【文献】
C. YANG et al,Estimating contrast transfer function and associated parameters by constrained non-linear optimization,Journal of Microscopy,2009年 3月,vol.233, pt.3, pp.391-403
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0058】
以下、本発明の好適な実施形態について図面を用いて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また、以下で説明される構成の全てが本発明の必須構成要件であるとは限らない。
【0059】
1. 第1実施形態
1.1. 収差計算装置および電子顕微鏡
まず、第1実施形態に係る収差計算装置および電子顕微鏡について図面を参照しながら説明する。
図1は、第1実施形態に係る収差計算装置4を含む電子顕微鏡100の構成を模式的に示す図である。
【0060】
電子顕微鏡100は、
図1に示すように、電子顕微鏡本体2と、収差計算装置4と、を含む。
【0061】
電子顕微鏡100は、例えば、透過電子顕微鏡である。透過電子顕微鏡とは、試料Sを透過した電子で結像して、透過電子顕微鏡像を得る装置である。なお、透過電子顕微鏡像は、明視野像や、暗視野像、回折図形(diffraction pattern)などを含む。
【0062】
(1) 電子顕微鏡本体
まず、電子顕微鏡本体2について説明する。電子顕微鏡本体2は、電子線源10と、集束レンズ12と、対物レンズ14と、試料ステージ16と、中間レンズ18と、投影レンズ20と、撮像部22と、収差補正装置30と、収差補正装置制御部32と、を含む。
【0063】
電子線源10は、電子線EBを発生させる。電子線源10は、陰極から放出された電子を陽極で加速し電子線EBを放出する。電子線源10としては、例えば、電子銃を用いることができる。電子線源10として用いられる電子銃は特に限定されず、例えば熱電子放出型や、熱電界放出型、冷陰極電界放出型などの電子銃を用いることができる。
【0064】
集束レンズ12は、電子線源10の後段(電子線EBの下流側)に配置されている。集束レンズ12は、電子線源10で発生した電子線EBを集束して試料Sに照射するためのレンズである。集束レンズ12は、図示はしないが、複数のレンズを含んで構成されていてもよい。
【0065】
対物レンズ14は、集束レンズ12の後段に配置されている。対物レンズ14は、試料Sを透過した電子線EBで結像するための初段のレンズである。対物レンズ14は、図示はしないが、上部磁極(ポールピースの上極)、および下部磁極(ポールピースの下極)を有している。対物レンズ14では、上部磁極と下部磁極との間に磁場を発生させて電子線EBを集束させる。
【0066】
試料ステージ16は、試料Sを保持する。図示の例では、試料ステージ16は、試料ホルダー17を介して、試料Sを保持している。試料ステージ16は、例えば、対物レンズ14の上部磁極と下部磁極との間に試料Sを位置させる。試料ステージ16は、試料ホルダー17を移動および静止させることにより、試料Sの位置決めを行うことができる。試料ステージ16は、試料Sを水平方向(電子線EBの進行方向に対して直交する方向)や鉛直方向(電子線EBの進行方向に沿う方向)に移動させることができる。試料ステージ16は、さらに、試料Sを傾斜させることができる。
【0067】
試料ステージ16は、図示の例では、対物レンズ14のポールピース(図示せず)の横から試料Sを挿入するサイドエントリーステージである。なお、図示はしないが、試料ス
テージ16は、対物レンズ14のポールピースの上方から試料Sを挿入するトップエントリーステージであってもよい。
【0068】
中間レンズ18は、対物レンズ14の後段に配置されている。投影レンズ20は、中間レンズ18の後段に配置されている。中間レンズ18および投影レンズ20は、対物レンズ14によって結像された像をさらに拡大し、撮像部22に結像させる。電子顕微鏡100では、対物レンズ14、中間レンズ18、および投影レンズ20によって、結像レンズ系が構成されている。
【0069】
撮像部22は、結像レンズ系によって結像された透過電子顕微鏡像を撮像する。撮像部22は、例えば、CCDカメラ等のデジタルカメラである。撮像部22は、撮像した透過電子顕微鏡像の情報を収差計算装置4に出力する。
【0070】
収差補正装置30は、対物レンズ14の後段に配置されている。より具体的には、収差補正装置30は、対物レンズ14と中間レンズ18との間に配置されている。収差補正装置30は、対物レンズ14の収差を補正するための装置である。収差補正装置30は、所定の磁場を発生させることにより、対物レンズ14の球面収差やスター収差等の高次の収差を補正する。例えば、収差補正装置30は、負の球面収差を作り出し、対物レンズ14の正の球面収差を打ち消すことで対物レンズ14の球面収差を補正する。収差補正装置30は、収差補正装置制御部32によって制御される。
【0071】
収差補正装置制御部32は、収差計算装置4で求められたディフォーカス量および二回非点の情報に基づいて、収差補正装置30を制御する。例えば、収差補正装置制御部32は、複数のディフラクトグラムから得られたディフォーカス量および二回非点の情報から、ディフラクトグラムタブロー法等を用いて、高次の収差を補正するための制御信号を生成し、収差補正装置30に送る。収差補正装置30は、この制御信号を受けて、所定の磁場を発生させて高次の収差を補正する。
【0072】
電子顕微鏡本体2は、図示の例では、除振機24を介して架台26上に設置されている。
【0073】
(2)収差計算装置
次に、収差計算装置4について説明する。収差計算装置4は、電子顕微鏡本体2で撮像された透過電子顕微鏡像からディフラクトグラムを作成し、作成されたディフラクトグラムからディフォーカス量および二回非点を求める。ここで、ディフラクトグラムとは、アモルファス試料の高倍率像をフーリエ変換して得られた図形をいう。収差計算装置4は、処理部40と、操作部50と、表示部52と、記憶部54と、情報記憶媒体56と、を含む。
【0074】
操作部50は、ユーザーによる操作に応じた操作信号を取得し、処理部40に送る処理を行う。操作部50は、例えば、ボタン、キー、タッチパネル型ディスプレイ、マイクなどである。
【0075】
表示部52は、処理部40によって生成された画像を表示するものであり、その機能は、LCD、CRTなどにより実現できる。表示部52は、例えば、処理部40で作成されたディフラクトグラムを表示することができる。また、表示部52は、例えば、処理部40で求められたディフォーカス量や二回非点の情報を表示することができる。
【0076】
記憶部54は、処理部40のワーク領域となるもので、その機能はRAMなどにより実現できる。記憶部54は、処理部40が各種の計算処理や制御処理を行うためのプログラ
ムやデータ等を記憶している。また、記憶部54は、処理部40の作業領域として用いられ、処理部40が各種プログラムに従って実行した算出結果等を一時的に記憶するためにも使用される。
【0077】
情報記憶媒体56(コンピューターにより読み取り可能な媒体)は、プログラムやデータなどを格納するものであり、その機能は、光ディスク(CD、DVD)、光磁気ディスク(MO)、磁気ディスク、ハードディスク、磁気テープ、或いはメモリ(ROM)などにより実現できる。処理部40は、情報記憶媒体56に格納されるプログラム(データ)に基づいて本実施形態の種々の処理を行う。情報記憶媒体56には、処理部40の各部としてコンピューターを機能させるためのプログラムを記憶することができる。
【0078】
処理部40は、記憶部54に記憶されているプログラムに従って、各種の計算処理を行う。処理部40は、記憶部54に記憶されているプログラムを実行することで、以下に説明する、ディフラクトグラム作成部42、画像処理部44、ラインプロファイル取得部46、フィッティング部48、演算部49として機能する。処理部40の機能は、各種プロセッサ(CPU、DSP等)、ASIC(ゲートアレイ等)などのハードウェアや、プログラムにより実現できる。なお、処理部40の少なくとも一部をハードウェア(専用回路)で実現してもよい。処理部40は、ディフラクトグラム作成部42と、画像処理部44と、ラインプロファイル取得部46と、フィッティング部48と、演算部49と、を含む。
【0079】
ディフラクトグラム作成部42は、電子顕微鏡本体2で撮像された試料Sの透過電子顕微鏡像(明視野像)をフーリエ変換して、ディフラクトグラムを作成する。ここで、試料Sはアモルファス試料であるものとする。試料Sの透過電子顕微鏡像の情報は、撮像部22から収差計算装置4(ディフラクトグラム作成部42)に出力される。
図2は、ディフラクトグラム作成部42で作成されたディフラクトグラムの一例を示す図である。
図2に示すように、ディフラクトグラムには、ディフラクトグラムの中心を中心とする同心円状のリング(ディフラクトグラムの明暗(強度の大小)によって作られる環状の模様)が見られる。
【0080】
画像処理部44は、ディフラクトグラム作成部42で作成されたディフラクトグラムに対して、円周方向にフィルター(ローパスフィルター)をかける処理を行う。これにより、ディフラクトグラムのSN比を向上させることができる。ここで、円周方向とは、円周に沿った方向をいう。以下、画像処理部44の処理について詳細に説明する。
【0081】
画像処理部44は、ディフラクトグラム作成部42で作成されたディフラクトグラム(直交座標系)を、極座標に変換する。
図3は、極座標に変換されたディフラクトグラムの一例を示す図である。
図3に示す極座標に変換されたディフラクトグラムでは、横軸が方位角(偏角)θに対応し、縦軸がディフラクトグラムの中心からの距離rに対応する。
図2に示す直交座標表示のディフラクトグラムの円状のリングは、
図3に示す極座標表示のディフラクトグラムでは、横軸に沿って直線状に伸びた帯状のラインとなる。そのため、直交座標表示のディフラクトグラムの同心円状のリングは、極座標表示のディフラクトグラムでは、当該帯状のラインが縦軸に沿って並んだ状態となる。
【0082】
画像処理部44は、極座標に変換されたディフラクトグラムに、横軸方向に伸びた異方的なフィルター関数をコンボリューションする。
図4は、横軸方向に伸びた異方的なフィルター関数の一例を示す図である。極座標に変換されたディフラクトグラムに、
図4に示すような横軸方向に伸びた異方的なフィルター関数をコンボリューションすることで、極座標に変換されたディフラクトグラムに対して横軸方向にローパスフィルターをかけることができる。
図5は、横軸方向にフィルターがかけられた極座標表示のディフラクトグラ
ムの一例を示す図である。極座標表示のディフラクトグラムに対して横軸方向にフィルターをかけることは、直交座標表示のディフラクトグラムに対して円周方向にフィルターをかけることに対応する。
【0083】
画像処理部44は、横軸方向にフィルターがかけられた極座標表示のディフラクトグラムを、もとの表示(直交座標表示)に戻す処理を行う。
図6は、横軸方向にフィルターがかけられた極座標表示のディフラクトグラムを、直交座標表示に変換したディフラクトグラムの一例を示す図である。
図6に示すように、上記の画像処理部44の処理によってディフラクトグラムに対して、円周方向にフィルターをかけることができる。
【0084】
ラインプロファイル取得部46は、画像処理部44で円周方向にフィルターがかけられたディフラクトグラムの動径方向のラインプロファイルを取得する。
図7は、ディフラクトグラムの中心から動径方向に延出するラインL1,L2,L3を示す図である。ラインプロファイル取得部46は、
図7に示すように、ディフラクトグラムの中心から動径方向に延出するラインL1,L2,L3を引き、ラインL1,L2,L3上のプロファイル(強度プロファイル、動径方向の位置とその位置での強度の情報)を取得する。すなわち、ラインプロファイル取得部46は、互いに方位角(偏角)θが異なる複数のラインL1,L2,L3上のプロファイル(ラインプロファイル)を取得する。
【0085】
なお、ここでは、ラインプロファイル取得部46が互いに方位角が異なる3つのラインプロファイル(ラインL1,L2,L3)を取得する場合について説明したが、ラインプロファイル取得部46は互いに方位角が異なる3つ以上のラインプロファイルを取得してもよい。
【0086】
また、直交座標表示のディフラクトグラムにおいて、中心から動径方向に延出するライン上のプロファイルを取得することは、極座標表示のディフラクトグラムにおいて、縦軸に平行な線上のプロファイルを取得することに等しい。そのため、ラインプロファイル取得部46は、極座標表示のディフラクトグラムに、縦軸に平行なラインを引き、当該ライン上のプロファイルを取ってもよい。
【0087】
フィッティング部48は、ラインプロファイル取得部46で取得されたディフラクトグラムの動径方向のラインプロファイルをフィッティングして、フィッティング関数のフィッティングパラメーターを求める。
図8は、ディフラクトグラムの動径方向のラインプロファイルE、およびフィッティング関数Fの一例を示すグラフである。なお、
図8に示すグラフの横軸は位置であり縦軸は強度である。また、
図8に示すラインプロファイルEおよびフィッティング関数Fにおいて、実線部分はフィッティングに用いられた部分であり、破線部分はフィッティングに用いられなかった部分である。
【0088】
フィッティング部48は、ラインプロファイルを非線形最小二乗法でフィッティングする。フィッティング関数としては、コントラスト伝達関数(contrast transfer function)を含む関数を用いる。
【0089】
ここで、コントラスト伝達関数について説明する。コントラスト伝達関数は、試料が持つ各周波数成分がそれぞれどのような重みで像に寄与するのかを表したものである。試料が弱位相物体近似で表される場合、ディフォーカスおよび球面収差に依存したsin型の関数で表される。また、空間干渉性や時間干渉性の欠如により高周波情報が欠落する様子は、エンベローブ関数として表され、sin型の関数に掛け合わされる。電子顕微鏡のレンズ等が像のコントラストに及ぼす影響は、このコントラスト伝達関数によって表される。
【0090】
具体的には、フィッティング関数は、例えば、下記式(1)で表される。
【0092】
なお、A,B,C,D,dfはフィッティングパラメーター、πは円周率、λは電子線の波長、xは位置を表している。式(1)に示すようにフィッティング関数は、例えば、コントラスト伝達関数と、バックグラウンドに対応する項と、を含む。
【0093】
なお、フィッティング関数は、式(1)に限定されない。例えば、フィッティング関数として以下の式を用いることができる。
【0095】
なお、A,B,C,D,E,F,dfは、フィッティングパラメーターである。
【0096】
フィッティング部48は、ラインプロファイルEをフィッティングして、フィッティング関数のフィッティングパラメーターdfを求める。フィッティングパラメーターdfは、演算部49において、ディフォーカスおよび二回非点を求めるために利用される。
【0097】
ここで、
図8に示すラインプロファイルEにおいて、プロファイルの山になっている領域は、試料の散乱情報などの多数の不確定要素が含まれているため、正しい関数でフィッティングすることは困難である。そのため、フィッティング部48は、ラインプロファイルEの谷の領域を中心にフィッティングする。具体的には、フィッティング部48は、例えば、ディフラクトグラムの強度値に反比例またはディフラクトグラムの強度値の二乗に反比例する重みを付けて最小二乗法でフィッティングする。これにより、ラインプロファイルEの谷の領域を中心にフィッティングすることができる。なお、ラインプロファイルEの谷の領域を中心にフィッティングすることができれば、重み付け最小二乗法の重みは上記した強度値に反比例または強度値の二乗に反比例する重みに限定されない。
図8に示すラインプロファイルEにおいて、ラインプロファイルEの谷の領域とは、極小値を持つ位置とその近傍を含む領域であり、ラインプロファイルEの山の領域とは、極大値を持つ位置とその近傍を含む領域である。
【0098】
なお、フィッティング部48は、フィッティングを行う前に、ラインプロファイルから、バックグラウンドを差し引く処理を行ってもよい。
【0099】
フィッティング部48は、上述した手順で、互いに方位角が異なる複数のラインL1,L2,L3上のプロファイル(ラインプロファイル)の各々について、フィッティングパラメーターdfを求める。図示の例では、フィッティング部48は、互いに方位角が異なる3つのラインL1,L2,L3の各々についてフィッティングパラメーターdfを求め
るため、3つのフィッティングパラメーターdfが求められる。
【0100】
演算部49は、フィッティング部48で求められた複数のフィッティングパラメーターdfに基づいて、ディフォーカス量および二回非点を求める。
【0101】
ここで、方位角θでのフィッティングパラメーターdf
θと、ディフォーカス量O2および二回非点A2amp(強度),A2azm(方位角)は、下記式(2)の関係で表される。
【0103】
演算部49は、フィッティング部48で求められた複数のフィッティングパラメーターdf
θ(3つのフィッティングパラメーターdf)から、式(2)を用いて、ディフォーカス量O2および二回非点A2amp,A2azmを求める。
【0104】
処理部40は、演算部49で求められたディフォーカス量O2および二回非点A2amp,A2azmの情報を、収差補正装置制御部32に送る処理を行う。また、処理部40は、演算部49で求められたディフォーカス量O2および二回非点A2amp,A2azmの情報を、表示部52に表示させる処理を行ってもよい。
【0105】
なお、収差計算装置4は、画像処理部44を有していなくてもよい。すなわち、ラインプロファイル取得部46は、ディフラクトグラム作成部42で生成されたディフラクトグラムから、直接、ラインプロファイルを取得してもよい。
【0106】
収差計算装置4および電子顕微鏡100は、例えば、以下の特徴を有する。
【0107】
収差計算装置4では、フィッティング部48はディフラクトグラムの動径方向のラインプロファイルをフィッティングしてフィッティング関数のフィッティングパラメーターを求め、演算部49は当該フィッティングパラメーターに基づいて、ディフォーカス量および二回非点の少なくとも一方を求める。そのため、収差計算装置4では、例えば、高次元の計算を行うことなく、ディフォーカス量および二回非点を求めることができる。したがって、収差計算装置4では、例えばディフォーカス量および二回非点を求めるために高次元の計算を行う場合と比べて、計算量を少なくすることができ、ディフォーカス量および二回非点を求めるための計算の高速化を図ることができる。
【0108】
収差計算装置4では、フィッティング部48は、ラインプロファイルの谷の領域を中心にフィッティングする。ディフォーカスおよび二回非点の計測に利用するフィッティングパラメーターdfは、主にラインプロファイルの谷の領域でのプロファイルに依存する。そのため、収差計算装置4では、プロファイルの谷の領域を中心にフィッティングすることで、フィッティングパラメーターdfを精度よく求めることができる。したがって、収差計算装置4では、ディフォーカス量および二回非点を精度よく求めることができる。
【0109】
収差計算装置4では、フィッティング部48は、ディフラクトグラムの強度値に反比例または強度値の二乗に反比例する重みを付けて最小二乗法でフィッティングする。これにより、ディフラクトグラムの谷の領域を中心にフィッティングすることができ、フィッティングパラメーターdfを精度よく求めることができる。
【0110】
収差計算装置4では、フィッティング部48は、互いに方位角の異なる複数のラインプ
ロファイルの各々についてフィッティングパラメーターを求め、演算部49は、フィッティング部48で求められた複数のフィッティングパラメーターに基づいて、ディフォーカス量および二回非点の少なくとも一方を求める。そのため、収差計算装置4では、ディフォーカス量および二回非点を、より精度よく求めることができる。
【0111】
収差計算装置4では、画像処理部44は、ディフラクトグラムに対して円周方向にフィルターをかける。例えば、ディフラクトグラムのSN比を上げるために、ディフラクトグラムに対して等方的なフィルター(例えば等方的なローパスフィルター)をかけた場合、ディフラクトグラムの同心円状のリングがぼけてしまう場合がある。リングがぼけることにより、例えば、リングの位置が動径方向にずれてしまい、ディフラクトグラムの中心から動径方向にラインプロファイルをとった場合に、プロファイルが変わってしまう。
【0112】
これに対して、収差計算装置4では、ディフラクトグラムに対して円周方向にフィルターをかけるため、例えばディフラクトグラムに対して等方的なフィルターをかける場合と比べて、リングの位置が動径方向にずれることを抑制することができる。さらに、例えばディフラクトグラムに対して等方的なフィルターをかける場合、リングがぼかされてコントラストが下がってしまう場合がある。これに対して、ディフラクトグラムに対して周方向にフィルターをかける場合、強度が同程度の領域同士でぼかすため、高いコントラストを維持することができる。したがって、収差計算装置4では、リングの位置が動径方向にずれることを抑制しつつ、ディフラクトグラムのSN比を向上させることができる。したがって、収差計算装置4では、ディフォーカス量および二回非点を精度よく求めることができる。
【0113】
収差計算装置4では、画像処理部44は、ディフラクトグラムを極座標に変換し、極座標に変換されたディフラクトグラムに異方的なフィルター関数をコンボリューションする。これにより、ディフラクトグラムに対して円周方向にフィルターをかけることができ、例えばディフラクトグラムに対して等方的なフィルターをかける場合と比べて、リングの位置が動径方向にずれることを抑制することができる。
【0114】
上記のように、収差計算装置4は、ディフォーカス量および二回非点を求めるための計算の高速化、高精度化を図ることができるため、装置の安定度を判断するための指標の1つとして、ディフォーカス量や二回非点の経時変化を測定することができる。また、収差計算装置4では、ディフォーカス量および二回非点を求めるための計算の高速化、高精度化を図ることができるため、例えば、ディフラクトグラムタブロー法による高次収差計測の高速化、高精度化を図ることができる。
【0115】
電子顕微鏡100では、収差計算装置4を含むため、ディフォーカス量および二回非点を求めるための計算の高速化、高精度化を図ることができる。したがって、電子顕微鏡100では、例えば、収差補正の高速化、高精度化を図ることができる。
【0116】
1.2. 収差計算方法
次に、第1実施形態に係る収差計算装置4を用いた収差計算方法について図面を参照しながら説明する。
図9は、第1実施形態に係る収差計算装置4を用いた収差計算方法の一例を示すフローチャートである。
【0117】
まず、収差計算装置4は、電子顕微鏡本体2で撮像されたアモルファス試料Sの透過電子顕微鏡像を取得する(ステップS100)。具体的には、収差計算装置4は、撮像部22から出力された出力信号(透過電子顕微鏡像の情報)を受けて透過電子顕微鏡像を取得する。透過電子顕微鏡像の情報は、例えば、記憶部54に記憶される。
【0118】
次に、ディフラクトグラム作成部42は、アモルファス試料Sの透過電子顕微鏡像をフーリエ変換してディフラクトグラム(
図2参照)を作成する(ステップS102)。
【0119】
次に、画像処理部44は、ディフラクトグラム作成部42で作成されたディフラクトグラムに対して円周方向にフィルターをかける処理を行う(ステップS104,S106)。
【0120】
具体的には、画像処理部44は、まず、ディフラクトグラム(直交座標系)を極座標に変換する(
図3参照、ステップS104)。
【0121】
次に、画像処理部44は、極座標に変換されたディフラクトグラムに、
図4で示す横軸方向に伸びた異方的なフィルター関数をコンボリューションする(ステップS106)。これにより、極座標表示のディフラクトグラムに対して横軸方向にフィルターをかけることができる(
図5参照)。次に、画像処理部44は、横軸方向にフィルターがかけられた極座標表示のディフラクトグラムを、直交座標表示のディフラクトグラムに戻す処理を行う(
図6参照)。
【0122】
次に、ラインプロファイル取得部46は、ディフラクトグラムの動径方向のラインプロファイルを取得する(ステップS108)。ラインプロファイル取得部46は、互いに方位角θが異なる複数(3つ)のラインプロファイル(ラインL1上のプロファイル、ラインL2上のプロファイル、ラインL3上のプロファイル、
図7参照)を取得する。
【0123】
次に、フィッティング部48は、ラインプロファイル取得部46で取得されたラインプロファイルをフィッティングして、フィッティング関数のフィッティングパラメーターdfを求める(ステップS110)。フィッティング部48は、複数のラインプロファイルの各々について、フィッティングパラメーターdfを求める。なお、フィッティング関数は、コントラスト伝達関数を含む関数である。フィッティング部48は、例えば、ディフラクトグラムの強度値に反比例(または強度値の二乗に反比例)する重みを付けた最小二乗法でフィッティングする。
【0124】
次に、演算部49は、フィッティング部48で求められた複数(3つ)のフィッティングパラメーターdfに基づいて、ディフォーカス量および二回非点を求める(ステップS112)。演算部49は、式(2)を用いて、フィッティング部48で求められた複数のフィッティングパラメーターdfからディフォーカス量および二回非点を算出する。
【0125】
以上の処理により、ディフォーカス量および二回非点を求めることができる。
【0126】
収差計算装置4を用いた収差計算方法は、例えば、以下の特徴を有する。
【0127】
収差計算装置4を用いた収差計算方法では、ディフラクトグラムの動径方向のラインプロファイルをフィッティングしてフィッティング関数のフィッティングパラメーターを求める工程(フィッティング工程)と、当該フィッティングパラメーターに基づいて、ディフォーカス量および二回非点の少なくとも一方を求める工程(演算工程)と、を含む。したがって、例えばディフォーカス量および二回非点を求めるために高次元の計算を行う場合と比べて、計算量を少なくすることができ、ディフォーカス量および二回非点を求めるための計算の高速化を図ることができる。
【0128】
収差計算装置4を用いた収差計算方法では、フィッティング工程において、ラインプロファイルの谷の領域を中心にフィッティングする。そのため、ディフォーカス量および二回非点の計測に必要なフィッティングパラメーターdfを精度よく求めることができ、デ
ィフォーカス量および二回非点を精度よく求めることができる。
【0129】
収差計算装置4を用いた収差計算方法では、フィッティング工程において、ディフラクトグラムの強度値に反比例または強度値の二乗に反比例する重みを付けて最小二乗法でフィッティングする。これにより、ディフラクトグラムの谷の領域を中心にフィッティングすることができ、フィッティングパラメーターdfを精度よく求めることができる。
【0130】
収差計算装置4を用いた収差計算方法では、フィッティング工程において、互いに方位角の異なる複数のラインプロファイルの各々についてフィッティングパラメーターdfを求め、演算工程では、フィッティング工程で求められた複数のフィッティングパラメーターdfに基づいて、ディフォーカス量および二回非点の少なくとも一方を求める。そのため、ディフォーカス量および二回非点を、より精度よく求めることができる。
【0131】
収差計算装置4を用いた収差計算方法では、画像処理工程において、ディフラクトグラムに対して円周方向にフィルターをかける。そのため、例えばディフラクトグラムに対して等方的なフィルターをかける場合と比べてリングの位置が動径方向にずれることを抑制しつつ、ディフラクトグラムのSN比を向上させることができる。
【0132】
収差計算装置4を用いた収差計算方法では、画像処理工程において、ディフラクトグラムを極座標に変換し、極座標に変換されたディフラクトグラムに異方的なフィルター関数をコンボリューションする。これにより、ディフラクトグラムに対して円周方向にフィルターをかけることができ、例えばディフラクトグラムに対して等方的なフィルターをかける場合と比べて、リングの位置が動径方向にずれることを抑制することができる。
【0133】
1.3. 収差計算装置の変形例
次に、第1実施形態に係る収差計算装置の変形例について説明する。本変形例に係る収差計算装置の構成は、上述した
図1に示す第1実施形態に係る収差計算装置4と同様である。以下では、第1実施形態に係る収差計算装置4との相違点について説明する。
【0134】
上述した第1実施形態に係る収差計算装置4では、画像処理部44は、ディフラクトグラムを極座標に変換し、極座標に変換されたディフラクトグラムに異方的なフィルター関数をコンボリューションすることで、ディフラクトグラムに対して円周方向にフィルターをかけていた。
【0135】
これに対して、本変形例に係る収差計算装置4では、画像処理部44は、ディフラクトグラムの二回非点を求め、当該二回非点でディフラクトグラムを規格化して極座標に変換する。画像処理部44は、例えば、ディフラクトグラムの二回非点を求め、当該二回非点でディフラクトグラムを規格化した後に、ディフラクトグラムを極座標に変換し、極座標に変換されたディフラクトグラムに異方的なフィルター関数をコンボリューションすることで、ディフラクトグラムに対して周方向にフィルターをかけることができる。
【0136】
ここで、ディフラクトグラムに対して周方向にフィルターをかけるとは、ディフラクトグラムのリングの形状に沿ってフィルターをかけることをいう。したがって、例えば、画像処理部44は、リングが円状(同心円状)のディフラクトグラムの場合には、円周方向(円周に沿った方向)にフィルターをかけ、リングが楕円状(同心楕円状)のディフラクトグラムの場合には、楕円の周方向(楕円に沿った方向)にフィルターをかけることができる。なお、同心楕円とは、中心を共有する2つ以上の楕円をいう。
【0137】
以下、本変形例に係る画像処理部44の処理について詳細に説明する。
図10は、リングが同心楕円状のディフラクトグラムの一例を示す図である。
図11は、リングが同心楕
円状のディフラクトグラムを極座標に変換したものの一例を示す図である。
【0138】
二回非点が存在する場合、ディフラクトグラムは、
図10に示すように、リングが同心楕円を描く。そのため、リングが同心楕円状のディフラクトグラムを極座標に変換すると、
図11に示すように、帯状のラインが横軸に沿って直線状に伸びずに、波打つような状態となる。そのため、リングが同心楕円状のディフラクトグラムを極座標に変換し異方的なフィルター関数(例えば
図4に示すフィルター関数)をコンボリューションすると、二回非点成分に円筒対称収差成分が加わり、動径方向のプロファイルが変化して計測精度が下がる場合がある。
【0139】
これに対して、本変形例に係る画像処理部44では、ディフラクトグラムの二回非点を求め、当該二回非点でディフラクトグラムを規格化して極座標変換する処理を行う。これにより、リングが同心楕円状のディフラクトグラムを、リングが同心円状のディフラクトグラムとすることができる。画像処理部44は、この二回非点で規格化されたディフラクトグラムを極座標に変換することで、
図12に示すように、帯状のラインが波を打たずに横軸に沿って直線状に伸びた状態にすることができる。したがって、画像処理部44では、極座標に変換し異方的なフィルター関数をコンボリューションしても、二回非点成分に円筒対称収差成分が加わり動径方向のプロファイルが変化して計測精度が下がることを防ぐことができる。以下、画像処理部44の処理についてより詳細に説明する。
【0140】
画像処理部44は、ディフラクトグラム作成部42で作成されたリングが同心楕円状のディフラクトグラムに対して、等方的なフィルター関数をコンボリューションする。これにより、ディフラクトグラムのSN比を向上させることができる。
【0141】
画像処理部44は、等方的なフィルター関数をコンボリューションされたディフラクトグラムのラインプロファイルを取得し、ファーストゼロを求める。ラインプロファイルは、ディフラクトグラムの中心から動径方向に延出するラインを引き、当該ライン上のプロファイルをとることにより取得することができる。なお、ファーストゼロとは、コントラスト伝達関数が、最初にゼロの軸と交わる波数をいう。
図8に示す例では、プロファイルの最初の谷(極小値)の波数がファーストゼロの波数である。
【0142】
画像処理部44は、求めたファーストゼロの波数からディフォーカスおよび二回非点を求め、リングが同心楕円状のディフラクトグラムに対して、二回非点による真円からの変化分を規格化する。言い換えると、画像処理部44は、ディフラクトグラムの動径方向を二回非点で規格化する。すなわち、画像処理部44は、リングが同心楕円状のディフラクトグラムに対して、リングが同心円状となるように二回非点を用いて規格化する。これにより、ディフラクトグラムの同心楕円状のリングを、同心円状とすることができる。
【0143】
画像処理部44は、規格化されたディフラクトグラムを極座標に変換し、極座標に変換されたディフラクトグラムに異方的なフィルター関数(例えば
図4に示すフィルター関数)をコンボリューションする。そして、画像処理部44は、フィルターがかけられた極座標表示のディフラクトグラムを、直交座標表示に戻す処理を行う。以上の処理により、リングが同心楕円状のディフラクトグラムに対して、楕円に沿った方向にフィルターをかけることができる。
【0144】
なお、画像処理部44は、二回非点でのディフラクトグラムの規格化と、極座標への変換を同時に行ってもよい。これにより、上述のように、二回非点でのディフラクトグラムの規格化と極座標への変換を別々に行う場合と比べて、計算を効率よく行うことができる。
【0145】
本変形例に係る収差計算装置4の演算部49では、画像処理部44における規格化でリングを伸縮させた分を考慮して、フィッティングパラメーターdfを求める。
【0146】
本変形例では、画像処理部44は、ディフラクトグラムの二回非点を求め、当該二回非点でディフラクトグラムを規格化して極座標変換する。そのため、例えば、リングが同心楕円状のディフラクトグラムであっても、リングの周方向にフィルターをかけることができ、ディフラクトグラムのSN比を効率よく向上させることができる。
【0147】
図13は、リングが同心楕円状のディフラクトグラムの一例を示す図である。
図14は、同心楕円状のリングの周方向にフィルターがかけられたディフラクトグラムの一例を示す図である。
図15は、等方的なフィルターがかけられたディフラクトグラムの一例を示す図である。
【0148】
本変形例では、上述のように画像処理部44によって、
図13に示すようなリングが同心楕円状のディフラクトグラムに対して、
図14に示すように、楕円に沿った方向にフィルターをかけることができる。
【0149】
また、
図14に示す楕円に沿った方向にフィルターをかけたディフラクトグラムは、
図15に示す等方的なローパスフィルターをかけたディフラクトグラムと比べて、動径方向においてリングのぼけが小さい。そのため、
図14に示す楕円に沿った方向にフィルターをかけたディフラクトグラムは、
図15に示す等方的なローパスフィルターをかけたディフラクトグラムと比べて、リングの位置が動径方向にずれることを抑制することができる。
【0150】
次に、本変形例に係る収差計算装置を用いた収差計算方法について、図面を参照しながら説明する。
図16は、本変形例に係る収差計算装置を用いた収差計算方法の一例を示すフローチャートである。以下、
図16に示すフローチャートにおいて、
図9に示すフローチャートのステップと同様の処理を行うステップについては、同じ符号を付してその説明を省略する。
【0151】
ディフラクトグラム作成部42でリングが同心楕円状のディフラクトグラムが作成された後(ステップS102の後)に、画像処理部44は、当該ディフラクトグラムに等方的なフィルター関数をコンボリューションする(ステップS200)。
【0152】
次に、画像処理部44は、等方的なフィルター関数がコンボリューションされたディフラクトグラムのラインプロファイルを取得する(ステップS202)。
【0153】
次に、画像処理部44は、ラインプロファイルからファーストゼロの値を求め、ディフォーカス量および二回非点を求める(ステップS204)。
【0154】
次に、画像処理部44は、リングが同心楕円状のディフラクトグラムを求めた二回非点で規格化して、ディフラクトグラムのリングを同心円状にする(ステップS206)。
【0155】
以降のステップS104、S106、S108、S110、S112は、上述した
図9と同様であるが、ステップS110では、演算部49は、画像処理部44における規格化でリングが伸縮した分を考慮して、フィッティングパラメーターdfを求める。
【0156】
以上の処理により、ディフォーカス量および二回非点を求めることができる。
【0157】
なお、画像処理部44は、二回非点でのディフラクトグラムの規格化(ステップS20
6)と、極座標への変換(ステップS104)を同時に行ってもよい。
【0158】
本変形例では、画像処理工程において、ディフラクトグラムの二回非点を求め、当該二回非点で前記ディフラクトグラムを規格化して極座標変換する。そのため、例えば、リングが同心楕円状のディフラクトグラムであっても、リングの周方向にフィルターをかけることができ、ディフラクトグラムのSN比を効率よく向上させることができる。
【0159】
2. 第2実施形態
次に、第2実施形態に係る電子顕微鏡について、図面を参照しながら説明する。
図17は、第2実施形態に係る電子顕微鏡200の構成を模式的に示す図である。以下、第2実施形態に係る電子顕微鏡200において、上述した第1実施形態に係る電子顕微鏡100の構成部材と同様の機能を有する部材については同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0160】
上述した電子顕微鏡100は、
図1に示すように、収差補正装置30および収差補正装置制御部32を備えており、収差補正装置制御部32は、収差計算装置4で求められたディフォーカス量および二回非点に基づいて収差補正装置30を制御して、高次の収差(例えば球面収差)を補正していた。
【0161】
これに対して、電子顕微鏡200では、
図17に示すように、非点補正装置210および非点補正装置制御部212を備えており、非点補正装置制御部212は、収差計算装置4で求められた二回非点に基づいて非点補正装置210を制御し、二回非点を補正する。
【0162】
非点補正装置210は、対物レンズ14の後段に配置されている。より具体的には、非点補正装置210は、対物レンズ14と中間レンズ18との間に配置されている。非点補正装置210は、例えば、光軸に対して対称に置かれた4個の電磁コイルからなる四極子を有し、直行する2方向の焦点距離を変えることにより対物レンズ14の二回非点を補正する。
【0163】
非点補正装置制御部212は、収差計算装置4から出力された出力信号(二回非点の情報)を受け付け、二回非点の情報から二回非点を打ち消すための制御信号を生成する。非点補正装置制御部212は、生成した制御信号を非点補正装置210に出力する。
【0164】
なお、収差計算装置4は、求めたディフォーカス量の情報を対物レンズ制御部(図示せず)に出力し、対物レンズ制御部はこのディフォーカス量の情報に基づいて対物レンズ14を制御してディフォーカス量を調整してもよい。また、収差計算装置4は、求めたディフォーカス量の情報を試料ステージ16に出力し、試料ステージ16は、このディフォーカス量の情報に基づいて試料Sの高さを変えてディフォーカス量を調整してもよい。
【0165】
電子顕微鏡200では、収差計算装置4を含むため、ディフォーカス量および二回非点を求めるための計算の高速化、高精度化を図ることができる。したがって、電子顕微鏡200では、例えば、非点補正の高速化、高精度化を図ることができる。
【0166】
3. 第3実施形態
3.1. 画像処理装置および電子顕微鏡
次に、第3実施形態に係る画像処理装置および電子顕微鏡について、図面を参照しながら説明する。
図18は、第3実施形態に係る画像処理装置6を含む電子顕微鏡300の構成を模式的に示す図である。以下、第3実施形態に係る電子顕微鏡300において、上述した第1実施形態に係る電子顕微鏡100の構成部材と同様の機能を有する部材については同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0167】
電子顕微鏡300は、
図18に示すように、電子顕微鏡本体2と、画像処理装置6と、を含む。
【0168】
画像処理装置6の処理部40は、記憶部54に記憶されているプログラムを実行することで、ディフラクトグラム作成部42、画像処理部344、として機能する。処理部40は、ディフラクトグラム作成部42と、画像処理部344と、を含む。
【0169】
ここで、第1実施形態に係る収差計算装置4では、画像処理部44は、ディフラクトグラム作成部42で生成されたディフラクトグラムに対して、円周方向にフィルターをかけていた。
【0170】
これに対して、第3実施形態に係る画像処理装置6では、画像処理部344は、ディフラクトグラムに加えて、さらに回折図形に対して、円周方向にフィルターをかけることができる。
【0171】
画像処理部344は、電子顕微鏡本体2で撮像された回折図形に対して、円周方向にフィルターをかける。回折図形の情報は、電子顕微鏡本体2の撮像部22から出力され、画像処理部44は、この回折図形の情報を受けて、当該回折図形に対して円周方向にフィルターをかける処理を行う。具体的には、画像処理部44は、回折図形を極座標に変換し、極座標に変換された回折図形に異方的なフィルター関数をコンボリューションする。これにより、回折図形に対して円周方向のフィルターをかけることができる。
【0172】
図19は、回折図形の一例を示す図である。画像処理部344によって、
図19に示すようなデバイ・シェラー リング(Debye−Scherrer ring)や、ハローリング(halo ring)に対して、円周方向にフィルターをかけることで、リングの位置が動径方向にずれることを抑制しつつ、SN比を向上させることができる。
【0173】
なお、デバイ・シェラー リングとは、多結晶試料に電子線を照射して得られる、ブラック反射による物質に固有の環状の回折図形である。また、ハローリングとは、非晶質試料に電子線を照射して得られる、非晶質試料の等方的であり周期性がない原子配列を反映したぼけた環状の回折図形である。
【0174】
画像処理部344は、例えば、円周方向にフィルターがかけられたディフラクトグラムや、円周方向にフィルターがかけられた回折図形を、表示部52に表示させる制御を行う。
【0175】
画像処理装置6は、例えば、以下の特徴を有する。
【0176】
画像処理装置6では、画像処理部344は、ディフラクトグラムまたは回折図形に対して円周方向にフィルターをかける。そのため、例えばディフラクトグラムに対して等方的なフィルターをかける場合と比べて、リング(例えばディフラクトグラムにおける同心円状のリングや、デバイ・シェラー リング、ハローリング等)の位置が動径方向にずれることを抑制することができる。さらに、例えばディフラクトグラムまたは回折図形に対して等方的なフィルターをかける場合、リングがぼかされてコントラストが下がってしまう場合がある。これに対して、ディフラクトグラムまたは回折図形に対して周方向にフィルターをかける場合、強度が同程度の領域同士でぼかすため、高いコントラストを維持することができる。したがって、画像処理装置6では、例えばディフラクトグラムに対して等方的なフィルターをかける場合と比べてリングの位置が動径方向にずれることを抑制しつつ、ディフラクトグラムのSN比を向上させることができる。
【0177】
画像処理装置6では、画像処理部44は、ディフラクトグラムまたは回折図形を極座標に変換し、極座標に変換されたディフラクトグラムまたは回折図形に異方的なフィルター関数をコンボリューションする。これにより、ディフラクトグラムまたは回折図形に対して円周方向にフィルターをかけることができる。
【0178】
なお、第1実施形態に係る収差計算装置4の構成部材について適用される変形例は、第3実施形態に係る画像処理装置6についても同様に適用される。
【0179】
例えば、リングが同心楕円状のディフラクトグラムに対して、画像処理部344は、ディフラクトグラムの二回非点を求め、当該二回非点でディフラクトグラムを規格化して極座標に変換する処理を行ってもよい。なお、画像処理部344は、極座標に変換されたディフラクトグラムを、もとの表示に戻す際に、二回非点成分を反映させる。以上の処理により、リングが同心楕円状のディフラクトグラムに対して、楕円に沿った方向にフィルターをかけることができる。
【0180】
画像処理装置6では、画像処理部344は、ディフラクトグラムの二回非点を求め、当該二回非点でディフラクトグラムを規格化して極座標に変換する。そのため、例えば、リングが同心楕円状のディフラクトグラムであっても、リングの周方向にフィルターをかけることができ、ディフラクトグラムのSN比を効率よく向上させることができる。
【0181】
3.2. 画像処理方法
次に、第3実施形態に係る画像処理装置6を用いた画像処理方法について図面を参照しながら説明する。
図20は、第3実施形態に係る画像処理装置6を用いた画像処理方法の一例を示すフローチャートである。ここでは、第3実施形態に係る画像処理装置6を用いた画像処理方法の一例としてディフラクトグラムに対して、円周方向にフィルターをかける例について説明する。
【0182】
画像処理装置6を用いた画像処理方法は、電子顕微鏡本体2で撮像されたアモルファス試料Sの透過電子顕微鏡像を取得する工程(ステップS100)と、ディフラクトグラム作成部42が取得したアモルファス試料Sの透過電子顕微鏡像をフーリエ変換してディフラクトグラムを作成する工程(ステップS102)と、画像処理部44が、ディフラクトグラムを極座標に変換する(ステップS104)と、画像処理部44が、極座標に変換されたディフラクトグラムに異方的なフィルター関数をコンボリューションする工程(ステップS106)と、を含む。
【0183】
なお、画像処理装置6を用いた画像処理方法における各ステップS100、S102,S104,S106は、
図9に示す収差計算装置4を用いた収差計算方法のステップS100、S102,S104,S106と同様であり、その説明を省略する。
【0184】
また、画像処理装置6を用いた画像処理方法において回折図形に対して円周方向にフィルターをかける場合には、ステップS100において透過電子顕微鏡像として回折図形を取得し、ディフラクトグラムを作成する工程(ステップS102)を行わない点を除いて、上述したディフラクトグラムに対して円周方向にフィルターをかける場合と同様である。
【0185】
画像処理装置6を用いた画像処理方法は、例えば、以下の特徴を有する。
【0186】
画像処理装置6を用いた収差計算方法では、画像処理工程において、ディフラクトグラムまたは回折図形に対して円周方向にフィルターをかける。そのため、例えばディフラク
トグラムまたは回折図形に対して等方的なフィルターをかける場合と比べて、リングの位置が動径方向にずれることを抑制することができる。したがって、リングの位置が動径方向にずれることを抑制しつつ、ディフラクトグラムのSN比を向上させることができる。
【0187】
画像処理装置6を用いた収差計算方法では、画像処理工程において、ディフラクトグラムまたは回折図形を極座標に変換し、極座標に変換されたディフラクトグラムまたは回折図形に異方的なフィルター関数をコンボリューションする。これにより、ディフラクトグラムまたは回折図形に対して円周方向にフィルターをかけることができる。
【0188】
なお、第1実施形態に係る収差計算装置4を用いた収差計算方法について適用される変形例は、第3実施形態に係る画像処理装置6を用いた画像処理方法についても同様に適用される。すなわち、例えば、画像処理工程では、ディフラクトグラムの二回非点を求め、当該二回非点で前記ディフラクトグラムを規格化して極座標に変換してもよい。なお、極座標に変換されたディフラクトグラムを、もとの表示に戻す際に、二回非点成分を反映させる。
【0189】
画像処理装置6を用いた画像処理方法では、画像処理部344は、ディフラクトグラムの二回非点を求め、当該二回非点でディフラクトグラムを規格化して極座標に変換する。そのため、例えば、リングが同心楕円状のディフラクトグラムであっても、リングの周方向にフィルターをかけることができ、ディフラクトグラムのSN比を効率よく向上させることができる。
【0190】
本発明は、実施の形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法および結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。