(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1工程では、前記対向電極間に交流電圧を印加して行うインピーダンス測定によって前記静電容量を測定し、測定される前記静電容量の経時変化の速さに対して測定の時間分解能が不足する場合に、より高い周波数の交流電圧を用いて測定し、
前記第3工程では、前記第1工程の測定に用いられた周波数による誘電率の温度依存性のデータを用いることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の樹脂の流動固化挙動の解析方法。
前記第1工程では、前記対向電極間に交流電圧を印加して行うインピーダンス測定によって前記静電容量を測定し、測定される前記静電容量の信号レベルが不足する場合に、より低い周波数の交流電圧を用いて測定し、
前記第3工程では、前記第1工程の測定に用いられた周波数による誘電率の温度依存性のデータを用いることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の樹脂の流動固化挙動の解析方法。
前記第5工程で決定された温度分布の経時変化を与える前記時間スケールのもとで、前記金型内で成形される前記樹脂に作用した剪断応力の積算値である剪断歪エネルギの分布を数値計算によって求める第6工程と、
前記金型を用いて成形された成形品について、その成形品内の前記樹脂の分子配向の分布を測定によって求める第7工程と、
参照用金型と前記樹脂とを用いて成形された参照試料について得られた剪断歪エネルギの計算値のデータ、分子配向の測定値のデータ、およびこれらのデータに関連づけられた異方性を有する線膨張係数または弾性率の測定値のデータを用いて、前記第6工程によって求めた前記剪断歪エネルギの分布および前記第7工程によって求めた前記分子配向の分布に、前記線膨張係数または前記弾性率のデータを関連づけることにより、前記成形品についての異方性を有する線膨張係数または弾性率のデータを決定する第8工程と、
前記樹脂に繊維状のフィラーを含めて前記第1工程の金型を用いて成形された解析対象成形品における前記フィラーの3次元配向のデータを取得する第9工程と、
前記第8工程によって決定された前記線膨張係数または前記弾性率のデータおよび前記第9工程によって取得された前記フィラーの3次元配向のデータを用いて、前記解析対象成形品についてフィラーを考慮した異方性を有する線膨張係数または弾性率のデータを数値計算によって求める第10工程と、を備えることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の樹脂の流動固化挙動の解析方法。
前記第1工程の金型に替えて任意の金型を用いて前記第6工程から第10工程を実施することにより、前記任意の金型によって成形した解析対象成形品についてフィラーを考慮した異方性を有する線膨張係数または弾性率のデータを求めることを特徴とする請求項5に記載の樹脂の流動固化挙動の解析方法。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一実施形態に係る樹脂の流動固化挙動の解析方法(以下、単に解析方法ともいう)について、図面を参照して説明する。
図1乃至
図4は、射出成形用の金型内を溶融状態で流動して固化する樹脂の流動固化挙動の解析方法を示す。本解析方法は、
図1、
図2に示すように、樹脂の誘電率の温度依存性のデータε(T)を取得する基礎工程(S0)から樹脂の射出後の各時刻における温度分布T(i,t),i=xを決定する第5工程(S5)までの工程を備えている。これらの6段階(S0乃至S5)の各工程の実行順番は、
図1に示す順番に限定されるものではなく、
図2に示すように、各々実行できるデータが揃えば実行できる構成となっている。従って、各工程の互いの実行順番は適宜変更することができる。なお、
図2は、本解析方法に関与するデータに注目した処理フローになっている。各データを表示する符号に添えられた添え字のcはデータが計算値であることを示し、添え字のmはデータが測定値であることを示す。各データを表す記号のうち、例えば温度分布T(i,t)のように分布を表す記号は、空間座標の表示が省略されている。以下、各工程を順に説明する。
【0017】
基礎工程(S0)は、射出成形に用いる樹脂と同じ組成を有する樹脂の誘電率または比誘電率の温度依存性のデータε(T)を取得する工程である。このようなデータε(T)は、温度Tを一定とした恒温条件下で対向電極間に配置した樹脂の静電容量の測定を、順次、温度Tを変化させて行い、得られた静電容量の測定値を誘電率または比誘電率に換算することにより得られる。また、樹脂の誘電率の温度依存性のデータε(T)は、樹脂の分子構造などのデータに基づいて計算によって求めてもよく、その計算値と実測値とを合わせた半実験式の関数表現として求めてもよい。
【0018】
(第1工程)
第1工程(S1)は、
図3に示すように、金型1内を流動する樹脂2を挟むように金型1の壁面10に設けられた一対の対向電極3を用いて、その対向電極3間を流動して固化する樹脂2の各時刻tにおける静電容量Cm(t)を得る工程である。金型1は、静電容量の測定に影響しないように、例えば、セラミックなどの絶縁体(誘電体)によって構成される。対向電極3は、両電極間に所定の周波数の電圧を印加して電極間のインピーダンスを測定するインピーダンスアナライザ30に接続されている。静電容量は、インピーダンス測定によって測定される。
【0019】
静電容量Cm(t)は、金型1における対向電極3が配置された位置における測定値であるという意味で、金型1における位置の関数である。必要ならば、金型1における静電容量Cm(t)の分布は、金型1におけるキャビティの互いに対向する壁面の各所に対向電極3の対をそれぞれ配置して測定することにより得られる。実時間における測定値である静電容量Cm(t)は、時間tの経過にともなって変化する経時変化を示す。静電容量Cm(t)の経時変化は、測定対象の樹脂2の温度変化に起因するものであり、その経時変化には、樹脂2の流動固化挙動が反映されている。
【0020】
金型1は、射出された樹脂2が充填される空間であるキャビティを構成する。樹脂2は、流動方向MDに沿って流動し、キャビティの壁面10側から固化樹脂層2aを成長させる。固化した樹脂または行き止まりとなった非固化樹脂2bは流動停止する。図中に、壁面10間の流速分布が模式的に示されている。非固化樹脂2bは、金型1や固化樹脂層2aに近いほど冷却されて粘度が増すので、壁面10に直交する方向に発生する速度勾配によって剪断応力を受けつつ、壁面10側から固化し、剪断応力を内部歪みのエネルギとして蓄積して停止する。
【0021】
(第2工程)
第2工程(S2)は、金型1をモデル化し、互いに異なる複数(n個)の計算条件J(i),i=1,・・,nのもとで、金型1内で対向電極3間を流動して固化する各時刻tにおける樹脂2の温度分布T(i,t)を、数値計算により求める工程である。温度分布T(i,t)のデータは、3次元樹脂流動解析ソフトを用いる計算によって取得される。また、互いに異なる複数の計算条件J(i)は、樹脂2の温度分布T(i,t)の経時変化を変化させる条件である。そこで、例えば、金型1の壁面10の熱伝達率、すなわち、壁面10と樹脂2との間の熱伝達の程度の高低が計算条件とされる。
【0022】
熱伝達率が異なる条件間では、樹脂2から金型1に流れる熱流量が異なることになり、樹脂2の冷却過程が異なり、温度分布T(i,t)の経時変化が異なるものとなる。すなわち、熱伝達率が異なる条件間では、温度分布T(i,t)の経時変化の時間スケールが異なるものとなる。従って、熱伝達率を変化させて互いに異なる計算条件とすることにより、樹脂2の温度分布T(i,t)の経時変化、すなわち時間スケールを調整することができる。また、一般に、冷却過程を変化させた場合、同じ温度分布変化の時間スケールだけが変化するということになるのではなく、温度の空間分布も変化し、時間依存性も変化し、温度分布が時間空間的に変化する。そこで、例えば、流動固化する樹脂の温度が所定温度以下になるまでの時間に注目し、熱伝達率を変化させることにより、そのような時間を変化させるようにしてもよい。熱伝達率は、樹脂2の温度変化や固化挙動に影響し、樹脂2の流動速度に影響し、さらに樹脂2の射出成形に関する熱伝導方程式における剪断発熱項(固化層成長に伴う歪速度変化や樹脂冷却に伴う剪断粘度変化による発熱を表す項)の効果に影響する。
【0023】
(第3工程)
第3工程(S3)は、上述の基礎工程で取得された誘電率の温度依存性のデータε(T)を用いて、上述の第2工程で求めた樹脂2の温度分布T(i,t)の各々を、それぞれ樹脂2の誘電率分布ε(i,t)に変換する工程である。
【0024】
(第4工程)
第4工程(S4)は、上述の第3工程で変換された各々の誘電率分布ε(i,t)のもとで樹脂2が対向電極3間に成起する静電容量Cc(i,t)をそれぞれ算出する工程である。
【0025】
(第5工程)
第5工程(S5)は、第1工程の静電容量Cm(t)と第4工程の静電容量Cc(i,t)とが等しくなる第2工程の時間スケールを求め、その時間スケールにおける温度分布T(i,t)を実時間スケールにおける金型内の温度分布の経時変化とする工程である。この処理は経時変化を整合させる処理であり、実測値と計算値の時間依存性における時間スケールを相互に一致させる処理である。言い換えると、静電容量Cc(i,t)の計算値の各々の経時変化の中から、静電容量Cm(t)の測定値の経時変化に整合する経時変化を選択する処理である。選択は、例えば、経時変化の波形間のパターンマッチングの度合いに基づいて、例えば、データ間の相互相関関数を用いて行われる。この選択により、計算条件J(i)のパラメータiが決定され、対向電極3間の樹脂2の温度分布T(i,t)が決定され、その経時変化が決定される。静電容量Cc(i,t)は、第2工程における互いに異なる複数の計算条件J(i)の各々に基づいて第3工程と第4工程とを経て算出された計算値である。また、静電容量Cm(t)は、第1工程による測定値である。このようにして樹脂2の温度分布T(i,t)とその経時変化とが得られることにより、金型1内を溶融状態で流動して固化する樹脂2の流動固化挙動が把握される。
【0026】
本解析方法は、大域的な測定値である静電容量Cm(t)に基づいて、局所的な計算に基づく結果である温度分布T(i,t)の中から適合する温度分布を決定するものであり、その決定のために、樹脂の誘電率のデータε(T)の温度依存性を用いている。これは、樹脂の誘電率が物性値であり、局所的現象に適用できることに基づいている。
【0027】
上述のように、複数の互いに異なる計算条件J(i)のもとで、複数種類の時間関数として得られる計算値が示す経時変化の中から、測定値が示す経時変化に整合する計算結果を選択することは、1つの計算条件J(i),i=xを決定することを意味する。これは、計算条件J(i)として用いた熱伝達率を決定することを意味し、温度分布T(i,t),i=xを決定することを意味する。
【0028】
また、計算条件J(i)として用いる熱伝達率は、物性値ではなく、金型1の表面状態と、金型1の表面に接する樹脂2の温度や流速などに依存する。その依存性は適宜近似して、またはより精度良く、数値計算に反映させればよい。
【0029】
本実施形態によれば、一対の対向電極3間の実時間測定値である静電容量Cm(t)に基づいて数値計算における時間スケールの中から実時間スケールを求めて、経時変化する温度分布T(i,t)を求めるので、電極切り替えが不要で高速現象に適用できる。実時間スケールを求める処理は、複数の計算条件J(i)のもとで算出した樹脂2の複数の温度分布T(i,t)の結果から、一対の対向電極3間の静電容量Cm(t)の実測値に基づく選択によって行われる。また、本実施形態は、解析に用いる実測値が一対の対向電極間の静電容量の測定結果であるので、従来のPIV法を用いる場合と異なり、不透明な樹脂や金型であっても、薄肉成形や高速現象であっても適用できる。また、金型の適宜の位置に対向電極を配置して、各位置における静電容量Cm(t)を測定し、各位置において温度分布T(x,t)を決定することにより、樹脂の温度分布の経時変化をより詳細に把握することができる。
【0030】
(変形例)
図4,
図5は、上述の実施形態の変形例を示す。
図4(a)(b)に示すように、樹脂2が射出された後、金型1内で短時間で急激に冷却され、その冷却に伴って、樹脂2の比誘電率εrが低下する。また、比誘電率εrは、測定に用いる周波数が異なると、得られる測定値も異なる。一般に、測定用周波数が低いほど大きな比誘電率εrの測定値となって静電容量測定の感度が高くなり、測定用周波数が高いほど小さな比誘電率εrの測定値となって静電容量測定の感度が低くなる。また、測定用周波数が低いほど周期が長くなって静電容量測定の時間分解能が低下し、測定用周波数が高いほど周期が短くなって静電容量測定の時間分解能が向上する。
【0031】
そこで、
図5(a)に示すように、上述の第1工程(S1)において、インピーダンス測定によって静電容量を測定する際に、所定の測定周波数に設定し(S11)、時間分解能が足りない場合には(S12でNO)、より高い周波数に再設定する(S13)。時間分解能が足りる場合には(S12でYES)、測定を実行する(S14)。すなわち、静電容量Cm(t)の測定に際し、測定される静電容量の経時変化の速さに対して測定の時間分解能が不足する場合に、より高い周波数の交流電圧を用いて測定する。実際の測定においては、測定中に周波数を変化させることは難しいので、射出成形における測定対象の時間変化の速さを事前に調査しておき、いずれの測定周波数によって測定するかを決めておけばよい。
【0032】
また、
図5(b)に示すように、上述の第1工程(S1)において、測定に際し、所定の測定周波数に設定し(S21)、信号レベル(信号強度)が足りない場合には(S22でNO)、より低い周波数に再設定する(S23)。信号レベルが足りる場合には(S22でYES)、測定を実行する(S24)。すなわち、静電容量Cm(t)の測定に際し、測定される静電容量の信号レベルが不足する場合に、より低い周波数の交流電圧を用いて測定する。実際の測定においては、上記同様に、事前の調査に基づいて、いずれの測定周波数によって測定するかを決めておけばよい。なお、時間分解能の高低と、信号レベルの高低(強度の強弱)とは、互いにトレードオフの関係にあるので、双方の測定条件を勘案しながら測定周波数を決めればよい。
【0033】
(他の実施形態)
図6乃至
図10は、樹脂の流動固化挙動の解析方法の他の実施形態を示す。この実施形態は、上述の
図1、
図2に示した工程の後に、
図6、
図7に示す工程を追加して成形品の熱的・機械的特性の異方性分布を解析するものである。本実施形態において、異方性を有する熱的・機械的特性のデータを成形品に取り込み、成形品における異方性分布の解析を行う。ここで、異方性を有する物性値は、例えば、繊維状のフィラーを含む樹脂によって成形された成形品における線膨張係数または弾性率である。また、樹脂そのものの分子が、樹脂の流動固化の間に剪断応力などを受けて一方向に揃う配向性を有した状態で成形品の内部に固定されることにより、成形品の各部の配向性の分布に伴う異方性が発生する。
【0034】
図6、
図7に示すように、この実施形態の解析方法は、上述の
図1、
図2に示した工程に加え、第6工程(#1)から第10工程(#5)の5段階の工程をさらに備えている。これらの5段階(#1乃至#5)の各工程の実行順番は、
図6に示す順番に限定されるものではなく、
図7に示すように、各々実行できるデータが揃えば実行できる構成となっている。従って、各工程の互いの実行順番は適宜変更することができる。なお、
図7は、本解析方法に関与するデータに注目した処理フローになっている。
【0035】
(第6工程)
第6工程(#1)は、上述の第5工程(S5)で決定された温度分布T(x,t)とその経時変化とを与える計算条件J(x)のもとで、成形される樹脂2に作用した剪断応力の積算値である剪断歪エネルギEcの分布を数値計算によって求める工程である。剪断歪エネルギEcは、樹脂が金型内で流動中に固化して流動停止する間に樹脂中に蓄積される剪断応力を時間的に積分した値であり、上述の温度分布T(i,t)と同様に、3次元樹脂流動解析ソフトを用いる計算によって取得される。射出成形時の樹脂の剪断応力は、金型内で樹脂が流動しつつ固化する間に、金型内の各空間において時々刻々変化する。溶融状態の樹脂の各分子は、流動中に剪断による力を受け、その力を受けた時間に応じて、最終停止位置における配向状態が決定される。従って、剪断応力を時間積分して得られる剪断歪エネルギEcのデータは、分子配向状態、より一般的に樹脂成形品の異方性の情報を含むデータとなる。剪断歪エネルギEcのデータは、各部位におけるスカラー値として取得する以外に、樹脂の流動方向や樹脂の配向方向に関連づけて、ベクトル量として取得したり、テンソル量として取得してもよい。
【0036】
(第7工程)
第7工程(#2)は、金型1を用いて成形された成形品について、その成形品内の樹脂2の分子配向Gmの分布を測定によって求める工程である。ここで、分子配向Gmのデータは、樹脂2の分子(例えば、液晶ポリマー分子)の配向度と配向方向とを合わせたデータである。配向度は、ある領域内の多数の分子の長手方向の向き(角度)の揃い具合を表す指標であり、配向方向は、それらの分子の向きが一番揃った方向である。分子配向Gmの分布を示すデータは測定によって取得される。その測定は、例えば、
図8(a)に示すように、成形品から切り出した試験片TPを用いて行うことができ、また、測定精度が許容される場合には成形品をそのまま用いて行うこともできる。
【0037】
局所の分子配向Gmのデータ取得のために、例えば、測定径300μmの透過式広角X線回折による測定方法が用いられる。配向度は、透過式広角X線回折によって得られたデバイ環に現れる配向性ピークの半値幅から算出される。このようなX線回折による測定によって、その測定径程度の分解能で分子配向Gmの分布のデータを得ることができる。成形品から多層に切り出した多数の試験片TPにおける多数の局所測定点における測定データによって、射出成形品の各内部点について分子配向Gmの3次元データを取得することができる。
【0038】
分子配向Gmのデータは、例えば、
図8(b)に示すように、各測定点において取得される。この図において、配向方向がベクトルの方向で示され、配向度がベクトルの長さで示されている。なお、
図8(b)には、分子配向Gmのデータが2次元的に平面内で表示されているが、実際の分子配向を表すベクトルは3次元空間におけるベクトルであり、分子配向Gmのデータも、そのような3次元空間のデータとして取得される。ここで、重要なことは、成形品の各データ(Ec,Gm)は、成形品内の同一点におけるデータ値を有するように取得され、成形品に設定された空間座標の座標値によって、互いに関連づけられていることである。互いに対応するデータがない場合には、補間によってデータを補うようにしてもよい。
【0039】
(第8工程)
第8工程(#3)は、金型1を用いて成形された成形品について直接測定ができない物性値(例えば、線膨張係数Lmや弾性率σm)のデータを、測定に特化して射出成形した参照試料について取得したデータに関連づけて決定する工程である。参照試料は、測定に特化した金型である参照用金型を用いて射出成形される。参照試料は、測定に適した成形品、例えばシート状の成形品を成形できる参照用金型と、上述の樹脂2と同じ組成を有する樹脂と、によって射出成形される。上述の成形品についての剪断歪エネルギEcのデータおよび分子配向Gmの分布のデータと同様に、この参照試料についての剪断歪エネルギFcのデータおよび分子配向Hmの分布のデータが、それぞれ数値計算および測定によって取得される。さらに、この参照試料について、線膨張係数Lmのデータや弾性率σmのデータが、測定によって取得される。
【0040】
上記の各データが取得されると、
(Fc,Hm,Lm,σm)という参照試料についてのデータが、
(Ec,Gm, ?, ?)という成形品についてのデータに対応づけられる。
この対応付けにより、
(Ec,Gm,Lm,σm)という成形品について補完されたデータが取得される。
ここで、重要なことは、参照試料の各データ(Fc,Hm,Lm,σm)は、その参照試料内の同一点におけるデータ値を有するように取得されることである。すなわち、各データ(Fc,Hm,Lm,σm)は、参照試料に設定された空間座標の各点の座標値によって、互いに関連づけられているデータである。
【0041】
次に、線膨張係数Lmの測定について述べる。弾性率σmの測定についても同様である。線膨張係数Lmは、参照試料から切り出した所定形状と寸法を有する試料片について、熱負荷の変化に対する試料片の伸びの変化として熱機械分析(TMA)用の装置によって測定される。その伸びは、荷重による伸びではなく、熱膨張による伸びである。その測定値から、参照試料における試料片を切り出した部位の線膨張係数Lmが得られる。樹脂の射出成形品の線膨張係数Lmは、種々の要因により異方性を有するので、その異方性を考慮して、同一部位の複数方向について測定される。
図9は、上述の
図8(a)(b)に示した試験片TPに、2方向の線膨張係数Lmの測定結果を2次元的に平面内で表示した例を示す。この
図9に示した各点の各方向における各線膨張係数Lmが、それぞれ試料片から測定された結果である。
【0042】
熱機械分析による実測では、熱機械分析装置から要求される所定寸法、例えば長さ数cm、幅数mm、厚さ1mm以下、の試料片を準備する必要がある。このような試料片は、その試料全体が均一な物性を有することが望ましい。また、試料片は、成形品における直接測定ができない物性情報を補完するために用いられるものであり、樹脂の流動固化の形態が異なる種々の部位について準備し、それぞれについて線膨張係数Lmを取得することが望ましい。そこで、参照試料は、樹脂の流れを層状の幅が広い均一流構造としたり、樹脂の流れ長を変えたり、樹脂流れに分岐構造を設けたりした複数種類の成形品の組み合わせで構成される。試料片は、各参照試料からそれぞれ切り取られて提供される。同一部位の複数方向について測定を行う場合、同一条件の複数の参照試料が準備される。複数の参照試料が用いられる場合においても、各データ(Fc,Hm,Lm,σm)は、各参照試料内の同一点のデータとして互いに関連づけて取得される必要がある。
【0043】
ここで、
図10(a)(b)を参照して、参照試料における線膨張係数Lmと分子配向Hmとの間の(Lm−Hm)関係、および線膨張係数Lmと剪断歪エネルギFcとの間の(Lm−Fc)関係について説明する。本実施形態は、成形品においても同様の(Lm−Gm)関係、および(Lm−Ec)関係が成り立つことを想定している。
【0044】
図10(a)に示すように、線膨張係数Lmのデータと分子配向Hmのデータとの間に相関がある。図中のMDで示す曲線は射出成形における樹脂の分子の配向方向の線膨張係数Lmであり、TDで示す曲線は分子の配向方向に直交する配向直交方向の線膨張係数Lmである。射出成形において、通常、樹脂の流動方向MD(
図3参照)が配向方向となる。線膨張係数Lmは、配向方向では分子配向度が強まるにつれて減少し、配向直交方向では分子配向度が強まるにつれて増加するという傾向を示す。また、配向直交方向の線膨張係数Lmの方が、配向方向の線膨張係数Lmよりも大きな値を示す。
【0045】
また、
図10(b)に示すように、線膨張係数Lmのデータと樹脂の射出成形の際に発生する剪断応力の時間的積分値である剪断歪エネルギFcのデータとの間に相関がある。剪断歪エネルギFcの大小に対する配向方向と配向直交方向とにおける各線膨張係数Lmの増減は、上述の分子配向の強弱に対する配向方向と配向直交方向における各線膨張係数Lmの増減と同様の傾向を示す。これは、樹脂内の配向状態の発生が成形時の流動と固化の間に樹脂の内部に発生する剪断応力によることに起因しており、分子配向Hmと剪断歪エネルギFcとが互いに密接に関連していることによる。言い換えると、分子配向Hmのデータと剪断歪エネルギFcのデータとは、互いに補完し合うデータと考えられる。
【0046】
このようなFc,Hmのデータに関連づけられた線膨張係数Lmのデータを用いて、上述のように、Ec,Gmのデータに、線膨張係数Lmのデータを関連づけることができる。すなわち、第6工程と第7工程とで得られた剪断歪エネルギEcの分布と分子配向Gmの分布とに、線膨張係数Lmのデータを関連づけることができ、成形品についての異方性を有する線膨張係数Lmのデータを決定することができる。同様に、成形品についての異方性を有する弾性率σmのデータを決定することができる。
【0047】
(第9工程)
図6、
図7に戻って説明する。第9工程(#4)は、上述のEc,Gmのデータを取得した成形品の成形に用いた金型と、繊維状のフィラーを含む樹脂と、によって成形された解析対象成形品に含まれるフィラーの3次元配向Dmのデータを取得する工程である。解析対象成形品は成形品の樹脂がフィラーを含むものである。フィラーは、例えば、ガラス製の略一定の直径を有する短繊維である。フィラーの3次元配向Dmのデータは、例えば、X線CTを用いて取得した射出成形品内のフィラーの3次元画像から取得することができる。その取得は、3次元画像中の個々のフィラーの形状と配置とを確定することにより行われる。その確定の処理は、例えば、フィラーを表すモデルの形状と配置とをランダムに変化させて確定するモンテカルロ法を用いた画像処理によって行うことができる。
【0048】
(第10工程)
第10工程(#5)は、第8工程で決定された線膨張係数Lmのデータと第9工程で取得されたフィラーの3次元配向Dmのデータとに基づいて、解析対象成形品についてフィラーを考慮した異方性を有する線膨張係数Lcのデータを数値計算で求める工程である。この工程では、線膨張係数Lcと同様に、解析対象成形品についてフィラーを考慮した異方性を有する弾性率σcのデータを求めることができる。
【0049】
この第10工程は、均質化法を用いる数値計算によって実行される。均質化法は、ミクロ構造とマクロ構造とをつなぐマルチスケール解析の一手法である。均質化法を用いることにより、ミクロ構造にマクロ的な単位歪を与えたときの応答変位である特性変位に基づいて、マクロ平均的な材料特性を求めることができる。このような均質化法を用いて線膨張係数の均質化を行い、フィラーを考慮した異方性を有する線膨張係数Lcのデータを求めることができる。均質化法の計算は、一般的な、商用の計算サービスを利用したり、市販のソフトを用いたり、またはプログラムを組んだものを用いたりして、実行することができる。均質化法の計算には、例えば、Mori−Tanakaモデルを用いることができる。
【0050】
上述の第10工程によって得られたフィラーを考慮した異方性を有する線膨張係数Lcのデータは、成形品の構造解析用の有限要素モデルの各要素にマッピングすることができ、有限要素法モデルを用いて構造解析を行うことができる。マッピングは、既存の種々の構造解析用のソフトやツールを用いて、一般に行われているデータマッピングの方法により、行うことができる。有限要素法モデルを用いた構造解析により、成形品の温度を変化させた際に各要素に生じる膨張収縮を計算して射出成形品の熱間反りを求めることができる。熱間反りの解析は、成形品におけるフィラーを考慮した異方性を有する弾性率σcのデータを、線膨張係数Lcのデータと同様にまたは両データを合わせて、マッピングして行うことができる。
【0051】
本実施形態によれば、樹脂の流動固化挙動の解析に基づいて、成形品におけるフィラーを考慮した異方性を有する線膨張係数Lcや弾性率σcのデータが得られるので、これらのデータを用いて、成形品の反り解析を精度良く行うことができる。また、本実施形態において、線膨張係数Lcや弾性率σcが、局所的に算出したり測定したりして得られたデータである剪断歪エネルギEc,Fc、分子配向Gm,Hm、フィラーの3次元配向Dm、線膨張係数Lmなどのデータに基づいていることは重要である。すなわち、本実施形態における各データが局所的なデータに基づいているので、従来の方法では熱間反り解析を行うことができないような薄型成形品や小寸法の成形品であっても、必要データを入手でき、精度良く熱間反り解析を行うことができる。つまり、本実施形態によれば、不透明な樹脂や金型であっても、薄肉成形や高速現象であっても、実測値に基づいて固化現象の実時間変化に適合した温度分布解析などの固化挙動解析を行い、さらに、成形品の反り解析を行うことができる。
【0052】
(変形例)
この変形例は、上述の、
図6、
図7に示した解析方法において、第1工程の金型を任意の金型に替えて、第6工程から第10工程を実施するものである。この変形例によれば、任意の金型を用いて成形した解析対象成形品についてフィラーを考慮した異方性を有する線膨張係数Lcや弾性率σcを求めることができる。また、そのような線膨張係数Lcや弾性率σcを用いて、その解析対象成形品の反り解析を行うことができる。
【0053】
(実施例)
図11乃至
図17は実施例を示す。
図11は、金型内で冷却される樹脂の静電容量Cm(t)の経時変化の測定結果を5段階の異なる測定周波数、すなわち1,2,3,4,5kHzについて示す。測定周波数が高いほど測定点の時間軸方向の間隔が密になって時間分解能が高くなり、逆に、測定周波数が低くなるほど測定点の間隔が疎らになって時間分解能が低下する。
図12は、樹脂の比誘電率の測定値の測定周波数依存性を示す。測定周波数が高いほど比誘電率εrが小さい値に測定されて測定感度が低くなり、信号対ノイズ比(S/N比)が低下し、逆に、測定周波数が低くなるほど比誘電率εrが大きい値に測定されて測定感度が高くなりS/N比が向上する。
【0054】
静電容量Cm(t)は、
図12の比誘電率εrと同様の測定周波数依存性を有する。従って、静電容量Cm(t)の測定における時間分解能と、測定感度とは、測定周波数に対して互いにトレードオフの関係にある。そこで、以下に示す静電容量Cm(t)の測定例は、時間分解能を確保する観点から、測定周波数を5kHzに固定して測定を行った。
【0055】
図13は、一定の成形条件(射出樹脂温度370℃、金型温度95℃)の下で、金型内で冷却されて固化する樹脂の静電容量の経時変化についてサンプル数n=5として行った5回の測定結果を示す。また、
図14、
図15、
図16は、それぞれ他の一定の成形条件、すなわち、
図14(射出樹脂温度400℃、金型温度95℃)、
図15(射出樹脂温度370℃、金型温度75℃)、
図16(射出樹脂温度400℃、金型温度75℃)での測定結果を示す。
【0056】
図13に対する
図14の結果は、金型温度が同じで射出樹脂温度が30℃高くなった成形条件の場合の結果であり、上述の
図4(b)に示した如く、射出樹脂温度が高い分、大きな静電容量の測定値(ピーク値参照)が得られている。このことは、
図15に対する
図16の結果についても同様である。すなわち、静電容量の測定値において、30℃の成形条件の違いが検知できている。
【0057】
図13と
図15(
図14と
図16も同様)は、互いに射出樹脂温度が同じで金型温度が20℃異なる成形条件の場合の測定結果であるが、静電容量Cm(t)の測定結果に対する金型の温度変動の影響は、射出樹脂温度の影響に比べて明確ではない。これは、金型温度は、金型に接している樹脂の表層部に影響するものの、静電容量Cm(t)に寄与する樹脂の全体への影響が少ない、または影響が遅いことなどによると考えられる。
【0058】
上述のような測定において、サンプル数nを増やしたり、測定周波数の最適化を行ったり、測定結果の平均値を求めたりして、静電容量Cm(t)の時間依存性の波形すなわち経時変化の波形を決定し、計算値である静電容量Cc(i,t)と比較すればよい。測定の改善には、例えば、静電容量Cm(t)の立ち上がりのピークを捉えられるような測定条件を確保することが重要である。
【0059】
なお、本発明は、上記構成に限られることなく種々の変形が可能である。例えば、上述した各実施形態の構成を互いに組み合わせた構成とすることができる。