特許第6283413号(P6283413)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6283413
(24)【登録日】2018年2月2日
(45)【発行日】2018年2月21日
(54)【発明の名称】適応型残留フィードバック抑制
(51)【国際特許分類】
   H04R 25/00 20060101AFI20180208BHJP
【FI】
   H04R25/00 J
【請求項の数】14
【全頁数】27
(21)【出願番号】特願2016-528128(P2016-528128)
(86)(22)【出願日】2014年11月4日
(65)【公表番号】特表2017-500780(P2017-500780A)
(43)【公表日】2017年1月5日
(86)【国際出願番号】EP2014073711
(87)【国際公開番号】WO2015067606
(87)【国際公開日】20150514
【審査請求日】2017年10月16日
(31)【優先権主張番号】PA201370645
(32)【優先日】2013年11月5日
(33)【優先権主張国】DK
(31)【優先権主張番号】13191660.3
(32)【優先日】2013年11月5日
(33)【優先権主張国】EP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】503021401
【氏名又は名称】ジーエヌ ヒアリング エー/エス
【氏名又は名称原語表記】GN Hearing A/S
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】特許業務法人快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ヴァンデルワーフ エリック コーネリス ディーデリック
【審査官】 岩田 淳
(56)【参考文献】
【文献】 特表2009−510853(JP,A)
【文献】 特表2008−523746(JP,A)
【文献】 特開2010−183563(JP,A)
【文献】 米国特許第05259033(US,A)
【文献】 欧州特許出願公開第02217007(EP,A1)
【文献】 欧州特許出願公開第02136575(EP,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G10L 13/00−13/10
19/00−99/00
H04R 1/10
3/00− 3/14
25/00−25/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
音声信号を生成するための入力トランスデューサと、
補聴器のフィードバック経路をモデル化するように構成されたフィードバック抑制回路と、
前記音声信号から前記フィードバック抑制回路の出力信号を減じて、フィードバック補償後の音声信号を形成する減算器と、
前記フィードバック補償後の音声信号を処理して聴力損失補償を実施するために、前記減算器の出力に接続された信号プロセッサと、
前記処理済みのフィードバック補償後の音声信号を音響信号に変換するために、前記信号プロセッサの出力に接続されたレシーバと、
少なくとも前記フィードバック補償後の音声信号の残留フィードバック信号の推定に基づいて、前記フィードバック補償後の音声信号の利得調節を実施するための利得プロセッサであって、前記残留フィードバック信号の前記推定が少なくとも前記音声信号に基づく、前記利得プロセッサと、を備える補聴器であって、
前記利得プロセッサは、前記フィードバック補償後の音声信号に対して利得を適用し、結果として生じる前記補聴器の出力信号の音の大きさは、残留フィードバック信号なしで取得されるはずの音の大きさと実質的に等しくなる、補聴器。
【請求項2】
前記フィードバック抑制回路が前記補聴器の初期化中に構成され、前記残留フィードバック信号の前記推定が、前記補聴器の前記初期化中に得られた前記フィードバック抑制回路の構成にさらに基づく、請求項1に記載の補聴器。
【請求項3】
前記フィードバック抑制回路が可変である構成を有し、前記残留フィードバック信号の前記推定が、前記補聴器の現在の動作中に決定された前記フィードバック抑制回路の構成にさらに基づく、請求項1に記載の補聴器。
【請求項4】
前記フィードバック抑制回路は適応フィルタを備える、請求項1から3のいずれか一項に記載の補聴器。
【請求項5】
前記利得プロセッサと前記信号プロセッサは、それぞれ前記利得調節と聴力損失補償とを別々に実施するように構成されている、請求項1から4のいずれか一項に記載の補聴器。
【請求項6】
前記信号プロセッサが、1組の周波数帯kにおいてマルチバンド聴力損失補償を実施するように構成されており、前記残留フィードバック信号の前記推定が、前記周波数帯kにおける前記残留フィードバック信号の推定を含む請求項1から5のいずれか一項に記載の補聴器。
【請求項7】
前記それぞれの周波数帯kにおける前記残留フィードバック信号の推定Rが次式によって与えられ、
【数1】
前記利得調節の大きさαが次式から計算され、
【数2】
ここで、βは前記残留フィードバック信号をフィードバック基準に関連付けるスケーリング項であり、
は前記フィードバック抑制回路を使用して取得されたフィードバック基準利得であり、
は前記音声信号からの寄与度である、請求項6に記載の補聴器。
【請求項8】
前記フィードバック抑制回路が適応フィルタを備え、βが次式から計算され、
【数3】
ここで、qは整数であり、
|| ||はベクトルのpノルムを示し、pは正の整数であり、
は静的状況における前記フィードバック経路のモデル化において前記フィードバック抑制回路の精度に関するスケール係数であり、
は動的状況における前記フィードバック経路のモデル化において前記フィードバック抑制回路の精度に関するスケール係数であり、
ベクトルhempは特定の周波数を強調するためのフィルタを表し、
ベクトルwは前記適応フィルタの係数ベクトルであり、
ベクトルwrefは前記適応フィルタの基準係数ベクトルであって、
σnormは低域通過フィルタを適用されたフィードバック抑制回路のノルム
【数4】
である、請求項7に記載の補聴器。
【請求項9】
qが2に等しい、請求項8に記載の補聴器。
【請求項10】
ベクトルhempが1に等しい、請求項8又は9に記載の補聴器。
【請求項11】
前記pノルムが1ノルムである、請求項8から10のいずれか一項に記載の補聴器。
【請求項12】
前記利得プロセッサの処理パラメータを平滑化するように構成されたアタック・フィルタおよびリリース・フィルタをさらに備える、請求項1から11のいずれか一項に記載の補聴器。
【請求項13】
残留フィードバックを抑制する方法であって、
音響信号を音声信号に変換するステップと、
入力信号を受け取るフィードバック抑制回路を使用して、前記音声信号に基づいてフィードバック経路をモデル化し、出力信号を生成するステップと、
前記音声信号から前記フィードバック抑制回路の前記出力信号を減じて、フィードバック補償後の音声信号を形成するステップと、
少なくとも前記音声信号に基づいて、前記フィードバック補償後の音声信号の、残留フィードバック信号部分の推定を決定するステップと、
少なくとも前記推定に基づいて、前記フィードバック補償後の音声信号に利得を適用するステップと、を含み、
前記利得が前記フィードバック補償後の音声信号に対して適用されることで、結果として生じる前記フィードバック補償後の音声信号の音の大きさは、残留フィードバック信号なしで取得されるはずの音の大きさと実質的に等しくなる、方法。
【請求項14】
前記フィードバック経路を監視するステップをさらに含み、前記残留フィードバック信号部分の前記推定が、前記監視するステップからの結果に基づく、請求項13に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書で説明される一実施形態は、補聴器などの聴覚デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
補聴器では、聴力を回復するために、補聴器のマイクロフォンに到達した音響信号が増幅され、小さなスピーカで出力される。マイクロフォンとスピーカの間の距離が短いと、フィードバックが生じ得る。このフィードバックは、増幅された音響出力信号の一部分がマイクロフォンに伝搬して戻り、繰り返し増幅されることによって生じる。フィードバック信号がマイクロフォンにおいて元の信号のレベルを上回ると、フィードバック・ループが不安定になり、場合によっては可聴歪みまたはハウリングを招く。フィードバックを止めるためには、利得を下げる必要がある。
【0003】
フィードバックのリスクにより、補聴器で用いることができる最大の利得が制限される。
【0004】
補聴器においてフィードバック抑制を用いることは周知である。フィードバック抑制を用いると、マイクロフォン信号からフィードバック・モデルの信号を減算することにより、マイクロフォンに到達するフィードバック信号が抑制される。フィードバック・モデルの信号は、補聴器の出力信号が繰り返し増幅されるように補聴器の入力に戻る伝搬のフィードバック経路をモデル化するように構成されたデジタル・フィードバック抑制回路によってもたらされる。レシーバ(補聴器の技術分野では、補聴器のスピーカは、通常、レシーバと呼ばれる)の伝達関数およびマイクロフォンの伝達関数は、伝搬のフィードバック経路のモデルの中に含まれる。したがって、フィードバック抑制回路は、その伝達関数をフィードバック経路の対応する伝達関数とできる限り密に一致するように適応させる。
【0005】
デジタル・フィードバック抑制回路は、フィードバック経路をモデル化するために1つまたは複数のデジタル適応フィルタを含むことができる。音声信号のフィードバック信号部分を除去するために、マイクロフォンの音声信号からフィードバック抑制回路の出力が減じられる。
【0006】
たとえば指向性マイクロフォン・システムを有するような、複数のマイクロフォンを備える補聴器では、補聴器は、個々のマイクロフォンおよびグループのマイクロフォンのために、別々のデジタル・フィードバック抑制回路を備ることができる。
【0007】
音声信号のフィードバック部分が完全に除去され、その結果、補聴器の周囲で生じた外部信号のみが補聴器において増幅されることが理想的である。しかしながら、実際には、フィードバック抑制回路はフィードバック経路を完全にモデル化することができず、好ましくない残留フィードバック信号が増幅される。不安定性付近では、残留フィードバック信号により、補聴器の出力レベルが所望の出力レベルを上回る可能性がある。
【0008】
EP2203000A1は、適応型フィードバック利得回路を利用する、残留フィードバックの抑制を伴う補聴器を開示しており、残留フィードバックのレベルは、補聴器の電源投入中またはフィッティング中に決定された、補聴器利得およびフィードバック経路モデルに基づいて推定される。
【発明の概要】
【0009】
補聴器において適応型フィードバック抑制を実施するための新規の方法と、この方法を利用する補聴器とが提供される。この方法によれば、残留フィードバックが推定され、かつ低減される。残留フィードバックの推定は、補聴器の入力信号の特徴に基づくものである。
【0010】
残留フィードバックの別の推定に基づいて残留フィードバックが抑制される新規の方法および新規の補聴器が提供される。
【0011】
この新規の方法によれば、また新規の補聴器では、残留フィードバック信号の推定に基づく利得調整によって残留フィードバックが低減され、この推定は、入力信号のパワー・スペクトルといった、補聴器の入力信号に基づくものである。
【0012】
したがって、残留フィードバックを抑制する新規の方法が提供され、この方法は、
音響信号を音声信号に変換するステップと、
入力信号を受け取るフィードバック抑制回路を用いて、音声信号に基づいてフィードバック経路をモデル化し、出力信号を生成するステップと、
音声信号からフィードバック抑制回路の出力信号を減じて、フィードバック補償後の音声信号を形成するステップと、
少なくとも音声信号に基づいて、フィードバック補償後の音声信号の、残留フィードバック信号部分の推定を決定するステップと、
少なくともこの推定に基づいて、フィードバック補償後の音声信号に利得を適用するステップと、を含む。
【0013】
この方法は、フィードバック経路を監視するステップをさらに含んでよく、残留フィードバック信号部分の推定は、この監視するステップからの結果に基づくものである。
【0014】
さらに、新規の補聴器が提供され、この補聴器は、
音声信号を生成するための入力トランスデューサと、
補聴器のフィードバック経路をモデル化するように構成されたフィードバック抑制回路と、
音声信号からフィードバック抑制回路の出力信号を減じて、フィードバック補償後の音声信号を形成する減算器と、
フィードバック補償後の音声信号を処理し、聴力損失補償を実施するために、減算器の出力に接続された信号プロセッサと、
処理済みのフィードバック補償後の音声信号を音響信号に変換するために、信号プロセッサの出力に接続されたレシーバとを備え、
少なくともフィードバック補償後の音声信号の残留フィードバック信号の推定に基づいて、フィードバック補償後の音声信号の利得調節を実施するための利得プロセッサであって、残留フィードバック信号の推定が、少なくとも音声信号に基づくものである利得プロセッサをさらに備える。
【0015】
トランスデューサは、一形態のエネルギーの信号を、別の形態のエネルギーの、対応する信号に変換するデバイスである。たとえば、入力トランスデューサはマイクロフォンを備えることができ、マイクロフォンは、到達する音響信号を対応するアナログ音声信号に変換し、アナログ音声信号の瞬時電圧は、音響信号の音圧とともに連続的に変化する。好ましくは、入力トランスデューサはマイクロフォンを備える。
【0016】
入力トランスデューサは、テレコイルにおける磁界を、対応するアナログ音声信号に変換するテレコイルも備えてよく、アナログ音声信号の瞬時電圧は、テレコイルにおける磁界強度に応じて連続的に変化する。テレコイルは、たとえば教会、観客席、劇場、映画などの公共の場において複数の人に話しかけている話者からの発話、または駅、空港、ショッピング・モールなどにおけるパブリック・アドレス・システムによる発話の、信号対雑音比を増大するために使用され得る。話者からの発話は、誘導ループ・システム(「聴覚ループ」とも称される)を用いて磁界に変換され、磁気的に送信された発話信号を磁気的に受信するためにテレコイルが使用される。
【0017】
入力トランスデューサは、間隔を置いて配置された少なくとも2つのマイクロフォンと、それらの出力信号をたとえば当技術分野で周知の通りに指向性マイクロフォン信号に組み合わせるように構成されたビームフォーマとをさらに備ることができる。
【0018】
入力トランスデューサは、1つまたは複数のマイクロフォンと、テレコイルと、音声信号としてたとえばオムニ指向性マイクロフォン信号、または指向性マイクロフォン信号、またはテレコイル信号を、たとえば単独で、または任意の組合せにおいて選択するためのスイッチとを備ることができる。
【0019】
出力トランスデューサは、アナログ音声信号を、アナログ音声信号の振幅によって音圧の瞬時値が連続的に変化する、対応する音響音声信号に変換するレシーバ、すなわち小さなスピーカを備えることが好ましい。
【0020】
アナログ音声信号は、アナログ・デジタル変換器において、デジタル信号処理に適切な対応するデジタル音声信号に変換することができ、それによってアナログ音声信号の振幅が2進数で表される。このようにして、一連のデジタル値の形式の離散時間および離散振幅のデジタル音声信号が、連続時間および連続振幅のアナログ音声信号を表す。
【0021】
出力トランスデューサからの出力信号の一部分が、補聴器ハウジングの外部の外部信号経路と補聴器ハウジングの内部の内部信号経路の両方に沿って入力トランスデューサまで伝搬して戻される可能性がある。
【0022】
たとえば補聴器のイヤモールドが着用者の耳に完全には適合しないとき、またはイヤモールドがたとえば換気のために管もしくは開口を備える場合、音響フィードバックが生じる。どちらの例でも、レシーバから音が「漏れて」マイクロフォンまで戻され、それによってフィードバックの原因になり得る。
【0023】
補聴器ハウジングと補聴器ハウジングの内部の構成要素との機械的振動によって機械的フィードバックが引き起こされることがある。機械的振動はレシーバによって生成されることがあり、たとえばレシーバマウントを通じて補聴器の他の部分へ伝達される。いくつかの補聴器では、レシーバがハウジングの中に柔軟に取り付けられ、それによってレシーバから補聴器の他の部分への振動の伝達が低減される。
【0024】
内部フィードバックは、レシーバ内のコイルによって生成された電磁界がテレコイルに伝搬することによっても引き起こされることがある。
【0025】
本開示を通じて、音声信号のなかで、たとえば音、機械的振動、および電磁界等に応じて補聴器自体によって生成される部分は、音声信号のフィードバック信号部分、短くはフィードバック信号と称される。
【0026】
音声信号のフィードバック信号部分とフィードバック抑制回路の出力信号の間の差は、音声信号の残留フィードバック信号部分と称され、短くは残留フィードバック信号と称される。
【0027】
外部フィードバック経路は補聴器「の周りに」延在し、したがって通常は内部フィードバック経路よりも長く、すなわち、音がレシーバからマイクロフォンまで達するのに伝搬しなければならない距離は、内部フィードバック経路よりも外部フィードバック経路の方が長い。したがって、レシーバから音が放射されるとき、外部フィードバック経路に沿って伝搬する部分は、内部フィードバック経路に沿って伝搬する部分と比較すると遅れてマイクロフォンに到達することになる。したがって、別々のデジタル・フィードバック抑制回路が、それぞれ第1および第2の時間窓に対して作用してよく、第1の時間窓の少なくとも一部分は第2の時間窓に先行する。第1の時間窓と第2の時間窓がオーバーラップするか否かは、内部フィードバック経路のインパルス応答の長さに依存する。
【0028】
外部フィードバックは使用中にかなり変化する可能性がある一方で、内部フィードバックはより不変とすることができ、製造時に対処され得る。
【0029】
オープン・ソリューションは、レシーバ出力が、外耳道における密封によってマイクロフォン入力から分離されることがないので、長いインパルス応答を伴うフィードバック経路をもたらす可能性がある。
【0030】
外耳道の意図された使用位置に配置されときに、外耳道を塞がないハウジングを有する補聴器は、「オープン・ソリューション」に分類される。「オープン・ソリューション」という用語が用いられる理由は、外耳道壁の一部分とハウジングの一部分の間に通路が形成され、この通路を通って、鼓膜とハウジングの間のハウジングの背後から音波がユーザの周囲に流出することを可能にするからである。オープン・ソリューションを用いると、オクルージョン効果が低減され、好ましくは実質的に解消する。
【0031】
高レベルの快適さで多数のユーザに合う標準サイズの補聴器のハウジングが、オープン・ソリューションを代表し得る。
【0032】
前述のように、フィードバックのリスクにより、補聴器で達成可能な最大の利得が制限される。
【0033】
音声信号から、音声信号のフィードバック信号部分を除去し得るのが望ましいであろう。
【0034】
したがって、フィードバック経路をモデル化するように構成されたフィードバック抑制回路が補聴器に与えられ、すなわち、望ましくは、フィードバック抑制回路の出力信号が音声信号のフィードバック信号部分とできる限り密に一致するように、フィードバック抑制回路はフィードバック経路自体と同一の伝達関数を有する。
【0035】
フィードバック信号が除去、又は少なくとも低減されたフィードバック補償後の音声信号を形成するために、音声信号からフィードバック抑制回路の出力信号を減算するための減算器が用意される。
【0036】
フィードバック抑制回路は、フィードバック経路の現在の伝達関数をトラッキングする適応フィルタを備ることができる。
【0037】
しかしながら、上記で論じたように、フィードバック抑制回路のトラッキング性能の制約のために、推定のフィードバック信号と実際のフィードバック信号の間の差によって形成される、音声信号の残留フィードバック信号部分が残る可能性がある。
【0038】
新規の方法によれば、新規の補聴器では、フィードバック抑制を改善するために利得プロセッサが設けられる。利得プロセッサは、少なくとも、たとえば音声信号のパワー・スペクトルといった音声信号に基づく、残留フィードバック信号の改善された推定に基づいて、フィードバック補償後の音声信号に対して利得を適用することにより、残留フィードバック信号を補償するように構成されている。
【0039】
利得プロセッサは、フィードバック補償後の音声信号に対して望ましくは利得を適用し、結果として生じる補聴器の出力信号の音の大きさは、残留フィードバック信号なしで取得されるはずの音の大きさと実質的に等しくなる。
【0040】
たとえば、入力信号における音声信号の残留フィードバック信号部分の推定は、フィードバックの高リスク、またはたとえばフィードバック抑制回路がフィードバックを防ぐためには不十分な情報をもたらす場合のフィードバックを検知するための音声信号の入力スペクトルの解析を含み得る。
【0041】
フィードバック抑制回路は補聴器の初期化中に構成されてよく、残留フィードバック信号の推定は、補聴器の初期化中に得られたフィードバック抑制回路の構成にさらに基づいてよい。
【0042】
初期化は、EP2203000A1に開示されているように、補聴器の電源投入中および/またはフィッティング中に実施されてよい。
【0043】
フィードバック抑制回路は、可変である構成を有することができ、残留フィードバック信号の推定は、補聴器の現在の動作中に決定されたフィードバック抑制回路の構成にさらに基づくことができる。したがって、残留フィードバック信号の推定は、たとえばユーザの外耳道における補聴器の再挿入、耳垢の蓄積、電子部品の経年劣化などから結果として生じる、たとえばフィードバック経路のゆっくりした変動の後に、フィードバック経路をモデル化する補聴器の現在の動作中に決定された最新のフィードバック抑制回路に基づくことができる。
【0044】
残留フィードバック信号の推定は、補聴器の利得値にさらに基づくことができる。
【0045】
フィードバック抑制回路は1つまたは複数の適応フィルタを備ることができる。
【0046】
残留フィードバック信号の推定は、1つまたは複数の適応フィルタのフィルタ係数に基づくものでよい。
【0047】
利得調節は、聴力損失補償から分離して、好ましくはヒアリング損失補償の前に実施されてよい。
【0048】
残留フィードバック信号の推定は、適応型広帯域寄与度βの推定を含み得る。
【0049】
信号プロセッサは、1組の周波数帯kにおいてマルチバンド聴力損失補償を実施するように構成されてよく、残留フィードバック信号の推定は、それぞれの周波数帯kにおける残留フィードバック信号の個別推定を含む。
【0050】
それぞれの周波数帯kにおける残留フィードバック信号の推定Rは、次式によって与えられてよい。
【数1】
利得調節の大きさαは次式から計算され得る。
【数2】
ここで、
βは、残留フィードバックをフィードバック基準に関連付けるスケーリング項であり、
はフィードバック抑制回路を使用して取得されたフィードバック基準利得であり、
は音声信号からの寄与度である。
【0051】
フィードバック抑制回路は適応フィルタを備えてよく、βは次式から計算され得る。
【数3】
ここで、
qは整数であり、
|| ||はベクトルのpノルムを示し、pは1ノルム、2ノルム、3ノルムなどの正の整数であって好ましくは1ノルムであり、
は静的状況におけるフィードバック経路のモデル化においてフィードバック抑制回路の精度に関するスケール係数であり、
は動的状況におけるフィードバック経路のモデル化においてフィードバック抑制回路の精度に関するスケール係数であり、
ベクトルhempは特定の周波数を強調するためのフィルタを表し、
ベクトルwは適応フィルタの係数ベクトルであり、
ベクトルWrefは適応フィルタの基準係数ベクトルであり、
σnormは低域通過フィルタを適用されたフィードバック抑制回路のノルムであって、次式で表される。
【数4】
周波数強調は省略されてよく、すなわちベクトルhempは1に等しいものとすることができる。qは2に等しいものとすることができ、
【数5】
であり、q→∞の大きな値については次式となる。
【数6】
【0052】
補聴器は、利得プロセッサの処理パラメータを平滑化するように構成されたアタック・フィルタおよびリリース・フィルタをさらに備ることができる。
【0053】
たとえばフィードバック抑制回路がフィードバックを防ぐためには不十分な情報をもたらす場合、入力信号に基づく音声信号の残留フィードバック信号部分の推定は、フィードバックを検知するための音声信号の入力スペクトルの解析を含み得る。
【0054】
フィードバック抑制回路を監視すると、特に補聴器を伴う耳に電話を近付けることなど、フィードバック経路をモデル化するフィードバック抑制回路の顕著な変化を検知したとき、音声信号の残留フィードバック信号部分の推定が改善される。そのようなフィードバック経路の変化は、フィードバック抑制回路が変化に適合するための時間を得るまで、残留フィードバック信号の大きさの顕著な増大を引き起こす可能性がある。そのような増大は、監視することにより、適切に推定され得る。
【0055】
補聴器は、異なる周波数帯において聴力損失補償を異なるように実施し、したがって、対象ユーザの聴力損失の周波数依存性を補償し得るマルチバンド補聴器でよい。マルチバンド補聴器では、入力トランスデューサからの音声信号が2つ以上の周波数チャネルまたは周波数帯に分割され、音声信号は、各周波数帯において異なるように増幅されてよい。たとえば、対象ユーザの聴力損失に合わせて音声信号のダイナミック・レンジを圧縮するためにコンプレッサが利用されてよい。マルチバンド補聴器では、コンプレッサは、周波数帯の各々において圧縮を異なるように実施し、各周波数帯に関連した圧縮比ばかりでなく各周波数帯に関連した時定数も変化させる。時定数は、コンプレッサのアタック時定数およびリリース時定数を意味するものである。コンプレッサのアタック時間は、コンプレッサが、大きな音の始まりにおいて利得を低下させるのに必要な時間である。リリース時間は、コンプレッサが、大きな音の停止後に利得を増大するのに必要な時間である。
【0056】
たとえば1つまたは複数の適応フィルタを含むフィードバック抑制回路は広帯域回路でよく、すなわち、フィードバック抑制回路は、補聴器の実質的に全周波数範囲または補聴器の周波数範囲のかなりの部分において、1組の周波数帯に分割されることなく作動し得る。
【0057】
あるいは、フィードバック抑制回路は、各周波数帯におけるフィードバック経路の個々のモデル化のために1組の周波数帯に分割されてもよい。この場合、残留フィードバック信号の推定は、フィードバック抑制回路の各周波数帯mにおいて個々に与えられ得る。
【0058】
フィードバック抑制回路の周波数帯mと聴力損失補償の周波数帯kは同一でよいが、好ましくは異なるものであり、フィードバック抑制回路の周波数帯mの数は、好ましくは聴力損失補償の周波数帯の数よりも少ない。
【0059】
本開示を通じて、音声信号という用語は、マイクロフォンの出力からプロセッサの入力への信号経路の一部分を形成する何らかのアナログまたはデジタルの信号を識別するために用いられる。
【0060】
フィードバック抑制回路は、専用の電子ハードウェア回路として実施されてよく、または適切な信号処理ソフトウェアと組み合わせて信号プロセッサの一部分を形成してよく、または適切な信号処理ソフトウェアと専用ハードウェアおよび1つまたは複数の信号プロセッサとの組合せでもよい。
【0061】
新規の補聴器における信号処理は、専用ハードウェアによって実施されてよく、または信号プロセッサにおいて実施されてよく、または専用ハードウェアと1つもしくは複数の信号プロセッサとの組合せにおいて実施されてもよい。
【0062】
本明細書で用いられる「プロセッサ」、「信号プロセッサ」、「コントローラ」、「システム」などの用語は、ハードウェア、ハードウェアとソフトウェアの組合せ、ソフトウェア、または実行されているソフトウェアのいずれかといったCPU関連のエンティティを称することが意図されている。
【0063】
たとえば「プロセッサ」、「信号プロセッサ」、「コントローラ」、「システム」などは、それだけではないが、プロセッサ上で実行しているプロセス、プロセッサ、オブジェクト、実行可能ファイル、実行のスレッド、および/またはプログラムであってもよい。
【0064】
具体例として、「プロセッサ」、「信号プロセッサ」、「コントローラ」、「システム」などの用語は、プロセッサ上で実行しているアプリケーションとハードウェア・プロセッサとの両方を示す。1つまたは複数の「プロセッサ」、「信号プロセッサ」、「コントローラ」、「システム」など、またはこれらの任意の組合せが、プロセスおよび/または実行のスレッドの内部に存在することがあり、1つまたは複数の「プロセッサ」、「信号プロセッサ」、「コントローラ」、「システム」など、またはこれらの任意の組合せが、おそらくは他のハードウェア回路と組み合わせて1つのハードウェア・プロセッサ上にローカライズされてよく、かつ/または、おそらくは他のハードウェア回路と組み合わせて2つ以上のハードウェア・プロセッサの間に分配されてもよい。
【0065】
また、プロセッサ(または類似の用語)は、任意の構成要素または信号処理を実施することができる構成要素の任意の組合せであってもよい。例示のために、信号プロセッサは、ASICプロセッサ、FPGAプロセッサ、汎用プロセッサ、マイクロプロセッサ、回路の構成要素、または集積回路であってもよい。
【0066】
他の態様および特徴ならびにさらなる態様および特徴が、以下の詳細な説明を読み取ることから明らかになるであろう。
【0067】
図面は、各実施形態の設計および有用性を示すものであり、類似の要素は共通の参照数字によって参照される。これらの図面は、原寸に比例していることも原寸に比例していないこともある。上に列挙された利点および目的ならびに他の利点および目的がいかに得られるかをよりよく理解するために、実施形態のより詳細な説明が提供され、添付図面に示される。これらの図面は例示的実施形態のみを示すものであり、したがって特許請求の範囲における限定と見なされるべきではない。
【0068】
以下では、新規の方法および補聴器が、図面を参照しながらより詳細に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0069】
図1】補聴器を示す概略図である。
図2】フィードバック抑制を伴う補聴器を示す概略図である。
図3】補聴器におけるフィードバック抑制の概念的概略図である。
図4】利得プロセッサによるフィードバック抑制のための概念モデルを示す概略図である。
図5】利得プロセッサによる適応型フィードバック抑制を伴う補聴器を示す概略図である。
図6】方法の一実施形態を示すフローチャートである。
図7】従来技術の補聴器に関するシミュレートされたフィードバック信号のプロットを示す図である。
図8】利得プロセッサを有する補聴器のシミュレートされたフィードバック信号のプロットを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0070】
様々な実施形態が、図を参照しながら以下で説明される。これらの図は、実施形態の説明を容易にすることのみが意図されていることにも留意されたい。これらの図は、本発明の網羅的説明または本発明の範囲における制限として意図されたものではない。それに加えて、図示の実施形態は、示されたすべての態様または利点を有する必要はない。特定の実施形態とともに説明された態様または利点は必ずしもその実施形態に限定されるわけではなく、任意の他の実施形態において、そのように説明されていなくとも実施され得る。
【0071】
添付の特許請求の範囲による新規の方法および補聴器は、添付図面に示されていない別の形態で実施されてよく、本明細書で説明された例に限定されるように解釈されるべきではない。全体にわたって、同じ参照数字は同じ要素を表す。したがって、各図の説明に関して同じ要素が詳細に説明されることはない。
【0072】
図1は、補聴器10と、補聴器10によって生成された信号が補聴器10の入力に伝搬して戻るフィードバック経路12とを概略的に示すものである。
【0073】
図1において、音響信号14はマイクロフォン16によって受け取られて音声信号18に変換され、これが聴力損失補償のために信号プロセッサ20に入力される。信号プロセッサ20において、音声信号18がユーザの聴力損失に合わせて増幅される。信号プロセッサ20は、たとえばマルチバンド・コンプレッサを備えてよい。信号プロセッサ20の出力信号22は、補聴器がユーザの耳の適切な使用位置に着用されたときに音響信号をユーザの鼓膜の方へ導くレシーバ26によって、音響出力信号24に変換される。
【0074】
レシーバ26からの音響信号24の一部分が、図1のフィードバック経路12によって示されるようにマイクロフォン16へ伝搬して戻る。
【0075】
低利得では、フィードバックが引き起こすのは、音の無害な色付けのみである。しかしながら、補聴器の利得が大きいとマイクロフォン16におけるフィードバック信号のレベルが元の音響信号のレベルを上回り、それによって可聴歪みの原因となり、ハウリングが生じるおそれもある。
【0076】
フィードバックを克服するために、図2に示されるように補聴器の中にフィードバック抑制回路を設けることが周知である。
【0077】
図2は、フィードバック抑制回路28を有する補聴器10を概略的に示すものである。フィードバック抑制回路28は、フィードバック経路12をモデル化し、すなわちフィードバック経路12に沿って伝搬する信号と同一の信号を生成しようとし、すなわち、フィードバック抑制回路28は、その伝達関数をフィードバック経路の対応する伝達関数とできる限り密に一致するように適応させる。フィードバック抑制回路28がレシーバ26とマイクロフォン16とのモデルを含むことに留意されたい。
【0078】
補聴器10において、フィードバック抑制回路28は、フィードバック経路12における変化に適応する適応デジタル・フィルタでよい。
【0079】
フィードバック抑制回路28は、信号プロセッサ20における処理が行われる前に音声信号18のフィードバック信号部分を抑制または消去するために、減算器32に対する出力信号30を生成する。
【0080】
フィードバック抑制回路28によるフィードバック経路12のモデル化が正確でなければ、フィードバック補償後の音声信号34の中に、フィードバック信号の小部分(残留フィードバック信号)が残る。
【0081】
図3は、補聴器における信号処理および信号の線形モデルを概略的に示す。フィードバック抑制回路28がモデル化する実際のフィードバック経路12の伝達関数は、レシーバ(図示せず)、マイクロフォン(図示せず)、および可能性のある他のアナログ構成要素(図示せず)を含む。フィードバック抑制回路28は、音声信号x(18)から減じるべき信号c(30)を出力することにより、フィードバック信号fを解消するか少なくとも実質的に低減するように構成されている。残念ながら、フィードバック抑制回路28は実際のフィードバック経路12を正確にモデル化することができず、それによって、フィードバック補償後の音声信号e(34)の中には残留フィードバック信号部分が残る。
【0082】
以下では、時間領域の信号および関数に対して小文字が用いられ、それらのz変換に対して大文字が用いられることになる。
【0083】
図3を参照して、残留フィードバック信号Rは、実際のフィードバック信号Fとフィードバック抑制回路Cの出力の間の差であり、次式で表される。
【数7】
【0084】
図3に示される線形モデルにおいて、出力/入力の伝達関数は次式によって与えられる。
【数8】
【0085】
|GR|<<1であるとき、すなわち残留フィードバック信号のレベルが非常に小さいとき、補聴器によってもたらされる有効利得が補聴器の利得Gで近似されることに留意されたい。利得Gが高く、かつ/または顕著な残留フィードバックRがあると、GR項を無視することができず、|H|は所望の利得Gから異なることになる。
【0086】
図4が概略的に示す例示の新規補聴器10が有する利得プロセッサ38は、残留フィードバック信号の影響を低減するように、フィードバック補償後の音声信号34に対して利得αを適用するように構成されている。
【0087】
したがって、利得αは、望ましくは
【数9】
となるように決定され、xは補聴器自体ではなく他の音源によって生成された音声信号の外側部分であり、eはフィードバック補償後の音声信号34であり、それによって、利得を掛けた後の信号の大きさが、残留フィードバックがない状態の音声信号の大きさに相当する。
【0088】
図4において、信号x、r、およびfは補聴器の回路内に個々に存在することはなく、一方、信号e、c、y、およびzは補聴器の回路内に個々に存在することに留意されたい。
【0089】
表記法の容易さのために、以下では期待値演算子E[.]が省略されて、代わりに分散が用いられる。すべての信号はゼロの平均値を有する。
【0090】
フィードバック抑制回路28が残留フィードバック信号Rと音声信号Xの相関を最小化するように作用するので、これらの信号は相互に関連しないという適切な想定の下では、フィードバック補償後信号eの信号パワーは次式で与えられる。
【数10】
【0091】
あるいは、信号xとrの振幅値を加算することにより、フィードバック補償後信号eに関する最悪ケースの値を取得することができるが、現在は式(4)を用いることが好ましい。
【0092】
利得αを適用すると次式が得られ、
【数11】
これは外部信号パワーσと理想的に一致する(以下を参照されたい)。
【0093】
補聴器利得Gを適用し、残留フィードバック抑制回路を通って伝搬すると次式が得られる。
【数12】
【0094】
上記のすべてを組み合わせると、信号eの信号パワーに関する以下の推定が得られ、
【数13】
これを利得の平方に関して解くと次式となる。
【数14】
【0095】
Rの推定は以下で開示される。
【0096】
図5は、利得プロセッサ38を有する例示の新規補聴器を概略的に示すものである。図5に示される補聴器10は、EP2203000A1の図5に示された既知の補聴器に対応するものであるが、新規の補聴器は、以下でより詳細に説明されるように、残留フィードバック信号Rの改善された推定をもたらす。
【0097】
図5の補聴器10が有するコンプレッサは、WO03/015468により詳細に開示されている種類のデジタル周波数ワーピングを用いてダイナミック・レンジ圧縮を実施するものであり、具体的には、ワーピングされたコンプレッサの基本的動作原理は、図10およびWO03/015468の説明の対応する部分に示されている。図5に示された補聴器10は、WO03/015468の図10の補聴器に対応するものであるが、補聴器10の信号処理には、フィードバック抑制、利得処理、およびノイズ低減が追加されている。他の処理回路も追加され得る。
【0098】
別の例示的補聴器では、利得プロセッサ38はワーピングされていない周波数帯とともに採用され得る。
【0099】
図5に概略的に示された補聴器は単一マイクロフォン16を有する。しかしながら、補聴器10は、場合によってはビームフォーマとともに2つ以上のマイクロフォンを備えてよい。これらの構成要素は、話を簡単にするために示されていない。同様に、可能性のあるA/DコンバータおよびD/Aコンバータ、バッファ構造、任意選択の追加チャネルなどは、話を簡単にするために示されていない。
【0100】
マイクロフォン16によって受け取られた入来音響信号は、信号の平均値がゼロであることを保証するDCフィルタ42を通され、これは以前に論じられたような統計の計算にとって好都合である。別の例示的補聴器では、マイクロフォン16によって受け取られた信号が減算器32に直接渡されてよい。
【0101】
既に説明されたように、音声信号sから推定フィードバック信号cを減じることによってフィードバック抑制が適用され得る。フィードバック信号の推定30は、フィードバック抑制回路28によってもたらされる。図5に示された例では、フィードバック抑制回路28は、遅延の直列接続44と、低速適応または固定のフィルタ46と、補聴器10の出力信号zに対して作用する高速適応フィルタ48とを備える。
【0102】
原理的には、必要なのは1つの高速適応フィルタ48だけであるが、ここでは、固定または低速の適応フィルタ46およびバルク遅延44が効率および性能のために組み込まれている。固定または低速の適応フィルタ46は、たとえば、耳の中での補聴器の電源投入またはフィッティング中といった特定の時点において初期化された全極型または一般的な無限インパルス応答(IIR)フィルタでよく、一方、低速適応フィルタ46および高速適応フィルタ48は、好ましくは有限インパルス応答(FIR)フィルタであるが、原則として、任意の他の適応フィルタ構造(格子型、適応IIRなど)が用いられ得る。
【0103】
好ましい実施形態では、高速適応フィルタ48は全ゼロ・フィルタである。
【0104】
図示の補聴器10では、フィードバック抑制回路28は広帯域システムであり、すなわち、フィードバック抑制回路28は、マルチバンド補聴器10の全周波数範囲において動作する。しかしながら、入力トランスデューサからの音声信号のように、各周波数帯における個別処理のための2つ以上の周波数チャネルまたは周波数帯kに分割されてもよく、フィードバック抑制回路28に対する入力信号22は、フィードバック抑制回路28の各周波数帯mにおける個々のフィードバック抑制のために複数の周波数帯mに分割されてもよい。音声信号の周波数帯kとフィードバック抑制回路28の周波数帯mは同一でよいが異なってもよく、好ましくは、フィードバック抑制回路28は、周波数分割された音声信号よりも周波数帯mの数が少ない。
【0105】
フィードバック抑制回路28の出力信号30は、音声信号18から減じられて周波数領域に変換される。WO03/015468において、具体的には図10およびWO03/015468の記述の対応する部分においてより詳細に説明されているように、図5に示された補聴器10は、信号の解析が主要な信号経路50の外部で実施されるサイドブランチ構造52を有し、サイドブランチ52の出力から構成された時間領域フィルタを使用して信号整形が実施される。
【0106】
ワーピングされたサイドブランチ・システム52は、高品質の低遅延信号処理に関して利点を有するが、原則として、任意の標準的FFTシステム、マルチレート・フィルタ・バンク、またはワーピングされていないサイドブランチ・システムも使用され得る。したがって、周波数ワーピングを使用することは好都合であるが、残留フィードバック信号を推定する新規の方法を実施するためには全く必要でない。
【0107】
図5に示された補聴器10では、ワーピングされた周波数帯を発生するために、ワーピングされたFIRフィルタ50が設けられている。ワーピングされたFIRフィルタ50は、FIRフィルタのタッピングされた遅延ラインの単位遅延を、たとえばWO03/015468において説明されている当技術分野で周知の全パス・フィルタで置換することによって得られる。パワー推定は、それぞれのワーピングされた周波数帯においてFFT演算51を用いて形成される。ワーピングされた周波数帯の各々において、特定の順番で、それぞれのパワー推定を解析し、それぞれの信号に対して個々に適用される利得を調節する、一連のいわゆる利得エージェント38、54、56を有するサイドブランチ52が形成される。図5に示された補聴器10では、利得エージェントの順番は、利得プロセッサ38、ノイズ低減54、および音量復元56である。新規の補聴器の他の例では、利得エージェント38、54、56の順番が異なり得る。
【0108】
残留フィードバック信号を推定するために、第1の利得エージェントすなわち利得プロセッサ38は、ワーピングされた周波数帯における、フィードバック補償後の音声信号34のパワー推定をもたらすFFTプロセッサ51から入力を受け取る。それに加えて、利得プロセッサ38はフィードバック抑制回路28から入力を受け取り、最終的には、以前の反復において計算され、音量復元プロセッサ56によって出力される、周波数領域の利得ベクトル(ワーピングされたFIRフィルタ50によって適用される電流利得を表す)も、利得プロセッサ38に入力される。
【0109】
これらの入力に基づく、利得プロセッサ38による残留フィードバックの推定および利得値の計算が以下でさらに説明される。
【0110】
ここに示される、ノイズ低減をもたらす第2の利得エージェント54は、任意選択である。ノイズ低減は、最新の補聴器においてしばしば用いられる快適さの機能である。最初の2つの利得エージェント38と54は、ともに、元の信号のエンベロープを、好ましくないノイズまたはフィードバックなしで回復するやり方で音声信号を整形しようとする。
【0111】
最終的に、第3の利得エージェント56が、対象ユーザの聴力損失を補償するために音の大きさを調節する。利得プロセッサ38によるフィードバックなしで音の大きさを元の信号の音の大きさに復元するのと、聴覚を損なった聞き手のために音量復元プロセッサ56によって実施される、補聴器10の、対象ユーザの聴力損失に合わせたダイナミック・レンジ圧縮を含む通常の音の大きさの知覚の回復との間の有意差に留意されたい。
【0112】
前述のように、原則として、利得チェーンにおけるエージェント38、54および56は並べ換えられてよく、たとえば利得プロセッサ38がチェーンの最後に移動されてよい。しかしながら、現在は、非線形であり音圧に依存しうる、聴力損失依存性の調節が実施される前に、信号エンベロープが補正されるように、図示の順序を用いるのが好ましい。
【0113】
利得チェーンの最後に、周波数領域の出力利得ベクトル58が、逆高速フーリエ変換(IFFT)60を用いて変換して時間領域に戻され、ワーピングされたFIRフィルタの係数ベクトルとして用いられる。利得ベクトル58は、次の利得決定において用いられるように、利得プロセッサ38にも伝搬して戻される。
【0114】
最終的に、ワーピングされたFIRフィルタ50を通過した信号は、(場合によっては未知の)レシーバ16および/またはマイクロフォン16の非線形性がフィードバック経路に沿って伝搬しないことを保証するように、出力リミッタ62において出力制限される。そうでなければ、フィードバック抑制回路28は、大きな信号レベルの適切なモデル化に失敗する可能性がある。出力リミッタ62は省略され得る。たとえば、出力制限は、ダイナミック・レンジ・コンプレッサ、またはデジタル信号処理回路の他の部分によってもたらされてもよい。
【0115】
以下では、残留フィードバック信号が、利得プロセッサ38によって、EP2203000A1に開示された推定方式とは異なるやり方で推定される。
【0116】
図5に示されたマルチバンド補聴器10では、残留フィードバック信号Rkは次式によって推定される。
【数15】
この式で、Aはフィードバック抑制回路から取得されたフィードバック基準利得であり、Bは、入力のパワー・スペクトルを監視することから取得された、可能性のあるバンド・オフセット≧1であり、端数の残余誤差βは、残留フィードバック信号をフィードバックの基準レベルに関連付けるスケーリング項である。
【0117】
βおよびAはフィードバック抑制回路28に関するものであり、残留フィードバック信号の率先した好適な推定をもたらし、その結果、不安定性が生じる前に、フィードバック補償後の音声信号に対して残留フィードバックを補償する利得が適用される。しかしながら、たとえばフィードバック経路の高速の変化中および/または大きな変化中といった特定の状況では、フィードバック抑制回路28の適応が遅すぎて、かなりの残留フィードバックおよび可能性のある不安定性に通じる可能性がある。これらのタイプの状況では、音声信号に関連するバンド・オフセットBが残留フィードバックの推定にかなり寄与し、その結果、出現する不安定性を克服するためにフィードバックを補償する利得が適用される。
【0118】
、B、およびβの3つの項の決定が、以下でより詳細に開示される。
【0119】
について:
フィードバック基準利得Aは、フィードバック抑制回路28の伝達関数から取得される。EP2203000A1では、これは、初期化においてのみ、すなわちフィッティング中および/または補聴器の電源投入においてのみ実施されていた。フィードバック基準利得Aを取得する同一の方法が、ここでも用いられ得る。
【0120】
しかしながら、好ましくは、フィードバック基準利得Aは、動作中に、たとえばユーザの外耳道に補聴器が繰り返し挿入されることから生じる、たとえばフィードバック抑制回路28のゆっくりした変化の後に、定期的な時間間隔で更新される。
【0121】
図5に示された補聴器10では、ワーピングされた周波数帯kに関してフィードバック抑制回路28の伝達関数が計算され、すなわち、対象となる周波数に関してフーリエ変換が実施される。
【0122】
好ましくは、低周波数帯については、Aは対象となっている帯域の中心周波数において計算された値であるが、高周波数帯については、境界周波数におけるフーリエ変換も計算することによって分解能が2倍になる。
【0123】
このようにして、伝達関数は、たとえば22のビンといった複数のビンに対して計算され、値Aは、それぞれのワーピングされた周波数帯kごとに、3つの最も近い周波数ビンの最大の値にAを設定することによって決定され、それによって過小評価のリスクが抑制される。
【0124】
さらに、図5に示された補聴器10では、突然の変化は、変換された振幅に対して対数領域において1次の低域通過フィルタ(図示せず)を適用することによって低減される。
【0125】
処理能力の省力化のために、フーリエ変換は、サンプルの各ブロックに対してすべての周波数について実施されなくてもよく、たとえばサンプルの各ブロックにつき1つの周波数のみに対して実施されてよい。
【0126】
βについて:
図5に示された補聴器10では、βはサンプルのすべてのブロックに対して計算され、残留フィードバック信号│R│の振幅を決定するための基準レベル│A│に対するスケール係数として、すべての周波数帯kに対して用いられる。
【0127】
EP2203000A1では、βが唯一の適応性のあるメカニズムであり、一方、基準利得Aは、フィッティングにおける決定の間、または補聴器の電源投入において一定であった。新規の補聴器10では、基準利得Aの連続的な更新を伴う新規の方法によれば、βがフィードバック経路における高速の変化を引き受け、その一方で、より長い期間の変化は、最終的には適応型フィードバック基準利得Aに吸収されることになる。
【0128】
βは、2つの直交する寄与度、すなわち、たとえば限定的な正確さのために理想的な条件の下でフィードバック抑制回路の精度を表す静的寄与度と、フィードバック抑制回路が正確にトラッキングすることができない、フィードバック経路における変化による不正確を表す動的寄与度とから計算される。
【0129】
静的項については、残余誤差は、次の広帯域の1ノルムの推定に従ってフィードバック振幅に比例してスケーリングされる。
【数16】
ここで、ベクトルwはフィードバック抑制回路の高速適応フィルタの重み係数ベクトルであり、
ベクトルhは任意選択の周波数強調フィルタであり、*は畳み込みを示し、cは予期された静的性能に関する定数である。
【0130】
ベクトルwrefは、フィードバック抑制回路の高速適応フィルタの基準重み係数ベクトルである。ベクトルwがベクトルwrefと一致するとき、フィードバック抑制回路の応答は固定または低速の適応フィルタの応答と等しい。
【0131】
βの動的部分は、現在のフィードバック抑制回路を次式の基準モデルと比較することによって決定される。
【数17】
ここで、cは予期された動的性能に関する定数である。
【0132】
静的誤差と動的誤差が直交すると想定して、静的項と動的項は次式によって組み合わされる。
【数18】
この式は、次式を用いてさらに正規化される。
【数19】
これは、フィードバック抑制回路のノルムの低域通過フィルタを適用されたバージョンであり、適応レートは、フィードバック基準利得Aの更新のレートと一致する。
【0133】
この正規化を誤差推定σと組み合わせることにより、βは次式によって決定される。
【数20】
効率のために、静的部分(cを伴う)および正規化は、想定されるゆっくりした変化のために、サンプルのすべてのブロックについて更新する必要があるわけではなく、一方、動的部分すなわち|hemp*(w−wref)|)の項は、サンプルのすべてのブロックに対して更新されてよく、それによって高速のフィードバック抑制回路の変化がすべての帯域において均一に適用される。
【0134】
βの決定は、周波数強調を除去することにより、すなわちベクトルhempを1に設定することによってさらに簡易化される。
【0135】
およびcは、たとえばに様々な状況におけるトラッキング精度などのシステム性能に基づいて実験的に決定され得る。
定常条件の下では
【数21】
となり、その結果、式(14)は次式に簡易化される。
【数22】
【0136】
端数の残余誤差の静的部分はcによって決定され、他の部分は適応型フィードバック基準利得Aを説明するものである。
【0137】
定常条件の下では|w−wref|が小さく、その結果、βsteady state≒cとなる。
【0138】
非定常条件の下では|w−wref|が大きく、βはcによってスケーリングされる。
【0139】
場合によっては、cおよびcは、フィードバック抑制回路の速度と精度の間のトレードオフに応じてフィードバック基準利得Aがフィードバック・レベルと一致するようにスケーリングされると想定することにより、0.1から0.4までの範囲にあり得る。たとえば、ゆっくりした適応システムでは、cは、予期されるより優れた静的性能のために小さい値に設定されてよく、一方、cは、変化が生じるときのより大きい予期されるずれのために、より大きい値に設定される。
【0140】
について:
いくつかの状況では、フィードバック抑制回路が、フィードバック経路における変化に応答してフィードバックを防止するために十分に適応することができないことがある。この場合、β|A|が残留フィードバック信号を過小評価し、このことが不安定性に通じる恐れがある。場合によっては、不安定性がはっきり聞こえる可能性があり、入力のパワー・スペクトルにおいて検知され得る。したがって、この新規の方法は、安定性を回復するために式(9)におけるオフセットBの提供を含む。フィードバック信号を抑制するために、持続的ピークを有する周波数帯kが検知され、対応する残留フィードバック信号の推定Rに対するオフセットBが与えられる。
【0141】
たとえば、この新規の方法によれば、サンプルの各ブロックについて、すべての周波数帯がピーク、バレイ、またはスロープのいずれかとして分類される。ピークは、近接した帯域における入力パワーが、対象となっている周波数帯の入力パワーよりも小さい周波数帯である。バレイは、近接した帯域における入力パワーが、対象となっている周波数帯の入力パワーよりも大きい周波数帯である。ピークまたはバレイではない周波数帯はスロープであって無視される。
【0142】
ピークまたはバレイの周波数帯については、バンド・オフセットBは、それぞれdBでインクリメントまたはディクリメントされる。値は0dBと最大値の間に制限される。
【0143】
ピーク確率は、スロープが棄却されたとき、すなわちP(peak)+P(valley)=1であるときにピークを観測する確率である。
【0144】
フィードバックによってピークがもたらされるとき、バンド・オフセットBを増大することにより、帯域kにおいてより多くのピークを観測する確率が低下することになるので、インクリメントのステップ・サイズとディクレメントのステップ・サイズの間の比はピーク確率の閾値によって決定され、それによって、ピーク確率の閾値が、入力のパワー・スペクトルにおいてフィードバック・ピークがどれくらい頻繁に生じ得るかの上限を決定する。実際には、この確率の閾値は、(ピークのための)インクリメントと(バレイのための)ディクレメントの間の大きさ比を決定するためにのみ暗示的に用いられる。たとえばディクレメントのサイズがインクリメントのサイズの2倍であれば、バレイが生じるよりも少なくとも2倍は多いピークが生じるまで、利得低減は生じない。
【0145】
ステップ・サイズ、ピーク確率の閾値および最大のオフセット値は、状況に応じてアルゴリズムをより攻撃的にするために、すべてが適応的に変化され得る。
【0146】
通常の信号については、ピークを検知する確率はバレイを検知する確率に等しい。スロープが無視されるので、予期されるピーク確率は50%である。したがって、ピーク確率の閾値に関する可能な値の有効な範囲は50%と100%の間にある。50%を上回る閾値については、ディクレメントが常にインクリメントよりも大きく、そのため、通常の信号については、バンド・オフセットは0dBの下限に近いままである。聞こえるフィードバックが生じて特定帯域を支配するとき、バンド・オフセットは、観測されるピーク確率がピーク確率の閾値まで低下するかまたは最大のバンド・オフセットに到達するまで増大することになる。
【0147】
ピークおよびバレイの検知は、たとえば入力較正の不正確、トランスデューサの応答における予想外のピーク、特別に整形されたバックグラウンド・ノイズ、周波数ワーピングによってもたらされる不均一な帯域幅などによってもたらされ得る、入力のパワー・スペクトルにおける系統的オフセットに対して敏感に反応する。したがって、最適な性能のために、入力スペクトルは適応的に正規化されなければならない。
【0148】
正規化の値は、非音調の周囲の雑音レベルを識別しようとする条件付きアタックおよびリリースのフィルタを使用して更新される。入力信号が音調のとき、正規化されるべきでないフィードバックがあり得る。したがって、音調の入力については、代わりに、正規化は平坦な応答にゆっくりと整定する。
【0149】
持続的なピークがすべてフィードバックによってもたらされるとは限らないので、残留フィードバックを過大推定するリスクがPPSによって増大し、(過度の)利得低減をもたらす恐れがある。したがって、好ましくない挙動を最小化するために、このアルゴリズムは、不安定性の高リスクがある状況でのみ攻撃的に用いられるべきである。
【0150】
フィードバックの不安定性のリスクは、たとえば、(1)(安定した最大の利得値に対する隔たりを概略的に決定するために)フィードバック経路利得とフォワード経路利得を組み合わせることによって決定されるフィードバック・レベル、(2)デバイスが最初に適合されてからのすべての変化を説明する、基準までの隔たり、および(3)入力信号の予測可能性の度合いを表す音調信号のパワー(外部から生成された純音とフィードバック・スクィーリングはどちらも高度に予測可能であるが、識別するのは困難である)といった、システムにおいて有効な様々な特徴から決定することができる。上記の3つの特徴は、ピーク抑圧攻撃性(PSA)で表わされる0と1の間の範囲の1つの値に組み合わされる。
【0151】
PSAが0であるとき、大きいピーク確率閾値が小さいステップ・サイズと組み合わされる。PSAが1であるとき、より小さいピーク確率閾値がより大きいステップ・サイズと組み合わされる。0と1の間で重み付き組合せが用いられる。
【0152】
補聴器において不安定性が生じるとき、出力レベルが(理論的な線形システムに関して予期される)無限大まで行くことはない。その代わりに、出力レベルは、(非線形の)圧縮および適応利得制御(AGCの)を制限することによって決定される定常状態レベルに収斂する。この定常状態レベルについては全体のループ利得がユニティ(すなわち│GR│=1)であるので、残留フィードバック利得の上限はフォワード経路において観測される最低の利得を監視することによって推測され得る。最大のバンド・オフセットを制限するためにこの限界を用い、PPS自体の寄与度と他の利得エージェントの寄与度の間を区別するように注意すれば、PPSが音調の入力に対して過度に反応し得ないことが保証される。
【0153】
Δgについて:
所望の利得は式(8)および(9)によって決定される。式(8)は、次のように対数形式に書き直される。
【数23】
ここで、
【数24】
であって、ΔgはdBの目標利得であり、すなわち利得調節のための目標である。対数領域ではシンボルΔgが用いられる。サイドブランチの利得は対数領域で計算されてよい。
【0154】
実際には、Δgは、利得チェーンの出力、すなわち、すべての利得エージェント、以前の利得、およびフィードバック基準利得の寄与度を含む音量復元プロセッサ56の出力において与えられる実際の補聴器利得に基づいて反復的に更新される。
【0155】
閉ループでは様々な利得が更新されるので、発振が生じる可能性がある。場合により利得の増減の乱れを低減するために、利得調節はアタックおよびリリースのフィルタを用いて平滑化される。フィードバック経路における突然の変化に対して急速に反応するために高速のアタックが用いられ得る。ゆっくりしたリリース時間を用いることにより、可能性のある発振が減衰される。
【0156】
図示の実施形態では、アタックおよびリリースのフィルタは2段階で適用される。第1段階では、フィードバック抑制回路28の広帯域スケール係数βが、構成可能なアタックおよびリリースのレートを用いて平滑化される。各帯域において適用される第2段階では、瞬時アタックが、ゆっくりした固定ステップのリリースと組み合わされる。
【0157】
処理能力の点から、対数関数および指数関数の計算がかなり複雑で高くつくので、代わりに以下の近似が用いられ得る。
【数25】
【0158】
図6は、残留フィードバックを抑制する新規の方法100のフローチャートであって、
音響信号を音声信号に変換するステップ102と、
入力信号を受け取るフィードバック抑制回路を使用して、音声信号に基づいてフィードバック経路をモデル化し、出力信号を生成するステップ104と、
音声信号からフィードバック抑制回路の出力信号を減じて、フィードバック補償後の音声信号を形成するステップ106と、
少なくとも音声信号に基づいて、フィードバック補償後の音声信号の、残留フィードバック信号部分の推定を決定するステップ108と、
少なくともこの推定に基づいて、フィードバック補償後の音声信号に利得を適用するステップ110と、を含む。
【0159】
図7および図8は、それぞれ、性能比較のために様々なフィードバック経路に関する伝達関数のプロット200、300を示す。シミュレーションはMatlabを用いて実施される。
【0160】
図7のプロット200は、固定フィルタ46を有する、EP2203000A1に開示されているような補聴器の、フィードバックに関連した伝達関数を示す。図8のプロット300は、低速適応フィルタ46を有する、図5に示された補聴器の、フィードバックに関連した伝達関数を示す。
【0161】
下側の破線の曲線210、310は、補聴器がユーザの耳の意図された使用位置にある状況でのフィードバック経路の伝達関数を示し、実線の曲線220、320は、電話を耳に近付けたときのそれぞれのフィードバック経路の伝達関数を示す。伝達関数の大きさにおける顕著な増大に留意されたい。
【0162】
実線の曲線230、330は、電話を耳に持ってきた状況でのフィードバック抑制回路の伝達関数を示し、実線の曲線240、340は、電話を耳に持ってきた状況での残留フィードバック経路の伝達関数を示す。
【0163】
四角形を伴う破線の曲線250、350は、電話を耳に持ってきた状況での残留フィードバック経路の推定の伝達関数を示す。
【0164】
新規の補聴器の推定350は、従来技術に対してかなり改善されている。
【0165】
特定の実施形態が示され、説明されてきたが、それらが特許請求された発明を制限するようには意図されないことが理解されるはずであり、特許請求された発明の精神および範囲から逸脱することなく様々な変更形態および修正形態が製作され得ることが当業者には明白なはずである。したがって、本明細書および図面は、限定的な意味ではなく例示的な意味に考えられるべきである。特許請求された発明は、代替形態、修正形態、および均等物を対象として含むことが意図されている。本明細書の開示により、下記する実施形態が把握される。
[形態1]
音声信号を生成するための入力トランスデューサと、
補聴器のフィードバック経路をモデル化するように構成されたフィードバック抑制回路と、
前記音声信号から前記フィードバック抑制回路の出力信号を減じて、フィードバック補償後の音声信号を形成する減算器と、
前記フィードバック補償後の音声信号を処理して聴力損失補償を実施するために、前記減算器の出力に接続された信号プロセッサと、
前記処理済みのフィードバック補償後の音声信号を音響信号に変換するために、前記信号プロセッサの出力に接続されたレシーバと、を備え、
少なくとも前記フィードバック補償後の音声信号の残留フィードバック信号の推定に基づいて、前記フィードバック補償後の音声信号の利得調節を実施するための利得プロセッサをさらに備え、前記残留フィードバック信号の前記推定が少なくとも前記音声信号に基づく、補聴器。
[形態2]
前記フィードバック抑制回路が前記補聴器の初期化中に構成され、前記残留フィードバック信号の前記推定が、前記補聴器の前記初期化中に得られた前記フィードバック抑制回路の構成にさらに基づく、形態1に記載の補聴器。
[形態3]
前記フィードバック抑制回路が可変である構成を有し、前記残留フィードバック信号の前記推定が、前記補聴器の現在の動作中に決定された前記フィードバック抑制回路の構成にさらに基づく、形態1に記載の補聴器。
[形態4]
前記残留フィードバック信号の前記推定は、前記補聴器の利得値にさらに基づく、形態1に記載の補聴器。
[形態5]
前記フィードバック抑制回路は適応フィルタを備える、形態1に記載の補聴器。
[形態6]
前記利得プロセッサと前記信号プロセッサは、それぞれ前記利得調節と聴力損失補償とを別々に実施するように構成されている、形態1に記載の補聴器。
[形態7]
前記信号プロセッサが、1組の周波数帯kにおいてマルチバンド聴力損失補償を実施するように構成されており、前記残留フィードバック信号の前記推定が、前記周波数帯kにおける前記残留フィードバック信号の推定を含む形態1に記載の補聴器。
[形態8]
前記残留フィードバック信号の前記推定が、適応型広帯域寄与度βの推定を含む形態7に記載の補聴器。
[形態9]
前記それぞれの周波数帯kにおける前記残留フィードバック信号の推定Rが明細書中の前記[数1]によって与えられ、
前記利得調節の大きさαが明細書中の前記[数2]から計算され、
ここで、βは前記残留フィードバック信号をフィードバック基準に関連付けるスケーリング項であり、
は前記フィードバック抑制回路を使用して取得されたフィードバック基準利得であり、
は前記音声信号からの寄与度である、形態8に記載の補聴器。
[形態10]
前記フィードバック抑制回路が適応フィルタを備え、βが明細書中の前記[数3]から計算され、
ここで、qは整数であり、
|| ||はベクトルのpノルムを示し、pは正の整数であり、
は静的状況における前記フィードバック経路のモデル化において前記フィードバック抑制回路の精度に関するスケール係数であり、
は動的状況における前記フィードバック経路のモデル化において前記フィードバック抑制回路の精度に関するスケール係数であり、
ベクトルhempは特定の周波数を強調するためのフィルタを表し、
ベクトルwは前記適応フィルタの係数ベクトルであり、
ベクトルwrefは前記適応フィルタの基準係数ベクトルであって、
σnormは低域通過フィルタを適用されたフィードバック抑制回路のノルムであって、明細書中の前記[数4]で表される、形態9に記載の補聴器。
[形態11]
qが2に等しい、形態10に記載の補聴器。
[形態12]
ベクトルhempが1に等しい、形態10に記載の補聴器。
[形態13]
前記pノルムが1ノルムである、形態10に記載の補聴器。
[形態14]
前記利得プロセッサの処理パラメータを平滑化するように構成されたアタック・フィルタおよびリリース・フィルタをさらに備える、形態1に記載の補聴器。
[形態15]
残留フィードバックを抑制する方法であって、
音響信号を音声信号に変換するステップと、
入力信号を受け取るフィードバック抑制回路を使用して、前記音声信号に基づいてフィードバック経路をモデル化し、出力信号を生成するステップと、
前記音声信号から前記フィードバック抑制回路の前記出力信号を減じて、フィードバック補償後の音声信号を形成するステップと、
少なくとも前記音声信号に基づいて、前記フィードバック補償後の音声信号の、残留フィードバック信号部分の推定を決定するステップと、
少なくとも前記推定に基づいて、前記フィードバック補償後の音声信号に利得を適用するステップと、を含む方法。
[形態16]
前記フィードバック経路を監視するステップをさらに含み、前記残留フィードバック信号部分の前記推定が、前記監視するステップからの結果に基づく、形態15に記載の方法。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8