(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6283482
(24)【登録日】2018年2月2日
(45)【発行日】2018年2月21日
(54)【発明の名称】トリクロロシラン製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 33/107 20060101AFI20180208BHJP
【FI】
C01B33/107 Z
【請求項の数】2
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2013-174351(P2013-174351)
(22)【出願日】2013年8月26日
(65)【公開番号】特開2015-42600(P2015-42600A)
(43)【公開日】2015年3月5日
【審査請求日】2016年6月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101465
【弁理士】
【氏名又は名称】青山 正和
(72)【発明者】
【氏名】石井 敏由記
【審査官】
浅野 昭
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2010/100750(WO,A1)
【文献】
特開2010−235439(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/00−33/193
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
テトラクロロシランと水素とを含む原料ガスを転換反応させてトリクロロシランを含む反応生成ガスを生成する転換工程と、前記反応生成ガスを冷却器内で冷却してトリクロロシランを含む凝縮液を回収液タンクに送出する冷却工程とを備え、前記冷却工程は、前記冷却器の上部に備えた第1ノズル及び第2ノズルから前記反応生成ガスに冷却液を噴霧することにより該反応生成ガスを冷却して前記凝縮液をタンクに貯留するとともに、前記冷却液として、前記凝縮液の一部を循環して用いており、前記第1ノズルからの冷却液の噴霧量を30〜70m3/hとし、前記第2ノズルからの冷却液の噴霧量を10m3/h以下とし、前記凝縮液の組成を分析して、前記冷却液の高沸点物の含有濃度を8質量%以上10質量%以下となるように前記冷却液の温度及び噴霧量を制御し、かつ、前記回収液タンクへの前記凝縮液の供給量を調整しつつ前記タンク内の液面管理を行うことを特徴とするトリクロロシラン製造方法。
【請求項2】
前記凝縮液中の高沸点物の含有濃度は、前記反応生成ガスに噴霧する前記冷却液の温度を30℃以上40℃以下に調節することにより管理されることを特徴とする請求項1記載のトリクロロシラン製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テトラクロロシランをトリクロロシランに転換するトリクロロシランの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体材料に用いられる高純度の多結晶シリコンは、テトラクロロシラン(四塩化珪素:SiCl
4:STC)を水素と反応させる転換反応等により製造される高純度のトリクロロシラン(三塩化珪素:SiHCl
3:TCS)を原料として、そのトリクロロシランの水素還元反応及び熱分解反応により主に製造されている。
このような転換反応によりトリクロロシランを製造する装置として、例えば特許文献1に記載されるような転換反応装置(転化炉)が知られている。この転換反応装置には、発熱体に囲まれ、同心配置の2つの管によって形成された外室と内室の二重室を有する反応室と、この反応室の下部に配置されている熱交換器が設けられている。そして、熱交換器を介して反応室に水素とテトラクロロシランとを供給する原料ガス供給配管路と、反応室から反応生成ガスを排出する排出管路とが接続されている。熱交換器において、反応室に供給される供給ガスが、反応室から排出される反応生成ガスから熱を伝達されて予熱されると共に、排出される反応生成ガスの冷却が行われるようになっている。
【0003】
また、特許文献2には、テトラクロロシランと水素とを反応室に導入して600℃〜1200℃の温度で転換反応させることによって、トリクロロシランと塩化水素とを含む反応生成ガスを得ることが開示されている。そして、トリクロロシラン製造装置として、反応室から導出された反応生成ガスを、例えば1秒以内に300℃以下にまで達するような冷却速度で急冷する冷却手段を備えたものが提案されている。
さらに、特許文献3には、転換反応によって生成したガスを急冷した後に、再加熱して保持することによって、トリクロロシランの回収率を向上させることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3781439号公報
【特許文献2】特公昭57‐38524号公報
【特許文献3】特開2010‐132536号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載のトリクロロシラン製造装置では、反応室下部の熱交換器において、供給された原料ガスと熱交換することによって反応生成ガスの冷却が行われる。しかし、反応生成ガスを冷却する過程で、反応生成ガス中のトリクロロシランが塩化水素と反応してテトラクロロシランと水素に分解する逆反応が生じる。従来のような、原料ガスにより冷却する熱交換器による冷却では冷却速度が遅いため、逆反応の発生を十分に抑えることはできず、トリクロロシランへの転換率が向上し難いという問題があった。
【0006】
また、特許文献2に記載されているように、逆反応がほとんど生じなくなる300℃以下の温度範囲まで1秒以下の極端に短い時間で反応生成ガスを急冷することによって、逆反応を抑制することが可能である。しかし、このような極端に短い時間で急冷した場合には、冷却過程において、反応生成ガス中に含まれるジクロロシリレン(SiCl
2)がテトラクロロシラン(SiCl
4)と反応して高沸点物が副生することが知られている(特許文献3)。このジクロロシリレンは、転換反応において高温下で多く生成し、特に1200℃を超える温度下で顕著に生成され、転化炉から抜き出した反応生成ガスに含まれている。
なお、高沸点物とは、例えばSi
2H
2Cl
4、Si
2Cl
6(クロロジシラン)、Si
3Cl
8(クロロトリシラン)などのように、シリコン2原子以上を含む高次クロロシラン類の総称である。
【0007】
このように、極端に短い時間で急冷した場合には、冷却中のトリクロロシランの塩化水素との反応による分解が抑制されて、トリクロロシランへの転化の割合は高くなるが、高沸点物の生成量が増加し、冷却工程以降の配管などに高沸点物が堆積することで系内が閉塞するなどの不具合が生じる。一方、冷却速度が遅い場合には、高沸点物の生成量が低減するものの、トリクロロシランの塩化水素との反応による分解が進行してトリクロロシランの回収率が低下する。
そのため、転化炉から抜き出した反応ガスは、適切な冷却速度にコントロールする必要がある。しかし、転化炉から導出された反応ガスは1000℃以上の高温度であり、これを急冷する場合、トリクロロシランが分解しやすい600℃以上の高温領域での冷却速度を適切にコントロールすることは難しい。したがって、トリクロロシランの回収率を高めることを優先する場合、過剰な冷却速度で冷却してしまうことが多い。この場合、トリクロロシランの回収率は高いが、急冷によって生じる高沸点物の生成を抑制することができず、系内の配管の閉塞を生じさせ、安定した連続操業に支障をきたしたり、後段の配管に付着した高沸点物除去作業の負担が大きくなったりするという問題が生じる。とくに装置の大型化に伴い急冷速度には分布が生じるため、反応生成ガス全体の冷却速度を適切にコントロールすることが困難になり、局部的に冷却速度が極端に大きくなることがある。このため、高沸点物の生成を十分に抑制することが難しくなる。
【0008】
これに対して、特許文献3には、転換反応によって生成したガスを急冷することによりトリクロロシランの塩化水素との反応による分解を抑制するとともに、再加熱して保持することにより急冷時に生成した高沸点物を分解して高沸点物転換率を低下させ、トリクロロシランの回収率を向上させることが提案されている。しかし、特許文献1及び2に開示されている従来の装置では、このようなプロセスを行うことが困難であった。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、転換反応によって生成したトリクロロシランを含む反応生成ガスを冷却する際に、トリクロロシランの塩化水素との反応による分解と高沸点物の生成を効果的に抑制することができ、これにより、系内の閉塞などによる連続操業に支障をきたすことなく、また、高沸点物除去作業の負担も小さくでき、トリクロロシランの回収率が高いトリクロロシラン製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のトリクロロシラン製造方法は、テトラクロロシランと水素とを含む原料ガスを転換反応させてトリクロロシランを含む反応生成ガスを生成する転換工程と、前記反応生成ガスを冷却器内で冷却してトリクロロシランを含む凝縮液を
回収液タンクに送出する冷却工程とを備え、前記冷却工程は、前記冷却器の上部に備えた第1ノズル及び第2ノズルから前記反応生成ガスに冷却液を噴霧することにより該反応生成ガスを冷却
して前記凝縮液をタンクに貯留するとともに、前記冷却液として、前記凝縮液
の一部を循環して用いており、前記第1ノズルからの冷却液の噴霧量を30〜70m
3/hとし、前記第2ノズルからの冷却液の噴霧量を10m
3/h以下とし、前記凝縮液の組成を分析して、前記冷却液の高沸点物の含有濃度を8質量%以上10質量%以下となるように前記冷却液の温度及び噴霧量を制御
し、かつ、前記回収液タンクへの前記凝縮液の供給量を調整しつつ前記タンク内の液面管理を行うことを特徴とする。
【0011】
転換工程で生成される高温の反応生成ガスを、冷却液を噴霧することによって急冷することで、トリクロロシランの塩化水素との反応による分解を抑制することができ、トリクロロシランの回収率を高めることができる。
また、冷却液中の高沸点物の含有濃度を8質量%以上10質量%以下に管理することにより、テトラクロロシランからトリクロロシランへの転換率が促進され、反応生成ガス冷却時に高沸点物が生成されることを抑制できる。したがって、配管等に高沸点物が堆積することが低減でき、系内の閉塞や配管に付着した高沸点物の除去作業の負担を小さくできることから、連続して安定した稼働を行うことができる。
なお、冷却液中の高沸点物の含有濃度が8質量%未満であると、反応生成ガス冷却時に生成される高沸点物の生成量が増加する。また、冷却液中の高沸点物の含有濃度が10質量%を超えると、反応生成ガスの冷却時に高沸点物が生成されることは抑制できるが、その反面、冷却液濃度の管理が困難になる。
【0012】
本発明のトリクロロシラン製造方法において、前記凝縮液中の高沸点物の含有濃度は、前記反応生成ガスに噴霧する前記冷却液の温度を30℃以上40℃以下に調節することにより管理される。
冷却液の温度を高めに設定すると、凝縮液中に含まれるトリクロロシランの含有量が減少して高沸点物の含有濃度を高くすることができる。一方、冷却液の温度を低めに設定すると、凝縮液中に含まれるトリクロロシランの含有量を増加させることができ、高沸点物の含有濃度を低くすることができる。このように、冷却液の温度を30℃以上40℃以下の範囲に設定することにより、凝縮液に含まれる高沸点物の含有濃度を8質量%以上10質量%以下に管理することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、冷却液中の高沸点物の含有濃度を管理することにより、転換反応によって生成した反応生成ガスを冷却する際に、トリクロロシランの塩化水素との反応による分解と高沸点物の生成を効果的に抑制することができる。これにより、系内の閉塞などによる連続操業に支障をきたすことなく、また、高沸点物除去作業の負担も小さくでき、トリクロロシランの回収率を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明のトリクロロシラン製造装置の実施形態を示す模式図である。
【
図2】高沸点物生成量と冷却液中の高沸点物の含有濃度との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係るトリクロロシランの製造方法及び製造装置の実施形態について説明する。
図1は、本発明の実施形態のトリクロロシラン製造装置100の全体の概略構成を示しており、図中、トリクロロシランはTCS、テトラクロロシランはSTC、水素はH
2、塩化水素はHClとして表記している。
【0016】
トリクロロシラン製造装置100は、テトラクロロシランと水素とを含む原料ガスを転換反応させてトリクロロシランを含む反応生成ガスを生成する転化炉1と、転化炉1から反応生成ガスが供給され、この反応生成ガスを冷却してトリクロロシランを含む凝縮液を回収する冷却器2とを備えている。
【0017】
転化炉1は、原料ガスを炉内に供給するための原料ガス供給管11と、炉内で生成された反応生成ガスを冷却器2に供給するための反応生成ガス供給管12とが接続されている。この転化炉1では、原料ガス供給管11を通じて供給された原料ガスが加熱されることによりテトラクロロシラン(STC)が転換し、トリクロロシラン(TCS)を含む反応生成ガスが生成される(転換工程)。この反応生成ガスは、反応生成ガス供給管12を通じて冷却器2に供給される。
【0018】
冷却器2では、反応生成ガス供給管12を通じて供給された反応生成ガスが冷却され、トリクロロシランを含む反応生成物が回収される(冷却工程)。この冷却器2には、器内の凝縮液を回収する液回収部3と、室内のガスを回収するガス回収部4と、器内に冷却液を噴霧する第1ノズル5A及び第2ノズル5Bとが設けられている。このように2つのノズル5A,5Bを使用する利点は、短時間で気液接触を行うことを可能とするためである。
液回収部3は、冷却器2の下部に接続された接続管31と、この接続管31に接続されたタンク32とを備え、冷却器2内の凝縮液を回収してタンク32に貯留する。タンク32に貯留された凝縮液は、冷却器2での反応生成物(トリクロロシラン等)及び冷却液を含み、回収液タンク6Aと、第1ノズル5A及び第2ノズル5Bとに、ポンプ7によって制御された流量で送出される。
【0019】
タンク32には、回収した凝縮液の組成を分析する組成分析部33が備えられている。組成分析部33でタンク32内の凝縮液の組成を分析することにより、反応生成物に含まれる高沸点物やトリクロロシランの割合を測定することができ、タンク32内の凝縮液は、高沸点物の含有濃度が8質量%以上10質量%以下に設定されている。
【0020】
凝縮液の高沸点物の含有濃度は、冷却器2において反応生成ガスに噴霧する冷却液の温度を30℃以上40℃以下に調節することにより管理される。例えば、冷却液の温度を高めに設定すると(40℃以上)、凝縮液中に含まれるトリクロロシランの含有量を低減し、高沸点物の含有濃度を高くすることができるが、高沸点物の割合が高くなることにより、凝縮液の粘性が高くなるため、系内で閉塞が発生し易くなり安定した処理がし難くなる。
一方、冷却液の温度を低めに設定すると(30℃以下)、凝縮液中に含まれるトリクロロシランの含有量を増加させることができ、高沸点物の含有濃度を低くすることができることから、系内の閉塞は発生し難くなるが、回収するトリクロロシランの高い転換率は得られにくくなる。
このように、冷却液の温度を30℃以上40℃以下の範囲に設定することにより、凝縮液に含まれる高沸点物の含有濃度を8質量%以上10質量%以下の範囲で管理することができる。
なお、冷却液の噴霧量を調整することによっても、凝縮液の高沸点物の含有濃度を管理することができる。
【0021】
ガス回収部4は、冷却器2の上部に接続された接続管41と、この接続管41に接続された凝縮器42とを備え、冷却器2内のガスを凝縮器42で凝縮して液分とガス分とに分けて回収する。冷却器2から回収されたガスは、冷却器2での反応生成物(トリクロロシラン等)を含み、凝縮器42で凝縮されることにより液化した分は回収液タンク6Aへ送出され、水素及び塩化水素を含むガス分は塩化水素回収系(図示略)へと送出されて、水素と塩化水素とに分離され、それぞれ利用される。
【0022】
第1ノズル5A及び第2ノズル5Bは、冷却器2内の上部に備えられ、それぞれ冷却液の温度制御のために設けられた熱交換器51A,51Bを通じて供給された冷却液を噴霧する。冷却液は、ポンプ7によってタンク32から供給されるテトラクロロシラン及びトリクロロシランを主成分とする凝縮液である。
さらに、このトリクロロシラン製造装置100には、組成分析部33の測定分析結果に基づき、第1ノズル5A及び第2ノズル5Bから噴霧される冷却液の温度及び噴霧量を個別に制御する制御部34が備えられている。
また、
図1に示す符号8はストレーナーであり、凝縮液中に含まれる固形分を除去するものである。なお、符号9はタンク32から回収液タンク6Aへの凝縮液の供給量を調整するバルブであり、符号6Bは再利用タンクである。再利用タンク6Bのテトラクロロシランは、例えば蒸留後に転化炉1で原料ガスとして使用される。
【0023】
トリクロロシランは、以上のように構成されたトリクロロシラン製造装置100を用いて、次のように製造することができる。
<転換工程>
まず、原料ガス供給管11を通じて、テトラクロロシラン及び水素を含む原料ガスが転化炉1内に供給される。転化炉1内で原料ガスが1000℃〜1900℃に加熱されることにより、式(1)の転換反応(水素化)が起こり、トリクロロシランを含む反応生成ガスが生成される。
SiCl
4+H
2→SiHCl
3+HCl …(1)
この反応生成ガスは、反応生成ガス供給管12を通じて冷却器2に供給される。
【0024】
<冷却工程>
反応生成ガスは冷却器2内で第1ノズル5A及び第2ノズル5Bから噴霧される冷却液によって冷却されることにより、反応生成物が形成される。この際、転換工程で生成される高温の反応生成ガスを、冷却液を噴霧することによって急冷することができ、トリクロロシランの塩化水素との反応による分解が抑えられる冷却速度で、反応生成ガスが冷却される。
具体的には、反応生成ガスが0.01秒〜1秒の間に600℃〜950℃まで冷却された後、600℃〜950℃に0.01秒〜5秒間維持し、最終的に600℃未満にまで冷却されるように、冷却速度が調整される。
また、第1ノズル5A及び第2ノズル5Bから噴霧される冷却液の流量が多すぎると、冷却器2内で発生する高沸点物の量が増え、逆に冷却液の噴霧流量が少ないと粉末状シリコンが増加して冷却器2内もしくは後段の接続管31あるいはタンク32内に蓄積し易く、系内の閉塞の原因となる。このため、第1ノズル5Aからの冷却液の噴霧は30〜70m
3/h、好ましくは40〜60m
3/hで、第2ノズル5Bからの冷却液の噴霧は10m
3/h以下、好ましくは6m
3/h前後で行うことが望ましい。
また、第1ノズル5A及び第2ノズル5Bから噴霧される冷却液は、高沸点物の含有濃度が8質量%以上10質量%以下に管理されており、冷却工程においてもテトラクロロシランからトリクロロシランへの転換率の低減が抑制され、高沸点物の生成が抑制される。
【0025】
冷却され液化した反応生成物は、冷却液とともに液回収部3に回収され、接続管31を通じてタンク32に貯留される。また、冷却器2内の気体は、ガス回収部4によって回収され、接続管41を通じて凝縮器42へ送られる。気体には主にトリクロロシラン、塩化水素、水素が含まれており、凝縮器42では塩化水素ガス及び水素ガスが通過するとともに、凝縮され液化したトリクロロシランが主に回収される。液回収部3によって回収された凝縮液は、一部が冷却液として第1ノズル5A及び第2ノズル5Bへと送られ、残りの凝縮液は、ガス回収部4によって回収されたトリクロロシランとともに回収される。
なお、第1ノズル5A及び第2ノズル5Bからは、熱交換器51A,51Bにより30℃以上40℃以下の温度範囲に調節された冷却液が噴霧されるようになっている。このとき、組成分析部33でタンク32内の凝縮液の組成を分析するとともに、タンク32内の凝縮液の高沸点物の含有濃度が8質量%以上10質量%以下となるように、制御部34によって冷却液の温度及び噴霧量が制御される。
また、タンク32内の高沸点物の含有濃度が高くなると、反応生成ガスに含まれる粉末状固形物によるポンプ7の負担が増えるだけでなく、ストレーナー8の負荷も増え、系内の閉塞を引き起こすこともあるため、冷却により生成された反応生成物及び冷却液の量は、バルブ9によりタンク32内の液面管理を行うとともに、タンク32内の高沸点物の含有濃度を10質量%以下で管理することが望ましい。
回収液タンク6Aに貯留されたトリクロロシランを主成分とする凝縮液は、再利用タンク6Bを経由して蒸留系(図示略)へと送出されて、トリクロロシラン等に分離された後、例えば多結晶シリコン析出などの原料ガスとして再び利用される。
【0026】
以上説明したように、本発明に係るトリクロロシラン製造装置100を用いて、本発明に係る製造方法を行うことにより、高沸点物の生成やトリクロロシランの塩化水素との反応による分解を抑制しながら反応生成ガスを冷却し、効率よくトリクロロシランを製造することができる。
【0027】
ここで、本発明に係るトリクロロシラン製造装置100を用いて、冷却液の高沸点物含有濃度を変化させることによる、反応生成物(凝縮液)中に含まれる高沸点物の発生量の違いを比較した。結果を
図2に示す。
図2に示す「高沸点物発生量」は、トリクロロシラン製造装置100を1ヶ月の連続運転をした際の組成分析部33で計測したタンク32内の高沸点物の含有濃度に対する反応生成ガスの冷却後の高沸点物の発生量(ton/月)を示す。また、「高沸点物の含有濃度」は、冷却液中の高沸点物の含有濃度(質量%)を示す。
【0028】
図2に示されるように、「高沸点物の含有濃度」を6質量%付近に設定した場合は、「高沸点物発生量」が35ton/月程度であった。これに対し、「高沸点物の含有濃度」を8質量%以上10質量%以下に設定した場合は、「高沸点物発生量」を10ton/月程度に抑えることができた。このように、「高沸点物の含有濃度」を8質量%以上10質量%以下に管理することにより、反応生成ガス冷却時に高沸点物が生成されることを抑制できる。
高沸点物の生成量が低減されることで、配管等に高沸点物が堆積することが防止でき、配管に付着した高沸点物の除去作業の負担を少なくできることから、連続して安定した稼働を行うことができる。
なお、冷却液中の高沸点物の含有濃度が10質量%を超えると、反応生成ガスの冷却時に高沸点物が生成されることは抑制できるが、その反面、冷却液の濃度管理が困難になる。
【0029】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0030】
1 転化炉
2 冷却器
3 液回収部
4 ガス回収部
5A 第1ノズル
5B 第2ノズル
6A 回収液タンク
6B 再利用タンク
7 ポンプ
8 ストレーナー
9 バルブ
11 原料ガス供給管
12 反応生成ガス供給管
31 接続管
32 タンク
33 組成分析部
34 制御部
41 接続管
42 凝縮器
51A,51B 熱交換器
100 トリクロロシラン製造装置