【実施例】
【0082】
<3.実施例>
以下、本発明の具体的な実施例について説明する。本実施例では、イオン液体を合成し、イオン液体を含有する潤滑剤を作製した。そして、潤滑剤を用いて磁気ディスク及び磁気テープを作製し、それぞれディスク耐久性及びテープ耐久性について評価した。磁気ディスクの製造、ディスク耐久性試験、磁気テープの製造、及びテープ耐久性試験は、次のように行った。なお、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0083】
<磁気ディスクの製造>
例えば、国際公開第2005/068589号公報に従って、ガラス基板上に磁性薄膜を形成し、
図1に示すような磁気ディスクを作製した。具体的には、アルミシリケートガラスからなる外径65mm、内径20mm、ディスク厚0.635mmの化学強化ガラスディスクを準備し、その表面をRmaxが4.8nm、Raが0.43nmになるように研磨した。ガラス基板を純水及び純度99.9%以上のイソプロピルアルコール(IPA)中で、それぞれ5分間超音波洗浄を行い、IPA飽和蒸気内に1.5分間放置後、乾燥させ、これを基板11とした。
【0084】
この基板11上に、DCマグネトロンスパッタリング法によりシード層としてNiAl合金(Ni:50モル%、Al:50モル%)薄膜を30nm、下地層12としてCrMo合金(Cr:80モル%、Mo:20モル%)薄膜を8nm、磁性層13としてCoCrPtB合金(Co:62モル%、Cr:20モル%、Pt:12モル%、B:6モル%)薄膜を15nmとなるように順次形成した。
【0085】
次に、プラズマCVD法によりアモルファスのダイヤモンドライクカーボンからなるカーボン保護層14を5nm製膜し、そのディスクサンプルを洗浄器内に純度99.9%以上のイソプロピルアルコール(IPA)中で10分間超音波洗浄を行い、ディスク表面上の不純物を取り除いた後に乾燥させた。その後、25℃50%相対湿度(RH)の環境においてディスク表面にイオン液体のIPA溶液を用いてディップコート法により塗布することで、潤滑剤層15を約1nm形成した。
【0086】
<ディスク耐久性試験>
市販のひずみゲージ式ディスク摩擦・摩耗試験機を用いて、ハードディスクを14.7Ncmの締め付けトルクで回転スピンドルに装着後、ヘッドスライダーのハードディスクに対して内周側のエアベアリング面の中心が、ハードディスクの中心より17.5mmになるようにヘッドスライダーをハードディスク上に取り付けCSS耐久試験を行った。本測定に用いたヘッドは、IBM3370タイプのインライン型ヘッドであり、スライダーの材質はAl
2O
3−TiC、ヘッド荷重は63.7mNである。本試験は、クリーン清浄度100、25℃60%RHの環境下で、CSS(Contact、Start、Stop)毎に摩擦力の最大値をモニターした。摩擦係数が1.0を超えた回数をCSS耐久試験の結果とした。CSS耐久試験の結果において、50,000回を超える場合には「>50,000」と表示した。また、耐熱性を調べるために、300℃の温度で3分間加熱試験を行った後のCSS耐久性試験を同様に行った。
【0087】
<磁気テープの製造>
図2に示すような断面構造の磁気テープを作製した。先ず、5μm厚の東レ製ミクトロン(芳香族ポリアミド)フィルムからなる基板21に、斜め蒸着法によりCoを被着させ、膜厚100nmの強磁性金属薄膜からなる磁性層22を形成した。次に、この強磁性金属薄膜表面にプラズマCVD法により10nmのカーボンライクカーボンからなるカーボン保護層23を形成させた後、6ミリ幅に裁断した。この磁性層22上にIPAに溶解したイオン液体を、膜厚が1nm程度となるように塗布して潤滑剤層24を形成し、サンプルテープを作製した。
【0088】
<テープ耐久性試験>
各サンプルテープについて、温度−5℃環境下、温度40℃30%RH環境下のスチル耐久性、並びに、温度−5℃環境下、温度40℃90%RH環境下の摩擦係数及びシャトル耐久性について測定を行った。スチル耐久性は、ポーズ状態での出力が−3dB低下するまでの減衰時間を評価した。シャトル耐久性は、1回につき2分間の繰り返しシャトル走行を行い、出力が3dB低下するまでのシャトル回数で評価した。また、耐熱性を調べるために、100℃の温度で10分間加熱試験を行った後の耐久性試験も同様に行った。
【0089】
<3.1 ブレンステッド酸のpKaとブレンステッド塩基のpKaとの差(ΔpKa)の影響>
ブレンステッド酸のpKaとブレンステッド塩基のpKaとの差(ΔpKa)が異なるイオン液体を合成した。そして、磁気記録媒体にイオン液体を含有する潤滑剤を使用し、ブレンステッド酸のpKaとブレンステッド塩基のpKaとの差(ΔpKa)の影響について調べた。
【0090】
なお、実施例1〜35、比較例1〜26におけるpKaは、水中におけるpKaである。実施例36〜56、比較例27〜32におけるpKaは、アセトニトリル中におけるpKaである。
【0091】
(実施例1)
[イオン液体1]
表2に示すように、ブレンステッド酸としてビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(pKa=−10)を用い、ブレンステッド塩基として炭素数18の直鎖状の炭化水素基を有するオクタデシルアミン(pKa=10.7)を用いた。ブレンステッド酸のpKaとブレンステッド塩基のpKaの差(ΔpKa)は20.7であった。オクタデシルアミンを硝酸によって中和して硝酸アンモニウム塩を得たのちに、硝酸アンモニウム塩に対して当量のビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミドリチウム塩(Li[(CF
3SO
2)
2N])によってアニオン交換を行い、イオン液体1を合成した。なお、イオン液体1は、後述するイオン液体12と同じ化合物であり、合成方法の詳細は、イオン液体12の合成方法に記載の通りである。
【0092】
(実施例2)
[イオン液体2]
表2に示すように、ブレンステッド酸としてトリフルオロメタンスルホン酸(CF
3SO
3H、pKa=−7)を用い、ブレンステッド塩基として炭素数18の直鎖状の炭化水素基を有するオクタデシルアミン(pKa=10.7)を用いた。ブレンステッド酸のpKaとブレンステッド塩基のpKaの差(ΔpKa)は17.7であった。オクタデシルアミンに対して当量のトリフルオロメタスルホン酸を混合して中和し、イオン液体2を合成した。
【0093】
(実施例3)
[イオン液体3]
表2に示すように、ブレンステッド酸として硫酸(H
2SO
4、pKa=−3)を用い、ブレンステッド塩基として炭素数18の直鎖状の炭化水素基を有するオクタデシルアミン(pKa=10.7)を用いた。ブレンステッド酸のpKaとブレンステッド塩基のpKaの差(ΔpKa)は13.7であった。オクタデシルアミンに対して当量の硫酸を混合して中和し、イオン液体3を合成した。
【0094】
(実施例4)
[イオン液体4]
表2に示すように、ブレンステッド酸としてメタンスルホン酸(CH
3SO
3H、pKa=−2)を用い、ブレンステッド塩基として炭素数18の直鎖状の炭化水素基を有するオクタデシルアミン(pKa=10.7)を用いた。ブレンステッド酸のpKaとブレンステッド塩基のpKaの差(ΔpKa)は12.7であった。オクタデシルアミンに対して当量のトリフルオロメタンスルホン酸を混合して中和し、イオン液体4を合成した。
【0095】
(比較例1)
[比較イオン液体1]
表2に示すように、ブレンステッド酸としてトリフルオロ酢酸(CF
3COOH、pKa=0.5)を用い、ブレンステッド塩基として炭素数18の直鎖状の炭化水素基を有するオクタデシルアミン(pKa=10.7)を用いた。ブレンステッド酸のpKaとブレンステッド塩基のpKaの差(ΔpKa)は10.2であった。オクタデシルアミンに対して当量のトリフルオロ酢酸を混合して中和し、比較イオン液体1を合成した。
【0096】
(比較例2)
[比較イオン液体2]
表2に示すように、ブレンステッド酸としてパーフルオロオクタン酸(C
7F
15COOH、pKa=2.5)を用い、ブレンステッド塩基として炭素数18の直鎖状の炭化水素基を有するオクタデシルアミン(pKa=10.7)を用いた。ブレンステッド酸のpKaとブレンステッド塩基のpKaの差(ΔpKa)は8.2であった。オクタデシルアミンに対して当量のパーフルオロオクタン酸を混合して中和し、比較イオン液体2を合成した。
【0097】
(比較例3)
[比較イオン液体3]
表2に示すように、ブレンステッド酸としてステアリン酸(C
17F
35COOH、pKa=5.0)を用い、ブレンステッド塩基として炭素数18の直鎖状の炭化水素基を有するオクタデシルアミン(pKa=10.7)を用いた。ブレンステッド酸のpKaとブレンステッド塩基のpKaの差(ΔpKa)は5.7であった。オクタデシルアミンに対して当量のステアリン酸を混合して中和し、比較イオン液体3を合成した。
【0098】
【表2】
【0099】
(実施例5)
イオン液体1を含有する潤滑剤を用いて、前述の磁気ディスクを作製した。表3に示すように、磁気ディスクのCSS測定は、50,000回を超え、加熱試験後のCSS測定も50,000回を超え、優れた耐久性を示した。
【0100】
(実施例6)
イオン液体2を含有する潤滑剤を用いて、前述の磁気ディスクを作製した。表3に示すように、磁気ディスクのCSS測定は、50,000回を超え、加熱試験後のCSS測定も50,000回を超え、優れた耐久性を示した。
【0101】
(実施例7)
イオン液体3を含有する潤滑剤を用いて、前述の磁気ディスクを作製した。表3に示すように、磁気ディスクのCSS測定は、50,000回を超え、加熱試験後のCSS測定も50,000回を超え、優れた耐久性を示した。
【0102】
(実施例8)
イオン液体4を含有する潤滑剤を用いて、前述の磁気ディスクを作製した。表3に示すように、磁気ディスクのCSS測定は、50,000回を超え、加熱試験後のCSS測定も50,000回を超え、優れた耐久性を示した。
【0103】
(比較例4)
比較イオン液体1を含有する潤滑剤を用いて、前述の磁気ディスクを作製した。表3に示すように、磁気ディスクのCSS測定は、50,000回を超えたものの、加熱試験後のCSS測定は1,230回であり、加熱試験により耐久性が悪化した。これは、高温によりイオンの解離が進行し、熱的安定性が悪化したからであると考えられる。
【0104】
(比較例5)
比較イオン液体2を含有する潤滑剤を用いて、前述の磁気ディスクを作製した。表3に示すように、磁気ディスクのCSS測定は、50,000回を超えたものの、加熱試験後のCSS測定は891回であり、加熱試験により耐久性が悪化した。これは、比較例4と同様、高温によりイオンの解離が進行し、熱的安定性が悪化したからであると考えられる。
【0105】
(比較例6)
比較イオン液体3を含有する潤滑剤を用いて、前述の磁気ディスクを作製した。表3に示すように、磁気ディスクのCSS測定は、50,000回を超えたものの、加熱試験後のCSS測定は803回であり、加熱試験により耐久性が悪化した。これは、比較例4と同様、高温によりイオンの解離が進行し、熱的安定性が悪化したたからであると考えられる。
【0106】
【表3】
【0107】
次に、イオン液体1〜4、及び比較イオン液体1〜3を磁気テープに適用した例を示す。
【0108】
(実施例9)
イオン液体1を含有する潤滑剤を用いて、前述の磁気テープを作製した。表4に示すように、100回のシャトル走行後の磁気テープの摩擦係数は、温度−5℃の環境下で0.19であり、温度40℃、相対湿度90%環境下で0.23であった。また、スチル耐久試験は、温度−5℃の環境下で60min超であり、温度40℃、相対湿度30%環境下で60min超であった。また、シャトル耐久試験は、温度−5℃の環境下で200回超であり、温度40℃、相対湿度90%環境下で200回超であった。また、加熱試験後のスチル耐久試験は、温度−5℃の環境下で60min超であり、温度40℃、相対湿度30%環境下で60min超であった。また、加熱試験後のシャトル耐久試験は、温度−5℃の環境下で200回超であり、温度40℃、相対湿度90%環境下で200回超であった。以上の結果より、イオン液体1を塗布した磁気テープは、優れた摩擦特性、スチル耐久性、及びシャトル耐久性を有することが分かった。
【0109】
(実施例10)
イオン液体2を含有する潤滑剤を用いて、前述の磁気テープを作製した。表4に示すように、100回のシャトル走行後の磁気テープの摩擦係数は、温度−5℃の環境下で0.20であり、温度40℃、相対湿度90%環境下で0.23であった。また、スチル耐久試験は、温度−5℃の環境下で60min超であり、温度40℃、相対湿度30%環境下で60min超であった。また、シャトル耐久試験は、温度−5℃の環境下で200回超であり、温度40℃、相対湿度90%環境下で200回超であった。また、加熱試験後のスチル耐久試験は、温度−5℃の環境下で60min超であり、温度40℃、相対湿度30%環境下で60min超であった。また、加熱試験後のシャトル耐久試験は、温度−5℃の環境下で200回超であり、温度40℃、相対湿度90%環境下で200回超であった。以上の結果より、イオン液体2を塗布した磁気テープは、優れた摩擦特性、スチル耐久性、及びシャトル耐久性を有することが分かった。
【0110】
(実施例11)
イオン液体3を含有する潤滑剤を用いて、前述の磁気テープを作製した。表4に示すように、100回のシャトル走行後の磁気テープの摩擦係数は、温度−5℃の環境下で0.25であり、温度40℃、相対湿度90%環境下で0.28であった。また、スチル耐久試験は、温度−5℃の環境下で60min超であり、温度40℃、相対湿度30%環境下で60min超であった。また、シャトル耐久試験は、温度−5℃の環境下で200回超であり、温度40℃、相対湿度90%環境下で200回超であった。また、加熱試験後のスチル耐久試験は、温度−5℃の環境下で60min超であり、温度40℃、相対湿度30%環境下で60min超であった。また、加熱試験後のシャトル耐久試験は、温度−5℃の環境下で200回超であり、温度40℃、相対湿度90%環境下で200回超であった。以上の結果より、イオン液体3を塗布した磁気テープは、優れた摩擦特性、スチル耐久性、及びシャトル耐久性を有することが分かった。
【0111】
(実施例12)
イオン液体4を含有する潤滑剤を用いて、前述の磁気テープを作製した。表4に示すように、100回のシャトル走行後の磁気テープの摩擦係数は、温度−5℃の環境下で0.24であり、温度40℃、相対湿度90%環境下で0.28であった。また、スチル耐久試験は、温度−5℃の環境下で60min超であり、温度40℃、相対湿度30%環境下で60min超であった。また、シャトル耐久試験は、温度−5℃の環境下で200回超であり、温度40℃、相対湿度90%環境下で200回超であった。また、加熱試験後のスチル耐久試験は、温度−5℃の環境下で60min超であり、温度40℃、相対湿度30%環境下で60min超であった。また、加熱試験後のシャトル耐久試験は、温度−5℃の環境下で200回超であり、温度40℃、相対湿度90%環境下で200回超であった。以上の結果より、イオン液体4を塗布した磁気テープは、優れた摩擦特性、スチル耐久性、及びシャトル耐久性を有することが分かった。
【0112】
(比較例7)
比較イオン液体1を含有する潤滑剤を用いて、前述の磁気テープを作製した。表4に示すように、100回のシャトル走行後の磁気テープの摩擦係数は、温度−5℃の環境下で0.23であり、温度40℃、相対湿度90%環境下で0.30であった。また、スチル耐久試験は、温度−5℃の環境下で45minであり、温度40℃、相対湿度30%環境下で59minであった。また、シャトル耐久試験は、温度−5℃の環境下で135回であり、温度40℃、相対湿度90%環境下で126回であった。また、加熱試験後のスチル耐久試験は、温度−5℃の環境下で26minであり、温度40℃、相対湿度30%環境下で31minであった。また、加熱試験後のシャトル耐久試験は、温度−5℃の環境下で55回であり、温度40℃、相対湿度90%環境下で42回であった。以上の結果より、比較イオン液体1を塗布した磁気テープは、加熱試験後のスチル耐久性、及びシャトル耐久性の劣化が大きいことが分かった。
【0113】
(比較例8)
比較イオン液体2を含有する潤滑剤を用いて、前述の磁気テープを作製した。表4に示すように、100回のシャトル走行後の磁気テープの摩擦係数は、温度−5℃の環境下で0.21であり、温度40℃、相対湿度90%環境下で0.25であった。また、スチル耐久試験は、温度−5℃の環境下で60min超であり、温度40℃、相対湿度30%環境下で60min超であった。また、シャトル耐久試験は、温度−5℃の環境下で200回超であり、温度40℃、相対湿度90%環境下で200回超であった。また、加熱試験後のスチル耐久試験は、温度−5℃の環境下で12minであり、温度40℃、相対湿度30%環境下で16minであった。また、加熱試験後のシャトル耐久試験は、温度−5℃の環境下で30回であり、温度40℃、相対湿度90%環境下で23回であった。以上の結果より、比較イオン液体2を塗布した磁気テープは、加熱試験後のスチル耐久性、及びシャトル耐久性の劣化が大きいことが分かった。
【0114】
(比較例9)
比較イオン液体3を含有する潤滑剤を用いて、前述の磁気テープを作製した。表4に示すように、100回のシャトル走行後の磁気テープの摩擦係数は、温度−5℃の環境下で0.21であり、温度40℃、相対湿度90%環境下で0.25であった。また、スチル耐久試験は、温度−5℃の環境下で60min超であり、温度40℃、相対湿度30%環境下で60min超であった。また、シャトル耐久試験は、温度−5℃の環境下で200回超であり、温度40℃、相対湿度90%環境下で200回超であった。また、加熱試験後のスチル耐久試験は、温度−5℃の環境下で7minであり、温度40℃、相対湿度30%環境下で9minであった。また、加熱試験後のシャトル耐久試験は、温度−5℃の環境下で15回であり、温度40℃、相対湿度90%環境下で12回であった。以上の結果より、比較イオン液体3を塗布した磁気テープは、加熱試験後のスチル耐久性、及びシャトル耐久性の劣化が大きいことが分かった。
【0115】
【表4】
【0116】
表3、4から、水中におけるブレンステッド酸のpKaと水中におけるブレンステッド塩基のpKaとの差(ΔpKa)が12以上であるイオン液体を用いることにより、優れた耐熱性及び耐久性を得ることができることが分かった。
【0117】
<3.2 ブレンステッド塩基の直鎖状の炭化水素の炭素数及び構造の影響>
次に、ブレンステッド塩基として、直鎖状の炭化水素の炭素数及び構造(二重結合、一部分岐)が異なる脂肪族アミンを用いて、イオン液体を合成した。そして、磁気記録媒体にイオン液体を含有する潤滑剤を使用し、ブレンステッド塩基の直鎖状の炭化水素の炭素数及び構造の影響について調べた。なお、脂肪族アミンのブレンステッド塩基性は、炭化水素の長さで大きくは変わらず、ブレンステッド酸のpKaとブレンステッド塩基のpKaとの差(ΔpKa)は、概ね17〜18であった。
【0118】
(実施例13)
[イオン液体5]
表5に示すように、ブレンステッド酸としてトリフルオロメタンスルホン酸(CF
3SO
3H)を用い、ブレンステッド塩基として炭素数10の直鎖状の炭化水素基を有するデシルアミン(C
10H
21NH
2)を用いた。デシルアミンに対して当量のトリフルオロメタンスルホン酸を混合して中和し、イオン液体5を合成した。
(実施例14)
【0119】
[イオン液体6]
表5に示すように、ブレンステッド酸としてトリフルオロメタンスルホン酸(CF
3SO
3H)を用い、ブレンステッド塩基として炭素数14の直鎖状の炭化水素基を有するテトラデシルアミン(C
14H
29NH
2)を用いた。テトラデシルアミンに対して当量のトリフルオロメタンスルホン酸を混合して中和し、イオン液体6を合成した。
【0120】
(実施例15)
[イオン液体7]
表5に示すように、ブレンステッド酸としてトリフルオロメタンスルホン酸(CF
3SO
3H)を用い、ブレンステッド塩基として炭素数20の直鎖状の炭化水素基を有するエイコシルアミン(C
20H
41NH
2)を用いた。エイコシルアミンに対して当量のトリフルオロメタンスルホン酸を混合して中和し、イオン液体7を合成した。
【0121】
(実施例16)
[イオン液体8]
表5に示すように、ブレンステッド酸としてトリフルオロメタンスルホン酸(CF
3SO
3H)を用い、ブレンステッド塩基として炭素数18の二重結合を有する直鎖状の炭化水素基を有するオレイルアミン(C
18H
35NH
2)を用いた。オレイルアミンに対して当量のトリフルオロメタンスルホン酸を混合して中和し、イオン液体8を合成した。
【0122】
(実施例17)
[イオン液体9]
表5に示すように、ブレンステッド酸としてトリフルオロメタンスルホン酸(CF
3SO
3H)を用い、ブレンステッド塩基として炭素数18の分岐を有する直鎖状の炭化水素基を有する2−ヘプチルウンデシルアミン(CH
3(CH
2)
nCH(C
7H
15)−NH
2)(一部に分岐を有する)を用いた。2−ヘプチルウンデシルアミンに対して当量のトリフルオロメタンスルホン酸を混合して中和し、イオン液体9を合成した。
【0123】
(比較例10)
[比較イオン液体4]
表5に示すように、ブレンステッド酸としてトリフルオロメタンスルホン酸(CF
3SO
3H)を用い、ブレンステッド塩基として炭素数8の直鎖状の炭化水素基を有するオクチルアミン(C
8H
17NH
2)を用いた。オクチルアミンに対して当量のトリフルオロメタンスルホン酸を混合して中和し、比較イオン液体4を合成した。
【0124】
(比較例11)
[比較イオン液体5]
表5に示すように、ブレンステッド酸としてトリフルオロメタンスルホン酸(CF
3SO
3H)を用い、ブレンステッド塩基として炭素数4のイソブチルアミン(C
4H
9NH
2)を用いた。イソブチルアミンに対して当量のトリフルオロメタンスルホン酸を混合して中和し、比較イオン液体4を合成した。
【0125】
【表5】
【0126】
(実施例18)
イオン液体5を含有する潤滑剤を用いて、前述の磁気ディスクを作製した。表6に示すように、磁気ディスクのCSS測定は、50,000回を超え、優れた耐久性を示した。
【0127】
(実施例19)
イオン液体6を含有する潤滑剤を用いて、前述の磁気ディスクを作製した。表6に示すように、磁気ディスクのCSS測定は、50,000回を超え、優れた耐久性を示した。
【0128】
(実施例20)
イオン液体7を含有する潤滑剤を用いて、前述の磁気ディスクを作製した。表6に示すように、磁気ディスクのCSS測定は、50,000回を超え、優れた耐久性を示した。
【0129】
(実施例21)
イオン液体8を含有する潤滑剤を用いて、前述の磁気ディスクを作製した。表6に示すように、磁気ディスクのCSS測定は、50,000回を超え、優れた耐久性を示した。
【0130】
(実施例21)
イオン液体9を含有する潤滑剤を用いて、前述の磁気ディスクを作製した。表6に示すように、磁気ディスクのCSS測定は、50,000回を超え、優れた耐久性を示した。
【0131】
(比較例12)
比較イオン液体4を含有する潤滑剤を用いて、前述の磁気ディスクを作製した。表6に示すように、磁気ディスクのCSS測定は、23,500回であった。
【0132】
(比較例13)
比較イオン液体5を含有する潤滑剤を用いて、前述の磁気ディスクを作製した。表6に示すように、磁気ディスクのCSS測定は、11,000回であった。
【0133】
【表6】
【0134】
表6から、炭化水素の炭素数が少なくとも10以上であるブレンステッド塩基から形成されるイオン液体を磁気ディスクに用いた実施例18〜22は、CSS耐久試験が50,000回超であり、炭素数が8以下であるブレンステッド塩基から形成されるイオン液体を用いた比較例12、13と比較して優れた耐久性を持つことが分かった。
【0135】
次に、イオン液体5〜9、及び比較イオン液体4、5を磁気テープに適用した例を示す。
【0136】
(実施例23)
イオン液体5を含有する潤滑剤を用いて、前述の磁気テープを作製した。表7に示すように、100回のシャトル走行後の磁気テープの摩擦係数は、温度−5℃の環境下で0.22であり、温度40℃、相対湿度90%環境下で0.23であった。また、スチル耐久試験は、温度−5℃の環境下で53minであり、温度40℃、相対湿度30%環境下で60min超であった。また、シャトル耐久試験は、温度−5℃の環境下で153回であり、温度40℃、相対湿度90%環境下で126回であった。以上の結果より、イオン液体5を塗布した磁気テープは、優れた摩擦特性、スチル耐久性、及びシャトル耐久性を有することが分かった。
【0137】
(実施例24)
イオン液体6を含有する潤滑剤を用いて、前述の磁気テープを作製した。表7に示すように、100回のシャトル走行後の磁気テープの摩擦係数は、温度−5℃の環境下で0.20であり、温度40℃、相対湿度90%環境下で0.21であった。また、スチル耐久試験は、温度−5℃の環境下で60min超であり、温度40℃、相対湿度30%環境下で60min超であった。また、シャトル耐久試験は、温度−5℃の環境下で200回超であり、温度40℃、相対湿度90%環境下で200回超であった。以上の結果より、イオン液体6を塗布した磁気テープは、優れた摩擦特性、スチル耐久性、及びシャトル耐久性を有することが分かった。
【0138】
(実施例25)
イオン液体7を含有する潤滑剤を用いて、前述の磁気テープを作製した。表7に示すように、100回のシャトル走行後の磁気テープの摩擦係数は、温度−5℃の環境下で0.21であり、温度40℃、相対湿度90%環境下で0.21であった。また、スチル耐久試験は、温度−5℃の環境下で60min超であり、温度40℃、相対湿度30%環境下で60min超であった。また、シャトル耐久試験は、温度−5℃の環境下で200回超であり、温度40℃、相対湿度90%環境下で200回超であった。以上の結果より、イオン液体7を塗布した磁気テープは、優れた摩擦特性、スチル耐久性、及びシャトル耐久性を有することが分かった。
【0139】
(実施例26)
イオン液体8を含有する潤滑剤を用いて、前述の磁気テープを作製した。表7に示すように、100回のシャトル走行後の磁気テープの摩擦係数は、温度−5℃の環境下で0.22であり、温度40℃、相対湿度90%環境下で0.22であった。また、スチル耐久試験は、温度−5℃の環境下で60min超であり、温度40℃、相対湿度30%環境下で60min超であった。また、シャトル耐久試験は、温度−5℃の環境下で200回超であり、温度40℃、相対湿度90%環境下で200回超であった。以上の結果より、イオン液体8を塗布した磁気テープは、優れた摩擦特性、スチル耐久性、及びシャトル耐久性を有することが分かった。
【0140】
(実施例27)
イオン液体9を含有する潤滑剤を用いて、前述の磁気テープを作製した。表7に示すように、100回のシャトル走行後の磁気テープの摩擦係数は、温度−5℃の環境下で0.24であり、温度40℃、相対湿度90%環境下で0.25であった。また、スチル耐久試験は、温度−5℃の環境下で51minであり、温度40℃、相対湿度30%環境下で59minであった。また、シャトル耐久試験は、温度−5℃の環境下で135回であり、温度40℃、相対湿度90%環境下で158回であった。以上の結果より、イオン液体9を塗布した磁気テープは、優れた摩擦特性、スチル耐久性、及びシャトル耐久性を有することが分かった。
【0141】
(比較例14)
比較イオン液体4を含有する潤滑剤を用いて、前述の磁気テープを作製した。表7に示すように、100回のシャトル走行後の磁気テープの摩擦係数は、温度−5℃の環境下で0.29であり、温度40℃、相対湿度90%環境下で0.30であった。また、スチル耐久試験は、温度−5℃の環境下で35minであり、温度40℃、相対湿度30%環境下で39minであった。また、シャトル耐久試験は、温度−5℃の環境下で96回であり、温度40℃、相対湿度90%環境下で95回であった。
【0142】
(比較例15)
比較イオン液体5を含有する潤滑剤を用いて、前述の磁気テープを作製した。表7に示すように、100回のシャトル走行後の磁気テープの摩擦係数は、温度−5℃の環境下で0.36であり、温度40℃、相対湿度90%環境下で0.41であった。また、スチル耐久試験は、温度−5℃の環境下で15minであり、温度40℃、相対湿度30%環境下で25minであった。また、シャトル耐久試験は、温度−5℃の環境下で86回であり、温度40℃、相対湿度90%環境下で54回であった。
【0143】
【表7】
【0144】
表7から、炭化水素の炭素数が少なくとも10以上であるブレンステッド塩基から形成されるイオン液体を磁気テープに用いた実施例23〜27は、炭素数が8以下であるブレンステッド塩基から形成されるイオン液体を用いた比較例14、15と比較して摩擦係数、スチル耐久性、及びシャトル耐久性が大きく改善されることが分かった。また、直線状の炭化水素基に二重結合が導入されたイオン液体や分岐した炭化水素基を有するイオン液体を磁気テープに用いた実施例26、27は、炭素数14以上のものと比較すると摩擦係数がわずかに上昇するものの、スチル耐久性及びシャトル耐久性の実際の仕様を十分に満足させるものであった。
【0145】
<3.3 ブレンステッド塩基の炭化水素基以外の構造の影響>
次に、ブレンステッド塩基として、炭化水素基以外の構造がアミンとは異なる化合物(環状アミジン)を用いて、イオン液体を合成した。そして、磁気記録媒体にイオン液体を含有する潤滑剤を使用し、ブレンステッド塩基の炭化水素基以外の構造の影響について調べた。
【0146】
(実施例28)
<C
8F
17SO
3−H
3N
+C
18H
37(イオン液体10)の合成>
ステアリルアミンをn−ヘキサン85質量%/エタノール15質量%の混合溶媒に溶解させ、エタノールに溶解させた等モルのパーフルオロオクタンスルホン酸を加え、60℃で30分間加熱した。溶媒除去後、n−ヘキサンに少量のエタノールを混合させた溶媒から再結晶させ、無色の結晶(C
8F
17SO
3−H
3N
+C
18H
37)を得た。
【0147】
(実施例29)
<6−ペンタデシルジアザビシクロウンデセン(6−Pentadecyl−1,8−diazabicyclo[5.4.0]undec−7−ene : 6−ペンタデシルDBU)の合成>
下記構造式(1)で表される6−ペンタデシルジアザビシクロウンデセンは、Matsumuraらの文献(N. Matsumura, H. Nishiguchi, M. Okada, and S. Yoneda, J. Heterocyclic Chem. pp.885−887, Vol/23. Issue 3 (1986))に従って、合成した。
【化24】
【0148】
<イオン液体11の合成>
上記方法で得られた構造式(1)で表される化合物をn−ヘキサン85質量%/エタノール15質量%の混合溶媒に溶解させた。そこへ、エタノールに溶解させたパーフルオロオクタンスルホン酸〔構造式(1)で表される化合物に対して95mol%〕を加えた。溶媒除去後、n−ヘキサンで洗浄して過剰の構造式(1)で表される化合物を除去し、イオン液体11を得た。
【0149】
(比較例16)
<C
7F
15COO
−H
3N
+C
18H
37(比較イオン液体6)の合成>
Tribology Trans, Vol. 37, No. 1(Jan. 1994), pp.99−105 に従って合成した。
【0150】
(比較例17)
<C
7F
15CH
2O
−H
3N
+C
18H
37(比較イオン液体7)の合成>
ステアリルアミンと等モルのペンタデカフルオロオクタノールをn−ヘキサンと少量のエタノールを混合させた溶媒に溶解させ、60℃で30分間加熱した。ろ過を行いごみ等を除去した後に再結晶させ、無色の結晶を得た。
【0151】
表8に実施例28、29、比較例16、17で得られたイオン液体のブレンステッド酸のpKa、ブレンステッド塩基のpKa及びΔpKaを示した。
【0152】
【表8】
【0153】
<熱分析結果>
Seiko Instruments Inc.EXSTAR6000を用いて、実施例2、28、29、比較例16、17で得られたイオン液体のTG測定を行った(実施例30、31、比較例18、19)。また、Z−DOLについてもTG測定を行った(比較例20)。空気をパージしながら10℃/minの昇温速度で30℃から600℃の温度範囲で重量減少を測定した。その結果を
図4に示した。また、10%重量減少温度を以下の表9にまとめた。
なお、イオン液体2の示差熱分析(DTA)測定における発熱ピーク温度は、374℃及び380℃であった。イオン液体10の示差熱分析(DTA)測定における発熱ピーク温度は、383℃及び402℃であった。
【0154】
【表9】
【0155】
この結果から、ΔpKaが7を大きく超えたイオン液体10、及び11では10%重量減少温度が非常に高く、特に後者ではZ−DOLと比較して200℃以上も高いことがわかった。イオン液体11では、ブレンステッド塩基をステアリルアミンから塩基強度の高いDBU誘導体としていることによりΔpKaが増加し、10%重量減少温度が45℃上昇した。それと比較してΔpKaが6.9の比較イオン液体6では、10%重量減少温度が205℃、ΔpKaが4以下の比較イオン液体7では、10%重量減少温度が62℃と耐熱性が悪いことがわかった。
【0156】
(実施例32〜33、比較例21〜23)
次に金属薄膜型磁気記録媒体(磁気ディスク)に適用した実施例について説明する。
表10に示すイオン液体を含有する潤滑剤を用いて、前述の磁気ディスクを作製した。作製した磁気ディスクを用いて、CSS耐久性試験、及び加熱後のCSS耐久性試験を行った。結果を表10に示した。
【0157】
【表10】
【0158】
表10より実施例32、及び33では、金属磁性薄膜の表面上にカーボン保護膜を形成し、その上部にブレンステッド酸と炭素数10以上の直鎖状の炭化水素基を含むブレンステッド塩基とのイオン液体であり、そのΔpKaが12以上である化合物を潤滑剤として使用した各サンプルディスクにあっては、CSS特性に優れ耐久性が向上し、加熱後でもその特性は影響されることがわかった。ΔpKaが10より小さい場合には加熱後の耐久性が悪くなるが、これは高温ではイオンの解離及び分解が進行し熱的安定性が悪化したものと考えられる。
【0159】
(実施例34〜35、比較例24〜26)
次に磁気テープに適用した実施例について説明する。
表11に示すイオン液体を含有する潤滑剤を用いて、前述の磁気テープを作製した。作製した磁気テープを用いて、100回のシャトル走行後の磁気テープの摩擦係数、スチル耐久試験、シャトル耐久試験、加熱後のスチル耐久試験、加熱後のシャトル耐久試験を行った。結果を表11に示した。
【0160】
【表11】
【0161】
これらの結果も、ブレンステッド酸と炭素数10以上の直鎖状の炭化水素基を含むブレンステッド塩基とのイオン液体であり、そのΔpKaが12以上である化合物を潤滑剤として塗布した磁気テープは、優れた耐摩耗性、スチル耐久性、シャトル耐久性を示した。しかし、比較例として示したΔpKaが7以下の化合物は、前述のディスクの場合と同様に加熱後にその耐久性の劣化が大きかった。
【0162】
(実施例36)
[イオン液体12]
<n−オクタデシルアミン−ビストリフルオロメタンスルホニルイミド塩の合成>
合成スキームを以下に示す。
【化25】
【0163】
n−オクタデシルアミン−ビスノナフルオロブタンスルホニルイミド塩の合成については以下のHuangらの文献を参考にした(非特許文献:ing−Fang Huang, Huimin Luo, Chengdu Liang, I−Wen Sun, Gary A. Baker, and Sheng Dai,”Hydrophobic Bronsted Acid−Base Ionic Liquids Based on PAMAM Dendrimers with High Proton Conductivity and Blue Photoluminescence,” J. Am. Chem. Soc. Vol.127, 12784−12785 (2005))。
【0164】
まず、n−オクタデシルアミン15.18gをエタノールに溶解させ、攪拌させながら60%濃硝酸(d=1.360)を滴下し、中和ポイントに達したところで滴下を終了させた。冷却後析出した結晶をろ過して乾燥させてn−オクタデシルアミン硝酸塩を得た。
次に、6.80gのn−オクタデシルアミン硝酸塩をエタノールに溶解させ、ビストリフルオロメタンスルホイミドリチウム塩5.91gをエタノールに溶解させたものを滴下しながら加え、滴下終了後1時間攪拌し、1時間加熱還流した。冷却後溶媒を除去し水とジエチルエーテルを加え、有機層を分離後さらに水で有機層を洗浄した。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥後、溶媒を除去後し、n−ヘキサンで再結晶を行い、無色結晶、融点67℃のn−オクタデシルアミン−ビストリフルオロメタンスルホニルイミド塩を得た。そのFTIRスペクトルとTG/DTAを
図5及び
図6に示す。
【0165】
本実施例において、FTIRの測定は、日本分光社製FT/IR−460を使用し、KBrプレート法あるいはKBr錠剤法を用いて透過法で測定を行った。そのときの分解能は4cm
−1である。
また、TG/DTA測定では、セイコーインスツルメント社製EXSTAR6000を使用し、200mL/minの流量で空気中を導入しながら、10℃/minの昇温速度で30℃−600℃の温度範囲で測定を行った。ガスクロ質量スペクトルの装置はAgilent社製6890/5975MSDを用いた。カラムはDB−1(15m、直径0.25mm、膜厚0.1μm)用い、インジェクション温度は280℃、カラム初期温度は40℃で5分保持した後に昇温速度20℃/minで340℃まで昇温し、その温度で保持した。その質量ユニットは5975MSDでMS検出方式はEI
+、四重極温度は150℃、イオン源温度は300℃、質量スキャン範囲はm/z33−700、キャリブレーションはPFTBAを用いた。
【0166】
IRの吸収波数とその帰属を表12に示す。1,038cm
−1にS−N−S結合の対称伸縮振動、1,131cm
−1にSO
2結合の対称伸縮振動、1,194cm
−1にCF
3の対称伸縮振動、1,344cm
−1にSO
2結合の逆対称伸縮振動、1,600cm
−1にNH
4+の逆対称変角振動、2,850cm
−1にCH
2の対称伸縮振動、2,916cm
−1にCH
2の逆対称伸縮振動、3,360cm
−1−3,020cm
−1にブロードなNH
4+の対称伸縮振動が見られることから、その構造が決定された。
またTG/DTAから、10%重量減少温度は329℃と非常に高く、またその重量減少が発熱であることから、重量減少は化合物の分解反応に起因していることが示唆される。
【0167】
【表12】
【0168】
(実施例37)
[イオン液体13]
<n−オクタデシルアミン−ビスノナフルオロブタンスルホニルイミド塩の合成>
合成スキームを以下に示す。
【化26】
【0169】
エタノール中にビスノナフルオロブタンスルホニルイミド9.31gを溶解させ、エタノールに溶解させたn−オクタデシルアミンを加え、加熱還流を30min行った後に溶媒を除去した。n−ヘキサンで再結晶し、無色結晶、融点118℃のn−オクタデシルアミン−ビスノナフルオロブタンスルホニルイミド塩を得た。そのFTIRスペクトルとTG/DTAを
図7及び
図8に示す。
【0170】
IRの吸収波数とその帰属を表13に示す。1,031cm
−1にS−N−S結合の対称伸縮振動、1,088cm
−1にSO
2結合の対称伸縮振動、1,200cm
−1と1,141cm
−1にCF
3及びCF
2の対称伸縮振動、1,355cm
−1にSO
2結合の逆対称伸縮振動、1,616cm
−1にNH
4+の逆対称変角振動、2,856cm
−1にCH
2の対称伸縮振動、2,926cm
−1にCH
2の逆対称伸縮振動、3,360cm
−1−3,025cm
−1にブロードなNH
4+の対称伸縮振動が見られることから、その構造が決定された。
またTG/DTAから、10%重量減少温度は331℃と非常に高く、またこの場合にも重量減少が発熱であることから、重量減少は化合物の分解反応に起因していることが示唆される。
【0171】
【表13】
【0172】
(実施例38)
[イオン液体14]
<n−オクタデシルアミン−シクロ−ヘキサフルオロプロパン−1,3−ビス(スルホニル)イミド塩の合成>
合成スキームを以下に示す。
【化27】
【0173】
エタノール中にシクロ−ヘキサフルオロプロパン−1,3−ビス(スルホニル)イミド5.45gを溶解させ、n−オクタデシルアミン5gをエタノールに溶解させたもの加えた。発熱があったので氷で周囲を冷却した。加熱還流を30min行った後に溶媒を除去した。n−ヘキサンで再結晶し、無色結晶、融点92℃のn−オクタデシルアミン−シクロ−ヘキサフルオロプロパン−1,3−ビス(スルホニル)イミド塩を得た。そのFTIRスペクトルとTG/DTAを
図9及び
図10に示す。
【0174】
IRの吸収波数とその帰属を表14に示す。1,043cm
−1にS−N−S結合の対称伸縮振動、1,096cm
−1にSO
2結合の対称伸縮振動、1,188cm
−1と1,154cm
−1にF
2の対称伸縮振動、1,348cm
−1にSO
2結合の逆対称伸縮振動、1,608cm
−1にNH
4+の逆対称変角振動、2,850cm
−1にCH
2の対称伸縮振動、2,920cm
−1にCH
2の逆対称伸縮振動、3,350cm
−1−3,035cm
−1にブロードなNH
4+の対称伸縮振動が見られることから、その構造が決定された。
またTG/DTAから、10%重量減少温度は347℃と非常に高く、またこの場合にも重量減少が発熱であることから、重量減少は化合物の分解反応に起因していることが示唆される。
【0175】
【表14】
【0176】
(実施例39)
[イオン液体15]
<6−n−オクタデシル−1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセン(C18−DBU) ペンタデカフルオロオクタンスルホン酸塩の合成>
C18−DBUの合成スキームについて以下に示す。
【化28】
【0177】
C18−DBUは、Matsumuraらの方法(非特許文献:Noboru Matsumura, Hiroshi Nishiguchi, Masao Okada, and Shigeo Yoneda, “Preparation and Characterization of 6−Substituted 1,8−diazabicyclo[5.4.0]undec−7−ene,” J. Heterocyclic Chemistry Vol.23, Issue 3, pp.885−887 (1986))を参考にして合成した。
【0178】
まず、原料の1,8−diazabicyclo[5.4.0]−7−undecene(DBU) 7.17gをテトラヒドロフラン(THF)溶液に溶解させて0℃に冷却し、1.64mol/L濃度のn−ブチルリチウム29ccをアルゴンガス雰囲気下で滴下して、0℃で1時間攪拌した。その溶液へ臭化オクタデシル15.71gをTHFに溶解させたものを滴下した後に24時間攪拌放置した。なおTHFはtype4Aのモレキュラーシーブスで乾燥後、蒸留精製したものを直ぐに用いた。その後、塩酸で酸性にした後に溶媒を除去し、ヘキサンに溶解させたものをアミノ化したシリカゲルでカラムクロマトグラフィーを行って精製して無色結晶の生成物を得た。収率90%。
【0179】
この生成物について、ガスクロマトグラフィー及び質量スペクトルにより、目的のC18−DBUが合成されていることを確認した。
なお、ガスクロマトグラフィーの流出時間17分のピークは面積比率で99.5%であった。
【0180】
次にC18−DBU ペンタデカフルオロオクタンスルホン酸塩の合成スキームを以下に示す。
【化29】
【0181】
C18−DBU3.00gとヘプタデカフルオロオクタンスルホン酸(C
8F
17SO
3H)3.71gをエタノールに加熱溶解させた後に溶媒を除去し、n−ヘキサン/エタノール混合溶媒から再結晶させて無色結晶を得た。融点は41℃。
【0182】
FTIRとTG/DTAの結果をそれぞれ
図11と
図12に示す。
IRの吸収波数とその帰属を表15に示す。1,252cm
−1付近にCF
3及びCF
2の対称伸縮振動、1,643cm
−1にC=Nの伸縮振動、2,851cm
−1にCH
2の対称伸縮振動、2,920cm
−1にCH
2の逆対称伸縮振動、3,410cm
−1−3,178cm
−1にブロードなNH
+の対称伸縮振動が見られることから、その構造が決定された。
またTG/DTAから、10%重量減少温度は384℃と高く、またこの場合にも重量減少が発熱であることから、重量減少は化合物の分解反応に起因していることが示唆される。
【0183】
【表15】
【0184】
(実施例40)
[イオン液体16]
<C18−DBUシクロ−ヘキサフルオロプロパン−1,3−ビス(スルホニル)イミド塩の合成>
C18−DBUシクロ−ヘキサフルオロプロパン−1,3−ビス(スルホニル)イミド塩の合成スキームを以下に示す。
【化30】
【0185】
実施例39と同様に合成したC18−DBU 3.00gとシクロ−ヘキサフルオロプロパン−1,3−ビス(スルホニル)イミド2.18gをエタノールに溶解し、30min加熱還流後溶媒を除去してn−ヘキサンで再結晶を行い、無色結晶を得た。融点52℃。
FTIRとTG/DTAの結果をそれぞれ
図13と
図14に示す。
【0186】
IRの吸収波数とその帰属を表16に示す。1,042cm
−1にS−N−S結合の対称伸縮振動、1,091cm
−1にSO
2結合の対称伸縮振動、1,164cm
−1にCF
2の対称伸縮振動、1,360cm
−1にSO
2結合の逆対称伸縮振動、1,633cm
−1にC=Nの伸縮振動、2,848cm
−1にCH
2の対称伸縮振動、2,920cm
−1にCH
2の逆対称伸縮振動、3,387cm
−1にNH
+の対称伸縮振動が見られることから、その構造が決定された。
またTG/DTAから、10%重量減少温度は386℃と高く、またこの場合にも重量減少が発熱であることから、重量減少は化合物の分解反応に起因していることが示唆される。
【0187】
【表16】
【0188】
(実施例41)
[イオン液体17]
<7−n−オクタデシル−1,5,7−トリアザビシクロ[4.4.0]−5−デセン(C18−TBD) ペンタデカフルオロオクタンスルホン酸塩の合成>
まず、原料の7−n−オクタデシル−1,5,7−トリアザビシクロ[4.4.0]−5−デセン(C18−TBD)の合成スキームを以下に示す。
【化31】
【0189】
R.W. Alderらの方法を参考にして合成した(非特許文献: Roger W. Alder, Rodney W. Mowlam, David J. Vachon and Gray R. Weisman, “New Synthetic Routes to Macrocyclic Triamines,” J. Chem. Sos. Chem. Commun. pp.507−508 (1992))。
【0190】
即ち、水素化ナトリウム(55質量%ヘキサン)を、実施例39と同様にして作製した乾燥THFに溶解させた1,5,7−トリアザビシクロ[4.4.0]−5−デセン(TBD) 8.72g中に10℃で加えて攪拌した。10℃に温度を保ったまま臭素化オクタデカンを20分かけて滴下して30分、常温で2時間攪拌した後に1時間加熱還流した。常温に戻して過剰の水素化ナトリウムをエタノールを加えて反応させた。溶媒を除去後アミノ処理したシリカゲルでカラムクロマトグラフィーを行い淡黄色の目的物を得た。
【0191】
この生成物について、ガスクロマトグラフィー及び質量スペクトルにより、目的のC18−TBD(分子量391)が合成されていることを確認した。
なお、ガスクロマトグラフィーでは溶媒の不純物が10.5分に見られるが、流出時間17分のピークは面積比率で98%であった。
【0192】
次に、C18−TBD ペンタデカフルオロオクタンスルホン酸塩の合成スキームを以下に示す。
【化32】
【0193】
C18−TBD 3.91gとペンタデカフルオロオクタンスルホン酸5.00gをエタノールに溶解させ、加熱還流30min行った後に溶媒を除去した。n−ヘキサンで再結晶して無色の結晶を得た。融点65℃。
IRとTG/DTAを
図15及び
図16に示す。
【0194】
IRの吸収波数とその帰属を表17に示す。1,255cm
−1付近にCF
3及びCF
2の対称伸縮振動、1,602cm
−1にC=Nの伸縮振動、2,851cm
−1にCH
2の対称伸縮振動、2,924cm
−1にCH
2の逆対称伸縮振動、3,289cm
−1にNH
+の対称伸縮振動が見られることから、その構造が決定された。
またTG/DTAから、10%重量減少温度は381℃と高く、またこの場合にも重量減少が発熱であることから、重量減少は化合物の分解反応に起因していることが示唆される。
【0195】
【表17】
【0196】
(実施例42)
[イオン液体18]
<C18−TBDシクロ−ヘキサフルオロプロパン−1,3−ビス(スルホニル)イミド塩の合成>
C18−TBDシクロ−ヘキサフルオロプロパン−1,3−ビス(スルホニル)イミド塩の合成スキームを以下に示す。
【化33】
【0197】
実施例41と同様に合成したC18−TBD 4.00gとヘキサフルオロプロパンスルホニルイミド3.00gをエタノールに溶解し、30min加熱還流後溶媒を除去し、続いて、n−ヘキサン/エタノール混合溶媒で再結晶を行った。無色結晶、融点67℃。
FTIRとTG/DTAの結果をそれぞれ
図17と
図18に示す。
【0198】
IRの吸収波数とその帰属を表18にまとめる。1,042cm
−1にS−N−S結合の対称伸縮振動、1,092cm
−1にSO
2結合の対称伸縮振動、1,157cm
−1にCF
2の対称伸縮振動、1,361cm
−1にSO
2結合の逆対称伸縮振動、1,628cm
−1にC=Nの伸縮振動、2,849cm
−1にCH
2の対称伸縮振動、2,921cm
−1にCH
2の逆対称伸縮振動、3,412cm
−1にNH
+の対称伸縮振動が見られることから、その構造が決定された。
またTG/DTAから、10%重量減少温度は380℃と高く、またこの場合にも重量減少が発熱であることから、重量減少は化合物の分解反応に起因していることが示唆される。
【0199】
【表18】
【0200】
(比較例27)
[比較イオン液体8]
<DBUペンタデカフルオロオクタンスルホン酸塩の合成>
DBUペンタデカフルオロオクタンスルホン酸塩の合成スキームを以下に示す。
【化34】
【0201】
DBUについては東京化成工業株式会社より購入したものを精製せずにそのまま使用した。DBU 5.00gとペンタデカフルオロオクタンスルホン酸1.52gをエタノールに溶解し、30min加熱還流後溶媒を除去し、続いて、n−ヘキサン/エタノール混合溶媒で再結晶を行った。無色結晶、融点121℃。
FTIRとTG/DTAの結果をそれぞれ
図19と
図20に示す。
【0202】
IRの吸収波数とその帰属を表19に示す。1,282cm
−1付近にCF
3及びCF
2の対称伸縮振動、1,651cm
−1にC=Nの伸縮振動、2,868cm
−1にCH
2の対称伸縮振動、2,943cm
−1にCH
2の逆対称伸縮振動、3,289cm
−1にブロードなNH
+の対称伸縮振動が見られることから、その構造が決定された。
またTG/DTAから、10%重量減少温度は393℃と高く、またこの場合にも重量減少が発熱であることから、重量減少は化合物の分解反応に起因していることが示唆される。
【0203】
【表19】
【0204】
(比較例28)
[比較イオン液体9]
<TBDペンタデカフルオロスルホン酸塩の合成>
TBDについては東京化成工業株式会社より購入したものを精製せずにそのまま使用した。TBD ペンタデカフルオロオクタンスルホン酸塩の合成スキームを以下に示す。
【化35】
【0205】
TBD 1.50gとペンタデカフルオロオクタンスルホン酸5.39gをエタノールに溶解させ、加熱還流30min行った後に溶媒を除去した。n−ヘキサンで再結晶して無色の結晶を得た。融点84℃。
FTIRとTG/DTAを
図21及び
図22に示す。
【0206】
IRの吸収波数とその帰属を表20に示す。1,202及び1,247cm
−1にCF
3及びCF
2の対称伸縮振動、1,633cm
−1にC=Nの伸縮振動、2,876cm
−1にCH
2の対称伸縮振動、2,933cm
−1にCH
2の逆対称伸縮振動、3,040cm
−1−3,629cm
−1にNH
+の対称伸縮振動が見られることから、その構造が決定された。
またTG/DTAから、10%重量減少温度は371℃と高く、またこの場合にも重量減少が発熱であることから、重量減少は化合物の分解反応に起因していることが示唆される。
【0207】
【表20】
【0208】
合成したイオン液体について、下記表21にまとめる。
【0209】
【表21】
【0210】
実施例36〜42で合成したイオン液体についてはイオン液体12〜18とする。また比較例27〜28で合成したイオン液体については比較イオン液体8〜9とする。そのときの10%重量減少温度も併せて示す。
比較イオン液体を含めてここで合成したイオン液体は酸と塩基の間のΔpKaが12以上であるために分解温度は高く、10%重量減少温度はすべてが320℃以上である。
【0211】
(実施例43)
[イオン液体12]であるn−オクタデシルアミン−ビストリフルオロメタンスルホニルイミド塩を含有する潤滑剤を用いて、前述の磁気ディスクを作製した。表23に示すように、磁気ディスクのCSS測定は、50,000回を超え、加熱試験後のCSS測定も50,000回を超え、優れた耐久性を示した。
【0212】
(実施例44)
[イオン液体13]であるn−オクタデシルアミン−ビスノナフルオロブタンスルホニルイミド塩を含有する潤滑剤を用いて、前述の磁気ディスクを作製した。表23に示すように、磁気ディスクのCSS測定は、50,000回を超え、加熱試験後のCSS測定も50,000回を超え、優れた耐久性を示した。
【0213】
(実施例45)
[イオン液体14]であるn−オクタデシルアミン−シクロ−ヘキサフルオロプロパン−1,3−ビス(スルホニル)イミド塩を含有する潤滑剤を用いて、前述の磁気ディスクを作製した。表23に示すように、磁気ディスクのCSS測定は、50,000回を超え、加熱試験後のCSS測定も50,000回を超え、優れた耐久性を示した。
【0214】
(実施例46)
[イオン液体15]であるC18−DBUペンタデカフルオロオクタンスルホン酸塩を含有する潤滑剤を用いて、前述の磁気ディスクを作製した。表23に示すように、磁気ディスクのCSS測定は、50,000回を超え、加熱試験後のCSS測定も50,000回を超え、優れた耐久性を示した。
【0215】
(実施例47)
[イオン液体16]であるC18−DBUシクロ−ヘキサフルオロプロパン−1,3−ビス(スルホニル)イミド塩を含有する潤滑剤を用いて、前述の磁気ディスクを作製した。表23に示すように、磁気ディスクのCSS測定は、50,000回を超え、加熱試験後のCSS測定も50,000回を超え、優れた耐久性を示した。
【0216】
(実施例48)
[イオン液体17]であるC18−TBDペンタデカフルオロオクタンスルホン酸塩を含有する潤滑剤を用いて、前述の磁気ディスクを作製した。表23に示すように、磁気ディスクのCSS測定は、50,000回を超え、加熱試験後のCSS測定も50,000回を超え、優れた耐久性を示した。
【0217】
(実施例49)
[イオン液体18]であるC18−TBDシクロ−ヘキサフルオロプロパン−1,3−ビス(スルホニル)イミド塩を含有する潤滑剤を用いて、前述の磁気ディスクを作製した。表23に示すように、磁気ディスクのCSS測定は、50,000回を超え、加熱試験後のCSS測定も50,000回を超え、優れた耐久性を示した。
【0218】
(比較例29)
[比較イオン液体8]であるDBUペンタデカフルオロオクタンスルホン酸塩を含有する潤滑剤を用いて、前述の磁気ディスクを作製した。表23に示すように、磁気ディスクのCSS測定での耐久性は5,860回、加熱試験後のCSS測定は14,230回であり、長鎖の炭化水素が潤滑剤中に含まれないために摩擦係数が上昇したものと考えられる。
【0219】
(比較例30)
[比較イオン液体9]であるTBDペンタデカフルオロオクタンスルホン酸塩を含有する潤滑剤を用いて、前述の磁気ディスクを作製した。表23に示すように、磁気ディスクのCSS測定での耐久性は6,230回、加熱試験後のCSS測定は18,501回であり、長鎖の炭化水素が潤滑剤中に含まれないために摩擦係数が上昇したものと考えられる。
【0220】
【表23】
【0221】
以上の説明からも明らかなように、ブレンステッド酸と炭素数が少なくとも10以上の直鎖状の炭化水素基を有するブレンステッド塩基とからなり、そのpKaの差(ΔpKa)が6以上であるイオン液体を含有する潤滑剤は、高温保存条件下においても優れた潤滑性を保つことができ、また、長期に亘ってそのCSS潤滑性を保つことができる。
次に、磁気テープに適用した例を示す。
【0222】
(実施例50)
イオン液体12を含有する潤滑剤を用いて、前述の磁気テープを作製した。表24に示すように、100回のシャトル走行後の磁気テープの摩擦係数は、温度−5℃の環境下で0.19であり、温度40℃、相対湿度90%環境下で0.23であった。また、スチル耐久試験は、温度−5℃の環境下で60min超であり、温度40℃、相対湿度30%環境下で60min超であった。また、シャトル耐久試験は、温度−5℃の環境下で200回超であり、温度40℃、相対湿度90%環境下で200回超であった。また、加熱試験後のスチル耐久試験は、温度−5℃の環境下で60min超であり、温度40℃、相対湿度30%環境下で60min超であった。また、加熱試験後のシャトル耐久試験は、温度−5℃の環境下で200回超であり、温度40℃、相対湿度90%環境下で200回超であった。以上の結果より、イオン液体12を塗布した磁気テープは、優れた摩擦特性、スチル耐久性、及びシャトル耐久性を有することが分かった。
【0223】
(実施例51)
イオン液体13を含有する潤滑剤を用いて、前述の磁気テープを作製した。表24に示すように、100回のシャトル走行後の磁気テープの摩擦係数は、温度−5℃の環境下で0.20であり、温度40℃、相対湿度90%環境下で0.22であった。また、スチル耐久試験は、温度−5℃の環境下で60min超であり、温度40℃、相対湿度30%環境下で60min超であった。また、シャトル耐久試験は、温度−5℃の環境下で200回超であり、温度40℃、相対湿度90%環境下で200回超であった。また、加熱試験後のスチル耐久試験は、温度−5℃の環境下で60min超であり、温度40℃、相対湿度30%環境下で60min超であった。また、加熱試験後のシャトル耐久試験は、温度−5℃の環境下で200回超であり、温度40℃、相対湿度90%環境下で200回超であった。以上の結果より、イオン液体13を塗布した磁気テープは、優れた摩擦特性、スチル耐久性、及びシャトル耐久性を有することが分かった。
【0224】
(実施例52)
イオン液体14を含有する潤滑剤を用いて、前述の磁気テープを作製した。表24に示すように、100回のシャトル走行後の磁気テープの摩擦係数は、温度−5℃の環境下で0.21であり、温度40℃、相対湿度90%環境下で0.24であった。また、スチル耐久試験は、温度−5℃の環境下で60min超であり、温度40℃、相対湿度30%環境下で60min超であった。また、シャトル耐久試験は、温度−5℃の環境下で200回超であり、温度40℃、相対湿度90%環境下で200回超であった。また、加熱試験後のスチル耐久試験は、温度−5℃の環境下で60min超であり、温度40℃、相対湿度30%環境下で60min超であった。また、加熱試験後のシャトル耐久試験は、温度−5℃の環境下で200回超であり、温度40℃、相対湿度90%環境下で200回超であった。以上の結果より、イオン液体14を塗布した磁気テープは、優れた摩擦特性、スチル耐久性、及びシャトル耐久性を有することが分かった。
【0225】
(実施例53)
イオン液体15を含有する潤滑剤を用いて、前述の磁気テープを作製した。表24に示すように、100回のシャトル走行後の磁気テープの摩擦係数は、温度−5℃の環境下で0.22であり、温度40℃、相対湿度90%環境下で0.26であった。また、スチル耐久試験は、温度−5℃の環境下で60min超であり、温度40℃、相対湿度30%環境下で60min超であった。また、シャトル耐久試験は、温度−5℃の環境下で200回超であり、温度40℃、相対湿度90%環境下で200回超であった。また、加熱試験後のスチル耐久試験は、温度−5℃の環境下で60min超であり、温度40℃、相対湿度30%環境下で60min超であった。また、加熱試験後のシャトル耐久試験は、温度−5℃の環境下で200回超であり、温度40℃、相対湿度90%環境下で200回超であった。以上の結果より、イオン液体15を塗布した磁気テープは、優れた摩擦特性、スチル耐久性、及びシャトル耐久性を有することが分かった。
【0226】
(実施例54)
イオン液体16を含有する潤滑剤を用いて、前述の磁気テープを作製した。表24に示すように、100回のシャトル走行後の磁気テープの摩擦係数は、温度−5℃の環境下で0.23であり、温度40℃、相対湿度90%環境下で0.26であった。また、スチル耐久試験は、温度−5℃の環境下で60min超であり、温度40℃、相対湿度30%環境下で60min超であった。また、シャトル耐久試験は、温度−5℃の環境下で200回超であり、温度40℃、相対湿度90%環境下で200回超であった。また、加熱試験後のスチル耐久試験は、温度−5℃の環境下で60min超であり、温度40℃、相対湿度30%環境下で60min超であった。また、加熱試験後のシャトル耐久試験は、温度−5℃の環境下で200回超であり、温度40℃、相対湿度90%環境下で200回超であった。以上の結果より、イオン液体16を塗布した磁気テープは、優れた摩擦特性、スチル耐久性、及びシャトル耐久性を有することが分かった。
【0227】
(実施例55)
イオン液体17を含有する潤滑剤を用いて、前述の磁気テープを作製した。表24に示すように、100回のシャトル走行後の磁気テープの摩擦係数は、温度−5℃の環境下で0.24であり、温度40℃、相対湿度90%環境下で0.28であった。また、スチル耐久試験は、温度−5℃の環境下で60min超であり、温度40℃、相対湿度30%環境下で60min超であった。また、シャトル耐久試験は、温度−5℃の環境下で200回超であり、温度40℃、相対湿度90%環境下で200回超であった。また、加熱試験後のスチル耐久試験は、温度−5℃の環境下で60min超であり、温度40℃、相対湿度30%環境下で60min超であった。また、加熱試験後のシャトル耐久試験は、温度−5℃の環境下で200回超であり、温度40℃、相対湿度90%環境下で200回超であった。以上の結果より、イオン液体17を塗布した磁気テープは、優れた摩擦特性、スチル耐久性、及びシャトル耐久性を有することが分かった。
【0228】
(実施例56)
イオン液体18を含有する潤滑剤を用いて、前述の磁気テープを作製した。表24に示すように、100回のシャトル走行後の磁気テープの摩擦係数は、温度−5℃の環境下で0.23であり、温度40℃、相対湿度90%環境下で0.27であった。また、スチル耐久試験は、温度−5℃の環境下で60min超であり、温度40℃、相対湿度30%環境下で60min超であった。また、シャトル耐久試験は、温度−5℃の環境下で200回超であり、温度40℃、相対湿度90%環境下で200回超であった。また、加熱試験後のスチル耐久試験は、温度−5℃の環境下で60min超であり、温度40℃、相対湿度30%環境下で60min超であった。また、加熱試験後のシャトル耐久試験は、温度−5℃の環境下で200回超であり、温度40℃、相対湿度90%環境下で200回超であった。以上の結果より、イオン液体18を塗布した磁気テープは、優れた摩擦特性、スチル耐久性、及びシャトル耐久性を有することが分かった。
【0229】
(比較例31)
比較イオン液体8を含有する潤滑剤を用いて、前述の磁気テープを作製した。表24に示すように、100回のシャトル走行後の磁気テープの摩擦係数は、温度−5℃の環境下で0.45であり、温度40℃、相対湿度90%環境下で0.49であった。また、スチル耐久試験は、温度−5℃の環境下で18minであり、温度40℃、相対湿度30%環境下で16minであった。また、シャトル耐久試験は、温度−5℃の環境下で56回であり、温度40℃、相対湿度90%環境下で45回であった。また、加熱試験後のスチル耐久試験は、温度−5℃の環境下で14minであり、温度40℃、相対湿度30%環境下で8minであった。また、加熱試験後のシャトル耐久試験は、温度−5℃の環境下で36回であり、温度40℃、相対湿度90%環境下で30回であった。以上の結果より、比較イオン液体8を塗布した磁気テープは、加熱試験後のスチル耐久性、及びシャトル耐久性の劣化が大きいことが分かった。
【0230】
(比較例32)
比較イオン液体9を含有する潤滑剤を用いて、前述の磁気テープを作製した。表24に示すように、100回のシャトル走行後の磁気テープの摩擦係数は、温度−5℃の環境下で0.50であり、温度40℃、相対湿度90%環境下で0.55であった。また、スチル耐久試験は、温度−5℃の環境下で16minであり、温度40℃、相対湿度30%環境下で14minであった。また、シャトル耐久試験は、温度−5℃の環境下で45回であり、温度40℃、相対湿度90%環境下で36回であった。また、加熱試験後のスチル耐久試験は、温度−5℃の環境下で12minであり、温度40℃、相対湿度30%環境下で10minであった。また、加熱試験後のシャトル耐久試験は、温度−5℃の環境下で28回であり、温度40℃、相対湿度90%環境下で25回であった。以上の結果より、比較イオン液体9を塗布した磁気テープは、加熱試験後のスチル耐久性、及びシャトル耐久性の劣化が大きいことが分かった。
【0231】
【表24】
【0232】
ブレンステッド酸と炭素数10以上の直鎖状の炭化水素基を含むブレンステッド塩基とのイオン液体であり、そのΔpKaが、水中におけるΔpKaが12以上である化合物、又はアセトニトリル中におけるΔpKaが6以上である化合物を潤滑剤として塗布した磁気テープは、優れた耐摩耗性、スチル耐久性、シャトル耐久性を示した。しかし、比較例として示した、水中におけるΔpKaが12以上、又はアセトニトリル中におけるΔpKaが6以上でも炭素数10以上の直鎖状の炭化水素鎖を持たない化合物は、前述のディスクの場合と同様にその耐久性の劣化が大きかった。
【0233】
以上の説明からも明らかなように、ブレンステッド酸と炭素数が少なくとも10以上の直鎖状の炭化水素基を有するブレンステッド塩基とからなり、そのpKaの差(ΔpKa)が、水中におけるΔpKaにおいて12以上、又はアセトニトリル中におけるΔpKaにおいて6以上であるイオン液体を含有する潤滑剤は、高温条件下においても潤滑性を保つことができ、また、長期に亘って潤滑性を保つことができる。したがって、このイオン液体を含有する潤滑剤を用いた磁気記録媒体は、非常に優れた走行性、耐摩耗性、及び耐久性を得ることができる。