(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6283467
(24)【登録日】2018年2月2日
(45)【発行日】2018年2月21日
(54)【発明の名称】空気ばね用ダイヤフラム及び空気ばね
(51)【国際特許分類】
F16F 9/05 20060101AFI20180208BHJP
F16J 3/02 20060101ALI20180208BHJP
F16J 3/04 20060101ALI20180208BHJP
B61F 5/10 20060101ALN20180208BHJP
【FI】
F16F9/05
F16J3/02 B
F16J3/04 B
!B61F5/10 C
【請求項の数】10
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-33321(P2013-33321)
(22)【出願日】2013年2月22日
(65)【公開番号】特開2014-163422(P2014-163422A)
(43)【公開日】2014年9月8日
【審査請求日】2015年12月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】東洋ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087653
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴江 正二
(72)【発明者】
【氏名】本多 永二郎
【審査官】
熊谷 健治
(56)【参考文献】
【文献】
独国特許出願公開第102009028158(DE,A1)
【文献】
米国特許第05934652(US,A)
【文献】
特公昭35−009207(JP,B1)
【文献】
独国特許出願公開第19809658(DE,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2003/0057618(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 9/00− 9/58
F16J 3/02
F16J 3/04
B61F 5/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体側の上支持部に嵌着可能な上ビード部と、台車側の下支持部に嵌着される下ビード部と、前記上ビード部と前記下ビード部との間の本体部とを有する弾性材でなる空気ばね用ダイヤフラムであって、
前記本体部の製造時における径が最大となる最大径部位に補強材を周設して、前記本体部が所定の値以上に拡径しないように規制する拘束部が、前記本体部の径内側に張出す状態で設けられ、
前記弾性材は、外側の弾性材層と内側の弾性材層との間に補強コード層を設けた複数層体に構成され、
前記補強材は、前記補強コード層に沿う形状となる状態で前記外側の弾性材層に埋設されている空気ばね用ダイヤフラム。
【請求項2】
前記拘束部は、前記本体部を形成する前記弾性材の厚さを径内側に張出して増大させた厚肉部分に前記補強材を埋設することにより構成されている請求項1に記載の空気ばね用ダイヤフラム。
【請求項3】
前記厚肉部分が、前記外側の弾性材層の厚さを径内側に張出して増大させることにより形成されている請求項2に記載の空気ばね用ダイヤフラム。
【請求項4】
前記補強材の断面形状は、前記補強材における前記補強コード層に面する部分が前記補強コード層に沿う形状となる状態に形成されている請求項3に記載の空気ばね用ダイヤフラム。
【請求項5】
前記弾性材がゴムを有して形成されている請求項1〜4の何れか一項に記載の空気ばね用ダイヤフラム。
【請求項6】
車体側の上支持部と、台車側の下支持部と、前記上支持部と前記下支持部とに亘って配備される弾性材製のダイヤフラムと、を有して構成される空気ばねであって、
前記ダイヤフラムの製造時における径が最大となる最大径部位に補強材を周設して、前記ダイヤフラムが所定の値以上に拡径しないように規制する拘束部が、前記ダイヤフラムの径内側に張出す状態で設けられ、
前記弾性材は、外側の弾性材層と内側の弾性材層との間に補強コード層を設けた複数層体に構成され、
前記補強材は、前記補強コード層に沿う形状となる状態で前記外側の弾性材層に埋設されている空気ばね。
【請求項7】
前記拘束部は、前記ダイヤフラムを形成する前記弾性材の厚さを径内側に張出して増大させた厚肉部分に前記補強材を埋設することにより構成されている請求項6に記載の空気ばね。
【請求項8】
前記厚肉部分が、前記外側の弾性材層の厚さを径内側に張出して増大させることにより形成されている請求項7に記載の空気ばね。
【請求項9】
前記補強材の断面形状は、前記補強材における前記補強コード層に面する部分が前記補強コード層に沿う形状となる状態に形成されている請求項8に記載の空気ばね。
【請求項10】
前記弾性材がゴムを有して形成されている請求項6〜9の何れか一項に記載の空気ばね。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両などの車両に好適に用いられる空気ばね、並びにその空気ばねに用いられるダイヤフラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の空気ばねは、特許文献1や特許文献2において開示されるように、車体側の上支持部と、台車側の下支持部と、上支持部と下支持部とに亘って配備される弾性材製のダイヤフラムと、を有して構成されている。
例えば、空気ばねは懸架手段として鉄道車両に用いられる場合が多く、台車と車両の上下間に配備される。
【0003】
この場合、空気ばねのダイヤフラムは、乗車人員が増加するなどによる荷重増加に伴い、上下寸法が縮小し、かつ、横方向寸法、即ち径が拡径されるように形状変化する。従って、空気ばねの周囲には、ダイヤフラムの最大拡径寸法を考慮したスペースを設計時に取っておく必要がある。
しかしながら、空気ばねの周囲には、各種配線や配管、車両フレームの一部、或いは、高さ調節装置、台車−軸はり間連動機構といった種々の機構類や構造体などが配備されるので、ダイヤフラムの拡径量を考慮した設計が必ずしも行えるとは限らない。
【0004】
そのため、場合によっては、特許文献3にて開示されるもののように、ダイヤフラムの外周部を径外側から覆う側周壁(1a)を上支持部である外筒(1)に形成し、ダイヤフラムが所定の径以上には拡径変位しないように規制する構造の空気ばねも作られている。
このように、ダイヤフラムの外径が所定の値以上には拡径しないように規制する構成の採用により、ダイヤフラム周囲の空間部を他の目的に活用できるだけでなく、荷重増に対して、ダイヤフラムの内圧は上昇するが上下寸法が変化し難く、従って、車両位置が殆ど下がらないという利点も得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011−080507号公報
【特許文献2】特開2012−017842号公報
【特許文献3】特開2012−017769号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、上記のように利点の多い特許文献3に示される空気ばねではあるが、改善すべき点のあることが指摘されてきている。
即ち、側周壁(1b)を備える上支持部(1)が徒に大型化・重量化してしまうとともに、ゴム製のリングガイド(1c)を装備するなどコスト上も不利である。しかも、それらリングガイド(1c)や側周壁(1b)はダイヤフラムの径外側に配置構成されるものであるから、結局、その分は大径化してしまうものであり、周囲のスペースを設計時に考慮する必要がある、という従来の問題も依然として残っているものであった。
【0007】
本発明の目的は、さらなる鋭意研究により、ダイヤフラムの拡径規制を行う手段を、実質的にダイヤフラム外径を大きくすることがなく、かつ、上支持部の大型化や重量化を伴うことなく実現させるようにして、改善された空気ばね用ダイヤフラム並びに空気ばねを提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に係る発明は、車体側の上支持部1に嵌着可能な上ビード部3aと、台車側の下支持部2に嵌着される下ビード部3bと、前記上ビード部3aと前記下ビード部3bとの間の本体部3cとを有する弾性材3Aでなる空気ばね用ダイヤフラムにおいて、
前記本体部3cの製造時における径が最大となる最大径部位に補強材6を周設して、前記本体部3cが所定の値以上に拡径しないように規制する拘束部kが、前記本体部3cの径内側に張出す状態で設けられ、
前記弾性材3Aは、外側の弾性材層14と内側の弾性材層15との間に補強コード層16を設けた複数層体に構成され、
前記補強材6は、前記補強コード層16に沿う形状となる状態で前記外側の弾性材層14に埋設されていることを特徴とする。
【0009】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の空気ばね用ダイヤフラムにおいて、前記拘束部kは、前記本体部3cを形成する前記弾性材3Aの厚さを径内側に張出して増大させた厚肉部分13に前記補強材6を埋設することにより構成されていることを特徴とする。
【0010】
請求項3に係る発明は、
請求項2に記載の空気ばね用ダイヤフラムにおいて、
前記厚肉部分13が、前記外側の弾性材層14の厚さを径内側に張出して増大させることにより形成されていることを特徴とする。
【0011】
請求項4に係る発明は、請求項3に記載の空気ばね
用ダイヤフラムにおいて、
前記補強材6の断面形状は、前記補強材6における前記補強コード層16に面する部分が前記補強コード層16に沿う形状となる状態に形成されていることを特徴とする。
【0012】
請求項5に係る発明は、
請求項1〜4の何れか一項に記載の空気ばね用ダイヤフラムにおいて、
前記弾性材3Aがゴムを有して形成されていることを特徴とする。
【0013】
請求項6に係る発明は、車体側の上支持部1と、台車側の下支持部2と、前記上支持部1と前記下支持部2とに亘って配備される弾性材3A製のダイヤフラム3と、を有して構成される空気ばねにおいて、
前記ダイヤフラム3の製造時における径が最大となる最大径部位に補強材6を周設して、前記ダイヤフラム3が所定の値以上に拡径しないように規制する拘束部kが、前記ダイヤフラム3の径内側に張出す状態で設けられ、
前記弾性材3Aは、外側の弾性材層14と内側の弾性材層15との間に補強コード層16を設けた複数層体に構成され、
前記補強材6は、前記補強コード層16に沿う形状となる状態で前記外側の弾性材層14に埋設されていることを特徴とする。
【0014】
請求項7に係る発明は、請求項6に記載の空気ばねにおいて、
前記拘束部kは、前記ダイヤフラム3を形成する前記弾性材3Aの厚さを径内側に張出して増大させた厚肉部分13に前記補強材6を埋設することにより構成されていることを特徴とする。
【0015】
請求項8に係る発明は、請求項7に記載の空気ばねにおいて、
前記厚肉部分13が、前記外側の弾性材層14の厚さを径内側に張出して増大させることにより形成されていることを特徴とする。
【0016】
請求項9に係る発明は、請求項8に記載の空気ばねにおいて、
前記補強材6の断面形状は、前記補強材6における前記補強コード層16に面する部分が前記補強コード層16に沿う形状となる状態に形成されていることを特徴とする。
【0017】
請求項10に係る発明は、請求項6〜9の何れか一項に記載の空気ばねにおいて、
前記弾性材3Aがゴムを有して形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
請求項1の発明によれば、本体部の最大径部位に補強材を周設して拘束部が設けられているので、上支持部を大型化する必要なく本体部の拡径を規制することが可能になる。その上、拘束部は本体部の径内側に張出すように設けられているから、拘束部が径外側に張出すように設けられる場合に比べて、有効径がほぼ同じであれば拘束部の分は最大外径を小型化できて、周囲の有効スペース拡大に寄与することが可能になり、最大外径を同じとすれば、有効径を大きくすることができる。
その結果、ダイヤフラムの拡径規制を行う手段を、実質的にダイヤフラム外径を大きくすることがなく、かつ、上支持部の大型化や重量化を伴うことなく、しかも合理的設計が行えるようにしながら実現させることができるという改善された空気ばね用ダイヤフラムを提供することができる。
【0019】
請求項1の発明によれば、ダイヤフラムを形成する弾性材は補強コード層を内装する強度に優れたものであるとともに、その補強コード層の径外側に外径規制用の補強材が配備されているから、ダイヤフラムの内圧上昇によって膨張する補強コード層が補強材に押付けられ、補強材の高い強度により外径の拡大が規制される、という具合に拡径規制作用が有効に発揮される。
【0020】
請求項2の発明によれば、拘束部においては、本体部を形成する弾性材の厚肉部分に補強材が埋設されているので、補強材が外部に晒されることがなく耐久性に優れるとともに外観上も好ましい空気ばね用ダイヤフラムを、特別な追加構成なく実現することができる。
【0021】
請求項3の発明によれば、補強材と補強コード層の間に弾性材が存在しているので、補強材と補強コード層の接触、摩耗を防ぐことができ、耐久性が向上するようになる。
例えば、補強コード層の内側に補強材が配置されている場合では、内圧上昇により補強コード層と補強材とは互いに離反する方向に力が作用することになり、弾性材と補強材との接着部が剥離する等の不具合を起こす可能性が高く、また耐久性も期待できない。従って、本
請求項3の構成には明確な優位性がある。
【0022】
請求項4の発明によれば、補強コード層を極力、面で拘束することができ、ダイヤフラムが横方向に(左右方向に)動くときの補強コード層の荷重負担が軽減され、耐久性や耐圧性が向上するようになる。加えて、補強材と補強コード層とが対向する面積が大きく取れるので、それら両者6,16間にゴム(外側のゴム層14)が確保され、補強材と補強コード層とが直接に擦り付けられる状況は先ず生じないようになり、品質の安定化に寄与できるようにもなる。
【0023】
また、
請求項5のように、弾性材を、ゴムを有する材料から形成すれば、ダイヤフラムに必要な条件を生産性良く満たすことができる。
【0024】
請求項6の発明によれば、請求項1の空気ばね用ダイヤフラムによる作用効果と同等の作用効果を奏することができる空気ばねを提供することができる。
【0025】
請求項7の発明によれば、請求項2の空気ばね用ダイヤフラムによる作用効果と同等の作用効果を奏することができる空気ばねを提供することができる。
【0026】
請求項8の発明によれば、補強材と補強コード層の間に弾性材が存在しているので、補強材と補強コード層の接触、摩耗を防ぐことができ、耐久性が向上するようになる。
例えば、補強コード層の内側に補強材が配置されている場合では、内圧上昇により補強コード層と補強材とは互いに離反する方向に力が作用することになり、弾性材と補強材との接着部が剥離する等の不具合を起こす可能性が高く、また耐久性も期待できない。従って、本請求項5の構成には明確な優位性がある。
【0027】
請求項9の発明によれば、補強コード層を極力、面で拘束することができ、ダイヤフラムが横方向に(左右方向に)動くときの補強コード層の荷重負担が軽減され、耐久性や耐圧性が向上するようになる。加えて、補強材と補強コード層とが対向する面積が大きく取れるので、それら両者6,16間にゴム(外側のゴム層14)が確保され、補強材と補強コード層とが直接に擦り付けられる状況は先ず生じないようになり、品質の安定化に寄与できるようにもなる。
【0028】
また、
請求項10のように、弾性材を、ゴムを有する材料から形成すれば、ダイヤフラムに必要な条件を生産性良く満たすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図4】ダイヤフラムの有効径を示し、(a)は拘束リングが外装タイプ、(b)は拘束リングが内装タイプ
【
図5】別構造の拘束リングを有するダイヤフラムの要部を示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下に、本発明による空気ばね及び空気ばね用ダイヤフラムの実施の形態を、例として鉄道車両用のものについて図面を参照しながら説明する。
【0031】
図1に示すように、空気ばねAは、鉄道車両用懸架装置Sに組み込まれて存在しており、その空気ばねAに用いられるダイヤフラム3が空気ばね用ダイヤフラムである。
懸架装置Sは、空気ばねAと、弾性ストッパBと、ばね座Cとを備えて構成されており、ばね座Cは台車dに支持され、空気ばねAの上部は車両bに支持されている。
通常時の懸架は空気ばねAが受け持ち、空気が抜けるなど空気ばねAがエアレス状態になって下降した非常時には弾性ストッパBが弾性作用を発揮するように構成されている。
【0032】
空気ばねAは、
図1に示すように、車両b側(車体側)の上支持部1と、台車d側の下支持部2と、上支持部1と下支持部2とに亘って配備される弾性材製のダイヤフラム(ベローズとも呼ばれる)3と、を有して構成されている。
【0033】
上支持部1は、上下方向視で円形を呈する鋼板製の支持座1a、支持座1aの下面に固着される鋼板製で無蓋円形箱状の台座部1b、支持座1aと台座部1bの中心に固定される筒状の支軸1c、及び、台座部1bの径外側において支持座1aの下面側に一体化されるリング状でゴム製の上受座1d等を有して構成されている。
支持座1aの径外側部分が若干下方に折れ曲る下向き皿状に形成されており、その下方に折れ曲る外周部の上側に回り込み、かつ、台座部1bの外周面には薄膜状となるように設けられる上受座1dにより、上ビード部3a(後述)を嵌着する上ビード受部4が形成されている。また、台座部1bの下面には、ステンレス鋼板製で円形の摺動材7が一体的に装備されている。
【0034】
下支持部2は、ばね座Cに載置され、かつ、弾性ストッパBが載せ付けられる略円盤状の支持本体2aと、その周囲に立設される側周壁2bと、側周壁2bの上下中間から径外側に張出し形成されるフランジ2cと、を有する金属製で略深皿状の構造物に構成されている。フランジ2cの外周側及び上面側には、鋼板製補強材12aを有する環状ゴム12が一体化されており、この環状ゴム12とフランジ2cの基端部と側周壁2bの下部とにより、下ビード部3b(後述)を嵌着する下ビード受部5が形成されている。
【0035】
ダイヤフラム3は、車体側の上支持部である上ビード受部4に嵌着可能な上ビード部3aと、台車側の下支持部である下ビード受部5に嵌着される下ビード部3bと、上ビード部3aと下ビード部3bとの間に形成される略横倒しタイヤ状の本体部3cとを有するゴム(弾性材の一例)製のセルフシール型ダイヤフラムに形成されている。本体部3cの上側部分は、上受座1dによってガイドされている。
本体部3cにおける径が最大となる最大径部位(又はその近傍の部位)に補強材6を周設して、本体部3cが所定の値以上に拡径しないように規制する拘束部kが、本体部3cの径内側に張出す状態で設けられている。
【0036】
弾性ストッパBは、下支持部2の支持本体2aに乗せ付けられてボルト止めされる基板8に、上下3枚の例えば鋼板でなる硬質板9a,9b,9cと上下3段の例えばゴムでなる弾性材層10a,10b,10cとを交互に積層して成る弾性部10を設けてなる筒状で積層ゴム構造に構成されている。最上段の硬質板9aの上面には、低摩擦材から成る滑り部材11が一体的に設けられている。
何らかの原因でダイヤフラム3の空気が抜けたエアレス状態になって上支持部1が下降すると、摺動材7と滑り部材11とが当接して弾性ストッパBで懸架する非常懸架状態になる。この非常懸架状態では、摺動材7と滑り部材11とが低摩擦で滑りが良いので、上支持部1と下支持部2とが円滑に相対横移動することが可能とされている。
【0037】
〔実施形態1〕
次に、空気ばねA及びダイヤフラム3について詳述する。
図1〜
図3に示すように、空気ばねAにおける拘束部kは、本体部3cを形成する弾性材の厚さを径内側に張出して増大させた厚肉部分13に補強材6を埋設することにより構成されている。
ダイヤフラム3を形成する弾性材3Aは、外側のゴム層(弾性材層の一例)14と内側のゴム層(弾性材層の一例)15との間に補強コード層16を設けた複数層構造の弾性膜(ゴム膜)で構成されるとともに、厚肉部分13が、外側のゴム層14の厚さを径内側に張出して増大させることにより形成され、その外側のゴム層14による厚肉部分13に埋設される状態で補強材6が周設されている。
【0038】
補強材6は、
図3に示すように、平面視でリング状又は渦巻状をなす金属材(スチール)などによる芯材17がゴムなどによる保護層18で覆われてなる構造のものに構成されている。そして、拘束部kが、補強コード層16が径内側に湾曲変形することでなる厚肉部分13の形状から、補強材6の断面形状は、補強材6における補強コード層16に面する部分が補強コード層16に沿う形状となる状態に形成されている。
径内側に膨らむことで形成される厚肉部分13における補強コード層16は、上側の径最大部分から径内側かつ下方に傾く下窄まり部分16aと、下側の径最大部分から径内側かつ上方に傾く上窄まり部分16bと、これら下窄まり部分16aと上窄まり部分16bとを結ぶ極小径部分16cとを備えて構成されている。
【0039】
そして、
図3に示すように、厚肉部分13における補強コード層16の径外側部分に埋設されている補強材6は、下窄まり部分16aに沿う上斜めカット部6a、上窄まり部分16bに沿う下斜めカット部6b、及び極小径部分16cに沿う内周縦壁部6cを有して、断面が内向きの略台形を呈する形状に形成されている。各カット部6a,6bは、芯材17とそれを囲む保護層18とによる四角断面部分を段階的に欠いた階段状の形状を呈しているが、この限りではない。
厚肉部分13における外側のゴム層14は、補強材6の存在により、補強材6の径外側であるアウター部14aと補強材6の径内側であるインナー部14bとを有する構成となっている。従って、補強材6と補強コード層16とが直接に擦り付けられる状況は先ず生じないように工夫されている。
【0040】
図4に、ダイヤフラム3(空気ばねA)の有効径の箇所を、それぞれ+で示してある。
図4(a)は、補強材6がダイヤフラム3の径外側に設けた比較例構造の例であり、
図4(b)は本発明によるもの、即ち、補強材をダイヤフラム3の径内側に設ける場合の例(実施形態2を参照)である。
拘束部kを除くダイヤフラム3の最大径が互いに同じrmであり、かつ、ダイヤフラム3の有効径をri〔
図4(a)〕及びru〔
図4(b)〕とする。この場合、拘束部kが内側に入り込む
図4(b)のものは、
図4(a)に比べてダイヤフラム内容積が若干減るが、その差は極僅かでありri≒ru(厳密にはruはriより極僅かに小さいが、ほぼ同じと見てよい)と考える。なお、
図4において、ダイヤフラム最大径rmと上支持部1の径とが同じに描いてあるが、この限りではない。
【0041】
以上のように、拘束部kを除くダイヤフラム最大径が共にrm、有効径ri≒ruである場合、比較例構造である
図4(a)では拘束部kの径方向長さをrmに加えたrhであるに対して、本発明品である
図4(b)ではrmであるから、ほぼ拘束部kの厚み分はダイヤフラム3の(空気ばねAの)最大径を小さくすることができる。
図4(a)に示すものに比べて、有効径をほぼ変えることなくダイヤフラム外径を明確に小さくすることができるので、台車取付け寸法で有利になるなど、周囲スペースの有効活用化を促進することが可能になる。
加えて、拘束部kが径外側に出っ張らないから、
図2に示すダイヤフラム3を金型成型する場合において、拘束部kを加えたことに因る専用の金型も不要になる。金型で拘束部kの位置を定めないから、金型作製後において、金型の変更を伴うことなく拘束部kの位置をある程度調整、変更することが可能になる利点もある。
【0042】
また、補強材6における補強コード層16に面する部分16a〜16cが補強コード層16に沿う形状となる状態に形成されているので、後述の実施形態2による拘束部kに比べて、補強コード層16を極力、面で拘束することができる。故に、鉄道車両の曲線走行などによってダイヤフラム3が横方向に(左右方向に)動くときの補強コード層16の荷重負担が軽減され、耐久性や耐圧性が向上するようになる。
また、傾斜面である上下の窄まり部分16a,16bにより、補強コード層16との接面(対向面)が広がり、製造時にそれら両者6,16間にゴム(外側のゴム層14)を確保することができ、後述の実施形態2による拘束部kに比べて、品質の安定化が図れる利点もある。
【0043】
〔実施形態2〕
実施形態2による空気ばね用ダイヤフラム及び空気ばねは、実施形態1のものと拘束部kが異なるのみであり、その要部を
図5に示す。
図5に示すように、拘束部kは断面が矩形の補強材6を有するものである。補強材6の径内側における上下の角部6d、6eが、ダイヤフラム3の補強コード層16の径外側面に接触する又は非常に近接する位置関係になっている。それ以外は実施形態1によるダイヤフラム3(空気ばねA)と同じであり、
図5において、対応する箇所には対応する符号を付してある。
【0044】
いずれの実施形態によるダイヤフラム3(空気ばねA)でも、拘束部kの存在により、有効な外径規制作用を得ることができる。そして、実施形態2によるダイヤフラム3(空気ばねA)では、拘束部kを構成する断面矩形の補強材6は、実施形態1による場合に比べて、その形成(作製)が容易である。実施形態1による空気ばねAでは、拘束部kを構成する断面横倒し略台形の補強材6は、実施形態2による場合に比べて、埋設される補強コード層16と補強材6とが角当たりするおそれが無く、より安定的に外径規制作用を発揮できる利点がある。
【符号の説明】
【0045】
1 上支持部
2 下支持部
3 ダイヤフラム
3A 弾性材
3a 上ビード部
3b 下ビード部
3c 本体部
6 補強材
13 厚肉部分
14 外側の弾性材層
15 内側の弾性材層
16 補強コード層
A 空気ばね
k 拘束部