特許第6283316号(P6283316)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6283316
(24)【登録日】2018年2月2日
(45)【発行日】2018年2月21日
(54)【発明の名称】アナグリプチン含有固形製剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/519 20060101AFI20180208BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20180208BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20180208BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20180208BHJP
   A61K 47/38 20060101ALI20180208BHJP
   A61K 47/32 20060101ALI20180208BHJP
   A61K 9/20 20060101ALI20180208BHJP
【FI】
   A61K31/519
   A61P43/00 111
   A61P3/10
   A61K47/36
   A61K47/38
   A61K47/32
   A61K9/20
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-543396(P2014-543396)
(86)(22)【出願日】2013年10月28日
(86)【国際出願番号】JP2013079082
(87)【国際公開番号】WO2014065427
(87)【国際公開日】20140501
【審査請求日】2016年10月20日
(31)【優先権主張番号】特願2012-236217(P2012-236217)
(32)【優先日】2012年10月26日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2012-274297(P2012-274297)
(32)【優先日】2012年12月17日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000144577
【氏名又は名称】株式会社三和化学研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000163006
【氏名又は名称】興和株式会社
(72)【発明者】
【氏名】金子 靖
【審査官】 横山 敏志
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2004/067509(WO,A1)
【文献】 国際公開第2009/139362(WO,A1)
【文献】 国際公開第2010/110436(WO,A1)
【文献】 特表2008−543773(JP,A)
【文献】 特表2008−510764(JP,A)
【文献】 特表2007−518760(JP,A)
【文献】 特表2008−501025(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/147768(WO,A1)
【文献】 特表2009−535376(JP,A)
【文献】 Kato, N. et al.,Bioorganic & Medicinal Chemistry,2011年,Vol. 19, No. 23, p. 7221-7227
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00−33/44
A61K 9/00−9/72
A61K 47/00−47/69
A61P 1/00−43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アナグリプチン又はその塩、及びクロスポビドンを含有し、かつ、水分含量が3.4質量%以下である固形製剤。
【請求項2】
水分含量が2.8質量%以下である、請求項1記載の固形製剤。
【請求項3】
水分含量が2.5質量%以下である、請求項1記載の固形製剤。
【請求項4】
固形製剤が錠剤である、請求項1〜のいずれか1項記載の固形製剤。
【請求項5】
請求項1〜のいずれか1項記載の固形製剤が、気密包装体に収容されてなる医薬品。
【請求項6】
気密包装体が、ビン包装、SP包装、PTP包装、ピロー包装及びスティック包装よりなる群から選ばれる1種以上である、請求項記載の医薬品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジペプチジルペプチダーゼIV阻害作用を有するアナグリプチン又はその塩を含有する固形製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ジペプチジルペプチターゼIV(以下、DPP−IVと略することもある。)阻害作用を有する化合物(DPP−IV阻害剤)は、DPP−IVが関与する疾患、例えば、2型糖尿病等の治療剤の有効成分として有用である。このようなDPP−IV阻害剤として例えば、特許文献1にはアナグリプチン(化学名:N-[2-({2-[(2S)-2-シアノピロリジン-1-イル]-2-オキソエチル}アミノ)-2-メチルプロピル]-2-メチルピラゾロ[1,5-a]ピリミジン-6-カルボキサミド)が優れたDPP−IV阻害作用を有する旨、記載されている。
【0003】
一般的に、医薬品の有効成分として有用な化合物をそのまま投与することは、服用性の観点、投与量の正確性の確保の観点等から困難であり、通常何らかの剤形に製剤化されて投与される。しかしながら、アナグリプチンについては、これまで医薬品として上市可能な剤形・製剤化技術は何ら具体的に知られていない。
【0004】
ところで、DPP−IV阻害剤としては、アナグリプチン以外に例えば、シタグリプチンリン酸塩水和物(商品名:ジャヌビア、グラクティブ)、ビルダグリプチン(商品名:エクア)、アログリプチン安息香酸塩(商品名:ネシーナ)、リナグリプチン(商品名:トラゼンタ)、テネリグリプチン臭化水素酸塩水和物(商品名:テネリア)が、本邦を初めとして世界的に上市されている。
【0005】
しかしながら、同効のDPP−IV阻害剤といえども、化合物が異なれば、その製剤化技術は全く異なる。特に、DPP−IV阻害剤の化学構造は相互に大きく相違するためその物理的・化学的特性も互いに大きく相違することが予想される。従って、上記のような他のDPP−IV阻害剤に関する情報は参考にならず、アナグリプチンの製剤化においては様々な検討が要求される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第WO2004/067509号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者は、アナグリプチンを含有する製剤の剤形として、服用し易く投与量の管理が容易である等のメリットを有する固形製剤が最適であると考え、アナグリプチンの固形製剤としての製剤化を試みた。しかるところ、アナグリプチンは固形製剤中において不安定であり、経時的にアナグリプチン由来の分解物が生成することが明らかとなった。
そこで、本発明は、安定性に優れる、アナグリプチン又はその塩を含有する固形製剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討したところ、アナグリプチンはそのもの単独では水分に対する安定性が高いにもかかわらず固形製剤中での不安定化の原因が固形製剤中の水分にあり、アナグリプチン含有固形製剤の水分含量を一定値以下とすれば、長期間保存後においても固形製剤中の分解物の生成を抑制できることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明の主な構成は次の通りである。
(1)アナグリプチン又はその塩を含有し、かつ、水分含量が3.4質量%以下である固形製剤。
(2)水分含量が2.8質量%以下である、(1)記載の固形製剤。
(3)水分含量が2.5質量%以下である、(1)記載の固形製剤。
(4)吸湿性の崩壊剤を含有する、(1)〜(3)のいずれか1項記載の固形製剤。
(5)吸湿性の崩壊剤が、アルファー化デンプン、カルボキシメチルスターチナトリウム、カルメロース、カルメロースカリウム、カルメロースカルシウム、カルメロースナトリウム、クロスカルメロースナトリウム、クロスポビドン、結晶セルロース、及び部分アルファー化デンプンからなる群より選ばれる1種以上である、(4)記載の固形製剤。
(6)少なくともアナグリプチン又はその塩を湿式造粒する工程を経て製造される、(1)〜(5)のいずれか1項記載の固形製剤。
(7)固形製剤が錠剤である、(1)〜(6)のいずれか1項記載の固形製剤。
(8)(1)〜(7)のいずれか1項記載の固形製剤が、気密包装体に収容されてなる医薬品。
(9)気密包装体が、ビン包装、SP包装、PTP包装、ピロー包装、及びスティック包装よりなる群から選ばれる1種以上である、(8)記載の医薬品。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、アナグリプチン又はその塩の安定性に優れる固形製剤を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
アナグリプチンは、特許文献1の実施例2に記載された化合物であり、化学名がN-[2-({2-[(2S)-2-シアノピロリジン-1-イル]-2-オキソエチル}アミノ)-2-メチルプロピル]-2-メチルピラゾロ[1,5-a]ピリミジン-6-カルボキサミドである公知の化合物であり、同文献記載の製造方法を参考にして製造することができる。
【0012】
本発明において、「アナグリプチン又はその塩」には、アナグリプチンそのもののほか、アナグリプチンの薬学上許容される塩、さらにはアナグリプチンやその薬学上許容される塩と、水やアルコール等との溶媒和物も含まれる。薬学上許容される塩としては、例えば無機酸との塩、有機酸との塩、塩基性又は酸性アミノ酸との塩等が挙げられる。無機酸との塩の好適な例としては、塩酸、臭化水素酸、硝酸、硫酸、リン酸等との塩が挙げられる。また、有機酸との塩の好適な例としては、酢酸、トリフルオロ酢酸、フマル酸、シュウ酸、酒石酸、マレイン酸、クエン酸、コハク酸、リンゴ酸、メタンスルホン酸、安息香酸、トルエンスルホン酸等との塩が挙げられる。塩基性アミノ酸との塩の好適な例としては、アルギニン等との塩が挙げられる。酸性アミノ酸との塩の好適な例としては、アスパラギン酸、グルタミン酸等との塩が挙げられる。本発明において、アナグリプチン又はその塩としては、アナグリプチンのフリー体が好ましい。
【0013】
本発明の固形製剤におけるアナグリプチン又はその塩の含有量は特に限定されず、服用者の性別、年齢、症状等に応じて適宜検討して決定すればよい。例えば、1日あたり、アナグリプチン又はその塩を、アナグリプチンのフリー体換算で0.1〜1000mg、好適には1〜500mg、特に好適には100〜400mg服用できる量を含有せしめることができる。本発明においては、アナグリプチン又はその塩を固形製剤全質量に対して、アナグリプチンのフリー体換算で1〜90質量%含有するのが好ましく、3〜80質量%含有するのがより好ましく、5〜70質量%含有するのがさらに好ましい。
【0014】
本発明の固形製剤は、アナグリプチン由来の分解物の生成を抑制するため、水分含量(固形製剤中の自由水の量)が固形製剤全質量に対して3.4質量%以下である必要があり、好ましくは2.8質量%以下、より好ましくは2.5質量%以下、特に好ましくは2.0質量%以下である。水分含量2.8質量%以下、より好適には2.5質量%以下、特に好適には2.0質量%以下の領域においては、アナグリプチン由来の分解物はほとんど発生しない。しかし、3.4質量%を超えると、アナグリプチン由来の分解物の生成が増え、特に3.9%を超えると分解物は急速に増加するため、前記3.4質量%という境界は重要な意味を持つ。
【0015】
本発明の固形製剤の水分含量は、乾燥減量試験法により測定する。具体的には、第十六改正日本薬局方の乾燥減量試験法に準拠して検体の乾燥減量(検体中の水分の質量)を測定し、得られた水分の質量を乾燥前の検体質量に対する百分率(%)として算出する。なお、固形製剤が低融点の成分を含有する場合や、結合水を持つ成分を含有する場合においては、当該試験の際の乾燥温度条件は、それらの成分に起因する水分含量値の見かけの増加を防ぐため、適宜検討して設定すればよい。
【0016】
本発明は、固形製剤の水分含量を調整することによって、分解物の生成を抑制することを一つの特徴とする。ここで、固形製剤の水分含量を調整する手段としては、加湿手段と乾燥手段とが挙げられ、これらの手段を適宜組み合わせることにより本発明に係る水分含量に調整すればよい。
【0017】
加湿手段としては、例えば、湿式造粒操作において練合液として含水溶媒を用いる手段等が挙げられる。
乾燥手段としては、例えば、乾燥装置を用いる手段や乾燥剤を用いる手段が挙げられる。ここで、乾燥装置としては、医薬品や食品の分野で通常使用されているものを用いることができ、具体的には例えば、箱型乾燥機、流動層乾燥機、噴霧乾燥機、凍結乾燥機、真空乾燥機、高周波乾燥機等が挙げられる。また、乾燥剤としては、医薬品や食品の分野で通常使用されているものを用いることができ、具体的には例えば、シリカゲル、シリカアルミナゲル(例えば、アロフェン)、天然ゼオライト、合成ゼオライト(例えば、モレキュラーシーブ)、生石灰(酸化カルシウム)、ベントナイトクレイ(例えば、モンモリロナイト)、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、酸化マグネシウム等が挙げられ、これらと活性炭を混合したものであってもよい。本発明においては、固形製剤の水分含量の調整の容易さから、乾燥装置を用いる方法が好ましい。
なお、これらの加湿手段や乾燥手段による水分含量を調整は、固形製剤の製造途中(例えば、造粒操作の前後など)に行ってもよいし、固形製剤の製造後に行ってもよいが、特に乾燥手段による水分含量の調整は、固形製剤の水分含量を正確に調整するため、少なくとも固形製剤の製造後に行うのが好ましい。
【0018】
本発明の固形製剤は、アナグリプチン又はその塩に加えて、吸湿性の崩壊剤を含有するのが好ましい。
アナグリプチン又はその塩の水に対する溶解性は極めて高いところ、一般的に、溶解性の高い成分を含有する固形製剤においては、特に高含量とした際に製剤表面に継粉が形成され、溶出が遅くなることが知られている。継粉の形成に伴う溶出の遅延は、有効成分の放出を不安定・不確実なものとしてしまう。そのため、アナグリプチンを含有し、かつ有効成分の放出が安定した固形製剤を得るには、製剤の崩壊を促進させる崩壊剤を配合することが望ましい。しかしながら、崩壊剤の殆どは吸湿性を有し、その配合により固形製剤中の水分が増加し、アナグリプチンを不安定化してしまう。そのため、アナグリプチン又はその塩と吸湿性の崩壊剤との固形製剤中での共存は困難であった。
しかるに、本発明によれば、斯かる吸湿性の崩壊剤を配合しつつもアナグリプチン又はその塩由来の分解物の生成を抑制できるため、アナグリプチン又はその塩の安定性に優れ、かつ、その放出が安定した固形製剤を得ることができるという顕著な効果を有する。
【0019】
本発明において好適に配合され得る吸湿性の崩壊剤としては、吸湿性を有し固形製剤において崩壊剤として用いられ得る成分であれば、具体的な成分やその配合目的は特に限定されない。吸湿性の崩壊剤としては、具体的には例えば、アルファー化デンプン、カルボキシメチルスターチナトリウム、カルメロース、カルメロースカリウム、カルメロースカルシウム、カルメロースナトリウム、クロスカルメロースナトリウム、クロスポビドン、結晶セルロース、部分アルファー化デンプン等が挙げられる。なお、本発明においては、これらを単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。これらの中でも、本発明においては、固形製剤の崩壊性の観点から、クロスポビドン、結晶セルロースが好ましく、クロスポビドンが特に好ましい。
【0020】
本発明の固形製剤において好適に配合され得る吸湿性の崩壊剤の含有量は特に限定されず、適宜検討して決定すればよい。本発明においては、固形製剤の崩壊性の観点から、吸湿性の崩壊剤を、固形製剤全質量に対して合計で0.5〜30質量%含有するのが好ましく、1〜25質量%含有するのがより好ましく、3〜20質量%含有するのが特に好ましい。
また、本発明の固形製剤において好適に配合され得る吸湿性の崩壊剤の、アナグリプチン又はその塩との含有比は特に限定されず、適宜検討して決定すればよい。本発明においては、固形製剤の崩壊性の観点から、アナグリプチン又はその塩1質量部(アナグリプチンのフリー体換算)に対し、吸湿性の崩壊剤を合計で0.005〜0.3質量部含有するのが好ましく、0.01〜0.25質量部含有するのがより好ましく、0.01〜0.1質量部含有するのがさらに好ましく、0.02〜0.2質量部含有するのがさらに好ましく、0.03〜0.2質量部含有するのが特に好ましい。
【0021】
本発明の固形製剤はまた、アナグリプチン又はその塩を、場合によっては結合剤やその他各種添加剤を加え、湿式造粒して造粒化する工程を経て製造することが好ましい。この場合において固形製剤が錠剤である場合は、各種添加剤は造粒化後に加えるのが好ましく、混合された造粒・粉体混合物は、圧縮成型して錠剤化することが好ましい。
【0022】
このように、本発明の固形製剤は、好ましくは、吸湿性の崩壊剤を含有する、及び、湿式造粒して顆粒化する工程を経て製造する、といった固形製剤中の水分含量を高める要因が多いので、前述の3.4質量%以下の水分含量に調整することは、極めて重要になる。一方で、本発明の固形製剤は、製剤中の水分含量を高める要因が多いにもかかわらず、水分含量を低く調整するという、相反する要素を両立させた製剤である。
【0023】
本発明において固形製剤は、その具体的形態(剤形)に応じて、当該技術分野で通常用いられる添加剤を含有していてもよい。当該添加剤としては、例えば、賦形剤、結合剤、流動化剤、矯味剤、着色剤等が挙げられ、これらは1種又は2種以上を適宜組み合わせて使用することが可能である。
賦形剤は特に限定されないが、具体的には例えば、乳糖水和物、白糖、ブドウ糖等の糖類;マンニトール;無水リン酸水素カルシウム等が挙げられる。
結合剤は特に限定されないが、具体的には例えば、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒプロメロース、プルラン等が挙げられる。
流動化剤は特に限定されないが、具体的には例えば、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、酸化チタン、フマル酸ステアリルナトリウム等が挙げられる。
矯味剤は特に限定されないが、具体的には例えば、アスパルテーム、サッカリン、サッカリンナトリウム水和物、dl−メントール、l−メントール等が挙げられる。
着色剤は特に限定されないが、具体的には例えば、黄色三二酸化鉄、褐色酸化鉄、三二酸化鉄等が挙げられる。
なお、各添加物の使用量は適宜決定することができる。
【0024】
本発明において、固形製剤は、第十六改正日本薬局方 製剤総則等に記載の公知の方法に従って、種々の剤形に製剤化することができる。剤形は固形製剤であれば特に限定されず、第十六改正日本薬局方 製剤総則等に記載の剤形、具体的には例えば錠剤(口腔内崩壊型錠剤、チュアブル錠、発泡錠、分散錠、溶解錠等を含む。)、カプセル剤、丸剤、顆粒剤、細粒剤、散剤等の経口投与用固形製剤や口腔用錠剤(トローチ剤、舌下錠、バッカル錠、付着錠、ガム剤等を含む。)等の非経口投与用固形製剤が挙げられるが、経口投与用固形製剤が好ましい。なお、これらの固形製剤は必要に応じてフィルム、糖衣等でコーティングされていてもよい。
本発明において固形製剤の剤形としては、錠剤、カプセル剤、丸剤、顆粒剤、細粒剤、散剤が好ましく、錠剤、顆粒剤、細粒剤、散剤がより好ましく、錠剤が特に好ましい。
【0025】
本発明の固形製剤は、上記の剤形に応じ、例えば第十六改正日本薬局方 製剤総則等に記載の公知の方法により製造することができる。例えば、固形製剤が錠剤である場合、アナグリプチン又はその塩、必要に応じて吸湿性の崩壊剤に加えて、適当な製剤添加物を混合し、次いで、圧縮成型すればよい。圧縮成型の方法としては、乾式顆粒圧縮法、半乾式顆粒圧縮法、湿式顆粒圧縮法等のように造粒後に圧縮成形して製造する方法や、直接粉末圧縮法等が挙げられる。造粒方法としては、押出し造粒、撹拌造粒、転動造粒、噴霧乾燥造粒、破砕造粒、流動層造粒、溶融造粒等が挙げられる。
【0026】
本発明の固形製剤は、DPP−IV阻害作用を有するアナグリプチン又はその塩を含有することから、2型糖尿病に対する医薬等として有用である。この場合において、本発明の固形製剤は、上記した1日投与量となるよう1回又は2回以上の複数回に分けて服用することができる。
【0027】
また、本発明は、上記の固形製剤が気密包装体に収容されてなる医薬品を提供するものである。固形製剤を気密包装体に収容することにより、包装体外からの水分の侵入が妨げられる結果、高湿度の環境下においても包装体内部に存在する固形製剤の水分含量が長期間に渡って安定的に保たれ、結果として固形製剤中のアナグリプチン由来の分解物の生成が長期間に渡って抑制される。
本発明の「医薬品」は、気密包装体の内部において固形製剤が3.4質量%以下、好適には2.8質量%以下、より好適には2.5質量%以下、特に好適には2.0質量%以下の水分含量であればよい。すなわち、気密包装体から固形製剤を取り出した直後において、その水分含量が上記した範囲内であればよく、例えば、気密包装体に収容する前において固形製剤の水分含量が上記した範囲から外れるものであっても、乾燥剤を同封する等の手段により気密包装体の内部において固形製剤の水分含量が上記した範囲内となっていれば、本発明の「医薬品」に包含される。
【0028】
本発明において「気密包装体」とは、通常の取扱い、運搬又は保存等の状態において、包装体外からの水分の実質的な侵入を抑制し得る包装を意味し、第十六改正日本薬局方 通則に定義される「気密容器」及び「密封容器」を包含する概念である。当該包装体としては、定形、不定形のいずれのものも用いることができ、具体的には例えば、ビン包装、SP(Strip Package)包装、PTP(Press Through Package)包装、ピロー包装、スティック包装等が挙げられる。本発明においては、さらにこれらを複数組み合わせたものであってもよく、具体的には例えば、固形製剤をまずPTP包装にて包装し、これをさらにピロー包装にて包装する形態が挙げられる。
【0029】
気密包装体の包装材料(素材)としては、包装内容たる固形製剤の水分含量の変化を抑制し得るものであれば特に限定されず、医薬品や食品の分野で、水分に弱い内容物の防湿等を目的として用いられる材料を適宜用いることができる。
ビン包装に用いられるビン本体の材料としては例えば、ポリエステル、ポリエチレン(低密度(LDPE)、高密度(HDPE)を含む)、ポリカーボネート、ポリスチレン、及びポリプロピレン等のプラスチック;ガラス;アルミニウム等の金属等が挙げられる。また、栓や蓋の材料としては例えば、前述のようなプラスチック及び金属等が挙げられる。ビン包装するに際しては、例えば、本発明の固形製剤を、市販のビン内に適当な数量格納し、次いで、適当な栓や蓋で封をすればよい。なお、ビンは、格納する固形製剤の数量に応じた大きさのものを適宜選択すればよく、ビンの容量としては、例えば、10〜500mL程度であり、14〜400mLが好ましく、24〜350mLがより好ましい。ビン包装の材料としては、プラスチックの中でも、ポリエチレン、ポリプロピレンが好ましく、低密度ポリエチレン(LDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)がより好ましく、高密度ポリエチレン(HDPE)が特に好ましい。
【0030】
また、SP包装、PTP包装、ピロー包装やスティック包装等に用いられる包装材料としては例えば、二軸延伸ポリプロピレン(OPP)、二軸延伸ポリエステル(PET)、グルコース変性PET(PET−G)、二軸延伸ナイロン(ONy、PA)、セロハン、紙、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(L−LDPE)、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、無延伸ポリプロピレン(CPP、IPP)、アイオノマー樹脂(IO)、エチレン−メタクリル酸共重合体(EMAA)、ポリアクリロニトリル(PAN)、二軸延伸ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、エチレン−ビニルアルコール共重合樹脂(EVOH)、ポリ塩化ビニル(PVC)、環状ポリオレフィン(COC)、無延伸ナイロン(CNy)、ポリカーボネート(PC)、ポリスチレン(PS)、硬質塩化ビニル(VSC)等の樹脂や、アルミニウム箔(AL)のような金属箔等が挙げられ、これらの2種以上を適宜組み合わせた多層構造としてもよい。斯かる多層構造としては例えば、PVCとPVDCを積層したもの(PVC/PVDC。以下、同様に省略して表記する。)、PVC/PVDC/PE/PVC、PVC/PVDC/PE/PVDC/PVC、CPP/COC/CPP、PVC/AL、CPP/AL、CPP/CPP/CPP等が挙げられる。斯かる多層構造を形成する方法としては、押出しラミネート、ドライラミネート、共押出しラミネート、サーマルラミネート、ウェットラミネート、ノンソルベントラミネート、ヒートラミネート等の公知のラミネート方法が挙げられる。SP包装、PTP包装、ピロー包装やスティック包装等に用いられる包装材料としては、ポリ塩化ビニル、アルミニウム箔が好ましい。
【0031】
PTP包装の形態としては、公知の方法で樹脂シート等に所望数成形したポケットに、本発明の固形製剤を1個又は1投与単位ずつ格納し、次いでアルミニウム箔等の金属箔を構成材料とするシートをフタ材として用いて蓋をすることが挙げられる。なお、ポケットを形成するシートとしてもアルミニウム箔を構成材料とするシートを用いた、いわゆる両面アルミPTP包装としてもよい。本発明においては、固形製剤の水分含量の変化を抑制する観点から、PTP包装をさらにピロー包装(例えば、アルミピロー包装など)により包装するのが好ましい。
SP包装やピロー包装、スティック包装の形態としては、公知の方法で樹脂シートやアルミニウム箔を構成材料とするシート等を用いて、固形製剤を1個又は1投与単位ずつ包装することが挙げられる。本発明においては、固形製剤の水分含量の変化を抑制する観点から、アルミニウム箔を構成材料とするシートを用いるのが好ましい。
【0032】
なお、本発明の医薬品における、固形製剤の包装体内部での占有率(容積率)は、包装体がビン包装の場合、通常、25〜90%であり、28〜75%が好ましく、30〜50%がより好ましい。また、包装体がSP包装、PTP包装、ピロー包装、スティック包装の場合、通常、30〜98%であり、40〜95%が好ましく、45〜93%がより好ましく、50〜90%が特に好ましい。なお、この場合において、占有率とは、包装体内部の容積に対する固形製剤の占有率を意味するものであり、包装体内部に格納した固形製剤の破損防止のための詰め物や中栓等は、空間占有率を算出するに際して考慮されるものではない。
【0033】
本発明においては、気密包装体として市販の包装体をそのまま用いてもよく、また市販の包装材料を加工して用いてもよい。このような市販品としては例えば、ビン包装の包装体としては、Z−シリーズ(以上、阪神化成工業社製)等が挙げられる。また、SP包装、PTP包装、ピロー包装やスティック包装用の包装材料としては、スミライトVSS、スミライトVSL、スミライトNS、スミライトFCL(以上、住友ベークライト社製)、TASシリーズ(大成化工社製)、PTP用ビニホイル、PTP用スーパーホイル(以上、三菱樹脂社製)、ニッパクアルミ箔(日本製箔社製)、アルミ箔銀無地(大和化学工業社製)等が挙げられる。
【0034】
本発明において、固形製剤を気密包装体に収容する方法は特に限定されるものではなく、包装体内への固形製剤の投入等の適当な手段により、固形製剤を包装体内に配置することで達成できる。この場合において、包装体内に固形製剤とともに乾燥剤(例えば、円柱状のもの、錠剤型のもの、シート状のもの)を投入する手段を用いてもよい。
【実施例】
【0035】
次に、実施例を挙げて本発明を更に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
[試験例1]固形製剤中でのアナグリプチンの安定性の検討
<アナグリプチン含有錠剤の製造>
アナグリプチン200質量部を、ヒドロキシプロピルセルロースの水溶液(ヒドロキシプロピルセルロースとして2質量部)を用いて流動層造粒した。得られた粒状物を乾燥し、乾燥物にクロスポビドン30質量部及び結晶セルロース65質量部を添加し、混合した。次いで、ステアリン酸マグネシウム3質量部を添加し、混合して、打錠用顆粒を得た。得られた打錠用顆粒を1錠当たり300mgとなるように打錠して、素錠を得た。
得られた素錠1錠につき、コーティング基剤(オパドライ:カラコン社)15質量部を水に溶解・分散した液を用いて15mgのフィルムコーティングを施し、アナグリプチン含有錠剤を製造した。
なお、当該アナグリプチン含有錠剤1錠当たり、アナグリプチンを200mg含有する。
【0036】
<アナグリプチンの安定性の検討>
前述の方法により製造したアナグリプチン含有錠剤の水分含量を、乾燥剤と一定時間共存させることにより、表1に示す各種の水分含量に調整した。なお、錠剤中の水分含量(%)は、第十六改正日本薬局方の乾燥減量試験法に準拠して、錠剤を砕いて粉末化した後に約5g計り取って検体とし、105℃に加熱してその質量の減少(検体中の水分質量)を測定し、これを加熱前の検体質量に対する百分率(%)として計測した。その後、水分含量の調整された各種錠剤(それぞれ10錠ずつ)を、褐色ガラスビン(2K規格瓶)に入れて金属製の蓋で封をしてビン包装した。
【0037】
こうして得られた包装体を60℃の温度条件下で1ヶ月間保存し、保存開始直前及び1ヶ月保存後の、錠剤中のアナグリプチン由来の分解物量(%)を評価した。さらに、1ヶ月保存後の分解物量から、保存開始直前の分解物量を差し引いた値を、分解物増加量(%)として算出した。なお、分解物量(%)は、アナグリプチン及びその全ての分解物をHPLCにて測定し、全ピーク面積からアナグリプチンのピーク面積を除いたピーク面積(分解物由来ピーク面積)を、全ピーク面積で除することにより算出した。結果を表1に示す。
【0038】
【表1】
【0039】
<試験結果>
表1記載の試験結果から、錠剤の水分含量が3.4質量%以下である場合は、分解物量の増加が顕著に抑制されることが明らかとなった、特に、錠剤の水分含量が2.8質量%以下である場合は、60℃1ヶ月保存後においても分解物量は実質的に増加しておらず、固形製剤中のアナグリプチンの安定性が極めて良好であることが明らかとなった。一方、錠剤の水分含量が3.4質量%を超えると、アナグリプチン由来の分解物の生成が増え、特に3.9質量%を超えると分解物が急速に増加し、1ヶ月後には1%超もの分解物が生成することが判明した。
【0040】
以上の試験結果から、アナグリプチン又はその塩を含有し、かつ、水分含量が3.4質量%以下、より好適には2.8質量%以下、特に好適には2.5質量%以下である固形製剤においては、分解物の生成が抑制されることが明らかとなった。また、当該固形製剤が気密包装体に収容されてなる医薬品は水分含量が安定的に維持される結果長期に渡って分解物の生成が抑制されることも明らかとなった。
【0041】
[試験例2]
本製剤において使用可能な崩壊剤の検討を行った。すなわち、下記のアナグリプチン含有錠剤、及び崩壊剤のクロスポビドンを別の崩壊剤に置換した錠剤を製造し、溶出特性評価を行った。なお、溶出特性評価は、溶出試験機(富山産業(株)製:溶出試験システム)を用い、水900mL及びパドル回転数50rpmにて、UVフロー法で測定した。
【0042】
<アナグリプチン含有錠剤の製造>
アナグリプチン100質量部をヒドロキシプロピルセルロース1.5質量部の水溶液にて、流動層造粒乾燥機(フロイント産業(株)製:フローコーター FLO-5)を用い流動層造粒し、乾燥後、整粒機(ダルトン(株)製:パワーミル P-04S)にて整粒し、当該顆粒にクロスポビドン15質量部及び結晶セルロース30質量部を添加して混合し、ついでステアリン酸マグネシウム1.5質量部を添加し、更に混合した。得られた顆粒を、φ8mm標準R杵を用い、ロータリー打錠機((株)菊水製作所製:VIRG)にて打錠圧10kN/杵で1錠あたり質量148mgとして打錠した。当該錠剤は、錠剤148mg中、アナグリプチンを100mg(ほぼ68%)含有する。
崩壊剤を置換した錠剤は、クロスポビドン15質量部をそれぞれ表2に示す崩壊剤15質量部に置き換えて、同様に製造した。尚、置き換えた崩壊剤は次の4種類で、クロスカルメロースナトリウム、カルメロースカルシウム、カルメロース、カルボキシメチルスターチナトリウムを使用した。
【0043】
<試験結果>
試験結果を表2に示した。このように、アナグリプチンを含有する錠剤においては、吸湿性の高い崩壊剤を使用することにより、アナグリプチンの溶出性を確保することができた。なかでも、クロスポビドンが最も優れたアナグリプチンの溶出特性を示した。
【0044】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明によれば、DPP−IV阻害活性を有するアナグリプチン又はその塩を含有し、安定性に優れる固形製剤を提供でき、医薬品産業等において利用できる。