特許第6283468号(P6283468)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6283468
(24)【登録日】2018年2月2日
(45)【発行日】2018年2月21日
(54)【発明の名称】逆導通IGBT
(51)【国際特許分類】
   H01L 29/78 20060101AFI20180208BHJP
   H01L 29/739 20060101ALI20180208BHJP
   H01L 21/8234 20060101ALI20180208BHJP
   H01L 27/06 20060101ALI20180208BHJP
【FI】
   H01L29/78 652C
   H01L29/78 652S
   H01L29/78 653A
   H01L29/78 655A
   H01L29/78 655D
   H01L29/78 655G
   H01L29/78 657D
   H01L27/06 102A
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-40561(P2013-40561)
(22)【出願日】2013年3月1日
(65)【公開番号】特開2014-170780(P2014-170780A)
(43)【公開日】2014年9月18日
【審査請求日】2015年7月15日
【審判番号】不服2017-5236(P2017-5236/J1)
【審判請求日】2017年4月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】特許業務法人快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】町田 悟
(72)【発明者】
【氏名】山下 侑佑
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 順
【合議体】
【審判長】 飯田 清司
【審判官】 小田 浩
【審判官】 大嶋 洋一
(56)【参考文献】
【文献】 特表2007−523487(JP,A)
【文献】 特開2010−283205(JP,A)
【文献】 特開2008−109028(JP,A)
【文献】 特開2009−267116(JP,A)
【文献】 特開2009−65105(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L21/336
H01L27/04
H01L29/739
H01L29/78
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
3相インバータに用いられる逆導通IGBTであって、
半導体層と、
前記半導体層の表層部に設けられているトレンチゲートと、を備えており、
前記半導体層は、
前記トレンチゲートの底面に接している第1導電型のドリフト領域と、
前記ドリフト領域上に設けられており、前記トレンチゲートの側面に接している第2導電型のボディ領域と、
前記ボディ領域上に設けられており、前記トレンチゲートの側面に接しており、前記トレンチゲートの長手方向に沿って分散して設けられている第1導電型の複数のエミッタ領域と、
前記ドリフト領域下の一部に設けられている第2導電型のコレクタ領域と、
前記ドリフト領域下の他の一部に設けられている第1導電型のカソード領域と、を有しており、
前記ボディ領域は、
前記エミッタ領域間に位置するコンタクト領域と、
前記コンタクト領域が前記トレンチゲートに接する部分の下方に位置する突出領域と、を含んでおり、
前記突出領域は、前記エミッタ領域が前記トレンチゲートに接する部分の下方に位置する前記ボディ領域よりも深く形成されており、
前記半導体層を平面視したときに、前記コレクタ領域が存在する範囲をIGBT範囲とし、前記カソード領域が存在する範囲をダイオード範囲としたときに、前記突出領域は、少なくとも前記ダイオード範囲に設けられている、逆導通IGBT。
【請求項2】
前記突出領域は、前記トレンチゲートの底面を覆う請求項1に記載の逆導通IGBT。
【請求項3】
前記突出領域は、前記トレンチゲートの長手方向に沿って分散して設けられている請求項1又は2に記載の逆導通IGBT。
【請求項4】
前記突出領域は、前記IGBT範囲にも設けられている請求項1〜3のいずれか一項に記載の逆導通IGBT。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、逆導通IGBT(Reverse Conducting Insulated Gate Bipolar Transistor)に関する。
【背景技術】
【0002】
IGBT構造が形成されている半導体層内にダイオード構造を一体化させた逆導通IGBTが開発されている。図8に示されるように、この種の逆導通IGBTは、3相インバータを構成する6つのトランジスタTr1−6に用いられることが多く、ダイオード構造がフリーホイールダイオード(Free Wheeling Diode:FWD)として動作する。
【0003】
図9に、トランジスタTr1-6の各々に入力するゲート信号のタイミングチャートを示す。上下のトランジスタのゲート信号の位相は約180度ずれており、U相とV相のトランジスタのゲート信号の位相は約120度ずれており、V相とW相のトランジスタのゲート信号の位相は約120度ずれている。
【0004】
例えば、時間t1では、トランジスタTr1,Tr3,Tr6のIGBT構造を介して電流が流れる。時間t3では、トランジスタTr2,Tr3,Tr6のIGBT構造を介して電流が流れる。ここで、時間t1から時間t3に移行する過渡期である時間t2では、トランジスタTr2のダイオード構造を介して還流電流が流れるとともに、トランジスタTr2のゲート信号がオンである。このように、3相インバータでは、ダイオード構造に還流電流が流れているときに、対応するゲートにゲート電圧が印加されるモードが存在する。
【0005】
ゲートにゲート電圧が印加されると、チャネルを介してn型ドリフト領域とn型エミッタ領域が接続される。n型エミッタ領域とp型ボディ領域の双方は共通のエミッタ電極に接続されている。このため、ゲートにゲート電圧が印加されると、p型ボディ領域とn型ドリフト領域で構成されるダイオード構造の順方向に十分な電圧が印加され難くなる。図10に示されるように、この現象はゲート干渉と呼ばれており、ゲート信号のオン・オフに依存して、ダイオード構造の順方向電圧が大きく変動する。
【0006】
特許文献1には、このようなゲート干渉に対策するために、ダイオード構造に還流電流が流れていることを検出してゲート信号を遮断するように構成された外部回路を設ける技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−72848号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1のように、外部回路を設ける技術では、制御が複雑となり、コスト増加も問題となる。本願明細書では、逆導通IGBTの内部構造を工夫することによってゲート干渉を改善する技術を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願明細書で開示される逆導通IGBTの一実施形態は、半導体層、及び半導体層の表層部に設けられているトレンチゲートを備えている。半導体層は、トレンチゲートの底面に接している第1導電型のドリフト領域、ドリフト領域上に設けられているとともにトレンチゲートの側面に接している第2導電型のボディ領域、ボディ領域上に設けられている第1導電型の複数のエミッタ領域を有する。複数のエミッタ領域は、トレンチゲートの側面に接しており、トレンチゲートの長手方向に沿って分散して設けられている。ボディ領域は、エミッタ領域間に位置するコンタクト領域、及びコンタクト領域がトレンチゲートに接する部分の下方に位置する突出領域を含んでいる。突出領域のトレンチゲートに対する深さは、エミッタ領域がトレンチゲートに接する部分の下方に位置するボディ領域の深さよりも深い。
【0010】
上記実施形態の逆導通IGBTでは、突出領域が設けられていることによって、ドリフト領域とトレンチゲートの接する部分が少なくなるので、ゲート干渉時の寄生抵抗動作が起こり難くなる。したがって、ボディ領域とドリフト領域で構成されるダイオード構造に順方向電圧が十分に印加され、ダイオード構造が良好に動作し、ゲート干渉が抑えられる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、実施例の逆導通IGBTの要部断面図であり、図4のI-I線に対応した縦断面図である。
図2図2は、実施例の逆導通IGBTの要部断面図であり、図4のII-II線に対応した縦断面図である。
図3図3は、実施例の逆導通IGBTの要部断面図であり、図4のIII-III線に対応した縦断面図である。
図4図4は、実施例の逆導通IGBTの半導体層の要部平面図である。
図5図5は、シミュレーション用の逆導通IGBTの単位構造の要部斜視図である。
図6図6は、アノード・カソード間電圧とアノード電流の関係において、突出領域の単位幅依存性を示すシミュレーション結果である。
図7図7は、アノード・カソード間電圧とアノード電流の関係において、突出領域の不純物濃度依存性を示すシミュレーション結果である。
図8図8は、インバータ回路の回路構成を示す。
図9図9は、インバータ回路を構成するトランジスタに対するゲート信号のタイミングチャートを示す。
図10図10は、逆導通IGBTに含まれるダイオード構造の順方向電圧と順方向電流において、ゲート干渉の影響を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本明細書で開示される技術の特徴を整理する。なお、以下に記す事項は、各々単独で技術的な有用性を有している。
(特徴1)本明細書で開示される技術は、IGBT構造が形成されている半導体層内にダイオード構造を一体化させた逆導通IGBTに具現化される。
(特徴2)本明細書で開示される逆導通IGBTは、半導体層の表層部に設けられているトレンチゲートを備えていてもよい。トレンチゲートは、半導体層を平面視したときに、長手方向を有して伸びていてもよい。トレンチゲートのレイアウトは特に限定されない。一例では、トレンチゲートのレイアウトにストライプ状のレイアウトを採用してもよい。
(特徴3)半導体層は、トレンチゲートの底面に接している第1導電型のドリフト領域、ドリフト領域上に設けられているとともにトレンチゲートの側面に接している第2導電型のボディ領域、及びボディ領域上に設けられている第1導電型の複数のエミッタ領域を有していてもよい。複数のエミッタ領域は、トレンチゲートの側面に接しており、トレンチゲートの長手方向に沿って分散して設けられていてもよい。半導体層はさらに、ドリフト領域下の一部に設けられている第2導電型のコレクタ領域、及びドリフト領域下の他の一部に設けられている第1導電型のカソード領域をさらに備えていてもよい。ドリフト領域下に設けられるコレクタ領域とカソード領域のレイアウトは特に限定されない。一例では、半導体層を特定の断面で観測したときに、コレクタ領域とカソード領域が交互に配置されるレイアウトであってもよい。
(特徴4)本明細書で開示される逆導通IGBTでは、ボディ領域が、エミッタ領域間に位置するコンタクト領域、及びコンタクト領域がトレンチゲートに接する部分の下方に位置する突出領域を含んでいてもよい。突出領域のトレンチゲートに対する深さは、エミッタ領域がトレンチゲートに接する部分の下方に位置するボディ領域の深さよりも深い。突出領域の不純物濃度は特に限定されない。突出領域が設けられていることによって、ドリフト領域とトレンチゲートの接する部分が少なくなるので、ゲート干渉時の寄生抵抗動作が起こり難くなる。このため、トレンチゲートにゲート電圧が印加されていても、内蔵されるダイオード構造に十分な順方向電圧が印加されるので、ゲート干渉が抑制される。
(特徴5)ボディ領域の突出領域は、トレンチゲートを覆うように構成されていてもよい。この形態によると、突出領域が設けられている部分においてチャネルが形成されない。このため、トレンチゲートにゲート電圧が印加されていても、内蔵されるダイオード構造に十分な順方向電圧が印加されるので、ゲート干渉が良好に抑制される。
(特徴6)ボディ領域の突出領域は、トレンチゲートの長手方向に沿って分散して設けられていてもよい。この形態によると、トレンチゲートの多くの部分でゲート干渉を抑えることができる。
(特徴7)半導体層を平面視したときに、コレクタ領域が存在する範囲をIGBT範囲とし、カソード領域が存在する範囲をダイオード範囲としたときに、ボディ領域の突出領域は、少なくともダイオード範囲に設けられていてもよい。より好ましくは、ボディ領域の突出領域は、IGBT範囲にも設けられていてもよい。
【実施例1】
【0013】
図1に示されるように、逆導通IGBT1は、IGBT範囲とダイオード範囲に区画された半導体層10、半導体層10の裏面を被覆するコレクタ電極22、半導体層10の表面を被覆するエミッタ電極24、及び半導体層10の表層部に形成されている複数のトレンチゲート30を備えている。一例では、コレクタ電極22の材料にアルミニウムが用いられており、エミッタ電極24の材料にアルミニウムが用いられている。トレンチゲート30は、ポリシリコンを材料とするトレンチゲート電極32と、そのトレンチゲート電極32を被覆する酸化シリコンを材料とするゲート絶縁膜34を有している。図4に示されるように、トレンチゲート30は、紙面上下方向を長手方向として伸びており、ストライプ状に配置されている。
【0014】
図1に示されるように、半導体層10は、シリコン基板であり、p型のコレクタ領域11、n型のカソード領域12、n型のドリフト領域13、p型のボディ領域14、及びn型の複数のエミッタ領域15を含んでいる。
【0015】
コレクタ領域11は、ドリフト領域13下の一部に設けられており、IGBT範囲に配置されている。コレクタ領域11の不純物濃度は濃く、コレクタ電極22にオーミック接触している。コレクタ領域11は、例えば、イオン注入技術を利用して、半導体層10の裏層部の一部にボロンを導入することで形成されている。
【0016】
カソード領域12は、ドリフト領域13下の一部に設けられており、ダイオード範囲に配置されている。カソード領域12の不純物濃度は濃く、コレクタ電極22にオーミック接触している。カソード領域12は、例えば、イオン注入技術を利用して、半導体層10の裏層部の一部にリンを導入することで形成されている。なお、この例では、IGBT範囲とダイオード範囲が明確に区画されるように、複数のトレンチゲート30に対応して1つのコレクタ領域11が配置され、複数のトレンチゲート30に対応して1つのカソード領域12が配置されている。このレイアウトは一例であり、この例に代えて、様々なレイアウトを採用することができる。例えば、複数のカソード領域12がコレクタ領域11に対して分散して配置されたレイアウトであってもよい。
【0017】
ドリフト領域13は、コレクタ領域11とボディ領域14の間、及びカソード領域12とボディ領域14の間に設けられており、IGBT範囲とダイオード範囲の双方に配置されている。ドリフト領域13は、トレンチゲート30の底面に接している。換言すると、トレンチゲート30は、ボディ領域14を貫通してドリフト領域13に接している。ドリフト領域13は、半導体層10に他の領域を形成した残部であり、不純物濃度は厚み方向に一定である。
【0018】
ボディ領域14は、ドリフト領域13上に設けられており、IGBT範囲とダイオード範囲の双方に配置されている。ボディ領域14は、トレンチゲート30の側面に接している。ボディ領域14は、不純物濃度が相対的に薄いメインボディ領域14aと不純物濃度が相対的に濃いコンタクト領域14bを有している。メインボディ領域14aは、コンタクト領域14bを取り囲んで設けられている。コンタクト領域14bは、半導体層10の表面に露出して設けられており、エミッタ電極24にオーミック接触している。ボディ領域14は、例えば、イオン注入技術を利用して、半導体層10の表層部にボロンを導入することで形成されている。また、メインボディ領域14a内に、電位がフローティングのn型のキャリア蓄積層が設けられていてもよい。
【0019】
複数のエミッタ領域15は、ボディ領域14上に設けられており、IGBT範囲とダイオード範囲の双方に配置されている。複数のエミッタ領域15は、半導体層10の表層部に分散して設けられており、半導体層10の表面に露出している。複数のエミッタ領域15の不純物濃度は濃く、エミッタ電極24にオーミック接触している。複数のエミッタ領域15は、例えば、イオン注入技術を利用して、半導体層10の表層部にリンを導入することで形成されている。
【0020】
図4に示されるように、複数のエミッタ領域15は、トレンチゲート30の側面に接しており、トレンチゲート30の長手方向(紙面上下方向)に沿って分散して配置されている。ボディ領域14のコンタクト領域14bは、エミッタ領域15の間においてトレンチゲート30の側面に接している。換言すると、トレンチゲート30には、エミッタ領域15に接する部分とコンタクト領域14bに接する部分が長手方向に沿って交互に繰り返し設けられている。また、トレンチゲート30の長手方向に直交する方向(紙面左右方向)に観測したときに、複数のトレンチゲート30の各々のエミッタ領域15に接する部分が一致するように配置されており、同様に、複数のトレンチゲート30の各々のコンタクト領域14bに接する部分が一致するように配置されている。即ち、半導体層10には、トレンチゲート30の長手方向に沿ってエミッタ形成範囲A15とコンタクト形成範囲A14が交互に配置されている。
【0021】
図2及び図3に示されるように、ボディ領域14は、トレンチゲート30よりも深く形成されているとともにトレンチゲート30の底面を覆う突出領域16をさらに有している。突出領域16は、コンタクト形成範囲A14(図4参照)に選択的に設けられており、エミッタ形成範囲A15(図4参照)に設けられていない。このため、ボディ領域14は、トレンチゲート30の長手方向に沿って観測したときに、トレンチゲート30よりも浅い部分とトレンチゲート30よりも深い部分が交互に設けられている。なお、この例では、突出領域16がメインボディ領域14aの一部として例示しているが、突出領域16の不純物濃度がメインボディ領域14aの不純物濃度よりも濃く形成されているのが望ましい。突出領域16は、例えば、イオン注入技術を利用して、トレンチゲート30を形成するためのトレンチの底部にリンを導入することで形成されている。
【0022】
逆導通IGBT1では、コレクタ領域11、ドリフト領域13、ボディ領域14、エミッタ領域15、及びトレンチゲート30によってIGBT構造が構成されている。また、逆導通IGBT1では、カソード領域12、ドリフト領域13、ボディ領域14によってダイオード構造が構成されている。逆導通IGBT1では、ダイオード構造がフリーホイールダイオードとして動作する。
【0023】
背景技術で説明したように、逆導通IGBT1が3相インバータに用いられた場合、ダイオード構造に還流電流が流れているときにトレンチゲート30にゲート電圧が印加されるモードが存在する。
【0024】
例えば、突出領域16が設けられていない例では、トレンチゲート30にゲート電圧が印加されると、トレンチゲート30の側面の全体にチャネルが形成される。このため、このチャネルを介してエミッタ領域15とドリフト領域13が接続され、ボディ領域14とドリフト領域13で構成されるダイオード構造の順方向に十分な電圧が印加され難くなるゲート干渉が強く現れる。
【0025】
一方、本実施例の逆導通IGBT1では、図2に示されるように、突出領域16がコンタクト形成範囲A14(図4参照)においてトレンチゲート30よりも深く設けられている。このため、この部分では、トレンチゲート30の側面に形成されるチャネルがドリフト領域13と接続されることが回避される。したがって、コンタクト形成範囲A14(図4参照)のダイオード構造では、トレンチゲート30にゲート電圧が印加されていても、順方向電圧が印加され、ゲート干渉が抑えられる。
【0026】
以下、逆導通IGBT1の他の特徴を列記する。
(1)本実施例の逆導通IGBT1では、突出領域16がトレンチゲート30の底面を被覆するように深く形成されている。この例に代えて、突出領域16がトレンチゲート30の底面を被覆しないように構成されていてもよい。この場合でも、突出領域16は、コンタクト形成範囲A14(図4参照)に選択的に設けられており、エミッタ形成範囲A15(図4参照)のボディ領域14よりも深く形成されていることを特徴としている。このような突出領域16が設けられているコンタクト形成範囲A14では、突出領域16によって、ドリフト領域とトレンチゲートの接する部分が少なくなるので、エミッタ形成範囲A15に比してゲート干渉時の寄生抵抗動作が起こり難い。したがって、このような形態であっても、コンタクト形成範囲A14(図4参照)のダイオード構造では、トレンチゲート30にゲート電圧が印加されていても、順方向電圧が印加され、ゲート干渉が抑えられる。
【0027】
(2)本実施例の逆導通IGBT1では、エミッタ形成範囲A15には突出領域16が設けられていない。このため、IGBT構造のオン状態を阻害することがない。また、本実施例の逆導通IGBT1では、ダイオード範囲においても、エミッタ形成範囲A15に突出領域16が設けられていない。このため、IGBT構造がオン状態において、ダイオード範囲のエミッタ領域15からも電子を注入することができるので、低いオン電圧が実現される。
【0028】
(3)本実施例の逆導通IGBT1では、突出領域16がトレンチゲート30の長手方向に沿って分散して設けられている。このため、トレンチゲート30の多くの範囲にゲート干渉が抑えられたダイオード構造が配置されているので、還流電流を低い順方向電圧で流すことができる。
【0029】
(4)本実施例の逆導通IGBT1では、突出領域16がダイオード範囲とIGBT範囲の双方に設けられている。例えば、突出領域16がダイオード範囲のみに設けられていても、逆導通IGBT1は、ゲート干渉を抑える効果を奏することができる。好ましくは、突出領域16がダイオード範囲とIGBT範囲の双方に設けられているのが望ましい。ゲート干渉を抑える効果が高い。
【0030】
(5)本実施例の逆導通IGBT1では、半導体層10にシリコン基板を用いた例を例示したが、半導体層10の半導体材料は特に限定されない。例えば、半導体層10の半導体材料は、炭化珪素、窒化ガリウム、窒化アルミニウム、又はダイヤモンドが用いられてもよい。
【0031】
(シミュレーション結果)
図5に、突出領域16の効果を検証するためのシミュレーションに用いた逆導通IGBTの単位構造の概略斜視図を示す。なお、上記した実施例と共通する構成要素に関しては共通した符号を付す。突出領域16は、コンタクト領域14bの下方に選択的に形成されており、エミッタ領域15の下方には形成されていない。トレンチゲート30の長手方向に沿って観測したときに、コンタクト領域14bの単位幅W14が3μmであり、エミッタ領域15の単位幅W15が1μmである。また、トレンチゲート30の単位幅W30は0.5μmである。また、コンタクト領域14bの不純物濃度は1×1020cm−3であり、メインボディ領域14aの不純物濃度は1×1017cm−3であり、エミッタ領域15の不純物濃度は1×1020cm−3である。
【0032】
図6に、突出領域16の単位幅W16を0.7μm、1.2μm、2.0μmとしたときのアノード・カソード間電圧とアノード電流の関係を示す。なお、このときの突出領域16の不純物濃度は1×1016cm−3であり、ゲート電圧は15Vである。図7に、突出領域16の不純物濃度を1.5×1016cm−3、3×1016cm−3、5×1016cm−3としたときのアノード・カソード間電圧とアノード電流の関係を示す。なお、このときの突出領域16の単位幅W16は0.7μmであり、ゲート電圧は15Vである。また、図中の比較例は、突出領域16が設けられていない例であり、Vg=0Vはゲート信号が入力していない例であり、Vg=15Vはゲート信号が入力している例である。
【0033】
図6に示されるように、突出領域16の単位幅W16が増加すると、ダイオード構造の順方向電圧が低下することが確認された。特に、突出領域16の単位幅W16が増加すると、ダイオード構造のスナップバック電圧が顕著に低下しており、ダイオード構造が低い順方向電圧で動作を開始することが確認された。
【0034】
また、図7に示されるように、突出領域16の不純物濃度が増加しても、ダイオード構造の順方向電圧が低下することが確認された。特に、突出領域16の不純物濃度が増加すると、ダイオード構造のスナップバック電圧が顕著に低下しており、ダイオード構造が低い順方向電圧で動作を開始することが確認された。
【0035】
図6及び図7の結果から、ゲート干渉を抑制するためには、突出領域16を形成することが有効であることが確認された。
【0036】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。また、本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0037】
10:半導体層
11:コレクタ領域
12:カソード領域
13:ドリフト領域
14:ボディ領域
14a:メインボディ領域
14b:コンタクト領域
15:エミッタ領域
16:突出領域
30:トレンチゲート
32:トレンチゲート電極
34:ゲート絶縁膜
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10