【実施例】
【0092】
アッセイ方法
IgM濃縮物についてのHPLCによる分子サイズの分布
以下の方法を利用して、抗体調製物中の凝集体の割合(%)(実施例8で使用する)を求めることができる。
試験溶液:約50g/Lの未希釈のサンプルを注入体積10μLで注入する(タンパク質量は約500μgである)。
レファレンス溶液:ヒト免疫グロブリン(例えば、Intratect(登録商標),Biotest AG社製)
標準溶液:Bio−Rad社製ゲル濾過標準(商品番号151−1901)
カラム:
−サイズ:1=30mm、φ=7.8mm
−固定相:20,000Da〜7×10
6Daの相対分子量を有する球状タンパク質の分画に適しているBioscience TSK−Gel(登録商標)G4000 SWXL(東ソー株式会社製)
移動相:4.873gのリン酸水素二ナトリウム二水和物、1.741gのリン酸二水素ナトリウム一水和物、11.688gの塩化ナトリウム、及び50mgのアジ化ナトリウムを1Lの水に溶解させる。
流速:0.5mL/分
検出:分光光度計、280nm(レファレンス溶液で得られたクロマトグラムにおいて)
以下のスキームに従ってクロマトグラムを積分し、ピークを同定する:
・ポリマー(>1,200kD)、10分〜13分
・IgM(1,200kD〜750kD)、13分〜19分
・ダイマー/IgA(750kD〜350kD)、19分〜20分
・IgG(350kD〜100kD)、20分〜26分
・フラグメント(<100kD)、26分〜40分
・フラグメント(<100kD)、26分〜40分
【0093】
非特異的な補体活性化の測定
ヘモリシンで前処理したヒツジ赤血球を補体により溶血させる。サンプル中の補体結合抗体により、溶血を抑制する。1mgの免疫グロブリンに結合している(不活化されている)補体の量を求める。
【0094】
一定量の免疫グロブリン(10mg)とモルモットの補体とを混合し、遊離補体を滴定する。抗補体活性は、レファレンス溶液中の使用された補体に対する、使用された補体として表される。補体活性の溶血単位(CH
50)は、最適なバッファ条件において、合計5×10
8個の赤血球のうち、最適に調製された赤血球を2.5×10
8個溶血させる補体の量である。
【0095】
最適に調製された赤血球(ヒツジ由来の安定化赤血球8mLをゼラチン−バルビタール−バッファで3回洗浄し、最後に赤血球沈殿物1mLをゼラチン−バルビタール−バッファ24mLに懸濁させる)は、20mLの赤血球懸濁液と20mLのヘモリシン(2MHE/mL(最低溶血単位)に調整されている)とを混合し、37℃で15分間インキュベートすることにより調製する。
【0096】
10mgの免疫グロブリンをゼラチン−バルビタール−バッファ(バルビタールバッファ1L中ゼラチン1g(pH7.3)、5倍バルビタールバッファ溶液:水2L中塩化ナトリウム83g、バルビタールナトリウム10.192g(pH7.3))で希釈する。最終体積が1mLになるように、200μLの補体100CH50/mLを添加する。37℃で1時間、振盪させながら試験管をインキュベートする。サンプルを希釈し、最適に調製された赤血球に対して滴定する。37℃で1時間インキュベートした後、サンプルを遠心分離し、541nmの波長で分光光度計を用いることにより吸光度を求める。
【0097】
タンパク質分解活性の測定
タンパク質分解活性は、発色基質(特に、少なくとも1つのセリンプロテアーゼに対して感受性である発色基質)と37℃の抗体調製物のサンプル(通常、バッファで希釈して線形範囲でアッセイできるようにする)とを混合し、分光光度計を用いて吸収動態をモニタリングすることによりアッセイすることができる。サンプルのタンパク質分解活性は、方程式C(U/L)=S×ΔAbs/分×F(C=タンパク質分解活性;S=発色基質の特異的吸光変化に関する変換係数;及びF=希釈倍率)を用いることにより、初期吸収差(ΔAbs/分)から計算される。基質の使用は、製造業者の説明書に従う。
【0098】
タンパク質分解活性は、具体的には、以下の工程でアッセイすることができる:
(a)25mgの基質S−2288(Chromogenix社製)を7.2mLの注射用水に溶解させる;
(b)抗体調製物のサンプルをバッファ(100mMのTris−HCl(pH8.4、106mMのNaCl)で希釈して、線形範囲でアッセイできるようにし、温度を37℃に調整する;
(c)等量(例えば、200μL)の希釈された抗体調製物と溶解した基質とを混合する;
(d)分光光度計を用いて37℃で1分間〜3分間、405nmで吸収速度を測定する;
(e)等式C(U/L)=313×ΔAbs/分×F(C=タンパク質分解活性、F=希釈倍率)を用いることにより初期吸収差(ΔAbs/分)からタンパク質分解活性を計算する。
【0099】
この方法の定量限界は、8U/Lであり、本発明の抗体調製物のサンプルは検出不可能である。したがって、本発明の最終産物におけるタンパク質分解活性のレベルは、8U/L未満である。
【0100】
実施例1−画分I/IIIからのIgMを富化した調製物の調製
ヒト血漿の低温エタノール分画から得られたCohn画分I/III 180kgを0.1M酢酸ナトリウムバッファ(pH5.05)720Lに懸濁させ、懸濁温度(22±4℃)に達した後15分間〜30分間混合する。
【0101】
室温のオクタン酸(用いたペーストI/III 1kg当たり0.110kg)19.8kgを添加することにより溶液を処理し、振動式混合機(Vibromixer(登録商標)、サイズ−4、Graber+Pfenniger有限会社製、レベル2〜3に調整されたVibromixer)を用いてタンパク質溶液を更に80分間混合する。オクタン酸は、30分間かけてゆっくりと添加する。
【0102】
約3kgのリン酸三カルシウム(Ca
3(PO
4)
2)を添加し、タンパク質溶液を少なくとも15分間更に混合する。フィルタプレスを用いて清澄濾過することにより沈殿物を除去する。更に0.2μm濾過を実施し、タンパク質溶液を10kDの膜を用いる限外濾過に付す。タンパク質溶液を0.04MのNaClで透析し、その後、タンパク質濃度を40g/Lに調整する。
【0103】
注射用水で1+1希釈した後、タンパク質溶液をpH4.0±0.1で処理する。pHの調整は、1MのHClを用いて行い、タンパク質溶液は、37℃±2℃で9時間インキュベートする。pH4でのインキュベーションの後、タンパク質溶液のpHを1MのNaOHを用いて5.8に調整する。バッチ方式でDEAE Sephadexを添加することにより(タンパク質1kg当たりDEAE Sephadex75g)、得られたタンパク質溶液を更に精製する。タンパク質溶液を室温で60分間以上撹拌しながらインキュベートする。清澄濾過によりDEAE Sephadexを除去する。タンパク質溶液を0.2μm濾過に付す。
【0104】
タンパク質溶液を0.1μmのフィルタ及びUltipor VF DV50,20”フィルタ(Pall社製)に通して濾過する。UVC線量240J/m
2で、フロースルーUVivatec処理装置(Bayer Technology Services社/Sartorius Stedim社製)を用いて、254nmでUVC光処理することにより濾液を更に処理する。製造業者の説明書に従ってUVC反応機を通過する流速を計算する。照射されたタンパク質溶液を、限外濾過によりタンパク質濃度が50g/L〜70g/Lになるように濃縮し、透析(10kDの膜、0.32Mのグリセリンバッファ(pH4.3)を用いる)に付す。最終産物を0.2μmのフィルタに通して濾過し、2℃〜8℃で保存する。
【0105】
実施例2−オクタン酸処理工程における条件の検討
オクタン酸処理に関して、実施例1に記載の方法を用いて以下の実験範囲について、また実験範囲を互いに組み合わせて試験した(結果は示さない)。
− オクタン酸の量:0.09kg/kg〜0.13kg/kg(用いた画分I/III 1kg当たりのオクタン酸量)(120mM〜180mMのオクタン酸)
− オクタン酸処理のpH:pH4.8〜pH5.3
− 反応の温度範囲:14℃〜30℃
− インキュベート時間:40分間〜110分間
【0106】
試験した全ての条件で、更に処理するための清澄化が容易であり、且つタンパク質分解活性が、懸濁Cohn画分I/III中数百U/Lから著しく低下している中間体が得られる。これら中間体から、定量限界である8U/L(下記実施例6に記載の通り計算)未満のタンパク質分解活性を有する最終産物が得られる。
【0107】
実施例3−Vibromixerの使用によるウイルスの減少−オクタン酸処理にVibromixerを用いる場合及び用いない場合のウイルス除去係数の決定
250mLの懸濁画分I/IIIをpH5.05及び22℃で30分間ホモジナイズした。懸濁液に2.6mLのウイルス原液を加えた。オクタン酸を添加し(110g/kg)、Vibromixerを用いて60分間ホモジナイズした。平行して、同じ混合物を標準的な撹拌機でホモジナイズした。60分間後、リン酸三カルシウム(0.15g/kgオクタン酸)を添加し、懸濁液を15分間撹拌した。フィルタディスクを用いて深層濾過により懸濁液を清澄化した。フィルタディスクは、70mL〜80mLのバッファで予めすすいでおいた。濾過後、80mLのバッファでフィルタをすすいだ。濾液及び洗浄液をプールし、ウイルス滴定のためのサンプルを抜き取った。
【0108】
SV40、Reo、及びPPV(CV−1、CCL.7.1、及びPK13)について適切な指示細胞において、オクタン酸の添加前及び濾過後に採取したサンプルのウイルス力価を求めた。最後に、ウイルス検証研究に関する現行の指針に従ってウイルス除去係数を計算した。
【0109】
ウイルス検証研究では、SV40及びReo等の非エンベロープウイルスは、それぞれ4log
10超及び5log
10超のオーダーで効果的に除去された。更に、PPVは、3log
10超除去された。これら値は、Vibromixerを用いずに標準的な撹拌条件下で同じオクタン酸処理を行ったときの10倍〜1,000倍高い値である。
【表1】
【0110】
実施例4−UVC処理の評価
UVC照射線量の最適範囲について評価した。非エンベロープウイルスについて少なくとも4log
10不活化するための最低必須線量と、Fabの抗原に結合する機能を低下させ且つ補体活性化に影響を与えるFcの機能を低下させるIgM分子の変性を避けるための最高耐性線量とのバランスがある。200J/m
2〜400J/m
2の範囲では、免疫グロブリンの凝集体の僅かな増加がみられ、断片含量に対する著しい影響はなかった。
【0111】
実験のために、オリジナルのタンパク質溶液の吸光度(OD)を用いて、BTSより提供されるExcelシート(customer Master Calculation Sheet UVivatec Lab IIバージョン3.0)を用いてUVivatecラボシステムにおける流速を計算する。ランプの性能、UVシグナルランプセンサの設定点、及び望ましいUVC照射線量を考慮して、流速を計算する。
【0112】
シグナルフロースルーについて200J/m
2の線量を得るために、流速5.8L/hでUVivatecシステムを通過するように、タンパク質含量が約55g/LであるIgM含有溶液(Batch 86GB005BE07)をポンプで送った。流速3.9L/m
2で前記システムを通過するようにタンパク質溶液をポンプで送ることにより、300J/m
2の線量を得た。流速2.9L/m
2で前記システムを通過するようにタンパク質溶液をポンプで送ることにより、400J/m
2の線量を得た。
【表2】
【0113】
200J/m
2〜400J/m
2の範囲では、免疫グロブリン含量、タンパク質分解活性、又はACAについて有意な差はみられなかった。非エンベロープウイルスを不活化するには200J/m
2で十分であり、且つ300J/m
2で凝集体の形成及び抗体力価に対する著しい影響がみられなかったので、線量の好ましい範囲を200J/m
2〜300J/m
2に設定した。好ましい線量は、225J/m
2である。
【0114】
シングルフロースルーについて200J/m
2〜300J/m
2の線量を得るために、流速5.8L/hでUVivatecシステムを通過するように、タンパク質含量が8g/L〜12g/Lである希釈したIgM含有溶液(Batch 86BB059BE07)をポンプで送った。
【表3】
【0115】
この線量範囲内のUV照射では、免疫グロブリンのクラスの分布は影響を受けなかった。HPSECにより分析した分子量分布パターンも変化しない。CZEにより分析した純度のレベルも変化しなかった。タンパク質分解活性(PA)、プレカリクレインアクチベータ(PKA)、及び抗補体活性(ACA)も変化しない。また、ELISA法により測定した抗細菌活性は、全ての免疫グロブリンのクラスについて有意には変化しない。
【0116】
漸増強度のUVを照射したアリコートを最終産物まで更に処理し、同パネルの分析試験に付した。この試験でも、最終産物に有意な差はみられなかった。試験した抗体力価は全て、常に、UVC処理していない対照調製物の100±10%の範囲内である。
【0117】
実施例5−Vibromixer/pH4処理及びUVC処理の使用による全体的なウイルス減少−ウイルス除去係数の決定
以下の3工程:Vibromixerで撹拌しながらオクタン酸処理する工程と、pH4処理工程と、UVC処理(215J/m
2)工程とによるウイルス除去/不活化の検証を、以下のモデルウイルスを用いて実施した:C型肝炎ウイルスのモデルウイルスとしてのウシウイルス性下痢症ウイルス(BVDV)、ヒトヘルペスウイルスのモデルウイルスとしての偽狂犬病ウイルス(PRV)、ヒト免疫不全ウイルス(HIV−1)、コロナウイルスとしてのウマ動脈炎ウイルス(EAV)、フラビウイルスのモデルウイルスとしてのシンドビスウイルス(SinV)、A型肝炎ウイルスのモデルウイルスとしてのマウス脳脊髄炎ウイルス(MEV)、他の非エンベロープウイルスのモデルウイルスとしてのレオウイルス(Reo)、ヒトパルボウイルスB19のモデルウイルスとしてのブタパルボウイルス(PPV)。
【0118】
以下の3工程:オクタン酸処理工程、pH4処理工程、及びUVC処理工程を用いたこれら研究結果を以下の表4に示す。
【表4】
【0119】
公称孔径約50nmのフィルタを用いて更にナノ濾過して、ウイルスのサイズに依存して17log
10超まで合計減少量を増加させることにより更に安全性を高める。例えば、HIV−1では17.5log
10超に達したが、PPVは、ナノ濾過を行ってもそれ以上除去されなかった。
【0120】
したがって、IgM含有調製物では現在までウイルス不活化/減少量が8log
10超に達しており、本発明に係る精製手順により優れたウイルス安全性を有するIgM調製物が得られる。これは、一般的に、サイズが小さく且つ脂質エンベロープが存在しないのでウイルス不活化及び除去手順に対する耐性が高いMEV、Reo、及びPPV等の非エンベロープウイルスにとって特に重要である。
【0121】
実施例6−オクタン酸処理にVibromixerを用いる場合及び用いない場合の残存タンパク質分解活性の測定
Vibromixerを用いずに、ブレードスターラを用いて激しく標準的な撹拌を行いながら、実施例1及び並行実験と同様にオクタン酸処理を実施した。オクタン酸/リン酸三カルシウム処理及び限外濾過/透析後のサンプルのタンパク質分解活性を、製造業者の説明書に従って発色基質S−2288(Chromogenix社製)を用いて測定した。25mgの基質S−2288を7.2mLの注射用水に溶解させる。サンプルをバッファ(100mMのTris/HCl(pH8.4)、106mMのNaCl)で希釈して、線形範囲でアッセイできるようにする。例えば、200μLのバッファと200μLのサンプル(混合及び37℃への温度調整)及び200μLの発色基質溶液とを混合する。分光光度計を用いて37℃で405nm(1分間〜3分間)にて吸収動態を測定する。サンプルのタンパク質分解活性を、方程式C(U/L)=313×ΔAbs/分×F(C=タンパク質分解活性、F=希釈倍率)を用いることにより初期吸収差(ΔAbs/分)から計算する。
【表5】
【0122】
Vibromixerを使用したとき、オクタン酸処理後の濾液は澄んでいた。比較実験において、ブレードスターラを用いてオクタン酸処理した後の濾液は、非常に不透明であり、濾過が困難であった。
【0123】
実施例7:本発明に係るIgM調製物における抗細菌力価
唯一市販されている静脈内耐性IgM含有調製物であるPentaglobinと比較するために、この十分に確立されている薬剤3バッチで抗細菌活性を分析し、本発明に係る調製物と比較した。抗細菌抗原又は抗真菌抗原に対するIgM調製物中におけるIgA又はIgMクラスの抗体をELISAにより測定した。対応する抗原でマイクロタイタープレートをコーティングし、標準物質又はIgM調製物と共にインキュベートした。抗原に結合している抗体を抗ヒトIgA又は抗ヒトIgMコンジュゲートで検出した。酵素の基質を用いることにより検出を行った。生じる色の変化は、IgM調製物中に存在する抗体の量に対応する。
【表6】
【表7】
【0124】
新規調製物におけるIgM及びIgA媒介活性は、典型的に、Pentaglobinの少なくとも1.5倍高かったが、これは、Pentaglobin中のIgM及びIgAがβ−プロピオラクトンで化学的に修飾されているという事実により説明することができる。この工程は、本発明に係るより穏やかな手順により置換される。
【0125】
これらデータは、全体的に、最終調製物中のIgM分子の結合領域が機能的に完全に活性であることを示す。
【0126】
実施例8:液体IgM生成物を用いた保存安定性試験
UVC処理を行わなかった実施例1の生成物を、2℃〜8℃にて10mL又は100mLのガラスバイアル(充填体積5mL又は50mL)中で保存し、仕様に従って全てのパラメータについて分析した。結果を表8に示す。安定性に関連するパラメータは、高速サイズ排除クロマトグラフィー(HPSEC)を用いて測定する凝集体及び断片の含量、タンパク質分解活性(PA)、並びに抗補体活性(ACA)である。これらパラメータは、静脈内耐性にとって重要であり、長期保存中に変化しやすい。2℃〜8℃では、これらパラメータに有意な変化はみられなかった。室温(23℃〜27℃)保存した場合でさえも、これら値は仕様の範囲内であったが、室温で24ヶ月間保存した後は断片が僅かに増加する。着色、オパール光、pH値等の他のパラメータについても測定したが、全試験期間に亘って変化していなかった。様々な細菌に対するIgM及びIgAの力価は、2℃〜8℃で2年間に亘って安定である。
【0127】
また、UVC処理を行った実施例1の生成物を、2℃〜8℃及び室温にて10mL又は100mLのガラスバイアル(充填体積5mL又は50mL)中で保存し、仕様に従って全てのパラメータについて分析した。結果を表9に示す。この進行中の安定性試験では、現在入手可能な12ヶ月間のデータは、UVC処理を行わなかった生成物と同じ安定性プロファイルを示しているので、24ヶ月間安定であると推定できる。
【表8】
【表9】
【0128】
実施例9:IgM生成物によるインビトロにおける非特異的な補体活性化
実施例9A:C5a濃度の測定
末端補体経路の活性化のマーカーとしてC5a因子を用いて、インビトロにおいて非特異的に補体を活性化するIgM調製物の能力の分析を実施した。この目的のために、ヒト血清を免疫グロブリン製品又はバッファと共に120分間インキュベートした。0分間、5分間、15分間、60分間、及び120分間インキュベートした後にサンプルを採取した。インビトロ系が適切に機能していることを示すために、補体阻害及び補体系の完全活性化を示した。市販の酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)キット(Quidel社製 MicroVue C5a Plus EIA Kit;A025)を用い、光度計による吸光度測定を行って補体因子の濃度を測定した。
【0129】
ヒト血清(Quidel社製 NHS;A113)を37℃で急速に解凍させ、直ちに氷上に置いた。全ての単一サンプルは、血清を含有する反応バッチ(100μL)からなっていた。先ず、添加剤をピペッティングして添加し、次いで、ヒト血清を添加して、全ての反応バッチで反応を開始させた。
【0130】
任意の添加剤を含まないヒト血清は、ブランクとして機能し、実験設定に起因するベースラインの補体活性化を示した。熱凝集IgG(HAAG Quidel社製;A114;1.3μL)の添加は、インビトロ系の応答性を示すためのヒト血清補体の強力なアクチベータとして機能した。EDTA(最終濃度10mM)は、全反応時間及び実験処理について補体活性化を完全に阻害するためにヒト血清に添加した。各反応において、IgM調製物、Pentaglobin(欧州特許第0013901号明細書)及びIgM調製物(欧州特許第0413187号明細書)のIgM濃度を1.72mg/mLに調整した。ネガティブコントロールとして、それぞれの体積の製剤バッファを用いた。
【0131】
安定化溶液(Quidel社製 サンプル安定化剤A9576;140μL)を添加することにより、常時撹拌しながら37℃で0分間、5分間、15分間、60分間、及び120分間インキュベートした後、全ての反応を停止させた。次いで、サンプルを希釈し、製造業者の説明書に従ってELISA分析を実施した。2つの別々の複製物を用いて実験を実施し、平均値を計算した。結果を表10及び
図2に示す。
【0132】
アクチベータ(熱凝集IgG)の添加により、15分間以内にC5aが大きく増加した。これは、補体活性化を検出するためにインビトロ系が高感度で応答することを示す。阻害剤としてEDTAを添加しても、全インキュベート時間に亘って値は変化せず、これは、補体活性化が特異的であり、且つサンプルの取扱又は調製に起因するアーティファクトではないことを示す。37℃でヒト血清をインキュベートし、人工表面に曝露すると、ブランク値として記録される僅かな補体活性化が誘導される。
【0133】
欧州特許第0413187号明細書に係るIgMレファレンス調製物では、60分間後に1,000ng/mL超まで補体が活性化される(表10)。しかし、市販の化学的に修飾されているレファレンス調製物であるPentaglobin(欧州特許第0013901号明細書)は、欧州特許第0413187号明細書に係る生成物に比べて半分の補体活性化能しか示さなかった。
【0134】
本発明に係るIgM調製物で処理した血清中のC5a濃度は、添加剤を含まない血清(ブランク)又は製剤バッファ(300mMのグリセリン(pH4.3)又は0.45%のNaCl/2.5%のグルコース(pH6.8))で処理した血清において測定されたC5a濃度と同程度である。したがって、本発明に係るIgM調製物中の免疫グロブリンは、実質的に、インビトロ試験系においてヒト血清中の補体を非特異的に活性化するものではない。
【表10】
【0135】
実施例9B:C3a濃度の測定
補体経路の活性化のマーカーとしてC3a因子を用いて、インビトロにおいて非特異的に補体を活性化するIgM調製物の能力の分析を実施した。この目的のために、ヒト血清を免疫グロブリン製品又はバッファと共に120分間インキュベートした。0分間、5分間、15分間、60分間、及び120分間インキュベートした後にサンプルを採取した。インビトロ系が適切に機能していることを示すために、補体阻害及び補体系の完全活性化を示した。市販の酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)キット(Quidel社製 MicroVue C3a Plus EIA Kit;A032)を用い、光度計による吸光度測定を行って補体因子の濃度を測定した。
【0136】
ヒト血清(Quidel社製 NHS;A113)を37℃で急速解凍させ、直ちに氷上に置いた。全ての単一サンプルは、血清を含有する反応バッチ(100μL)からなっていた。先ず、添加剤をピペッティングして添加し、次いで、ヒト血清を添加して、全ての反応バッチで反応を開始させた。
【0137】
任意の添加剤を含まないヒト血清は、ブランクとして機能し、実験設定に起因するベースラインの補体活性化を示した。コブラ毒素因子(CVF Quidel社製;A600;20U/mL)の添加は、インビトロ系の応答性を示すためのヒト血清補体の強力なアクチベータとして機能した。EDTA(最終濃度10mM)は、全反応時間及び実験処理について補体活性化を完全に阻害するためにヒト血清に添加した。各反応において、IgM調製物及びPentaglobin(欧州特許第0013901号)のIgM濃度を1.72mg/mLに調整した。ネガティブコントロールとして、それぞれの体積の製剤バッファを用いた。
【0138】
安定化溶液(Quidel社製 サンプル安定化剤A9576;140μL)を添加することにより、常時撹拌しながら37℃で0分間、5分間、15分間、60分間、及び120分間インキュベートした後、全ての反応を停止させた。次いで、サンプルを希釈し、製造業者の説明書に従ってELISA分析を実施した。2つの複製物を用いて独立に実験を実施し、平均値を計算した。結果を表11及び
図3に示す。
【0139】
アクチベータ(CVF)の添加により、15分間以内にC3aが大きく増加し、これは、補体活性化を検出するためにインビトロ系が高感度で応答することを示す。阻害剤としてEDTAを添加しても、全インキュベート時間に亘って値は変化せず、これは、補体活性化が特異的であり、且つサンプルの取扱又は調製に起因するアーティファクトではないことを示す。37℃でヒト血清をインキュベートし、人工表面に曝露すると、ブランク値として記録される僅かな補体活性化が誘導される。市販の化学的に修飾されているレファレンス調製物であるPentaglobin(欧州特許第0013901号明細書)は、ブランクと比べて3倍高いC3活性化能を示した。
【0140】
本発明に係るIgM調製物で処理した血清中のC3a濃度は、添加剤を含まない血清(ブランク)又は製剤バッファ(300mMのグリセリン(pH4.3)又は0.45%のNaCl/2.5%のグルコース(pH6.8))で処理した血清において測定されたC3a濃度と同程度である。したがって、本発明に係るIgM調製物中の免疫グロブリンは、実質的に、インビトロ試験系においてヒト血清中の著しい量の補体を非特異的に活性化するものではない。
【表11】
【0141】
実施例10 IgM生成物を用いたインビトロ実験
安全性及び忍容性を確認するために、5日間に亘って反復静脈内注射した後の動脈圧に対するIgM調製物の影響を8頭の覚醒カニクイザルで試験した。190mg/IgM/kg/日の用量の本明細書に記載の方法に従って調製したIgM調製物を投与した。比較物質として、市販の静脈内耐性IgM含有調製物であるPentaglobinを何頭かのサルに投与した。同用量のIgMを投与する方法でPentaglobinを投与した。投与により、許容できないレベルの非特異的な補体活性化が起こっているかどうかを調べるために、注射後の血圧を測定した。免疫グロブリン調製物を投与する数時間前に、対照用量の0.9%NaClを動物に投与した。右大腿動脈を介して下腹部大動脈に圧力カテーテルを挿入することにより血圧を測定した。結果をテレメトリーにより送信した。
【0142】
IgM調製物(15mL/kg/日)の投与は、動脈圧(平均、収縮期、及び拡張期)に対して僅かな影響しか与えなかった。予備試験の値と比較した各注射の4時間後までの差は、4mmHgを超えなかった。これら差を、生物学的に関連しているとみなすことはできない。
【表12】
【表13】
【0143】
補体経路の非特異的な活性化のマーカーとして注射後に採取した血漿サンプル中のC3a濃度を測定した。C3a濃度[ng/mL]は、IgM調製物を投与しても僅かに増加するのみであり(15mL/kgBW)、IgMと等量の市販のレファレンス調製物Pentaglobinによる増加よりも更に少なかった。処理の約6時間後に血液をサンプリングした。
【0144】
IgM調製物に起因する実質的な毒物学的所見はみられず、Pentaglobinではみられなかった明らかな変化も生じなかった。Pentaglobinの安全性は長年に亘る臨床試験で十分に確立されているので、これら変化が任意の臨床的関連性を有しないと結論付けるのが合理的である。
【0145】
また、IgM調製物の優れた忍容性及び安全性は、24人の健常男性及び女性のボランティアにおけるヒトの第I相試験でも検証された。投与の最初の4時間後における収縮期血圧は、平均して、0.5mL/分で91mg〜274mgのIgM調製物/kgBW/日を注射した後、約9%(11.9mmHg)しか低下しなかった。
【0146】
これは、プラセボである0.9%NaCl溶液と同程度であった(9.4%、11.7mmHg)。
【0147】
重篤な有害事象は記録されず、全ての重篤ではない有害事象は自己制限的であった。更に、PCT測定により示される通り、感染因子の伝染の証拠は存在しなかった。
【0148】
関連疾患の動物モデルにおける有効性試験の有用性は、免疫原性及びヒト血漿から得られたIgM調製物中で予め形成されているGal抗体により制限されることに留意すべきである。しかし、疾患の治療におけるPentaglobinの使用に関する先行技術の知見及び本発明の方法により調製されるIgM調製物の抗細菌抗体力価(実施例7に示す)を鑑みて、IgM調製物は臨床的有効性を有すると結論付けることができる。
【0149】
実施例11 抗体調製物のFc部分の機能的完全性
本明細書に記載の方法に従って調製した抗体調製物中の抗体のFc部分の機能的完全性を、IgG調製物に関するEuropean Guidelines ICH S6(CPMP/ICH/302/95)(バイオテクノロジー応用医薬品の非臨床における安全性評価に関する指針)に従って、現行の欧州薬局方法(2.7.9 免疫グロブリンのFcの機能についての試験、欧州薬局方、現行版、2011年4月)を用いて分析した。免疫グロブリンに関する欧州薬局方のモノグラフ(01/2005:20709)は、免疫グロブリンのFc機能について風疹抗原に基づく試験を推奨している。
【0150】
具体的には、タンニン酸処理済O型ヒト赤血球を風疹ウイルス抗原でロードする。特定の体積の抗体調製物を、抗原で被覆された血球と共にインキュベートした。モルモットの補体を添加することにより、補体によって開始される血球の溶解を開始させた。541nmにおける吸光度の時間依存性変化を用いて、その後の溶血速度を測定した。時間当たりの吸光度の最大変化を用いて評価を行った。ヒト免疫グロブリン生物学的レファレンス調製物;BRPバッチ番号3を比較物質として用いた。
【0151】
抗体分子のFc部分の活性を、7バッチのIgM含有抗体調製物で測定したところ、全てのバッチにおいて、生物学的レファレンス調製物(BRP)に比べて96.5%〜103.3%であった。したがって、IgM含有抗体調製物の機能が証明された。