特許第6283571号(P6283571)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6283571
(24)【登録日】2018年2月2日
(45)【発行日】2018年2月21日
(54)【発明の名称】作業函の固定方法
(51)【国際特許分類】
   E02B 3/06 20060101AFI20180208BHJP
【FI】
   E02B3/06
【請求項の数】2
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-112257(P2014-112257)
(22)【出願日】2014年5月30日
(65)【公開番号】特開2015-224526(P2015-224526A)
(43)【公開日】2015年12月14日
【審査請求日】2017年3月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000182030
【氏名又は名称】若築建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100070105
【弁理士】
【氏名又は名称】野間 忠之
(72)【発明者】
【氏名】森 晴夫
(72)【発明者】
【氏名】松本 幸久
(72)【発明者】
【氏名】平岡 誠
【審査官】 佐々木 創太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭63−114709(JP,A)
【文献】 特開2008−231746(JP,A)
【文献】 特開2003−119793(JP,A)
【文献】 特開昭62−253811(JP,A)
【文献】 実開昭62−163532(JP,U)
【文献】 特開2009−035961(JP,A)
【文献】 実開昭63−112525(JP,U)
【文献】 特開昭50−131307(JP,A)
【文献】 実開昭54−157401(JP,U)
【文献】 国際公開第2011/110271(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02B 3/04− 3/14
E02D 5/00− 5/20
E02D 31/00−31/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼矢板又は鋼管矢板(Xa)の水側上部に上部工(Xb)が設けられている鋼矢板岸壁又は鋼管矢板岸壁(X)の水側を補修する作業員を収納するための、該上部工(Xb)及び鋼矢板又は鋼管矢板(Xa)に当接させるための止水材(1c)が装着されている当接部(1b)で囲まれた面と上面(1a)とがそれぞれ開口している作業函(1)を、該鋼矢板岸壁又は鋼管矢板岸壁(X)の水側に固定するための作業函の固定方法であって、
該鋼矢板岸壁又は鋼管矢板岸壁(X)上に固定した吊下げ用枠体(2)の2本の吊下げ用レール部(2a,2a)の一部を水上に突設させ、
該鋼矢板岸壁又は鋼管矢板岸壁(X)上で該吊下げ用枠体(2)の吊下げ用レール部(2a,2a)と平行にその外側に該作業函(1)の横幅より広い間隔で固定した各岸壁固定用鋼材(3a,3a)からそれぞれ鉛直下向きに鉛直方向鋼材(3b,3b)が延設されている一対の固定用アーム(3,3)を、該鉛直方向鋼材(3b,3b)を該上部工(Xb)の水側の面に沿って配置し、更に該鉛直方向鋼材(3b,3b)にそれぞれ鉛直方向に牽引によって摺動自在な挟持用部材(3c,3c)を該鋼矢板岸壁又は鋼管矢板岸壁(X)の上部工(Xb)の下面に当接させることによって、該岸壁固定用鋼材(3a,3a)と該挟持用部材(3c,3c)とで該上部工(Xb)を挟持して該固定用アーム(3,3)を位置固定せしめ、
クレーンにより水上側の該吊下げ用レール部(2a,2a)に該作業函(1)を鋼矢板岸壁又は鋼管矢板岸壁(X)側に向けて摺動自在に吊り下げると共に、
該作業函(1)を鋼矢板岸壁又は鋼管矢板岸壁(X)側に向けて水平に引き寄せるための2本の水平方向固定用ワイヤー(4,4)を、それぞれの一端を各鉛直方向鋼材(3b,3b)の下方に固定し、他端側を鋼矢板岸壁又は鋼管矢板岸壁(X)と反対側に向けて水平方向に引き出して該作業函(1)の下部に設置された1組の作業函用シーブ(1d,1d)にそれぞれ係合させた後に鋼矢板岸壁又は鋼管矢板岸壁(X)側に向けて水平に折り返し、該鉛直方向鋼材(3b,3b)に設置した第1シーブ(3d,3d)に係合させた後に該上部工(Xb)の水側の面に沿った鉛直上方向に向きを変え、該固定用アーム(3,3)の岸壁固定用鋼材(3a,3a)に設置した第2シーブ(3e,3e)に係合させて水上において鋼矢板岸壁又は鋼管矢板岸壁(X)側へと向きを変えるように配設し、
該水平方向固定用ワイヤー(4,4)の他端を該鋼矢板岸壁又は鋼管矢板岸壁(X)上に設置した牽引装置(5)によって牽引して、該鋼矢板又は鋼管矢板(Xa)及び上部工(Xb)に該作業函(1)の当接部(1b)の止水材(1c)を圧接させて該作業函(1)の水平方向の位置固定をすると共に、鉛直方向固定用ワイヤー(6)の一端を該作業函(1)の上端に、他端を該固定用アーム(3,3)の鉛直方向鋼材(3b,3b)から水面下で水平方向に延設されたワイヤー固定部材(3f,3f)にそれぞれ緊張した状態で係止して該作業函(1)の鉛直方向の位置固定をすることを特徴とする作業函の固定方法。
【請求項2】
作業函用シーブ(1d,1d)を作業函(1)の当接部(1b)と反対側に位置する外面に形成された係止部(1e)に着脱自在に装着される係止用鋼材(1f)の両側に設け、該係止部(1e)に装着された係止用鋼材(1f)の作業函用シーブ(1d,1d)を、それぞれの一端を各鉛直方向鋼材(3b,3b)の下方に固定した水平方向固定用ワイヤー(4,4)に係合させる請求項1に記載の作業函の固定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼矢板岸壁又は鋼管矢板岸壁の鋼矢板又は鋼管矢板の防食補修作業を行う際に使用する作業函の固定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鋼矢板岸壁又は鋼管矢板岸壁における鋼矢板又は鋼管矢板は、波や風雨等の影響により経時劣化するため、補修したり再度防食対策を施す必要があり、このような場合、従来水中作業が必要で非常に作業効率が悪いという問題があった。
【0003】
そこでダイバー等による水中作業をなくすために、上面と鋼矢板岸壁又は鋼管矢板岸壁と対向する面とが開口した作業函を、鋼矢板岸壁又は鋼管矢板岸壁に固定して止水して、水の無い作業空間を確保し、鋼矢板又は鋼管矢板の防食補修作業を行う方法が提案されており、例えば、多数枚の鋼矢板を幅方向に連接させて外面の縦向きの凹溝が多数形成された鋼矢板岸壁によって土留されている岸壁に、前記鋼矢板岸壁の外面を覆ってドライ空間を形成する作業函を止水パッキンを介して取付ける鋼矢板岸壁用作業函の装着方法において、前記鋼矢板壁の各凹溝内の前記作業函の接合縁部が対向する位置に、前記作業函とは別体の伸縮自在な弾性材からなる溝内充填用の止水パッキン駒を挿入し、その後、前記作業函の前記鋼矢板壁面に対向する接合縁を適宜止水パッキンを介して前記止水パッキン駒の外面及び鋼矢板壁面に圧接させることを特徴としてなる鋼矢板岸壁用作業函の装着方法がある(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
この鋼矢板岸壁用作業函の装着方法では、鋼矢板岸壁と作業函の開口した部位との間に止水パッキン駒を挿入して圧接させることで止水して、作業函内を水の無いドライな空間としているが、圧接によって位置固定をすることは難しいにもかかわらず、圧接状態を維持して位置固定する方法が開示されていない。また水の無い作業函には大きな浮力が働くが、その浮力に対しては作業函の左右に巨大なフロートタンク(特許文献1 図1 14a〜14c参照。)を装着し適宜注排水することによって浮力を調節していることから、この発明では巨大な設備が必要で作業函を簡便に固定することが難しいのである。
【0005】
このような作業函の位置固定が難しいという問題に対しては、前面および上面を開口した函体を、この函体の前面の前端部に設けた弾性の止水材を水際の壁状体に当接させることにより所定位置に設置し、その後、この函体内部の水を外部に排出して函体内部に作業空間を構築する止水作業空間の構築方法であって、前記止水材が保水性を有するとともに、この止水材の内部に冷媒配管を配設した構造にし、この函体を所定位置に設置する際に、函体に設けた函体の内部と外部とを連通可能な連通口を開いて函体内部に水を流入させた状態にしながら、前記壁状体に対して函体を固定手段で固定するとともに、前記冷媒配管に冷媒を流通させて、前記壁状体に当接することにより壁状体の表面形状に沿って変形した止水材を凍結させて函体を所定位置に固定した後、前記連通口を閉じた状態にして、この函体内部の水を外部に排出することを特徴とする止水作業空間の構築方法がある(例えば、特許文献2参照。)。
【0006】
この方法では、従前からある固定手段(特許文献2における上部固定手段と下部固定手段)に加えて、止水材を凍結させることによってその大きな凍結力によって所定位置に強固に固定させるものであるため(特許文献2 段落番号0030参照。)、この方法では強固に固定できるものの、非常に大掛かりな設備が必要となることから、作業函(函体)を簡便に固定することは難しいのである。
【0007】
また従来からあるより簡便な作業函の固定方法としては、特許文献2の発明で開示されている上部固定手段と下部固定手段とを用いる方法があり、浮力による鉛直方向の位置固定には上部固定手段であるアングル部材で作業函(函体)の上面を押さえ付けるようにして固定し、水平方向の位置固定に関しては、下部固定手段として水中の壁状体にアンカーボルトを突設し作業函(函体)との間にワイヤを張設する固定方法がある(特許文献2 段落番号0023参照。)。
【0008】
この固定方法では、補修作業の対象である壁状体(鋼矢板又は鋼管矢板)にアンカーボルトを突設させて水平方向の位置固定をさせるため、補修作業に支障をきたし、効率良く作業することができないのである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭62−273317号公報
【特許文献2】特開2010−65399号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は前記の問題に鑑み、簡便に作業函を位置固定できると共に、確実に止水することができる作業函の固定方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは前記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、鋼矢板又は鋼管矢板の水側上部に上部工が設けられている鋼矢板岸壁又は鋼管矢板岸壁の水側を補修する作業員を収納するための、上部工及び鋼矢板又は鋼管矢板に当接させるための止水材が装着されている当接部で囲まれた面と上面とがそれぞれ開口している作業函を、鋼矢板岸壁又は鋼管矢板岸壁の水側に固定するための作業函の固定方法において、鋼矢板岸壁又は鋼管矢板岸壁上に固定した吊下げ用枠体の2本の吊下げ用レール部の一部を水上に突設させ、鋼矢板岸壁又は鋼管矢板岸壁上で吊下げ用枠体の吊下げ用レール部と平行にその外側に作業函の横幅より広い間隔で固定した各岸壁固定用鋼材からそれぞれ鉛直下向きに鉛直方向鋼材が延設されている一対の固定用アームを、鉛直方向鋼材を上部工の水側の面に沿って配置し、更に鉛直方向鋼材にそれぞれ鉛直方向に牽引によって摺動自在な挟持用部材を鋼矢板岸壁又は鋼管矢板岸壁の上部工の下面に当接させることによって、岸壁固定用鋼材と挟持用部材とで上部工を挟持して固定用アームを位置固定せしめ、その後、クレーンにより水上側の吊下げ用レール部に作業函を鋼矢板岸壁又は鋼管矢板岸壁側に向けて摺動自在に吊り下げると共に、作業函を鋼矢板岸壁又は鋼管矢板岸壁側に向けて水平に引き寄せるための2本の水平方向固定用ワイヤーを、それぞれの一端を各鉛直方向鋼材の下方に固定し、他端側を鋼矢板岸壁又は鋼管矢板岸壁と反対側に向けて水平方向に引き出して作業函の下部に設置された1組の作業函用シーブにそれぞれ係合させた後に鋼矢板岸壁又は鋼管矢板岸壁側に向けて水平に折り返し、鉛直方向鋼材に設置した第1シーブに係合させた後に上部工の水側の面に沿った鉛直上方向に向きを変え、固定用アームの岸壁固定用鋼材に設置した第2シーブに係合させて水上において鋼矢板岸壁又は鋼管矢板岸壁側へと向きを変えるように配設し、水平方向固定用ワイヤーの他端を鋼矢板岸壁又は鋼管矢板岸壁上に設置した牽引装置によって牽引して、鋼矢板又は鋼管矢板及び上部工に作業函の当接部の止水材を圧接させて作業函の水平方向の位置固定をすると共に、鉛直方向固定用ワイヤーの一端を作業函の上端に、他端を固定用アームの鉛直方向鋼材から水面下で水平方向に延設されたワイヤー固定部材にそれぞれ緊張した状態で係止して作業函の鉛直方向の位置固定すれば、
吊下げ用枠体を使用することによって重量物である作業函を摺動自在に吊り下げてから、水平方向と鉛直方向の位置固定をすることによって、重量物である作業函の位置合わせ等の作業が容易となり、更に固定用アームを鋼矢板岸壁又は鋼管矢板岸壁の上部工に固定し、作業函をワイヤーを介して水平方向及び鉛直方向の位置固定が容易にでき、またアンカー等のように作業対象である鋼矢板又は鋼管矢板を傷付けて作業に支障をきたすこともないことを究明して本発明を完成したのである。
【0012】
即ち本発明は、鋼矢板又は鋼管矢板の水側上部に上部工が設けられている鋼矢板岸壁又は鋼管矢板岸壁の水側を補修する作業員を収納するための、上部工及び鋼矢板又は鋼管矢板に当接させるための止水材が装着されている当接部で囲まれた面と上面とがそれぞれ開口している作業函を、鋼矢板岸壁又は鋼管矢板岸壁の水側に固定するための作業函の固定方法であって、
鋼矢板岸壁又は鋼管矢板岸壁上に固定した吊下げ用枠体の2本の吊下げ用レール部の一部を水上に突設させ、
鋼矢板岸壁又は鋼管矢板岸壁上で吊下げ用枠体の吊下げ用レール部と平行にその外側に作業函の横幅より広い間隔で固定した各岸壁固定用鋼材からそれぞれ鉛直下向きに鉛直方向鋼材が延設されている一対の固定用アームを、鉛直方向鋼材を上部工の水側の面に沿って配置し、更に鉛直方向鋼材にそれぞれ鉛直方向に牽引によって摺動自在な挟持用部材を鋼矢板岸壁又は鋼管矢板岸壁の上部工の下面に当接させることによって、岸壁固定用鋼材と挟持用部材とで上部工を挟持して固定用アームを位置固定せしめ、
その後、クレーンにより水上側の吊下げ用レール部に作業函を鋼矢板岸壁又は鋼管矢板岸壁側に向けて摺動自在に吊り下げると共に、
作業函を鋼矢板岸壁又は鋼管矢板岸壁側に向けて水平に引き寄せるための2本の水平方向固定用ワイヤーを、それぞれの一端を各鉛直方向鋼材の下方に固定し、他端側を鋼矢板岸壁又は鋼管矢板岸壁と反対側に向けて水平方向に引き出して作業函の下部に設置された1組の作業函用シーブにそれぞれ係合させた後に鋼矢板岸壁又は鋼管矢板岸壁側に向けて水平に折り返し、鉛直方向鋼材に設置した第1シーブに係合させた後に上部工の水側の面に沿った鉛直上方向に向きを変え、固定用アームの岸壁固定用鋼材に設置した第2シーブに係合させて水上において鋼矢板岸壁又は鋼管矢板岸壁側へと向きを変えるように配設し、
水平方向固定用ワイヤーの他端を鋼矢板岸壁又は鋼管矢板岸壁上に設置した牽引装置によって牽引して、鋼矢板又は鋼管矢板及び上部工に作業函の当接部の止水材を圧接させて作業函の水平方向の位置固定をすると共に、鉛直方向固定用ワイヤーの一端を作業函の上端に、他端を固定用アームの鉛直方向鋼材から水面下で水平方向に延設されたワイヤー固定部材にそれぞれ緊張した状態で係止して作業函の鉛直方向の位置固定をすることを特徴とする作業函の固定方法である。
【0013】
また作業函用シーブを作業函の当接部と反対側に位置する外面に形成された係止部に着脱自在に装着される係止用鋼材の両側に設け、係止部に装着された係止用鋼材の作業函用シーブを、それぞれの一端を各鉛直方向鋼材の下方に固定した水平方向固定用ワイヤーに係合させれば、吊下げ用レール部に作業函を吊り下げた後に水平方向固定用ワイヤーを取り付けることによって、作業函に配設した水平方向固定用ワイヤーが吊下げ用レール部等に絡むことがなくて作業に支障をきたすことがなくて好ましいのである。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る作業函の固定方法は、鋼矢板又は鋼管矢板の水側上部に上部工が設けられている鋼矢板岸壁又は鋼管矢板岸壁の水側を補修する作業員を収納するための、上部工及び鋼矢板又は鋼管矢板に当接させるための止水材が装着されている当接部で囲まれた面と上面とがそれぞれ開口している作業函を、鋼矢板岸壁又は鋼管矢板岸壁の水側に固定するための作業函の固定方法であって、鋼矢板岸壁又は鋼管矢板岸壁上に固定した吊下げ用枠体の2本の吊下げ用レール部の一部を水上に突設させ、鋼矢板岸壁又は鋼管矢板岸壁上で吊下げ用枠体の吊下げ用レール部と平行にその外側に作業函の横幅より広い間隔で固定した各岸壁固定用鋼材からそれぞれ鉛直下向きに鉛直方向鋼材が延設されている一対の固定用アームを、鉛直方向鋼材を上部工の水側の面に沿って配置し、更に鉛直方向鋼材にそれぞれ鉛直方向に牽引によって摺動自在な挟持用部材を鋼矢板岸壁又は鋼管矢板岸壁の上部工の下面に当接させることによって、岸壁固定用鋼材と挟持用部材とで上部工を挟持して固定用アームを位置固定せしめ、その後、クレーンにより水上側の吊下げ用レール部に作業函を鋼矢板岸壁又は鋼管矢板岸壁側に向けて摺動自在に吊り下げると共に、作業函を鋼矢板岸壁又は鋼管矢板岸壁側に向けて水平に引き寄せるための2本の水平方向固定用ワイヤーを、それぞれの一端を各鉛直方向鋼材の下方に固定し、他端側を鋼矢板岸壁又は鋼管矢板岸壁と反対側に向けて水平方向に引き出して作業函の下部に設置された1組の作業函用シーブにそれぞれ係合させた後に鋼矢板岸壁又は鋼管矢板岸壁側に向けて水平に折り返し、鉛直方向鋼材に設置した第1シーブに係合させた後に上部工の水側の面に沿った鉛直上方向に向きを変え、固定用アームの岸壁固定用鋼材に設置した第2シーブに係合させて水上において鋼矢板岸壁又は鋼管矢板岸壁側へと向きを変えるように配設し、水平方向固定用ワイヤーの他端を鋼矢板岸壁又は鋼管矢板岸壁上に設置した牽引装置によって牽引して、鋼矢板又は鋼管矢板及び上部工に作業函の当接部の止水材を圧接させて作業函の水平方向の位置固定をすると共に、鉛直方向固定用ワイヤーの一端を作業函の上端に、他端を固定用アームの鉛直方向鋼材から水面下で水平方向に延設されたワイヤー固定部材にそれぞれ緊張した状態で係止して作業函の鉛直方向の位置固定するから、
吊下げ用枠体の吊下げ用レール部に重量物である作業函を摺動自在に吊り下げてから、水平方向と鉛直方向の位置固定をすることによって、作業函の位置合わせ等の作業が容易となり、更に固定アームを鋼矢板岸壁又は鋼管矢板岸壁の上部工に固定し、作業函をワイヤーを介して水平方向及び鉛直方向の位置固定が容易にでき、またアンカー等のように作業対象である鋼矢板又は鋼管矢板を傷付けて作業に支障をきたすこともないのである。
【0015】
また作業函用シーブを作業函の当接部と反対側に位置する外面に形成された係止部に着脱自在に装着される係止用鋼材の両側に設け、係止部に装着された係止用鋼材の作業函用シーブを、それぞれの一端を各鉛直方向鋼材の下方に固定した水平方向固定用ワイヤーに係合させる態様では、吊下げ用レール部に作業函を吊り下げた後に水平方向固定用ワイヤーを取り付けることによって、作業函に配設した水平方向固定用ワイヤーが吊下げ用レール部等に絡むことがなくて作業に支障をきたすことがなくて好ましいのである。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明に係る作業函の固定方法の一実施例を示す側面説明図である。
図2】本発明に係る作業函の固定方法で使用する作業函の一実施例を示す斜視図である。
図3図2の作業函の背面側斜視図である。
図4】本発明に係る作業函の固定方法で使用する作業函の他の実施例を示す背面側斜視図である。
図5】本発明に係る作業函の固定方法で使用する吊下げ用枠体の一実施例を示す斜視図である。
図6図5の吊下げ用枠体を鋼矢板岸壁又は鋼管矢板岸壁に固定した状態を示す側面説明図である。
図7】本発明に係る作業函の固定方法で使用する固定用アームの一実施例を示す斜視図である。
図8図7の固定用アームを鋼矢板岸壁又は鋼管矢板岸壁に固定した状態を示す側面説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を用いて本発明に係る作業函の固定方法について詳細に説明する。
【0018】
Xは鋼矢板又は鋼管矢板Xaの水側上部に上部工Xbが設けられている鋼矢板岸壁又は鋼管矢板岸壁であり、本発明は、この鋼矢板岸壁又は鋼管矢板岸壁Xの鋼矢板又は鋼管矢板Xaの防食補修作業を行う際に使用する後述する作業函1の固定方法である。
【0019】
1は鋼矢板又は鋼管矢板Xaの水側上部に上部工Xbが設けられている鋼矢板岸壁又は鋼管矢板岸壁Xの水側を補修する作業員を収納するための、上部工Xb及び鋼矢板又は鋼管矢板Xaに当接させるための止水材1cが装着されている当接部1bで囲まれた面と上面1aとがそれぞれ開口している作業函であり、この作業函1は鋼矢板岸壁又は鋼管矢板岸壁Xの水側に固定される。
【0020】
この作業函1の下部には図1〜3に示すように1組の作業函用シーブ1d,1dが設置されているが、作業函用シーブ1d,1dは図4に示すように作業函1の当接部1bと反対側に位置する外面に形成された係止部1eに着脱自在に装着される係止用鋼材1fの両側に設けられる場合もある。
【0021】
2は鋼矢板岸壁又は鋼管矢板岸壁X上に固定される吊下げ用枠体であり、この吊下げ用枠体2はその2本の吊下げ用レール部2a,2aの一部を水上に突設させた状態で固定され、クレーンにより水上側の吊下げ用レール部2a,2aに作業函1が鋼矢板岸壁又は鋼管矢板岸壁X側に向けて摺動自在に吊り下げられるのである。
【0022】
3は鋼矢板岸壁又は鋼管矢板岸壁X上で吊下げ用枠体2の吊下げ用レール部2a,2aと平行にその外側に作業函1の横幅より広い間隔で固定した各岸壁固定用鋼材3a,3aからそれぞれ鉛直下向きに鉛直方向鋼材3b,3bが延設されている一対の固定用アームである。この一対の固定用アーム3,3は、鉛直方向鋼材3b,3bを上部工Xbの水側の面に沿って配置させ、更に鉛直方向鋼材3b,3bにそれぞれ鉛直方向に牽引によって摺動自在な挟持用部材3c,3cを鋼矢板岸壁又は鋼管矢板岸壁Xの上部工Xbの下面に当接させることによって、岸壁固定用鋼材3a,3aと挟持用部材3c,3cとで上部工Xbを挟持して位置固定せしめるのである。
【0023】
4は作業函1を鋼矢板岸壁又は鋼管矢板岸壁X側に向けて水平に引き寄せるための2本の水平方向固定用ワイヤーであり、それぞれの一端を各鉛直方向鋼材3b,3bの下方に固定し、他端側を鋼矢板岸壁又は鋼管矢板岸壁Xと反対側に向けて水平方向に引き出して作業函1の下部に設置された1組の作業函用シーブ1d,1d又は作業函1の当接部1bと反対側に位置する外面に形成された係止部1eに着脱自在に装着された係止用鋼材1fの両側に設けられた作業函用シーブ1d,1dにそれぞれ係合させた後に鋼矢板岸壁又は鋼管矢板岸壁X側に向けて水平に折り返し、鉛直方向鋼材3b,3bに設置した第1シーブ3d,3dに係合させた後に上部工Xbの水側の面に沿った鉛直上方向に向きを変え、固定用アーム3,3の岸壁固定用鋼材3a,3aに設置した第2シーブ3e,3eに係合させて水上において鋼矢板岸壁又は鋼管矢板岸壁X側へと向きを変えるように配設される。
【0024】
5は鋼矢板岸壁又は鋼管矢板岸壁X上に設置した牽引装置であり、この牽引装置5によって水平方向固定用ワイヤー4,4の他端を牽引して、鋼矢板又は鋼管矢板Xa及び上部工Xbに作業函1の当接部1bの止水材1cを圧接させて作業函1の水平方向の位置固定をするのである。
【0025】
6は鉛直方向固定用ワイヤーであり、この鉛直方向固定用ワイヤー6の一端を作業函1の上端に、他端を固定用アーム3,3の鉛直方向鋼材3b,3bから水面下で水平方向に延設されたワイヤー固定部材3f,3fにそれぞれ緊張した状態で係止することによって作業函1の鉛直方向の位置固定がされる。
【0026】
本発明に係る作業函の固定方法によって実際に作業函1を固定するには、先ず、吊下げ用枠体2をその2本の吊下げ用レール部2a,2aの一部を水上に突設させた状態で鋼矢板岸壁又は鋼管矢板岸壁X上に固定する。
【0027】
次に一対の固定用アーム3,3の各岸壁固定用鋼材3a,3aを、鋼矢板岸壁又は鋼管矢板岸壁X上で吊下げ用枠体2の吊下げ用レール部2a,2aと平行にその外側に作業函1の横幅より広い間隔で固定し、鉛直方向鋼材3b,3bを上部工Xbの水側の面に沿って配置し、更に鉛直方向鋼材3b,3bにそれぞれ鉛直方向に牽引によって摺動自在な挟持用部材3c,3cを鋼矢板岸壁又は鋼管矢板岸壁Xの上部工Xbの下面に当接させることによって、岸壁固定用鋼材3a,3aと挟持用部材3c,3cとで上部工Xbを挟持して位置固定せしめる。
【0028】
またクレーンにより水上側の吊下げ用レール部2a,2aに作業函1を鋼矢板岸壁又は鋼管矢板岸壁X側に向けて摺動自在に吊り下げると共に、作業函1を鋼矢板岸壁又は鋼管矢板岸壁X側に向けて水平に引き寄せるための2本の水平方向固定用ワイヤー4,4を、それぞれの一端を各鉛直方向鋼材3b,3bの下方に固定し、他端側を鋼矢板岸壁又は鋼管矢板岸壁Xと反対側に向けて水平方向に引き出して作業函1の下部に設置された1組の作業函用シーブ1d,1d又は作業函1の当接部1bと反対側に位置する外面に形成された係止部1eに着脱自在に装着された係止用鋼材1fの両側に設けられた作業函用シーブ1d,1dにそれぞれ係合させた後に鋼矢板岸壁又は鋼管矢板岸壁X側に向けて水平に折り返し、鉛直方向鋼材3b,3bに設置した第1シーブ3d,3dに係合させた後に上部工Xbの水側の面に沿った鉛直上方向に向きを変え、固定用アーム3,3の岸壁固定用鋼材3a,3aに設置した第2シーブ3e,3eに係合させて水上において鋼矢板岸壁又は鋼管矢板岸壁X側へと向きを変えるように配設するのである。
【0029】
なお水平方向固定用ワイヤー4,4を、予め作業函1の作業函用シーブ1d,1dや、固定用アーム3,3の第1シーブ3d,3d及び第2シーブ3e,3eに配設し大きくたわませた状態で、作業函1をクレーンにより水上側の吊下げ用レール部2a,2aに吊り下げれば、水中で水平方向固定用ワイヤー4,4を作業函用シーブ1d,1d等に係合させる必要がないので非常に効率的に作業ができて好ましいのである。
【0030】
更に水平方向固定用ワイヤー4,4の一端を、予め各鉛直方向鋼材3b,3bの下方に固定した後に、固定用アーム3,3を上部工Xbに位置固定すれば、水中作業が全く不要になり、作業が非常に簡便にできるのである。
【0031】
しかしながら、予め水平方向固定用ワイヤー4,4が配設された作業函1をクレーンにより吊下げ用レール部2a,2aに吊り下げようとすると、水平方向固定用ワイヤー4,4が吊下げ用レール部2a,2a等に絡むことがあるから、作業函1と、水平方向固定用ワイヤー4,4が作業函用シーブ1d,1dに係合される係止用鋼材1fとを別体として着脱自在し、作業函1を吊下げ用レール部2a,2aに吊り下げた後に、水平方向固定用ワイヤー4,4が係合される係止用鋼材1fを作業函1の係止部1eに係止させれば、水平方向固定用ワイヤー4,4が吊下げ用レール部2a,2a等に絡み難く作業に支障をきたすことがなくて好ましいのである。
【0032】
このように吊下げ用枠体2と固定用アーム3,3とを鋼矢板岸壁又は鋼管矢板岸壁Xに固定し、吊下げ用枠体2の吊下げ用レール部2a,2aに作業函1を吊り下げた後に、水平方向固定用ワイヤー4,4の他端を鋼矢板岸壁又は鋼管矢板岸壁X上に設置した牽引装置5によって牽引して、鋼矢板又は鋼管矢板Xa及び上部工Xbに作業函1の当接部1bの止水材1cを圧接させて作業函1の水平方向の位置固定をすると共に、鉛直方向固定用ワイヤー6の一端を作業函1の上端に、他端を固定用アーム3,3の鉛直方向鋼材3b,3bから水面下で水平方向に延設されたワイヤー固定部材3f,3fにそれぞれ緊張した状態で係止して作業函1の鉛直方向の位置固定をするのである。
【0033】
作業函1を水平方向に位置固定する際、作業函1内には水が入った状態で水平方向に牽引されるので、位置固定された後に作業函1内の水はポンプ等により外部へと排出させる必要がある。
【0034】
また作業函1内の水が外部に排出された後は、作業函1には大きな浮力が働くが、この浮力は、作業函1の上端と固定用アーム3,3のワイヤー固定部材3f,3fとにそれぞれ緊張した状態で係止された鉛直方向固定用ワイヤー6に対して、より引っ張られ緊張した状態となるように働く力であるから、鉛直方向により確実に位置固定されるのである。
【0035】
なお鉛直方向固定用ワイヤー6は、作業函1に複数配して均等に力が掛かるようにして、作業函1をバランスよく鉛直方向に固定するとよい。
【符号の説明】
【0036】
X 鋼矢板岸壁又は鋼管矢板岸壁
Xa 鋼矢板又は鋼管矢板
Xb 上部工
1 作業函
1a 上部
1b 当接部
1c 止水材
1d 作業函用シーブ
1e 係止部
1f 係止用鋼材
2 吊下げ用枠体
2a 吊下げ用レール部
3 固定用アーム
3a 岸壁固定用鋼材
3b 鉛直方向鋼材
3c 挟持用部材
3d 第1シーブ
3e 第2シーブ
3f ワイヤー固定部材
4 水平方向固定用ワイヤー
5 牽引装置
6 鉛直方向固定用ワイヤー
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8