリウムとは、CAS番号93957-55-2、(3R,5S,6E)-7-[3-(4-フルオロフェニル)-1-(1-メチルエチル)-1H-インドール-2-イル]-3,5-ジヒドロキシ-6-ヘプテン酸 ナトリウム、プラバスタチンとは、CAS番号81093-70-6、(1S,βR,δR,8aβ)-1,2,6,7,8,8a-ヘキサヒドロ-β,δ,6β-トリヒドロキシ-2β-メチル-8α-[(S)-2-メチル-1-オキソブトキシ]-1β-ナフタレンヘプタン酸を、アトルバスタチンカルシウムとは、CAS番号134523-03-8、(3R,5R)-7-[2-(4-フルオロフェニル)-5-イソプロピル-3-フェニル-4-[(フェニルアミノ)カルボニル]-1H-ピロール-1-イル]-3,5-ジヒドロキシヘプタン酸カルシウムを、ピタバスタチンカルシウムとは、CAS番号147511-69-1、(3R,5S,6E)-7-(2-シクロプロピル-4-(4-フルオルフェニル)キノリニ-3-イル)-3,5-ジヒドロキシヘプテ-6-ン酸を、ロスバスタチンカルシウムとは、CAS番号147098-20-2、ビス[(E)-7-[4-(4-フルオロフェニル)-6-イソプロピル-2-[メチル(メチルスルホニル) アミノ] ピリミジン-5-イル](3R,5S)-3,5-ジヒドロキシヘプテ-6-ン酸] カルシウムをいう。
【実施例】
【0033】
本発明の理解を深めるために、本発明の内容を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではないことは明らかである。
【0034】
(実施例1)HCV粒子形成促進剤
本実施例では、本発明のHCV粒子形成促進剤として、Aspergillus terreus培養抽出物(B13)を原料とする溶液を使用した。本実施例のHCV粒子形成促進剤は、
図1に示す方法で作製した。以下の実施例では、
図1に示す粗製ロバスタチン溶液「B15」又は精製ロバスタチン溶液「B15.4.1」をHCV粒子形成促進剤として使用した。B15.4.1の組成を核磁気共鳴(NMR)法及び液体クロマトグラフィー・マススペクトロメトリー(LC/MS)により調べた結果、ロバスタチンがほぼ純品で得られたことが確認された。ロバスタチン量は、乾燥させた精製標品(B15.4.1)を精密化学天秤にて秤量し、計測した。
【0035】
(実施例2)培養細胞を処理したときのHCV感染価について
本実施例では、HCV粒子形成促進剤をHuh7-it細胞に添加したときのHCV感染価に及ぼす影響を確認した。
【0036】
1)HCV粒子形成促進剤
実施例では、実施例1の精製ロバスタチン溶液「B15.4.1」(
図1)を「HCV粒子形成促進剤」として使用した。以下ではHCV粒子形成促進剤に培養液を加えて、ウイルス接種時及び培養時のロバスタチン濃度が1.25〜20μg/mlとなるように調整し、使用した。
【0037】
2)培養細胞
本実施例では、培養細胞として、Huh7細胞由来のHCV高感受性株Huh7-it細胞を用いた。培地は、10%牛胎児血清・非必須アミノ酸・ペニシリン・ストレプトマイシン添加Dulbecco's modified Eagle's培地を使用し、48ウェル培養プレートを用いて培養した。
【0038】
3)HCVストック液
本発明のHCV粒子形成促進のために使用するHCVストック液は、以下の方法で調製した。HCV株はJFH1株(ゲノム配列:GenBank accession number AB047639)を使用した。HCV JFH1株フルゲノムと同一配列のRNAを、Huh7-it細胞にエレクトロポレーション法(van den Hoff MJ et al., Nucleic Acids Res., 20:2902, 1992)にて導入(トランスフェクション)し、導入72時間後の培養上清を回収した。回収した培養上清は、0.45μmのフィルター(Millipore社)に通して夾雑物を除いた後、別のHuh7-it細胞に添加し、72時間後のHCV感染細胞数をフォーカス法により計測することにより感染力価を算出し、5.4×10
4 感染単位/mlに調整したものをHCVストック液とした。HCVストック液調製のための感染力価は、免疫染色法により行った。1次抗体として抗HCV-Core(クローンCP14)モノクローナル抗体を用い、標識抗体としてHRP標識ヤギ抗マウス抗体を用いた。コニカイムノステインHRP-1000(コニカミノルタ社)を加え、青色に染色したウイルス抗原陽性細胞集団(免疫フォーカス;フォーカスとも呼ぶ)の数を顕微鏡下で測定し、感染力価を算出した。
【0039】
4)HCV感染方法
上記3)で調製したHCVストック液(5.4×10
4 感染単位/ml)とHCV粒子形成促進剤を混合したものを培養細胞に接種して37℃で2時間吸着させた後、ウイルス液を除き、培養液で3回洗浄後、同様にHCV粒子形成促進剤を加えて48時間培養した(ロバスタチン濃度:1.25〜20μg/ml)。ウイルスは、多重感染価(multiplicity of infection; moi)が0.1となるように培養細胞に接種した。
【0040】
5)ウイルス感染価測定方法
ウイルス産生能を確認するために、上記感染細胞培養液を10,000 rpmで3分間遠心し、その遠心上清を試料液とした。上記試料液をHCV非感染Huh7-it細胞に接種し、24時間後に細胞を固定して、一次抗体としてHCVタンパク質に強く反応することが予め確認された患者血清、及び二次抗体としてAlexa488標識ヤギ抗ヒトIgG抗体(Molecular Probe社)を用いて免疫染色し、染色陽性細胞の数を計測し、HCV感染価を測定した。
【0041】
6)ウイルス感染価測定結果
上記の結果、5〜20μg/mlのロバスタチンが含まれるように調整された精製ロバスタチン溶液「B15.4.1」存在下で培養した場合に、ロバスタチン濃度依存的に各試料液について高いHCV感染価が認められた(
図2)。
【0042】
(実施例3)培養細胞へのHCV粒子形成促進剤の添加時期の検討(1)
本実施例では、HCV粒子形成促進剤をHCV吸着中2時間及び/又は感染後48時間にHuh7-it細胞に添加したときのHCV感染価に及ぼす影響を確認した。
【0043】
1)HCV粒子形成促進剤
本実施例では、実施例1の粗製ロバスタチン溶液「B15」(
図1)を「HCV粒子形成促進剤」として使用した。以下では、HCV粒子形成促進剤に培養液を加えて、ウイルス接種時及び培養時のロバスタチン濃度が1〜50μg/mlとなるように調整し、使用した。
2)培養細胞
本実施例では、実施例2と同手法でHuh7-it細胞を培養し、使用した。
3)HCV粒子形成促進剤の添加時期
本実施例ではHCVを実施例2と同様にmoi=0.1となるように培養細胞に接種し、HCV粒子形成促進剤は以下のi)〜iii)の時期に添加した。
i)吸着中+吸着後
培養細胞に、HCVとHCV粒子形成促進剤を混合したものを接種して37℃で2時間吸着させた後、ウイルス液を除き、培養液で3回洗浄後、ロバスタチンを含むHCV粒子形成促進剤を加えて46時間培養した。
ii)吸着後のみ
培養細胞にHCVを接種して37℃で2時間吸着させた後、ウイルス液を除き、培養液で3回洗浄後、HCV粒子形成促進剤添加培養液を加えて46時間培養した。
iii))吸着中のみ
培養細胞にHCVとHCV粒子形成促進剤を混合したものを接種して37℃で2時間吸着させた後、ウイルス液を除き、培養液で3回洗浄後、HCV粒子形成促進剤を含まない培養液を加えて46時間培養した。
4)ウイルス感染価測定方法
ウイルス産生能を確認するための試料は実施例2と同手法にて調製し、実施例2と同手法でウイルス感染価を測定した。
5)ウイルス感染価測定結果
上記の結果、HCV吸着中にHCV粒子形成促進剤が存在するか否かに関わらず、HCV吸着以降にHCV粒子形成促進剤を添加して培養した場合に、5〜20μg/mlのロバスタチン存在下で濃度依存的に各試料液について高いウイルス感染価が認められた(
図3)。
【0044】
(実施例4)培養細胞へのHCV粒子形成促進剤の添加時期の検討(2)
本実施例では、HCV粒子形成促進剤としてロバスタチンを、HCV吸着中2時間又は感染後48時間にHuh7-it細胞に添加したときのHCV感染価に及ぼす影響を確認した。
【0045】
1)HCV粒子形成促進剤
本実施例では、実施例1の精製ロバスタチン溶液「B15.4.1」(
図1)を「HCV粒子形成促進剤」として使用した。以下では、HCV粒子形成促進剤に培養液を加えて、ウイルス接種時及び培養時のロバスタチン濃度が20μg/mlとなるように調整し、使用した。
2)培養細胞
本実施例では、実施例2と同手法でHuh7-it細胞を培養し、使用した。
3)HCV粒子形成促進剤の添加時期
本実施例ではHCVを実施例2と同様にmoi=0.1となるように培養細胞に接種し、HCV粒子形成促進剤は以下のi)〜iii)の時期に添加した。
i)吸着中+吸着後
培養細胞にHCVとHCV粒子形成促進剤を混合したものを接種して37℃で2時間吸着させた後、ウイルス液を除き、培養液で3回洗浄後、HCV粒子形成促進剤を添加した培養液を加えて46時間培養した。
ii)吸着中のみ
培養細胞にHCVとHCV粒子形成促進剤を混合したものを接種して37℃で2時間吸着させた後、ウイルス液を除き、培養液で3回洗浄後、HCV粒子形成促進剤を含まない培地を加えて46時間培養した。
iii)吸着後のみ
培養細胞にHCVを接種して37℃で2時間吸着させた後、ウイルス液を除き、培養液で3回洗浄後、HCV粒子形成促進剤を添加した培養液を加えて46時間培養した。
4)ウイルス感染価測定方法
ウイルス産生能を確認するための試料は実施例2と同手法にて調製し、実施例2と同手法でウイルス感染価を測定した。
5)ウイルス感染価測定結果
上記の結果、HCV吸着中にHCV粒子形成促進剤が存在するか否かに関わらず、HCV吸着以降にHCV粒子形成促進剤を添加して培養した場合に、高いウイルス感染価が認められた(
図4)。
【0046】
(実施例5)培養細胞内外でのHCV粒子形成確認
本実施例では、培養細胞は実施例2と同手法により準備し、HCV吸着中から感染後48時間にわたってHCV粒子形成促進剤を、Huh7-it細胞に添加したときの、細胞内外でのHCV感染価に及ぼす影響を確認した。本実施例では、HCV粒子形成促進剤として、実施例1の精製ロバスタチン溶液「B15.4.1」(
図1)を使用した。以下では、HCV粒子形成促進剤に培養液を加えて、ウイルス接種時及び培養時のロバスタチン濃度が20μg/mlとなるように調整し、使用した。HCV粒子形成促進剤のかわりにジメチルスルホキシド (DMSO)を含む系をコントロールとした。
【0047】
細胞外のHCV感染価を測定するための試料は、実施例2と同手法によった。細胞内のHCV感染価を測定するための試料は、凍結融解法で調製した。まず、感染細胞をPBSで洗浄後、トリプシン/EDTA処理により浮遊させ、遠心して細胞ペレットを回収した。それをPBSで1回洗浄し、0.5 mlの培養液に懸濁して-80℃で3回凍結融解を繰り返した後、12,000rpmで5分間遠心して得られた上清を測定用試料とした。各試料についてのウイルス力価測定は、実施例2と同手法により行った。
【0048】
上記の結果、細胞内ではHCV粒子産生はコントロールとほとんど差を認めなかったが、細胞外ではHCV粒子形成促進剤で処理した系のほうが20倍〜30倍と有意に高いHCV粒子産生能が確認された(
図5)。
【0049】
(実施例6)培養細胞内でのHCV RNAコピー数の確認
本実施例では、培養細胞は実施例2と同手法により準備し、HCV吸着中から感染後48時間にわたってHCV粒子形成促進剤を、Huh7-it細胞に添加したときの、HCV感染後1、2、3、4日目での、培養細胞内でのHCV RNAコピー数に及ぼす影響を確認した。本実施例では、HCV粒子形成促進剤として、実施例1の精製ロバスタチン溶液「B15.4.1」(
図1)を使用した。以下では、HCV粒子形成促進剤に培養液を加えて、ウイルス接種時及び培養時のロバスタチン濃度が20μg/mlとなるように調整し、使用した。HCV粒子形成促進剤のかわりにDMSOを含む系をコントロールとした。
【0050】
細胞内のHCV RNAコピーを計測するための試料は、実施例5と同手法で調製した。感染細胞からTrizol
(R)/Trizol
(R)-LS(Invitrogen社)を用いて全RNAを抽出した。全RNAから、ReverTra Ace
(R) qPCR-Kit (Toyobo)を用いて、37℃15分間逆転写反応、98℃5分間で酵素失活反応を行い、cDNAを合成した。HCV RNAコピー数の測定は、LightCycler
(R) 480 リアルタイムPCRシステムを用いた定量RT-PCR法により行った。HCV特異的プライマーとして配列番号1及び2に示す塩基配列からなる、NS3部位へのプライマーを用い、PCR反応溶液は10μl 2×SYBR
(R) Premix ExTaq(Takara)、0.4μl 各プライマー(10 pmol/μl)、2μl cDNAテンプレート、7.2μl 滅菌蒸留水を用いた。PCR条件は95℃、10秒の熱変性後、95℃10秒、60℃20秒のサイクルを40回繰り返した。
(配列番号1)5'-CTTTGACTCCGTGATCGACT-3'
(配列番号2)5'-CCCTGTCTTCCTCTACCTG-3 '
【0051】
上記の実験結果より、細胞内HCV RNA複製量はHCV粒子形成促進剤の有無によって影響を受けないことがわかった(
図6)。また、免疫染色により、細胞内HCVタンパク質(抗原)合成量もロバスタチンの有無によって影響を受けないことがわかった(
図7)。これらの実験結果より、ロバスタチンのHCV産生亢進作用は、HCV RNA複製やHCVタンパク質合成までの段階ではなく、それ以降のHCV粒子形成あるいは放出の段階で作用しているものと推測された。
【0052】
(実施例7)各種スタチンのHCV粒子産生促進効果
本実施例では、市販されている各種スタチンについて、HCV粒子産生促進効果を観察した。
【0053】
1)HCV粒子形成促進剤
本実施例では、HCV粒子形成促進剤として市販のスタチン製剤を使用した。ロバスタチン(メビノリン:シグマアルドリッチ社製;CAS番号75330-75-5)、フルバスタチンナトリウム(和光純薬工業株式会社製;CAS番号93957-55-2)、シンバスタチン(シグマアルドリッチ社製;CAS番号79902-63-9)、アトルバスタチンカルシウム三水和物(和光純薬工業株式会社製;CAS番号134523-03-8)及びプラバスタチンナトリウム塩水和物(和光純薬工業株式会社製;CAS番号81131-70-6)を用いた。各スタチンは、培養時の濃度が表1に示す濃度になるように培養液で希釈して調整した。コントロールとしてHCV粒子形成促進剤のかわりにDMSO(1μg/ml)を用いた。
2)培養細胞
本実施例では、実施例2と同手法でHuh7-it細胞を培養し、使用した。
3)HCV粒子形成促進剤の添加時期
本実施例ではHCVをmoi=0.1となるように培養細胞に接種して37℃で2時間吸着後、ウイルス液を除き、培養液で3回洗浄後、HCV粒子形成促進剤を添加した培養液を加えて46時間培養した。
4)ウイルス感染価測定方法
ウイルス産生能を確認するための試料は実施例2と同手法にて調製し、実施例2と同手法でウイルス感染価を測定した。
5)ウイルス感染価測定結果
上記の結果を表1に示した。その結果、各スタチンについてHCV粒子形成促進剤効果が認められた。
【0054】
【表1】