特許第6283554号(P6283554)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6283554
(24)【登録日】2018年2月2日
(45)【発行日】2018年2月21日
(54)【発明の名称】三次元積層造形装置
(51)【国際特許分類】
   B29C 64/321 20170101AFI20180208BHJP
   B22F 3/16 20060101ALI20180208BHJP
   B22F 3/105 20060101ALI20180208BHJP
【FI】
   B29C64/321
   B22F3/16
   B22F3/105
【請求項の数】13
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2014-72274(P2014-72274)
(22)【出願日】2014年3月31日
(65)【公開番号】特開2015-193135(P2015-193135A)
(43)【公開日】2015年11月5日
【審査請求日】2016年11月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004271
【氏名又は名称】日本電子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000925
【氏名又は名称】特許業務法人信友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】津嶋 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】田中 幸浩
【審査官】 田代 吉成
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−147910(JP,A)
【文献】 特表2012−532048(JP,A)
【文献】 特表2010−510099(JP,A)
【文献】 特表2006−511710(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 64/321
B22F 3/105
B22F 3/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に造形物を形成するための粉末材料が供給されるステージと、
前記ステージに前記粉末材料を敷き詰める粉末供給ユニットを備え、
前記粉末供給ユニットは、
断熱構造を有し、前記ステージに供給する粉末材料を収容する粉末カートリッジと、
前記粉末カートリッジを着脱可能に保持する保持機構とを備える
三次元積層造形装置。
【請求項2】
さらに、粉末カートリッジの内部の温度を制御する制御部を備える
請求項1に記載の三次元積層造形装置。
【請求項3】
前記粉末カートリッジは、内部に粉末材料が収容される容器本体と、前記容器本体の外周部に設けられ、面方向における熱伝導率が厚み方向における熱伝導率よりも大きい異方性熱伝導材料で形成された断熱冷却層とを備える
請求項1に記載の三次元積層造形装置。
【請求項4】
前記粉末カートリッジは、内部に粉末材料が収容される容器本体と、前記容器本体の外周部に設けられ、面方向における熱伝導率が厚み方向における熱伝導率よりも大きい異方性熱伝導材料で形成された断熱冷却層とを備える
請求項2に記載の三次元積層造形装置。
【請求項5】
前記容器本体及び/又は前記断熱冷却層を冷却する冷却機構を備える
請求項3又は4に記載の三次元積層造形装置。
【請求項6】
前記容器本体を冷却する第1冷却機構と、
前記断熱冷却層を冷却する第2冷却機構とを備え、
前記制御部は、前記第1冷却機構と前記第2冷却機構とを個別に制御する
請求項4に記載の三次元積層造形装置。
【請求項7】
前記容器本体の温度を検出する内部温度検出部と、
前記ステージに敷き詰められた粉末材料の温度を検出する外部温度検出装置とを備え、
前記制御部は、前記内部温度検出部及び前記外部温度検出装置からの検出信号に基づき、前記容器本体の内部が所定の温度になるように前記第1冷却機構及び前記第2冷却機構を制御する
請求項6に記載の三次元積層造形装置。
【請求項8】
前記断熱冷却層の外周面には、前記ステージに敷き詰められた粉末材料から発生する輻射熱を反射する反射膜を備える
請求項3〜7のいずれか一項に記載の三次元積層造形装置。
【請求項9】
前記ステージに敷き詰められた粉末材料から発生する輻射熱を反射する壁面反射膜が設けられた内壁面を有する処理室を備え、
前記ステージ及び前記粉末供給ユニットは、前記処理室の内部に配置されている
請求項1〜8のいずれか一項に記載の三次元積層造形装置。
【請求項10】
前記処理室の内壁面はドーム状の球面を有する
請求項に記載の三次元積層造形装置。
【請求項11】
前記処理室内の内壁面と前記壁面反射膜との間に、面方向における熱伝導率が厚み方向における熱伝導率よりも大きい異方性熱伝導材料で形成された排熱層を備える
請求項10に記載の三次元積層造形装置。
【請求項12】
前記ステージの表面において集束光を2次元走査することで前記ステージの表面に敷き詰められた粉末材料の予備加熱をする光源と、 前記ステージの表面に詰められた粉末材料の表面温度を測定する表面温度測定部とを備え、
前記制御部は、前記表面温度測定部で測定された表面温度の測定値に基づき、前記粉末材料の表面温度が所定の値になるように前記光源から前記ステージ表面への集束光の照射を制御する請求項に記載の三次元積層造形装置。
【請求項13】
前記断熱冷却層の外周面には、輻射熱を反射する熱反射膜が設けられる
請求項3又は4に記載の三次元積層造形装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
粉末材料層の所定の領域を凝固させて形成する凝固層の形成を複数層繰り返すことにより、三次元構造の造形物を形成する三次元積層造形装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の三次元積層造形装置の造形方法としては、例えば粉末材料を粉末台であるステージの上面に一層毎に敷き詰める。次に、ステージ上に敷き詰められた粉末材料に対し、造形物の一断面に相当する二次元構造部だけを電子ビームやレーザからなる溶融機構で溶融する。そして、そのような粉末材料の層を一層ずつ高さ方向(Z方向)に積み重ねることにより造形物を形成している。
【0003】
次に、従来の三次元積層造形装置の一例について、図10を参照して説明する。図10は、従来の三次元積層造形装置の一例を示す概略構成図である。
【0004】
図10に示すように、三次元積層造形装置200は、造形処理を行う中空の処理室202と、処理室202内に配置されたステージ204と、ステージ204上面に粉末材料を吐出する吐出ヘッド221を有している。また、三次元積層造形装置200は、粉末材料を貯蔵する粉末貯蔵庫225と、粉末貯蔵庫225と吐出ヘッド221とを連通する搬送パイプ226と、搬送パイプ226とを介して粉末貯蔵庫225から吐出ヘッド221に粉末材料を搬送する不図示の粉末搬送機構と、を有している。
【0005】
また、吐出ヘッド221は、第1のガイド部223と、第2のガイド部224とによってステージ204の一面と平行をなす方向に移動可能に支持されている。
【0006】
そして、粉末搬送機構により搬送パイプ226を介して粉末貯蔵庫225から吐出ヘッド221に粉末が搬送される。次に、吐出ヘッド221は、第1のガイド部223及び第2のガイド部224によって、ステージ204の一面と平行をなす方向に移動する。そして、吐出ヘッド221からステージ204の一面に粉末材料が吐出されることで、ステージ204の一面に粉末材料が敷き詰められる。
【0007】
また、特許文献1には、平板状の規制部材を、造形物を形成する造形枠の上面において水平方向に移動させて、ステージの上面に粉末材料を搬送すると共に、粉末材料全体が一定の厚みとなるようにステージの上面に敷き詰める技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001−152204号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、図10に示す三次元積層造形装置200では、粉末貯蔵庫225と吐出ヘッド221を連通する搬送パイプ226内に粉末材料が詰まるおそれがあり、安定して吐出ヘッド221からステージ204に粉末材料を吐出することができなくなる、という問題を有していた。
【0010】
そこで、本発明は、安定して粉末材料をステージに供給することができる三次元積層造形装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決し、本発明の目的を達成するため、本発明の三次元積層造形装置は、表面に造形物を形成するための粉末材料が供給されるステージと、ステージに粉末材料を敷き詰める粉末供給ユニットとを備える。粉末供給ユニットは、粉末材料を収容し、粉末材料をステージに排出する粉末カートリッジであって、断熱構造を有する粉末カートリッジと、粉末カートリッジを着脱可能に保持する保持機構とを備える。
【0012】
本発明の三次元積層装置では、粉末カートリッジが断熱構造を有するため、粉末カートリッジ内部に収容された粉末材料の温度が適正に維持される。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、安定して粉末材料をステージに供給することができる三次元積層造形装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の第1の実施形態に係る三次元積層造形装置の全体構成を示す概略図である。
図2】本発明の第1の実施形態に係る三次元積層造形装置を上面から見た場合の概略平面図(その1)である。
図3】本発明の第1の実施形態に係る三次元積層造形装置を上面から見た場合の概略平面図(その2)である。
図4】粉末供給ユニットの要部を示す断面図である。
図5】本発明の第1の実施形態に係る三次元積層造形装置の制御系を示すブロック図である。
図6】カートリッジ格納庫の断面構成図である。
図7】本発明の第2の実施形態に係る三次元積層造形装置の全体構成を示す概略図である。
図8】変形例に係る三次元積層造形装置の全体構成を示す概略図である。
図9】本発明の第3の実施形態に係る三次元積層造形装置の全体構成を示す概略図である。
図10】従来の三次元積層造形装置の一例を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明の実施形態に係る三次元積層造形装置の一例を、図面を参照しながら説明する。なお、本発明は以下の例に限定されるものではない。
【0016】
〈1.第1の実施形態:三次元積層造形装置〉
[1−1.三次元積層造形装置の全体構成]
まず、本発明の第1の実施形態に係る三次元積層造形装置について説明する。図1は、本発明の第1の実施形態に係る三次元積層造形装置の全体構成を示す図である。
【0017】
図1に示す三次元積層造形装置1は、例えば、チタン、アルミニウム、鉄等の金属粉末Pに電子ビームL1を照射して金属粉末Pを溶融させ、この溶融した金属粉末Pが凝固した層を積み重ねて立体的な造形物Mを形成する装置である。
【0018】
三次元積層造形装置1は、中空の処理室2と、造形枠3と、平板状のステージ4と、ステージ駆動機構5と、粉末供給ユニット7と、電子銃8と、カートリッジ格納庫9とを有している。ここで、ステージ4の一面と平行をなす方向を第1の方向X1とし、第1の方向X1と直交し、かつステージ4の一面と平行をなす方向を第2の方向Y1とする。また、ステージ4の一面と直交する方向を第3の方向Z1とする。
【0019】
処理室2には、図示していない真空ポンプが接続されている。そして、処理室2内の雰囲気が真空ポンプにより排気されることで、処理室2内は、真空に維持されている。この処理室2内には、造形枠3、ステージ4、ステージ駆動機構5及び粉末供給ユニット7が設けられている。また、処理室2の第1の方向X1の一側には、カートリッジ格納庫9が連接している。処理室2の第3の方向Z1の一側には、電子銃8が装着されており、第3の方向Z1の他側には、造形枠3が配置されている。
【0020】
造形枠3には、第3の方向Z1に沿って一方から他方にかけて貫通するピット3aが形成されている。ピット3aは、略四角柱状に開口している。また、完成した造形物Mを取り出せるようにするために、造形枠3におけるピット3aの外周面の一部は、開放可能に構成されている。
【0021】
造形枠3におけるピット3aには、ステージ4及びステージ駆動機構5が配置されている。ステージ4は、造形物Mを形成するための金属粉末Pが積層される粉末台である。また、ステージ4の側端部には、耐熱性及び柔軟性のある摺動部材13が設けられている。摺動部材13は、ピット3aの壁面に摺動可能に接触している。そして、摺動部材13により、ステージ4における第3の方向Z1の一方の空間と他方の空間が密閉されている。
【0022】
また、ステージ4における金属粉末Pが積層される一面(以下、表面4aとする)と反対側の他面には、軸部4dが設けられている。軸部4dは、ステージ4の他面から第3の方向Z1の他方に向けて突出している。軸部4dは、ピット3aに収容されたステージ駆動機構5に接続されている。ステージ駆動機構5は、軸部4dを介してステージ4を第3の方向Z1に沿って駆動する。ステージ駆動機構5としては、例えば、ラック&ピニオンやボールねじ等が挙げられる。
【0023】
電子銃8は、処理室2の第3の方向Z1の一側において、ステージ4の表面4aに対向して配置される。電子銃8は、予め準備された設計上の造形物(三次元CAD(Computer−Aided Design)データにより表された造形物)をΔZ間隔でスライスした2次元形状に従い、ステージ4表面の金属粉末Pに対して電子ビームL1を出射する。電子銃8から出射された電子ビームL1により、その2次元形状に対応する領域の金属粉末Pが溶融する。
【0024】
また、図1では図示を省略するが、処理室2の内部には、ステージ4に敷き詰められた金属粉末Pからなる層の表面温度を検出できる外部温度検出部17(図5参照)が設けられている。外部温度検出部17は、ステージ4に敷き詰められた金属粉末Pの表面温度を検出し、その検出信号を制御部30(図5参照)に送る。後述する粉末カートリッジ21の外周面に設けられた反射膜34(図4参照)における温度は、ステージ4に敷き詰められた金属粉末Pからの輻射熱によって決まる。このため、金属粉末Pの温度を検出することより、粉末カートリッジ21の外周面の温度を決定することができる。
【0025】
また、造形枠3に対して第3の方向Z1の一方には、造形枠3から所定の間隔を開けて粉末供給ユニット7が配置されている。
【0026】
[1−2.粉末供給ユニット]
次に、図1図5を参照して、粉末供給ユニット7の詳細な構成について説明する。図2及び図3は、三次元積層造形装置1を上面から見た場合の概略平面図である。また、図4は、粉末供給ユニット7の要部を示す断面図である。さらに、図5は、三次元積層造形装置1の制御系を示すブロック図である。
【0027】
図2及び図3に示すように、粉末供給ユニット7は、粉末カートリッジ21と、保持機構22と、一対の第1のガイド部23と、第2のガイド部24とを有している。一対の第1のガイド部23と、第2のガイド部24によって移動機構が構成される。
【0028】
一対の第1のガイド部23は、ステージ4を間に挟んで第2の方向Y1の両側に配置されている。また、一対の第1のガイド部23は、第1の方向X1に沿って処理室2内に延在している。一対の第1のガイド部23には、第2のガイド部24が第1の方向X1に移動可能に支持されている。
【0029】
第2のガイド部24は、一対の第1のガイド部23の間で、第2の方向Y1に沿って延在している。第2のガイド部24は、X方向駆動部10(図5参照)に電気的に接続されており、X方向駆動部10によって第1の方向X1に移動する。また、第2のガイド部24には、保持機構22が第2の方向Y1に移動可能に支持されている。そして、保持機構22には、粉末カートリッジ21が着脱可能に保持されている。
【0030】
〔粉末カートリッジ〕
図4に示すように、粉末カートリッジ21は、金属粉末Pを収容する容器20であって、熱伝導率の異なる素材からなる4層構造を有する容器20と、容器20の先端に設けられたシャッター部27と、容器20に収容された金属粉末Pを攪拌するための攪拌部29とを備える。
【0031】
容器20は、容器本体31と、容器本体31の外周面に順に設けられた断熱層32、断熱冷却層33、反射膜34とを有して構成されている。容器本体31は、内部に金属粉末Pを収容可能な中空の部材で構成され、本実施形態では、金属粉末Pをステージに向けて排出するための排出口31aを有する筒状の部材で構成されている。容器本体31の排出口31a側の内壁面は排出口31aに向かって内径が狭まるようなテーパ形状に構成されている。容器本体31は、後述する第1冷却機構48(図5参照)により容器本体31内部に収容された金属粉末Pの温度管理を行うため、熱伝導率が良好な材料で構成することができ、本実施形態ではヤング率の高い燐青銅素材を用いて構成した。また、容器本体31の内壁面には、DLC(diamond‐like carbon)が成膜されている。これにより、容器本体31と金属粉末Pとの機械的干渉を防ぐことができ、金属粉末Pによる容器本体31の内壁面の研磨を防止することができる。そして、容器本体31の排出口31aとは反対側の開口端には攪拌部29の軸受け39が設けられている。
【0032】
そして、この容器本体31には、ステージ4に敷き詰める一層分、あるいは複数層分の金属粉末Pが収容されている。
【0033】
また、図4では図示を省略するが、容器本体31には、容器本体31の温度を検出できる内部温度検出部16(図5参照)が設けられている。内部温度検出部16は、容器本体31の温度を検出し、その検出信号を制御部30(図5参照)に送る。内部温度検出部16は、例えば、容器本体31の熱抵抗を測定することによって容器本体31の温度を検出する構成を採ることができる。そして、容器本体31は、内部温度検出部16で検出された温度に基づいて後述する第1冷却機構48により冷却される。
【0034】
断熱層32は、容器本体31の外側に設けられており、容器本体31よりも熱伝導率が低い材料で構成される。断熱層32を容器本体31よりも熱伝導率の低い材料で構成することにより、容器本体31のみで容器20を構成する場合に比較し、熱抵抗を大きくすることができる。断熱層32を設け容器20の熱抵抗を大きくすることにより、ステージ4表面に敷き詰められた金属粉末Pからの輻射熱による容器本体31内部の温度上昇を抑制することができる。本実施形態では、断熱層32は、耐熱性と強度に優れ、非磁性及び低熱伝導率であるチタンを用いて構成した。
【0035】
断熱冷却層33は、断熱層32の外側に設けられており、後述する第2冷却機構49を用いて排熱するため、面方向の熱伝導率が厚み方向の熱伝導率よりも大きい異方性熱伝導率を有する材料で構成される。本実施形態では、断熱冷却層33は、高配向性グラファイトシート素材を用いて構成した。高配向性グラファイトシート素材は、面方向の熱伝導率が250〜300W/m・kであるのに対し、厚み方向の熱伝導率が5〜10W/m・kである特性を有しており、面方向に伝達される熱と厚み方向に伝達される熱の割合は約50:1である。したがって、断熱冷却層33に発生した熱を効率良く面方向に伝達し、後述する第2冷却機構49によって排熱することができる。本実施形態では、断熱冷却層33として高配向性グラファイトシート素材を用いる構成としたが、その他、熱伝導異方性を有する材料として、カーボンナノシートや、カーボン繊維を熱伝導方向に編むことで得られるシート素材を用いることができる。
【0036】
反射膜34は、断熱冷却層33の外側に設けられており、ステージ4表面に敷き詰められた金属粉末Pからの輻射熱を反射する材料で構成される。本実施形態では、断熱冷却層33に用いた高配向性グラファイトシート素材は黒体であり熱吸収が大きいが、反射膜34を設けることによりステージ4側からの輻射熱を反射することができるので、容器20の輻射加熱を抑制することができる。本実施形態では、断熱冷却層33の外周面に、アルミニウム及び金からなる被膜を厚膜コーティングすることによって反射膜34を形成し、波長λ=1〜20μmの熱波を反射させることができる構成とした。
【0037】
また、シャッター部27は、容器20の排出口31aを開閉可能に覆い、図5に示すように、シャッター駆動部28により開閉動作が為される。シャッター部27を駆動するシャッター駆動部28は、例えば後述する保持機構22の内部に設けられ、第2のガイド部24に設けられた接続端子(図示を省略する)を介して、制御部30(図5参照)に接続されている。
【0038】
攪拌部29は、回転軸37と、回転軸37の先端に設けられた回転翼36と、回転軸37の回転翼36が設けられた側とは反対側に設けられた接続部40とを有する。回転軸37は、軸受け39の中央部に設けられた軸受け孔39aに軸受け38を介して回転可能に支持され、容器本体31の内部に挿入されている。回転翼36は、回転軸37の排出口31a側の一端に固定されており、排出口31aの近傍に配置されている。回転翼36は、ほぼ円錐状に形成されており、複数の翼が放射状に設けられている。回転軸37の回転翼36が固定される側とは反対側の端部は、軸受け39の上方に突出し、その突出した回転軸37の端部に接続部40が設けられている。接続部40は、後述する保持機構22のもう一方の接続部43に接続されている。
【0039】
〔保持機構〕
次に、粉末供給ユニット7を構成する保持機構22について説明する。保持機構22は、容器20を着脱する保持部45と、容器本体31の温度を冷却する第1冷却部41と、断熱冷却層33に接続される第2冷却部42と、攪拌部29に接続される回転駆動部44とを備える。
【0040】
保持部45は、第2のガイド部24の図示を省略するガイドレール部に係合するレール係合部(図示を省略する)を有して構成されており、第2のガイド部24に設けられた接続端子(図示を省略する)を介して、粉末供給ユニット7の外部に設けたY方向駆動部11(図5参照)に電気的に接続されている。
【0041】
第1冷却部41は、容器本体31と熱接触しており、第2のガイド部24に設けられた第1熱伝達部材46を介して処理室2外部に設けられた第1冷却装置14(図5参照)に接続されている。第1冷却部41は熱伝達が可能な部材で構成され、例えば、内部をオイルなどの冷媒が循環する冷却管を用いて構成することができる。なお、第1冷却装置14と第1冷却部41とを接続する第1熱伝達部材46としては、第1冷却装置14と第1冷却部41との間で熱伝達が可能な部材であればよく、例えば、高配向性グラファイトシートを用いることができる。第1冷却部41は、制御部30の制御のもと、後述する第1冷却装置14によって所定の温度に冷却される。
【0042】
第2冷却部42は、断熱冷却層33と熱接触しており、第2のガイド部24に設けられた第2熱伝達部材47を介して処理室2外部に設けられた第2冷却装置15(図5参照)に接続されている。第2冷却部42は、保持機構22内部において、第1冷却部41と空間を介して断熱されている。第2冷却部42は、第1冷却部41と同様、熱伝達が可能な部材で構成され、例えば、内部をオイルなどの冷媒が循環する冷却管を用いて構成することができる。なお、第2冷却装置15と第2冷却部42とを接続する第2熱伝達部材47としては、例えば、高配向性グラファイトシートを用いることができる。第2冷却部42は、制御部30の制御のもと、後述する第2冷却装置15によって所定の温度に冷却される。
【0043】
回転駆動部44は、接続部43を介して粉末カートリッジ21の攪拌部29に設けられた接続部40に接続されている。回転駆動部44は、図示を省略する配線を介して制御部30(図5参照)に接続されている。図5に示すように、回転駆動部44は、制御部30の制御のもと攪拌部29を回転駆動する。これにより、容器20内部に収容された金属粉末Pが攪拌される。本実施形態では、回転駆動部44による攪拌部29の攪拌動作と、シャッター部27の開閉動作により、金属粉末Pの吐出量を制御することができる。
【0044】
〔制御系〕
図5に示すように、制御部30は、粉末供給ユニット7を構成する各駆動部や、第1及び第2冷却装置14,15を制御するものであり、処理室2の外部に設けられ、例えばCPU(中央演算処理装置)で構成されている。
【0045】
制御部30は、シャッター駆動部28、回転駆動部44、X方向駆動部10、Y方向駆動部11に接続されており、各駆動部は、制御部30による制御のもと各部を駆動する。また、制御部30は、内部温度検出部16から送られてきた検出信号に基づいて第1冷却装置14を制御することにより、第1冷却部41の温度制御を行い、容器本体31の温度が最適な値になるように制御する。同様に、制御部30は、外部温度検出部17から送られてきた検出信号に基づいて第2冷却装置15を制御することにより第2冷却部42の温度制御を行い、断熱冷却層33を冷却して(断熱冷却層33の熱を排熱して)容器本体31の外側の温度が最適な値になるように制御する。
【0046】
第1冷却装置14としては、冷却ファンなどの熱交換器を用いることができる。本実施形態では、図5に示すように、第1冷却部41及び第1冷却装置14により第1冷却機構48が構成されている。また、第2冷却装置15としては、冷却ファンなどの熱交換器を用いることができる。本実施形態では、図5に示すように、第2冷却部42及び第2冷却装置15により第2冷却機構49が構成されている。
【0047】
第1冷却機構48により容器本体31を冷却することで、容器本体31の内部の温度上昇を防ぐことができ、金属粉末Pが容器本体31内部で変質したり固まったりするのを防ぐことができる。また、第2冷却部42により容器本体31の外周部に設けられた断熱冷却層33の熱を外部に排熱することで、ステージ4側から受ける熱による粉末カートリッジ21の温度上昇を防止することができる。このように、本実施形態では、第1及び第2冷却機構48,49による2重冷却機構によって、ステージ4表面、及び、ステージ4表面に敷き詰められた金属粉末Pの層と、粉末カートリッジ21との間に大きな熱抵抗を持たせ、粉末カートリッジ21内の金属粉末Pの発熱を防止することができる。
【0048】
〔カートリッジ格納庫〕
図6は、カートリッジ格納庫9の断面図である。図6に示すように、カートリッジ格納庫9には、金属粉末Pが充填された新たな粉末カートリッジ21が複数格納されている。カートリッジ格納庫9では、複数の粉末カートリッジ21が、回転するベルト60の把持部61に把持され、互いに離間して保持されている。また、カートリッジ格納庫9の内壁面には断熱壁18が設けられている。これにより、カートリッジ格納庫9に一時的に格納された粉末カートリッジ21の内部に収容された金属粉末Pの変質や排出口31aでの詰まりを防止することができる。なお、カートリッジ格納庫9は図示しない冷却装置によって冷却されている。
【0049】
カートリッジ格納庫9における処理室2側には、粉末カートリッジ21を排出する交換窓12が形成されており、交換窓12の位置で、粉末カートリッジ21が保持機構22の保持部45に受け渡される。交換窓12には図示しない交換扉が取り付けられており、カートリッジ交換時にこの交換扉が開けられる。交換扉のカートリッジ格納庫9側には、断熱壁が設けられている。粉末カートリッジ21を交換窓12の位置で保持機構22に受け渡した後、ベルト60が回転することで、次に受け渡される粉末カートリッジ21が交換窓12の位置に配置される。また、カートリッジ格納庫9の近傍には、図示を省略するカートリッジ回収庫が設けられている。カートリッジ回収庫には、金属粉末Pを使用済み粉末カートリッジ21が排出される。
【0050】
なお、カートリッジ回収庫に回収された使用済み粉末カートリッジ21に新たに金属粉末Pを充填することで、使用済み粉末カートリッジ21を再利用することができる。また、使用済み粉末カートリッジ21内に残留する金属粉末Pも再利用することができる。
【0051】
[1−3.三次元積層造形装置の動作]
次に、図1図6を参照して上述した構成を有する三次元積層造形装置1の動作について説明する。
【0052】
まず、図1に示すように、ステージ駆動機構5により、造形枠3の上面より第3の方向Z1にΔZ分下がった位置にステージ4を配置する。このΔZが、その後に敷き詰められる金属粉末Pの第3の方向Z1の層厚に相当する。
【0053】
次に、図示を省略するヒータにより造形枠3の筒状体3aの予備加熱を行う。造形枠3の筒状体3aが予備加熱されることにより、ステージ4及び周囲の雰囲気が予備加熱される。なお、予備加熱は、電子ビームL1を照射することによって行ってもよい。電子ビームL1によって予備加熱する場合には、ステージ4の表面が均一な温度になるように電子ビームL1を二次元面内で走査しながら照射する。
【0054】
次に、粉末供給ユニット7により、厚さΔZ分の金属粉末Pをステージ4の一面に敷き詰める。具体的には、図2を示すように、第1のガイド部23及び第2のガイド部24に沿って保持機構22及び粉末カートリッジ21をステージ4の第3の方向Z1の他方に移動させる。そして、制御部30の制御のもと、シャッター駆動部28を駆動することにより、図4に示すように、粉末カートリッジ21のシャッター部27を開放させる。これにより、粉末カートリッジ21に収容された金属粉末Pが、排出口31aからステージ4の表面4aに排出される。
【0055】
そして、粉末カートリッジ21から金属粉末Pを排出させると同時に、制御部30の制御のもと、回転駆動部44を駆動させることにより攪拌部29を回転駆動する。これにより、粉末カートリッジ21に収容された金属粉末Pが攪拌され、金属粉末Pは排出口31a付近で詰まることなく安定してステージ4側に排出される。金属粉末Pがステージ4の表面4aに排出された後、図示を省略するブレードによりステージ4上の金属粉末Pの層を平坦になるように均す。
【0056】
次に、図1に示すように、金属粉末Pに対して電子銃8から電子ビームL1を出射する。電子銃8は、予め準備された設計上の造形物(三次元CAD(Computer−Aided Design)データにより表された造形物)をΔZ間隔でスライスした2次元形状に従い、金属粉末Pに対して電子ビームL1を出射する。電子銃8から出射された電子ビームL1により、その2次元形状に対応する領域の金属粉末Pが溶融する。
【0057】
次に、溶融した金属粉末Pは、材料に応じた所定時間が経過すると凝固し一層分の凝固層が形成される。1層分の金属粉末Pが溶融及び凝固した後、ステージ駆動機構5によりステージ4をΔZ分下げる。このステージ4の第3の方向Z1への動きは、摺動部材13が造形枠3のピット3aの内面を滑ることにより実現される。
【0058】
次に、再び粉末供給ユニット7によって、粉末カートリッジ21をステージ4の第3の方向Z1の一方へ移動させ、ΔZ分の金属粉末Pを直前に敷き詰められた層(下層)の上に敷き詰める。その後、電子銃8から出射される電子ビームL1により、その層に相当する2次元形状に対応する領域の金属粉末Pを溶融させる。このとき、溶融した金属粉末同士が接合すると共に、一層目の凝固層とも一体となって凝固し、二層分の凝固層が形成される。このように、ステージ4を下げ、ステージ4上に金属粉末Pを供給し、その金属粉末Pを溶融及び凝固させる工程を繰り返すことで、三次元の造形物Mが形成され、三次元積層造形装置1の動作が完了する。
【0059】
ここで、収容している金属粉末Pを全て排出した使用済み粉末カートリッジ21は、図示を省略するカートリッジ回収庫に回収される。
【0060】
次に、保持機構22は、カートリッジ格納庫9の交換窓12からカートリッジ格納庫9内に挿入し、金属粉末Pが充填された新たな粉末カートリッジ21を保持する。カートリッジ格納庫9から粉末カートリッジ21が保持機構22へ受け渡されると、カートリッジ格納庫9では、ベルト60が回転することにより、次に保持機構22に保持される粉末カートリッジ21がカートリッジ格納庫9における受け取り位置に待機する。
【0061】
本実施形態の三次元積層造形装置1によれば、造形物Mを形成する金属粉末Pを一層分、あるいは複数の層分に分けて、複数の粉末カートリッジ21に収容している。これにより、金属粉末Pを搬送する搬送パイプを設ける必要がないため、金属粉末Pが搬送パイプ内に詰まる問題がなく、常に安定して金属粉末Pをステージ4に供給することができる。
【0062】
ところで、本実施形態のように、真空の処理室2で金属粉末Pを処理する場合、大気圧下で不活性ガスを導入した処理室2で金属粉末Pを処理する場合に比較して、不活性ガスの対流による金属粉末Pからの放熱の影響はなくなる。このため、真空下における金属粉末Pの溶融温度は、バルク金属の溶融温度の1/2程度となる。したがって、真空下においては、大気圧下に比較してより低い温度の光線エネルギーによる金属粉末Pの溶解が可能になる。しかしながら、図10に示した従来の三次元積層造形装置200において、処理室202内を真空にした場合、搬送パイプ226内においても、同様の作用によって金属粉末の溶融温度が下がる。このため、輻射熱の影響によって搬送パイプ226内における粉体安定性が損なわれる可能性は残る。
【0063】
これに対し、本実施形態では、粉末カートリッジ21を構成する容器20は、熱伝導率の異なる素材で構成された4層構造で構成され、容器本体31の外周面に断熱層32及び断熱冷却層33が配置された断熱構造を有する。これにより、容器本体31の内部が輻射熱の影響で加熱されるのを防ぐことができる。また、本実施形態では、容器本体31は第1冷却機構48により冷却可能に構成されているので、容器本体31の内部に収容された金属粉末Pが加熱されて固まるのを防ぐことができる。さらに、本実施形態では、容器本体31の外周に設けられた断熱冷却層33は第2冷却機構49により冷却可能に構成されているので、輻射熱が容器本体31に伝達しにくく、容器本体31が輻射熱によって加熱されるのを防ぐことができる。
【0064】
さらに、造形物Mを造形するために必要な金属粉末Pを複数の粉末カートリッジ21に少量ずつ小分けして管理することができる。すなわち、金属粉末Pの保存及び管理を容易にすることができる。さらに、金属粉末Pが無駄になることを防ぐことができる。
【0065】
〈2.第2の実施形態:ドーム型の処理室を有する三次元積層造形装置〉
次に、本発明の第2の実施形態に係る三次元積層造形装置について説明する。図7は、本発明の第2の実施形態に係る三次元積層造形装置70の概略構成図である。本実施形態の三次元積層造形装置70は、処理室71の構成と、金属粉末を溶融するエネルギービーム発生装置としてレーザ光源77を用いる点で、第1の実施形態と異なる。図7において、図1に対応する部分には同一符号を付し、重複説明を省略する。
【0066】
本実施形態では、図7に示すように、処理室71は、ステージ4の金属粉末Pが積層される表面に対向する処理室71上部の内壁面がドーム形状に湾曲した形状を有する。すなわち、処理室71のステージ4の表面に対向する処理室71上部の内壁面は、中央部から側周部にかけてステージ4側に湾曲した球面形状を有している。また、処理室2上部の所定の位置には、エネルギービーム透過窓74、熱線入射窓75、温度検出窓76が設けられ、それぞれ、処理室71の一部に開口部を設け、この開口部を塞ぐように透過部材を嵌め込むことで構成されている。
【0067】
また、処理室71上部の内壁面には、壁面断熱冷却層72、壁面反射膜73が内壁面側からこの順に設けられている。壁面断熱冷却層72は、粉末カートリッジ21を構成する断熱冷却層33と同様の材料で構成することができ、壁面反射膜73は、粉末カートリッジ21を構成する反射膜34と同様の材料で構成することできる。壁面断熱冷却層72は、図示を省略する冷却装置に熱接触されており、第2冷却装置15と同様に制御部30によって制御されることで、冷却され所定の温度に維持される。
【0068】
また、処理室71には、図示していない真空ポンプが接続されている。そして、処理室71内の雰囲気が真空ポンプにより排気されることで、処理室71内は、真空に維持されている。
【0069】
処理室71の外側には、レーザ光源77、熱線発生装置78及び温度検出装置79が配置されている。レーザ光源77から出射されたレーザ光はエネルギービーム透過窓74を透過してステージ4の表面に照射される。また、熱線発生装置78は、ステージ4の表面4aに敷き詰められた金属粉末Pの層の表面を加熱する熱線を照射するものであり、熱線発生装置78から出射された熱線は熱線入射窓75を透過してステージ4の表面4aに照射される。また、温度検出装置79は、例えばIRカメラ等の2次元平面の温度計測が可能な装置で構成されており、温度検出窓76を介してステージ4の表面4aに敷き詰められた金属粉末Pの表面温度を検出する。
【0070】
本実施形態では、ステージ4の表面4aに金属粉末Pを敷き詰めた後、処理室71の外側に設けられた熱線発生装置78から熱線を出射し、ステージ4の表面4aに敷き詰められた金属粉末Pの表面において二次的に走査することで金属粉末Pの予備加熱を行う。その後、第1の実施形態と同様にしてステージ4の表面4aに造形物Mを作成していく。
【0071】
ところで、造形物Mを形成する粉末材料として無機物(金属等)を用いる場合、溶解温度と再結合温度とに温度差がある。これにより、金属粉末Pの溶融部分と、その下層に位置する前段で形成された凝固層との間に大きな温度差が生じ、形成される造形物Mに歪みが発生する。このため、従来の三次元積層造形装置では、ヒータや、熱線によってステージ上に敷き詰められた金属粉末を予備加熱し、溶融部分とその下層の凝固層との温度差による加工歪みを防止する構成が採られる。しかしながら、ステージ表面を予備加熱する場合、処理室が輻射熱の影響を受け、処理室を構成する素材の熱膨張率の範囲内で相対位置ずれが生じ、加工精度の低下を招く。
【0072】
これに対し、本実施形態では、処理室71の内壁面に壁面断熱冷却層72及び壁面反射膜73を設けることにより、ステージ4の表面4aに敷き詰められた金属粉末Pを予備加熱した場合においても、処理室71が受ける熱の影響を低減することができる。
【0073】
また、ヒータによってステージ4近傍を加熱してステージ4の表面4aに敷き詰められる金属粉末Pを予備加熱する場合、造形物Mが大きくなると、ステージ4の表面4aと金属粉末Pの表面の溶融部分との距離が次第に大きくなる。この結果、ステージ4近傍を加熱するヒータで予備加熱を行う場合、溶融部分の金属粉末Pが予熱されなくなるという問題がある。また、真空の処理室71内で加工を行う場合、金属粉末Pの表面は真空界面であり、対流による放熱の影響を受けない真空内溶融条件が発生するため、適正に温度管理を行う必要がある。
【0074】
これに対し、本実施形態では、ステージ4の表面4aに敷き詰められた金属粉末Pの表面の予備加熱は、熱線発生装置78からの熱線の照射によって行う。このため、サイズの大きな造形物Mを形成する場合にも、溶融部分における金属粉末Pの予備加熱を行うことができる。さらに、本実施形態では、温度検出装置79によって、ステージ4の表面に敷き詰められた金属粉末Pの表面の温度を適宜検出し、その検出結果に基づいて熱線発生装置78からの熱線の照射速度や照射強度を制御することで、適正な溶融条件を維持することができる。
【0075】
さらに、本実施形態のように、造形物Mを形成する粉末材料として金属粉末を採用した場合、金属が熱波を反射してしまうため、金属粉末は熱吸収効率が悪く、金属粉末の表面が加熱されにくいという問題がある。
【0076】
これに対し、本実施形態では、処理室71のステージ4の表面4aに対向する内壁面が球面形状であり、かつ、その内壁面に壁面反射膜73が形成されている。これによって、予備加熱時におけるステージ4に敷き詰められた金属粉末Pの表面からの輻射熱がその壁面反射膜73に反射され、再度ステージ4上に照射される。この結果、ステージ4上に敷き詰められた金属粉末Pの表面が壁面反射膜73によって反射された熱によって再加熱され、金属粉末Pの表面の温度の低下を防ぐことができる。これにより、金属粉末Pの予備加熱によるエネルギー効率が向上し、省エネルギー加工が可能となる。
【0077】
[2−1.変形例]
次に、本実施形態の変形例に係る三次元積層造形装置について説明する。図8は、変形例に係る三次元積層造形装置の概略構成図である。変形例に係る三次元積層造形装置80は、エネルギー発生装置として荷電粒子発生装置81を用いる点で本実施形態と異なる。図8において、図7に対応する部分には同一符号を付し重複説明を省略する。
【0078】
変形例では、金属粉末Pを溶融するエネルギービーム発生装置として荷電粒子ビームを出射する荷電粒子発生装置81が用いられる。荷電粒子発生装置81は、処理室71に設けられた開口部82に装着されている。そして、荷電粒子発生装置81から照射された荷電粒子ビームは処理室71の開口部82を通過してステージ4の表面4aに敷き詰められた金属粉末Pの表面に照射される。
【0079】
このように、荷電粒子発生装置81から出射されるエネルギービームによって造形物Mを形成する場合には、処理室71の開口部82から処理室71内部にエネルギービームが入射するように荷電粒子発生装置81を装着する。変形例の三次元積層造形装置80においても第2の実施形態と同様の動作により、三次元の造形物Mが形成される。
【0080】
変形例のように、金属粉末Pを溶解するエネルギービームとして荷電粒子ビームを用いる場合には、荷電粒子ビームにより金属粉末Pが帯電を引き起こし、金属粉末Pが散逸してしまう恐れがある。このような金属粉末Pの帯電を防止するために、変形例の三次元積層造形装置80では、ステージ4の表面4aに敷き詰められた金属粉末Pの供給電子結合条件が発生する温度まで予備加熱することが好ましい。
【0081】
変形例に係る三次元積層造形装置80では、粉末カートリッジ21の内部での金属粉体Pを適正温度に維持することができるので、粉末カートリッジ21の内部の金属粉末Pを凝固させることなく、ステージ4表面の金属粉末Pの予備加熱を行うことが可能である。このため、金属粉末Pの帯電を防ぐことができる。そして、変形例に係る三次元積層造形装置80においても第2の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0082】
ところで、粉末材料として金属粉末を用いた場合、金属粉末の表面に物理結合や化学結合したガスが付着している。減圧下、特に、高真空下で金属粉末を加熱すると、金属粉末とその金属粉末に付着しているガスとの結合エネルギーに応じた温度で、そのガスが金属粉末から分離する。例えば、金属粉末として鉄を用いた場合には粉末表面に酸素が付着している。そして、酸化した鉄を、真空条件下において450Kに加熱すると、鉄表面から酸素が脱離する還元作用が生じる。そこで、次の実施形態では、脱離ガスの影響を防止することができる三次元積層造形装置について説明する。
【0083】
〈3.第3の実施形態:三次元積層造形装置〉
図9は、本発明の第3の実施形態に係る三次元積層造形装置の概略構成図である。本実施形態の三次元積層造形装置90は、処理室71内に所望のガスを導入する点で第2の実施形態と異なる。図9において、図7に対応する部分には同一符号を付し重複説明を省略する。
【0084】
本実施形態の三次元積層造形装置90は、処理室71に取り付けられたガス導入部92と、圧力測定装置91とを備える。ガス導入部92は、処理室71の外部に設けられたガス発生装置(図示を省略する)に接続される接続口93と、ガスを処理室71内部に導入するためのガス管94を有する。また、圧力測定装置91は、処理室71内部の圧力を測定可能な装置である。また、三次元積層造形装置90は、ガス導入部92から導入される導入ガスの分圧量を制御する制御部(図示を省略する)が設けられており、制御部は、圧力測定装置91で測定された圧力に基づき処理室71内の圧力が所定の圧力になるようにガス導入部92から導入されるガスの分圧量を制御する。
【0085】
本実施形態では、処理室71内の圧力を所定の値に維持することができるので、金属粉末Pからの脱離ガスによる影響を低減することができる。さらに、本実施形態の三次元積層造形装置90は、所望のガスを導入することができるので、ガスを用いた造形物Mの後処理等を行うことができる。以下では、本実施形態の三次元積層造形装置90を用い、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)を用いてステンレスの造形物を形成した場合について説明する。
【0086】
ステンレス素材は、700〜900Kの温度条件の環境に曝されると、表面の不働体膜が壊れ、錆びやすくなるという「鋭敏化現象」が発生することが知られている。これを防ぐ為、本実施形態ではステンレスからなる造形物Mを形成した後、処理室71内の圧力が一定となる条件で、ガス導入部92から800ppm〜2.5%(体積%)の水分を含有した不活性ガスを導入しながら、ステージ4の予熱温度を900〜500Kに低下させる。これにより、ステンレスからなる造形物Mの表面に緻密なクロム酸化膜を生成することができる。
【0087】
このように、本実施形態の三次元積層造形装置90では、処理室71内において、ステンレスからなる造形物Mが完成された後、続けて、造形物Mの表面に緻密な酸化クロム膜を生成できる。これにより、造形物Mに対する脱鋭敏化処理を別途行う必要が無い。なお、造形物M周りの金属粉末Pを取り除いてからクロム酸化膜の形成を行うようにしてもよい。
【0088】
上述した第1〜第3の実施形態では、粉末供給ユニット7は1つの粉末カートリッジ21を備える構成としたが、複数の粉末カートリッジ21を備える構成としてもよい。その場合には、例えば、第2のガイド部24に複数の保持機構22を第2の方向Y1に沿って移可能に支持し、それらの保持機構22で粉末カートリッジ21を保持させる。これにより、ステージ4の表面に複数の粉末カートリッジ21から粉末材料を供給することができる。
【0089】
また、粉末供給ユニット7が複数の粉末カートリッジ21を備える構成とする場合、それぞれの粉末カートリッジ21に異なる粉末材料を収容させてもよく、また、全て同じ粉末材料を収容させてもよい。
【0090】
また、上述した第1〜第3の実施形態では、粉末材料として金属粉末を用いる例としたが、その他、樹脂等を用いてもよい。
【0091】
また、上述した第1〜第3の実施形態では、粉末カートリッジを構成する容器は4層構造としたが、断熱構造を有し、粉末カートリッジ内部に収容された粉末材料の温度を適正に維持できる構成であれば種々の変更が可能である。
【0092】
また、上述した第1〜第3の実施形態では、粉末カートリッジは攪拌部を有する構成としたが、攪拌部は構成されていなくてもよい。また、粉末カートリッジ21において、容器20を振動させる振動機構や、容器本体31の内部を仕切り、排出口31aから排出する粉末材料の量を規制する規制部材等、その他各種の機構を設けてもよい。
【符号の説明】
【0093】
1,70,80,90…三次元積層造形装置、2,71…処理室、3…造形枠、3a…ピット、4…ステージ、4d…軸部、5…ステージ駆動機構、7…粉末供給ユニット、8…電子銃、9…カートリッジ格納庫、10…X方向駆動部、11…Y方向駆動部、12…交換窓、13…摺動部材、14…第1冷却装置、15…第2冷却装置、16…内部温度検出部、17…外部温度検出部、20…容器、21…粉末カートリッジ、22…保持機構、23…第1のガイド部、24…第2のガイド部、27…シャッター部、28…シャッター駆動部、29…攪拌部、30…制御部、31…容器本体、31a…排出口、32…断熱層、33…断熱冷却層、34…反射膜、36…回転翼、37…回転軸、40…接続部、41…第1冷却部、42…第2冷却部、43…接続部、44…回転駆動部、45…保持部、46…第1熱伝達部材、47…第2熱伝達部材、48…第1冷却機構、42…第2冷却機構、60…ベルト、70三次元積層造形装置、72…壁面断熱冷却層、73…壁面反射膜、74…エネルギービーム透過窓、75…熱線入射窓、76…温度検出窓、77…レーザ光源、78…熱線発生装置、79…温度検出装置、81…荷電粒子発生装置、82…開口部、91…圧力測定装置、92…ガス導入部、93…接続口、94…ガス管
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10