(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明については多様な変形や様々な形態にて実現することが可能であるが、その一例として、図面に示すような特定の実施の形態について、以下に詳細に説明する。図面及び実施の形態は、本発明をここに開示した特定の形態に限定するものではなく、添付の請求の範囲に明示されている範囲内においてなされる全ての変形例、均等物、代替例をその対象に含むものとする。
【0012】
本発明の実施の形態による合金組成物は、Fe基ナノ結晶合金の出発原料として好適なものであり、組成式Fe
100−a−b−c−d−e−fCo
aB
bSi
cP
dCu
eC
fのものである。ここで、3.5≦a≦4.5at%、8≦b≦11at%、0<c≦2at%、3≦d≦5at%、0.5≦e≦1.1at%、0≦f≦2at%である。即ち、Cを含まない場合の組成式は、Fe
100−a−b−c−d−eCo
aB
bSi
cP
dCu
eであり、Cを0<f≦2at%含む場合の組成式は、Fe
100−a−b−c−d−e−fCo
aB
bSi
cP
dCu
eC
fである。以下、上述の組成式を「本実施の形態による組成式」という。また、主相としてアモルファス相を有し、且つ、上述の組成式を有する合金組成物を「本実施の形態による合金組成物」という。
【0013】
本実施の形態において、Co元素はアモルファス相形成を担う必須元素である。Fe−B−Si−P−Cu合金又はFe−B−Si−P−Cu−C合金に対してCo元素を一定量加えると、Fe−B−Si−P−Cu合金又はFe−B−Si−P−Cu−C合金のアモルファス相形成能が向上する。これにより、例えば、厚みのある連続薄帯を安定して作製することができる。Coの割合が3.5at%より少ないと、液体急冷条件下におけるアモルファス相の形成能が低下してしまい、熱処理後の結晶粒径が大きくなり保磁力の上昇を招いてしまう。Coの割合が4.5at%より多いと、飽和磁束密度が低下する。また、Coの割合が4.5at%より多いと、熱処理後の結晶粒径が大きくなってしまい保磁力の上昇を招いてしまう。従って、Coの割合は、3.5at%以上、4.5at%以下であることが望ましい。アモルファス相形成能を高めるためにCoの割合を3.5at%以上と多くした場合であっても、他の元素B,Si,P,Cuの割合を下記のように調整することにより、良好な磁気特性を得ることができる。
【0014】
本実施の形態において、B元素はアモルファス相形成を担う必須元素である。Bの割合が8at%より少ないと、液体急冷条件下におけるアモルファス相の形成能が低下してしまい、熱処理後の結晶粒径が大きくなり保磁力の上昇を招いてしまう。Bの割合が11at%より多いと、液体急冷条件下におけるアモルファス相の形成能が低下してしまい、熱処理後の結晶粒径が大きくなり保磁力の上昇を招いてしまう。従って、Bの割合は、8at%以上、11at%以下であることが望ましい。
【0015】
本実施の形態において、Si元素はアモルファス形成を担う必須元素である。Siを含まないと、飽和磁束密度が低下してしまう。Siの割合が2at%を超えてしまうと、液体急冷条件下におけるアモルファス相の形成能が低下してしまい、熱処理後の結晶粒径が大きくなり保磁力の上昇を招いてしまう。従って、Siの割合は、2at%以下(0を含まない)であることが望ましい。
【0016】
本実施の形態において、P元素はアモルファス形成を担う必須元素である。Pの割合が3at%より少ないと、液体急冷条件下におけるアモルファス相の形成能が低下してしまい、熱処理後の結晶粒径が大きくなり保磁力の上昇を招いてしまう。Pの割合が5at%より多いと、液体急冷条件下におけるアモルファス相の形成能が低下してしまい、熱処理後の結晶粒径が大きくなり保磁力の上昇を招いてしまう。従って、Pの割合は、3at%以上、5at%以下であることが望ましい。
【0017】
本実施の形態において、Cu元素はアモルファス形成を担う必須元素である。Cuの割合が0.5at%より少ないと、液体急冷条件下におけるアモルファス相の形成能が低下してしまい、熱処理後の結晶粒径が大きくなり保磁力の上昇を招いてしまう。Cuの割合が1.1at%より多いと、液体急冷条件下におけるアモルファス相の形成能が低下してしまい、熱処理後の結晶粒径が大きくなり保磁力の上昇を招いてしまう。従って、Cuの割合は、0.5at%以上、1.1at%以下であることが望ましい。
【0018】
本実施の形態において、Fe元素は、本実施の形態による組成式において残部を占める主元素である。また、Fe元素は、磁性を担う必須元素である。飽和磁束密度の向上及び原料価格の低減のため、Feの割合が多いことが基本的には好ましい。
【0019】
本実施の形態による組成式の一つであるFe
100−a−b−c−d−eCo
aB
bSi
cP
dCu
eを有する合金組成物に対してC元素を一定量加えて合金組成物の総材料コストを下げることとしてもよい。C元素を加えた場合、薄帯が厚くなっても飽和磁束密度や保磁力などの磁気特性が劣化し難い。但し、Cの割合が2at%を超えると、液体急冷条件下におけるアモルファス相の形成能が低下してしまい、熱処理後の結晶粒径が大きくなり保磁力の上昇を招いてしまう。従って、C元素を加えて合金組成物の組成式をFe
100−a−b−c−d−e−fCo
aB
bSi
cP
dCu
eC
fとする場合であっても、Cの割合は、2at%以下(0を含まない)であることが望ましい。
【0020】
本実施の形態による合金組成物は、様々な形状を有することができる。例えば、合金組成物は、連続薄帯形状を有していてもよいし、粉末形状を有していてよい。連続薄帯形状の合金組成物は、Fe基アモルファス薄帯などの製造に使用されている単ロール製造装置や双ロール製造装置のような従来の装置を使用して形成することができる。粉末形状の合金組成物は水アトマイズ法やガスアトマイズ法によって作製してもよいし、薄帯の合金組成物を粉砕することで作製してもよい。
【0021】
本実施の形態による合金組成物を成形して、巻磁芯、積層磁芯、圧粉磁芯などの磁芯を形成することができる。また、その磁芯を用いて、トランス、インダクタ、モータや発電機などの部品を提供することができる。
【0022】
本実施の形態による合金組成物は主相としてアモルファス相を有している。従って、本実施の形態による合金組成物をArガス雰囲気のような不活性雰囲気中で熱処理すると、2回以上結晶化される。最初に結晶化が開始した温度を第1結晶化開始温度(Tx1)とし、2回目の結晶化が開始した温度を第2結晶化開始温度(Tx2)とする。また、第1結晶化開始温度(Tx1)と第2結晶化開始温度(Tx2)の間の温度差をΔT=Tx2−Tx1とする。これら結晶化温度は、例えば、示差走査熱量分析(DSC)装置を用い、40℃/分程度の昇温速度で熱分析を行うことで評価可能である。
【0023】
以下、第1結晶化開始温度(Tx1)を単に「結晶化温度」という。結晶化温度において析出開始するのは、主として、軟磁性を担うbccFe(αFe,Fe−Si)結晶であり、第2結晶化開始温度(Tx2)において析出開始するのは、主として、磁気特性を劣化させるFe−BやFe−Pなどの結晶である。
【0024】
本実施の形態による合金組成物(例えば、薄帯)に対して所定の熱処理を行うことで、Fe基ナノ結晶合金(例えば、Fe基ナノ結晶合金薄帯)を得ることができる。また、得られたFe基ナノ結晶合金薄帯を用いて磁芯を作製できる。また、作製した磁芯を用いて、トランス、インダクタ、モータや発電機などの部品を構成できる。
【0025】
以下、本実施の形態による磁芯の製造方法について、詳しく説明する。
【0026】
図1に示されるように、本実施の形態による磁心の製造方法は、4つの工程、具体的には薄帯作製工程(P1)と、第1熱処理工程(P2)と、中間体作製工程(P3)と、第2熱処理工程(P4)とを備えている。
【0027】
図1を参照すると、薄帯作製工程(P1)において、まず、Fe、Co等を含む原料を秤量した後、溶解して合金溶湯を生成する。このときの秤量は、合金溶湯が本実施の形態による組成式を有するようにして行う。次に、この合金溶湯を急冷凝固させて連続薄帯(以下、単に「薄帯」という。)を作製する。具体的には、例えば、合金溶湯をノズルから排出し、回転する冷却基板の表面に接触させて急冷凝固させる。これにより、主相としてアモルファス相を有する合金組成物からなる薄帯が得られる。薄帯の作製方法は、上述した方法に限定されない。得られた薄帯が主相としてアモルファス相を有し、且つ、本実施の形態による組成式を有する限り、どのような方法であってもよい。
【0028】
図1及び
図2を参照すると、第1熱処理工程(P2)において、薄帯は熱処理される。このとき、薄帯を加熱することで、薄帯を、本実施の形態による合金組成物の結晶化温度よりも高い第1温度まで第1昇温速度で急速に昇温する。また、薄帯が第1温度に達した後、薄帯を第1温度近傍で保持することなく、薄帯への加熱を停止する。薄帯への加熱を停止すると、薄帯の温度は徐々に所定温度(例えば、室温)まで降下する(
図2の1点鎖線参照)。
【0029】
薄帯を第1温度まで昇温することにより、薄帯には、bccFe結晶が析出する。但し、薄帯が第1昇温速度で急速に昇温され、且つ、薄帯が第1温度近傍で保持されないため、析出するbccFe結晶のサイズは微小、例えば粒径15nm以下である。換言すれば、第1熱処理工程(P2)により、薄帯には、薄帯を脆くしない程度の微小なbccFe結晶が薄帯全体に亘って均一に析出する。更に、薄帯は急速に昇温され、且つ、薄帯の温度は第1温度に達した後に降下する。このため、仮に薄帯が昇温前にbccFe結晶を含んでいたとしても、bccFe結晶は殆ど成長しない。換言すれば、第1熱処理工程(P2)は、bccFe結晶の結晶核を析出するための工程である。
【0030】
第1熱処理工程(P2)において、第1温度が430℃よりも小さい場合、bccFe結晶が十分に析出されないおそれがある。このため、第1温度は、430℃以上であることが望ましい。但し、第1温度が480℃よりも大きい場合、bccFe結晶の粗大化やFe−BやFe−Pなどの結晶の析出により、薄帯の磁気特性が劣化するおそれがある。このため、第1温度は、480℃以下であることが望ましい。また、第1昇温速度が毎秒100℃よりも小さい場合、bccFe結晶の粗大化により薄帯の磁気特性が劣化したり薄帯が脆くなったりするおそれがある。このため、第1昇温速度は、毎秒100℃以上であることが望ましい。
【0031】
第1熱処理工程(P2)における具体的な熱処理方法としては、例えば、赤外線加熱や高周波加熱など急速昇温が可能な装置を用いた熱処理方法が考えられる。しかしながら、本発明は、これらに限定されない。
【0032】
例えば、薄帯を、毎秒0.1m以上かつ毎秒1m以下の速度で昇温環境内を移動させてもよい。この方法によっても、薄帯を、第1昇温速度で昇温することができる。
【0033】
具体的には、
図4に示されるように、連続薄帯(薄帯)10は、送り出しローラ50により、所定の移動速度で搬送される。薄帯10は、電気炉60の入口64を通過して電気炉60の内部に搬送される。薄帯10は、電気炉60の内部を通過して出口66から電気炉60の外に出て、巻き取りローラ70に巻き取られる。電気炉60の内部には、加熱用の電極(図示せず)等が設けられた昇温環境62が形成されている。薄帯10は、昇温環境62内を移動している間だけ、電極によって加熱される。これにより、薄帯10は、第1温度まで第1昇温速度で昇温される。第1温度及び第1昇温速度は、昇温環境62内の電極の温度や薄帯10の移動速度を調整することで、調整可能である。また、例えば、薄帯10が第1温度に達したときに電気炉60の出口66に到達するように調整することで、薄帯10が第1温度で保持されないようにできる。電気炉60の加熱性能等を考慮すると、薄帯10の移動速度は、毎秒0.1m以上かつ毎秒1m以下であることが望ましい。薄帯10の移動速度が毎秒0.1m未満の場合は、薄帯10は、長時間にわたって昇温環境62内を移動する。このため、薄帯10は、急速に第1温度に到達した後、第1温度で保持される間に結晶化による自己発熱で高温化し、所望する組織が得られない。一方、薄帯10の移動速度が毎秒1mを超える場合は、熱伝達に必要な時間が得られない。このため、薄帯10が昇温環境62内で所望する第1温度に到達せず第一熱処理工程(P2)の効果が不足する。
【0034】
図3に示されるように、本実施の形態による磁心の製造方法は、第1熱処理工程(P2)の後に降温工程(P2A)を備えていてもよい。降温工程(P2A)において、第1熱処理工程(P2)後の薄帯は、所定の温度まで降温される。降温工程(P2A)を設けることで、薄帯を、比較的緩やかに自然に降温(
図2の1点鎖線参照)するのでなく、薄帯を冷却して所定の温度まで比較的急速に降温(
図2の2点鎖線参照)できる。これにより、bccFe結晶の粗大化をより確実に防止できると共に、磁心の製造に必要な時間を短縮できる。
【0035】
降温工程(P2A)における所定の温度は、例えば室温である。薄帯を室温まで降温することで、降温後の薄帯を容易に加工できる。降温工程(P2A)における具体的な降温方法としては、例えば、薄帯を空冷してもかまわないし、冷媒を用いて急冷してもよい。但し、本発明は、これらに限定されない。
【0036】
以上の説明から理解できるように、第1熱処理工程(P2)後の薄帯、及び、降温工程(P2A)後の薄帯は、90°曲げ可能である。従って、この薄帯を使用して様々な形状の磁性部品を作製可能である。
【0037】
図1及び
図3を参照すると、中間体作製工程(P3)において、第1熱処理工程(P2)後の薄帯又は降温工程(P2A)後の薄帯を使用して中間体を作製する。本実施の形態による中間体は、薄帯を巻回又は積層させることで作製される。薄帯の巻回回数や積層回数は何回であってもよい。本発明によれば、第1熱処理工程(P2)において、薄帯の脆弱化が防止されているため、薄帯を必要な回数だけ巻回又は積層して大型の中間体を作製できる。但し、中間体は、薄帯を巻回又は積層させる以外の方法で作製してもよい。
【0038】
図1乃至
図3を参照すると、第2熱処理工程(P4)において、中間体は熱処理される。このとき、薄帯を加熱することで、中間体を、合金組成物の結晶化温度以下の第2温度まで昇温する。
【0039】
前述したように、第1熱処理工程(P2)において、薄帯には既に微小なbccFe結晶が十分に析出している。このため、第2熱処理工程(P4)において、中間体には新たなbccFe結晶が殆ど析出しない。但し、中間体を第2温度まで昇温することにより、中間体に含まれるbccFe結晶が成長する。また、成長したbccFe結晶は、互いに衝突して微細な組織を形成する。これにより、優れた磁気特性を有する磁芯が得られる。換言すれば、第2熱処理工程(P4)は、bccFe結晶の結晶核を成長させ、bccFe結晶による微細な組織を形成するための工程である。
【0040】
bccFe結晶の過度な成長やFe−BやFe−Pなどの結晶の析出を防止するためには、第2温度は、結晶化温度以下にする必要がある。bccFe結晶を緩やかに成長させることで、自己発熱による熱暴走を回避し易く、且つ、bccFe結晶からなる微細な組織が得やすい。bccFe結晶を緩やかに成長させるという観点からは、第2温度は結晶化温度以下であり、且つ、より低いほうが好ましい。一方、bccFe結晶の体積分率を増加させ磁気特性を向上させるという観点からは、第2温度は結晶化温度近傍であることが好ましい。
【0041】
具体的には、第2熱処理工程(P4)において、第2温度が結晶化温度よりも大きい場合、bccFe結晶の粒径が大きくなりすぎて中間体の磁気特性が劣化するおそれがある。このため、第2温度は、430℃以下であることが望ましい。但し、第2温度が385℃よりも小さい場合、bccFe結晶が十分に成長せず、十分な磁気特性が得られないおそれがある。このため、第2温度は、385℃以上であることが望ましい。
【0042】
第2熱処理工程(P4)において、中間体を、第2温度まで昇温した後、比較的長時間にわたって第2温度近傍(例えば、第2温度±1℃あるいは第2温度±3℃の範囲)に保持してもよい。換言すれば、第2温度まで昇温した中間体に、中間体を第2温度に維持するための熱を、所定の保持時間だけ加えてもよい。これにより、bccFe結晶の体積分率を十分に増加させ、bccFe結晶粒を均質に成長させることができる。この結果、優れた磁気特性を有する磁芯が得られる。
【0043】
具体的には、第2温度近傍における保持時間が3分よりも小さい場合、bccFe結晶が十分に成長しないおそれがある。一方、保持時間が20分よりも大きい場合、bccFe結晶粒が粗大に成長しすぎるおそれがある。このため、保持時間は、3分以上かつ20分であることが望ましい。換言すれば、中間体を、第2温度まで昇温した後、3分以上かつ20分以下の間、第2温度近傍に保持することが望ましい。
【0044】
第2熱処理工程(P4)における具体的な熱処理方法としては、第1熱処理工程(P2)における熱処理方法と同様に、様々な方法が可能である。
【0045】
以上のようにして作製された本実施の形態による磁芯は、21nm以下の平均結晶粒径を有すると共に1.8T以上の高い飽和磁束密度と10A/m以下の低い保磁力を有する。
【0046】
以下、本発明の実施の形態について、複数の実施例及び複数の比較例を参照しながら更に詳細に説明する。
【0047】
(実施例1〜17及び比較例1〜28)
まず、Cを含まないFe−Co−B−Si−P−Cu合金について検証した。詳しくは、原料を下記の表1に掲げられた本発明の実施例1〜17及び比較例1〜28の合金組成となるように秤量し、高周波誘導加熱により溶解した。その後、溶解した合金組成物を大気中において単ロール液体急冷法にて処理し、25μm程度の厚さを持つ幅約50mm、長さ約50〜100mの連続薄帯(薄帯)を作製した(薄帯作製工程)。これらの薄帯の合金組成物の相を、X線回折法にて同定した。これらの薄帯は、いずれも主相としてアモルファス相を有していた。次に、表2記載の熱処理条件の下で、実施例1〜17及び比較例1〜28の薄帯を熱処理した(第1熱処理工程)。次に、第1熱処理工程後の薄帯を巻回して中間体を作製した(中間体作製工程)。このとき、第1熱処理工程後の実施例1〜17の薄帯は、容易に巻回できた。一方、第1熱処理工程後の比較例1〜28の薄帯のうち、比較例3、4、6、9、10、12、15、16及び18の薄帯は、やや脆くなっており、巻回に手間がかかった。更に、表2記載の熱処理条件の下で、中間体を熱処理した(第2熱処理工程)。熱処理された中間体の夫々の飽和磁束密度Bsは振動試料型磁力計(VMS)を用いて800kA/mの磁場にて測定した。各合金組成物の保磁力Hcは直流BHトレーサーを用い2kA/mの磁場にて測定した。測定結果を表2に示す。
【0050】
表2を参照すると、実施例の薄帯を第1熱処理工程において熱処理し、中間体を第2熱処理工程において熱処理した結果、Fe基ナノ結晶合金からなる磁芯が得られた。実施例の磁芯の結晶粒径は、すべて21nm以下と小さく、10A/m以下の小さい保磁力を有していると共に、1.8T以上の高い飽和磁束密度を有していた。
【0051】
(実施例17及び比較例29)
更にCを含めたFe−Co−B−Si−P−Cu−C合金について検証した。詳しくは、原料を下記の表3に掲げられた本発明の実施例18及び比較例29の合金組成となるように秤量し、アーク溶解した。その後、溶解した合金組成物を大気中において単ロール液体急冷法にて処理し、25μm程度の厚さを持つ幅約3mm、長さ約5〜15mの薄帯を作製した。これらの薄帯の合金組成物の相を、X線回折法にて同定した。これらの薄帯は、いずれも主相としてアモルファス相を有していた。次に、表4記載の熱処理条件の下で、実施例18及び比較例29の薄帯を熱処理した(第1熱処理工程)。次に、第1熱処理工程後の薄帯を巻回して中間体を作製した(中間体作製工程)。更に、表4記載の熱処理条件の下で、中間体を熱処理した(第2熱処理工程)。熱処理された中間体の夫々の飽和磁束密度Bsは振動試料型磁力計(VMS)を用いて800kA/mの磁場にて測定した。各合金組成物の保磁力Hcは直流BHトレーサーを用い2kA/mの磁場にて測定した。測定結果を表4に示す。
【0054】
表4を参照すると、実施例18の薄帯を第1熱処理工程において熱処理し、中間体を第2熱処理工程において熱処理した結果、Fe基ナノ結晶合金からなる磁芯が得られた。実施例18の磁芯の結晶粒径は、16nmと小さく、7.9A/mの小さい保磁力を有していると共に、1.81Tの高い飽和磁束密度を有していた。
【0055】
本発明は2014年7月3日に日本国特許庁に提出された日本特許出願第2014−137933号に基づいており、その内容は参照することにより本明細書の一部をなす。
【0056】
本発明の最良の実施の形態について説明したが、当業者には明らかなように、本発明の精神を逸脱しない範囲で実施の形態を変形することが可能であり、そのような実施の形態は本発明の範囲に属するものである。