特許第6283315号(P6283315)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人神戸大学の特許一覧 ▶ 東レ株式会社の特許一覧 ▶ 公益財団法人東京都医学総合研究所の特許一覧 ▶ インドネシア大学の特許一覧 ▶ インドネシアン インスティテュート オブ サイエンシーズ(エルアイピーアイ)の特許一覧

特許6283315C型肝炎ウイルス粒子形成促進剤及びC型肝炎ウイルス粒子の産生方法
<>
  • 特許6283315-C型肝炎ウイルス粒子形成促進剤及びC型肝炎ウイルス粒子の産生方法 図000003
  • 特許6283315-C型肝炎ウイルス粒子形成促進剤及びC型肝炎ウイルス粒子の産生方法 図000004
  • 特許6283315-C型肝炎ウイルス粒子形成促進剤及びC型肝炎ウイルス粒子の産生方法 図000005
  • 特許6283315-C型肝炎ウイルス粒子形成促進剤及びC型肝炎ウイルス粒子の産生方法 図000006
  • 特許6283315-C型肝炎ウイルス粒子形成促進剤及びC型肝炎ウイルス粒子の産生方法 図000007
  • 特許6283315-C型肝炎ウイルス粒子形成促進剤及びC型肝炎ウイルス粒子の産生方法 図000008
  • 特許6283315-C型肝炎ウイルス粒子形成促進剤及びC型肝炎ウイルス粒子の産生方法 図000009
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6283315
(24)【登録日】2018年2月2日
(45)【発行日】2018年2月21日
(54)【発明の名称】C型肝炎ウイルス粒子形成促進剤及びC型肝炎ウイルス粒子の産生方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 7/00 20060101AFI20180208BHJP
   C12N 7/02 20060101ALI20180208BHJP
   C12N 7/06 20060101ALI20180208BHJP
   A61P 31/14 20060101ALI20180208BHJP
   A61K 39/29 20060101ALI20180208BHJP
【FI】
   C12N7/00ZNA
   C12N7/02
   C12N7/06
   A61P31/14
   A61K39/29
【請求項の数】6
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2014-538656(P2014-538656)
(86)(22)【出願日】2013年9月27日
(86)【国際出願番号】JP2013076414
(87)【国際公開番号】WO2014051111
(87)【国際公開日】20140403
【審査請求日】2016年9月16日
(31)【優先権主張番号】特願2012-215474(P2012-215474)
(32)【優先日】2012年9月28日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504150450
【氏名又は名称】国立大学法人神戸大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591063394
【氏名又は名称】公益財団法人東京都医学総合研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】512252227
【氏名又は名称】インドネシア大学
【氏名又は名称原語表記】University of Indonesia
(73)【特許権者】
【識別番号】510302663
【氏名又は名称】インドネシアン インスティテュート オブ サイエンシーズ(エルアイピーアイ)
【氏名又は名称原語表記】INDONESIAN INSTITUTE OF SCIENCES(LIPI)
(74)【代理人】
【識別番号】100088904
【弁理士】
【氏名又は名称】庄司 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100124453
【弁理士】
【氏名又は名称】資延 由利子
(74)【代理人】
【識別番号】100135208
【弁理士】
【氏名又は名称】大杉 卓也
(74)【代理人】
【識別番号】100152319
【弁理士】
【氏名又は名称】曽我 亜紀
(72)【発明者】
【氏名】堀田 博
(72)【発明者】
【氏名】青木 千恵
(72)【発明者】
【氏名】脇田 隆字
(72)【発明者】
【氏名】プラティビ スダルモノ
(72)【発明者】
【氏名】ラトナ シトンプル
(72)【発明者】
【氏名】ルクマン ハキム
(72)【発明者】
【氏名】レオナルダス カルドノ
【審査官】 鳥居 敬司
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/040535(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/024875(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/118743(WO,A1)
【文献】 国際公開第2009/011413(WO,A1)
【文献】 特表2012−501664(JP,A)
【文献】 Hepatology, 2009, Vol.50, pp.6-16
【文献】 Antiviral Research, 2012.05, Vol.95, pp.159-166
【文献】 Journal of Hepatology, 2010, Vol.52, Suppl.1, p.S289
【文献】 検査と技術, 2006, Vol.34, No.5, pp.491-494
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 7/00−7/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
WPIDS/WPIX(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロバスタチン又はアトルバスタチンを2.5〜20μg/mlの存在下でC型肝炎ウイルス感染細胞を培養する、C型肝炎ウイルス粒子の産生増強方法。
【請求項2】
ロバスタチンが、Aspergillus属糸状菌の培養抽出物由来ロバスタチンである、請求項1に記載のC型肝炎ウイルス粒子の産生増強方法。
【請求項3】
フルバスタチン又はシンバスタチンを1.25〜20μg/mlの存在下でC型肝炎ウイルス感染細胞を培養する、C型肝炎ウイルス粒子の産生増強方法。
【請求項4】
プラバスタチンを20〜200μg/mlの存在下でC型肝炎ウイルス感染細胞を培養する、C型肝炎ウイルス粒子の産生増強方法。
【請求項5】
ロバスタチン、フルバスタチン、シンバスタチン、アトルバスタチン及びプラバスタチンより選択されるいずれかのスタチンを、前記C型肝炎ウイルス感染細胞内にC型肝炎ウイルスタンパク質が形成された後に添加して培養する、請求項1〜4のいずれかに記載のC型肝炎ウイルス粒子の産生増強方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のC型肝炎ウイルス粒子の産生増強方法によりC型肝炎ウイルスを産生し、得られたC型肝炎ウイルスを不活化して作製する、C型肝炎ウイルスワクチンの作製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、C型肝炎ウイルス(HCV:Hepatitis C Virus)感染培養細胞におけるHCV粒子の形成促進剤及びHCV粒子の産生増強方法に関する。
【0002】
本出願は、参照によりここに援用されるところの日本出願、特願2012−215474号優先権を請求する。
【背景技術】
【0003】
1989年にHCV遺伝子がクローニングされてから、C型肝炎患者血清中のHCVを培養細胞に感染させウイルス増殖細胞系を作製する方法の確立はHCV研究の最大のテーマであった。
【0004】
全世界で2億人、日本国内でも約200万人ものHCVキャリヤーが存在している。HCVの感染者は非常に高い確率で慢性肝炎を発症し、一部の患者においては慢性肝炎が更に肝硬変、肝癌へと進行する。つまりHCVは重篤な疾患を引き起こす原因ウイルスである。現在、多くのC型肝炎患者に対してインターフェロン(IFN)、及び抗ウイルス薬であるリバビリンを併用した治療方法が多用されている。しかしながら、IFNが効きにくいタイプのHCV感染者も多く、上記治療方法では治療効果が低いという問題点がある。またIFNは、患者に対して強い副作用を示すことも明らかになっている。そのため、HCVの感染拡大の防止及びHCVの撲滅に向けた、新規治療薬及び新規ワクチンの開発が急務となっている。
【0005】
一方、HCVの感染性クローンは、動物実験レベルではチンパンジーやヒト肝細胞を移植されたキメラマウスでのみ増殖が可能だが、患者検体から培養細胞に容易に感染できるウイルスは得られておらず、倫理的な問題やコストの面からチンパンジーの利用は進まず、研究面での貢献は厳しかった。HCVのサブゲノムを培養細胞中にて複製増殖させることが可能なHCVサブゲノムRNAレプリコンシステムが作製されたことが報告された(非特許文献1〜4、特許文献1、2)。これにより、培養細胞を用いてHCVの複製機構を解析することが可能となった。これらのHCVサブゲノムRNAレプリコンは、HCVゲノムRNAの5'非翻訳領域中のHCV IRESの下流に存在する構造タンパク質をコードする領域を、ネオマイシン耐性遺伝子及びその下流に連結したEMCV-IRESによって置換したものである。このRNAレプリコンを、ヒト肝癌細胞Huh7に導入してネオマイシン存在下で培養することにより、Huh7細胞内でRNAレプリコンが自律複製することが証明された。
【0006】
この後、HCVの全ゲノムRNAが自律複製するHCVフルゲノムRNAレプリコンが作製され、さらにHCVの生活環(ウイルス吸着・侵入からウイルス粒子の形成と細胞外への放出まで)を反映する感染増殖系が作製され、報告されている(非特許文献5〜7)。ワクチン等をより効果的に開発するためには、さらに効果的に、感染細胞内でのHCV粒子の形成と細胞外への放出が行われる系が望まれる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Science, 285:110-113, 1999
【非特許文献2】Science, 290:l972-74, 2000
【非特許文献3】J. Virol., 75:l2047-57, 2001
【非特許文献4】Gastroenterology, 125:l808-17, 2003
【非特許文献5】Nat. Med., 11:791-796, 2005
【非特許文献6】Science, 309:623-626, 2005
【非特許文献7】Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 102:9294-9299, 2005
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開 2001-17187号公報
【特許文献2】国際公開パンフレットWO2004/104198A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、培養細胞においてHCV粒子の形成を促進しうるHCV粒子形成促進剤を提供することを課題とし、更にはHCV粒子の産生増強方法を提供することを課題とする。また、抗HCV剤候補物質の評価方法、並びにHCVワクチンの作製方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、スタチン又はその薬学的に許容しうる塩が効果的にHCV粒子の形成を促進することを見出し、本発明のHCV粒子形成促進剤に係る発明を完成した。また、当該当該HCV粒子形成促進剤と抗HCV剤候補物質の存在下にHCV感染細胞を培養することで抗HCV剤候補物質を評価しうることを見出し、抗HCV剤候補物質の評価方法に係る本発明も完成した。更にHCV粒子産生増強方法により産生されたHCV粒子を用いることでHCVワクチンを作製しうることを見出し、HCVワクチンの作製方法に係る本発明を完成した。
【0011】
すなわち本発明は、以下よりなる。
1.スタチン又はその薬学的に許容しうる塩を有効成分として含有する、HCV粒子形成促進剤。
2.前記スタチンが、ロバスタチン、フルバスタチン、シンバスタチン、アトルバスタチン及びプラバスタチンからなる群から選択される1又は複数のスタチンである、前項1に記載のHCV粒子形成促進剤。
3.スタチン又はその薬学的に許容しうる塩を産生しうる微生物の培養抽出物を含有する、前項1又は2に記載のHCV粒子形成促進剤。
4.前記微生物がAspergillus属糸状菌である、前項3に記載のHCV粒子形成促進剤。
5.前項1〜4のいずれか1項に記載のHCV粒子形成促進剤の存在下でHCV感染細胞を培養する、HCV粒子の産生増強方法。
6.前項1〜4のいずれか1項に記載のHCV粒子形成促進剤を、前記HCV感染細胞内にHCVタンパク質が形成された後に添加して培養する、前項5に記載のHCV粒子の産生増強方法。
7.前項5又は6に記載のHCV粒子の産生増強方法により産生されたHCVを不活化して作製する、HCVワクチンの作製方法。
8.前項7に記載の作製方法により作製された、HCVワクチン。
9.前項1〜4のいずれか1項に記載のHCV粒子形成促進剤の存在下で、抗HCV剤候補物質と共にHCV感染細胞を培養し、HCV粒子の形成を阻害する強さを評価する、抗HCV剤候補物質の評価方法。
10.以下の工程を含む、前項9に記載の抗HCV剤候補物質の評価方法:
1)前項1〜4のいずれか1項に記載のHCV粒子形成促進剤及び抗HCV剤候補物質を、HCV感染細胞に添加する工程;
2)HCV感染細胞を培養する培養工程;
3)培養されたHCV粒子の量を測定し、HCV粒子の形成を阻害する強さを評価する評価工程。
【発明の効果】
【0012】
本発明のHCV粒子形成促進剤を用いてHCV感染細胞を培養することにより、HCV粒子を形成促進させ、HCV粒子の産生効率を向上させることができた。本発明の方法より、HCV感染培養細胞でHCV粒子の産生を増加させることができると共に、抗HCV剤候補物質の評価を行うことができる。更に、本発明により得られたHCV粒子を用いてHCVワクチンを効率よく生産することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明のHCV粒子形成促進剤を作製する一例として、Aspergillus terreusの菌体抽出物から精製フローチャートを示す図である。ここでは、各精製工程における各溶液についての増殖阻害濃度(IC50)及び細胞毒性(CC50)が示されている。(実施例1)
図2】本発明のHCV粒子形成促進剤を培養細胞に加えたときの、ウイルス力価の測定結果を示す図である。(実施例2)
図3】HCV感染後の培養細胞へのHCV粒子形成促進剤添加時期の検討結果を示す図である。(実施例3)
図4】HCV感染後の培養細胞へのHCV粒子形成促進剤添加時期の検討結果を示す図である。(実施例4)
図5】本発明のHCV粒子形成促進剤を培養細胞に加えたときの、細胞内外で形成されたウイルス粒子の測定結果を示す図である。(実施例5)
図6】本発明のHCV粒子形成促進剤を培養細胞に加えたときの、細胞内でのRNAコピー数の測定結果を示す図である。(実施例6)
図7】本発明のHCV粒子形成促進剤を培養細胞に加えたときの、細胞内でのタンパク形成能を免疫染色により確認した結果を示す図である。(実施例6)
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、スタチン又はその薬学的に許容しうる塩を有効成分とする、HCV粒子形成促進剤に関する。
【0015】
本明細書においてスタチンとは、コレステロールの生合成経路の一つメバロン酸経路の律速酵素であるHMG-CoA 還元酵素(3-Hydroxy-3-methylglutaryl coenzyme A reductase) の働きを阻害し肝臓でのコレステロールの生合成を抑制することにより高コレステロール血症の治療薬として使用されている薬物であり、ロバスタチン(Lovastatin)、シンバスタチン(Simvastatin)、フルバスタチンナトリウム(Fluvastatin sodium)、プラバスタチン(Pravastatin)、アトルバスタチンカルシウム(Atorvastatin Calcium)、ピタバスタチンカルシウム(Pitavastatin calcium)、ロスバスタチンカルシウム(Rosuvastatin calcium)等をいう。
【0016】
ここにおいてロバスタチンとは、CAS番号75330-75-5、(1S,3R,7S,8S,8aR)-8-[2-((2R,4R)-4-ヒドロキシ-6-オキソテトラヒドロ-2H-ピラン-2-イル)エチル]-3,7-ジメチル-1,2,3,7,8,8a-ヘキサヒドロ-1-ナフチルを、シンバスタチンとは、CAS番号79902-63-9、(1S,3R,7S,8S,8aR)-8-[2-[(2R,4R)-4-ヒドロキシ-6-オキソテトラヒドロピラン-2-イル]エチル]-3,7-ジメチル-1,2,3,7,8,8a-ヘキサヒドロ-1-ナフチルを、フルバスタチンナトリウムとは、CAS番号93957-55-2、(3R,5S,6E)-7-[3-(4-フルオロフェニル)-1-(1-メチルエチル)-1H-インドール-2-イル]-3,5-ジヒドロキシ-6-ヘプテン酸 ナトリウム、プラバスタチンとは、CAS番号81093-70-6、(1S,βR,δR,8aβ)-1,2,6,7,8,8a-ヘキサヒドロ-β,δ,6β-トリヒドロキシ-2β-メチル-8α-[(S)-2-メチル-1-オキソブトキシ]-1β-ナフタレンヘプタン酸を、アトルバスタチンカルシウムとは、CAS番号134523-03-8、(3R,5R)-7-[2-(4-フルオロフェニル)-5-イソプロピル-3-フェニル-4-[(フェニルアミノ)カルボニル]-1H-ピロール-1-イル]-3,5-ジヒドロキシヘプタン酸カルシウムを、ピタバスタチンカルシウムとは、CAS番号147511-69-1、(3R,5S,6E)-7-(2-シクロプロピル-4-(4-フルオルフェニル)キノリニ-3-イル)-3,5-ジヒドロキシヘプテ-6-ン酸を、ロスバスタチンカルシウムとは、CAS番号147098-20-2、ビス[(E)-7-[4-(4-フルオロフェニル)-6-イソプロピル-2-[メチル(メチルスルホニル) アミノ] ピリミジン-5-イル](3R,5S)-3,5-ジヒドロキシヘプテ-6-ン酸] カルシウムをいう。
【0017】
本発明のスタチンとして、上記より選択される1種又は複数種を選択して使用することができる。好ましくは、ロバスタチン、フルバスタチン、シンバスタチン、アトルバスタチン、及びプラバスタチンが挙げられ、より好ましくは、ロバスタチン、フルバスタチン、シンバスタチン、及びアトルバスタチンが挙げられる。本発明のHCV粒子形成促進剤に含まれる有効成分は、上述のスタチン又はその薬学的に許容しうる塩であってもよいし、それらの水和物であってもよい。 スタチン、その薬学的に許容しうる塩、及びそれらの水和物は、合成により作製してもよいし、微生物により産生させたものであってもよい。
【0018】
本発明のHCV粒子形成促進剤は、合成により作製されたスタチン、その薬学的に許容しうる塩、及び/又はそれらの水和物を有効成分として含む組成物であってもよいし、スタチン、その薬学的に許容しうる塩、及び/又はそれらの水和物を産生しうる微生物の培養抽出物であってもよい。前記微生物の培養抽出物は、そのまま本発明のHCV粒子形成促進剤として用いることもできる。いずれの場合も、本発明のHCV粒子形成促進剤に含まれる有効成分は、スタチン、その薬学的に許容しうる塩、及び/又はそれらの水和物である。スタチン、その薬学的に許容しうる塩、及び/又はそれらの水和物を産生しうる微生物の培養抽出物を、そのまま本発明のHCV粒子形成促進剤として用いることで、スタチン、その薬学的に許容しうる塩、及び/又はそれらの水和物を合成し、精製するよりもHCV粒子形成促進剤の製造を容易に行うことができ、費用も軽減化することができる。
【0019】
有効成分としてのスタチン、その薬学的に許容しうる塩、及びそれらの水和物は、合成によって作製することもできるし、生合成可能な微生物の培養抽出物から取得することもできる。スタチン、その薬学的に許容しうる塩、及びそれらの水和物を合成する方法は特に限定されず、自体公知の方法又は今後開発されるあらゆる合成方法を適用することができる。スタチン、その薬学的に許容しうる塩、及び/又はそれらの水和物を産生しうる微生物としては、特に限定されないが、例えばロバスタチンについてはAspergillus属糸状菌が挙げられ、特に好適にはAspergillus terreusが挙げられる(図1参照)。
【0020】
本発明において薬学的に許容される塩とは、特に制限なく、当業者に公知の任意の塩、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩などを挙げることが出来る。本発明のHCV粒子形成促進剤は、有効成分として上述のスタチン、その薬学的に許容しうる塩、及び/又はそれらの水和物を含む他、他の化合物を含んでいてもよい。
【0021】
本発明のHCV粒子形成促進剤の剤型は特に限定されず、有効成分としてのスタチン、その薬学的に許容しうる塩、及び/又はそれらの水和物をHCV感染細胞と共に培養可能であればよい。本発明のHCV粒子形成促進剤には、上記を考慮して、本発明の有効成分以外に当業者に公知の薬学的に許容され得る担体、賦形剤、結合剤、滑沢剤及び着色剤などを適宜含ませることができる。本発明のHCV粒子形成促進剤は、当業者に公知の任意の製剤調製方法で容易に調製することができる。 例えば、適当な担体の例としては、ラクトース、デンプン、ショ糖、グルコース、メチルセルロース、ステアリン酸マグネシウム、マンニトール、ソルビトール及びクロスカルメローズナトリウムなどを挙げることができる。或いは、適当な結合剤としては、デンプン、ゼラチン、又は、グルコース、無水ラクトース、自由流動ラクトース、ベータ-ラクトース及びトウモロコシ甘味料のような天然の糖、並びに、アラビアガム、グアーガム、トラガントもしくはアルギン酸ナトリウムのような天然及び合成のガム、カルボキシメチルセルロース、ポリエチレングリコール、及びロウなどがある。又、これらの剤形に使用される滑沢剤には、オレイン酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸マグネシウム、安息香酸ナトリウム、及び塩化ナトリウムなどがある。
【0022】
本発明は、上記HCV粒子形成促進剤と共にHCV感染細胞を培養することによる、HCV粒子の産生増強方法にも及ぶ。本発明のHCV粒子の産生に使用可能な細胞は、HCV許容性細胞であればよい。ここでHCV許容性細胞とは、HCVゲノムRNAの複製能及び/又はHCVが感染しうる細胞を意味する。HCV許容性細胞は、肝臓細胞又はリンパ球系細胞由来の細胞であるが、これらに限定されるものではない。肝臓細胞としては、具体的には初代肝臓細胞や、Huh7細胞、RCYM1RC細胞、5-15RC細胞、HepG2細胞、IMY-N9細胞、HeLa細胞、293細胞などが挙げられ、リンパ球系細胞としてはMolt4細胞や、HPB-Ma細胞、Daudi細胞などが挙げられるが、これらに限定されるものでは無い。好ましいHCV許容性細胞としては、Huh7細胞、RCYM1RC細胞、5-15RC細胞、HepG2細胞及びそれらの細胞から派生した株化細胞などが挙げられる。特に好ましくはHuh7細胞から派生した細胞であり、このような細胞としては、例えばHuh7.5細胞やHuh7.5.1細胞、Huh7-it細胞などが挙げられる。特に継代培養可能な細胞であれば好適である。さらに真核細胞であることが好ましく、ヒト細胞であることがより好ましい。これらの細胞は、市販のものを利用してもよいし、細胞寄託機関から入手して使用してもよい。任意の細胞(例えば癌細胞又は幹細胞)を株化した細胞を使用してもよい。Huh7細胞から派生した細胞株として、Huh7.5細胞(Blight KJ et al., J. Virol., 76:13001-13014, 2002)及びHuh7.5.1細胞(Zhong J et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 102:9294-9299, 2005)及びHuh7-it細胞(Yu L et al., J. Virol. Methods, 169:380-384, 2010)などが挙げられる。
【0023】
本発明のHCV粒子形成促進剤を、上記より選択されるHCVが感染しているHCV許容性細胞に添加することによりHCV粒子を形成促進させ、HCV粒子を産生増強させることができる。具体的には、上記より選択されるいずれかの培養したHCV許容性細胞にHCVを接種し、HCVを細胞内に吸着させた後に、培養液に上記HCV粒子形成促進剤を、10〜200μg/ml、好ましくは20〜50μg/mlの濃度になるように添加し、24〜72時間、好ましくは36〜72時間、より好ましくは約48時間培養することでHCV粒子を形成促進させ、HCV粒子を産生増強させることができる。
【0024】
HCV感染細胞のHCV粒子産生能は、公知の任意のウイルス検出法を用いて確認することができる。例えば、HCV許容性細胞の培養上清を、ショ糖密度勾配により分画し、ウイルス粒子を検出することができる。HCVが感染し、HCVゲノムRNAが複製された細胞は、HCVタンパク質を発現する。従って、HCV感染細胞を培養し、HCVタンパク質を検出することができれば、その細胞はHCVゲノムRNAを複製しているものと推定することができる。さらに、HCVタンパク質の検出は、公知の任意のタンパク質検出法に従って行うことができる。具体的には、Kaito M et al., J. Gen. Virol., 75:l755-1760, 1994の方法により、検出することができる。ウイルス粒子産生能は、培養上清中の感染性ウイルス粒子の数を確認することで行うことができる。感染性ウイルス粒子を含む培養上清を非感染細胞に接種し、18〜48時間後、好ましくは約24時間後に細胞を固定して、HCVタンパク質に対する特異抗体を用いて免疫染色し、染色陽性細胞の数を計測することで、培養上清中の感染性ウイルス粒子の数を確認することができる。より具体的には、感染性ウイルス粒子を含む培養上清をEnzyme-linked Immunosorbent Assay(ELISA)法により抗HCV Coreタンパク質抗体を反応させ、検出することによって行うことができる。
【0025】
HCV感染細胞において複製されるHCV RNAの解析は、通常の分子生物学的方法で解析することができる。細胞からRNAを抽出する方法は、自体公知の方法によることができる。具体的には、ノーザンブロット法、リボヌクレアーゼプロテクションアッセイ法やRT-PCR法などを用いて、複製されたRNAの量又は配列を解析することができる。RNAの定量を行う場合はノーザンブロット法や定量RT-PCRで、RNAの配列を解析する場合はシークエンス解析法を用いることができる。
【0026】
本発明の方法で産生されるHCV粒子は、HCV許容性細胞への感染能を有する。ここでHCV許容性細胞とは、HCVゲノムRNAの複製能及び/又はHCVが感染しうる細胞を意味する。HCV許容性細胞は、肝臓細胞又はリンパ球系細胞由来の細胞であるが、これらに限定されるものではない。肝臓細胞としては、具体的には初代肝臓細胞や、Huh7細胞、RCYM1RC細胞、5-15RC細胞、HepG2細胞、IMY-N9細胞、HeLa細胞、293細胞などが挙げられ、リンパ球系細胞としてはMolt4細胞や、HPB-Ma細胞、Daudi細胞などが挙げられるが、これらに限定されるものでは無い。好ましいHCV許容性細胞としては、Huh7細胞、RCYM1RC細胞、5-15RC細胞、HepG2細胞及びそれらの細胞から派生した株化細胞などが挙げられる。特に好ましくはHuh7細胞から派生した細胞であり、このような細胞としては、例えばHuh7.5細胞やHuh7.5.1細胞、Huh7-it細胞などが挙げられる。
【0027】
感染性ウイルス粒子を含む培養上清など、上記で得られたHCV粒子を含むウイルス液から、HCV粒子を精製する方法は特に限定されず、自体公知の方法又は今後開発される方法を適用することができる。例えば、遠心及び/又はフィルターなどを用いて細胞及び細胞の残渣を除去し、限外濾過濃縮、クロマトグラフィー及び密度勾配遠心を任意の順番に組み合わせて、あるいは単独で精製することができる。
【0028】
本発明は、さらに本発明の方法で産生されるHCV粒子を抗原とするHCVワクチンの作製方法にも及ぶ。更に当該方法により作製されたHCVワクチンにも及ぶ。
【0029】
本発明のHCVワクチンの作製に関しては、感染性が不活化されたHCV粒子を使用することが好ましい。感染性の不活化方法は臨床に使用可能な方法であればよく特に限定されず、自体公知の方法、今後開発される方法を採用することができる。例えばホルマリン、β−プロピオラクトン、グルタルジアルデヒド等の不活化剤を、例えば、本発明により作製されたHCV粒子浮遊液に添加混合し、HCV粒子と反応させることにより達成することができる(Appaiahgari MB et al., Vaccine, 22:3669-3675, 2004)。また、HCV粒子を紫外線で照射することで、感染性を失わせ、迅速に不活化することもできる。紫外線照射によれば、HCV粒子を構成するタンパク質などへの影響が少なく、不活化を行うことができる。不活化するための紫外線の線源としては一般に市販されている殺菌灯、特に15W殺菌灯を用いて行うことができるが、それらに限るものではない。
【0030】
アジュバントは、ワクチン用アジュバントとして使用でき臨床に使用可能であればよく特に限定されないが、自体公知のアジュバント又は今後開発されるアジュバントを適用することができる。例えば、既にワクチン用アジュバントとして使用が認可されている水酸化アルミニウム(Alum)等が望ましいが、臨床に使用できるものならば良く、CpGオリゴヌクレオチド、2本鎖RNAが挙げられ、2本鎖RNA として、polyI:C、polyICLC又はpolyIpolyC12Uを挙げることができる。
【0031】
本発明のHCV粒子形成促進剤は、さらに抗HCV剤候補物質の評価方法に利用することができる。ここにおいて、抗HCV剤は、細胞でのHCV粒子産生抑制作用や、細胞からのHCV粒子放出抑制作用を有する物質が挙げられる。抗HCV剤候補物質は、そのような作用が期待される物質であればよく、特に限定されないが、例えばタンパク質、ペプチドの他、低分子化合物などが挙げられる。
【0032】
抗HCV剤候補物質の評価方法としては、HCV感染細胞を本発明のHCV粒子形成促進剤と抗HCV剤候補物質と共に、あるいは抗HCV剤候補物質のみで36〜72時間培養し、培養HCV感染細胞からHCV粒子形成能を比較することで達成される。具体的には、以下の1)〜3)の工程を含む方法によることができる。
1)HCV感染細胞に、本発明のHCV粒子形成促進剤及び抗HCV剤候補物質を加える工程;
2)C型肝炎ウイルス感染細胞を培養する培養工程;
3)培養されたC型肝炎ウイルス粒子の量を測定し、C型肝炎ウイルス粒子の形成を阻害する強さを評価する評価工程。
ここで使用可能な細胞は、上述したHCV許容性細胞が挙げられる。
【実施例】
【0033】
本発明の理解を深めるために、本発明の内容を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではないことは明らかである。
【0034】
(実施例1)HCV粒子形成促進剤
本実施例では、本発明のHCV粒子形成促進剤として、Aspergillus terreus培養抽出物(B13)を原料とする溶液を使用した。本実施例のHCV粒子形成促進剤は、図1に示す方法で作製した。以下の実施例では、図1に示す粗製ロバスタチン溶液「B15」又は精製ロバスタチン溶液「B15.4.1」をHCV粒子形成促進剤として使用した。B15.4.1の組成を核磁気共鳴(NMR)法及び液体クロマトグラフィー・マススペクトロメトリー(LC/MS)により調べた結果、ロバスタチンがほぼ純品で得られたことが確認された。ロバスタチン量は、乾燥させた精製標品(B15.4.1)を精密化学天秤にて秤量し、計測した。
【0035】
(実施例2)培養細胞を処理したときのHCV感染価について
本実施例では、HCV粒子形成促進剤をHuh7-it細胞に添加したときのHCV感染価に及ぼす影響を確認した。
【0036】
1)HCV粒子形成促進剤
実施例では、実施例1の精製ロバスタチン溶液「B15.4.1」(図1)を「HCV粒子形成促進剤」として使用した。以下ではHCV粒子形成促進剤に培養液を加えて、ウイルス接種時及び培養時のロバスタチン濃度が1.25〜20μg/mlとなるように調整し、使用した。
【0037】
2)培養細胞
本実施例では、培養細胞として、Huh7細胞由来のHCV高感受性株Huh7-it細胞を用いた。培地は、10%牛胎児血清・非必須アミノ酸・ペニシリン・ストレプトマイシン添加Dulbecco's modified Eagle's培地を使用し、48ウェル培養プレートを用いて培養した。
【0038】
3)HCVストック液
本発明のHCV粒子形成促進のために使用するHCVストック液は、以下の方法で調製した。HCV株はJFH1株(ゲノム配列:GenBank accession number AB047639)を使用した。HCV JFH1株フルゲノムと同一配列のRNAを、Huh7-it細胞にエレクトロポレーション法(van den Hoff MJ et al., Nucleic Acids Res., 20:2902, 1992)にて導入(トランスフェクション)し、導入72時間後の培養上清を回収した。回収した培養上清は、0.45μmのフィルター(Millipore社)に通して夾雑物を除いた後、別のHuh7-it細胞に添加し、72時間後のHCV感染細胞数をフォーカス法により計測することにより感染力価を算出し、5.4×104 感染単位/mlに調整したものをHCVストック液とした。HCVストック液調製のための感染力価は、免疫染色法により行った。1次抗体として抗HCV-Core(クローンCP14)モノクローナル抗体を用い、標識抗体としてHRP標識ヤギ抗マウス抗体を用いた。コニカイムノステインHRP-1000(コニカミノルタ社)を加え、青色に染色したウイルス抗原陽性細胞集団(免疫フォーカス;フォーカスとも呼ぶ)の数を顕微鏡下で測定し、感染力価を算出した。
【0039】
4)HCV感染方法
上記3)で調製したHCVストック液(5.4×104 感染単位/ml)とHCV粒子形成促進剤を混合したものを培養細胞に接種して37℃で2時間吸着させた後、ウイルス液を除き、培養液で3回洗浄後、同様にHCV粒子形成促進剤を加えて48時間培養した(ロバスタチン濃度:1.25〜20μg/ml)。ウイルスは、多重感染価(multiplicity of infection; moi)が0.1となるように培養細胞に接種した。
【0040】
5)ウイルス感染価測定方法
ウイルス産生能を確認するために、上記感染細胞培養液を10,000 rpmで3分間遠心し、その遠心上清を試料液とした。上記試料液をHCV非感染Huh7-it細胞に接種し、24時間後に細胞を固定して、一次抗体としてHCVタンパク質に強く反応することが予め確認された患者血清、及び二次抗体としてAlexa488標識ヤギ抗ヒトIgG抗体(Molecular Probe社)を用いて免疫染色し、染色陽性細胞の数を計測し、HCV感染価を測定した。
【0041】
6)ウイルス感染価測定結果
上記の結果、5〜20μg/mlのロバスタチンが含まれるように調整された精製ロバスタチン溶液「B15.4.1」存在下で培養した場合に、ロバスタチン濃度依存的に各試料液について高いHCV感染価が認められた(図2)。
【0042】
(実施例3)培養細胞へのHCV粒子形成促進剤の添加時期の検討(1)
本実施例では、HCV粒子形成促進剤をHCV吸着中2時間及び/又は感染後48時間にHuh7-it細胞に添加したときのHCV感染価に及ぼす影響を確認した。
【0043】
1)HCV粒子形成促進剤
本実施例では、実施例1の粗製ロバスタチン溶液「B15」(図1)を「HCV粒子形成促進剤」として使用した。以下では、HCV粒子形成促進剤に培養液を加えて、ウイルス接種時及び培養時のロバスタチン濃度が1〜50μg/mlとなるように調整し、使用した。
2)培養細胞
本実施例では、実施例2と同手法でHuh7-it細胞を培養し、使用した。
3)HCV粒子形成促進剤の添加時期
本実施例ではHCVを実施例2と同様にmoi=0.1となるように培養細胞に接種し、HCV粒子形成促進剤は以下のi)〜iii)の時期に添加した。
i)吸着中+吸着後
培養細胞に、HCVとHCV粒子形成促進剤を混合したものを接種して37℃で2時間吸着させた後、ウイルス液を除き、培養液で3回洗浄後、ロバスタチンを含むHCV粒子形成促進剤を加えて46時間培養した。
ii)吸着後のみ
培養細胞にHCVを接種して37℃で2時間吸着させた後、ウイルス液を除き、培養液で3回洗浄後、HCV粒子形成促進剤添加培養液を加えて46時間培養した。
iii))吸着中のみ
培養細胞にHCVとHCV粒子形成促進剤を混合したものを接種して37℃で2時間吸着させた後、ウイルス液を除き、培養液で3回洗浄後、HCV粒子形成促進剤を含まない培養液を加えて46時間培養した。
4)ウイルス感染価測定方法
ウイルス産生能を確認するための試料は実施例2と同手法にて調製し、実施例2と同手法でウイルス感染価を測定した。
5)ウイルス感染価測定結果
上記の結果、HCV吸着中にHCV粒子形成促進剤が存在するか否かに関わらず、HCV吸着以降にHCV粒子形成促進剤を添加して培養した場合に、5〜20μg/mlのロバスタチン存在下で濃度依存的に各試料液について高いウイルス感染価が認められた(図3)。
【0044】
(実施例4)培養細胞へのHCV粒子形成促進剤の添加時期の検討(2)
本実施例では、HCV粒子形成促進剤としてロバスタチンを、HCV吸着中2時間又は感染後48時間にHuh7-it細胞に添加したときのHCV感染価に及ぼす影響を確認した。
【0045】
1)HCV粒子形成促進剤
本実施例では、実施例1の精製ロバスタチン溶液「B15.4.1」(図1)を「HCV粒子形成促進剤」として使用した。以下では、HCV粒子形成促進剤に培養液を加えて、ウイルス接種時及び培養時のロバスタチン濃度が20μg/mlとなるように調整し、使用した。
2)培養細胞
本実施例では、実施例2と同手法でHuh7-it細胞を培養し、使用した。
3)HCV粒子形成促進剤の添加時期
本実施例ではHCVを実施例2と同様にmoi=0.1となるように培養細胞に接種し、HCV粒子形成促進剤は以下のi)〜iii)の時期に添加した。
i)吸着中+吸着後
培養細胞にHCVとHCV粒子形成促進剤を混合したものを接種して37℃で2時間吸着させた後、ウイルス液を除き、培養液で3回洗浄後、HCV粒子形成促進剤を添加した培養液を加えて46時間培養した。
ii)吸着中のみ
培養細胞にHCVとHCV粒子形成促進剤を混合したものを接種して37℃で2時間吸着させた後、ウイルス液を除き、培養液で3回洗浄後、HCV粒子形成促進剤を含まない培地を加えて46時間培養した。
iii)吸着後のみ
培養細胞にHCVを接種して37℃で2時間吸着させた後、ウイルス液を除き、培養液で3回洗浄後、HCV粒子形成促進剤を添加した培養液を加えて46時間培養した。
4)ウイルス感染価測定方法
ウイルス産生能を確認するための試料は実施例2と同手法にて調製し、実施例2と同手法でウイルス感染価を測定した。
5)ウイルス感染価測定結果
上記の結果、HCV吸着中にHCV粒子形成促進剤が存在するか否かに関わらず、HCV吸着以降にHCV粒子形成促進剤を添加して培養した場合に、高いウイルス感染価が認められた(図4)。
【0046】
(実施例5)培養細胞内外でのHCV粒子形成確認
本実施例では、培養細胞は実施例2と同手法により準備し、HCV吸着中から感染後48時間にわたってHCV粒子形成促進剤を、Huh7-it細胞に添加したときの、細胞内外でのHCV感染価に及ぼす影響を確認した。本実施例では、HCV粒子形成促進剤として、実施例1の精製ロバスタチン溶液「B15.4.1」(図1)を使用した。以下では、HCV粒子形成促進剤に培養液を加えて、ウイルス接種時及び培養時のロバスタチン濃度が20μg/mlとなるように調整し、使用した。HCV粒子形成促進剤のかわりにジメチルスルホキシド (DMSO)を含む系をコントロールとした。
【0047】
細胞外のHCV感染価を測定するための試料は、実施例2と同手法によった。細胞内のHCV感染価を測定するための試料は、凍結融解法で調製した。まず、感染細胞をPBSで洗浄後、トリプシン/EDTA処理により浮遊させ、遠心して細胞ペレットを回収した。それをPBSで1回洗浄し、0.5 mlの培養液に懸濁して-80℃で3回凍結融解を繰り返した後、12,000rpmで5分間遠心して得られた上清を測定用試料とした。各試料についてのウイルス力価測定は、実施例2と同手法により行った。
【0048】
上記の結果、細胞内ではHCV粒子産生はコントロールとほとんど差を認めなかったが、細胞外ではHCV粒子形成促進剤で処理した系のほうが20倍〜30倍と有意に高いHCV粒子産生能が確認された(図5)。
【0049】
(実施例6)培養細胞内でのHCV RNAコピー数の確認
本実施例では、培養細胞は実施例2と同手法により準備し、HCV吸着中から感染後48時間にわたってHCV粒子形成促進剤を、Huh7-it細胞に添加したときの、HCV感染後1、2、3、4日目での、培養細胞内でのHCV RNAコピー数に及ぼす影響を確認した。本実施例では、HCV粒子形成促進剤として、実施例1の精製ロバスタチン溶液「B15.4.1」(図1)を使用した。以下では、HCV粒子形成促進剤に培養液を加えて、ウイルス接種時及び培養時のロバスタチン濃度が20μg/mlとなるように調整し、使用した。HCV粒子形成促進剤のかわりにDMSOを含む系をコントロールとした。
【0050】
細胞内のHCV RNAコピーを計測するための試料は、実施例5と同手法で調製した。感染細胞からTrizol(R)/Trizol(R)-LS(Invitrogen社)を用いて全RNAを抽出した。全RNAから、ReverTra Ace(R) qPCR-Kit (Toyobo)を用いて、37℃15分間逆転写反応、98℃5分間で酵素失活反応を行い、cDNAを合成した。HCV RNAコピー数の測定は、LightCycler(R) 480 リアルタイムPCRシステムを用いた定量RT-PCR法により行った。HCV特異的プライマーとして配列番号1及び2に示す塩基配列からなる、NS3部位へのプライマーを用い、PCR反応溶液は10μl 2×SYBR(R) Premix ExTaq(Takara)、0.4μl 各プライマー(10 pmol/μl)、2μl cDNAテンプレート、7.2μl 滅菌蒸留水を用いた。PCR条件は95℃、10秒の熱変性後、95℃10秒、60℃20秒のサイクルを40回繰り返した。
(配列番号1)5'-CTTTGACTCCGTGATCGACT-3'
(配列番号2)5'-CCCTGTCTTCCTCTACCTG-3 '
【0051】
上記の実験結果より、細胞内HCV RNA複製量はHCV粒子形成促進剤の有無によって影響を受けないことがわかった(図6)。また、免疫染色により、細胞内HCVタンパク質(抗原)合成量もロバスタチンの有無によって影響を受けないことがわかった(図7)。これらの実験結果より、ロバスタチンのHCV産生亢進作用は、HCV RNA複製やHCVタンパク質合成までの段階ではなく、それ以降のHCV粒子形成あるいは放出の段階で作用しているものと推測された。
【0052】
(実施例7)各種スタチンのHCV粒子産生促進効果
本実施例では、市販されている各種スタチンについて、HCV粒子産生促進効果を観察した。
【0053】
1)HCV粒子形成促進剤
本実施例では、HCV粒子形成促進剤として市販のスタチン製剤を使用した。ロバスタチン(メビノリン:シグマアルドリッチ社製;CAS番号75330-75-5)、フルバスタチンナトリウム(和光純薬工業株式会社製;CAS番号93957-55-2)、シンバスタチン(シグマアルドリッチ社製;CAS番号79902-63-9)、アトルバスタチンカルシウム三水和物(和光純薬工業株式会社製;CAS番号134523-03-8)及びプラバスタチンナトリウム塩水和物(和光純薬工業株式会社製;CAS番号81131-70-6)を用いた。各スタチンは、培養時の濃度が表1に示す濃度になるように培養液で希釈して調整した。コントロールとしてHCV粒子形成促進剤のかわりにDMSO(1μg/ml)を用いた。
2)培養細胞
本実施例では、実施例2と同手法でHuh7-it細胞を培養し、使用した。
3)HCV粒子形成促進剤の添加時期
本実施例ではHCVをmoi=0.1となるように培養細胞に接種して37℃で2時間吸着後、ウイルス液を除き、培養液で3回洗浄後、HCV粒子形成促進剤を添加した培養液を加えて46時間培養した。
4)ウイルス感染価測定方法
ウイルス産生能を確認するための試料は実施例2と同手法にて調製し、実施例2と同手法でウイルス感染価を測定した。
5)ウイルス感染価測定結果
上記の結果を表1に示した。その結果、各スタチンについてHCV粒子形成促進剤効果が認められた。
【0054】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0055】
以上詳述したように、本発明のHCV粒子形成促進剤を添加してHCV感染細胞を培養することにより、細胞培養液にHCV粒子の産生効率を10倍以上向上させることが期待できる。これにより効果的にHCVワクチンを効率よく生産することができる。さらに、HCV感染細胞を本発明のHCV粒子形成促進剤及び抗HCV剤候補物質と共に培養し、細胞培養液中のウイルス力価及び/又はHCV RNAコピー数の計測を行うことで、抗HCV剤の評価を行うことができる。また、更に、本発明により得られたHCV粒子を用いてHCVワクチンを効率よく生産することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]