特許第6283510号(P6283510)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6283510トリテルペンアルコール含有油脂の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6283510
(24)【登録日】2018年2月2日
(45)【発行日】2018年2月21日
(54)【発明の名称】トリテルペンアルコール含有油脂の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07J 9/00 20060101AFI20180208BHJP
   A23D 9/02 20060101ALI20180208BHJP
   C11C 3/00 20060101ALI20180208BHJP
   C11B 5/00 20060101ALI20180208BHJP
【FI】
   C07J9/00
   A23D9/02
   C11C3/00
   C11B5/00
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-248899(P2013-248899)
(22)【出願日】2013年12月2日
(65)【公開番号】特開2015-105256(P2015-105256A)
(43)【公開日】2015年6月8日
【審査請求日】2016年9月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591066362
【氏名又は名称】築野食品工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100077562
【弁理士】
【氏名又は名称】高野 登志雄
(74)【代理人】
【識別番号】100096736
【弁理士】
【氏名又は名称】中嶋 俊夫
(74)【代理人】
【識別番号】100117156
【弁理士】
【氏名又は名称】村田 正樹
(74)【代理人】
【識別番号】100111028
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 博人
(72)【発明者】
【氏名】阿部 哲也
(72)【発明者】
【氏名】福原 真平
(72)【発明者】
【氏名】小松 利照
(72)【発明者】
【氏名】橋爪 浩二郎
(72)【発明者】
【氏名】築野 卓夫
(72)【発明者】
【氏名】加藤 浩司
(72)【発明者】
【氏名】森田 尚宏
【審査官】 井上 恵理
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−257064(JP,A)
【文献】 特開2013−099309(JP,A)
【文献】 特開2013−090619(JP,A)
【文献】 特開2013−090618(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C11B 1/00−15/00
C11C 1/00− 5/02
C07J 1/00−75/00
A23D 7/00− 9/06
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の工程(1)、(2)及び(3):
(1)γ−オリザノール含有原料をアルカリ加水分解する工程、
(2)工程(1)で得られる加水分解物を、中和度が残存アルカリ量に対し0.9〜1.05の範囲となるように酸で中和する工程、
(3)工程(2)で得られる中和物と油脂を混合した後、油水分離して、トリテルペンアルコールを含有する油脂を得る工程、
を含む、トリテルペンアルコール含有油脂の製造方法。
【請求項2】
酸がクエン酸又は硫酸である、請求項1記載のトリテルペンアルコール含有油脂の製造方法。
【請求項3】
工程(3)において、油脂をγ−オリザノール含有原料の2質量倍以上20質量倍以下で用いる、請求項1又は2記載のトリテルペンアルコール含有油脂の製造方法。
【請求項4】
工程(3)において、油脂がナタネ油及び/又は米油である、請求項1〜3のいずれか1項に記載のトリテルペンアルコール含有油脂の製造方法。
【請求項5】
工程(3)の後、トリテルペンアルコールを含有する油脂に水を接触させ、油水分離を行う工程を更に含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載のトリテルペンアルコール含有油脂の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トリテルペンアルコール含有油脂の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
トリテルペンアルコールは、炭素数30又は31の四環性の化合物で、米糠油等の穀類の糠油中に含まれる成分である。また、トリテルペンアルコールは、γ−オリザノールを構成するアルコール部分の主要な成分でもある。トリテルペンアルコールの生理機能に関しては様々な報告があり、例えば、血中コレステロール低下作用、脂質吸収抑制作用、アディポネクチン分泌促進作用等が報告されている(非特許文献1、特許文献1及び2)。
【0003】
近年の健康指向を背景に、これらトリテルペンアルコールの生理作用を効果的に得ることが求められている。その要望を満たすには、油のような日常の調理等を通して容易に無理なく摂取できる形態が望ましい。さらに、トリテルペンアルコールを遊離体として摂取するのが望ましい。
しかしながら、通常の米糠油中のトリテルペンアルコールの多くはフェルラ酸エステル或いは脂肪酸エステルとして存在し、遊離体は僅か0.2質量%程度占めるに過ぎない。
【0004】
そこで、γ−オリザノールを加水分解して抽出分離したトリテルペンアルコールを食用油に配合する試みがなされている(例えば、特許文献1)。
トリテルペンアルコールを抽出分離する方法としては、粗オリザノールをアルカリ加水分解した後、アセトン及びベンゼンで抽出し、更にメタノールより再結晶し精製する方法(特許文献3)や、粗オリザノールをアルカリ加水分解した後、エーテルで抽出するか氷水中で析出させる方法(特許文献4)、γ−オリザノールをアルカリ加水分解した後、低極性有機溶媒で抽出し、水中でトリテルペンアルコールを加熱溶融させ、冷却する方法等が報告されている(特許文献5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−257064号公報
【特許文献2】特開2005−68132号公報
【特許文献3】特公昭55−2440号公報
【特許文献4】特開2006−273764号公報
【特許文献5】特開2012−41304号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】「動脈硬化」、1985年、Vol.13,No.2 June,p.273−278
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献3〜5に示されるように、従来、γ−オリザノールから遊離したトリテルペンアルコールを分離するためにはアセトンやベンゼン等による溶媒抽出が必要とされていた。しかしながら、トリテルペンアルコールを食品用途に使用する場合、有機溶媒の使用を低減又は回避することが望ましい。また、取扱性を考慮して、抽出分離したトリテルペンアルコールを固体状にするには専用の設備が必要で、精製負荷・環境負荷が懸念される。
したがって、本発明は、トリテルペンアルコールを高濃度に含む油脂の新たな製造方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討したところ、γ−オリザノールのアルカリ加水分解後、残存したアルカリを一定の条件で中和すれば、油脂を用いて遊離したトリテルペンアルコールを容易に抽出分離できること、更に得られる油脂は高濃度のトリテルペンアルコールを含みながらも、常温での外観が良好で、且つ低温耐性にも優れることを見出した。
【0009】
すなわち、本発明は、次の工程(1)、(2)及び(3):
(1)γ−オリザノール含有原料をアルカリ加水分解する工程、
(2)工程(1)で得られる加水分解物を、中和度が残存アルカリ量に対し0.9〜1.05の範囲となるように酸で中和する工程、
(3)工程(2)で得られる中和物と油脂を混合し、トリテルペンアルコールを含有する油脂を得る工程、
を含む、トリテルペンアルコール含有油脂の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、トリテルペンアルコールを高濃度に含み、常温での外観が良好で、且つ低温耐性にも優れる油脂を得ることができる。本発明の方法は、油脂の通常の精製設備により精製が可能なため、精製負荷及び環境負荷を低減することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のトリテルペンアルコール含有油脂の製造方法は、次の工程(1)、(2)及び(3):
(1)γ−オリザノール含有原料をアルカリ加水分解する工程、
(2)工程(1)で得られる加水分解物を、中和度が残存アルカリ量に対し0.9〜1.05の範囲となるように酸で中和する工程、
(3)工程(2)で得られる中和物と油脂を混合し、トリテルペンアルコールを含有する油脂を得る工程、
を含む。
【0012】
本発明の工程(1)は、γ−オリザノール含有原料をアルカリ加水分解する工程である。
γ−オリザノールは、米糠油、トウモロコシ油、その他の穀類の糠油中に存在する物質で、トリテルペンアルコールのフェルラ酸(3−メトキシ−4−ヒドロキシ桂皮酸)エステルと、トリテルペンアルコール以外の植物ステロールのフェルラ酸エステルの総称である。
【0013】
γ−オリザノールは、前記米糠油等の製造過程で生じる脱酸フーツ(脱酸工程で分離されるアルカリ油さい)に多く含まれる。このため、γ−オリザノール含有原料には、トリアシルグリセロール、脂肪酸及び脂肪酸塩が多く含有されていることが多い。また、γ-オリザノール含有原料は、前記油からの粗精製物、精製物のいずれも用いることが出来るが、脱酸フーツ、特に米糠油由来の脱酸フーツから低級アルコールで抽出後、中和、再結晶して得られるオリザノールの粗精製物を用いるのが、工業生産性及びコストの観点から好ましい。
γ−オリザノール含有原料中、トリテルペンアルコールフェルラ酸エステルの含有量は、工業生産性及びコストの観点から、45〜95質量%(以下、単に「%」とする)、更に50〜90%であることが好ましい。
γ-オリザノール含有原料は市販品を使用することもできる。
【0014】
アルカリ加水分解は、常法に従って行うことができる。アルカリとしては、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物、アンモニア、アミン類等が挙げられる。なかでも、取り扱い性の観点から、アルカリ金属の水酸化物が好ましく、更に水酸化カリウムが好ましい。
【0015】
アルカリの使用量は、トリテルペンアルコールフェルラ酸エステルを十分に加水分解するという観点より、γ-オリザノール含有原料のけん化価に対して1当量〜20当量、更に5当量〜10当量が好ましい。なお、γ-オリザノール含有原料のけん化価は、例えば基準油脂分析法2.3.2記載の方法に従って測定できる。
アルカリの濃度は、トリテルペンアルコールフェルラ酸エステルを十分に加水分解するという観点より、1mol/dm3以上、更に1.5mol/dm3以上、更に2mol/dm3以上が好ましい。また、アルカリの濃度は、加水分解後の中和を効率的に行う観点から、5mol/dm3以下が好ましく、更に3mol/dm3以下が好ましい。
【0016】
アルカリ加水分解は有機溶媒の存在下で行ってもよい。有機溶媒としては、反応を阻害しないものであればよく、例えば、ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル類;メタノール、エタノール等のアルコール類等が挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。なかでも、取扱い性の観点から、アルコール類が好ましく、更にエタノールが好ましい。アルコール類の濃度は、トリテルペンアルコールフェルラ酸エステルを十分に加水分解するという観点より、70質量%以上が好ましく、更に80質量%以上が好ましく、更に90質量%以上が好ましく、また、98質量%以下が好ましく、更に95質量%以下が好ましい。
【0017】
反応温度は、特に限定されないが、トリテルペンアルコールフェルラ酸エステルを十分に加水分解する観点から、25〜100℃、更に50〜90℃が好ましい。
【0018】
反応時間は、アルカリ濃度と反応温度とから適宜選択されるが、トリテルペンアルコールフェルラ酸エステルを十分に加水分解するという観点より、1時間〜50時間が好ましく、更に2時間〜24時間、更に3時間〜15時間が好ましい。
【0019】
本発明の方法における工程(2)は、前記工程(1)で得られるアルカリ加水分解物を、中和度が残存アルカリ量に対し0.9〜1.05の範囲となるように酸で中和する工程である。
本明細書において、残存アルカリ量とは、γ−オリザノール含有原料のアルカリ加水分解で使用されずに残存したアルカリの量であり、工程(1)において添加したアルカリの量から、γ−オリザノール含有原料のアルカリ加水分解に使用されたアルカリの量を差し引いた値である。残存アルカリ量は、添加したアルカリのモル数(mol)-(γ-オリザノール含有原料中のトリテルペンアルコールフェルラ酸エステルのモル数(mol)+γ-オリザノール含有原料中の植物ステロールフェルラ酸エステルのモル数(mol))により算出できる。
【0020】
中和度は、残存アルカリ量に対し0.9〜1.05の範囲である。0.9以上とすると、中和後の油脂抽出工程(3)において過剰のアルカリによる油脂の加水分解を防ぐことができ、1.05以下とすると、アルカリ加水分解で生成する副生成物が混在し難くなり、常温及び低温での外観が良好なトリテルペンアルコール含有油脂を得ることができる。
中和度は、中和後の油脂によるトリテルペンアルコール抽出効率の観点から、残存アルカリ量に対し更に0.92以上、更に0.93以上が好ましく、また、更に1.02以下、更に0.99以下が好ましい。また、中和度は、残存アルカリ量に対し0.92〜1.02が好ましく、更に0.93〜0.99が好ましい。
中和度は、添加酸量(添加した酸量(mol)×価数)と残存アルカリ塩基量(残存アルカリ量(mol)×価数)との比(添加酸量/残存アルカリ塩基量)で表す。
【0021】
酸は公知の酸を使用でき、例えば、塩酸、硫酸、リン酸、硝酸、p−トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸等の無機酸;蟻酸、酢酸、プロピオン酸、リンゴ酸、クエン酸等の有機酸が挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。なかでも、取扱い性の観点から、硫酸、クエン酸が好ましい。
【0022】
中和時の温度は、工業生産性の観点から、25〜70℃が好ましい。
【0023】
本発明の方法における工程(3)は、前記工程(2)で得られる中和物と油脂を混合し、トリテルペンアルコールの抽出を行い、トリテルペンアルコールを含有する油脂を得る工程である。
本発明で用いられる油脂としては、例えば、大豆油、ナタネ油、サフラワー油、米油、コーン油、パーム油、ヒマワリ油、綿実油、オリーブ油、ゴマ油、落花生油、ハトムギ油、小麦胚芽油、シソ油、アマニ油、エゴマ油、サチャインチ油、クルミ油、キウイ種子油、サルビア種子油、ブドウ種子油、マカデミアナッツ油、ヘーゼルナッツ油、カボチャ種子油、椿油、茶実油、ボラージ油、パーム油、パームオレイン、パームステアリン、やし油、パーム核油、カカオ脂、サル脂、シア脂、藻油等の植物性油脂;魚油、ラード、牛脂、バター脂等の動物性油脂;あるいはそれらのエステル交換油、水素添加油、分別油等の油脂類を挙げることができる。これらの油は、それぞれ単独で用いてもよく、あるいは適宜混合して用いてもよいこれらの油脂の中で、トリテルペンアルコール抽出効率の観点から、植物性油脂を用いることが好ましく、更にナタネ油、米油又はこれらの組み合わせを用いることが好ましい。
【0024】
油脂の使用量は、トリテルペンアルコール抽出効率の観点から、工程(1)においてアルカリ加水分解の原料として用いたγ−オリザノール含有原料に対し、2質量倍以上、更に5質量倍以上が好ましい。また、工業生産性及びコストの観点から、20質量倍以下、更に15質量倍以下が好ましい。また、油脂の使用量は、γ−オリザノール含有原料に対し2質量倍以上20質量倍以下が好ましく、更に5質量倍以上15質量倍以下が好ましい。
【0025】
また、中和物と油脂を混合した際の温度は、トリテルペンアルコール抽出効率の観点から25〜100℃が好ましい。このときの混合時間は、装置により適宜設定することができるが、充分な抽出効果を得るため、30分以上が好ましい。
【0026】
本発明においては、中和物と油脂を混合した後、更に水や固体部を除去する工程を行うのが好ましい。水や固体部を除去する方法としては、例えば、遠心分離、デカンテーション等が挙げられる。
遠心分離の条件は、分離の状態により適宜設定できる。
【0027】
また、アルカリ加水分解で生成した副生成物を除去する観点より、得られた油脂に水を接触させ、油水分離を行う工程を行うのが好ましい。水の使用量は、不純物の除去効率の観点から、油脂に対し0.2質量倍以上2質量倍以下が好ましい。
また、水の温度は、副生成物の除去効率の観点から、25〜90℃、更に25〜70℃が好ましい。
水洗は1回でも複数回でもよく、例えば2回、3回繰り返してもよい。
【0028】
このような処理の結果、油脂にトリテルペンアルコールが抽出され、トリテルペンアルコールの含有率が高いトリテルペンアルコール含有油脂が得られる。
本明細書においてトリテルペンアルコールとは、炭素数30又は31の四環性トリテルペンアルコールを云う。これらトリテルペンアルコールは、β−シトステロール、スチグマステロール、カンペステロール等の炭素数28又は29の4−デスメチルステロールとは明確に相違する化合物である。トリテルペンアルコールは、ステロイド核のC−3位に水酸基をもつもので、例えば、シクロアルテノール、24−メチレンシクロアルタノール、シクロブラノール、シクロアルタノール、シクロサドール、シクロラウデノール、ブチロスペリモール、パルケオール等が含まれる。
【0029】
本発明のトリテルペンアルコール含有油脂中、トリテルペンアルコールの含有量は、取扱い性の観点から0.5質量%以上、更に1質量%以上、更に2質量%以上が好ましく、また、トリテルペンアルコール析出の観点から、10質量%以下、更に8質量%以下が好ましい。また、トリテルペンアルコール含有油脂中、トリテルペンアルコールの含有量は、0.5〜10質量%、更に1〜10質量%、更に2〜8質量%が好ましい。
【0030】
本発明のトリテルペンアルコール含有油脂は、通常油脂に対して用いられる精製工程を行ってもよい。具体的には、脱ガム工程、脱ロウ工程、脱酸工程、脱色工程、脱臭工程等を挙げることができる。
【0031】
かくして得られる本発明のトリテルペンアルコール含有油脂は、取扱い性に優れるため幅広い用途展開が可能である。例えば、油脂や食品に配合して使用することができる。
【0032】
本発明の態様及び好ましい実施態様を以下に示す。
<1>次の工程(1)、(2)及び(3):
(1)γ−オリザノール含有原料をアルカリ加水分解する工程、
(2)工程(1)で得られる加水分解物を、中和度が残存アルカリ量に対し0.9〜1.05の範囲となるように酸で中和する工程、
(3)工程(2)で得られる中和物と油脂を混合し、トリテルペンアルコールを含有する油脂を得る工程、
を含む、トリテルペンアルコール含有油脂の製造方法。
【0033】
<2>γ−オリザノール含有原料中のトリテルペンアルコールフェルラ酸エステルの含有量が、好ましくは45質量%以上、より好ましくは50質量%以上であり、また、好ましくは95質量%以下、より好ましくは90質量%以下である<1>に記載のトリテルペンアルコール含有油脂の製造方法。
<3>アルカリが、好ましくはアルカリ金属の水酸化物、アンモニア及びアミン類から選ばれる1種又は2種以上であり、より好ましくはアルカリ金属の水酸化物から選ばれる1種又は2種以上であり、更に好ましくは水酸化カリウムである<1>又は<2>に記載のトリテルペンアルコール含有油脂の製造方法。
<4>アルカリの使用量が、γ−オリザノール含有原料のけん化価に対して好ましくは1当量〜20当量、より好ましくは5当量〜10当量である<1>〜<3>のいずれか1に記載のトリテルペンアルコール含有油脂の製造方法。
<5>アルカリの濃度が、好ましくは1mol/dm3以上、より好ましくは1.5mol/dm3以上、更に好ましくは2mol/dm3以上であり、また、好ましくは5mol/dm3以下、より好ましくは3mol/dm3以下である<1>〜<4>のいずれか1に記載のトリテルペンアルコール含有油脂の製造方法。
<6>アルカリ加水分解を、好ましくは有機溶媒、より好ましくはアルコール類、更に好ましくはエタノール、更に好ましくは70質量%以上、更に好ましくは80質量%以上、更に好ましくは90質量%以上、また、98質量%以下、更に好ましくは95質量%以下の濃度のエタノールの存在下で行う<1>〜<5>のいずれか1に記載のトリテルペンアルコール含有油脂の製造方法。
<7>アルカリ加水分解を、好ましくは25〜100℃、より好ましくは50〜90℃の反応温度で行う<1>〜<6>のいずれか1に記載のトリテルペンアルコール含有油脂の製造方法。
<8>アルカリ加水分解を、好ましくは1時間〜50時間、より好ましくは2時間〜24時間、更に3時間〜15時間の反応時間で行う<1>〜<7>のいずれか1に記載のトリテルペンアルコール含有油脂の製造方法。
<9>中和度が残存アルカリ量に対し、好ましくは0.92以上、より好ましくは0.93以上であり、また、好ましくは1.02以下、より好ましくは0.99以下である<1>〜<8>のいずれか1に記載のトリテルペンアルコール含有油脂の製造方法。
<10>中和度が残存アルカリ量に対し、好ましくは0.92〜1.02であり、より好ましくは0.93〜0.99である<1>〜<8>のいずれか1に記載のトリテルペンアルコール含有油脂の製造方法。
<11>酸が、好ましくは塩酸、硫酸、リン酸、硝酸、p−トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、リンゴ酸及びクエン酸から選ばれる1種又は2種以上であり、より好ましくは硫酸、クエン酸又はこれらの組み合わせである<1>〜<10>のいずれか1に記載のトリテルペンアルコール含有油脂の製造方法。
<12>油脂を、γ‐オリザノール含有原料に対し好ましくは2質量倍以上、より好ましくは5質量倍以上で用い、また、γ‐オリザノール含有原料に対し好ましくは20質量倍以下、より好ましくは15質量倍以下で用いる<1>〜<11>のいずれか1に記載のトリテルペンアルコール含有油脂の製造方法。
<13>油脂が、好ましくは植物性油脂、動物性油脂、それらのエステル交換油、水素添加油又は分別油であり、より好ましくは植物性油脂であり、更に好ましくはナタネ油、米油又はこれらの組み合わせである<1>〜<12>のいずれか1に記載のトリテルペンアルコール含有油脂の製造方法。
<14>工程(3)の後に、油脂に水を接触させる油水分離を行う工程を含む<1>〜<13>のいずれか1に記載のトリテルペンアルコール含有油脂の製造方法。
<15>水を、油脂に対し好ましくは0.2質量倍以上2質量倍以下で用いる<14>に記載のトリテルペンアルコール含有油脂の製造方法。
<16>工程(3)の後に、更に脱ガム工程、脱ロウ工程、脱酸工程、脱色工程及び脱臭工程から選ばれる1以上の処理を行う<1>〜<15>のいずれか1に記載のトリテルペンアルコール含有油脂の製造方法。
<17>トリテルペンアルコールの含有量が、好ましくは0.5質量%以上、より好ましくは1質量%以上、更に好ましくは2質量%以上であり、また、好ましくは10質量%以下、より好ましくは8質量%以下である<1>〜<16>のいずれか1に記載のトリテルペンアルコール含有油脂の製造方法。
<18><1>〜<17>のいずれか1に記載の製造方法により得られる、トリテルペンアルコール含有油脂。
<19>トリテルペンアルコールの含有量が、好ましくは0.5質量%以上、より好ましくは1質量%以上、更に好ましくは2質量%以上であり、また、好ましくは10質量%以下、より好ましくは8質量%以下である<18>に記載のトリテルペンアルコール含有油脂。
【実施例】
【0034】
〔分析方法〕
(1)トリテルペンアルコール
固相抽出カラムにより、油とトリテルペンアルコール画分を分離した。分離したトリテルペンアルコール画分を約25mgとり、クロロホルムで10mLにメスアップした。これをGCに1μL注入し分析した。GC分析の条件は下記のとおりである。
固相抽出カラム:Sep−Pak syika 5g
カラム:キャピラリーGCカラム DB−1(J&W)、30mx0.25mm、膜厚
0.25μm
キャリアガス:He、2.30mL/min
インジェクター:Split(40:1)、T=300℃
ディテクター:FID、T=300℃
オーブン温度:150℃で1.5分間保持、15℃/分で250℃まで昇温、5℃/分
で320℃まで昇温、3分間保持
【0035】
(2)γ−オリザノール
オリザノールとして0.2〜0.8mg/10mLとなるように、サンプルを酢酸エチルでメスアップし、完全に溶解・混合を確認後、HPLCを使用して分析した。
カラム:Inersil ODS−3(Φ4.6×250μm)
メソッド:波長325nm、分析時間60分、カラム温度40℃、流量1.2mL/min
【0036】
〔トリテルペンアルコール含有油脂の外観評価〕
トリテルペンアルコール含有油脂を菜種油で希釈し、トリテルペンアルコールの含有量を4質量%に調整した。容量20mLのスクリューバイアル瓶(NEGスクリューバイアル SV−20)に入れて希釈直後の25℃における濁りをパネル5名が観察し、下記基準に従って評価した。その平均値を外観評価の評点とした。
3:濁りがない
2:わずかに濁りがある
1:濁りがある
【0037】
〔トリテルペンアルコール含有油脂の低温耐性の評価〕
トリテルペンアルコール含有油脂を菜種油で希釈し、トリテルペンアルコールの含有量を0.4質量%に調整した。光路長1cmの石英セルに入れて0℃にて3日間保存した際の外観をパネル5名が観察し、下記基準に従って評価した。その平均値を低温耐性評価の評点とした。
3:濁りがない
2:わずかに濁りがある
1:濁りがある
【0038】
実施例1
水酸化カリウム52.8gを90質量%エタノール水溶液400mL中に溶解した。これにγ−オリザノール含有原料(築野食品工業(株)製、トリテルペンアルコールフェルラ酸エステルの含有量53.4質量%、けん化価115)80gを投入し、400r/min攪拌条件下80℃に昇温し約5時間攪拌を続け、加水分解を行った。その後45℃まで冷却し、10%クエン酸水溶液410gを添加し中和を行い、中和物を得た。残存アルカリ量に対する中和度は0.92であった。
中和物に、γ−オリザノール含有原料の9質量倍のナタネ油720gを添加し、400r/min攪拌条件下70℃に昇温し、トリテルペンアルコールの抽出処理を行った。得られた油水混合溶液を小型冷却遠心分離機(日立工機社製)を用いて操作温度40℃にて6000r/min、20分の遠心分離を行い、油相を得た。次いで、該油相に対して1質量倍の蒸留水を用いて水洗を3回行った。得られた油脂に対し、260Pa減圧下に、150℃において、水蒸気(3%/h−対油)と接触させる脱臭処理を34分間行い、トリテルペンアルコール含有油脂を得た。
【0039】
実施例2
残存アルカリ量に対する中和度を0.97とした以外は実施例1と同様に処理し、トリテルペンアルコール含有油脂を得た。
【0040】
実施例3
残存アルカリ量に対する中和度を0.93とし、200℃で脱臭処理を行った以外は実施例1と同様に処理し、トリテルペンアルコール含有油脂を得た。
【0041】
実施例4
残存アルカリ量に対する中和度を0.98とした以外は実施例3と同様に処理し、トリテルペンアルコール含有油脂を得た。
【0042】
実施例5
残存アルカリ量に対する中和度を1.02とした以外は実施例3と同様に処理し、トリテルペンアルコール含有油脂を得た。
【0043】
実施例6
残存アルカリ量に対する中和度を0.96とし、γ−オリザノール含有原料の7質量倍のナタネ油560gを添加した以外は実施例3と同様に処理し、トリテルペンアルコール含有油脂を得た。
【0044】
実施例7
残存アルカリ量に対する中和度を0.96とし、γ−オリザノール含有原料の11質量倍のナタネ油880gを添加した以外は実施例3と同様に処理し、トリテルペンアルコール含有油脂を得た。
【0045】
実施例8
残存アルカリ量に対する中和度を0.93とし、抽出油脂として米油を使用した以外は実施例1と同様に処理し、トリテルペンアルコール含有油脂を得た。
【0046】
実施例9
残存アルカリ量に対する中和度を0.99とした以外は実施例8と同様に処理し、トリテルペンアルコール含有油脂を得た。
【0047】
実施例10
10%クエン酸水溶液に代えて10%硫酸水溶液330gを用いて残存アルカリ量に対する中和度を0.97とした以外は実施例1と同様に処理し、トリテルペンアルコール含有油脂を得た。
【0048】
比較例1
残存アルカリ量に対する中和度を1.09とした以外は実施例1と同様に処理し、トリテルペンアルコール含有油脂を得た。
【0049】
比較例2
残存アルカリ量に対する中和度を1.09とした以外は実施例3と同様に処理し、トリテルペンアルコール含有油脂を得た。
【0050】
比較例3
残存アルカリ量に対する中和度を0.80とした以外は実施例10と同様に処理し、トリテルペンアルコール含有油脂を得た。
【0051】
比較例4
残存アルカリ量に対する中和度を1.09とした以外は実施例10と同様に処理し、トリテルペンアルコール含有油脂を得た。
【0052】
実施例及び比較例の各工程の条件と、トリテルペンアルコール含有油脂中のトリテルペンアルコール(TTA)の含有量、外観評価及び低温耐性評価の結果を表1に示す。
【0053】
【表1】
【0054】
表1から明らかなように、本発明方法によればトリテルペンアルコールを高濃度に含み、常温での外観が良好で、且つ低温耐性にも優れる油脂を得ることができた。他方、中和度が低い比較例3、中和度が高い比較例1、2、4は、油脂中にγ−オリザノールから遊離したトリテルペンアルコールを抽出できたものの、常温下及び低温下において濁りが見られた。