特許第6283322号(P6283322)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6283322
(24)【登録日】2018年2月2日
(45)【発行日】2018年2月21日
(54)【発明の名称】緩衝装置
(51)【国際特許分類】
   F16F 15/067 20060101AFI20180208BHJP
   E01D 19/04 20060101ALI20180208BHJP
   F16F 1/06 20060101ALI20180208BHJP
   F16F 1/12 20060101ALI20180208BHJP
【FI】
   F16F15/067
   E01D19/04 101
   F16F1/06 Z
   F16F1/12 K
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-14801(P2015-14801)
(22)【出願日】2015年1月28日
(65)【公開番号】特開2016-138621(P2016-138621A)
(43)【公開日】2016年8月4日
【審査請求日】2016年12月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】593089046
【氏名又は名称】青木あすなろ建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100093230
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 利夫
(72)【発明者】
【氏名】新井 佑一郎
(72)【発明者】
【氏名】土田 尭章
【審査官】 熊谷 健治
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−174913(JP,A)
【文献】 実開昭57−061190(JP,U)
【文献】 実公昭50−000762(JP,Y1)
【文献】 実開昭52−094581(JP,U)
【文献】 実開昭50−058156(JP,U)
【文献】 実開昭62−045440(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 15/00−15/36
F16F 1/00− 6/00
E01D 1/00−24/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コイルばねの中心空間に、前記コイルばねの円周方向に対して特定の間隔を設けて拘束材が内設され、前記コイルばねの片端には前記拘束材が接合され、前記コイルばねの両端には構造物に取付けるための取り付け部材が設けられており、前記コイルばねの両端軸方向外向きに外力が加わり、引張力を受ける前記コイルばねが絞られて内径が小さく変形する際に、内設された前記拘束材により一定以上前記コイルばねの内径が小さく変形しないことを特徴とする緩衝装置。
【請求項2】
前記コイルばねは、断面が矩形の線材がらせん状に巻かれたコイルばねであることを特徴とする請求項1に記載の緩衝装置。
【請求項3】
前記コイルばねは、鋼管材にらせん状のスリットが形成されたコイルばねであることを特徴とする請求項1に記載の緩衝装置。
【請求項4】
前記コイルばねの伸びに伴う捩れの発生を防止するための、捩れ防止部材が設けられていることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の緩衝装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地震等の外力を受けた構造物の動きを抑制するための緩衝装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
建築物等の特定部分を大きく運動させ、地震により発生する力を吸収し、破壊を防止する免震構造の設計では、地震動により想定される建築物等の最大移動量(最大変形量)を推定して、建築物等の周囲に必要な間隙を設定している。
【0003】
しかしながら、通常は、想定を超えるような巨大地震が発生した場合の、建築物等の移動に伴う周辺の物体への接触、衝突までは想定されていないのが現状である。そのため、今後発生する可能性がある巨大地震において、建築物等が想定を超える挙動を示した場合の免震構造に対するフェイルセーフ機能の追加が求められている。
【0004】
また、橋梁において、特に橋脚と橋桁間の水平剛性が小さい橋梁では、地震時の橋桁の移動に伴う支承からの脱落や、橋桁の橋脚からの落下を防止するために、通常、落橋防止装置が取り付けられている。そして、このような落橋防止装置には、橋桁の落下防止や橋桁同士の衝突時に生じる衝撃荷重を緩衝するための緩衝装置が付加されている。
【0005】
このような落橋防止装置に用いられる緩衝装置としては、これまでに、鎖をゴム等で被覆したり、鋼棒の先端にリング状のゴムを取り付けたものが提案されている(例えば、特許文献1を参照)。
【0006】
また、ゴム等の部材を用いずに鋼製部材のみで緩衝機能を実現する緩衝装置として、鋼管に、周方向に延びる多数のスリットを軸方向に間隔を設けて入れ、強度と剛性を低下させ、鋼管の塑性変形でエネルギーを吸収させるものも提案されている(例えば、特許文献2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−97607号公報
【特許文献2】特開2010−53618号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載のような、鎖をゴム等で被覆したり、鋼棒の先端にリング状のゴムを取り付けた緩衝装置においては、ゴム等で構成された部材が、紫外線やオゾン等によって経年劣化を起こし、当初の緩衝能力を発揮できなくなったり、火災等によりゴム等の部材が焼失して緩衝能力を喪失する等の問題があった。
【0009】
また、緩衝装置として高減衰ゴムを用いた例では、履歴サイクルにおけるエネルギー吸収能力が約60%程度に低下し、入力したエネルギーの約40%が緩衝装置から放出されるというデータもあり、構造物に2次的な振動が発生する可能性があった。さらに、ゴムを用いる場合には、特殊な製造技術が必要であり、供給できる事業者が限られるため、製品価格が高くなるという欠点もあった。
【0010】
また、特許文献2に記載のような、鋼製部品のみで緩衝機能を実現する緩衝装置では、装置動作時の初期勾配が大きく、鋼管弾性領域である程度の衝撃荷重が構造物に入力し、構造物への負担が大きくなる可能性があった。これらのことから、鋼製部品のみでゴム等の部材を用いる緩衝装置と同水準の緩衝性能を発現させることは未だできていないのが現実である。
【0011】
本発明は以上のような事情に鑑みてなされたものであり、建造物や橋梁等の構造物が、地震動等の外力を受けて、設計上の想定を超えて移動した場合に間題となる、隣接する建造物同士の衝突や、橋梁における橋桁の落下等を防止し、構造物の損傷を最小限に留める機能を有する緩衝装置を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の緩衝装置は、上記の技術的課題を解決するためになされたものであって、以下のことを特徴としている。
【0013】
第1に、本発明の緩衝装置は、コイルばねの中心空間に、前記コイルばねの円周方向に対して特定の間隔を設けて拘束材が内設され、前記コイルばねの片端には前記拘束材が接合され、前記コイルばねの両端には構造物に取付けるための取り付け部材が設けられており、前記コイルばねの両端軸方向外向きに外力が加わり、引張力を受ける前記コイルばねが絞られて内径が小さく変形する際に、内設された前記拘束材により一定以上前記コイルばねの内径が小さく変形しないことを特徴とする緩衝装置である。
【0014】
第2に、上記第1の発明の緩衝装置において、前記コイルばねは、断面が矩形の鋼材がらせん状に巻かれたコイルばねであることが好ましい。
【0015】
第3に、上記第1の発明の緩衝装置において、前記コイルばねは、鋼管材にらせん状のスリットが形成されたコイルばねであることが好ましい。
【0016】
第4に、上記第1から第3の発明の緩衝装置において、前記コイルばねの伸びに伴う捩れの発生を防止するための、捩れ防止部材が設けられていることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、建造物や橋梁等の構造物が、地震動等の外力を受けて、設計上の想定を超えて移動した場合に間題となる、隣接する建造物同士の衝突や、橋梁における橋桁の落下等を防止し、構造物の損傷を最小限に留める機能を有する緩衝装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1(a)は、本発明の緩衝装置の一実施形態の構成を示す概略正面断面図であり、図1(b)は、この実施形態の概略斜視図である。
図2】分割した拘束材を用いた本発明の緩衝装置の一実施形態の構成を示す概略正面断面図である。
図3図3(a)は、捩れ防止機構の一実施形態を設けた緩衝装置の概略正面断面図であり、図3(b)は、この実施形態の概略上面図である。
図4】他の捩れ防止機構の一実施形態を設けた緩衝装置の概略正面断面図である。
図5】軸方向力−軸方向変位の関係を示すグラフである。
図6】免震装置を設けた建築物の免震層と建築物の間に、本発明の緩衝装置を設置した構成を示す概略図である。
図7】橋梁の橋脚と橋桁の間に、本発明の緩衝装置を設置した構成を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の緩衝装置は、前記のとおり、コイルばねの中心空間に、コイルばねの円周方向に対して特定の間隔を設けて拘束材が内設され、コイルばねの片端には拘束材が接合され、コイルばねの両端には構造物に取付けるための取り付け部材が設けられているものである。
【0020】
このような本発明の緩衝装置では、コイルばねの両端軸方向外向きに外力が加わり、引張力を受けるコイルばねが絞られて内径が小さく変形する際に、内設された拘束材により一定以上コイルばねの内径が小さく変形しないようになっている。
【0021】
以下、本発明に係る緩衝装置の実施形態について、図面を用いて詳述する。図1(a)は、本発明の緩衝装置の一例の構成を示す概略正面断面図であり、図1(b)は、その概略斜視図である。
【0022】
緩衝装置1に用いるコイルばね2は、板状の鋼材を一定の内径でらせん状に巻いた形状のものである。すなわち、コイルばね2のバネ線材の断面は矩形形状となっている。
【0023】
また、鋼材の種類は、通常のバネに用いられる鋼材、すなわち適度な弾性を有するものであれば制限なく用いることができ、例えば、低炭素鋼、バネ鋼(熱間材)である高炭素鋼、シリコンマンガン鋼、マンガンクロム鋼、クロムバナジウム鋼、マンガンクロムボロン鋼、シリコンクロム鋼、クロムモリブデン鋼、ステンレス鋼等を挙げることができる。
【0024】
前記のコイルばねの製造では、通常のコイルばねの製造方法と同様に、板状の鋼材をらせん状に成型後、冷間加工のまま、もしくは低温焼なまし等の熱処理を施して所望の特性のコイルばね2とすることができる。
【0025】
なお、コイルばね2を構成する板状の鋼材の幅、巻き数は、使用する鋼材の材質や特性、また、取り付ける構造物の大きさや要求される緩衝能力に応じて適宜設定することができ、特に限定されるものではないが、エネルギー吸収能力を高めるために、断面が幅広の矩形形状の鋼材を用いるのが好ましい。具体的には、十分な緩衝性能を発現するための設定として、鋼材断面の矩形形状の幅径比(ばね径/線材幅)が0.5〜1程度の範囲が望ましい。
【0026】
ここで、鋼材断面の矩形形状の幅径比を算出するためのばね径の寸法とは、図1における、らせん状に巻いたコイルばねの径、すなわち緩衝装置1の直径に相当する。
【0027】
また、コイルばね2は、上記の板状の鋼材をらせん状に巻いて製造する他、円筒状の鋼管材の周囲に一定間隔のスリット状の切込みをらせん状に形成して製造することもできる。
【0028】
この、鋼管材にらせん状の切り込みを形成するコイルばねの製造方法によれば、鋼管材に形成する切り込みの角度や幅を調整することにより所望のバネ特性を実現することができる。また、らせん部分の角度を部分的に変化させることにより、特定の位置の弾性を変化させることもでき、設計上の応用範囲を広くすることができる。また、鋼管材の任意の部分のみにコイルばねを形成することができ、両端を閉じた円筒状とすることができるため、用途の拡張性や加工性の観点から好ましい。また、加工歩留りが高まり、生産を自動化することができるため大量生産が可能となる。
【0029】
緩衝装置1では、前記のコイルばね2の円周方向に対して、特定の間隔5を設けて拘束材3が内設される。また、コイルばね2の中心空間に、長手方向に対して平行に挿入された拘束材3の一端は、コイルばね2の片端の内面に固定されている。
【0030】
拘束材3の材質としては、コイルばね2の内径の変形を防止できる強度を有するものであれば特に制限はなく、例えば、鋼材、非鉄金属、エンジニアリングプラスチック、FRP、硬質ゴム、ダンパー等を用いることができる。
【0031】
また、拘束材3の形状は特に制限はなく、円柱、円筒、多角柱等のものを用いることができる。なお、多角柱のものを用いる場合には、コイルばね2の内側との接触面積を多くするために角を面取りしたものを用いるのが好ましい。これは、拘束材3に対してコイルばね2が絡まる際に、拘束材3の角の鋭い部分に接触すると、コイルばね2の耐力が低下する場合があるためである。
【0032】
また、コイルばね2の両端には、緩衝装置1を構造物に取付けるための取り付け部材4が設けられている。この取り付け部材4は、構造物と接合可能な形態であれば特に制限されるものではなく、例えば、取り付け部材4に設けた接続穴41に、ワイヤー、鎖、鋼板、ボルト、ピン等を接続して建物等と接合する形態のものを例示することができる。
【0033】
このような緩衝装置の動作については、次のように説明される。
【0034】
通常のコイルばねが、外力により両端軸方向外向きに伸ばされると、コイルばねが絞られて内径が小さく変形する。このように、コイルばねに外力が加わり続けた場合、絞られた状態で長軸方向に伸び続け、最終的にコイルばねは破断する。
【0035】
一方、本発明の緩衝装置1は、コイルばね2の両端方向外向きに外力が加わり、コイルばね2が絞られて内径が小さく変形する際に、一定以上内径が小さく変形しないように拘束材3が挿入されている。
【0036】
すなわち、コイルばね2が絞られて内径が小さく変形して、コイルばね2の内側が拘束材3に接触するまでは引きばねとして機能し、接触して軸力を受けて、拘束材3に巻きついてコイルばね2の変形が拘束されると緩衝装置全体の剛性と強度が上昇する。
【0037】
コイルばね2の中心空間に内設した拘束材3とコイルばね2の内側の間隔5は、緩衝装置1にかかる外力の荷重とコイルばね2の変形関係に影響を与える。この間隔5は、コイルばね2の内径を変更することにより、また、拘束材3の径(太さ)を変更することにより調整可能である。そして、この拘束材3とコイルばね2の内側の間隔5を調整することにより、コイルばね2の伸び量、すなわち、緩衝装置1の緩衝性能を決定することができる。なお、通常の設計においては、可能な限り間隔5を狭く設定し、拘束材3を密に内設するのが好ましい。
【0038】
また、図2に示すように、長手方向に分割した拘束材31、32を用い、それぞれの拘束材31、32の端部をコイルばね2の両端で保持させることもできる。このように拘束材31、32を分割することにより曲がる機能を有する緩衝装置1とすることができる。
【0039】
一方、コイルばね2は、両端に軸方向外向きの外力がかかり軸方向の変形が大きくなるにつれてばね本体に捩れが生じ、コイルばね2と拘束材3とが十分接触せずに滑り、コイルばね2が荷重上昇することなく塑性化による変形が増大し、緩衝機能が働かなくなる可能性もある。
【0040】
そのため、本発明の緩衝装置には、コイルばね2の所定以上の捩れの発生を防止するために、捩れ防止機構を設けることができる。
【0041】
図3(a)に、捩れ防止機構の一実施形態を設けた緩衝装置の概略正面断面図を示し、図3(b)に、その概略上面図を示す。
【0042】
捩れ防止機構は、図3(a)に示すような、拘束材3の一部に突起部61を設けて、この突起部61をコイルばねの長手方向に設けたスリット62に挿入した構成の捩れ防止機構6を例示することができる。
【0043】
この捩れ防止機構6によれば、コイルばね2が両端軸方向外向きに引き伸ばされ、拘束材3とコイルばね2の内面が接触した後のコイルばね2の捩れが、突起部61とスリット62の接触により防止されるため、確実にコイルばね2の破断を防止することが可能となる。
【0044】
また、他の捩れ防止機構として、図4に示すような、中央で分割した拘束材31、32の、それぞれの片端をコイルばね2の両端で保持するとともに、片方の拘束材31の分割部に柱状部材71を設け、もう片方の拘束材32の分割部に、柱状部材71が嵌合する孔72を設けて、この孔72に柱状部材71を挿入して、それぞれの拘束材31、32が捻じれることなく、長手方向に伸縮自在に結合した構造の捩れ防止機構7を例示することもできる。
【0045】
この捩れ防止機構7によれば、コイルばね2が両端軸方向外向きに引き伸ばされたときに生じる捩れは、端部が接続された拘束材31、32に軸方向の捻じれとして伝達されるが、分割した拘束材31、32それぞれに設けた柱状部材71と孔72を嵌合させて、柱状部材が長手方向に伸縮自在に挿入されることにより、拘束材31、32の捻じれが抑制され、結果としてコイルばね2の捩れを防止することが可能となる。
【0046】
なお、前記の捩れ防止機構6、7においては、機構内に摩擦部分が存在するため、捩れ防止機構6、7の動作をスムーズにすることが望ましい。そのために、例えば、捩れ防止機構6を構成する突起部61及びスリット62の内壁や、捩れ防止機構7を構成する柱状部材71及び孔72の内壁に、摩擦低減のためのみがき加工処理を施したり、潤滑油や潤滑塗料を塗布することが好ましい。
【0047】
さらに、他の捩れ防止機構として、らせんが逆のコイルばねを直列に接合した構成とすることもできる。この捩れ防止機構によれば、コイルばねが両端軸方向外向きに引き伸ばされたときに生じる捩れをコイルばねのらせんを逆にすることにより相殺させ、捩れを防止することが可能となる。
【0048】
図5に、図3に示す捩れ防止機構6を設けた緩衝装置1の軸方向力−軸方向変位の関係グラフを示す。図5のグラフでは、実線が本発明の緩衝装置1の特性を示し、破線が通常のコイルばねの特性を示している。
【0049】
このグラフによれば、本発明の緩衝装置1の軸方向力−軸方向変位特性(実線)は、初期は剛性が小さく緩やかに剛性が上昇し、特定のエネルギー以上の入力に対しては所定の耐力を発現している。これにより、構造物の変位が急激に拘束されることによる衝撃的な荷重の伝達を抑制することがわかる。
【0050】
このように、コイルばね2が拘束材3に巻きつきながら荷重と剛性が上昇する過程で、コイルばね2の矩形断面の鋼材がせん断降伏しエネルギーを吸収する。
【0051】
これに対して、通常のコイルばね(破線)では、初期は剛性が小さく緩やかに剛性が上昇するが、軸方向力の上昇に伴い限界点で破断している。
【0052】
また、鋼材はゴムと比較して履歴サイクルにおけるエネルギー吸収能力が大きい。本発明の緩衝装置1の場合、実験により、入力した地震動エネルギーのうちの約90%程度を吸収できることが確認されている。
【0053】
本発明の緩衝装置1は、従来技術でみられた鋼材弾性域が、非常に剛性が小さいコイルばねの変形に置き換えられるため、軸方向力−軸方向変位特性の初期立ち上がりがない。これは、ゴム等の材料を用いた緩衝装置と同等の軸力一軸変位関係であることを意味している。
【0054】
以上のように、鋼材特有の高いエネルギー吸収能力に、緩やかな荷重上昇機能を持たせることで、従来の鋼材と有機材料系の両方の利点を有する緩衝機構を実現することができる。
【0055】
また、本発明の緩衝装置1は全て鋼材で構成することができるため、例えば、地震後に緩衝装置が受けた損傷の程度の判断は、コイルばね2の亀裂や塗装の剥がれなどを目視することにより容易に判断することができる。また通常のメンテナンスにおいても、目視により、コイルばね2のスリット状の間隔部分の劣化や損傷を容易に判断することができる。これは、緩衝装置が被覆され内部が見えないゴム系の緩衝装置では実施することができない特徴である。
【0056】
図6に、免震装置を設けた建築物の免震層と建築物の間に、本発明の緩衝装置1を設置した構成の概略図を示す。
【0057】
免震装置81を設置した建築物8では、地震により揺れが発生しても、通常は免震装置81が地震動を吸収する。しかしながら、地震規模が大きく免震装置81の変形が想定値を超える場合には、建築物8に揺れが発生する。そして、この免震許容量を超えた建造物8の揺れが大きい場合には、隣接する建造物等と接触したり衝突する可能性がある。
【0058】
このような接触や衝突を防止するために、例えば、鎖やワイヤー等により基礎と建築物を繋いだ場合であっても緩衝効果は得ることができず、また、鎖やワイヤー等が伸びきった段階で建築物に衝撃が直接加わり、鎖やワイヤー等の破断や取り付け部材の破損が生じる。
【0059】
これに対して、本発明の緩衝装置1は、免震装置81の免震許容量を超えて発生する建造物8に揺れによる一定の移動寸法までは引きばねとしての緩衝効果を発現し、コイルばね2の内側と拘束材3が接触した後は、鎖やワイヤー等と同様のストッパー部材として機能する。
【0060】
また、本発明の緩衝装置1を免震建物に用いた場合、複数回の衝撃に耐えながら、免震建物と他の構造物との衝突防止部材として機能するとともに、確実に免震層のエネルギーを吸収する緩衝装置とすることができる。
【0061】
図7に、橋梁の橋脚と橋桁の間に、本発明の緩衝装置を設置した構成の概略図を示す。
【0062】
本発明の緩衝装置1を用いて橋脚91と橋桁9を繋ぐ場合には、可動支承92に対する橋桁9の移動許容範囲を考慮して、緩衝装置1の最大伸び幅を設定する必要がある。これにより地震動による橋桁9の落橋を確実に防止することが可能となる。
【0063】
また、本発明の緩衝装置1を落橋防止装置として用いる場合は、緩衝装置1の内部に挿入された拘束材3を、桁落下時の死荷重を支える部材として併用することができる。
【0064】
このように、本発明の緩衝装置1によれば、免震建物や橋梁といった大きく水平移動する構造物の過大な変位を抑制し、衝突や落下を防止することが可能となる。
【0065】
以上、本発明の緩衝装置を一実施形態に基づいて説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内において種々の変形、変更が可能である。
【0066】
例えば、上記実施形態では、構成する材料を鋼材として説明したが、建造物等の規模や用途によっては、鋼材以外の材質のものにより構成することができる。
【0067】
また、拘束材には鋼材等の単純な材料だけではなくダンパー等の緩衝装置等を使用することができ、複合的な免制震部材とすることもできる。
【符号の説明】
【0068】
1 緩衝装置
2 コイルばね
3 拘束材
4 取り付け部材
5 間隔
6 捩れ防止部材
7 捩れ防止部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7