特許第6283351号(P6283351)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6283351らせん形およびらせん形−円筒形混合パターンを有する高減衰ラビリンスシール
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6283351
(24)【登録日】2018年2月2日
(45)【発行日】2018年2月21日
(54)【発明の名称】らせん形およびらせん形−円筒形混合パターンを有する高減衰ラビリンスシール
(51)【国際特許分類】
   F04D 29/10 20060101AFI20180208BHJP
   F02C 7/28 20060101ALI20180208BHJP
   F01D 11/02 20060101ALI20180208BHJP
   F16J 15/447 20060101ALI20180208BHJP
【FI】
   F04D29/10 A
   F02C7/28 B
   F01D11/02
   F16J15/447
【請求項の数】13
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2015-507557(P2015-507557)
(86)(22)【出願日】2013年4月26日
(65)【公表番号】特表2015-520318(P2015-520318A)
(43)【公表日】2015年7月16日
(86)【国際出願番号】EP2013058801
(87)【国際公開番号】WO2013160469
(87)【国際公開日】20131031
【審査請求日】2016年4月22日
(31)【優先権主張番号】CO2012A000019
(32)【優先日】2012年4月27日
(33)【優先権主張国】IT
(73)【特許権者】
【識別番号】513243790
【氏名又は名称】ヌオーヴォ ピニォーネ ソチエタ レスポンサビリタ リミタータ
【氏名又は名称原語表記】NUOVO PIGNONE S.R.L.
(74)【代理人】
【識別番号】100137545
【弁理士】
【氏名又は名称】荒川 聡志
(74)【代理人】
【識別番号】100105588
【弁理士】
【氏名又は名称】小倉 博
(74)【代理人】
【識別番号】100129779
【弁理士】
【氏名又は名称】黒川 俊久
(74)【代理人】
【識別番号】100113974
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 拓人
(72)【発明者】
【氏名】リッツォ,エマニュエル
(72)【発明者】
【氏名】ペラゴッティ,アントニオ
【審査官】 岩田 健一
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭58−222902(JP,A)
【文献】 特開昭50−128008(JP,A)
【文献】 特開2004−019490(JP,A)
【文献】 特開平11−013688(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04D 29/10
F02C 7/28
F01D 11/02
F16J 15/447
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つ以上の静止部品と1つ以上の回転部品とを有しているターボ機械の高圧領域(P2)を前記ターボ機械の低圧領域(P1)からシールするための装置(500)であって、
らせん状のパターンにて配置された第1の複数の溝(504)と、円筒形のパターンにて配置された第2の複数の溝(506)とを有しており、前記ターボ機械の前記高圧領域(P2)と前記低圧領域(P1)との間において、前記ターボ機械の前記1つ以上の回転部品のうちの少なくとも1つと、前記ターボ機械の前記1つ以上の静止部品のうちの少なくとも1つとの間に配置されたラビリンスシール(502)を備えており、
前記らせん状のパターンが、10°以下のらせん角度を有することにより、前記ターボ機械の安定化の作用が得られ、前記第2の複数の溝(506)に起因する漏れを無視することができる、
装置(500)。
【請求項2】
前記第2の複数の溝(506)が、少なくとも5つの溝で構成されている、請求項1に記載の装置(500)。
【請求項3】
前記第1の複数の溝(504)が、前記第2の複数の溝(506)に隣接している、請求項1または2に記載の装置(500)。
【請求項4】
前記第1の複数の溝(504)が、前記第2の複数の溝(506)に直接隣接している、請求項3に記載の装置(500)。
【請求項5】
前記ラビリンスシール(502)が、前記第1の複数の溝(504)が位置する領域において第1のすき間を有し、前記第2の複数の溝(506)が位置する領域において第2のすき間を有し、前記第1のすき間と前記第2のすき間との間の比が、2以下かつ0.5以上である、請求項1から4のいずれかに記載の装置(500)。
【請求項6】
前記第1のすき間と前記第2のすき間との間の前記比が、1にほぼ等しい、請求項5に記載の装置(500)。
【請求項7】
前記第1の複数の溝(504)および前記第2の複数の溝(506)の両方が、前記回転部品または前記静止部品のいずれかに組み合わせられている、請求項1から6のいずれかに記載の装置(500)。
【請求項8】
前記ラビリンスシール(502)が、
前記らせん状のパターンにて配置された前記第1の複数の溝(504)が形成された第1の回転部分(510)と、
前記第1の回転部分(510)に隣接して配置され、前記円筒形のパターンにて配置された前記第2の複数の溝(506)が形成された第2の回転部分(512)と
を備えており、
前記第1の回転部分(510)が、前記ターボ機械の前記高圧領域(P2)において前記ターボ機械の前記1つ以上の回転部品のうちの前記少なくとも1つに配置され、
前記第2の回転部分(512)が、前記ターボ機械の前記低圧領域(P1)において前記ターボ機械の前記1つ以上の回転部品のうちの前記少なくとも1つに配置され、
前記第1の回転部分(510)および前記第2の回転部分(512)が、前記ターボ機械の前記1つ以上の静止部品のうちの前記少なくとも1つに対向して、前記ターボ機械の前記1つ以上の静止部品のうちの前記少なくとも1つとのシールの関係に配置されている、
請求項1から7のいずれかにに記載の装置(500)。
【請求項9】
前記第1の回転部分(510)が、前記第2の回転部分(512)の回転の方向と同じ方向に回転する、請求項8に記載の装置(500)。
【請求項10】
前記第1の回転部分(510)および前記第2の回転部分(512)が、2つの別々の部品で作られている、請求項8または9に記載の装置(500)。
【請求項11】
摩耗可能な材料で覆われ、前記ラビリンスシール(502)の前記第1および第2の回転部分(510、512)に対向して、前記第1および第2の回転部分(510、512)とのシールの関係にて前記ターボ機械の前記少なくとも1つ以上の静止部品に配置された静止部分をさらに備える、請求項8から10のいずれかに記載の装置(500)。
【請求項12】
前記ラビリンスシール(502)が、前記ターボ機械の前記高圧領域と前記低圧領域との間において前記ターボ機械の前記1つ以上の静止部品のうちの前記少なくとも1つに配置された静止部分を備えており、
前記第1の複数の溝(504)が、前記ターボ機械の前記高圧領域(P2)において前記静止部分に形成され、
前記第2の複数の溝(506)が、前記ターボ機械の前記低圧領域(P1)において前記静止部分に前記第1の複数の溝(504)に隣接して形成され、
前記静止部分が、前記ターボ機械の前記1つ以上の回転部品のうちの前記少なくとも1つに対向して、前記ターボ機械の前記1つ以上の回転部品のうちの前記少なくとも1つとのシールの関係に配置されている、
請求項1から11のいずれかに記載の装置(500)。
【請求項13】
前記ラビリンスシール(502)の前記静止部分に対向して前記ターボ機械の前記少なくとも1つ以上の回転部品に配置された回転部分 をさらに備える、請求項12に記載の装置(500)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に開示される主題の実施形態は、概して、ターボ機械に関し、さらに詳しくは、ターボ機械におけるロータ動力学を改善するための装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ラビリンスシールは、ポンプ、遠心圧縮機、およびタービンなどのターボ機械において、高圧領域から低圧領域への漏れを最小限にするために、一般的に使用されている。ラビリンスシールは、ターボ機械の静止部分(すなわち、「ステータ」)と回転部分(すなわち、「ロータ」)との間に曲がりくねった経路(すなわち、「ラビリンス」)を形成するいくつかの溝または歯を備えている。ラビリンスシールは、歯がステータに形成されるステータ型(statoric)または歯がロータに形成されるロータ型(rotoric)であってよい。ラビリンスシールの溝または歯と、対向する表面とが、ラビリンスシールを通過する高圧領域から低圧領域への流体の流れを妨げる。しかしながら、ロータの回転を可能にするために、ラビリンスの溝または歯と対向する表面との間に、空間またはすき間が必要である。したがって、ラビリンスシールは流体の流れを妨げるが、すき間ゆえに、ラビリンスシールをまたぐ圧力差に起因して、高度に加圧された流体が高圧領域からすき間を通って低圧領域へと漏れる可能性がある。ラビリンスシールは、一般に、この漏れを含むように設計される。
【0003】
ラビリンスシールを通過する漏れの流れを、すき間を減らすことによって軽減することができる。この目的のため、摩耗可能なラビリンスシールが開発されている。摩耗可能なラビリンスシールは、回転側の歯に対向する静止側部分が摩耗可能な材料で形成されるロータ型のラビリンスシールである。摩耗可能なラビリンスシールにおけるすき間を、例えば過渡的な状況における回転振動に起因して回転側の歯が摩耗可能なステータとこすれるときに、回転側の歯がステータの摩耗可能な材料へと切り込んですき間を増やすがゆえに、きわめて小さくすることが可能である。摩耗可能なラビリンスシールは、不安定化の作用が大きいがゆえに、高圧遠心圧縮機に適用することが現実的には不可能である。不安定性へのシールの寄与は、回転部品と一緒に回転する周方向に沿ったガス環が生じる可能性に関係がある。それらの小さいすき間は、不安定化の作用がより大きい周方向の経路へとガスを捕らえておこうとする傾向を有する。
【0004】
ステータ型およびロータ型の両方のラビリンスシールにおいて、小さなすき間は、漏れを減らすことができるが、ラビリンスシールへの入り口における入り口スワール(inlet swirl)ならびに回転に起因する遠心力によってラビリンスシールの内部に生じる周方向の流れゆえに、ロータの安定性に負の影響も及ぼす。ロータの安定性を改善する試みにおいて、ターボ機械におけるラビリンスシールは、スワールブレーキ(swirl brakes)によって改良され、あるいはシャント穴(shunt holes)を備えている。例えば、ステータ型のインペラアイ(impeller eye)ラビリンスは、通常はスワールブレーキを備えるように改良され、通常はバランスドラムにシャント穴が装備される。しかしながら、これらの装置は、実行が困難である可能性があり、ターボ機械の製造および設計段階に追加のコストを持ち込む可能性がある。さらに、インペラアイのロータ型のラビリンスシールを安定にするための装置は、現時点では手に入れることができない。
【0005】
したがって、ターボ機械におけるロータ動力学を単純かつ費用効果に優れたやり方で改善するためのシステムおよび方法を提供することが、望ましいと考えられる。
【0006】
特に、機械的な観点から、高圧遠心圧縮機においては、大きな差圧の存在ゆえに、高い強度を有する機械的に堅固なシールが必要である。これらの理由で、遠心圧縮機におけるラビリンスシールは、タービンにおいて行なわれるように単一のチャンバを生み出すために小さな環状のリブを組み合わせる代わりに、アルミニウム製または鋼製のリングから出発して機械加工される。同時に、石油およびガス産業に典型的なH2S、CO2、および他のガス汚染物質の存在が、信頼性の高い証明済みの技術的解決策を使用する必要性と相俟って、応力強度および耐食性の両方に関して高い機械的性質を有する周知の材料(典型的には、アルミニウムおよび鋼)の使用につながっている。
【0007】
本発明は、高圧遠心圧縮機におけるラビリンスシールの実際の設計を改善し、周知の材料を使用しながら安定性およびシール能力の両方の必要性を解決する新規な技術的解決策をもたらすことを目的とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許出願公開第2010/253005号明細書
【発明の概要】
【0009】
この概要は、「発明を実施するための形態」においてさらに後述される考え方の選択を、簡単な形で照会するために提示される。この概要は、請求項に記載される主題の重要な特徴または必須の特徴を特定しようとするものではなく、請求項に記載の主題の技術的範囲を限定するために使用されるものでもない。
【0010】
一典型的な実施形態によれば、1つ以上の静止部品と1つ以上の回転部品とを有しているターボ機械の高圧領域をこのターボ機械の低圧領域からシールするための装置が存在する。この装置は、第1の複数の溝と第2の複数の溝とを有するラビリンスシールを備える。第1の複数の溝は、らせん状のパターンにて配置され、第2の複数の溝は、円筒形のパターンにて配置される。このラビリンスシールが、ターボ機械の高圧領域と低圧領域との間において、ターボ機械の1つ以上の回転部品のうちの少なくとも1つと、ターボ機械の1つ以上の静止部品のうちの少なくとも1つとの間に配置される。別の典型的な実施形態によれば、上記の段落において述べたラビリンスシールが、らせん状のパターンにて配置された前記第1の複数の溝が形成された第1の回転部分と、前記第1の回転部分に隣接して配置され、円筒形のパターンにて配置された前記第2の複数の溝が形成された第2の回転部分とを備える。前記第1の回転部分は、ターボ機械の高圧領域においてターボ機械の1つ以上の回転部品のうちの少なくとも1つに配置される。前記第2の回転部分は、ターボ機械の低圧領域においてターボ機械の1つ以上の回転部品のうちの少なくとも1つに配置される。
【0011】
前記第1の回転部分および前記第2の回転部分は、ターボ機械の1つ以上の静止部品のうちの少なくとも1つに対向して、ターボ機械の1つ以上の静止部品のうちの少なくとも1つとのシールの関係に配置される。前記第1の回転部分は、前記第2の回転部分の回転の方向と同じ方向または前記第2の回転部分の回転の方向と反対の方向に回転することができる。摩耗可能な材料でコートされた静止部分を、ラビリンスシールの前記第1および第2の回転部分に対向してラビリンスシールの前記第1および第2の回転部分とのシールの関係にあるターボ機械の少なくとも1つ以上の静止部品に配置することができる。
【0012】
別の典型的な実施形態によれば、「発明の概要」の最初の段落において述べたラビリンスシールが、ターボ機械の高圧領域と低圧領域との間においてターボ機械の1つ以上の静止部品のうちの少なくとも1つに配置された静止部分を備える。第1の複数の溝が、ターボ機械の高圧領域において静止部分に形成され、第2の複数の溝が、ターボ機械の低圧領域において静止部分に第1の複数の溝に隣接して形成され、静止部分は、ターボ機械の1つ以上の回転部品のうちの少なくとも1つに対向して、ターボ機械の1つ以上の回転部品のうちの少なくとも1つとのシールの関係に配置される。回転部分を、ラビリンスシールの静止部分に対向してターボ機械の少なくとも1つ以上の回転部品に配置することができる。
【0013】
別の典型的な実施形態によれば、ターボ機械の高圧領域をこのターボ機械の低圧領域からシールするための上記3つの段落のいずれかによる装置であって、ラビリンスシールが前記複数の溝にスワールブレーキを備えない装置が存在する。
【0014】
別の典型的な実施形態によれば、1つ以上の静止部品と1つ以上の回転部品とを有するターボ機械の高圧領域をこのターボ機械の低圧領域からシールするための装置が存在する。装置は、らせん状のパターンにて配置された複数の溝を有しているラビリンスシールを備え、ラビリンスシールは、複数の溝にスワールブレーキを備えない。ラビリンスシールは、ターボ機械の高圧領域と低圧領域との間において、ターボ機械の1つ以上の回転部品のうちの少なくとも1つと、ターボ機械の1つ以上の静止部品のうちの少なくとも1つとの間に配置される。別の典型的な実施形態によれば、1つ以上の静止部品と1つ以上の回転部品とを有するターボ機械の高圧領域をこのターボ機械の低圧領域からシールするための方法が存在する。この方法は、らせん状のパターンにて配置された複数の溝であって、スワールブレーキが形成されていない複数の溝を有しているラビリンスシールを、ターボ機械の1つ以上の静止部品のうちの少なくとも1つと、1つ以上の回転部品のうちの少なくとも1つとの間、かつターボ機械の高圧領域と低圧領域との間に形成するステップを含む。ラビリンスシールを形成するステップは、ターボ機械の高圧領域においてターボ機械の1つ以上の静止部品のうちの少なくとも1つに対向する1つ以上の回転部品のうちの少なくとも1つに第1の回転部分を形成するステップと、ターボ機械の低圧領域においてターボ機械の1つ以上の静止部品のうちの少なくとも1つに対向する1つ以上の回転部品のうちの少なくとも1つに第1の回転部分に隣接する第2の回転部分を形成するステップと、ラビリンスシールの第2の回転部分に円筒形のパターンにて第2の複数の溝を形成するステップとを含むことができる。第1の回転部分を形成するステップおよび第2の回転部分を形成するステップは、第2の回転部分の回転の方向と同じ方向または第2の回転部分の回転の方向と反対の方向に回転するように第1の回転部分を形成するステップを含むことができる。摩耗可能な材料でコートされた静止部分を、ラビリンスシールの第1および第2の回転部分に対向してラビリンスシールの第1および第2の回転部分とのシールの関係にあるターボ機械の少なくとも1つ以上の静止部品に形成することができる。
【0015】
別の典型的な実施形態によれば、1つ以上の静止部品と1つ以上の回転部品とを有するターボ機械の高圧領域をこのターボ機械の低圧領域からシールするための方法が存在する。この方法は、らせん状のパターンにて配置された複数の溝であって、スワールブレーキが形成されていない複数の溝を有しているラビリンスシールを、ターボ機械の1つ以上の静止部品のうちの少なくとも1つと、1つ以上の回転部品のうちの少なくとも1つとの間、かつターボ機械の高圧領域と低圧領域との間に形成するステップを含む。ラビリンスシールを形成するステップは、ターボ機械の1つ以上の回転部品のうちの少なくとも1つに対向してターボ機械の1つ以上の回転部品のうちの少なくとも1つとのシールの関係にある1つ以上の静止部品のうちの少なくとも1つに静止部分を形成するステップと、この静止部分にらせん状のパターンにて複数の溝を形成するステップとを含むことができる。
【0016】
本発明および本発明のすべての実施形態のきわめて重要な技術的特徴は、らせん状のパターンを有する複数の溝であり、そのような溝をスワールブレーキと混同してはならず、特にスワールブレーキとして作用する突起と混同してはならないことに留意すべきである。特に、好都合には、らせん状のパターンが、10°以下、好ましくは0.5°〜5°の間のらせん角度を有することにより、ターボ機械の安定化の作用が得られ、らせん状のパターンを有する複数の溝に起因する漏れを無視することができる。
【0017】
好ましくは、らせん状のパターンの複数の溝が、少なくとも5つの溝で構成される。
【0018】
いくつかの実施形態においては、らせん状のパターンの複数の溝が、円筒形のパターンの複数の溝に隣接し、この場合には、らせん状のパターンの複数の溝が、円筒形のパターンの複数の溝に直接隣接する。
【0019】
本明細書に取り入れられて本明細書の一部を構成する添付の図面は、1つ以上の実施形態を示しており、それらの実施形態を明細書と協働して説明する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】典型的なターボ機械の一部分の断面の概略図である。
図2】典型的なラビリンスシールの断面の概略図である。
図3a図2のラビリンスシールにおける漏れの流れを説明する概略図である。
図3b図2のラビリンスシールにおける漏れの流れを説明する概略図である。
図4】ターボ機械の高圧領域を低圧領域からシールするための典型的な実施形態による装置の断面の概略図である。
図5】ターボ機械の高圧領域を低圧領域からシールするための別の典型的な実施形態による装置の断面の概略図である。
図6a】典型的な実施形態における流れの成分を説明する概略図である。
図6b】典型的な実施形態における流れの成分を説明する概略図である。
図7】典型的な実施形態によるラビリンスシールにおけるスワールの変化を説明する概略図である。
図8】ターボ機械の高圧領域を低圧領域からシールするための典型的な実施形態による装置の改良の断面の概略図である。
図9a】ターボ機械の高圧領域を低圧領域からシールするための典型的な実施形態による装置の改良の断面の概略図である。
図9b】ターボ機械の高圧領域を低圧領域からシールするための典型的な実施形態による装置の改良の断面の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
典型的な実施形態の以下の説明は、添付の図面を参照する。種々の図において、同じ参照番号は、同一または類似の構成要素を指し示している。以下の詳細な説明は、本発明を限定するものではない。むしろ、本発明の技術的範囲は、添付の特許請求の範囲によって定められる。以下の実施形態は、簡単のために、遠心圧縮機の用語および構造に関して論じられる。しかしながら、以下で論じられる実施形態は、そのようなシステムに限られず、膨張器、ポンプ、およびタービンなどといったターボ機械の他のシステムにも(適切な調節を伴って)適用可能である。
【0022】
明細書の全体を通して、「一実施形態」または「実施形態」への言及は、或る実施形態に関連して説明される特定の特徴、構造、または特性が、開示される主題の少なくとも1つの実施形態に含まれることを意味する。したがって、本明細書の種々の箇所において現れる「一実施形態において」または「実施形態において」という表現は、必ずしも同じ実施形態に言及しているわけではない。さらに、特定の特徴、構造、または特性を、1つ以上の実施形態において任意の適切なやり方で組み合わせることが可能である。
【0023】
図1が、典型的なターボ機械の一部分の断面の概略図である。図1に示されているターボ機械は、ターボ機械において高圧領域を低圧領域からシールするための本明細書に開示のとおりの装置および方法を実施することができる遠心圧縮機100である。遠心圧縮機100は、あくまでも例として本明細書において説明され、本発明を限定しようとするものではない。当業者であれば、本発明の全体を別の種類の圧縮機または別の種類のターボ機械において実施できることを、容易に理解できるであろう。
【0024】
遠心圧縮機100が、ハウジング102と、回転可能なシャフト104と、回転可能なシャフト104に取り付けられた複数のインペラ106とを備えている。流体が、各々のインペラ106に順に進入する。インペラ106が、流体に運動エネルギを与え、流体の速度を高める。ディフューザ108が、流体の速度を徐々に低下させることによって流体の運動エネルギを圧力に変換する。アイラビリンスシール114が、インペラアイに配置され、シャフトラビリンスシール116が、インペラ106間で回転シャフト104に取り付けられたスペーサ118またはインペラ最下部に配置されている。遠心圧縮機100は、インペラ106によって引き起こされる回転シャフト104の軸方向の推力に対して対抗する軸方向の推力をもたらすためのバランスピストン119をさらに備えている。バランスピストンラビリンスシール112が、バランスピストンに配置されている。アイラビリンスシール114、シャフトラビリンスシール116、およびバランスピストンラビリンスシール112の各々が、圧縮機100において高圧の領域を低圧の領域からシールする。さらに詳しく後述されるように、ラビリンスシール112、114、および116の各々が、遠心圧縮機100のロータの動的な安定性に大きな影響を有する可能性がある。図1に示したとおりの遠心圧縮機100が、あくまでも例示を意図しているにすぎず、より少数またはより多数の構成部品を含んでよいことを、理解すべきである。
【0025】
図2が、ターボ機械において高圧領域P2を低圧領域P1からシールするために使用することができるラビリンスシール200の例を示している。ラビリンスシール200は、複数の溝204が円筒形のパターンにて形成された回転部分202と、回転部分に対向して配置された静止部分206とを備えている。空間またはすき間208が、回転部分202の回転を可能にするために静止部分206と回転部分202との間に設けられている。回転部分202が、静止部分206と協働して、高圧領域P2と低圧領域P1との間に非接触のシールを形成する。図2のラビリンスシール200において、静止部分206を、摩耗可能な材料で製作することができる。したがって、静止部分206と回転部分202との間のすき間208を、例えば始動、停止、または負荷変動などの過渡の状況等において回転部分202の歯224が静止部分206の摩耗可能な材料とこすれる場合に、歯224が摩耗可能な材料に溝を形成してすき間208を増やすがゆえに、小さくすることができる。
【0026】
ラビリンスシールにおける小さなすき間は、漏れを少なくすることができるが、図3aおよび3bに関してさらに詳しく後述されるように、ラビリンスシールへの入り口における入り口スワールならびに回転に起因する遠心力によってラビリンスシールの内部に生じる周方向の流れゆえに、ロータの安定性に負の影響も及ぼす。
【0027】
図3aおよび3bが、図2に示した形式のラビリンスシール200における漏れの流れを説明する概略図である。図3aおよび3bに示されるとおり、ラビリンスシール200に進入する高度に加圧された流体は、高圧領域から低圧領域へとロータ300の軸方向302に流れ、ロータ300の外周を巡って回転の方向に流れるロータ300の回転に起因する周方向の流れの成分304またはスワールを含んでいる。周方向の流れの成分304は、ラビリンスシール200の溝204へと流れ、ロータの動的な安定性に直接的に影響を及ぼす。ラビリンスシールへの入り口におけるスワール(「入り口スワール」)は、ラビリンスシールの自励横振動につながることが多い力をラビリンスシールに生じさせる可能性がある。ラビリンスシールにおける不安定化の力は、主として入り口スワールおよび周方向の流れの速度に起因する。ラビリンスシールにおける不安定化の力は、すき間が小さいほど大きくなる。すき間を減らすことで、ロータの不安定につながりかねない入り口スワールおよび周方向の圧力分布の増大が生じる。したがって、ラビリンスシールにおける漏れの軽減とロータの安定性との間にトレードオフが存在する。しかしながら、ロータが不安定である場合、典型的には、壊滅的な故障を回避するためにターボ機械の速やかな停止が必要になると考えられる。したがって、ロータの動的な安定性が、ターボ機械の適切な動作のために必要である。
【0028】
すでに述べたように、ラビリンスシールまたはラビリンスシールの前に1つ以上のスワールブレーキを追加することによってラビリンスシールへの入り口におけるスワールの速度を下げる試みが行なわれている。スワールブレーキは、周方向の流れをなくし、入り口スワールの速度を下げることができる。高圧の流体の流れをそらすために分岐経路(divergence paths)がシールに機械加工されるシャント穴も、入り口スワールの速度を下げるために同じ結果にて使用されている。しかしながら、スワールブレーキおよびシャント穴の追加は、複雑であり(例えば、シャント穴には複雑な穿孔が必要である)、追加の製造および設計コストが持ち込まれる。
【0029】
本明細書に開示される実施形態は、ロータの動的な安定性を改善するための低コストな技術的解決策を提供することを目的とする。次に、ターボ機械においてロータの動的な特性を改善するための実施形態を、図4に関して説明する。
【0030】
図4が、ターボ機械において高圧領域P2を低圧領域P1からシールするための典型的な実施形態による装置400の断面の概略図である。装置400を、高圧領域と低圧領域との間の接続が存在するあらゆる種類のターボ機械において実施することができる。例えば、装置400を、図1に示した遠心圧縮機100あるいはより多数またはより少数の部品を有する遠心圧縮機などの遠心圧縮機、もしくは膨張器、タービン、ポンプ、などにおいて実施することができる。
【0031】
装置400は、複数の溝404がらせん状のパターンにて形成されたラビリンスシール402を備えている。らせん状に形成された溝404を備えることで、本明細書においてさらに後述されるように、装置400に安定化の効果が生み出される。したがって、ラビリンスシール402においては、複数の溝404または複数の溝404の前に、スワールブレーキが備えられていない。図4に示した実施形態においては、ラビリンスシール402が、複数の溝404が形成された回転部分410を備える。しかしながら、他の実施形態においては、例えば図8に示されているように、複数の溝404がラビリンスシールの静止部分に形成されてもよい。
【0032】
らせん状のパターンにて配置された複数の溝404は、原理的に、負または正のらせん角度を有することができる(らせん角度は、シールの軸に垂直な平面に対する条(thread)の傾きの角度である)。
【0033】
特に、ラビリンスシールにおける漏れは、らせん角度の関数であり、らせん角度が0°(円筒形のパターン)に近いときに最小である。交差結合剛性(cross coupling stiffness)は、らせん角度の減少関数であり、したがってらせん状のシールにおいては、円筒形のシールよりも少し漏れが多いが、不安定化作用は小さい。さらに、ラビリンスシールにおける漏れは、溝の数の関数であり、数が多いほど漏れが少ない。
【0034】
らせん角度が0°(すなわち、円筒形の歯の経路)であるとき、環状のガス経路は最大であり、結果としてガスのスワールが最大であり、不安定化作用が最大である。同時に、空気力学的な力が作用している表面は、らせん角度の増加関数であり(不安定化の作用が増す)、したがって不安定化の作用が最小となる最適角度が存在するはずである。
【0035】
30°未満のらせん角度の値が、高い安定性および少ない漏れをもたらす一方で、30°よりも大きい値は、漏れの観点から容認できない。
【0036】
複数の溝404を、溝によって溝間に形成される高い部分(以下では、「歯」418と称される)が装置の用途のあらゆる要件に調和した外形を有するように、機械加工することができ、あるいは他のやり方で形成することができる。例えば、歯の外形は、正方形、台形、三角形、または装置の個々の用途にとって有益となりうる任意の他の形状であってよい。複数の溝404を、所望のらせん角度および所望の歯の外形を有するらせん状のパターンにて溝を形成することができる任意の公知または未だ発見されていない方法および/または装置を使用して、ラビリンスシール402の回転部分410に機械加工することができる。
【0037】
装置400は、複数の溝404が形成された回転部分410に対向して、この回転部分410とのシールの関係に配置された静止部分406をさらに備える。すき間408が、回転部分410の回転を可能にするために、静止部分406と回転部分410との間に設けられている。静止部分406は、例えば「ハウジング」または「パッキン」(図示されていない)などにラビリンスシール402または装置400の一部として含まれてよい。あるいは、静止部分406は、例えばポンプケーシングまたはハウジング、あるいはターボ機械の高圧領域と低圧領域との間のターボ機械の任意の他の静止部品など、ターボ機械の一体の一部分として形成されてもよい。そのような場合、ロータ型のラビリンスシール402を、ターボ機械の静止部分406に直接対向させて配置することができる。静止部分406がラビリンスシール402または装置400の一部分として含まれるいくつかの実施形態においては、静止部分406を摩耗可能な材料で製作することができ、あるいはいくつかの他の実施形態においては、静止部分406のうちの回転部分410に対向して、回転部分410とのシールの関係に配置された表面416に、摩耗可能なコーティングを形成することができる。静止部分406が摩耗可能な材料で製作され、あるいは静止部分406に摩耗可能なコーティングが形成される場合には、回転部分410と静止部分406との間のすき間408を減らすことが可能である。なぜならば、例えば回転部分402に旋回または振動を引き起こす始動、停止、または負荷変動などの過渡的な状況の期間において、回転部分402の歯418が静止部分406の表面416にぶつかり、あるいはこすれる場合に、歯418が静止部分406または静止部分406の表面416の摩耗可能な材料へと溝を刻み、すき間408を大きくするからである。
【0038】
図4のラビリンスシール402を、ターボ機械の高圧領域と低圧領域との間において、ターボ機械の少なくとも1つの回転部品とターボ機械の少なくとも1つの静止部品との間に配置することができる。例えば、静止部分406を、ターボ機械の1つ以上の静止部品に形成することができ、回転部分410、第1の回転部分412、および/または第2の回転部分414を、ターボ機械の1つ以上の回転部品に形成することができる。回転部分410、412、414が、静止部分406と協働して、ターボ機械の高圧領域P2をターボ機械の低圧領域P1からシールする。例えば、回転部分410、412、414および静止部分406を、インペラアイ、バランスドラム、などのためのシールをもたらすようにターボ機械の部品に配置することができる。
【0039】
ターボ機械の任意の静止または回転部品に「形成」されるラビリンスシール402または装置400の任意の静止または回転部分を、技術的に公知または未発見の任意の手段または他の製造技術によって、これらの部品と一体に形成できることを、理解すべきである。次に、ターボ機械におけるロータの動的な特性を改善するための別の実施形態を、図5に関して説明する。
【0040】
図5は、ターボ機械において高圧領域P2を低圧領域P1からシールするための別の典型的な実施形態による装置500の断面の概略図である。装置500を、高圧領域と低圧領域との間に接続が存在するあらゆる種類のターボ機械において実施することができる。例えば、装置500を、図1に示した遠心圧縮機100あるいはより多数またはより少数の部品を有する遠心圧縮機などの遠心圧縮機、もしくはタービン、ポンプ、などにおいて実施することができる。
【0041】
装置500は、らせん状のパターンにて配置された第1の複数の溝504と、第1の複数の溝504に隣接する円筒形のパターンにて配置された第2の複数の溝506とを有するラビリンスシール502を備えている。らせん状に形成された溝504を備えることで、本明細書においてさらに後述されるように、装置500に安定化の効果が生み出される。したがって、ラビリンスシール502においては、第1の複数の溝504および第2の複数の溝506、あるいは第1の複数の溝504および第2の複数の溝506の前に、スワールブレーキが備えられていない。ラビリンスシール502を、ターボ機械の高圧領域と低圧領域との間において、ターボ機械の少なくとも1つの回転部品とターボ機械の少なくとも1つの静止部品との間に配置することができる。ラビリンスシール502は、ターボ機械の高圧領域に配置された第1の回転部分510と、ターボ機械の低圧領域に第1の回転部分510に隣接して配置された第2の回転部分512とを備える。らせん状のパターンにて配置された第1の複数の溝504が、ターボ機械の高圧領域の第1の回転部分510に形成され、円筒形のパターンにて配置された第2の複数の溝506が、ターボ機械の低圧領域の第2の回転部分512に形成されている。
【0042】
図5の実施形態においては、らせん状のパターンが、10°以下、好ましくは0.5°〜5°の間のらせん角度を有し、したがってターボ機械の安定化効果が得られ、らせん状のパターンの複数の溝に起因する漏れは無視できる。らせん状のパターンの複数の溝510は、少なくとも5つの溝で構成される。らせん状のパターンの複数の溝510は、円筒形のパターンの複数の溝512に隣接し、好ましくは図5に示されるように、らせん状のパターンの複数の溝が、円筒形のパターンの複数の溝に直接隣接する。
【0043】
好ましくは、らせん状のパターンの複数の溝および円筒形のパターンの複数の溝の両方が、前記回転部品または前記静止部品のいずれかに組み合わせられ、図5の実施形態においては、両方が回転部品に組み合わせられている。
【0044】
ラビリンスシールは、らせん状のパターンの複数の溝510が位置する領域において第1のすき間を有し、円筒形のパターンの複数の溝512が位置する領域において第2のすき間を有し、好ましくは第1のすき間と第2のすき間との間の比が、2以下かつ0.5以上である。図5の好ましい実施形態においては、この比が1にほぼ等しい。
【0045】
らせん状のパターンにて配置された複数の溝504は、原理的に、時計方向または反時計方向を有することができる。
【0046】
最大150barの出口圧力の圧縮機において、らせん状のパターンにて配置された前記第1の複数の溝504を円筒形のパターンにて配置された前記第2の複数の溝506と組み合わせ、らせん状のパターンのらせん角度を0.5°〜10°の間、特に0.5°〜5°の間とすることで、安定性および漏れに関して予期せぬ結果が得られている。
【0047】
さらに、遠心圧縮機の高圧領域と低圧領域との間の漏れを抑えるために、溝(または、歯)の数は、好ましくは少なくとも5つの歯でなければならない。
【0048】
第1の複数の溝504および第2の複数の溝506を、溝によって溝間に形成される高い部分(以下では、「歯」と称される)が装置の用途のあらゆる要件に調和した外形を有するように、機械加工することができ、あるいは他のやり方で形成することができる。例えば、歯の外形は、正方形、台形、三角形、または装置の個々の用途にとって有益となりうる任意の他の形状であってよい。第1の複数の溝504および第2の複数の溝506を、所望のらせん角度および所望の歯の外形を有するらせん状のパターンの溝504ならびに所望の歯の外形を有する円筒形のパターンの溝506をそれぞれ形成することができる任意の公知または未だ発見されていない方法および/または装置を使用して、ラビリンスシール502の第1の回転部分510および第2の回転部分512にそれぞれ機械加工し、あるいは他のやり方で形成することができる。
【0049】
装置500は、第1の複数の溝504が形成された第1の回転部分510および第2の複数の溝506が形成された第2の回転部分512に対向して、これらの回転部分510、512とのシールの関係に配置された静止部分508をさらに備える。すき間514が、回転部分510、512の回転を可能にするために、静止部分508と第1および第2の回転部分510、512との間に設けられている。静止部分508は、例えば「ハウジング」または「パッキン」(図示されていない)などにラビリンスシール502または装置500の一部として含まれてよい。あるいは、静止部分506は、例えばポンプケーシングまたはハウジング、あるいはターボ機械の高圧領域と低圧領域との間のターボ機械の任意の他の静止部品など、ターボ機械の一体の一部分であってもよい。そのような場合、ロータ型のラビリンスシール502を、ターボ機械の静止部分508に直接対向させて配置することができる。静止部分508がラビリンスシール502の一部品または装置500の一部品であるいくつかの実施形態においては、静止部分508を摩耗可能な材料で製作することができ、あるいは静止部分508のうちの第1の回転部分510および第2の回転部分512に対向して、第1の回転部分510および第2の回転部分512とのシールの関係に配置された表面518に、摩耗可能なコーティングを形成することができる。静止部分508が摩耗可能な材料で製作され、あるいは静止部分508の表面518に摩耗可能なコーティングが形成される場合には、すき間514を減らすことが可能である。
【0050】
らせん状のパターンにて配置された第1の複数の溝504が、図5においては3つのらせん状に形成された溝を有して図示されているが、この数は、あくまでも例示にすぎず、本発明を限定しようとするものではない。例えば、第1の複数の溝504は、4つ、5つ、6つ、または任意の他の数のらせん状に形成された溝を含むことができる。同様に、円筒形のパターンにて配置された第2の複数の溝506も、任意の数の円筒形に形成された溝を含むことができる。
【0051】
図5に示した実施形態においては、第1の複数の溝504が第1の回転部分510に形成され、第2の複数の溝506が第2の回転部分512に形成されているが、いくつかの他の実施形態においては、例えば図9aに示されるように、第1および第2の複数の溝504、506をラビリンスシールの静止部分508に形成してもよいことを、理解すべきである。
【0052】
また、ターボ機械の任意の静止または回転部品に「形成」されるラビリンスシール502または装置500の任意の静止または回転部分を、技術的に公知または未発見の任意の付加的または除去的手段あるいは他の製造技術によって、これらの部品と一体に形成できることも、理解すべきである。
【0053】
さらに、第1および第2の複数の溝を、一方が第1のパターンを有し、もう一方が第2のパターンを有する2つの異なる部品で構成できる(図9b)ことも、理解すべきである。この技術的解決策は、ロータ型およびステータ型のどちらの構成にも適用可能であってよく、あらゆる可能な組み合わせにて混ぜ合わせることが可能である(図9b)。
【0054】
装置500の動作方法を説明する図6aおよび6bに関して本明細書においてさらに後述されるように、ラビリンスシール502においてらせん状のパターンにて配置された第1の複数の溝504に加えて円筒形のパターンにて配置された第2の複数の溝506を備えることで、らせん状の溝の形成によってもたらされる安定化の作用に加えて、ラビリンスシール502における漏れが少なくなる。
【0055】
次に、装置400、500の動作方法を、図6aおよび6bに関して説明する。図6aおよび6bは、ターボ機械の高圧領域と低圧領域との間においてターボ機械の少なくとも1つの回転部品とターボ機械の少なくとも1つの静止部品との間に配置されたときの図4および5の装置400、500における流れの成分を説明する概略図である。
【0056】
図6aおよび6bに(さらには、図4および5に関して)示されるとおり、シール402、502をまたぐ圧力差に起因して、高度に加圧された流体の主たる流れ602は、ターボ機械の高圧領域P2からラビリンスシール402、502に進入し、ラビリンスシール402、405を横切ってすき間を通過し、大幅に低い圧力P1にてラビリンスシールを出る。ラビリンスシール402、502に進入する高度に加圧された主たる流れ602は、高圧領域から低圧領域へとロータ600の軸方向に流れ、ロータ600の外周を巡って回転の方向に流れるロータ600の回転に起因する周方向の流れの成分604またはスワールを含んでいる。
【0057】
図2、3a、および3bに関してすでに述べたように、ラビリンスシールへの入り口におけるスワールは、ロータの不安定につながりかねない不安定化の力をラビリンスシールに引き起こす可能性がある。
【0058】
しかしながら、図6aおよび6bに示されるように、ラビリンスシール402、502のらせん状のパターンにて配置された複数の溝404、504が、ラビリンスシール402、502に進入する高度に加圧された流体の主たる流れの軸方向に対向する(逆らう)軸方向に流れる相対速度の軸方向の流れの成分606を生じさせる。相対速度の軸方向の流れの成分606が、ラビリンスシール402、502の付近の主たる流れに対抗し、ラビリンスシールの付近の主たる流れのスワールを破る。このようにして、らせん状のパターンにて配置された複数の溝404、504によって引き起こされる相対速度の軸方向の流れの成分606が、スワールブレーキのように作用して、入り口スワールを減少させることによって安定化の作用をもたらす。
【0059】
結果として、ラビリンスシールのロータの動的な安定性が、ラビリンスシールまたはラビリンスシールの前にスワールブレーキを備えるための変更を必要とせずに改善される。したがって、ラビリンスシール402、502にらせん状のパターンにて配置された複数の溝404、504を備えることで、ラビリンスシールのロータの動的な安定性の容易、好都合、かつ費用効果に優れた改善をもたらすことができる。
【0060】
さらに、図5の装置500に関しては、円筒形のパターンにて形成された複数の溝506を有している第2の回転部分512における流れの成分が、漏れはより少ないがスワールおよび不安定性がより大きい図2、3a、および3bに示したとおりのラビリンスシール200の流れの成分と同様である。しかしながら、第2の回転部分512に進入する流れの量は、第1の回転部分510のらせん状に形成された溝によってすでに大幅に減らされているため、第2の回転部分512における不安定性の問題は存在しない。さらに、第2の回転部分512の円筒形に形成された複数の溝506は、特に定常状態の状況において、ラビリンスシール502における漏れの流れをさらに少なくする。このように、らせん状のパターンにて配置された第1の複数の溝と、円筒形のパターンにて配置された第2の複数の溝とを設けることによって、高い安定性および少ない漏れのシールがもたらされる。
【0061】
図7が、典型的な実施形態によるラビリンスシールにおけるスワールの変化を説明する概略図である。スワールの変化は、回転の方向に応じて主たる流れに反対し、あるいは同じ方向の対向する軸方向の流れの導入に起因して、ラビリンスシールにおいて生じる。図7は、すき間を通ってラビリンスシール402、502に進入する主たる流体の流れ602を示している。図7に示されるように、相対速度の軸方向の流れ606が、らせん状に形成された溝によって引き起こされ、主たる流れ602に対抗する。軸方向の流れ606の方向は、ロータの回転の方向に応じて正または負となりうる。軸方向の成分606は、らせん角度に応じて正または負となりうる。流れの軸方向の成分606の変更により、接線方向の成分604が少なくなり、したがってスワールが減少し、ロータの動力学に有益である。
【0062】
図8および9は、ターボ機械において高圧領域を低圧領域からシールするための典型的な実施形態による改良された装置の一部分の断面の概略図である。図8および9は、それぞれ、第1および/または第2の複数の溝404/506が装置の静止部分406に形成された図4および5の装置を示しているにすぎない。したがって、それらの装置の説明を、ここでは繰り返さない。図8および9の実施形態の漏れの流れは、図4および5の実施形態の漏れの流れと同様であると考えられる。したがって、図8および9の装置800および900は、図4および5の装置と同じ利益をもたらすことが期待される。
【0063】
本明細書に開示の典型的な実施形態の利点は、ロータの動的な安定性を改善するための低コストな技術的解決策を適用することにある。典型的な実施形態による別の利点は、単純かつ費用効果に優れているにもかかわらず、減衰が大きく、漏れが少ないターボ機械におけるシールのための装置をもたらすことにある。
典型的な実施形態による他の利点は、シールが組み込まれた既存のターボ機械について既存の技術的解決策において必要とされるような追加の装置の設置あるいは複雑な穿孔および/または改修の実行を必要とすることなく、ターボ機械にきわめて安定かつ漏れの少ないシールを適用することにある。本明細書に開示の典型的な実施形態は、現在の設計と置き換え可能であると考えられ、あるいは既存の技術に対する変更が最小限で済むと考えられる。したがって、典型的な実施形態によれば、既存の機械装置に、容易に製造でき、すき間が小さいことで漏れが少なく、減衰が大きく、安定性が高い本明細書に開示のターボ機械におけるシールのための装置を、後付けすることが可能である。
【0064】
開示の典型的な実施形態は、ターボ機械において高減衰のシールをもたらすための装置および方法をもたらす。この説明が、本発明を限定しようとするものではないことを、理解すべきである。むしろ、典型的な実施形態は、添付の特許請求の範囲によって定義されるとおりの本発明の技術的思想および技術的範囲に含まれる代案、変更、および均等物を包含するように意図されている。さらに、典型的な実施形態の詳細な説明においては、多数の具体的詳細が、請求項に記載の発明の包括的な理解をもたらすために説明されている。しかしながら、種々の実施形態をそのような具体的詳細を備えずに実施できることを、当業者であれば理解できるであろう。
【0065】
現在の典型的な実施形態の特徴および構成要素を、実施形態において特定の組み合わせにて説明したが、各々の特徴または構成要素を、実施形態の他の特徴および構成要素を備えずに単独で使用することが可能であり、もしくは本明細書に開示の他の特徴および構成要素を備え、あるいは備えない種々の組み合わせにて使用することが可能である。
【0066】
本明細書は、あらゆる装置またはシステムの製作および使用ならびにあらゆる関連の方法の実行など、当業者による実施を可能にする用に開示された主題の例を使用している。主題の特許可能な範囲は、特許請求の範囲によって定められ、当業者であれば想到できる他の例を含むことができる。そのような他の例は、特許請求の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0067】
100 遠心圧縮機
102 ハウジング
104 回転シャフト
106 インペラ
108 ディフューザ
112 バランスピストンラビリンスシール
114 アイラビリンスシール
116 シャフトラビリンスシール
118 スペーサ
119 バランスピストン
200 ラビリンスシール
202 回転部分
204 溝
206 静止部分
208 すき間
224 歯
300 ロータ
302 軸方向
304 成分
400 装置
402 回転部分
404 溝
405 ラビリンスシール
406 静止部分
408 すき間
410 回転部分
412 第1の回転部分
414 第2の回転部分
416 表面
418 歯
500 装置
502 ラビリンスシール
504 溝
506 溝
508 静止部分
510 第1の回転部分
512 第2の回転部分
514 すき間
518 表面
600 ロータ
604 成分
606 成分
800 装置
図1
図2
図3a
図3b
図4
図5
図6a
図6b
図7
図8
図9a
図9b